説明

音声パケット通信方法および音声パケット通信装置

【課題】利用される通信経路が変更された場合であっても、伝送遅延の変化に適切に対応する。
【解決手段】伝送遅延の異なる複数の通信経路のうち一時点で1つの通信経路を利用しながら、所定の音声符号化アルゴリズムに基づいて符号化された音声パケットの通信を行う音声パケット通信部11は、再生される音声信号を蓄積するための再生バッファ4と、利用される通信経路の変更に伴い、再生バッファ4に蓄積された音声信号を伸縮し再生バッファ長を調節する調節部5と、再生バッファ長調節後の音声信号における伸縮区間に第2の音声信号を重畳する重畳部6と、蓄積された音声信号を再生する再生部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送遅延の異なる複数の通信経路のうち一時点で1つの通信経路を利用しながら、所定の音声符号化アルゴリズムに基づいて符号化された音声パケットの通信を行う音声パケット通信方法および音声パケット通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IP通信網を利用して音声信号を伝送するVoIP(Voice over IP)では、音声信号は一定の時間毎に区切られ、区切られたフレームごとに音声符号化によって符号化される。フレームの長さは一般に10ミリ秒〜30ミリ秒程度に設定されることが多い。符号化された音声信号は、音声パケットに変換されてIP通信網に送られる。IP通信網によって伝送された音声パケットには、伝送遅延の揺らぎが生じるため、受信装置は、上記の伝送遅延の揺らぎを吸収するための再生バッファを備え、受信した音声パケットの伝送遅延を一定に揃えることで、伝送遅延の揺らぎの影響を排除して、音声パケットの再生を行う。
【0003】
ところで、近年、複数の無線アクセス手段を備える通信端末が普及していることから、かかる通信端末ではVoIPの通話中に無線アクセス手段が切り替わる場合が想定される。例えば、無線LANの通信デバイスとセルラー無線の通信デバイスとを備える通信装置は、無線LANが有効なエリアでは無線LANを利用してVoIPの通信を行い、当該通信中に無線LANが有効なエリアの外に移動した場合にセルラー無線に切り替え、セルラー無線を利用してVoIPの通信を継続することが望まれる。
【0004】
このような状況においては、通信経路によって伝送遅延が大きく異なるため、通信経路の変更時にVoIPの再生バッファや音声符号化アルゴリズムを変更後の通信経路に適応させる必要がある。そのため、VoIPのアプリケーションが通信経路の変更を検出する必要がある。
【0005】
かかる通信経路の変更の検出は、自己の通信装置が無線アクセス手段を切り替えた場合は可能であるが、通信相手が無線アクセス手段を切り替えた場合は困難である。また、自己の通信装置が無線アクセス手段を切り替えた場合でも、検出するためにはVoIPアプリケーションが常に無線通信デバイスの利用状況をモニタリングする必要があり、このモニタリング処理が通信品質に悪影響を与えるおそれもある。そのため、通信経路の変更の検出は、VoIPアプリケーションがパケットの受信状況から判断することが望ましい。
【0006】
なお、再生バッファを通信状況に応じて適応させる従来技術としては、例えば、特許文献1、2に記載されたものが知られている。特許文献1の技術では、再生バッファ内に蓄積されている音声データ量が所定基準より多い場合に、再生バッファ内の音声信号を縮小してバッファ遅延を小さくする。特許文献2の技術では、再生バッファ内に蓄積されている音声データ量が所定基準より少ない場合に、ダミー信号を生成することで通話の途切れを軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−151104号公報
【特許文献2】特開2008−3177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2の技術による再生バッファ制御を行うことで、ある程度の伝送遅延の変化には対応できるものの、通信経路の変更に伴う急激な伝送遅延の変化に対応するには不十分である。
【0009】
本発明は、利用される通信経路が変更された場合であっても、伝送遅延の変化に適切に対応することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
通信経路の変更時に生じる伝送遅延の変化は、伝送遅延の大きい通信経路から伝送遅延の小さい通信経路に切り替わった場合と、伝送遅延の小さい通信経路から伝送遅延の大きい通信経路に切り替わった場合とで、特徴が大きく異なる。
【0011】
このうち伝送遅延の大きい経路から伝送遅延の小さい経路に切り替わった場合については、図2に示すとおり音声パケットが、送信された順序と異なって到着する。この事象は、後に送信された音声パケットが、先に送信された音声パケットを追い抜くことによって生じる。図3には実際の環境で、VoIP通話中に伝送遅延の大きい経路から伝送遅延の小さい経路に切り替わった場合の伝送遅延の一例を、音声パケットの到着順に示す。この図3に示すように、通信経路が切り替わった後、伝送遅延の大きい経路を通った音声パケットと、伝送遅延の小さい経路を通った音声パケットとが交互に届くようになる。このとき、音声パケットの到着順序が送信順序と異なっている。
【0012】
一方、伝送遅延の小さい経路から伝送遅延の大きい経路に切り替わった場合については、図4、図5に示すとおり、音声パケットの伝送遅延が急激に増加し且つ以後の所定時間にわたり伝送遅延が増加していく傾向にある。この事象は、通信経路が伝送遅延の大きい経路に切り替わったことで、伝送遅延が急激に増加し、さらに、広帯域用のビットレートで符号化された音声パケットが、狭帯域用の通信経路ではリアルタイムに伝送されずに伝送遅延が累積されていくために生じる。
【0013】
ところで、通信経路の変更時には伝送遅延が大きく異なるため、再生バッファの蓄積量も調節する必要がある。そこで、本発明に係る音声パケット通信方法は、通信装置が、伝送遅延の異なる複数の通信経路のうち一時点で1つの通信経路を利用しながら、所定の音声符号化アルゴリズムに基づいて符号化された音声パケットの通信を行う音声パケット通信方法であって、利用される通信経路の変更に伴い、前記通信装置内の再生バッファに蓄積されている音声信号を伸縮して再生バッファ長を調節する調節ステップと、再生バッファ長が調節された音声信号における伸縮区間に、第2の音声信号を重畳する重畳ステップと、を備えることを特徴とする。
【0014】
なお、通信装置は、調節ステップでは、前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットから、一部の音声パケットを所定の規則に基づいて間引き、残された音声パケットに、間引いた音声パケットを重畳することで、前記蓄積されている音声信号を縮小させ、前記再生バッファ長を短くすることが望ましい。
【0015】
また、通信装置は、調節ステップでは、前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットの各々について、所定数のコピーパケットを生成し、生成したコピーパケットを音声パケットに重畳することで、前記蓄積されている音声信号を伸長させ、前記再生バッファ長を長くすることが望ましい。
【0016】
また、上記の第2の音声信号は、通信経路が変更されたことを通知する合図音を含んで構成されることが望ましい。
【0017】
ところで、上述した音声パケット通信方法に係る発明は、以下のように、音声パケット通信装置に係る発明として記述することもでき、同様の効果を奏する。
【0018】
本発明に係る音声パケット通信装置は、伝送遅延の異なる複数の通信経路のうち一時点で1つの通信経路を利用しながら、所定の音声符号化アルゴリズムに基づいて符号化された音声パケットの通信を行う音声パケット通信装置であって、再生される音声信号を蓄積するための再生バッファと、利用される通信経路の変更に伴い、前記再生バッファに蓄積されている音声信号を伸縮して再生バッファ長を調節する調節部と、再生バッファ長が調節された音声信号における伸縮区間に、第2の音声信号を重畳する重畳部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
なお、上記の調節部は、前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットから、一部の音声パケットを所定の規則に基づいて間引き、残された音声パケットに、間引いた音声パケットを重畳することで、前記蓄積されている音声信号を縮小させ、前記再生バッファ長を短くすることが望ましい。
【0020】
また、上記の調節部は、前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットの各々について、所定数のコピーパケットを生成し、生成したコピーパケットを音声パケットに重畳することで、前記蓄積されている音声信号を伸長させ、前記再生バッファ長を長くすることが望ましい。
【0021】
また、上記の第2の音声信号は、通信経路が変更されたことを通知する合図音を含んで構成されることが望ましい。
【0022】
ところで、本発明に係る音声パケット通信方法および本発明に係る音声パケット通信装置は、音声パケット通信だけでなく映像のパケット通信にも同様に応用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、利用される通信経路が変更された場合であっても、伝送遅延の変化に適切に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】音声パケット通信部の構成図である。
【図2】伝送遅延の大きい経路から伝送遅延の小さい経路に切り替わったときの状況を説明するための図である。
【図3】図2の場合の伝送遅延特性を示すグラフである。
【図4】伝送遅延の小さい経路から伝送遅延の大きい経路に切り替わったときの状況を説明するための図である。
【図5】図4の場合の伝送遅延特性を示すグラフである。
【図6】再生バッファ長を短くする手法を説明するための図である。
【図7】再生バッファ長を長くする手法を説明するための図である。
【図8】通信システムの構成図である。
【図9】音声パケットの構成図である。
【図10】パケット受信時の処理を示す流れ図である。
【図11】パケット再生時の処理を示す流れ図である。
【図12】移動通信装置、固定通信装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明にかかる実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
[通信システムの構成]
まず、本実施形態にかかる通信システムの構成について説明する。図8に示すように、本実施形態にかかる通信システム1は、移動通信装置10と固定通信装置20とを含んで構成される。このうち、移動通信装置10は、VoIPアプリケーションを動作させることでVoIP通信を行う音声パケット通信部11と、W-CDMAのセルラー無線通信を行うためのW-CDMA通信モデム12と、無線LANの無線通信を行うための無線LANアダプタ13とを備える。固定通信装置20は、VoIPアプリケーションを動作させることでVoIP通信を行う音声パケット通信部21と、インターネット網50に接続される通信アダプタ22とを備える。
【0027】
移動通信装置10は、W-CDMAのセルラー無線通信および無線LANの無線通信のうち、一時点で何れか一方を用いて、固定通信装置20との間でVoIP通信を行う。W-CDMAのセルラー無線通信を用いる場合、移動通信装置10は、W-CDMA通信モデム12により、セルラー無線ネットワーク30およびインターネット網50経由で、固定通信装置20と通信する。一方、無線LANの無線通信を用いる場合、移動通信装置10は、無線LANアダプタ13により、公衆無線LANネットワーク40およびインターネット網50経由で、固定通信装置20と通信する。なお、セルラー無線ネットワークの伝送遅延は公衆無線LANの伝送遅延よりも大きく、セルラー無線ネットワークの伝送帯域は公衆無線LANの伝送帯域よりも狭い、という特徴がある。
【0028】
図1に示すように移動通信装置10の音声パケット通信部11は、音声パケットの到着順序の変化および伝送遅延の変化に基づいて、利用されている通信経路が変更されたことを検出する検出部2と、通信経路の変更内容に基づいて音声符号化アルゴリズムを変更する変更部3と、再生される音声信号を蓄積するための再生バッファ4と、利用される通信経路の変更に伴い、再生バッファ4に蓄積されている音声信号を伸縮して再生バッファ長を調節する調節部5と、再生バッファ長が調節された音声信号における伸縮区間に第2の音声信号を重畳する重畳部6と、再生バッファ4に蓄積されている音声信号を再生する再生部7と、を含んで構成される。なお、固定通信装置20の音声パケット通信部21も、上記の音声パケット通信部11と同様の構成を有している。
【0029】
移動通信装置10は、ハードウェアの観点からみると、例えば図12に示すように、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムなどを実行するCPU61と、ROM及びRAMで構成される主記憶部62と、不揮発性メモリなどで構成される補助記憶部63と、データ通信を行う通信制御部64と、情報の表示や情報の印刷出力などを行う出力部65と、文字・数字入力及び実行指示を行うためのキーで構成される操作部66とを含んで構成される。なお、図1にて説明した各機能は、図12に示すCPU61及び主記憶部62上に、VoIPアプリケーションソフトウェアを読み込ませて該VoIPアプリケーションを実行するとともに、CPU61の制御の下で通信制御部64を動作させ、主記憶部62や補助記憶部63におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。また、固定通信装置20も同様に、図12に示すような基本的なハードウェア構成を有している。
【0030】
音声パケット通信部11、21(厳密には音声パケット通信部11、21にて実行されるVoIPアプリケーション)は、入力された音声を音声符号化して音声フレームにし、図9に示す12バイト(96ビット)のヘッダを付加して音声パケットを構成する。当該ヘッダには、シーケンス番号とタイムスタンプが格納される。音声パケット通信部11、21は、このようなヘッダが付加された音声パケットを通信相手に送信し、そして、通信相手から音声パケットを受信し復号化した後、再生バッファ4(図1)に蓄積する。また、音声パケット通信部11、21は再生タイマー機能を備え、再生タイマー割込みによって、再生バッファ4に蓄積されている音声フレームを所定のタイミングで再生する。再生バッファ4には、蓄積されている音声フレームの数(以下「蓄積音声フレーム数」という)に関する上限値BHighと下限値BLowとが予め設定されており、蓄積音声フレーム数が上限値BHighを超えると、音声信号の縮小処理が行われ、一方、蓄積音声フレーム数が下限値BLowを下回ると、音声信号の伸張処理が行われる。
【0031】
[本実施形態の処理フロー]
以下、図10、図11のフロー図に沿って、音声パケット通信部11(又は21)により実行される処理フローを説明する。
【0032】
図10には、音声パケット受信時の処理を示す。この処理は、音声パケット通信部11(又は21)が音声パケットを受信したときに実行開始される。まず、検出部2は、受信された音声パケットのシーケンス番号が、再生バッファの最後尾に挿入されている音声フレームのシーケンス番号より小さいか否かを判定する(図10のステップS1)。
【0033】
ステップS1にて受信された音声パケット(以下「受信パケット」と略称する)のシーケンス番号の方が小さければ、図2のように音声パケットの到着順序が変化しているため、検出部2は、通信経路が変更されていると判断して該判断結果を変更部3に通知し、変更部3は、音声符号化アルゴリズムの変更要求を通信相手に送信する(ステップS2)。なお、このとき、音声パケットの到着順序の入れ替わりが複数回生じることをもって、通信経路が変更されていると判断する条件にしても良い。本実施形態では、図9に示す音声パケットヘッダのマーカービット(図9にて「M」と記載されている1ビットの情報)を利用し、マーカービットに「0」をセットして送信した場合は、通信相手に狭帯域用の音声符号化アルゴリズムで符号化することを要求し、マーカービットに「1」をセットして送信した場合は、通信相手に広帯域用の音声符号化アルゴリズムで符号化することを要求する。また、音声符号化の変更要求については、上記以外にも、SIP(Session Initiation Protocol)を用いて通知する方法等もある。本実施形態では、通信経路の変更を検出した時点で、通信相手に音声符号化アルゴリズムの変更を要求することを特徴とする。通信経路の特性が双方向で対称的な場合は、音声符号化アルゴリズムの変更要求を送信するとともに、通信相手からの音声符号化アルゴリズムの変更要求を待たずに、音声符号化アルゴリズムを自発的に変更しても良い(ステップS3)。
【0034】
一方、ステップS1にて受信パケットのシーケンス番号が再生バッファの最後尾に挿入されている音声フレームのシーケンス番号以上の場合は、音声パケットの到着順序が正しい(変化していない)と判断できるため、以下の伝送遅延の判定処理(ステップS4〜S6)に進む。まず、検出部2は、受信パケットの伝送遅延がひとつ前の受信パケットの伝送遅延よりも所定の遅延量D(ms)以上増加しているか否かを判定する(ステップS4)。ここで、受信パケットの伝送遅延が遅延量D(ms)以上増加している場合、その後、所定の回数Nだけ音声パケットを受信し(ステップS5)、受信パケットの伝送遅延がNパケット連続で増加を続けるか否かを判定する(ステップS6)。
【0035】
ステップS6にて受信パケットの伝送遅延がNパケット連続で増加を続けていると判定された場合、検出部2は、通信経路が変更されたと判断して該判断結果を変更部3に通知し、変更部3は、音声符号化アルゴリズムの変更要求を通信相手に送信する(ステップS2)。本実施形態では、前述したように音声パケットヘッダのマーカービットを「0」にセットして、通信相手に狭帯域用の音声符号化で符号化することを要求する。また、通信経路の特性が双方向で対称的な場合は、ステップS2で音声符号化アルゴリズムの変更要求を送信するとともに、通信相手からの音声符号化アルゴリズムの変更要求を待たずに、音声符号化アルゴリズムを自発的に変更しても良い(ステップS3)。
【0036】
一方、ステップS4にて受信パケットの伝送遅延が所定の遅延量D(ms)以上増加していなかったと判定された場合、又は、ステップS6にて受信パケットの伝送遅延がNパケット連続で増加を続けているわけではないと判定された場合は、音声符号化アルゴリズムの変更は行わずに、後述のステップS7へ進む。
【0037】
ステップS7では、音声符号化アルゴリズムの変更の有無に関わらず、変更部3が、受信パケットの音声フレームを再生バッファ4の所定の位置に挿入する(ステップS7)。そして、調節部5が、再生バッファ4に蓄積されている音声フレーム数が上限値BHighを超えているか否かを判定する(ステップS8)。ここで、音声フレーム数が上限値BHighを超えていないと判定された場合は、図10の処理を終了する。
【0038】
一方、ステップS8にて音声フレーム数が上限値BHighを超えていると判定された場合は、再生バッファ4に蓄積されている複数の音声フレームから、一部の音声フレームを所定の規則に基づいて間引き、残された音声フレームに、間引いた音声フレームを重畳することで、蓄積されている音声信号を音声フレーム1つ分縮小させ、再生バッファ長を短くする(ステップS9)。そして、重畳部6は、再生バッファ長が調節された音声信号における縮小区間に第2の音声信号を重畳する(ステップS10)。
【0039】
上記のステップS9では、具体的には、図6(a)に示す蓄積された音声フレームA〜Fから、音声フレームB、D、Fを間引き、図6(b)に示すように間引いた音声フレームB、D、Fを半分ずつ重ねて、音声フレームA、C、Eに重畳することで、ノイズの発生を軽減する。しかし、ある程度のノイズは発生してしまうため、この音声信号縮小区間に第2の音声信号を重畳してノイズをマスキングする。この第2の音声信号には、通話者に通信経路が切り替わったことを通知する合図音を用いる。これにより、この第2の音声信号は音声信号縮小に起因するノイズをマスキングするとともに、通話者に通信経路変更を通知できるという効果を持つ。なお、図6(c)に示すように音声フレームA〜Fの各々に対し、窓関数(例えばハミング窓など)をかけた後、間引いた音声フレームB、D、Fを半分ずつ重ねて、音声フレームA、C、Eに重畳することが望ましい。
【0040】
次に、図11に示す再生タイマー割込み時の処理を説明する。この処理は、再生時に音声フレームの間隔毎に再生タイマー割込みが入ることで、実行開始される。まず、調節部5は、音声フレームの再生前に、再生バッファ4に蓄積されている音声フレーム数が下限値BLowよりも多いか否かを判定する(図11のステップS11)。ここで、蓄積されている音声フレーム数が下限値BLowよりも多いと判定された場合、再生部7が再生バッファ4の先頭音声フレームを再生する(ステップS15)。
【0041】
一方、ステップS11にて、蓄積されている音声フレーム数が下限値BLow以下と判定された場合、調節部5は、図7(a)に示す蓄積されている音声フレームA1、B1、C1の各々につきコピーフレームを2つ生成し、図7(b)に示すように例えば音声フレームA1について、元のフレームA1と2つのコピーフレームA2、A3の計3つのフレームを半分ずつ重ね合わせて重畳することで、音声信号を音声フレーム1つ分伸長させる(ステップS12)。そして、調節部5は、所定の時間内に通信経路の変更があったか否かを判定する(ステップS13)。ここで、通信経路の変更が無ければ、前述したステップS15(音声再生)へ進み、一方、通信経路の変更があった場合は、重畳部6が、通話者への通信経路の変更を通知する合図音(第2の音声信号)を音声フレームコピー区間に重畳し(ステップS14)、再生部7が、再生バッファ4の先頭の音声フレームを再生する(ステップS15)。
【0042】
以上説明した図10、図11の処理により、伝送遅延がより小さい通信経路へ変更されたことを検出した時に、現状の音声符号化アルゴリズムを、現状より高いビットレートの符号化を行う音声符号化アルゴリズムに変更することで、音声品質を向上させることができる。また、伝送遅延がより大きい通信経路へ変更されたことを検出した時に、現状の音声符号化アルゴリズムを、現状より低いビットレートの符号化を行う音声符号化アルゴリズムに変更することで、伝送遅延の大きい通信経路に適した音声符号化アルゴリズムが使用されることとなり、伝送遅延の累積を抑止し、伝送遅延の変化に適切に対応することができる。
【0043】
また、ステップS14にて上記の合図音を音声フレームコピー区間に重畳することで、音声信号の縮小に起因するノイズをマスキングするとともに、通話者に対し通信経路変更を通知することができる。
【0044】
また、ステップS14では、前述した図10のステップS10で重畳する音声信号とは異なる信号を重畳することが望ましい。この場合、通話者が、(1)伝送遅延の大きい経路に切り替わったか、(2)伝送遅延の小さい経路に切り替わったか、を容易に区別することができる。
【0045】
また、ステップS14では、図7(c)に示すように、元のフレームA1に対し半分重ね合わせて重畳したコピーフレームA2に対し、窓関数(例えばハミング窓など)をかけるとともに、コピーフレームA3と次のフレームB1の組に対し、窓関数(例えばハミング窓など)をかけることが望ましい。
【0046】
ところで、上記の実施形態における通信経路変更の検出および符号化処理の変更については、音声パケット通信に適用する以外に、映像のパケット通信等にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…通信システム、2…検出部、3…変更部、4…再生バッファ、5…調節部、6…重畳部、7…再生部、10…移動通信装置、11、21…音声パケット通信部、12…W−CDMA通信モデム、13…無線LANアダプタ、20…固定通信装置、22…通信アダプタ、30…セルラー無線ネットワーク、40…公衆無線LANネットワーク、50…インターネット網、61…CPU、62…主記憶部、63…補助記憶部、64…通信制御部、65…出力部、66…操作部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置が、伝送遅延の異なる複数の通信経路のうち一時点で1つの通信経路を利用しながら、所定の音声符号化アルゴリズムに基づいて符号化された音声パケットの通信を行う音声パケット通信方法であって、
利用される通信経路の変更に伴い、前記通信装置内の再生バッファに蓄積されている音声信号を伸縮して再生バッファ長を調節する調節ステップと、
再生バッファ長が調節された音声信号における伸縮区間に、第2の音声信号を重畳する重畳ステップと、
を備える音声パケット通信方法。
【請求項2】
前記通信装置は、前記調節ステップでは、
前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットから、一部の音声パケットを所定の規則に基づいて間引き、残された音声パケットに、間引いた音声パケットを重畳することで、
前記蓄積されている音声信号を縮小させ、前記再生バッファ長を短くする、
ことを特徴とする請求項1記載の音声パケット通信方法。
【請求項3】
前記通信装置は、前記調節ステップでは、
前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットの各々について、所定数のコピーパケットを生成し、生成したコピーパケットを音声パケットに重畳することで、
前記蓄積されている音声信号を伸長させ、前記再生バッファ長を長くする、
ことを特徴とする請求項1記載の音声パケット通信方法。
【請求項4】
前記第2の音声信号は、通信経路が変更されたことを通知する合図音を含んで構成される、
ことを特徴とする請求項1記載の音声パケット通信方法。
【請求項5】
伝送遅延の異なる複数の通信経路のうち一時点で1つの通信経路を利用しながら、所定の音声符号化アルゴリズムに基づいて符号化された音声パケットの通信を行う音声パケット通信装置であって、
再生される音声信号を蓄積するための再生バッファと、
利用される通信経路の変更に伴い、前記再生バッファに蓄積されている音声信号を伸縮して再生バッファ長を調節する調節部と、
再生バッファ長が調節された音声信号における伸縮区間に、第2の音声信号を重畳する重畳部と、
を備える音声パケット通信装置。
【請求項6】
前記調節部は、
前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットから、一部の音声パケットを所定の規則に基づいて間引き、残された音声パケットに、間引いた音声パケットを重畳することで、
前記蓄積されている音声信号を縮小させ、前記再生バッファ長を短くする、
ことを特徴とする請求項5記載の音声パケット通信装置。
【請求項7】
前記調節部は、
前記蓄積されている音声信号を構成する複数の音声パケットの各々について、所定数のコピーパケットを生成し、生成したコピーパケットを音声パケットに重畳することで、
前記蓄積されている音声信号を伸長させ、前記再生バッファ長を長くする、
ことを特徴とする請求項5記載の音声パケット通信装置。
【請求項8】
前記第2の音声信号は、通信経路が変更されたことを通知する合図音を含んで構成される、
ことを特徴とする請求項5記載の音声パケット通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−186850(P2012−186850A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−127191(P2012−127191)
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【分割の表示】特願2008−71886(P2008−71886)の分割
【原出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】