説明

高い信頼性を持つ高熱伝導窒化ケイ素セラミックス及びその製造方法

【課題】高い信頼性を持つ高熱伝導窒化ケイ素セラミックス、その製造方法及びその応用製品を提供する。
【解決手段】ケイ素粉末の反応焼結を利用して合成した反応焼結窒化ケイ素焼結体であって、β相窒化ケイ素を主成分とし、Y、Yb、Nd、Smの少なくとも一種を酸化物に換算して0.5〜7mol%含有し、Mgの存在量が酸化物に換算して2mol%以下であり、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性が7MPam1/2以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体、その製造方法、及びその応用製品。
【効果】低品位のSi原料を含む多様なSi原料粉末を出発原料として用いることが可能で、しかも優れた特性を有する窒化ケイ素焼結体を低コストで合成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い信頼性を有する高熱伝導窒化ケイ素セラミックス及びその安価な製造方法に関するものであり、更に詳しくは、熱伝導率が100W/mK以上の高熱伝導性、3点曲げ強度が600MPa以上の高強度、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靭性が7MPam1/2以上の高破壊靭性の特性を合わせ持つ反応焼結窒化ケイ素焼結体及びその製造方法に関するものである。本発明は、多くの不純物酸素を含む低品位のSi原料粉末から不純物酸素量の少ない高品位なSi粉末まで、多様なSi原料粉末を出発原料として用いることができ、更に、従来の成形、焼成プロセスで、しかも、上述の優れた特性を持つ窒化ケイ素焼結体を製造することが可能な新規窒化ケイ素製造技術を提供するものである。本発明は、熱機関、熱交換器、ヒートパイプ等の機械部品材料や半導体基板、プリント配線基板等の電気絶縁材料として用いるのに適した、600MPa以上の強度、7MPam1/2以上の破壊靱性、及び100W/mK以上の熱伝導率を有する高信頼性・高熱伝導窒化ケイ素焼結体並びにその安価な製造方法に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
構造部材としての放熱材料を考えた場合、最も一般的な金属材料は、例えば、500℃を越える条件下においては冷却等を行うことなしに用いることは不可能である。更に、これらの金属材料は、セラミックスに比べて、耐食性、耐酸化性等に劣り、また、導電体であることから、高密度実装基板など、高い放熱性を要求される絶縁基板材料として用いることは難しい面がある。
【0003】
一方、窒化アルミニウム焼結体、炭化ケイ素焼結体等のセラミック材料は、高い絶縁性と高い熱伝導性を合わせ持つことから、一部の材料が、放熱基板材料として使用されるようになってきた。しかし、これらの高熱伝導性セラミックスは、強度、靱性が低く、機械的信頼性に欠けるため、その用途は、非常に限られたものであった。
【0004】
窒化ケイ素焼結体は、高い強度と高い靱性を合わせ持つ優れた構造用セラミック材料として知られている。更に、窒化ケイ素は、炭化ケイ素や窒化アルミニウムとの結晶構造の類似性から、窒化ケイ素結晶の理論的な熱伝導率は、200W/mK以上と期待されている。しかし、一般的な窒化ケイ素焼結体においては、窒化ケイ素粒子内部に不純物酸素が固溶しており、このため、熱伝導を担うフォノンが散乱され、熱伝導率は数十W/mK程度である。
【0005】
窒化ケイ素焼結体について、高い熱伝導率を発現させるためには、先行文献で明らかにされているように、焼結時に窒化ケイ素粒子内部の固溶酸素を低減させることが必要である(非特許文献1)。窒化ケイ素は、共有結合性が強く、拡散係数が小さいので、その焼結の際には、一般に、酸化物が焼結助剤として添加される。添加した焼結助剤は、窒化ケイ素原料中の不純物酸素と反応して酸窒化物の融液を生成し、生成した液相の働きにより、緻密化と粒成長が進行する。
【0006】
酸素との親和性が高い希土類酸化物を助剤として添加した場合、液相中に多くの酸素がトラップされ、窒化ケイ素粒子の成長とともに、粒子内部の固溶酸素量が低減する。このため、希土類酸化物は、高熱伝導化のための重要な助剤である。しかし、希土類酸化物のみの添加では、生成する液相の融点が高いため、機械特性に優れた緻密な焼結体を得ることは困難である。このため、優れた機械特性と高い熱伝導率を共生させた窒化ケイ素焼結体を得るために、焼結助剤の種類、添加量、焼結温度、及び時間などのプロセス因子について、様々なアプロ−チが行われてきた。
【0007】
先行文献には、例えば、Al含有量が0.1重量%以下で平均粒径1μm以下の微細な窒化ケイ素粉末に、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ho、Er、Ybのうちから選ばれる1種又は2種以上の元素の酸化物焼結助剤を1重量%以上15重量%以下添加して成形した後、1気圧以上500気圧以下の窒素ガス圧下で、1700℃以上2300℃以下の温度で焼成することにより、7MPam1/2以上の破壊靱性、600MPa以上の強度、80W/mK以上の熱伝導率を持つ焼結体を作製することが可能であることが開示されている(特許文献1)。
【0008】
また、他の先行文献には、窒化ケイ素粉末にマグネシウム及びイットリウム及び/又はランタノイド族元素の1種以上の酸化物を、総計で1.0wt%以下添加した原料粉末を成形した後に、温度1800〜2000℃、窒素圧0.5〜10MPa、焼成雰囲気調整用の詰粉に、窒化ケイ素、窒化ホウ素及び酸化マグネシウムからなる混合粉末を用いて焼成し、焼結体の粒子の大きさ、窒化ケイ素粒子内の酸素量、残留助剤成分量を制御することにより、常温における熱伝導率が90W/mK以上、3点曲げ強度が600MPa以上の特性を持つ窒化ケイ素焼結体の製造が可能であることが開示されている(特許文献2)。
【0009】
また、他の先行文献には、β相分率が30〜100%であり、酸素含有量が0.5wt%以下、平均粒子径が0.2〜10μm、アスペクト比が10以下である窒化ケイ素粉末1〜50重量部と、平均粒子径が0.2〜4μmのα型窒化ケイ素粉末99〜50重量部と、Mgと、Y及び希土類元素(RE)からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とを含む焼結助剤とを配合し、0.5MPaの窒素雰囲気にて1400〜1600℃の温度で1〜10時間保持した後、5.0℃/min以下の昇温速度で1800〜1950℃にして5〜40時間焼結するプロセスにより製造された、常温における熱伝導率が100W/mK以上、3点曲げ強度が600MPa以上の高強度・高熱伝導性窒化ケイ素質焼結体が記載されている(特許文献3)。
【0010】
また、本発明者らが行った予備的な実験では、従来の焼結法では、焼結時間の増加とともに、窒化ケイ素の粒成長が進み、熱伝導率は向上するものの、過度の粒成長のため、熱伝導率の向上とともに、強度、及び破壊靭性が著しく低下することが判明した。例えば、表1の比較例に示すように、平均粒径0.2μmの窒化ケイ素微粉末に、2mol%Ybと5mol%のMgOを添加した窒化ケイ素成形体を1850℃で12時間焼成した焼結体は、95W/mKの熱伝導率と850MPaの強度を有するが、同じ成形体を48時間焼成した場合、熱伝導率は、105W/mKまで向上するものの、強度は、300MPaまで激減する。
【0011】
上述の事例で例示したように、従来法では、性状が制御された窒化ケイ素粉末を用い、焼結助剤の種類、添加量、焼結条件などのプロセスパラメータを最適化し、所定の微細構造を発現させることにより、100W/mK程度の熱伝導率と600MPa以上の強度を持つ窒化ケイ素焼結体を作製することができる。しかし、いずれの製造方法においても、高価な窒化ケイ素粉末を用いるため、製品の価格が高くなり、また、熱伝導率が100W/mKを超えると、急激に強度、靭性が低下し、機械的な信頼性が乏しくなる。このように、製品価格と、熱伝導、及び機械特性との共生の二つの観点から、従来の焼結法で得られる高熱伝導窒化ケイ素は、そのような要求を満足するものでなかった。
【0012】
原料粉末に要するコストを低減させるという観点から、次に例示するように、原料粉末として、安価なケイ素粉末を用い、その成形体を窒素中で窒化後、高温で焼結する、いわゆる反応焼結手法を用いた高熱伝導窒化ケイ素材料の開発が行われている。例えば、先行文献では、ケイ素、あるいはケイ素と窒化ケイ素との混合粉末に対して、周期律表第3a族元素化合物を酸化物換算で2〜10mol%の割合で添加し、且つアルミニウム含有量が酸化物換算で0〜0.5重量%の混合粉末を成形し、該成形体を800〜1500℃の窒素含有中で熱処理して、前記ケイ素を窒化して、β型窒化ケイ素を10%以上含有する窒化体を作製した後、該窒化体を1400〜1800℃の窒素を含む常圧下で焼成し、更に、その焼結体を1800〜1980℃の窒素圧1.5気圧以上の雰囲気下で焼成して、前記窒化ケイ素結晶の平均粒径が2μm以上、平均アスペクト比が15以下、任意の300μm×300μmの領域に長さ20μm以上の窒化ケイ素粒子が5個以上存在する焼結体組織とすることで、高強度、高靭性、及び高熱伝導を併せ持つ窒化ケイ素を製造できるとされている(特許文献4)。
【0013】
本先行文献では、窒化ケイ素の熱伝導率を向上させるために、アルミニウム含有量を0.5%以下にすることが重要であることが述べられている。これは、アルミニウムが、窒化ケイ素結晶に固溶し、フォノンを散乱させる要因となるためである。しかし、先行文献にその詳細が示されているように、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率を阻害する最も大きな要因は、不純物酸素である(非特許文献1、2)。このため、不純物酸素量の影響については考慮されていない本先行文献で達成されている熱伝導率の値60〜78W/mKは、放熱部材として十分なものでない。
【0014】
他の先行文献においては、不純物酸素が熱伝導率を大きく低下させるとの概念のもとで、Siの反応焼結による窒化ケイ素焼結体の製造プロセスにおいて、含有酸素量が1重量%以下のSi粉末を用い、その80〜99重量%と、Y、Yb、Smの少なくとも1種の元素の酸化物粉末1〜20重量%とを混合し、その成形体を窒素雰囲気中で1400℃以下の温度で窒化処理した後、1700〜1950℃の温度で焼成することにより、高熱伝導窒化ケイ素が得られることが開示されている(特許文献5)。更に、この先行文献には、不純物酸素を低減させるために、還元性コーティング剤をSi粉末に添加し、100Torr以下の真空中、窒素含有雰囲気中で200〜800℃の温度範囲で熱処理することが示されている。
【0015】
また、他の先行文献においては、転位の少ない原料を用い、且つプロセス中において、粉末、成形体に100kgf/cm以上の圧力を加えないなどの手法により、フォノンの散乱要因の一つである窒化ケイ素粒子中の転位密度を10μm/μm以下とすることで、高強度と高熱伝導率が達成できることが開示されている(特許文献6)。
【0016】
更に、他の先行文献においては、窒化ケイ素以外の第一成分として、希土類元素の少なくとも1種、第二成分としてアルカリ土類元素、Li、Srの少なくとも1種を含み、酸化物に換算したモル比率で第一成分が0.95〜7.7モル%及び第二成分が0.49〜4.7モル%であって、第一成分濃度を中心部より表面部で高く、第二成分の濃度を表面部より中心部で相対的に高くすることにより、高強度・高熱伝導窒化ケイ素を作製することが開示されている(特許文献7)。
【0017】
このように、Si粉末を用いることが可能な反応焼結においても、100W/mKを超える高い熱伝導率を持つ窒化ケイ素焼結体の作製に関して、多くの手法が開発されている。しかし、従来の手法は、例えば、高熱伝導を達成するためには、不純物酸素量が1%以下のSi粉末を使用することや、還元性コーティング剤を添加し、還元処理を行う必要があること(特許文献5)、転位密度の少ないSi原料を用い、また、成形時の圧力を100kg/cm以下で行うこと(特許文献6)、焼結体の外周部と内周部で組成が異なるように制御を行うこと(特許文献7)など、使用可能なSi原料粉末や適用可能なプロセスに多くの制限があるという問題を抱えているのが実情であった。
【0018】
【特許文献1】特開平9−30866号公報
【特許文献2】特開2002−293642号公報
【特許文献3】特開2003−313079号公報
【特許文献4】特開平11−100276号公報
【特許文献5】特開平11−314969号公報
【特許文献6】特開2000−169239号公報
【特許文献7】特開2000−272968号公報
【非特許文献1】Journal of the American Ceramic Society,“Thermal Conductivity of beta−Si3N4 II :Effect of Lattice Oxygen,”83[8]1985−1992(2000)
【非特許文献2】日本セラミックス協会学術論文誌、”窒化ケイ素の熱伝導率に及ぼす焼結体中の酸素の影響”,109[12]1046−1050(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述のように、これまでに開発されたSiの反応焼結手法を用いた高熱伝導窒化ケイ素の製造方法は、使用可能なSi原料粉末や製造プロセスが大きく制限され、本手法を用いることの利点、即ち、安価なSi粉末を用い、従来の窒化ケイ素の焼結手法と同様なプロセスで高い特性を持つ材料を得るという利点を十分に生かしたものでなかった。
【0020】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、安価なSi粉末を用いて、従来の窒化ケイ素の焼結手法と同様なプロセスで、高い特性を持つ材料を製造することを目標として鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明の目的は、Siの窒化反応を用いた反応焼結による窒化ケイ素焼結体の製造において、多くの不純物酸素を含む低品位のSi原料粉末から不純物酸素量の少ない高品位なSi粉末まで、多様なSi原料粉末を出発原料として用いることができ、更に、従来の成形、焼成プロセスの適用が可能で、しかも、優れた機械特性と高熱伝導性を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を製造できる窒化ケイ素焼結体の製造技術及びその製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)ケイ素粉末の反応焼結を利用した窒化ケイ素焼結体の製造方法において、1)ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、希土類酸化物とマグネシウム化合物を同時に添加する、2)ケイ素粉末の不純物酸素とマグネシウム化合物に含まれる酸素の総量を同時に制御する、3)それにより、高熱伝導、高強度、高靭性を共生させた窒化ケイ素焼結体を製造する、ことを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。
(2)ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、ケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、希土類元素の酸化物を0.5mol%から7mol%、更に、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%から1.8mass%の範囲となるように添加する、前記(1)に記載の方法。
(3)上記混合物の成形体を1200〜1400℃の温度範囲で窒化し、得られた窒化体を1気圧以上の窒素中で1700℃から1950℃の温度で加熱し、窒化体を95%以上の相対密度に緻密化する、前記(2)に記載の方法。
(4)マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.3mass%から1.5mass%の範囲となるように添加する、前記(2)に記載の方法。
(5)上記混合物の成形体を1200〜1400℃の温度範囲で窒化し、得られた窒化体を1気圧以上の窒素中で1700℃から1950℃の温度で加熱し、窒化体を95%以上の相対密度に緻密化するとともに、焼結体中のMg元素の量を酸化物に換算して0.2mass%以下に揮散させる、前記(4)に記載の方法。
(6)熱伝導率が130W/mK以上、3点曲げ強度が600MPa以上、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性値が7MPam1/2以上の特性を有する窒化ケイ素焼結体を製造する、前記(5)に記載の方法。
(7)ケイ素粉末の反応焼結を利用して合成した反応焼結窒化ケイ素焼結体であって、β相窒化ケイ素を主成分とし、Y、Yb、Nd、Smの少なくとも一種を酸化物に換算して0.5〜7mol%含有し、Mgの存在量が酸化物に換算して2mol%以下であり、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性が7MPam1/2以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
(8)前記(7)に記載の反応焼結窒化ケイ素焼結体から構成される、高熱伝導性、高強度及び高破壊靭性の特性を合わせ持つことを特徴とする窒化ケイ素製品。
【0022】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ケイ素粉末の反応焼結を利用した窒化ケイ素焼結体の製造方法において、1)ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、希土類酸化物とマグネシウム化合物を同時に添加する、2)ケイ素粉末の不純物酸素とマグネシウム化合物に含まれる酸素の総量を同時に制御する、3)それにより、高熱伝導、高強度、高靭性を共生させた窒化ケイ素焼結体を製造することを特徴とするものである。
【0023】
本発明の方法では、ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、ケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、希土類元素の酸化物を0.5mol%から7mol%、更に、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%から1.8mass%の範囲となるように添加することが好適である。また、本発明の方法では、上記混合物の成形体を1200〜1400℃の温度範囲で窒化し、得られた窒化体を1気圧以上の窒素中で1700℃から1950℃の温度で加熱し、窒化体を95%以上の相対密度に緻密化することが好ましい。
【0024】
また、本発明の方法では、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.3mass%から1.5mass%の範囲となるように添加することが好適である。また、本発明の方法では、上記混合物の成形体を1200〜1400℃の温度範囲で窒化し、得られた窒化体を1気圧以上の窒素中で1700℃から1950℃の温度で加熱し、窒化体を95%以上の相対密度に緻密化するとともに焼結体中のMg元素の量を酸化物に換算して0.2mass%以下に揮散させることが好ましい。
【0025】
また、本発明の方法では、熱伝導率が130W/mK以上、3点曲げ強度が600MPa以上、予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性値が7MPam1/2以上の特性を有する窒化ケイ素焼結体を製造することが好適である。更に、本発明は、ケイ素粉末の反応焼結を利用して合成した反応焼結窒化ケイ素焼結体であって、β相窒化ケイ素を主成分とし、Y、Yb、Nd、Smの少なくとも一種を酸化物に換算して0.5〜7mol%含有し、Mgの存在量が酸化物に換算して2mol%以下であり、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性が7MPam1/2以上であることを特徴とするものである。更にまた、本発明は、上記反応焼結窒化ケイ素焼結体から構成される、高熱伝導性、高強度及び高破壊靭性の特性を合わせ持つ窒化ケイ素製品の点に特徴を有するものである。
【0026】
本発明において、Si粉末の窒化反応を用い、緻密な窒化ケイ素焼結体を作製するためには、Si粉末に窒化ケイ素の焼結助剤を予め添加し、混合粉末の成形体を1400℃以下の窒素中で加熱し、Siを窒化ケイ素とした後、得られた窒化体を更に高温の窒素中で加熱することにより、緻密化を行うことが必要とされる。このため、本発明において、高い熱伝導率を持つ窒化ケイ素焼結体を得るための設計指針は、窒化ケイ素を出発原料とした一般的な焼結手法と基本的には同じである。
【0027】
既に述べたように、窒化ケイ素粉末は、不可避的に数%程度の不純物酸素を含有している。また、窒化ケイ素は、それ自身では焼結しないので、窒化ケイ素焼結体を製造する場合、酸化物が焼結助剤として添加される。結晶中に固溶酸素が存在すること及び残留する低熱伝導の粒界相が存在することが、焼結体の熱伝導率が200W/mKを超えると、予測されている窒化ケイ素結晶の理論的な熱伝導率に比較して著しく低くなることの要因である。
【0028】
このため、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率を向上させるためには、(1)窒化ケイ素結晶に固溶し、結晶自身の熱伝導率を低下させる固溶酸素量を低減させること、(2)焼結体に残留する低熱伝導の粒界相を低減させること、が必要且つ重要である。従って、高熱伝導化には、この焼結助剤の選択が非常に重要である。前者のためには、酸素との親和性が高く粒界相に酸素をトラップする能力に優れた希土類元素酸化物が助剤として用いられる。後者を満足させるためには、加熱時に生成する融液の融点を低下させ、焼結初期に緻密化に貢献し、更に、高温での焼結時に蒸発揮散する酸化マグネシウム及び/又は窒化ケイ素マグネシウムが好適に用いられる。
【0029】
Si粉末も、窒化ケイ素粉末と同様に、不可避的に不純物酸素を含んでいる。この酸素量は、Si粉末の性状により大きく異なるが、一般に、0.2mass%程度から数mass%程度の範囲にある。窒化ケイ素粉末を用いた通常の焼結法に比べて、Siの反応焼結を用いた窒化ケイ素焼結体の製造方法は、酸素量の低減という観点から大きな利点を有する。
【0030】
即ち、具体的には、(1)3Si+2N=Siの窒化反応に伴い、試料重量が約70%増加するので、相対的に不純物酸素量の割合が低下する、(2)Si粉末成形体の窒化は、寸法変化を伴わずに重量が増加するため、窒化体は、成形体に比べて十数%相対密度が高くなり、ポスト焼結過程での緻密化が容易である、(3)このことは、焼成時間の短縮化を可能とし、機械特性に悪影響を及ぼす過度の粒成長を防ぐことを可能とする、等の利点を有する。
【0031】
このように、反応焼結による手法は、高熱伝導化の観点から優れた潜在的なポテンシャルを有している。しかし、単にSi原料中の不純物酸素量の低減を図ったのでは、(1)原料の高純度化に伴い原料コストが増加する、(2)使用できる原料が限定される、(3)不純物酸素もシリカとしての焼結助剤の一端を担うので、原料の酸素量の低減に伴い焼結性が阻害される、といった問題点がある。そこで、本発明者らは、機械特性と熱伝導性に優れた窒化ケイ素焼結体を反応焼結による手法により製造することを目的に、Si粉末の性状、特に不純物酸素量と助剤組成が、窒化体をポスト焼結して得られる窒化ケイ素焼結体の熱伝導と機械特性に及ぼす影響について鋭意検討を行った。
【0032】
その結果、本発明者らは、熱伝導率、強度、及び靱性を共生させた窒化ケイ素焼結体を作製するためには、Si粉末に含まれる不純物酸素量と焼結助剤としてのマグネシウム化合物からの酸素量の和並びに希土類酸化物の添加量を、特定の範囲に精緻に制御することにより、初めて実現できるとの新規知見を見出し、本発明に至った。
【0033】
即ち、本発明は、ケイ素粉末の反応焼結を利用して合成した窒化ケイ素焼結体であって、β相窒化ケイ素を主成分とし、Y、Yb、Nd、Smの少なくとも一種を酸化物に換算して0.5〜7mol%含有し、Mgの存在量が酸化物に換算して2mol%以下であり、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性が7MPam1/2以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法及びその窒化ケイ素焼結体を提供することを実現するものである。
【0034】
本発明では、ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、ケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、希土類元素の酸化物を0.5mol%から7mol%、更に、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%から1.8mass%の範囲となるように添加する。次いで、これらの混合物の成形体を1200〜1400℃の温度範囲で窒化し、得られた窒化体を1気圧以上の窒素中で1750℃から1950℃の温度で加熱し、窒化体を95%以上の相対密度に緻密化する。
【0035】
本発明では、ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、ケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、希土類元素の酸化物を0.5mol%から7mol%、更に、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%から1.8mass%の範囲となるように添加し、出発原料粉末とする。
【0036】
希土類元素の添加量が0.5mol%以下であると、粒界相に酸素をトラップすることができず、窒化ケイ素粒子に固溶する酸素が多くなるので熱伝導率は低くなり、また、7mol%を越えると、イットリウム等を含む低熱伝導の粒界相の量が多くなり、焼結体の熱伝導率が低下する。従って、これらの添加量は、0.5mol%から7mol%の範囲とすることが必要である。また、希土類酸化物としては、入手が容易であり、また、酸化物として安定な、Y、Yb、Nd、Smの酸化物の少なくとも一種類を添加する。
【0037】
希土類酸化物のみを助剤として添加して窒化ケイ素焼結体を作製した場合、緻密化を行うために、100気圧程度の高窒素圧中、2000℃に及ぶ超高温での焼成が必要であり、特殊な焼成炉を必要とするので、プロセスコストが高くなる。また、この場合、超高温での焼成により著しい粒成長が生じ、機械特性の低下を招く。このため、ポスト焼結時の緻密化を促進し、また、高強度、高靭性の発現を可能とするためには、希土類酸化物の添加と同時にマグネシウム化合物を添加することが必要不可欠である。このマグネシウム化合物の添加は、Mgイオンが加熱時に生成する酸窒化ガラスの修飾イオンとなり、ガラスの粘性を低下させ、緻密化を促進するとともに、焼成中に蒸発揮散し、残留する粒界相の量を低減させる働きがある。
【0038】
ケイ素粉末は、上述のように、0.2mass%から数mass%の不純物酸素を含んでいる。不純物酸素は、窒化ケイ素の熱伝導率の阻害要因ではあるが、一方では、シリカとして窒化ケイ素の緻密化のための重要な焼結助剤である。本発明者らは、高熱伝導、高強度、及び高靭性を共生させるためには、マグネシウムイオンの量、並びにケイ素粉末の不純物酸素とマグネシウム化合物に含まれる酸素の総量を同時に制御することが重要であることを見出した。
【0039】
マグネシウム源として酸化マグネシウムを用いる従来の手法では、不純物酸素を多く含む低価格のケイ素粉末を高熱伝導材料の原料として用いることはできなかった。本発明の大きな特徴は、酸素量の調整を酸化マグネシウム(MgO)と酸素を含まないマグネシウム化合物を用いて行うことにある。即ち、酸化マグネシウム、窒化ケイ素マグネシウム、ケイ化マグネシウムあるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%から1.8mass%の範囲となるように添加する。
【0040】
本発明では、不純物酸素量の多いケイ素粉末に対しては、窒化ケイ素マグネシウムやケイ化マグネシウム等の酸素を含まないマグネシウム化合物が主体的に、一方、不純物酸素量の少ないケイ素粉末に対しては、酸化マグネシウムが主体的に添加される。マグネシウム源の添加量が1mol%以下であると、緻密化が困難であり、一方、7mol%を越えると、ポスト焼結後にも多量のマグネシウムが残留し、焼結体の熱伝導率を阻害する。
【0041】
同様に、ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量が、ケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%以下であると、緻密化を行うことができず、また、1.8mass%以上であると、粒界相中の酸素量が過多となり、窒化ケイ素粒子に固溶する酸素量が増加し、焼結体の熱伝導率を低下させる。また、窒化反応時のケイ素粉末の融着を防ぐためには、窒化ケイ素粉末をケイ素が完全に窒化した組成に対して、30mass%まで添加することも有効であるが、この場合、窒化ケイ素粉末に含まれる不純物酸素も、上記組成において考慮することが必要である。
【0042】
本発明における酸素を含まないマグネシウム化合物としては、マグネシウムのケイ化物、フッ化物、ホウ化物、窒化物、更にはこれらの三元系化合物を用いることができるが、取り扱いの容易性、プロセス時の安定性、有害物質の発生がないことなどから、窒化ケイ素マグネシウムとケイ化マグネシウムが好適に用いられる、更に、窒化ケイ素マグネシウムとしては、好適には、例えば、MgSi粉末、Si粉末、窒化ケイ素粉末の所定量をMgとSiのモル比が1:1となるように混合し、窒素雰囲気中で1,350℃に加熱し、合成されたもの(特開2003−267709号公報)を解砕して得た粉末が用いられるが、これらに制限されるものではない。
【0043】
上述の組成に基づいて秤量された粉末は、水あるいは有機溶剤を溶媒として用いて、ボールミルや遊星ミルにより通常の方法で混合される。溶媒を除去した後、金型成形、シート成形、静水圧加圧成形(CIP成形)などにより所定の形に成形し、場合によっては、成形に用いた有機バインダーを除去するために、800℃以下の温度で仮焼した後、1200〜1400℃の温度範囲で窒化を行う。更に、この窒化体は、1気圧以上の窒素中で1700℃から1950℃の温度で、ポスト焼結を行い、95%以上の相対密度に緻密化される。
【0044】
ポスト焼結温度が、1700℃以下であると、十分に緻密化を行うことができず、一方、1950℃以上の場合は、過度の粒成長が生じ、強度が著しく低下するので、ポスト焼結は、1700℃から1950℃、望ましくは1750℃から1900℃で行うことが好ましい。また、本発明において、130W/mK以上の熱伝導率を達成させるためには、上記のポスト焼結条件下で保持時間を調整し、あるいは緻密化の後に、1700℃以下の温度、1気圧以下の非酸化雰囲気中で熱処理し、Mg元素の量を酸化物に換算して、0.2mass%以下に揮散させることが必要、且つ重要である。
【発明の効果】
【0045】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、反応焼結の手法を利用して合成した、高い信頼性を有する高熱伝導窒化ケイ素セラミックス及びその安価な製造方法を提供することができる。
(2)本発明は、多くの不純物酸素を含む低品位のSi原料粉末から不純物酸素量の少ない高品位なSi粉末まで、多様なSi原料粉末を出発原料として用いることができる、窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供することができる。
(3)本発明により、600MPa以上の強度、7MPam1/2以上の破壊靭性、及び100W/mK以上の熱伝導率を共生する窒化ケイ素焼結体の製造方法及びその製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に、比較例及び実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の事例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
比較例1−1〜1−6
(窒化ケイ素粉末を出発原料とした通常の焼結方法:表1参照)
平均粒径0.2μmの窒化ケイ素粉末(不純物酸素量1.3mass%)に、2mol%の酸化イッテリビウムあるいは2mol%の酸化イットリウム及び5mol%の酸化マグネシウムを添加し、メタノールを分散媒とし、窒化ケイ素ポットと窒化ケイ素ボールを用いて、2時間遊星ミル混合を行った。エバポレータを用いてメタノールを蒸発させ、得られた粉末を45×50×5mmの形状に金型を用いて成形し、更に、3ton/cmの圧力でCIP成形した。
【0048】
成形体を窒化ホウ素(BN)製ルツボに設置し、9気圧の加圧窒素中、1850℃で12時間、24時間あるいは48時間焼結を行った。焼結体の表面を研削し、3×4×40mmの形状の試料を切り出し、JIS−R1601の3点曲げ強度測定、JIS−R1607の予き裂導入破壊靱性測定を行った。更に、厚さ約2mmの円盤状試験片を作製し、レーザーフラッシュ法を用いて熱伝導率を測定した。
【0049】
表1の1−1〜1−6に、この様にして得られた焼結体の熱伝導率、強度、及び破壊靱性の値をまとめて示す。窒化ケイ素粉末と酸化物系助剤を用いた通常の焼結手法では、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、7MPam1/2以上の破壊靱性を共生させた焼結体を得ることはできないことが分かった。また、焼結時間を長くした試料では、幾分の熱伝導率の向上が見られるが、強度、及び破壊靭性の急激な低下を伴うことが分かった。
【0050】
比較例1−7及び1−8
(窒化ケイ素粉末を出発原料とした通常の焼結方法:表1参照)
粒子径150μmのケイ化マグネシウム粉末、粒子径10μmのケイ素粉末、純度99%、粒子径1μmの窒化ケイ素粉末を、それぞれ重量比で64.6%、5.9%、29.5%となるように秤量し、メノウ乳鉢を用いて混合した。高純度窒化ホウ素(BN)ルツボに充填した混合粉末をアルミナ製管状炉に設置し、窒素気流中で〜1350℃に加熱し、1時間保持した後、炉内で室温まで冷却し、窒化ケイ素マグネシウム粉末を合成した。
【0051】
平均粒径0.2μmの窒化ケイ素粉末(不純物酸素量1.3mass%)に、2mol%の酸化イットリウム及び上記手法で合成した窒化ケイ素マグネシウムの5mo%を添加し、メタノールを分散媒として、窒化ケイ素ポットと窒化ケイ素ボールを用いて、2時間遊星ミル混合を行った。エバポレータを用いてメタノールを蒸発させ、得られた粉末を45×50×5mmの形状に金型を用いて成形し、更に、3ton/cmの圧力でCIP成形した。
【0052】
成形体を窒化ホウ素(BN)製ルツボに設置し、9気圧の加圧窒素中、1850℃で12時間あるいは48時間焼結を行った。焼結体の表面を研削し、3×4×40mmの形状の試料を切り出し、JIS−R1601の3点曲げ強度測定、JIS−R1607の予き裂導入破壊靱性測定を行った。更に、厚さ約2mmの円盤状試験片を作製し、レーザーフラッシュ法を用いて熱伝導率を測定した。
【0053】
表1の1−7及び1−8に、この様にして得られた焼結体の熱伝導率、強度、及び破壊靱性の値をまとめて示す。酸化マグネシウムを用いた場合に比べて、熱伝導率などの諸特性は幾分向上するものの、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、7MPam1/2以上の破壊靱性を全て兼ね備えた焼結体を得ることはできないことが分かった。また、焼結時間を長くした1−8の試料では、比較例1−1〜1−6の場合と同様に、強度、及び破壊靭性の急激な低下を伴うことが分かった。
【0054】
【表1】

【実施例1】
【0055】
ケイ素粉末として、平均粒径10μm、不純物酸素量0.16mass%の粉末(粉末A)、平均粒径7μm、不純物酸素量0.61mass%の粉末(粉末B)、平均粒径1μm、不純物酸素量1.75mass%の粉末(粉末C)、平均粒径0.9μm、不純物酸素量2.6mass%の粉末(粉末D)を使用し、マグネシウム化合物として、平均粒径0.1μmの酸化マグネシウム及び比較例1−7及び1−8に記載の方法で合成した窒化ケイ素マグネシウム粉末(平均粒径0.5μm)あるいは平均粒径10μmのケイ化マグネシウム粉末を使用した。また、希土類酸化物として、平均粒径1.5μmの酸化イットリウム及び平均粒径1.2μmの酸化イッテリビウムを使用し、窒化ケイ素として、平均粒径0.2μm、不純物酸素量1.3mass%の粉末を使用した。なお、ケイ素粉末及び窒化ケイ素粉末中の不純物酸素は、窒素・酸素同時分析装置を用いて測定した。
【0056】
上記の原料粉末を表2に示す組成となるように秤量し、メタノールを分散媒として、窒化ケイ素ポットと窒化ケイ素ボールを用いて、2時間遊星ミル混合を行った。なお、表中の試料番号に*を付記したものは、本発明の範囲外であることを示す。エバポレータを用いてメタノールを蒸発させ、得られた粉末を45×50×5mmの形状に金型を用いて成形し、更に、3ton/cmの圧力でCIP成形した。次に、反応焼結として、成形体を窒化ホウ素(BN)製ルツボに設置し、1気圧の窒素中1400℃で4時間加熱し、窒化処理を行った。いずれの成形体も、X線回折では残留Siは認められなかった。
【0057】
【表2】

【0058】
次いで、ポスト焼結として、窒化体を9気圧の加圧窒素中、1850℃で6時間、12時間あるいは48時間焼結を行った。焼結体の表面を研削し、3×4×40mmの形状の試料を切り出し、JIS−R1601の3点曲げ強度測定、JIS−R1607の予き裂導入破壊靱性測定を行った。更に、厚さ約2mmの円盤状試験片を作製し、レーザーフラッシュ法を用いて熱伝導率を測定した。また、作製した一部の焼結体については、ICP分析により、焼結体中に残留するマグネシウムの定量分析を行った。表3に、この様にして得られた焼結体のMg量、相対密度、熱伝導率、強度、及び破壊靱性の値をまとめて示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表2と表3の値から明らかなように、希土類元素の酸化物を0.5mol%から7mol%、更に、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%をケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%から1.8mass%の範囲となるように添加した場合において、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性が7MPam1/2以上の優れた特性を有する窒化ケイ素焼結体を得ることができることが分かった。
【0061】
更に、ポスト焼結時間を長くし、残留マグネシウム量を酸化物に換算して0.2mass%以下とすることで、熱伝導率が130W/mK以上、3点曲げ強度が600MPa以上、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性値が7MPam1/2以上の特性を有する窒化ケイ素焼結体を製造することが可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上詳述したように、本発明は、高い信頼性を持つ高熱伝導窒化ケイ素セラミックス及びその製造方法に係るものであり、本発明により、反応焼結の手法を利用して合成した高熱伝導窒化ケイ素セラミックス及びその安価な製造方法を提供することができる。また、本発明は、多くの不純物酸素を含む低品位のSi原料粉末から不純物酸素量の少ない高品位なSi粉末まで、多様なSi原料粉末を出発原料として用いることができる、窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供することができる。また、本発明により、600MPa以上の強度、7MPam1/2以上の破壊靭性、及び100W/mK以上の熱伝導率を共生する窒化ケイ素焼結体の製造方法及び該方法で合成した上記特性を有する高信頼性の高熱伝導窒化ケイ素焼結体及びその応用製品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素粉末の反応焼結を利用した窒化ケイ素焼結体の製造方法において、(1)ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、希土類酸化物とマグネシウム化合物を同時に添加する、(2)ケイ素粉末の不純物酸素とマグネシウム化合物に含まれる酸素の総量を同時に制御する、(3)それにより、高熱伝導、高強度、高靭性を共生させた窒化ケイ素焼結体を製造する、ことを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
ケイ素粉末あるいはケイ素粉末と窒化ケイ素粉末の混合粉末に、ケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、希土類元素の酸化物を0.5mol%から7mol%、更に、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.1mass%から1.8mass%の範囲となるように添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記混合物の成形体を1200〜1400℃の温度範囲で窒化し、得られた窒化体を1気圧以上の窒素中で1700℃から1950℃の温度で加熱し、窒化体を95%以上の相対密度に緻密化する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)あるいは窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)あるいはケイ化マグネシウム(MgSi)あるいはこれらの混合物の1mol%から7mol%を、ケイ素及び窒化ケイ素に含まれる不純物酸素並びにマグネシウム化合物からの酸素の総量がケイ素を窒化ケイ素に換算した際の比率において、0.3mass%から1.5mass%の範囲となるように添加する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記混合物の成形体を1200〜1400℃の温度範囲で窒化し、得られた窒化体を1気圧以上の窒素中で1700℃から1950℃の温度で加熱し、窒化体を95%以上の相対密度に緻密化するとともに、焼結体中のMg元素の量を酸化物に換算して0.2mass%以下に揮散させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
熱伝導率が130W/mK以上、3点曲げ強度が600MPa以上、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性値が7MPam1/2以上の特性を有する窒化ケイ素焼結体を製造する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ケイ素粉末の反応焼結を利用して合成した反応焼結窒化ケイ素焼結体であって、β相窒化ケイ素を主成分とし、Y、Yb、Nd、Smの少なくとも一種を酸化物に換算して0.5〜7mol%含有し、Mgの存在量が酸化物に換算して2mol%以下であり、100W/mK以上の熱伝導率、600MPa以上の3点曲げ強度、及び予き裂導入破壊試験法で測定した破壊靱性が7MPam1/2以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項8】
請求項7に記載の反応焼結窒化ケイ素焼結体から構成される、高熱伝導性、高強度及び高破壊靭性の特性を合わせ持つことを特徴とする窒化ケイ素製品。

【公開番号】特開2007−197226(P2007−197226A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14576(P2006−14576)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】