説明

III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ

【課題】オン抵抗の低いストッパー層を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを提供する。
【解決手段】単結晶基板8上に、GaAs層、AlGaAs層からなるバッファ層9、n型不純物を含有するAlGaAs層又はInGaP層若しくはSiプレナードープ層からなる電子供給層10、InGaAs層からなるチャネル層12、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するGaAs層又はAlGaAs層からなるショットキー層14、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するInGaP層からなるストッパー層15、n型不純物を含有するGaAs層からなるキャップ層16を積層したHEMT構造18を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ17において、ストッパー層15におけるInGaP中のAsが占めるV族原子分率が15%以下であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族化合物半導体からなる高電子移動度トランジスタ用のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハに関するものである。
【背景技術】
【0002】
GaAsを中心とするIII−V族化合物半導体を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT:High electoron mobility transistor)は、超高速、高周波動作の観点から光通信システムの信号処理回路等の高速デジタル回路、携帯電話、無線LAN等の無線通信機器の送信/受信信号の切り替えや内蔵アンテナと外部アンテナの切り替えに使用される。また低雑音の観点から、マイクロ波、又は、ミリ波帯で使用される低雑音増幅器への使用も期待されている。
【0003】
HEMTは、従来から使用されている電界効果トランジスタ(FET:Field effect transistor)に対しより高速動作ができるように電子を供給する領域(電子供給層)と電子が走行する領域(チャネル層又は電子走行層)を分離した構造となっている。更に、チャネル層と電子供給層は、材料が異なるためバンドギャップ、電子親和力が異なり、これらのヘテロ接合界面には伝導帯不連続が生じ、一種の量子井戸が形成される。ここに電子が有効的に閉じこめられ、いわゆる二次元原子ガスが形成される。二次元原子ガスが存在するチャネル側にはイオン化不純物が存在しないため、低温から室温にわたって、より高い移動度を示すことができる。
【0004】
一方、これまでのFETは、電子供給層内を電子が走行するために電子を供給する不純物濃度が高くなるにつれ、その不純物が電子走行の障害となり、電子の走行速さ(移動度)を低下させることから電子濃度を高くすることが困難であった。この電子濃度の制約により、層内のオン抵抗を高め、消費電力を増幅させる要因となっていた。
【0005】
HEMTの基本構造は、図3に示すように、単結晶基板(半絶縁性のGaAs基板)1上に、電流リークを防止し、歪を緩衝するためのバッファ層2、電子が走行するチャネル層(電子走行層)3、電子を供給する電子供給層4、ショットキー電極と接し耐圧をとるためのショットキー層5、チップ化プロセス時にエッチングを止めるためのストッパー層(エッチングストッパー層)6、更にその上に電極となる金属との接触抵抗を小さくするためにn型のキャリアを高濃度にドープしたコンタクト層(キャップ層)7を順に積層したものである。
【0006】
バッファ層2は、ノンドープのGaAs層とAlxGa(1-x)As層(但し0<x<1)を交互にそれぞれ数nm〜数十nm積層してなる。チャネル層3は、InxGa(1-x)As層(但し0<x<1)からなる。但し、InGaAs層はGaAsに格子整合が不可であるため格子緩和が発生しない程度の組成、膜厚が用いられる。電子供給層4は、高濃度のn型AlxGa(1-x)As層(但し0<x<1)を数十nm、若しくはSiプレナードープ層が積層されてなり、ショットキー層5は、ノンドープ若しくは低濃度のn型AlxGa(1-x)As層(但し0<x<1)を数十nm積層してなる。ストッパー層6は、ノンドープ若しくはn型InGaP層を数十nm積層してなる。コンタクト層7としては、高濃度にSiをドーパントしたn型GaAs層若しくは、近年ではより接触抵抗を下げるためにTe又はSeをドーパントしたn型InxGa(1-x)As層(但し0<x<1)を用いることもある。
【0007】
これらIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハは、固体或いは液状の有機金属原料をガス化して供給し、昇温した基板上で熱分解、化学反応させて、その上に薄膜結晶をエピタキシャル成長させる手法(MOCVD法)と、超真空中で結晶の構成元素をそれぞれ別々のルツボから蒸発させ、分子線の形で昇温させた基板上に供給し、その上に薄膜結晶をエピタキシャル成長させる手法(MBE法)によって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−93838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ストッパー層を有するHEMT構造を成長させた場合、InGaP層からなるストッパー層中にV属原子分率で15%を超えるAsが混入してしまう問題がある。V属原子分率で15%を超えるAsが混入したストッパー層ではエッチングプロセス時に表面が白く曇ってしまう。或いはAlGaAs/InGaP界面に不純物ピークが出てしまう。この場合、チップ化プロセスを行った際、ストッパー層が抵抗層となってしまい、オン抵抗が増大してしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的は、オン抵抗の低いストッパー層を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために創案された本発明は、単結晶基板上に、GaAs層、AlGaAs層からなるバッファ層、n型不純物を含有するAlGaAs層又はInGaP層若しくはSiプレナードープ層からなる電子供給層、InGaAs層からなるチャネル層、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するGaAs層又はAlGaAs層からなるショットキー層、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するInGaP層からなるストッパー層、n型不純物を含有するGaAs層からなるキャップ層を積層したHEMT構造を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハにおいて、前記ストッパー層におけるInGaP中のAsが占めるV族原子分率が15%以下であるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハである。
【0012】
前記ストッパー層のPLピーク波長が660nm以下であると良い。
【0013】
前記HEMT構造上に、HBT構造を積層したBiFET構造を有すると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オン抵抗の低いストッパー層を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを示す図である。
【図2】基板温度を変えたときのInGaP中のAs取り込み量を示す図である。
【図3】HEMTの基本構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0017】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを示す図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ17は、GaAsからなる単結晶基板8上に、GaAs層、AlGaAs層からなるバッファ層9、n型不純物を含有するAlGaAs層又はInGaP層若しくはSiプレナードープ層からなる電子供給層10、InGaAs層からなるチャネル層12、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するGaAs層又はAlGaAs層からなるショットキー層14、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するInGaP層からなるストッパー層15、n型不純物を含有するGaAs層からなるキャップ層16を積層したHEMT構造18を有する。チャネル層12の上下には、ノンドープのAlGaAs層からなるスペーサ層11,13が配置される。
【0019】
さて、本実施の形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ17は、ストッパー層15のオン抵抗を低く抑えるために、ストッパー層15におけるInGaP中のAsが占めるV族原子分率を15%以下にコントロールしたものである。
【0020】
そもそもAsは、HEMT構造のInGaP層以外の全ての層に使用されているため、As供給ラインを封じ切ったとしても成長炉内に微量のAsが必ず存在してしまう。そのため、InGaP中のAsが占めるV族原子分率を15%以下にコントロールするのは非常に困難であった。
【0021】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ね、その結果、InGaP層においては基板温度を600℃より高くして成長させた場合、層中へのAsの取り込み量がV属原子分率にして15%超まで上昇してしまうことが分かった。この場合、エッチングした際、InGaP層の表面が曇ってしまい、抵抗層を形成し、オン抵抗を上げる要因となってしまう。
【0022】
一方、成長時の基板温度を600℃以下に制御することでInGaP中へのAsの取り込み量を15%以下まで下げることができることが分かった。この場合は、エッチング後のInGaP層の表面の曇りが解消され、オン抵抗の低いHEMT構造18を作製可能である。
【0023】
つまり、本発明者らが提案するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法は、成長時の基板温度を600℃以下とする方法であり、この方法によれば、InGaP中のAsが占めるV族原子分率を15%以下にコントロールすることができる。この方法においては、使用有機金属原料として基板温度が600℃以下であっても熱分解が可能であるTEI、TMI、TEG、TMGを用いると良い。なお、成長方法としては、MOCVD法若しくはMBE法を用いると良い。
【0024】
さらに、本発明者らは、ストッパー層15のPLピーク波長を660nm以下に制御することで、AlGaAs/InGaP界面の不純物ピークを無くすことができることを見出した。PLピーク波長が660nm超のストッパー層15においては、例え、Asの取り込み量をV属原子分率で15%以下まで低減したとしても、AlGaAs/InGaP界面の不純物ピークの影響により、オン抵抗が上がってしまう。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ17によれば、ストッパー層15におけるInGaP中のAsが占めるV族原子分率を15%以下としているため、オン抵抗を低く抑えることができる。
【0026】
また、本実施の形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法によれば、成長時の基板温度を600℃以下とするため、InGaP中のAsが占めるV族原子分率を15%以下にコントロールでき、オン抵抗の低いストッパー層15を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ17を得られる。
【0027】
なお、本実施の形態においては、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ17は、HEMT構造18のみを有するものとしたが、HEMT構造18上に、HBT構造を積層したBiFET構造を有するように構成しても良い。
【実施例】
【0028】
III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを製造し、基板温度を変えたときのInGaP中のAs取り込み量を調べた。
【0029】
(実施例)
先ず、図1に示すように、単結晶基板(半絶縁性のGaAs基板)8上に、バッファ層9となるun−AlxGa(1-x)As層(x=0.28)、電子供給層10となるn−AlxGa(1-x)As層(x=0.3)、スペーサ層11となるun−AlxGa(1-x)As層(x=0.3)、チャネル層12となるInxGa(1-x)As層(x=0.18)、スペーサ層13となるun−AlxGa(1-x)As層(x=0.3)、ショットキー層14となるun−GaAs層、ストッパー層15となるn−InxGa(1-x)P層(x=0.48)、キャップ層16となるn−GaAs層を成長させた。
【0030】
このとき、ストッパー層15の成長時の基板温度は550℃とし、有機金属原料にTMI、TEGを使用して成長させた。
【0031】
(比較例)
実施例と同様の構造のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを製造した。このとき、ストッパー層の成長時の基板温度は650℃とした。
【0032】
(結果)
実施例及び比較例におけるInGaP中へのAsの取り込み量を調べた結果、図2に示すように、比較例(従来条件:基板温度650℃)では、Asの取り込み量がV属原子分率で16%と高かったのに対し、実施例(本発明:基板温度550℃)では、V属原子分率で6%まで低減することができた。
【0033】
また、ストッパー層15のPLピーク波長を調べた結果、その波長は655nmであり、AlGaAs/InGaP界面の不純物ピークが無いことを確認した。
【0034】
以上より、本発明によれば、オン抵抗の低いストッパー層を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハが得られることが証明された。
【符号の説明】
【0035】
8 単結晶基板
9 バッファ層
10 電子供給層
11 スペーサ層
12 チャネル層
13 スペーサ層
14 ショットキー層
15 ストッパー層
16 キャップ層
17 III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ
18 HEMT構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基板上に、GaAs層、AlGaAs層からなるバッファ層、n型不純物を含有するAlGaAs層又はInGaP層若しくはSiプレナードープ層からなる電子供給層、InGaAs層からなるチャネル層、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するGaAs層又はAlGaAs層からなるショットキー層、ノンドープ又は低濃度n型不純物を含有するInGaP層からなるストッパー層、n型不純物を含有するGaAs層からなるキャップ層を積層したHEMT構造を有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハにおいて、
前記ストッパー層におけるInGaP中のAsが占めるV族原子分率が15%以下であることを特徴とするIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ。
【請求項2】
前記ストッパー層のPLピーク波長が660nm以下である請求項1に記載のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ。
【請求項3】
前記HEMT構造上に、HBT構造を積層したBiFET構造を有する請求項1又は2に記載のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−191099(P2012−191099A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55089(P2011−55089)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】