説明

アクチュエータの駆動装置ならびにそれを用いる平行移動機構、干渉計および分光器

【課題】被駆動部材となる可動部とそれを駆動する駆動部とを備えて成るアクチュエータをPLL回路で駆動し、機械共振駆動を行わせる駆動装置において、短時間でかつ確実な位相引き込み動作を可能にし、さらに回路規模の増大やコストアップを抑える。
【解決手段】PLL回路のループフィルタ部14aを、位相比較器13の位相比較信号Vpdを平滑化してVCO11へ制御電圧Vcとして与えるLPFとしての機能を実現する積分回路21に、基準電圧源22とリセット手段としての短絡スイッチ23とを設ける。したがって、前記制御電圧Vcは、積分動作に伴い、基準電圧Vrefから共振周波数の目標電圧付近に滑らかに移行するので、オーバーシュートやリンギングの発生がなく、短時間でかつ確実な位相引き込み動作(位相ロックイン)を行うことができる。また、PLLループの外部に、制御信号を掃引するための特別な構成を設ける必要もない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械共振駆動を行うアクチュエータの駆動装置ならびにそれを用いる平行移動機構、干渉計および分光器に関し、特に駆動装置にはPLL(Phase Locked Loop)を用いるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、可動部と、これに結合された駆動部(PZT圧電振動子やVCM等の電磁力発生機構)とを備えて成るアクチュエータを交流駆動してその機械出力を得る場合、一般的にある特定の周波数で、可動部において大きい機械出力(機械振動振幅)が得られる機械共振現象が生じる。図15は、駆動周波数fdに対する機械出力(変位Vm)および駆動信号に対する前記変位Vmの位相θmの特性を示すグラフである。なお、図15(b)は、図15(a)の機械共振周波数fo付近での拡大図である。この図15から明らかなように、前記機械共振周波数foにおいて大きい機械出力と急激な位相の変化が現れる。
【0003】
これは、前記アクチュエータの固定部から見た可動部素材の等価的な質量M、弾性係数kと、素材の内部損失や摩擦、空気摩擦等で生じる損失係数μとによる機械的な共振現象と簡易的に理解されるものである。この機械共振時の機械出力の特徴は、共振のQ(クオリティーファクタ)による一種の外乱フィルタリングによる歪の少ない単振動と、大きな機械振動振幅とが得られることである。そこで、このような機械的特徴を利用して、多種多様のアクチュエータが考案されている。
【0004】
そして、そのような共振駆動型アクチュエータの駆動装置は、前記の機械共振周波数foに相当する交流信号で駆動(駆動信号Vd)を行う必要がある。また、その機械共振周波数foは環境変化や経時変化等により変動することが想定されるので、前記駆動装置には、駆動中は常に前記駆動信号Vdの周波数(駆動周波数fd)を前記機械共振周波数foに追尾させ、安定な機械出力を得る機能がさらに必要となる。
【0005】
そのような機能を有する駆動方法の1つに、前記のPLL制御がある。これは、前述の図15で示すように、共振周波数fo付近で、駆動信号Vdの位相と機械出力Vmの位相とが急激に大きく変化することを利用している。図15(b)から、機械出力Vmとして振動の変位xを取れば、共振周波数foにて位相θmが90degだけ駆動信号Vdから遅れることが理解される。更に高い周波数では、最大180deg近く遅れることになる。よって、駆動信号Vdと機械出力Vm(変位x)との位相θmの差の検出を行い、それが常に90degとなるように駆動周波数fdを制御すれば、機械共振周波数foを追尾することができ、安定な機械出力が得られる。この点、前記PLL制御は、2つの信号間の位相差を常に既定値に保つように、内蔵する電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)の発振周波数を負帰還制御する機能を有するので、上述のような共振駆動型アクチュエータの駆動制御に適合利用できる。
【0006】
ところで、前記PLLによる駆動装置では、電源投入時のようなアクチュエータの起動時は、通常、前記VCOはフリーラン発振(未決の周波数での発振状態)を行う。一般的に、そのフリーラン発振周波数はアクチュエータの機械共振周波数foとは一致しておらず、駆動部は機械共振周波数fo以外で駆動を行うことになる。よって、位相比較器には一方の駆動信号(前記フリーラン発振周波数に相当する交流信号)は入力されるものの、他方の機械出力Vm(変位x)の検出信号は、機械出力が非常に小さいので、検出レベル以下となり、入力されない。このため、位相比較器が機能せず、PLLの制御において位相を引き込まず、アクチュエータは機械共振駆動されないままの状態が続く。
【0007】
そこでこのような状態を回避するために、特許文献1においては、駆動装置の起動時には、PLLの負帰還ループをオープンにして、スイープ(掃引)回路によってVCOの発振周波数制御端子を制御して、その発振周波数fvcoを機械共振周波数foに向かってスイープさせ、同時に機械出力Vm(変位x)の検出を行い、前記発振周波数fvcoが機械共振周波数foに近付くにつれて前記機械出力Vm(変位x)の検出レベルが上昇し、既定値に達すると、制御回路が、アクチュエータは機械共振駆動状態であると判定して、VCOの発振周波数制御端子を前記スイープ回路から位相比較器の出力に切り替えることで、前記負帰還ループをクローズして、位相の引き込みを達成している(位相ロックイン)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−78368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上述した対策では、以下のような問題が存在している。先ず、アクチュエータが機械共振駆動状態と判断され、VCOの発振周波数制御端子がスイープ回路から位相比較器の出力に切換えられる際に、前記スイープ回路の出力電位と前記位相比較器の出力電位との差によって、電圧制御発振器VCOの発振周波数制御端子に急激な電圧変化が発生する。これは、前記負帰還ループがクローズになると同時に一種のノイズが発振周波数制御端子に印加されたことと等価であり、PLLの位相引き込み動作が一瞬不安定となる。このため、負帰還ループのゲインの設計(ゲイン、位相余裕の設定等)やループフィルタの設計にもよるが、VCOの発振周波数の変化にオーバーシュートやリンギングが発生して、安定になるまでに時間を要する場合や、位相ロックインができない場合もありうる。
【0010】
そこで、機械共振駆動状態の検出精度を上げることで、上記のような問題は改善すると考えられるが、そのための回路(ピークホールド回路)の増加や検出レベルの調整作業を要するという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、PLLの短時間でかつ確実な位相引き込み動作を行うことができるとともに、回路規模の増大やコストアップを抑えることができるアクチュエータの駆動装置ならびにそれを用いる平行移動機構、干渉計および分光器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアクチュエータ駆動装置は、可動部とそれを駆動する駆動部とを備えるアクチュエータに機械共振駆動を行わせるアクチュエータの駆動装置において、前記駆動部を駆動するための駆動信号の周波数を制御信号に応じて可変生成する電圧制御発振器と、前記アクチュエータの機械出力を検出する検出部と、前記駆動信号の位相と前記検出部の検出信号の位相との差を検出する位相比較器と、前記位相比較器の位相比較信号を平滑化して前記電圧制御発振器へ前記制御信号として与えるループフィルタ部とを備え、前記ループフィルタ部は、積分回路と、前記積分回路に対して、前記アクチュエータの共振周波数に略一致した制御信号のレベルである目標電圧から所定電圧だけ離間した基準電圧を与える基準電圧源と、前記積分回路を、その積分動作の開始時にリセットし、前記制御信号のレベルを前記基準電圧から前記目標電圧へ向けて掃引を行わせることで、前記アクチュエータを前記機械共振の状態に引込むリセット手段とを含むことを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、被駆動部材となる可動部と、それを駆動する駆動部とを備えて成るアクチュエータを駆動するにあたって、前記駆動部を駆動するための駆動信号の周波数を制御信号に応じて可変生成する電圧制御発振器と、前記アクチュエータの機械出力を検出する検出部と、前記駆動信号の位相と前記検出部の検出信号の位相との差を検出する位相比較器と、前記位相比較器の位相比較信号を平滑化して前記電圧制御発振器へ前記制御信号として与えるループフィルタ部とを備えることで、PLLループを構成し、前記アクチュエータに機械共振駆動を行うアクチュエータの駆動装置において、前記ループフィルタ部を、前記位相比較器の位相比較信号を平滑化して直流電圧で前記電圧制御発振器へ前記制御信号として与えるローパスフィルタとしての機能に加えて、前記制御信号のレベルを掃引できるようにしておく。具体的には、前記ローパスフィルタとしての機能を実現する積分回路に、基準電圧源とリセット手段とを設け、前記基準電圧源は、前記積分回路に対して、前記アクチュエータの共振周波数に略一致した制御信号のレベルである目標電圧から所定電圧だけ離間した基準電圧、すなわち前記掃引の開始電圧を与え、前記リセット手段は、前記積分回路を、その積分動作の開始時にリセットし、リセット解除後、前記制御信号のレベルを前記基準電圧から前記目標電圧へ向けて掃引を行わせる。その掃引によって、前記電圧制御発振器からの駆動信号の周波数が、アクチュエータの個体毎にばらつきのある共振周波数に一致すると、前記位相比較器の位相比較信号も所定の状態(所定の電圧或いはオープン状態等)で安定し、前記可動部アクチュエータを前記機械共振の状態に引込むことができる。
【0014】
したがって、PLLループの外部に設けた前記制御信号を掃引する構成と、ループフィルタとの出力を切換えて前記電圧制御発振器に与える場合には、非連続な切換え時に一種のノイズが発生し、該PLLループの動作が不安定になるのに対して、本願発明では、前記電圧制御発振器に与える制御信号は、積分回路の積分動作に伴い、前記基準電圧から共振周波数の目標電圧付近に滑らかに(連続して)移行するので、移行時にオーバーシュートやリンギングの発生がなく、該電圧制御発振器の発振周波数が安定し、短時間でかつ確実な位相引き込み動作(位相ロックイン)を行うことができるようになる。また、PLLループの外部に、制御信号を掃引するための特別な構成を設けることなく、ループフィルタ部の積分回路に関連して基準電圧源とリセット手段とを設けるだけで制御信号を掃引し、さらに位相比較器の位相比較信号を用いて前記掃引の停止動作を行うので、機械共振駆動状態の判定に専用の回路を用いる必要はなく、回路規模の増大やコストアップを抑えることができる。
【0015】
また、本発明のアクチュエータ駆動装置では、前記積分回路は、オペアンプと、その出力を負帰還するコンデンサと、入力抵抗とを備えて構成されるミラー積分回路から成り、前記リセット手段は、前記コンデンサの端子間を短絡するスイッチ素子から成ることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、積分回路にミラー積分回路を用い、位相比較器からの出力を入力抵抗を介してオペアンプの非反転入力端に、該オペアンプの出力を前記短絡スイッチまたはコンデンサを介して該オペアンプの反転入力端にそれぞれ与え、短絡スイッチが“ON”から“OFF”に切換えられると、帰還コンデンサに入出力の電位差と入力抵抗とによる定電流充電が行えるので、該積分回路の出力は直線状に変化(ランプ信号電圧)する。
【0017】
したがって、該積分回路の出力電圧である電圧制御発振器に対する制御電圧もまたランプ信号電圧となり、電圧制御発振器の発振周波数の掃引動作が時間経過に対して直線的に滑らかに行え、掃引の速度設定が容易となる。これによって、機械出力の検出を精度良く行え、短時間で引込み動作を行うことができる。
【0018】
さらにまた、本発明のアクチュエータ駆動装置では、前記積分回路は、ラグ・リードフィルタであることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、RCの1次遅れ要素から成るラグフィルタは、前記位相比較器からの位相比較信号における不要高調波成分を減衰させる効果はあるものの、負帰還ループにおける安定化の効果が少ないのに対して、ラグ・リードフィルタは、位相を進ませる機能を有し、前記負帰還ループ内で発生する位相遅れを補償して安定化する効果(ゲイン余裕、位相余裕の確保)を有するので、ローパスフィルタとして、このラグ・リードフィルタを用いることは好ましい。
【0020】
また、本発明の平行移動機構では、前記アクチュエータは、前記可動部として、帯状に形成される一対の板ばね部材と、前記板ばね部材の対向面側で、両端部間を連結することで該板ばね部材を相互に平行に支持する一対の剛体とを備えて構成され、一端側が固定されることで、他端側が前記板ばね部材の厚み方向に平行移動可能となり、前記駆動部は、前記板ばね部材の一方を、その厚み方向に湾曲駆動する駆動部材から成り、前記駆動部材に前記のアクチュエータ駆動装置からの駆動信号が与えられることで、前記可動部が機械共振駆動されることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、マイケルソン干渉計などに用いられる平行移動機構を実現することができる。
【0022】
さらにまた、本発明の平行移動機構では、前記板ばね部材は、SOI基板から成ることを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、いわゆるMEMS技術、すなわちフォトリソグラフィおよびエッチング等の半導体製造技術と、陽極接合などの接合技術とを複合した技術を用いて、平行移動機構を製造することができる。
【0024】
したがって、板ばね部材の長さがばらつきを抑えることができ、該平行移動機構の組立時や平行移動時の傾きを抑えることができるとともに、個体差を無くすこともできる。
【0025】
また、本発明の干渉計は、前記の平行移動機構を備え、前記板ばね部材の他端側に移動ミラーが搭載されることを特徴とする。
【0026】
上記の構成によれば、コーナーキューブの設置を不要として、干渉計を小型化できるとともに、高精度な干渉を実現することができる。
【0027】
さらにまた、本発明の分光器では、前記の干渉計を備えることを特徴とする。
【0028】
上記の構成によれば、小型で高分解能の分光器を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のアクチュエータ駆動装置は、以上のように、被駆動部材となる可動部とそれを駆動する駆動部とを備えて成るアクチュエータをPLL回路で駆動し、機械共振駆動を行わせるアクチュエータの駆動装置において、前記PLL回路のループフィルタ部を、位相比較器の位相比較信号を平滑化して直流電圧で電圧制御発振器へ制御信号として与えるローパスフィルタとしての機能を実現する積分回路に、基準電圧源とリセット手段とを設け、前記基準電圧源が前記積分回路に対して掃引開始の電圧となる所定の基準電圧を与え、前記リセット手段が前記積分回路を、その積分動作の開始時にリセットし、前記制御信号のレベルを前記基準電圧からアクチュエータの共振周波数に対応した目標電圧へ向けて掃引を行わせる。
【0030】
それゆえ、前記電圧制御発振器に与えられる制御信号は、積分回路の積分動作に伴い、前記基準電圧から共振周波数の目標電圧付近に滑らかに(連続して)移行するので、移行時にオーバーシュートやリンギングの発生がなく、該電圧制御発振器の発振周波数が安定し、短時間でかつ確実な位相引き込み動作(位相ロックイン)を行うことができるようになる。また、PLLループの外部に、制御信号を掃引するための特別な構成を設けることなく、ループフィルタ部の積分回路に関連して基準電圧源とリセット手段とを設けるだけで制御信号を掃引し、さらに位相比較器の位相比較信号を用いて前記掃引の停止動作を行うので、機械共振駆動状態の判定に専用の回路を用いる必要はなく、回路規模の増大やコストアップを抑えることができる。
【0031】
また、本発明の平行移動機構は、以上のように、前記アクチュエータにおける前記可動部を、帯状に形成される一対の板ばね部材と、前記板ばね部材の対向面側で、両端部間を連結することで該板ばね部材を相互に平行に支持する一対の剛体とを備えて構成し、その一端側を固定することで、他端側を前記板ばね部材の厚み方向に平行移動可能とする一方、前記駆動部として、前記板ばね部材の一方を、その厚み方向に湾曲駆動する駆動部材を用い、前記駆動部材に前記のアクチュエータ駆動装置からの駆動信号を与えることで、前記可動部が機械共振駆動されるようにする。
【0032】
それゆえ、マイケルソン干渉計などに用いられる平行移動機構を実現することができる。
【0033】
また、本発明の干渉計は、以上のように、前記の平行移動機構を備え、前記板ばね部材の他端側に移動ミラーを搭載して成る。
【0034】
それゆえ、コーナーキューブの設置を不要として、干渉計を小型化できるとともに、高精度な干渉を実現することができる。
【0035】
さらにまた、本発明の分光器は、以上のように、前記の干渉計を備える。
【0036】
それゆえ、小型で高分解能の分光器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の一形態に係る駆動装置のブロック図である。
【図2】PLLのVCOの制御電圧変化に対する発振周波数の変化を示すグラフである。
【図3】機械共振アクチュエータの駆動回路の一例を示し、矩形波を三角波に変換する変換回路のブロック図である。
【図4】図3で示す変換回路の動作を説明するための波形図である。
【図5】代表的な位相比較器の入出力信号波形の例を示す波形図である。
【図6】機械共振アクチュエータの駆動周波数の変化に対する機械出力およびその位相変化を説明するためのグラフである。
【図7】本実施の形態の駆動装置のPLLにおけるループフィルタ部の一構成例のブロック図である。
【図8】前記PLLの動作を説明するための波形図である。
【図9】前記駆動装置を用いる分光器の概略の構成を示す図である。
【図10】前記平行移動機構の概略構成を示す斜視図である。
【図11】前記平行移動機構の概略構成を示す断面図である。
【図12】前記平行移動機構の構成および動作を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明の実施の他の形態に係る駆動装置におけるループフィルタ部のブロック図である。
【図14】ラグフィルタおよびラグ・リードフィルタの構成ならびにゲインおよび位相の周波数特性を示すグラフである。
【図15】機械共振アクチュエータの駆動周波数の変化に対する機械出力およびその位相変化を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の一形態に係る駆動装置1のブロック図である。この駆動装置1は、被駆動部材となる可動部と、それを駆動する駆動部とを備えて成るアクチュエータ2を機械共振駆動するもので、大略的に、PLL回路3に、そのPLL回路3からの発振信号Vnを、アクチュエータ2の駆動に適した波形および振幅に変換して、期待する機械出力Vmを得るための駆動信号Vdとして出力する駆動回路4と、前記可動部の機械出力Vm(変位x)を検出して検出信号Vsを得る検出部5とを備えて構成される。
【0039】
前記PLL回路3の主要構成要素は、既存のPLL回路の構成に類似しており、VCO11と、分周器12と、位相比較器13と、ループフィルタ部14とを備え、負帰還ループを構成する。ただし、本実施の形態では、前記アクチュエータ2を駆動する駆動信号Vdの周波数fd、すなわち前記機械共振周波数foが比較的低く、前記VCO11からの発振信号Vvcoは、その周波数fvcoが分周器12で1/Nに分周されて前記駆動回路4に与えられる発振信号Vnとなり、また位相比較器13に入力される。したがって、前記アクチュエータ2を駆動する周波数(機械共振周波数fo)によっては、この分周器12が設けられずにVCO11からの発振信号Vvcoがそのまま発振信号Vnとして駆動回路4に与えられてもよく、或いは位相比較器13の入力側に分周器12が設けられてもよい。
【0040】
前記VCO11は、制御端子Vcntに印加された制御電圧Vcに応じて、発振周波数fvcoを可変できる信号発生器である。図2に、前記制御電圧Vcと発振周波数fvcoとの関係を示す。このようにVCO11では、直流の制御電圧Vcと発振周波数fvcoとは、単調増加の関係にある。
【0041】
前記駆動回路4としては、入力信号(発振信号Vn)は通常は矩形波であるが、アクチュエータ2の有する機械共振周波数foよりも高次の機械共振周波数での応答による悪影響を考慮すれば、高調波成分の少ない駆動信号fdが望ましいので、該入力信号(発振信号Vn)を、三角波や正弦波の波形に変換し、電力増幅する回路から成る。図3に、前記駆動回路4として、ミラー積分回路を用いた三角波への変換回路4aの例を示す。この変換回路4aは、反転アンプ41に、入力抵抗42および帰還コンデンサ43を備えて構成される。ここで、入力信号(発振信号Vn)として、図4(a)で示すような矩形波が入力され、入力抵抗42に流れる電流Itの方向が、発振信号Vnの立上り、立下りのタイミングで変わると、反転アンプ41によって、帰還コンデンサ43に対して前記電流Itを定電流で充放電することになり、その出力に三角波Voを得ることができる(図4(c))。この三角波Voを基に、その振幅を適切に変えて駆動信号Vdとする。前記変換によって、駆動信号Vdの基本波成分Vdf(図4(d))の位相は、発振信号Vnの基本波成分Vnf(図4(b))の位相に対し、90deg位相が進むことになる。
【0042】
アクチュエータ2は、前記のようにして作成された前記駆動信号Vdに応じた機械出力Vmを出力する。検出部5は、前記アクチュエータ2の可動部付近に結合された圧電振動センサ等を用いて前記機械出力Vmを検出し、増幅後波形整形を行い、矩形波信号を出力する(検出信号Vs、本例では変位xを検出)。
【0043】
前記位相比較器13は、前記発振信号Vnの位相と前記検出信号Vsの位相との差を検出してその位相差に相当する位相比較信号Vpdを出力する。図5に、代表的な位相比較器(4046番のPLL ICにおける)の入出力信号波形の例を示す。前記発振信号Vnと前記検出信号Vsとの位相差Δθには、3種の状態がある。すなわち、検出信号Vsの位相が発振信号Vnの位相より進んだ場合は(同図(A))、位相比較信号Vpdは電源電圧Vcc値を出力する。また、検出信号Vsの位相が発振信号Vnの位相と一致した場合は(同図(B))、前記位相比較器13の出力回路はハイインピーダンス状態となる。さらにまた、検出信号Vsの位相が発振信号Vnの位相より遅れた場合は(同図(C))、位相比較信号Vpdはグランド電位値(0V)を出力する。また、発振信号Vnのみが入力され、検出信号Vsの入力がない(“H”または“L”の信号が入力され、変化しない)場合も、グランド電位値(0V)を出力する回路構成となっている(同図(D))。
【0044】
前記ループフィルタ部14は、前記位相比較信号Vpd(図5)に含まれる不必要な高域の周波数成分を除去し(LPF機能)、位相差Δθの変化成分の信号(制御電圧Vc)をVCO11の制御端子Vcntに出力する。このループフィルタ部2は、以下に述べるPLLループの帰還量の設定や安定性(ゲイン余裕、位相余裕)を確保するための位相補償機能をも有している。
【0045】
ここで、図6で示すように、機械共振駆動状態(機械共振周波数fo1、駆動周波数fd1)にあるアクチュエータ2の機械共振周波数foが環境温度等によって高く変化したとすると(fo1→fo2)、アクチュエータ2の機械共振特性によって、駆動信号Vd(駆動周波数fd1)に対する機械出力Vm(変位x)の位相遅れは、90degより小さくなる(同図θm1)。したがって、前記検出信号Vsの位相は前記発振信号Vnの位相より、位相差0degの状態から進む(同図Δθm)。これによって、位相比較信号Vpdは図5の(B)の状態から(A)の状態に移動して、位相比較器13は、Vccの電圧を周期的にループフィルタ部14へ出力することとなる。これによって、ループフィルタ部14の出力(制御信号Vc)は上昇するので、VCO11の発振周波数fvcoも高くなる。前記発振周波数fvcoが上昇すれば、その分周信号である駆動信号Vnの駆動周波数fd1はfd2へ高く変化する。そして検出信号Vsの位相は90degに戻り再び安定状態に戻ることとなる(負帰還動作)。一連のこれらの動作は、アクチュエータ2の機械共振周波数foの変動に追尾していると理解できる。
【0046】
注目すべきは、本実施の形態では、前記ループフィルタ部14が、上述のようなLPF機能に加えて、VCO11の周波数掃引機能を備えていることである。具体的には、図7は、前記ループフィルタ部14の一構成例であるループフィルタ部14aのブロック図である。このループフィルタ部14aは、前記LPFとしての機能を発揮する積分回路21と、前記積分回路21に対して、前記アクチュエータ2の機械共振周波数foに略一致した制御電圧Vcのレベルである目標電圧Vctから所定電圧ΔVcだけ離間した基準電圧Vref、すなわち後述する掃引の開始電圧を与える基準電圧源22と、前記積分回路21を、その積分動作の開始時にリセットし、リセット解除後、前記制御電圧Vcのレベルを前記基準電圧Vrefから前記目標電圧Vctへ向けて掃引を行わせることで、前記アクチュエータ2を前記機械共振の状態に引込む短絡スイッチ23とを備えて構成される。
【0047】
前記積分回路21は、アンプ24と、入力抵抗Rと、帰還コンデンサCとを備えて構成されるミラー積分回路から成る。前記位相比較器13の出力(位相比較信号Vpd)は、抵抗Rを介してアンプ24の負入力端子に接続される。アンプ24は、差動入力構成の増幅器で、その出力Vaは、帰還コンデンサCで前記負入力端子に帰還され、正入力端子には前記基準電圧源22から基準電圧Vrefが与えられ、動作バイアスとなる。アンプ24の出力Vaは、後段のアンプ25で反転されて、前記VCO11の制御電圧Vcとなる。前記反転の理由は、前記ミラー積分回路で位相が反転するので、正相に戻すためである。
【0048】
前記積分回路21は、後述する位相ロックイン状態においては、LPFとして機能して、先述した不必要な高域の周波数成分の除去、ならびに負帰還ループの帰還量の設定や安定性(ゲイン余裕、位相余裕)を確保するための位相補償を行うものである。そして、リセット手段として、前記帰還コンデンサCの端子間には前記短絡スイッチ23が設けられており、これを“ON”に設定することで、前記帰還コンデンサCの電荷を放電(リセット)させて、積分動作の待機の設定を可能としている。
【0049】
図8は、上述のように構成される駆動装置1の動作を説明するための波形図である。先ず待機状態の期間W1において、前記短絡スイッチ23をONにして、積分動作を待機させておく。このとき、積分回路21の出力Vaは、基準電圧Vrefと同電圧を保持する。またこのとき、アンプ25からの制御電圧Vcが所定の開始電圧Vc1となるように、オフセット調整しておく。これによって、VCO11からは、前記開始電圧Vc1に相当する周波数fvco1の発振信号が出力され、分周器12にて周波数が1/N倍された発振信号Vnによって、駆動回路4からアクチュエータ2には、周波数fd=fvco1/Nの駆動信号Vdが印加されている。前記基準電圧Vrefおよび開始電圧Vc1は、VCO11の発振周波数fvcoを所定の開始周波数fvco1に設定するための電圧であり、前記機械共振周波数foと分周比Nとから設定される目標周波数ft=fo×Nから充分離れた周波数(高低のいずれでもよいが、図8では高周波側で示している)で発振を行わせられる電圧であればよい。
【0050】
したがって、この待機状態の期間W1では、アクチュエータ2は機械共振駆動状態でないので、位相比較器13の入力は、検出部5からの検出信号Vsが検出レベル以下のために未入力となって、分周器12からの発振信号Vnのみとなり、該位相比較器13は、位相比較信号Vpdに“L(=0V)”を出力している。このため、積分回路21の入力抵抗Rには、アンプ24の出力端から、短絡スイッチ23を経由して、電流I(=Vref/R)が流れている(図7参照)。
【0051】
次に、起動状態の期間W2では、短絡スイッチ23が“ON”から“OFF”に切換えられ、これによって前記電流Iは、短絡スイッチ23の経由(図7のI1)から、帰還コンデンサCの経由(同図のI2)に切換わり、該帰還コンデンサCに充電電流として流れる。したがって、前記アンプ24の出力Vaは、帰還コンデンサCの定電流充電によるランプ信号電圧(Va=I/C・t+Vref、t:経過時間)を示す。同時に、制御電圧Vcは、前記開始電圧Vc1から時間と共に低下するので、VCO11の発振周波数fvcoも低下してゆく。こうして、発振信号Vn(駆動信号Vd)の周波数は、掃引動作を行いながら機械共振周波数foに近付いてゆく。前記ランプ信号電圧の傾きI/Cは、VCO11の発振周波数fvcoの掃引速度に対応するが、この大きさは、掃引する駆動信号Vdの周波数fd=fvco/Nが機械共振周波数foを横切る際に、検出部5にて機械出力Vmが成長して充分検出できる速度に設定してあるものとする。
【0052】
続いて、過渡状態の期間W3では、前記駆動周波数fd=fvco/Nの掃引動作が進み、アクチュエータ2の機械共振周波数foに近付き、徐々に機械出力Vmが成長してゆく。そして、位相引き込み動作(位相ロックイン)の期間W4となると、その機械出力Vmの成長が検出部5の検出レベルを超え、波形整形された検出信号Vsが位相比較器13へ入力されるので、該位相比較器13は、前記検出信号Vsと発振信号Vnとの位相の比較動作を行い、結果を出力し始める。つまり、位相比較器13の位相比較信号Vpdは、“L”の出力状態から、繰り返しパルスの出力状態(“L”⇔“ハイインピーダンス”)に移行する。この移行に伴い以下の動作が始まる。
【0053】
すなわち、先ず積分回路21の入力(位相比較信号Vpd)に変化が生じて、ハイインピーダンス時には充電電流Iは0となるので、前記充電電流Iの平均値は低減する。これによって、制御電圧Vcの低下速度は低下し、駆動周波数fd=fvco/Nの掃引速度も低下する。そして、駆動周波数fd=fvco/Nは機械共振周波数foに漸近してゆき、前記検出信号Vsと分周信号Vnとの位相差が小さくなり、位相比較信号Vpdのハイインピーダンス期間が増加する。以上の動作を繰返すことで、駆動周波数fd=fvco/Nが、そのときのアクチュエータ2の機械共振周波数foに一致し、位相引き込み(ロックイン)状態となる。
【0054】
そして、最終的に、ロック状態の期間W5では、検出信号Vsと分周信号Vnとの位相差は0degとなる(駆動信号Vdと検出信号Vsとの位相差は90deg)。これによって、位相比較信号Vpdは“ハイインピーダンス”状態に移行して、前記充電電流Iも0となり、積分回路21の出力Vaは前記目標電圧Vctである一定値Va2(アンプ25からの制御電圧VcはVc2)を保持する。つまり、位相比較信号Vpdによって、積分回路21による掃引信号の発生動作が停止したと言える。よって、負帰還ループは安定し、駆動周波数fd=fvco/Nは、アクチュエータ2の機械共振周波数foとほぼ一致して、位相ロックインの動作は完了する。
【0055】
したがって、従来のようにPLLループの外部に設けた前記制御信号を掃引する構成と、ループフィルタとの出力を切換えてVCOに与える場合には、非連続な切換え時に一種のノイズが発生し、該PLLループの動作が不安定になるのに対して、本実施の形態では、前記VCO11に与える制御電圧Vc(Va)は、積分回路21の積分動作に伴い、基準電圧Vrefから共振周波数foの目標電圧Vct(=Vct2(Vat2))付近に滑らかに(連続して)移行するので、移行時にオーバーシュートやリンギングの発生がなく、該VCO11の発振周波数fvcoが安定し、短時間でかつ確実な位相引き込み動作(位相ロックイン)を行うことができるようになる。また、PLLループの外部に、制御信号を掃引するための特別な構成を設けることなく、ループフィルタ部14の積分回路21に関連して基準電圧源22とリセット手段である短絡スイッチ23とを設けるだけで制御電圧Vc(Va)を掃引し、さらに位相比較器13の位相比較信号Vpdを用いて前記掃引の停止動作を行うので、機械共振駆動状態の判定に専用の回路を用いる必要はなく、回路規模の増大やコストアップを抑えることができる。
【0056】
また、積分回路21にミラー積分回路を用いることで、帰還コンデンサCに定電流充電(電流値I=(Vref−Vpd)/R,本実施の形態では、Vpd=0V)が行えるので、該積分回路21の出力Vaは、直線状に変化(ランプ信号電圧)する。よって、制御電圧Vcもまたランプ信号電圧となり、図2で示すように、VCO11の発振周波数fvcoの掃引動作が時間経過に対して直線的に滑らかに行えるので、掃引の速度設定が容易となる。これによって、起動状態の期間W2における掃引速度の設定が容易となるので、位相引き込み動作の期間W4における機械出力Vmの検出を精度良く行え、短時間で引込み動作を行うことができる。
【0057】
なお、位相比較器13の構成には、本例以外にも種々あるが、比較する2信号の内、一方の信号(発振信号Vn)のみの入力時の位相比較信号Vpdと、2信号が入力して目的の位相差にPLL制御がロックした場合の位相比較信号Vpdとに、信号差(電位差)があるような構成の位相比較器なら何でもよい。また、本例において、検出部5では、機械出力Vmの変位を検出しているので、機械共振駆動時の駆動信号Vd(fd=fo)と、検出信号Vsとの位相差は90degとした。これに対して、検出部5が前記機械出力Vmの速度を検出する構成の場合には、前記位相差は0degとなるので、PLL制御のロック位相は前記0degにすればよい。
【0058】
図9は、上述のように構成される駆動装置1を用いる分光器101の概略の構成を示す図である。前記駆動装置1は、アクチュエータ2として、この分光器101の後述する平行移動機構121を機械共振駆動するために用いられる。その他、本実施形態の平行移動機構121は、高精度な並進駆動が求められる分野に適用可能であり、干渉計や分光器のみならず、屈折率測定器、光ピックアップの対物レンズアクチュエータ、小型カメラのAF(オートフォーカス)機構などにも適用することができる。
【0059】
この分光器101は、干渉計102にマイケルソン干渉計を用いた時間的フーリエ変換分光器であり、前記干渉計102に、演算部103および出力部104を備えて構成される。前記干渉計102は、光源111と、コリメータレンズ112と、ビームスプリッタ(例えばハーフミラー)113と、固定ミラー114と、移動ミラー115と、集光レンズ116と、検出器117とを備えている。なお、移動ミラー115は、移動しながら入射光を反射させる反射部を構成しているとともに、平行移動機構121の一部を構成しているが、この平行移動機構121の詳細については後述する。
【0060】
上記の構成において、光源111から出射された光は、コリメータレンズ112によって平行光に変換された後、ビームスプリッタ113によって2つの光路に分岐される。各光束は、固定ミラー114および移動ミラー115でそれぞれ反射され、元の光路を逆戻りしてビームスプリッタ113で重ね合わせられ、干渉光として試料Sに照射される。このとき、移動ミラー115を連続的に移動させながら試料Sに光が照射されるが、ビームスプリッタ113から各ミラー(固定ミラー114および移動ミラー115)までの光路が相互に等しい場合には、重ね合わされた光の強度は最大となる。一方、移動ミラー115の移動によって2つの光路に差が生じている場合には、重ね合わされた光の強度に変化が生じる。試料Sを透過した光は、集光レンズ116を介して検出器117に入射し、そこで時間的インターフェログラムとして検出される。
【0061】
干渉計102の検出器117から出力される信号は、演算部103にて、A/D変換およびフーリエ変換され、この結果、スペクトルが生成される。このスペクトルは、出力部4によって表示出力される。出力されたスペクトルから、各波長(波数(=1/波長))の光の強度を知ることができるので、これによって試料Sの特性(材料、構造、成分量など)を知ることができる。
【0062】
図10は平行移動機構121の概略構成を示す斜視図であり、図11はその断面図である。この平行移動機構121は、帯状に形成される一対の板ばね部材131,132と、それらの板ばね部材131,132の対向面側で、両端部間を連結することで該板ばね部材131,132を相互に平行に支持する一対の剛体133,134と、一方の板ばね部材(図10および図11では131)を、後述するようにその厚み方向に湾曲駆動する駆動部材135と、上記の移動ミラー115とを有している。
【0063】
前記板ばね部材131,132は、たとえばSOI(Silicon on Insulator)基板を用いて形成され、シリコンから成る支持層131a,132aと、酸化シリコンから成る絶縁酸化膜層(BOX層)131b,132bと、シリコンから成る活性層131c,132cとが積層された後、支持層131a,132aおよび絶縁酸化膜層(BOX層)131b,132bにおいて、前記剛体133,134に対応した両端部分を残して、中間部分がフォトリソおよびドライエッチングなどの技術を用いて除去されて形成される。この板ばね部材131,132を、前記支持層131a,132aおよび絶縁酸化膜層(BOX層)131b,132bが形成された面側を対向させて、前記支持層131a,132aと剛体133,134とを接合することで、中空で相互に平行な平板部131p,132pが形成される。
【0064】
前記剛体133,134は、板ばね部131,132の平板部131p,132pよりも厚いガラスで形成されている。そのガラスとしては、酸化ナトリウム(NaO)や酸化カリウム(KO)を含むアルカリガラスを用いることができる。その場合、前述のようにシリコンから成る支持層131a,132aと該剛体133,134とを、陽極接合により連結することができる。前記陽極接合とは、シリコンおよびガラスに数百℃の温度下で数百Vの直流電圧を印加し、Si−Oの共有結合を生じさせることによって、両者を直接接合する手法である。
【0065】
そして、剛体133,134の内の一方(図10および図11では134)は、干渉計102の内壁に固定されており、他方(同133)は、駆動部材135による板ばね部材131の変形によって変位することが可能となっている。前記駆動部材135は、板ばね部材131を曲げ変形させることによって、固定されている剛体134に対して、剛体133を、2枚の板ばね部材131,132によって、該板ばね部材131,132の対向方向に平行移動させるものである。本実施の形態では、駆動部材135は、板ばね部材131における剛体134の上方で、かつ剛体134とは反対側の表面に設けられている。また、上記の移動ミラー115は、板ばね部材131における剛体133の上方で、かつ剛体133とは反対側の表面に設けられている。駆動部材135および移動ミラー115は、板ばね部材132側に設けられていてもよい。また、駆動部材135および移動ミラー115の大きさは、適宜設定されればよい。
【0066】
移動ミラー115は、シリコンから成る活性層131cに対して、たとえばAuをスパッタすることによって形成される。あるいは、AlやPtなどの金属材料を蒸着法や接着によって活性層131c上に形成することで、該移動ミラー115を形成してもよい。
【0067】
前記駆動部材135は、PZT素子などで構成されている。PZT素子は、図12に示すように、圧電材料であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)141の両表面に、電極142,143を貼付けた構造となっている。その駆動部材135は、接着剤を用いて板ばね部材131に接着される。板ばね部材131には、引き出し電極153と固定電極154とが金属材料のスパッタ等によって予め形成されており、上面の電極142は、この固定電極154を介して、下面の電極143は引き出し電極153を介して、駆動回路4からの電極パッドとワイヤーボンディングによって接続される。
【0068】
PZT41は、電極142,143間に電圧を印加することで、その長手方向に伸縮し、板ばね部材131を曲げ変形させ、剛体133と共に、移動ミラー115を変位させることができるようになっている。たとえば、電極142,143間に正方向の電圧を印加することによってPZT141が伸びた場合には、図12(a)で示すように、板ばね部材131が上に凸となるように変形し、剛体133と共に移動ミラー115は下方に変位する。これに対して、電極142,143間に負方向の電圧を印加によってPZT41が縮んだ場合には、図12(b)で示すように、板ばね部材131が下に凸となるように変形し、剛体133と共に移動ミラー115は上方に変位する。このように、駆動部材135によって板ばね部材131を曲げ変形させることで、図12(c)で示すように、固定された剛体134に対して、剛体133と共に移動ミラー115を平行移動させる平行移動機構121を実現することができる。
【0069】
このように、SOI基板を用いて板ばね部材131,132を構成することにより、上述したように、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術、すなわちフォトリソグラフィおよびエッチング等の半導体製造技術と、陽極接合などの接合技術とを複合した技術を用いて、平行移動機構121を製造することができる。したがって、リソグラフィのマスク精度さえ高精度に確保しておけば、1個の平行移動機構121においては2つの平板部131p,132pの長さがばらつくのを回避することができる。その結果、該平行移動機構121の組立時や平行移動時の可動部(剛体133および移動ミラー115)の傾きを抑えることができる。また、個体差を無くす、すなわち複数の平行移動機構121の個体毎に平板部131p,132pの長さがばらつくことも回避できるので、複数の平行移動機構121を安定して作製することができる。
【0070】
また、シリコンの熱膨張係数は、約3×10−6(/K)であり、アルカリガラスの熱膨張係数は、約3.2×10−6(/K)である。シリコンから成る支持層131a,132aと、ガラスから成る剛体133,134とが連結されることにより、互いに連結される2部材の熱膨張係数が近いので、温度変化による平行移動機構121の変形を抑えることができる。これにより、温度変化に起因して可動部(剛体133および移動ミラー115)が傾くのを抑えることができる。
【0071】
また、板ばね部材131,132と、剛体133,134との連結は、接合(上記の例では陽極接合)によって行われている。つまり、上記両者は、接着剤を介さずに直接、接合されている。これにより、接着剤使用時に生じる製造誤差(接着剤の収縮による剛体133,134の傾きや位置ズレ)を確実に排除することができ、高精度の平行移動機構を実現することができる。
【0072】
また、板ばね部材131,132の一方(本実施形態では板ばね部材131)に移動ミラー115が設けられているので、駆動部材135による板ばね部材131の曲げ変形により、剛体133と共に移動ミラー115を平行移動させることができる。したがって、本実施形態の平行移動機構121を図9で示した干渉計2、つまりマイケルソン干渉計に容易に適用することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態の干渉計102は、上述した平行移動機構121を備えているので、コーナーキューブの設置を不要として、該干渉計102を小型化できるとともに、高精度な干渉を実現することができる。そして、本実施形態の分光器101は、上述した干渉計102を備えているので、小型で高分解能の分光器を実現することができる。
【0074】
(実施の形態2)
図13は、本発明の実施の他の形態に係る駆動装置におけるループフィルタ部14bのブロック図である。このループフィルタ部14bは、前述のループフィルタ部14aに類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。前述のループフィルタ部14aは、LPF機能を、RCの1次遅れ要素から成るラグフィルタで実現しているのに対して、注目すべきは、このループフィルタ部14bでは、ラグ・リードフィルタで実現していることである。
【0075】
図14(a)は前記ラグフィルタの構成ならびにゲインおよび位相の周波数特性を示すグラフであり、図14(b)は前記ラグ・リードフィルタの構成ならびにゲインおよび位相の周波数特性を示すグラフである。RCの1次遅れ要素から成るラグフィルタには、図14(a)で示すように、前記位相比較器13からの位相比較信号Vpdにおける不要高調波成分を減衰させる効果はあるものの、負帰還ループにおける安定化の効果が少ないのに対して、ラグ・リードフィルタは、図14(b)で示すように、位相を進ませる機能を有し、前記負帰還ループ内で発生する位相遅れを補償して安定化する効果(ゲイン余裕、位相余裕の確保)を有するので、ローパスフィルタとして、このラグ・リードフィルタを用いることは好ましい。
【0076】
そこで本実施の形態のループフィルタ部14bでは、前記帰還コンデンサC(図14(b)のc1)と直列に、抵抗Rc(図14(b)のr2)を挿入することで、ラグ・リードフィルタを実現している。これによって、前記ゲイン余裕および位相余裕を確保することができる。
【0077】
なお、前記ループフィルタ部14a,14bでは、積分回路21は、帰還コンデンサCに電荷を蓄積することで積分動作を行ったけれども、電荷を引抜くことで積分動作を行うようにしてもよい。その場合、リセット手段は初期電荷を与える手段となる。またリセット手段としての短絡スイッチ23は、単体のトランジスタに限らず、多段のスイッチ素子に、その駆動回路などを備えて構成されてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 駆動装置
2 アクチュエータ
3 PLL回路
4 駆動回路
4a 変換回路
41 反転アンプ
42 入力抵抗
43 帰還コンデンサ
5 検出部
11 VCO
12 分周器
13 位相比較器
14,14a,14b ループフィルタ部
21 積分回路
22 基準電圧源
23 短絡スイッチ
24 アンプ
101 分光器
102 干渉計
103 演算部
104 出力部
111 光源
112 コリメータレンズ
113 ビームスプリッタ
114 固定ミラー
115 移動ミラー
116 集光レンズ
117 検出器
121 平行移動機構
131,132 板ばね部材
133,134 剛体
135 駆動部材
131a,132a 支持層
131b,132b 絶縁酸化膜層
131c,132c 活性層
131p,132p 平板部
C 帰還コンデンサ
R 入力抵抗
Rc 抵抗
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部とそれを駆動する駆動部とを備えるアクチュエータに機械共振駆動を行わせるアクチュエータの駆動装置において、前記駆動部を駆動するための駆動信号の周波数を制御信号に応じて可変生成する電圧制御発振器と、前記アクチュエータの機械出力を検出する検出部と、前記駆動信号の位相と前記検出部の検出信号の位相との差を検出する位相比較器と、前記位相比較器の位相比較信号を平滑化して前記電圧制御発振器へ前記制御信号として与えるループフィルタ部とを備え、
前記ループフィルタ部は、
積分回路と、
前記積分回路に対して、前記アクチュエータの共振周波数に略一致した制御信号のレベルである目標電圧から所定電圧だけ離間した基準電圧を与える基準電圧源と、
前記積分回路を、その積分動作の開始時にリセットし、前記制御信号のレベルを前記基準電圧から前記目標電圧へ向けて掃引を行わせることで、前記アクチュエータを前記機械共振の状態に引込むリセット手段とを含むことを特徴とするアクチュエータ駆動装置。
【請求項2】
前記積分回路は、オペアンプと、その出力を負帰還するコンデンサと、入力抵抗とを備えて構成されるミラー積分回路から成り、前記リセット手段は、前記コンデンサの端子間を短絡するスイッチ素子から成ることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ駆動装置。
【請求項3】
前記積分回路は、ラグ・リードフィルタであることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ駆動装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、
前記可動部として、帯状に形成される一対の板ばね部材と、前記板ばね部材の対向面側で、両端部間を連結することで該板ばね部材を相互に平行に支持する一対の剛体とを備えて構成され、一端側が固定されることで、他端側が前記板ばね部材の厚み方向に平行移動可能となり、
前記駆動部は、前記板ばね部材の一方を、その厚み方向に湾曲駆動する駆動部材から成り、
前記駆動部材に前記請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクチュエータ駆動装置からの駆動信号が与えられることで、前記可動部が機械共振駆動されることを特徴とする平行移動機構。
【請求項5】
前記板ばね部材は、SOI基板から成ることを特徴とする請求項4記載の平行移動機構。
【請求項6】
前記請求項4または5記載の平行移動機構を備え、前記板ばね部材の他端側に移動ミラーが搭載されることを特徴とする干渉計。
【請求項7】
前記請求項6記載の干渉計を備えることを特徴とする分光器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−250572(P2011−250572A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120789(P2010−120789)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】