説明

スパッタリングターゲット

【課題】スパッタリング時のアーキングが生じ難いスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】酸化亜鉛焼結体からなり、スパッタリング雰囲気にさらされる主面11aのX線回折測定のピーク強度により算出される結晶配向度I002/(I002+I110)が0.2以上、0.58未満であることを特徴とするスパッタリングターゲット。前記酸化亜鉛焼結体は、鋳込み成形体を焼成してなり、前記鋳込み成形体は、吸水性材料の底部と非吸水性材料の側壁部とを備える成形型に原料粉末を分散させたスラリーを注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、タッチパネル等の透明電極に用いられる透明導電膜をスパッタリング法で形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低コストで高い透明性、導電性および化学的安定性を有する酸化亜鉛透明導電膜が注目されている。酸化亜鉛系の透明導電膜の形成方法としては、緻密で膜質の良い膜が得られやすい、スパッタリング法が最も適しており、スパッタリングターゲット材料に用いられる酸化亜鉛焼結体が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸化亜鉛粉末に溶媒を加えたスラリーに対して特定方向に高い磁場を印加することによって、磁場を印加する向きに(110)面が優先的に配向した成形体を作製でき、該成形体を焼成することにより、(110)面に配向した配向面を有する酸化亜鉛質焼結が開示されている。
【0004】
特許文献1では、粉末の成形方法としてスラリーを用いた鋳込み成形が用いられている。このような鋳込み成形をスパッタリングターゲット材料の製法に適用した例が特許文献2に記載されている。特許文献2では、図1に示したように、成形用凹部12が上面に設けられた非吸液性の下型13と、下型13の上面に被さる吸液性の上型14とからなり、かつ成形用凹部12に連通する1又は2以上の鋳込み口16が設けられたことを特徴とする固形泥漿鋳込み成形型が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−121067号公報
【特許文献2】特開平11−19910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、酸化亜鉛焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜する際、アーキングが発生しプラズマ放電状態が不安定となり安定した成膜が行われないことがある。このようなアーキングに対して従来の酸化亜鉛焼結体は、対策が不十分であった。
【0007】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、アーキングが生じ難いスパッタリングターゲットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するため、酸化亜鉛焼結体からなり、スパッタリング雰囲気にさらされる主面のX線回折測定のピーク強度により算出される結晶配向度I002/(I002+I110)が0.25以上、0.58未満であることを特徴とするスパッタリングターゲットを提供する。
【0009】
特に、スパッタリング雰囲気に曝される主面に対して酸化亜鉛のc軸が平行になるような傾向が強いと効果的であることがわかった。この理由は定かではないが、スパッタリング時のアーキングはその発生箇所の導電率と相関があり、配向させることで酸化亜鉛中の酸素原子が優先的にスパッタされる傾向を妨げ、その結果、局所的に導電率の低い箇所が生じ難くなることによるものと推測される。
【0010】
ただし、c軸が平行になる傾向が極端に強いことは好ましくなく、上記結晶配向度I002/(I002+I110)は0.25以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記酸化亜鉛焼結体がAl、Ga、B、Si、Inから選ばれる一種以上の元素を含むスパッタリングターゲットを提供する。これらは酸化亜鉛焼結体に導電性を付与するために添加され、その添加量等を調整することによりスパッタリングターゲットに好適な材料が得られる。
【0012】
さらに、本発明は、酸化亜鉛焼結体が、鋳込み成形体を焼成してなり、鋳込み成形体は、吸水性材料の底部と非吸水性材料の側壁部とを備える成形型に原料粉末を分散させたスラリーを注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させてなるスパッタリングターゲットを提供する。このような鋳込み成形を用いてスパッタリングターゲットの主面を形成した場合、主面についてX線回折測定のピーク強度により算出される結晶配向度は、他の成形方法を用いた場合とは異なる。
【0013】
また、本発明は、スパッタリングの雰囲気に曝される主面が、鋳込み成形時の着肉方向に垂直になるように研削または研磨加工された面であるスパッタリングターゲットを提供する。成形時の着肉方向と主面の関係を特定することで主面の結晶配向度を所定値に制御することができる。
【発明の効果】
【0014】
スパッタリング時のアーキングが生じ難いスパッタリングターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の鋳込み成形を示す概略図である。
【図2】本発明のスパッタリングターゲットの概略断面図である。
【図3】本発明の鋳込み成形を示す概略図である。
【図4】作製No.4(表1)のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のスパッタリングターゲットについて、より詳細に説明する。
【0017】
図2にスパッタリングターゲットの概略断面を示す。スパッタリングターゲット21は、酸化亜鉛焼結体からなり、スパッタリング雰囲気に曝される主面21aを有している。スパッタリングターゲットの裏面21bはバッキングプレート22に接合される。
【0018】
酸化亜鉛焼結体は、導電性を付与するためにAl、Ga、Si、B、Inの1種以上を添加したものとすることができる。
【0019】
Alを添加したものとしては、焼結体におけるAlの含有量が酸化アルミニウム換算で0.5〜3.5質量%の範囲としたものが好ましい。この範囲において酸化アルミニウムを添加することにより、良好な導電性の膜が得られる。Alは、ZnOの粒界及び粒子内に存在すると、ZnOとAlの反応により生成し、ZnOの粒界及び粒子内に存在するZnAlとを構成する。添加したAl(酸化アルミニウム)の反応を制御して、生成されるスピネル(ZnAl)を調整することで、強度不足による使用中の割れや、アーキングを低減でき、ターゲット材料として好適な酸化亜鉛焼結体が得られる。
【0020】
Gaを添加したものとしては、Gaの含有量が酸化ガリウム換算で0.03〜5質量%の範囲としたものが好ましい。通常、Gaを添加して酸化亜鉛焼結体を作製すると、亜鉛とGaの複合酸化物が生成する。しかしながら、複合酸化物が生成すると、気孔が生じアーキングも起き易くなる。また、明度のムラも生じ易いので好ましくない。Gaの添加量を上記範囲とすることによって、複合酸化物の生成及び明度のムラを抑制できるので、アーキングを防ぎ、成膜の均一性を高めることができる。さらにGaの適切量が酸化亜鉛に固溶するのでスパッタリングターゲットの体積抵抗率の制御も容易になる。
【0021】
Bを添加したものとしては、ZnO焼結体におけるB(硼素)の含有割合はB換算で0.5〜4質量%としたものが好ましい。Bの含有量が少ない場合は、Znサイトに置換固溶するドーパントのBの量が少なすぎて、成膜しても低抵抗な膜が得られ難くなる。Bの含有量を所定量とすることで抵抗を下げることが可能である。一方、Bの含有量が多すぎると、膜の抵抗には変化がないが、固溶限界を超えた過剰のBがZnO焼結体の粒界に多量に残留することで焼結阻害を起こし、焼結体が十分に緻密化しないとか、スパッタリング時にアーキングを起こす原因となるので好ましくない。
【0022】
スパッタリングの雰囲気にさらされる主面の面内の明度差ΔL*が5以下であることが好ましい。酸化亜鉛焼結体を用いたスパッタリングターゲットでは、焼成後の加工がないと表面粗さが大きく、そのままスパッタリングターゲットとして用いると、スパッタリング中にアーキングが頻発してしまう。これを防ぐために焼結後に焼結体表面の研削加工が行われる。しかしながら、酸化亜鉛は研削加工により応力が加わると、結果として焼結体表面の明度が変化し、同一面内に明度のムラが生じてしまう。これをスパッタリングターゲットとして用いると、特にスパッタリング初期にアーキングが頻発し、膜質にもムラが生じてしまう。
【0023】
この理由は定かではないが、加工によって結晶粒界に応力が蓄積されることで結晶に歪が生じ、それがスパッタリング時に各結晶による指向性の差が明確にでるものと推測される。そのため、スパッタリングの雰囲気に曝される主面において、面内の明度差ΔL*は5以下であることが望ましい。
【0024】
酸化亜鉛焼結体の相対密度は99%以下が望ましい。密度が高すぎると研削加工時の応力の蓄積が顕著になることから、明度差ΔL*が大きく成り易いためである。ただし、焼結体の密度が低すぎると膜質ムラの原因となるため、相対密度は75%以上が望ましい。
【0025】
また、スパッタリングターゲットの温度は、スパッタリング中に上昇する。特に、スパッタリングターゲットの裏側に配置されるマグネット付近の主面の温度が最も高くなる。このためスパッタリングターゲット内で温度勾配が発生し、割れることがある。これは、スパッタリングターゲットの密度が高いほど、温度勾配による部分熱膨張の差によって発生する応力が緩和できなくなるためである。
【0026】
焼結体の密度が上がるにつれて、ある程度まではヤング率、曲げ強度ともに向上するが、ヤング率はそれに追従するのに対し、曲げ強度はある程度のところで向上が止まり、やがて低下する。これは、ヤング率は密度依存が大きいのに対して、曲げ強度は焼結体の組織に依存するためである。その結果、ヤング率が大きくなると、発生する熱応力も大きくなるのに対し、曲げ強度はヤング率ほど向上していないため、その応力に耐えるだけの強度が発揮されず熱応力割れのリスクが高まる。このような観点からも酸化亜鉛焼結体の相対密度は99%以下が望ましい。
【0027】
前記酸化亜鉛焼結体の平均粒径は15μm以下であることが望ましい。平均粒径が大きくなると、研削加工時に発生する応力が大きくなり、明度差ΔL*が大きくなるからである。
【0028】
また、スパッタリングターゲットの主面を構成する酸化亜鉛焼結体の最大高さRz(JISB0601:2001)が平均粒径の1/2以下であることが好ましい。表面粗さの評価において多く用いられる算術平均表面Raを小さくするだけでは、必ずしもアーキングが低減せず、最大高さRzを制御することによって、より確実にアーキングを低減できる。
【0029】
さらに、スパッタリングターゲット21を構成する酸化亜鉛焼結体は、平均粒径の1/2以下の気孔径の気孔を含むことが好ましい。上記のように、相対密度は99%以下が望ましいが、焼結体に含まれる気孔が大きいことは好ましくない。気孔が平均粒径の1/2を超えて大きいと、脱粒によって、成膜中のアーキングが発生しやすくなったり、気孔部分で熱伝導率の低下を招き、局所的な温度上昇が生じたりするためである。
【0030】
スパッタリングターゲット21を構成する酸化亜鉛焼結体の体積抵抗率は、1×10−2Ωcm以下が好ましい。このような体積抵抗率のスパッタリングターゲットを用いるとスパッタ効率が向上する。
【0031】
本発明のスパッタリングターゲット21は、スパッタリング時に主面21aの温度が100℃以上となり、裏面21bに接合されたバッキングプレート12が30℃以下で冷却される。したがって、スパッタリングターゲット11の主面温度とバッキングプレート22の温度差、すなわち、ターゲットの主面21aと裏面21bの温度差は70℃以上となる。このような温度勾配が生じ得る条件下での使用に好適である。
【0032】
バッキングプレート22は100W/m・K以上であることが好ましい。また、スパッタリングターゲット21の厚さは8〜20mmとすることができる。近年、スパッタリングターゲットの交換頻度を減らすべく、従来よりも厚くされる傾向がある。そのため、スパッタリングターゲットの冷却はますます重要となってきており、特にスパッタリングターゲット21の厚さが8〜20mmの場合には、熱伝導率が100W/m・K以上のバッキングプレートを用いることが好ましい。
【0033】
次に本発明のスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
【0034】
酸化亜鉛粉末は、高純度のものを用いることが好ましい。その純度は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.8%以上の原料粉末を用いることが望ましい。
【0035】
酸化亜鉛の原料粉末は球状よりも板状粒子の方が好ましい。このような原料粉末を用いることでアーキングをより一層低減できる。具体的には、板状の酸化亜鉛粉末の平均等価円直径は0.1〜2.0μm、平均厚さは0.01〜0.2μmのものを用いることができる。なお、原料粉末の大きさは、SEM観察写真を用いて求めることができる。等価円直径とは、板状の平面部の面積と同じ面積を有する円の直径をいう。
【0036】
Al、Ga、Bは酸化物の粉末で添加されることが好ましいが、これに限定されず、大気中での焼結後に酸化物を生成する炭化物、窒化物等の種々の形態であっても良い。純度は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上の原料粉末を用いることが望ましい。これらの粉末の形状は特には規定されないが、板状よりも球状粒子の方が好ましく、その一次粒子の平均粒径は酸化亜鉛の平均等価円直径よりも小さい方がよい。これらの粉末の平均粒径は2.0μm以下のものを用いることが好ましい。さらに好ましい範囲は、0.01〜2.0μmである。
【0037】
原料粉末のスラリーを作製して、鋳込み成形に供する。スラリーの溶媒は水、アルコール等、公知のものが使用できる。成形に用いられるバインダーも特に限定されず、ポリビニルアルコールやアクリルエマルジョン等公知のものが使用でき、分散剤についてもポリカルボン酸系等の一般的な材料を適用できる。原料粉末の混合は、攪拌混合やボール混合などスラリーを用いた方法を採用できる。
【0038】
鋳込み成形は、吸水性材料からなる底部31、及び非吸水性材料からなる側壁部32を備える成形型30に原料粉末を分散させたスラリー35を注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させる方法を用いることが好ましい(図3)。この方法によれば、着肉方向を一定方向とすることができるので着肉方向の違いによる密度差の発生を防ぐことができる。なお、「底部」は、必ずしも低い位置にあることを意味するものではなく、着肉方向について奥底部であることを意味する。また、底部と側壁部との位置関係は、図3のように一定方向に着肉し得る構成であれば良い。
【0039】
上記の鋳込み成形を用いたスパッタリングターゲットの主面についてX線回折測定を行うと、他の成形方法を用いた場合とは異なる回折結果を示す。具体的には、c軸に垂直な面と、平行な面との関係を示す配向度I002/(I002+I110)が0.25以上0.58未満となる。一方、CIP成形を用いた配向のほとんどない焼結体は、上記配向度は0.58を示すが、上記方法により形成した主面は、これよりも小さい配向度を示す。c軸に垂直な(002)面のピーク強度が相対的に小さくなるということは、主面に垂直な方向にc軸を持つ結晶面が少ないことを意味する。上記配向度が所定範囲であれば、アーキングの発生をより低減することができる。
【0040】
図4に本発明のスパッタリングターゲットを構成する酸化亜鉛焼結体のXRD測定により得られるチャート例を示す。それぞれの面についてピーク強度I002及びI110を求めた後、結晶配向度I002/(I002+I110)を算出することができる。
【0041】
ここで、主面は、スパッタリングの雰囲気に曝される面であり、鋳込み成形時の着肉方向に垂直になるように研削または研磨加工された面である。配向度を調整するには、真空吸引のための溝33から真空吸引する際の、真空ポンプの排気速度を制御すると良い。真空ポンプの排気速度が高いほど酸化亜鉛粒子が配向し易くなる。
【0042】
また、本発明の鋳込み成形では、成形型30にスラリー35を注型すると、底部31に着肉層が形成されるが、着肉層は常に余剰のスラリーにより覆われていることが好ましい。常に余剰のスラリーにより覆われることで、着肉の均一化が図られる。したがって、着肉層の厚さが成形体に必要な厚さに達した後は、余剰のスラリーを排出するか、または余剰分により着肉した部分を加工して除去すると良い。
【0043】
焼結温度は1250〜1600℃、特に1350〜1550℃であれば焼結中の酸化亜鉛の蒸発が少なく容易に緻密化するため好ましい。また、焼結温度が1600℃をこえると、酸化亜鉛の蒸発が激しくなり緻密化し難くなる。焼結温度が1250℃未満の場合、焼結それ自体があまり進まず緻密な焼結体が得られ難い。焼結時間は数時間〜数十時間が好ましい。
【0044】
焼結雰囲気は特に限定されないが、例えば大気中、酸素中、不活性ガス雰囲気中等が例示できる。特に焼結中に酸化物の蒸発による重量減少、組成ずれの低減のためには大気中等の酸化雰囲気での焼結が好ましい。なかでも、大気雰囲気または大気気流中が好ましい。また焼結雰囲気の圧力は限定されず、減圧、常圧から数気圧の加圧まで任意に適用できる。コスト面からは常圧が好ましい。なお、ホットプレス焼結の場合は、不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0045】
上記の焼結温度とし、雰囲気を調整して、平均粒径15μm以下の酸化亜鉛焼結体を得る。
【0046】
酸化亜鉛焼結体は、ターゲット材としてバッキングプレートに接合される前に、研削または研磨加工が施される。加工は、スパッタリングの雰囲気に曝される主面が鋳込み成形時の着肉方向に垂直になるように行われる。成形時の着肉方向と主面の関係を特定することで主面の結晶配向度を所定値に制御することができる。なお、「着肉方向に垂直」については、厳密に一致させることを要するものではなく、本発明の効果が得られる範囲で、ある程度のズレを許容するものである。ただし、±5°以下に抑えることが好ましい。
【0047】
主面の加工を行うと、加工歪みが生じることから、歪みを除去するために、研削または研磨加工後に熱処理することが好ましい。熱処理は、600〜800℃で行うことができる。温度パターンは特に規定しないが、熱衝撃による割れを防ぐ意味から300℃/h以下の昇温、降温レートが望ましい。雰囲気は大気、不活性ガス等、特には問わない。このような熱処理条件であれば、十分に歪みが除去でき、焼結体の粒成長等も起きないので好ましい。このとき、酸化亜鉛焼結体の平均粒径が15μm以下であれば、研削加工時に発生する応力を小さくできるので、焼結体の明度差ΔL*を低減することができる。
【0048】
酸化亜鉛焼結体からなるターゲット材が接合されるバッキングプレートとしては、銅板が熱伝導に優れるので好ましい。銅板の他には、アルミニウム合金や銅等をマトリックス金属とし、セラミックスを強化材とした金属―セラミックス複合材料も好適である。
【0049】
バッキングプレートと酸化亜鉛焼結体からなるターゲット材との接合はインジウム接合が好適である。ただし、インジウムによって形成される接合層は、前記バッキングプレート及びターゲット材の接合面に対して少なくとも90%の接触面積を有することが望ましい。本発明のターゲット材と銅板とをインジウムにより接合し、接触面積を90%以上とすれば、製造時または使用中の熱応力による割れを無くすことができる。
【0050】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0051】
[原料粉末]
原料粉末として、酸化亜鉛粉末(純度99.8%、平均等価円直径1.0μm、平均厚さ0.2μm)、酸化アルミニウム粉末(純度99.99%、平均粒径0.5μm)、酸化ガリウム粉末(純度99.99% 平均粒径1.0μm)、及び酸化ホウ素粉末(純度99.7%、平均粒径0.5μm)を準備した。
【0052】
[鋳込み成形(作製No.1〜8)]
鋳込み成形に用いたスラリーは、原料粉末にバインダー、分散剤およびイオン交換水を調整して作製した。
【0053】
図3に示したような、箱型の成形型30を用い、底部31の着肉面が水平になるように成形型を水平な場所に設置して成形を行った。成形型は石こうからなる吸水性材料の底部31と硬質プラスチックからなる非吸水性材料の側壁部32および底部の下面を支える底板34とからなり、側壁部32と底板34の連結部等はスラリーが漏れないように接着されている。真空吸引のための溝33が底部31に形成されており、溝33はそれぞれ真空源(図示しない)に連結されている。
【0054】
スラリーを成形型に注型し、各成形型について実効排気速度10〜1400L/minのポンプを用いて真空吸引した。成形体を採取するのに十分な着肉厚さに到達したところで着肉層上にある余剰スラリーを排出し、成形体36を得た。この成形体36を大気中1350〜1550℃で15時間焼成し、焼結体を得た。
【0055】
[CIP(作製No.9〜11)]
原料粉末に、バインダーを添加し、混合媒体としてΦ15、Φ25の樹脂ボール、容器に樹脂製ポットを用いて、20時間湿式混合した。混合後のスラリーを取り出し、スプレードライにより混合粉末の顆粒を作製した。得られた混合粉末を用いてCIP成形し、成形体を作製した。しかる後に成形体を1500℃で15時間焼成し、焼結体を得た。
【0056】
[スパッタリングターゲットの作製と評価]
得られた酸化亜鉛焼結体を研削加工してφ100×12mmとした後、700℃で熱処理しスパッタリングターゲットとし、裏面に銅板のバッキングプレートをインジウム接合した。
【0057】
X線回折測定は鏡面研磨した焼結体表面を用い、リガク社製X線回折装置MultiFlexを使用し、CuKα線源、加速電圧40kV、40mAで測定した。酸化亜鉛焼結体の密度は、アルキメデス法により測定した。焼結体の平均粒径は焼結体表面を鏡面研磨後、研磨面を熱腐食し結晶粒界を析出させたあとにSEM観察を行ってインターセプト法から求めた。最大高さRzは、接触式表面粗さ測定器により測定した。得られた酸化亜鉛焼結体の相対密度は95〜99%、平均粒径は5〜15μm、最大高さRzは2〜4μmであった。なお、主面の算術平均表面粗さRaは全て0.5μm以下であった。
【0058】
得られたスパッタリングターゲットをDCマグネトロンスパッタ装置に装着して使用し、割れやアーキングの発生がないか調べた。スパッタリングは、純アルゴン雰囲気、圧力0.5Pa、投入電力200Wとした。スパッタリング中はバッキングプレートが30℃以下になるようにバッキングプレートを冷却水で抜熱した。このときスパッタリングターゲットの主面は100℃以上であった。アーキングは、成膜中に発生したアーキングをカウントし単位時間当たりの回数で評価した。表1の評価の欄は単位時間当たりの回数が20未満を○、20〜40を△、40を超えるものを×として表記した。
【0059】
【表1】

【0060】
作製No.1〜8は、結晶配向度が0.25〜0.57でありアーキングは少なかった。特に、結晶配向度0.25〜0.52の作製No.3〜8ではアーキングが極めて少なかった。一方、作製No.9〜11は、結晶配向度が0.58であり、アーキングが頻発した。なお、図4は、作製No.4のXRDチャートである。
【0061】
次に、添加物として酸化アルミニウムを用いて作製No.4と同じように成形し、大気中1350〜1600℃で15時間焼成したものについて、評価を行った。表2に結果を示す。なお、作製No.22では研削加工の際に、表面粗さRzが大きくなるように砥粒を変えて調整した。
【0062】
【表2】

【0063】
作製No.21〜25のいずれも結晶配向度は同程度であった。そのうち作製No.23〜25は、最大高さRzが平均粒径の1/2以下であり、アーキングが少なく極めて優れた性能を有していた。作製No.21は、平均粒径が15μmを超えており、また、作製No.22は最大高さRzが平均粒径の1/2を超えていた。これらは、作製No.23〜25と比べてアーキングがやや多かった。このことから、結晶配向度を所定の範囲とすることに加えて、酸化亜鉛焼結体表面の最大高さRzを平均粒径の1/2以下とすることが、アーキングを低減するうえで好ましいといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛焼結体からなり、
スパッタリング雰囲気にさらされる主面のX線回折測定のピーク強度により算出される結晶配向度I002/(I002+I110)が0.2以上、0.58未満であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記酸化亜鉛焼結体がAl、Ga、Si、B、Inから選ばれる一種以上の元素を含む請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化亜鉛焼結体は、鋳込み成形体を焼成してなり、
前記鋳込み成形体は、吸水性材料の底部と非吸水性材料の側壁部とを備える成形型に原料粉末を分散させたスラリーを注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させてなる請求項1または2記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記スパッタリングの雰囲気に曝される主面が、鋳込み成形時の着肉方向に垂直になるように研削または研磨加工された面である請求項3記載のスパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179056(P2011−179056A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43110(P2010−43110)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】