説明

エッジおよびこれを用いた動電型スピーカー

【課題】 内周部と外周部とを連結する支持可動部を含む細長形のエッジを備える動電型スピーカーに関し、再生音圧周波数特性のピーク・ディップを抑制することができ、能率が高くて再生音圧レベルも十分高く、再生音声品質に優れてディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する動電型スピーカーを提供する。
【解決手段】 エッジの角ロール部の断面形状において、角ロール部の中央直線部の長さと、内周直線部の長さと、外周直線部の長さと、がそれぞれ、長辺部から短辺部に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短して、中央直線部に対応して規定される平面である中央平面部と、内周直線部に対応して規定される曲面である内周立壁部と、外周直線部に対応して規定される曲面である外周立壁部と、がそれぞれ形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長径方向に比べて短径方向が短い細長形の略長方形の振動板を支持するエッジであって、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適するこのエッジを用いる動電型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
音声を再生するスピーカーを取り付けるディスプレイ等の音響機器においては、スピーカーを取り付けるのに要する空間を小型化することが要望されている。特に、細長形(矩形、長方形、長円形(楕円形、トラック形を含む))の動電型スピーカーは、短径方向に振動板面積が限られる、細長形のスピーカー振動板に特有な分割振動の影響が大きくて平坦な再生音圧周波数特性を得ることが難しい、磁気空隙の磁束密度が高いスピーカー用磁気回路を採用しようとすると、磁気回路の幅がスピーカー振動板よりも広くなり小型化できない、といった様々な理由から音声再生能力において不利な点がある。したがって、従来には、これらの問題を解決するために様々なスピーカー振動板、エッジ、スピーカー用磁気回路、および、これを用いた動電型スピーカーが提案されている。
【0003】
従来の細長形のスピーカーでは、長径方向と短径方向とを有する細長形のコイルならびに細長形のボビンを含むボイスコイルと、ボビンがその中央に固着する細長形の振動板ならびエッジとを備える動電型スピーカーに関して、振動板の外周端部およびエッジの内周部が、長径方向に沿った一組の長辺と、一組の長辺を連結する一組の円弧と、から形成されるトラック形であり、エッジの外周部およびフレームの固定部が、長径方向に沿った一組の長辺と、一組の長辺を連結する短径方向に沿った一組の短辺と、から形成される略長方形であり、支持可動部が、内周部のトラック形の長辺に対応する長辺ロール部と、内周部の円弧に対応する短辺ロール部と、を有し、短辺ロール部の断面形状ならびに寸法が、長辺ロール部との連結部ならびに短径方向において長辺ロール部の断面形状ならびに寸法とほぼ等しく、かつ、エッジの外周部の長辺ならびに短辺との連結角部に対応する付近でロール幅が最も大きくなるように徐々に変化するスピーカー用のエッジがある(特許文献1)。
【0004】
一方、従来には、ロールエッジとの結合部が略矩形状縁を有する振動板を具備する、いわゆる角形スピーカーの場合に、振動板の隅部に結合されるロールエッジの円弧部分のロール内側曲率を外側曲率と同じか又は大にした角形スピーカーがある(特許文献2)。振動板の隅部分に結合されるエッジ部分のロールの幅が直線部分のそれに比べて大きくなり、且ロール内周曲率が大であるので、周方向の伸縮に起因するコンプライアンスの増加を抑制することができ、全体的にエッジのコンプライアンスを低下せしめることができ、これにより最低共振周波数を低下することができ、低域再生能力を拡大することができる。
【0005】
また、例えば、ボイスコイルを有するコーンと一体をなす角形平板振動板の周縁部をフレームに装着するエッジのコーナー部における幅寸法をエッジのストレート部分における幅寸法よりも大きく形成し、コーナー部におけるスティフネスをストレート部におけるスティフネスと等しくするかあるいは小さくしたことを特徴とするスピーカー装置がある(特許文献3)。特許文献3の図3および図4に示すスピーカー装置では、エッジのコーナー部における幅寸法をエッジのストレート部分における幅寸法よりも大きく形成する結果、エッジ9のコーナー部9bの断面形状には、ロールエッジの頂点が引き延ばされて形成されるような直線部が現れる。ただし、エッジ9のコーナー部9bの形状は、特許文献3の図4に図示される断面以外での断面形状を含む詳細な構成が不明であり、また、図4に図示される断面では、直線部の両端にはエッジ9のストレート部のロール形状とほぼ等しい単一円弧のロール部分が形成されており、それぞれエッジの内周部と外周部とに連続している。
【0006】
【特許文献1】特開2009−201005号公報 (第1図、第2図)
【特許文献2】実公平3−14878号公報 (図1a〜図2b)
【特許文献3】実開昭60−144390号公報 (第3図〜第4図)
【0007】
しかしながら、従来技術のスピーカーでは、いずれも充分ではない。特許文献1に記載のスピーカーは、長径方向と短径方向とを有するトラック形のコイルならびにトラック形のボビンを含むボイスコイルと、ボビンがその中央に固着するトラック形の振動板と、を有する特殊なスピーカーの場合であり、略長方形の振動板を有する細長形のスピーカーに適するとは限らない。また、正方形に近い略矩形の振動板の場合には、特許文献2または3に記載のエッジは有効であるものの、振動板が長方形の細長形のスピーカーでは、エッジの角部分に接続する長辺側および短辺側のエッジの構成が著しく異なるので、角部分に過剰な応力がかかり、音圧周波数特性が乱れる場合がある、あるいは、エッジ切れが生じる場合がある、という問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、内周部と外周部とを連結する支持可動部を含む細長形のエッジを備える動電型スピーカーに関し、再生音圧周波数特性のピーク・ディップを抑制することができ、能率が高くて再生音圧レベルも十分高く、再生音声品質に優れてディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する動電型スピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエッジは、長径方向と短径方向とを有する細長形の振動板の外周端部と接合する内周部と、フレームの固定部と接合する外周部と、内周部と外周部とを連結する支持可動部と、を含む細長形のエッジであって、エッジの内周部および外周部の正面形状が、長径方向に沿った一組の長辺部と、一組の長辺を連結する短径方向に沿った一組の短辺部と、一つの長辺と一つの短辺とを略円弧状に連結する4つの角部と、から規定される略長方形であり、支持可動部が、長辺部に対応して断面が単一の円弧を含む長辺ロール部と、短辺部に対応して断面が単一の円弧を含みその全高が長辺ロール部の全高と同一になる短辺ロール部と、角部に対応してその全高が長辺ロール部並びに短辺ロール部の全高と同一になる角ロール部と、を有し、角ロール部が、その周方向の断面形状において、全高を規定する直線である中央直線部と、中央直線部の内周端に連続して形成される円弧である内周側円弧部と、中央直線部の外周端に連続して形成される円弧である外周側円弧部と、内周側円弧部の内周端に連続して形成される直線であり内周部に連結する内周直線部と、外周側円弧部の外周端に連続して形成される直線であり外周部に連結する外周直線部と、を含み、角ロール部の中央直線部の長さと、内周直線部の長さと、外周直線部の長さと、がそれぞれ、長辺部から短辺部に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短して、中央直線部に対応して規定される平面である中央平面部と、内周直線部に対応して規定される曲面である内周立壁部と、外周直線部に対応して規定される曲面である外周立壁部と、がそれぞれ形成される。
【0010】
好ましくは、本発明のエッジは、エッジの支持可動部の角ロール部の断面形状における内周側円弧部および外周側円弧部を規定する半径が、長辺部から短辺部に至るまでの間に最大から最小に減短してから再び最大に増長する。
【0011】
また、好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、上記のエッジと、エッジの内周部とその外周端部が接合する振動板と、エッジの外周部とその固定部が接合するフレームと、振動板と連結するボイスコイルと、フレームと連結し、ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、をさらに備える。
【0012】
以下、本発明の作用について説明する。
【0013】
本発明のエッジは、長径方向と短径方向とを有する細長形の振動板の外周端部と接合する内周部と、フレームの固定部と接合する外周部と、内周部と外周部とを連結する支持可動部と、を含む細長形のエッジであって、エッジの内周部および外周部の正面形状が、長径方向に沿った一組の長辺部と、一組の長辺を連結する短径方向に沿った一組の短辺部と、一つの長辺と一つの短辺とを略円弧状に連結する4つの角部と、から規定される略長方形である。また、本発明の動電型スピーカーは、このエッジと、エッジの内周部とその外周端部が接合する振動板と、エッジの外周部とその固定部が接合するフレームと、振動板と連結するボイスコイルと、フレームと連結し、ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、をさらに備える。したがって、音響機器の取り付ける空間が狭くても、取り付けることが可能な再生音声品質に優れる細長形の動電型スピーカーが実現される。
【0014】
本発明のエッジは、その支持可動部が、長辺部に対応して断面が単一の円弧を含む長辺ロール部と、短辺部に対応して断面が単一の円弧を含みその全高が長辺ロール部の全高と同一になる短辺ロール部と、角部に対応してその全高が長辺ロール部並びに短辺ロール部の全高と同一になる角ロール部と、を有する。つまり、このエッジは、細長形の全周に渡ってその全高が均一で、飛び出し寸法が一定のロールエッジである。長辺部に対応する長辺ロール部と、短辺部に対応する短辺ロール部と、は、それぞれ断面が単一の円弧からなるロールエッジであり、場合によっては断面の一部でさらに直線部を含むロールエッジである。なお、長辺ロール部の幅と、短辺ロール部の幅とは、異なっていても良く、好ましくは、エッジの支持可動部の長辺部の断面形状における幅は、短辺部の断面形状における幅よりも大きい方がよい。
【0015】
一方で、長辺ロール部と短辺ロール部とをつなぐ角ロール部は、周方向の断面が単一の円弧のみから構成されないロールエッジである。角ロール部では、周方向の角度によって断面形状が徐々に変化するので、長辺ロール部と短辺ロール部とを滑らかにつなぐことができる。周方向の断面形状における角ロール部の幅は、長辺ロール部の幅と、短辺ロール部の幅と、の何れかと等しいか、それ以上の長さの幅を有していればよい。角ロール部は、その周方向の断面形状において、全高を規定する直線である中央直線部と、中央直線部の内周端に連続して形成される円弧である内周側円弧部と、中央直線部の外周端に連続して形成される円弧である外周側円弧部と、内周側円弧部の内周端に連続して形成される直線であり内周部に連結する内周直線部と、外周側円弧部の外周端に連続して形成される直線であり外周部に連結する外周直線部と、を含む。
【0016】
したがって、角ロール部では、中央直線部に対応して規定される平面である中央平面部と、内周直線部に対応して規定される曲面である内周立壁部と、外周直線部に対応して規定される曲面である外周立壁部と、がそれぞれ形成される。中央直線部の長さは、周方向の角度の変化に合わせて、長辺部から短辺部に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短して、中央平面部を形成する。また、内周直線部の長さは、周方向の角度の変化に合わせて、長辺部から短辺部に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短して、この内周直線部が内周立壁部を形成する。同様に、外周直線部の長さは、周方向の角度の変化に合わせて、長辺部から短辺部に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短して、この外周直線部が外周立壁部を形成する。一方、エッジの支持可動部の角ロール部の断面形状における内周側円弧部および外周側円弧部を規定する半径は、長辺部から短辺部に至るまでの間に最大から最小に減短してから再び最大に増長する。
【0017】
このように、角ロール部に、平面状で強い中央平面部だけでなく、さらに剛性を高める内周立壁部および外周立壁部を形成するように、その周方向での断面形状において、全高を規定する中央直線部と、内周直線部と、外周直線部とを含むようにしたので、角ロール部の剛性を高めて、角ロール部に集中しやすい過剰な応力にも耐えられるようにしてエッジ切れを防止し、再生音圧周波数特性のピーク・ディップを抑制して、このエッジを用いる動電型スピーカーの再生音声品質を高めることが出来る。本発明の動電型スピーカーでは、細長形のエッジの形状を上記のようにすることにより、略長方形の振動板を有する動電型スピーカーであっても、振動板の分割振動が抑制され、能率並びに再生音圧レベルを高めて、再生音声品質と耐入力を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の動電型スピーカーは、長径方向と短径方向とを有する略長方形の振動板ならびにエッジを備える動電型スピーカーであっても、再生音圧周波数特性のピーク・ディップを抑制することができ、能率が高くて再生音圧レベルも十分高く、再生音声品質に優れる動電型スピーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1について説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態によるエッジ3について説明する図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態によるエッジ3の角ロール部30について説明する図である。(実施例1)
【図4】本発明の好ましい実施形態によるエッジ3の角ロール部30の断面形状の変化を説明する図である。(実施例1)
【図5】比較例のエッジ3xの角ロール部40の断面形状の変化を説明する図である。(比較例1)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図であり、具体的には、動電型スピーカー1を前面側斜め上方から見た斜視図である。本実施例の動電型スピーカー1は、長径方向長が約16.0cm、短径方向長が約4.0cmの略長方形のスピーカー振動板2を有する細長形の動電型スピーカーである。なお、後述するように、動電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。また、点A−A’を結ぶ直線が延びる方向が長径方向であり、また、点B−B’を結ぶ直線が延びる方向が短径方向である。
【0022】
外形が略長方形のスピーカー振動板2は、略矩形でそれぞれの中央部分が若干凸状になった5つの矩形振動面部を有する抄紙した紙をプレス成形した平面振動板であり、エッジ3によってその外周端部を支持されており、エッジ3の外周端部は、フレーム6に固定されている。エッジ3の外周端部の前面側には、ガスケット5が連結する。また、スピーカー振動板2の背面側には、合計3個の(図示しない)矩形ボイスコイルと、これらを縦1列横3列の格子状に連結する(図示しない)矩形鉢巻部材と、を備える(図示しない)ボイスコイル組立体4が連結している。なお、スピーカー振動板2は、PSP、PP、発泡PP、紙、アルミ合金等をプレス成形する平面振動板であっても良く、また、それぞれ薄板状にした平面材料を打ち抜いて形成したものであってもよい。
【0023】
(図示しない)ボイスコイル組立体4では、矩形鉢巻部材が、5つの矩形振動面部のうちの中央と両端との3つの部分に矩形ボイスコイルを対応して連結させ、隣り合う一組の矩形ボイスコイルの間にボイスコイルが配置されない矩形空間を規定して、矩形ボイスコイル同士を離間して略格子状に連結している。本実施例のボイスコイル組立体では、矩形ボビンおよび矩形鉢巻部材が、軽量で、かつ、矩形状に形成した場合に十分な剛性を有するアルミ材料で形成されているので、矩形ボイスコイル同士を密着させる構造にしなくても、平面振動板2を全面駆動するのに十分な強度を確保することができる。スピーカー1は、平面振動板2を全面駆動することで、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる。
【0024】
また、フレーム6は、トラック形のスピーカー振動板2に対応した細長形状であり、フレーム6に固定される磁気回路10も、短径方向長以下の幅が狭い細長形状を有している。具体的には、フレーム6に固定される磁気回路10は、ボイスコイル組立体4が有する3つの矩形ボイスコイルの形状に対応した磁気空隙を有する3つの磁気回路からなる。フレーム6の背面側の窓からは、磁気回路10と、ボイスコイル組立体4等の振動系を構成する部品が露出する。したがって、動電型スピーカー1は、ディスプレイ等の機器が有する表示部の側部など、スピーカーを取り付ける幅が少ない機器に適するスピーカーである。
【0025】
スピーカー振動板2、エッジ3、および、ボイスコイル組立体4からなるスピーカー振動系は、フレーム6に対して振動可能に支持される。動電型スピーカー1では、ボイスコイル組立体4の矩形ボイスコイルに音声電流が供給されると、磁気回路10の磁気空隙に配置された矩形ボイスコイルに駆動力が作用し、ボイスコイル組立体4は前後方向に振動し、連結されたスピーカー振動板2も前後方向に振動する。なお、動電型スピーカー1において前後とは、スピーカー振動板2が振動する場合に、ボイスコイル4、および、磁気回路10が取り付けられる側を後側とし、スピーカー振動板2、および、エッジ3が露出する側を前側としている。
【0026】
図2、図3、および、図4は、本発明の好ましい実施形態によるエッジ3について説明する図である。具体的には、図2は、エッジ3を含む動電型スピーカー1の平面図であり、図3は、エッジ3の角ロール部30を含む図1の斜視図における点線で囲われた部分S1を拡大した斜視図である。また、図4は、エッジ3の角ロール部30の断面形状の変化を説明する図であって、図2の平面図における点線で囲われた部分S2を拡大し、その断面形状が変化する様子を15°間隔で示した複数の断面図を含む。
【0027】
エッジ3は、例えば、綿およびポリエステル繊維の複数の縦糸及び横糸が概略直交する織布にゴムを含浸して基材とし、金型で加熱成型して内周および外周を切断されて形成される細長形のスピーカー用のロールエッジであり、ほぼ厚みが約0.2mmである。なお、エッジ3は、例えば、発泡ゴムを金型内部に注入して熱プレス成型して発泡させて所定の形状を得て、内周側及び外周側を切断型で切断して、略環状であって細長形のロールエッジの形状に成形したスピーカー用エッジであってもよい。
【0028】
エッジ3は、スピーカー振動板2の外周端部と接合する略長方形で平面状の内周部31と、フレーム6と接合する平面を備える略長方形で平面状の外周部32と、内周部31と外周部32とを連結する半径方向の断面が連続したロール形状から構成される支持可動部33と、を備える。内周部31および外周部32と、エッジ3の支持可動部33の正面形状は、長径方向に沿った一組の長辺部と、一組の長辺を連結する短径方向に沿った一組の短辺部と、一つの長辺と一つの短辺とを略円弧状に連結する4つの角部と、から規定される略長方形である。具体的には、エッジ3の外形寸法は、長径方向長が約139.1mm、短径方向長が約35.0mmである。また、エッジ3の内形寸法は、長径方向長が約123.9mm、短径方向長が約19.8mmである。
【0029】
エッジ3の支持可動部33は、全体に前方方向に凸状のアップロール形状であり、長辺部に対応して断面が単一の円弧を含む長辺ロール部34と、短辺部に対応して断面が単一の円弧を含みその全高が長辺ロール部34の全高と同一になる短辺ロール部35と、角部に対応してその全高が長辺ロール部並びに短辺ロール部の全高と同一になる角ロール部30と、を有する。長辺ロール部34は、その断面形状が半径1.5mmの単一の円弧から規定される凸状ロールであり、その幅Lw1が約3.5mmで、かつ、その全高Lhが約1.9mmになるように、長辺部において平面状の内周部31と外周部32とを連結する。同様に、短辺ロール部35は、その断面形状が半径1.5mmの単一の円弧から規定される凸状ロールであり、その幅Lw2が約3.5mmで、かつ、その全高Lhが長辺ロール部34の全高Lhと同一になるように、短辺部において平面状の内周部31と外周部32とを連結する。
【0030】
図4は、エッジ3の長辺ロール部34並びに短辺ロール部35に続いて形成される角ロール部30において、その断面形状が変化する様子を、15°間隔で示した断面図により説明する図である。図4に図示するように、角ロール部30の断面形状は、図4(a)に示す角度0度の場合に長辺ロール部34での単一の円弧から規定される凸状ロールを含み、図4(g)に示す角度90度の場合に短辺ロール部35での凸状ロールを含んでいる。角ロール部30の断面形状における幅Lw0は、図4(b)〜(f)に示す角度15度〜75度の場合でも、角度0度での長辺ロール部34の幅Lw1、並びに、角度90度での短辺ロール部35の幅Lw2と変わらず、一定である。なお、角ロール部30の断面形状における幅Lw0は、長辺ロール部34の幅Lw1が短辺ロール部35の幅Lw2よりも大きい場合には、Lw1以下でLw2以上の範囲で角度に応じて滑らかに変化しても良い。
【0031】
4つの角ロール部30は、それぞれの周方向の断面形状において、全高Lhを規定する直線である中央直線部30aと、中央直線部30aの内周端に連続して形成される円弧である内周側円弧部30bと、中央直線部30aの外周端に連続して形成される円弧である外周側円弧部30cと、内周側円弧部30bの内周端に連続して形成される直線であり内周部31に連結する内周直線部30dと、外周側円弧部30cの外周端に連続して形成される直線であり外周部32に連結する外周直線部30eと、を含む。中央直線部30aは、スピーカー振動板2およびボイスコイル組立体4が振動する方向と略直交する方向に伸びる直線である。したがって、エッジ3の支持可動部の最大高さは、全周に渡って全高Lhであり、ほぼ一定である。
【0032】
エッジ3の角ロール部30の中央直線部30aの長さと、内周直線部30dの長さと、外周直線部30eの長さと、は、それぞれ、長辺ロール部34から短辺ロール部35に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短する。つまり、中央直線部30aの長さと、内周直線部30dの長さと、外周直線部30eの長さと、は、周方向の角度の変化につれて変化し、それぞれ図4(d)に示す角度45度の付近で最も長くなる。具体的には、中央直線部30aの長さは、0mm〜約1.4mmの範囲で変化し、内周直線部30dの長さは、0mm〜約1.6mmの範囲で変化し、外周直線部30eの長さは、0mm〜約1.0mmの範囲で変化する。
【0033】
一方、エッジ3の角ロール部30の断面形状における内周側円弧部30bおよび外周側円弧部30cを規定する半径は、長辺ロール部34から短辺ロール部35に至るまでの間に最大から最小に減短してから再び最大に増長する。つまり、内周側円弧部30bを規定する半径と、外周側円弧部30cを規定する半径と、は、それぞれ図4(d)に示す角度45度の付近で最も小さくなり、それぞれ半径0.5mmである。内周側円弧部30bを規定する半径と、外周側円弧部30cを規定する半径と、は、それぞれ図4(a)に示す角度0度ないし図4(g)に示す角度90度で最も大きくなり、それぞれ長辺ロール部34ないし短辺ロール部35の単一の円弧に連続する。
【0034】
その結果、エッジ3の角ロール部30では、図3に図示するように、中央直線部30aに対応して規定される平面である中央平面部30Aと、内周直線部30dに対応して規定される曲面である内周立壁部30Dと、外周直線部30eに対応して規定される曲面である(背面側に隠れるので図示しない)外周立壁部30Eと、がそれぞれ形成される。また、エッジ3の角ロール部30では、内周側円弧部30bに対応して規定される曲面である内周側曲面部30Bと、外周側円弧部30cに対応して規定される曲面である外周側曲面部30Cと、がそれぞれ形成される。
【0035】
図3に図示するように、中央平面部30Aは、周方向に曲がるにつれてその幅が徐々に広くなり、さらにその後その幅が狭くなる平面である。内周立壁部30Dおよび外周立壁部30Eは、周方向に曲がるにつれてその幅が徐々に広くなり、さらにその後その幅が狭くなる曲面であり、局所的に見て球面状になる部分を含まない曲面である。一方、内周側曲面部30Bおよび外周側曲面部30Cは、周方向に曲がるにつれてその幅が徐々に狭くなり、さらにその後その幅が広くなる曲面であり、局所的に見て球面状になる部分を含む曲面である。エッジ3の角ロール部30では、中央平面部30Aと、内周側曲面部30Bと、外周側曲面部30Cと、内周立壁部30Dと、外周立壁部30Eと、が滑らかに連続している。
【0036】
図5は、比較例のエッジ3xの角ロール部40の断面形状の変化を説明する図である。比較例のエッジ3xは、その角ロール部40の断面形状が、先の実施例におけるエッジ3の角ロール部30と異なる他は、材料・仕様・寸法が共通するエッジである。したがって、以下では共通する部分には共通する番号を付して、説明を省略する。
【0037】
比較例のエッジ3xの支持可動部33は、長辺部に対応して断面が単一の円弧を含む長辺ロール部34と、短辺部に対応して断面が単一の円弧を含みその全高が長辺ロール部34の全高と同一になる短辺ロール部35と、角部に対応してその全高が長辺ロール部並びに短辺ロール部の全高と同一になる角ロール部40と、を有する。長辺ロール部34は、その断面形状が半径1.9mmの単一の円弧から規定される凸状ロールであり、その幅Lw1が約3.5mmで、かつ、その全高Lh’が約1.2mmになるように、長辺部において平面状の内周部31と外周部32とを連結する。同様に、短辺ロール部35は、その断面形状が半径1.8mmの単一の円弧から規定される凸状ロールであり、その幅Lw2が約3.5mmで、かつ、その全高Lh’が長辺ロール部34の全高Lh’と同一になるように、短辺部において平面状の内周部31と外周部32とを連結する。
【0038】
図5に図示するように、比較例のエッジ3xの角ロール部40の断面形状は、図5(a)に示す角度0度の場合に長辺ロール部34での単一の円弧から規定される凸状ロールを含み、図5(g)に示す角度90度の場合に短辺ロール部35での凸状ロールを含んでいる。角ロール部40の断面形状における幅Lw0は、図5(b)〜(f)に示す角度15度〜75度の場合でも、角度0度での長辺ロール部34の幅Lw1、並びに、角度90度での短辺ロール部35の幅Lw2に等しい。
【0039】
比較例のエッジ3xの4つの角ロール部40は、それぞれの周方向の断面形状において、全高Lh’を規定する直線である中央直線部40aと、中央直線部40aの内周端に連続して形成される円弧である内周側円弧部40bと、中央直線部40aの外周端に連続して形成される円弧である外周側円弧部40cと、を含む。中央直線部30aは、スピーカー振動板2およびボイスコイル組立体4が振動する方向と略直交する方向に伸びる直線である。したがって、エッジ3の支持可動部の最大高さは、全周に渡って全高Lh’であり、ほぼ一定である。また、角ロール部40では、実施例のエッジ3の角ロール部30における内周直線部30d、あるいは、外周直線部30eに相当する直線部は、その周方向の断面形状において形成されない。
【0040】
比較例のエッジ3xの角ロール部40の中央直線部40aの長さは、長辺ロール部34から短辺ロール部35に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短する。つまり、中央直線部30aの長さは、周方向の角度の変化につれて変化し、図5(d)に示す角度45度の付近で最も長くなる。具体的には、中央直線部30aの長さは、0mm〜約1.6mmの範囲で変化する。
【0041】
一方、比較例のエッジ3xの角ロール部40の断面形状における内周側円弧部40bおよび外周側円弧部40cを規定する半径は、長辺ロール部34から短辺ロール部35に至るまでの間に最大から最小に減短してから再び最大に増長する。つまり、内周側円弧部40bを規定する半径と、外周側円弧部40cを規定する半径と、は、それぞれ図5(d)に示す角度45度の付近で最も小さくなり、それぞれ半径0.7mmである。内周側円弧部40bを規定する半径と、外周側円弧部40cを規定する半径と、は、それぞれ図5(a)に示す角度0度ないし図5(g)に示す角度90度で最も大きくなり、それぞれ長辺ロール部34ないし短辺ロール部35の単一の円弧に連続する。
【0042】
その結果、比較例のエッジ3xの角ロール部40では、中央直線部40aに対応して規定される平面である(図示しない)中央平面部40Aが形成され、内周側円弧部40bに対応して規定される曲面である(図示しない)内周側曲面部40Bと、外周側円弧部40cに対応して規定される曲面である(図示しない)外周側曲面部40Cと、がそれぞれ形成される。ただし、比較例のエッジ3xの角ロール部40では、図3に図示する実施例のエッジ3の角ロール部30のように、内周直線部30dに対応して規定される曲面である内周立壁部30Dと、外周直線部30eに対応して規定される曲面である外周立壁部30Eと、はそれぞれ形成されない。
【0043】
中央平面部40Aは、図3に図示する実施例のエッジ3の中央平面部30Aと同様に、周方向に曲がるにつれてその幅が徐々に広くなり、さらにその後その幅が狭くなる平面である。一方、内周側曲面部40Bおよび外周側曲面部40Cは、周方向に曲がるにつれてその幅が徐々に狭くなり、さらにその後その幅が広くなる曲面であり、局所的に見て球面状になる部分を含む曲面である。エッジ3xの角ロール部40では、中央平面部40Aと、内周側曲面部40Bと、外周側曲面部40Cと、が滑らかに連続している。
【0044】
本実施例の動電型スピーカー1は、上記のエッジ3と、略長方形のスピーカー振動板2と、ボイスコイル組立体4とを含むので、細長形のスピーカー振動板2で発生しやすい300Hz以上での分割振動を抑制して、滑らかな周波数特性を実現することができる。本実施例のエッジ3では、その角ロール部30に、平面状で応力に対して強い中央平面部30Aだけでなく、さらに剛性を高める内周立壁部30Dおよび外周立壁部30Eを形成するように、その周方向での断面形状において、全高を規定する中央直線部30aと、内周直線部30dと、外周直線部30eとを含むようにしているので、角ロール部30の全体の剛性を高めて、角ロール部30に集中しやすい過剰な応力にも耐えられるようにしてエッジ切れを防止し、再生音圧周波数特性のピーク・ディップを抑制して、このエッジを用いる動電型スピーカー1の再生音声品質を高めることが出来る。
【0045】
一方で、比較例のエッジ3xを含む(図示しない)動電型スピーカー1xは、上述のように、エッジ3xが、その角ロール部40に平面状で強い中央平面部40Aを含むものの、さらに剛性を高める本実施例での内周立壁部30Dおよび外周立壁部30Eに相当する部分が形成されないので、角ロール部40の剛性を集中しやすい過剰な応力にも耐えられるように高めることが十分でない。その結果、エッジ3xの角ロール部40では、エッジ切れが発生する場合があり、再生音圧周波数特性にもピーク・ディップが発生しやすくなる。
【0046】
したがって、本実施例の動電型スピーカー1は、細長形のエッジ3の形状を上記のようにすることにより、略長方形のスピーカー振動板2を用いるものであっても、比較的に平坦な再生音圧周波数特性を得ることができる。すなわち、エッジ3の角ロール部30の断面形状を、内周直線部30dに対応して規定される曲面である内周立壁部30Dと、外周直線部30eに対応して規定される曲面である外周立壁部30Eと、がそれぞれ形成されて徐々に変化するようなものにしたので、角ロール部30の全体の剛性を高めて、角ロール部30に集中しやすい過剰な応力にも耐えられるようにしてエッジ切れを防止し、再生音圧周波数特性のピーク・ディップを抑制して、このエッジを用いる動電型スピーカー1の再生音声品質を高めることが出来る。
【0047】
なお、本発明の動電型スピーカーを構成するエッジ3は、上記実施例の場合のような支持可動部33が前方方向に凸状(後方方向に凹状)のアップロールエッジに限定されず、支持可動部33が前方方向に凹状(後方方向に凸状)のダウンロールエッジであっても良い。また、本発明の動電型スピーカーを構成するエッジ3は、上記実施例の場合に限定されず、発泡ゴムから成形した場合、または、発泡ウレタン等の材料を用いる場合であってもよい。スピーカー用エッジを形成する弾性材料は、例えば、ゴム、または、エラストマーを射出成形の金型に注入して成型してもよい。また、エラストマーのシートをプレス成型したものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の動電型スピーカーは、略長方形のスピーカー振動板を用いたスピーカーに限られず、音波を放射する細長形状の振動板と、この細長形状の振動板に駆動力を伝達する駆動部材が細長形状の組み合わせになる他の振動系を備える他の電機−機械−音響変換器にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 動電型スピーカー
2 スピーカー振動板
3 エッジ
4 ボイスコイル組立体
5 ガスケット
6 フレーム
10 磁気回路
30、40 角ロール部
31 内周部
32 外周部
33 支持可動部
34 長辺ロール部
35 短辺ロール部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長径方向と短径方向とを有する細長形の振動板の外周端部と接合する内周部と、フレームの固定部と接合する外周部と、該内周部と該外周部とを連結する支持可動部と、を含む細長形のエッジであって、
該エッジの該内周部および該外周部の正面形状が、該長径方向に沿った一組の長辺部と、該一組の長辺を連結する該短径方向に沿った一組の短辺部と、一つの該長辺と一つの該短辺とを略円弧状に連結する4つの角部と、から規定される略長方形であり、
該支持可動部が、該長辺部に対応して断面が単一の円弧を含む長辺ロール部と、該短辺部に対応して断面が単一の円弧を含みその全高が該長辺ロール部の全高と同一になる短辺ロール部と、該角部に対応してその全高が該長辺ロール部並びに該短辺ロール部の全高と同一になる角ロール部と、を有し、
該角ロール部が、その周方向の断面形状において、該全高を規定する直線である中央直線部と、該中央直線部の内周端に連続して形成される円弧である内周側円弧部と、該中央直線部の外周端に連続して形成される円弧である外周側円弧部と、該内周側円弧部の内周端に連続して形成される直線であり該内周部に連結する内周直線部と、該外周側円弧部の外周端に連続して形成される直線であり該外周部に連結する外周直線部と、を含み、
該角ロール部の該中央直線部の長さと、該内周直線部の長さと、該外周直線部の長さと、がそれぞれ、該長辺部から該短辺部に至るまでの間に最小から最大に増長してから再び最小に減短して、該中央直線部に対応して規定される平面である中央平面部と、該内周直線部に対応して規定される曲面である内周立壁部と、該外周直線部に対応して規定される曲面である外周立壁部と、がそれぞれ形成される、
エッジ。
【請求項2】
前記エッジの前記支持可動部の前記角ロール部の断面形状における前記内周側円弧部および前記外周側円弧部を規定する半径が、前記長辺部から前記短辺部に至るまでの間に最大から最小に減短してから再び最大に増長する、
請求項1に記載のエッジ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細長形の前記エッジと、
該エッジの前記内周部とその外周端部が接合する前記振動板と、
該エッジの前記外周部とその固定部が接合する前記フレームと、
該振動板と連結するボイスコイルと、
該フレームと連結し、該ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、
をさらに備える、動電型スピーカー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−239125(P2011−239125A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107891(P2010−107891)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(710014351)オンキヨー株式会社 (226)
【Fターム(参考)】