説明

カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードする遺伝子およびその遺伝子産物

【課題】カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルと同質の機能を有するポリペプチド及び該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよびその測定方法、それらの発現阻害化合物の同定方法、それらの異常に基づく疾患に用い得る医薬、該疾患の判定方法の提供。
【解決手段】特定の塩基配列で表されるポリヌクレオチド、その組換えベクターと形質転換体、前記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、ポリペプチドを認識する抗体、ポリペプチドの製造方法、ポリヌクレオチドの発現および/またはポリペプチドの機能を阻害する化合物とその同定方法、ポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進を起因とする疾患の防止剤および/または治療剤、防止方法および/または治療方法、該ポリペプチドおよび/または該ポリヌクレオチドの測定方法、並びに前記ポリヌクレオチド、ポリペプチド、組換えベクター、形質転換体および抗体を含有する試薬キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl channel)、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドに関する。また、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、該組換えベクターが導入されてなる形質転換体、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルの製造方法、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルを認識する抗体、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルの機能および/または該ポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法に関する。さらに、該ポリヌクレオチドの遺伝子産物の産性の亢進を起因とする疾患、例えば悪性黒色腫の防止剤および/または治療剤、防止方法および/または治療方法に関する。また、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネル自体またはその機能、および/または該ポリヌクレオチドを測定する方法、ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であるか否かを判定する方法に関する。さらに、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネル、該ポリヌクレオチド、該組換えベクター、該形質転換体および該抗体のうち少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
塩素イオン(Cl)は生体内に豊富に存在するアニオンであり、主にチャンネルにより細胞膜を通過する。クロライドチャンネルは細胞膜電位、細胞膜を介した物質の輸送、及び細胞容積制御を安定化する役割を果たしている。クロライドチャンネルは多くの組織において観察され、電圧、カルシウム、pH、または細胞容積により変化するように制御されている。
【0003】
クロライドチャンネルはそのコンダクタンスに基づき、以下の3種類に分類されている;スモールコンダクタンス(<10pS)・チャンネル、ミディアムコンダクタンス(10−100pS)・チャンネル、およびラージコンダクタンス(>100pS、マキシクロライド)・チャンネル。
【0004】
スモールおよびミディアムコンダクタンス・チャンネルは生体内に偏在しており、卵母細胞においても観察される。しかし一方、ラージコンダクタンス(マキシクロライド)・チャンネルはまれにしか観察されない。筋肉あるいは他の組織に存在するあるマキシクロライドチャンネルは、細胞質内カルシウムイオン(Ca2+)により直接活性化される(非特許文献1、2)。一方、他の組織に存在するあるチャンネルはカルシウム非依存的に活性化される(非特許文献3、4)。GTP結合蛋白質、細胞容積、およびキナーゼ蛋白質は、マキシクロライドチャンネルの機能を修飾すると報告されている(非特許文献3、5、6)。
【0005】
クロライドチャンネルの分子構造は多種多様であり、10または12個の膜貫通領域を有するCFTRおよびCICのように、異なる膜貫通領域を有する(非特許文献7、8)。アクアポリン(Aquaporin)6は6個の膜貫通領域を有する固有の酸依存性クロライドチャンネルをコードする(非特許文献9)。CICAファミリーは5個の膜貫通領域を有し、ミディアムコンダクタンスのカルシウム活性化(依存性)クロライド(CaC)チャンネルである(非特許文献10、11)。したがって、さらにこれらクロライドチャンネルが有する膜貫通領域の数と異なる膜貫通領域を有するクロライドチャンネルが存在する可能性がある。
【0006】
他方、一般にイオンチャンネルをコードするcDNAは卵巣細胞に発現している。卵巣細胞としては、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)およびアフリカツメガエル(Xenopus)の卵母細胞が挙げられる。これらの卵巣細胞はクロライドチャンネルを内在的に有している。CaC(Ca2+ activated Cl−)電流はこれらの細胞の内因性電流として高い頻度で観察される。CaC電流は、高濃度の細胞内カルシウムにより活性化するスモールまたはミディアムコンダクタンス・クロライドチャンネルにより引き起こされ、外向整流する。また、CaC電流はDIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)およびニフルメート(niflumate)により阻害される(非特許文献3)。ヒト胎児腎(HEK)細胞はCaCチャンネルをコードする外来性のcDNAの発現に使用されている(非特許文献10)が、HEK細胞はカルシウム濃度にかかわらずCaC電流を発生させる内在性のマキシクロライドチャンネルを有している。
【0007】
以下に本明細書において引用した文献を列記する。
【非特許文献1】ソーン(Thorn,P.)ら、「クォータリー ジャーナル オブ エクスペリメンタル フィジオロジー(Quarterly Journal of Experimental Physiology)」、1987年、第72巻、p31−49。
【非特許文献2】ファハミー(Fahmi,M.)ら、「アメリカン ジャーナル オブ フィジオロジー(American Journal of Physiology)」、1995年、第269巻、E号、p969−976。
【非特許文献3】ニリウス(Nilius,B.)ら、「フィジオロジカル レビュー(Physiological Reviws)」、2001年、第81巻、p1415−1549。
【非特許文献4】ケンプ(Kemp,P.J.)ら、「アメリカン ジャーナル オブ フィジオロジー(American Journal of Physiology)」、1993年、第265巻、L号、p323−9。
【非特許文献5】サン(Sun,X.P.)ら、「ジャーナル オブ フィジオロジー(Journal of Physiology)」、1992年、第448巻、p355−382。
【非特許文献6】グロシュナー(Groschner,K.)ら、「プフリューガーアーカイブ ヨーロピアン ジャーナル オブ フィジオロジー(Pflugers Archiv.European Journal of Physiology)」、1992年、第421巻、p209−217。
【非特許文献7】シュビーベルト(Schwiebert,E.M.)ら、「フィジオロジカル レビュー(Physiological Reviws)」、1999年、第79巻、S号、p145−166。
【非特許文献8】ジェンツ(Jentsch,T.J.)ら、「フィジオロジカル レビュー(Physiological Reviws)」、2002年、第82巻、p503−568。
【非特許文献9】ヤスイ(Yasui,M.)ら、「ネイチャー(Nature)」、1999年、第402巻、p184−187。
【非特許文献10】ガンジー(Gandhi,R.)ら、「ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」、1998年、第273巻、p32096−32101。
【非特許文献11】グリューバー(Gruber,A.D.)ら、「ゲノミクス(Genomics)」、1998年、第54巻、p200−214。
【非特許文献12】ピスコロウスキ(Piskorowski,R.)ら、「ネイチャー(Nature)」 、2002年、p500−503。
【非特許文献13】シュライバー(Schreiber,M.)ら、「ネイチャー ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」、第2巻、p416−421。
【非特許文献14】スズキ(Suzuki M)ら、「ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲイション(Journal of Clinical Investigation)」、1991年、第83巻、p735−742。
【非特許文献15】サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー。
【非特許文献16】村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社。
【非特許文献17】ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671。
【非特許文献18】エールリッヒ,H.E.編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス。
【非特許文献19】サイキ(Saiki R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354。
【非特許文献20】「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−。
【非特許文献21】フローマン(Frohman M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002。
【非特許文献22】「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブサイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1977年、第74巻、p.5463−5467。
【非特許文献23】キャンベル(Campbell,H.D.)ら、「ゲノミクス(Genomics)」、2000年、第68巻、p89−92。
【非特許文献24】ヒル(HILLE,B.)編、「興奮膜のイオンチャンネル、選択的透過性」 、1992年、p337−361、セカンド シナウアー アソシエイツ(2nded Sinauer Associates Inc.)。
【非特許文献25】国文(Kokubun,S)ら、「PFlugers.Arch.」、1991年、第418巻、p204−213。
【非特許文献26】ライト(Wright,E.M.)ら、「Physiol.Reviews」、第57巻、p109−156。
【非特許文献27】ハーナック(Hurnak,O.)ら、「Gen.Physiol.Biophys.」、第12巻、p171−182。
【非特許文献28】ウィリアムズ(Williams,N.S.)ら、「Clin.Cancer Res.」、2003年、第9巻、p931−946。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マキシクロライド電流はいくつかの細胞において観察されるが、この電流の基礎をなすマキシクロライドチャンネルの分子的性質については十分に解析されていない。さらに、マキシクロライドチャンネルは希少であることからその生理学的な役割についても十分解明されていない。
【0009】
本発明の課題は、新規のカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl channel)、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドを見出して提供することである。また、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、該組換えベクターが導入されてなる形質転換体、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルの製造方法、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルを認識する抗体を提供することも含まれる。
【0010】
さらに本発明の課題には、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルの機能および/または該ポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法を提供することも含まれる。また本発明の課題には、該ポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進を起因とする疾患、例えば悪性黒色腫の防止剤および/または治療剤、防止方法および/または治療方法を提供することも含まれる。さらに本発明の課題には、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネル自体またはその機能、および/または該ポリヌクレオチドを測定する方法、ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であるか否かを判定する方法を提供することも含まれる。また、該カルシウム依存性マキシクロライドチャンネル、該ポリヌクレオチド、該組換えベクター、該形質転換体および該抗体のうち少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キットの提供も本発明の課題に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題解決のために鋭意努力し、NCBIデータベースを対象として膜貫通領域を4つ以上有すると予測されかつ異常行動に関与するポリペプチド及び該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを見出し、該ポリヌクレオチドを動物細胞に導入することにより、該ポリペプチドを取得することに成功した。そして該ポリペプチドは、約260pSのコンダクタンスおよび約50pSのコンダクタンスの2つのコンダクタンスを有し、クロライドチャンネル阻害剤であるDIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonicacid)により阻害され、かつ6つの膜貫通領域を有すると考えられるカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであることを実験的に明らかにした。さらに、該ポリペプチドは2種の開状態と2種の閉状態を示すことを明らかにした。また、様々な悪性腫瘍、例えばメラノーマ(悪性黒色腫)において対応する正常組織と比較し該ポリヌクレオチドの発現が亢進していることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、
1.配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl− channel)をコードするポリヌクレオチド、
2.下記の群より選ばれるポリヌクレオチド;
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl− channel)をコードするポリヌクレオチド、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと少なくとも約70%の相同性を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチド、
および
(3)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドにおいて、1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチド、
3.前項1または2に記載のポリヌクレオチドの相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションし、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl− channel)をコードするポリヌクレオチド、
4.前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、
5.組換えベクターが発現組換えベクターである前項4に記載の組換えベクター、
6.前項4または5に記載の組換えベクターが導入されてなる形質転換体、
7.形質転換体が動物細胞由来である前項6に記載の形質転換体、
8.配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、
9.前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、
10.下記の群より選ばれるポリペプチド;
(1)配列表の配列番号2に記載のポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも約70%の相同性を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl channel)であるポリペプチド
および
(2)配列表の配列番号2に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などの変異を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであるポリペプチド、
11.以下の少なくとも1の性質を持つ前項8に記載のポリペプチド;
(1)コンダクタンスが約260pSまたは約50pSである、
(2)DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)により阻害される、
および
(3)2種の開状態と閉状態を有し、かつ開状態の時定数が約52msまたは約510msであって、閉状態の時定数が約60msまたは約250msである、
12.前項6または7に記載の形質転換体を培養する工程を含む、前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの製造方法、
13.前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドを免疫学的に認識する抗体、
14.配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを免疫学的に認識する抗体、
15.前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能および/または前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、前項4または5に記載の組換えベクター、前項6または7に記載の形質転換体、前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド、前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法、
16.前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能および/または前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、被検化合物と該ポリヌクレオチドおよび/または該ポリペプチドとの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と該ポリヌクレオチドおよび/または該ポリペプチドとを接触させ、該ポリヌクレオチドの発現および/または該ポリペプチドの機能の存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該ポリヌクレオチドの発現および/または該ポリペプチドの機能を阻害するか否かを決定することを特徴とする同定方法、
17.前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能を阻害する化合物の同定方法であって、被検化合物と該ポリペプチドとの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と該ポリペプチドを接触させ、該ポリペプチドの単一チャンネル電流の存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該ポリペプチドの機能を阻害するか否かを決定することを特徴とする同定方法、
18.前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能を阻害する化合物の同定方法であって、被検化合物と前項6または7に記載の形質転換体の細胞膜に発現された該ポリペプチドとの相互作用を可能にする条件下で、該ポリペプチドと該化合物とを接触させ、次いで、該形質転換体の全細胞電流の存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該ポリペプチドの機能を阻害するか否かを決定することを特徴とする同定方法、
19.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる医薬、
20.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる、前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進を起因とする疾患の防止剤および/または治療剤、
21.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる悪性腫瘍の防止剤および/または治療剤、
22.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる悪性黒色腫の防止剤および/または治療剤、
23.DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)を有効成分としてその有効量を含んでなる悪性黒色腫の防止剤および/または治療剤、
24.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進を起因とする疾患の防止方法および/または治療方法、
25.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることをと特徴とする悪性腫瘍の防止方法および/または治療方法、
26.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする悪性黒色腫の防止方法および/または治療方法、
27.DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)を用いることを特徴とする悪性黒色腫の防止方法および/または治療方法、
28.前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド自体またはその機能、および/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを定量的または定性的に測定する方法、
29.前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、前項4または5に記載の組換えベクター、前項6または7に記載の形質転換体、前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド、前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、前項28に記載の測定方法、
30.ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であるか否かを判定する方法であって、該ヒト皮膚由来の被検組織における前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現量が、対照であるヒト正常皮膚由来の被検組織における該ポリヌクレオチドの発現量の4倍以上である場合に、該ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であると判定する方法、
31.前項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、前項4または5に記載の組換えベクター、前項6または7に記載の形質転換体、前項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド、前項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キット、
32.前項15から18のいずれか1項に記載の同定方法、前項28または29に記載の測定方法、および前項30に記載の判定方法のうち少なくともいずれかに用いられる前項31に記載の試薬キット、
33.以下の群より選ばれるRNA;
(1)配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなるRNA、
(2)配列表の配列番号7に記載の塩基配列からなるRNA、
(3)配列表の配列番号8に記載の塩基配列からなるRNA、
(4)配列表の配列番号9に記載の塩基配列からなるRNA、および
(5)配列表の配列番号10に記載の塩基配列からなるRNA、
34.以下の群より選ばれるポリヌクレオチド;
(1)配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチド、
(2)配列表の配列番号7に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチド、
(3)配列表の配列番号8に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチド、
(4)配列表の配列番号9に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチド、
(5)配列表の配列番号10に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチド、
35.以下の群より選ばれる二重鎖ポリヌクレオチド;
(1)配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号11に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、
(2)配列表の配列番号7に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号12に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、
(3)配列表の配列番号8に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号13に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、
(4)配列表の配列番号9に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号14に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、
(5)配列表の配列番号10に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号15に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをハイブリダイゼーションさせて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、
36.前項35に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、癌細胞の増殖抑制方法、
37.前項35に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを用いることを特徴とする、前項1から3に記載のポリヌクレオチドの発現を抑制する方法、
38.前項35に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有してなる、癌細胞の増殖抑制剤、
39.前項35に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有してなる、前項1から3に記載のポリヌクレオチドの発現抑制剤、
40.前項35に記載の二重鎖ポリヌクレオチドを含有してなる抗腫瘍剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルである、6個の膜貫通領域を有すると考えられる新規なポリペプチド、および該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの提供が可能である。本ポリペプチドおよびポリヌクレオチドを利用することにより、これらの異常に基づく疾患、例えば悪性腫瘍、具体的には例えばメラノーマ(悪性黒色腫)などの診断、防止および/または治療手段の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。以下の詳細な説明は例示であり、説明のためのものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
本明細書においては、単離された若しくは合成の完全長蛋白質;単離された若しくは合成の完全長ポリペプチド;または単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「ポリペプチド」という用語を使用し、ここで蛋白質、ポリペプチド若しくはオリゴペプチドは最小サイズが2アミノ酸である。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
【0015】
(ポリヌクレオチド)
本発明の一態様は新規ポリヌクレオチドに関する。本発明の課題の一つはカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルである新規ポリペプチド及び該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを見出して提供することにある。本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドがカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドであることを明らかにした。
【0016】
すなわち、本発明に係るポリヌクレオチドの具体的態様として、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを例示することができる。配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、523個のアミノ酸からなるポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む4646bpの新規な塩基配列からなる。
【0017】
また、本発明に係るポリヌクレオチドの別の具体的態様として、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドを例示することができる。
【0018】
本発明者らは、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを含有する組換えベクターを動物細胞に導入し、該ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを該動物細胞において発現させ、該動物細胞をイオノマイシン(ionomycyn)処理した結果、顕著に外向きの直線電流が誘導された(図7)。さらに、該ポリペプチドを単一チャンネル解析した結果、該ポリペプチドはマキシクロライドチャンネル活性を示し、また約260pS及び約50pSの2つのコンダクタンスを有し(図11および図13)、マキシクロライドチャンネル阻害剤であるDIDSにより阻害されること(図9)を明らかにした。また、該ポリペプチドの開口率を指標としたカルシウムイオン(Ca2+)濃度のED50を計測した結果、ED50はおよそ2μMであることを明らかにした(図14)。
【0019】
従って、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドも本発明に係るポリヌクレオチドに含まれる。かかるポリヌクレオチドとして、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドを例示できる。
【0020】
カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルとは、カルシウムイオン濃度依存的に塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、ヨウ素イオン(I)チオシアン酸イオン(SCN)、硝酸イオン(NO3)、グルコン酸イオン(gluconate)およびアスパラギン酸イオン(aspartate)等のアニオン、好ましくは塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンおよびチオシアン酸イオン、特に好ましくは塩素イオンを透過させるポリペプチドであることができる。より具体的には、カルシウム濃度依存的に、膜蛋白として発現したマキシクロライドチャンネルにおけるポア(孔)と呼ばれるイオン透過機構により前記アニオンを透過させるポリペプチドであることができる。
【0021】
かかる機能は自体公知のパッチクランプ法(非特許文献14)により確認することが可能である。具体的には、例えば、CHO細胞などの動物細胞に本発明にかかるポリヌクレオチドを含有する組換えベクターを自体公知の方法により導入し、該細胞の細胞膜に該ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現させた後、該細胞にパッチ電極をギガ・オーム(GΩ)以上の高抵抗で密着(ギガ・シール)させ、その先端開口部の微小膜領域を電気的に隔絶した状態で電圧固定し、その微小膜領域に含まれる該ポリペプチドを透過するイオン電流を計測することにより、確認することができる。パッチクランプ法として、セルアタッチモード、インサイドアウトモードおよびアウトサイドアウトモード等を例示することが可能である。例えばインサイドアウトモードのパッチクランプ法によりかかる機能を確認する場合には、電極内液に前記アニオンを例えばそのナトリウム塩として溶解させ、溶液(バス溶液)にカルシウムイオンを溶解させることができる(実施例5)。
【0022】
さらに、かかる機能はCHO細胞などの動物細胞に本発明にかかるポリヌクレオチドを含有する組換えベクターを自体公知の方法により導入し、該細胞の細胞膜に該ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現させた動物細胞を用いた全細胞記録によっても確認することができる。該細胞にパッチ電極を装着し(セルアタッチモード)、さらにパッチ膜を破って穴を開けることにより、パッチ膜以外の該細胞の細胞膜を流れるイオン電流(全細胞電流)を計測することができる。イオン電流を発生させるために、該細胞をイオノマイシンなどで処理することが好ましい。
【0023】
また、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド(4646bp)は、NCBIデータベースを対象として、BLASTプログラムを用いた検索により見出された。具体的には、4つ以上の膜貫通領域を有すると予測されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってかつ異常行動に関与するポリヌクレオチドを該データベースより抽出することにより、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドが見出された。より具体的には、該ポリヌクレオチドは、HUGEデータベースにナンバーKIAA1691で、またはDDBJ/EMBL/GenBankデータベースにアクセッションナンバーAB051478で、それぞれ登録および公開されているポリヌクレオチドの塩基配列(いずれも4816bpからなる同一のポリヌクレオチド)の部分塩基配列からなるポリヌクレオチド(4646bp)として見出された。配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドはDDBJ/EMBL/GenBankデータベースにアクセッションナンバーAB162931で登録および公開された。
【0024】
従って、本発明に係るポリヌクレオチドの別の態様として、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを例示することができる。かかるポリヌクレオチドとして、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドを好ましく例示できる。
【0025】
一方、HUGEデータベースにナンバーKIAA1691で、またはDDBJ/EMBL/GenBankデータベースにアクセッションナンバーAB051478で、それぞれ登録および公開されているポリヌクレオチドがコードするとコンピュータにより予測されたポリペプチドのアミノ酸配列が、DDBJ/EMBL/GenBankデータベースにアクセッションナンバーBAB21782で登録および公開されている。しかしながら、該ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは実際に取得されておらず、またその機能も不明であった。発明者らは、本発明に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを取得し、その機能を解析した結果、該ポリペプチドがカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであることを初めて明らかにした。
【0026】
また、本発明に係るポリヌクレオチドの別の態様として、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと相同性を有するポリヌクレオチドを例示することができる。かかるポリヌクレオチドとして、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと相同性を有するポリヌクレオチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドを好ましく例示できる。配列相同性は、通常、塩基配列の全体で約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上であることが望ましい。
【0027】
さらに、本発明に係るポリヌクレオチドには、上記ポリヌクレオチドの塩基配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが含まれる。かかるポリヌクレオチドであって、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチド、またはその相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドがさらに好ましい。かかる変異を有するポリヌクレオチドは、天然に存在するものであってもよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCRなどを単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。例えば成書に記載の方法(非特許文献15および16)に準じてあるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(非特許文献17)を利用することもできる。
【0028】
本発明に係るポリヌクレオチドにはまた、上記ポリヌクレオチドの相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドが挙げられる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば成書に記載の方法(非特許文献22)などに従うことができる。好ましくは、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチドであることができる。
【0029】
本発明に係るポリヌクレオチドのさらに別の態様は、上記ポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列からなるポリヌクレオチド断片であり得る。かかるポリヌクレオチド断片は、その最小単位として好ましくは該領域において連続する5個以上のヌクレオチド、より好ましくは10個以上、より好ましくは20個以上のヌクレオチドからなるものである。これらポリヌクレオチド断片は、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列情報に従って、目的の配列を有するものを設計し、自体公知の化学合成法により製造することができる。簡便には、DNA/RNA自動合成装置を用いて取得可能である。
【0030】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明により開示されたその具体例、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドについての配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(非特許文献21および22などを参照。)により容易に取得することができる。
【0031】
具体的には、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が確認されている適当な起源から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、該ポリヌクレオチドに特有の適当なプローブやプライマーを用いて所望のクローンを選択することにより取得可能である。
【0032】
cDNAの起源としては、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞、例えばヒトの脳、心臓、骨格筋、結腸、脾臓、腎臓および末梢血白血球ならびにこれらの細胞などの起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。また、市販されているヒト腎臓、胎児腎臓由来のpolyARNAからcDNAライブラリーを構築して用いることもできる。また、市販品を購入することにより本発明に係るポリヌクレオチドを取得することもできる。
【0033】
所望のクローンをcDNAライブラリーから選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を用いることができる。例えば、目的のポリヌクレオチド配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法などやこれらを組合せた方法などを例示できる。
【0034】
ここで用いるプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列に関する情報に基づいて化学合成されたポリヌクレオチドなどが一般的に使用できるが、既に取得された本発明に係るポリヌクレオチドやその断片も好ましく利用できる。また、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをかかるプローブとして用いることもできる。例えば、配列表の配列番号3および4に記載のオリゴヌクレオチドがプローブとして例示できる。
【0035】
cDNAライブラリーからの目的クローンの選択は、例えば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、その生物学的機能、例えばカルシウム依存的マキシクロライドチャンネル活性を指標にして実施できる。
【0036】
本発明に係るポリヌクレオチドの取得にはその他、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する、非特許文献17−19)によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(非特許文献20)、特に5´−RACE法(非特許文献21)などの採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、ポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により得ることができる。例えば、配列表の配列番号3および4に記載のオリゴヌクレオチドがプライマーとして例示できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法により行うことができる。例えばゲル電気泳動法などにより実施可能である。
【0037】
かくして得られるポリヌクレオチドの塩基配列の決定は、常法、例えばジデオキシ法(非特許文献22)やマキサム−ギルバート法(非特許文献23)などにより、また簡便には市販のシーケンスキットなどを用いて行うことができる。
【0038】
本発明に係るポリヌクレオチドはヒト由来のものであるが、該ポリヌクレオチドがコードするカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギなど由来のポリヌクレオチドも本発明に包含される。
【0039】
本発明に係るポリヌクレオチドは、その機能、例えばコードするポリペプチドの発現や、発現されたポリペプチドの機能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に、例えばグルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ(βGAL)、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(ALP)などの酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tagなどのタグペプチド類などの遺伝子が、1つまたは2つ以上付加されたものであってもよい。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により行うことができ、遺伝子やmRNAの検出を容易にするため有用である。
【0040】
(ベクター)
本発明は1つの態様において、本発明に係るポリヌクレオチドを組込んだ組換えベクターを提供する。組換えベクターは、本発明に係るポリヌクレオチドを適当なベクターDNAに挿入することにより得ることができる。
【0041】
ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するものを抽出したもののほか、増殖に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているものでもよい。代表的なものとして例えば、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを挙げることができる。
【0042】
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどを例示できる。バクテリオファージDNAとしては、λファージなどが挙げられる。ウイルス由来のベクターDNAとしては例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルスなどの動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルスなどの昆虫ウイルス由来のベクターを挙げることができる。
【0043】
その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAなどを例示することができる。あるいは、これらを組合せて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合せて作成したベクターDNA(コスミドやファージミドなど)を例示できる。また、目的により発現ベクターやクローニングベクターなど、いずれを用いることもできる。
【0044】
ベクターには、目的遺伝子の機能が発揮されるように遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子配列とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカーなどから選択した1つまたは複数の遺伝子配列を自体公知の方法により組合せてベクターDNAに組込むことができる。選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0045】
ベクターDNAに目的遺伝子配列を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、目的遺伝子配列を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。あるいは、目的遺伝子配列に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが得られる。
【0046】
(形質転換体)
本発明は1つの態様において、本発明に係るポリヌクレオチドを組込んだベクターDNAを、宿主に導入して得られる形質転換体を提供する。ベクターDNAとして発現ベクターを使用すれば、本発明に係るペプチドを提供可能である。該形質転換体には、本発明に係るポリヌクレオチド以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAの1つまたは2つ以上をさらに導入することもできる。
【0047】
宿主としては、原核生物および真核生物のいずれをも用いることができる。原核生物としては、例えば大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))などのエシェリヒア属、枯草菌などのバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)などのシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)などのリゾビウム属に属する細菌が挙げられる。真核生物としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの酵母、Sf9やSf21などの昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞や293EBNA細胞、アフリカツメガエル卵母細胞などの動物細胞が例示できる。好ましくは動物細胞を用いる。さらに好ましくはCHO細胞を用いる。
【0048】
ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用され、例えば成書に記載されている標準的な方法(非特許文献15)により実施できる。より好ましい方法としては、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法が挙げられるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、カチオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)および感染などが挙げられる。
【0049】
動物細胞を宿主とする場合は、組換えベクターが該細胞中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、RNAスプライス部位、目的遺伝子、ポリアデニル化部位、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、所望により複製起点が含まれていてもよい。プロモーターとしてはSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーターなどが用いられ、また、サイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーターなどを用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などを用いることができる。さらに好ましくは、リポフェクション法を用いることができる。
【0050】
原核生物を宿主とする場合は、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、目的遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0051】
細菌を宿主として用いる場合、プロモーターとしては大腸菌などの宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターが用いられる。tacプロモーターなどの人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。
細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。好ましくは例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法などを用いることができる。
【0052】
酵母を宿主とする場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーターなどが挙げられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法などを用いることができる。
【0053】
昆虫細胞を宿主とする場合は、組換えベクターの導入方法としては、好ましくは例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などを用いることができる。
【0054】
(ポリペプチド)
本発明の一態様はまた、本発明に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドに関する。
【0055】
本発明の課題の一つはカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルである新規ポリペプチドを見出して提供することにある。本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を行ったところ、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドがカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであることを明らかにした。配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドは、DDBJ/EMBL/GenBankデータベースにアクセッションナンバーBAD20190として登録および公開された。
【0056】
すなわち本発明に係るポリペプチドの具体的態様として、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを挙げることができる。該ポリペプチドには、6個の膜貫通領域が存在すると考えられる。6個の膜貫通領域はそれぞれ、配列番号2に記載のアミノ酸配列における第44番目のロイシン(Leu)から第66番目のフェニルアラニン(Phe)までの領域;第84番目のシステイン(Cys)から第105番目のフェニルアラニン(Phe)までの領域;第175番目のロイシン(Leu)から第199番目のアラニン(Ala)までの領域;第210番目のトリプトファン(Trp)から第231番目のロイシン(Leu)までの領域;第241番目のグリシン(Gly)から第263番目のバリン(Val)までの領域;第389番目のイソロイシン(Ile)から第409番目のバリン(Val)までの領域からなる。
【0057】
また、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを電気生理学的に解析した結果、該ポリペプチドは約260pSおよび約50pSの2つのコンダクタンスを有するカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであることを明らかにした(図11および13)。したがって、本発明にかかるポリペプチドの別の具体的態様として、一方のコンダクタンスが100pS以上、好ましくは100〜400pS、より好ましくは200〜300pSさらに好ましくは約260であり、他方のコンダクタンスが40〜60pS、好ましくは約50pSである、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示することができる。
【0058】
ここで、コンダクタンスとは、前記アニオン、例えば塩素イオン(Cl)の通り易さを示す。抵抗物質の両側の該アニオン濃度を等しくして駆動力をかけたときに生じる該アニオン電流のコンダクタンス(抵抗の逆数)を表し、単位はジーメンス(1S=1Ω−1)が用いられる。チャンネルであるポリペプチドのコンダクタンスは、自体公知のパッチクランプ法(非特許文献14)により計測可能である(実施例5)。
なお、本発明に係るポリペプチドが2つのコンダクタンスを有することは、本発明に係るポリペプチドがそれぞれのコンダクタンスに対応する2つのポアを有することに起因すると考えられる。
【0059】
また、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを阻害する化合物を探索した結果、該ポリペプチドがDIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)により阻害されることを明らかにした(図9)。従って、本発明に係るポリペプチドの別の具体的態様として、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドであって、DIDSにより阻害されるポリペプチドを例示することができる。配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドがDIDSにより阻害されるか否かは、自体公知のパッチクランプ法により判定することができる。例えば、インサイドアウトモードのパッチクランプ法を用いる場合には、バス溶液にDIDSを10μM程度の濃度になるように添加した後、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを通過する電流(単一チャンネル電流)および/または該ポリペプチドの開口率を計測する。そして、DIDSを添加しない場合と比較して、該単一チャンネル電流および/または開口率が減少または消失した場合には、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドはDIDSにより阻害されると判定することができる(実施例5)。
【0060】
さらに、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを電気生理学的に解析した結果、該ポリペプチドは、2つの開状態および2つの閉状態を熱的に(確率的に)転移しているモデルで説明できることが明らかとなった。かかる開状態の時定数は約52msまたは約510msであって、閉状態の時定数は約60msまたは約250msであることも明らかとなった。従って、本発明に係るポリペプチドの別の具体的態様として、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドであって、2つの開状態および2つの閉状態を有するポリペプチドを例示することが可能である。好ましくは、2つの開状態の時定数が約52msまたは約510msであって、2つの閉状態の時定数が約60msまたは約250msである、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示することができる。
【0061】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドが有する開状態の数、閉状態の数、およびそれらの時定数は自体公知のパッチクランプ法(非特許文献14)により計測することが可能である。具体的には、自体公知の方法により、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを通過する電流(単一チャンネル電流)を、例えば1分間程度計測し、該ポリペプチドの開閉持続時間(life time)の度数分布を取得する。該度数分布を確率密度関数で近似することにより、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドが有する開状態の数、閉状態の数、およびそれらの時定数を算出することができる。該ポリペプチドの開寿命および閉寿命を計測する際に用いられるフィルターのカットオフ周波数は、200〜数kHz、好ましくは1kHzであることが望ましい。1kHzのカットオフ周波数を有するフィルターを用いる場合には、約0.2ms以上の開寿命および閉寿命を計測することが可能である。
【0062】
また、本発明に係るポリペプチドの別の具体的態様として、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを含有するポリペプチドを例示可能である。かかるポリペプチドとして、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを含有するポリペプチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであるポリペプチドが好ましく例示され得る。
【0063】
さらにまた、本発明に係るポリペプチドの別の具体的態様として、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドと相同性を有するポリペプチドを例示可能である。配列相同性は、通常、アミノ酸配列の全体で約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上であることが望ましい。また、かかるポリペプチドがカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであるポリペプチドであることがさらに望ましい。
【0064】
また、本発明に係るポリペプチドの別の具体的態様として、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示することが可能である。かかるポリペプチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであるポリペプチドが好ましく例示され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドの一態様として本発明に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを例示することができる。
【0065】
変異を有するポリペプチドは、天然において例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じたものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。
【0066】
変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCRなどを単独でまたは適宜組合せて用いることができる。例えば成書に記載の方法(非特許文献15および16)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(非特許文献17)を利用することもできる。
【0067】
変異の導入において、当該ポリペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性など)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸など)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0068】
本発明に係るポリペプチドのまた別の態様は、上記ポリペプチドの指定された領域に存在する部分アミノ酸配列で表されるポリペプチド断片であり得る。かかるポリペプチド断片は、その最小単位として好ましくは5個以上、より好ましくは8個以上、さらに好ましくは12個以上、とくに好ましくは15個以上の連続するアミノ酸からなるものである。
【0069】
本発明に係るポリペプチドはヒト由来のものであるが、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであって、かつ前記アミノ酸配列相同性を有する哺乳動物由来のポリペプチド、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギなど由来のポリペプチドも本発明に包含される。
【0070】
本発明に係るポリペプチドは、該ポリペプチドをコードする遺伝子を遺伝子工学的手法で発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物、または該細胞や生体生物由来の生物学的試料から調製したものであってよく、これらからさらに精製されたものであってもよい。
【0071】
本発明に係るポリペプチドはさらに、その構成アミノ基またはカルボキシル基などを、例えばアミド化修飾するなど、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変が可能である。また、N末端側やC末端側に別のペプチドなどを、直接的にまたはリンカーペプチドなどを介して間接的に遺伝子工学的手法などを用いて付加することにより標識化したものであってもよい。好ましくは、本発明に係るポリペプチドの基本的な性質が阻害されないような標識化が望ましい。
【0072】
付加するペプチドなどとしては、例えばGST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALPなどの酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tagなどのタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)などの蛍光物質類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
また、放射性同位元素により標識することも可能である。標識化に用いる物質は、1つまたは2つ以上を組合せて付加することができる。これら標識化に用いた物質自体、またはその機能を測定することにより、本発明に係るポリペプチドを容易に検出または精製可能であり、また、例えば本発明に係るポリペプチドと他のポリペプチドとの相互作用を検出することが可能である。
【0074】
(ポリペプチドの製造方法)
本発明の一態様はさらに、本発明に係るポリペプチドの製造方法に関する。本発明に係るポリペプチドの取得は、例えば該ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法(非特許文献15−18などを参照。)により得ることが可能である。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞、例えばヒトの脳から常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、本発明に係るポリペプチドをコードする遺伝子に特有の適当なプライマーを用いて該遺伝子を増幅し、得られた遺伝子を公知の遺伝子工学的手法により発現誘導することにより取得することができる。
【0075】
具体的には例えば、本発明に係る形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から目的とするポリペプチドを回収することにより本発明に係るポリペプチドを製造できる。本発明の形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で行うことができる。培養は、形質転換体により発現される該ポリペプチド自体またはポリペプチドの機能を指標にして実施できる。あるいは、宿主中または宿主外に産生された該ポリペプチド自体またはポリペプチド量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。
【0076】
目的とするポリペプチドは形質転換体の細胞膜に発現する。そこで自体公知の方法により該形質転換体を粉砕した後、粉砕物から遠心処理などにより細胞膜分画を取得し、該分画に含まれる細胞膜を界面活性剤等で可溶化し、可溶化された試料を自体公知の精製方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、透析法などを単独でまた適宜組合せて用い、該ポリペプチドを取得できる。好ましくは、該ポリペプチドのリガンド、該ポリペプチドの抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィーを適用することができる。該ポリペプチドの活性は、本ポリペプチドを膜ベシクルへ再構成した後、好ましくはさらに脂質平面膜に融合させた後、自体公知の方法、例えば微小電極法、パッチクランプ法、脂質平面膜法、イオン分析法、分光学的方法または光散乱法などにより確認することが可能である。
【0077】
本発明に係るポリペプチドはまた、一般的な化学合成法により製造することができる。例えば、ポリペプチドの化学合成方法としては固相合成方法、液相合成方法などが知られているがいずれを用いることもできる。
【0078】
かかるポリペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含し、本発明に係るポリペプチドの合成は、そのいずれによっても行うことができる。
【0079】
上記ポリペプチド合成において用いられる縮合法も、常法に従うことができ、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドなど)法、ウッドワード法などを例示できる。
【0080】
化学合成により得られる本発明に係るポリペプチドは、さらに上記のような慣用の各種精製方法に従って、適宜精製を行うことができる。
【0081】
本発明に係るポリペプチドは適当なペプチダーゼにより切断することによって断片化可能であり、その結果本発明に係るポリペプチドの部分ポリペプチドを得ることができる。
【0082】
(抗体)
本発明の一態様は、本発明に係るポリペプチドを免疫学的に認識する抗体に関する。該抗体は、本発明に係るポリペプチドを抗原として用いて作製する。抗原は該ポリペプチドまたはその断片でもよく、少なくとも8個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも12個、さらに好ましくは15個以上のアミノ酸で構成される。例えば、抗原として配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを挙げることができる。
【0083】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはその断片に特異的な抗体を作製するためには、該ポリペプチドまたはその断片に固有なアミノ酸配列からなる領域を用いることが好ましい。この領域のアミノ酸配列は、必ずしも該ポリペプチドまたはその断片のものと相同または同一である必要はなく、その立体構造上の外部への露出部位が好ましく、露出部位のアミノ酸配列が一次構造上で不連続であっても、該露出部位について連続的なアミノ酸配列であればよい。抗体は免疫学的に該ポリペプチドおよび/またはその断片を特異的に結合または認識する限り特に限定されない。この結合または認識の有無は、公知の抗原抗体結合反応によって決定できる。
【0084】
抗体の産生には、自体公知の抗体作製法を利用できる。例えば、抗原をアジュバントの存在下または非存在下で、単独でまたは担体に結合して動物に投与し、体液性応答および/または細胞性応答などの免疫誘導を行うことにより抗体が得られる。
【0085】
担体はそれ自体が宿主に対して有害作用を示さずかつ抗原性を増強せしめるものであれば特に限定されず、例えばセルロース、重合アミノ酸、アルブミンおよびキーホールリンペットヘモシアニンなどが例示できる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジポリペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組み合わせを例示できる。免疫される動物は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマなどが好適に用いられる。
【0086】
ポリクローナル抗体は、免疫手段を施された動物の血清から自体公知の抗体回収法によって取得できる。好ましい抗体回収手段として免疫アフィニティクロマトグラフィー法が挙げられる。
【0087】
モノクロ−ナル抗体は、免疫手段が施された動物から抗体産生細胞(例えば、脾臓またはリンパ節由来のリンパ球)を回収し、自体公知の永久増殖性細胞(例えば、P3−X63−Ag8株などのミエローマ株)への形質転換手段を導入することにより生産できる。例えば、抗体産生細胞と永久増殖性細胞とを自体公知の方法で融合させてハイブリドーマを作成してこれをクローン化し、本発明に係るポリペプチドを特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマを選別し、該ハイブリドーマの培養液から抗体を回収する。
【0088】
かくして得られた、本発明に係るポリペプチドを認識し結合し得るポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、該ポリペプチドの精製用抗体、試薬または標識マーカーなどとして利用できる。特に本発明に係るポリペプチドの機能を阻害する抗体、あるいは該ポリペプチドに結合して該ポリペプチドのリガンド様作用を示す抗体は、該ポリペプチドの機能調節に使用できる。これら抗体は、該ポリペプチドおよびその機能の異常に起因する各種疾患の解明、防止、改善および/または治療のために有用である。
【0089】
(化合物の同定方法)
本発明の一態様はさらに、本発明に係るポリペプチドの機能を阻害する化合物、あるいは本発明に係るポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法に関する。
【0090】
これら化合物の同定方法は、本発明に係るポリペプチド、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体または抗体のうち少なくともいずれか1つを用いて、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して実施可能である。本発明に係る同定方法により、該ポリペプチドの立体構造に基づくドラッグデザインによる拮抗剤の選別、蛋白質合成系を利用した遺伝子レベルでの発現の阻害剤の選別、または抗体を利用した抗体認識物質の選別などが可能である。
【0091】
本発明に係るポリペプチドの機能を阻害する化合物の同定は、該ポリペプチドと被検化合物の相互作用を可能にする条件下で、該ポリペプチドと被検化合物とを接触させて該ポリペプチドの機能を測定し、ついで、該化合物の非共存下での測定結果との比較における該ポリペプチドの機能の存在若しくは不存在または変化、例えば、低減、増加、消失、出現などを検出することにより、該化合物が該ポリペプチドの機能を阻害するか否かを決定することにより実施可能である。
【0092】
該ポリペプチドとして、例えば本発明に係る形質転換体の細胞膜に発現された本発明に係るポリペプチドを好ましく例示可能である。本発明に係る形質転換体の細胞膜に発現された本発明に係るポリペプチドとは、該形質転換体の細胞膜の一部分に発現された本発明に係るポリペプチドであり得る。例えば、該形質転換体の全細胞電流を計測する場合、該形質転換体とパッチ電極との接触により取り除かれた該形質転換体の細胞膜を除いた該形質転換体の細胞膜に発現された本発明に係るポリペプチドであることができる。
【0093】
また、細胞膜に発現された本発明に係るポリペプチドとは、膜内在性の本発明に係るポリペプチドを意味し、本発明に係るポリペプチドの一部が細胞膜内部に埋もれている状態である本発明に係るポリペプチドを意味する。具体的には、本発明に係るポリペプチドの膜貫通領域が細胞膜に埋め込まれ、膜貫通領域でない領域が細胞内または細胞外に露出している状態にある本発明に係るポリペプチドを意味する。
【0094】
該ポリペプチドの機能として例えばカルシウムイオン濃度依存的に塩素イオン等のイオンを透過させる機能を好ましく例示可能である。具体的には、該ポリペプチドを透過したイオンそのものを、高速濾過法、光散乱法などにより検出することにより、あるいはパッチクランプ法、脂質平面膜法などを用いて該ポリペプチドを透過したイオンを電流、例えば単一チャンネル電流として検出することにより、該ポリペプチドの機能を測定することが可能である。
【0095】
該ポリペプチドの機能は、該ポリペプチドの機能を測定する系を導入した後に測定することが可能である。該ポリペプチドの機能を測定する系として、該ポリペプチドの単一チャンネル電流、該形質転換体の全細胞電流の変化の測定系などを好ましく例示可能である。また、該ポリペプチドの機能の存在若しくは不存在または変化を検出することが、該ポリペプチドの単一チャンネル電流の存在若しくは不存在または変化を検出すること、該形質転換体の全細胞電流の存在若しくは不存在または変化を検出することである場合を好ましく例示可能である。
【0096】
例えば、実施例に示すように、自体公知の遺伝子工学的法を用いて該ポリペプチドをCHO細胞に発現させた後、該ポリペプチドと被検化合物との相互作用を可能にする条件下で、該ポリペプチドと被検化合物とを接触させて、形質転換されたCHO細胞の全細胞電流または該ポリペプチドの単一チャンネル電流を自体公知の方法により計測し、該化合物非共存下での測定結果と比較することにより、本発明に係る同定方法を実施可能である。
【0097】
全細胞電流または単一チャンネル電流は自体公知のパッチクランプ法(非特許文献14)により計測することができる。単一チャンネル電流は、インサイドアウトモード、アウトサイドアウトモードなどいずれのモードにおいても計測され得る。該ポリペプチドはクロライドチャンネルであるため、溶液(バス溶液)および電極内液に同一濃度(100〜200mM程度)になるように塩化セシウムまたは塩化マグネシウムを添加することが望ましい。また、該ポリペプチドはカルシウム依存性チャンネルであるため、全細胞電流をホールセルモードで計測する場合には電極内液に、単一チャンネル電流をインサイドアウトモードで計測する場合にはバス溶液にカルシウム塩(CaCl等)をそれぞれ0.5mMまたは10μM程度になるように添加すればよい。被検化合物は10μM程度になるようにバス溶液または電極内液に添加することにより、該ポリペプチドと被検化合物との相互作用を可能にする条件下で該ポリペプチドと被検化合物とを接触させることが可能である。電極内電位は−100mV〜100mV範囲の任意の電圧に固定することが可能である。該化合物非共存下の場合と比較し、該化合物を共存させた場合の全細胞電流、該ポリペプチドの単一チャンネル電流、該ポリペプチドの開口率または該ポリペプチドのコンダクタンスが減少または消失した場合には、該化合物は該ポリペプチドの機能を阻害すると決定することができる。
【0098】
本発明に係るポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定は、本発明に係るポリヌクレオチドの発現を測定することのできる実験系において、該ポリヌクレオチドと被検化合物の相互作用を可能にする条件下で該ポリヌクレオチドと該化合物とを接触させてその発現を測定し、次いで、該化合物の非共存下での測定結果との比較における発現の存在若しくは不存在または変化、例えば低減、増加、消失、出現などを検出することにより実施可能である。発現の測定は、ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの直接的な検出により行うこともできるし、例えば発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより実施可能である。シグナルとしては、GST、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tagなどのタグペプチド類、あるいは蛍光物質などを用いることができる。
【0099】
また、本発明に係るポリヌクレオチドの発現に影響を与える化合物の同定は、例えば本発明に係るポリヌクレオチドを含む遺伝子のプロモーター領域の下流に、該ポリヌクレオチドの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、例えば真核細胞などと被検物質とを接触させ、レポーター遺伝子の発現の有無および変化を測定することにより実施可能である。
【0100】
レポーター遺伝子としては、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用可能であるが、例えばルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼなどの酵素活性を有する遺伝子を用いることができる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記に例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施可能である。
【0101】
また、本発明に係る形質転換体を用いてポリペプチドを発現させる実験系において、該形質転換体と被検化合物とを接触させた後に、形質転換体の細胞膜上に発現されたポリペプチドを測定することによっても本発明に係るポリヌクレオチドの発現に影響を与える化合物を同定可能である。該化合物の非共存下での測定結果との比較における発現の変化、例えば低減、増加、消失、出現などを検出することにより、本発明に係るポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物を選択可能である。ポリペプチドの発現の有無または変化の検出は、簡便には、発現されるポリペプチドの生物学的機能を指標にして実施できる。このような例として、該形質転換体の全細胞電流の変化の検出が挙げられる。
【0102】
(化合物)
かくして同定された化合物は、本発明に係るポリペプチドの機能、例えばカルシウムイオン濃度依存的な塩素イオン透過性、細胞膜電位および/または細胞膜輸送を安定化する機能の阻害剤、または拮抗剤などの候補化合物として利用可能である。また、遺伝子レベルでの上記ポリペプチドに対する発現阻害剤の候補化合物としても利用可能である。これら候補化合物は、生物学的有用性と毒性のバランスを考慮して選別することによって医薬として調製可能であり、本発明に係るポリペプチドの機能および/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現の異常、例えば該ポリヌクレオチドの発現の亢進に起因する各種病的症状の防止効果および/または治療効果を期待できる。
【0103】
(癌細胞の細胞増殖を抑制する二重鎖ポリヌクレオチド)
本発明に係るポリヌクレオチドの1つの態様は、本発明に係るポリペプチドをコードするmRNAの部分配列からなるRNAおよび該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNAである。このようなRNAとして、配列表の配列番号6から15のいずれか1つに記載の塩基配列からなるRNAを例示できる。
【0104】
本発明に係るRNAにはそれぞれ、そのRNAの3´末端に、オーバーハング配列と呼ばれる1個ないし数個の塩基配列からなるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列は、その作用の1つとして、RNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。このようなオーバーハング配列として、デオキシチミジル酸からなる配列(dTdT)を例示できる。オーバーハング配列は、本発明に係るRNAの3´末端のリボース3´水酸基部位に、ホスホジエステル結合によって結合させる。
【0105】
本発明に係るRNAのそれぞれにそのRNAの3´末端に1個ないし数個のヌクレオチドからなるオーバーハング配列を結合させてなるポリヌクレオチドも、本発明に含まれる。このようなポリヌクレオチドとして、配列表の配列番号6から15のいずれか1つに記載の塩基配列からなるRNAの3´末端に1個ないし数個のヌクレオチドからなるオーバーハング配列、好ましくは2つのデオキシチミジル酸からなる配列を結合させてなるポリヌクレオチドを例示できる。
【0106】
このようなポリヌクレオチドの特徴の1つは、該ポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドに含まれるRNAの相補的な塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に1個ないし数個のヌクレオチドを結合させてなるポリヌクレオチドとを、アニール(ハイブリダイゼーション)させて得られる二重鎖ポリヌクレオチドが、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対してRNA干渉効果を示すことである。
【0107】
例えば、配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号11に記載の塩基配列からなるRNA(配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなるRNAの相補的な塩基配列からなるRNA)にそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニール(ハイブリダイゼーション)させて得られる二重鎖ポリヌクレオチドを、癌由来の細胞であるHeLa細胞(ヒト子宮頚部癌細胞)、HCT116細胞(大腸癌細胞)およびA549細胞(ヒト肺癌細胞)それぞれに導入した結果、それら全ての癌細胞の細胞増殖を抑制した。また、この二重鎖ポリヌクレオチドをSK−MEL−5(ヒト由来のメラノーマ細胞)に導入した結果、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が顕著に抑制された。すなわち、この二重鎖ポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対してRNA干渉効果を示し、該ポリヌクレオチドの発現を抑制することにより本発明に係るポリペプチドを阻害し、その結果、癌細胞の細胞増殖を抑制したものと考えられる。
【0108】
同様に、(i)配列表の配列番号7に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号12に記載の塩基配列からなるRNA(配列表の配列番号7に記載の塩基配列からなるRNAの相補的な塩基配列からなるRNA)にそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニール(ハイブリダイゼーション)させて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、(ii)配列表の配列番号8に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号13に記載の塩基配列からなるRNA(配列表の配列番号8に記載の塩基配列からなるRNAの相補的な塩基配列からなるRNA)にそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニール(ハイブリダイゼーション)させて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、(iii)配列表の配列番号9に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号14に記載の塩基配列からなるRNA(配列表の配列番号9に記載の塩基配列からなるRNAの相補的な塩基配列からなるRNA)にそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニール(ハイブリダイゼーション)させて得られる二重鎖ポリヌクレオチド、および(iv)配列表の配列番号10に記載の塩基配列からなるRNAにそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドと、配列表の配列番号15に記載の塩基配列からなるRNA(配列表の配列番号10に記載の塩基配列からなるRNAの相補的な塩基配列からなるRNA)にそのRNAの3´末端に2つのデオキシチミジル酸を結合させてなるポリヌクレオチドとをアニール(ハイブリダイゼーション)させて得られる二重鎖ポリヌクレオチドもまた、癌細胞に導入した結果、その細胞の細胞増殖を抑制した。また、これらの二重鎖ポリヌクレオチドをSK−MEL−5(ヒト由来のメラノーマ細胞)に導入した結果、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が顕著に抑制された。従って、これらの二重鎖ポリヌクレオチドも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対してRNA干渉効果を示し、該ポリヌクレオチドの発現を抑制することにより本発明に係るポリペプチドを阻害し、その結果、癌細胞の細胞増殖を抑制したものと考えられる。
【0109】
上記RNAおよびポリヌクレオチドは、公知の化学合成法を用いて調製することができる。例えば市販のRNA合成試薬を用いてDNA/RNA合成装置により調製可能である。
【0110】
上記二重鎖ポリヌクレオチドを得るためのアニーリングは、慣用の方法で行なうことができる。
【0111】
本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現の抑制、本発明に係るポリペプチドの阻害、および癌細胞の増殖の抑制は、それぞれ、本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを用いて実施できる。
【0112】
すなわち、本発明の一態様として、本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを用いることを特徴とする、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現抑制方法、癌細胞の増殖抑制方法を挙げることができる。さらに、本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含有してなる、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現抑制剤、癌細胞の増殖抑制剤を挙げることができる。
【0113】
癌細胞への導入は、公知の手法により実施可能である。導入効率、再現性および簡便性の観点からリポフェクション法によりトランスフェクションすることが望ましい。例えば、siPORTAmine(Ambion社)やsiPORTLipid(Ambion社)などの市販の試薬を用いて導入することが可能である。
【0114】
癌細胞の増殖の抑制は、公知の手法、例えば市販の細胞数測定装置を用いた細胞数の計測により検出することができる。癌細胞は特に制限されないが、対照である正常組織と比較して、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が亢進している癌組織由来の細胞が好ましい。たとえば、胃癌、食道癌、大腸癌、小腸癌、十二指腸癌、肺癌、肝臓癌、胆嚢癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、口腔癌、骨癌、皮膚癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、脳腫瘍、神経芽腫等の固形腫瘍、あるいは白血病や悪性リンパ腫等の非固形腫由来の癌細胞を例示できる。癌細胞が由来する生物種も特に限定されないが、ヒト由来の癌細胞を好ましく例示できる。具体的には、HeLa細胞(ヒト子宮頚部癌細胞)、HCT116細胞(大腸癌細胞)、A549細胞(ヒト肺癌細胞)およびSK−MEL−5(ヒト由来のメラノーマ細胞)を例示できる。
【0115】
本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現の抑制は、公知の手法、例えばRT−PCR法を用いて検出することが可能である。
【0116】
本発明に係るポリペプチドの阻害は、公知の手法、例えばウエスタンブロッティング法により検出することができる。
【0117】
本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドは、医薬、好ましくは抗腫瘍剤、さらに好ましくは悪性腫瘍の治療のための医薬の有効成分として有用である。本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドを抗腫瘍剤の有効成分として使用する場合、対象となる腫瘍は特に限定されないが、上記の癌種を例示可能である。
【0118】
(医薬)
本発明に係るポリペプチド、ポリヌクレオチド、二重鎖ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、抗体、リガンドまたは化合物は、本発明に係るポリペプチドの機能および/または発現を阻害するまたは拮抗することに基づく医薬または医薬組成物の有効成分として有用である。
【0119】
本発明に係る医薬は、本発明に係るポリペプチド、ポリヌクレオチド、二重鎖ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、抗体、リガンドまたは化合物のうち少なくともいずれか1つ、好ましくは本発明に係る化合物および/または本発明に係る抗体を有効成分としてその有効量含む医薬となしてもよいが、通常は、1種または2種以上の医薬用担体を用いて医薬組成物を製造することが好ましい。
【0120】
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0121】
医薬用担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤や賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。
【0122】
例えば水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。これらは、本発明に係る剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合せて使用される。
【0123】
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調製することもできる。
【0124】
安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体などを例示でき、これらは単独でまたは界面活性剤などと組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
【0125】
上記L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸などのいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖などの単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類などおよびそれらの誘導体などのいずれでもよい。
【0126】
セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのいずれでもよい。界面活性剤も特に限定はなく、イオン性および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。これには、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系などが包含される。
【0127】
緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)などを例示できる。
【0128】
等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンなどを例示できる。
【0129】
キレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸などを例示できる。
【0130】
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生埋的食塩水などを含む緩衝液などで溶解して適当な濃度に調製した後に使用することも可能である。
【0131】
本発明に係る医薬組成物は、本発明に係るポリペプチドの機能の異常および/または本発明に係るポリヌクレオチドの発現の異常に起因する疾患、例えば本発明に係るポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進に起因する疾患の防止剤および/または治療剤として使用することが可能である。悪性腫瘍、特に悪性黒色腫において対応する健常組織と比較し、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が亢進していた。従って、本発明に係るポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進に起因する疾患として、悪性腫瘍および悪性黒色種を例示することができる。本発明に係る医薬組成物は、これらの疾患の防止方法および/または治療方法に用いることができる。
【0132】
ここでの悪性腫瘍は特に限定されないが、例えば、胃癌、食道癌、大腸癌、小腸癌、十二指腸癌、肺癌、肝臓癌、胆嚢癌、腎臓癌、膀胱癌、口腔癌、骨癌、皮膚癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、脳腫瘍、神経芽腫等の固形腫瘍、あるいは白血病や悪性リンパ腫等の非固形腫瘍を例示できる。
【0133】
本発明に係るポリペプチドの機能および/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が過剰な場合、1つの方法として該ポリペプチドの機能および/または該ポリヌクレオチドの発現を阻害する有効量の阻害剤を医薬上許容される担体とともに対象に投与して、該ポリペプチドの機能を阻害し、そのことにより異常な症状を改善することができる。このような阻害剤としては、DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)が好適に挙げられる。本阻害剤は、本発明に係るポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進に起因する疾患、例えば悪性腫瘍、好ましくは悪性黒色腫の防止剤および/または治療剤として、防止方法および/または治療方法に用いることができる。
【0134】
さらに、発現ブロック法を用いて内在性の該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害してもよい。例えば本発明に係るポリヌクレオチド断片をアンチセンスオリゴヌクレオチドとして遺伝子治療に用い、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害できる。
【0135】
本発明において、本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドを癌細胞に導入した結果、該癌細胞の細胞増殖が抑制された。本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対してRNA干渉効果を示し、該ポリヌクレオチドの発現を阻害することにより本発明に係るポリペプチドを阻害し、その結果、癌細胞の細胞増殖を抑制したものと考えられる。従って、本発明に係る二重鎖ポリヌクレオチドは、本発明に係る医薬または医薬組成物の有効成分として好ましく例示できる。
【0136】
アンチセンスオリゴヌクレオチオドとして用いるポリヌクレオチド断片は、本発明に係るポリヌクレオチドの翻訳領域のみでなく、非翻訳領域に対応するものであっても有用である。本発明に係るポリヌクレオチドの発現を特異的に阻害するためには、該ポリヌクレオチドに固有な領域の塩基配列を用いることが好ましい。
【0137】
本発明に係るポリヌクレオチドの一態様である配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドのヒト組織発現は脳、心臓、骨格筋、大腸、脾臓、腎臓および末梢血白血球などで特異的に高いことが判明した。したがって、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチドは、これらの組織および細胞の恒常性維持に重要であると考えられる。また、悪性黒色腫において正常組織と比較して著しく高い発現が認められた。このことから、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチドは、悪性腫瘍、特に悪性黒色腫に関連すると考えられる。このような悪性腫瘍の治療としては、本発明に係るポリペプチドの機能および/または、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する物質により、その改善、防止および/または治療が可能である。
【0138】
医薬の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断など応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0139】
本発明の医薬を投与するときには、該医薬を単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
【0140】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状などに応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与のほか、皮下、皮内、筋肉内などへの投与を挙げることができる。あるいは経口による投与も可能である。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。癌疾患に用いる場合は、腫瘍に注射などにより直接投与することが好ましい。
【0141】
投与形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリンなどの包接体、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれる。これらはさらに投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
【0142】
本発明に係る医薬を遺伝子治療剤として用いる場合は、一般的には、注射剤、点滴剤、あるいはリポソーム製剤として調製することが好ましい。遺伝子治療剤が、遺伝子が導入された細胞を含む形態に調製される場合は、該細胞をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態などに調製することもできる。また、プロタミンなどの遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。遺伝子治療剤として用いる場合、本医薬は、1日に1回または数回に分けて投与することができ、1日から数週間の間隔で間歇的に投与することもできる。投与の方法は、一般的な遺伝子治療法で用いられている方法に従うことができる。
【0143】
(診断方法)
本発明に係るポリペプチド、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、抗体または化合物は、それ自体を、診断マーカーや診断試薬などの疾患診断手段として使用できる。本発明によれば、例えば本発明に係るポリヌクレオチドの一部または全部の塩基配列を利用することにより、個体若しくは各種組織における該ポリヌクレオチドを含む遺伝子の異常の有無あるいは発現の有無を特異的に検出することができる。本発明に係るポリヌクレオチドの検出により、該遺伝子に基づく疾患の易罹患性、発症、および/または予後の診断が可能である。該遺伝子に基づく疾患とは、該遺伝子の量的異常および/または機能異常などに基づく疾患、例えば該ポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進を起因とする疾患を意味する。かかる疾患として、例えば悪性黒色腫、脳腫瘍、卵巣癌、肝臓癌、副腎癌などの腫瘍疾患、並びに脳挫傷や脳梗塞などを例示することができる。
【0144】
遺伝子の検出による疾患の診断は、例えば被検試料について、該遺伝子に相応する核酸の存在を検出すること、その存在量を決定すること、および/またはその変異を同定することによって実施できる。正常な対照試料との比較において、目的遺伝子に対応する核酸の存在の変化、その量的変化を検出することができる。また、正常遺伝子型との比較において、目的遺伝子に対応する核酸を公知の手法により増幅した増幅生成物について、例えばサイズ変化を測定することにより欠失および挿入を検出することができる。また増幅DNAを、例えば標識した本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイゼーションさせることにより点突然変異を同定できる。かかる変化および変異の検出により、上記診断を実施することが可能である。
【0145】
また、本発明の一態様は本発明に係るポリヌクレオチドの定性的または定量的な測定方法、または該ポリヌクレオチドの特定領域の変異の定性的または定量的な測定方法に関する。好ましくは被検試料中の本発明に係るポリヌクレオチドの定性的または定量的な測定方法、または該ポリヌクレオチドの特定領域の変異の定性的または定量的な測定方法に関する。
【0146】
被検試料は、本発明に係るポリヌクレオチドおよび/またはその変異ポリヌクレオチドの核酸を含むものである限り特に制限されず、例えば、細胞、血液、尿、唾液、髄液、組織生検または剖検材料などの生体生物由来の生物学的試料を例示できる。あるいは所望により生物学的試料から核酸を抽出して核酸試料を調製して用いることもできる。核酸は、ゲノムDNAを検出に直接使用してもよく、あるいは分析前にPCRまたはその他の増幅法を用いることにより酵素的に増幅してもよい。RNAまたはcDNAを同様に用いてもよい。核酸試料は、また、標的配列の検出を容易にする種々の方法、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティングなどにより調製してもよい。
【0147】
本発明に係るポリヌクレオチドおよび/またはその変異ポリヌクレオチドの検出は、公知の遺伝子検出法を用いて実施することができ、例えばプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノーザンブロット法、NASBA法、またはRT−PCRなどが挙げられる。また、in situ RT−PCRや in situ ハイブリダイゼーションなどを利用した細胞レベルでの測定を用いることもできる。本発明に係る遺伝子の検出に用いることのできる方法は上記方法に限定されず、自体公知の遺伝子検出法がいずれも使用可能である。
【0148】
このような遺伝子検出法においては、本発明に係るポリヌクレオチドまたはその変異ポリヌクレオチドの同定および/またはその増幅の実施に、本発明に係るポリヌクレオチドまたはその断片であってプローブとしての性質を有するものまたはプライマーとしての性質を有するものが有用である。
【0149】
プローブとしての性質を有するポリヌクレオチド断片とは、本発明に係るポリヌクレオチドのみに特異的にハイブリダイゼーションできる該ポリヌクレオチド特有の配列からなるものを意味する。プライマーとしての性質を有するものとは本発明に係るポリヌクレオチドのみを特異的に増幅できる該DNA特有の配列からなるものを意味する。例えば、配列表の配列番号3および4に記載のオリゴヌクレオチドがプローブまたはプライマーとして例示できる。
【0150】
また、増幅できる変異遺伝子を検出する場合には、遺伝子内の変異を有する箇所を含む所定の長さの配列を持つプライマーあるいはプローブを作成して用いる。プローブまたはプライマーとしては、塩基配列長が一般的に5ないし50ヌクレオチド程度であるものが好ましく、10ないし35ヌクレオチド程度であるものがより好ましく15ないし30ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。
【0151】
プローブは、通常は標識したプローブを用いるが、非標識であってもよく、直接的または間接的に標識したリガンドとの特異的結合によって検出してもよい。プローブおよびリガンドを標識する方法は、種々の方法が知られており、例えばニックトランスレーション、ランダムプライミングまたはキナーゼ処理を利用する方法などを例示できる。適当な標識物質としては、放射性同位体、ビオチン、蛍光物質、化学発光物質、酵素、抗体などが挙げられる。
【0152】
遺伝子検出法としては、PCRを用いるのが感度の点から好ましい。PCRは、目的遺伝子を特異的に増幅することの出来るDNA断片をプライマーとして用いる方法である限り特に制限されず、従来公知の方法、例えばRT−PCRが例示されるが、当該分野で用いられる種々の変法を適応することができる。
【0153】
PCRにより、遺伝子の検出の他に、目的遺伝子および/またはその変異遺伝子のDNAの定量も可能である。かかる分析方法としては、MSSA法のごとき競合的定量法、または一本鎖DNAの高次構造の変化に伴う移動度の変化を利用した突然変異検出法として知られるPCR−SSCP法を例示できる。
【0154】
疾患関連データベースを用いた本発明によれば、ヒト悪性黒色腫における本発明に係るポリヌクレオチドの発現が、対照であるヒト正常皮膚組織における該ポリヌクレオチドの発現と比較し、その量において約4倍程度亢進していることが明らかとなった。従って、ヒト皮膚由来の被検組織における本発明に係るポリヌクレオチドの発現量を測定することにより、該被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であるか否かを判定することが可能である。
【0155】
本発明の一態様として、ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であるか否かを判定する方法であって、該ヒト皮膚由来の被検組織における本発明に係るポリヌクレオチドの発現量が、対照であるヒト正常皮膚由来の被検組織における該ポリヌクレオチドの発現量の4倍以上、好ましくは8倍以上である場合に、該ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であると判定する方法を挙げることができる。
【0156】
ヒト皮膚由来の被検組織とは、ヒト皮膚組織、またはその由来細胞を含む生体由来試料を意味する。かかる試料は、例えば、本発明に係るポリヌクレオチドまたはその断片の増幅、本発明に係るポリヌクレオチドまたはその断片の精製などの調製がなされたものであってよい。また、ヒト悪性黒色腫由来の被検組織とは、悪性黒色腫を罹患していない健常人のヒト皮膚組織、またはその由来細胞を含む生体由来試料を意味し、前記と同様の調製がなされていてもよい。
【0157】
ポリヌクレオチドの発現量の測定は、自体公知の方法、例えばRT−PCR法などにより実施可能である。本発明に係るポリヌクレオチドの代わりに該ポリヌクレオチドの断片であって、該ポリヌクレオチドの塩基配列に固有の部分からなる断片を用いても実施可能である。
【0158】
また、本発明によれば、例えば本発明に係るポリペプチドを利用することにより、個体若しくは各種組織における該ポリペプチドおよびその機能の異常の有無を特異的に検出することができる。本発明に係るポリペプチドおよびその機能の異常の検出により、該遺伝子に基づく疾患の易罹患性、発症および/または予後の診断が可能である。
【0159】
ポリペプチドの検出による疾患の診断は、例えば被検試料について、該ポリペプチドの存在を検出すること、その存在量を決定すること、および/またはその変異を検出することによって実施できる。すなわち、本発明に係るポリペプチドおよび/またはその変異体を定量的あるいは定性的に測定する。正常な対照試料との比較において、目的ポリペプチドの存在の変化、その量的変化を検出することができる。正常ポリペプチドとの比較において、例えばアミノ酸配列を決定することによりその変異を検出することができる。かかる変化および変異の検出により、上記診断を実施することが可能である。被検試料は、目的ポリペプチドおよび/またはその変異体を含むものである限り特に制限されず、例えば、血液、血清、尿、生検組織などの生体生物由来の生物学的試料を例示できる。
【0160】
本発明に係るポリペプチドおよび変異を有する該ポリペプチドの測定は、本発明に係るポリペプチド、例えば配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、または該ポリペプチドのアミノ酸配列において1若しくは数個ないし複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列で表されるポリペプチド、これらの断片、または該ポリペプチドやその断片に対する抗体を用いることにより可能である。
【0161】
ポリペプチドの定量的あるいは定性的な測定は、この分野における慣用技術による蛋白質検出法あるいは定量法を用いて行うことができる。例えば、目的ポリペプチドのアミノ酸配列分析により変異蛋白質の検出ができるが、さらに好ましくは、目的ポリペプチドを抗原とする抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル抗体)を用いて、目的ポリペプチドの配列の相違、または目的蛋白質の有無を検出することができる。
【0162】
本発明の一態様はさらに、本発明に係るポリペプチド自体またはその機能の定性的または定量的な測定方法、または該ポリペプチドの特定領域の変異の定性的または定量的な測定方法に関する。好ましくは、被検試料中の本発明に係るポリペプチド自体またはその機能の定性的または定量的な測定方法、または該ポリペプチドの特定領域の変異の定性的または定量的な測定方法に関する。
【0163】
具体的には、被検試料について、目的ポリペプチドに対する特異抗体を用いて免疫沈降を行い、ウェスタンブロット法またはイムノブロット法で目的ポリペプチドの解析を行うことにより、上記検出が可能である。また、目的ポリペプチドに対する抗体により、免疫組織化学的技術を用いてパラフィンまたは凍結組織切片中の目的ポリペプチドを検出することができる。
【0164】
目的ポリペプチドまたはその変異体を検出する方法の好ましい具体例としては、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を用いるサンドイッチ法を含む、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、および免疫酵素法(IEMA)などが挙げられる。その他、ラジオイムノアッセイや競争結合アッセイなどを利用することもできる。
【0165】
本発明に係るポリペプチド、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、および抗体はいずれも、それ自体を単独で、試薬などとして使用できる。例えば、本発明に係る化合物の同定方法、あるいは本発明に係る測定方法、本発明に係る判定方法に使用するための試薬として用いることができる。該試薬は本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドの異常に基づく疾患などに関する基礎的研究などに有用である。
【0166】
これらは試薬であるとき、緩衝液、塩、安定化剤、および/または防腐剤などの物質を含んでいてもよい。なお、製剤化にあたっては、各性質に応じた自体公知の製剤化手段を導入すればよい。
【0167】
本発明はまた、本発明に係るポリペプチド、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、および抗体のうちの少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キットを提供する。これらは試薬キットであるとき、本発明に係るポリペプチドやポリヌクレオチドを検出するための標識物質、標識の検出剤、反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤および反応停止液など、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。標識物質としては、上述の標識用ポリペプチド、および化学修飾物質などが挙げられるが、予め該標識物質が本発明に係るポリペプチドあるいはポリヌクレオチドに付加されていてもよい。
【0168】
本発明に係る試薬キットは、上記同定方法、上記判定方法および測定方法に使用することができる。さらに本発明は、前記測定方法を用いる検査方法に、検査剤並びに検査用キットとして使用可能である。また、前記測定方法を用いる診断方法にも、診断剤並びに診断用キットとして使用可能である。
【0169】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0170】
(hTTY3cDNAの同定、単離およびhTTY3の膜トポロジー解析)
ロイシン残基群を膜貫通プローブとして用いて、4個以上の膜貫通領域を有する蛋白質をNCBIデータベースを対象としてBLASTプログラムにより検索した結果、hTTY3が同定された(配列番号2)。hTTY3cDNA(AL530584、アクセッションナンバーAB162931)(配列番号1)はインサイトジェノミクス(Incyte Genomics)より得た。hTTY3変異体はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Quick Change、Stratagene)キットの使用により得た。マウスTTY3 cDNA(mTTY3)断片は、配列番号3および4に記載のプライマーセットを使用して逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)に続くPCRにより単離した。ヒト内皮細胞(#375)および平滑筋細胞(#716)はApplied Cell Biology Res. Inst.より得た。神経細胞(PC12およびN2A)は島崎氏(自治医大神経生理学部門)より得た。
配列番号3:AAGCTGTCGGGCAGCCACAA
配列番号4:CGATGGAGCTGAACATGAGG
【0171】
得られたhTTY3のcDNA (AL530584)はhTTY1とhTTY2(NM020659および NM032646)に有意な相同性を有していた。hTTY3遺伝子は遺伝子座の7p22.3に位置していた。hTTY3の他のファミリーのメンバーはBLASTプログラムを使用して同定された。そのうちの一つはDrosophillaのCG3638であり、二つはヒトのTTY1およびTTY2であった。hTTY3のmRNAは4646ヌクレオチドからなり、523アミノ酸をコードしていた。hTTY1は5個のTMSを有していると考えられている(非特許文献23)のに対し、hTTY3は6個のTMSを有していると考えられた。これらは疎水プログラム(Sosui program)(GenomNet、Kyoto University)により推定された(図1)。3番目のTMS(TMS3)はhTTY1には存在しないが、hTTY3に存在すると予測された。検索に用いられたロイシン群は、hTTY3のTMS4に存在していた。
【0172】
疎水プログラム(Sosui program)(GenomNet、Kyoto University)により推定されたhTTY3の構造は、既知のマキシカリウムチャンネルの構造と比較できると考えられる(図1)。本マキシカリウムチャンネルに存在する最後の(7番目の)膜貫通ドメインの下に唯一のアスパラギン酸クラスター(カルシウムボール)(Ca bowl)が存在する。本カルシウムボールは、カルシウムイオン依存性の直接の活性化に関与している(非特許文献13)。本カルシウムボール様の部分アミノ酸配列がhTTY3にも存在している。この部位は、E/D−richドメインとして認識された(図1)。
【0173】
hTTY3の膜トポロジーを決定するため、TMS3とTMS4の間(配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の第199番目から第209番目の位置)、およびTMS5とTMS6の間にマーカー(ヘキサヒスチジン、H6)が挿入されたhTTY3変異体を、自体公知の方法によりCHO細胞において発現させてH6に対するFITC標識抗体(COVANCE)を細胞に添加してそのマーカーを検出した。CHO細胞におけるhTTY3変異体の発現は後述の実施例2と同様に行った。その結果、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の第202番目、第205番目、第208番目および第257番目の直後の位置にマーカーが挿入されたhTTY3変異体は抗体に対し結合陽性であった。これに対し、該アミノ酸配列の第199番目の直後及びC末端の位置にマーカーが挿入されたhTTY3変異体は抗体に対し結合陰性であった。なお、マーカー(H6)の挿入により膜貫通部分のトポロジーが変化した可能性があると考えられる。
【実施例2】
【0174】
(cDNAの発現)
緑色の蛍光性蛋白質を発現するプラスミド(pEGFP−N1、Clontech社、以降GFPベクターと称することがある)または赤色の蛍光性蛋白質を発現するプラスミド(pDsRed1−N1、Clontech社)を導入マーカーcDNAを含有するプラスミドとして使用した。フュージーン6(FuGENE6TM、Boehringer Mannheim)を使用して、リポフェクション法により、カバースリップ上で培養されたCHO細胞またはHEK293細胞に0.5μgのマーカーcDNAを含有するプラスミドと1μgのhTTY3 cDNA若しくはその変異体により組換えられたプラスミド(pIREShygr3、Clontech社)とを導入した。培養および導入は10%ウシ胎仔血清(FCS)含有培地中で行った。実験は細胞にプラスミドを導入してから48−72時間後に行った。hTTY3cDNAを含有するプラスミド(pIREShyqr3、Clontech)をエレクトロポレーション法によりCHO細胞に導入し、免疫反応性をマーカーとして安定形質転換体を単離した。
【0175】
(抗体の製造)
TTY3蛋白質に特異的であり、ヒト、ハムスター、マウスクローンに共通する抗体は、hTTY3のC末端領域のポリペプチドである、配列表の配列番号5に記載のポリペプチドを抗原として自体公知の製造方法により得た。具体的には、NZWウサギに、1mlのフロイントアジュバント(Freund´s adjuvant)と混合した該抗原(1mg/ml蒸留水)を筋肉注射により投与した後、フロイント不完全アジュバント(Freund´s incomplete adjuvant)中の同用量の該抗原を隔週で投与した。コントロールの10000倍の力価を有する血清を8週間後に得た。免疫性を与えられたウサギの血清をカラム(Hitrap、Pharmnacia)に通し、製造元のプロトコールに従いキット(Pierce)によりアフィニティ精製を行い抗体を取得した(精製抗TTY3抗体)。
【0176】
(hTTY3遺伝子の遺伝子産物の検出)
CHO細胞およびHEK293細胞内在性のhTTY3の有無を検証した。また、hTTY3cDNAが導入されたこれらの細胞におけるhTTY3の発現の有無も同様に検証した。hTTY3cDNA若しくはhTTY3変異体cDNAが導入されたまたは導入されていないCHO細胞およびHEK293細胞を前記の方法により培養し、培養されたサブコンフルエントのそれら細胞(60−mm ディッシュ)を、50mM NaHPO、300mM NaCl、10mM イミダゾール、0.05% Tween20(pH8.0)、およびプロテアーゼインヒビターカクテル中で穏やかに超音波処理し、溶解させることにより細胞溶解物を取得した。これらの溶解物20μgをSDS−PAGEにより展開した後、展開物をメンブランへ転写した。本メンブランおよび前記精製抗TTY3抗体(1:1000希釈比)を用いたウエスタンブロッティングによりhTTY3またはhTTY3変異体を検出した。本抗原抗体反応による免疫複合体は、2次抗体(HRP標識抗ラビットIgG抗体(1:10000の希釈比))によるECL検出システム(Du Pont/NEN Life Science Products)用いて検出した。
【0177】
その結果、hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞においてhTTY3が検出された(図2左上、左から2番目のレーン)。これに対し、hTTY3cDNAが導入されていないCHO細胞においてhTTY3は検出されなかった(図2左上、左から1番目のレーン)。またhTTY3cDNAが導入されていないHEK293細胞においてわずかにhTTY3が検出された(図2右上、左から1番目のレーン)。なお、メンブランを沸騰させたSDS含有の精製水で洗浄し、過剰量(1μg/ml)の前記抗原と共に前記精製抗TTY3抗体および前記2次抗体でリプローブした結果、免疫反応性は顕著に減少した(図2下)。
【0178】
さらに、hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞およびhTTY3cDNAが導入されていないHEK293細胞を対象として、免疫組織学的手法を用いてhTTY3の発現の有無を検証した(1次抗体は1:100希釈比、2次抗体は1:1000希釈比)。免疫染色は従来からの方法を使用して行い、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗ラビットIgG抗体(Dako)により検出した。細胞イメージを蛍光顕微鏡検査法(BX−5、Olympus)、およびノマルスキー微分干渉顕微鏡光学法を用いて検出した。
【0179】
その結果、hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞においてhTTY3が検出された(図3上)。また、hTTY3cDNAが導入されていないHEK293細胞においても同様にhTTY3が検出された(図3中央)。したがって、ウェスタンブロッティングで検出される免疫反応性はわずかである(図2右上、左から1番目のレーン)のに対し、免疫組織化学性は明確に検出された(図3中央)ことから、hTTY3はHEK293細胞における内在性のクロライドチャンネルであると推定された。また、過剰量の前記抗原と共に前記抗体によりhTTY3の検出を試みた結果、免疫反応性は顕著に減少した(図3下)。
【0180】
(hTTY3の糖鎖付加部位の探索)
hTTY3変異体を用いて、hTTY3の糖鎖付加部位を探索した。まず、hTTY3における糖鎖の有無を検証した。hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞の細胞溶解物を前記方法により取得した。本細胞溶解物(20mg/20ml)に含まれるhTTY3とN−グリカナーゼ(N−glycanase)(0.5U/20μl)を37℃の条件下で18時間反応させた。本反応物に含まれるhTTY3を、前記のHRP標識抗ラビットIgG抗体を用いたhTTY3の検出方法により検出した。
【0181】
その結果、hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞の細胞溶解物を展開した場合に検出されたバンド(上部バンド)ではなく、58kdの位置にバンドが検出された(図2左上、左から3番目のレーン)。この結果から、上部のバンドはhTTY3の糖鎖付加型であることがわかった。
【0182】
予測されるhTTY3の糖鎖付加部位(Asn−X−Thr/Ser)は、hTTY3のアミノ酸配列の第128番目、第146番目、および第353番目に位置するアミノ酸残基であった。そこで、hTTY3のアミノ酸配列の第128番目、第146番目、および第353番目に位置する、スレオニン(T)をアラニン(A)に置換したhTTY3変異体を用いて、糖鎖付加部位スキャニングを行った。各hTTY3変異体cDNAについては実施例1の方法により取得した。hTTY3変異体cDNAが導入されたCHO細胞の細胞溶解物を前記方法により取得した。本溶解物に含まれるhTTY3を前記のHRP標識抗ラビットIgG抗体を用いた方法により検出した。
【0183】
その結果、第353番目のスレオニン(T)をアラニン(A)に置換した場合のみ、バンドの位置が下部に検出された(図2左上、左から6番目のレーン)。第128番目または第146番目のスレオニン(T)とアラニン(A)に置換した場合は下部の位置にバンドが検出されなかった(図2左上、左から4または5番目のレーン)。この結果から、hTTY3における第353番目のスレオニン(T)が唯一糖鎖付加されていた。よって、hTTYの353番目のスレオニン残基は細胞外ドメインに位置することがわかった。したがって、hTTY3の構造は、予測されたTMS3(白色カラム)が膜を貫通しているか否かにかかわらず、図1に示されるような構造であると推定された(図1下左)。
【実施例3】
【0184】
(hTTY3、mTTY3およびcTTY3遺伝子の発現解析)
hTTY3、mTTY3(マウスTTY3)およびcTTY3(ハムスターTTY3)遺伝子の各組織または各細胞における発現解析を行った。
【0185】
まず、ヒト各組織(脳、心臓、骨格筋、結腸、胸腺、脾臓、腎臓、肝臓、小腸、胎盤、肺および末梢白血球)におけるhTTY3遺伝子の発現を、ノーザンブロット法により解析した。ノーザンブロット分析はメンブレン(human MTN blot、Clontech社)を使用して製造元のプロトコールに従い、32Pで標識されたhTTY3のPstI断片をプローブとして行った。その結果、hTTY3mRNAはヒトの脳、心臓、骨格筋、結腸、脾臓、腎臓、および末梢白血球に見られ、その長さは4.8Kbであった(図4矢印)。
【0186】
次に、マウス各組織(肺、心臓、肝臓、腎臓、前脳、精巣、白色脂肪、茶色脂肪、脳幹、骨格筋、唾液腺、膵臓、胸腺および子宮)におけるmTTY3遺伝子の発現を、従来のRT−PCR法により解析した。本RT−PCRに用いるプライマーセット(配列表の配列番号3および4に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド)は、hTTY3、mTTY3およびcTTY3が全て増幅できるように設計された。マウスRNAは有機抽出(Trizol、Gibco−BRL)を伴うグアニジンチオシアネート法により単離した。マウスGAPDHは、マウス各組織に存在するcDNAのコントロール増幅として使用した(図5上段、下段パネル)。その結果、mTTY3の陽性シグナルは、脳、心臓、骨格筋、腎臓、脂肪組織、膵臓、胸腺、および子宮において検出された(図5上段、上段パネル)。
【0187】
さらに、ヒト、マウスまたはハムスター由来の各種細胞株(CHO細胞、MIN6細胞、OK細胞、ヒト内皮細胞、ヒト平滑筋細胞、ヒト繊維芽細胞、PC12細胞、N2A細胞およびHEK293細胞)におけるTTY3の発現を、前記RT−PCR法により解析した。α−アクチン(α−action)は各細胞株に存在するcDNAのコントロール増幅として使用された(図5、下段)。その結果、ヒト内皮細胞、腎上皮細胞株(OK細胞、HEK293細胞)、および神経細胞株(PC12細胞、N2A細胞)においてTTY3が検出された。一方、CHO細胞においては内在性のcTTY3が検出されなかった。CHO細胞におけるcTTY3遺伝子産物の非存在を確認するため、CHO細胞のDNAからハムスターのcTTY3(AB158504)の部分配列をPCRにより得た(図1矢印)。cTTY3とhTTY3およびmTTY3の部分配列を比較した結果、hTTY3およびmTTY3とそれぞれ9および1個のアミノ酸が異なることがわかった。
【0188】
以上の結果から、hTTY3およびmTTY3遺伝子は主に興奮性組織において発現していることが明らかとなった。なお用いられた各種細胞株は、当業者により容易に入手できる。
【実施例4】
【0189】
(mTTY3の免疫組織学的解析)
mTTY3の免疫組織学的解析をマウスの代表的な組織(脳、心臓、筋肉および腎臓)由来細胞等(視床神経細胞、心臓の心室細胞、骨格筋膜および腎皮質細胞)を対象として行った。これらの細胞において発現しているmTTY3を、前記精製抗TTY3抗体(1:1000希釈比)およびFITC標識抗ラビットIgG抗体(Dako)(1:10000の希釈比)により検出した。各細胞を顕微鏡で観察し(×200)、そのイメージ写真を白黒イメージに変換した(photoshop ver.7、Macintosh)。
【0190】
その結果、視床神経細胞(図6左カラム、最上段パネル)、心臓の心室細胞(図6左カラム、上から2番目のパネル)、および骨格筋(図6左カラム、上から3番目のパネル)の膜が陽性染色された。ネガティブコントロールは過剰量の抗原により得た(図6、右カラム)。腎臓においては、糸球体の細胞、推定上はメサンギウム細胞が陽性染色された。RT−PCRによる解析の結果、OK細胞またはHEK細胞においてはhmcTTY3の陽性シグナルが検出されたが、免疫組織学的解析の結果では腎近位尿細管は陽性染色されず、シグナルは判別できないものであった。これは、腎近位尿細管における自動蛍光発光レベルが高くおよび/またはmTTY3の発現レベルが低いためであると考えられる。
【0191】
これらの結果から、mTTY3は主に興奮性細胞の細胞膜に位置していることがわかった。
【実施例5】
【0192】
(hTTY3の電気生理学的解析)
以上の結果から、hTTY3はチャンネルタンパク質である可能性が示唆された為、さらに従来のパッチクランプ法によりhTTY3の電気生理学的解析を行った(非特許文献14)。
【0193】
実験は室温(20−25℃)で行った。マイクロピペットは、加熱研磨前にビーズワックスでコートされたキャピラリー管(Drummond Scientific Co)より作成した。前記マイクロピペットは10MΩ以下の電気抵抗を有した。全細胞コンフィギュレーションにおける直列抵抗は300MΩ前後であった。GFP陽性細胞は、蛍光計測器(CAM2000System、Jasco)を用いて490nmの発光により可視化した。
【0194】
電流はEPC−9パッチクランプ増幅器(HEKA、Pfalz)により記録した。印加電圧および電流のサンプリング(サンプリング周波数は10KHz)はコンピュータシステム(HEKA、Pfalz)により制御した。サンプリングされた電流はフィルタリング(周波数は1kHz)され、その結果をソフトウェア(Patch Analyst Pro、MT Corporation)で分析した。
【0195】
hTTY3cDNAを含む組換えベクターにより形質転換されたCHO細胞の全細胞電流を計測する際の溶液(バス溶液)は、140mM NaCl(またはTEA Clまたはグルコン酸ナトリウム)、1.0mM MgCl、および3mM HEPES(pH7.4)を含んでいた。パッチ電極の内液は、140mM CsCl、1.0mM MgCl、および3mM HEPES(pH7.2)からなる、0.5mM CaCl含有または非含有のろ過溶液を含む。
【0196】
全細胞電流計測における塩素イオンに対する他のイオン(X)の透過比を算出するため、逆転電位の測定に電流固定モードを使用した。そして、逆転電位は液界電位により補正し、前記比率は従来の方程式により算出した(非特許文献24)。
【0197】
hTTY3の単一チャンネル電流を計測する際のパッチ電極の内液は、140mM NaX、1.0mM MgCl、および3mM HEPES(pH7.4)とした。単一チャンネル電流計測はインサイド・アウトのパッチにより行い、その後、逆転電位を算出し透過選択性(perm−selectivity)を得た。望ましいカルシウム濃度を得るために、細胞質側の溶液(すなわち溶液(バス溶液))におけるCa/EGTA濃度は適当量のKCl、KOH、MgCl、およびHEPESで調製し、固定イオン強度(Σions)は1.5に保った。低張液は溶液(バス溶液)に蒸留水を加えて製造した。浸透圧は浸透圧計(One−Ten Osmometer、Fiske)を用いて計測した。
【0198】
データは一元配置分散分析(ANOVA)により解析し、有意性はボンフェローニ分析(Bonferroni´s analysis)により算出した。P<0.05の場合は統計学的に有意であると評価した。
【0199】
(hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞の全細胞電流計測)
GFPベクター(mock)が導入されたCHO細胞、GFPベクター(mock)が導入されかつイオノマイシン処理されたCHO細胞、およびhTTY3cDNAにより形質転換されかつイオノマイシン処理されたCHO細胞において、10mVごとに−100mVから+90mVまでの固定電圧における全細胞電流をパッチクランプ法ホールセルヒドで測定した。CHO細胞のhTTY3cDNAによる形質転換およびCHO細胞の培養は実施例2と同様に行った。
【0200】
その結果、hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞における基底電流は、hTTY3cDNAが導入されていないCHO細胞における基底電流(図7左)と変わらなかった。GFPベクター(mock)が導入されたCHO細胞においては、イオノマイシン処理により外向整流性電流が誘導された(図7中央)のに対し、hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞においては、イオノマイシン処理により顕在的な直線電流が誘導された(図7右)。
【0201】
この結果から、hTTY3はカルシウム依存性のチャンネルであると考えられた。
【0202】
さらに、前記溶液(バス溶液)の組成を一部変更して、hTTY3 cDNAが導入されたCHO細胞の全細胞電流を計測した。バス溶液の組成成分であるNaClをTEAClに置換した場合、前記直線電流は変化しなかった。しかし、バス溶液の成分であるNaClをグルコン酸ナトリウムに置換した場合、前記直線電流は変化した。
【0203】
このことから、前記直線電流はアニオンにより引き起こされる電流であることが示唆された。すなわち、hTTY3はカルシウム依存性のアニオンチャンネルであると考えられた。一般的に、クロライドチャンネルのCs/Clの透過比はほぼゼロであり、グルコン酸/Clの透過比は0.33である(非特許文献24)。
【0204】
(hTTY3のイオン選択性)
疎水プログラム(Sosui program)(GenomNet、Kyoto University)により推定されたhTTY3の構造は、既知のマキシカリウムチャンネルの構造と比較できると考えられる(図1)。本マキシカリウムチャンネルのポア領域に基づいてhTTY3のポア領域を予測することができ、hTTY3のポア領域はhTTY3のアミノ酸配列の第367番目および第370番目に位置するアルギニンおよびヒスチジンが構成すると考えられた。
【0205】
そこで、hTTY3およびhTTY3変異体を用いてhTTY3のイオン選択性を解析した。かかる変異体として、hTTY3の370番目のヒスチジンをアスパラギン酸に置換したhTTY3変異体(H370D)とhTTY3の367番目のアルギニンをグルタミンに置換したhTTY3変異体(R367Q)を用いた。かかる変異体cDNAは、実施例1と同様に作製した。CHO細胞のhTTY3cDNAまたはhTTY3変異体cDNAによる形質転換およびCHO細胞の培養は実施例2と同様に行った。hTTY3のイオン選択性を解析するため、0.5mM CaCl含有パッチ電極内液の全細胞パッチを用いて、−120mVから+120mVまでのランプ・パルスによる全細胞電流と固定電圧の相関を調べた。0.5mM CaCl含有パッチ電極内液を用いたのは、大容量のカルシウムが電流・電圧の相関の安定化に必要となるためである。さらに、バス溶液の組成成分であるNaClの代わりにTEAClまたはグルコン酸ナトリウム(Sodium Gluconate)に置換されたバス溶液を用いて解析を行った。
【0206】
その結果、hTTY3と比較して上記のH370DおよびR367Qにおいて、イオン選択性が変化した(図8)。H370DはhTTY3と比較して相違する選択性を示し、グルコン酸/Clの透過性は0.3から0.12に減少し、Cs/Clの透過性は0.1に増加した(図8中央、非特許文献24)。一方、R367Qは、カチオンに対してさらなる透過性を有していた(図8右)。等浸透圧性であるNaCl/CsClの逆転電位が12.5mVにシフトしたことから(8回(実験回数)の平均)、hTTY3におけるNaへの有意な透過性が示唆された。TEAおよびグルコン酸が不浸透性イオンであると仮定すると、hTTY3におけるNa/Cs/Clの透過速度はそれぞれ0.7/0.25/1(非特許文献24)と算出された。
【0207】
これらの結果から、位置367および370の正に帯電したアミノ酸(ヒスチジンおよびアルギニン)はhTTY3の孔(ポア)を構成しており、hTTY3のアニオン選択性に重要な役割を果たしていることがわかった。
【0208】
(hTTY3チャンネルに対する阻害剤の効果)
hTTY3チャンネルに対する阻害剤の効果を調べるため、様々な阻害剤を細胞の細胞質側(すなわち電極内液)に添加し、+100mVにおける電流伝導度を測定した。その結果、hTTY3を導入されていない細胞において引き起こされた電流はニフルメート(niflumate)(300μg/ml)により遮断されたが、hTTY3cDNAが導入された細胞において引き起こされた電流はニフルメート(niflumate)(300μg/ml)により遮断されなかった(図9左、右から2番目のカラム)。また、CaC電流は、10μM DTT(ジチオトレイトール)、10μM ZnCl、または10μM SITS(4−acetamido−4´−isothiocyanatostilbene−2,2´−disulphonic acid)によっては阻害されなかったが、10μM DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)により完全に阻害された(図9左、左から2番目のカラム、p<0.01)。
【0209】
多くのクロライドチャンネルは、300μg/ml濃度のニフルム酸により阻害されるが、マキシクロライドチャンネルはDIDSまたはSITSにより阻害されると報告されている(非特許文献3〜5、25)。したがって、hTTY3チャンネルは、カルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであることが示唆された。
【0210】
(hTTY3チャンネルに対する低浸透圧刺激の効果)
hTTY3チャンネルに対する低浸透圧刺激の効果について、検討した。hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞、GFPベクター(mock)が導入されたCHO細胞(コントロール細胞)において、10mVごとに−100mV〜90mVまでの固定電圧における全細胞電流をパッチクランプ法ホールセルモードで測定した。CaClを含まない(PCa=7.2)内液を有するパッチ電極を計測に用いた。CHO細胞のhTTY3cDNAによる形質転換およびCHO細胞の培養は実施例2と同様に行った。また、溶液(バス溶液)の浸透圧を290(コントロール浸透圧)、250および220Osmにそれぞれ固定して、計測した。
【0211】
さらに、hTTY3チャンネルに対する低浸透圧刺激の効果のチャンネル阻害剤であるGdClまたはDIDSによる影響を評価するために、100mV固定電圧における電流を、溶液(バス溶液)に阻害剤(50μM GdClまたは10μM DIDS)を添加して、計測した(n(実験回数)=6)。
【0212】
その結果、hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞において、溶液(バス溶液)の浸透圧が220Osmの場合に、誘発電流が計測された(図15、図16左から4番目のカラム)。さらに、本電流はGdClの溶液(バス溶液)への添加により、阻害された(図16、右から2番目のカラム)。しかしながら、コントロール細胞においても低浸透圧刺激による同程度の活性化が報告されている(非特許文献19)。従って、hTTY3チャンネルは細胞膨張により活性化されるチャンネルでないことが明らかとなった。
【0213】
(hTTY3の単一チャンネル分析)
まず同一のパッチ膜を用いて、hTTY3の単一チャンネル解析をパッチクランプ法インサイドアウトモードで行った。5種類の固定電圧(−100mV、−60mV、−40mV、60mV、および100mV)下における単一hTTY3チャンネルのコンダクタンスを観察した。その結果、0.1mMのCa2+含有溶液(バス溶液)において、膜の分離後30秒以内にマキシクロライドチャンネル活性が観察された(図10)。hTTY3cDNAが導入された細胞ではこのようなラージコンダクタンスが観察されたが、hTTY3cDNAが導入されていない細胞では観察されなかった。
【0214】
hTTY3のコンダクタンスを調べるため、平衡クロライド溶液において、11種類の固定電圧下における電流の振幅をプロットした。その結果、単一hTTY3チャンネルにおける電流・電圧の相関は直線となった(n(実験回数)=12)(図11)。この直線の傾きから、hTTY3のコンダクタンスは約260pSであると推定された。以上の結果から、hTTY3はカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルである事が明らかとなった。
【0215】
9種類の固定電圧下における単一hTTY3チャンネルの開口率を測定した結果、単一hTTY3チャンネルの開口率は、0mV未満の電圧では電圧非依存的であったが、60mV以上の電圧では電圧依存的に減少した(図12)。hTTY3cDNAを導入したCHO細胞の高い脱分極化における全細胞電流の抑制は観察されなかったが(図8)、hTTY3の開口率を計測した結果、高い脱分極化においてその減少が観察された(図12)。これらの事実は、脱分極が、開口したhTTY3チャンネルの数を増加させた一方、開口率を減少させたことによると考えられる。
【0216】
単一hTTY3チャンネルを用いて、+40mVの電圧における30秒間以上の累積電流の観察頻度を測定した。その結果、単一hTTY3チャンネルにおける電流振幅の分布は、50pSのコンダクタンスを示し(図13)、ガウシアン(Gausian)の分析結果とよく一致していた。すなわち、hTTY3チャンネルは約260pSおよび約50pSの2つのコンダクタンスを有するカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであることが明らかとなった。単一hTTY3チャンネルは、+40mVのトレースにおいて長い開口寿命を有し、−60mVのトレースでは変動的に速い開口を示すことが観察された。さらに、長い開口および速い(しかし一過的な)変動が同じパッチ膜で観察された。これらの結果から、hTTY3チャンネルはマルチオープニングメカニズムに関与していることがわかった。また、開閉寿命は2つの動的状態に適合していた(開状態の時定数;WR1=52ms、WR2=510ms、閉状態の時定数;Wc1=60ms、Wc2=250ms、12回(実験回数)の平均)。開状態および幣状態の数、それらの時定数は自体公知の方法により算出した。
【0217】
hTTY3のハロゲン化物選択性についてさらに単一チャンネル分析により測定した。パッチ電極内液中のアニオンは実験ごとに交換し、逆転電位を測定した(各々n(実験回数)=5)。その結果、hTTY3のハロゲン化物選択性(塩化物イオンClに対する各ハロゲンイオン等の透過性の比率)の測定結果は、順に、I(2.2)、Br(1.8)、SCN(1)、NO(0.83)、グルコン酸(0.3)、アスパラギン酸(0.2)、およびNa(<0.1)となった。hTTY3は、I>Br>Clの順番でハロゲンイオンの透過性を示した。この透過性は、骨格筋で観察されたことが報告されている(非特許文献26)。さらに、この結果は、アイゼンマンシーケンス(Eisenman’s sequence)と一致している。しかし、チャンネルのイオン環境は、カチオンにより影響され、この影響がクロライドチャンネルのイオン透過性を変えることが報告されている(非特許文献27)ことを考慮すると、hTTY3のハロゲンイオン透過性に関する結果は、hTTY3構造に特異的ではないと考えられる。
【0218】
hTTY3チャンネルに対する阻害剤の効果についてさらに単一チャンネル分析により測定した。インサイド・アウトコンフィギュレーションの単一hTTY3チャンネルに対する阻害剤の効果を調べるため、阻害剤を細胞の細胞質側(バス溶液)に添加し、−30mVでの単一hTTY3チャンネルのトレースを記録した。その結果、ニフルメート(niflumate)は単一hTTY3チャンネルに対し阻害効果がなかった(Po(hTTY3チャンネルの開口率)=0.8から0.82、n(実験回数)=4)(図9右、上から2段目)。また、SITSにより単一hTTY3チャンネルはわずかに開口したが、有意な阻害効果を示さなかった(Po=0.58、n(実験回数)=4)。これに対しDIDSは瞬間的に遮断を引き起こした(Po=0.12、n(実験回数)=0.4、p<0.01)(図9右、最下段)。
【0219】
これらの結果から、ニフルメート(niflumate)、SITS、DTT、ZnCl、およびDIDSのうち、DIDSのみが有意にhTTY3を阻害することがわかった。
【0220】
hTTY3チャンネルの活性化におけるカルシウム濃度の影響を調べるため、7種類のカルシウム濃度において、−80mVでの過分極電圧下における単一hTTY3チャンネルの開口率をプロットした。その結果、ED50は約2μM(カルシウム濃度)であることがわかった(図14)。このことから、マキシカリウムチャンネル(非特許文献12)およびCICAチャンネル(非特許文献10)の場合のように、hTTY3活性化には高濃度の細胞質内カルシウムが必須であることがわかった。
【0221】
hTTY3チャンネルを活性化するカルシウム濃度である、約2μMはマキシカリウムチャンネルの活性化のカルシウム濃度(非特許文献18)と類似している。さらに、2μMという濃度はhTTY3が検出される興奮細胞におけるカルシウム濃度の生理的範囲に収まる。したがって、マキシカリウムチャンネルのように、hTTY3はカルシウムシグナル伝達において役割を果たしている可能性があると考えられる。しかしながら、単離された膜の細胞質側が高濃度カルシウム溶液にさらされると、hTTY3は10秒で活性化することから、hTTY3の活性化には蛋白質のリン酸化あるいは他の複雑なメカニズムが関与していると考えられる。
【実施例6】
【0222】
(hTTY3の疾患関連解析)
TTYH3を標的とする5種類のsiRNAをHeLa細胞、HCT116細胞、A549細胞に導入し、2日後の細胞数の変化調べた。
【0223】
下記の5種類のsiRNA duplexを使用した。効果的にノックダウンするsiRNAの配列予測とその配列を含むsiRNAの合成は、B−Bridge international社に依頼した。また、ネガティブコントロールとして、哺乳動物には存在しない配列(gcgcgcuuuguaggauucgdTdT)を使用し、ポジティブコントロールとしては、文献で既に細胞増殖の抑制効果が確認されているsurvivin(aagcauucguccgguugcgcudTdT)を標的とする配列を使用した(非特許文献28)。
【0224】
1)TTYH3−1(siRNA duplex)
cagugggauucuacggcaadTdT
dTdTgucacccuaagaugccguu
配列番号6:cagugggauucuacggcaa
配列番号11:uugccguagaaucccacug
【0225】
2)TTYH3−2(siRNA duplex)
cggagcagguggaucucuadTdT
dTdTgccucguccaccuagagau
配列番号7:cggagcagguggaucucua
配列番号12:uagagauccaccugcuccg
【0226】
3)TTYH3−3(siRNA duplex)
ccaaaaugguggaggaguadTdT
dTdTgguuuuaccaccuccucau
配列番号8:ccaaaaugguggaggagua
配列番号13:uacuccuccaccauuuugg
【0227】
4)TTYH3−4(siRNA duplex)
ccgccuucuuggugccaaadTdT
dTdTggcggaagaaccacgguuu
配列番号9:ccgccuucuuggugccaaa
配列番号14:uuuggcaccaagaaggcgg
【0228】
5)TTYH3−5(siRNA duplex)
gcagcuaccuggaccggaadTdT
dTdTcgucgauggaccuggccuu
配列番号10:gcagcuaccuggaccggaa
配列番号15:uuccgguccagguagcugc
【0229】
siRNA導入前日に、HeLa細胞は1.5×10 細胞/ウェル、HCT−116細胞は、3.0×10細胞/ウェル、A549細胞は、1.0×10細胞/ウェルの濃度で10%のFCSを含むDMEMに懸濁後、6ウェルプレートに播種し、37℃にて5%のCO存在下で培養した。翌日に培養液をOPTI−MEMIに置換し、導入試薬としてsiPORTAmine(Ambion社製)を用いて終濃度が83nMとなるようにsiRNA duplexを添加した。そして、6時間後に10%のFCSを含むDMEMを等量添加し、培養を継続した。導入24時間後に新鮮な10%のFCSを含むDMEMに培地交換し、さらに培養を継続した。導入48時間後に細胞をTrypsin/EDTAで処理後、2mlの5%FCSを含むHanks Balanced Salt Solutionで細胞を回収懸濁し、血球計測用計算板を用いて、細胞数を計測した(n=2)。
【0230】
その結果、図17に示すようにTTYH3−4の効果がA549細胞では、認められなかったが、それ以外のsiRNA duplexでは、ポジティブコントロールとして用いたsurvivinとほぼ同等もしくは、それ以上の効果を示した。
【実施例7】
【0231】
(siRNAによるTTYH3のノックダウン効率)
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド(以降、TTYH3と称呼する)の蛋白質レベルの発現は、SK−MEL−5(メラノーマ細胞)で高いことがわかったので、この細胞を用いて、前記5種類のsiRNAによるTTYH3のノックダウン効率をウェスタンブロット解析によって調べた。
【0232】
siRNA導入前日に、10%のFCSを含むDMEMに細胞を懸濁後、1.0×10細胞/ウェルの濃度で6ウェルプレートに播種し、37℃にて5%のCO存在下で培養した。翌日に培養液をOPTI−MEMIに置換し、導入試薬としてsiPORTAmine(Ambion社製)を用いて終濃度が83nMとなるようにsiRNA duplexを添加した。そして、7時間後に10%のFCSを含むDMEMを等量添加し、培養を継続した。導入24時間後に新鮮な10%のFCSを含むDMEMに培地交換し、さらに培養を継続した。導入48時間後に細胞をTrypsin/EDTAで剥離度、2mlの5% FCSを含むHanks’ Balanced Salt Solutionで細胞を回収し、1mlのPBSで洗浄後、細胞を30μlのCelLytic M(Sigma社製)で可溶化した。不溶物は、20000gの遠心により除去し、上清を回収後、蛋白質濃度をBCA Protein Assay試薬(PIERCE社製)によって牛血清アルブミンを標準として測定した。
【0233】
β−メルカプトエタノールを含むSDS−サンプルバッファー(第一化学薬品社製)で0.5μg/μlになるように希釈し、100℃にて5分間の熱処理を行い、10μl(5μg 蛋白質)を5−20%のグラジェントゲルを用いて、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行なった。泳動終了後、電気泳動によって分離された蛋白質をPVDF膜(Bio−Rad社製)にMini Trans−Blot Cell(Bio−Rad社製)を用いて100V、1時間で転写した。膜はBlock Ace(大日本製薬社製)を20mM Tris−HCl(pH7.5)、0.5M NaCl、0.05% Tween20(TBS−T)で4倍に希釈したブロッキングバッファーで4℃にて一晩静置した。Can Get Signal Solution 1(東洋紡社製)で500倍に希釈した抗TTYH3抗体で1時間(室温)処理し、TBS−Tで振とう洗浄した(20分間×3回)。次にCan Get Signal Solution 2(東洋紡社製)で500倍に希釈したHRP標識抗ラビットIgG(Santa Cruz社製)で1時間処理後、同様にTBS−Tで振とう洗浄した(20分間×3回)。抗体反応物は、ECL Plus detection Kit(Amersham社製)によってLumino Imaging Analyzer FAS−1100を用いて検出した。
【0234】
前記抗TTYH3抗体は、化学合成したペプチドTWQQKRGPDEDGEEC(TTYH3のアミノ酸412−425に相当するペプチド)を抗原としてウサギに免疫することによって抗血清を作成した。血清はTWQQKRGPDEDGEECをアフィニティーリガンドとして用いたimmuno affinity chromatographyによって精製し、アフィニティー精製抗体を得た。
【0235】
その結果、図18に示すように、TTYH3を標的とするsiRNA duplexを導入した細胞では、ネガティブコントロールsiRNA導入細胞や導入試薬のみを処理した細胞と比較して、すべてTTYH3蛋白質の発現が顕著に抑制されており、RNA干渉の結果として蛋白質の発現量が減少したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】ヒトTTYファミリー(hTTY1−3;hTTY1 NM020659、hTTY2 NM032646、hTTY3 AL530584)のアミノ酸配列を示す。膜貫通可能性領域(TMS1−6)、膜トポロジーのマーカー、正に帯電したアミノ酸を有する孔領域、糖鎖付加可能性部位、およびE/DリッチC末端領域が図示されている。RT−PCRのプライマーを矢印で示す。下図はラージコンダクタンス・チャンネル(マキシクロライド)をコードしているDrosophilaのflightless(飛べない)において予測されるhTTY3の構造を、Drosophilaのslowpoke(のろま)におけるラージコンダクタンス・チャンネル(マキシクロライド)と比較した図を示す。
【図2】hTTY3蛋白質の外生的発現をウェスタンブロットにより解析した結果示す。
【図3】FITC標識抗ラビットIgG抗体を用いて組織学的染色を行った結果を示す。
【図4】ヒト組織におけるhTTY3のノーザンブロット分析の結果を示す。
【図5】マウス組織および細胞株におけるRT−PCR分析の結果を示す。
【図6】代表的なマウス組織の免疫組織化学染色の結果を示す。陽性シグナルを三角で示す。
【図7】コントロールCHO細胞(左)、イオノマイシン処理されたコントロールCHO細胞(中央)、およびhTTY3を導入され、イオノマイシン処理されたCHO細胞(右)における10mVごとに記録された−100mVから+90mVまでの電流を示す。
【図8】−120mV から 120mVまでのランプ・パルスにより得られた電流・電圧の相関を示す。コントロール細胞、およびhTTY3を導入され、イオノマイシン処理された細胞の代表的な電流・電圧の相関を示す(左)。TEACl(TEA)またはグルコン酸ナトリウム(Gluconate)に置換されたバス溶液において、H370D(中央)またはR367Q(右)の変異を導入された細胞より得られた電流・電圧の相関を示す。
【図9】+100mVの電流伝導度における、hTTY3電流に対する阻害薬の効果を示す(n=8)。**p<0.01。 右図は、−30mVで記録されたインサイド・アウトコンフィギュレーションの単一チャンネルのトレースにおける、hTTY3単一チャンネルの阻害薬の効果を示す。実線は閉状態を、点線は開状態をそれぞれ示す。
【図10】同一のパッチ膜における一定の電圧での代表的な単一チャンネルの解析結果を示す。実線は閉状態を、点線は開状態をそれぞれ示す。
【図11】hTTY3の単一チャンネル解析結果(電流―電圧相関)を示す(n=12)。
【図12】膜電圧に対する開口率がプロットされた結果示す。
【図13】40 mVの電圧における30秒間以上の累積電流振幅の観察頻度(events)を示す。
【図14】様々な細胞質内カルシウム濃度で測定された、−80mVでの過分極電圧における開口率を示す(mean±S.E、n=6)。
【図15】hTTY3チャンネルに対する低浸透圧刺激の効果について検討した結果を示す。hTTY3cDNAが導入されたCHO細胞において、10mVごとに−100mV〜90mVまでの固定電圧における全細胞電流をパッチクランプ法ホールセルモードで測定した。CaClを含まない(PCa=7.2)内液を有するパッチ電極を計測に用いた。また、溶液(バス溶液)の浸透圧を290(コントロール浸透圧)、250および220Osmにそれぞれ固定して、計測した。
【図16】hTTY3チャンネルに対する低浸透圧刺激の効果のチャンネル阻害剤であるGdClまたはDIDSによる影響を評価した結果を示す。100mV固定電圧における電流を、溶液(バス溶液)に阻害剤(50μMGdClまたは10μMDIDS)を添加して、計測した。コントロールに対する顕著な増加を星印(ANOVA、**<0.001)で示す。220+GdClおよび220+DIDSはそれぞれ、50μMのGdClおよび10μMのDIDSが220mOsm溶液(バス溶液)に溶解していることを示す。hTTY3(−)(左から2番目のカラム、右から3番目のカラム)はそれぞれ290mOsmおよび220mOsm溶液(バス溶液)におけるCHO細胞の内因性電流を示す。
【図17】siRNA duplexを使用してhTTY3の疾患関連解析を行った結果を示す。ネガティブコントロールとして、哺乳動物には存在しない配列(gcgcgcuuuguaggauucgdTdT)を使用し、ポジティブコントロールとしては、survivin(aagcauucguccgguugcgcudTdT)を標的とする配列を使用した。その結果、TTYH3−4の効果がA549細胞では、認められなかったが、それ以外のsiRNA duplexでは、ポジティブコントロールとして用いたsurvivinとほぼ同等もしくは、それ以上の効果を示した。
【図18】siRNAによるTTYH3のノックダウン効率をウェスタンブロット解析によって調べた結果を示す。TTYH3を標的とするsiRNA duplexを導入した細胞では、ネガティブコントロールsiRNA導入細胞や導入試薬のみを処理した細胞と比較して、すべてTTYH3蛋白質の発現が顕著に抑制されており、RNA干渉の結果として蛋白質の発現量が減少したものと考えられる。レーン1、TTYH3−1;レーン2、TTYH3−2;レーン3、TTYH3−3;レーン4、TTYH3−4;レーン5、TTYH3−5;レーン6、ネガティブコントロール;レーン7、mock(導入試薬のみ)。
【配列表フリーテキスト】
【0237】
配列番号2:(44):(66):膜貫通ドメイン
配列番号2:(84):(105):膜貫通ドメイン
配列番号2:(175):(199):膜貫通ドメイン
配列番号2:(210):(231):膜貫通ドメイン
配列番号2:(241):(263):膜貫通ドメイン
配列番号2:(389):(409):膜貫通ドメイン
配列番号3:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号4:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号5:抗原用に設計されたポリペプチド。
配列番号6:TTYH3−1二本鎖ポリヌクレオチドの一方の一本鎖ポリヌクレオチドのオーバーハングを除いたRNA配列。
配列番号7:TTYH3−2二本鎖ポリヌクレオチドの一方の一本鎖ポリヌクレオチドのオーバーハングを除いたRNA配列。
配列番号8:TTYH3−3二本鎖ポリヌクレオチドの一方の一本鎖ポリヌクレオチドのオーバーハングを除いたRNA配列。
配列番号9:TTYH3−4二本鎖ポリヌクレオチドの一方の一本鎖ポリヌクレオチドのオーバーハングを除いたRNA配列。
配列番号10:TTYH3−5二本鎖ポリヌクレオチドの一方の一本鎖ポリヌクレオチドのオーバーハングを除いたRNA配列。
配列番号11:配列番号6のRNA配列の相補的RNA配列。
配列番号12:配列番号7のRNA配列の相補的RNA配列。
配列番号13:配列番号8のRNA配列の相補的RNA配列。
配列番号14:配列番号9のRNA配列の相補的RNA配列。
配列番号15:配列番号10のRNA配列の相補的RNA配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl channel)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
下記の群より選ばれるポリヌクレオチド;
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであって、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl channel)をコードするポリヌクレオチド、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと少なくとも約70%の相同性を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチド、
および
(3)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドにおいて、1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドの相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションし、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl channel)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項5】
組換えベクターが発現組換えベクターである請求項4に記載の組換えベクター。
【請求項6】
請求項4または5に記載の組換えベクターが導入されてなる形質転換体。
【請求項7】
形質転換体が動物細胞由来である請求項6に記載の形質転換体。
【請求項8】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドがコードするポリペプチド。
【請求項10】
下記の群より選ばれるポリペプチド;
(1)配列表の配列番号2に記載のポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも約70%の相同性を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネル(Ca2+ activated maxi−Cl channel)であるポリペプチド
および
(2)配列表の配列番号2に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などの変異を有し、かつカルシウム依存性マキシクロライドチャンネルであるポリペプチド。
【請求項11】
以下の少なくとも1の性質を持つ請求項8に記載のポリペプチド;
(1)コンダクタンスが約260pSまたは約50pSである、
(2)DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)により阻害される、

および
(3)2種の開状態と閉状態を有し、かつ開状態の時定数が約52msまたは約510msであって、閉状態の時定数が約60msまたは約250msである。
【請求項12】
請求項6または7に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項13】
請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドを免疫学的に認識する抗体。
【請求項14】
配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを免疫学的に認識する抗体。
【請求項15】
請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能および/または請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項4または5に記載の組換えベクター、請求項6または7に記載の形質転換体、請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法。
【請求項16】
請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能および/または請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、被検化合物と該ポリヌクレオチドおよび/または該ポリペプチドとの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と該ポリヌクレオチドおよび/または該ポリペプチドとを接触させ、該ポリヌクレオチドの発現および/または該ポリペプチドの機能の存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該ポリヌクレオチドの発現および/または該ポリペプチドの機能を阻害するか否かを決定することを特徴とする同定方法。
【請求項17】
請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能を阻害する化合物の同定方法であって、被検化合物と該ポリペプチドとの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と該ポリペプチドを接触させ、該ポリペプチドの単一チャンネル電流の存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該ポリペプチドの機能を阻害するか否かを決定することを特徴とする同定方法。
【請求項18】
請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能を阻害する化合物の同定方法であって、被検化合物と請求項6または7に記載の形質転換体の細胞膜に発現された該ポリペプチドとの相互作用を可能にする条件下で、該ポリペプチドと該化合物とを接触させ、次いで、該形質転換体の全細胞電流の存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該ポリペプチドの機能を阻害するか否かを決定することを特徴とする同定方法。
【請求項19】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる医薬。
【請求項20】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進を起因とする疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項21】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる悪性腫瘍の防止剤および/または治療剤。
【請求項22】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量を含んでなる悪性黒色腫の防止剤および/または治療剤。
【請求項23】
DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)を有効成分としてその有効量を含んでなる悪性黒色腫の防止剤および/または治療剤。
【請求項24】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの遺伝子産物の産生の亢進を起因とする疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項25】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることをと特徴とする悪性腫瘍の防止方法および/または治療方法。
【請求項26】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする悪性黒色腫の防止方法および/または治療方法。
【請求項27】
DIDS(4,4´−diisothiocyanato−stilbene−2,2´−disulphonic acid)を用いることを特徴とする悪性黒色腫の防止方法および/または治療方法。
【請求項28】
請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド自体またはその機能、および/または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを定量的または定性的に測定する方法。
【請求項29】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項4または5に記載の組換えベクター、請求項6または7に記載の形質転換体、請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、請求項28に記載の測定方法。
【請求項30】
ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であるか否かを判定する方法であって、該ヒト皮膚由来の被検組織における請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現量が、対照であるヒト正常皮膚由来の被検組織における該ポリヌクレオチドの発現量の4倍以上である場合に、該ヒト皮膚由来の被検組織がヒト悪性黒色腫由来の被検組織であると判定する方法。
【請求項31】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項4または5に記載の組換えベクター、請求項6または7に記載の形質転換体、請求項8から11のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項13または14に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キット。
【請求項32】
請求項15から18のいずれか1項に記載の同定方法、請求項28または29に記載の測定方法、および請求項30に記載の判定方法のうち少なくともいずれかに用いられる請求項31に記載の試薬キット。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−101873(P2006−101873A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259757(P2005−259757)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Macintosh
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】