説明

コンバイン

【課題】前処理部の略中央に位置する左右の株元側搬送チェンの合流部等に起こる強固な穀稈の詰り現象を簡単に解除できるようにする。
【解決手段】手動操作具である正逆転スイッチ92のON操作に基づいて、自動的に前処理部14を正逆転駆動させる正逆転駆動制御手段98を設け、正逆転スイッチ92をON操作している間は、前処理部14は正逆転駆動を繰り返し、正逆転スイッチ92をONからOFFに切り換え操作することによって、当該前処理部14の正逆転駆動が所定時間正転駆動して終了するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈刃で刈取った穀稈を脱穀部に向けて搬送するコンバインの前処理部における正逆転駆動手段の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、引起装置によって引き起した穀稈を刈刃で刈取りながら脱穀部まで搬送する前処理部(刈取部)を備えるコンバインにおいては、前処理部の搬送系に穀稈の詰り事故等が発生した場合は、前処理部の全駆動系を逆転駆動させることによって、当該詰り穀稈を逆搬送方向に移動させて除去作業や掃除の容易化を図るべく、エンジンの動力が入力される前処理(刈取)入力軸に正逆転クラッチを介設すると共に、この正逆転クラッチを択一的に入作動する操作具を設け、更に引起装置の駆動軸に一方向クラッチを介装して前処理部の逆転駆動時に引起装置のみの逆転を停止させ、前処理部の逆転駆動により引起しタインがタインガイドに衝突して破損することを防止するように構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−75620号公報(第3−4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そして、上述した従来のものでは、前処理部の搬送系に穀稈の詰りが発生した場合は、正逆転クラッチを択一的に入作動する操作具を操作することによって、瞬間的に前処理部の全駆動系を逆転駆動させて、当該詰り穀稈を逆搬送方向に大きく移動させようとするものであるが、長稈や倒伏穀稈等の刈取り作業においては、特に前処理部の略中央に位置する左右の株元側搬送チェンの合流部に強固な穀稈の詰り現象が起こり易く、この強固な穀稈の詰り現象を前処理部の全駆動系を逆転駆動させるだけの簡単な方法で解除することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、刈取った穀稈を脱穀部に向けて搬送する前処理部を備えるコンバインにおいて、手動操作具の操作に基づき、自動的に前処理部を正逆転駆動させる正逆転駆動制御手段を設けたことを第1の特徴としている。
【0005】
そして、前記正逆転駆動をした後に、前処理部が所定時間正転駆動して終了するように構成したことを第2の特徴としている。
【0006】
そして、前処理部の正逆転駆動を逆転駆動から開始させることを第3の特徴としている。
【0007】
そして、前処理部がHSTを介して正逆転駆動されることを第4の特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、手動操作具の操作に基づき、自動的に前処理部を正逆転駆動させる正逆転駆動制御手段を設けたことによって、長稈や倒伏穀稈等の刈取り作業において、前処理部の略中央に位置する左右の株元側搬送チェンの合流部等で強固な穀稈の詰り現象が起こった場合、手動操作具を操作することにより、当該前処理部を自動的に正逆転駆動させることができ、それによって効率的に強固な穀稈の詰り現象を解除することができるようになる。
【0009】
請求項2の発明によれば、前記正逆転駆動をした後に、前処理部が所定時間正転駆動して終了するように構成したことによって、前処理部の各穀稈搬送装置において詰り現象が解除された穀稈を脱穀部に搬送して脱穀処理を行った後、引き続いて脱穀済みの排稈を後処理部から速やかに排出することができる。
【0010】
請求項3の発明によれば、前処理部の正逆転駆動を逆転駆動から開始させることによって、最初に強固な穀稈の詰り現象を解除する方向に前処理部が駆動するので、スムーズ且つ効率的に穀稈の詰り現象を解除できるようになる。
【0011】
請求項4の発明によれば、前処理部がHSTを介して正逆転駆動されるので、従来の如く特別な正逆転機構を設けなくて済みコスト低減が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、コンバイン10の側面図、図2は、平面図であって、該コンバイン10は、左右一対のクローラ走行装置11に機体フレーム12を支持すると共に、機体フレーム12の前方には、穀稈を刈取りながら脱穀部13まで搬送する前処理部14を備えている。また、機体フレーム12上の右側前部には、オペレーターが着座する運転席15と各種の操作具とを備える操縦部16を配置すると共に、その後方且つ脱穀部13の側方には、選別済みの穀粒を一時的に貯留する穀粒タンク17を設けている。
【0013】
そして、運転席15の左側方には、刈刃18によって刈取られた穀稈を脱穀部13に搬送する中継搬送装置19を設けると共に、脱穀部13の左側方には、穀稈を図示しない扱室に供給するフイードチェン21を設けている。
【0014】
更に詳しくは、前処理部14は、圃場内の穀稈を引起装置22によって引起した穀稈を刈刃18で刈取り、刈取った後の穀稈を掻き込みながら後方に送るスターホイル23、及び該スターホイル23と一体回転する係止爪付掻き込みベルト24と、これらスターホイル23と掻き込みベルト24から送られる穀稈を搬送する中継搬送装置19と前処理搬送装置25を備えている。
【0015】
そして、前処理搬送装置25は、スターホイル23から送られる穀稈の株元側を受け継ぎ搬送する左側の株元側搬送チェン26Lと、掻き込みベルト24から送られる穀稈の穂先側を受け継ぎ搬送する穂先側搬送体27によって構成されている。
【0016】
穂先側搬送体27は、穀稈搬送用の起伏可能なタイン28をチェンに取り付けたタイン付搬送チェンからなり、穀稈の搬送作用部において、搬送方向への当該チェンの回転によって図示しないガイドを介してタイン28が引起され、このタイン28に穀稈の穂先側が係止して後方に搬送されるようになっている。
【0017】
尚、前処理搬送装置25を構成する左側の株元側搬送チェン26Lの合流部Aは前処理部14の略中央に位置し、しかも長稈や倒伏穀稈等の刈取り作業においては、当該合流部Aで強固な穀稈の詰り現象が起こり易いことから、この穀稈詰りが発生した場合はその除去作業や掃除に多大な時間を要していた。
【0018】
また、引起装置22は、上下方向に回転する搬送チェン86(図3参照)に取り付けた起伏可能なタイン29を備え、穀稈の引起作用部において、引起方向への当該搬送チェン86の回転によって図示しないガイドを介してタイン29が引起され、このタイン29に穀稈が係止して引起されるようになっている。
【0019】
また、中継搬送装置19は、スターホイル23から送られる穀稈の株元側を受け継ぎ搬送する右側の株元側搬送チェン26Rと、前処理搬送装置25の穂先側搬送体27から穂先側を受け継いで脱穀部13側まで搬送する起伏可能なタイン31を備えたチェンからなる中継穂先搬送体32と、前処理搬送装置25の左側の株元側搬送チェン26Lから穀稈の株元側を受け継いで上下揺動しながら扱ぎ深さ調節を行う扱深搬送装置33と、この扱深搬送装置33から穀稈の株元側を受け継いでフイードチェン21に搬送する中継株元搬送チェン34を備えている。
【0020】
そして、フイードチェン21に搬送された穀稈を、図示しない扱室に供給して穀粒を脱穀すると共に、選別済みの穀粒を一時的に穀粒タンク17に貯留することによって、コンバイン10による一連の穀稈の刈り取り及び脱穀作業を行うことができるようになっている。
【0021】
また、図3は、上述した引起装置22、刈刃18、スターホイル23、掻き込みベルト24、株元側搬送チェン26L,26R、穂先側搬送体27、扱深搬送装置33、中継穂先搬送体32、中継株元搬送チェン34、及びフイードチェン21等の前処理部14の駆動系伝動図であって、入力プーリ41を介してエンジンの動力をギヤケース42に入力すると共に、このギヤケース42に入力した動力を(前処理用)HST(油圧式無段変速装置)43によって変速した後、フイードチェン駆動軸44及び前処理駆動軸45に出力される。尚、前処理部14における穀稈の搬送速度は、車速に応じて比例的に変化する車速同調制御モード、即ち図示しない走行用HSTの回転速度が大きくなれば(前処理用)HST43の回転速度も大きくなるといった制御のもとで通常の刈取り作業が行われている。
【0022】
そして、前記フイードチェン駆動軸44に出力された駆動力は、フイードチェン21に伝動されると共に、前処理駆動軸45に出力された駆動力は、プーリ47、ベルト48、及びプーリ49を介して軸51に伝動された後、この軸51からベベルギヤ52を介して軸53に伝動される。尚、プーリ47とプーリ49の間にはベルトテンション式の刈取クラッチ50を設けている。更に軸53に伝動された駆動力は、当該軸53の中間に設けたベベルギヤ54を介して軸55に伝動された後、ベベルギヤ56を介して軸57に伝動される。この軸57に伝動された駆動力は、直接中継株元搬送チェン34と中継穂先搬送体32に伝動される。
【0023】
また、上述の如く軸53に伝動された駆動力は、ベベルギヤ59を介して軸61にも伝動される。軸61に伝動された駆動力は、ベベルギヤ62、軸63、ベベルギヤ64、軸65を介して扱深搬送装置33に伝動される。そして、軸61に伝動された駆動力は、直接一方(右側)の株元側搬送チェン26Rにも伝動されると共に、該株元側搬送チェン26Rに伝動された駆動力は、一方のスターホイル23の支持(伝動)軸66にも伝動され、この支持軸66に伝動された駆動力によって1組(右側)のスターホイル23,23及び掻き込みベルト24,24が駆動される。
【0024】
更に、軸53に伝動された駆動力は、ベベルギヤ67を介して軸68にも伝動されると共に、この軸68の両端に設けたベベルギヤ69を介して刈刃18に伝動される。そして、軸68に伝動された駆動力は、ベベルギヤ71を介して軸72に伝動された後、この軸72からベベルギヤ73、軸74、ベベルギヤ75を介して軸76に伝動される。
【0025】
そして、軸76に伝動された駆動力は、直接他方(左側)の株元側搬送チェン26Lと穂先側搬送体27に伝動される。更に穂先側搬送体27に伝動され駆動力は、他方のスターホイル23の支持(伝動)軸78にも伝動され、この支持軸78に伝動された駆動力によって1組(左側)のスターホイル23,23及び掻き込みベルト24,24が駆動される。
【0026】
また、上述した軸72に伝動された駆動力は、変速ギヤを内装してなるギヤケース79に伝動され、このギヤケース79内で変速された後に出力軸81から出力される。そして、出力軸81の駆動力は、ベベルギヤ82を介して引起装置22の駆動軸83に伝動され、次いで駆動軸83に配設した複数のベベルギヤ84から引起装置22の各搬送チェン86に駆動力が伝動される。
【0027】
また、ギヤケース79には、引起クラッチ87が設けてあって、この引起クラッチ87によってニュートラルポジションを含む複数段の変速操作を行うことができるようになっている。即ち、ギヤケース79には、前記複数段の変速操作を行う変速アーム88が設けてあり、該変速アーム88の一端を電動シリンダ89のシリンダロッド89aに連結すると共に、該電動シリンダ89に接続した変速切換スイッチ91を介してシリンダロッド89aを伸縮作動させることによって、ニュートラルポジションを含む高低速2段の変速操作がなされる。
【0028】
そして、電動シリンダ89には、前処理部14を正逆転駆動させる手動操作具としての正逆転スイッチ92を接続している。この正逆転スイッチ92は、操縦部16左前側の操作パネル93上(図2参照)に配置してあって、当該正逆転スイッチ92のON・OFF操作に連係して電動シリンダ89のシリンダロッド89aが伸縮作動する。即ち、引起クラッチ87の変速アーム88は、正逆転スイッチ92のON操作によってニュートラルポジションへ作動する一方、正逆転スイッチ92をON操作した状態からOFF操作することによって、引起クラッチ87の高低速2段の何れかの予め設定された変速アーム88位置に復帰作動するようになっている。
【0029】
したがって、引起クラッチ87がニュートラルポジションにある時は、各引起装置22の搬送チェン86は駆動されず、当該引起クラッチ87は、引起装置22への駆動力の伝動を断接する伝動断接手段として作用する。
【0030】
また、正逆転スイッチ92は、上述したHST43のHSTポンプ(斜板式可変容量油圧ポンプ)43aの斜板角度を制御する斜板制御用モータであるHST変速モータ96に接続してあって、HST43は、正逆転スイッチ92のON操作によって出力回転方向が正逆転する一方、正逆転スイッチ92をON操作した状態からOFF操作することによって、当該HST43の出力回転方向とその回転速度が正逆転前の状態に戻るように設定してある。
【0031】
そして、HST43が逆回転出力されると、フイードチェン駆動軸44及び前処理駆動軸45から出力される駆動力は逆回転となり、これによって前処理部14を構成するフイードチェン21、スターホイル23、掻き込みベルト24、左右の株元側搬送チェン26L,26R、穂先側搬送体27、中継穂先搬送体32、扱深搬送装置33、及び中継株元搬送チェン34が逆転駆動するようになっている。
【0032】
更に詳しくは、コンバイン10は、上述した正逆転スイッチ92のON・OFF操作によって、前処理部14の搬送系を構成する各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34、及びフイードチェン21等を正逆転駆動させる正逆転駆動制御手段としての制御部98を図4に示す如く備えており、以下当該制御部98による前処理部14の正逆転駆動制御について説明する。
【0033】
制御部98は、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータを用いて構成される制御ユニットであり、その入力側には、正逆転スイッチ92、主変速レバー101の操作位置を検出する主変速レバーポテンショメータ102、刈取・脱穀クラッチレバー103による刈取クラッチ50の入り側への傾倒操作を検出する刈取クラッチ検出スイッチ104、前処理部14の正逆転回転数を検出するために軸51の軸端に設けた前処理部回転センサ105を接続する共に、出力側には、HST変速モータ96を接続してある。
【0034】
次に、前記制御部98による前処理部14の正逆転駆動制御について、第一実施例である図5に示すフローチャートに基づいて説明する。尚、このフローチャートは、コンバイン10のオペレータが前処理部14の搬送系で穀稈の詰りが発生したことを確認(視認)した場合、当該コンバイン10の走行を停止させた状態(前処理部14も連動して停止)で、上述した正逆転スイッチ92をON操作して前処理部14の搬送系を構成する各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34を正逆転させる制御フローであり、この前処理部14の正逆転によって穀稈の詰り現象を解除しようとするものである。
【0035】
先ず、図5に示すステップS1では、正逆転スイッチ92がONになっているか否かを判断し、YESであればステップS2に進み、NO即ちOFFであれば元に戻る。
【0036】
ステップS2では、主変速レバー101が中立位置になっているか否かを主変速レバーポテンショメータ102によって判断し、YES、即ち走行停止状態であればステップS3に進み、NOであれば元に戻る。
【0037】
ステップS3では、刈取・脱穀クラッチレバー103が入り側へ傾倒操作されて刈取クラッチスイッチ104がONになっているか否かを判断し、YESであればステップS4に進み、NOであれば元に戻る。
【0038】
ステップS4では、HST変速モータ96を逆転駆動出力させてステップS5に進む。
【0039】
ステップS5では、例えば右側の株元側搬送チェン26Rが設定距離Yaほど逆転移動したか否かを、前処理部14の正逆転回転数を検出する前処理部回転センサ105の回転数に基づいて判断し、NOであればステップS6に進み、YESであればステップS7に進む。
【0040】
ステップS6では、HST変速モータ96の逆転駆動出力が設定時間Taほどなされたか否かを判断し、NOであればステップS4に戻り、YESであればステップS7に進む。
【0041】
ステップS7では、HST変速モータ96を正転駆動出力させてステップS8に進む。
【0042】
ステップS8では、例えば右側の株元側搬送チェン26Rが設定距離Ybほど正転移動したか否かを、前処理部14の正逆転回転数を検出する前処理部回転センサ105の回転数に基づいて判断し、NOであればステップS9に進み、YESであれば元に戻る。
【0043】
ステップS9では、HST変速モータ96の正転駆動出力が設定時間Tbほどなされたか否かを判断し、NOであればステップS7に戻り、YESであれば元に戻る制御を実行する。
【0044】
即ち、上述したステップS1からステップS9に示した前処理部14の正逆転駆動制御においては、手動操作具である正逆転スイッチ92をON操作することにより、自動的に前処理部14を正逆転駆動させる正逆転駆動制御手段98を設けたので、長稈や倒伏穀稈等の刈取り作業を行う場合、前処理部14の略中央に位置する左右の株元側搬送チェン26L,26Rの合流部A等で強固な穀稈の詰り現象が起こったとしても、正逆転スイッチ92の一回のON操作に基づいて当該前処理部14を自動的に正逆転駆動させることができ、それによって効率的に強固な穀稈の詰り現象を解除できるようになる。
【0045】
更に、前処理部14の正逆転駆動を逆転駆動から開始させることによって、最初に強固な穀稈の詰り現象を解除する方向に前処理部14が駆動するので、スムーズ且つ効率的に穀稈の詰り現象を解除できるようになる。
【0046】
そして、ステップS5において、株元側搬送チェン26Rが設定距離Yaほど逆転移動しない場合、即ちHST変速モータ96を逆転駆動出力させても穀稈の詰り現象が速やかに解除されない場合は、ステップS6に進んで設定時間Ta以上の逆転駆動出力が行なわれないように構成してあって、それにより極めて強固な穀稈の詰り現象が発生した場合でも無理な負荷が掛かる当該逆転駆動が継続されることがない。尚、ステップS8からステップS9においても同様に、株元側搬送チェン26Rが設定距離Ybほど正転移動しない場合は、設定時間Tb以上の正転駆動出力が行なわれないように安全策を採用している。
【0047】
また、ステップS5における株元側搬送チェン26Rの逆転移動距離の設定値Yaと、ステップS8における株元側搬送チェン26Rの正転移動距離の設定値Ybとの関係をYb>Yaとすることによって、前処理部14の穀稈搬送系を構成する各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34において穀稈の詰り現象が起こった場合、当該前処理部14の不要(過剰)な逆転駆動による各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34の破損を回避できるようになる。尚、上述した株元側搬送チェン26Rの逆転移動距離の設定値Yaと、株元側搬送チェン26Rの正転移動距離の設定値Ybとを、共に正転出力設定時間Tbと逆転出力設定時間Taに置き換えてTb>Taとなるように構成してもよい。
【0048】
そして、前処理部14の各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34における穀稈の詰り現象の解除状態を見極めながら、正逆転スイッチ92をON・OFF操作することが可能なので効率的に穀稈の詰り現象を解除できるようになる。
【0049】
また、HST変速モータ96を逆転駆動させる出力設定時間Taを更に短く設定することによって、例えば前処理部14を構成する引起装置22のタイン29の実質的な逆転移動量が少なくなるように制御できることから、前記タイン29がタインガイドに衝突して破損することを防止でき、それによって従来のように引起装置22の駆動軸に一方向クラッチを介装しなくても済むようになることからコストダウンを図ることも可能である。
【0050】
ところで、本実施例の如く引起装置22の搬送チェン86の駆動を選択的に停止できる引起クラッチ87を備えている場合は、引起装置22の搬送チェン86の駆動を停止させ
ることによって、引起装置22のタイン29がタインガイドに衝突して破損することが起こらないので、その他の前処理部14の各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34を正逆転駆動させるHST変速モータ96の逆転出力設定時間Taと正転出力設定時間Tbの関係が、Ta=TbあるいはTa>Tbとなるように構成してもよい。
【0051】
次に、制御部98による前処理部14の正逆転駆動制御の第二実施例を図6に示すフローチャートに基づいて説明する。尚、このフローチャートも第一実施例と同様に、コンバイン10のオペレータが前処理部14の搬送系で穀稈の詰りが発生したことを確認(視認)した場合、当該コンバイン10の走行を停止させた状態で、上述した正逆転スイッチ92をON操作して前処理部14の搬送系を構成する各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34を正逆転させる制御フローであり、この制御フローでは前処理部14の正逆転によって穀稈の詰り現象を解除すると共に、詰り現象が解除された穀稈を脱穀部13に搬送して脱穀処理を行った後、脱穀済みの排稈を後処理部(不図示)から速やかに排出しようとするものである。
【0052】
先ず、図6に示すステップS1では、前回、正逆転スイッチ92がOFF操作されたか否かを判断し、YESであればステップS2に進み、NOであれば元に戻る。
【0053】
ステップS2では、今回、正逆転スイッチ92がON操作されたか否かを判断し、YESであればステップS3に進み、NOであれば元に戻る。
【0054】
ステップS3では、主変速レバー101が中立位置になっているか否かを主変速レバーポテンショメータ102によって判断し、YES、即ち走行停止状態であればステップS4に進み、NOであれば元に戻る。
【0055】
ステップS4では、刈取・脱穀クラッチレバー103が入り側へ傾倒操作されて刈取クラッチスイッチ104がONになっているか否かを判断し、YESであればステップS5に進み、NOであれば元に戻る。
【0056】
ステップS5では、HST変速モータ96を正逆転駆動出力させてステップS6に進む。尚、HST変速モータ96の正逆転駆動時間、即ちHST変速モータ96を正逆転させる出力時間は、正転>逆転となるように設定してあり、それによって前処理部14の不要(過剰)な逆転駆動による各穀稈搬送装置23,23,24,26L,26R,27,32,33,34の破損を回避しながら、効率的に穀稈の詰り現象を解除できるようにしている。
【0057】
そして、ステップS6では、HST変速モータ96を正逆転駆動出力が所定の設定回数Kほど繰り返されたか否かを判断し、YES、即ち前処理部14の正逆転駆動によって穀稈の詰り現象が解除された状態でステップS7に進み、NOであればステップS5に戻る。
【0058】
ステップS7では、HST変速モータ96の正転駆動出力が所定時間なされる制御を実行する。即ち、ステップS1からステップS7に示した前処理部14の正逆転駆動制御によれば、詰り現象が解除された穀稈を脱穀部13に搬送して脱穀処理を行った後、脱穀済みの排稈を後処理部(不図示)から速やかに排出する一連の制御を実行できるようにしている。
【0059】
そして、上述した前処理部14の正逆転駆動制御の第一実施例と第二実施例は、何れも従来のような前処理部14の搬送系を構成する各穀稈搬送装置23,24,26L,26R,27,32,33,34を大きく逆転させて強固な穀稈の詰り現象を解除し、それによって詰り穀稈を取り除こうとするものではなく、比較的短いストロークの正逆転を自動的に繰り返すことにより強固な穀稈の詰り現象を解除し、更には詰り現象が解除された当該穀稈を脱穀部13に搬送して脱穀処理を行った後、脱穀済みの排稈が後処理部(不図示)から速やかに排出できるようにしようとするものである。
【0060】
また、上述した前処理部14の正逆転駆動は、HST43のHSTポンプ43aの斜板角度を制御する斜板制御用モータであるHST変速モータ96を介して行われるので、従来の如く特別な正逆転クラッチや操作具を設けなくて済みコスト低減が図れる。尚、前処理部14の正逆転制御パターンとしては、単なる逆転・正転を1サイクルとする繰り返しパターンだけではなく、例えば夫々の駆動時間が異なる逆転・逆転・正転を1サイクルとするような様々な正逆転制御パターンを構成することが可能である。
【0061】
また、刈取った後の穀稈の株元を掻き込みながら後方に送るスターホイル23の支持(伝動)軸68,78に、図示しないカムクラッチ、または逆入力遮断手段である回転力を入力軸側から出力軸側にのみ伝えることができるが、その逆方向には回転力を伝えることができないクラッチ手段等を介装することによって、スターホイル23に穀稈の詰りが発生した際に、当該スターホイル23の正・逆転方向への自由回転を可能にして、詰り穀稈の除去作業の容易化を図ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】コンバインの側面図。
【図2】コンバインの平面図。
【図3】制御部のブロック図。
【図4】駆動スプロケットの側面図。
【図5】前処理部の正逆転駆動制御の第一実施例を示すフローチャート。
【図6】前処理部の正逆転駆動制御の第二実施例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0063】
13 脱穀部
14 前処理部
43 HST
92 手動操作具
98 正逆転駆動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取った穀稈を脱穀部(13)に向けて搬送する前処理部(14)を備えるコンバインにおいて、手動操作具(92)の操作に基づき、自動的に前処理部(14)を正逆転駆動させる正逆転駆動制御手段(98)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記正逆転駆動をした後に、前処理部(14)が所定時間正転駆動して終了するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前処理部(14)の正逆転駆動を逆転駆動から開始させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンバイン。
【請求項4】
前処理部(14)がHST(43)を介して正逆転駆動されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−223132(P2006−223132A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38552(P2005−38552)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】