説明

ウォームギヤ機構及びこれを用いた電動パワーステアリング装置

【課題】トルク伝達用ウォームホイールの歯に対する補助ウォームホイールの歯の相対的な位置を、適切に設定する。
【解決手段】ウォーム80とトルク伝達用ウォームホイール90と補助ウォームホイール100とから成るウォームギヤ機構44である。該補助ウォームホイールは、該トルク伝達用ウォームホイールの回転中心線CLに位置するとともに、該トルク伝達用ウォームホイールに重ね合わされて取り付けられる。該補助ウォームホイールと該トルク伝達用ウォームホイールとのいずれか一方は複数の位置決め受け部111を有し、いずれか他方は該複数の位置決め受け部に嵌め込み可能な複数の位置決め凸部112を有する。複数の位置決め受け部と複数の位置決め凸部とは、トルク伝達用ウォームホイールに対する補助ウォームホイールの1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームギヤ機構及びこれを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置に搭載されているウォームギヤ機構は、電動モータに連結されたウォームと、負荷に連結されたトルク伝達用のウォームホイールとによって構成されている。電動モータが発生した補助トルクは、ウォームからウォームホイールを介して負荷に伝達される。近年、電動パワーステアリング装置による操舵感覚(操舵フィーリング)を高めるために、ウォームの歯とウォームホイールの歯との間のバックラッシ(隙間)を低減する技術が開発されてきた。該バックラッシを低減する技術は、特許文献1から知られている。
【0003】
特許文献1で知られているウォームギヤ機構は、ウォームと、該ウォームに噛み合うトルク伝達用ウォームホイールと、該トルク伝達用ウォームホイールに設けられる補助ウォームホイールと、から成る。該補助ウォームホイールは、トルク伝達用ウォームホイールの回転中心線に対して同心に位置するとともに、該トルク伝達用ウォームホイールに重ね合わされている。トルク伝達用ウォームホイールに対する補助ウォームホイールの相対的な回転変位は規制されている。
【0004】
ウォームの歯とトルク伝達用ウォームホイールの歯との間のバックラッシは、補助ウォームホイールによって低減される。該バックラッシを低減するためには、トルク伝達用ウォームホイールの歯に対する、補助ウォームホイールの歯の相対的な位置関係を適切にすることが求められる。
【0005】
これに対し、ウォームギヤ機構の減速比は、種々の電動パワーステアリング装置毎に最適な値となるように設定される。トルク伝達用ウォームホイール及び補助ウォームホイールの各歯数は、減速比によって決まる。各ホイールの歯数が、各ホイールの中心を基準にして点対称となる歯数に設定されている場合には、トルク伝達用ウォームホイールに対して補助ウォームホイールをどのような位相で組み付けても、前記バックラッシを低減することは可能である。
【0006】
しかし、前記減速比によっては、各ホイールの歯数が、各ホイールの中心を基準にして点対称となる歯数に設定できるとは限らない。つまり、各ホイールの歯数を素数に設定せざるを得ないことが、あり得る。例えば、ウォームのねじ山が1条に設定され、且つ減速比が1/19に設定された場合には、各ホイールの歯数は素数の19となる。
【0007】
どのような減速比、つまり各ホイールの歯数がどのような値であっても、前記バックラッシを低減するためには、トルク伝達用ウォームホイールに対して補助ウォームホイールを適切な位相で組み付けることが求められる。しかし、トルク伝達用ウォームホイールに対して補助ウォームホイールの位相を適切に合わせるには、面倒な位置合わせが必要である。この結果、ウォームギヤ機構の組立作業工数が増す要因となり得るので、改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−337489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、トルク伝達用ウォームホイールの歯に対する補助ウォームホイールの歯の相対的な位置を、適切に設定する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明では、ウォームと、該ウォームに噛み合うトルク伝達用ウォームホイールと、前記ウォームの歯と前記トルク伝達用ウォームホイールの複数の歯との間のバックラッシを低減させるための補助ウォームホイールと、から成るウォームギヤ機構において、前記補助ウォームホイールは、前記トルク伝達用ウォームホイールの回転中心線と同心に位置するとともに、前記トルク伝達用ウォームホイールに重ね合わされて取り付けることが可能であり、前記補助ウォームホイールと前記トルク伝達用ウォームホイールとの、いずれか一方は、複数の位置決め受け部を有し、前記補助ウォームホイールと前記トルク伝達用ウォームホイールとの、いずれか他方は、前記一方へ向かって突出して前記複数の位置決め受け部に嵌め込み可能な複数の位置決め凸部を有し、前記複数の位置決め受け部と前記複数の位置決め凸部とは、前記トルク伝達用ウォームホイールに対する前記補助ウォームホイールの1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能な構成であることを特徴とするウォームギヤ機構が提供される。
【0011】
請求項2に係る発明では、前記回転中心線から前記複数の位置決め受け部までの個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違している、または、前記複数の位置決め受け部同士の互いに隣接し合う個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違しており、前記複数の位置決め凸部は、前記複数の位置決め受け部の位置に対応するように位置していることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、前記複数の位置決め受け部は、前記補助ウォームホイールの合わせ面と前記トルク伝達用ウォームホイールの合わせ面との、いずれか一方に形成された凹部によって構成され、前記複数の位置決め凸部は、前記補助ウォームホイールの前記合わせ面と前記トルク伝達用ウォームホイールの前記合わせ面とのいずれか他方に形成された凸部によって構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、前記トルク伝達用ウォームホイールと前記補助ウォームホイールとのいずれか一方には、他方へ向かい前記回転中心線に沿って延びた複数の掛け爪部が形成され、前記他方には、前記複数の掛け爪部を嵌め込み可能且つ掛け止め可能な複数の掛け止め部が形成されることにより、前記複数の位置決め凸部は前記複数の掛け爪部によって構成されるとともに、前記複数の位置決め受け部は前記複数の掛け止め部によって構成されており、前記複数の掛け爪部が前記複数の掛け止め部に嵌め込まれ且つ掛け止められて、前記回転中心線に沿う方向への変位を規制されることにより、前記補助ウォームホイールは前記トルク伝達用ウォームホイールに位置決めされ且つ取り付けられることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明では、ウォームギヤ機構と、車両のステアリングホイールから操舵車輪に至るステアリング系と、トルクを発生するとともに該トルクを前記ウォームギヤ機構を介して前記ステアリング系に伝える電動モータと、を備えたことを特徴とするウォームギヤ機構を用いた電動パワーステアリング装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、トルク伝達用ウォームホイールに補助ウォームホイールを重ね合わせ、複数の位置決め受け部に複数の位置決め凸部を嵌め込むことにより、トルク伝達用ウォームホイールに補助ウォームホイールを位置決めすることができる。しかも、複数の位置決め受け部と複数の位置決め凸部とは、トルク伝達用ウォームホイールに対する補助ウォームホイールの1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能である。ウォームギヤ機構の減速比、つまり各ホイールの歯数がどのような値であっても、トルク伝達用ウォームホイールの歯に対する補助ウォームホイールの歯の相対的な位置を、最適な位置に適切に且つ容易に設定して組み付けできる。従って単純な構成で且つ少ない部品数によって、ウォームギヤ機構の組立作業工数を低減し、組立精度を高め、誤組立を防止できる。
【0016】
請求項2に係る発明では、回転中心線から複数の位置決め受け部までの個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違している。または、複数の位置決め受け部同士の互いに隣接し合う個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違している。一方、複数の位置決め凸部は、複数の位置決め受け部の位置に対応するように位置している。このため、全ての位置決め受け部の位置に、全ての位置決め凸部の位置が合致した場合だけ、両者を嵌め込むことができる。該両者が互いに嵌め込まれた場合に、トルク伝達用ウォームホイールに対して補助ウォームホイールの位相が自ずから決まる。従って、トルク伝達用ウォームホイールの歯に対する補助ウォームホイールの歯の相対的な位置を、最適な位置に適切に且つ容易に設定することができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、複数の位置決め受け部や複数の位置決め凸部が、補助ウォームホイールの合わせ面とトルク伝達用ウォームホイールの合わせ面に形成されている。このため、別部材によって構成される場合に比べて、各ホイールの歯に対する位置を精度良く設定することができる。従って、トルク伝達用ウォームホイールの歯に対する補助ウォームホイールの歯の相対的な位置を、確実に精度良く設定することができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、複数の掛け爪部が複数の位置決め凸部の機能を兼ね備えているとともに、複数の掛け止め部が複数の位置決め受け部の機能を兼ね備えている。このため、補助ウォームホイールをトルク伝達用ウォームホイールに位置決めし且つ取り付ける構成を、簡単にできる。
【0019】
請求項5に係る発明では、電動パワーステアリング装置において、電動モータが発生したトルクをステアリング系に伝達する動力伝達機構として、バックラッシを除去したウォームギヤ機構を採用している。このため、動力伝達機構の耐久性を、より高めることができる。さらには、ウォームギヤ機構のバックラッシを除去することによって、ステアリングホイールを操舵するときの歯同士の打音の発生を、より抑制することができ、この結果、車室内の騒音を一層低減することができる。例えば、車両の直進走行時には、ウォームからトルク伝達用ウォームホイールにトルクが伝達されない。この走行状態において、車両の走行振動の影響を受けて歯同士が当たって打音を発生することを、極力抑制することができる。
【0020】
さらに請求項5に係る発明では、ウォームギヤ機構のバックラッシを除去することによって、ウォームに対するトルク伝達用ウォームホイールの良好な噛合い状態を維持することができる。このため、ステアリングホイールを切り返し操作したときに、ウォームギヤ機構からステアリング系に補助トルクが伝達される時間遅れの発生を抑制することができる。さらには、バックラッシを除去したので、ウォームによってトルク伝達用ウォームホイールを回転させた場合に、歯同士が衝当することなく、緩やかに当たって噛合うので、ステアリングホイールの切り返し作動を良好にすることができる。このようなことから、電動パワーステアリング装置の操舵感覚(操舵フィーリング)を、より高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1の電動パワーステアリング装置の模式図である。
【図2】図1に示された電動パワーステアリング装置の全体構成図である。
【図3】図2の3−3線に沿った断面図である。
【図4】図2の4−4線に沿った断面図である。
【図5】図3に示されたウォームギヤ機構を拡大した図である。
【図6】図5に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールとを分解した断面図である。
【図7】図6に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールの斜視図である。
【図8】図5に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールとを組み合わせた構成を補助ウォームホイールの非合わせ面側から見た図である。
【図9】図8に示された補助ウォームホイールを非合わせ面側から見た図である。
【図10】図9に示された補助ウォームホイールを合わせ面側から見た図である。
【図11】図8に示された位置決め部、掛け爪部、掛け止め部の関係を説明する説明図である。
【図12】図11に示された位置決め部、掛け爪部、掛け止め部の組み付け手順を説明する説明図である。
【図13】図12に示された位置決め部、掛け爪部、掛け止め部の組み付け完了状態を説明する説明図である。
【図14】図4に示されたウォームギヤ機構の各歯の噛み合い構成を説明する説明図である。
【図15】図14に示されたウォームにトルク伝達用ウォームホイールの歯が接触していないときのウォームギヤ機構の各歯の噛み合い構成を説明する説明図である。
【図16】図14に示されたウォームを逆転したときのウォームギヤ機構の各歯の噛み合い構成を説明する説明図である。
【図17】本発明の実施例2のウォームギヤ機構を拡大した図である。
【図18】図17に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールとを分解した断面図である。
【図19】図18に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールの斜視図である。
【図20】図17に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールとを組み合わせた構成をトルク伝達用ウォームホイールの非合わせ面側から見た図である。
【図21】本発明の実施例3のウォームギヤ機構を拡大した図である。
【図22】図21に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールとを分解した断面図である。
【図23】図22に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールの斜視図である。
【図24】図23に示された掛け爪部及び掛け止め部の関係を説明する説明図である。
【図25】図24に示された掛け爪部及び掛け止め部の組み付け完了状態を説明する説明図である。
【図26】本発明の実施例4のウォームギヤ機構を拡大した図である。
【図27】図26に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールとを分解した断面図である。
【図28】図27に示されたトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールの斜視図である。
【図29】図28に示された補助ウォームホイールを非合わせ面側から見た図である。
【図30】図28に示された補助ウォームホイールを合わせ面側から見た図である。
【図31】本発明の実施例5のウォームギヤ機構のトルク伝達用ウォームホイールと補助ウォームホイールとを組み合わせた構成を補助ウォームホイールの非合わせ面側から見た図である。
【図32】図31に示された補助ウォームホイールを合わせ面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0023】
実施例1に係るウォームギヤ機構及びこれを用いた電動パワーステアリング装置について、図1〜図16に基づき説明する。
【0024】
図1に示されるように、電動パワーステアリング装置10は、車両のステアリングホイール21から車両の操舵車輪29,29(例えば前輪)に至るステアリング系20と、該ステアリング系20に補助トルクを加える補助トルク機構40と、から成る。
【0025】
ステアリング系20は、ステアリングホイール21と、該ステアリングホイール21にステアリングシャフト22及び自在軸継手23,23を介して連結されたピニオン軸24(入力軸24)と、該ピニオン軸24にラックアンドピニオン機構25を介して連結されたラック軸26と、該ラック軸26の両端に左右のタイロッド27,27及びナックル28,28を介して連結された左右の操舵車輪29,29と、から成る。
【0026】
ラックアンドピニオン機構25は、ピニオン軸24に形成されたピニオン31と、ラック軸26に形成されたラック32と、から成る。
【0027】
ステアリング系20によれば、運転者がステアリングホイール21を操舵することにより、該操舵トルクによってラックアンドピニオン機構25及び左右のタイロッド27,27を介して、左右の操舵車輪29,29を操舵することができる。
【0028】
補助トルク機構40は、操舵トルクセンサ41と制御部42と電動モータ43とウォームギヤ機構44とから成る。操舵トルクセンサ41は、ステアリングハンドル21に加えられたステアリング系20の操舵トルクを検出する。つまり、該操舵トルクセンサ41は、ピニオン軸24に加えられたトルクを検出し、トルク検出信号として出力するものであり、例えば磁歪式トルクセンサやトーションバー式トルクセンサによって構成される。制御部42は、操舵トルクセンサ41のトルク検出信号に基づいて制御信号を発生する。電動モータ43は、制御部42の制御信号に基づき、前記操舵トルクに応じたモータトルク(補助トルク)を発生する。ウォームギヤ機構44は、電動モータ43が発生した補助トルクをピニオン軸24に伝達する。該補助トルクは、ピニオン軸24からラックアンドピニオン機構25に伝達される。
【0029】
電動パワーステアリング装置10によれば、運転者の操舵トルクに電動モータ43の補助トルクを加えた複合トルクにより、ラック軸26によって操舵車輪29,29を操舵することができる。
【0030】
図2に示されるように、ハウジング51は車幅方向(図2の左右方向)に延びており、ラック軸26を軸方向にスライド可能に収容している。ラック軸26は、ハウジング51から突出した長手方向両端にボールジョイント52,52を介してタイロッド27,27を連結されている。
【0031】
図3に示されるように、電動パワーステアリング装置10は、ピニオン軸24、ラックアンドピニオン機構25、操舵トルクセンサ41及びウォームギヤ機構44をハウジング51に収納し、ハウジング51の上部開口を上部カバー部53によって塞いだものである。操舵トルクセンサ41は、上部カバー部53に取付けられている。
【0032】
ハウジング51は、上下に延びるピニオン軸24の上部、長手中央部及び下端を3個の軸受55〜57を介して回転可能に支承しており、さらにラックガイド70を備えている。
【0033】
ラックガイド70は、ラック32と反対側からラック軸26に当てるガイド部71と、該ガイド部71を圧縮ばね72を介して押す調整ボルト73と、から成る押圧手段である。
【0034】
図4に示されるように、電動モータ43は、横向きのモータ軸43aを備えるとともに、ハウジング51に取り付けられている。モータ軸43aはハウジング51内に延びて、カップリング45によりウォーム軸46に連結されている。ハウジング51は、水平に延びるウォーム軸46の両端部を、軸受47,48を介して回転可能に支承している。
【0035】
図3及び図4に示されるように、ウォームギヤ機構44は、電動モータ43が発生した補助トルクをピニオン軸24に伝達する補助トルク伝達機構、すなわち倍力機構である。詳しく述べると、ウォームギヤ機構44は、ウォーム80と、該ウォーム80に噛み合うトルク伝達用ウォームホイール90と、該トルク伝達用ウォームホイール90に設けられる補助ウォームホイール100と、から成る。補助ウォームホイール100は、ウォーム80とトルク伝達用ウォームホイール90との間の、バックラッシを除去するために設けられた、補助的な歯車である。以下、トルク伝達用ウォームホイール90のことを適宜「伝達用ホイール90」といい、補助ウォームホイール100のことを適宜「補助ホイール100」という。
【0036】
ウォーム80はウォーム軸46に一体に形成されている。伝達用ホイール90はピニオン軸24に取り付けられている。駆動側のウォーム80に伝達用ホイール90を噛合わせることによって、ウォーム80から伝達用ホイール90を介して負荷にトルクを伝達することができる。
【0037】
図5は、図3に対応させてウォームギヤ機構44の左半分のみを示している。図5〜図8に示されるように、伝達用ホイール90は、ピニオン軸24に嵌合することが可能な円筒状のボス部91と、該ボス部91の外周部分に一体に形成された円盤状のホイール本体92と、から成る一体成形品の歯車である。ホイール本体92の外周面には、全周にわたって複数の歯93が形成されている。このような伝達用ホイール90は、少なくとも複数の歯93を含めてホイール本体92が樹脂の成形品によって構成される。例えば、該伝達用ホイール90は、全体が樹脂の成形品によって構成される。または、該伝達用ホイール90は、ボス部91が金属材料によって構成されるとともに、ホイール本体92が樹脂の成形品によって構成される。なお、該伝達用ホイール90は成形用型によって製造する以外の手法、例えばホブ等の切削工具による切削によって製造することが可能である。
【0038】
該伝達用ホイール90は、ピニオン軸24に相対的な軸方向移動が規制され且つ相対回転が規制されて結合されている。例えば、ボス部91は、ピニオン軸24にスプライン結合又はセレーション結合されている。該伝達用ホイール90の回転中心線CLは、ピニオン軸24の軸線に合致する。
【0039】
図5〜図8に示されるように、伝達用ホイール90と補助ホイール100とは、回転中心線CLに沿って一列に配列されている。補助ホイール100の回転中心線(中心)は、伝達用ホイール90の回転中心線CLと同一である。補助ホイール100は、伝達用ホイール90の一方の面94(ホイール本体92の一方の面94)に重ね合わされるとともに、相対的な軸方向移動と相対回転の両方が規制されて取り付けられている。該補助ホイール100は、伝達用ホイール90よりも薄肉の環状の部材である。該補助ホイール100の外周面には、全周にわたって複数の歯103が形成されている。該歯103の歯数は、伝達用ホイール90の歯93の歯数と同じである。
【0040】
さらに、補助ホイール100は、複数の歯103を含めて全体が樹脂によって一体に形成されている。このため、補助ホイール100の生産性を高めることができる。
【0041】
ここで、次のように定義する。図6に示されるように、伝達用ホイール90の一方の面94、つまり補助ホイール100が重ね合わされる面94のことを「伝達用ホイール90の合わせ面94」という。補助ホイール100の一方の面104、つまり伝達用ホイール90に重ね合わされる面104のことを「補助ホイール100の合わせ面104」という。補助ホイール100の他方の面105、つまり合わせ面104とは反対側の面のことを「補助ホイール100の非合わせ面105」という。
【0042】
図5〜図8に示されるように、補助ホイール100は、伝達用ホイール90に重ね合わされるとともに、互いの合わせ面94,104に設けられた複数(実施例1では3個)の位置決め部110によって位置決めされて、取り付けられる部品である。各位置決め部110は、位置決め受け部111と位置決め凸部112とから成る。該位置決め凸部112は、位置決め受け部111に嵌め込み可能であり、円形断面のピン(凸部)から成る。該位置決め受け部111は、凹部によって構成されている。該位置決め受け部111の径は、位置決め凸部112の径よりも若干大きい。
【0043】
位置決め受け部111は、伝達用ホイール90の合わせ面94と補助ホイール100の合わせ面104とのいずれか一方に形成されている。位置決め凸部112は、伝達用ホイール90の合わせ面94と補助ホイール100の合わせ面104とのいずれか他方に形成されている。実施例1では、位置決め受け部111は補助ホイール100の合わせ面104に形成され、位置決め凸部112は伝達用ホイール90の合わせ面94に形成されている。
【0044】
図9は補助ホイール100を非合わせ面105側から見た図として表している。図10は補助ホイール100を合わせ面104側から見たとして表している。図11(a)は、上から見た位置決め部110、掛け爪部121及び掛け止め部131を回転中心線CLを基準として周方向に展開して表している。図11(b)は、図11(a)に示された掛け爪部121と掛け止め部131の関係を、側方から見た断面図として表している。図11(c)は、図11(a)に示された位置決め部110を、側方から見た断面図として表している。
【0045】
図7〜図11に示されるように、複数の位置決め受け部111が位置している方の合わせ面104、つまり補助ホイール100の合わせ面104は、回転中心線CLを基準とした複数(実施例1では3個)の円弧状の長溝113を有している。各位置決め受け部111は、それぞれ長溝113の一部に位置している。長溝113の溝幅は位置決め凸部112の径よりも若干大きい。各位置決め凸部112は、各長溝113に嵌め込まれることにより、該長溝113に沿って移動しながら位置決め受け部111に位置することが可能である。位置決め凸部112が長溝113に案内されて変位する構成なので、伝達用ホイール90に対して補助ホイール100を相対的に回したときに、伝達用ホイール90と補助ホイール100との位置合わせは容易である。
【0046】
各位置決め凸部112は、先細りテーパ状に形成されている。つまり、各位置決め凸部112は、軸方向断面で見たときに、先端が根本に比べて小さい先細り形状である。各長溝113は、合わせ面104に臨んで開放し、非合わせ面105側の壁を底113aとしている。各長溝113の溝幅は、各置決め凸部112のテーパに合わせて設定されており、溝の底113aが幅狭となるテーパ状である。つまり、各長溝113は、軸方向断面で見たときに、溝の底113aが溝の先端に比べて小さい先細り形状である。これにより、位置決め凸部112を長溝113に容易に嵌め込むことが可能であり、位置合わせが容易となる。なお、位置決め凸部112と長溝113の、少なくとも一方が先細り形状となっていればよい。
【0047】
図6〜図8に示されるように、伝達用ホイール90は、合わせ面94から回転中心線CLに沿って補助ホイール100へ向かうように延びた、複数(実施例1では3個)の掛け爪部121を有している。補助ホイール100は、複数の掛け爪部121を掛け止めるための、複数(実施例1では3個)の掛け止め部131を有している。各掛け爪部121がそれぞれの掛け止め部131に掛け止められることにより、補助ホイール100は伝達用ホイール90に取り付けられる。
【0048】
各々の掛け爪部121は、伝達用ホイール90の合わせ面94から回転中心線CLに沿って補助ホイール100に向かうように延びたアーム122と、該アーム122の先端から伝達用ホイール90の合わせ面94に沿うように突出した爪部123と、から成る。該各爪部123は、図5〜図7に示されるように、アーム122から回転中心線CLに向かって突出している。
【0049】
各々の掛け止め部131は、それぞれ貫通孔132と傾斜面134と非合わせ面105とから成る。該貫通孔132は、回転中心線CLに沿って補助ホイール100を貫通しており、該回転中心線CLを基準とする円弧状に形成されている。該貫通孔132は、アーム122及び爪部123が同時に挿通可能な第1貫通孔135と、該第1貫通孔135に連なるとともにアーム122だけが貫通可能な第2貫通孔136と、から成る。該傾斜面134は、補助ホイール100の非合わせ面105に形成されており、該補助ホイール100に形成されている貫通孔132の、円弧状の縁133(内周縁133)に沿っている。
【0050】
図9及び図11(b)に示されるように、傾斜面134は、第1貫通孔135と第2貫通孔136との境界134aを、補助ホイール100の非合わせ面105から最も深い傾斜始点134aとし、該傾斜始点134aから第2貫通孔136に沿いつつ補助ホイール100の非合わせ面105まで傾斜しながら延び、該延びた傾斜端134bを非合わせ面105に連なった傾斜終点134bとしている。
【0051】
爪部123は、アーム122と共に第1貫通孔135を挿通された後に、補助ホイール100に対して回転中心線CLを基準に相対的に回されることにより、傾斜面134に案内されながら非合わせ面105に位置したときに、図5に示されるように、非合わせ面105に弾性を有して掛け止められる構成である。
【0052】
つまり、図6に示されるように、伝達用ホイール90の合わせ面94から爪部123の下面123a(掛け止め面123a)までの高さHiは、補助ホイール100の合わせ面104から非合わせ面105までの厚みThよりも、若干小さく設定されている。このため、爪部123が傾斜面134に案内されながら非合わせ面105まで達したときに、補助ホイール100は第2貫通孔136に沿いつつ、伝達用ホイール90の合わせ面94へ向かい弾性を有して若干撓む。従って、爪部123は非合わせ面105に弾性を有して掛け止められる。
【0053】
さらには、図5及び図8に示されるように、掛け爪部121の爪部123(図7参照)が非合わせ面105に掛け止められたときに、位置決め凸部112は位置決め受け部111に位置する構成である。
【0054】
以下に、各々の位置決め部110の配置について詳しく説明する。図8〜図10に示されるように、各々の位置決め部110は、回転中心線CLを基準として円周方向に等ピッチで配列されている。複数の位置決め受け部111と複数の位置決め凸部112とは、伝達用ホイール90に対する補助ホイール100の1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能な構成である。
【0055】
例えば、3個の位置決め部110のなかで、ある1つの位置決め部110のことを「特定の位置決め部110x」という。3個の位置決め受け部111のなかで、ある1つの位置決め受け部111xのことを「特定の位置決め受け部111x」という。該特定の位置決め受け部111xの位置は、回転中心線CLを基準とした半径r1のピッチ円上に設定されている。該特定の位置決め受け部111xを除き、他の2つの位置決め受け部111,111の位置は、回転中心線CLを基準とした半径r2のピッチ円上に設定されている。半径r1,r2は、回転中心線CLから複数の位置決め受け部111,111,111xまでの個々の距離である。半径r1は半径r2よりも小さく設定されている。つまり、回転中心線CLから複数の位置決め受け部111までの個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離r1(半径r1)が、他の距離r2(半径r2)と相違している。
【0056】
一方、複数の位置決め凸部112,112,112は、複数の位置決め受け部111,111,111xの位置に対応するように位置している。3個の位置決め凸部112のなかで、ある1つの位置決め凸部112xのことを「特定の位置決め凸部112x」という。該特定の位置決め凸部112xは、特定の位置決め受け部111xに嵌め込まれる。3個の長溝113のなかで、ある1つの長溝113xのことを「特定の長溝113x」という。特定の位置決め受け部111xは、特定の長溝113xの一部に位置している。
【0057】
このように、複数の位置決め受け部111と複数の位置決め凸部112とは、伝達用ホイール90に対する補助ホイール100の1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能である。このため、ウォームギヤ機構44の減速比、つまり各ホイール90,100の歯数がどのような値であっても、伝達用ホイール90の歯93に対する補助ホイール100の歯103の相対的な位置を、最適な位置に適切に且つ容易に設定して、組み付けることができる。従って、ウォームギヤ機構44の組立作業工数を低減することができる。
【0058】
さらには、回転中心線CLから複数の位置決め受け部111までの個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離r1が、他の距離r2と相違している。一方、複数の位置決め凸部112は、複数の位置決め受け部111の位置に対応するように位置している。このため、全ての位置決め受け部111の位置に、全ての位置決め凸部112の位置が合致した場合だけ、両者111,112を嵌め込むことができる。該両者111,112が互いに嵌め込まれた場合に、伝達用ホイール90に対して補助ホイール100の位相が自ずから決まる。従って、伝達用ホイール90の歯93に対する補助ホイール100の歯103の相対的な位置を、最適な位置に適切に且つ容易に設定することができる。
【0059】
全ての掛け爪部121、全ての掛け止め部131及び全ての貫通孔132は、回転中心線CLを基準とした同心円に、且つ円周方向に等ピッチで配列されている。さらに、各掛け爪部121、各掛け止め部131及び各貫通孔132は、各々の位置決め部110よりも回転中心線CL寄りに位置している。
【0060】
各々の第1貫通孔135の中心P1(回転中心線CLを基準とした円周方向の中心P1)を、第1基準点P1とする。各々の第1基準点P1は等角度θ1で配列されている。各々の第1貫通孔135の円周方向の幅は、アーム122及び爪部123の幅よりも大きく設定されている。
【0061】
円弧状の長溝113は、一端が第1基準点P1に位置し、他端が第2基準点P2に位置している。全ての長溝113は、第1基準点P1から同じ方向へ延びている。第1基準点P1から第2基準点P2までの角度はθ2である。つまり、長溝113の範囲(長さ)は角度θ2である。位置決め受け部111は第2基準点P2に位置している。凹部から成る該位置決め受け部111の深さは長溝113の深さよりも大きく設定されることが、より好ましい。
【0062】
全ての貫通孔132は、第1基準点P1から同じ方向へ延びるとともに、長溝113に沿っている。円弧状の貫通孔132の範囲(長さ)は、角度θ2よりも大きい。傾斜面134の傾斜終点134bは、第2基準点P2よりも第1基準点P1寄りに位置している。
【0063】
次に、伝達用ホイール90に対する補助ホイール100の位置合わせ及び取り付けの手順について、図11〜図13に基づき説明する。
【0064】
先ず、図11(b)に示されるように、伝達用ホイール90の合わせ面94の上に補助ホイール100を位置合わせするとともに、掛け爪部121の位置を第1貫通孔135に合わせる。このときに、位置決め凸部112、長溝113の一端、掛け爪部121、第1貫通孔135は、全て第1基準点P1に位置する。
【0065】
なお、位置決め凸部112、円弧状の長溝113の一端、掛け爪部121、第1貫通孔135は、全て第1基準点P1に位置する例を挙げたが、位置決め凸部112と円弧状の長溝113の一端とが同じ位置にあり、さらに掛け爪部121と第1貫通孔135とが同じ位置にあればよい。つまり、位置決め凸部112と円弧状の長溝113の一端の位置は、掛け爪部121と第1貫通孔135とは同じ位置でなくてもよい。
【0066】
次に、補助ホイール100を、伝達用ホイール90の合わせ面94に重ねつつ第2基準点P2へ向かって回していく。この途中段階を図12に示す。
【0067】
図12は図11に対応するように表されており、組立途中の段階を示している。図12(a)は、位置決め凸部112及び掛け爪部121が第1基準点P1から第2基準点P2へ向かって変位した状態を表している。図12(b)は、図12(a)に示された掛け爪部121と掛け止め部131の関係を、側方から見た断面図として表している。図12(c)は、図12(a)に示された位置決め部110を、側方から見た断面図として表している。
【0068】
図12(a),(b)に示されるように、爪部123は傾斜面134に接している。この状態から更に、伝達用ホイール90に対し補助ホイール100を第2基準点P2へ向かって回していく。この結果、爪部123は傾斜面134に案内されて補助ホイール100の非合わせ面105側へ変位する。このため、補助ホイール100は伝達用ホイール90の合わせ面94に接近していき、最後に合わせ面94に重ね合わされる。その後、伝達用ホイール90に対し補助ホイール100を第2基準点P2へ向かって更に回していく。この結果、爪部123は第2基準点P2に達する。この組立最終段階を図13に示す。
【0069】
図13は図8及び図12に対応するように表されており、組立最終段階を示している。図13(a)は、位置決め凸部112及び掛け爪部121が第2基準点P2に到達した状態を表している。図13(b)は、図13(a)に示された掛け爪部121と掛け止め部131の関係を、側方から見た断面図として表している。図13(c)は、図13(a)に示された位置決め部110を、側方から見た断面図として表している。
【0070】
図8及び図13に示されるように、爪部123は第2基準点P2に達することによって、非合わせ面105に掛け止められている。このときに、位置決め凸部112は第2基準点P2に位置することによって、位置決め受け部111に嵌め込まれる。このときに、嵌め込まれた瞬間に嵌め込みに伴う振動や嵌め込み音が発生し、組立作業者は目視せずとも組み立てが完了したことを認識可能となる。これで、伝達用ホイール90に対する補助ホイール100の位置合わせ及び取り付けの作業を完了する。つまり、伝達用ホイール90に対して補助ホイール100を角度θ2(回し角θ2)だけ相対的に回すことにより、ホイール90,100同士の位置合わせ及び組立を行うことができる。
【0071】
このようにして、伝達用ホイール90に補助ホイール100を重ね合わせ、位置決め受け部111に位置決め凸部112を嵌め込むことにより、伝達用ホイール90に補助ホイール100を位置決めして、取り付けることができる。このため、図4に示されるように、位置決め受け部111に位置決め凸部112を嵌め込むことによって、伝達用ホイール90の歯93に対する補助ホイール100の歯103の相対的な位置を、最適な位置に容易に設定することができる。このように互いに一体化された各ホイール90,100を、ウォーム80に組み付けることによって、ウォーム80と伝達用ホイール90の少なくとも一方は、補助ホイール100の回転方向へ、予め付勢される(プリロードの設定)。
【0072】
さらには、位置決め受け部111は、補助ホイール100の回転中心線CLを基準とした円弧状の長溝113の一部に位置している。このため、円弧状の長溝113に位置決め凸部112を嵌め込んだ後に、伝達用ホイール90と補助ホイール100のいずれか一方を、回転中心線CLを基準として回すことにより、長溝113に位置している位置決め受け部111に位置決め凸部112が嵌る。作業者は、伝達用ホイール90の歯93に対する補助ホイール100の歯103の相対的な位置を、目視することなく最適な位置に確実に且つ容易に設定することができる。従って、組立工数を低減することができる。
【0073】
さらには、伝達用ホイール90に補助ホイール100を重ね合わせることにより、掛け止め部131に掛け爪部121が掛け止まる。この結果、伝達用ホイール90に補助ホイール100を確実に且つ容易に組み付けることができる。組み付けられた補助ホイール100は、伝達用ホイール90に対して軸方向に変位することなく、安定した組み付け状態を維持する。
【0074】
さらには、アーム122及び爪部123を第1貫通孔135に挿通した後に、補助ホイール100に対して回転中心線CLを基準に相対的に回すことによって、爪部123は傾斜面134に案内されながら補助ホイール100の非合わせ面105に位置する。この結果、爪部123は非合わせ面105に弾性を有して掛け止まる。このように、伝達用ホイール90に対して補助ホイール100を重ね合わせて、相対的に回すだけの作業によって、伝達用ホイール90に補助ホイール100を一体的に取り付けることができるので、組み付け性が良い。
【0075】
さらには、爪部123を非合わせ面105に掛け止めると同時に、位置決め凸部112が位置決め受け部111に嵌る。伝達用ホイール90に対して補助ホイール100を重ね合わせて、相対的に回すだけの作業によって、伝達用ホイール90に補助ホイール100を取り付けるとともに、伝達用ホイール90の歯93に対する補助ホイール100の歯103の相対的な位置を、最適な位置に確実に且つ容易に設定することができる。このため、組み付け性が良い。
【0076】
次に、ウォーム80と伝達用ホイール90と補助ホイール100との噛み合い関係について、図14に基づき説明する。
【0077】
図14(a)は、図4に示されたウォーム80と伝達用ホイール90と補助ホイール100との噛み合い関係を側方から、つまり図4の矢視線14方向から見て表している。なお、図14(a)では、伝達用ホイール90を想像線によって示している。また、補助ホイール100については歯103だけを示している。
【0078】
図14(b)は図14(a)のb−b線断面図である。図14(c)は図14(a)のc−c線断面図であって、伝達用ホイール90の歯幅方向中心線Lwに沿った断面構成を示している。図14(d)は図14(a)のd−d線断面図であって、伝達用ホイール90の合わせ面94に沿った断面構成を示している。
【0079】
図4及び図14(a)に示されるように、ウォーム80と伝達用ホイール90との軸角(交差角)は90°ではなく、「90°±β°」である。ここで、角度βのことを「斜交角β」と言うことにする。このため、ウォームギヤ機構44の噛合い作用線WL(ウォーム80の回転中心線WL)は、一般的なウォームギヤ機構に対して伝達用ホイール90の軸平面(伝達用ホイール90の歯幅方向中心線Lw)から±β°の傾きを持つことになる。このため、ウォーム80と噛み合う、伝達用ホイール90の歯93のそれぞれの噛み合い点は、伝達用ホイール90の同一軸平面上にない。このようなウォームギヤ機構44は、いわゆる「斜交軸ウォームギヤ機構」である。
【0080】
ウォーム80は金属製品、例えば機械構造用炭素鋼鋼材(JIS−G−4051)等の鉄鋼製品である。一方、伝達用ホイール90は、少なくとも複数の歯93を含めてホイール本体92が、ナイロン樹脂等の樹脂製品である。また、補助ホイール100は、ナイロン樹脂等の樹脂製品である。金属製品のウォーム80に樹脂製品のホイール90,100を噛合わせるようにしたので、噛合いを比較的円滑にすることができるとともに、騒音をより低減させることができる。さらには、ウォーム80は金属製品であるから剛性が大きく弾性変形し難い。これに対して、ホイール90,100は樹脂製品であるから比較的剛性が小さく、ウォーム80よりも弾性変形し易い。
【0081】
ホイール90,100の歯93,103は「平歯」である。このため、樹脂成型を行うときに、型抜きを簡単に行うことができる。
【0082】
図14(b)に示されるように、補助ホイール100の外径Daは、伝達用ホイール90の外径Dtよりも大きく設定されている。詳しく述べると、伝達用ホイール90はウォーム80の真横に位置して噛み合っている。補助ホイール100の歯103は、伝達用ホイール90の合わせ面94に沿ってウォーム80の真上まで延びており、ウォーム80の真上で互いに噛み合っている。
【0083】
該歯103は、歯先部分(伝達用ホイール90よりも径外方へ延びている部分)だけがウォーム軸46の上に向かって突出するとともに、他の部分が窪んでおり、図5及び図6に示されるように、突出した下端面103uは補助ホイール100の合わせ面104の高さに概ね一致している。つまり、歯103の歯先部分の歯幅は、補助ホイール100の合わせ面104から非合わせ面105までの厚みThと概ね同じである。このように歯103に窪み部103d(図6参照)を設けたので、歯103が補助ホイール100の回転方向に撓むときに、伝達用ホイール90の合わせ面94に接することなく、円滑に撓むことができる。
【0084】
図14(a)に示されるように、ウォーム80は、ねじ山81(つまり、歯81)が例えば1条で設定されるとともに、ねじ山81のピッチが一定に設定されている。ウォーム80の歯81の歯形及び伝達用ホイール90の歯93の歯形は、インボリュート又はほぼ台形である。インボリュート又はほぼ台形のウォーム80の歯形に対して、伝達用ホイール90の歯形を同じ形状にして創成歯切りすることにより、伝達用ホイール90の歯形を得ることができる。ウォーム80の歯81の圧力角に対して、伝達用ホイール90の歯93の圧力角は同じである。
【0085】
図7及び図8に示されるように、補助ホイール100の歯103の歯形は、歯厚が概ね一定である略平板状の歯形である。つまり、補助ホイール100の歯103は、歯末の歯厚よりも歯元の歯厚が若干大きい。しかも、該歯103の「歯たけ」(歯先円と歯底円との半径方向距離)は、伝達用ホイール90の歯93の「歯たけ」よりも大きい。このため、補助ホイール100の歯103は、伝達用ホイール90の歯93に比べて、歯厚方向(補助ホイール100の回転方向)へ弾性変形し易い。また、補助ホイール100の歯103の歯形は、径方向から見ると略長方形であるため、軸方向(回転中心線CL方向)に変形しづらいので、軸方向の噛み合いのずれを防ぐことができ、噛み合いが安定する。
【0086】
このようにして、補助ホイール100の全ての歯103は、補助ホイール100の回転方向(正転方向及び逆転方向の両方)へ「ばね特性」を有した撓み変形が可能に構成される。歯103のばね特性とは、歯103に加わる荷重と、該荷重によって生じる歯103の撓み量とに、予め設定された一定の特性を有している(歯103自体が「ばねの機能」を有している)ことをいう。つまり、歯103は板バネと同等の機能を有する。
【0087】
このような補助ホイール100は、あたかも、回転可能な円盤の外周面に対して、円盤の回転方向へ弾性変形が可能な多数の板バネを配列したようなものである。該多数の板バネは、補助ホイール100の歯103の役割を果たすことになる。
【0088】
ここで、ウォーム80と各ホイール90,100の噛み合い関係の理解を容易にするために、ねじ山81及び歯93,103のことを、便宜的に次のように言うことにする。
【0089】
図14(a),(c),(d)に示されるように、実際のねじ山81は連続した螺旋状の歯であるが、ここでは便宜的に、伝達用ホイール90の歯93に噛み合う3個の歯81のことを、図右側から左側へ順に第1歯81a、第2歯81b、第3歯81cと言う。
【0090】
図14(a),(c)に示されるように、伝達用ホイール90の複数の歯93において、ねじ山81に噛み合う3個の歯93のことを、図右側から左側へ順に第1歯93a、第2歯93b、第3歯93cと言う。
【0091】
また、図14(a),(d)に示されるように、補助ホイール100の複数の歯103において、ねじ山81に噛み合う3個の歯103のことを、図右側から左側へ順に第1歯103a、第2歯103b、第3歯103cと言う。第1歯103aの位相は、伝達用ホイール90の第1歯93aの位相に対応している。第2歯103bの位相は、伝達用ホイール90の第2歯93bの位相に対応している。第3歯103cの位相は、伝達用ホイール90の第3歯93cの位相に対応している。
【0092】
補助ホイール100の複数の歯103は、補助ホイール100の回転方向へ「ばね特性」を有した撓み変形が可能に構成されている。このため、各々の歯103は、補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態でウォーム80の歯81に接することで、ウォーム80と伝達用ホイール90の少なくとも一方を、補助ホイール100の回転方向へ付勢することが可能である。つまり、複数の歯103は、ウォーム80と伝達用ホイール90の少なくとも一方を回転可能な構成である。詳しく述べると、補助ホイール100の複数の歯103の少なくとも1つは、常に補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態でウォーム80の歯81に接している。
【0093】
例えば今、図14(a),(c)に示されるように、伝達用ホイール90の第1歯93aの左の歯面が、ウォーム80の第1歯81aの右の歯面に接している。このときに伝達用ホイール90の他の歯93、つまり第2歯93b及び第3歯93cは、ウォーム80のねじ山81に接していない。
【0094】
この噛み合い状態において、図14(a),(d)に示されるように、補助ホイール100の第3歯103cの右の歯面が、ウォーム80の第2歯81bの左の歯面に弾性変形しつつ接している。このときに補助ホイール100の他の歯103、つまり第1歯103a及び第2歯103bは、ウォーム80のねじ山81に接していない。
【0095】
このように、伝達用ホイール90の第1歯93aと補助ホイール100の第3歯103cとによって、ウォーム80のねじ山81を軸方向に挟み込んでいる。従って、複数の歯103は、回転方向へ撓んだ状態でウォーム80に接することによって、ウォーム80と伝達用ホイール90の少なくとも一方を、補助ホイール100の回転方向へ付勢する。この結果、ウォーム80の第1歯81aと伝達用ホイール90の第1歯93aとの間のバックラッシδ(隙間δ)を除去することができる。つまり、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90の歯93との間のバックラッシδを除去することができる。
【0096】
この図14に示される噛み合い状態において、ウォーム80を正転(矢印R1方向に回転)させると、各ホイール90,100は正転(矢印Ra方向に回転)する。ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90の歯93とは、上記バックラッシδが無い噛み合い状態を維持する。
【0097】
図15(a)は、図14(c)に対応させて表している。図15(b)は、図14(d)に対応させて表している。図15(a)は、ウォーム80の歯81に伝達用ホイール90の歯93が全く接していない場合を示している。この場合には、ウォーム80の第1歯81aと伝達用ホイール90の第1歯93aとの間、及びウォーム80の第1歯81aと伝達用ホイール90の第2歯93bとの間には、バックラッシδを有している。しかし、図15(b)に示されるように、補助ホイール100の複数の歯103の少なくとも1つ、つまり第3歯103cは、補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態でウォーム80の第2歯81bに接している。
【0098】
このため、少なくともウォーム80の歯81に伝達用ホイール90の歯93が接するまでは、補助ホイール100の複数の歯103の少なくとも1つは、補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態でウォーム80の歯81に接している。つまり、複数の歯103の少なくとも1つは、ウォーム80と伝達用ホイール90の少なくとも一方を、前記回転方向へ付勢する。この結果、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90の歯93との間のバックラッシの影響を確実に低減することができる。
【0099】
図16(a)は、図14(c)に対応させて表している。図16(b)は、図14(d)に対応させて表している。ウォーム80を、図14に示されている正転状態から、図16に示される逆転(矢印R2方向に回転)に切り換えると、各ホイール90,100は逆転(矢印Rb方向に回転)する。この結果、ウォーム80の第1歯81aは、図14(c)に示す第1歯93aに噛み合っている(接していた)状態から、図16(a)に示す第2歯93bに噛み合う(接する)状態に切り替わる。しかし、この切り替わった時点では、図16(b)に示されるように、補助ホイール100の第3歯103cはウォーム80の第2歯81bに撓んだ状態で、まだ接している。
【0100】
このように、ウォーム80を正転から逆転に切り換えることによって、逆転方向に切り換わる直前にウォーム80に噛み合っていた伝達用ホイール90の第1歯93aから、該第1歯93aとは異なる第2歯93bに噛み合うまでの間には、補助ホイール100の第3歯103cは、補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態で歯81に接する。このため、ウォーム80の回転方向が正転方向から逆転方向へ切り換えられたときに、逆転したウォーム80の歯81は伝達用ホイール90の歯93に緩やかに接触する。歯81,93同士が当たることによる打音の発生を抑制することができる。
【0101】
以上の説明から明らかなように、補助ホイール100の複数の歯103の少なくとも1つは、常に補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態でウォーム80の歯81に接している。このため、ウォーム80と伝達用ホイール90との間で、トルクの伝達が無いときには、複数の歯103の少なくとも1つは、ウォーム80と伝達用ホイール90の少なくとも一方を、前記回転方向へ付勢する。
【0102】
例えば、ウォーム80から伝達用ホイール90にトルクが伝達されていないときに、伝達用ホイール90が外力により逆転されて、ウォーム80に当たる場合が有り得る。しかし、補助ホイール100の複数の歯103が、補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態でウォーム80の歯81に接している。このため、逆転した伝達用ホイール90の歯93は、ウォーム80の歯81に衝当することなく、緩やかに当たって噛合う。歯81,93同士が当たることによる打音の発生を防止することができる。さらには、ウォーム80から伝達用ホイール90にトルクが伝達されていないときに、伝達用ホイール90が外力により逆転されることを、ばね特性を有している歯103によって抑制し続ける。このため、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90の歯93との間のバックラッシの影響を確実に低減することができる。
【0103】
さらには、ウォームギヤ機構44を長期間にわたって使用することにより、ウォーム80の歯81や伝達用ホイール90の歯93が摩耗して、バックラッシが増大しようとした場合であっても、補助ホイール100の複数の歯103が、補助ホイール100の回転方向へ撓んだ状態でウォーム80の歯81に接している。このため、バックラッシの調整作業をする必要はない。
【0104】
以上の説明をまとめると、次の通りである。
ウォームギヤ機構44は、ウォーム80と、該ウォーム80と負荷との間にトルクを伝達するための伝達用ホイール90と、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90の歯93との間のバックラッシを低減するための補助ホイール100とによって構成される。このため、伝達用ホイール90は、トルクを伝達する機能を有していればよいので、十分な強度を有するように容易に設計することが可能である。この結果、ウォームギヤ機構44の耐久性を容易に高めることができる。
【0105】
さらに、補助ホイール100の複数の歯103は、補助ホイール100の回転方向へ「ばね特性」を有した撓み変形が可能に構成される。ばね特性を有して撓み変形が可能な、複数の歯103は、前記回転方向へ撓んだ状態でウォーム80に接することによって、ウォーム80と伝達用ホイール90の少なくとも一方を、前記回転方向へ付勢する。この結果、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90の歯93との間のバックラッシを低減することができる。
【0106】
このように、補助ホイール100の複数の歯103自体が、ばね特性を有して撓み変形可能なので、バックラッシを低減するための別個の部品は必要ない。従って、バックラッシを低減するようにしたウォームギヤ機構44の構成を簡略化することができ、部品数を少なくすることができるとともに、組立工数を少なくすることができる。
【0107】
さらには、電動パワーステアリング装置10において、電動モータ43が発生したトルクをステアリング系20に伝達する動力伝達機構として、バックラッシを除去したウォームギヤ機構44を採用したので、動力伝達機構44の耐久性を、より高めることができる。
【0108】
さらには、ウォームギヤ機構44のバックラッシを除去することによって、ステアリングホイール21を操舵するときの歯81,93同士の打音の発生を、より抑制することができる。この結果、車室内の騒音を一層低減することができる。例えば、車両の直進走行時には、ウォーム80から伝達用ホイール90にトルクが伝達されない。この走行状態において、車両の走行振動の影響を受けて歯同士が当たって打音を発生することを、極力抑制することができる。
【0109】
さらには、ウォームギヤ機構44のバックラッシを除去することによって、ウォーム80に対する伝達用ホイール90の良好な噛合い状態を維持することができる。このため、ステアリングホイール21を切り返し操作したときに、ウォームギヤ機構44からステアリング系20に補助トルクが伝達される時間遅れの発生を抑制することができる。さらには、バックラッシを除去したので、ウォーム80によって伝達用ホイール90を回転させた場合に、歯81,93同士が衝当することなく、緩やかに当たって噛合うので、ステアリングホイール21の切り返し作動を良好にすることができる。このようなことから、電動パワーステアリング装置10の操舵感覚(操舵フィーリング)を、より高めることができる。
【実施例2】
【0110】
実施例2に係るウォームギヤ機構及びこれを用いた電動パワーステアリング装置について、図17〜図20に基づき説明する。図17は上記図5に対応して表している。図18は上記図6に対応して表している。図19は上記図7に対応して表している。図20は上記図8に対応して表している。
【0111】
実施例2のウォームギヤ機構44A及びこれを用いた電動パワーステアリング装置10Aは、上記図5〜図8に示されている位置決め部110、掛け爪部121、掛け止め部131の配置関係を、図17〜図20に示された実施例2の位置決め部110A、掛け爪部121A、掛け止め部131Aの配置関係に変更したことを特徴とし、他の構成については上記図1〜図16に示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0112】
具体的には、実施例2のウォームギヤ機構44Aは、ウォーム80と、該ウォーム80に噛み合うトルク伝達用ウォームホイール90Aと、該トルク伝達用ウォームホイール90Aに設けられる補助ウォームホイール100Aと、から成る。トルク伝達用ウォームホイール90A(伝達用ホイール90A)は、上記実施例1の伝達用ウォームホイール90に対して実質的に同じ構成であり、筒状のボス部91Aと、ボス部91Aの外周部分に一体に形成された円盤状のホイール本体92Aと、から成る一体成形品の歯車である。補助ウォームホイール100A(補助ホイール100A)は、上記実施例1の補助ホイール100に対して実質的に同じ構成である。
【0113】
複数(実施例2では3個)の位置決め部110Aは、上記実施例1の位置決め部110に対して実質的に同じ構成であり、位置決め受け部111Aと位置決め凸部112Aとから成る。複数の位置決め受け部111Aは、上記実施例1の複数の位置決め受け部111に対して実質的に同じ構成であり、伝達用ホイール90Aの合わせ面94に形成されている。該複数の位置決め受け部111Aは、複数の長溝113Aの一部に位置している。該複数の長溝113Aは、上記実施例1の複数の長溝113に対して実質的に同じ構成であり、伝達用ホイール90Aの合わせ面94に形成されている。複数の位置決め凸部112Aは、上記実施例1の複数の位置決め凸部112に対して実質的に同じ構成であり、補助ホイール100Aの合わせ面104に形成されている。
【0114】
複数(実施例2では3個)の掛け爪部121Aは、上記実施例1の掛け爪部121に対して実質的に同じ構成であり、補助ホイール100Aの合わせ面104に形成されている。該複数の掛け爪部121Aの各爪部123は、アーム122から補助ホイール100Aの径外方へ向かって突出している。
【0115】
複数(実施例2では3個)の掛け止め部131Aは、上記実施例1の掛け止め部131に対して実質的に同じ構成であり、伝達用ホイール90Aに形成されている。該複数の掛け止め部131Aの各傾斜面134は、伝達用ホイール90Aに形成されている貫通孔132の、円弧状の縁133A(外周縁133A)に沿っている。
【0116】
ここで、次のように定義する。図18に示されるように、伝達用ホイール90Aの一方の面94、つまり補助ホイール100Aが重ね合わされる面94のことを「伝達用ホイール90Aの合わせ面94」という。該伝達用ホイール90Aの他方の面95A、つまり合わせ面94とは反対側の面のなかで、爪部123の掛け止め面123aが掛けられる面95Aのことを「伝達用ホイール90Aの非合わせ面95A」という。補助ホイール100Aの一方の面104、つまり伝達用ホイール90Aに重ね合わされる面104のことを「補助ホイール100Aの合わせ面104」という。
【0117】
補助ホイール100Aの合わせ面104から爪部123の下面123aまでの高さHiAは、伝達用ホイール90Aの合わせ面94から非合わせ面95Aまでの厚みThAよりも、若干小さく設定されている。
【0118】
以下に、各々の位置決め部110Aの配置について詳しく説明する。図20に示されるように、各々の位置決め部110Aは、回転中心線CLを基準として円周方向に等ピッチで配列されている。複数の位置決め受け部111Aと複数の位置決め凸部112Aとは、伝達用ホイール90Aに対する補助ホイール100Aの1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能な構成である。
【0119】
例えば、3個の位置決め部110Aのなかで、ある1つの位置決め部110Axのことを「特定の位置決め部110Ax」という。3個の位置決め受け部111Aのなかで、ある1つの位置決め受け部111Axのことを「特定の位置決め受け部111Ax」という。該特定の位置決め受け部111Axの位置は、回転中心線CLを基準とした半径r1のピッチ円上に設定されている。該特定の位置決め受け部111Axを除き、他の2つの位置決め受け部111A,111Aの位置は、回転中心線CLを基準とした半径r2のピッチ円上に設定されている。半径r1,r2は、回転中心線CLから複数の位置決め受け部111A,111A,111Axまでの個々の距離である。半径r1は半径r2よりも小さく設定されている。つまり、回転中心線CLから複数の位置決め受け部111までの個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離r1(半径r1)が、他の距離r2(半径r2)と相違している。
【0120】
一方、複数の位置決め凸部112A,112A,112Aは、複数の位置決め受け部111A,111A,111Axの位置に対応するように位置している。3個の位置決め凸部112Aのなかで、ある1つの位置決め凸部112Axのことを「特定の位置決め凸部112Ax」という。該特定の位置決め凸部112Axは、特定の位置決め受け部111Axに嵌め込まれる。また、3個の長溝113Aのなかで、ある1つの長溝113Axのことを「特定の長溝113Ax」という。特定の位置決め受け部111Axは、特定の長溝113Axの一部に位置している。
【0121】
実施例2によれば、上記実施例1の作用、効果と同様の作用、効果を発揮する。
【実施例3】
【0122】
実施例3に係るウォームギヤ機構及びこれを用いた電動パワーステアリング装置について、図21〜図25に基づき説明する。図21は上記図5に対応して表している。図22は上記図6に対応して表している。図23は上記図7に対応して表している。図24は上記図11に対応して表している。図25は上記図13に対応して表している。
【0123】
実施例3のウォームギヤ機構44B及びこれを用いた電動パワーステアリング装置10Bは、上記図5〜図13に示されている実施例1の位置決め受け部111及び位置決め凸部112を、図21〜図25に示される掛け止め部131B及び掛け爪部121Bが兼ねている構成に変更したことを特徴とし、他の構成については上記図1〜図16に示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0124】
具体的には、実施例3のウォームギヤ機構44Bは、実施例1のウォームギヤ機構44と同じ構成である。複数の掛け爪部121Bは、複数の掛け爪部121と同じ構成である。複数の掛け止め部131Bは、補助ホイール100の非合わせ面105に形成された複数の凹部131aを有する。全ての凹部131aは、第2基準点P2に位置しており、複数の掛け爪部121Bの掛け止め面123aが嵌ることが可能であり、底面が平坦に形成されている。
【0125】
図22に示されるように、伝達用ホイール90の合わせ面94から爪部123の掛け止め面123aまでの高さHiBは、補助ホイール100の合わせ面104から凹部131aまでの厚みThBよりも、若干小さく設定されている。このため、図25に示されるように、爪部123は傾斜面134に案内されながら第2基準点P2まで達したときに、非合わせ面105の凹部131aに弾性を有して掛け止められる。
【0126】
このように、図6に示される実施例1の位置決め凸部112は、実施例3の掛け爪部121Bによって構成される。また、図6に示される実施例1の位置決め受け部111は、実施例3の掛け止め部131Bによって構成される。このため、掛け爪部121Bは、掛け止め部131Bに嵌め込まれ且つ掛け止められて、回転中心線CLに沿う方向への変位を規制される。従って、補助ホイール100は、伝達用ホイール90に位置決めされ且つ取り付けられる。
【0127】
以下に、各々の掛け爪部121B及び各々の掛け止め部131Bの配置について詳しく説明する。図23に示されるように、各々の掛け爪部121B及び各々の掛け止め部131Bは、回転中心線CLを基準として円周方向に等ピッチで配列されている。複数の掛け爪部121Bと複数の掛け止め部131Bとは、伝達用ホイール90に対する補助ホイール100の1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能な構成である。
【0128】
例えば、3個の掛け爪部121Bのなかで、ある1つの掛け爪部121Bxのことを「特定の掛け爪部121Bx」という。該特定の掛け爪部121Bxの位置は、回転中心線CLを基準とした半径r11のピッチ円上に設定されている。該特定の掛け爪部121Bxを除き、他の2つの掛け爪部121B、121Bの位置は、回転中心線CLを基準とした半径r12のピッチ円上に設定されている。半径r11,r12は、回転中心線CLから複数の掛け爪部121B,121B,121Bxまでの個々の距離である。半径r11は半径r12よりも小さく設定されている。つまり、回転中心線CLから複数の掛け爪部121Bまでの個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離r11(半径r11)が、他の距離r12(半径r12)と相違している。
【0129】
一方、複数の掛け止め部131B,131B,131Bは、複数の掛け爪部121B,121B,121Bxの位置に対応するように位置している。3個の掛け止め部131Bのなかで、ある1つの掛け止め部131Bxのことを「特定の掛け止め部131Bx」という。該特定の掛け止め部131Bxは、特定の掛け爪部121Bxに掛け止められる。
【0130】
実施例3によれば、上記実施例1の作用、効果と同様の作用、効果を発揮する。さらに、実施例3によれば、掛け爪部121Bが位置決め凸部の機能を兼ね備えているとともに、掛け止め部131Bが位置決め受け部の機能を兼ね備えている。従って、実施例1の位置決め受け部111及び位置決め凸部112は不要である。このため、補助ホイール100を伝達用ホイール90に位置決めし且つ取り付ける構成を、簡単にできる。
【0131】
なお、実施例3の構成は、上記実施例2にも採用することが可能である。つまり、掛け爪部121Bを補助ホイール100に形成するとともに掛け止め部131Bを伝達用ホイール90に形成することが可能である。
【実施例4】
【0132】
実施例4に係るウォームギヤ機構及びこれを用いた電動パワーステアリング装置について、図26〜図30に基づき説明する。図26は上記図5に対応して表している。図27は上記図6に対応して表している。図28は上記図7に対応して表している。図29は上記図9に対応して表している。図30は上記図10に対応して表している。
【0133】
実施例4のウォームギヤ機構44C及びこれを用いた電動パワーステアリング装置10Cは、上記図3〜図17に示されている補助ウォームホイール100を、図26〜図30に示される補助ウォームホイール100Cの構成に変更したことを特徴とし、他の構成については上記図1〜図16に示す構成と同じなので、説明を省略する。
【0134】
具体的には、実施例4のウォームギヤ機構44Cは、ウォーム80と、該ウォーム80に噛み合うトルク伝達用ウォームホイール90Cと、該トルク伝達用ウォームホイール90Cに設けられる補助ウォームホイール100Cと、から成る。
【0135】
トルク伝達用ウォームホイール90C(伝達用ホイール90C)は、実施例1の伝達用ウォームホイール90に対して実質的に同じ構成であり、筒状のボス部91Cと、該ボス部91Cの外周部分に一体に形成された円盤状のホイール本体92Cと、から成る一体成形品の歯車である。該ホイール本体92Cの外周面には、全周にわたって複数の歯93が形成されている。このような伝達用ホイール90Cは、少なくとも複数の歯93を含めてホイール本体92Cが樹脂の成形品によって構成される。
【0136】
補助ウォームホイール100C(補助ホイール100C)は、ウォーム80とトルク伝達用ウォームホイール90Cとの間の、バックラッシを除去するために設けられた、補助的な歯車である。以下、補助ウォームホイール100Cのことを適宜「補助ホイール100C」という。
【0137】
伝達用ホイール90Cと補助ホイール100Cとは、回転中心線CLに沿って一列に配列されている。補助ホイール100Cの回転中心線(中心)は、伝達用ホイール90Cの回転中心線CLと同一である。補助ホイール100Cは、伝達用ホイール90Cよりも薄肉の環状の部材であって、伝達用ホイール90Cの一方の面94C(ホイール本体92Cの一方の面94C)に重ね合わされるとともに、相対的な軸方向移動と相対回転の両方が規制されて取り付けられている。
【0138】
該補助ホイール100Cは、伝達用ホイール90Cに重ねて取り付けられる円盤状のボス部101aと、該ボス部101aの外周部分に一体に形成された環状の付勢部材101bと、該付勢部材101bの外周部分に一体に形成された環状のホイール本体101cと、から成る一体成形品の歯車である。
【0139】
ここで、次のように定義する。図27に示されるように、伝達用ホイール90Cのボス部91Cの一方の面94C、つまり補助ホイール100Cが重ね合わされる面94Cのことを「伝達用ホイール90Cの合わせ面94C」という。補助ホイール100Cのボス部101aの一方の面104C、つまり伝達用ホイール90Cに重ね合わされる面104Cのことを「補助ホイール100Cの合わせ面104C」という。補助ホイール100Cのボス部101aの他方の面105C、つまり合わせ面104Cとは反対側の面105Cのことを「補助ホイール100Cの非合わせ面105C」という。
【0140】
図27〜図30に示されるように、補助ホイール100Cは、伝達用ホイール90Cに重ね合わされるとともに、互いの合わせ面94C,104Cに設けられた複数(実施例4では3個)の位置決め部110によって位置決めされて、取り付けられる部品である。位置決め部110は、図5〜図11に示される実施例1の位置決め部110と同じ構成であり、位置決め受け部111と位置決め凸部112とから成る。
【0141】
位置決め受け部111は、伝達用ホイール90Cの合わせ面94Cと補助ホイール100Cの合わせ面104Cとのいずれか一方に形成されている。位置決め凸部112は、伝達用ホイール90Cの合わせ面94Cと補助ホイール100Cの合わせ面104Cとのいずれか他方に形成されている。実施例4では、位置決め受け部111は補助ホイール100Cの合わせ面104Cに形成され、位置決め凸部112は伝達用ホイール90Cの合わせ面94Cに形成されている。
【0142】
図27〜図30に示されるように、伝達用ホイール90Cは、合わせ面94Cから回転中心線CLに沿って補助ホイール100Cへ向かうように延びた、複数(実施例4では3個)の掛け爪部121を有している。補助ホイール100Cは、1個又は複数の掛け爪部121を掛け止めるための、複数(実施例4では3個)の掛け止め部131を有している。掛け爪部121は、図5〜図11に示される実施例1の位置決め部掛け爪部121と同じ構成である。掛け止め部131は、図5〜図11に示される実施例1の掛け止め部131と同じ構成である。各掛け爪部121がそれぞれの掛け止め部131に掛け止められることにより、補助ホイール100Cは伝達用ホイール90Cに取り付けられる。
【0143】
補助ホイール100Cのホイール本体101cは、外周部分に複数の歯103Cを一体に形成した樹脂の成形品であり、付勢部材101bがインサート成型によって一体に組み込まれている。該歯103Cの歯数は、伝達用ホイール90Cの歯93の歯数と同じである。
【0144】
このような補助ホイール100Cは、複数の歯103Cを伝達用ホイール90C側へ向かって延ばした、いわゆる冠状(キャップ状とも言う。)の歯車である。複数の歯103Cは、回転中心線CLに対して平行に延びる。つまり、冠状を呈する補助ホイール100Cは、歯103Cが伝達用ホイール90Cの外周面を囲うようにして、伝達用ホイール90Cに重ねることで、ウォーム81に噛合わせるようにしたものである。
【0145】
一方、図26及び図27に示されるように、付勢部材101bは、補助ホイール100Cを伝達用ホイール90C側に付勢する。言い換えると、付勢部材101bは、ホイール本体101cの複数の歯103Cを、補助ホイール100Cの回転中心線CLに沿う方向で、且つ、ウォーム81の歯先側から歯底側へ付勢するように構成した部材である。従って、補助ホイール100Cは、ウォーム81に対してバックラッシを有することなく噛み合うことになる。
【0146】
図27及び図28に示されるように、補助ホイール100Cの付勢部材101bは、ホイール本体101cに組み込まれた中空円板状の外円部107Cと、該外円部107Cの内径よりも小径であって伝達用ホイール90Cに取り付けられる中空円板状の内円部108Cと、該内円部108Cから外円部107Cへ向かって放射状に延びて該外円部107Cに繋がれている平板状の複数の弾性アーム109Cと、から成る一体成型品である。該付勢部材101bは、ばね鋼鋼材などの金属製の板からなる一体成形品、例えばプレス加工品である。
【0147】
外円部107C、内円部108C及び弾性アーム109Cの板厚は、同一である。外円部107C及び内円部108Cは補助ホイール100Cの中心、すなわち伝達用ホイール90Cの回転中心CLと同一である。外円部107Cの位置は、内円部108Cの位置に対し、補助ホイール100Cの回転中心線CLに沿って一定距離Hc(図27参照)だけオフセットしている。この一定距離Hcのことをオフセット量Hcと言う。外円部107Cは、内円部108Cに対して略平行である。
【0148】
このような構成の該付勢部材101bは、ホイール本体101cから中央部分へ向かって傾斜する、頭切り円錐形状を呈した、いわゆる概ね「皿ばね」状の弾性部材である。円錐形の底は、水平な平坦面からなる内円部108Cである。概ね皿ばね状の付勢部材101bは、伝達用ホイール90Cのホイール本体92Cの一方の面94Cへ向かって低くなるように配置される。皿ばね状の付勢部材101bであるから、オフセット量Hcが大きいほど、付勢力は大きくなる。従って、オフセット量Hcを適宜設定することにより、ホイール本体101cの歯103Cをウォーム81の歯底へ向かって付勢する付勢力を、最適な値に設定することができる。
【0149】
図26に示されているように、ウォームギヤ機構44Cが組み立てられている状態では、複数の弾性アーム109Cの一定の付勢力によって、補助ホイール100Cの少なくとも1つの歯103Cがウォーム80の歯81の歯底へ向かって、すなわち矢印Sp方向へ付勢されている。このため、ウォーム80の歯81と補助ホイール100Cの歯103Cとの間のバックラッシは零であり、歯81,103C同士の接触面には一定の接触圧、いわゆる予圧(「プリロード」とも言う)が付与されている。ウォーム80が停止状態にあるときには、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90Cの歯93との間には若干のバックラッシを有している。
【0150】
その後、ウォーム80は正転方向へ回転したときに、先に補助ホイール100Cの歯103Cの歯面を押して補助ホイール100Cを回転させようとする。このときに、補助ホイール100Cの歯103Cには、自己の圧力角に応じて、ウォーム80の歯81の歯底から離れる方向(矢印Spとは反対方向)への分力が働く。このため、補助ホイール100Cの歯103Cは、複数の弾性アーム109Cの付勢力に抗して、ウォーム80の歯81の歯底から離れる方向へ変位する。補助ホイール100Cの歯103Cが変位した結果、歯81,103C間にバックラッシが発生する。この結果、ウォーム80の歯81が伝達用ホイール90Cの歯93に接触し、伝達用ホイール90Cを正転方向へ回し始める。
【0151】
このようにして、ウォーム80の歯81を伝達用ホイール90Cの歯93に緩やかに当てることができる。このため、ウォームギヤ機構44Cの耐久性を、より一層高めることができる。しかも、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90Cの歯93との間のバックラッシを除去することができるので、歯81,93同士の打音の発生を、より抑制することができる。
【0152】
以下に、各々の位置決め部110の配置について詳しく説明する。実施例4の各々の位置決め部110の配置は、図8〜図10に示される実施例1の各々の位置決め部110の配置と同じであり、回転中心線CLを基準として円周方向に等ピッチで配列されている。つまり、図28〜図30に示されるように、複数の位置決め受け部111と複数の位置決め凸部112とは、伝達用ホイール90に対する補助ホイール100の1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能な構成である。
【0153】
例えば、特定の位置決め受け部111xは、3個の位置決め受け部111のなかで、ある1つの位置決め受け部111xである。特定の位置決め凸部112xは、3個の位置決め凸部112のなかで、ある1つの位置決め凸部112xである。特定の長溝113xは、3個の長溝113のなかで、ある1つの長溝113xである。
【0154】
実施例4によれば、上記実施例1の作用、効果と同様の作用、効果を発揮する。さらに、実施例4によれば、ウォーム80の歯81と補助ホイール100Cの歯103Cとの間のバックラッシを、ウォーム80の歯81と伝達用ホイール90Cの歯93との間のバックラッシよりも小さく設定し、伝達用ホイール90Cに補助ホイール100Cを重ね合わせるとともに、付勢部材101bによって補助ホイール100Cの歯103Cをウォーム80の歯81の歯底へ向かって付勢するだけの簡単な構成によって、ウォームギヤ機構44Cの耐久性を高めることができる。
【実施例5】
【0155】
実施例5に係るウォームギヤ機構及びこれを用いた電動パワーステアリング装置について、図31及び図32に基づき説明する。図31は上記図8に対応して表している。図32は上記図10に対応して表している。
【0156】
実施例5のウォームギヤ機構44D及びこれを用いた電動パワーステアリング装置10Dは、上記図7〜図10に示されている複数の位置決め部110の配置を、図31及び図32に示される配置に変更したことを特徴とし、他の構成については上記図1〜図16に示す実施例1の構成と同じなので、説明を省略する。なお、複数の掛け爪部121及び複数の掛け止め部131の配置は、実施例1の配置と同じである。
【0157】
具体的には、図31及び図32に示されるように、実施例5の各位置決め受け部111、各位置決め凸部112及び各長溝113の位置は、全て回転中心線CLを基準とした半径r2のピッチ円上に設定されている。さらに、各々の位置決め部110は、回転中心線CLを基準として円周方向に不等ピッチで配列されている。このため、複数の位置決め受け部111,111,111x同士の互いに隣接し合う個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違している。
【0158】
実施例1と同様に、特定の位置決め受け部111xは、3個の位置決め受け部111のなかで、ある1つの位置決め受け部111xである。特定の位置決め凸部112xは、3個の位置決め凸部112のなかで、ある1つの位置決め凸部112xである。特定の長溝113xは、3個の長溝113のなかで、ある1つの長溝113xである。
【0159】
詳しく述べると、3個の長溝113は、一端が第1基準点P1に位置し、他端が第2基準点P2に位置している。全ての長溝113は、第1基準点P1から同じ方向へ延びている。第1基準点P1から第2基準点P2までの角度はθ2である。
【0160】
特定の長溝113xを除き、他の2つの長溝113,113の一端が位置する第1基準点P1,P1間の角度θ1は120°である。回転中心線CLを基準とし、他の2つの長溝113,113の位相に対して、特定の長溝113xの位相は、角度αだけずれている(オフセットしている)。このため、他の2つの長溝113,113と特定の長溝113xとの間の角度は、一方がθ1x、他方がθ1yである。つまり、θ1x=θ1−α、θ1y=θ1+αの関係となる。
【0161】
従って、特定の位置決め受け部111xを除き、他の2つの位置決め受け部111,111間の角度θ1は120°である。他の2つの位置決め受け部111,111と特定の位置決め受け部111xとの間の角度は、一方が角度θ1x、他方が角度θ1yである。角度θ1,θ1x,θ1yは互いに隣接し合う個々の距離に相当する。このため、この結果、複数の位置決め受け部111,111,111x同士の互いに隣接し合う個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違している。
【0162】
一方、複数の位置決め凸部112,112,112xは、複数の位置決め受け部111,111,111xの位置に対応するように位置している。該特定の位置決め凸部112xは、特定の位置決め受け部111xに嵌め込まれる。
【0163】
このため、全ての位置決め受け部111の位置に、全ての位置決め凸部112の位置が合致した場合だけ、両者111,112を嵌め込むことができる。該両者111,112が互いに嵌め込まれた場合に、伝達用ホイール90に対して補助ホイール100の位相が自ずから決まる。従って、伝達用ホイール90の歯93に対する補助ホイール100の歯103の相対的な位置を、最適な位置に適切に且つ容易に設定することができる。
【0164】
なお、本発明では、ウォームギヤ機構44,44A〜44Dは斜交軸ウォームギヤ機構に限定されるものではなく、ウォーム80と伝達用ホイール90,90A,90Cとの軸角が90°であってもよい。
【0165】
また、図31及び図32に示される実施例5の構成は、実施例1の変形例及び実施例4であるが、実施例2及び実施例3にも適用することが可能である。
【0166】
例えば、実施例2では、各々の位置決め部110A,110A,110Axを、回転中心線CLを基準とした円周方向に不等ピッチで配列すればよい。この結果、複数の位置決め受け部111A,111A,111Ax同士の互いに隣接し合う個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違する。
【0167】
実施例3では、各々の掛け爪部121B,121B,121Bx及び各々の掛け止め部131B,131B,131Bxを、回転中心線CLを基準とした円周方向に不等ピッチで配列すればよい。この結果、複数の掛け爪部121B,121B,121Bx同士及び複数の掛け止め部131B,131B,131Bx同士の、互いに隣接し合う個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違する。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のウォームギヤ機構44,44A〜44Dは、ステアリングホイール21で発生した操舵トルクを操舵トルクセンサ41によって検出し、該操舵トルクセンサ41の検出信号に応じて電動モータ43が補助トルクを発生し、該補助トルクをウォームギヤ機構44,44A〜44Cを介してステアリング系20に伝える車両用電動パワーステアリング装置10,10A〜10Dに好適である。
【符号の説明】
【0169】
10,10A〜10D…電動パワーステアリング装置、20…ステアリング系、21…ステアリングホイール、29…操舵車輪、43…電動モータ、44,44A〜44D…ウォームギヤ機構、80…ウォーム、81…歯、90,90A,90C…トルク伝達用ウォームホイール、93…歯、94,94C…合わせ面、100,100A,100C…補助ウォームホイール、103,103C…歯、104,104C…合わせ面、105,105C…非合わせ面、110,110A…位置決め部、111,111A…位置決め受け部、112,112A…位置決め凸部、113、113A…長溝、121,121A,121B…掛け爪部、122…アーム、123…爪部、131,131A、131B…掛け止め部、132…貫通孔、133,133A…貫通孔を形成する円弧状の縁、134…傾斜面、134a…傾斜始点、134b…傾斜終点、135…第1貫通孔、136…第2貫通孔、CL…トルク伝達用ウォームホイールの回転中心線(補助ウォームホイールの回転中心線)、WL…ウォームの回転中心線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォームと、該ウォームに噛み合うトルク伝達用ウォームホイールと、前記ウォームの歯と前記トルク伝達用ウォームホイールの複数の歯との間のバックラッシを低減させるための補助ウォームホイールと、から成るウォームギヤ機構において、
前記補助ウォームホイールは、前記トルク伝達用ウォームホイールの回転中心線と同心に位置するとともに、前記トルク伝達用ウォームホイールに重ね合わされて取り付けることが可能であり、
前記補助ウォームホイールと前記トルク伝達用ウォームホイールとの、いずれか一方は、複数の位置決め受け部を有し、
前記補助ウォームホイールと前記トルク伝達用ウォームホイールとの、いずれか他方は、前記一方へ向かって突出して前記複数の位置決め受け部に嵌め込み可能な複数の位置決め凸部を有し、
前記複数の位置決め受け部と前記複数の位置決め凸部とは、前記トルク伝達用ウォームホイールに対する前記補助ウォームホイールの1つの位相でのみ、互いに個別に嵌め込み可能な構成であることを特徴とするウォームギヤ機構。
【請求項2】
前記回転中心線から前記複数の位置決め受け部までの個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違している、または、
前記複数の位置決め受け部同士の互いに隣接し合う個々の距離のなかで、少なくとも1つの距離が、他の距離と相違しており、
前記複数の位置決め凸部は、前記複数の位置決め受け部の位置に対応するように位置していることを特徴とする請求項1記載のウォームギヤ機構。
【請求項3】
前記複数の位置決め受け部は、前記補助ウォームホイールの合わせ面と前記トルク伝達用ウォームホイールの合わせ面との、いずれか一方に形成された凹部によって構成され、
前記複数の位置決め凸部は、前記補助ウォームホイールの前記合わせ面と前記トルク伝達用ウォームホイールの前記合わせ面とのいずれか他方に形成された凸部によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のウォームギヤ機構。
【請求項4】
前記トルク伝達用ウォームホイールと前記補助ウォームホイールとのいずれか一方には、他方へ向かい前記回転中心線に沿って延びた複数の掛け爪部が形成され、前記他方には、前記複数の掛け爪部を嵌め込み可能且つ掛け止め可能な複数の掛け止め部が形成されることにより、
前記複数の位置決め凸部は前記複数の掛け爪部によって構成されるとともに、前記複数の位置決め受け部は前記複数の掛け止め部によって構成されており、
前記複数の掛け爪部が前記複数の掛け止め部に嵌め込まれ且つ掛け止められて、前記回転中心線に沿う方向への変位を規制されることにより、前記補助ウォームホイールは前記トルク伝達用ウォームホイールに位置決めされ且つ取り付けられることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のウォームギヤ機構。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項のウォームギヤ機構と、車両のステアリングホイールから操舵車輪に至るステアリング系と、トルクを発生するとともに該トルクを前記ウォームギヤ機構を介して前記ステアリング系に伝える電動モータと、を備えたことを特徴とするウォームギヤ機構を用いた電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2013−36590(P2013−36590A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175429(P2011−175429)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】