説明

高速機械加工(HSM)によるメタル・マトリックス複合材(MMC)の加工方法

【課題】メタル・マトリックス複合材、いわゆるMMC材の材料から作成された構成部品を、MMC材の工作物またはブランクの高速機械加工いわゆるHSM機械加工によって機械加工して、予め定められた形状を提供する。
【解決手段】HSM機械加工は、切削工具が、特に従来の加工技術を使用する通常の場合と比較して、加工対象の工作物に対して非常に高い速度で作動することによって特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッド、ピストン、ブレーキディスク、およびその他の機械部品等の構成部品を成形するためにMMC材(メタル・マトリックス複合材)で形成された工作物を機械加工するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MMC材と呼ばれる構造材料は、最近の10年間に知られるようになった。MMC材は、炭化けい素、炭化ほう素、または酸化アルミニウム等の物質の繊維または粒子の混合による補強材を含む、アルミニウム、チタン、またはこれらの合金等の結合材から形成される複合材である。一般的に、補強材の含有率は、MMC材の約15重量%ないし約70重量%である。補強材含有率が約15%より低いMMC材は、補強材無しで結合材を形成するために通常使用される手段によって形成することができるので、そのような材料はこの記述ではMMC材とは呼ばない。
【0003】
MMC材は非常に興味深い特性を持ち、それは使用分野によって調整することができ、それによって、特定の使用分野内で従来の材料を使用することによって達成できるものより軽量で、より強く、より剛性の構成部品を作成したり、より優れた耐久性を備えた構成部品を提供するなどの利点が達成される。
【0004】
ピストンロッド等の高速運動部品がこれらの金属複合材によって適切に機能することができる車両技術は、MMC材の使用分野の一例である。車両製造者は、絶えず、燃料消費、排気、振動、雑音、快適性等に関して性能の向上を達成しようと努めている。これらのパラメータの全てに関して重要であるのは、特に非弾性体および高速運動エンジン部品における、重量の軽減である。特に自動車を使用する競技活動分野では、エンジン部品にとって上述の性質が非常に望ましい。ピストンロッドは、上述の通り、そのような構成部品の一例であり、重量の軽減が非常に好ましい。
【0005】
車両のレース活動では、上述の種類の構成部品に、鋼の代わりにアルミニウム、チタン、または炭素繊維複合材等の軽量の材料が一般的に使用される。
【0006】
MMC製品の別の興味深い使用分野は、自動車、トラック、および列車のブレーキディスクである。
【0007】
MMC材を使用するときの1つの主要な欠点は、材料が非常に機械加工しにくいことである。MMC材を使用する構成部品を成形するときには、最終的に完成する形状によく一致する鋳型で構成部品を鋳造するなどの方法が適用される。別の方法は、鍛造工作物または押出棒の一部分を使用することであり、それにより構成部品の表面に対するスパーク加工と従来の加工とを使用して、構成部品の最終形状を達成することができる。従来の製造機械加工法を使用することによって、例として、オートバイ用のピストンロッドを生産することが試みられている。これにより、重量低下など所望の性質を持つ所望の構成部品を完成させる目的は、達成されている。エンジンにそのようなピストンロッドを使用することにより、結果的に、高速ギヤへの移動が容易であり、かつ、さらにエンジンに対してより低い振動を誘発するエンジンが得られた。しかし、問題は、エンジン部品を製造するコストが非常に高いことであり、これは、使用が抑制されるか、またはコストの重要性が小さい分野に限定されることを意味する。
【0008】
多数の特許公報が、MMC材によって作成された構成部品の最終段階での成形のための様々な方法を開示している。ここでは、一例として、米国特許第5,765,667号を示す。当該特許は、切削工具によって機械加工する必要性をできるだけ回避するために(これは明確に表現されている)、構成部品を構成部品の最終形状に非常によく一致する形状に鋳造することによって、構成部品を、この例ではディスクブレーキを、製造するための方法を記述している。アルミニウム母材と炭化けい素粒子の補強材から構成されるMMC材は、一般的に研削工具に使用される組成をまさに含むので、切削工具によって機械加工する必要性が回避されることは、当業者には自明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5765667号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
MMC材に埋め込まれるけい素粒子は、従来の機械加工技術を使用することによって機械加工したときに、切削工具の刃が複合材内部の研削粒子によって迅速に摩滅するので、切削工具に対して荒廃効果を持つ。
【0011】
本発明は、上述の問題に対する意外な解決策を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、ここで高速機械加工と呼ばれる(HSMと略称される)ものによってMMC材の工作物を成形する方法に基づくものであり、それにより構成部品に、この機械加工法によって工作物から直接その最終形状を与えることができる。工作物は鍛造または鋳造するか、一片の押出棒とするか、または他の何らかの方法で生産される原料とすることができる。
【0013】
高速機械加工は、従来の機械加工技術の場合と比較して、切削工具を加工対象の工作物に対して非常に高い速度で作動させることを含む。ここで関係する切削工具は、好ましくはフライスおよびドリルである。
【0014】
ここで使用する場合、用語「高速機械加工」(HSM)とは、従来の機械加工法とは異なるプロセスを表す。この用語は時々、新しい方法が従来の機械加工の限界をより高いレベルに押し上げそうな場合の、従来の機械加工を示すのにも使用される。しかし、これは、以下で示す通り本願で本当に意味するものではない。
【0015】
HSMは、
−非常に高い切削速度
−高い剪断ひずみ速度(チップを工作物から分離する能力)
−非常に高い効果密度が切刃の前に生成されること(典型値:MW/mm3)
−チップの形成プロセスで、非常に高い温度が切削場所で局所的に示現すること
−チップが切刃に接触することなく流動していること
−剪断力が漸近的に零に近付くこと
によって特徴付けられる。
【0016】
以下は、本発明に従ってある材料を高速機械加工するときの高い切削速度の幾つかの例である。
−アルミニウム 約3000m/分(従来は約100−400m/分)
−チタン 約15000m/分(従来は約15−100m/分)
高速機械加工を特徴付けるために保持される上述の状態を得るための正しい切削速度を見出だすことは、機械加工される材料の種類に依存する。そうしたことは、当業者がひとたびこの開示を知れば、過度の実験をすることなく、決定することができるであろう。
【0017】
新しい材料のHSM機械加工の最適切削速度を決定するために試験するときは、剪断力を調べることができる。HSM機械加工状態の判断基準に達するときに、剪断力は漸近的に零に近付く。したがって、HSM状態は、切削速度の増加と共に剪断力が低下していくときに示現すると言うことができる。前記HSM状態で、目的は、加工対象材料の最適切削速度を決定することである。従来の機械加工では、剪断力は、切削速度の増加と共に増加していく。これは、今理解されているように、切削速度と相関関係にある剪断力が、大局的最大値(局所的最大値または最小値が発生することがある)を持つ曲線によって表すことができることを意味する。機械加工が曲線の上昇側で実行されているような機械加工データである場合、従来の機械加工が示現する。他方、機械加工が曲線の下降側で行われるような状況下で機械加工が行われる場合、HSM状態が示現する。つまり、言い換えると、HSM機械加工は、大局的最大点を通過したときに示現する。
【0018】
HSM機械加工を使用する別の利点は、切削点で発生する熱の大部分、一般的に80%をチップが吸収することであり、それにより工作物は、機械加工時に発生する熱によって本質的に影響されない。
【0019】
高速機械加工は、MMC材に使用したときに、予想外によい結果を出すことが見出された。材料内の研削物質の割合が高いにもかかわらず、切削工具は、あたかもそれがMMC材における研削物質の存在に影響されないかのように、その鋭利さを長時間維持するようである。この裏にある理由は、材料内部のふるまいとしてまだよく理解されていない。つまり、MMC材を高速機械加工する場合に切削点で材料に実際何が起きているのか、よく分かっていない。1つの理論は、材料から切削されるチップがある程度、切削工具の切刃のすぐ前の限定空間内で液状になること、および例えば炭化けい素、炭化ほう素、または酸化アルミニウムによって構成される埋込み研削粒子が、形成される給気によって運び去られ、それによって工具の刃に直接接触しないことである。これは、従来の機械加工に適用されるものとは全く対照的に、切削工具がその鋭利さを維持する理由についての説明になるであろう。
【0020】
MMC材のHSM機械加工によってピストンロッドを生産する試験を実行した。結果はきわめて有望であった。機械がスピンドル回転速度、切削速度、工具の送り等に関して正しい設定を行った場合、機械加工の結果は良好であった。一例として、MMC材で実行したピストンロッドのプロトタイプを一方では従来の方法によって、他方では高速機械加工によって最終形状に成形するためのコストは、ピストンロッドの製造コストを40倍以上削減したことを挙げることができる。本発明によるMMC構成部品の連続生産によって、コストをさらに削減することが可能である。
【0021】
本発明のさらに別の目的および利点は、本発明を実現するために考えられる最適態様の単なる解説として、本発明の好適な実施形態のみを示し記述する以下の詳細な説明から、当業者には容易に自明となるであろう。理解されるであろうが、本発明は他の異なる実施形態が可能であり、その幾つかの詳細は、本発明から逸脱することなく、様々の明瞭な点における変形例とすることができる。したがって、説明は、限定としてではなく、事実上の例証とみなすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一片のMMC材が高速機械加工によって原料から成形される実験作業の例を示す図である。
【図2】本発明による方法によって生産されるエンジン部品、この場合ではピストンロッドの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による方法を評価するための実験による試験の多数の例について、図を参照しながら説明する。図1は、MMC材から作成されたブランク2から製造されたフランジ1を示し、ここでは工作機械を使用して将来のフランジ1の周囲からブランク2の原料を全て除去している。フランジ1は、この場合、Lの形状を成し、材料の最終厚さが1mmで、Lの辺のそれぞれの長さが45mmおよび15mmである。機械加工のために使用される設定は、この例では、スピンドル速度15000rpm、切削速度565m/分、および送り速度3000mm/分である。図1によるフランジ1を成形するために要する時間は、2.5分である。この例では、切削工具の摩滅時間は数時間にのぼった。この図による部品は、40%の炭化けい素の部分を材料中に含むMMC材によって形成される。
【0024】
試験は、40%のSiC含有量を含むMMC材への穴あけも行った。6.9mmのHMドリルにより多数の穴を形成し、そこでスピンドル速度は15000rpmに、送り速度は3000mm/分である。ドリルの摩滅時間は、この場合、ドリルが最高1000個のドリル穴をあけるための使用に耐えるようなものであった。
【0025】
図2は、MMC材のブランクから直接製造されたエンジン用の部品、この例ではピストンロッドの例を開示する。MMC材のブランクは、本発明による高速機械加工によって、この図によるピストンロッドとして最終形状に加工された。MMC材で作成される図2のピストンロッドを生産するためのコストは低く、同時に、それは、他の材料から形成されるピストンロッドと比較して次の利点を示す。
【0026】
−鋼に比べて、低い質量
−チタンに比べて、低い質量、高い剛性
−アルミニウムに比べて、高い剛性、高い降伏点、高い耐久限度、隣接するクランクシャフトの鋼と同等の熱膨張係数
−繊維複合材に比べて、低い価格、等方性、隣接するクランクシャフトの鋼と同等の熱膨張係数
【0027】
本発明の方法に従って機械加工することによって、被覆超硬合金から形成され内部チャネル冷却を備えた切削工具の使用により、およびダイヤモンド工具の使用により、優れた結果が達成された。ダイヤモンド工具を使用すると、MMC材のカーバイド含有率は最高40%となり、工具の摩滅時間は長い。カーバイド含有率が70%もの高さになっても、依然として優れた結果が達成された。
【0028】
本発明による方法は、構成部品の最終形状に対して機械加工が可能である場合、MMC材から製造されるあらゆる種類の構成部品に適用可能である。したがって、この方法は、開示した例に限定されず、MMCの選択が有利である場合、全ての構成部品に使用することができる。挙げることができる幾つかの例として、エンジン部品、宇宙機用の機械構造、計器用の機械構造、車両用のブレーキディスク等がある。さらに、MMCから製造されるブレーキディスクは、鋼に比較して低重量である点から有利であり、これは減速前にブレーキディスクに蓄積される回転エネルギーを低下させるのに貢献し、各車軸にしばしば鋼で作成された多数の回転ブレーキディスクが装備されている列車において、特定の重要性を持つ条件である。
【0029】
上述の発明の説明は、本発明を解説し説明するものである。さらに、開示は、本発明の好適な実施形態のみを示し説明しているが、上述の通り、本発明は、他の様々な組合せ、変形、および環境で使用することができ、ここで述べた発明の概念の範囲内で上記の教示および/または関連技術の技量または知識に相応して、変更または変形することができることを理解されたい。本願で上述した実施形態はさらに、本発明を実施するための周知の最良の態様を説明し、かつ他の当業者がそのような実施形態またはその他の実施形態で、本発明の特定の適用または利用によって要求される様々な変形例を加えて、本発明を利用できるようにすること意図している。したがって、説明は本発明をここに開示した形態に限定することを意図するものではない。また、請求の範囲は、代替的実施形態を含むものと解釈されることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた形状の構成部品をメタル・マトリックス複合材(MMC)から製造するためのMMCの加工方法であって、前記方法はMMC材のブランクを高速機械加工(HSM)によって機械加工して予め定められた形状の構成部品を得ることを含み、前記MMC材がここで15%から70%の間の補強材含有率を有すると定義され、HSM機械加工の状態が切削速度と相関関係にある剪断力が減少するときに示現するように構成されたMMCの加工方法。
【請求項2】
切削速度と相関関係にある剪断力が、大局的最大値を通り超えたときに前記HSMの状態が示現することを特徴とする、請求項1に記載のMMCの加工方法。
【請求項3】
前記切削工具が、被覆超硬合金切刃、窒化ほう素切刃、およびダイヤモンド切刃から成るグループから選択された一つの要素を含むことを特徴とする、請求項1に記載のMMCの加工方法。
【請求項4】
前記切削工具が、被覆超硬合金切刃、窒化ほう素切刃、およびダイヤモンド切刃から成るグループから選択された一つの要素を含むことを特徴とする、請求項2に記載のMMCの加工方法。
【請求項5】
機械加工されるMMC材が、約15%から約70%の間の補強材含有率を有することを特徴とする、請求項4に記載のMMCの加工方法。
【請求項6】
機械加工されるMMC材が、約15%から約70%の間の補強材含有率を有することを特徴とする、請求項3に記載のMMCの加工方法。
【請求項7】
前記補強材が、炭化けい素、炭化ほう素、および酸化アルミニウムから成るグループから選択される少なくとも1つの要素であることを特徴とする、請求項6に記載のMMCの加工方法。
【請求項8】
前記補強材が、炭化けい素、炭化ほう素、および酸化アルミニウムから成るグループから選択される少なくとも1つの要素であることを特徴とする、請求項5に記載のMMCの加工方法。
【請求項9】
前記補強材がカーバイドであることを特徴とする、請求項5に記載のMMCの加工方法。
【請求項10】
前記補強材がカーバイドであることを特徴とする、請求項6に記載のMMCの加工方法。
【請求項11】
前記MMCが、アルミニウム、チタン、およびそれらの合金からなるグループから選択された少なくとも1つの母材を含むことを特徴とする、請求項5に記載のMMCの加工方法。
【請求項12】
前記MMCがアルミニウム、チタン、およびそれらの合金からなるグループから選択された少なくとも1つの母材を含むことを特徴とする、請求項6に記載のMMCの加工方法。
【請求項13】
前記構成部品が自動車用または光学系利用のための構成部品であることを特徴とする、請求項1に記載のMMCの加工方法。
【請求項14】
前記構成部品が高速運動エンジン部品であることを特徴とする、請求項13に記載のMMCの加工方法。
【請求項15】
前記構成部品がピストンロッドまたはクランクシャフトであることを特徴とする、請求項13に記載のMMCの加工方法。
【請求項16】
前記構成部品が鉄道車両、トラックまたは乗用車用の構成部品であることを特徴とする、請求項1に記載のMMCの加工方法。
【請求項17】
前記構成部品がブレーキディスクまたはブレーキヨークであることを特徴とする、請求項16に記載のMMCの加工方法。
【請求項18】
前記構成部品が自動車用または光学系利用のための構成部品であることを特徴とする、請求項2に記載のMMCの加工方法。
【請求項19】
前記構成部品が高速運動エンジン部品であることを特徴とする、請求項18に記載のMMCの加工方法。
【請求項20】
前記構成部品がピストンロッドまたはクランクシャフトであることを特徴とする、請求項18に記載のMMCの加工方法。
【請求項21】
前記構成部品が鉄道車両、トラック、または乗用車用の構成部品であることを特徴とする、請求項2に記載のMMCの加工方法。
【請求項22】
切削速度と相関関係にある前記剪断力が漸近的に零に近付くことを特徴とする、請求項1に記載のMMCの加工方法。
【請求項23】
前記ブランクを切削点で機械加工する前記切削工具の前記ブランクに対する速度が、機械加工の結果形成されるチップが少なくとも瞬間的に前記切削点で局所的に浮遊するような速度であることを特徴とする、請求項1に記載のMMCの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−201012(P2011−201012A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−94530(P2011−94530)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【分割の表示】特願2000−582177(P2000−582177)の分割
【原出願日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【出願人】(508167634)サーブ エービー (3)
【氏名又は名称原語表記】SAAB AB
【住所又は居所原語表記】581 88 Linkoping Sweden
【Fターム(参考)】