説明

ウォーム減速機および電動パワーステアリング装置

【課題】ウォームとウォームホイールとの噛合部における潤滑切れを長期にわたって防止することができるウォーム減速機を提供する。
【解決手段】ウォーム減速機20は、相互に噛み合うウォーム21及びウォームホイール22を具備する。このウォーム減速機20には、ウォーム21とウォームホイール22との噛合部23に供給される潤滑剤を貯留するための潤滑剤貯留室25が併設されている。潤滑剤貯留室25は前記噛合部23よりも高い位置に設けられている。そして、潤滑剤貯留室25から潤滑剤を導出する通路としての潤滑剤供給孔27の下端部は、前記噛合部23の上に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に噛み合うウォーム及びウォームホイールを具備したウォーム減速機(ウォームギヤ)と、それを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハンドルの操舵力をそれに操舵補助力を付加して操舵輪に伝達する電動パワーステアリング装置には、減速機構としてウォーム減速機が組み込まれている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−30545号
【0003】
一般にウォーム減速機は、概して円筒形のウォーム(円筒歯車)と、当該ウォームに噛み合うウォームホイール(円盤歯車)とから構成されている。ウォーム減速機は、一段で大きな減速比を実現できるという利点を有する反面、常に歯面が滑り接触するという面もある。それ故、ウォームとウォームホイールとが噛み合う歯面に潤滑剤を塗布することが欠かせない。また、時間の経過に伴う潤滑切れを未然に防止するために、潤滑剤としてグリース等の粘ちょうな潤滑剤を使用する、ウォーム及びウォームホイールの各歯面に塗布するグリースの量を意図的に多くする、あるいはグリースの粘度を通常よりも高くする、等の対策を施している。
【0004】
しかしながら、上述のような対策にもかかわらず、現実には潤滑切れを十分に防止できているとは言い難い。というのも、上記潤滑切れ防止対策はいずれも、歯面に最初に塗布した潤滑剤を歯面上に如何に長くとどまらせるかという観点に立った対策(いわば初期潤滑剤の滞留維持対策)に過ぎない。それ故、ウォーム及びウォームホイールが回転駆動することでグリースが両者の噛合部から次第に掻き出され、その結果、噛合部の潤滑不足を招くということへの配慮がない。また、歯面に塗布した潤滑剤が機械的な作用を受けて変質し、潤滑性能を劣化させ易いという現実を見落としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウォームとウォームホイールとの噛合部における潤滑切れを長期にわたって防止することができるウォーム減速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、相互に噛み合うウォーム及びウォームホイールを具備したウォーム減速機であって、前記ウォームと前記ウォームホイールとの噛合部に供給される潤滑剤を貯留するための潤滑剤貯留室が併設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、潤滑剤を貯留しておくための潤滑剤貯留室を併設したことで、ウォームとウォームホイールとの噛合部に対し未劣化の潤滑剤を連続的又は断続的に供給可能となり、噛合部における潤滑切れを長期にわたって極力防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に従うウォーム減速機を備えた電動パワーステアリング装置の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0009】
図1及び図2に示すように、電動パワーステアリング装置PS1は、下部ハウジング体としてのギヤボックス11及び上部ハウジング体としてのギヤケース12からなるハウジング10を備えている。
【0010】
ハウジング10内には、ハンドルHからの操舵力が入力される操舵入力軸13と、その操舵入力軸13と同軸連結される操舵出力軸としてのピニオン軸14とが回動可能に支持されている。操舵入力軸13とピニオン軸14とはトーションバー15を介して連結されている。ハンドルHの操舵に伴ってトーションバー15にはトルクが生じる。このトルクは、ギヤケース12に取り付けられたトルクセンサー16によって検知される。
【0011】
ギヤボックス11には、ピニオン軸14と噛み合うステアリングラック17が装着されている。ステアリングラック17は、ピニオン軸14の回転運動を直線運動に変換して左右の操舵輪Wに伝達することで、両操舵輪Wの同期した方向変化を可能にする。
【0012】
更に、ハウジング10にはギヤボックス11とギヤケース12との接合境界位置において、これら(11,12)によってギヤ収容空間18が区画形成されている。このギヤ収容空間18内にはウォーム減速機20が収容されている。ウォーム減速機20は、電動モータMに直結されて同モータMの駆動力(操舵補助力)を伝達するためのウォーム21と、前記ピニオン軸14に一体回転可能に連結されると共に当該ウォーム21と噛合するウォームホイール22とから構成されている。
【0013】
電動モータMは、前記トルクセンサー16が検知したトーションバー15のトルクに応じた駆動力を発生する。この駆動力は、ウォーム21及びウォームホイール22を介してピニオン軸14に操舵補助力として伝達される。ピニオン軸14は、操舵入力軸13を介して伝達されるハンドルHの操舵力およびウォーム減速機20を経由して電動モータMから提供される操舵捕助力に基づいて、ステアリングラック17を強制駆動する。ステアリングラック17の動きに応じて、左右の操舵輪Wが同期的に操舵される。
【0014】
図2の電動パワーステアリング装置PS1にあってはそのハウジング10内に、ウォーム21とウォームホイール22との噛合部23に供給される潤滑剤を貯留するための潤滑剤貯留室25が併設されている。この潤滑剤貯留室25は、前記噛合部23の直上に位置するギヤケース12の一部に設けられている。より具体的には、前記噛合部23の直上位置においてギヤケース12の一部には、上方に開口する凹部12aが区画形成されている。そして、この凹部12aの上端開口をプレート26で塞ぐことにより当該凹部12aが潤滑剤貯留室25として構成されている。このため、潤滑剤貯留室25は前記噛合部23よりも高い位置にある。
【0015】
潤滑剤貯留室25の底壁部には、当該底壁部を垂直方向に貫通する潤滑剤供給孔27が形成されている。この潤滑剤供給孔27は、潤滑剤貯留室25から潤滑剤を導出するための通路であって、その下端部は前記噛合部23の真上に位置している。それ故、潤滑剤供給孔27を介して、潤滑剤貯留室25に貯留されている潤滑剤をその自重(つまり重力の作用)に基づいて前記噛合部23に円滑且つ自然に供給することができる。
【0016】
なお、潤滑剤供給孔27は一種の絞りとしても機能するものであり、当該潤滑剤供給孔27の内径及び/又は通路長を適宜設定することにより、潤滑剤の供給スピードを調節乃至最適化することができる。ちなみに、走行時の実車には常に微振動が生じ、この微振動はハウジング10にも伝達される。これが刺激となって潤滑剤が潤滑剤供給孔27を円滑に流れ落ちるため、高粘度潤滑剤の使用による目詰まりを心配する必要はない。
【0017】
潤滑剤貯留室25に貯留する潤滑剤としては、グリースのような高粘度の潤滑剤に限定されず、比較的低粘度の機械油のような潤滑剤であってもよい。また、本発明を採用した上で、ウォーム21及びウォームホイール22の各歯面に対し潤滑剤を予め塗布しておくことは好ましい。
【0018】
また図2に示すように、ギヤケース12には負圧防止通路28が形成されている。この負圧防止通路28は、潤滑剤貯留室25の上方残余空間(空気で満たされた空間)と、ハウジング10内に区画された前記ギヤ収容空間18とを連通する。潤滑剤貯留室25には外部ダストの侵入を防止するために一定の密閉性が求められるが、そのことが当該貯留室25から潤滑剤供給孔27を通って潤滑剤が流れ出るのを阻害する要因となり得る。この点、本実施形態では、負圧防止通路28によって潤滑剤貯留室25の上方残余空間と前記ギヤ収容空間18とを連通しているので、潤滑剤の移動に伴って潤滑剤貯留室25の内部に負圧が生じるおそれがなく、従って潤滑剤の潤滑剤貯留室25からの円滑な流出が確保される。なお、ハウジング10内での圧力変動の影響が潤滑剤貯留室25に及ぶのを緩和するために、負圧防止通路28の内径は十分に小さく設定されることが好ましい。
【0019】
本実施形態では、ウォーム減速機20の上方に潤滑剤を貯留しておくための潤滑剤貯留室25を併設したことで、ウォーム21とウォームホイール22との噛合部23に対し、未劣化の潤滑剤を連続的又は断続的に供給可能となり、噛合部23における潤滑切れを長期にわたって極力防止することができる。それ故、ウォーム21及びウォームホイール22の各歯面の磨耗や発熱を長期にわたり低減することができる。
【0020】
本実施形態では、潤滑剤貯留室25を前記噛合部23よりも高い位置に設けると共に、潤滑剤貯留室25から潤滑剤を導出する通路としての潤滑剤供給孔27の下端部を前記噛合部23の真上に配置した。このため、特別な圧送機構等を設けずとも、重力に基づいて潤滑剤貯留室25から噛合部23へ潤滑剤を自然移動させることができる。
【0021】
なお、電動パワーステアリング装置においてウォーム減速機20に併設される潤滑剤貯留室は図2の態様に限定されるものではない。例えば図3に示す電動パワーステアリング装置PS2のように、潤滑剤貯留室35が構成されてもよい。
【0022】
即ち図3に示すように、ウォームホイール22の上面側と対向するギヤケース12の下側内壁部には、下方に開口する円環状の凹部12bが区画形成されている。そして、この円環状凹部12bの下端部開口を同じく円環状のプレート36で塞ぐことにより当該円環状凹部12bが潤滑剤貯留室35として構成されている。このため、潤滑剤貯留室35は前記ウォーム21とウォームホイール22との噛合部23よりも高い位置にある。
【0023】
潤滑剤貯留室35の底壁部に相当する円環状プレート36には、当該円環状プレート36を垂直方向に貫通する潤滑剤供給孔37が形成されている。この潤滑剤供給孔37は、潤滑剤貯留室35から潤滑剤を導出するための通路であって、その下端部は前記噛合部23の真上に位置している。それ故、潤滑剤供給孔37を介して、潤滑剤貯留室35に貯留されている潤滑剤をその自重(つまり重力の作用)に基づいて前記噛合部23に円滑且つ自然に供給することができる。なお、潤滑剤供給孔37は、図2の潤滑剤供給孔27と同様、一種の絞りとしても機能する。
【0024】
また、ギヤケース12には、潤滑剤貯留室35の上方残余空間(空気で満たされた空間)と、ハウジング10内に区画された前記ギヤ収容空間18とを連通する負圧防止通路38が形成されている。図3の負圧防止通路38は図2の負圧防止通路28と同趣旨のものである。
【0025】
図3の電動パワーステアリング装置PS2が、図2の電動パワーステアリング装置PS1と同様の作用及び効果を奏することは言うまでもない。
【0026】
[変更例] 図2に示した負圧防止通路28(又は図3に示した負圧防止通路38)に対し逆止弁(チェック弁)を追加的に設けてもよい。この逆止弁は、潤滑剤供給孔27(又は37)から潤滑剤が流れ出るときには開弁して潤滑剤貯留室25(又は35)の内部が負圧化するのを防止する一方、何らかの理由で装置全体が大きく傾いたときなどには閉弁して、潤滑剤が負圧防止通路28(又は38)を介して潤滑剤貯留室25(又は35)からハウジング10内に流れ出るのを防止する働きをする。
【0027】
[付記]好ましくは、特許請求の範囲で言及した電動パワーステアリング装置が、
ハンドル(H)の操舵力をそれに電動モータ(M)によって生み出される操舵補助力を付加して操舵輪(W)に伝達する電動パワーステアリング装置であって、
ハウジング(10)と、前記ハウジングに回動可能に支持されると共に前記ハンドルからの操舵力が入力される操舵入力軸(13)と、前記操舵入力軸と同軸連結された状態で前記ハウジングに回動可能に支持されるピニオン軸(14)と、前記電動モータからの操舵補助力を前記ピニオン軸に伝達する減速機構(20)と、前記ピニオン軸の回転運動を直線運動に変換して前記被操輪に伝達するステアリングラック(17)を備えること。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】電動パワーステアリング装置及びその周辺機構の概略を示す図。
【図2】ウォーム減速機を含む電動パワーステアリング装置の一形態の縦断面図。
【図3】ウォーム減速機を含む電動パワーステアリング装置の別形態の縦断面図。
【符号の説明】
【0029】
10 ハウジング
13 操舵入力軸
14 ピニオン軸(操舵出力軸)
17 ステアリングラック
20 ウォーム減速機(減速機構)
21 ウォーム
22 ウォームホイール
23 噛合部
25,35 潤滑剤貯留室
27,37 潤滑剤供給孔(潤滑剤導出通路)
H ハンドル
M 電動モータ
W 操舵輪
PS1,PS2 電動パワーステアリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に噛み合うウォーム及びウォームホイールを具備したウォーム減速機であって、
前記ウォームと前記ウォームホイールとの噛合部に供給される潤滑剤を貯留するための潤滑剤貯留室が併設されていることを特徴とするウォーム減速機。
【請求項2】
前記潤滑剤貯留室は前記噛合部よりも高い位置に設けられ、前記潤滑剤貯留室から潤滑剤を導出する通路の下端部が前記噛合部の上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項3】
ハンドルの操舵力をそれに操舵補助力を付加して操舵輪に伝達する電動パワーステアリング装置であって、
操舵補助力を操舵出力軸に伝達するための減速機構として、請求項1又は2に記載のウォーム減速機が用いられていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−150429(P2009−150429A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326695(P2007−326695)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】