説明

コンバイン

【課題】コンバインで手扱ぎ作業を行っている際に、作業者の衣服等がフィードチェンに巻き込まれにくくする技術を提供する。
【解決手段】エンジン(14)の駆動力を分岐して各作業装置を駆動するコンバインにおいて、脱穀装置(4)のフィードチェン(12)の駆動経路に動力の伝動を断続するフィードチェン駆動クラッチ(29)を設けると共にこのフィードチェン駆動クラッチ(29)の伝動下手側にフィードチェンブレーキ(31)を設け、手扱ぎ作業時に作業者が操作可能なコンバインの機体側部の位置に、フィードチェン駆動クラッチ(29)とフィードチェンブレーキ(31)を同時に作動させる緊急停止操作具(43)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインは走行しながら刈取装置で刈り取った穀稈を脱穀装置で脱穀するが、刈取装置で刈れない枕地(圃場の畦近くの隅部)の穀稈は作業者が手で刈り取って畦に置いておき、圃場の全面をコンバインで刈り取った後に、コンバインを枕地に停止して既に刈っている穀稈を作業者が手で持って脱穀装置のフィードチェン前端部に供給して脱穀するいわゆる手扱ぎ作業を行う。
【0003】
この手扱ぎ作業は、作業者の作業服等がフィードチェンに巻き込まれる危険性がある。そのために、特開平11−289851号公報には、手扱ぎ作業中の作業者が手動操作可能な位置に手動レバーを設け、この手動レバーを一度下向きに回動すると刈取装置の駆動を停止し脱穀装置を駆動し、もう一度下向きに回動すると脱穀装置の駆動を停止するようにして、緊急時には手動レバーを押し下げて脱穀装置の駆動を停止するようにした技術が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−289851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の緊急時に手動レバーを押し下げて脱穀装置の駆動を停止してフィードチェンに巻き込まれるのを防ぐ技術は、脱穀装置の駆動クラッチを切っても脱穀装置の扱胴の慣性力が大きく直ちにフィードチェンや脱穀装置が止まらず、作業者の衣服等が脱穀装置内まで送り込まれて扱胴の扱歯に接触することが有る。
【0006】
そこで、本発明は、コンバインで手扱ぎ作業を行っている際に、作業者の衣服等がフィードチェンに巻き込まれにくくする技術を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、エンジン(14)の駆動力を分岐して各作業装置を駆動するコンバインにおいて、脱穀装置(4)のフィードチェン(12)の駆動経路に動力の伝動を断続するフィードチェン駆動クラッチ(29)を設けると共にこのフィードチェン駆動クラッチ(29)の伝動下手側にフィードチェンブレーキ(31)を設け、手扱ぎ作業時に作業者が操作可能なコンバインの機体側部の位置に、前記フィードチェン駆動クラッチ(29)とフィードチェンブレーキ(31)を同時に作動させる緊急停止操作具(43)を設けたことを特徴とするコンバインとした。
【0008】
この構成で、手扱ぎ作業中に危険を感じると緊急停止操作具(43)を操作してフィードチェン(12)の駆動を停止する。この緊急停止を行うと、フィードチェン駆動クラッチ(29)が切れフィードチェンブレーキ(31)が作動するので、フィードチェン(12)が直ちに停止して作業者の衣服等が脱穀装置の内部に引き込まれにくくなる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記脱穀装置(4)の扱胴(22)の駆動を断続する扱胴クラッチ(19)を設け、緊急停止操作具(43)の停止操作時に扱胴クラッチ(19)を切り作動させる構成としたことを特徴とする請求項1に記載のコンバインとした。
【0010】
この構成で、緊急停止操作具(43)を操作するとフィードチェン(12)と共に扱胴(22)の駆動が停止するので、例え作業者の衣服等が脱穀装置(4)の内部に巻き込まれても扱胴(22)の扱歯で損傷しにくくなる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記フィードチェン(12)に対向して刈取穀稈を挟持する挟扼杆(13)を脱穀上部カバー(37)に設け、該脱穀上部カバー(37)を開放側に付勢すると共に脱穀上部カバー(37)を閉鎖状態にロックする閉鎖ロック(46)を前記緊急停止操作具(43)に連動させ、該緊急停止操作具(43)の停止操作時に閉鎖ロック(46)を解除して脱穀上部カバー(37)を上方へ跳ね上げて挟扼杆(13)をフィードチェン(12)から離間させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンバインとした。
【0012】
この構成で、もし、作業者の衣服等がフィードチェン(12)に巻き込まれても、緊急停止操作具(43)を操作すると挟扼杆(13)がフィードチェン(12)から離れるので、巻き込まれた部分を引き離すことができ、脱穀装置の内部に引き込まれにくくなる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によると、緊急停止操作具(43)の操作によって、フィードチェン駆動クラッチ(29)を切ってフィードチェンブレーキ(31)を作動させ、フィードチェン(12)を直ちに停止させるので、作業者の衣服などが巻き込まれにくくなる。
【0014】
請求項2に記載の発明によると、上記請求項1に記載の発明の効果に加え、例え作業者の衣服等がフィードチェン(12)に巻き込まれても扱胴(22)の扱歯で損傷することを防げる。
【0015】
請求項3に記載の発明によると、上記請求項1または請求項2に記載の発明の効果に加え、例え作業者の衣服等がフィードチェン(12)に巻き込まれても、挟扼杆(13)がフィードチェン(12)から離れて巻き込み部分が外れ、脱穀装置(4)の外部に逃がすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】コンバインの全体左側面図である。
【図2】コンバインの全体平面図である。
【図3】コンバインの全体正面図である。
【図4】コンバインの動力伝動線図である。
【図5】コンバインの拡大正断面図である。
【図6】一部の拡大断面図である。
【図7】一部の作動状態を示す側断面図である。
【図8】別実施例を示すコンバインの全体左側面図である。
【図9】別実施例を示すコンバインの左側断面図である。
【図10】別実施例の一部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
まず、図1乃至図3に基づき本発明を具備するコンバインの全体構成について説明する。図1にはコンバインの全体側面図、図2には全体平面図、図3には正面図が図示されている。
【0018】
コンバイン1の走行車台2の下方には左右走行クローラ3,3を配設し、走行車台2上に脱穀装置4を搭載し、走行車台2の前側部には刈取搬送部5を昇降自在に設けている。
この刈取搬送部5は、複数の分草杆6,…、四列の穀稈引起し装置7、刈刃装置8、穀稈搬送装置(図示省略)等により構成している。
【0019】
刈取搬送部5の後側の左側に脱穀装置4を搭載し、右側に操縦席9とグレンタンク10を搭載し、脱穀装置4の後部に排稈カッター11を装着している。
刈取搬送部5の刈刃装置8で刈り取られた穀稈は、穀稈搬送装置で脱穀装置4のフィードチェン12と挟扼杆13に引き継がれて穂先側が脱穀装置4内部の扱胴22で脱穀され、脱穀された穀粒が選別されてグレンタンク10に蓄えられて、脱穀済の排稈が排稈カッター11で細断されて圃場へ散布される。
【0020】
図4に駆動力伝動経路を示している。
エンジン14の出力軸15に三個の出力プーリを固着し、第一伝動ベルト16でグレンタンク10の揚穀螺旋18を駆動し、第二伝動ベルト17で唐箕軸20に伝動し、第三伝動ベルト34で油圧無段変速装置35を経由して走行クローラ3のミッションケース36に動力を伝動する。
【0021】
第二伝動ベルト17に本発明の扱胴クラッチ19であるクラッチプーリを設けて動力の断続を行い、入力側の唐箕軸20は直接唐箕25を駆動し、さらに、第四伝動ベルト20aで処理胴21と扱胴22及び、排稈穂先チェン23と排稈株元チェン24を駆動し、第五伝動ベルト20bで揺動軸32に伝動して揺動棚33とフィードチェン12を駆動し、第六伝動ベルト20cで一番螺旋26と二番螺旋27と吸引ファン28と排稈カッター11を駆動する。第五伝動ベルト20bには本発明のフィードチェン駆動クラッチ29とフィードチェンブレーキ31であるクラッチプーリを設けて動力の断続を行い、揺動軸32の入力プーリ30に本発明のフィードチェンブレーキ31であるディスクブレーキを作用するようにして、揺動軸32の回転、すなわち、揺動棚33とフィードチェン12の駆動が直ちに停止するようにしている。
【0022】
なお、扱胴クラッチ19は、扱胴22の駆動部直前に設けても良い。
また、扱胴クラッチ19を設けず、緊急停止操作具43を操作するとエンジン14の駆動を停止と共にブレークを掛けて、フィードチェン12の駆動伝動部の近くに設けるブレーキ31を作動する構成や扱胴22の駆動伝動部の近くに設けるブレーキを作動する構成も考えられるが、回転慣性部分が多くてフィードチェン12が止まり難い問題が有る。
【0023】
図5に示す如く、脱穀装置4の左側部に設けるフィードチェン12が脱穀装置4本体の下側に配設され、これに対向して挟扼杆13が脱穀部4の脱穀上部カバー37に装着され、刈取穀稈がフィードチェン12と挟扼杆13で挟持されて後方へ送られ、穂先側が扱胴22の扱歯22aで脱穀される。
【0024】
脱穀上部カバー37はヒンジ38で上方へ開放付勢して取り付けられ、この脱穀上部カバー37の左側面に緊急停止操作具43の一例である緊急停止スイッチが設けられ、この緊急停止スイッチ43を押すと、図7に示す如く、緊急モータ39が回転して、この緊急モータ39に第三ワイヤ42で連結したクラッチプーリ29が切られ、第一ワイヤ40で連結したブレーキ31が作動して揺動軸32の回転を直ちに停止してフィードチェン12の駆動を止める。さらに、緊急モータ39に第二ワイヤ41で連結した扱胴クラッチ19が切られて唐箕軸20の駆動が停止して扱胴22の回転が停止する。
【0025】
図6は、上部カバー37のロック構造を示し、上部カバー37を本体側に係止するロック爪46を開閉レバー47で開閉させると共に、閉鎖ロック46に電動ソレノイド44をワイヤ45で連結し、緊急停止操作具43である緊急停止スイッチを押すと電動ソレノイド44が作動して閉鎖ロック46を開き脱穀上部カバー37が開口付勢力で開放する。
【0026】
この緊急停止操作具43操作による脱穀上部カバー37の開放は単独でも良いが、前記フィードチェン12の強制停止と扱胴22の駆動停止を組み合わせても良い。
図8は、別実施例として、緊急停止操作具43として足踏み緊急停止スイッチ48を設けた構成で、脱穀装置4の側部収納位置49に止めていて、手扱ぎ作業時に作業者の足元圃場面に設置しておいて、緊急時に作業者が足で踏むことでフィードチェン12の駆動を停止する。足踏み緊急停止スイッチ48の信号は、有線或いは無線で制御装置に送られるようにする。この構成は、両手がフィードチェン12に巻き込まれた場合に有効である。なお、足踏み緊急停止スイッチ48に踏み込み量を調整するペダルを設け、踏み込み深さによってフィードチェン12の移送速度を変更出来るようにしても良い。
【0027】
図9と図10は、フィードチェン12の駆動をエンジン14から分離して、駆動モータ50で行うようにした実施例で、ブレーキ51付きの駆動モータ50の駆動力をギヤケース52を介してフィードチェン12に伝動する構成で、緊急停止操作具43を操作すると駆動モータ50を強制停止してフィードチェン12を止めるか、フィードチェン12を一定時間逆回転して停止する。
【0028】
また、緊急停止操作具43に並べて低速スイッチを設け、この低速スイッチを押すとフィードチェン12を遅く出来るようにしても良い。
【符号の説明】
【0029】
1 コンバイン
4 脱穀装置
12 フィードチェン
13 挟扼杆
14 エンジン
19 扱胴クラッチ
22 扱胴
29 フィードチェン駆動クラッチ
31 フィードチェンブレーキ
37 脱穀上部カバー
43 緊急停止操作具
46 閉鎖ロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(14)の駆動力を分岐して各作業装置を駆動するコンバインにおいて、脱穀装置(4)のフィードチェン(12)の駆動経路に動力の伝動を断続するフィードチェン駆動クラッチ(29)を設けると共にこのフィードチェン駆動クラッチ(29)の伝動下手側にフィードチェンブレーキ(31)を設け、手扱ぎ作業時に作業者が操作可能なコンバインの機体側部の位置に、前記フィードチェン駆動クラッチ(29)とフィードチェンブレーキ(31)を同時に作動させる緊急停止操作具(43)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記脱穀装置(4)の扱胴(22)の駆動を断続する扱胴クラッチ(19)を設け、緊急停止操作具(43)の停止操作時に扱胴クラッチ(19)を切り作動させる構成としたことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記フィードチェン(12)に対向して刈取穀稈を挟持する挟扼杆(13)を脱穀上部カバー(37)に設け、該脱穀上部カバー(37)を開放側に付勢すると共に脱穀上部カバー(37)を閉鎖状態にロックする閉鎖ロック(46)を前記緊急停止操作具(43)に連動させ、該緊急停止操作具(43)の停止操作時に閉鎖ロック(46)を解除して脱穀上部カバー(37)を上方へ跳ね上げて挟扼杆(13)をフィードチェン(12)から離間させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−19743(P2012−19743A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160807(P2010−160807)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】