説明

シリコン屑から炭化珪素を製造する方法

【課題】シリコンウエハーの製造工程において生じる多量のシリコン切削屑等を原料として、工業材料に適する品質の炭化珪素を経済的に製造する方法を提供する。
【解決手段】シリコン屑に対してカーボン粉を当量以上混合し、この混合粉を、非酸化性雰囲気下、1000℃〜1400℃で、6時間〜24時間加熱してシリコン屑とカーボン粉を反応させて炭化珪素を製造し、冷却後、酸洗浄して不純物を除去し、乾燥することを特徴とする炭化珪素の製造方法であって、好ましくは、シリコンウエハーの製造工程において生じたシリコン切削屑を用い、シリコン切削屑を脱脂処理ないし脱水処理した後にカーボン粉と混合し、加熱処理後に生成物を酸浸出した後に、水またはアルコールで洗浄して不純物を除去する炭化珪素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン屑を原料として炭化珪素を製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、シリコンウエハーの製造工程において生じる多量のシリコン切削屑等を原料として、工業材料に適する品質の炭化珪素を経済的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料として使用されるシリコンウエハーの製造工程では、単結晶シリコン棒からウエハーを切り出すときにウエハーの枚数分とほぼ同量のシリコン切削屑が発生する。シリコンウエハーが薄くなり、ウエハーの枚数が多くなるのに伴い、シリコン切削屑も増加している。シリコンウエハーに用いられる単結晶シリコンは極めて高純度であるので、多量に発生するシリコン切削屑を回収して有効に再利用することができれば、産業上の利点が大きい。
【0003】
このシリコン切削屑には鉄等が混在しているので、再利用するにはこれらの不純物を経済的に除去する必要がある。具体的には、シリコンウエハーを製造するには、一般に、ワイヤーソーを用いて高純度の単結晶シリコン棒を薄くスライスする。このワイヤーソーには高硬度の炭化珪素粉末が付着されており、この炭化珪素粉末が砥石の役割を果たしてシリコン棒を切削し、薄板状のウエハーが切り出される。このため、シリコン切削屑には炭化珪素粉とワイヤーに起因する鉄粉が混在している。このため、シリコン切削屑を再利用するにはこれらの不純物を除去する必要があるが、炭化珪素は珪素と性質が似ているので、シリコン切削屑から炭化珪素を経済的に除去するのは難しいと云う問題がある。
【0004】
一方、炭化珪素は従来から研磨材や耐火材として広く利用されておら、近年は高純度化および高緻密化によってエンジニアセラミックス原料としての用途が高まっている。この炭化珪素の工業的に確立された製造方法としては、アチソン法とシリカの直接還元法が知られている。
【0005】
アチソン法は、ケイ石にコークスを混合して2000℃前後に加熱し、焼結させてα型炭化珪素を製造する。シリカの直接還元法は、シリカ粉末に炭素粉末を混合し、これをペレット化し、2000℃前後に加熱して焼結させてβ型炭化珪素を製造する。
【0006】
アチソン法およびシリカ直接還元法は何れも安価なケイ石やシリカ、コークスを用いて炭化珪素を製造できる利点を有しているが、ケイ石やシリカ(SiO2)を出発原料とするため高温の加熱処理を必要とする。また、不純物が混入しやすいため高純度の半導体材料には適しないなどの問題がある。具体的には、アチソン法で製造される炭化珪素粉末はバルク状であるため粉砕する必要があり、この粉砕工程において不純物の混入を招きやすく、また炭化珪素粉末の粒径の制御が難しい。
【0007】
一方、金属シリコン(Si)を原料とし、炭素と反応させて炭化珪素を製造する直接合成方法も検討されているが(特開2002−316812号公報参照)、製造される炭化珪素粉末は粒径が粗く、また原料の金属シリコンは高価であり、かつ微粉砕するコストも要するため、工業生産に適しないと云う問題がある。
【0008】
また、金属シリコンを原料として炭化珪素を製造する方法として、混練容器内周面および混連棒外周面に気相反応によって高純度の炭化珪素膜を形成し、この混練容器にシリコン粉末と炭素粉末を入れ、50℃〜100℃の温度下、5〜10パスカルの加圧下で混合することによって炭化珪素粉末を製造する方法が知られている(特開2000−44223号公報参照)。しかし、この方法は予め混練容器を製造するので工程が煩雑であり、しかも大量生産できないなどの問題がある。なお、炭化珪素の一般的な製造方法が、「セラミック」、22号(1987年発行)、46頁〜50頁に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−316812号公報
【特許文献1】特開2000−44223号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】セラミック、22号(1987年発行)、46頁〜50頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、シリコンウエハーの製造工程において発生するシリコン切削屑等を有効に利用すると共に従来の炭化珪素の製造方法における上記問題を解決した炭化珪素の製造方法を提供する。すなわち、本発明は、シリコンウエハーの製造工程において発生するシリコン切削屑等を有効に利用することができ、かつシリコン粉(Si)を原料に用いるので1000℃〜1400℃程度の加熱処理でよく、2000℃前後の高温処理を必要とせず、しかも、鉄等の不純物を効率よく除去することができ、工業的に利用することができる品位の炭化珪素を経済的に製造することができる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の技術構成によって上記課題を解決した炭化珪素の製造方法である。
〔1〕シリコン屑に対してカーボン粉を当量以上混合し、この混合粉を、非酸化性雰囲気下、1000℃〜1400℃で、6時間〜24時間加熱してシリコン屑とカーボン粉を反応させて炭化珪素を製造し、冷却後、酸洗浄して不純物を除去し、乾燥することを特徴とする炭化珪素の製造方法。
〔2〕シリコン屑がシリコンウエハーの切断工程において生じたシリコンスラッジである上記[1]に記載する炭化珪素の製造方法。
〔3〕シリコン屑を脱脂処理ないし脱水処理した後にカーボン粉と混合し、該混合粉をペレット化して加熱処理する上記[1]または上記[2]の何れかに記載する炭化珪素の製造方法。
〔4〕シリコン屑に対してカーボン粉を当量以上混合した混合粉をペレット化し、密閉中、不活性ガスまたは還元性ガスまたは真空中で加熱する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する炭化珪素の製造方法。
〔5〕加熱処理後に生成物を酸浸出した後に、水またはアルコールで洗浄して不純物を除去する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する炭化珪素の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は、シリコンウエハーの製造工程において生じたシリコン切削屑などを原料とするので、炭化珪素を安価に製造することができる。これらのシリコン切削屑は金属シリコンを回収しようとすると有効なリサイクル手段がなく、現在は廃棄物処理されているが、本発明の製造方法はシリコン切削屑を炭化珪素にして回収するので、シリコン切削屑に混在している炭化珪素粉末を除去する必要がなく、廃棄物処理されているシリコン切削屑を有効に再利用することができる。
【0014】
また、本発明の製造方法は、金属シリコンであるシリコン切削屑を原料とするので、シリカ(SiO2)を原料として用いる方法よりも低い反応温度、約1000℃〜1400℃で炭化珪素を製造することができ、経済的に有利である。
【0015】
さらに、本発明の製造方法では、加熱処理によって生成される炭化珪素は軽く解砕して粉末になるので、従来の製造方法のような粉砕工程を必要としない。一般に、シリコン切削屑の平均粒径は概ね0.5〜20μmであり、これを加熱処理して炭素粉末と反応させて生じる炭化珪素は、反応温度が約1000℃〜1400℃であるので、粉末の焼結状態が緩く、軽く解砕するだけで原料のシリコン切削屑と同程度の粉末になる。従って、反応後に粉砕工程を必要とせず、粉砕装置から鉄などの不純物が混入する問題がなく、純度の高い炭化珪素を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る製造方法の概略を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。本発明の製造方法の概略を図1に示す。図示するように、本発明の製造方法は、シリコン屑に対してカーボン粉を当量以上混合し、この混合粉を、好ましくはペレット化し、非酸化性雰囲気下、1000℃〜140℃で、6時間〜24時間加熱してシリコン屑とカーボン粉を反応させて炭化珪素を製造し、冷却後、酸洗浄して不純物を除去し、乾燥することを特徴とする炭化珪素の製造方法である。
【0018】
原料のシリコン屑はシリコンウエハーの切断工程において生じたシリコン切削屑(シリコンスラッジと云う)、加工済みスラリーなどを用いることができる。シリコンスラッジは脱水処理および脱脂処理し、また磁気選別によって鉄を除去して用いると良い。脱脂処理は酸洗浄、アルカリ洗浄、アルコール洗浄すれば良い。洗浄処理後、乾燥しカーボン粉と混合する。
【0019】
カーボン粉は、高純度の炭化珪素を製造するには純炭素粉を用い、耐火材や研磨剤、エンジニアセラミックなどに用いる炭化珪素を製造するにはコークス粉などを用いることができる。
【0020】
シリコン屑に対してカーボン粉を当量以上混合する。具体的には、脱脂乾燥したシリコンスラッジ1kgに対して、カーボン粉0.4kg〜0.8kgを混合するのが良い。カーボン粉が当量より少ないと未反応のシリコン屑が多くなる。カーボン粉が多過ぎると未反応のカーボン量が増えるので無駄にになる。
【0021】
シリコン屑とカーボン粉の混合粉をペレット化して加熱炉に入れ、非酸化性雰囲気下で加熱処理する。加熱炉内を非酸化性雰囲気にするには、炉を密閉遮断するか、不活性ガスまたは還元ガスを炉内に導入すればよく、また真空雰囲気にしても良い。
【0022】
加熱処理温度は1000℃〜1400℃が適当であり、6時間〜24時間加熱する。この加熱処理によってシリコン屑とカーボン粉が反応して炭化珪素が製造される。製造された炭化珪素粉末は焼結状態が緩く、軽く解砕するだけで原料のシリコン切削屑と同程度の粉末になる。
【0023】
解砕した炭化珪素粉末をフッ酸等に浸漬して酸浸出し、あるいはフッ酸等を用いて酸洗浄し、炭化珪素粉末中に残留する鉄等を溶解して除去する。炭化珪素はフッ酸等には溶解しないので、鉄等が選択的に溶解して除去される。次いで、水またはアルコールで洗浄してフッ酸等を洗い流した後に乾燥して、鉄等の不純物を除去した微細な高品質の炭化珪素粉末を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を示す。
〔実施例1〕
シリコンウエハーの切断工程において生じたシリコンスラッジ(平均粒径7〜8μm)をアルコール洗浄して脱脂した後に乾燥し、さらに磁気選別処理して鉄を除いたものを原料として用いた。このシリコンスラッジ500gにカーボンブラック115gを混合し、ペレットにした。この混合粉ペレットを反応炉に装入して炉内を窒素ガス雰囲気に調整し、1380℃の温度で6時間加熱した。加熱後、徐冷し、生成物を軽く解砕した後にフッ酸に1時間浸漬した後に引き上げて濾過し、水洗し乾燥して合成炭化珪素粉(平均粒径10μm〜15μm)を得た。この結果を表1に示した。なお、生成物についてX線回折によって炭化珪素(SiC)であることを確認した。
【0025】
【表1】

【0026】
〔実施例2〜5〕
実施例1と同じシリコンスラッジおよびカーボン粉を用い、表2に示す製造条件に従い、実施例1と同様の製造工程によって炭化珪素粉末を製造した。この結果を表2に示す。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン屑に対してカーボン粉を当量以上混合し、この混合粉を、非酸化性雰囲気下、1000℃〜1400℃で、6時間〜24時間加熱してシリコン屑とカーボン粉を反応させて炭化珪素を製造し、冷却後、酸洗浄して不純物を除去し、乾燥することを特徴とする炭化珪素の製造方法。
【請求項2】
シリコン屑がシリコンウエハーの切断工程において生じたシリコンスラッジである請求項1に記載する炭化珪素の製造方法。
【請求項3】
シリコン屑を脱脂処理ないし脱水処理した後にカーボン粉と混合し、該混合粉をペレット化して加熱処理する請求項1または請求項2の何れかに記載する炭化珪素の製造方法。
【請求項4】
シリコン屑に対してカーボン粉を当量以上混合した混合粉をペレット化し、密閉中、不活性ガスまたは還元性ガスまたは真空中で加熱する請求項1〜請求項3の何れかに記載する炭化珪素の製造方法。
【請求項5】
加熱処理後に生成物を酸浸出した後に、水またはアルコールで洗浄して不純物を除去する請求項1〜請求項4の何れかに記載する炭化珪素の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−173916(P2010−173916A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20598(P2009−20598)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】