説明

駆動装置

【課題】1つで多次元の位置決めが可能な駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置1は、軸状の駆動部材4と、それぞれ駆動部材4の軸方向に伸縮可能に並列して設けられた複数の伸縮部11,12を有し、駆動部材4の一端を保持する電気機械変換素子3と、駆動部材4に摩擦係合し、駆動部材4上で滑り変位可能な移動体5と、一部の伸縮部11,12に、他の伸縮部11,12と異なる、変化率の小さい直流電圧成分を印加し、伸縮部11,12の全てに、共周期的に変動する共通の交流電圧成分を印加する駆動回路とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、駆動部材を非対称に振動させ、駆動部材に摩擦係合する移動体を滑り変位させる振動型の駆動装置が公知である。
【0003】
また、特許文献2乃至4に記載されているように、ガイド等によって移動可能に保持された移動体を、複数の圧電素子によって楕円運動させられる接触子によって摩擦駆動する駆動装置(トラスアクチュエータ)も知られている。
【0004】
また、特許文献2乃至4には、複数の圧電素子を一体に形成、換言すると、1つの圧電素子の異なる部分を別々に伸縮させられるように電極を分けて配設した圧電素子によって、2次元運動を実現する技術が記載されている。
【0005】
請求項1乃至4に記載の駆動装置は、いずれも、1次元の駆動のみが可能であって、2次元の駆動には2つ以上の駆動装置、3次元の駆動には3つ以上の駆動装置を組み合わせる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−78861号公報
【特許文献2】特開2008−178209号公報
【特許文献3】特開2008−172885号公報
【特許文献4】特開2007−325466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、1つで多次元の位置決めが可能な駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明による駆動装置は、軸状の駆動部材と、それぞれ前記駆動部材の軸方向に伸縮可能に並列して設けられた複数の伸縮部を有し、前記駆動部材の一端を保持する電気機械変換素子と、前記駆動部材に摩擦係合し、前記駆動部材上で滑り変位可能な移動体とを有するものとする。
【0009】
この構成によれば、電気機械変換素子を短周期で伸縮させることによって、駆動部材を振動させて、移動体を駆動部材の軸方向に滑り変位させることができ、また、伸縮部を不均衡に、緩慢に伸縮させることで、移動体を係合させまま駆動部材を傾斜させることができる。つまり、移動体は、駆動部材軸方向の位置によって極座標系の動径が定められ、駆動部材の傾斜によって極座標系の偏角が定められる。これにより、本発明の駆動装置は、1つで多次元の位置決めが可能である。
【0010】
また、本発明の駆動装置において、前記伸縮部は、3つ以上設けられていてもよい。
【0011】
この構成によれば、駆動部材の傾斜方向が3方向以上あり、2方向以上の偏角を定めることができるので、3次元の位置決めが可能である。
【0012】
また、本発明の駆動装置において、一部の前記伸縮部に、他の前記伸縮部と異なる、変化率の小さい直流電圧成分を印加し、前記伸縮部の全てに、周期的に変動する共通の交流電圧成分を印加する駆動回路をさらに有してもよい。
【0013】
この構成によれば、直流電圧成分によって駆動部材を傾斜させ、交流電圧成分によって移動体を駆動部材上で滑り変位させられる。
【0014】
また、本発明の駆動装置において、前記伸縮部は、前記駆動部材の軸方向に延伸する前記電気機械変換素子の中心軸周りに偶数設けられ、前記駆動回路は、前記中心軸を挟んで対向位置にある前記伸縮部に、逆位相の前記直流電圧成分を印加してもよい。
【0015】
この構成によれば、対向位置の伸縮部の一方が伸張し、他方が収縮するので、駆動部材の傾斜を大きくすることができる。
【0016】
また、本発明の駆動装置は、前記伸縮部の少なくともいずれかに、直流電圧成分を印加しないようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、伸縮部の一部に伸縮力を発揮させないことで、電気機械変換素子の伸縮力がバランスする方向を調節して、駆動部材の傾斜方向の選択可能性を広げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電気機械変換素子の複数の伸縮部を短周期で均一に伸縮させることで、移動体を駆動部材上で滑り変位させ、伸縮部を緩慢で不均一に伸縮させることで駆動部材を傾斜させて駆動部材を傾斜させることができる。これにより、移動体を極座標系上で多次元に位置決めできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態の駆動装置の側面図である。
【図2】図1の駆動装置のA−A断面図である。
【図3】図1の駆動装置のB−B断面図である。
【図4】図1の駆動装置の駆動部材を傾斜させた状態の側面図である。
【図5】図1の駆動装置の駆動回路図である。
【図6】図2の駆動装置の駆動回路の代案の回路図である。
【図7】本発明の第2実施形態の駆動装置の圧電素子の軸直角方向断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の駆動装置の駆動部材先端の位置を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態を用いた光学装置の構成図である。
【図10】本発明の第3実施形態の駆動装置の圧電素子の軸直角方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1乃至3に、本発明の第1実施形態の駆動装置1を示す。駆動装置1は、錘2と、錘2に一端が固定された圧電素子(電気機械変換素子)3と、電気機械変換素子3の他端に一端が固定された軸状の駆動部材4と、駆動部材4に滑り変位可能に摩擦係合する移動体5とからなる。
【0021】
圧電素子3は、図2乃至3に示すように、シート状の圧電層6に2つの印刷電極7,8を印刷したものを駆動部材4の軸方向に積層し、印刷電極7,8をそれぞれ1つ置きに接続する外部電極9a,9b、10a,10bを形成してなる。圧電素子3は、印刷電極7が介設された部分である伸縮部11が、外部電極9a−9b間に電圧を印加することで、印加した電圧に応じて伸縮し、外部電極10a−10b間に電圧を印加すると、印刷電極8が介設された伸縮部12が、印加した電圧に応じて伸縮する。つまり、伸縮部11と伸縮部12とは、それぞれ駆動部材4の軸方向に伸縮可能に並列して設けられている。
【0022】
図4に示すように、外部電極9a−9b間に正の電圧を印加して伸縮部11に伸張させ、外部電極10a−10b間に負の電圧を印加して伸縮部12を収縮させると、圧電素子3は、駆動部材4が固定された側の先端が、伸縮部12方向に傾倒するように湾曲する。これにより、駆動部材4が傾斜し、移動体5は伸縮部12側に揺動させられる。
【0023】
また、外部電極9a−9bおよび10a−10bに、伸縮部11,12を緩慢に伸張させてから急峻に収縮させるような短周期の交流電圧を印加すると、移動体5が駆動部材4上で、圧電素子3から遠ざかる方向に滑り変位する。
【0024】
このようにして、駆動装置1は、移動体5を、駆動部材4上での位置を動径rとし、駆動部材4の傾斜角度を偏角θとして、極座標(r,θ)上で位置決めすることができる。
【0025】
図5に、駆動装置1の駆動回路13を示す。駆動回路13は、それぞれ、直流電源14をスイッチングして、外部電極9a−9b間に任意の極性で電源電圧を印加できるブリッジ回路15と、外部電極10a−10b間に任意の極性で電源電圧を印加できるブリッジ回路16とを有する。ブリッジ回路15,16は、マイコンからなる制御回路17によって制御されており、制御回路17は、さらに、直流電源14の電源電圧を調整することもできるようになっている。
【0026】
制御装置17は、駆動装置1の移動体5を位置決めする際、先ず、ブリッジ回路15,16に同位相の矩形波交流電圧を出力させ、圧電素子3の伸縮部11および12を同位相で伸縮させ、移動体5を滑り変位させて所望の動径rに配置する。続いて、制御装置17は、ブリッジ回路15,16に、伸縮部11および12に逆方向に電源電圧を印加し続けさせ、且つ、圧電素子3の屈曲が所望の角度になるように直流電源14の電源電圧を調整することで、駆動部材4を所望の偏角θに傾斜させる。これによって、移動体5は、所望の極座標(r,θ)に位置決めされる。
【0027】
図6に、代案となる駆動装置1の駆動回路18を示す。この駆動回路18は、圧電素子3を軸方向に伸縮させて移動体5を駆動部材4に対して滑り変位させるための周期的な交流電圧の波形を生成するパルス成形器19の出力と、圧電素子3を屈曲させて駆動部材4を傾斜させるために必要な電圧に比例した電圧信号を生成するDA変換器20とを有する。パルス成形器19およびDA変換器20は、不図示のマイコンによって制御される。
【0028】
駆動回路18は、パルス成形器19の出力とDA変換器20の出力とを所定の比で足し合わせて反転増幅する加算器21と、パルス成形器19の出力からDA変換器20の出力を減じて反転増幅する減算器22と、加算器21の出力および減算器22の出力をそれぞれ同じゲインで反転増幅する増幅器23,24とを有する。増幅器23,24の出力は、パルス成形器19の出力波形を所定の増幅率で増幅した周期的な交流電圧成分と、DA変換器20の出力波形を所定の増幅率で増幅した直流電圧成分とを重畳した電圧となる。ただし、増幅器23における直流電圧成分と、増幅器24における直流電圧成分とは、正負が異なる。
【0029】
この駆動回路18では、直流電圧成分と交流電圧成分とを独立して制御できるため、パルス成形器19によって移動体5の動径rを調節しながら、同時に、DA変換器20によって移動体5の偏角θを調節することができる。
【0030】
図7に、本発明の第2実施形態の駆動装置1の圧電素子31の断面を示す。尚、以降の実施形態では、圧電素子31の構成以外は第1実施形態と同じであるので、重複する説明は省略する。本実施形態の駆動装置1は、圧電素子31が、それぞれ駆動部材4の軸方向に伸縮可能であり、角柱状の圧電素子31をその中心軸Cの周りに4つに等分した4つの伸縮部32,33,34,35を有する。
【0031】
図8に、本実施形態の駆動装置1の駆動部材4の先端位置を駆動部材4の軸に直交する平面上に図示する。尚、本実施形態では、例えば、それぞれの伸縮部32,33,34,35に対応するブリッジ回路(不図示)により、伸縮部32,33,34,35毎に正・負の電源電圧を印加、或いは、電圧を印加しないことができる。図には、駆動部材4の先端位置に、その位置を得るために各伸縮部32,33,34,35に印加される電圧を、「+」、「−」、「0」で示してある。
【0032】
このように、本実施形態では、駆動部材4の2方向の傾斜角度(θ,φ)を調節できる。これに、移動体5の駆動部材4上の位置(r)を加えると、駆動装置1は、球座標系(r,θ,φ)上の3次元の位置決めができる。
【0033】
特に、中心軸Cを挟んで対向する伸縮部32,33,34,35に、逆位相の直流電圧を印加することで、圧電素子3を大きく変形させて駆動部材4の傾斜角度を大きくできる。また、一部の伸縮部32,34または33,35に、直流電圧を印加しないことで、駆動部材4の傾斜させ得る方向が増加する。
【0034】
また、本実施形態の駆動装置1も、各伸縮部32,33,34,35に共通して交流電圧成分を印加し、任意の伸縮部32,33,34,35に選択的に電圧調節可能な直流成分電圧を印加してもよい。直流成分電圧は、伸縮部32,33,34,35毎に電圧を可変してもよいが、1つの電源電圧を可変し、電圧の印加方向(正・負)および電圧印加の有無のみを選択するようにしてもよい。
【0035】
図9に、例として、この球座標系の駆動装置1を用いたレーザモジュール36を示す。レーザモジュール36は、赤外色のレーザ光を発生するレーザダイオード37と、レーザ光を案内し、駆動装置1の移動体5に保持された調芯レンズ38と、レーザ光を受光して半波長の緑色のレーザ光を生成する受光部材である第二次高調波発生素子(Second Harmonic Generator)39と、第二次高調波発生素子39の出力を射出する射出レンズ40とを有する。調芯レンズ38は、駆動装置1によって、レーザ光の光軸に直交する平面内で位置決めされる。
【0036】
また、レーザモジュール36は、第二次高調波発生素子39の出力光を分割するビームスプリッタ41と、分割した第二次高調波発生素子39の出力光の出力レベルを電圧信号に変換するフォトダイオードのようなセンサからなるパワーモニタ42と、パワーモニタ42の出力に応じて、駆動装置1の駆動回路43の動作を制御する制御回路44とを有する。
【0037】
第二次高調波発生素子39は、受光部の口径が1〜3μm程度である。調芯レンズ38は、レーザ光を第二次高調波発生素子39の受光部と同程度の径になるように集光するとともに、第二次高調波発生素子39の受光部の中心にレーザ光の光軸を芯合わせする。レーザ光が十分に集光され、その光軸が第二次高調波発生素子39の中心に一致している場合、レーザ光のエネルギーが全て第二次高調波発生素子39に入力されるので、第二次高調波発生素子39の出力が最大になり、パワーモニタ42の出力も最大になる。つまり、駆動装置1は、パワーモニタ42の出力が最大になるように、移動体5を3次元に位置決めする。
【0038】
図10に、本発明の第3実施形態の駆動装置1の圧電素子51を示す。本実施形態において、圧電素子51は、6角柱状をなし、中心軸Cの周りに6つに等分された、それぞれ3角柱状の伸縮部52,53,54,55,56,57を有する。本実施形態では、各伸縮部52,53,54,55,56,57の外部電極の対は、それぞれ、圧電素子51の同じ外面上に並んで配設されている。
【0039】
本実施形態のように、圧電素子の伸縮部の並列数を増やすことで、駆動部材の傾斜方向をより細かく選択できるようになる。傾斜方向の選択方法として、例えば、本実施形態において、伸縮部52,53に正の電圧を印加し、伸縮部54に負の電圧を印加するといった非対称な電圧の印加パターンも選択できる。
【符号の説明】
【0040】
1…駆動装置
2…錘
3…圧電素子(電気機械変換素子)
4…駆動部材
5…移動体
6…圧電層
7,8…電極層
9,10…外部電極
11,12…伸縮部
13…駆動回路
14…直流電源
15,16…ブリッジ回路
18…駆動回路
19…パルス成形器
20…DA変換器
31…圧電素子(電気機械変換素子)
32,33,34,35…伸縮部
51…圧電素子(電気機械変換素子)
52,53,54,55,56,57…伸縮部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状の駆動部材と、
それぞれ前記駆動部材の軸方向に伸縮可能に並列して設けられた複数の伸縮部を有し、前記駆動部材の一端を保持する電気機械変換素子と、
前記駆動部材に摩擦係合し、前記駆動部材上で滑り変位可能な移動体とを有することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記伸縮部は、3つ以上設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
一部の前記伸縮部に、他の前記伸縮部と異なる、変化率の小さい直流電圧成分を印加し、前記伸縮部の全てに、周期的に変動する共通の交流電圧成分を印加する駆動回路をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記伸縮部は、前記駆動部材の軸方向に延伸する前記電気機械変換素子の中心軸周りに偶数設けられ、
前記駆動回路は、前記中心軸を挟んで対向位置にある前記伸縮部に、逆位相の前記直流電圧成分を印加することを特徴とする請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記伸縮部の少なくともいずれかに、直流電圧成分を印加しないことを特徴とする請求項3または4に記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−263673(P2010−263673A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110945(P2009−110945)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】