説明

EDNRB(エンドセリンレセプター・タイプB)の多型による金華豚の識別方法

【課題】金華豚の識別方法、および金華豚の識別用試薬の提供。
【解決手段】ブタエンドセリンレセプター・タイプB(EDNRB)遺伝子上の344番目の多型変異を検出する、金華豚の識別方法。該多型変異の有無を指標とすることにより、金華豚の識別を行うことが可能である。該変異タンパク質を検出するための、変異蛋白質をコードするDNA、該変異蛋白質、該変異蛋白質を認識する抗体、及び金華豚の識別用試薬が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金華豚の識別方法、および、金華豚の識別用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタにおいて、毛色はそれぞれの品種を特徴付ける重要な形質である。日本で産業的に重要なものは、優性白色のランドレース種と大ヨークシャー種、褐色のデュロック種、および六白(ロッパク)(体幹部は黒色だが、顔、脚先、尾先が白色)のバークシャー種であり、その他、黒地に前脚とその胴回りが白色(黒地白ベルト)のハンプシャー種も少数飼育されている。一方、静岡県などでは中国から導入された金華豚(キンカトン)を用いた銘柄豚の造成を行っている。この金華豚は顔と臀部が黒色で、その他の体幹部は白色という特徴のある毛色パターンを示す。更に、中国豚において黒色の梅山豚(メイシャントン)も存在し、その多産性から遺伝資源として重要である。
【0003】
これらの品種を判別するにあたり、現在は毛の色に関連するMC1R(メラノサイト刺激ホルモンレセプター:メラノコルチン1レセプター)遺伝子の多型を用いて、「優性白色(ランドレース、大ヨークシャー)、六白(バークシャー)」、「黒色(梅山豚、金華豚;黒地の部分はMC1R遺伝子の黒色による)」、「褐色(デュロック)」、「黒地白ベルト(ハンプシャー;黒地の部分はMC1R遺伝子の優性黒色による)」の4つのカテゴリーに分けることが可能である(非特許文献1参照)。また、白色品種においては、第8染色体短腕に存在し白黒斑等の毛色パターン形成に関与するとされるKIT遺伝子が重複し、一方のKIT遺伝子において、イントロン17の最初の塩基がGからAに変化することでスプライスサイトを認識できなくなり、その転写産物はエキソン17を欠失する(非特許文献2参照)。KIT遺伝子の重複箇所は、BACクローンのコンティグ作製とそのシークエンシングにより確認された(非特許文献3参照)。更に、KIT遺伝子の重複度(重複無し、二重複、三重複)とスプライスサイト変異との詳細な量的関係が、パイロシークエンス法(Biotage社;Uppsala,Sweden)を用いて明らかにされている(非特許文献4参照)。なお、白ベルトの原因遺伝子はKITであることが明らかにされたが(非特許文献5参照)、白ベルトを生じさせる原因部位(突然変異)は未だ特定されていない。
【0004】
現在、マウスを主な研究対象に、68個の毛色関連遺伝子がクローニングされている(Coat color genes; http://ifpcs.med.umn.edu/micemut.htm)が、ブタにおいて毛色多型と遺伝子変異の対応がついたものはMC1RとKITの2遺伝子に留まる。また、ブタ品種において変異検索が行われたものはASIP(agouti signal protein; 非特許文献6参照)とP(Pink-eyed dilution; 非特許文献7参照)があり、ASIPについては点突然変異のレベルで原因部位は特定されていないが、black-and-tan(背中が黒く、腹側が薄い色)において、ASIPの発現量の違いが検出されている(非特許文献8参照)。しかしながら、その他の毛色関連遺伝子について変異検索は行われていない。特に金華豚については、毛色多型と遺伝子変異との関係はまったく不明であった。
【非特許文献1】Kijas, J.M.ら著、「Melanocortin receptor 1 (MC1R) mutations and coat color in pigs.」、Genetics.、1998年、Vol.150、no.3、p.1177-1185
【非特許文献2】Marklund, S.ら著、「Molecular basis for the dominant white phenotype in the domestic pig.」、Genome Res.、1998年、Vol.8、no.8、p.826-833
【非特許文献3】Giuffra, E.ら著、「A large duplication associated with dominant white color in pigs originated by homologous recombination between LINE elements flanking KIT.」、Mamm. Genome.、2002年、Vol.13、no.10、p.569-577
【非特許文献4】Pielberg. G.ら著、「A sensitive method for detecting variation in copy numbers of duplicated genes.」、Genome Res.、2003年、Vol.13、no.9、p.2171-2177
【非特許文献5】Giuffra, E.ら著、「The Belt mutation in pigs is an allele at the Dominant white (I/KIT) locus.」、 Mamm. Genome.、1999年、Vol.10、no.12、p.1132-1136
【非特許文献6】Leeb, T.ら著、「Genomic structure and nucleotide polymorphisms of the porcine agouti signalling protein gene (ASIP).」、Anim. Genet.、2000年、Vol.31、no.5、p.335-336
【非特許文献7】Fernandez, A.ら著、「Physical and linkage mapping of the porcine pink-eye dilution gene (OCA2).」、Anim. Genet.、2002年、Vol.33、no.5、p.392-394
【非特許文献8】Drogemuller, C.ら著、「The mutation causing the black-and-tan pigmentation phenotype of Mangalitza pigs maps to the porcine ASIP locus but does not affect its coding sequence.」、Mamm Genome.、Epub 2006年、Vol.17、p.58-66
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、金華豚を識別する方法の提供を課題とする。より具体的には、ブタEDNRB遺伝子における変異を検出することを特徴とする金華豚の識別方法、およびその識別方法用の試薬の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、網羅的にブタ毛色関連遺伝子のコード領域全長の決定と品種間での多型検索を行った。具体的には、本発明者らは、EDNRB遺伝子のCDS領域全長を含む転写産物を、ブタ7品種7個体(ランドレース、大ヨークシャー、デュロック、バークシャー、ハンプシャー、梅山豚、金華豚)の腎臓由来のmRNAを用いRT-PCRにより増幅し、その配列を確定した後に比較した。その結果、コドンから推定されるアミノ酸配列から、金華豚において64番目のアミノ酸が他のブタ品種とは異なる置換が存在した。この部分は金華豚では塩基Tでのセリン(Ser)であり、他の品種では塩基Cでのプロリン(Pro)であった(図2)。また、ヒトの転写産物と比較した場合、エキソン1内に相当し、アミノ末端の細胞外ドメインに存在していた。
【0007】
更に多くのブタ品種と個体で多型の検証をした。11品種192個体の参照DNAを用い、シークエンシングにより多型を検出した結果、金華豚のみ塩基Tへ置換していたが、他の品種は全ての個体で塩基Cであった(図3)。なおこの座位を、一般の研究室で簡便に検出できるようにPCR-RFLP法の検出系とした。制限酵素BsmAIを用いた10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果、金華豚においては83 bpと29 bpの2本に切断されたが、その他の豚は112 bpの1本となり、切断されないことが示された(図4)。
【0008】
上述の如く本発明者らは、新規に金華豚にてEDNRB遺伝子のアミノ酸置換を伴う特異的な多型変異を検出することに成功した。EDNRB遺伝子は7回膜貫通構造を持つGタンパク質共役型受容体で、神経冠細胞からメラニン細胞へ分化する際に必須の遺伝子である。
【0009】
本発明者らによって見出された上述の変異の有無を指標とすることにより、金華豚を識別することが可能である。金華豚の識別が可能な該多型変異は、本発明者らによって初めて見出された多型である。
【0010】
本発明者らは実際に本発明の方法を用いて、市場に流通している金華豚のハム、缶詰、生肉等について金華豚(金華豚の加工食品)か否かの検査を行った。その結果、本発明の方法を用いることにより、効果的に金華豚の識別が可能であることが実証された。即ち、市場に流通している製品においてもEDNRB遺伝子の多型を用いた本発明の金華豚の識別方法は非常に有効であることが示された。
【0011】
本発明は、金華豚を識別する方法であって、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の変異を検出することを含む方法に関し、より詳しくは、
〔1〕 ブタEDNRB遺伝子上の変異を検出することを特徴とする、金華豚を識別する方法、
〔2〕 変異が多型変異である、〔1〕に記載の方法、
〔3〕 変異がEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位の変異である、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕 変異がCからTへの置換変異である、〔3〕に記載の方法、
〔5〕 前記変異が検出された場合に被検ブタは金華豚と判定する、または、検出されない場合に被検ブタは金華豚ではないと判定する工程を含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法、
〔6〕 ブタEDNRB遺伝子の塩基配列において344番目の部位がTへ置換された塩基配列によってコードされるブタEDNRB変異タンパク質、
〔7〕 〔6〕に記載の変異タンパク質をコードするDNA、
〔8〕 配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド(位置344番目はT)において、344番目の塩基を含む20〜100の連続したDNA配列からなるポリヌクレオチド、
〔9〕 〔6〕に記載の変異タンパク質を認識する抗体、
〔10〕 以下の(a)〜(c)のいずれかの物質を有効成分とする、金華豚の識別用試薬、
(a)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位を含むDNA領域を増幅するためのポリヌクレオチド
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位を含むDNA領域とハイブリダイズすることを特徴とするポリヌクレオチド
(c)〔9〕に記載の抗体
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らは、MC1R遺伝子における毛色と品種の関係、およびKIT遺伝子の白色と品種の関係についてPCR-RFLPにおける検出系を作製し、その特許文献は2000年の時点で開示された(特許公開番号第2000-350586号)。この特許文献には、MC1R遺伝子のデュロック種の褐色および梅山豚の黒色に関与する部分、KIT遺伝子のエキソン17の欠落に関与する部分、およびKIT遺伝子のイントロン多型の組み合わせでハンプシャー種等を含めた産業基幹品種の分類に関して記載されているが、当時KIT遺伝子のゲノム上での重複位置、およびMC1R遺伝子のsomatic reversionを生じる2塩基長の挿入/非挿入部位は特定されておらず、上述の特許文献にこれらの情報は含まれていない。
【0013】
今回本発明者らによって、初めて金華豚の識別が可能な遺伝子多型が見出された。
豚品種を識別することは、畜産業の発展、食肉の流通のために極めて重要である。品種はより正確な方法で識別することが重要であり、毛色のみで行う識別よりも遺伝的マーカーを用いた識別が望ましい。本発明により、これまで決定的なマーカーの無かった金華豚を、EDNRB遺伝子における変異という遺伝的マーカーを用いて識別することが初めて可能となった。金華豚の正確な識別は、円滑な金華豚の生産、流通、消費の上で重要であり、本発明は金華豚の生産から消費に至るまでのトレーサビリティシステムの構築にも重要な役割を果たすものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、金華豚を識別する方法を提供する。本発明の方法の好ましい態様としては、ブタEDNRB遺伝子上の変異を検出することを特徴とする方法である。
本発明におけるブタEDNRB遺伝子は、7回膜貫通構造を持つGタンパク質共役型受容体をコードしており、神経冠細胞からメラニン細胞へ分化する際に必須な遺伝子である。上記EDNRB遺伝子の塩基配列を配列番号:1に、該塩基配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
当該配列は、当業者においては、公共の遺伝子データバンク、例えば、PubMedアクセッション番号AB209953によって取得することが可能である。
【0015】
本発明において「識別」とは、金華豚とその他の豚と区別することをいい、例えば、「鑑別」あるいは「判別」等と表現してもよい。
また、本発明の方法は、必ずしもブタ個体を識別する方法に限定されず、例えば、食肉もしくは精肉加工品(例えば、金華ハム等)が金華豚に由来するか否かを識別する方法もまた、本発明の識別方法に含まれる。輸入ハムや缶詰等を対象に本願方法を好適に実施することができる。
【0016】
本発明において「変異」とは、塩基の置換、欠失、挿入等を指す。また必ずしも、単一の塩基部位のみが変異している状態のみを指すものではない。即ち、ある特定の塩基部位を含むDNA領域が単数箇所あるいは複数個所において変異した場合(例えば、特定の変異に加え、隣接する数bpのDNAまでも含むようなDNA領域の変異等)であっても、本発明の「変異」に含まれる。本発明において「変異」とは、特に制限されないが、好ましくは多型変異であり、より好ましくは一塩基多型(SNP)変異である。
本発明の金華豚の識別方法の好ましい態様としては、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位の変異を検出することを特徴とする方法である。
【0017】
本発明において変異を検出する部位は、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)において、好ましくは344番目の多型部位であるが、必ずしもこの部位にのみ限定されない。例えば、該344番目の多型部位と強く連鎖している近傍の多型部位もまた、本発明の金華豚の識別に利用することが可能である。当業者であれば、本発明者らによって見出されたEDNRB遺伝子の344番目の多型部位と強く連鎖する多型部位を探索し、金華豚の識別に利用可能な多型部位を新たに見出すことも可能である。
本発明において変異とは、例えば、上記の344番目の多型部位においてCからTへの置換変異であることが好ましい。
【0018】
本発明の方法は、被検ブタについてEDNRB遺伝子の塩基配列において変異が検出された場合に、被検ブタは金華豚であると判定され、または、検出されない場合に被検ブタは金華豚ではないものと判定される。
【0019】
本発明の識別方法において、変異を検出する方法(手段)は、公知の種々の方法を利用することが可能である。即ち、変異を検出可能な方法であれば任意の方法を本発明の識別方法において用いることができる。
【0020】
以下にEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の多型変異の検出が可能な方法を例示するが、必ずしもこれらの方法に限定されない。当業者であれば、変異の種類や位置等を考慮して、適宜当該変異を検出することが可能である。
【0021】
まず、被検ブタのEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)において上記変異部位を含む塩基配列を直接決定することを特徴とする、以下の工程を含む方法を挙げることができる。
(a)被検ブタからDNAを調製する工程
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する工程
(c)増幅したDNAの塩基配列を決定する工程
この方法においてはまず、被検ブタからDNA試料を調製する。DNA試料は、例えば被検ブタの臓器、または組織、あるいは細胞や血液、口腔粘膜、皮膚、毛等から抽出した染色体DNAを基に、あるいはイントロンを含まないcDNAもしくはmRNAを基に調製することができる。
【0022】
本方法においては、次いで、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を単離する。該DNAの単離は、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の少なくとも一部の塩基配列を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって行うことも可能である。本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者に公知の方法で行うことができる。
本方法においては、次いで、決定したDNAの塩基配列を、対照と比較する。本方法における対照とは、正常な(野生型)ブタEDNRB遺伝子の配列を言う。
【0023】
本発明の識別方法は、上記の如く直接被検ブタ由来のDNAの塩基配列を決定する方法以外に、上記変異の検出が可能な種々の方法によって行うことができる。
例えば、本発明における上記変異の検出は、以下の工程を含む方法によっても行うことができる。
(a)被検ブタからDNAを調製する工程
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する工程
(c)増幅したDNAを制限酵素により切断する工程
(d)DNA断片をその大きさに応じて分離する工程
(e)検出されたDNA断片の大きさを対照と比較する工程
まず、被検ブタからDNA試料を調製する。次いで、ブタEDNRB遺伝子の344番目の部位を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する。
【0024】
このような方法としては、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR−RFLP法等が挙げられる。具体的には、制限酵素の認識部位に変異が存在する場合、制限酵素処理後に生じる断片の大きさが対照と比較して変化する。この変異を含む部分をPCR法によって増幅し、それぞれの制限酵素で処理することによって、これらの変異を電気泳動後のバンドの移動度の差として検出することができる。あるいは、染色体DNAをこれらの制限酵素によって処理し、電気泳動した後、本発明のプローブDNAを用いてサザンブロッティングを行うことにより、変異の有無を検出することができる。用いられる制限酵素は、それぞれの変異に応じて適宜選択することができる。この方法では、ゲノムDNA以外にも被検ブタから調製したRNAを逆転写酵素でcDNAにし、これをそのまま制限酵素で切断した後、サザンブロッティングを行うことも可能である。また、このcDNAを鋳型としてPCRでブタEDNRB遺伝子の344番目の部位を含むDNA領域を増幅し、それを制限酵素で切断した後、移動度の差を調べることも可能である。さらに、ゲノムDNAまたはこのcDNAを蛍光ラベルしたプライマーを用いてPCR増幅し、制限酵素切断の後、シークエンサー等のディテクターで変異を検出することも可能である。
なお、上記方法において使用する制限酵素は、通常、ブタEDNRB遺伝子の344番目の部位を含むDNA配列を認識する酵素である。
【0025】
さらに別の方法としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。
(a)被検ブタからDNAを調製する工程
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する工程
(c)増幅したDNAを一本鎖に解離させる工程
(d)解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する工程
(e)分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する工程
まず、被検ブタからDNA試料を調製する。次いで、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する。さらに、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する。分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する。
【0026】
該方法としては、例えばPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling. 、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)が挙げられる。この方法は操作が比較的簡便であり、また被検試料の量も少なくて済む等の利点を有するため、特に多数のDNA試料をスクリーニングするのに好適である。その原理は次の通りである。二本鎖DNA断片を一本鎖に解離すると、各鎖はその塩基配列に依存した独自の高次構造を形成する。この解離したDNA鎖を、変性剤を含まないポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、それぞれの高次構造の差に応じて、相補的な同じ鎖長の一本鎖DNAが異なる位置に移動する。一塩基の置換によってもこの一本鎖DNAの高次構造は変化し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において異なる移動度を示す。従って、この移動度の変化を検出することによりDNA断片に欠損等による変異が存在することを検出することができる。
【0027】
具体的には、まず、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する。増幅される範囲としては、通常200〜400bp程度の長さが好ましい。PCRは、当業者においては反応条件等を適宜選択して行うことができる。PCRの際に、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識したプライマーを用いることにより、増幅DNA産物を標識することができる。あるいはPCR反応液に32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を加えてPCRを行うことにより、増幅DNA産物を標識することも可能である。さらに、PCR反応後にクレノウ酵素等を用いて、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を、増幅DNA断片に付加することによっても標識を行うことができる。こうして得られた標識DNA断片を、熱を加えること等により変性させ、尿素などの変性剤を含まないポリアクリルアミドゲルによって電気泳動を行う。この際、ポリアクリルアミドゲルに適量(5から10%程度)のグリセロールを添加することにより、DNA断片の分離の条件を改善することができる。また、泳動条件は各DNA断片の性質により変動するが、通常、室温(20から25℃)で行い、好ましい分離が得られないときには4から30℃までの温度で最適の移動度を与える温度の検討を行う。電気泳動後、DNA断片の移動度を、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーや、蛍光を検出するスキャナー等で検出し、解析を行う。移動度に差があるバンドが検出された場合、このバンドを直接ゲルから切り出し、PCRによって再度増幅し、それを直接シークエンシングすることにより、変異の存在を確認することができる。また、標識したDNAを使わない場合においても、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドや銀染色法などによって染色することによって、バンドを検出することができる。
【0028】
さらに別の方法としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。
(a)被検ブタからDNAを調製する工程
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する工程
(c)ヌクレオチドプローブが固定された基板を提供する工程
(d)工程(b)のDNAと工程(c)の基板を接触させる工程
(e)該DNAと該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する工程
(f)工程(e)で検出された強度を対照と比較する工程
まず、被検ブタから調製したブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位の塩基を含むDNA、および該DNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する。次いで、該DNAと該基板を接触させる。さらに、基板に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズしたDNAを検出することにより、上記「変異」を検出する。
【0029】
このような方法としては、DNAアレイ法が例示できる。ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含む DNA試料の調製は、当業者に周知の方法で行うことができる。該DNA試料の調製の好ましい態様においては、例えば被検ブタの血液、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞から抽出した染色体DNAを基に調製することができる。染色体DNAから本方法のDNA試料を調製するには、例えば、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域にハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNAを鋳型としたPCR等によって、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNAを調製することも可能である。調製したDNA試料には、必要に応じて、当業者に周知の方法によって検出のための標識を施すことができる。
【0030】
本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。本発明の基板は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non-porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することができる。
【0031】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インサイチュ(in situ)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0032】
基板に固定するヌクレオチドプローブは、上記「変異」を検出することができるものであれば、特に制限されない。即ち該プローブは、例えば、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNAと特異的にハイブリダイズするようなプローブである。特異的なハイブリダイズが可能であれば、ヌクレオチドプローブは、検出するブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNAに対し、完全に相補的である必要はない。
本発明において基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。
【0033】
本発明においては、次いで、該cDNA試料と該基板を接触させる。本工程により、上記ヌクレオチドプローブに対し、DNA試料をハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さ等の諸要因により変動しうるが、一般的に当業者に周知の方法により行うことができる。
本発明においては、次いで、該DNA試料と基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの有無または強度を検出する。この検出は、例えば、蛍光シグナルをスキャナー等によって読み取ることによって行うことができる。尚、DNAアレイにおいては、一般的にスライドガラスに固定したDNAをプローブといい、一方溶液中のラベルしたDNAをターゲットという。従って、基板に固定された上記ヌクレオチドを、本明細書においてヌクレオチドプローブと記載する。
【0034】
さらに別の方法としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。
(a)被検ブタからDNAを調製する工程
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域にハイブリダイズするヌクレオチドとハイブリダイゼーションさせる工程
(c)ハイブリッド形成の程度を検出する工程
(d)工程(c)で検出された程度を対照と比較する工程
まず、被検ブタから調製したブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位の塩基を含むDNA、および該DNAとハイブリダイズするヌクレオチドを用意する。次いで、該DNAとヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせる。さらに、ハイブリッド形成の程度を検出し、対照と比較することにより、上記変異を検出する。
【0035】
具体的には、特定位置の欠損のみを検出する目的にはアレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。変異(欠損)が存在すると考えられる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを作製し、これと試料DNAでハイブリダイゼーションを行わせると、変異が存在する場合、ハイブリッド形成の効率が低下する。それをサザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法、等により検出することができる。
【0036】
また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法による検出も可能である。具体的には、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNAをPCR法等によって増幅し、これをプラスミドベクター等に組み込んだEDNRB遺伝子最終エキソンcDNA等から調製した標識RNAとハイブリダイゼーションを行う。変異が存在する部分においてはハイブリッドが一本鎖構造となるので、この部分をリボヌクレアーゼAによって切断し、これをオートラジオグラフィー等で検出することによって変異を検出することができる。
【0037】
またInvader法による検出も可能である。具体的には、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位にハイブリダイズする2種類のオリゴヌクレオチド(アレルオリゴ及びInvaderオリゴ)を用意する。該部位においてInvaderオリゴがアレルオリゴの下に1塩基のみ侵入する。侵入構造を認識する部分を酵素反応で切断することによりアレルオリゴの断片が放出される。過剰なアレルオリゴにより反応が繰り返され、断片の量が増幅される。変異に対応したオリゴヌクレオチドを用い、断片量を検出することにより、変異を検出することができる。
【0038】
またTaqMan probe法による検出も可能である。具体的には、5’末端を特殊な蛍光物質(FAMなど)で、3’末端をクエンチャー物質(TAMRAなど)で修飾した、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNAにハイブリダイズするオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)の存在下で、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNAをPCR法等によって増幅する。PCRの伸長反応ステップのときに、鋳型DNAにハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる抑制が解除されて蛍光が発せられる。異なる変異ごとに異なる蛍光を発するTaqMan probeを用い、蛍光の量を測定することにより、変異を検出することができる。
【0039】
さらに別の方法としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。
(a)被検ブタからDNAを調製する工程
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する工程
(c)工程(b)で増幅したDNAを質量分析器にかけ、分子量を測定する工程
(d)工程(c)で測定した分子量を対照と比較する工程
まず、被検ブタからDNAを調製し、次いで、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域を増幅する。次いで、増幅したDNAを質量分析器にかけ、分子量を測定する。次いで、測定した分子量を対照と比較する。このような方法としては、例えば、MALDI-TOF MS法(Trends Biotechnol (2000):18:77-84)等が挙げられる。
【0040】
本発明の上記検査方法の別の態様は、ブタEDNRB遺伝子の発現産物を指標とすることによって検査を行う方法である。ここで「発現」とは、転写および翻訳が含まれる。従って、「発現産物」には、mRNAおよびタンパク質が含まれる。
【0041】
本発明の好ましい態様においては、ブタEDNRB遺伝子の発現産物を検出することを特徴とする、金華豚を識別する方法を提供する。該方法は、例えば、以下の工程を含む方法である。
(a)被検ブタからタンパク質試料を調製する工程
(b)該タンパク質試料に含まれる、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位がTへ置換された塩基配列(配列番号:3)によってコードされるブタEDNRB変異タンパク質の量を測定する工程
まず、被検ブタからタンパク質試料を調製し、該タンパク質試料に含まれるブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位がTへ置換された塩基配列(配列番号:3)によってコードされるブタEDNRB変異タンパク質の量を測定する。
【0042】
このような方法としては、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、並びにブタ変異EDNRBタンパク質を認識する抗体を用いたウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、免疫蛍光法、飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS、ESI-TOF MS等)等を例示することができる。
上記の方法によって、ブタEDNRB変異タンパク質が検出された場合に、被検ブタは金華豚であるものと判定される。一方、上記変異タンパク質が検出されない場合に、被検ブタは金華豚ではないものと判定される。
【0043】
また本発明は、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列において344番目の部位がTへ置換された塩基配列によってコードされるブタEDNRB変異タンパク質を提供する。該変異タンパク質としては、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において64位のプロリンがセリンへ置換された配列からなるブタEDNRB変異タンパク質(配列番号:4)を示すことができる。さらに、該変異タンパク質をコードするDNAもまた本発明に含まれる。
また、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位の多型変異は、本発明者らによって初めて見出された多型である。従って、本発明は、配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド(位置344番目はT)(配列番号:3)において、344番目の塩基を含む20〜100の連続したDNA配列からなるポリヌクレオチドを提供する。該ポリヌクレオチドの鎖長は特に制限されず、例えば、20〜80ヌクレオチド、20〜50ヌクレオチドの鎖長であってもよい。
【0044】
本発明はまた、金華豚を判定する方法に用いるための識別用試薬を提供する。
その一つの態様は、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域とハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するポリヌクレオチドを有効成分として含む、識別用試薬である。
該ポリヌクレオチドは、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域に特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該ポリヌクレオチドは、検出する上記塩基配列に対し完全に相補的である必要はない。
【0045】
ハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、5×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0046】
該ポリヌクレオチドは、本発明の識別方法におけるプローブやプライマーとして利用することができる。該ポリヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNAを増幅しうるものであれば、特に制限されない。該プライマーとしては、例えば、後述の実施例に記載された配列番号:20または21で示される配列からなるポリヌクレオチドが挙げられるが、このポリヌクレオチドに特に限定されるものではない。
また、本発明のポリヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、ブタEDNRB遺伝子の塩基配列(配列番号:1)の344番目の部位を含むDNA領域に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成ポリヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば市販のポリヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
本発明のポリヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、ポリヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーポリヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0048】
本発明の検査薬の他の一つの態様は、ブタEDNRB変異タンパク質を認識する抗体を含む、識別用試薬である。該抗体は、本発明の方法に用いることが可能な抗体であれば、特に制限されないが、例えばポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が挙げられる。抗体は必要に応じて標識されていてもよい。
【0049】
ブタEDNRB変異タンパク質を認識する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。ブタEDNRB変異タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントブタEDNRB変異タンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ブタEDNRB変異タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、ブタEDNRB変異タンパク質若しくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコールなどの試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、ブタEDNRB変異タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、ブタEDNRB変異タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0050】
本発明の識別用試薬としては、好ましくは、以下の(a)〜(c)の物質を有効成分として含む試薬が挙げられる。
(a) ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位を含むDNA領域を増幅するためのポリヌクレオチド
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位を含むDNA領域とハイブリダイズすることを特徴とするポリヌクレオチド
(c)請求項9に記載の抗体
上記の識別用試薬においては、有効成分であるポリヌクレオチドや抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
また、本発明の試薬を少なくとも含有する金華豚識別用キットもまた、本発明に含まれる。該キットには、上記(a)〜(c)のいずれかに記載の物質の他に、例えば、本発明の方法に用いるための各種試薬類、反応液、対照標品、反応容器、操作器具等を含めることができる。
【実施例】
【0051】
以下本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
〔実施例1〕 ブタEDNRB遺伝子全長の増幅
ヒトのEDNRB遺伝子の完全長配列(NM_003991)を基に、ブタ配列のblast検索を行ったが、完全長を増幅するための5'-UTRと3'-UTR部分がブタにおいて検索できなかったため、2つのBACクローン(269C9と730E2; Suzuki. K.ら著、「Construction and evaluation of a porcine bacterial artificial chromosome library.」、Anim. Genet.、2000年、Vol.31、no.1、p.8-12)を抽出し、5'-と3'-側それぞれに向けてBACダイレクトシークエンスを行い、その配列を基にRT-PCR用のプライマーを作製した。BACクローン抽出と5'-および3'-UTR領域へのBACダイレクトシークエンス用のプライマーは、ヒト(NM_003991)、マウス(BC026553)、ウマ(AF019072)、イヌ(AB183285)のEDNRB遺伝子配列をアライメントすることにより、保存されている領域を考慮し作製した。なお、作製したプライマーを図1に配列番号とともに記す。
【0052】
シークエンスしたBACの配列を基にRT-PCR用のプライマーを作製した。totalRNAはブタ7品種7個体の腎臓(ランドレース、大ヨークシャー、デュロック、バークシャー、ハンプシャー、梅山豚、金華豚)から、RNeasy Protect Midi Kit (QIAGEN; Hilden, Germany)を用い、プロトコールにしたがい抽出した。
ファースト・ストランドのcDNA合成は、抽出したtotalRNAからReverTra Ace α(東洋紡、堂島浜、大阪)を用い、プロトコールに従い作製した。プライマーセットEDNRB-5により、合成したcDNAを鋳型にPCRを行い、EDNRB遺伝子全長を増幅した。PCRはLA-PCRキット(タカラバイオ、大津、滋賀)を用い、プロトコールにしたがい増幅させた。
1%アガロースゲル電気泳動により増幅産物を確認し、ゲルからQIAquick Gel Extraction Kit; Hilden, Germany)を用い、増幅が予想された約1.9 kbp付近の産物を切り出し、回収した。プライマーセットEDNRB-6を用い、各個体で増幅した産物のダイレクトシークエンスを行い、配列を確定した。
【0053】
〔実施例2〕 一塩基多型(SNP)の検出
GENETYX-WIN Ver. 5.1 (ソフトウェア開発、渋谷、東京)を用いて、各個体7配列のアライメントを行い、1塩基多型(SNP)を抽出した。それにより、エキソン1にアミノ酸置換を含む多型が存在することが判明した。
図2に、RT-PCRにて増幅した配列のアライメントによって抽出した変異を示す。アクセッション番号(AB209953)に登録した配列は、プライマーセット(EDNRB-5)によって増幅し、プライマー領域を除いた増幅部分(1,845塩基長)を示す。この登録配列の最初の塩基を1として、344番目の塩基がT(チミン;金華豚)からC(シトシン;その他の全ての品種)に置換していた。この部分においてコドンから推定されるアミノ酸置換は塩基Cでのプロリン(Pro)から塩基Tでのセリン(Ser)であり、開始コドンにおけるメチオニンをアミノ酸配列の1番目とした場合は、64番目のアミノ酸番号となる。また、ヒトの転写産物と比較した場合、エキソン1内に相当した。
【0054】
その他のSNP遺伝子座は、ヒトの転写産物と比較した場合、3'-UTR内に相当した。1,629番目の塩基は大ヨークシャー、バークシャー、ハンプシャーでA(アデニン)、デュロックと金華豚でG(グアニン)、ランドレースと梅山豚でAとGのヘテロであった。また、1,811番目はデュロックでT(チミン)を示すものの、梅山豚を除いて他は欠失していた。また、梅山豚ではTと欠失のアレルタイプであった。
【0055】
〔実施例3〕 ゲノムPCRによるSNP解析
さらに本発明者らは、上記のように多型の存在が判明したので、エキソン1に存在するアミノ酸置換を生じる部位について、更に多くの個体で変異を検索するために、ゲノムPCRとシークエンシングを行った、ゲノムPCR用のプライマーセット(EDNRB-4)は、BACクローンのダイレクトシークエンスから得られた配列を参考に作製した。
このセットにおいて、ブタ11品種192個体からなる参照DNAパネルを用いたゲノムPCRを行い、増幅産物の配列をシークエンシングにより決定した。その後、アライメントによって品種内・品種間の各個体のSNPを検出した。TaqポリメラーゼはAmpliTaq Gold(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用い、アニーリング温度を60℃とした30サイクルにて、プロトコールにしたがい増幅させた。
【0056】
参照DNAパネルのブタ品種と個体数は、ランドレース(16)、大ヨークシャー(31)、中ヨークシャー(6)、デュロック(32)、バークシャー(34)、ハンプシャー(20)、金華豚(12)、梅山豚(32)、ポットベリー(3)、クラウンミニ(1)、日本イノシシ(5)で、合計192個体である。
図3に、ゲノムPCRによって明らかとなったSNPを示す。参照DNAパネルでの検索によっても、344番目の塩基がT(チミン;金華豚)からC(シトシン;その他の全ての品種)に置換していた。よって、このSNP遺伝子座は金華豚を他のブタ品種から識別する有効なマーカーであることが判明した。
【0057】
この座位を、一般の研究室で簡便に検出できるようにPCR-RFLP法の検出系とした。プライマーセットEDNRB-7を用いたゲノムPCRによって112 bpの断片が増幅した。この断片を制限酵素BsmAI(New England Biolabs; Beverly, MA, USA)を用い、プロトコールにしたがい55℃で一晩制限酵素処理を行った。10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果、金華豚においては83 bpと29 bpの2本に切断されたが、その他の豚は112 bpの1本となり、切断されないことが示された(図4)。
【0058】
〔実施例4〕 市場に流通している金華豚のハム、缶詰、生肉等を被検対象とする金華豚の検査
現在、金華豚の肉は加工品として主に中国から輸入されている。なかでも金華ハム(金華火腿)は調味用の肉として広く中華料理に使用されている。
今回開発したEDNRB遺伝子の多型による金華豚の識別技術を用い、日本に輸入されている食材のうち、金華火腿4点、金華火腿の缶詰1点、および国内で生産されている生肉を購入し、実際に識別法が有効であるかを検討した。なお、それぞれの購入先は別会社であり、同じ販売会社から2点以上購入していない。
【0059】
これら製品のEDNRB遺伝子をPCR-RFLPで調査したところ、輸入された金華火腿5点((1)〜(5))では制限酵素で切断されず112bpの断片のままであった。一方、生肉((6))では切断を受け、83bpと29bpの2本の断片となった(図5)。そこで、優性白色を生じるKIT遺伝子の変異部分(イントロン17の最初の塩基)を併せて調査した。使用したプライマーと制限酵素は以下である。
優性白色(dominant white; I対立遺伝子)検出部、93bp増幅; 制限酵素NlaIII(New England Biolabs)処理。5'端の括弧内は奥村らの文献(奥村直彦、小林栄治、鈴木秀昭、両角岳哉、濱島紀之、三橋忠由、「ブタ品種間に認められるMC1R遺伝子およびKIT遺伝子の多型」日本畜産学会報 71(8), 222-234 (2000))のFig.2aを参照にした塩基番号である。
KIT-F(I): 5'(1249)- gat ttg tga ttt tgg tct agc cag aga -3'(配列番号:22)
KIT-R(I): 5'(1341)- ggg act gtc agg aga gcg tgg -3'(配列番号:23)
【0060】
このPCR-RFLPの系において、優性白色(LWDなどの三元交雑種も含む)では、KIT遺伝子の重複・変異した白色検出部の配列がNlaIIIで切断されるため、65bpと28bpのDNA断片を生じる。一方、他(色)品種・個体では、制限酵素処理によってこれらの断片は観察されない。93bpのPCR増幅断片は、制限酵素処理後も全ての品種・個体で観察される(重複した一方の突然変異の生じていない野生型は切断されない)。
KIT遺伝子において、輸入された金華火腿5点では優性白色を示す65bpと28bpの断片が観察されるが、生肉と金華豚のコントロール試料では制限酵素の切断を受けず93bpの断片のままとなっている(図6)。したがって、輸入された金華火腿5点は白色の豚であり、金華豚の純粋種ではないと判明した。以上の結果から、市場に流通している製品においてもEDNRB遺伝子の多型を用いた金華豚の識別法は有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明で用いたプライマーのセットについて示す図である。プライマーの番号は、任意に製造順につけた番号を示す。位置についてはGenBankに登録したaccession number (EDNRB;AB209953) の配列を基準とし、その最初の塩基番号を1とした番号を示している。
【図2】RT-PCRにより増幅した配列の比較により検出された塩基置換を示す図である。なお図中の1)は、Ensembl browser (http://www.ensembl.org/Homo_sapiens/) における、ヒトでの転写産物transcript ID: ENST00000334286 (EDNRB)のエキソン番号を示す。
【図3】ゲノムPCRとシークエンシングによって検出された多型と遺伝子型および各品種での個体数を示す図である。品種と記号は次のように対応する。L:ランドレース、W:大ヨークシャー、Y:中ヨークシャー、D:デュロック、B:バークシャー、H:ハンプシャー、J:金華豚、M:梅山豚、PB:ポットベリー、CL:クラウンミニ、WB:日本イノシシ。位置は登録番号(AB209960)の配列を基準に、最初の塩基を1とした場合の塩基番号を示す。プライマーを除いた増幅長は718bpである。EDNRB遺伝子では、344番目の塩基置換によりアミノ酸置換が生ずると推定される。この座位で金華豚のみがT/Tのホモ型を示し、他の個体はC/Cのホモ型となる。
【図4】EDNRB遺伝子のPCR-RFLPによるポリアクリルアミド電気泳動像を示す写真である。ブタ品種の略号は次のように対応する。L:ランドレース、W:大ヨークシャー、D:デュロック、B:バークシャー、H:ハンプシャー、P:ポットベリー、J:金華豚、M:梅山豚、WB:日本イノシシ。mは25bpのラダーマーカーを示す。
【図5】EDNRB遺伝子のPCR-RFLP解析(BsmAI処理)の結果を示す写真である。(1)〜(6)は市場で購入した製品、Jは金華豚、およびTは三元交雑豚(LWD)のサンプルである。m50、およびm25はそれぞれ50bpと25bpのラダーマーカーを示す。
【図6】KIT遺伝子のPCR-RFLP解析(NlaIII処理)の結果を示す写真である。(1)〜(6)は市場で購入した製品、Jは金華豚、およびTは三元交雑豚(LWD)のサンプルである。m50、およびm25はそれぞれ50bpと25bpのラダーマーカーを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタEDNRB遺伝子上の変異を検出することを特徴とする、金華豚を識別する方法。
【請求項2】
変異が多型変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
変異がEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位の変異である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
変異がCからTへの置換変異である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記変異が検出された場合に被検ブタは金華豚と判定する、または、検出されない場合に被検ブタは金華豚ではないと判定する工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ブタEDNRB遺伝子の塩基配列において344番目の部位がTへ置換された塩基配列によってコードされるブタEDNRB変異タンパク質。
【請求項7】
請求項6に記載の変異タンパク質をコードするDNA。
【請求項8】
配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド(位置344番目はT)において、344番目の塩基を含む20〜100の連続したDNA配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項6に記載の変異タンパク質を認識する抗体。
【請求項10】
以下の(a)〜(c)のいずれかの物質を有効成分とする、金華豚の識別用試薬。
(a)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位を含むDNA領域を増幅するためのポリヌクレオチド
(b)ブタEDNRB遺伝子の塩基配列の344番目の部位を含むDNA領域とハイブリダイズすることを特徴とするポリヌクレオチド
(c)請求項9に記載の抗体

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−17796(P2008−17796A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194272(P2006−194272)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年1月26日発行の「Animal Genetics 第37巻1号」に発表
【出願人】(593027587)社団法人農林水産先端技術産業振興センター (7)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】