説明

Qスイッチレーザ発光装置並びにレーザアニール方法及び装置

【課題】共振器の物理的な長さを大きくすることなく、Qスイッチレーザのパルス幅を延長することができ、装置の小型化が可能なQスイッチレーザ発光装置を提供する。
【解決手段】全反射ミラー13と出力ミラー14との間に、これらのミラーの光軸上に、電気光学Qスイッチ素子11、高屈折率材料部材10、固体レーザ媒質12が、全反射ミラー13から出力ミラー14に向けてこの順に配置されている。固体レーザ媒質12は、光軸上の両端面18a、18bが、ブリュースター角度で前記光軸に対して傾斜しているため、この固体レーザ媒質12から出射するレーザ光は、ランダム偏光ではなく、直線偏光となる。また、高屈折率材料部材10が設けられているので、光学的光路長が短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器長を物理的に長くすることなく、Qスイッチレーザのパルス幅を延長することができ、更に小型化が可能なQスイッチレーザ発光装置並びにレーザアニール方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザアニール装置においては、例えば、半導体製造の分野において、アモルファスシリコン膜にレーザ光を照射してこれを加熱し溶融させた後、凝固させることにより、アモルファスシリコン膜をポリシリコン膜に変質させている。この場合に、レーザ光のパルス幅が長い方が、ポリシリコン膜の結晶の粒径を大きくすることができるため、好ましい。また、パルス幅を長くする方が、干渉縞を低減することができる。
【0003】
図2に示すように、従来のQスイッチレーザ発光装置は、全反射ミラー3と出力ミラー4との間にレーザ媒質2が設けられ、このレーザ媒質2からのQスイッチ発振を可能とするQスイッチ1が設けられている。なお、このQスイッチ1は電気光学Qスイッチ素子であり、このQスイッチ1の近傍には、入射光を直線偏光にするための偏光子5が設置されている。また、レーザ媒質2が固体レーザ媒質である場合は、この固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起光源6がレーザ媒質2の近傍に設けられている。
【0004】
このQスイッチレーザ発光装置において、Qスイッチ1は、当初、レーザ共振器のQ値を低くして、レーザ発振を抑制しておき、全反射ミラー3と出力ミラー4との間でのポンピングによってレーザ媒質2中の励起状態にある粒子数が十分に大きくなった時点で、即ち、反転分布が極大になった時点で、共振器のQ値を急に上げて、レーザ発振させることにより、高出力のレーザパルス(所謂ジャイアントパルス)を出射するようにしたものである。このQスイッチ1は共振器のQ値を変化させる素子である。
【0005】
この従来のQスイッチレーザ発光装置においては、Qスイッチレーザ光のパルス幅を延長させるために、全反射ミラー3と出力ミラー4との間の間隔である共振器長7を長くしている。しかし、このように共振器長7を長くすると、共振器の機械的な振動及び熱膨張により、レーザ発振が不安定になるという問題点がある。
【0006】
一方、特許文献1は、モードロックレーザ装置に関するものであるが、共振器内に高屈折率の光学媒質を配置することにより、光学的光路長を制御して、パルス光の繰り返しを低下させることが開示されている。即ち、従前のモードロックレーザ装置においては、共振器光軸を複数回折り返して光学的光路長Lを長くしていたが、特許文献1のモードロック装置は、共振器内に高屈折率媒質を配置することにより、小型化を可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−60317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献1に記載の高屈折率媒質を、図2に示すQスイッチレーザ発光装置の共振器内に配置しても、装置全体の小型化という観点では不十分であった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、共振器の物理的な長さを大きくすることなく、Qスイッチレーザのパルス幅を延長することができ、装置の小型化が可能なQスイッチレーザ発光装置並びにレーザアニール方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るQスイッチレーザ発光装置は、全反射ミラーと、前記全反射ミラーの光軸上に設けられた出力ミラーと、前記全反射ミラーと前記出力ミラーとの間で前記光軸上に設けられた固体レーザ媒質と、前記固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起部材と、前記全反射ミラーと前記固体レーザ媒質との間で前記光軸上に設けられた高屈折率材料部材と、前記光軸上に配置されて前記全反射ミラーと前記出力ミラーとの間でレーザ光の発振を制御して前記レーザ光をQ発振させる電気光学Qスイッチ素子と、を有し、前記固体レーザ媒質の光軸方向の両端部の端面は、前記光軸に対してブリュースター角度で傾斜していて、前記Qスイッチ素子に入射するレーザ光のための偏光子を有しないことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るレーザアニール方法は、前記Qスイッチレーザ発光装置から出力されたレーザ光を、被照射体に照射して、前記被照射体をアニールすることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明に係るレーザアニール装置は、前記Qスイッチレーザ発光装置から出力されたレーザ光を、被照射体に導く導光手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、全反射ミラーと出力ミラーとの間の共振器内に高屈折率材料部材を配置したので、擬似的な光路長を延長することができ、共振器長の物理的な長さを長くすることなく、Qスイッチレーザ光のパルス幅を拡大することができる。また、固体レーザ媒質の光軸方向の両端部の端面に、ブリュースター角度を形成したので、この固体レーザ媒質から出射するレーザ光は、直線偏光したものとなり、偏光子を介すること無く、電気光学Qスイッチに入射することができる。よって、偏光子を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るQスイッチレーザ発光装置を示す図である。
【図2】従来のQスイッチレーザ発光装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態を示す図である。全反射ミラー13と出力ミラー14との間に、これらのミラーの光軸上に、電気光学Qスイッチ素子11、高屈折率材料部材10、固体レーザ媒質12が、全反射ミラー13から出力ミラー14に向けてこの順に配置されている。
【0016】
全反射ミラー13は反射面に誘電体多層膜を形成しており、レーザ光の反射率は100%に近く、また、各膜の境界面からの反射光は、同一の位相となって、全反射ミラー13から反射する。出力ミラー14は誘電体多層膜の総数を少なくしたものであり、例えば、入射光の1%程度を透過して、出力レーザとするものである。固体レーザ媒質12は、ガラス及び種々の結晶の棒状の母材に、レーザ動作物質イオンをドープしたものであり、レーザロッドといわれる。このレーザロッドの母材としては、耐熱性及び機械的特性に優れており、動作物質の励起特性も優れたYAG(イットリウムY、アルミニウムAl、ガーネットGa結晶)が好ましい。励起光源16はキセノンフラッシュランプ等の光を固体レーザ媒質12内に照射し、光励起でレーザ動作物質に反転分布を作るものである。これらの固体レーザ媒質12及び励起光源16は、全反射ミラー13及び出力ミラー14と共に、内面が反射鏡で覆われた集光器内に装入されていて、これらにより、共振器(又は発振器)が構成されている。
【0017】
本実施形態においては、固体レーザ媒質12は、全反射ミラー13と出力ミラー14との光軸上に配置されており、その光軸上の両端面18a、18bは、ブリュースター角度で前記光軸に対して傾斜している。このため、この固体レーザ媒質12から出射するレーザ光は、ランダム偏光ではなく、直線偏光となる。
【0018】
この共振器内には、更に、高屈折率材料部材10が配置されている。この高屈折率材料部材10は、特許文献1に開示されたものと基本的には同様のものでよく、この特許文献1には、屈折率が1.45以上、好適には1.6以上と記載されており、材質としては、屈折率が1.45以上の合成石英、及び屈折率が2.4のダイヤモンドが記載されている。本発明においても、上述と同様であるが、屈折率は1.9以上がより好ましい。
【0019】
また、共振器内には、電気光学Qスイッチ素子11が設置されている。この電気光学Qスイッチ素子11は、電気光学効果結晶に対して電圧を印加すると、その屈折率が変化する特性を利用してQスイッチ動作を行うようにした素子である。この電気光学Qスイッチ素子11は、従来、図2に示すように、偏光子5と組み合わせた電圧のオン・オフでQスイッチとして利用されている。しかし、本実施形態においては、レーザロッド、即ち、固体レーザ媒質12の両端面がブリュースター角度で傾斜していて、その角度に対応する一つの偏光成分を有する直線偏光のレーザ光が固体レーザ媒質12から出射されるので、偏光子5は不要である。
【0020】
次に、上述のごとく構成された本実施形態のQスイッチレーザ発光装置の動作について説明する。固体レーザ媒質12に対し、励起光源16から励起光を入射すると、固体レーザ媒質12の内部で動作物質が励起し、反転分布の状態が出現し、この状態でポンピングを続けると、反転分布が進行する。そして、電気光学Qスイッチ11に電圧を印加し、電気光学効果結晶の屈折率を変化させて、レーザ光が全反射ミラー13まで到達するようにすると、全反射ミラー13と出力ミラー14との間でレーザ光が往復し、固体レーザ媒質12を通過する間に、レーザ光が増幅される。このようにして、発振したレーザ光の一部が出力ミラー14を透過して、出力される。この電気光学Qスイッチ11がレーザ光を透過したときに、Q値が急激に高まり、共振器間のエネルギが短時間で爆発的に発振し、大出力パルス(ジャイアントパルス)が得られる。
【0021】
本実施形態においては、共振器内に閉じ込められたレーザ光は、高屈折率材料物質10を通過するので、この高屈折率材料物質10内では、真空中を伝播する場合に比して、共振器の光路長を擬似的に長くすることができる。即ち、図2に示すように、共振器の光路長17(共振器長)を物理的に長くすることなく、この物理的な光路長17は短いままで、共振器の光学的光路長を長くすることができる。これにより、発振レーザ光のパルス幅を長くすることができ、本実施形態のQスイッチレーザ発光装置を、アモルファスシリコンのレーザアニールに使用した場合には、結晶粒の粒径をより大きくすることができる。また、物理的光路長は長くする必要がないので、共振器長は短く、装置を大型化することはない。
【0022】
また、本実施形態においては、固体レーザ媒質12の両端面18a、18bを、光軸に対して、所定のブリュースター角度で傾斜するように、加工しているので、この固体レーザ媒質12から出射するレーザ光及び入射するレーザ光は、直線偏光となる。つまり、共振器内に閉じ込められるレーザ光は、直線偏光のものになる。このため、電気光学Qスイッチ11に対して、レーザ光を直接入射させることができ、従来のような偏光子が不要である。これにより、物理的な共振器長を更に短くすることができ、装置の小型化が可能になる。
【0023】
上述のQスイッチレーザ発光装置は、レーザアニールのための光源として使用することができ、また、レーザアニール装置に組み込むことができる。
【符号の説明】
【0024】
10:高屈折率材料部材
11:電気光学Qスイッチ素子
12:固体レーザ媒質
13:全反射ミラー
14:出力ミラー
16:励起光源
17:物理的光路長(共振器長)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全反射ミラーと、前記全反射ミラーの光軸上に設けられた出力ミラーと、前記全反射ミラーと前記出力ミラーとの間で前記光軸上に設けられた固体レーザ媒質と、前記固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起部材と、前記全反射ミラーと前記固体レーザ媒質との間で前記光軸上に設けられた高屈折率材料部材と、前記光軸上に配置されて前記全反射ミラーと前記出力ミラーとの間でレーザ光の発振を制御して前記レーザ光をQ発振させる電気光学Qスイッチ素子と、を有し、前記固体レーザ媒質の光軸方向の両端部の端面は、前記光軸に対してブリュースター角度で傾斜していて、前記Qスイッチ素子に入射するレーザ光のための偏光子を有しないことを特徴とするQスイッチレーザ発光装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載のQスイッチレーザ発光装置から出力されたレーザ光を、被照射体に照射して、前記被照射体をアニールすることを特徴とするレーザアニール方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載のQスイッチレーザ発光装置から出力されたレーザ光を、被照射体に導く導光手段を有することを特徴とするレーザアニール装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−228564(P2011−228564A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98552(P2010−98552)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】