説明

高周波プラズマ生成システム及びこれを用いた高周波プラズマ点火装置。

【課題】高周波プラズマ点火装置に用いられるプラズマ生成システムに関し、誘電損失を燃料の加熱に利用すると共に、共振周波数の変化を利用して、ノッキング等の異常燃焼が発生した際に過剰電流が流れるのを防止して、電極消耗の抑制を可能とするプラズマ生成システムを提供する。
【課題を解決する手段】周波数発生器5から発振された周波数fを基本波とし、その高調波成分であって、上記基本波の2以上の整数倍の逓倍波(f=nf)を取り出す周波数逓倍手段として、放電回路部2と電力増強部4との間に磁気共鳴手段3を設けて接続すると共に、電力増強部4と磁気共鳴手段3の第1の共振コイル31との共振周波数fが、逓倍波の周波数(nf)に等しく、かつ、放電電極10、11が所定の圧力範囲下におかれたときの放電回路部2と磁気共鳴手段3の第2の共振コイル30との共振周波数fに等しくなるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電電極間に高周波電流を印加して高周波プラズマを生成する高周波プラズマ生成システムに関し、主として難着火性の内燃機関の燃焼室内に高周波電流の放電を行って点火を行う高周波プラズマ点火装置に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関において燃焼排気中に含まれる環境負荷物質の低減や更なる燃費の低減を図るため、燃料の極希薄化、高過給化による着火性の難化に対して安定した着火を実現可能な着火性に優れた点火装置が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プラズマ生成共振器に接続された出力部に対し、給電回路制御デバイスにより供給された制御信号により定義される周波数で電源電圧を印加する給電回路を備え、制御デバイスが、最適制御周波数の決定要求を受信するインタフェースと、給電回路のコンデンサの端子における電圧を測定している信号を受信するインタフェースと、最適制御周波数を決定するモジュールであって、要求を受信すると連続的な点火命令のために給電回路に連続した異なる制御周波数を供給し、かつ、受信した測定信号に基づいて最適制御周波数を決定するモジュールと、を備えることを特徴とする高周波式点火システム用の給電デバイスが開示されている。
【0004】
特許文献1にあるような従来の高周波式点火システムでは、高周波プラグ・コイルの共振器の各端子に高電圧を印加し、プラグ・コイルの各電極間に火花が生成され、点火の開始時における給電回路のコンデンサの端子における電圧の値と、点火の終了時における電圧の値の間の偏差が最大である場合に限り、プラグ・コイルの高周波共振器が、その共振周波数で駆動され、コンデンサの端子の電圧値に関する電気的測定値を用いることにより、実施質的にプラズマ生成共振器の共振周波数に対応する、共振器を駆動するための最適制御周波数を決定し、これを記憶して利用することによりプラグ・コイルを形成する共振器に伝達されるエネルギの最大化を図っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の高周波プラズマ点火装置において、燃焼室内の圧力が上昇すると、絶縁耐圧は上昇し、放電が開始されるための要求電圧は高くなるが、ノッキング等の異常燃焼によって燃焼室内の圧力が上昇した場合には、既に高電圧電源から印加した高電圧によって放電空間の絶縁耐が破壊され、放電が開始された後であるため、放電空間内に存在する気体の密度が高くなっている分だけ、放電空間に電流が流れ易くなっており、高周波を入力したときに流れる電流量が正常燃焼時に比べて大きくなる。
このため、極めて大きなエネルギの高周波プラズマが発生し、放電電極の激しい消耗を招くことになる。
【0006】
さらに、特許文献1にあるような従来の高周波プラズマ点火装置では、放電部が他の制御回路と絶縁されておらず、ECU等の制御回路へ放電時に発生する高周波ノイズが影響し、ECU等の誤作動を招く虞がある。
特に、駆動周波数が1MHz以上と高いことに加えて、瞬間的に投入する電力が大きいことから、通常のトランスによって電気的に分離することは困難で、高周波ノイズに対して有効な対策手段がなかった。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、典型的には、高周波プラズマ点火装置に用いられるプラズマ生成システムに関し、誘電損失を燃料の加熱に利用すると共に、共振周波数の変化を利用して、ノッキング等の異常燃焼が発生した際に過剰電流が流れるのを防止して、電極消耗の抑制を可能とすると共に、電力増幅回路と点火源とを分離して、高周波ノイズの抑制を可能とするプラズマ生成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明では、少なくとも、一対の放電電極を具備する放電部と、所定の周波数を発生する周波数発生器と、該周波数発生器から発振された周波数で定義される電源の電力を増幅する電力増強部とを具備し、上記放電電極間に高周波の電圧を印加して高周波プラズマを生成する高周波プラズマ生成システムにおいて、上記周波数発生器から発振された周波数を基本波とし、その高調波成分であって、上記基本波の2以上の整数倍の逓倍波を取り出す周波数逓倍手段として、上記放電部と上記電力増強部との間に所定の距離を隔てて対向して、互いに磁気共鳴する第1の共振コイルと第2の共振コイルとからなる2つの共振コイルを含む磁気共鳴手段を設けて、上記電力増強部と上記第1のコイルとの共振周波数が、上記逓倍波の周波数に等しく、かつ、上記放電電極が所定の圧力範囲下におかれたときの上記放電部と上記第2の共振コイルとの共振周波数と等しくなるように設定する。
【0009】
請求項2の発明では、内燃機関に設けた一対の電極間に高電圧を印加する高電圧直流電源と、該高電圧直流電源からの高電圧の印加による絶縁破壊をトリガとして、高周波電源からの高周波電圧の印加により、高周波電流の放電を行って、上記一対の電極間に高周波プラズマを生成して、内燃機関の燃焼室内に導入された混合気の点火を行う高周波プラズマ点火装置であって、上記高周波電源として、請求項1に記載の高周波プラズマ生成システムを具備する。
【0010】
請求項3の発明では、請求項2に記載の高周波プラズマ点火装置であって、上記高周波電源が、第1の共振コイルと第1コンデンサとの直列回路からなるコネクタ部を具備し、
上記放電部が、第2の共振コイルと第2のコンデンサとからなる直列回路を具備し、かつ、上記第2の共振コイル、又は、上記第2のコンデンサと並列に上記放電電極を挿入してプラグ部を構成し、上記第1の共振コイルと上記第2の共振コイルとが共に、高い共振Q値を具備すると共に、上記コネクタ部の共振周波数と上記プラグ部の共振周波数とを一致させる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、上記放電電極が所定の圧力範囲下におかれ、上記逓倍波の周波数と上記放電部の共振周波数とが一致するときには、上記放電電極間に高周波電流が流れ、上記放電電極間に高周波プラズマが発生し、上記放電電極が所定の圧力範囲を超える高圧下、又は、低圧下に晒されたときには、上記逓倍波の周波数と上記放電部の共振周波数との間にズレを生じ、上記放電電極間に高周波電流が流れなくなり、過剰放電により放電電極の焼損を回避することができ、耐久性の高い高周波プラズマ生成システムを実現できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、上記放電電極が所定の圧力範囲下におかれている場合には、上記内燃機関の燃焼室内に導入された混合気の点火を安定して実現することができる。
【0013】
一方、ノッキング等の異常燃焼が発生した場合には、燃焼室内の圧力が過剰に上昇し、放電空間内に電流が流れや易くなるが、放電空間の寄生容量が燃焼室内の圧力に反比例して小さくなり、上記放電部の共振周波数が大きくなるので、上記電力増強部の共振周波数とのズレを生じ、高周波電流が流れなくなる。
このため、ノッキング等の異常燃焼により燃焼室内の圧力が異常に高くなっても、過剰放電による放電電極の激しい消耗を回避することができる。
したがって、高周波プラズマ点火装置の耐久性を著しく向上させることが可能となる。
【0014】
さらに、高電圧直流電源と高周波電源とを別に設けることにより、上記電力増強部と上記放電部とを接続する磁気共鳴手段として、トリガ放電のための高電圧発生に用いる必要がなく、急激な電流の立ち上がりに応答可能な高性能のトランスを用いる必要がない。
【0015】
また、上記放電部の誘電体損失により発生する熱を燃焼室内に導入された混合気の加熱に利用し、着火性の向上を図ることにより、高周波プラズマ点火装置に供給されるエネルギの損失を抑制することも可能となる。
【0016】
しかし、上記放電部における誘電体損失の増加を図ろうとすると、上記放電電極に流れる電流量が多くなり、電極消耗が激しくなる虞がある。
そこで、本発明では、上記放電電極が過剰な高圧環境下に晒されたときに上記放電部の共振周波数が高くなって、上記逓倍波の周波数と一致しなくなり、高周波電流の放電が停止され、電極消耗の抑制を図っている。
【0017】
さらに、請求項3の発明によれば、所定の周波数で電力を送電することで、上記共振コイル間の磁界共鳴作用により、電気的接触がなくてもプラグ部での高周波プラズマ放電を可能となり、磁界を介して高効率に電力伝送を行うことができ、ノイズ源となる電磁界の発生を抑えつつ、上記コンデンサと上記共振コイルとの間に高電圧を発生できるため安定した放電を得ることができる。
本発明の高周波プラズマ点火装置においては、第1の共振コイルと第2の共振コイルとの共振周波数を一致させることによって、上記プラグ部への送電が、磁界の変化を伴う電磁誘導によって行われるのではなく、磁界共鳴によって行われ、電磁界を発生し難いので、外部に設けられた他の電子制御装置等へのノイズの影響を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態における高周波プラズマ生成システムを含むプラズマ点火装置の概要を示すブロック図、(b)は、放電時における放電部の等価回路図。
【図2】(a)は、本発明の高周波プラズマ生成システムの入力波形と出力波形との関係を示す波形図、(b)は、本発明の高周波プラズマ生成システムを用いた点火装置の作動を示すタイムチャート。
【図3】(a)は、ノッキング等の異常燃焼状態における筒内圧力の変化及び放電空間の寄生容量の変化を示す特性図、(b)は、比較例と共に異常燃焼発生時における本発明の効果を示す特性図。
【図4】本発明の第2の実施形態における高周波プラズマ生成システムの概要を示すブロック図
【図5】(a)は、第3の実施形態における高周波プラズマ生成システムの概要を示すブロック図、(b)は、その効果を示す波形図。
【図6】本発明の第3の実施形態における高周波プラズマ生成システムに用いられる制御方法の一例を示すフローチャート。
【図7】本発明の第4の実施形態における高周波プラズマ生成システムを用いた高周波プラズマ点火装置の要部断面図。
【図8】(a)は、LC直列1回路の周波数特性、(b)は、磁界共鳴による周波数特性。
【図9】(a)は、第4の実施形態における高周波プラズマ生成システムのより具体的な回路を示す回路図、(b)は、(a)の回路のシミュレーション結果を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、電極間に印加された高電圧による絶縁破壊をトリガとして内燃機関の燃焼室内に導入された混合気に、高周波電圧の印加により高周波電流を放電して高周波プラズマを生成して、点火を行う高周波点火装置に高周波電源として用いられる高周波プラズマ生成システムに関するものである。
【0020】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態における高周波プラズマ生成システム6について説明する。
本実施形態における高周波プラズマ生成システム6は、点火プラグ1と、放電部回路2と磁気共鳴手段3と電力増強部4と周波数発生器5とによって構成されている。
本発明では、入力された周波数の高調波成分であって、基本周波数の2以上の整数倍の逓倍波を取り出す周波数逓倍手段として、放電回路部2と電力増強部4との間に磁気共鳴手段3を設けて接続すると共に、電力増強部4と磁気共鳴手段3の第1の共振コイル31との共振周波数fが、逓倍波の周波数(nf)に等しく、かつ、放電電極10、11が所定の圧力範囲下におかれたときの放電回路部2と磁気共鳴手段3の第2の共振コイル30との共振周波数fに等しくなるように設定したことを特徴としている。
【0021】
点火プラグ1は、図略の内燃機関に設けられ、少なくとも、互いに絶縁保持された一対の放電電極10、11を具備する。
放電部回路2は、本図(b)に示すように、誘導成分として磁気共鳴手段3の二次側コイル30のインダクタンスL30と二次側コイル30と点火プラグ1とを繋ぐ配線の寄生インダクタンスL21との合成インダクタンスLを具備し、容量成分として点火プラグ1の放電電極間(10、11)に形成される寄生容量C20と放電空間に形成される寄生容量CCMBとの合成コンダクタンスCを具備し、抵抗成分として、放電空間に放電が開始される際の放電抵抗RCMBと配線抵抗R22との合成抵抗Rとを具備して、LCR共振回路を構成している。
【0022】
また、放電部回路2のコンダクタンスCの内の大部分を占める放電空間の寄生容量CCMBは、放電空間(燃焼室内)の圧力Pに反比例して変化するため、放電部回路2の共振周波数fは、燃焼室内の圧力Pの平方根に比例する値となる。
磁気共鳴手段3は、巻回数Nの第1の共振コイル31と巻回数Nの第2の共振コイル30とを、共振周波数の波長よりも十分短い一定の距離だけ離して対向させ、第1の共振コイル31と第2の共振コイル30との間は、電気的に絶縁されている。
【0023】
従来の電磁誘導によるエネルギの伝送では、コイルを貫く磁束に変化を与えることによって起電力が発生するというファラデーの法則にしたがって、2つのコイルを十分に近づけた状態で、1次コイルに交流電流を流すことで、2次コイルの中に磁束を発生させ、2次コイルに電流を発生させる、いわゆる電磁誘導によって行われるが、本発明においては、電磁誘導ではなく、電磁界の発生を伴わない、磁気共鳴によって一次側から二次側への給電が行われる。
第1の共振コイル31と2次コイル30とを共振器として利用することで、第1の共振コイル31に電流が流れることにより発生した磁場の振動が、同じ周波数で共振する第2の共振コイル30の共振回路に伝わって磁気共鳴が起こる。
このとき、共振周波数の波長に比べて、十分に小さな距離で、第1の共振コイル30と第2の共振コイル31とが設けられているときに、磁場の振動が伝わり、第2の共振コイル30に電流が流れる。
磁気共鳴による電気エネルギの伝送では、電磁界の発生を伴わないので、電磁波ノイズの発生が抑制され、外部に設けられた他の伝声制御装置への影響が少ない。
【0024】
なお、本発明の高周波プラズマ発生システム6においては、トリガとなる高電圧の印加を別に設けた高電圧直流電源7によって行うため、磁気共鳴手段3での変圧比(N/N)は、数V〜十数Vの一次電圧Vから数100V程度の二次電圧Vが得られる程度であれば良い。
さらに磁気共鳴手段3の第1の共振コイル31は、電力増強部4と、第2の共振コイル30は、放電部回路2とそれぞれ共振回路を形成している。
【0025】
本実施形態における電力増強部4は、コンデンサ40と、抵抗41と、開閉素子(例えば、パワーMOSFET)42、43と、開閉素子42、43を交互に開閉駆動する駆動回路(ドライバ)44とによって、いわゆるD級増幅回路を構成している。
ドライバ44は、周波数発生器5から発振された周波数fにしたがって、開閉素子42、43を交互に開閉するゲート電圧を出力する。
【0026】
電力増強部4では、電源+Bから、コンデンサ40への充電と放電が繰り返されて、増幅され、周波数fで定義された電力が、昇圧コイル30の第1の共振コイル31に印加される。このとき、抵抗41とコンデンサ40と第1の共振コイル31とのインピーダンス整合を図ることにより、周波数発生器5から入力された入力周波数fの高調波成分を取り出し、入力周波数fの2以上の整数倍の周波数nfを有する逓倍波fを生成することができる。
【0027】
なお、本発明において、周波数発生器5は特に限定するものではなく、公知の周波数発生器を適宜採用することができる。また、周波数発生器5で発生する周波数fは、正弦波であっても良いし、矩形波であっても良い。
具体的には、周波数発生器5として、例えば、公知のオペアンプを用いた正弦波発生回路でもよいし、DAコンバータを用いたDDS(Direct Digital Synthesizer)を用いてもよい。また、矩形波についてもオペアンプを用いた矩形波発生回路でもよいし、高周波クロックを分周して発生させても良い。
【0028】
本発明において、高電圧直流電源7を特に限定するものではなく、点火コイルへの電力の印加と遮断とによって高電圧を誘導して放電を行う、いわゆる誘導放電型(TCI、Trangistor Coil Ignition)のものでも、コンデンサへ充電したエネルギを重畳的に放電して高電圧を印加する容量放電型(CDI、Capacitor Discharge Ignition)のものでも良い。
電子制御装置(ECU)8は、図略の内燃機関の運転状況に応じて、第1の点火信号火信号IGt1を高電圧電源6に入力し、第2の点火信号IGt2を周波数発生器4に入力する。
【0029】
図2を参照して、本発明の高周波プラズマ生成システム6を含む高周波プラズマ点火装置の作動について説明する。
本図(a)に示すように、周波数発生器5から発振された電力増幅部4に入力された周波数fの入力信号にしたがって、ドライバ44が開閉素子42、43を開閉制御して、コンデンサ40の充放電により電力の増強を図ると共に、コンデンサ40と第1の共振コイル31との共振により、基本周波数fの逓倍の高調波(2f、3f・・・)成分から特定の周波数の逓倍波f(=nf)を取り出し、磁気共鳴手段3を介して放電回路部2に入力する。
【0030】
本図(b)に示すように、ECU8から第1の点火信号IGt1が出力されると、高電圧電源6において第1の点火信号IGtがONとなっている間に充電されたエネルギが第1の点火信号IGtの立ち下がりに同期して、例えば20〜30kVの高電圧となって点火プラグ1に印加され、放電電極10、11間の絶縁が破壊されトリガ放電が開始される。
一方、ECU8から第2の点火信号IGtが出力されると、上述の如く、放電回路部2に逓倍波fを有する高周波が入力される。
さらに、放電回路部2の共振周波数fは、本図(c)に示すように、放電空間内の圧力Pの平方根に比例して変化し、放電回路部2の共振周波数fと電力増幅部4から発振された逓倍波fの周波数(例えば、5MHz)とが一致する所定の圧力範囲(本図(c)中に正常範囲として斜線で示す。)において、放電電極10、11間に高周波のプラズマ電流が流れ、高温プラズマを発生し、放電空間(燃焼室)内に導入された混合気の点火が行われる。
【0031】
このとき、ノッキング等の異常燃焼によって燃焼室内の圧力Pが高くなっている場合には、本図(c)に示すように、放電回路部2の共振周波数fが高くなるため、電力増強部4から発振された逓倍波fと一致せず、放電電極10、11間にプラズマ電流が流れなくなる。
したがって、異常燃焼により、燃焼室内の圧力Pが高くなり、放電空間内の寄生抵抗RCMBが低くなっている状態で、高周波電流の放電が起こらないので過剰電流の放電による電極の過剰な消耗の抑制を図ることができる。
また、本発明では、周波数発生器5で発生させた周波数fに等しい周波数の基本周波数fを放電回路部2の共振周波数fに一致させるのではなく、高調波成分を利用した逓倍波fを放電回路部2の共振周波数fと一致させているので、開閉素子42、43のスイッチングは、共振周波数fのn分の1の基本周波数fで行うことができるので、比較的安価な開閉素子を用いることが可能となる。
【0032】
図3を参照して、本発明の効果について説明する。
本図(a)は、異常燃焼発生時における燃焼室内の圧力P(MPa)及び、放電空間寄生容量CCMBの経時変化を示す。
本図(b)は、本発明の効果を実施例とし実線で示し、従来の電力増強部の基本波を放電部回路2の共振周波数に一致させた比較例を点線で示すものである。
ノッキング等の異常燃焼の影響により、燃焼室内の圧力P(MPa)が高くなった場合、本発明の実施例では、実線で示すように、放電電流が流れ難くなるので、過剰な電極消耗を起こすことがなく、比較例では、写真Aに示すように、通常のプラズマ放電が発生した後、異常燃焼発生時には、点線で示すように極めて大きな放電電流Iが流れ、写真Bに示すように、極めて激しいプラズマ放電が発生し、電極の焼損を招き、放電できなくなる虞がある。
【0033】
図4を参照して、本発明の第2の実施形態における高周波プラズマ生成システム6aについて説明する。
本図(a)は、本実施形態における高周波プラズマ生成システム6aの概要を示す等価回路図、(b)は、比較例として示す、特許文献1の図1、図2aに記載された従来の高周波プラズマ発生システム6zを、本発明との相違点を明確にすべく、対応する構成に同じ符号を付し、相違する部分にzの枝番を付して表したものである。
上記実施形態においては、電力増強部4に、いわゆるD級増幅回路を用いた例を示したが、本実施形態においては、さらに構成の簡素化を図った、電力増強部4aとして、いわゆるE級増幅回路を用いた点が相違する。
【0034】
本図(a)に示すように、電力増強部4aは、電源+Bと開閉素子42aとの間に第2の共振コイル45、又は、寄生インダクタンスを介装し、開閉素子42aのドレインと第1の共振コイル31との間に、抵抗41aと第2のコンデンサ46とを直列に介装し、さらに、開閉素子42aのドレインと抵抗41aとの間に第1のコンデンサ40aを並列に介装し、開閉素子42aのゲートには、周波数発生器5から、基本周波数fが入力され、開閉素子42aは、基本周波数fによって開閉駆動されている。
なお、周波数発生器5から発振される交流又は高周波パルスの出力電圧が低い場合には、開閉素子42aのゲートを開閉するために必要なゲート電圧を確保すべく、ゲートドライバを設けたり、昇圧回路を設けたり、プルアップ抵抗を介して電源電圧にプルアップしたりしても良い。
【0035】
本実施形態においては、磁気共鳴手段3の第1の共振コイル31と第2のコンデンサ46との共振周波数を、基本周波数fの高調波成分の共振周波数と一致させることにより、逓倍波f(=nf)を出力して、上記実施形態と同様、放電回路部2の共振周波数f0と逓倍波f2とが一致したときのみ、高周波プラズマを発生させ、電極の過剰な消耗を抑制することができるのに加え、開閉素子42aを1個だけとすることができ、製造コストの更なる低減と、装置の小型化を図ることができる。
【0036】
一方、比較例として、本図(b)に示す、従来の高周波プラズマ発生システム6zでは、電力増幅部4zにおいて、逓倍波を用いることなく、基本周波数f1と放電部回路2の共振周波数fとを一致させるようにしているため、開閉素子43zには、例えば4MHz程度の高い周波数のスイッチングが可能な比較的高額な高周波用開閉素子を用いる必要があり、製造コストの増大を招く虞がある。
また、比較例のように、開閉素子42zのドレイン電圧Vaをモニタして、周波数発生器5zの発振周波数fを放電部回路2に伝達されるエネルギを最大化するために、実質的に、放電部回路2の共振周波数fに一致するように決定する場合には、異常燃焼等によって、燃焼室内の圧力が高くなったときに、過剰な高周波電流の放出を避けることができず、放電電極10、11の著しい消耗を招く虞がある。
【0037】
図5、図6を参照して、本発明の第3の実施形態における高周波プラズマ発生システム6bの概要とその制御方法について説明する。
本実施形態においては、上記実施形態における高周波プラズマ発生システム6又は6aを基本構成とし、図5(a)に示すように、第1の共振コイル31に入力される高周波電流を電流検出手段8を設けてモニタし、検出された電流ISENをハイパスフィルタ(HF)90を設けて、共振周波数のズレによって生じる定収は成分を除去し、ピークホールド回路(P/H)91を介してサンプリングされたデータを二値化するためのA/Dコンバータ92、得られたデータを演算処理し、周波数発生器5bにフィードバックするための制御用マイコン93が追加され、周波数発生器5bには、制御マイコン93からの補正データに応じて発振周波数fの増減を行う機能が追加された構成となっている。
図6に示すフローチャートに従って、補正を行った結果を図5(b)に示す。
【0038】
制御用マイコン93では、図6に示すフローチャートに従って、経時変化などによる周波数の変化を補正し、高周波プラズマの発生をより安定したものにすることができる。
【0039】
図6を参照し、具体的な制御方法の一例について説明する。
ECU8からの第2の点火信号IGt2の入力に同期し、ステップS100の周波数補正行程がスタートする。
ステップS110の初期化行程では、周波数f、補正量Δf、ピークホールで電圧Eのバッファ値Ebの初期値を代入する。
次いで、ステップS120の周波数補正行程では、周波数fに補正量Δfを加えた補正を行う。
ステップS130の周波数設定行程では、補正後の周波数fを周波数発生器5にフィードバックして周波数発生器5の発振周波数を設定する。
ステップS140のピークホールド値読込行程では、ピークホールド値の現在値Eを計測し読み込む。
ステップS150のピークホールド値判定行程では、現在値Eとバッファ値Ebとを比較し、現在値Eがバッファ値Ebより小さければ判定Yesとなり、 ステップS160に進み、現在値Eがバッファ値Eb以上であれば判定Noとなり、ステップS170に進む。
ステップS160の周波数増減切換行程では、補正量Δfに−1を乗じ周波数の変化方向を反転させ、ステップS170に進む。
ステップS170のバッファ値代入行程では、バッファ値Ebに現在値Eを代入し、ステップS120に戻る。
ステップS120からステップS170のループを繰り返すことにより、経時変化などを精度良く補正し、フィードバックさせてより安定した発振周波数に調整することができる。
【0040】
図7を参照して、本発明の第4の実施形態における高周波プラズマ点火装置6cの概要について説明する。
上記実施形態においては、放電回路部2のコンダクタンスCの内の大部分を放電空間に形成される寄生容量CCMBが占める例を示したが、本実施形態においては、第2のコンデンサ40cとして、所定の静電容量Cを有するコンデンサ素子が実装されている。
本実施形態においては、コネクタ部9に駆動周波数faにて、高周波電力信号が印加される。
上記実施形態においては、磁気共鳴手段3として、第1の共鳴コイル31と第2の共鳴コイル30とを互いに所定の距離だけ離して対向させる原理構造を示したが、本実施形態においては、磁気共鳴手段3について、内燃機関に装着できる状態の実用的な構造を提案としている。
【0041】
本実施形態においては、高周波電源が、第1の共振コイル31cと第1コンデンサ20cとの直列回路からなるコネクタ部9を具備し、放電回路部2cが、第2の共振コイル30cと第2のコンデンサ40cとからなる直列回路を具備し、かつ、第2の共振コイル30c、又は、第2のコンデンサ40cと並列に放電電極10を挿入してプラグ部1cを構成し、第1の共振コイル31cと第2の共振コイル30cとが共に、高い共振Q値を具備すると共に、コネクタ部9の共振周波数fbとプラグ部1cの共振周波数fcとが等しくなるように、第1の共振コイル31cのインダクタンスL、第2の共振コイル30cのインダクタンスL2、第1のコンデンサ20cの静電容量C、第2のコンデンサ40cの静電容量C、及び、駆動周波数faが設定されている。
この駆動周波数faは、第1のコンデンサ20c(C)と第1の共振コイル31c(L)とからなる第1のLC直列回路の共振周波数fbと、第2のコンデンサ40c(C)と第2の共振コイルLとかららなる第2のLC直列共振回路の共振周波数fcとが等しくなるように設計し、第1の共振コイル31cと第2の共振コイル30cとを一定距離内に設置したときの磁界共鳴作用による周波数特性から得られる(図8参照)。
この周波数faで電力を送電することで、第1の共振コイル31cと第2の共振コイル30cとの間において、磁気共鳴作用によって、高効率に電力伝送を行うことができる。
プラグ部2cでは、第2のコンデンサ40cと、第2の共振コイル30cがプラグ部2cの金属ボディ13を介して直列に接続され、かつ、第2のコンデンサ40c、又は、第2の共振コイル30cに平行して、放電電極10を設置した構成となっている。本図では第2のコンデンサ40cと放電電極10とが並列に接続された例を示しているが、第2の共振コイル30cに並列に放電電極10を配設しても良い。
ハウジング13の先端は、接地電極11を構成し、接地電極11と放電電極10とは、筒状の絶縁体12を介して絶縁状態となっている。
ハウジング13は、図略のエンジンヘッドに装着され、接地状態となっている。
なお、本実施形態において、放電電極10、及び、接地電極11には、耐熱性の高いニッケル合金等の公知の導電性金属材料が用いられ、ハウジング13には、ステンレスや、炭素鋼等、耐熱性の高く、導電性の高い公知の金属材料が用いられ、絶縁体12には、アルミナ等の公知の絶縁体材料が用いられている。
【0042】
図8(a)に示すように、LC直列1回路の波数特性は、共振周波数fcでパワースペクトルのピークを示すが、本図(b)に示すように、磁気共鳴による周波数特性は、1回路の共振周波数fcよりも低い第1の周波数faと、1回路の共振周fcよりも高い第2の周波数fbとの2箇所でパワースペクトルのピークが発生する。
そこで、電磁共鳴手段3においては、第1の共振コイル31cと第1のコンデンサ20cとからなるコネクタ部9の共振周波数をfcに設定し、第2の共振コイル30cと第2のコンデンサ40cとからなるプラグ部1cの共振周波数をfcに設定した上で、第1の共振コイル31cと第2の共振コイル30cとを対向させて磁気共鳴を発生することで得られる第1の共振周波数faと、第2の共振周波数fbとのいずれか一方の周波数を駆動周波数として選択する。
【0043】
図9(b)は、図9(a)に示すように、具体的な駆動回路4cを考え印加電圧VINと放電電圧VOUTの関係をシミュレーションしたものである。
ここでは、高周波電源として、いわゆるD級増幅器にて高周波を与える構成としているが、MHzオーダーの高周波電力増幅が可能なものならば、他の構成、例えば、いわゆるE級増幅器を用いた構成としてもよい。
本実施形態では、10MHzの共振周波数fcをもった回路に対し、駆動電圧100Vで駆動周波数faとして10MHzの電圧を印加した例を示している。
本実施形態に示した回路では、電力印加後5μsec程度で、10kVP−Pまで放電電圧を昇圧でき、共振による放電の遅れがないことがわかる。
このとき、上述したように、磁界共鳴による送電が行われるので、電磁界を発生せず、ECU等の外部に設けた制御装置へのノイズの影響を抑制することができる。
共振Q値が100以上となり、コネクタ部9の共振周波数fcとプラグ部2cの共振周波数fcとが一致するように、第1のコイル31cのインダクタンスLと、第1のコンデンサ20cのキャパシタンスC、及び、第2の共振コイル40cのインダクタンスL2、及び、第2のコンデンサ40cのキャパシタンスC2を設定し、第1の共振コイル31cを駆動周波数faで駆動し、プラグ2c側に組みつけた第2の共振コイル30cと磁界共鳴を発生させることで、プラグ2cとコネクタ部9との間に、電気的接点がなくてもプラグ2c側において、放電電極10と接地電極11との間に高周波プラズマ放電を発生することができる。
なお、共振Q値と入力電圧VINと、放電電圧VOUTとは、VOUT=Q×VINの関係にあり、インダクタンスLと、キャパシタンスCとからなる直列共振回路においては、Q=(1/R)・√(L/C)=ωL/R=1/ωCRの関係が成り立つ。
但し、ωは、角振動数、Rは、直列抵抗、Lは、インダクタンス、Cは、静電容量を示す。
高い共振Q値を得るためには、インダクタンスLを大きく、キャパシタンスCを小さく、直列抵抗Rを少なくする。
【0044】
なお、本発明において放電部を構成する点火プラグの構造を特に限定するものではなく、高電圧の印加によって発生する放電アークをトリガとして高周波電流の供給によって高周波プラズマを発生して内燃機関の点火を行う高周波プラズマ点火装置に利用可能な公知の点火プラグを適宜採用可能である。具体的には、軸状に延びる中心電極と略L字型に湾曲した接地電極とが対向するいわゆるスパークプラグ型の点火プラグでも、軸状に延びる中心電極の周囲を筒状の絶縁体で覆い、その先端に略環状の接地電極を設けて、絶縁体の内側に設けた放電空間に中心電極の先端と接地電極の内周とを対向せしめた、いわゆるプラズマジェットプラグでも、中心電極と接地電極との間に配した絶縁体の表面を這うように放電経路を設けた、いわゆる沿面放電プラグでも、中心電極を内燃機関の燃焼室内に長く突き出した、いわゆる無声放電型の点火プラグでも、高周波を導入する中心導体と有底筒状の共振管とを同軸に配設したいわゆる同軸共振管構造の高周波点火プラグでも良い。
【符号の説明】
【0045】
1 点火電極対
10 中心電極
11 接地電極
2 放電部回路
20 放電空間静電容量(寄生キャパシタンス)
21 寄生インダクタンス
22 寄生抵抗
3 磁気共鳴手段
30 第2の共振コイル
31 第1の共振コイル
4 電力増強部
40 コンデンサ
41 抵抗
42、43 スイッチング素子
44 ゲートドライバ(駆動回路)
5 周波数発生器
6 高電圧電源
7 エンジン(ECU)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特表2010−522841号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、一対の放電電極を具備する放電部と、所定の周波数を発生する周波数発生器と、該周波数発生器から発振された周波数で定義される電源の電力を増幅する電力増強部とを具備し、上記放電電極間に高周波の電圧を印加して高周波プラズマを生成する高周波プラズマ生成システムにおいて、
上記周波数発生器から発振された周波数を基本波とし、
その高調波成分であって、上記基本波の2以上の整数倍の逓倍波を取り出す周波数逓倍手段として、
上記放電部と上記電力増強部との間に所定の距離を隔てて対向し、互いに磁気共鳴する第1の共振コイルと第2の共振コイルとからなる2つの共振コイルを含む磁気共鳴手段を設けて、
上記電力増強部と上記第1の共振コイルとの共振周波数が、上記逓倍波の周波数に等しく、
かつ、
上記放電電極が所定の圧力範囲下におかれたときの上記放電部と上記第2の共振コイルとの共振周波数と等しくなるように、
上記第1の共振コイルのインダクタンス、上記第2の共振コイルのインダクタンス、上記第1のコンデンサの静電容量、上記第2のコンデンサの静電容量、及び、上記逓倍波の周波数を設定したことを特徴とする高周波プラズマ生成システム。
【請求項2】
内燃機関に設けた一対の電極間に高電圧を印加する高電圧直流電源と、該高電圧直流電源からの高電圧の印加による絶縁破壊をトリガとして、高周波電源からの高周波電圧の印加により、高周波電流の放電を行って、上記一対の電極間に高周波プラズマを生成して、内燃機関の燃焼室内に導入された混合気の点火を行う高周波プラズマ点火装置であって、
上記高周波電源として、請求項1に記載の高周波プラズマ生成システムを具備する高周波プラズマ点火装置。
【請求項3】
請求項2に記載の高周波プラズマ点火装置であって、上記高周波電源が、第1の共振コイルと第1コンデンサとの直列回路からなるコネクタ部を具備し、
上記放電部が、第2の共振コイルと第2のコンデンサとからなる直列回路を具備し、か
かつ、
上記第2の共振コイル、又は、上記第2のコンデンサと並列に上記放電電極を挿入してプラグ部を構成し、
上記第1の共振コイルと上記第2の共振コイルとが共に、高い共振Q値を具備すると共に、上記コネクタ部の共振周波数と上記プラグ部の共振周波数とを一致させたことを特徴とする高周波プラズマ点火装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−60941(P2013−60941A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277347(P2011−277347)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】