説明

NDフィルタの製造方法およびNDフィルタ

【課題】 長期に亘って安定した分光特性をもちグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタを実現させる。
【解決手段】 基板上に誘電体層と光吸収層を複数層に積層する光減衰膜の形成において、その誘電体層はその原料物質の原子層レベルでの全面付着(ステップS1)とその酸化または窒化性雰囲気への曝露(ステップS2)を繰り返して所定の膜厚にする。続いて、その光吸収層はその原料物質のスパッタリングによるマスク開口を通した原子層レベルの付着と(ステップS4)とその酸化性/窒化性雰囲気への曝露(ステップS5)を繰り返して所定の膜厚にする。上記誘電体層は緻密性に優れ酸素を通し難い良質の膜となる。また、上記光吸収層は膜厚が傾斜変化し安定した組成の原料物質の酸化物あるいは窒化物を含む膜となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばデジタルカメラ等の撮像系の光学機器に使用されるNDフィルタの製造方法およびNDフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像系の光学機器には、被写体からの入射光量を調節するための絞り装置が組み込まれる。ここで、メカニカル構造の絞り開口部を小さくし過ぎると、その開口端での光線の回折現象により解像度の劣化が生じる。そこで、通常ではND(Neutral Density)フィルタが上記開口部の例えば絞り羽根の一部に光量調節部材として装着される。そして、例えば高輝度の被写体のときであっても絞り開口部を過度に絞り込まなくても、NDフィルタが通過光量を適度に低減するようになっている。
【0003】
従来から用いられているNDフィルタとして、可視光に対して透明な例えばフィルム状基板に色素、顔料等の光吸収物質を混入したものが挙げられる。あるいは、基板表面に薄膜の金属膜あるいは誘電体膜を成膜し、光透過率を低減し所望の光透過量(以下、光学濃度という)にする薄膜型NDフィルタが用いられる。例えば、金属膜として可視全域に亘り分光特性を均一(ニュートラル)にできるチタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等が用いられ、透明な誘電体膜としてフッ化マグネシウム(MgF)、二酸化シリコン(SiO)等を積層した薄膜型NDフィルタが提示されている(例えば、特許文献1参照)。また、可視の波長域で適度な屈折率と消衰係数を有する2種類以上の金属酸化膜が基板表面に積層したNDフィルタが開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、上述したNDフィルタはフィルタ全領域の光学濃度が均一な単一濃度フィルタになっている。
【0004】
近年、CCD、CMOS等から成る固体撮像素子の感度が大きく向上してきた。この撮像素子を用いるデジタルカメラ、ビデオカメラ、スチールカメラ等の高画質の光学機器においては、例えば薄膜型NDフィルタの濃度を高くし光の透過率を低下させ、同じ輝度の被写体に対し絞り開口をより大きくできる工夫が必要になる。ここで、絞り開口を小さくする過程において、NDフィルタの濃度が急激に高くなるような構造であると、この場合も回折現象が発生し易くなり解像度低下等の不具合の生じる虞がある。また、絞り開口部において一部にNDフィルタが存在する構造では、撮像面内での明るさが異なるシェーディング現象が生ずる。あるいは、撮像素子の撮像面とNDフィルタの間に生じる相互反射によるゴーストやフレアが発生することがある。
【0005】
上述したような光学機器の高画質対応として、NDフィルタの光学濃度を光軸中心に向かって小さくする濃度変化のある構造の絞り装置が有効になる。そこで、上記単一濃度NDフィルタを複数の絞り羽根に接着し駆動させることにより、単一濃度フィルタでも複数重なった部分と重ならない部分とから、濃度変化させることは可能である。しかしながら、この方法ではNDフィルタの枚数が増えることによるコストアップ、及び絞り羽根に複数枚のNDフィルタが存在することにより厚くなってしまい、近年の小型・省スペース化に対応できない等の欠点がある。
【0006】
そこで、上記欠点を解決するNDフィルタとして、フィルタ領域においてその濃度が光軸中心に向かって変化する、いわゆる複数濃度フィルタが望まれるようになってきた。そして、例えば光学濃度がフィルタ領域で連続的に変化するグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタおよびその製造方法が種々に提示されている。例えば、蒸着マスクを用いた金属薄膜の真空蒸着法により濃度が連続的に変化する楕円形グラデーションの製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
あるいは、低級金属窒化膜あるいは金属酸化膜の光吸収膜の反応性スパッタリングにおいて、所定の開口を有するマスクを用い、その成膜される基板を所定の方向に移動させながら光吸収膜の膜厚を連続的に変化させる薄膜型NDフィルタの製造方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。この場合、上記開口マスクのパターンにより、光吸収膜の膜厚をステップ状に変化させることもできる。同様に、所定の例えばスリット状の開口を有するマスクを用い、成膜される基板の前面に上記マスクを一体的に回転可能に保持し、光吸収膜の膜厚を連続的に変化させる薄膜型NDフィルタの製造方法が提示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、真空蒸着、あるいはスパッタリング、イオンプレーティング等の成膜方法において、光吸収膜を成膜する基板に対し遮蔽マスクを一方向に移動させ、光吸収膜の膜厚が傾斜変化する構造の薄膜型NDフィルタの製造方法が提示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−93811号公報
【特許文献2】特開平7−63915号公報
【特許文献3】特開平11−38206号公報
【特許文献4】特開2003−322709号公報
【特許文献5】特開2004−61900号公報
【特許文献6】特開2005−326687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタにおいては、例えば80℃程度で室温より高い温度の環境下において光吸収層の酸化が進み、透過率の経時変化が起こり易い。この現象の要因としては、透明樹脂材から成る基板の耐熱性が低く(例えば、そのガラス転移点Tgは高くて150℃程度)、光吸収層およびその保護膜である透明な誘電体膜の成膜時の基板温度が低く(基板の熱変形あるいは変質の生じない温度以下)なることが挙げられる。従来の成膜方法では、上記の成膜温度で形成される誘電体膜は基板温度が例えば300℃以上の場合に較べてみると膜緻密性が低く多孔質度が高い。このため、空気中の酸素がその孔を通して誘電体層を透過し易く、光吸収層の酸化が容易になり、その組成が経時変化するようになる。
【0011】
更に、本発明者等の詳細な検討では、光吸収層の組成変化は、それが低級金属酸化物あるいは低級金属窒化物を含む場合、膜厚が薄くなる領域で大きくなり易いことも判った。ここで、低級金属酸化物あるいは低級金属窒化物は、化学量論的組成より酸素組成あるいは窒素組成の小さい化合物である。これ等のために、従来のグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタの環境安定性は低くなり易い。これ等は、上述した参考文献3〜5に記載されている薄膜型NDフィルタの製造方法では避けるのが難しい。
【0012】
そこで、参考文献5では、上記問題を解決するために、反射防止膜を含む全ての膜を形成した後で例えば100℃から130℃の温度で空気中の熱処理を施し、誘電体膜を緻密な膜質にすることが開示されている。しかし、この方法であっても長期における環境安定性の確保は難しい。また、薄膜型フィルタの基板のガラス転移点Tgが100℃以下になるポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂のような高分子ポリマー系材料では、上記熱処理の適用ができなくなる。その熱処理により基板の熱変形が生じるからである。
【0013】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、長期に亘って安定した分光特性をもちグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタの製造方法を提供することを主な目的とする。そして、使用環境に因らず分光特性の安定した高信頼性のグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタを実現させる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明にかかるNDフィルタの製造方法は、光透過性の基板上に光吸収層と誘電体層の積層した光減衰膜を有し、前記光吸収層が連続的に膜厚変化するグラデーション濃度分布をもつNDフィルタの製造方法において、前記光吸収層の原料物質を主成分とする第1のターゲットのスパッタリングにより、前記第1のターゲットに対して固定されその前面に配置された所定パターン開口マスクを通して、前記光吸収層の原料物質を原子層レベルの薄膜に付着させる工程と、前記付着した前記原料物質からなる薄膜を酸化性ガスあるいは窒化性ガスを含む雰囲気に曝露する工程とをこの順に複数回に亘って繰り返し、所定の膜厚分布を有する光吸収層を成膜した後、前記誘電体層の原料物質を主成分とする第2のターゲットのスパッタリングにより、前記誘電体層の原料物質からなる原子層レベルの薄膜を付着させる工程と、前記付着した前記原料物質からなる薄膜を酸化性ガスあるいは窒化性ガスを含む雰囲気に曝露する工程とをこの順に複数回に亘って繰り返し、所定の膜厚の誘電体層を前記光吸収層を被覆するように成膜する、構成になっている。
【0015】
そして、本発明にかかるNDフィルタは、光透過性の基板上に光吸収層と誘電体層の積層した光減衰膜を有し、前記光吸収層が連続的に膜厚変化するグラデーション濃度分布をもつNDフィルタにおいて、前記光吸収層を構成する原料物質に対する酸素あるいは窒素の組成比は、前記光吸収層の膜厚の厚い領域から薄い領域にかけて増大している構造になっている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成により、長期に亘って安定した分光特性をもつグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタの製造方法が容易に提供できる。そして、使用環境に因らず高い信頼性をもち分光特性が安定したグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかるNDフィルタの製造方法の説明に供するスパッタリング装置の一構成例を示す概念図である。
【図2】上記スパッタリング装置におけるスパッタ成膜領域周辺を拡大して示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態においてスパッタ成膜に使用されるスリット型マスク板の平面図である。
【図4】本発明の実施形態のNDフィルタにおけるグラデーション濃度の光減衰膜の形成方法を示す工程フロー図である。
【図5】本発明の実施形態におけるNDフィルタの誘電体層を構成する原料物質のスパッタ成膜の説明に供する図である。
【図6】本発明の実施形態におけるNDフィルタの光吸収層を構成する原料物質のスパッタ成膜の説明に供する図である。
【図7】本発明の実施形態におけるグラデーション濃度の光減衰膜を形成した基板の平面図である。
【図8】図7に示したZ方向における光学濃度分布を示すグラフである。
【図9】光吸収層がTiOxの組成比Xの膜厚依存性を示すグラフである。
【図10】本発明の本実施形態にかかるグラデーション濃度分布を有するNDフィルタの例であり、(a)は基板の裏面側に反射防止膜が形成された場合の断面図であり、(b)は基板の両面に光減衰膜が形成された場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態にかかるNDフィルタの製造方法について図1乃至図6を参照して説明する。ここで、図1は本実施形態のNDフィルタの製造方法の説明に供するスパッタリング装置の一構成例を示す概念図である。図2は上記スパッタリング装置におけるスパッタ成膜領域周辺を拡大して示した説明図である。図3は上記スパッタ成膜に使用されるスリット型マスク板の平面図である。図4は本実施形態のNDフィルタにおけるグラデーション濃度の光減衰膜の形成方法を示す工程フロー図である。そして、図5および図6は、それぞれ、NDフィルタの誘電体層を構成する原料物質、その光吸収層を構成する金属のような原料物質のスパッタ成膜の説明に供する図である。ただし、図面は模式的なものであり、各部材の形状、寸法あるいは配置関係は概略的に示され現実のものとは異なる。
【0019】
図1のスパッタリング装置では、その成膜の本体が底面に対し平行に切断された横断面で示されている。以下、このような装置を用いたNDフィルタの製造方法の場合について説明する。はじめに、このスパッタリング装置について説明する。
【0020】
図1に示すように、スパッタリング装置10では、例えばステンレス製の処理チャンバ11内の略中央に位置するように例えば円筒状の基板ホルダ12が取り付けられるようになっている。また、この基板ホルダ12は円筒の中心を中心軸に回転方向13に適宜な速度で回転することができる。基板ホルダ12の表面にはNDフィルタ用の基板が複数枚セットすることができる。ここで、基板ホルダはその内側からヒーター加熱できる構造になっていてもよい。
【0021】
処理チャンバ11には、その側壁部に、光減衰膜を構成する光吸収層の原料物質の第1のスパッタ成膜領域14、誘電体層の原料物質の第2のスパッタ成膜領域15、原料物質を酸化あるいは窒化する反応処理領域16が設けられている。そして、第1のスパッタ成膜領域14に固定して所定パターン開口マスクであるスリット型マスク17が取り付けられている。また、上記第1のスパッタ成膜領域14、第2のスパッタ成膜領域15および反応処理領域16には間仕切り板18が形設され、基板ホルダ12と共に処理チャンバ11内が空間的に仕切られるようになっている。
【0022】
ここで、例えば図2に示すように、第1のスパッタ成膜領域14には、DC電源あるいはRF電源に接続するスパッタ電極19、スパッタ電極19に光吸収層用ターゲット20が固定されている。ここで、スパッタ電極19は絶縁部材21を介して処理チャンバ11内に気密封止される。そして、スリット型マスク17が光吸収層用ターゲット20の前面に固定して配置され、処理チャンバ11に固持されたマスク保持部材22に装着される。このスリット型マスク17は、基板ホルダ12の表面に通常では複数枚セットされるNDフィルタ用の基板23に対向するようになる。
【0023】
スリット型マスク17は、例えば図3に示すように、スリット24がスリット幅Wを有し基板ホルダ12の回転方向に延在するように装着される。このスリット型マスク17は金属製板あるいは絶縁体製板である。
【0024】
また、第1のスパッタ成膜領域14には、スパッタリングガスの導入口25が設けられている。スパッタリングガスとしては、アルゴンガス、ネオンガス、等の希ガスが用いられる。そして、スパッタ電極19と接地電位にされる処理チャンバ11との間に印加される電圧によるグロー放電によってイオン化される。この希ガスのイオンが光吸収層用ターゲット20をスパッタリングする。
【0025】
第2のスパッタ成膜領域15には、図示しないが、第1のスパッタ成膜領域14の場合と同様なスパッタ電極、誘電体層の原料物質から成る誘電体層用ターゲットが上記スパッタ電極に固定されている。この場合には、誘電体層用ターゲットと基板23の間には上記スリット型マスク17のようなマスクは配置しなくてもよい。
【0026】
そして、反応処理領域16では、その詳細な説明は省略されるが、公知の高周波放電により酸素プラズマが発生するようになっている。あるいは、高周波放電により酸素プラズマと窒素プラズマが生成できるようになっている。更には、酸素あるいは窒素が励起状態に活性化された中性の酸素ラジカルあるいは窒素ラジカルが導入されるようになっていてもよい。以下、酸素プラズマ、中性の酸素ラジカルのような活性化されたものは酸素の活性種という。同様に窒素プラズマ、中性の窒素ラジカルのような活性化されたものは窒素の活性種という。その他に、活性化されない酸化性ガスあるいは窒素ガスが導入されるようになっていてもよい。
【0027】
上述したような処理チャンバ11には、隣接してロードロック室26が設けられ、その間に取り付けられたゲートバルブ27が開閉できるようになっている。ここで、ロードロック室は、処理チャンバ11内にゲートバルブ27を通して搬送される前の基板ホルダ12を収納し減圧状態にできるようになっている。また、処理チャンバ11から成膜処理後の基板ホルダ12が搬出され収納される。
【0028】
上記スパッタリング装置10内の雰囲気圧は、公知の真空排気系28により適宜に制御できるようになっている。処理チャンバ11には、冷媒型循環型トラップ装置としてPolyCold(商品名)が接続され、メインバルブ(MV)を介してターボ分子ポンプ(TMP)、メカニカルブースタポンプ(MBP)、ロータリポンプ(RP)に接続される。また、ロードロック室26はそのバルブ(RV)を介してMBP及びRPに接続される。そして、処理チャンバ11の雰囲気圧は10−4Pa以下に減圧できるようになっている。ロードロック室26は10−2Pa程度に減圧できるようになっている。
【0029】
上述したスパッタリング装置10を用いて、基板23上にグラデーション濃度分布を有するNDフィルタの光減衰膜を形成する。
【0030】
上記NDフィルタの光減衰膜を形成する前段階の工程として、複数枚の基板23が取り付けセットされた基板ホルダ12をロードロック室26内に収納し、真空排気系28を通してロードロック室26を10−2Pa程度に真空排気する。そして、ゲートバルブ27を開いてこの基板ホルダ12を処理チャンバ11内の所定箇所に搬送し載置する。そして、ゲートバルブ27を閉じて真空排気系28を通して処理チャンバ11内を10−4Pa以下に真空排気する。
【0031】
その後は、図4に示した工程フローに従って所要の光減衰膜を形成する。ここで、基板ホルダ12は所定の回転速度で回転させる。そして、図4のステップS1からステップS3にかけて所定の膜厚の誘電体層を基板23表面に成膜する。この誘電体層の成膜では、ステップS1の工程において、例えば図5に示すように第2のスパッタ成膜領域15の誘電体層用ターゲット29のスパッタリングをして、基板23の表面に誘電体層の原料物質の原子層レベルでの付着を行う。この工程において、誘電体層用ターゲット29から誘電体層原料物質30が略等方的に飛散して誘電体層原料物質薄膜31が形成される。この誘電体層原料物質薄膜31は例えば1原子層以下〜10原子層程度の範囲で設定され、面平均にして0.05nm〜2nm程度の範囲で制御される。なお、誘電体層原料物質30の飛散はその平均自由行程による回数の衝突を繰り返してなされる。
【0032】
続いて、ステップS2の工程において、基板ホルダ12の回転を通して反応処理領域16に達した基板23表面の上記誘電体層原料物質薄膜31を酸化性雰囲気に曝露し酸化処理する。この酸化処理により、誘電体層原料物質薄膜31を可視光に対し透過性(ほぼ透明)で極薄の中間誘電体層に変換させる。ここで、酸化処理に酸素の活性種を用いることにより基板23の温度が室温であっても緻密で良質の中間誘電体層が形成される。そして、ステップS1とステップS2を複数サイクル繰り返すことにより、上記中間誘電体層を複数層積層して所要の膜厚を有する誘電体層とする。なお、上記工程では、第1のスパッタ成膜領域14でのスパッタリングは停止している。
【0033】
ここで、ステップS3における所定の誘電体層の厚さかどうかの判定には、図示しないが処理チャンバ11内に取り付けられた膜厚モニターを用いる。あるいは、誘電体層原料物質薄膜31の形成およびその酸化処理が安定している場合には、基板ホルダ12の回転数あるいは成膜時間を上記判定に用いることができる。そして、ステップS3の判定で所定の厚さの誘電体層32が成膜されると、第2のスパッタ成膜領域15でのスパッタリングは停止する。
【0034】
引き続いて、図4のステップS4からステップS6にかけて所定の膜厚の光吸収層を上述した誘電体層上に成膜する。この光吸収層の成膜では、ステップS4の工程において、例えば図6に示すように第1のスパッタ成膜領域14の光吸収層用ターゲット20のスパッタリングをして、スリット型マスク17のスリット24を通し、光吸収層の原料物質を誘電体層32表面に原子層レベルで付着させる。この工程においては、光吸収層原料物質33(33a、33b)が光吸収層用ターゲット20から飛散しスリット24を通って誘電体層32表面に膜厚分布をもつ光吸収層原料物質薄膜34が形成される。この場合も、光吸収層原料物質33の飛散はその平均自由行程に依る回数の衝突を繰り返してなされる。なお、この平均自由行程は、処理チャンバ11内の雰囲気圧に影響される。
【0035】
この光吸収層原料物質薄膜34は、誘電体層32表面においてスリット24の位置に対応する中央領域に厚く、その領域から離れる方向すなわち図6において図面の上下方向(以下、Z方向ともいう)に沿ってその厚さが連続的に低減し傾斜するように付着する。ここで、上記中央領域における光吸収層原料物質薄膜34の厚さは例えば1原子層以下〜10原子層程度の範囲で設定され、面平均にして0.01nm〜2nm程度となる。
【0036】
この場合の光吸収層原料物質33は、スリット24を通過した後では、基板に対して垂直方向に飛散する光吸収層原料物質33aが多く、斜め方向に飛散する吸収層原料物質33bがその傾斜角度と共に少なくなるように付着形成する。また、基板の温度に依存して、誘電体層32表面に到達した光吸収層原料物質33の表面マイグレーションも生じる。このようにして、上述したように膜厚が連続的に変化し傾斜した光吸収層原料物質薄膜34が誘電体層32表面に形成される。
【0037】
上記膜厚の傾斜変化は、図6に示す光吸収層用ターゲット20とスリット型マスク17の離間距離L、スリット型マスク17と基板23の離間距離L、マスク板厚D、スリット幅W、基板23の温度等のパラメータに依存する。ここで、光吸収層原料物質薄膜34の膜厚の傾斜変化は、処理チャンバ11内の雰囲気圧すなわち光吸収層原料物質33の平均自由行程に大きく依存する。このため、処理チャンバ11内の雰囲気圧に合わせて、上述したパラメータを調整し上記膜厚変化を制御することができる。
【0038】
続いて、ステップS5の工程において、基板ホルダ12の回転を通して反応処理領域16に達した基板23表面の上記光吸収層原料物質薄膜34を酸化性/窒化性雰囲気に曝露し酸化処理、窒化処理あるいは酸窒化処理する。この処理により、光吸収層原料物質薄膜34を極薄の中間光吸収層に変換させる。この中間光吸収層は、例えば上記酸化処理あるいは窒化処理により、化学量論的組成よりも酸素組成あるいは窒素組成の小さい低級金属酸化物、低級金属窒化物あるいは低級金属酸窒化物から構成される。また、光吸収層原料物質薄膜34の膜厚変化に従い上記中間光吸収層の膜厚は傾斜変化する。
【0039】
ここで、酸化性/窒化性雰囲気曝露で酸素あるいは窒素の活性種を用いることにより、基板23の温度が室温であっても緻密で安定した組成の中間光吸収層が形成される。そして、ステップS4とステップS5を複数サイクル繰り返すことにより、上記中間光吸収層を複数層積層して所要の膜厚を有する光吸収層を成膜する。なお、上記工程では、第2のスパッタ成膜領域15でのスパッタリングは停止している。
【0040】
そして、ステップS6における所定の光吸収層の厚さかどうかの判定には、ステップS3の場合と同様に、処理チャンバ11内に取り付けられた膜厚モニターを用いる。あるいは、光吸収層原料物質薄膜34の形成およびその酸化あるいは窒化処理が安定している場合には、基板ホルダ12の回転数あるいは成膜時間を上記判定に用いることができる。そして、ステップS6の判定で所定の厚さの光吸収層が成膜されると、第1のスパッタ成膜領域14でのスパッタリングは停止する。
【0041】
以後、上述した誘電体層および光吸収層の積層を繰り返す。そして、ステップS7においてその積層が所定の積層数に達すると、誘電体層および光吸収層の成膜を止め、ステップ8においてこれ等の積層膜の最上層の光吸収層を被覆する誘電体膜を成膜する。この誘電体膜は、ステップS1とステップS2で説明したのと同様に成膜した上記誘電体層であってもよいし、別の成膜方法で形成する例えばMgFからなる反射防止膜であっても構わない。このようにして、NDフィルタに使用される所望のグラデーション濃度の光減衰膜が形成される。
【0042】
上記実施形態の光減衰膜を形成する基板23としては、可視光に対して透明な有機高分子材料からなるフィルムあるいは樹脂板が用いられる。特に、好適なフィルムとして耐熱性のあるノルボルネン樹脂材料からなるJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。その他に、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリオレフィン(PO)およびアクリル系の樹脂材料からなる樹脂板若しくは樹脂フィルムが挙げられる。
【0043】
誘電体層としては、例えばSiO、酸化アルミニウム(Al)、窒化シリコン(Si)等からなる可視光に対して透明な絶縁膜が好適に用いられる。この場合、上述した誘電体層原料物質30はSi、Alとなる。なお、Siの場合は誘電体層原料物質30の窒化処理で形成できる。その他に使用できる誘電体層として、Ti、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)等の化学量論的組成の金属酸化膜が挙げられる。
【0044】
そして、好適な光吸収層としては、化合物であるチタン酸化物(TiOx)あるいはチタン酸窒化物(TiOxNy)からなる膜が挙げられる。ここで、TiOxは0<X<2満たす低級チタン酸化物である。TiOxNyは0<X、0<Y、0<X+Y≦2を満たすと好適である。また、上記光吸収層は、Ti、二酸化チタン(TiO)、一酸化チタン(TiO)、窒化二チタン(TiN)および窒化チタン(TiN)の混合物で形成されるようになっていてもよい。この場合でも、TiNxOy組成は上述したように設定される好適である。なお、この場合には、上述した光吸収層原料物質33はTiとなる。
【0045】
その他に使用できる光吸収層として、TiOxと同様な酸素組成となるTaOx、NbOx、あるいはAlOxの低級酸化物、TiOxNyと同様な酸素および窒素組成となるTaOxNy、NbOxNy、AlOxNy等の金属酸窒化物からなる膜が挙げられる。また、TiNy、TaNy、NbNy、AlNy等の低級窒化物でも使用することができる。この低級窒化物では0<y<1となる。この場合、上述した光吸収層原料物質33はTi、Ta、Nb、Al等の金属である。
【0046】
図4で説明した反応処理領域16に達した基板23表面の酸化処理、窒化処理あるいは酸窒化処理では、上記誘電体層原料物質30あるいは光吸収層原料物質33の元素の種類、および誘電体層原料物質薄膜31あるいは光吸収層原料物質薄膜34の膜厚により、その活性種を変えることが好ましい。ここで、元素質量あるいは膜厚が増える程、活性種にプラズマイオンを用いその膜中へのイオン注入を利用して膜全体が所望の中間誘電体層あるいは中間光吸収層に変質できるようにする。ここで、膜中へのイオン注入はプラズマと基板23間に生じるイオンシースの電界、イオンの運動エネルギーにより生じる。
【0047】
また、基板温度を室温から例えば60℃程度に上げることにより、酸素あるいは窒素の中性ラジカル、活性化していない酸素、窒素の膜中の熱拡散を促進させ、膜全体が所望の中間誘電体層あるいは中間光吸収層に変質できる。上記基板温度は、例えばガラス転移点のような基板の熱変質が生じない温度以下にすることが必要である。上記60℃以下であれば、ガラス転移温度が70℃程度になるPETあるいはアクリル系の樹脂材料からなる安価な樹脂フィルム、樹脂板を使用できるようになる。
【0048】
また、所定パターン開口マスクとしては上記スリット型マスク17に換えて他の形状のパターン開口を有するマスクを使用し、所望の膜厚分布をもつ光吸収層原料物質薄膜を形成することができる。例えば、マスクの開口の平面形状が正方形、長方形、三角形、多角形、円形、楕円形等であってもよい。あるいは種々の形状を組み合わせた形態にあっても構わない。
【0049】
次に、上述した光減衰膜形成の好適な一態様について図7および図8を参照して説明する。図7はグラデーション濃度の光減衰膜を形成した基板の平面図である。図8は図7のZ方向における光学濃度分布を示すグラフである。ここで、基板はアートン(商品名)からなる厚さ0.1mmの樹脂フィルムである。また、光吸収層はTiOxからなり、誘電体層はSiOからなる。
【0050】
グラデーション濃度の光減衰膜の形成方法では、図1で説明したようなスパッタリング装置を用いた。ここで、光減衰膜の成膜中の処理チャンバ11内の雰囲気圧は10−2Paである。そして、光吸収層の原料物質としてTiを用い、第1のスパッタ成膜領域14の光吸収層用ターゲット20はTi金属ターゲットである。他方、誘電体層の原料物質としてSiを用い、第2のスパッタ成膜領域15の誘電体用ターゲット20はSi半導体ターゲットである。また、反応処理領域16では酸素プラズマを生成するようにした。この酸素プラズマはいわゆる高周波誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)である。
【0051】
そして、上記処理チャンバ11内の雰囲気圧において、図6で説明した光吸収層原料物質薄膜34の膜厚の傾斜変化を制御するために、離間距離Lは53mm、離間距離Lは22mm、マスク板厚Dは10mm、スリット幅Wは5mmとした。なお、基板23のサイズは65mm×65mmである。
【0052】
そして、図4で説明した誘電体層の成膜では、基板23は加熱がない室温状態にし、基板ホルダ12の回転速度を100rpmとした。このようにして、誘電体層原料物質薄膜31形成とそのプラズマ酸化処理の500サイクルにより膜厚が110nmのSiOからなる誘電体層32を成膜した。ここで、上述した中間誘電体層はその厚さが0.22nm程度に算出された。そして、誘電体層原料物質薄膜31は1原子Si層弱と見積もられる。
【0053】
引き続いて、図4で説明した光吸収層の成膜では、上記の場合と同様に基板23は加熱がない室温状態であり、基板ホルダ12の回転速度は100rpmである。そして、光吸収層原料物質薄膜34形成とそのプラズマ酸化処理を所定の回数繰り返して、膜厚の傾斜変化した光吸収層を成膜した。この光吸収層原料物質薄膜34のプラズマ酸化処理では、誘電体層32を成膜する場合のプラズマ酸化処理と異なる条件になっている。この光吸収層の成膜においては、光吸収層原料物質薄膜34は、スリット24の位置に対応する中央領域で1原子Ti層以下の厚さになっている。
【0054】
そして、基板23上に上記誘電体層と光吸収層を交互に積層し、誘電体層が6層、光吸収層が5層からなる光減衰膜を形成した。ここで、光減衰膜の最上層は誘電体層である。
【0055】
図7に示されるように、このように形成した光減衰膜では、基板23においてスリット型マスク17のスリット24の位置に対応する領域が高濃度領域になり、Z方向においてスリット24から離れる方向に沿ってグラデーション領域が形成される。
【0056】
図8は上記光減衰膜の光学濃度分布であり、横軸に基板のZ方向の距離をとり、縦軸に光学濃度をとっている。ここで、光学濃度OD(Optical Density)=log(100/透過率)である。このグラフでは高濃度領域の最高濃度はOD=1.62である。そして、OD=0.1からOD=1.0までのグラデーション幅が4.1mm程度になる2つのグラデーション領域がスリット24に対応する高濃度領域を挟んで作成される。このようなグラデーション領域と光学濃度分布の光減衰膜であれば、光学機器の絞り装置の絞り羽根に好適に適用できる。
【0057】
また、図9に示すように、上記光吸収層を構成するTiOxはその酸素組成が膜厚に依存し、膜厚が薄くなると組成比Xが増加する。図9はTiOxの組成比Xの膜厚依存性を示すグラフである。ここで、その横軸はTiOx層の膜厚であり、縦軸はその組成比Xである。例えば100nm程度の厚い領域でX=1弱の組成比が5nm以下の薄い領域ではX=2へと増加し、薄い領域では化学的に極めて安定したTiOが形成される。このTiOは可視光に透明であり光減衰膜において光吸収層とならない。このような組成比の膜厚依存性は、TiNy、TaNy、NbNy、AlNy等の低級窒化物の場合にも同様に見られる。
【0058】
次に、図10を参照して本実施形態で形成するグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタの例について説明する。図10はその断面図であり、(a)は光減衰膜の形成された基板の対向面に反射防止膜が形成された構造の場合であり、(b)は基板の両面に光減衰膜が形成された場合である。
【0059】
図10(a)では、基板23表面に第1誘電体層35、第1光吸収層36、第2誘電体層37、第2光吸収層38および第3誘電体層39が積層し光減衰膜40が形成されている。ここで、これ等の誘電体層および光吸収層は上述した光減衰膜の形成方法の場合と同様に成膜される。なお、第1の誘電体層35、第2の誘電体層37および第3の誘電体層39は互いに異なる材質あるいは膜厚になるように成膜されてもよい。また、第1の光吸収層36および第2の光吸収層38は互いに異なる材質あるいは膜厚及び層数になるように成膜されてもよい。そして、基板23裏面に公知の反射防止膜41が形成されている。この反射防止膜41は互いに屈折率の異なる複数の膜が積層して設けられる。例えば、基板の屈折率よりも低い透明膜と高い透明膜の多層構造に形成される。
【0060】
図10(b)では、図10(a)の場合と同様に、基板23表面に交互に積層する誘電体層と光吸収層からなる第1の光減衰膜42が形成されている。そして、基板23裏面にも交互に積層する誘電体層と光吸収層からなる第2の光減衰膜43が形成されている。ここで、第1の光減衰膜42と第2の光減衰膜43の間において、その構成する誘電体層、光吸収層は互いに異なる材質あるいは膜厚であってもよい。あるいは、同様な材質あるいは膜厚で成膜されるようになっていてもよい。なお、図10で示したグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタにおいて、誘電体層と光吸収層の積層数は適宜に設定することができる。
【0061】
上記グラデーション濃度分布を有するNDフィルタでは、例えば図9で説明したように、膜厚が傾斜変化する光吸収層の厚い領域から薄い領域にかけてその酸素組成が増大する。そして、このNDフィルタにおいて光減衰膜の光吸収層は、その薄い領域において化学量論的で極めて安定した酸化物層により構成されるようになる。また、上述したTiOxNy、TaOxNy、NbOxNy、AlOxNy等の金属酸窒化物あるいはTiNy、TaNy、NbNy、AlNy等の金属窒化物の場合にも同様な効果が生じる。そして、上記金属窒化物の場合には、光吸収層の薄い領域での膜厚不均一性に起因する色ムラが防止され、小絞り時の解像度の劣化が効果的に防止できる。
【0062】
本実施形態では、光減衰膜を構成する可視光で透明な誘電体層は、原子層レベルの誘電体層原料物質薄膜の形成とその酸化処理の繰り返しにより形成される。このために、誘電体層の成膜において基板の温度が室温〜50℃の低温であっても、緻密で良質の誘電体層が成膜できる。そして、この誘電体層は、グラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタにおいて、低級金属酸化物、金属酸窒化物あるいは低級金属窒化物からなる光吸収層の空気中での酸化を抑制する。そして、例えば80℃程度の環境下で光吸収層の酸化が抑制され、その組成が安定し透過率の経時変化が大幅に低減する。
【0063】
また、本実施形態における光吸収層も原子層レベルの光吸収層原料物質薄膜の形成とその酸化処理あるいは窒化処理の繰り返しにより形成される。このためにその組成は高精度に制御できるようになる。それが低級金属酸化物あるいは低級金属窒化物を含む場合、膜厚が薄くなる領域で化学量論的組成になり易い。このため、従来の場合のようにグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタにおいて光吸収層の薄い領域での経時変化が起こり易くなるという現象はなくなる。そして、本実施形態で製造した薄膜型NDフィルタの環境安定性は極めて高いものになる。
【0064】
従来技術のような光減衰膜では長期に亘って安定した分光特性を維持するために加熱プロセスを通した蒸着等の成膜が通例になっている。そして、ガラス転移点の低い安価な高分子ポリマー系材料ではその加熱温度が制約されるため使用可能な基板が限定される。これに対して、本実施形態では成膜中の基板到達温度が室温〜50℃と低いながら緻密な膜組成を得られることから上記安価な基板が使用可能になり、グラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタの低コスト化が容易になる。
【0065】
上述したように、本実施形態では、長期に亘って安定した分光特性をもちグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタの製造方法が容易になる。そして、使用環境に因らず分光特性の安定した高信頼性で安価なグラデーション濃度分布を有する薄膜型NDフィルタが実現される。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0067】
例えば、上述したスパッタリング装置の処理チャンバ11内に2つの反応処理領域を設けて、誘電体層原料物質薄膜31あるいは光吸収層原料物質薄膜34の酸化処理および窒化処理を別々に行うようにしてもよい。
【0068】
また、上記光吸収層原料物質薄膜34の形成において、公知の反応性スパッタリングを用いることにより、上述した中間光吸収層を形成するようにしてもよい。この場合、誘電体層原料物質薄膜31の酸化処理あるいは窒化処理により中間誘電体層を形成する。
【0069】
また、誘電体層原料物質薄膜31あるいは光吸収層原料物質薄膜34は、それぞれ、複数の異なる元素から成る混合物として形成するようにしてもよい。例えば、それぞれに複数の異なる元素から成る誘電体層用ターゲットあるいは光吸収層用ターゲットを用いたスパッタリングにより、上記混合物から成る誘電体層原料物質薄膜31あるいは光吸収層原料物質薄膜34を形成する。その他に、材質の異なる複数種のターゲット材のスパッタリングから、上記混合物の誘電体層原料物質薄膜31あるいは光吸収層原料物質薄膜34を形成するようにしてもよい。
【0070】
上記実施形態では、誘電体層について基板上で略一様な厚さになる場合を説明しているが、誘電体層およびその中間誘電体層は、光吸収層の場合のように膜厚を傾斜変化あるいは逆傾斜変化させて成膜するようにしてもよい。この場合には、光吸収層の形成の場合と同様に所定パターン開口マスクを通して膜厚変化する誘電体層原料物質薄膜31を形成することになる。
【0071】
そして、誘電体層原料物質薄膜31、光吸収層原料物質薄膜34の形成、それらの薄膜の反応処理をマルチチャンバ処理装置において別々の処理チャンバで行うようにしてもよい。上記実施形態のように1つの処理チャンバ内で行う場合であっても、光吸収層原料物質のスパッタ成膜領域、誘電体層原料物質のスパッタ成膜領域、これ等の原料物質薄膜を酸化あるいは窒化する反応処理領域が図1で説明したのと異なる配置になるようにしてもよい。そして、基板ホルダは回転するのでなく、例えば一方向に往復運動するようになっても構わない。
【符号の説明】
【0072】
10…スパッタリング装置,11…処理チャンバ,12…基板ホルダ,13…回転方向,14…第1のスパッタ成膜領域,15…第2のスパッタ成膜領域,16…反応処理領域,17…スリット型マスク,18…間仕切り板,19…スパッタ電極,20…光吸収層用ターゲット,21…絶縁部材,22…マスク保持部材,23…基板,24…スリット,25…スパッタリングガスの導入口,26…ロードロック室,27…ゲートバルブ,28…真空排気系,29…誘電体層用ターゲット,30…誘電体層原料物質,31…誘電体層原料物質薄膜,32…誘電体層,33…光吸収層原料物質,34…光吸収層原料物質薄膜、35…第1誘電体層,36…第1光吸収層,37…第2誘電体層,38…第2光吸収層,39…第3誘電体層,40…光減衰膜,41…反射防止膜,42…第1の光減衰膜,43…第2の光減衰膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基板上に光吸収層と誘電体層の積層した光減衰膜を有し、前記光吸収層が連続的に膜厚変化するグラデーション濃度分布をもつNDフィルタの製造方法において、
前記光吸収層の原料物質を主成分とする第1のターゲットのスパッタリングにより、前記第1のターゲットに対して固定されその前面に配置された所定パターン開口マスクを通して、前記光吸収層の原料物質を原子層レベルの薄膜に付着させる工程と、前記付着した前記原料物質からなる薄膜を酸化性ガスあるいは窒化性ガスを含む雰囲気に曝露する工程とをこの順に複数回に亘って繰り返し、所定の膜厚分布を有する光吸収層を成膜した後、前記誘電体層の原料物質を主成分とする第2のターゲットのスパッタリングにより、前記誘電体層の原料物質からなる原子層レベルの薄膜を付着させる工程と、前記付着した前記原料物質からなる薄膜を酸化性ガスあるいは窒化性ガスを含む雰囲気に曝露する工程とをこの順に複数回に亘って繰り返し、所定の膜厚の誘電体層を前記光吸収層を被覆するように成膜することを特徴とするNDフィルタの製造方法。
【請求項2】
前記光吸収層の原料物質はチタン(Ti)であり、前記誘電体層の原料物質はシリコン(Si)あるいはアルミニウム(Al)であることを特徴とする請求項1に記載のNDフィルタの製造方法。
【請求項3】
前記光吸収層はTiOxの化合物からなり、その酸素組成xが0<x<2を満たし、前記誘電体層はシリコン酸化物あるいはアルミニウム酸化物からなることを特徴とする請求項2に記載のNDフィルタの製造方法。
【請求項4】
前記光吸収層はTiOxNyの化合物からなり、前記誘電体層はシリコン酸化物あるいはアルミニウム酸化物からなることを特徴とする請求項2に記載のNDフィルタの製造方法。
【請求項5】
前記光減衰膜は、前記吸収層および誘電体層が多層に積層された構造になることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のNDフィルタの製造方法。
【請求項6】
光透過性の基板上に光吸収層と誘電体層の積層した光減衰膜を有し、前記光吸収層が連続的に膜厚変化するグラデーション濃度分布をもつNDフィルタにおいて、
前記光吸収層を構成する原料物質を金属としこの原料物質に対する酸素あるいは窒素の組成比は、前記光吸収層の膜厚の厚い領域から薄い領域にかけて増大していることを特徴とするNDフィルタ。
【請求項7】
前記光吸収層を構成する原料物質がチタンであり、前記光吸収層はその酸素組成xが0<x<2を満たすTiOxの化合物、あるいはTiOxNyの化合物からなり、前記誘電体層はシリコン酸化物あるいはアルミニウム酸化物からなることを特徴とする請求項6に記載のNDフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−118251(P2011−118251A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277135(P2009−277135)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(394023182)光伸光学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】