説明

高分子成形体および自動車用ウェザーストリップ

【課題】高分子成形体の滑性,耐貼り付き性等を高め、高分子成形体の機能を十分に発揮させる高分子成形体及び自動車用ウェザーストリップを提供する。
【解決手段】押出し成形加硫して得られる高分子成形体の当接部位のみの少なくとも表面側において、少なくとも、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体100phr,算術平均粒径60nm以上のカーボンブラック50phr超〜120phr,軟化剤100phr以下,熱膨張マイクロカプセルを配合して成る高分子材料組成物を用いる。この高分子材料組成物により、高分子成形体の当接部位の表面に対し熱膨張由来凹凸面10bが形成されると共に、その熱膨張由来凹凸面10bに対してカーボン由来粗面10aが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子成形体および自動車用ウェザーストリップに関するものであって、例えば自動車用の車体パネル,ドアパネル,フロントフードパネル,トランクリッドパネル等の隙間をシールするために適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料等の高分子材料が配合された高分子材料組成物から成る加硫成形体(以下、高分子成形体と称する)は、種々の用途に適用されており、その用途に応じた特性を満たすことができるように研究開発されている。
【0003】
例えば、ウェザーストリップに適用される高分子成形体の軽量化を図る技術として、熱膨張マイクロカプセル(以下、熱膨張カプセルと称する)を配合した高分子材料組成物を用い、その組成物の加硫時に該熱膨張カプセルを熱膨張(微発泡化)させる手段が知られており、前記の高分子成形体の比重を低くすると共に十分な硬度を得る試みがなされている(例えば、特許文献1等)。
【特許文献1】特開平6−183305号公報(段落[0004]〜[0006],図1等)。
【0004】
前記の高分子成形体は、その高分子成形体が組み付けられる対象(以下、被適用対象と称する;例えば、自動車用ウェザーストリップの場合には車体パネル,ドアパネル,フロントフードパネル,トランクリッドパネル等)に応じて、他の部材等(以下、当接対象と称する)に対して当接(圧接,摺接等)する部位(以下、当接部位と称する)がある。
【0005】
例えば、自動車のパネル間等の隙間をシールするために組み付けられる自動車用ウェザーストリップ(図9中では符号92)は、図9A(自動車概略図),B(リア側ドアのX−X断面図),C(動作例概略図)の一例に示すように、開閉自在なドア(ドアパネル)91の周縁部等に適用されるものであり、ドア91の取付用レール部91aに固定(挿入固定)される取付基部93と、該取付基部93に支持され車体(車体パネル)90の開口縁部94の内側シール面94aに当接しオープニング間隙M1を閉塞する中空状の主シール部93aと、該開口縁部94の外側シール面94bに当接しオープニング間隙M2を閉塞するリップ状シール部93bと、から構成される。このように構成されたウェザーストリップ92の場合、主シール部93aおよびリップ状シール部93bそれぞれの一部(例えば、リップ状シール部93bの先端部)が、当接部位に相当する。また、開口縁部94の内側シール面94a,外側シール面94bがそれぞれ当接対象に相当する。
【0006】
すなわち、前記のドア91を開状態から閉状態へ移行する場合(図9Bに示すような場合)、主シール部93aは、該主シール部93aの一部が車体90側における開口縁部94の内側シール面94aに当接(圧接)し、弾性変形した状態となる。また、リップ状シール部93bは、該リップ状シール部93bの一部(先端部)が開口縁部94の外側シール面94bに当接(該リップ状シール部93bの先端が摺接)し、弾性変形(撓曲)した状態(外側シール面94bに沿って摺接し面接触した状態)となる。
【0007】
前記の主シール部93a,リップ状シール部93bのようにドアの開閉により当接が繰り返されるシール部の当接部位では、滑性(例えば、主シール部93aではドア開閉時に当接部位の当接する相手パネルとの摺動抵抗に影響を受け過度に変形しても(図9(B)の一点鎖線で示す状態)ドア閉じ完了時の撓み変形形状が所望の形状となるような適度の滑り特性、またリップ状シール部93bではドア閉時のまくれ込み(図9(B)の一点鎖線で示す状態)が発生しない滑り特性、さらに車輌走行時の車体の剛性変形に伴う車体パネル捩れによるこすれ音(低級音)の発生を防止する滑り特性)や、両シール部93a,93bに共通する当接対象(車体パネル)との耐貼り付き性等が要求される。
【0008】
前記の滑性や耐貼り付き性が十分でない場合、ドア閉時例えば図9Bに示すように、主シール部93aが実線で示すような所望の撓み形状とならず、一例として一点鎖線で示すような撓み形状となってしまい、その結果狙いとするシール性能が得られずシール機能が悪化する不具合が発生する恐れがある。
【0009】
また、ドア閉完了状態に移行する前にドアがロック位置よりもさらに車内側に引き込まれることから、ドア閉完了時(ロック完了時)においては、リップ状シール部93bの先端の当接部位は車外側に僅かに戻される。このとき、該当接部位に滑性がないと、リップ状シール部93bの先端においてウェザーストリップの長手方向の一部が一点鎖線で示す位置で固定されてしまう所謂まくれ込み状態となってしまい、該長手方向の滑性が一定でない場合(該長手方向の一部に滑性が無い場合)には波打ち状態(実線部分と一点鎖線で示す部分とが混在した状態)となり、車外側からの見栄えが悪化してしまう。
【0010】
さらに、ドア91の開閉時(例えば、図9Cの白抜矢印で示すように開状態に移行する時)に、主シール部93aと内側シール面94aとが貼り付いていたり、前記ドア閉時にまくれ込んだリップ状シール部93bにおいて反転現象(例えば、図9Cの一点鎖線で示すように逆方向に反った形状となる現象)が生じ、この結果反転したリップ状シール部93bが内側シール面94aから離れるときにこすれ音が発生する恐れもある。
【0011】
さらにまた、車輌走行時の車体の剛性変形に伴う車体パネル捩れにより、主シール部93aの当接部位と内側シール面94a、リップ状シール部93bの先端の当接部位と外側シール面94bとのこすれ音(低級音)が発生してしまう。
【0012】
前記の前記の滑性や耐貼り付き性等を付与する手法としては、例えば該当接部位等に表面処理剤を塗布して被膜(以下、塗膜と称する)を形成したり、ブリードアウト材(滑材を含有するブリードアウト材)から成る皮膜(以下、ブリード皮膜と称する)を同時押出し成形する等の手法が採られている(例えば、特許文献2,3等)。
【特許文献2】特開2000−313234号公報。
【特許文献3】特開平5−262186号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記のように当接部位に対して塗膜を形成する場合には、その塗布条件(例えば、塗布する際の表面処理剤の温度,粘度等や、被塗布対象である高分子成形体の温度等)や被塗布対象の形状(例えば、塗布し難い複雑な形状)に応じて塗布斑が生じたり(例えば、表面処理剤が均一に塗布されず塗布斑が生じたり)、その塗膜の厚さが不十分になる恐れがあった。また、塗膜の耐久性が十分でないため、例えば時間経過と共に滑性や耐貼り付き性等が低下する恐れがあり、さらに表面処理を施す設備が複雑となり管理にも工数を要する等の問題があった。
【0014】
ブリード皮膜を同時押出し成形する場合においても、該ブリード皮膜の耐久性が十分ではなく、例えば時間経過と共に滑性や耐貼り付き性等が低下する恐れがあった。
【0015】
このため、前記のような塗膜や滑材を含有するブリード皮膜等によらず、十分な滑性や耐貼り付き性等を付与できる新たな技術の研究開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記課題の解決を図るために、請求項1記載の発明は、高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体であって、前記の高分子成形体の被適用対象の隙間をシールするシール部における当接部位のみの少なくとも表面側(当接対象と当接する側)は、少なくとも、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体を100phrと、算術平均粒径60nm以上のカーボンブラックを50phr超〜120phrと、軟化剤を100phr以下と、熱膨張マイクロカプセルと、を配合した高分子材料組成物から成り、前記の当接部位の表面に熱膨張由来凹凸面が形成されると共に、その熱膨張由来凹凸面の表面にカーボン由来粗面が形成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記の当接部位の少なくとも表面側の高分子材料組成物は、シリコーン化合物を30phr以下配合したことを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る自動車用ウェザーストリップであって、前記のウェザーストリップの被適用対象(例えば、車体パネル,ドアパネル,フロントフードパネル,トランクリッドパネル等)の隙間をシールするシール部における当接部位のみの少なくとも表面側は、少なくとも、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体を100phrと、算術平均粒径60nm以上のカーボンブラックを50phr超〜120phrと、軟化剤を100phr以下と、熱膨張マイクロカプセルと、を配合した高分子材料組成物から成り、前記の当接部位の表面に熱膨張由来凹凸面が形成されると共に、その熱膨張由来凹凸面の表面にカーボン由来粗面が形成されたことを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記の当接部位の少なくとも表面側の高分子材料組成物は、シリコーン化合物を30phr以下配合したことを特徴とする。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項3または4記載の発明において、前記シール部は、前記の被適用対象における当接対象(例えば、後述の図2では外側シール面94b)に摺接してシールするリップ状のシール部であることを特徴とする。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項3または4記載の発明において、前記シール部は、前記の被適用対象における当接対象(例えば、後述の図2では内側シール面94a)に圧接してシールする中空状のシール部であることを特徴とする。
【0022】
請求項1〜6記載の発明によれば、加硫時に前記の熱膨張マイクロカプセルが膨張するため、当接部位の表面には熱膨張カプセルの配合量,熱膨張度合いに応じた形状の熱膨張由来凹凸面が形成される。また、算術平均粒径60nm以上のカーボンブラック50phr超〜120phr配合したことにより、当接部位において局所的にエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体成分の多い部分が形成され、その部分で収縮等を起こすため、前記の熱膨張由来凹凸面にはカーボンブラックの粒径,配合量等に応じた表面粗度のカーボン由来粗面が形成される。これにより、前記の当接部位の表面における接触面積(当接対象に対する接触面積)は小さくなり、当接部位の表面の摩擦抵抗(当接対象に対する摩擦抵抗)が小さくなる。
【0023】
前記のエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体,カーボンブラック,軟化剤,熱膨張マイクロカプセル,シリコーン化合物の配合量は、それぞれの配合量は目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度とすることが好ましい。
【0024】
例えば、前記のエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体,カーボンブラック,軟化剤の配合量において、前記に示す範囲外では、高分子材料組成物の加工性や高分子成形体の特性(滑性,耐貼り付き性等)が低下する可能性がある。
【0025】
請求項2,4記載の発明によれば、シリコーン化合物の配合量に応じて、当接部位の表面の摩擦抵抗(当接対象に対する摩擦抵抗)がより小さくなる。
【0026】
ただし、前記のシリコーン化合物が過剰に配合されている場合、前記の高分子成形体を被適用対象に溶融接着(例えば、熱可塑性エラストマーとの溶融接着や、ゴム部材と射出成形等する際の溶融接着)することが困難になる可能性がある。
【0027】
また、請求項3〜6記載の発明によれば、自動車用ウェザーストリップのシール部(請求項5記載の発明はリップ状のシール部を含み、請求項6記載の発明は中空状のシール部を含む)の当接部位の表面における接触面積が小さくなる。
【0028】
なお、前記の各材料の他に、例えば一般的な押出し成形加硫による高分子成形体の技術分野で扱われている各種材料を適宜配合しても良いが、それぞれの配合量は目的とする高分子成形体の特性を損わない程度とすることが好ましい。
【0029】
例えば、加硫剤,加硫促進剤,加硫促進助剤等を用いる場合、それらの配合量が少なすぎると加硫進行が緩慢となり、該配合量が多すぎるとブルーム現象等を引き起こす可能性がある。
【発明の効果】
【0030】
以上示したように請求項1記載の発明によれば、高分子成形体の当接部位の表面と当接対象との接触面積が小さくなるため、例えば表面処理剤の塗布等を行わなくとも、該高分子成形体の当接部位にて滑性,耐貼り付き性等が得られ、該当接部位と当接対象との間の貼り付きまたは反転現象等の問題が起こり得る場合には、該問題が防止または抑制される。
【0031】
請求項2記載の発明では、前記の高分子成形体における滑性,耐貼り付き性等がより良好となり、該当接部位と当接対象との間の貼り付きまたは反転現象等の問題がより防止または抑制される。
【0032】
請求項3記載の発明では、ウェザーストリップにおける当接部位と当接対象との接触面積が小さくなるため、例えば表面処理剤の塗布等を行わなくとも、該ウェザーストリップにおける当接部位にて滑性,耐貼り付き性等が得られ、該当接部位と当接対象との間の貼り付きまたは反転現象等の問題が防止または抑制される。これにより、ウェザーストリップに要求される機能を十分に発揮できる。
【0033】
また、請求項4記載の発明では、前記のウェザーストリップにおける滑性,耐貼り付き性等がより良好となり、前記の貼り付きまたは反転現象等の問題がより防止または抑制される。
【0034】
請求項5記載の発明では少なくともリップ状のシール部の当接部位、請求項6記載の発明では少なくとも中空状のシール部の当接部位にて、それぞれ前記の滑性,耐貼り付き性等が得られ、該当接部位と当接対象との間の貼り付きまたは反転現象等の問題が防止または抑制される。
【0035】
また、請求項1〜6記載の発明に亘る効果として、シール部材、例えば、自動車のパネル間等の隙間をシールするために組み付けられる自動車のウェザーストリップにおいては、背景技術に記載したように、ドアが閉じられたときの所望の撓み形状が想定されており、その撓み形状で発生する反力がドアの閉じ性(閉力)に影響を及ぼす。
【0036】
そのため、請求項1〜6記載の発明において、ウェザーストリップの当接部位には各請求項に記載された高分子材料を用い、他の部位については従来通りの高分子材料を用いることにより、前記撓み形状および反力の再設定をする必要がなく簡単に耐貼り付き性,滑性を高分子成形体および自動車用ウェザーストリップに付与できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本実施の形態における高分子材料組成物,高分子成形体,自動車用ウェザーストリップの一例を図面等に基づいて詳細に説明する。
【0038】
本実施の形態は、ゴム材料(例えば、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体)等の高分子材料を配合した高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体(自動車用ウェザーストリップ等)に係るものであり、該高分子成形体の当接部位の少なくとも表面側において、少なくとも前記の高分子材料,カーボンブラック,軟化剤,熱膨張カプセルをそれぞれ所定量配合した高分子材料組成物を用い、前記のカーボンブラックには比較的粒径の大きいものを少量(一般的な押出し成形加硫による高分子成形体の技術分野で扱われている量(例えば、140phr以上)よりも少量)用いるものであり、前記当接部位以外の他の部位については、その当接部位に使用されるゴム材料(本実施例ではエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体)と同種の従来通りの高分子材料であればよく、当接部位と他の部位とは公知の多重同時押出工法により押出し成形加硫される。
【0039】
従来のように塗膜や滑材を含有するブリード皮膜等を用いる必要がないため、それら塗膜やブリード皮膜等に起因する例えば生産性(加工性,製品歩留まり等)の低下や耐久性の低下等を考慮する必要がなくなる。
【0040】
一般的な押出し成形加硫においては、高分子材料組成物を押出し成形機のダイから吐出した後、その吐出物(押出し成形物)をフリーな状態(型成形とは異なり、吐出物に対する圧力が殆どかからない状態)にて架橋反応させることにより、目的とする高分子成形体を得るものである。したがって、例えば一般的な高分子成形体として、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体に平均粒径60nm未満のカーボンブラックを配合した場合、または、60nm以上であっても120phrより多く配合した場合には、その高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体は、図1Aの構造モデル図に示すように該高分子成形体(図中では符号10)の表面は比較的平坦なものとなる。
【0041】
また、前記エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体に平均粒径60nm以上のカーボンブラックが120phr以下配合された高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体の場合には、図1B,図1C(図1Bの部分拡大図)の構造モデル図に示すように高分子成形体の表面に対して表面粗度の小さいカーボン由来粗面10aが形成される。これは、粒径の大きなカーボンブラックの配合量が比較的少量であるため、前記の高分子成形体内において局所的にエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体成分の多い部分が形成され、その部分で収縮等を起こし易くなるためと考えられる。
【0042】
ここで、前記エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体に対し背景技術の欄に記載した熱膨張カプセルが配合された高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体の場合には、図1Dの構造モデル図に示すように高分子成形体の表面に対し熱膨張カプセル10cの熱膨張によりカプセルの高分子成形体の外側の殻壁(詳細説明後出)が破壊焼失した形状の熱膨張由来凹凸面10bが形成される。なお、前記の熱膨張カプセル10cの替わりに有機発泡剤等が配合された高分子材料組成物を押出し成形加硫した場合、高分子成形体の表面には先に皮膜が形成され、大きく皮膜表面が粗くなる。ただし、前記のように大きく粗くなるのみであれば、本発明の課題である滑性,耐貼り付き性を達成することはできない。
【0043】
一方、本実施の形態に基づいて、前記エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体に対し平均粒径60nm以上のカーボンブラックが120phr以下配合されると共に、熱膨張カプセルが配合された高分子材料組成物を用い、その高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体の場合には、図1Eの構造モデル図に示すように高分子成形体の表面に対し熱膨張由来凹凸面10bが形成されると共に、その熱膨張由来凹凸面10bに対してカーボン由来粗面10aが形成される。
【0044】
本実施の形態の高分子材料組成物から成る成形体においては、以下に示すようなエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体,カーボンブラック,軟化剤,熱膨張カプセルだけでなく、例えば使用目的に応じて発泡剤,シリコーン化合物,加硫剤,加硫促進助剤,加硫促進助剤,加工助剤,無機充填剤等の各種添加剤が適宜配合されたものであっても良い。
【0045】
[エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体]
エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体のα‐オレフィンとしては、例えばプロピレン、1‐ブテン、1‐ペンテン、1‐ヘキセン、4‐メチル‐1‐ペンテン、1‐オクテン、1‐デセン等が挙げられ、好ましくはプロピレンとする。もちろん、前記のα‐オレフィン群のなかから複数のものを選択し、例えばプロピレンと1‐ブテンの如く組み合わせて使用しても良い。
【0046】
また、ポリエン共重合体が5‐エチリデン‐2‐ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5‐ビニル‐2‐ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルテトラヒドロインデン等の環状の非共役ポリエンであるものや、1,4ヘキサジエン、7‐メチル‐1,6‐オクタジエン、4‐エチリデン‐8‐メチル‐1,7‐ノナジエン、4‐エチリデン‐1,7ウンデカジエン、4,8‐ジメチル‐1,4,8‐デカトリエン等の鎖状の非共役ポリエンであるものが挙げられる。これら各非共役ポリエンは、単独、または2種類以上組み合わせたものでも良く、その構成単位(エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体における非共役ポリエンの含有比率)は例えば1wt%〜20wt%とし、好ましくは1wt%〜15wt%、より好ましくは5wt%〜11wt%である。このようなエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体としては、例えばDSM・Elastomers社製のKeltan7341Aを適用することができる。
【0047】
[カーボンブラック]
前記のカーボンブラックには、例えば高分子成形体の技術分野で適用されているもので、平均粒径(算術平均粒径)60nm以上、好ましくは70nm〜90nmのものを用いる。また、このカーボンブラックの配合量は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度で適宜設定すれば良いが、例えば少な過ぎたりすると(例えば50phr以下)混練加工が困難になる恐れがあるため、好ましくは50phr超〜120phr以下、より好ましくは60phr以上〜120phr以下とする。このようなカーボンブラックとしては、例えば旭カーボン社製の旭カーボンブラック・旭♯50や旭カーボンブラック・旭♯55において算術平均粒径60nm以上のロットを選定して適用することができる。
【0048】
[熱膨張カプセル]
前記の熱膨張カプセルには、例えば加熱により気体を発生し得る液体(例えば、低沸点の炭化水素,塩素化炭化水素)を熱可塑性樹脂の殻壁(例えば、球状の殻壁)内に充填したもの(熱膨張性の熱可塑性樹脂粒子)で、真比重0.1以下,粒径(メディアン径)5μm〜100μmであって、その液体が膨張開始温度(例えば、100℃〜200℃)以上の温度の加熱(例えば、加硫温度での加熱)により膨張し、目的とする高分子成形体内にて例えば30μm〜300μmの熱膨張セルを形成する液体封入熱可塑性樹脂粒子が挙げられる。
【0049】
前記の熱膨張カプセルの殻壁を構成する熱可塑性樹脂の成分として、好ましくは(メタ)アクリルニトリル重合体や、(メタ)アクリルニトリルを多く含有する重合体が挙げられ、それら重合体に対するモノマー(いわゆる相手側のモノマー;コモノマー)として、ハロゲン化ビニル,ハロゲン化ビニリデン,スチレン系モノマー,(メタ)アクリレート系モノマー,酢酸ビニル,ブタジエン,ビニルピリジン,クロロプレン等のモノマーが挙げられる。
【0050】
なお、前記の殻壁は、未架橋であることが好ましいが、例えば一般的なジビルベンゼン,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の架橋剤により架橋されたものであっても良い。また、熱膨張カプセル内に充填される液体としては、例えばn‐ペンタン,イソペンタン,ネオペンタン,ブタン,イソブタン,ヘキサン,石油エーテル等の炭化水素類や、塩化メチル,ジクロロエチレン,トリクロロエタン,トリクロルエチレン等の塩素化炭化水素類が挙げられる。
【0051】
熱膨張カプセルとしては、大日精化工業社製のダイフォームH750Dの他、同シリーズであるH770D,H850D,M430を好適に使用することができる。また、例えば、松本油脂社製のマツモトマイクロスフェアーF85D,F100Dや、スウェーデン国・エクスパンセル社製のEXPANCEL091DU−80,092DU−120等を適用することもできる。熱膨張カプセルの配合量は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度で適宜設定すれば良く、例えば後述の実施例のように2phr〜20phrとする。
【0052】
このような熱膨張カプセルをエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体等の高分子材料に添加する場合、その熱膨張カプセルの飛散の防止や分散性の向上を図るために、あらかじめ他の使用材料(例えば、高分子弾性体.熱可塑性樹脂,軟化剤,無機充填材等の何れか、または複数のもの)と混合してから用いても良い。熱膨張カプセルを予め他の使用材料と混合してから用いる場合には、該発泡剤の混合比率を10wt%〜99wt%、好ましくは10wt%〜50wt%に調整する。また、前記のような熱膨張カプセルは何れか1種類を用いても良く、複数の種類のものを組み合わせて用いても良い。
【0053】
[軟化剤]
前記の軟化剤としては、例えばプロセスオイル,パラフィン系オイル,潤滑油,流動パラフィン,石油アスファルト,ワセリン等の石油系軟化剤や、コールタール,コールタールピッチ等のコールタール系軟化剤や、ヒマシ油,アマニ油,ナタネ油,ヤシ油等の脂肪油系軟化剤が挙げられる。これら各軟化剤のうち、好ましくは石油系軟化剤が挙げられ、より好ましくはパラフィン系オイルが挙げられる。また、前記のような軟化剤は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度の配合量で用い、例えば100phr以下とする。
【0054】
[発泡剤]
前記の発泡剤としては、例えば4,4‐オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド(OBSH)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、パラトルエンスルホニルヒドラジド(TSH)、ヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)、バリウムアゾカルボキシレート等が挙げられる。
【0055】
なお、前記の発泡剤は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度(例えば、0〜10phr)に用いる。また、前記の発泡剤と共に、尿素系誘導体,サリチル酸,フタル酸,ステアリン酸等の発泡助剤を用いても良い。
【0056】
[シリコーン化合物]
前記のシリコーン化合物としては、シリコーンゲル系,シリコーンオイル系,シリコーンパウダー系,シリコーン含有ポリマー系,シリコーングラフトポリマー系のものやシリコーン含有有機樹脂等が挙げられ(例えば、信越化学社製のKE76BS,KF99,KF96や、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のE500,E600,BY27シリーズ(好ましくは、BY27−001,BY27−002,BY27−201,BY27−201C,BY27−202,SP−300,SP−310)等)、その他一般的に販売されているシリコーン化合物であっても好適に用いることができる。
【0057】
前記のようなシリコーン化合物は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度の配合量(例えば、0〜30phr)で用いる。また、前記の各シリコーン化合物は、何れか1種類を用いても良く、複数の種類のものを組み合わせて用いても良い。
【0058】
[加硫剤]
前記の加硫剤としては、硫黄が挙げられ、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度の配合量で用い、好ましくは0.5phr〜2phr程度とする。
【0059】
[加硫促進剤]
前記の加硫促進剤としては、チアゾール系,チウラム系,スルフェンアミド系,グアニジン系,チオウレア系,ジチオカルバミン酸系のものが挙げられ、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度の配合量で用い、好ましくは2phr〜8phr程度とする。
【0060】
[加硫促進助剤]
前記の加硫促進助剤としては、酸化亜鉛(亜鉛華),炭酸亜鉛,酸化マグネシウム,水酸化カルシウム,一酸化亜鉛等が挙げられ、好ましくは酸化亜鉛,酸化マグネシウムが挙げられる。これら加硫促進助剤は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度の配合量で用い、好ましくは5phr程度とする。
【0061】
[加工助剤]
前記の加工助剤としては、ステアリン酸,リシノール酸,パルミチン酸,ラウリン酸等の高級脂肪酸や、その高級脂肪酸のエステル類や、ステアリン酸等の高級脂肪酸の塩が挙げられ、その他の高分子成形体の技術分野で加工助剤として扱われている化合物を用いても良い。これら加工助剤は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度の配合量で用い、好ましくは5phr程度とし、より好ましくは3phr以下とする。
【0062】
[無機充填剤]
前記の無機充填剤としては、炭酸カルシウム,クレー,シリカ,ケイ酸カルシウム,炭酸マグネシウム,水酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,カオリン,マイカ,ゼオライト等が挙げられ、何れか1種類を用いても良く、複数の種類のものを組み合わせて用いても良い。また、前記のような無機充填剤は、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体の特性を損わない程度の配合量で用い、例えば0〜100phr程度とする。
【0063】
[その他の添加剤]
前記の各種添加剤の他には、脱水剤,酸化防止剤,老化防止剤,熱安定剤,光安定剤,紫外線吸収剤,中和剤,滑剤,防雲剤,アンチブロッキング剤,スリップ剤,分散剤,難燃剤,帯電防止剤,導電性付与剤,粘着付与剤,架橋剤,架橋助剤,金属不活性剤,分子量調整剤,防菌・防黴剤,蛍光増白剤,滑性向上剤,着色剤(酸化チタン等),金属粉末(フェライト等),ガラス繊維,無機繊維(金属繊維等),炭素繊維,有機繊維(アラミド繊維等),複合繊維,ガラスバルーン,ガラスフレーク,グラファイト,カーボンナノチューブ,フラーレン,硫酸バリウム,フッ素樹脂,充填剤ポリオレフィンワックス(ポリマービーズ等),セルロースパウダー,ゴム紛,再生ゴム等が挙げられ、何れか1種類または複数の種類のものを組み合わせ、目的とする高分子材料組成物や高分子成形体に応じて適宜使用して良い。
【0064】
[製法]
前記のエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体,カーボンブラック,軟化剤,熱膨張カプセル,各種添加剤等を混練して目的とする高分子材料組成物を得る場合、例えば接線式ミキサー,噛み合い式ミキサー,ニーダー等の各種密閉式混練機や、混練式の二軸押出成形機やオープンロール等を適宜使用する。また、前記の高分子材料組成物を押出し成形加硫して目的とする高分子成形体を得る場合には、例えば連続熱風加硫槽(HAV),高周波加硫装置(UHF),流動床加硫機(PCM)等を適宜使用することができ、好ましくは連続熱風加硫槽と高周波加硫装置とを組み合わせた構成を使用する。
【0065】
本実施の形態は、熱膨張由来凹凸面に対してカーボン由来粗面を形成するものであるが、これらカーボン由来粗面,熱膨張由来凹凸面は、少なくとも高分子成形体の当接部位表面に形成できれば良い。すなわち、高分子成形体の当接部位以外の部位(以下、非当接部位と称する)においては、本実施の形態の高分子材料組成物以外のもの(一般的な高分子材料組成物)を用いても良い。
【0066】
例えば、当接部位用の高分子材料組成物(本実施の形態の高分子材料組成物)と非当接部位用の高分子材料組成物とを同時押出し成形して得た高分子成形体の場合には、当接部位表面にカーボン由来粗面,熱膨張由来凹凸面が形成され、高分子成形体において十分な滑性や耐貼り付き性等を付与できるることは明らかである。
【0067】
したがって、前記の同時押出し成形においては、例えば自動車用ウェザーストリップの場合は図2A(当接部位全体の場合),B(当接部位の一部の場合),C(取付例概略図)に示すように、本実施の形態の高分子材料組成物を当接部位1a,1b全体に適用(すなわち、当接部位の肉厚方向全体に対し本実施の形態の高分子材料組成物を適用)しても良く、該当接部位1a,1bの一部(図2B中の符号2a,2b等;表面側)のみに本実施の形態の高分子材料組成物を適用(すなわち、当接部位表面に対し本実施の形態の高分子材料組成物による皮膜を形成)しても良い。
【0068】
図2A,Bに示したような自動車ウェザーストリップによれば、図2Cに示すようにドア91に適用した場合、該ドア91の開閉時における該当接部位1a,1b(または符号2a,2b)の反転現象や貼り付きは防止または抑制される。
【実施例】
【0069】
次に、本実施の形態に基づいて種々の高分子材料組成物(後述のゴム配合物S1〜S14(実施例),P1〜P10(比較例))を作製し、それら高分子材料組成物の加工性および高分子成形体(後述の試料GS1〜GS14(実施例),GP1〜GP10(比較例))の物性等を調べた。
【0070】
まず、高分子材料としてエチレン‐プロピレン‐5‐エチリデン‐2‐ノルボルネン(DSM・Elastomers社製のKeltan7341A)を100phr用い、密閉式ミキサーにて素練した。その後、前記の素練物に対し、算術平均粒径が80nm,60nm,45nmのカーボンブラック(以下、それぞれカーボン80nm,60nm,45nmと称する)のうち1種類以上を50phr〜140phr、軟化剤(JOMO社製のプロセスオイルP−300)を80phr〜120phr、シリコーン化合物(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のBY27−002)を0〜40phr加え、所定時間混練した。
【0071】
なお、本実施例においては、前記のカーボン80nm,60nm,45nmとして、旭カーボン社製の旭カーボンブラック・旭♯50,旭♯55,♯60の材料ロットから、それぞれ算術平均粒径80nm,60nm,45nmに該当するものを選定して用いた。また、前記の各種材料の他に、加工助剤としてステアリン酸,ポリエチレングリコールを1phr、無機充填剤として炭酸カルシウムを30phr、加硫促進助剤として活性亜鉛化を3phr加えてから、所定時間混練した。
【0072】
その後、前記の密閉式ミキサーで得た混練物を取り出し、オープンロール機で混練しながら、熱膨張カプセル(大日精化工業社製のダイフォームH750D)を0〜20phr、発泡剤として4,4‐オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド系のものを0〜3.5phr加え(混練物をロールに巻きつけてから加え)、所定時間混合(ブレンド)することにより、後述の表1に示すように種々の組成のゴム配合物(リボン状またはシート状で未加硫のゴム配合物)S1〜S14,P1〜P10を得た。
【0073】
なお、本実施例では、前記の各種材料の他に、加硫剤として硫黄を1phr、加硫促進剤としてチウラム系,チアゾール系,スルフェンアミド系,ジチオカルバミン酸系のものを合わせて5phr加え、所定時間混合した。
【0074】
次に、前記の各ゴム配合物において、それぞれ高分子成形体用の押出成形機を用いて押出成形(後述の図3に示す成形体が得られるような口金形状を有し押出成形機で、スクリュー回転数を調整して押出成形)した後、その押出成形物を連続熱風加硫槽にて加硫(温度200℃,10分間で加硫)することにより、図3に示すように略平板状の基部(厚さ2mm,幅25mmの基部)21に対し横断面略円状のチューブ部(肉厚2mmのチューブ)22が設けられた高分子成形体(高さ20mmの高分子成形体)の試料GS1〜GS14,GP1〜GP10(図中では符号20)をそれぞれ作製した。
【0075】
なお、前記の試料GP4,GP5の表面には、ウレタンポリオール85phr,ポリイソシアネート15phr,ジオルガノシロキサン40phr,硬化性シリコーンオイル40phr,触媒4phr,つや消し剤15phr,溶剤1500phrを配合して成る表面処理剤を塗布し、塗膜を形成したものとする。
【0076】
【表1】

【0077】
前記のように作製した各ゴム配合物の加工性(混練加工性,押出成形性)、および各試料の表面状態(表面粗度),耐貼り付き性(貼付力),滑性(摩擦係数)撥水性(水の接触角)を、それぞれ以下に示す方法により測定し、それら測定結果を後述の表2に示した。なお、後述の表2の総合評価の項目において、記号「◎」,「○」,「×」は、それぞれ自動車用ウェザーストリップ等に高分子成形体として良好に適用できる場合,十分適用できる場合,適用困難な場合を示すものとする。
【0078】
[混練加工性]
前記の各ゴム配合物において、14インチロールを備え各ロール間の距離が5mmに設定されたオープンロール機により混練し、前記の各ロールに対するゴム配合物の巻き付き性を観測した。なお、後述の表2の混練加工性の項目において、記号「◎」はゴム配合物が各ロール間へ容易に浸入し該ロールに密着するように巻き付いた場合を示し、記号「×」はゴム配合物が各ロールに密着せずに垂れ下がったり途中で切断された場合を示すものとする。また、記号「○」はゴム配合物が各ロール間へ浸入し難いが、時間経過と共に該ロールに密着するように巻き付いた場合を示す。
【0079】
[押出成形性]
直径75mmの押出機で、回転数が15rpmに設定された押出成形機により、前記の各ゴム配合物(押出成形時の温度60±5℃に調整されたゴム配合物)において1分間の押出成形を行い、図3に示した形状の高分子成形体(試料20)をそれぞれ得た。
【0080】
この押出成形を各ゴム配合物毎に100回繰り返し、その押出成形毎に押出成形機から吐出された押出成形物(未加硫物)の質量(g)をそれぞれ吐出量として秤量した。そして、各ゴム配合物毎に、吐出量のばらつき(%)を下記(1)式により算出した。
【0081】
吐出量のばらつき(%)=((「最大吐出量」−「最小吐出量」)/平均吐出量)×100 …… (1)
[表面粗度]
前記の試料20を矩形平板状(5mm×100mm×2mm)に打ち抜いて試料片を作製し、その試料片の表面の汚れをアルコールで拭き取った後、表面粗さ計(小坂研究所社製のサーフコーダSE30D)を用いた十点平均法(JIS−B0601に準拠した方法)により該試料片の表面粗度(十点平均粗度)を測定した。なお、前記表面粗さ計の触針には、カーボン由来粗面,熱膨張由来凹凸面をそれぞれ高感度で測定するために、触針先端半径2μm(カーボン由来粗面用),250μm(熱膨張由来凹凸面用)のものを使用した。
【0082】
[耐貼り付き性]
図4A(平面図),B(側面図),C(動作図)に示すように、前記の試料20を矩形平板状(5mm×50mm×2mm)に打ち抜いて2個の試料片30を作製し、それら各試料片30の表面の汚れをアルコールで拭き取った後、矩形平板状(2mm×110mm×70mm)のステンレス板31上に対しそれぞれ60mm隔てて両面接着テープ,接着剤により固定(5mm×50mmの面を固定)した。
【0083】
さらに、前記の各試料片30を覆うように、該試料片30上に矩形平板状(ステンレス板31と同様の形状で、厚さ1.0mm〜1.5mm)の自動車用塗装板(ホワイトカラーメラミン板)32を載置し、その塗装板32上に錘部材33を2個載置して49N(24.5N×2個)の荷重を加えながら(塗装板32における試料片30が位置する部分に荷重を加えながら)、恒温槽中(温度80℃の雰囲気下)にて24時間放置した。
【0084】
そして、前記の錘部材33を取り除き(測定直前に取り除き)、前記のステンレス板31を固定しながら、前記の塗装板32を水平方向(固定された各試料片30の長手方向;図示矢印方向)に対して速度50mm/分で引張ることにより、その塗装板32と試料片30とが完全に剥離した際に生じる最大荷重(単位;N/5cm2)を貼付力として測定した。なお、ここで使用したN/5cm2は、2個の試料片30の総接触面積に対する剥離荷重を数値化するために発明者が規定した単位である。
【0085】
[摩擦係数]
図5に示すように、前記の試料20を矩形平板状(5mm×100mm×2mm)に打ち抜いて試料片40を作製し、その試料片40の表面の汚れをアルコールで拭き取った後、摩擦係数測定機(新東科学製のHEIDON−14D)の支持台(試験台)41上に載置した。そして、0.98Nの荷重を加えR50球面ガラスを構成した錘部材42を前記の試料片40上に載置(R50球面側を載置)し、その錘部材42を水平方向(試料片40の長手方向;図示矢印方向)に対して速度1000mm/分で摺動(試料片40に接触しながら摺動)させることにより、静摩擦係数(μs),動摩擦係数(μd)を測定した。
【0086】
[水の接触角]
図6に示すように、前記の試料20を矩形平板状(5mm×100mm)に打ち抜いて試料片50を作製し、その試料片50の表面の汚れをアルコールで拭き取り水平な指示台52上に載置し、その試料片50表面に対し水1.5mlを垂直に滴下して10秒間放置した後、その滴下された水滴51と試料片50との接触角θを接触角計(協和界面科学社製のFACE・CONTACT−ANGLEMETER・CA−D型)により測定した。
【0087】
【表2】

【0088】
[熱膨張カプセルを含まない比較例]
まず、前記の表2に示すように、カーボン80nm,軟化剤,発泡剤を配合し熱膨張カプセルを配合しないゴム配合物P1〜P5は、それぞれ加工性が良好であった。しかしながら、前記の各ゴム配合物を用いて成る試料のうち、シリコーン化合物を含まないゴム配合物P1,P2を用いた試料GP1,GP2は、たとえカーボン80nmや軟化剤の添加量を調整しても耐貼り付き性,滑性が低くなることを読み取れる。
【0089】
また、ゴム配合物P2と同様の組成でシリコーン化合物を配合したゴム配合物P3を用いた試料GP3は、耐貼り付き性,滑性が低いことを読み取れる。さらに、ゴム配合物P1と同様の組成のゴム配合物P4、P5を用い塗膜を形成した試料GP4(塗膜の厚2μm),GP5(塗膜の厚5μm)は、試料GP5のように前記の塗膜の厚さが十分でなければ耐貼り付き性,滑性が低くなることを読み取れる。
【0090】
[熱膨張カプセルを含む比較例]
ゴム配合物P3と同様の組成で熱膨張カプセルを配合しカーボン80nmの配合量が一般的であるゴム配合物P6は加工性が良好であるが、耐貼り付き性,滑性は低いことが読み取れる。
【0091】
また、前記のゴム配合物P6と同様の組成でカーボン80nmの添加量が極めて少ないゴム配合物P7は加工性が最も悪いものの、該ゴム配合物P7を用いて成る試料GP7の耐貼り付き性,滑性は良好であるが、押出成形性が最も悪いことを読み取れる。
【0092】
[軟化剤の添加量を多くした比較例]
ゴム配合物P6と同様の組成でカーボン80nmの添加量が比較的少なく軟化剤の添加量が比較的多いゴム配合物P8の加工性は良好であるが、該ゴム配合物P8を用いた試料GP8において耐貼り付き性,滑性が低くなることを読み取れる。
【0093】
[カーボンブラックの粒径を調整した比較例]
ゴム配合物P3と同様の組成でカーボン45nmまたはカーボン60nmを配合したゴム配合物P9,P10の加工性は良好であるが、該ゴム配合物P9,P10を用いた試料GP9,GP10において耐貼り付き性,滑性が低くなることを読み取れる。
【0094】
[熱膨張カプセルを含み大きい粒径のカーボンブラックを用いた実施例]
カーボン80nmまたはカーボン60nmを60phr〜120phr,軟化剤80phr〜100phr,熱膨張カプセル2phr〜10phr,シリコーン化合物2phr〜20phr,発泡剤を配合したゴム配合物S1〜S9はそれぞれ加工性が良好であり、該ゴム配合物S1〜S9を用いて成る試料GS1〜GS9は良好な耐貼り付き性,滑性が得られることを読み取れる。
【0095】
また、ゴム配合物S3,S5またはS5と同様の組成でシリコーン化合物または有機発泡剤を配合しないゴム配合物S10〜S12においては、それぞれ加工性が良好であり、該ゴム配合物S10〜S12を用いて成る試料GS10〜GS12は良好な耐貼り付き性,滑性が得られることを読み取れる。
【0096】
さらにまた、ゴム配合物S2と同様の組成でシリコーン化合物40phr配合したゴム配合物S13においては加工性が低下するものの、該ゴム配合物S13を用いて成る試料GS13は良好な耐貼り付き性,滑性が得られることを読み取れる。
【0097】
加えて、ゴム配合物S6と同様の組成で熱膨張カプセルの配合量が比較的多いゴム配合物S14の加工性は良好であり、該ゴム配合物S14を用いた試料GS14において良好な耐貼り付き性,滑性が得られることを読み取れる。
【0098】
ここで、軟化剤,熱膨張カプセルの配合量がそれぞれ80phr,2phrであるゴム配合物を用いた試料GP6,GP7,GS1〜GS3において、表面粗度の測定結果を図7のカーボン80nmの配合量に対する表面粗度特性図に示した。この図7に示す特性図から、前記の各試料GS1〜GS3,GP6,GP7の表面に熱膨張由来凹凸面が形成されると共に、その熱膨張由来凹凸面の表面にカーボン由来粗面が形成され、カーボン80nmの配合量とカーボン由来粗面の粗度には相関があることを判明した。
【0099】
また、軟化剤,カーボン80nmの配合量がそれぞれ80phr,100phrであるゴム配合物を用いた試料GP3,GS2,GS5,GS6,GS14において、表面粗度の測定結果を図8の熱膨張カプセルの配合量に対する表面粗度特性図に示した。この図8に示す特性図から、熱膨張カプセルの配合量と熱膨張由来凹凸面の粗度には相関があることを判明した。
【0100】
なお、前記のゴム配合物S1〜S14と同様に、少なくとも他の高分子弾性体ポリマー,カーボンブラック,軟化剤,熱膨張カプセルを配合したゴム配合物であって、該カーボンブラックの算術平均粒径が60nm以上(例えば、カーボン60nm,80nm)で配合量が50phr超〜120phr,該軟化剤の配合量が100phr以下,熱膨張カプセルの配合量が1phr〜20phrであれば十分な加工性が得られ、そのゴム配合物を用いて成る試料の耐貼り付き性,滑性も良好であったことを確認した。
【0101】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体の構造モデルを示す説明図。
【図2】本実施の形態による自動車用ウェザーストリップの一例を示す概略図。
【図3】実施例で用いた高分子成形体の試料(GS1〜GS14,GP1〜GP10)の概略説明図。
【図4】実施例における耐貼り付き性の測定方法を示す説明図。
【図5】実施例における摩擦係数の測定方法を示す説明図。
【図6】実施例における水の接触角の測定方法を示す説明図。
【図7】実施例におけるカーボン80nmの配合量に対する表面粗度特性図。
【図8】実施例における熱膨張カプセルの配合量に対する表面粗度特性図。
【図9】一般的な自動車用ウェザーストリップの一例を示す概略図。
【符号の説明】
【0103】
1a,1b,2a,2b…当接部位
10…高分子成形体
10a…カーボン由来粗面
10b…熱膨張由来凹凸面
10c…熱膨張カプセル
20…試料
30,40,50…試料片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る高分子成形体であって、
前記の高分子成形体の被適用対象の隙間をシールするシール部における当接部位のみの少なくとも表面側は、
少なくとも、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体を100phrと、算術平均粒径60nm以上のカーボンブラックを50phr超〜120phrと、軟化剤を100phr以下と、熱膨張マイクロカプセルと、を配合した高分子材料組成物から成り、
前記の当接部位の表面に熱膨張由来凹凸面が形成されると共に、その熱膨張由来凹凸面の表面にカーボン由来粗面が形成されたことを特徴とする高分子成形体。
【請求項2】
前記の当接部位の少なくとも表面側の高分子材料組成物は、シリコーン化合物を30phr以下配合したことを特徴とする請求項1記載の高分子成形体。
【請求項3】
高分子材料組成物を押出し成形加硫して成る自動車用ウェザーストリップであって、
前記のウェザーストリップの被適用対象の隙間をシールするシール部における当接部位のみの少なくとも表面側は、
少なくとも、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体を100phrと、算術平均粒径60nm以上のカーボンブラックを50phr超〜120phrと、軟化剤を100phr以下と、熱膨張マイクロカプセルと、を配合した高分子材料組成物から成り、
前記の当接部位の表面に熱膨張由来凹凸面が形成されると共に、その熱膨張由来凹凸面の表面にカーボン由来粗面が形成されたことを特徴とする自動車用ウェザーストリップ。
【請求項4】
前記の当接部位の少なくとも表面側の高分子材料組成物は、シリコーン化合物を30phr以下配合したことを特徴とする請求項3記載の自動車用ウェザーストリップ。
【請求項5】
前記シール部は、前記の被適用対象における当接対象に摺接してシールするリップ状のシール部であることを特徴とする請求項3または4記載の自動車用ウェザーストリップ。
【請求項6】
前記シール部は、前記の被適用対象における当接対象に圧接してシールする中空状のシール部であることを特徴とする請求項3または4記載の自動車用ウェザーストリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−186559(P2007−186559A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4415(P2006−4415)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000158840)鬼怒川ゴム工業株式会社 (171)
【Fターム(参考)】