説明

セラミックス回路基板及びそれを用いたモジュール

【課題】高電圧に対する絶縁特性に優れ、パワーモジュール用として使用するのに好適なセラミックス回路基板を提供する。
【解決手段】
最上層と最下層が金属板であり、その間を複数のセラミックス基板と金属板が交互に配置されてなるセラミックス回路基板において、回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さが、セラミックス回路基板を構成する他のセラミックス基板の厚さよりも薄く、該セラミックス回路基板の絶縁破壊電圧と、該セラミックス基板を構成するセラミックス基板の厚さの総和と同じ厚さを持つ単層のセラミックス基板からなるセラミックス回路基板の絶縁破壊電圧との比が1.2以上であるセラミックス回路基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧に対する絶縁特性に優れたセラミックス回路基板及びそれを用いたモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーモジュール等に利用される半導体装置において、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス基板の表裏面に、銅、アルミニウム等の金属板を回路パターンや放熱面として接合したセラミックス回路基板が用いられている。このようなセラミックス回路基板には、樹脂基板や樹脂層を絶縁材とする金属基板に対し高い絶縁性が安定して得られるといった特長がある。
【0003】
絶縁性に優れた半導体搭載用セラミックス回路基板は、多岐にわたる分野、例えば電気鉄道や電気自動車等の駆動制御用や産業用ロボットの制御用の基板材料として用いられている。エレクトロニクス技術の発展に伴い半導体の高出力化が進む中、使用電圧の高電圧化が進んでおり、本用途に使用されるセラミックス回路基板に関して、更なる高絶縁性が要求されている。
【0004】
しかし従来のセラミックス回路基板では、例えば20kVといった高電圧を印加するとセラミックス基板が絶縁破壊を起こしてしまうという問題があり、その解決が急務となっている。
【0005】
セラミックス回路基板の高電圧下での使用を可能とするために、例えば、セラミックス基板の厚さを厚くすることが考えられる。しかし1mm以上の厚さのセラミックス基板を製造するためには、セラミックスシートの成形が困難となり、また、長時間の焼成が必要となり生産性が低下するといった課題がある。そこで、セラミックス基板を多層に重ねた構造の絶縁基板が提案されているが、多層内の1枚に割れが発生するという課題があり、十分な解決策が見いだされていないのが現状である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−183212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、セラミックス基板1枚の厚さを従来よりも大きく変更することなしに、高電圧に対して優れた絶縁特性を有するセラミックス回路基板及びそれを用いたモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、最上層と最下層が金属板であり、その間を複数のセラミックス基板と金属板が交互に配置されてなるセラミックス回路基板において、回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さが、セラミックス回路基板を構成する他のセラミックス基板の厚さよりも薄いことを特徴とするセラミックス回路基板である。
【0009】
さらに、回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さが0.3mm以上であることを特徴とするセラミックス回路基板であり、構成するセラミックス基板の厚さの総和と同じ厚さを持つ単層のセラミックス基板からなるセラミックス回路基板の絶縁破壊電圧と比較して1.2倍以上であることを特徴とするセラミックス回路基板である。また、前記セラミックス回路基板を用いてなるモジュールである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セラミックス基板1枚の厚さを従来よりも厚くすることなしに、高電圧に対して優れた絶縁特性を有するセラミックス回路基板及びそれを用いたモジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】セラミックス回路基板の構造一例
【符号の説明】
【0012】
1a 回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板
1b セラミックス基板
2a 最上層の金属板(回路パターン)
2b 金属板
2c 最下層の金属板(放熱面)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るセラミックス回路基板について説明する。
【0014】
本発明のセラミックス回路基板は、複数のセラミックス基板と金属板が接合されており、最上層と最下層が金属板であり、その間を複数のセラミックス基板と金属板が交互に配置されてなり、回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さが、セラミックス回路基板を構成する他のセラミックス基板の厚さよりも薄く、該セラミックス回路基板の絶縁破壊電圧と、該セラミックス基板を構成するセラミックス基板の厚さの総和と同じ厚さを持つ単層のセラミックス基板からなるセラミックス回路基板の絶縁破壊電圧との比が1.2以上であることを特徴とするセラミックス回路基板である。最上層の金属板には回路パターンが形成され、半導体チップがはんだ付けされる。また、最下層の金属板は放熱面として銅板などのベース板とはんだ付けされ、モジュール化される。ここで絶縁破壊電圧とは、絶縁油にセラミックス回路基板を浸漬し、JIS C2110に準じて電圧を加え、絶縁破壊が生じたときの電圧をセラミックス基板の厚さの総和で除することで求めることができる。
【0015】
本発明者は、高電圧下での絶縁特性の向上を達成するために鋭意検討を行った結果、セラミックス回路基板を構成するセラミックス基板の厚さの総和が同じであっても、単層からなる場合よりも多層からなる場合のほうが絶縁特性に優れることを見出した。これは、セラミックス回路基板を構成する各々のセラミックス基板が薄くなることで絶縁破壊の起点となる焼結体欠陥の数が少なくなったためと推察される。さらに、セラミックス基板間に存在する金属板が導電層として機能することで、高電圧印加時の電位分布が緩和され、電界強度が低下するためと推察される。従来、セラミックス基板の厚さを厚くすることで絶縁特性を改善することは知られているものの、同一のセラミックス基板厚さであってもセラミックス基板の多層化によって絶縁特性が向上することについてはこれまでに知られていない。
【0016】
本発明に係るセラミックス回路基板の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば次の方法で作製することができる。
【0017】
セラミックス回路基板を構成する各セラミックス基板の厚さは特に限定されないが、0.3mm〜1mm程度のものが一般的である。回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さが、セラミックス回路基板を構成する他のセラミックス基板の厚さよりも薄いことが好ましい。これによって放電が発生しやすい回路パターン端部の電界強度を低下させることができ、絶縁特性が向上する。回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さは0.3mm以上であることがより好ましい。厚さが0.3mm未満であると、該セラミックス基板単体の絶縁特性が低くなるため、高電圧印加時に絶縁破壊する場合があり、また、機械的強度が低下するため、使用時にクラックが発生する場合がある。
【0018】
セラミックス基板の材質は、熱伝導性及び信頼性の点から、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素の焼結体であることが好ましい。回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板は窒化ケイ素焼結体からなることがより好ましい。窒化ケイ素は可撓性があるため、基板厚さを薄くしても機械的強度の低下によるクラックが発生しにくくなり、また、窒化アルミニウム焼結体よりも熱伝導率は低いものの、薄くして使用することで熱抵抗を下げることができるためである。
【0019】
金属板の材質は、銅、アルミニウムまたはこれらの合金であることが好ましい。金属板の厚さは特に限定されないが、半導体チップが搭載される最上層の金属及びベース板とはんだ付けされる最下層の金属板には、電気的、熱的特性の点から、0.1〜0.6mm程度のものを使用するのが一般的である。セラミックス基板に挟まれる金属板の厚さについては、例えば0.02mmといった箔状のものでもよい。
【0020】
セラミックス基板に回路パターン及び放熱面を形成させるには、セラミックス基板と金属板とを接合した後にエッチングする方法、金属板から打ち抜かれた回路及び放熱面のパターンをセラミックス基板に接合する方法等によって行うことができる。
【0021】
セラミックス基板と金属板の接合には、接合材を用いない溶湯法、活性金属ろう付け法などのいずれも採用することができるが、生産性が良く、しかも比較的低温で接合ができる活性金属ろう付け法が好ましい。Ag、Cu、Al、Ti、Mgなどの金属合金がろう材として好適である。ろう材はペースト又は箔として用いられる。ろう材はセラミックス基板、または、金属板のどちらに塗布、或いは配置してもよく、箔を用いる場合は予め金属板と箔をクラッド化しておくこともできる。ろう材ペーストの塗布方法は特に限定されないが、例えばスクリーン印刷法、ロールコーター法等を採用することができる。ろう材ペーストの塗布されたセラミックス基板に金属板を配置し、真空中で熱処理することで接合できる。
【0022】
接合体から回路パターン及び放熱面を形成するには、接合体の最上層及び最下層の金属板にエッチングレジストを塗布しエッチングする。エッチングレジストとしては、一般に使用されている紫外線硬化型や熱硬化型のものが挙げられる。また、エッチング液としては、金属板の材質が銅であるときには、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅液、硫酸、過酸化水素水等の溶液が使用できる。エッチングによって不要な金属部分を除去したセラミックス回路基板には、塗布したろう材やその合金層・窒化物層等が残っており、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸、硝酸等の無機酸、過酸化水素水を含む溶液を用いて除去するのが一般的である。その後に、全てのエッチングレジストをアルカリ溶液によって除去する。必要に応じニッケル等のめっき処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
両面にろう材ペーストを塗布した厚さ0.80mmの窒化アルミニウム基板が上層に、厚さ1.00mmの窒化アルミニウム基板が下層になるように、厚さ0.25mmの銅板3枚を用いて窒化アルミニウム基板と銅板を交互に配置し、840℃で1時間加熱して接合した。回路パターン端部とそれに接する窒化アルミニウム基板の端部との距離が3mm、放熱面端部とそれに接する窒化アルミニウム基板の端部との距離が0.6mm、窒化アルミニウム基板の端部と窒化アルミニウム基板に挟まれた金属板の端部との距離が0.20mmとなるように最上層、最下層の銅板にエッチングレジストを印刷してから、塩化銅水溶液、次いで過酸化水素と酸性フッ化アンモニウムの混合液を用いてエッチングを行い、回路パターンと放熱面を形成した。次いで、エッチングレジストをアルカリ剥離液で剥離し、セラミックス回路基板を得た。得られたセラミックス回路基板について絶縁破壊電圧を評価した。結果を表1に示す。
【0024】
〈使用材料〉
窒化アルミニウム基板:電気化学工業社製。寸法60×50mm、熱伝導率150W/m・K、曲げ強さ360MPa。
銅板:無酸素銅(JIS C1020R材)。
ろう材ペースト:田中貴金属工業社製「SP−641」。
【0025】
〈評価方法〉
絶縁破壊電圧:部分放電測定機(総研電気製 DAC−6018)により測定。絶縁油(住友3M社製「フロリナートFC−77」)にセラミックス回路基板を浸漬し、JIS C2110に準じて試料に電圧を加え、絶縁破壊が生じたときの電圧を測定した。
【0026】
[実施例2〜6]
セラミックス基板の厚さを表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。結果を表1に示す。
【0027】
[比較例1〜3]
セラミックス基板の厚さを表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、高電圧に対する絶縁特性に優れ、パワーモジュール用として使用するのに好適なセラミックス回路基板が提供される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
最上層と最下層が金属板であり、その間を複数のセラミックス基板と金属板が交互に配置されてなるセラミックス回路基板において、回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さが、セラミックス回路基板を構成する他のセラミックス基板の厚さよりも薄いことを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
回路パターンを形成する最上層の金属板と接するセラミックス基板の厚さが0.3mm以上であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
構成するセラミックス基板の厚さの総和と同じ厚さを持つ単層のセラミックス基板からなるセラミックス回路基板の絶縁破壊電圧と比較して1.2倍以上であることを特徴とする請求項1または2記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のセラミックス回路基板を用いてなるモジュール。


【図1】
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【公開番号】特開2012−234857(P2012−234857A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100432(P2011−100432)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】