説明

コントローラ

【課題】操作対象物に加わる力を正確に操作者に伝達させて操作性の向上を図ることができるようにする。
【解決手段】コントローラ1は、略球状の回転子4と、複数の駆動力発生部3A〜3Cと、回転子4に取り付けられ、回転子4を転動させる操作アーム5と、位置検出部6と、マスタ側力センサ7と、制御部8とを備えている。複数の駆動力発生部3A〜3Cは、回転子4を転動可能に支持すると共に、超音波振動を発生させて回転子4を転動させる。位置検出部6は、操作アーム5の位置情報を検出する。マスタ側力センサ7は、操作アーム5に取り付けられ操作アーム5から回転子4に加えられる力を検出している。そして、制御部8は、操作対象物100に作用する外力とマスタ側力センサ7によって検出した操作アームの力情報fmに基づいて複数の駆動力発生部3A〜3Cを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の手術ロボットやゲーム機等の操作対象物を2自由度以上の自由度で操作するコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞生物学、微細加工、マイクロサージャリー(微細手術)を中心として、ロボットを用いたマイクロマニピュレーション技術の重要性が高まっている。そして、この操作対象物であるロボットを2自由度以上の自由度で操作するためのコントローラとしては、例えば、特許文献1に記載されているような技術が記載されている。
【0003】
この特許文献1では、略球状の回転子と、この回転子を転動可能に保持すると共に超音波振動を発生させる超音波モータと、回転子に取り付けられ、回転子を転動させる操作アームとを備えている。そして、超音波モータの超音波振動によって回転子を転動させて、操作者に振動を伝達させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−219587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特にマイクロサージャリー分野では、微細な操作を行うために、操作対象物であるスレーブ側のロボットアームの先端にかかる微細な力を高速に操作者に伝達することが求められている。しかしながら、特許文献1に開示される技術では、超音波振動を効率良く回転子に伝達するために、回転子に超音波モータを加圧接触させている。
【0006】
そのため、回転子と超音波モータとの摩擦力が大きいものとなっていた。その結果、この摩擦力の影響によって、操作対象物から帰還された力に対向する力を操作アームに加えても、その力が直ちに反映されないだけでなく、微細な力が操作対象物に作用しても操作者に正確に伝達することができない、という問題を有していた。
【0007】
更に、特許文献1に記載された技術では、超音波モータによって回転子に力を加えることができるが、操作側の回転子及び操作アームに加わる力を検出しておらず、その力を操作対象物の操作に反映していなかった。その結果、操作対象物に対して微細な力加減による操作を行うことができず、操作性が悪い、という問題もあった。
【0008】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、操作対象物に加わる力を正確に操作者に伝達させて操作性の向上を図ることができるコントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のコントローラは、操作対象物を少なくとも2自由度で操作するコントローラであって、略球状の回転子と、回転子を転動可能に支持すると共に、超音波振動を発生させて回転子を転動させる複数の駆動力発生部と、を備えている。更に、回転子に取り付けられ、回転子を転動させる操作アームと、操作アームの位置情報を検出する位置検出部と、操作アームに取り付けられ操作アームから回転子に加えられる力を検出するマスタ側力センサと、を備えている。そして、操作対象物に作用する外力とマスタ側力センサによって検出した操作アームの力情報に基づいて複数の駆動力発生部を制御する制御部を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコントローラによれば、超音波振動を発生する複数の駆動力発生部によって操作対象物に作用する力を操作者にフィードバックすることができる。また、操作アームから回転子に加わる力をマスタ側力センサで検出し、その検出した力と操作対象物に作用する力に基づいて複数の駆動力発生部を駆動している。その結果、操作対象物に加わる力だけでなく、操作側に加わる力も操作対象物の操作に反映させることができ、操作性の向上を図ることができる。
【0011】
更に、マスタ側力センサによって、回転子と駆動力発生部との間に生じる摩擦力、すなわち回転子に加わる力を検出することができる。そのため、操作アームが動く方向に回転子にトルクを与えることで、摩擦力を打ち消すことができる、これにより、操作アームをスムースに操作できるだけでなく、操作対象物に作用する微細な力を操作者に対して正確に伝達することが可能である。また、略球状の回転子を転動させて操作するため、どの方向に対しても同様に操作することができ、すなわち異方性が無く快適な操作対象物の操作ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のコントローラの実施の形態例を示す斜視図である。
【図2】本発明のコントローラの実施の形態例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明のコントローラで操作される操作対象物の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明のコントローラに係る駆動力発生部を示すもので、図4Aは正面図、図4Bは断面図である。
【図5】本発明のコントローラに係る回転子に対する駆動力発生部の位置関係を示す説明図である。
【図6】本発明のコントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図7】本発明のコントローラに係る回転子に作用する角速度ベクトルの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のコントローラの実施の形態例について、図1〜図7を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、説明は以下の順序で行うが、本発明は、必ずしも以下の形態に限定されるものではない。
1.コントローラの構成例
2.コントローラを用いた操作例
【0014】
1.コントローラの構成例
まず、図1〜図6を参照して本発明のコントローラの実施の形態例(以下、「本例」という。)について説明する。
図1は、本例のコントローラを示す斜視図、図2は、コントローラの分解斜視図である。
【0015】
図1に示す本例のコントローラ1は、操作対象物の一例を示すスレーブ側ロボット100(図3参照)に対して3自由度で操作するもので、いわゆるマスタ・スレーブシステムにおけるマスタ側の入力装置である。
【0016】
[スレーブ側ロボット]
ここで、本例のコントローラ1によって操作されるスレーブ側ロボット100について図3を参照して説明する。
図3は、スレーブ側ロボット100を模式的に示す斜視図である。
【0017】
図3に示すスレーブ側ロボット100は、スレーブ側操作アーム101と、スレーブ側操作アーム101の先端に設けられた作業アーム102と、作業アーム102を移動させる3つの駆動部103,103,103とを有している。
【0018】
そして、このスレーブ側ロボット100の作業アーム102は、3つの駆動部103によって、第1の方向Xと、第1の方向Xと直交する第2の方向Yに移動可能とし、且つ第1の方向X及び第2の方向Yに直交する第3の方向Zの軸回りに回転可能としている。よって、このスレーブ側ロボット100は、3自由度を有している。また、スレーブ側ロボット100には、スレーブ側操作アーム101や作業アーム102に加わる力を検出するスレーブ側力センサ104が設けられている。
【0019】
[コントローラ]
図1に戻って説明すると、コントローラ1は、台座2と、3つの駆動力発生部3A,3B,3Cと、回転子4と、操作アーム5と、位置検出部6と、マスタ側力センサ7と、制御部8(図6参照)とから構成されている。
【0020】
図2に示すように、回転子4は、曲面部を有する略球状に形成されている。この回転子4には、その中心にまで達する略円柱状の凹部4aが形成されている。この凹部4aには、マスタ側力センサ7が配置されている。よって、マスタ側力センサ7は、回転子4の略中心に配置されることになる。また、凹部4aは、回転子4の中心に行くに従ってその直径が小さくなっている。これにより、凹部4aの内壁によってマスタ側力センサ7が挟持され、マスタ側力センサ7が凹部4aから抜け落ちることを防止することができる。
【0021】
操作アーム5は、略棒状に形成されている。この操作アーム5には、操作者が把持する把持部5aが設けられている。そして、操作アーム5における把持部5aの反対側の端部には、マスタ側力センサ7が取り付けられている。よって。操作アーム5は、マスタ側力センサ7を介して回転子4に取り付けられる。このとき、回転子4の中心は、操作アーム5から延在する軸線上に位置している。そして、操作者は、操作アーム5を操作することで回転子4を転動させることができる。
【0022】
なお、このマスタ側力センサ7は、操作アーム5の軸方向と直交する第1の方向Xの力成分と、操作アーム5の軸方向と第1の方向Xと直交する第2の方向Yの力成分と、操作アーム5の軸方向回りの力成分を検出している。すなわち、マスタ側力センサ7は、操作アーム5を介して回転子4に加わる力を検出している。
【0023】
また、マスタ側力センサ7としては、電極間の静電容量の変化によって力を検出する静電容量型の力センサやや圧電素子の電歪効果を利用して電圧の変化によって力を検出する圧電型の力センサ等その他各種のセンサを適用することができる。
【0024】
そして、回転子4は、台座2に支持される3つの駆動力発生部3A〜3Cに転動可能に支持されている。
【0025】
台座2は、略四角形をなす平板状に形成されている。この台座2は、4つの側面部2a,2b,2c,2dと、4つの側面部2a〜2dに囲まれる略四角形状の主面部2eを有している。また、台座2には、4つの支持部11a,11b,11c,11dと、3つのアーム部12a,12b,12cと、円環状の固定台13が設けられている。
【0026】
4つの支持部11a,11b,11c,11dは、台座2の4つの側面部2a〜2dから上方に向けて立設している。第1の支持部11aは、第1の側面部2aに配置されており、第2の支持部11bは、第1の側面部2aと対向する第2の側面部2bに配置されている。また、第3の支持部11cは、第1の側面部2aと第2の側面部2bに隣接する第3の側面部2cに配置されている。そして、第4の支持部11dは、第3の側面部2cと対向する第4の側面部2dに配置されている。
【0027】
この4つの支持部11a,11b,11c,11dの一端部は、それぞれ固定ねじ等の固定方法によって台座2の4つの側面部2a〜2dに固定されている。また、4つの支持部11a〜11dの他端部には、それぞれ軸部18が設けられている。そして、4つの支持部11a〜11dの軸部18には、後述する位置検出部6が取り付けられる。
【0028】
なお、4つの支持部11a〜11dを台座2に固定ねじを用いて固定する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、4つの支持部11a〜11dの一端部を台座2の側面部2a〜2dに溶接によって固定してもよく、4つの支持部11a〜11dと台座2を削り出し等によって一体に形成してもよい。
【0029】
固定台13は、台座2の主面部2eに固定されている。この固定台13の外周面には、3つのアーム部12a,12b,12cが略等角度間隔に配置されている。そして、この3つのアーム部12a,12b,12cには、3つの駆動力発生部3A,3B,3Cが固定されている。
【0030】
3つのアーム部12a〜12cのうち、第1のアーム部12aに第1の駆動力発生部3Aが取り付けられ、第2のアーム部12bに第2の駆動力発生部3Bが取り付けられ、更に第3のアーム部12cに第3の駆動力発生部3Cが取り付けられている。これら3つのアーム部12a〜12cは、それぞれ同一の構成を有するものであるため、ここでは、第1のアーム部12aについて説明する。
【0031】
第1のアーム部12aは、固定台13に固定するための固定片15と、第1の駆動力発生部3Aが取り付けられる取付片16と、固定片15と取付片16とを接続する接続片17を有している。この固定片15には、固定ネジを螺合するための不図示の固定孔が設けられている。そして、固定ねじを螺合することで、第1のアーム部12aは、台座2に設けた固定台13に固定される。
【0032】
なお、本例では、第1のアーム部12aを固定台13に固定ねじによって固定する例を説明したが、第1のアーム部12aの固定方法は、これに限定されるものではない。例えば、第1のアーム部12aの固定片15を溶接によって固定台13に固定してもよい。また、第1のアーム部12aと固定台13を一体に形成してもよい。
【0033】
取付片16は、略円板状に形成されており、この取付片16に第1の駆動力発生部3Aが取り付けられる。そして、固定片15と取付片16を接続する接続片17は、例えば板ばねで形成されている。そのため、接続片17には、弾性が付与されている。そして、この接続片17の弾性力により、第1の駆動力発生部3Aは、第1のアーム部12aに取り付けられた状態で回転子4側に付勢される。
【0034】
次に、図4A及び図4Bを参照して駆動力発生部3について説明するが、3つの駆動力発生部3A〜3Cは、それぞれ同一の構成を有しているため、ここでは、第1の駆動力発生部3Aについて説明する。図4Aは、駆動力発生部を示す正面図であり、図4Bは駆動力発生部を示す断面図である。
【0035】
この図4A及び図4Bに示すように、第1の駆動力発生部3Aは、第1のアーム部12aの取付片16に固定される固定部21、薄い皿状をなす支持体22と、回転子4の表面に接触する接触片23と、圧電素子24を有している。
【0036】
固定部21は、第1のアーム部12aの取付片16と略等しい直径を有する略円板状に形成されている。この固定部21の外周には、支持体22が連続して設けられている。支持体22は、薄い皿状に形成されている。この支持体22は、その外周に円環状の平坦部22aを有している。この支持体22の平坦部22aには、円環状の接触片23が配置されている。
【0037】
接触片23は、周方向に沿って一定間隔で複数の溝23bが切られており、櫛歯状に形成されている。この溝23bは、接触片23の半径方向に延在している。また、接触片23には、略球状をなす回転子4の表面に対応するように、回転子4の表面曲率と同一の曲率を有するアール面23aが設けられている。そして、支持体22の平坦部22aにおける接触片23が配置された面と反対側の面には、接触片23を振動させる圧電素子24が配置されている。
【0038】
圧電素子24は、超音波振動を発生させる振動素子である。圧電素子24は、図示しないフレキシブル配線を介して不図示の圧電素子駆動ドライバと電気的に接続されている。そして、この圧電素子24に圧電素子駆動ドライバから超音波領域の交流電圧が印加されると、圧電素子24の電歪現象によって超音波振動が発生する。圧電素子24によって発生した超音波振動は、支持体22の平坦部22aを介して接触片23に伝達される。これにより、複数の接触片23が振動し、接触片23の表面にたわみ振動や伸縮振動等の超音波振動が発生する。
【0039】
ここで、接触片23には、複数の溝23bを形成している。これにより、接触片23に生じる振動の振幅を大きくすることができる。また、接触片23が摩耗することによって生じる粉を溝23bに落とす効果も期待できる。
【0040】
なお、本例では、圧電素子24を接着剤により支持体22の平坦部22aに貼り付けた例を説明したが、圧電素子24の取り付け方法は、これに限定されるものではない。例えば、支持体22の平坦部22aに圧電皮膜を直接生成したり、圧電材料を支持体の平坦部に直接塗布したりしてもよい。これらの方法によれば、圧電素子と支持体の接着面が劣化することを防止又は抑制することができる。
【0041】
図5は、回転子4に対する3つの駆動力発生部3A〜3Cの位置関係を示す説明図である。
この図5に示すように、3つの駆動力発生部3A〜3Cは、回転子4を中心に操作アーム5の軸方向Z回りに120°の角度間隔で配置されている。更に、回転子4を操作アーム5の軸方向回りに回転させるために、3つの駆動力発生部3A〜3Cは、回転子4の中心を通るXY平面(水平面)より操作アーム5の反対側へ傾いた位置に配置されている。
【0042】
図1及び図2に戻って、位置検出部6について説明する。
図1及び図2に示すように、位置検出部6は、第1の位置検出部6Aと、第2の位置検出部6Bと、第3の位置検出部6Cとを有している。第1の位置検出部6Aは、操作アーム5における第1の方向Xへの傾き、すなわち回転子4の第1の方向Xにおける回転位置を検出するものである。第2の位置検出部6Bは、操作アーム5における第2の方向Yへの傾き、すなわち回転子4の第2の方向Yにおける回転位置を検出する。
【0043】
第1の位置検出部6Aは、第1の位置検出バー26と、第1の角度センサ27とから構成されている。同様に、第2の位置検出部6Bは、第2の位置検出バー28と、第2の角度センサ29とから構成されている。
【0044】
第1の位置検出バー26と第2の位置検出バー28は、略長方形をなす平板状に形成され、略円弧状に湾曲している。この第1の位置検出バー26には、その長手方向に沿ってガイド孔26aが形成されている。そして、このガイド孔26aに操作アーム5が貫通する。また、第1の位置検出バー26の長手方向の両端には、軸受孔26b,26bが設けられている。同様に、第2の位置検出バー28には、その長手方向に沿ってガイド孔28aが形成されており、長手方向の両端に軸受孔28b,28bが設けられている。
【0045】
そして、第1の位置検出バー26は、回転子4を覆うようにして、第1の支持部11aと第2の支持部11bに回動可能に支持されている。すなわち、第1の位置検出バー26の両端に設けた軸受孔26b,26bには、第1の支持部11a及び第2の支持部11bに設けた軸部18が挿通される。また、この第1の位置検出バー26の回動動作の中心線は、3つの駆動力発生部3A〜3Cに保持されている回転子4の中心を通っている。
【0046】
第1の角度センサ27は、第1の支持部11aの軸部18と第1の位置検出バー26の間に配置される。そして、この第1の角度センサ27は、第1の位置検出バー26の回転角度を検出する。
【0047】
第2の位置検出バー28は、回転子4を覆うようにして、回転子4と第1の位置検出バー26の間に配置される。また、第2の位置検出バー28は、第3の支持部11cと第4の支持部11dに回動可能に支持されている。すなわち、第2の位置検出バー28の両端に設けた軸受孔28b,28bには、第3の支持部11c及び第4の支持部11dに設けた軸部18が挿通される。また、この第2の位置検出バー28の回動動作の中心線は、3つの駆動力発生部3A〜3Cに保持されている回転子4の中心を通っている。
【0048】
また、第2の角度センサ29は、第4の支持部11dの軸部18と第2の位置検出バー28の間に配置される。そして、この第2の角度センサ29は、第2の位置検出バー28の回転角度を検出している。
【0049】
ここで、第1の位置検出部6Aと第2の位置検出部6Bを用いた操作アーム5の第1の方向Xへの傾き及び第2の方向Yへの傾きの検出方法について説明する。
例えば、操作者が操作アーム5を第1の方向Xへ傾けると、操作アーム5は、第2の位置検出バー28のガイド孔28aに沿って移動する。このとき、操作アーム5と第1の位置検出バー26のガイド孔26aが当接することにより、第1の位置検出バー26は、操作アーム5と共に第1の方向Xへ回動する。
【0050】
そして、第1の位置検出バー26の回転角が第1の角度センサ27によって検出される。これにより、操作アーム5の傾き、すなわち回転子4の回転位置が検出される。ここで上述したように、第1の位置検出バー26の回動動作の中心線が、3つの駆動力発生部3A〜3Cに保持されている回転子4の中心を通っている。そのため、スムースに第1の位置検出バー26を回動させることができると共に回転子4を転動させることができる。更に、回転子4の回転位置を正確に検出することが可能である。
【0051】
なお、操作アーム5を第2の方向Yへ傾けた際には、第2の位置検出バー28が第2の方向Yへ回動する。そして、第2の位置検出バー28の回転角度を第2の角度センサ29によって検出することによって、操作アーム5の第2の方向Yへの傾きが、検出される。
【0052】
また、操作アーム5を動かす方向によっては、第1の位置検出バー26及び第2の位置検出バー28がそれぞれ回動する。この場合は、第1の位置検出バー26の回転角度は、第1の角度センサ27で検出され、第2の位置検出バー28の回転角度は、第2の角度センサ29で検出される。これにより、操作アーム5における第1の方向Xと第2の方向Yへの変位を同時に検出することができる。
【0053】
次に、第3の位置検出部6Cは、操作アーム5の軸方向回り、すなわち回転子4が操作アーム5の軸方向を回転中心にして回転する際の回転角度を検出するものである。この第3の位置検出部6Cは、第3の角度センサ31から構成されている。この第3の角度センサ31は、操作アーム5に取り付けられており、操作アーム5の軸方向回りの回転角度を検出している。なお、この操作アーム5の軸方向が、スレーブ側ロボット100の第3の方向Zに相当する。
【0054】
図6は、本例のコントローラ1の概略構成を示すブロック図である
図6に示すように、制御部8は、位置検出部6と、マスタ側力センサ7と、不図示の圧電素子駆動ドライバを介して3つの駆動力発生部3A〜3Cと、スレーブ側ロボット100と接続している。
【0055】
制御部8には、位置検出部6を構成する3つの位置検出部6A〜6Cで検出した操作アーム5の位置情報(回転子4の回転情報)、すなわちスレーブ側ロボット100への操作指令qmが入力される。更に、制御部8には、スレーブ側ロボット100の位置情報qsが入力される。そして、制御部8は、入力された操作指令qmとスレーブ側ロボット100の位置情報qsとの相対変位に基づいてスレーブ側ロボット100を操作する。
【0056】
また、制御部8には、スレーブ側ロボット100のスレーブ側力センサ104によって検出した作業アーム102に作用する力情報fsと、マスタ側力センサ7によって検出した操作アーム5から回転子4に加わる力情報fmが入力される。制御部8は、入力された2つの力情報に基づいて3つの駆動力発生部3A〜3Cを制御する制御信号を生成している。そして、生成した制御信号を、圧電素子駆動ドライバを介して3つの駆動力発生部3A〜3Cに出力することで、3つの駆動力発生部3A〜3Cを制御している。
【0057】
これにより、操作者が操作アーム5を操作するときに、マスタ側力センサ7によって操作時に作用する力を検出し、制御部8は、これを0とするように3つの駆動力発生部3A〜3Cを駆動する。その結果、回転子4と3つの駆動力発生部3A〜3Cの接触片23との摩擦力が大きい場合でも、操作者の手にかかる力を0にすることができ、操作性の向上を図ることができる。
【0058】
また、スレーブ側ロボット100に力が作用すると、制御部8にはスレーブ側力センサ104から力情報fsが入力される。すると、制御部8は、3つの駆動力発生部3A〜3Cを駆動させて、スレーブ側ロボット100に作用した力に相当する力を回転子4に再生する。このとき、回転子4と接触片23との摩擦力はマスタ側力センサ7で操作時に作用する力を検出して打ち消しているため、スレーブ側ロボット100に作用する微細な力を操作者に対して正確に帰還させることができる。その結果、あたかも操作対象物と操作アームがベルトやチェーンで繋がっているような操作の臨場感の向上も図ることが可能である
【0059】
2.コントローラを用いた操作例
次に、図1、図6、図7を参照して本例のコントローラ1を用いたスレーブ側ロボット100の操作について説明する。
【0060】
まず、操作者は、コントローラ1に設けた操作アーム5の把持部5aを把持して、スレーブ側ロボット100を動かしたい方向に傾けたり、回転させたりして操作する。この操作アーム5の動きに合わせて回転子4が転動する。ここで、略球状の等方性の回転子4を用いているため、どの方向に対しても同様に操作することがき、操作の際に異方性が無く快適に操作を行うことができる。
【0061】
操作アーム5が第1の方向X及び/又は第2の方向Yに傾くと、操作アーム5に取り付けられている回転子4が第1の方向X及び/又は第2の方向Yに転動する。更に、操作アーム5が貫通している第1の位置検出バー26及び/又は第2の位置検出バー28が回動する。
【0062】
そして、第1の角度センサ27によって第1の位置検出バー26の回転角度を検出し、第2の角度センサ29によって第2の位置検出バー28の回転角度を検出する。これにより、操作アーム5における第1の方向X及び/又は第2の方向Yへの傾き、すなわち回転子4の回転位置が検出される。ここで、第1の位置検出バー26及び第2の位置検出バー28の回動動作の中心線は、3つの駆動力発生部3A〜3Cに保持されている回転子4の中心を通っている。そのため、回転子4の回転位置を正確に検出することができる。
【0063】
また、操作アーム5をその軸回りに回転させた場合、第3の位置検出部6Cの第3の角度センサ31によって、操作アーム5の回転角度が検出される。
【0064】
次に、図6に示すように、この位置検出部6によって検出された位置情報、すなわち操作指令qmが制御部8に出力される。なお、制御部8には、スレーブ側ロボット100の位置情報qsも入力されている。そして、制御部8は、入力された操作指令qmとスレーブ側ロボット100の位置情報qsとの相対変位に基づいてスレーブ側ロボット100の3つの駆動部103,103,103への駆動信号を生成し、スレーブ側ロボット100へ出力する。その結果、スレーブ側ロボット100の3つの駆動部103は、入力された駆動信号に基づいて駆動し、スレーブ側ロボット100のスレーブ側操作アーム101及び作業アーム102が移動及び/又は回転する。
【0065】
操作アーム5の位置情報と操作対象物であるスレーブ側ロボット100の位置情報が対称となるようにスレーブ側ロボット100を操作した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、操作アーム5の傾き量に応じてスレーブ側ロボット100の第1の方向X及び/又は第2の方向Yへの移動速度が変化するようにスレーブ側ロボット100を制御してもよい。
【0066】
操作者が操作アーム5を操作しているとき、操作アーム5に取り付けたマスタ側力センサ7は、操作アーム5から回転子4に作用する力(操作力)を検出している。ここで、スレーブ側ロボット100に力が作用していない場合、操作アーム5を操作する際に必要な力は、回転子4と接触片23との摩擦力に抗う力である。なお、マスタ側力センサ7は、回転子4の略中心に配置されているため、操作アーム5から回転子4に作用する力を正確に検出することができる。
【0067】
そして、マスタ側力センサ7は、検出した力情報fmを制御部8に出力する。制御部8は、入力された力情報fmに基づいて3つの駆動力発生部3A〜3Cへの駆動信号を生成し、3つの駆動力発生部3A〜3Cに出力する。
【0068】
次に、3つの駆動力発生部3A〜3Cは、入力された駆動信号に基づいて駆動する。具体的には、まず、図示しない圧電素子駆動ドライバから圧電素子24に電圧が印加されて、圧電素子24の電歪現象により微小振動が発生する。そして、この発生した微小振動は、接触片23に伝達されて、接触片23が共振する。
【0069】
ここで、接触片23の表面には、たわみ振動や伸縮振動等の超音波振動が発生する。このとき、円環状に配置された接触片23の列の特定の位置に振動の腹と節が生じる。そして、圧電素子24に印加する電圧を調節することにより、接触片23の列に生じた振動の腹と節の位置が、次々に移動する。その結果、接触片23の列中を円周方向に進む進行波が発生する。
【0070】
ここで、接触片23には、複数の溝23bを形成している。これにより、接触片23に生じる振動の振幅を大きくすることができ、大きなトルクを出力することが可能である。更に、接触片23に回転子4の曲率半径と同率の半径を有するアール面23aを設け、この接触片23をアーム部12a〜12cの接続片17に付与した弾性力によって回転子4に付勢している。これにより、回転子4の表面に接触片23を確実に接触させることができ、接触片23に生じた超音波振動を無駄なく回転子4に伝達させることができる。
【0071】
図1に示すように、接触片23は、回転子4の表面に接触している。そのため、接触片23に生じた円周方向に進む進行波が摩擦力によって回転子4に伝達される。これにより、回転子4には、マスタ側力センサ7で検出した力を打ち消すようなトルクが発生する。その結果、スレーブ側ロボット100に力が作用していない場合、操作者は、回転子4と接触片23との摩擦力を感じることなく、操作アーム5をスムースに操作することができる。
【0072】
図7は、3つの駆動力発生部3A〜3Cの角速度ベクトルと回転子4の角速度ベクトルを示したものである。
各ベクトルの矢印の向きは、各駆動力発生部が発生させた駆動力による回動動作の回転軸の方向を表し、また各ベクトルの長さは、回動動作の角速度(回転トルク)の大きさを表している。
【0073】
3つの駆動力発生部3A〜3Cがそれぞれ角速度ベクトルω〜ωで示される回転トルクを発生し、3つの角速度ベクトルω〜ωの合成ベクトルωの向きを回転軸とする回転トルクが回転子4に対し作用する。なお、合成ベクトルωは、同一の向きと大きさであっても、角速度ベクトルω〜ωの向きと大きさの違いによって複数の組み合わせが考えられる。
【0074】
このように、摩擦駆動により回転子4を回動させているため、ブレーキ機構や減速機構を設ける必要がなく、部品点数を削減することができる。そして、減速機構等を用いずに接触片23の超音波振動を直接回転子4に伝えているため、制御部8からの駆動信号に対して迅速に回転子4にトルクを発生させることができ、応答性の向上を図ることができる。
【0075】
また、操作時に操作アーム5や回転子4に作用する力、いわゆる操作力を検出するマスタ側力センサ7は、回転子4内に配置されている。このように、本例のコントローラ1は、回転子4の内部という従来無駄となっていたスペースを有効に用いることで、装置全体の小型化を図ることを可能としている。
【0076】
更に、3つの駆動力発生部3A〜3Cが駆動する際に、磁界が発生しないため、磁界の影響を受け難い。その結果、本例のコントローラ1は、MRI(magnetic resonance imaging:核磁気共鳴画像法)等の強磁場環境下でも使用することが可能である。
【0077】
また、スレーブ側ロボット100に力が作用すると、スレーブ側力センサ104は、その力を検出し、コントローラ1の制御部8に力情報fsとして出力する。制御部8は、スレーブ側力センサ104から入力された力情報fsとマスタ側力センサ7から入力された力情報fmに基づいて、3つの駆動力発生部3A〜3Cを駆動させる駆動信号生成する。そして、制御部8は、生成した駆動信号を3つの駆動力発生部3A〜3Cに入力して、3つの駆動力発生部3A〜3Cを駆動させる。
【0078】
3つの駆動力発生部3A〜3Cの駆動力発生方法は、上述したものと同一であるため、省略する。そして、この3つの駆動力発生部3A〜3Cからの駆動力によって回転子4にトルクが発生する。これにより、操作者には、操作アーム5を介してスレーブ側ロボット100に作用した力が伝達される。
【0079】
ここで、回転子4と接触片23との摩擦力は、打ち消されているため、スレーブ側ロボット100に作用した微細な力をより正確に操作者に伝えることができる。その結果、あたかも操作対象物と操作アームがベルトやチェーンで繋がっているような操作の臨場感及び没入感を高めることができる。
【0080】
更に、上述したように応答性に優れているため、スレーブ側ロボット100に作用した微細な力を操作者に高速に伝達することができる。本例のコントローラ1であれば、0.1gfという微細な力を1ms以内に操作者に伝達することが可能である。すなわち、力分解能が0.1gfであり、応答時間を1ms以内に設定することができる。
【0081】
上述したような構成を有する本発明のコントローラは、細胞生物学、微細加工やマイクロサージャリー等に用いられるマイクロマニピュレータや、ゲーム機に適用できるものである。また、マイクロマニピュレータやゲーム機以外にもその他各種の装置のコントローラとして用いてもよい。
【0082】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、回転子内にマスタ側力センサと共にLED等の発光部を配置し、この発光部を回転子や操作対象物に作用する力に応じて光の強度や色を変化させるようにしてもよい。これにより、発光部の光の変化によって、操作対象物の状態を操作者に視覚に訴えることができる。操作対象物の状態としては、操作対象物に作用している力の種類や、操作対象物がオーバーロードしているか等である。
【0083】
更に、上述した実施の形態例では、3自由度の操作に用いた例を説明したが、これに限定されるものではなく、操作アームの軸方向回りの回転動作を除いた2自由度で操作してもよい。なお、2自由度の操作の場合、操作アームの軸方向回りの駆動力が必要となくなるため、3つの駆動力発生部を回転子の中心を通る水平面上に配置してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…コントローラ、 2…台座、 3A…第1の駆動力発生部、 3B…第2の駆動力発生部、 3C…第3の駆動力発生部、 4…回転子、 4a…凹部、 5…操作アーム、 5a…把持部、 6…位置検出部、 6a…第1の位置検出部、 6b…第2の位置検出部、 6c…第3の位置検出部、 7…マスタ側力センサ、 8…制御部、 11a…第1の支持部、 11b…第2の支持部、 11c…第3の支持部、 11d…第4の支持部、 12a…第1のアーム部、 12b…第2のアーム部、 12c…第3のアーム部、 17…接続片、 23…接触片、 26…第1の位置検出バー、 27…第1の角度センサ、 28…第2の位置検出バー、 29…第2の角度センサ、 31…第3の角度センサ、 100…スレーブ側ロボット、 fm,fs…力情報、 qm…操作指令、 qs…位置情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作対象物を少なくとも2自由度で操作するコントローラであって、
略球状の回転子と、
前記回転子を転動可能に支持すると共に、超音波振動を発生させて前記回転子を転動させる複数の駆動力発生部と、
前記回転子に取り付けられ、前記回転子を転動させる操作アームと、
前記操作アームの位置情報を検出する位置検出部と、
前記操作アームに取り付けられ前記操作アームから前記回転子に加えられる力を検出するマスタ側力センサと、
前記操作対象物に作用する外力と前記マスタ側力センサによって検出した前記操作アームの力情報に基づいて前記複数の駆動力発生部を制御する制御部と、を備えた
ことを特徴とするコントローラ。
【請求項2】
前記制御部は、前記操作対象物に作用する外力と前記マスタ側力センサによって検出した前記回転子の力の差から前記複数の駆動力発生部を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
前記マスタ側力センサは、前記回転子の略中心に配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコントローラ。
【請求項4】
前記回転子には、前記回転子の略中心にまで達する略円柱状の凹部が形成されており、
前記力センサは、前記回転子に形成した前記凹部に配置される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項5】
前記複数の駆動力発生部は、前記回転子の中心を通る水平方向と略平行な平面から前記操作アームの軸方向へ傾いて配置されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項6】
前記位置検出部は、前記操作アームにおける第1の方向回りの傾きを検出する第1の位置検出部と、前記操作アームにおける前記第1の方向と直交する第2の方向回りの傾きを検出する第2の位置検出部と、前記操作アームの軸方向回りの回転を検出する第3の位置検出部と、を有している
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコントローラ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−129064(P2011−129064A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289657(P2009−289657)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】