説明

インプリント加工用スタンパーおよびその製造方法

【課題】プレス加工による正常なパターンの転写が可能なインプリント加工用スタンパーを提供する。
【解決手段】基板上に磁性膜を成膜し、その上にレジストを塗布した後、インプリント加工用スタンパーを押し付けてレジストに微細構造を転写し、さらにレジストをマスクとして磁性膜をエッチングすることにより、パターン化された磁性膜を有する磁気記録媒体を製造する方法に用いられるインプリント加工用スタンパーであって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体と、前記スタンパー本体の表面に形成された、無機カーボンを10%以上含む膜とを具備したことを特徴とするインプリント加工用スタンパー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインプリント加工用スタンパーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンなど情報機器の飛躍的な機能向上により、ユーザが扱う情報量は著しく増大してきている。このような状況の下で、これまでよりも飛躍的に記録密度の高い情報記録再生装置や集積度の高い半導体装置に対する期待は高まるばかりである。
【0003】
記録密度を向上させるためには、より微細な加工技術が必要である。露光プロセスを用いた従来のフォトリソグラフィー技術は、一度に大面積の微細加工が可能であるが、光の波長以下の分解能を持たないため、たとえば200nm以下の微細構造の作製は困難である。200nm以下レベルの加工技術としては、電子線リソグラフィーや集束イオンビームリソグラフィーなどの手法が存在するが、スループットの悪さが問題である。
【0004】
光の波長以下の微細構造を高スループットで作製する手法として、インプリント加工(ナノインプリントリソグラフィー技術)が知られている(特許文献1)。この技術は、あらかじめ電子線リソグラフィーなどにより所定の微細凹凸パターンを形成したインプリント加工用のスタンパー(スタンプ、モールドあるいは金型とも呼ばれる)を作製し、レジストを塗布した基板にスタンパーをプレスしてレジストに凹凸を転写する手法である。一回の処理にかかる時間は、たとえば1平方インチ以上の領域では、電子線リソグラフィーや集束イオンビームリソグラフィーと比較して非常に短くて済む。
【0005】
インプリント加工においては、スタンパーと被加工材料(レジスト塗布基板)との剥離性を向上させることが大きな課題になっている。
【0006】
ここで、一般的なプレス加工や射出成形加工においては、金型にシリコーンオイルやフッ素樹脂溶液を塗布して金型の表面エネルギーを低減させ、金型と被加工材料との剥離性を向上させることが行われている。なお、これらの分野で用いられる金型の構造寸法は100μm以上であることが多い。
【0007】
しかし、上述したように半導体素子や回折格子などの微小光学素子を作製するための微細パターンを持つインプリント加工用のスタンパーでは、表面の微細な凹部の溝幅および深さ寸法が500nm以下になっている。このようなスタンパーの表面にシリコーンオイルやフッ素樹脂溶液を塗布すると、これらがスタンパーの凹部に入り込んでプレス加工による正常なパターンの転写を妨げるという問題が生じる。
【0008】
そこで、スタンパーを離型剤として塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤たとえばトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン[CF3-(CF2)5-CH2-CH2SiCl3]で表面処理し、微細な凹凸パターン表面にフッ素樹脂の化学吸着膜を生成させることにより表面エネルギーを低減させ、スタンパーの剥離性を改善することが試みられている(特許文献2)。
【0009】
しかし、塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤を大気中で扱うと大気中の水分と反応して、スタンパーの表面処理が困難となるため、不活性ガス雰囲気中で処理を行う必要があった。また、スタンパー表面に塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤の化学吸着膜を生成するには1時間もの反応時間を要するため、専用の処理設備が必要であった。また、表面処理を施した後にも、塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤は大気中の水分と加水分解を起こしやすく、スタンパー表面との密着性が劣化しやすい。このためスタンパーの離剥性が悪くなり、試料表面のレジストがスタンパーに付着する、いわゆるレジスト膜の膜剥がれを起こしやすい。この問題を避けるためには、インプリント加工を行う直前にスタンパーの表面処理を行う必要があった。
【0010】
また、一般的なニッケル製のスタンパーはビッカース硬度が140〜160kgf/mm2であり、インプリントを行う際に高い圧力や印加したり熱処理を行ったりしてスタンパーに応力がかかるとスタンパーに歪が生じ、その結果としてパターンの変形が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,772,905号明細書
【特許文献2】特開2002−270541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、プレス加工による正常なパターンの転写が可能なインプリント加工用スタンパーおよびこのようなインプリントスタンパーを簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係るインプリント加工用スタンパーは、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体と、前記スタンパー本体の表面に形成された、無機カーボンを10%以上含む膜とを具備したことを特徴とする。
【0014】
本発明の他の態様に係るインプリント加工用スタンパーの製造方法は、表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、無機カーボン膜を成膜し、さらに導電化処理膜を成膜し、電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、原盤を剥がすことによって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体と、前記スタンパー本体の表面に形成された前記無機カーボン膜とを具備したスタンパーを製造することを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様に係るインプリント加工用スタンパーの製造方法は、表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、無機カーボンを10%以上含む導電化処理膜を成膜し、電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、原盤を剥がすことによって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体と、前記スタンパー本体の表面に形成された前記無機カーボンを10%以上含む導電化処理膜とを具備したスタンパーを製造することを特徴とする。
【0016】
本発明のさらに他の態様に係るインプリント加工用スタンパーの製造方法は、表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、導電化処理膜を成膜し、電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、原盤を剥がすことによって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体を形成し、前記スタンパー本体の表面に無機カーボン膜を成膜することによってスタンパーを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プレス加工による正常なパターンの転写が可能なインプリント加工用スタンパーおよびこのようなインプリントスタンパーを簡便に製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るインプリント加工用スタンパーを示す断面図。
【図2】本発明の他の実施形態に係るインプリント加工用スタンパーを示す断面図。
【図3】本発明に係るインプリント加工用スタンパーの製造方法の一例を示す断面図。
【図4】本発明に係るインプリント加工用スタンパーの製造方法の他の例を示す断面図。
【図5】実施例1におけるインプリント加工用スタンパーの製造方法の一例を示す断面図。
【図6】実施例1におけるインプリント加工用スタンパーの製造方法の一例を示す断面図。
【図7】実施例1のインプリント加工用スタンパー表面の化学結合を示す図。
【図8】実施例1のインプリント加工用スタンパーについて、無機カーボン膜の膜厚とインプリント回数との関係を示す図。
【図9】実施例1および比較例1のインプリント加工用スタンパーについて、インプリント回数とパターン変形との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に本発明の一実施形態に係るインプリント加工用スタンパーの断面図を示す。図1において、金属製のスタンパー本体10は、表面に凹凸パターンが形成されている。スタンパー本体10の凹部の深さは500nm以下である。スタンパー本体10の表面には、無機カーボンを10%以上含む膜1が形成されている。
【0020】
スタンパー本体10は金属製、たとえばニッケル、コバルト、鉄などであり、電鋳によって容易に形成することができる。金属のうちでもニッケルは、めっき浴に用いられるスルファミン酸によく混合し、良好な電鋳が行えるので好ましい。このような金属製のスタンパー本体10は、シリコンなどからなるスタンパー本体に比べて、量産性に優れている。
【0021】
「無機カーボンを10%以上含む膜」の無機カーボンとは、グラファイト、ダイヤモンド、アモルファスカーボンまたはこれらの混合物のことをいう。無機カーボンを10%以上含む膜は、100%無機カーボンの膜でもよいし、ニッケルやその他の金属とカーボンとの合金の膜でもよい。一方、無機カーボンを10%以上含む膜は、後述する有機系カーボンを含む炭化水素系潤滑剤であるパーフルオロアルキル誘導体の膜などを含まない。無機カーボンを含む膜は硬度が高く、金属との密着性が高い。しかし、無機カーボンの含有量が10%未満になると高い硬度は期待できない。なお、以下においては、無機カーボンを10%以上含む膜を、100%無機カーボンの膜で代表させて説明することがある。また、100%無機カーボンの膜を単に無機カーボン膜という場合がある。
【0022】
100%無機カーボンの膜としては、ダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在したアモルファスカーボンを主成分とする膜が挙げられる。このようなアモルファスカーボンを主成分とする膜は、sp2結合炭素(グラファイト)とsp3結合炭素(ダイヤモンド)を含む。無機カーボンを構成するsp3結合炭素(ダイヤモンド)は耐久性、耐食性の点で優れており、sp2結合炭素(グラファイト)は表面平滑性の点で優れている。
【0023】
アモルファスカーボンを主成分とする無機カーボン膜はたとえばグラファイトターゲットを用いたスパッタリングにより成膜することができる。この方法では、sp2結合炭素とsp3結合炭素が混在したアモルファスカーボンが形成される。sp3結合炭素の割合が大きいものはDLC(ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド状硬質炭素膜、非晶質炭素膜)と呼ばれる。CVD(Chemical Vapor Deposition)によってDLCを成膜する場合、原料ガスをプラズマ中で励起、分解し、化学反応させるため、条件を調整することによって、よりsp3結合炭素に富んだDLCを成膜することができる。DLCは、耐久性、耐食性に優れ、アモルファスであることから表面平滑性にも優れている。
【0024】
アモルファスカーボンを主成分とする無機カーボン膜は、膜厚が厚すぎると硬度が高いことから歪による応力を緩和できず、また薄すぎると十分に良好な膜質が得られず被覆性・耐食性の点で劣るようになる。従って無機カーボン膜の膜厚は、5〜50nmが好ましく、10nm程度であることがより好ましい。DLC膜は、各種真空成膜法において成膜条件を調整することにより、硬度などの性質を調整することができる。
【0025】
アモルファスカーボンを主成分とする無機カーボン膜中のsp2、sp3、アモルファスの含有比は、種々の方法で測定できる。たとえばラマン分光法でId/Igを求める方法が挙げられる。Id/Igの値とは、ラマンスペクトルから1500cm-1付近にピークを有する分布(G(Graphite)バンド)と、1400cm-1付近にピークを有する分布(D(Disorder)バンド)を分離し、Gバンドの強度の積分値をIg、Dバンドの強度の積分値をIdとしてこれらの比を求めたものである。
【0026】
このようにして得られるアモルファスカーボンを主成分とする無機カーボン膜を具備した本発明の実施形態に係るインプリント加工用スタンパーは、従来のニッケル製のインプリント加工用スタンパーと比較して、硬度が高い。具体的には、DLCのビッカース硬度は、ニッケルと比較して10倍程度高い。したがって、本発明の実施形態に係るインプリント加工用スタンパーは、インプリント加工の際に歪を生じにくく、その結果としてパターンの変形(パターンダレ)を起こしにくい点で優れている。
【0027】
図2に本発明の他の実施形態に係るインプリント加工用スタンパーの断面図を示す。図2において、金属製のスタンパー本体10の表面に無機カーボンを10%以上含む膜(代表的には無機カーボン膜)1が形成され、さらにその表面にパーフルオロアルキル誘導体の膜2が被覆されている。スタンパー本体10、および無機カーボンを10%以上含む膜1については、図1に関連して説明したのと同様である。
【0028】
パーフルオロアルキル誘導体としては、パーフルオロアルキル基を有するものであれば特に限定されず、たとえばパーフルオロアルキル基を有する炭化水素系潤滑剤が挙げられる。より具体的には、ステアリン酸、オレイン酸などのカルボン酸類、ステアリン酸ブチルなどのエステル類、オクタデシルスルホン酸などのスルホン酸類、リン酸モノオクタデシルなどのリン酸エステル類、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどのアルコール類、ステアリン酸アミドなどのカルボン酸アミド類、ステアリルアミンなどのアミン類などに含まれるアルキル基の一部または全部をパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。
【0029】
パーフルオロアルキル誘導体と無機カーボンは化学結合していることが望ましい。化学結合とは、水素結合、共有結合、イオン結合、配位結合などのことをいう。このようなパーフルオロアルキル誘導体は、無機カーボン膜の表面に単分子吸着をするため、スタンパー表面の凹部に厚くたまることがない。また、パーフルオロアルキル誘導体が無機カーボン膜と化学結合していると、パーフルオロアルキル誘導体の加水分解が起こりにくく、プレス加工による正常なパターンの転写が可能なインプリント加工用スタンパーを提供できる。
【0030】
ここで、パーフルオロアルキル誘導体の膜2中の、無機カーボン膜1と化学結合している層をボンディング層、カーボン膜と化学結合していない層をフリー層という。そのボンディング層とフリー層の含有量は、種々の方法で測定することができ、特に限定されない。たとえば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy, ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも称される。)、オージェ電子分光法などを用いれば、ボンディング層とフリー層の含有量の定量的に測定できる。
【0031】
次に、本発明の実施形態に係るインプリント加工用スタンパーの製造方法について説明する。本発明においては、以下のような3つの製造方法が用いられる。
【0032】
第1の方法では、表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、無機カーボン膜を成膜し、さらに導電化処理膜を成膜し、電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、原盤を剥がすという工程を実施する。この方法を、図3を参照してより詳細に説明する。
【0033】
図3(a)に示すように、表面に凹凸パターンが形成された原盤20を用意する。原盤20の凹部の深さは500nm以下である。図3(b)に示すように、この原盤20の表面に、ダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在したアモルファスで緻密な無機カーボン膜(DLC)1を成膜する。
【0034】
DLCはスパッタリング、アーク放電、マイクロ波ECR、パルスレーザー蒸着、MBE、イオン化蒸着、高周波プラズマCVDなど様々な方法で成膜され、得られる膜の特性も様々である。(1)イオン化蒸着法は古くからDLC成膜に用いられていた方法であり、熱フィラメントによる高温アーク放電を用いてプラズマを生成させ、基板電極に負バイアスをかけて成膜を行う。この方法では、比較的高硬度の膜が得られる。(2)高周波プラズマCVD法は、メタン、エチレンなどの原料ガスに高周波をかけることによりプラズマ化して成膜を行う。電極に高周波を印加して放電させると、電極は自己バイアス効果により負電位となり表面にDLCが形成される。この方法では絶縁物への成膜が可能である。(3)アーク放電は、固体のグラファイトを陰極として、成膜を行う真空容器の筐体そのものを陽極とし、これらの間に直流電圧をかけて真空中でアーク放電を発生させ、カーボンのプラズマを生じさせる。バイアス電圧を加えて、プラズマ状態になっている炭素イオンを基板に向かわせてDLCを成膜する。上の二つの成膜方法で成膜されたDLC膜は水素を含むが、この方法で成膜されたDLC膜は水素を含まず高い硬度を持つ。(4)スパッタリングは、放電によってできたプラズマのなかのイオンを加速して材料にぶつけ、材料から叩き出された原子によって基板にDLC膜を成膜する。DLC膜は、上記のいずれの方法でも成膜できるが、膜が緻密で硬いものほど好ましい。ただし、コスト、大量生産の観点から、スパッタリングにより成膜するのがよい。
【0035】
次に、図3(c)に示すように、後の工程で電鋳を行うための導電化処理膜5として、たとえばニッケルを成膜する。ニッケル膜もカーボン膜と同様に、スパッタリング、アーク放電、マイクロ波ECR、パルスレーザー蒸着、MBE、イオン化蒸着、高周波プラズマCVDなど様々な方法で成膜することができる。ただし、コスト、大量生産の観点から、スパッタリングにより成膜するのがよい。
【0036】
次いで、図3(d)に示すように、電鋳により、導電化処理膜5上に金属膜6たとえばニッケルを形成する。金属膜6および導電化処理膜5がスタンパー本体10となる。なお、この例のように導電化処理膜5および金属膜6のいずれにもニッケルを用いた場合には両者の境界が不明確になるが、実際上、両者を区別する必要性もない。ニッケル電鋳では、アノードから金属ニッケルがイオンとして溶液中に溶解し、このイオンが陰極表面で放電して金属ニッケルとして析出する。電鋳工程では、全体のめっき膜厚がかなり厚い場合でも膜厚の分布が均一であること、および電鋳物に変型が起こらないように電着応力を極めて小さな値にコントロールすることが重要になる。電鋳に用いられるニッケルめっき浴としては、特定の有機添加剤を添加したワット浴、普通スルファミン酸ニッケル浴、濃厚スルファミン酸ニッケル浴(ハイスピード浴)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0037】
その後、無機カーボン膜1との間で原盤20を剥がす。こうして、図3(e)に示すように、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体10(金属膜6および導電化処理膜5)と、スタンパー本体10の表面に形成された無機カーボン膜1とを具備したインプリント加工用スタンパーを製造する。
【0038】
第2の方法では、表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、無機カーボンを含む導電化処理膜を成膜し、電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、原盤を剥がすという工程を実施する。
【0039】
この方法では、図3(b)および(c)のように無機カーボン膜および導電化処理膜を成膜するのではなく、導電化処理膜としてたとえば無機カーボンを含むニッケルを成膜する。無機カーボンを含むニッケル膜は、スパッタリング、アーク放電、マイクロ波ECR、パルスレーザー蒸着、MBE、イオン化蒸着、高周波プラズマCVDなど様々な方法で成膜することができる。ただし、コスト、大量生産の観点から、カーボンとニッケルを同時スパッタリングすることにより成膜するのがよい。
【0040】
無機カーボンを含むニッケル膜中のカーボンの含有量は、多すぎるとニッケル電鋳を実施しにくくなり、少なすぎるとパーフルオロアルキル誘導体との密着性が低下するため、3〜30モル%とすることが好ましく、約10モル%とすることがより好ましい。第2の方法ではカーボンとニッケルを同時に成膜するので、第1の方法よりも成膜時間が短縮され、スタンパーの量産性が上がる。ただし、第1の方法のように表面に100%無機カーボン膜を有するスタンパーは、パーフルオロアルキル誘導体との密着性が非常に高く、インプリントにおけるレジスト膜剥がれを起こしにくい点で優れている。
【0041】
第3の方法では、表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、導電化処理膜を成膜し、電鋳により導電化処理膜上に金属膜を形成し、原盤を剥がすことによって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体を形成し、スタンパー本体の表面に無機カーボン膜を成膜するという工程を実施する。この方法を、図4を参照してより詳細に説明する。
【0042】
図4(a)に示すように、表面に凹凸パターンが形成された原盤20を用意する。図4(b)に示すように、後の工程で電鋳を行うための導電化処理膜5として、たとえばニッケルを成膜する。図4(c)に示すように、電鋳により、導電化処理膜5上に金属膜6たとえばニッケルを形成する。導電化処理膜5との間で原盤20を剥がし、図4(d)に示すように、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体10(金属膜6および導電化処理膜5)を得る。最後に、図4(e)に示すように、スタンパー本体10の表面に、ダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在したアモルファスで緻密な無機カーボン膜(DLC)1を成膜して、インプリント加工用スタンパーを製造する。成膜方法、電鋳方法については、既に上述したものと同様である。このような方法で製造されたインプリント加工用スタンパーも、図3に示した方法で製造されたものと同様な効果を有する。
【0043】
製造されたインプリント加工用スタンパーは、磁気記録媒体や半導体デバイスの製造に利用することができる。たとえば、基板上に磁性膜を成膜し、その上にレジストを塗布した後、インプリント加工用スタンパーを押し付けてレジストに微細構造を転写し、さらにレジストをマスクとして磁性膜をエッチングすることにより、パターン化された磁性膜を有する磁気記録媒体を製造することができる。
【0044】
なお、製造されたインプリント加工用スタンパーを用いて、磁気記録媒体や半導体デバイスではなく、さらに別のインプリント加工用スタンパーを製造することもできる。すなわち、磁性膜を成膜した基板(または半導体基板)に代えて、別のインプリント加工用スタンパー基材の表面にレジストを塗布した後、前記インプリント加工用スタンパーを押し付けてレジストに微細構造を転写し、さらにレジストをマスクとして別のインプリント加工用スタンパー基材をエッチングすることにより、新たなインプリント加工用スタンパーを製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
図5に示す方法により、インプリント加工用スタンパーを作製した。
図5(a)に示すように、表面に凹凸パターンが形成されたディスク状の原盤20を用意した。原盤20表面の凹凸は線幅150nmで形成され、凹部の深さは70nmである。図5(b)に示すように、この原盤20の表面に、スパッタリングにより、ダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在したアモルファスで緻密な無機カーボン膜1を成膜した。無機カーボン膜1の膜厚は、5〜60nmの範囲に調整した。図5(c)に示すように、導電化処理膜5として膜厚20nmのニッケルを成膜する。図5(d)に示すように、電鋳により、導電化処理膜5上にニッケルからなる金属膜6を形成した。その後、原盤20を剥がし、図5(e)に示すように、インプリント加工用スタンパーを製造した。
【0047】
このインプリント加工用スタンパーの厚さは約0.3mmであった。なお、インプリント加工用スタンパーの厚さが約0.3mmより薄いと、インプリントを行う際に歪が生じ、パターンが変形しやすいことがわかっている。また、無機カーボン膜1のId/Igの値は1.3であった。
【0048】
次に、図6(f)に示すように、無機カーボン膜1表面をパーフルオロアルキル誘導体の膜2で被覆した。パーフルオロアルキル誘導体としては、下記化学式
HOOC-CF2-O-(CF2-CF2-O)m-(CF2-O)m-CF2-COOH
で表されるパーフルオロポリエーテルを用いた。このパーフルオロポリエーテルを、フッ素系媒体(ソルベイソレクシス社、GALDEN-HT70)で希釈した溶液をルーバーに入れ、無機カーボン膜1表面に浸透させて、パーフルオロアルキル誘導体の膜2を形成した。
【0049】
このとき、無機カーボン膜1の表面に存在するヒドロキシル基と、パーフルオロポリエーテル末端のカルボキシル基との間で反応が起こり、化学結合が生じる。
【0050】
C-OH + HOOC-CF2-O-(CF2-CF2-O)m-(CF2-O)m-CF2-COOH
→ C-O-CO-CF2-O-(CF2-CF2-O)m-(CF2-O)m-CF2-CO-O-C
また、この化学結合の様子を図7に示す。
【0051】
このようにして、表面にパーフルオロポリエーテルが被覆されたインプリント加工用スタンパーを得た。スタンパーの表面を光学顕微鏡によって観察したところ、凹部に液だまりのようなものは観察されず、均一で良好なパーフルオロポリエーテルの膜が形成されていた。
【0052】
得られたインプリント加工用スタンパーを用いて、インプリント加工実験を行った。図6(g)に示すように、ディスク状の基板30の上にレジスト31を100nmの厚さで塗布したものを用意し、図6(f)のインプリント加工用スタンパーを対向させてプレス加工を行った。図6(h)は加工されたレジスト31のパターンを示している。
【0053】
図8に、無機カーボンの膜厚と、インプリント回数との関係を調べた結果を示す。図8に示されるように、無機カーボンの膜厚が約10nmのときに、インプリント回数が最も多く、繰り返し耐久性に強いという結果が得られた。無機カーボンの膜厚が10nmより薄いと、原盤表面の凹凸パターン上に無機カーボン膜が均一に成膜されず、パーフルオロポリエーテルを化学結合させた際に不均一性が出たために局部的に膜剥がれが起きやすくなっていると考えられる。一方、無機カーボン膜の膜厚が10nmを超えると、硬度が高い無機カーボン膜が増えたため、歪による圧力分散がおきずに、無機カーボン膜が崩壊したと考えられる。
【0054】
そこで、後述する他の実験においては、無機カーボン膜の膜厚が約10nmであるスタンパーを用いた。
【0055】
(比較例1)
表面に無機カーボン膜を持たないインプリント加工用スタンパーを製造した。すなわち、原盤20表面にスパッタリングによってニッケルを約20nmの膜厚で成膜した後、ニッケル電鋳を行い、原盤20を剥がしてニッケル製スタンパーを製造した。このニッケル製スタンパーの表面に、パーフルオロポリエーテルを被覆したところ、液だまりのようなものが確認された。これは、ニッケルとパーフルオロポリエーテルとの結合が弱いために起こった現象と考えられる。
【0056】
そこで、ニッケル製スタンパーについては、離型剤として塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤であるトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン[CF3-(CF2)5-CH2-CH2SiCl3]を被覆し、実施例1と同様にインプリント加工実験を行った。
【0057】
(実施例2)
原盤20表面に同時スパッタリングにより導電化処理膜としてカーボン(約10モル%)含有ニッケルを約20nmの膜厚で成膜した以外は、実施例1と同様にしてインプリント加工用スタンパーを作製した。表面にカーボン含有ニッケル膜が形成されたインプリント加工用スタンパーに、パーフルオロポリエーテルを被覆してインプリント加工実験を行った。
【0058】
なお、実施例2のスタンパーでは、比較例1のニッケル製スタンパーと比較して、パーフルオロポリエーテルの液だまりは減少していた。
【0059】
(実施例3)
原盤20表面にスパッタリングにより導電化処理膜としてニッケルを約20nmの膜厚で成膜し、ニッケル電鋳を行った後、原盤を剥がしてスタンパー本体を作製した。このスタンパー本体の表面に、スパッタリングによりダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在したアモルファスカーボンを主成分とする無機カーボン膜を10nm成膜した。無機カーボン膜の表面にパーフルオロポリエーテルを被覆して、インプリント加工実験を行った。
【0060】
(1)上記の各実施例および比較例のスタンパーを用いた場合の、インプリント平均回数を調べた結果を表1に示す。
【表1】

【0061】
実施例1および実施例3のように、表面に100%無機カーボン膜を有し、離型剤としてパーフルオロポリエーテルを用いたインプリント加工用スタンパーでは、インプリント回数が平均で110回を超えるまで、離型剤の密着性劣化から起こるレジスト付着による膜剥がれは見られなかった。さらに、実施例1のスタンパーを温度20℃、湿度30%の環境下で保存して、3ヶ月後にインプリント加工実験を行ったが、平均で98回まで膜剥がれを起こさなかった。また、実施例2のスタンパーでも、平均で83回まで膜剥がれを起こさなかった。
【0062】
一方、比較例1の従来のニッケル製スタンパーに離型剤として塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤を用いたものでは、インプリント平均回数が23回であった。さらに、比較例1のスタンパーを温度20℃、湿度30%の環境下で保存したところ、1日後にはインプリント加工時に膜剥がれが見られた。これは、塩素系フッ素樹脂含有シランカップリング剤が加水分解を起こし、ニッケル製スタンパーとの密着性の劣化により起こったものと考えられる。
【0063】
これらの結果から、表面に無機カーボン膜を有し、離型剤としてパーフルオロポリエーテルを用いたインプリント加工用スタンパーは、加水分解を起こしにくく膜剥がれも起こしにくいことがわかる。
【0064】
(2)実施例1および比較例1のスタンパーを用いた場合について、インプリント回数とパターン変形(パターンダレ)について調べた。パターン変形はインプリント後に形成されたレジストパターンの高さの比率(初期高さ100%)によって評価した。その結果を図9に示す。
【0065】
比較例1のスタンパーを用いた場合、インプリント回数が20回を超えたあたりで膜剥がれが認められた少し後で、歪からくるパターン変形(パターンダレ)が認められた。これに対して、実施例1の表面に無機カーボン膜を有し離型剤としてパーフルオロポリエーテルを用いたインプリント加工用スタンパーを用いた場合、インプリント回数が130回までレジストパターンの凹凸高さが変わらず、パターンダレは見られなかった。また、インプリント回数が130回を超えてもわずかなパターン変形が認められただけであった。
【0066】
なお、以上においては、室温でインプリントを行った実施例について説明したが、本発明の実施形態に係るインプリント加工用スタンパーは、熱をかけながらインプリントを行うホットエンボス方式や、光硬化性樹脂を用いる光インプリント方式にも応用でき、射出成型用スタンパーとしても利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…無機カーボンを10%以上含む膜、2…パーフルオロアルキル誘導体の膜、5…導電化処理膜、6…金属膜、10…スタンパー本体、20…原盤、30…基板、31…レジスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁性膜を成膜し、その上にレジストを塗布した後、インプリント加工用スタンパーを押し付けてレジストに微細構造を転写し、さらにレジストをマスクとして磁性膜をエッチングすることにより、パターン化された磁性膜を有する磁気記録媒体を製造する方法に用いられるインプリント加工用スタンパーであって、
表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体と、
前記スタンパー本体の表面に形成された、無機カーボンを10%以上含む膜と
を具備したことを特徴とするインプリント加工用スタンパー。
【請求項2】
前記無機カーボンを10%以上含む膜は、ダイヤモンド構造とグラファイト構造とが混在したアモルファスカーボンを主成分とする膜であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント加工用スタンパー。
【請求項3】
さらに、前記無機カーボンを10%以上含む膜の表面を被覆するパーフルオロアルキル誘導体の膜を有することを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント加工用スタンパー。
【請求項4】
基板上に磁性膜を成膜し、その上にレジストを塗布した後、インプリント加工用スタンパーを押し付けてレジストに微細構造を転写し、さらにレジストをマスクとして磁性膜をエッチングすることにより、パターン化された磁性膜を有する磁気記録媒体を製造する方法に用いられるインプリント加工用スタンパーを製造する方法であって、
表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、無機カーボン膜を成膜し、さらに導電化処理膜を成膜し、
電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、
原盤を剥がすことによって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体と、前記スタンパー本体の表面に形成された前記無機カーボン膜とを具備したスタンパーを製造する
ことを特徴とするインプリント加工用スタンパーの製造方法。
【請求項5】
基板上に磁性膜を成膜し、その上にレジストを塗布した後、インプリント加工用スタンパーを押し付けてレジストに微細構造を転写し、さらにレジストをマスクとして磁性膜をエッチングすることにより、パターン化された磁性膜を有する磁気記録媒体を製造する方法に用いられるインプリント加工用スタンパーを製造する方法であって、
表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、無機カーボンを10%以上含む導電化処理膜を成膜し、
電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、
原盤を剥がすことによって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体と、前記スタンパー本体の表面に形成された前記無機カーボンを10%以上含む導電化処理膜とを具備したスタンパーを製造する
ことを特徴とするインプリント加工用スタンパーの製造方法。
【請求項6】
基板上に磁性膜を成膜し、その上にレジストを塗布した後、インプリント加工用スタンパーを押し付けてレジストに微細構造を転写し、さらにレジストをマスクとして磁性膜をエッチングすることにより、パターン化された磁性膜を有する磁気記録媒体を製造する方法に用いられるインプリント加工用スタンパーを製造する方法であって、
表面に凹凸パターンが形成された原盤上に、導電化処理膜を成膜し、
電鋳により前記導電化処理膜上に金属膜を形成し、
原盤を剥がすことによって、表面に凹凸パターンを有する金属製のスタンパー本体を形成し、
前記スタンパー本体の表面に、無機カーボン膜を成膜することによってスタンパーを製造する
ことを特徴とするインプリント加工用スタンパーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−149097(P2009−149097A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23856(P2009−23856)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願2004−204958(P2004−204958)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】