説明

セラミック基板およびその製造方法

【課題】製造過程で生成されるセラミック片の脱落の可能性が低減されたセラミック基板を提供する。
【解決手段】セラミック基板(1)は、表面に設けられた分割溝(3)によって複数の配線基板領域(2)が区画されたセラミック母基板であって、その側面にセラミックスからなる複数のコーティング部材(4)が設けられている。好ましくは、複数のコーティング部材(4)は、セラミック基板(1)の側面において、該コーティング部材(4)の間に分割溝(3)の端部が位置するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品を搭載する複数の領域を広面積の母基板に配列形成したセラミック基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば半導体素子や水晶振動子等の電子部品を搭載するための配線基板に用いられるセラミック基板は、電子装置の小型化の要求に伴い、その大きさが数mm角程度の極めて小さなものとなってきている。これにより、セラミック基板は、複数個の配線基板の取り扱いを容易とするために、また配線基板および電子装置の製作を効率よくするために、1枚の広面積の母基板中から複数個の配線基板を同時集約的に得るようになした、いわゆる複数個取りの形態で製作されている。
【0003】
このセラミック基板の表面には、各配線基板領域が区画される所定深さの分割溝が縦横に形成されており、この分割溝に沿ってセラミック母基板を分割することによって個々の配線基板が得られる。
【0004】
このセラミック基板は、セラミックグリーンシート積層法によって製作される。具体的には、まず、セラミック母基板用の複数枚のセラミックグリーンシートを準備するとともに、これらのセラミックグリーンシートに各電子部品搭載部を形成するため等の打ち抜き加工および配線導体を形成するため等の金属ペーストの印刷加工を施し、次にこれらのセラミックグリーンシートを上下に積層し、次にこのセラミックグリーンシート積層体の上面に各配線基板領域を区切る分割溝用の切込みを形成し、最後にこのセラミックグリーンシート積層体を高温で焼成することによって製造される。
【特許文献1】特開平9−1530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなセラミック基板は、焼成前に、積層されたセラミックグリーンシートをカッターナイフで切断する、若しくは金型で打ち抜く等により所定の大きさに整えられる。このとき、セラミックグリーンシート積層体の切断面である側面には、ササクレ状のセラミック片ができやすいという問題があった。このようなセラミック片が電子部品に付着すると、その電子部品の動作に悪影響を及ぼす場合がある。特に、上述のような複数個取り形態のセラミック基板では、分割溝に沿って分割する毎にセラミック基板に衝撃を与えることになるため、セラミック片が脱落しやすいという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、セラミック片の脱落の可能性が低減されたセラミック基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセラミック基板は、表面に設けられた分割溝によって複数の領域が区画されたセラミック基板であって、その側面にセラミックスからなる複数のコーティング部材が設けられている。
【0008】
また、上記セラミック基板において、好ましくは、上記複数のコーティング部材は、側面において、コーティング部材の間に分割溝の端部が位置するように設けられている。
【0009】
本発明のセラミック基板の製造方法は、セラミックフィラーおよびバインダを有する複数のセラミックグリーンシートを積層してなるとともに、複数の領域を区画する分割溝が表面に形成されたグリーンシート積層体を準備する工程と、グリーンシート積層体の側面における複数の領域に、セラミックフィラーとバインダとを有するとともに、セラミックグリーンシートよりも全体の質量に対するバインダの質量の割合が大きく、かつセラミックフィラーの質量の割合が小さいセラミックペーストを塗布する工程と、セラミックペーストが塗布されたグリーンシート積層体を焼成する工程とを有し、塗布工程において、セラミックペーストは、セラミックペーストが塗布された領域の間に分割溝の端部が位置するように、側面に塗布される。
【0010】
また、上記セラミック基板の製造方法において、好ましくは、上記セラミックペーストは、セラミックグリーンシートよりもセラミックフィラーの粒子径が小さい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセラミック基板によれば、セラミック片の脱落の可能性が低減されたセラミック基板を実現することができる。
【0012】
本発明のセラミック基板の製造方法によれば、セラミック片の脱落の可能性が低減されたセラミック基板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明のセラミック基板の実施の形態の一例を示す平面図であり、図2は図1のセラミック基板の側面図である。図1および図2において、1はセラミック母基板、2は配線基板領域、3は分割溝、4はコーティング部材である。
【0015】
セラミック母基板1は、例えば酸化アルミニウム質焼結体、窒化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体、またはガラスセラミックス等のセラミック材料から成り、その中央部に各々が小型の配線基板となる複数の配線基板領域2が縦横に並んで一体的に配列形成されている。
【0016】
セラミック母基板1の中央部に配列形成された各配線基板領域2は、その上面中央部に電子部品を搭載するための搭載部(図示せず)を有しており、この搭載部に電子部品がろう材、またはガラス若しくは樹脂等の接着材を介して接着固定される。
【0017】
また、この搭載部には、タングステン、モリブデン、銅、若しくは銀等の金属メタライズから成る表面配線導体(図示せず)が形成されており、この表面配線導体には電子部品の電極がボンディングワイヤ等の電気的接続手段を介して電気的に接続される。
【0018】
このようなセラミック母基板1は、例えば酸化アルミニウム質焼結体から成る場合であれば、アルミナ、シリカ、マグネシア、およびカルシア等の原料粉末に適当な有機バインダおよび溶剤を添加混合して泥漿状となすとともにこれを従来周知のドクターブレード法を採用してシート状に形成し、これに例えば打ち抜き金型を用いて打ち抜き加工を施すことによりセラミックグリーンシートを準備するとともに、これらのセラミックグリーンシートに配線導体用のタングステンペーストをスクリーン印刷法により所定のパターンに印刷塗布し、しかる後、これらのセラミックグリーンシートを上下に積層してセラミックグリーンシート積層体となすとともに、このセラミックグリーンシート積層体を還元雰囲気中約1600℃の温度で焼成することによって形成される。
【0019】
また、セラミック母基板1の上面には、各配線基板領域2を区切る分割溝3が互いに直行する2方向に形成されている。分割溝3は、その断面形状が略V字状であり、セラミック母基板1の厚さや材質等により異なるが、その深さが0.05〜1.5mm程度、その開口幅が0.01〜0.3mm程度である。このような分割溝3は、セラミック母基板1用のセラミックグリーンシート積層体の上面にカッター刃や金型等を押し付けて切り込みを入れておくことによって形成される。
【0020】
なお、本実施の形態によるセラミック基板1は、図2に示すように、その側面にセラミックからなる複数のコーティング部材4が形成されている。この複数のコーティング部材4は、例えばセラミック原料粉末に、適当な有機バインダおよび溶剤を混合添加してペースト化して、それをスクリーン印刷法やディスペンス塗布法などで塗布し、その後焼成することにより形成される。
【0021】
このように、セラミック母基板1の側面端部にコーティング部材4が形成されていることから、セラミックグリーンシートの切断時に発生するセラミック片が、焼成後にセラミック母基板1の側面から脱落することを抑制することができる。
【0022】
また、この複数のコーティング部材4は、コーティング部材4の間に分割溝3の端部が位置するように形成されることが好ましい。このように形成されると、焼成中に、コーティング部材4が分割溝3を広げる方向に収縮して作用することから、分割溝3が焼成中に癒着することを抑制することができる。
【0023】
この場合、複数のコーティング部材4を形成するセラミックペーストは、セラミックグリーンシートよりも全体の質量に対するバインダの質量の割合が大きく、かつセラミックフィラーの質量の割合が小さい。このようにすると、セラミックペーストの収縮率がセラミックグリーンシートの収縮率よりも小さくなるため、焼成中に分割溝3が癒着することを抑制することができる。ここで、収縮率とは、平面方向における収縮前の長さに対する収縮後の長さの割合をいう。
【0024】
さらに、この複数のコーティング部材4を形成するセラミックペーストのセラミックフィラーの粒子径を、セラミックグリーンシートよりも小さくすることが好ましい。このようにすると、セラミックペーストがセラミックグリーンシートよりもより早く収縮を開始するため、焼成中に分割溝3が癒着することをより抑制することができる。
【0025】
このように分割溝3の癒着を抑制できれば、各配線基板領域2の搭載部上に電子部品を搭載した後、セラミック母基板1を分割溝3に沿って分割する際に、バリや割れの発生を抑制することができ、電子装置を同時集約的に不良品を低減させて良好に製造することができる。
【0026】
このようなセラミック基板1の製造方法について、以下に具体的に説明する。なお、本発明は以下の製造方法にのみ限定されるものではない。
【0027】
まず、セラミック無機成分としてアルミナ粉末を85質量部、焼結助剤としてシリカ、マグネシア、およびカルシアを合わせて15質量部の割合で調合したセラミック粉末100質量部に対して、有機バインダとしてアクリル樹脂15質量部を調合し、有機溶剤としてトルエン及び酢酸エチルをボールミルにより混合し、セラミックスラリーを調製した。このセラミックスラリーをドクターブレード法により塗布し、乾燥させて厚み100μmのアルミナセラミックグリーンシートを形成した。
【0028】
次に、このアルミナセラミックグリーンシートの表面に、タングステン粉末を100質量部にアクリル樹脂10質量部と有機溶剤としてのα−テルピネオール3質量部とを加え、攪拌脱泡機により十分に混合した後に、3本ロールにて十分に混練した金属ペーストを、スクリーン印刷法によって20μmの厚みに塗布し、70℃で30分乾燥した。
【0029】
次に、このアルミナセラミックグリーンシートを積み重ねて、20MPaの圧力と50℃の温度で加熱圧着して、50×50mmの四角形状のアルミナセラミックグリーンシートの積層体を作製した。
【0030】
次に、この積層体の表面にカッター刃を押圧することによって、深さ0.2mmで開口幅が0.05mmの分割溝3を、複数の配線基板領域2に区画されるように縦方向と横方向とに形成した。
【0031】
次に、セラミック無機成分としてアルミナ粉末を85質量部、焼結助剤としてシリカ、マグネシア、およびカルシアを合わせて15質量部の割合で調合したセラミック粉末100質量部に対して、有機バインダとしてアクリル樹脂25質量部を調合し、有機溶剤としてα−テルピネオール5質量部とを加え、攪拌脱泡機により十分に混合した後に、3本ロールにて十分に混練したセラミックペーストを、スクリーン印刷法によって積層体の側面に20μmの厚みに塗布し、70℃で30分乾燥した。
【0032】
次に、この積層体を、加湿窒素雰囲気中1600℃、1時間で焼成して、5mm×5mmの複数の配線基板領域2に区画されて、側面に複数のコーティング部材4が設けられたセラミック母基板1を作製した。
【0033】
次に、比較例として側面に複数のコーティング部材4を形成させない以外の構成は上記と同様にしてセラミック母基板100を作製した。
【0034】
得られたセラミック母基板1,100について、50倍の顕微鏡で外観状態を観察した後、分割溝3から5×5mmの複数の配線基板領域2に分割した。その結果、実施例のセラミック母基板1は、分割溝3が癒着することなく、複数の配線基板領域2にバリや割れを発生させずに分割されていた。一方、比較例のセラミック母基板100は、分割溝3が部分的に癒着しており、分割後に配線基板領域2にバリが発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のセラミック基板の実施の形態の一例を示す平面図である。
【図2】図1のセラミック基板の側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・セラミック母基板
2・・・配線基板領域
3・・・分割溝
4・・・コーティング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に設けられた分割溝によって複数の領域が区画されたセラミック基板であって、その側面にセラミックスからなる複数のコーティング部材が設けられたセラミック基板。
【請求項2】
前記複数のコーティング部材は、前記側面において、該コーティング部材の間に前記分割溝の端部が位置するように設けられている請求項1に記載のセラミック基板。
【請求項3】
セラミックフィラーおよびバインダを有する複数のセラミックグリーンシートを積層してなるとともに、複数の領域を区画する分割溝が表面に形成されたグリーンシート積層体を準備する工程と、
前記グリーンシート積層体の側面における複数の領域に、前記セラミックフィラーと前記バインダとを有するとともに、前記セラミックグリーンシートよりも全体の質量に対する前記バインダの質量の割合が大きく、かつ前記セラミックフィラーの質量の割合が小さいセラミックペーストを塗布する工程と、
前記セラミックペーストが塗布された前記グリーンシート積層体を焼成する工程と
を有し、
前記塗布工程において、前記セラミックペーストは、該セラミックペーストが塗布された領域の間に前記分割溝の端部が位置するように、前記側面に塗布されるセラミック基板の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックペーストは、前記セラミックグリーンシートよりも前記セラミックフィラーの粒子径が小さい請求項3に記載のセラミック基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−109067(P2010−109067A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278311(P2008−278311)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】