説明

スイッチング電源装置

【課題】主スイッチング素子とクランプ素子のオン・オフのタイミング設定を容易に適正化することができ、電源効率も容易に向上させることが可能なアクティブクランプ方式のスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】トランス14に発生する電圧を制限するクランプ素子28とクランプコンデンサ30を有する。一次巻線14aの直流入力電源12側の一端にアノード端子が接続された補助ダイオード40と、補助ダイオード40のカソード端子と一次巻線14aの他端との間に接続された補助コンデンサ42とを備える。補助ダイオード40のカソード端子の電位と一次巻線14aの直流入力電源12側の電位とを比較し、クランプ素子28をオンさせるクランプ素子オン回路44を備える。インバータ動作制御回路20からのオフタイミング信号に基づき、クランプ素子オフ信号を出力するクランプ素子オフ信号発生回路46と、クランプ素子オフ回路48とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トランスの一次巻線にクランプ素子とクランプコンデンサの直列回路で成るクランプ回路が設けられたアクティブクランプ方式のスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主スイッチング素子がオフの期間に、トランスの巻線と並列に設けたコンデンサを導通させることによってトランス巻線両端の共振電圧のピーク値を制限し、主スイッチング素子等に加わる電圧ストレスを緩和するアクティブクランプ方式のスイッチング電源装置がある。
【0003】
従来、この種のスイッチング電源装置として、特許文献1に開示されているように、主スイッチング素子及びトランスで構成されたインバータ回路と、クランプコンデンサ及びクランプ素子(第二のスイッチング素子)で成るクランプ回路を備え、さらに、主スイッチング素子及びクランプ素子を制御するためのタイミング検出手段及び制御回路部を備えた電圧共振型スイッチング電源がある。この制御回路部は、スイッチングの1周期を設定するタイマ回路、第一及び第二のフリップフロップ回路、第一及び第二の遅延回路、、及びアンプを備え、外部のタイミング検出手段から所定の信号を受け、主スイッチング素子及びクランプ素子を駆動するための駆動パルスを個々に発生させ、アンプを介して各素子の駆動端子に向けて出力する。
【0004】
具体的には、クランプ素子がオフしてから主スイッチング素子がオンするまでの遅延時間(delay1)が第一の遅延回路で一定値として規定され、主スイッチング素子が自身のドレイン・ソース端子間がゼロ電圧になった後でオンするよう制御される。同様に、主スイッチング素子がオフしてからクランプ素子がオンするまでの遅延時間(delay2)が第二の遅延回路で一定値として規定され、クランプ素子が自身のドレイン・ソース端子間がゼロ電位になった後でオンするよう制御される。そして、この制御により、主スイッチング素子及びクランプ素子のスイッチング損失を低減することができる。
【0005】
また、特許文献2に開示されているように、主スイッチング素子(M1)及びトランスで構成されたインバータ回路と、クランプコンデンサ及びクランプ素子(M2)で成るクランプ回路(アクティブクランプ回路)を備え、さらに、主スイッチング素子の印加電圧が最小となるタイミングを検出するタイミング検出手段(最小値検出回路)と、当該検出手段の検出結果に基づいて主スイッチング素子のオンのタイミングを定める制御手段とを備えたスイッチング電源回路がある。
【0006】
具体的には、クランプ素子がオフしてから主スイッチング素子がオンするまでの遅延時間ts(特許文献1のdelay1に相当)がタイミング検出手段によって自動調整され、主スイッチング素子が自身のドレイン・ソース端子間が最小電圧になった時にオンするよう制御される。また、主スイッチング素子がオフしてからクランプ素子がオンするまでの遅延時間tr(特許文献1のdelay2に相当)が制御回路によって一定値に規定され、クランプ素子が、自身のドレイン・ソース端子間がゼロ電圧になった時にオンするよう制御されている。そして、この制御により、特許文献1の電圧共振型スイッチング電源と同様に、主スイッチング素子及びクランプ素子のスイッチング損失を低減することができる。
【0007】
なお、図面に、クランプ素子の駆動パルスである矩形クランプ制御信号ASが、回路絶縁用のトランス回路を介して、クランプ素子のゲート・ソース間に入力される構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−32479号公報
【特許文献2】特開2000−92829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の電圧共振型スイッチング電源の場合、主スイッチング素子がオフしてからクランプ素子がオンするまでの遅延時間(delay2)が予め一定値に固定されているため、電源回路を構成する電子部品の個体差や温度による特性の変動などの影響で、クランプ素子に大きなスイッチング損失が生じたり、特定の電子部品に過大な電気ストレスが加わったりする等の問題があった。以下、この問題について図9に基づいて説明する。
【0010】
図9は、特許文献1の図面に示された回路図から主要な素子を抜粋した回路図であり、各素子には特許文献1の図面で付されている符号と同様の符号を付してある。また、説明の便宜のため、N−chのMOS型FETであるクランプ素子Q2のソース端子からドレイン端子の向きに存在する寄生ダイオードD2を明記した。
【0011】
まず、主スイッチング素子Q1がオン、クランプ素子Q2がオフしている状態から、主スイッチング素子Q1がオフしたときの理想的な動作を、図9(a)に基づいて説明する。上述したように、クランプ素子Q2は、主スイッチング素子がオフした後、自身のドレイン・ソース端子間がゼロ電圧になった後でオンすることが理想である。
【0012】
主スイッチング素子Q1がオフすると、図9(a)に示すように、トランスの一次巻線n1から、トランスに蓄積された励磁エネルギーを放出するための電流iaが流れ、共振用コンデンサC1を充電する。共振用コンデンサC1の両端電圧である主スイッチング素子Q1のドレイン・ソース端子間電圧Vds1が上昇し、電圧Vds1が入力電圧ViとクランプコンデンサC2の電圧の合計値を越えると、寄生ダイオードD2が導通し、クランプ素子Q2のドレイン・ソース端子間が、寄生ダイオードD2のオン電圧となり、ほぼゼロ電圧で一定となる。そして、このゼロ電圧が維持されているタイミングでクランプ素子Q2がオンすると、クランプ素子Q2にスイッチング損失が発生することなく、寄生ダイオードD2を流れていた電流ibの経路をクランプ素子Q2に円滑に切り替えることができる。従って、制御回路部に、適当な遅延時間(delay2)を事前に設定しておけば、このような理想的な動作を行うことができる。
【0013】
主スイッチング素子Q1がオフしてから寄生ダイオードD2がオンするまでの時間は、電圧Vds1が入力電圧ViとクランプコンデンサC2の電圧の合計値を越えるまでの時間にほぼ等しい。そして、電圧Vds1の上昇速度は、主スイッチング素子Q1がオンの期間にトランスの励磁インダクタンスと共振インダクタL1に蓄えられた蓄積エネルギーと、各インダクタンスと共振コンデンサC1の共振特性によって決まる。
【0014】
しかし、励磁インダクタンス、共振インダクタL1及び共振コンデンサC1の特性は、素子ごとに個体差があり、ある程度のばらつきが存在する。また、電源装置の使用中に負荷に供給する出力電流が変化すると、共振インダクタL1に蓄えられるエネルギーも大きく変動する。一般に、トランスの励磁インダクタンスが大きい方向にばらつき、共振インダクタL1が小さい方向にばらつき、且つ、出力電流が比較的小さい状態で使用されているとき、電圧Vds1の上昇速度が遅くなる。一方、それらが反対の方向にばらつけば、電圧Vds1の上昇速度が速くなる。従って、遅延時間(delay2)を、上記のばらつきの範囲を通して理想動作を行うことができるように設定することは容易ではく、現実には様々な不具合が生じる。
【0015】
上記の要因によって電圧Vds1の電圧上昇速度が遅くなる方向に変動したときに発生する不具合動作を、図9(b)に基づいて説明する。主スイッチング素子Q1がオフすると、図9(b)に示すように、トランスの一次巻線n1から、蓄積エネルギーを放出するための電流iaが流れ、共振用コンデンサC1を充電する。共振用コンデンサC1の両端電圧である主スイッチング素子Q1のドレイン・ソース端子間電圧Vds1はゆっくり上昇するため、事前に設定されている遅延時間(delay2)の経過後、入力電圧ViとクランプコンデンサC2の電圧の合計値に達する前にクランプ素子Q2がオンする。すると、入力コンデンサCinとクランプコンデンサC2に蓄えられていた電荷が、電圧の低い共振コンデンサC1に移動し、急峻な電流icが流れる。この電流icを制限するものは、配線パターンの配線抵抗や各コンデンサC1,C2が有する寄生抵抗だけなので、瞬間的に大きな電流になる。従って、電流icが流れる経路に配置された素子等が、非常に大きな電流ストレスや電力ストレスを受けてしまうという不具合が生じる。
【0016】
共振インダクタL1や共振コンデンサC1は、部品点数の削減などのため、トランスの漏れインダクタンスや主スイッチング素子Q1の寄生コンデンサで代用される場合も少なくない。しかし、一般に、漏れインダクタンスや寄生コンデンサは、個別部品として設けた共振インダクタL1や共振コンデンサC1よりもばらつきが大きいので、電圧Vds1の上昇速度の変化が顕著になり、上記の電流icによる不具合が発生しやすくなる。
【0017】
また、遅延時間(delay2)を予め十分長めに設定し、電圧Vds1の上昇速度が遅くなっても上記の不具合が生じないようにする設定方法も考えられる。しかし、遅延時間(delay2)を予め長めに設定にしておいて、電圧Vds1の上昇速度が速くなる方向に変化すると、クランプ素子Q2の寄生ダイオードD2が電流ibを流す時間が非常に長くなる。寄生ダイオードD2は、通常のダイオードと比較するとオン電圧が高いので、そこで導通損失が増大し、クランプ素子Q2が発熱したり、電源効率が低下するという問題が発生する。
【0018】
以上説明したように、特許文献1の電圧共振型スイッチング電源は、主スイッチング素子がオフしてからクランプ素子がオンするまでの遅延時間(delay2)が一定値に固定されているので、各素子の特性の個体差や負荷に供給する出力電流の変化によって、特定の素子に電気ストレスが加わったり、電源効率が低下したりするという問題があった。
【0019】
また、特許文献2のスイッチング電源回路も、主スイッチング素子がオフしてからクランプ素子がオンするまでの遅延時間tr(特許文献1のdelay2に相当)が制御回路によって一定値に固定されているので、特許文献1の電圧共振型スイッチング電源と同様の問題が発生する。
【0020】
さらに、特許文献2に開示されたスイッチング電源回路の構成の場合、クランプ素子の駆動パルスであるクランプ制御信号ASを伝達するため、回路絶縁用のトランス回路に、大型の絶縁トランス(以下、絶縁トランスTと称す)を使用しなければならないという問題があった。この絶縁トランスTは、クランプ制御信号AS、すなわち、クランプ素子をオンさせる期間に継続してハイレベルを示し、クランプ素子をオフさせる期間にローレベルを継続する制御信号を伝送する。例えば、このスイッチング電源回路の主スイッチング素子が、オンデューティが50%、スイッチング周波数が200kHzで動作する場合を考える。絶縁トランスTの入力巻線のインダクタンスをLp、入力巻線に印加される電圧をVT、電圧VTを印加する時間をtとすると、絶縁トランスTの励磁電流ILpは、式(1)のように表すことができる。
【数1】

【0021】
次に、絶縁トランスTの励磁電流ILpを0.5A以下という実用的な電流値に収めるため、必要なインダクタンスLpを求める。ここで、先に想定したスイッチング周波数とスイッチング素子のオンデューティから、時間tは、クランプ素子のオン時間に相当する2.5μsecである。また、トランス回路の制御回路電圧も実用的な値の10Vと想定すると、電圧VT=10Vとなる。これらの値を式(1)に代入すれば、必要なインダクタンスLpを求めることができる。
【数2】

【0022】
すなわち、絶縁トランスTの入力巻線には、50μH以上のインダクタンスLpが必要であることが分かる。しかし、50μHのインダクタンスLpを有した絶縁トランスTを構成すると、外形が非常に大きなものとなり、スイッチング電源装置の小型化が妨げられる。
【0023】
一方、絶縁トランスTの小型化を優先的に考慮し、例えば、1μHのインダクタンスLpを有する絶縁トランスTを使用すると、式(1)で計算される励磁電流ILpが25Aとなり、励磁電流ILpが流れる経路に配置された絶縁トランスTや駆動用の半導体素子等で大きな損失が発生する。また、損失による発熱を抑えるため、絶縁トランスTや駆動用の半導体素子の外形を大きくして放熱する必要が生じ、かえってスイッチング電源装置が大型化してしまい電源効率も低下する、という問題がある。
【0024】
以上説明したように、特許文献2の電圧共振型スイッチング電源は、クランプ素子の駆動回路の構成上、駆動パルスであるクランプ制御信号ASを伝達する回路絶縁用のトランス回路を小型で高効率に構成することが困難であるという問題があった。
【0025】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、主スイッチング素子とクランプ素子のオン・オフのタイミング設定を容易に適正化することができ、装置全体の電源効率も容易に向上させることが可能なアクティブクランプ方式のスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この発明は、直流入力電源と直列に接続されオン・オフ動作によって入力電圧を断続し断続電圧を発生させる主スイッチング素子と、前記断続電圧が印加される一次巻線及びそれに磁気結合した二次巻線を有するトランスとが設けられたインバータ回路と、前記二次巻線の両端電圧を整流する整流回路と、前記整流回路が出力した整流電圧を平滑して直流の出力電圧を生成し負荷に電力を供給する平滑回路と、N−chのMOS型FETであるクランプ素子及びクランプコンデンサの直列回路の構成を有し、前記一次巻線の両端に接続され、前記主スイッチング素子がオフの期間中に前記クランプ素子が導通することによって、前記トランスの各巻線に発生する電圧を制限するクランプ回路と、前記主スイッチング素子をオン・オフ制御するインバータ動作制御回路と、前記クランプ素子のオン・オフを制御するクランプ動作制御回路とを備えたスイッチング電源装置であって、
前記インバータ回路は、前記一次巻線の一端を前記直流入力電源のプラス側に接続し、前記一次巻線の他端と前記直流入力電源のグランド側との間に前記主スイッチング素子を接続して構成され、
前記クランプ回路は、前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端に前記クランプ素子のドレイン端子を接続し、前記クランプ素子のソース端子と前記一次巻線の他端との間に前記クランプコンデンサを接続して構成され、
前記インバータ動作制御回路は、前記主スイッチング素子をオン・オフさせるタイミング及び時比率を決定し、前記主スイッチング素子の駆動パルスを出力し、前記クランプ素子をオフさせるタイミングを示すオフタイミング信号を出力可能に構成され、
前記クランプ動作制御回路は、前記一次巻線の前記直流入力電源が接続された側の一端にアノード端子が接続された補助ダイオードと、前記補助ダイオードのカソード端子と前記一次巻線の他端との間に接続された補助コンデンサとを備え、前記補助ダイオードのカソード端子の電位と前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端の電位以上の所定の電位とを比較し、前記補助ダイオードのカソード端子の電位の方が高いとき、前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷を前記クランプ素子のゲート・ソース端子間に移動させることによって、所定の速度で前記クランプ素子のゲート・ソース端子間電圧を上昇させることで前記クランプ素子をオンさせるクランプ素子オン回路と、前記インバータ動作制御回路から出力されたオフタイミング信号に基づき、トランスや光半導体素子等の絶縁手段を介してクランプ素子オフ信号を出力するクランプ素子オフ信号発生回路と、前記クランプ素子オフ信号を受けたときに、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間電圧をローレベルに低下させるクランプ素子オフ回路とにより構成されたスイッチング電源装置である。
【0027】
また、前記インバータ回路、前記整流回路、及び前記平滑回路が、シングルエンディッドフォワード方式に構成され、前記整流回路は、N−chのMOS型FETである整流側素子と整流側素子駆動回路とを備え、前記整流側素子駆動回路は、前記主スイッチング素子がオンからオフに転じたことによる前記トランスの巻線電圧の変化を検知して前記整流側素子をオフさせ、前記クランプ素子オン回路は、前記整流側素子がオフするのと同時又はその後に、前記クランプ素子をオンさせるものである。
【0028】
また、前記クランプ素子オン回路は、エミッタ端子が前記補助ダイオードのカソード端子に接続され、コレクタ端子が前記クランプ素子のゲート端子に接続されたPNP型の第一のトランジスタと、前記第一のトランジスタのベース端子と前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端との間に接続され、前記第一のトランジスタのベース電流を決定する第一の抵抗とで構成され、前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端の電位よりも前記補助ダイオードのカソード端子の電位の方が高いとき、前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷が、前記第一のトランジスタのベース電流で規定される所定の速度で、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間の電圧を上昇させることによって、前記クランプ素子がオンするようにしたものである。
【0029】
さらに、前記クランプ素子オン回路は、エミッタ端子が前記補助ダイオードのカソード端子に接続され、コレクタ端子が前記クランプ素子のゲート端子に接続されたPNP型の第一のトランジスタと、前記第一のトランジスタのベース端子と前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端との間に接続され、アノード端子が前記一次巻線側を向くように配置されたツェナーダイオードと前記第一のトランジスタのベース電流を決定する第一の抵抗とで成る直列回路とで構成され、前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端の電位と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧とを合計した電位よりも前記補助ダイオードのカソード端子の電位の方が高いとき、前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷が、前記第一のトランジスタのベース電流で規定される所定の速度で、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間の電圧を上昇させ、前記クランプ素子がオンするようにしたものでも良い。
【0030】
また、前記補助ダイオードのカソード端子と前記第一のトランジスタのエミッタ端子との接続点、若しくは前記第一のトランジスタのコレクタ端子と前記クランプ素子のゲート端子との接続点、又はその両方に第二の抵抗が挿入され、前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷が前記クランプ素子のゲート・ソース端子間に移動することで、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間の電圧が上昇する速度が、前記第一の抵抗及び前記第二の抵抗によって規定されるものである。
【0031】
前記インバータ動作制御回路は、前記クランプ素子をオフさせるタイミングでローレベルからハイレベルに反転する矩形波状のオフタイミング信号を出力し、
また、前記クランプ素子オフ信号発生回路は、コンデンサと抵抗で構成された微分回路と、前記微分回路の出力にベース・エミッタ端子が接続されたNPN型の第二のトランジスタと、入力巻線と出力巻線とを有し、前記入力巻線が直流電源と前記第二のトランジスタのコレクタ端子との間に接続された絶縁トランスとを備え、前記微分回路に前記オフタイミング信号が入力されると、前記第二のトランジスタがオン・オフし、前記出力巻線の両端に、前記オフタイミング信号がローレベルからハイレベルに反転したタイミングで短時間だけハイレベルを示すクランプ素子オフ信号を発生する動作を行い、前記クランプ素子オフ回路は、前記出力巻線の両端にゲート端子とソース端子が各々接続され、さらに前記クランプ素子のゲート・ソース端子間にドレイン端子とソース端子が各々接続されたN−chのMOS型FETである第三のトランジスタを備え、前記クランプ素子オフ信号がローレベルからハイレベルに反転したタイミングで前記第三のトランジスタがオンし、前記クランプ素子をオフのゲート・ソース端子間電圧をローレベルに低下させるものである。
【0032】
また、前記第三のトランジスタがNPN型トランジスタに置き換えられ、当該NPN型のトランジスタは、前記絶縁トランスの前記出力巻線の両端にベース端子とエミッタ端子が各々接続され、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間にコレクタ端子とエミッタ端子が接続されたものでも良い。
【0033】
さらに、前記絶縁トランスの前記出力巻線と前記第三のトランジスタのゲート端子の接続点に、カソード端子を前記第三のトランジスタのゲート端子側に向けた整流ダイオードが挿入され、前記第三のトランジスタのゲート・ソース端子間に放電抵抗が接続されたものである。
【発明の効果】
【0034】
この発明のスイッチング電源装置は、主スイッチング素子がオフしてクランプ素子がオンするまでの時間が、クランプ素子オン回路の動作によって、主スイッチング素子の両端電圧が上昇する速度の変化に応じて自動的に調整されるので、寄生ダイオードを含むクランプ素子の損失を小さく抑えることができ、また、特定の素子等に急峻なサージ電流が流れて電気ストレスを加えることがないようにすることができる。従って、安全で電源効率の高いスイッチング電源装置を容易に構成することができる。
【0035】
また、シングルエンディッドフォワード方式のインバータ回路、整流回路及び平滑回路を備えたスイッチング電源装置に適用し、さらに整流回路の整流側素子を同期整流素子化し、当該整流側素子のオフの駆動をトランス二次巻線の電圧変化を検知して行う構成とすれば、クランプ素子オン回路の動作によって、整流側素子がオフするタイミングとクランプ素子がオンするタイミングも同様に自動的に調整される。従って、整流回路に関連した特定の素子にサージ電流が流れて電気ストレスを加えることを容易に回避することができ、安全で電源効率をより向上させたスイッチング電源装置を構成することができる。
【0036】
さらに、主スイッチング素子とグランド電位が異なるクランプ素子を駆動するための絶縁手段は、ごく短いパルス幅で小エネルギーのクランプ素子オフ信号を伝送するだけなので、例えば、絶縁手段を絶縁トランスで構成すれば、小型で低損失の絶縁手段を安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態を示すブロック図である。
【図2】第一の実施形態の具体的な回路構成を示す回路図である。
【図3】第一の実施形態の、主スイッチング素子の両端電圧の上昇速度が遅いときの動作を示すタイムチャートである。
【図4】第一の実施形態の、主スイッチング素子の両端電圧の上昇速度が速いときの動作を示すタイムチャートである。
【図5】第一の実施形態のクランプ素子オン回路の変形例を示す回路図である。
【図6】図5のクランプ素子オン回路を用いたときの動作を示すタイムチャートである。
【図7】この発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態を示す回路図である。
【図8】第二の実施形態の動作を説明する概略の回路図である。
【図9】従来の電圧共振型スイッチング電源の理想的な動作を説明する回路図(a)と、不具合が生じる動作を説明する回路図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、この発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態について、図面に基づいて説明する。第一の実施形態のスイッチング電源装置10は、直流の入力電源12から入力された入力電圧Viを、直流の出力電圧Voに変換して出力する直流安定化電源である。
【0039】
まず、スイッチング電源装置10の構成を図1のブロック図に基づいて説明する。スイッチング電源装置10は、直流の入力電源12の両端に、トランス14の一次巻線14aと主スイッチング素子16との直列回路であるインバータ回路18が接続されている。
【0040】
主スイッチング素子16は、N−chのMOS型電界効果トランジスタ(以下、MOSFETと称す。)であり、ドレイン端子が一次巻線14a側に、ソース端子が入力電源12のグランド側に各々接続されている。そして、後述するインバータ動作制御回路20が発生する駆動パルスVaがケート・ソース端子間に印加され、オン・オフ動作を行う。また、主スイッチング素子16は、ドレイン・ソース端子間の出力容量である寄生コンデンサ16aを備えている。
【0041】
また、トランス14は、一次巻線14aと磁気結合した二次巻線14bを有している。図1に付したドットは2つの巻線14a,14bの極性を示しており、ここでは、一次巻線14aの入力電源12のプラス側に接続された一端に、ドットが付されている。
【0042】
二次巻線14bの両端には、二次巻線14bに発生する交流電圧を整流した整流電圧を出力する整流回路22が接続されている。さらに、整流回路22の出力端に、整流回路22が出力する整流電圧を平滑する平滑回路24が接続されている。そして、平滑回路24は、その出力端に接続された負荷26に、直流の出力電圧Voと出力電流Ioを供給する。
【0043】
一次巻線14aの両端には、クランプ素子28とクランプコンデンサ30の直列回路で成るクランプ回路32が接続されている。クランプ素子28はMOSFETであり、ドレイン端子が一次巻線14aのドットが付された側の一端に、ソース端子がクランプコンデンサ30の一端に各々接続されている。そして、後述するクランプ動作制御回路34によってゲート・ソース端子間の電圧が制御され、オン・オフ動作を行う。また、クランプ素子28は、ソース端子からドレイン端子の向きに形成された寄生ダイオード28aを備えている。
【0044】
インバータ動作制御回路20は、駆動パルス発生回路36とオフタイミング調整回路38で構成されている。駆動パルス発生回路36は、平滑回路24から所定の出力電圧Voを出力するため、所定の回路部分から出力電圧Voに相当する出力電圧信号Vo1を抽出し、所定のスイッチング周波数でパルス幅変調を行うことによって主スイッチング素子16をオン・オフさせるタイミング及び時比率を決定し、主スイッチング素子16駆動用の駆動パルスVaを生成して出力する。
【0045】
また、オフタイミング調整回路38は、駆動パルス発生回路36が決定した主スイッチング素子16のオンのタイミングを基準にして、クランプ素子28をオフさせるタイミングを決定し、そのタイミングを示すオフタイミング信号Vbを生成して出力する。オフタイミング信号Vbは、ここでは、当該タイミングでローレベルからハイレベルに反転する矩形波電圧である。
【0046】
クランプ動作制御回路34は、一次巻線14aのドットが付された側の一端にアノード端子が接続された補助ダイオード40と、補助ダイオード40のカソード端子と一次巻線14aの他端との間に接続された補助コンデンサ42を備え、さらに、クランプ素子オン回路44、クランプ素子オフ信号発生回路46及びクランプ素子オフ回路48を備えている。
【0047】
クランプ素子オン回路44は、補助ダイオード40のカソード端子の電位と、一次巻線14aのドットが付された側の一端の電位以上の所定の電位とを比較し、補助ダイオード40のカソード端子の電位の方が高いとき、補助コンデンサ42及びクランプコンデンサ30に蓄積された電荷をクランプ素子28のゲート・ソース端子間に移動させ、当該ゲート・ソース端子間の電圧を所定の速度で上昇させることで、クランプ素子28をオンさせるまでの時間を調整する働きをする。
【0048】
クランプ素子オフ信号発生回路46は、インバータ動作制御回路20のオフタイミング調整回路38から出力されたオフタイミング信号Vbに基づき、オフタイミング信号Vbと絶縁されたクランプ素子オフ信号Vcを出力する働きをする。
【0049】
クランプ素子オフ回路48は、クランプ素子オフ信号Vcに基づき、所定のタイミングでクランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧をローレベルに低下させる働きをする。
【0050】
図1では、クランプ素子オン回路44、クランプ素子オフ信号発生回路46及びクランプ素子オフ回路48を機能ブロックとして現しているが、例えば、図2に示すような具体的な回路で構成することができる。以下、図2に示す各部の構成を個別に説明する。
【0051】
クランプ素子オン回路44は、エミッタ端子が補助ダイオード40のカソード端子に接続され、コレクタ端子がクランプ素子28のゲート端子に接続されたPNP型の第一のトランジスタ50と、一端が第一のトランジスタ50のベース端子に接続され、他端が一次巻線14aのドットが付された側の一端に接続された第一の抵抗52で構成されている。従って、第一のトランジスタ50は、補助ダイオード40のカソード端子の電位が一次巻線14aのドットが付された側の一端の電位よりも高くなると、第一の抵抗52に第一のトランジスタ50のベース電流が流れ、補助コンデンサ42及びクランプコンデンサ30に蓄積された電荷が、第一のトランジスタ50を介して、クランプ素子28のゲート・ソース端子間に移動する。そして、その移動した電荷が当該ゲート・ソース間電圧を所定の速度で上昇させ、ゲート閾値を超えた時にクランプ素子28をオンさせる動作を行う。詳しくは、後の動作説明の中で述べる。
【0052】
クランプ素子オフ信号発生回路46は、抵抗54aとコンデンサ54bの直列回路で構成した微分回路54と、微分回路54の出力である抵抗54aの両端にベース・エミッタ端子間が接続されたNPN型の第二のトランジスタ56とを備えている。さらに、制御回路に直流電圧Vccを供給する直流電源58と、入力巻線60a及び出力巻線60bを有する絶縁トランス60が設けられ、入力巻線60aが直流電源58と第二のトランジスタ56のコレクタ端子との間に接続され、出力巻線60bが後段のクランプ素子オフ回路48に接続されている。従って、微分回路54は、オフタイミング調整回路38から送られたオフタイミング信号Vbを受け、オフタイミング信号Vbがローレベルからハイレベルに反転するタイミングで短い時間幅のハイレベル電圧を出力し、第二のトランジスタ56をオンさせる。そして、第二のトランジスタ56がオン・オフすることによって、入力巻線60aに直流電圧Vccが断続的に印加され、出力巻線60bに断続電圧であるクランプ素子オフ信号Vcを発生させる動作を行う。詳しくは、後の動作説明の中で述べる。
【0053】
クランプ素子オフ回路48は、ゲート端子が出力巻線60bのドットが付された一端に接続され、ソース端子がクランプ素子28のソース端子に接続され、ドレイン端子がクランプ素子28のゲート端子に接続されたMOSFETである第三のトランジスタ62で構成されている。従って、第三のトランジスタ62は、クランプ素子オフ信号Vcがハイレベルになったときにオンし、クランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧を低下させ、クランプ素子28をオフさせる動作を行う。
【0054】
次に、図2に示すスイッチング電源装置10の動作を、図3、図4のタイムチャートに基づいて説明する。図3は、トランス14の励磁インダクタンスや漏れインダクタンス、主スイッチング素子16の寄生コンデンサ16a、さらに出力電流Ioの関係で、主スイッチング素子がオフしたときのドレイン・ソース端子間電圧V16の上昇速度が、比較的遅いときの動作を示している。以下、スイッチングの一周期を期間a〜dに分けて、期間ごとの動作を説明する。
【0055】
期間aでは、インバータ動作制御回路20の制御により、駆動パルスVaがハイレベルを示し、オフタイミング信号Vbもハイレベルを示している。駆動パルスVaがハイレベルを示しているので、主スイッチング素子16はオンし、そのドレイン・ソース端子間の電圧V16がほぼゼロ電圧になっている。また、電圧V16がゼロ電圧であるため、補助コンデンサ42の両端の電圧V42は、補助ダイオード40を介して入力電源12からの充電を受けて、入力電圧Viとほぼ等しい電圧になっている。従って、補助ダイオード40のカソード端子の電位(V42+V16)は、ほぼ入力電圧Viに等しいので、クランプ素子オン回路44の第一の抵抗52に第一のトランジスタ50のベース電流が流れず、クランプ素子28のゲート・ソース端子間に流れ込む電流I28は発生していない。
【0056】
また、オフタイミング信号Vbはハイレベルを示しているが、クランプ素子オフ信号発生回路46の微分回路54によって電圧が遮断され、第二のトランジスタ56のベース・エミッタ端子間電圧はローレベルとなっている。従って、クランプ素子オフ信号Vcはローレベルを示し、第三のトランジスタ62がオフしている。
【0057】
ここで、クランプ素子28は、ゲート・ソース端子間が第三のトランジスタ62によって短絡された状態ではないものの、第一のトランジスタ50からの充電電流I28が供給されないので、期間dでオフになったままその状態を継続する。
【0058】
期間bになると、駆動パルスVaがローレベルに反転し、ほぼ同時にオフタイミング信号Vbもローレベルに反転する。駆動パルスVaがローレベルに反転するので、主スイッチング素子16はオフに転じ、そのドレイン・ソース端子間の電圧V16が比較的遅い速度で上昇する。電圧V16が上昇すると、補助ダイオード40のカソード端子の電位(V42+V16)は、入力電圧Viを超え、クランプ素子オン回路44の第一の抵抗52に電圧降下が発生し、第一の抵抗52の電圧降下分を当該抵抗値で除算して求まるベース電流が、第一のトランジスタ50のベース端子から流れ出る。そして、第一のトランジスタ50は、当該ベース電流に電流増幅率を積算して求まるコレクタ電流をクランプ素子28のゲート・ソース端子間に電流I28として流し込む。すなわち、第一のトランジスタ50は、第一の抵抗52に流れるベース電流で規定されるコレクタ電流を電流I28として流すことによって、所定電圧V30に充電されたクランプコンデンサ30と入力電圧Viに充電された補助コンデンサ42の蓄積電荷を移動させ、クランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧V28を所定の速度で上昇させる動作を行う。なお、この実施形態では、補助コンデンサ42の容量がクランプコンデンサ30に比べて非常に小さな値に設定してあるので、電荷の移動と共に補助コンデンサ42の電圧V42が低下している。従って、電流I28は、しばらくの間増加し、途中でピークを迎え、その後減少する波形、すなわち、図3のような波形となる。
【0059】
第一のトランジスタ50から流れる電流I28によってクランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧が上昇するが、期間bでは、未だクランプ素子28のゲート閾値Vthに達しない。そして、クランプ素子28がオンする前に、寄生ダイオード28aがオンする。すなわち、寄生ダイオード28aは、主スイッチング素子16の電圧V16が入力電圧Viとクランプコンデンサ30の電圧V30合計値を超えた時点で導通し、クランプコンデンサ30が一次巻線14aの両端に並列接続された状態となる。そして、クランプコンデンサ30が、一次巻線14aから放出される励磁電流(リセット電流)を吸収することによって一次巻線14aの電圧上昇を制限し、電圧V16がほぼ一定の値に制限される。
【0060】
また、期間bになると、オフタイミング信号Vbがローレベルに反転するが、クランプ素子オフ信号発生回路46の第二のトランジスタ56のベース・エミッタ端子間電圧にハイレベルの電圧は発生しないので、クランプ素子オフ信号Vcはローレベルとなり、第三のトランジスタ62はオフを継続する。
【0061】
従って、期間bでは、クランプ素子28のゲート・ソース端子間に第一のトランジスタ50からの充電電流I28の供給を受けて電圧V28が上昇するが、クランプ素子28はオンするに至らず、所定のタイミングで寄生ダイオード28aが導通することで、主スイッチング素子16の電圧V16を一定電圧(Vi+V30)に制限する。
【0062】
期間cになると、クランプ素子28のゲート・ソース端子間の電圧V28がゲート閾値の電圧Vthに達し、クランプ素子28がオンする。このとき、駆動パルスVaとオフタイミング信号Vbは、期間bと同じローレベルを維持している。クランプ素子28がオンすると、トランス14の一次巻線14aからクランプコンデンサ30に流れていた励磁電流の経路が、寄生ダイオード28aからクランプ素子28に切り替わる。当該励磁電流は、当初はクランプ素子28のソース端子からドレイン端子の向きに流れるが、期間cの途中でドレイン端子からソース端子の向きに流れが変わる。従って、励磁電流の向きが変わる前にクランプ素子28をオンさせることにより、クランプコンデンサ30に励磁電流を連続的に流し続けることが可能になり、クランプコンデンサ30によるクランプ動作を継続することができる。また、励磁電流の経路が寄生ダイオード28aからクランプ素子28に切り替わることによって、比較的オン電圧が高い寄生ダイオード28aで生じていた導通損失が低減され、また、クランプ素子28のオン電圧は、オン抵抗が十分低いMOSFETに発生するオン電圧となるため、クランプ素子28の導通損失も小さく抑えられる。また、クランプ素子28は、寄生ダイオード28aが導通してドレイン・ソース端子間の電圧がゼロ電圧のときにオンするため、スイッチング損失もほとんど発生しない。従って、クランプ回路32全体の損失は非常に小さい。また、寄生ダイオード28aが導通する前にクランプ素子28がオンしないように電流I28を設定することによって、図9(b)を用いて説明した従来の問題を回避することができる。
【0063】
一方、補助コンデンサ42の電圧V42は、期間cにおいても低下を続ける。そして、主スイッチング素子16の電圧V16がクランプコンデンサ30の電圧V30と入力電圧Viとを足し合わせた電圧(V30+Vi)に等しくなり、且つ、ダイオード40のカソード端子の電位(V42+V16)とクランプ素子28のゲート端子の電圧V28とが等しくなるまで、補助コンデンサ42の電圧V42が低下する(このとき、クランプ素子28のゲート端子の電圧V28が上昇する)と、第一のトランジスタ50による電流I28の供給が停止し、それによって、クランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧V28の上昇が止まり、同時に補助コンデンサ42の電圧V42の低下も止まる(このとき、補助コンデンサ42の電圧V42とクランプ素子28のゲート・ソース端子間の電圧V28を足し合わせた値が、クランプコンデンサ30の電圧V30に等しくなる)。
【0064】
電圧V28のピーク値(上昇が停止して一定になったときの電圧)は、補助コンデンサ42の容量を大きくするほど、高くすることができる。従って、補助コンデンサ42の容量は、期間cの間、電圧V28がクランプ素子28のゲート閾値Vthを超える電圧になるように大きな容量にしておく必要がある。そして、この条件を満たす範囲で、補助コンデンサ42の容量を極力小さく設定し、電圧V28のピーク値によるクランプ素子28のゲート・ソース端子間への電圧ストレスを軽減したり、第一のトランジスタ50の導通損失を低減したりすることが好ましい。
【0065】
期間dになると、駆動パルスVaはローレベルを継続し、オフタイミング信号Vbがハイレベルに反転する。オフタイミング信号Vbがハイレベルに反転するタイミングは、オフタイミング調整回路38が決定する。すなわち、期間dは、クランプ素子28がオフしてから主スイッチング素子16がオンするまでの遅延時間である。
【0066】
期間dでは、駆動パルスVaがローレベルを示しているので、主スイッチング素子16はオフしている。一方、オフタイミング信号Vbはハイレベルに反転するので、クランプ素子オフ信号発生回路46の微分回路54が出力する微分電圧によって第二のトランジスタ56のベース・エミッタ端子間電圧が短い期間Thだけハイレベルになり、第二のトランジスタ56がオンしてコレクタ電流I56が流れる。さらに、第二のトランジスタ56がオンする期間Thの間、トランス60の出力巻線60bのクランプ素子オフ信号Vcがハイレベルになり、第三のトランジスタ62がオンする。そして、第三のトランジスタ62がオンすると、V28が急峻に低下し、クランプ素子28がオフする。このとき、主スイッチング素子16はオフを継続しているので、クランプ素子オン回路44は、第一のトランジスタ50を介して電流I58を供給することができないため、クランプ素子オフ信号Vcがローレベルに転じて第三のトランジスタ62がオフした後も、クランプ素子28はオフの状態を継続する。
【0067】
クランプ素子28がオフすると、クランプコンデンサ30が一次巻線14aから切り離される形になり、クランプ素子28のドレイン端子からソース端子の向きに流れていた励磁電流が主スイッチング素子16の寄生コンデンサ16aに流れ、電圧V16が低下する。そして、電圧V16が十分に低下した時点で駆動パルスVaがハイレベルに反転して主スイッチング素子16がオンし、期間dが終了する。
【0068】
主スイッチング素子16は、電圧V16が十分に低下した時にオンするため、スイッチング損失を十分に小さくできる。また、期間dの間に電圧V16が低下すると同時に補助コンデンサ42も補助ダイオード40を介して充電され、期間dが終了するときには、電圧V42が入力電圧Viに達している。
【0069】
以上説明したように、スイッチング電源装置10は、主スイッチング素子16がオフしたときのドレイン・ソース端子間電圧V16の上昇速度が比較的遅いときでも、図3に示すように、低損失で理想的な動作を行うことができる。
【0070】
上記の動作を行うスイッチング電源装置10において、例えば、負荷26に流れる出力電流Ioが増加すると、主スイッチング素子16がオフしたときのドレイン・ソース端子間電圧V16の上昇速度が比較的速くなる。そのときの動作について、図4のタイムチャートに基づいて説明する。なお、期間a,c,dは、上述した図3における動作と同様であるので、ここでは、特に期間bについて説明する。
【0071】
期間aが経過して期間bに入ると、駆動パルスVaがローレベルに反転し、ほぼ同時にオフタイミング信号Vbもローレベルに反転する。駆動パルスVaがローレベルに反転するので、主スイッチング素子16はオフに転じ、そのドレイン・ソース端子間の電圧V16が比較的速い速度で上昇する。電圧V16が上昇すると、補助ダイオード40のカソード端子の電位(V42+V16)は、入力電圧Viを超え、クランプ素子オン回路44の第一の抵抗52に電圧降下が発生し、第一の抵抗52の電圧降下分を当該抵抗値で除算して求まるベース電流が、第一のトランジスタ50のベース端子から流れ出る。このベース電流は、電圧V16の上昇速度が遅い図3のときよりも大きくなる。そして、第一のトランジスタ50は、当該ベース電流に電流増幅率を積算して求まるコレクタ電流を、クランプ素子28のゲート・ソース端子間に電流I28として流し込む。すなわち、第一のトランジスタ50は、第一の抵抗52に流れるベース電流で規定されるコレクタ電流を電流I28として流すことによって、所定の電圧V30に充電されたクランプコンデンサ30と入力電圧Viに充電された補助コンデンサ42の蓄積電荷を移動させ、クランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧V28を、図3のときよりも速い速度で上昇させる動作を行う。
【0072】
一方、主スイッチング素子16の電圧V16の上昇速度が速いため、電圧V16が入力電圧Viとクランプコンデンサ30の電圧V30の合計値を超えるまでの時間が短くなり、クランプ素子28の寄生ダイオード28aが導通するタイミングも早くなる。しかし、上記のように、クランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧V28も短時間で上昇するので、寄生ダイオード28aが導通した後、短時間のうちに、電圧V28がクランプ素子28のゲート閾値Vthに達し、クランプ素子28をオンさせることができる。
【0073】
以上説明したように、スイッチング電源装置10は、図4のように主スイッチング素子の電圧V16の上昇速度が速くなり、トランス14の励磁電流が寄生ダイオード28aを流れ始めるまでの時間が早くなっても、クランプ素子28がオンするまでの時間も自動的に早くなるので、低損失な動作を行うことができる。例えば、従来の特許文献1又は2のスイッチング電源装置のように、主スイッチング素子16がオフしてからクランプ素子28がオンするまで遅延時間(特許文献1又は2におけるdelay2又はtrに相当する)を固定する構成の場合、図9(b)で説明した問題を回避するため、一般的に、当該遅延時間の設定は、主スイッチング素子16の電圧V16の上昇速度が遅いときの「図3における期間b」に固定される。すると、出力電流Ioが増える等して電圧V16の上昇速度が速くなったとき、トランス14の励磁電流を寄生ダイオード28aに流す期間が非常に長くなり、クランプ回路32の導通損失が大きくなってしまう。しかし、この実施形態のスイッチング電源装置10は、図4に示すように、自動的に期間bが短くなる動作が行われるので、このような問題が生じない。
【0074】
また、上記のクランプ素子オフ信号発生回路46の動作により、絶縁トランス60を非常に小さな外形に構成することが可能である。絶縁トランス60は、上記のように、短い期間Thの間だけハイレベルになるクランプ素子オフ信号Vcを通過させる能力を備えていればよい。そして、この期間Thは、クランプ素子28のゲート・ソース端子間の寄生容量や第三のトランジスタのスイッチング能力等に鑑みて設定され、20〜200nsec程度が好ましい。
【0075】
例えば、絶縁トランス60の入力巻線60aのインダクタンスLpを実用的な1μHとする。そして、入力巻線60aに印加される電圧Vccを10V(式(1)の電圧VTに相当する)、電圧Vccを印加する時間Thを50nsec(式(1)の時間tに相当する)とすると、式(3)のように、入力巻線60aに流れる励磁電流のピーク値ILpが0.5Aと計算される。
【数3】

【0076】
1μH以上インダクタンスを備え、且つピーク値が0.5A以上の励磁電流ILpを流すことができる飽和特性を有した絶縁トランス60であれば、十分小型に構成することが可能である。また、スイッチング電源装置10が、200kHz程度の一般的なスイッチング周波数で動作するとすれば、式(4)のように、励磁電流ILpの実効値が28.9mAと計算される。
【数4】

【0077】
従って、入力巻線60aの巻線抵抗に生じる損失は非常に小さくなり、小型の絶縁トランス60でも十分に放熱することができる。また、この励磁電流ILpを含む電流I56を流す第二のトランジスタ56に加わる電気的ストレスも非常に小さいので、小型で安価なトランジスタ部品を選択することができる。
【0078】
次に、この実施形態のクランプ素子オン回路44の変形例であるクランプ素子オン回路70について、図5、図6に基づいて説明する。クランプ素子オン回路70は、クランプ素子オン回路44と同様に、エミッタ端子が補助ダイオード40のカソード端子に接続され、コレクタ端子がクランプ素子28のゲート端子に接続されたPNP型の第一のトランジスタ50と、一端が第一のトランジスタ50のベース端子に接続された第一の抵抗52を備え、さらに、図5に示すように、第一の抵抗52と一次巻線14aのドットが付された側の一端との間に、カソード端子が第一の抵抗52側に配置されたツェナーダイオード72が挿入される。従って、第一のトランジスタ50は、補助ダイオード40のカソード端子の電位が、一次巻線14aのドットが付された側の一端の電位にツェナーダイオード72のツェナー電圧V72を加算した電位よりも高くなったとき、第一の抵抗52に第一のトランジスタ50のベース電流が流れる。
【0079】
スイッチング電源装置10は、クランプ素子オン回路44をクランプ素子オン回路70に置き換えることによって、上述した図3の期間bに示す動作が、図6の期間b1,b2に示す動作に変化する。以下、クランプ素子オン回路70を備えたスイッチング電源装置10の期間b1,b2の動作について、図6に基づいて説明する。
【0080】
期間b1になると、駆動パルスVaがローレベルに反転し、ほぼ同時にオフタイミング信号Vbもローレベルに反転する。駆動パルスVaがローレベルに反転するので、主スイッチング素子16はオフに転じ、そのドレイン・ソース端子間の電圧V16が上昇する。電圧V16が上昇しても、期間b1の間は、補助ダイオード40のカソード端子の電位(V42+V16)が入力電圧Viにツェナー電圧V72を加算した電位に達しないため、第一の抵抗52に電圧降下が発生せず、第一のトランジスタ50にベース電流が流れない。従って、第一のトランジスタ50にコレクタ電流I28が流れず、クランプ素子28のゲート・ソース端子間電圧V28が上昇しない。
【0081】
期間b2は、補助ダイオード40のカソード端子の電位(V42+V16)が、入力電圧Viにツェナー電圧V72を加算した電位に達した時、すなわち、主スイッチング素子16のドレイン・ソース端子間電圧V16がツェナー電圧V72に達した時から始まる。なお、期間b2に入っても、駆動パルスVaがローレベル、オフタイミング信号Vbもローレベルを継続する。
【0082】
補助ダイオード40のカソード端子の電位(V42+V16)が、入力電圧Viにツェナー電圧V72を加算した電位に達すると、第一の抵抗52に電圧降下が発生し、第一のトランジスタ50のベース端子から、第一の抵抗52の電圧降下分を当該抵抗値で除算して求まるベース電流が流れ始め、第一のトランジスタ50は、当該ベース電流に電流増幅率を積算して求まるコレクタ電流をクランプ素子28のゲート・ソース端子間に電流I28として流し込む。そして、クランプ素子28の電圧V28が上昇を開始し、同時に補助コンデンサ42の電圧V42が低下を開始する。以降の動作は、上述した図3の期間bの動作と同様である。
【0083】
このように、先に説明したクランプ素子オン回路44の場合は、主スイッチング素子16がオフしてからクランプ素子28がオンするまで遅延時間(期間b)を、第一の抵抗52の抵抗値を調整することによって行うことができたが、このクランプ素子オン回路70では、それに加え、ツェナーダイオード72のツェナー電圧V72を選択的に変更することによっても調整できるので、当該遅延時間(期間b1+b2)の設定の自由度が高くなり、設定精度も向上させることができる。
【0084】
次に、この発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態について、図7、図8に基づいて説明する。ここで、第一の実施形態のスイッチング電源装置10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。第二の実施形態のスイッチング電源装置80は、インバータ回路18、整流回路22及び平滑回路24が、シングルエンディッドフォワード方式に構成されている。そして、第一の実施形態のスイッチング電源装置10が備えていたクランプ素子オン回路44、クランプ素子オフ信号発生回路46及びクランプ素子オフ回路48が、各回路の変形例であるクランプ素子オン回路82、クランプ素子オフ信号発生回路84及びクランプ素子オフ回路86に置き換えられている。以下、スイッチング電源装置10と異なる構成について、個別に説明する。
【0085】
整流回路22は、MOSFETである整流側素子86と、整流側素子86の駆動回路である駆動抵抗88と、ダイオードである転流側素子90で構成されている。整流側素子86は、ドレイン端子がトランス14の二次巻線14bのドットが付されていない一端に接続され、ゲート端子が、駆動抵抗88を介して二次巻線のドットが付された一端に接続されている。転流側素子90は、アノード端子が整流側素子86のソース端子に接続され、カソード端子が二次巻線14bのドットが付された一端に接続されている。また、整流側素子86は、ソース端子からドレイン端子の向きに寄生ダイオード86aを備えている。
【0086】
平滑回路24は、整流回路22の出力である転流側素子90の両端に接続されたインダクタ92とコンデンサ94のLCフィルタ回路で構成され、コンデンサ94の両端に出力電圧Voを発生させる。
【0087】
従って、インバータ回路18の主スイッチング素子16がオン・オフすると、駆動抵抗88を介して二次巻線14bの電圧の変化により整流側素子88が主スイッチング素子16と同位相でオン・オフする。一方、転流側素子90は、主スイッチング素子16がオン・オフすると、そのオン・オフによる二次巻線14bの電圧の変化によって、主スイッチング素子16と逆位相でオン・オフする。そして、転流側素子90の両端に発生する整流電圧を平滑する平滑回路24が後段に接続され、シングルエンディッドフォワード方式のコンバータ回路が構成されている。
【0088】
クランプ素子オン回路82は、クランプ素子オン回路44の構成に加え、補助ダイオード40のカソード端子と第一のトランジスタ50のエミッタ端子の接続点に、第二の抵抗96とダイオード98の直列回路が挿入されている。第二の抵抗96は、第一のトランジスタ50のコレクタ電流を微調整するための抵抗である。また、ダイオード98は、第一のトランジスタ50のベース・エミッタ端子間の保護用として設けた素子である。これは、一般的なPNPトランジスタは、エミッタ・ベース間の定格電圧VEBOが約−5Vから−7Vと低いため、これを超える電圧が印加されるおそれがある場合に保護用として設けられる素子である。従って、ダイオード98は、必要に応じて削除してもよい。
【0089】
クランプ素子オフ信号発生回路84は、クランプ素子オフ信号発生回路46の構成に加え、絶縁トランス60の入力巻線60aの両端に、カソード端子が入力巻線60aのドットが付された側に向けてダイオード100が接続されている。ダイオード100は、絶縁トランス60が励磁エネルギーを放出するリセット動作時に動作するダイオードで、入力巻線60a,出力巻線60bに負方向(ドットと逆の方向)に高電圧が発生するのを抑制し、且つ、絶縁トランス60の偏磁を防止するためリセット動作が円滑に行われよう補助する働きをする。従って、ダイオード100は必要に応じて削除してもよい。
【0090】
クランプ素子オフ回路86は、クランプ素子オフ回路48の構成に加え、出力巻線60bのドットが付された一端と第三のトランジスタ62のゲート端子との接続点に挿入され、出力巻線60bに正方向(ドットの方向)に発生するクランプ素子オフ信号Vcの電圧を整流する整流ダイオード102と、第三のトランジスタ62のゲート・ソース端子間に接続され、当該ゲート・ソース端子間の寄生容量の電荷を放電する放電抵抗104が設けられている。クランプ素子オフ信号Vcがハイレベルを示す期間Thに入ると、第三のトランジスタ62がオンするが、期間Thが経過すると、クランプ素子オフ信号Vcがローレベルに低下する。しかし、整流ダイオード102の存在によって、第三のトランジスタ62のゲート・ソース端子間電圧が保持される。そして、放電抵抗104によって当該電圧が低下してゲート閾値に達するまでの所定の期間は、第三のトランジスタ62がオンを継続する。従って、クランプ素子オフ信号Vcがローレベルに低下した後の所定の期間、クランプ素子28がノイズなどの影響によって誤ってオンする不具合を防止することができる。
【0091】
スイッチング電源装置80は、先に述べたスイッチング電源装置10と同様に、図3、図4のタイムチャートに示すような動作を行う。しかし、ここでは、クランプ素子28がオンするタイミングと、整流側素子86がオフするタイミングとの関係が問題になる。
【0092】
理想的には、主スイッチング素子16がオフした後、整流素子86がオフするのと同時又はその後でクランプ素子がオンすることが好ましい。整流素子86がオフする前にクランプ素子がオンすると様々な不具合が生じる。以下、この不具合が生じる動作について、図8に基づいて説明する。
【0093】
主スイッチング素子16がオン、クランプ素子28がオフ、整流素子86がオンしている状態(図3の期間aに相当する)から、まず、主スイッチング素子16がオフする。すると、主スイッチング素子16の電圧V16が上昇し、クランプ素子オン回路82の働きにより、所定の遅延時間(期間b)の後、クランプ素子28がオンする。一方、主スイッチング素子16がオフすると、二次巻線14bの正方向(ドットの向き)に発生していた電圧が低下し、駆動抵抗88の働きにより、整流側素子86のゲート・ソース端子間電圧V86が低下し、ゲート閾値電圧に達した時点で、整流側素子86がオフする。
【0094】
ここで、クランプ素子28が、整流側素子86がオフする前にオンすると、クランプコンデンサ30の両端が、トランス14及び整流回路22を介して低インピーダンスに短絡される状態になる。そして、クランプコンデンサ30に蓄積されていた電荷が、トランス14、整流側素子86、転流側素子90、トランス14、クランプ素子28の経路で放電され、急峻な電流idが流れる。この電流idを制限するものは、配線パターンの配線抵抗、トランス14やクランプコンデンサ30が有する寄生抵抗だけなので、瞬間的に大きな電流となる。従って、電流idが流れる経路にある素子等が、非常に大きな電流ストレスや電力ストレスを受けてしまうという不具合が生じる。また、クランプコンデンサ30が放電されてしまうことによる損失の増大や、クランプコンデンサ30の電圧V30が低下してしまうことで、トランスが正常にリセットされずに偏磁してしまうと言った不具合も発生する。
【0095】
しかし、スイッチング電源装置80では、このような不具合を容易に回避することができる。すなわち、クランプ素子オン回路82によって、主スイッチング素子16がオフしてからクランプ素子28がオンするまでの遅延時間(期間b)が精度よく設定され、整流側素子86がオフすると同時又はその後でないと、クランプ素子28がオンしないように制御される。しかも、主スイッチング素子16の電圧V16や二次巻線14bの電圧の上昇速度が変化すると、遅延時間(期間b)が自動的に補正され、常に良好なタイミングでオン又はオフが行われる。特に、クランプ素子オン回路82は、遅延時間(期間b)を、第一の抵抗52及び第二の抵抗96の抵抗値を変更することによって容易に調整することができるので、その設定がしやすく、設定精度も高い。また、図5に示したクランプ素子オン回路70のツェナーダイオード72を付加して、さらに設定精度を向上させてもよい。
【0096】
第二の抵抗96は、第一のトランジスタ50のコレクタ端子とクランプ素子28のゲート端子との接続点に挿入してもよく、エミッタ端子側に挿入された場合と同様の作用効果を得ることができる。また、第二の抵抗96が第一のトランジスタ50のエミッタ端子側に挿入されると、第一のトランジスタ50の動作に対して負帰還特性を生じさせ、当該動作の安定度を向上させることもできる。さらに、第二の抵抗96を設けることによって、第一のトランジスタ50に集中していた電力損失の一部を第二の抵抗96にも負担させることになり、第一のトランジスタ50への発熱の集中を防止することもできる。
【0097】
なお、この発明のスイッチング電源装置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、アクティブクランプ用の電圧共振素子は、トランスの漏れインダクタンスと主スイッチング素子の寄生コンデンサで構成しているが、それに相当する個別部品であるインダクタやコンデンサを付加してもよい。また、クランプ素子や整流側素子のドレイン・ソース端子間の寄生ダイオードは比較的オン電圧が高いので、当該寄生ダイオードと同一の向きに、低オン電圧の高速スイッチング用ダイオードを並列接続してもよい。
【0098】
また、第三のトランジスタ62は、NPN型トランジスタで構成してもよく、絶縁トランスと直列に偏磁防止用のカップリングのコンデンサを付加する等すれば、クランプ素子オフ信号発生回路とクランプ素子オフ回路を比較的安価に構成することができる。また、クランプ素子はMOSFETが最適であるが、双方向にオン電流が通過可能な他の素子と、その両端に、MOSFETの寄生ダイオードに相当するダイオードを組み合わせることによって構成してもよい。
【0099】
さらに、シングルエンディッドフォワード方式の整流回路に設けた整流側素子駆動回路は、主スイッチング素子がオンからオフに転じたことをトランスの巻線電圧の変化によって検知して整流側素子をオフさせる構成であれば、駆動抵抗と直列にスピードアップ用のコンデンサを挿入した駆動回路や、トランスの第三の巻線を利用した駆動回路など、様々に変形することができる。また、転流側素子をダイオードからMOSFETに置き換え、整流回路の損失をさらに低減する構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0100】
10,80 スイッチング電源装置
14 トランス
14a 一次巻線
14b 二次巻線
16 主スイッチング素子
16a 寄生コンデンサ
18 インバータ回路
20 インバータ動作制御回路
22 整流回路
24 平滑回路
28 クランプ素子
28a 寄生ダイオード
30 クランプコンデンサ
32 クランプ回路
34 クランプ動作制御回路
40 補助ダイオード
42 補助コンデンサ
44,70,82 クランプ素子オン回路
46,84 クランプ素子オフ信号発生回路
48,86 クランプ素子オフ回路
Va 駆動パルス
Vb オフタイミング信号
Vc クランプ素子オフ信号


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流入力電源と直列に接続されオン・オフ動作によって入力電圧を断続し断続電圧を発生させる主スイッチング素子と、前記断続電圧が印加される一次巻線及びそれに磁気結合した二次巻線を有するトランスとが設けられたインバータ回路と、
前記二次巻線の両端電圧を整流する整流回路と、
前記整流回路が出力した整流電圧を平滑して直流の出力電圧を生成し負荷に電力を供給する平滑回路と、
N−chのMOS型FETであるクランプ素子及びクランプコンデンサの直列回路の構成を有し、前記一次巻線の両端に接続され、前記主スイッチング素子がオフの期間中に前記クランプ素子が導通することによって、前記トランスの各巻線に発生する電圧を制限するクランプ回路と、
前記主スイッチング素子をオン・オフ制御するインバータ動作制御回路と、
前記クランプ素子のオン・オフを制御するクランプ動作制御回路とを備えたスイッチング電源装置において、
前記インバータ回路は、前記一次巻線の一端を前記直流入力電源のプラス側に接続し、前記一次巻線の他端と前記直流入力電源のグランド側との間に前記主スイッチング素子を接続して構成され、
前記クランプ回路は、前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端に前記クランプ素子のドレイン端子を接続し、前記クランプ素子のソース端子と前記一次巻線の他端との間に前記クランプコンデンサを接続して構成され、
前記インバータ動作制御回路は、前記主スイッチング素子をオン・オフさせるタイミング及び時比率を決定し、前記主スイッチング素子の駆動パルスを出力し、前記クランプ素子をオフさせるタイミングを示すオフタイミング信号を出力可能に構成され、
前記クランプ動作制御回路は、前記一次巻線の前記直流入力電源が接続された側の一端にアノード端子が接続された補助ダイオードと、前記補助ダイオードのカソード端子と前記一次巻線の他端との間に接続された補助コンデンサとを備え、前記補助ダイオードのカソード端子の電位と前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端の電位以上の所定の電位とを比較し、前記補助ダイオードのカソード端子の電位の方が高いとき、前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷を前記クランプ素子のゲート・ソース端子間に移動させることによって、所定の速度で前記クランプ素子のゲート・ソース端子間電圧を上昇させることで前記クランプ素子をオンさせるクランプ素子オン回路と、前記インバータ動作制御回路から出力されたオフタイミング信号に基づき、絶縁手段を介してクランプ素子オフ信号を出力するクランプ素子オフ信号発生回路と、前記クランプ素子オフ信号を受けたときに、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間電圧をローレベルに低下させるクランプ素子オフ回路とにより構成されたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記インバータ回路、前記整流回路、及び前記平滑回路が、シングルエンディッドフォワード方式に構成され、
前記整流回路は、N−chのMOS型FETである整流側素子と整流側素子駆動回路とを備え、
前記整流側素子駆動回路は、前記主スイッチング素子がオンからオフに転じたことによる前記トランスの巻線電圧の変化を検知して前記整流側素子をオフさせ、
前記クランプ素子オン回路は、前記整流側素子がオフするのと同時又はその後に、前記クランプ素子をオンさせる請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記クランプ素子オン回路は、
エミッタ端子が前記補助ダイオードのカソード端子に接続され、コレクタ端子が前記クランプ素子のゲート端子に接続されたPNP型の第一のトランジスタと、
前記第一のトランジスタのベース端子と前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端との間に接続され、前記第一のトランジスタのベース電流を決定する第一の抵抗とで構成され、
前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端の電位よりも前記補助ダイオードのカソード端子の電位の方が高いとき、前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷が、前記第一のトランジスタのベース電流で規定される所定の速度で、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間の電圧を上昇させることによって、前記クランプ素子がオンする請求項1又は2記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記クランプ素子オン回路は、
エミッタ端子が前記補助ダイオードのカソード端子に接続され、コレクタ端子が前記クランプ素子のゲート端子に接続されたPNP型の第一のトランジスタと、
前記第一のトランジスタのベース端子と前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端との間に接続され、アノード端子が前記一次巻線側を向くように配置されたツェナーダイオードと前記第一のトランジスタのベース電流を決定する第一の抵抗とで成る直列回路とで構成され、
前記一次巻線の前記直流入力電源側の一端の電位と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧とを合計した電位よりも前記補助ダイオードのカソード端子の電位の方が高いとき、前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷が、前記第一のトランジスタのベース電流で規定される所定の速度で、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間の電圧を上昇させ、前記クランプ素子がオンする請求項1又は2記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記補助ダイオードのカソード端子と前記第一のトランジスタのエミッタ端子との接続点、若しくは前記第一のトランジスタのコレクタ端子と前記クランプ素子のゲート端子との接続点、又はその両方に第二の抵抗が挿入され、
前記補助コンデンサ及び前記クランプコンデンサに蓄積された電荷が前記クランプ素子のゲート・ソース端子間に移動することで、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間の電圧が上昇する速度が、前記第一の抵抗及び前記第二の抵抗によって規定される請求項3又は4記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記インバータ動作制御回路は、前記クランプ素子をオフさせるタイミングでローレベルからハイレベルに反転する矩形波状のオフタイミング信号を出力し、
前記クランプ素子オフ信号発生回路は、
コンデンサと抵抗で構成された微分回路と、前記微分回路の出力にベース・エミッタ端子が接続されたNPN型の第二のトランジスタと、入力巻線と出力巻線とを有し、前記入力巻線が直流電源と前記第二のトランジスタのコレクタ端子との間に接続された絶縁トランスとを備え、
前記微分回路に前記オフタイミング信号が入力されると、前記第二のトランジスタがオン・オフし、前記出力巻線の両端に、前記オフタイミング信号がローレベルからハイレベルに反転したタイミングで短時間だけハイレベルを示すクランプ素子オフ信号を発生する動作を行い、
前記クランプ素子オフ回路は、
前記出力巻線の両端にゲート端子とソース端子が各々接続され、さらに前記クランプ素子のゲート・ソース端子間にドレイン端子とソース端子が各々接続されたN−chのMOS型FETである第三のトランジスタを備え、
前記クランプ素子オフ信号がローレベルからハイレベルに反転したタイミングで前記第三のトランジスタがオンし、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間電圧をローレベルに低下させる請求項1乃至5のいずれか記載のスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記第三のトランジスタがNPN型トランジスタに置き換えられ、当該NPN型のトランジスタは、前記絶縁トランスの前記出力巻線の両端にベース端子とエミッタ端子が各々接続され、前記クランプ素子のゲート・ソース端子間にコレクタ端子とエミッタ端子が接続された請求項6記載のスイッチング電源装置。
【請求項8】
前記絶縁トランスの前記出力巻線と前記第三のトランジスタのゲート端子の接続点に、カソード端子を前記第三のトランジスタのゲート端子側に向けた整流ダイオードが挿入され、
前記第三のトランジスタのゲート・ソース端子間に放電抵抗が接続された請求項6記載のスイッチング電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−41419(P2011−41419A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188223(P2009−188223)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】