説明

靴および靴の製造方法

【課題】快適な履き心地を得ることができるとともに、袋状部および中底の前端部が本底から剥離するのを防止することができる靴を提供する。
【解決手段】靴10は、地面に接触する接地部32を有する本底20と、本底20の外周縁に取り付けられ、足を収容する足収容部76を構成する表材14と、本底20の上面の前端部を除いた部分に配置され、表材14を吊り込んで固定する中底24と、表材14よりも柔軟な材料からなり、表材14の裏面に接合される裏材16とを備え、裏材16は、後方へ向けて開口された開口部78bを有し、足先を包み込む袋状部78と、開口部78bの幅方向両側において袋状部78と一体に形成され、中底24の下面に吊り込まれる吊込み部80cとを有し、中底24の前端部24bは、袋状部78の底部78aの下方に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足先を包み込む部分を柔軟に構成することによって快適な履き心地を得るようにした、靴および靴の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
足先を包み込む部分を柔軟な袋状に構成する靴の製造方法は、ボロネーゼ製法等として周知であり、この製造方法で製造された靴によれば、足先を包み込む部分が足先の動きに追従するため、足先にかかる負担を軽減することが可能であり、快適な履き心地を得ることができる。そのため、当該製造方法は、従来より、婦人靴または紳士靴等の種別を問わず、広く普及しており、特許文献1には、当該製造方法により製造される靴の一例が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された靴は、簡単に言えば、「甲革(1)の前部側を袋縫いするとともに、甲革(1)の底部開口縁を半中底(以下、「中底」という。)(23)の下面に吊り込んで固定したもの」であり、中底(23)の大きさは、踵から土踏まずの前端くらいまでの大きさに設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3713510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された靴によれば、足先の下方に中底(23)が存在しないことから、甲革(1)の袋縫いした部分を足先の動きに容易に追従させることができる。しかし、中底(23)の前端部は、靴の中でも最も頻繁に変形(屈曲等)される部分、すなわち土踏まずの前端が位置する部分またはその周辺部分に位置しているため、中底(23)の前端部が本底(21)から剥離し易く、当該剥離に起因して靴が壊れるという問題があった。特に、本底(21)の後部と前部との間に急勾配の傾斜部が設けられている靴(たとえばハイヒール靴)においては、中底(23)の前端部に様々な方向の荷重が集中するため、上記問題は顕著であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、快適な履き心地を得ることができるとともに、中底の前端部が本底から剥離するのを防止することができる靴および靴の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の靴は、地面に接触する接地部を有する本底と、前記本底の外周縁に取り付けられ、足を収容する足収容部を構成する表材と、前記本底の上面の前端部を除いた部分に配置され、前記表材を吊り込んで固定する中底と、前記表材よりも柔軟な材料からなり、前記表材の裏面に接合される裏材とを備え、前記裏材は、後方へ向けて開口された開口部を有し、足先を包み込む袋状部と、前記開口部の幅方向両側において前記袋状部と一体に形成され、前記中底の下面に吊り込まれる吊込み部とを有し、前記中底の前端部は、前記袋状部の底部の下方に配置されている。
【0008】
この構成では、裏材が足先を包み込む袋状部を有しており、当該袋状部を足先の動きに追従させることができるので、足先にかかる負担を軽減することができる。また、袋状部における開口部の幅方向両側に中底の下面に吊り込まれる吊込み部が形成されているので、本底および中底に対して袋状部を強固に固定することができる。そして、中底の前端部が袋状部の底部の下方に配置されており、当該前端部を袋状部の底部で押えることができるので、当該前端部が本底から剥離するのを防止することができる。
【0009】
なお、本発明の説明で用いる「前後」、「左右」、「上下」の方向は、靴を履いた歩行者から見たときの方向と一致するものとする。
【0010】
前記本底の内部には、弾性を有する隔壁によって仕切られた複数の空部が構成されており、前記本底の上面における少なくとも前記袋状部に対応する部分には、前記空部に連通する吸排気孔が形成されており、前記袋状部の少なくとも底部は通気性を有していてもよい。
【0011】
この構成では、本底の内部に複数の空部を構成するとともに、本底の上面に空部に連通する吸排気孔を形成し、さらに、袋状部の少なくとも底部に通気性を持たせているので、当該空部を「空気循環ポンプ」として機能させることができ、空部内の空気を吸排気孔から靴の内部に供給することができ、また、靴の内部の空気を吸排気孔から空部内に取り込むことができる。
【0012】
前記袋状部の底部には、通気性および吸湿性を有する環境改善部材が層状に取り付けられていてもよい。
【0013】
この構成では、袋状部の底部に取り付けられた環境改善部材によって靴内の空気を除湿することができ、靴内の環境を改善して快適性を高めることができる。
【0014】
前記本底の上面における前記中底に覆われる領域の少なくとも一部には、前記空部に連通する吸排気孔が形成されており、前記中底には、前記吸排気孔から吸排気される空気が通る通気孔が形成されていてもよい。
【0015】
この構成では、中底に形成された通気孔を通して空気を循環させることができる。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の靴の製造方法は、(a)地面に接触する接地部を有する本底を準備する工程と、(b)足を収容する足収容部を構成する表材を準備する工程と、(c)前記表材よりも柔軟な材料からなり、足先を挿入する開口部を有する袋状部と、前記開口部の幅方向両側において前記袋状部と一体に形成された吊込み部とを有する裏材を準備する工程と、(d)前記本底の上面の前端部を除いた部分に配置される中底を準備する工程と、(e)前記表材の裏面に裏材を接合する工程と、(f)前記表材の一部と前記裏材の吊込み部とを前記中底の下面に吊り込む工程と、(g)前記表材、前記裏材および前記中底を前記本底に接合する工程とを備える。
【0017】
この構成では、表材の一部と裏材の吊込み部とを中底の下面に吊り込んだ後に、表材、裏材および中底を本底に接合するようにしているので、表材の一部と裏材の吊込み部とを中底と本底とによって挾持することができ、表材および裏材を本底に対して強固に固定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上に説明したように構成され、袋状部によって足先を包み込む部分の柔軟性を確保することができるので、快適な履き心地を得ることができる。また、吊込み部によって本底に対する袋状部の接合強度を十分に確保することができるので、袋状部が本底から剥離するのを防止することができる。そして、本底に対して強固に接合された袋状部の底部で中底の前端部を押えることができるので、中底が本底から剥離するのを防止することができる。つまり、本発明によれば、履き心地を損なうことなく、靴の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は第1実施形態に係る靴の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図2は第1実施形態に係る靴の全体構成を示す一部断面正面図である。
【図3】図3は第1実施形態に係る靴の全体構成を示す一部仮想斜視図である。
【図4】図4(A)は、第1実施形態における本底の構成を示す平面図であり、図4(B)は、当該本底の構成を示す底面図である。
【図5】図5は第1実施形態における本底の構成を示す分解斜視図である。
【図6】図6は第1実施形態における嵌合部の構成を下面側から示す部分拡大斜視図である。
【図7】図7は第1実施形態における本底の構成を示す部分拡大断面図である。
【図8】図8(A)は、第1実施形態における裏材の構成を上面側から示す斜視図であり、図8(B)は、当該裏材の構成を下面側から示す斜視図である。
【図9】第1実施形態における前裏材の構成を示す展開図である。
【図10】図10は第1実施形態における内裏材の構成を示す展開図である。
【図11】図11は第1実施形態における外裏材の構成を示す展開図である。
【図12】図12は第1実施形態における後裏材の構成を示す展開図である。
【図13】図13は第1実施形態における袋底材の構成を示す展開図である。
【図14】図14は表材の内面に裏材を接合する工程を示す斜視図である。
【図15】図15は中底に対して表材および裏材を吊り込む工程を示す斜視図である。
【図16】図16は図15の工程で得られた足収容部構成部材を示す断面図である。
【図17】図17は図15の工程で得られた足収容部構成部材を本底およびヒール部に接合する工程を示す斜視図である。
【図18】図18(A)は、第1実施形態に係る靴の作用を接地部について示す部分拡大断面図であり、図18(B)は、当該靴の作用を傾斜部について示す部分拡大平面図である。
【図19】図19は第2実施形態に係る靴における本底の構成を示す部分拡大断面図である。
【図20】図20は第3実施形態に係る靴における本底の構成を示す平面図である。
【図21】図21は第4実施形態に係る靴における環境改善部材およびその取付け方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
(第1実施形態)
[靴の全体構成]
図1は本発明の第1実施形態に係る靴10の全体構成を示す斜視図であり、図2は靴10の全体構成を示す一部断面正面図であり、図3は靴10の全体構成を示す一部仮想斜視図である。なお、図面に示した靴10は、左足用であるため、以下の説明において「内側」とは「右側」を意味し、「外側」とは「左側」を意味する。
【0022】
靴10は、婦人用の「ハイヒール靴」として構成されたものであり、図1に示すように、靴底12、表材14、裏材16および中敷18を備えている。
【0023】
靴底12は、図2および図3に示すように、靴10の土台となる本底20と、本底20の後部を所定高さで支持するヒール部22と、本底20を補強する中底24とを有しており、これらが一体となって歩行者の足を安定的に支持する機能を発揮する。
【0024】
本底20は、図3に示すように、本底本体26と、本底本体26と一体となって「空気循環ポンプ」を構成する嵌合部28とを有しており、本底20の後部には、ヒール部22に接合されるヒール接合部30が鉛直方向へ延びて形成されており、本底20の前部には、地面に接触する接地部32が水平方向へ延びて形成されており、本底20の中央部には、地面に接触しない「非接地部」としての傾斜部34が前方へ向かうにつれて低くなるように傾斜して形成されている。
【0025】
図4および図5に示すように、部品としての本底本体26は、足裏形状に近似した平面視形状を有する板状部材であり、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム等のような弾性材料によって一体に成形されている。そして、本底本体26の後部26aは、後端に向かうにつれて幅が狭くなるように形成されており、この後部が鉛直方向へ曲げられることによって本底20のヒール接合部30(図3)が構成される。また、本底本体26の前部26bが水平方向に延びて配置されることによって本底20の接地部32(図3)が構成され、本底本体26の中央部26cが前方へ向かうにつれて低くなるように傾斜されることによって本底20の傾斜部34(図3)が構成される。
【0026】
また、本底本体26における前部26bの下面には、図4(B)に示すように、滑り止め用の複数の突条36が形成されており、中央部26cの下面には、図4および図5に示すように、少なくとも1つ(本実施形態では8個)の下面側吸排気孔38が上面側へ貫通して形成されている。さらに、本底本体26の上面における前部26bと中央部26cとに跨った領域には、図5に示すように、嵌合部28を収容する嵌合凹部40が形成されており、嵌合凹部40の底面に下面側吸排気孔38が開口されている。
【0027】
図4および図5に示すように、部品としての嵌合部28は、嵌合凹部40とほぼ同じ平面視形状を有し、かつ、嵌合凹部40の深さとほぼ同じ厚さを有する板状部材であり、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム等のような弾性材料によって一体に成形されている。そして、嵌合部28の下面には、図6に示すように、平面視略四角形の複数の凹部42が、その対角線が前後方向または左右方向へ延びるように網目状に並んで形成されており、隣接する2つの凹部42間を仕切る隔壁44には、通気溝46が形成されている。また、嵌合部28の下面における本底本体26の下面側吸排気孔38と対向する領域には、平面視略半円形の凹部48が形成されており、凹部48と凹部42とを仕切る隔壁50には、通気溝52が形成されている。さらに、嵌合部28の上面には、凹部42のそれぞれに連通する上面側吸排気孔54が形成されている。
【0028】
そして、この嵌合部28が、図5に示すように、本底本体26の嵌合凹部40に接着剤等を用いて接合されている。したがって、本底20の内部における接地部32と傾斜部34とに跨った領域には、図7に示すように、凹部42によって複数の空部56が構成されており、空部56どうしを仕切る隔壁58には、通気溝46によって通気孔60が構成されている。また、本底20の内部における最も後方に位置する空部56の近傍には、凹部48によって下面側吸排気孔38と連通する空部62が構成されており、空部62と空部56とを仕切る隔壁64には、通気溝52によって通気孔66が構成されている。つまり、本底20の内部には、複数の空部56と通気孔60とによって網目状の通気路Aが構成されており、この通気路Aが、上面側吸排気孔54を介して靴10の内部空間に連通されており、かつ、通気孔66、空部62および下面側吸排気孔38を介して靴10の外部空間に連通されている。
【0029】
なお、本実施形態では、平面視略四角形の複数の空部56を、本底20の接地部32と傾斜部34とに分布して配設しているが、空部56の形状は、特に限定されるものではなく、平面視略円形または略三角形等であってもよい。また、空部56が配設される領域は、特に限定されるものではなく、接地部32または傾斜部34のいずれか一方だけであってもよい。さらに、本実施形態では、平面視略四角形の複数の空部56を、その対角線が前後方向および左右方向へ延びるように配設しているが、空部56の対角線の向きは、適宜変更してもよい。
【0030】
ヒール部22は、図3に示すように、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ナイロン、ポリウレタン、ポリカーボネート等からなり、かつ、踵を受ける踵受面68を有するブロック状のヒール本体70を有しており、ヒール本体70の下端部には、ゴム等からなるヒール底72が接着剤等を用いて接合されており、ヒール本体70の左右側面および後側面には、皮革等からなる化粧被覆材74が貼り付けられている。そして、ヒール本体70の前側面には、本底20のヒール接合部30が接着剤等を用いて接合されている。
【0031】
なお、本実施形態では、本底20とヒール部22とを独立した部材として形成しているが、これらを一体に形成してもよい。
【0032】
中底24は、図2に示すように、本底20における傾斜部34の前端からヒール部22における踵受面68の後端にわたって配設された板状部材であり、厚紙、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ナイロン等によって一体に成形されている。また、図15に示すように、中底24には、複数の通気孔24aが形成されており、空部56(図7)内の空気を上面側吸排気孔54(図7)および通気孔24aを通して靴10の内部に供給することができ、また、靴10の内部の空気を通気孔24aおよび上面側吸排気孔54を通して空部56の内部に取り込むことができるようになっている。
【0033】
そして、中底24の下面に対して表材14および裏材16が吊り込まれるとともに、中底24の下面が本底20の上面に接着剤R(図2)を用いて接合されている。中底24を本底20に接合した状態において、中底24の前端部24bは、図2に示すように、接地部32と傾斜部34との境界部分に位置している。したがって、靴10を履いて歩行する際には、中底24の前端部24bに様々な方向の荷重が集中することになる。
【0034】
表材14は、図1および図2に示すように、靴10の形状を保持し得る十分な強度と、歩行動作に応じて変形し得る柔軟性とを併有するシート状、或いは布状の部材であり、所定形状に裁断された複数の皮革シート等を縫い合わせること等によって構成されている。なお、表材14の形状は、足収容部76を構成できる限り、特に限定されるものではなく、靴の種類やデザイ上の観点から適宜変更されてもよい。
【0035】
裏材16は、図1および図2に示すように、表材14よりも柔軟な材料からなり、足先を包み込む袋状部78を有するシート状、或いは布状の部材であり、図8に示すように、所定形状に裁断された前裏材80、内裏材82、外裏材84、後裏材86および袋底材88を縫い合わせることによって構成されている。
【0036】
前裏材80は、図9に示すように、袋状部78(図8)の上部および左右側部を構成する略三角形の袋構成部80aを有しており、袋構成部80aの後端部80bは、左右両側端へ向かうにつれて後方へ移行する円弧状に形成されており、袋構成部80aにおける左右両側部の後端部には、中底24の下面に吊り込まれる吊込み部80cが形成されている。さらに、袋構成部80aの前端部には、略三角形の切欠80dが形成されており、切欠80dの対向辺が互いに縫い付けられている。
【0037】
内裏材82は、図10に示すように、足収容部76(図1)の内側の側面を構成する略四角形の内側面構成部82aを有しており、内側面構成部82aの前端部82cには、前裏材80の円弧状の後端部80b(図9)に沿って延びる略U字状の帯状部82bが形成されている。そして、内側面構成部82aの前端部82cと帯状部82bとが前裏材80の後端部80bに縫い付けられている。
【0038】
外裏材84は、図11に示すように、足収容部76(図1)の外側の側面を構成する略四角形の外側面構成部84aを有しており、外側面構成部84aの前端部84cには、前裏材80の円弧状の後端部80b(図9)に沿って延びる帯状部84bが形成されている。そして、外側面構成部84aの前端部84cと帯状部84bとが前裏材80の後端部80bに縫い付けられている。
【0039】
後裏材86は、図12に示すように、足収容部76(図1)の後部側面を構成する略四角形の側面構成部86aを有しており、側面構成部86aにおける左右方向中央部の下部には、略三角形の切欠86bが形成されている。そして、側面構成部86aの内側の前端部86cが内裏材82における内側面構成部82a(図10)の後端部82dに縫い付けられており、側面構成部86aの外側の前端部86dが外裏材84における外側面構成部84a(図11)の後端部84dに縫い付けられている。さらに、切欠86bの対向辺が互いに縫い付けられている。
【0040】
袋底材88は、図13に示すように、通気性を有し、かつ、足収容部76の底面を構成する袋底構成部88aを有しており、袋底構成部88aの後部には、中底24の上面に被せられる略四角形の被覆部88bが形成されている。なお、袋底材88においては、少なくとも袋底構成部88aが通気性を有していればよく、被覆部88bは非通気性であってもよい。そして、袋底構成部88aの左右両側部88c,88dおよび前端部88eが、前裏材80における袋構成部80a(図9)の左右両側部80e,80fおよび前端部80gに連続的に縫い付けられており、これにより、通気性の底部78aを有する袋状部78(図8)が構成されている。袋状部78が構成された状態において、前裏材80の吊込み部80cは、袋底構成部88aの後端部の左右両側に配置されている。
【0041】
したがって、本実施形態では、裏材16が後方へ向けて開口された袋状部78を有しており、当該袋状部78の底部78aには、中底24の上面に被せられる被覆部88bが開口部78bから後方へ突出して形成されている。また、裏材16が吊込み部80cを有しており、当該吊込み部80cが開口部78bの幅方向両側において袋状部78と一体に形成されている。
【0042】
なお、本実施形態では、前裏材80、内裏材82、外裏材84、後裏材86および袋底材88を縫い合わせることによって裏材16を構成しているが、これらの構成部材の数、形状および材質は、「足先を包み込む袋状部78」を構成できる限り、適宜変更されてもよい。また、被覆部88bの形状は、特に限定されるものではなく、略四角形の他、半円形、三角形、五角形等であってもよい。
【0043】
中敷18は、図1および図2に示すように、ウレタンフォーム等のような通気性材料からなるシート状または板状の部材であり、足収容部76の底面のうち前部を除いた部分に敷設されている。したがって、足収容部76の前部においては、袋状部78の通気性を有する底部78aが露出しており、本底20の内部に構成された通気路A(図7)内の空気を、上面側吸排気孔54から底部78aを通して足収容部76内に供給することができ、また、足収容部76内の空気を、底部78aを通して上面側吸排気孔54から通気路A内に取り込むことができる。一方、足収容部76の後部および中央部においては、通気路A(図7)内の空気を、上面側吸排気孔54から中底24(通気孔24a)および中敷18を通して足収容部76内に供給することができ、また、足収容部76内の空気を、中敷18および中底24(通気孔24a)を通して上面側吸排気孔54から通気路A内に取り込むことができる。
【0044】
なお、中敷18の「大きさ」や「敷設位置」は、特に限定されるものではなく、足収容部76の底面全体を覆うことのできる大きさに設計されてもよいし、足収容部76の底面のうち前部、後部または中央部のいずれか一箇所または複数個所に敷設されてもよい。また、中底24の表面に化粧処理を施した場合等には、中敷18は省略されてもよい。
【0045】
[靴の製造方法]
靴10を製造する際には、まず、(a)地面に接触する接地部32を有する本底20を準備する工程と、(b)足を収容する足収容部76を構成する表材14を準備する工程と、(c)表材14よりも柔軟な材料からなり、足先を挿入する開口部78bを有する袋状部78と、開口部78bの幅方向両側において袋状部78と一体に形成された吊込み部80cとを有する裏材16を準備する工程と、(d)本底20の上面の前端部を除いた部分に配置される中底24を準備する工程とを実行する。
【0046】
続いて、図14に示すように、(e)表材14の裏面に裏材16を接着剤等を用いて接合する工程を実行する。表材14と裏材16とを接合した状態では、表材14によって裏材16が完全に覆われるとともに、裏材16の吊込み部80cが袋状部78における開口部78bの幅方向両側から下方へ突出して配設される。また、袋状部78の底部78a(すなわち袋底材88)に形成された被覆部88bが袋状部78の開口部78bから後方へ突出して配設される。
【0047】
表材14と裏材16とを接合した後は、図15に示すように、(f)表材14の一部と裏材16の吊込み部80cとを中底24の下面に吊り込む工程を実行し、図16に示す足収容部構成部材90を得る。つまり、表材14および裏材16の内側に型(図示省略)を挿入し、表材14における下端部開口縁の一部と裏材16の吊込み部80cとを当該型に沿わせて中底24の下面側へ折り曲げ、その折り曲げた部分を中底24の下面に接着剤等を用いて接合する。また、このとき、中底24の前端部24bを袋状部78の底部78aの下方に配置するとともに、当該底部78aに形成された被覆部88bを中底24の上面に被せ、この被覆部88bを中底24の上面に接着剤等を用いて接合する。
【0048】
なお、中底24の前端部24bを袋状部78の底部78aの下方に配置している限り、当該底部78aで中底24を押えることができるので、被覆部88bは必ずしも中底24の上面に接合する必要はなく、単に被せておくだけであってもよい。
【0049】
そして、図17に示すように、(g)表材14、裏材16および中底24を本底20に接合する工程を実行する。つまり、足収容部構成部材90を本底20およびヒール部22の上面に接着剤R(図2)を用いて接合し、足収容部76の底面のうち前部を除いた部分に中敷18を接着剤等を用いて接合する。この工程では、上面側吸排気孔54が接着剤によって閉塞されるのを防止するために、上面側吸排気孔54を避けた位置に接着剤を塗布することが望ましい。
【0050】
なお、このような靴の製造方法は、足先を包み込む部分を袋状に構成することから、いわゆる「ボロネーゼ製造方法」に分類することができる。
【0051】
[靴の作用]
靴10の足収容部76(図2)に足を入れると、踵がヒール部22における踵受面68の上方に位置するとともに、足先が袋状部78の内部に位置し、足先の裏が袋状部78の通気性を有する底部78aすなわち袋底材88の上面に位置する。
【0052】
歩行者が靴10を履いて歩くと、図18(A)に示すように、弾性材料で形成された本底20が歩行動作に伴って変形され、本底20の内部に構成された空部56の容積が変化される。つまり、地面から足を持ち上げた際には、本底20に歩行者の体重は作用しないため、図18(A)中の二点鎖線で示すように、空部56は変形されない。この状態における空部56の容積が最大であり、空部56の内部には、空気が最大に溜められる。その後、地面に足を着地させると、歩行者の体重が本底20に作用し、図18(A)中の実線で示すように、本底20が部分的に圧縮され、一部の空部56が押しつぶされる。これにより、一部の空部56の容積が縮小され、図18(A),(B)中の太線矢印で示すように、当該空部56内の空気が通気路Aを通って上面側吸排気孔54または下面側吸排気孔38(図7)から排出される。
【0053】
上面側吸排気孔54から空気が排出されると、当該空気は、図18(A)中の太線矢印で示すように、通気性を有する袋底材88を通して足収容部76(図2)内に供給され、空気を撹拌しながら足収容部76の開口部から外部へ排出される。これにより、足収容部76内の湿気および熱気が拡散されるとともに、湿気および熱気の一部が空気に乗せて外部へ排出される。また、本実施形態では、本底20の上面における中底24に覆われる領域にも空部56に連通する上面側吸排気孔54が形成されており、中底24には上面側吸排気孔54から吸排気される空気が通る通気孔24a(図15)が形成されており、さらに、中敷18が通気性材料で形成されているので、通気孔24a等を通して空気を循環させることが可能であり、足収容部76の全域について快適な環境を得ることができる。
【0054】
歩行動作に伴って地面から足を再び持ち上げると、押しつぶされていた空部56が復元される。これにより、当該空部56の容積が増大され、通気路A内の空気が当該空部56内に吸引され、それに伴って、上面側吸排気孔54および下面側吸排気孔38から通気路A内に空気が取り込まれる。このように、空部56が「空気循環ポンプ」として機能することによって、足収容部76内の空気が循環されるとともに当該空気が換気される。
【0055】
また、靴10においては、中底24の前端部24bが、本底20のうち最も頻繁に変形(屈曲等)される部分である「接地部32と傾斜部34との境界部分」に位置しているので、前端部24bには、歩行動作に伴って様々な方向の荷重が集中することになるが、袋状部78の底部78aで前端部24bを押えることができるので、前端部24bが本底20から剥離するのを防止することができる。そして、袋状部78の底部78aに形成された被覆部88bを中底24の上面に被せるようにしているので、この被覆部88bによっても、中底24の前端部24bを押えることができ、前端部24bが本底20から剥離するのを確実に防止することができる。
【0056】
さらに、袋状部78と一体に形成された吊込み部80cが、開口部78bの幅方向両側において中底24の下面に吊り込まれて接合されているので、足先から袋状部78に作用する力によって袋状部78の底部78aが本底20から剥離するのを防止することができる。
【0057】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る靴は、第1実施形態に係る靴10の本底20に代えて、図19に示す本底92を用いたものであり、他の構成は靴10と同様である。したがって、以下には、本底92について説明し、他の構成の説明は省略する。
【0058】
本底92は、図19に示すように、弾性材料からなる本底本体94と、弾性材料からなり、かつ、本底本体94と一体となって「空気循環ポンプ」を構成する嵌合部96とを有しており、本底本体94の上面には、嵌合部96を収容する嵌合凹部98が形成されており、本底本体94の下面には、少なくとも1つの下面側吸排気孔100が上面側へ貫通して形成されている。また、嵌合凹部98の底面には、複数の凹部102が形成されており、凹部102間を仕切る隔壁104には、通気溝106が形成されている。さらに、嵌合凹部98の底面における下面側吸排気孔100と対応する位置には、凹部108が形成されており、凹部108と凹部102とを仕切る隔壁110には、通気溝112が形成されている。一方、嵌合部96には、凹部102に連通する複数の上面側吸排気孔114が形成されている。
【0059】
そして、本底本体94の嵌合凹部98に嵌合部96が嵌合されることによって、下面側吸排気孔100および上面側吸排気孔114のそれぞれに連通する通気路Aが本底92の内部に構成されている。つまり、本底92の内部には、凹部102によって空部116が構成されており、通気溝106によって通気孔118が構成されており、凹部108によって空部120が構成されており、通気溝112によって通気孔122が構成されている。
【0060】
この構成においても、複数の空部116のそれぞれを「空気循環ポンプ」として機能させることができ、足収容部76(図2)内に湿気や熱気が溜まるのを防止することができる。
【0061】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る靴は、「紳士靴」として構成されたものであり、図20に示すように、本底124の後部に位置するヒール接合部126がヒール部(図示省略)の上面に接合されており、当該ヒール接合部126にも「空気循環ポンプ」として機能する空部128が設けられている。
【0062】
つまり、第3実施形態に係る靴では、本底124の前部および中央部だけでなく後部(すなわち踵が位置する部分)にも、複数の空部128と、空部128どうしを連通する通気孔130と、空部128に連通する上面側吸排気孔132とが形成されている。また、下面側吸排気孔134が本底124の中央部に形成されており、当該中央部に下面側吸排気孔134に連通する空部136が形成されており、空部128と通気孔130とによって構成された通気路Aが空部136に連通されている。なお、本底124の上面に接合される表材14、裏材16、中敷18および中底24の基本的構成については、上述した各機能を発揮できるように第1実施形態に係る靴10と同様に構成されている。
【0063】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る靴は、図21に示すように、上記各実施形態に係る靴における袋状部78の底部78aに通気性および吸湿性を有する環境改善部材140を層状に取り付けたものである。
【0064】
環境改善部材140は、ウレタンフォーム等のような通気性材料からなるシート状または板状の母材140aと、活性炭等のような吸湿性材料からなる粉状、粒状、板状または棒状の吸湿材140bとを有しており、母材140aの内部に吸湿材140bが一体的に配置されている。母材140aの内部に吸湿材140bを配置する方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば、母材140aの材料に予め吸湿材140bを混合しておき、当該材料から母材140aを成形するのと同時に、その内部に吸湿材140bを配置するようにしてもよい。
【0065】
環境改善部材140を底部78aに対して層状に取り付ける方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば、環境改善部材140の表面に接着剤をドット状に塗布し、当該接着剤によって環境改善部材140を底部78aに接着してもよいし、底部78aの形状とほぼ同じ形状を有する環境改善部材140を準備し、この環境改善部材140を底部78aに縫い付けるようにしてもよい。
【0066】
この構成によれば、底部78aを通過して循環する空気を環境改善部材140によって除湿することができるので、靴内の環境を改善して快適性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、「ハイヒール靴」、「ヒール部の高さが低い靴」および「ヒール部が存在しない靴」のいずれにも適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
A… 通気路
10… 靴
12… 靴底
14… 表材
16… 裏材
18… 中敷
20… 本底
22… ヒール部
24… 中底
24a… 通気孔
24b… 前端部
26… 本底本体
28… 嵌合部
32… 接地部
34… 傾斜部
38… 下面側吸排気孔
40… 嵌合凹部
42… 凹部
54… 上面側吸排気孔
56… 空部
58… 隔壁
60… 通気孔
76… 足収容部
78… 袋状部
88… 袋底材
90… 足収容部構成部材
92… 本底
116… 空部
124… 本底
128… 空部
140… 環境改善部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に接触する接地部を有する本底と、
前記本底の外周縁に取り付けられ、足を収容する足収容部を構成する表材と、
前記本底の上面の前端部を除いた部分に配置され、前記表材を吊り込んで固定する中底と、
前記表材よりも柔軟な材料からなり、前記表材の裏面に接合される裏材とを備え、
前記裏材は、後方へ向けて開口された開口部を有し、足先を包み込む袋状部と、前記開口部の幅方向両側において前記袋状部と一体に形成され、前記中底の下面に吊り込まれる吊込み部とを有し、
前記中底の前端部は、前記袋状部の底部の下方に配置されている、靴。
【請求項2】
前記本底の内部には、弾性を有する隔壁によって仕切られた複数の空部が構成されており、
前記本底の上面における少なくとも前記袋状部に対応する部分には、前記空部に連通する吸排気孔が形成されており、
前記袋状部の少なくとも底部は通気性を有している、請求項1に記載の靴。
【請求項3】
前記袋状部の底部には、通気性および吸湿性を有する環境改善部材が層状に取り付けられている、請求項2に記載の靴。
【請求項4】
前記本底の上面における前記中底に覆われる領域の少なくとも一部には、前記空部に連通する吸排気孔が形成されており、
前記中底には、前記吸排気孔から吸排気される空気が通る通気孔が形成されている、請求項2または3に記載の靴。
【請求項5】
(a)地面に接触する接地部を有する本底を準備する工程と、
(b)足を収容する足収容部を構成する表材を準備する工程と、
(c)前記表材よりも柔軟な材料からなり、足先を挿入する開口部を有する袋状部と、前記開口部の幅方向両側において前記袋状部と一体に形成された吊込み部とを有する裏材を準備する工程と、
(d)前記本底の上面の前端部を除いた部分に配置される中底を準備する工程と、
(e)前記表材の裏面に裏材を接合する工程と、
(f)前記表材の一部と前記裏材の吊込み部とを前記中底の下面に吊り込む工程と、
(g)前記表材、前記裏材および前記中底を前記本底に接合する工程とを備える、靴の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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