説明

インプリント用モールドの製造方法

【課題】高精細、かつ高アスペクト比の被転写物を、精密に、かつ細部まで再現性良く形成することが可能なインプリント用モールドの製造方法を提供する。
【解決手段】エッチングパターン15が形成された半導体基板10をアニール処理する。 アニール処理は、例えば、エッチングパターン15が形成された半導体基板10を真空チャンバ20に入れて、真空ポンプ21を用いて真空チャンバ20内を減圧し、真空雰囲気にする。そして、ヒータ22を用いて半導体基板10を真空雰囲気で所定温度まで加熱し、所定時間保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用モールドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイス、光学素子、微細配線回路などを形成する際に、形成パターンを転写させるインプリント用モールドは、広範な分野に用いられている。このようなインプリント用モールドを用いたパターンの転写は、近年、より微細なパターンや、より段数の多いパターンへの需要が増えている。
【0003】
このようなインプリント用モールドの形成材料としては、シリコン基板が広く用いられている。そしてこのシリコン基板上に形成パターンを象ったモールド層を形成する際には、半導体プロセス技術を利用したフォトリソグラフィーとドライエッチング処理が用いられている。このような方法は、高アスペクト比(溝幅に比べて溝深さが深い)の形成パターンが得られることから、微細なパターンのインプリント用モールドを形成するには好適である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上述したような、形成パターンが高アスペクト比のインプリント用モールドの場合、形成パターンを被転写物である樹脂基板に転写した後、インプリント用モールドを樹脂基板から剥離させる際に、形成パターンの根元部分、即ち、形成パターンの溝の底部で樹脂基板の転写パターンがちぎれたり、傷が入るという不具合が生じやすかった。特に形成パターンが高アスペクト比の場合、形成パターンの根元部分において、転写されたパターンに応力が集中しやすいため、転写パターンが破損しやすい。
【0005】
このため、インプリント用モールドを樹脂基板から剥離させる際に、インプリント用モールドの形成パターンの根元部分にウェットエッチング処理を行ってR面取り加工を行うことにより、樹脂基板の転写パターンの特定部分への応力集中を緩和し、転写パターンの損傷を防止する試みも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−072956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような、インプリント用モールドの形成パターンの根元部分にウェットエッチング処理を行ってR面取り加工を行う方法では、根元部分より他の部分が早くエッチングされてしまい、結果的に所望の形状のインプリント用モールドを形成することが難しいという課題があった。
【0008】
また、インプリント用モールドを形成する際のドライエッチング処理は、その特性上、シリコン基板の表面にもダメージ与えており、例えば、形成パターンの溝の側面には、微細な凹凸(面荒れ)が生じることがある。このような微細な凹凸が樹脂基板の転写パターンに転写されてしまうと、樹脂基板を用いて高周波回路を形成した場合、高周波特性に悪影響を及ぼす虞があった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高精細、かつ高アスペクト比の被転写物を、精密に、かつ細部まで再現性良く形成することが可能なインプリント用モールドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係るインプリント用モールドの製造方法は、半導体からなる基板を用いたインプリント用モールドの製造方法であって、
前記基板の一面に感光性樹脂層を形成するレジスト形成工程と、該感光性樹脂層をフォトリソグラフィーによってパターニングし、所定形状のマスク層を得るフォトリソグラフィー工程と、該マスク層をエッチングマスクとして前記基板をドライエッチングし、該基板の一面に所定形状のエッチングパターンを形成するエッチング工程と、前記エッチングパターンが形成された基板をアニール処理するアニール工程と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係るインプリント用モールドの製造方法は、請求項1において、前記アニール工程は、前記エッチングパターンが形成された基板を、1000℃以上、かつ真空雰囲気、または還元雰囲気で処理する工程であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係るインプリント用モールドの製造方法は、請求項2において、前記真空雰囲気は、圧力が1×10Pa以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係るインプリント用モールドの製造方法は、請求項2において、前記還元雰囲気は、水素ガス雰囲気であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5に係るインプリント用モールドの製造方法は、請求項1ないし4において、前記アニール工程は、前記エッチング工程で生じた、前記エッチングパターンを成す溝の側面の凹凸を平坦化するとともに、該溝の側面と底面との間に湾曲面を形成する工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインプリント用モールドの製造方法によれば、エッチング工程において生じたエッチングパターン表面の微細な凹凸をアニール工程によって平坦化し、除去することが可能になる。ゆえに、高精細、かつ高アスペクト比の被転写物を、精密に、かつ細部まで再現性良く形成することが可能なインプリント用モールドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のインプリント用モールドの製造方法を段階的に示した断面図である。
【図2】本発明のインプリント用モールドの製造方法を段階的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係るインプリント用モールドの製造方法について説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
図1、図2は、本発明のインプリント用モールドの製造方法を段階的に示した断面図である。
(レジスト形成工程)
図1(a)に示すように、半導体基板10A(10)の一面10aに感光性樹脂層11を形成する。半導体基板10A(10)としては、例えば、Si,SiC,GaAs,GaPなど各種半導体材料から構成されたウェーハを用いることができる。
【0019】
感光性樹脂層11は、形成するパターン幅に応じた加工性能を備えた感光性樹脂(フォトレジスト)を適宜選択することができる。感光性樹脂としては、現像後に露光部分を残すネガ型フォトレジスト、または、現像後に露光部分が除去されるポジ型フォトレジストのいずれも用いることができる。
【0020】
感光性樹脂層11の形成方法としては、例えば、スピンコート法、ダイコート法などが挙げられる。
なお、半導体基板10A(10)の一面10aに、予め金属薄膜層を形成しておくことも好ましい。半導体基板10A(10)の一面10aに金属薄膜層を形成することによって、半導体基板と金属薄膜層との間のエッチング比、および感光性樹脂層と金属薄膜層との間のエッチング比を大きくして、より一層微細なパターンを形成することもできる。
【0021】
(フォトリソグラフィー工程)
次に、図1(b)に示すように、感光性樹脂層11をフォトリソグラフィーによってパターニングし、所定形状のマスク層12を形成する。
まず、半導体基板10B(10)を加熱して感光性樹脂層11を固化させる。次に、所望のパターンを象った露光マスクを介して感光性樹脂層11に光を照射する。光を照射によって、感光性樹脂層11は所定の形成パターンに応じた部分のみ露光される。露光に用いる光源は、感光性樹脂層11を構成するフォトレジストの材質に応じて適宜選択される。例えば、半導体レーザー、水銀ランプ、エキシマレーザー、電子線などが挙げられる。
【0022】
次に、露光した感光性樹脂層11を現像液に浸し、その後にリンスすることによって、ネガ型フォトレジストの場合は未露光部分を、またポジ型フォトレジストの場合は露光部分をそれぞれ除去する。このような現像工程を経て、感光性樹脂層11は、露光マスクを象った所定のパターンに形成され、マスク層12を得ることができる。
【0023】
現像は感光性樹脂層11を溶解可能な薬液を用いる。現像に用いる薬液としては、例えば、有機溶剤、有機アルカリ液または無機アルカリ液を用いることができる。なお、マスク層12を形成後に、更に、所定の温度で加熱処理を行うことも好ましい。加熱処理によって、得られたマスク層12と、半導体基板10B(10)との密着性を更に高めることができる。
【0024】
(エッチング工程)
次に、図1(c)に示すように、半導体基板10C(10)に形成したマスク層12をエッチングマスクとして、半導体基板10C(10)にドライエッチングを行う。ドライエッチングとしては、例えば、反応性ガスエッチング、反応性イオンエッチング、反応性イオンビームエッチング、反応性レーザービームエッチングなどが挙げられる。
【0025】
ドライエッチングの具体例として、SFガスプラズマを用いて半導体基板10C(10)をエッチングし、Cガスプラズマを用いて保護膜を形成する工程を繰り返すことによって、半導体基板10C(10)に所定のパターンのエッチングを行うことが例示できる。
【0026】
この後、溶剤を用いてマスク層12を除去することによって、図2(a)に示すように、所定の形状のエッチングパターン15が形成された半導体基板10D(10)を得ることができる。
エッチングパターン15は、上述したドライエッチングによって、例えばエッチングパターン15を構成する溝16の側面16aや底面16bに微細な凹凸17が形成された状態となっている(図2(a)下部参照)。
【0027】
(アニール工程)
次に、図2(b)に示すように、エッチングパターン15が形成された半導体基板10D(10)をアニール処理する。
アニール処理は、例えば、エッチングパターン15が形成された半導体基板10D(10)を真空チャンバ20に入れて、真空ポンプ21を用いて真空チャンバ20内を減圧し、真空雰囲気にする。そして、ヒータ22を用いて半導体基板10D(10)を真空雰囲気で所定温度まで加熱し、所定時間保持する。
【0028】
真空雰囲気におけるアニール処理の条件範囲は、例えば、アニール温度1000℃〜1200℃、圧力1×104Pa以下、アニール時間10min以上である。真空雰囲気におけるアニール処理の条件をこのような範囲に設定することによって、エッチングパターン15の形成時に生じた溝16の側面16aや底面16bの微細な凹凸17(図2(a)下部参照)を確実に除去できる。
真空雰囲気におけるアニール処理条件の好ましい組み合わせ例を挙げる。
1.アニール温度1000℃、圧力1×10Pa、アニール時間10min
【0029】
また、アニール処理は、真空雰囲気の代わりに還元雰囲気で行うことも好ましい。還元雰囲気としては、半導体基板10D(10)を載置したチャンバ内を還元性ガスを含む雰囲気にする。還元性ガスとしては、水素ガス雰囲気が好ましい。また、水素ガス100%でなく、窒素との混合ガスも使用することができる。混合ガスの場合、水素ガスは70%以上の水素ガス雰囲気であることが好ましい。
【0030】
水素ガス雰囲気におけるアニール処理の条件範囲は、例えば、アニール温度1000℃〜1200℃、圧力1×10Pa〜1×10Pa、アニール時間1min〜30minである。還元雰囲気におけるアニール処理の条件をこのような範囲に設定することによって、エッチングパターン15の形成時に生じた溝16の側面16aや底面16bの微細な凹凸17(図2(a)下部参照)を確実に除去できる。
水素ガス雰囲気におけるアニール処理条件の好ましい組み合わせ例を挙げる。
1.アニール温度1000℃、圧力1×10Pa、アニール時間5min
【0031】
エッチングパターン15が形成された半導体基板10D(10)を、上述した様な真空雰囲気や還元雰囲気でアニール処理を行うと、エッチングパターン15の形成時に生じた溝16の側面16aや底面16bの微細な凹凸17(図2(a)下部参照)が除去された半導体基板10E(10)が得られる(図2(c)下部参照)。
アニール処理によって、溝16の側面16aや底面16bが平坦化される。半導体基板10D(10)のアニール処理によって、エッチングパターン15を構成する溝の内部の平坦度Rqは、例えば100nm以下にすることが可能になる。
【0032】
また、半導体基板10D(10)のアニール処理によって、溝16の側面16aと底面16bとの交差部分には湾曲面Rが形成される。一例として、溝16の側面16aの高さhが5μm、底面16bの幅wが2μmの時に、湾曲面Rの曲率は2μm-1程度となる。
【0033】
以上のようにエッチングパターン15が形成された半導体基板10D(10)を真空雰囲気や水素雰囲気でアニール処理することによって、本発明に係るインプリント用モールド30を得ることができる。
本発明のインプリント用モールドの製造方法によって得られたインプリント用モールド30は、高精細なパターンを樹脂基板等の被転写物に精度良く転写することができる。即ち、エッチングパターン15を構成する溝16の側面16aや底面16bはアニール工程によって平坦化(平滑化)され、エッチング工程で生じた微細な凹凸が除去される。
【0034】
アニール処理を行ったインプリント用モールド30に対して、樹脂基板(被転写物)を押し付けてエッチングパターン15を転写した後、樹脂基板(被転写物)を離型させる際に、エッチングパターン15の溝16の内部が平坦化されているので、転写した微細構造を破損させること無く離型させることができる。特に、溝16の側面16aの高さhと、底面16bの幅wとの比であるアスペクト比が高いエッチングパターン15であっても、樹脂基板等の被転写物に対して高精度にパターンを転写することができる。
【0035】
また、溝16の側面16aと底面16bとの交差部分は、アニール工程によって湾曲面Rが形成されているので、インプリント用モールド30から樹脂基板(被転写物)を離型させる際に、エッチングパターン15の溝16の底面16b付近に応力が集中しても、転写した微細構造の先端部分を破損させることがない。
【0036】
さらに、インプリント用モールド30のエッチングパターン15を転写して得られた樹脂基板の転写パターンは、側面に微細な凹凸が殆ど無いため、このような樹脂基板を用いて高周波回路を形成した時に、微細な凹凸による高周波特性の低下を確実に防止し、良好な周波数特性を備えた高周波回路を得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0037】
10…半導体基板(基板)、11…感光性樹脂層、12…マスク層、11b…他方の主面、15…エッチングパターン、16…溝、16a…側面、16b…底面、30…インプリント用モールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる基板を用いたインプリント用モールドの製造方法であって、
前記基板の一面に感光性樹脂層を形成するレジスト形成工程と、
該感光性樹脂層をフォトリソグラフィーによってパターニングし、所定形状のマスク層を得るフォトリソグラフィー工程と、
該マスク層をエッチングマスクとして前記基板をドライエッチングし、該基板の一面に所定形状のエッチングパターンを形成するエッチング工程と、
前記エッチングパターンが形成された基板をアニール処理するアニール工程と、
を備えたことを特徴とするインプリント用モールドの製造方法。
【請求項2】
前記アニール工程は、前記エッチングパターンが形成された基板を、1000℃以上、かつ真空雰囲気、または還元雰囲気で処理する工程であることを特徴とする請求項1記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記真空雰囲気は、圧力が1×10Pa以下であることを特徴とする請求項2記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項4】
前記還元雰囲気は、水素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項2記載のインプリント用モールドの製造方法。
【請求項5】
前記アニール工程は、前記エッチング工程で生じた、前記エッチングパターンを成す溝の側面の凹凸を平坦化するとともに、該溝の側面と底面との間に湾曲面を形成する工程であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のインプリント用モールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35211(P2013−35211A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173171(P2011−173171)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】