説明

ディスクブレーキ

【課題】 戻しばねの取付位置を変更することにより、摩擦パッドをディスク面に対し平行に戻すことができ、摩擦パッドの偏摩耗等を防止できるようにする。
【解決手段】 戻しばね18の基端側を摩擦パッド10の裏金11に固定し、その先端部18Bをパッドスプリング15の当接板部17に弾性的に当接させる。そして、ディスク1の径方向に関してパッドスプリング15の案内板部15Aとパッド付勢部15Cとの中間となる位置で、戻しばね18による戻し方向の付勢力を摩擦パッド10に対して付与する。即ち、パッド付勢部15Cから摩擦パッド10が受ける摺動抵抗と案内板部15Aから受ける摺動抵抗との合力に対し、これとバランスする位置に戻しばね18を配設することにより、摩擦パッド10をディスク面に対して平行な姿勢を保ちつつ、安定して戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に制動力を付与するのに好適に用いられるディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に設けられるディスクブレーキは、ディスクの回転方向に離間してディスクの外周側を軸方向に跨ぐ一対の腕部を有し車両の非回転部分に取付けられる取付部材と、該取付部材の各腕部に摺動可能に設けられたキャリパと、前記取付部材の各腕部にパッドスプリングを介して摺動可能に支持され該キャリパによりディスクの両面に押圧される一対の摩擦パッドと、該摩擦パッドと前記取付部材との間に設けられ該摩擦パッドをディスクから離間する戻し方向に付勢する戻しばね等とにより構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−308789号公報
【0004】
この種の従来技術によるディスクブレーキは、車両の運転者等がブレーキ操作を行ったときに、キャリパのインナ側に設けたピストンを外部からの液圧供給によりディスク側に摺動変位させ、インナ側の摩擦パッドをディスクに押圧する。そして、キャリパは、このときの反力で取付部材に対して摺動変位し、そのアウタ脚部とピストンとの間で各摩擦パッドをディスクの両面に押圧することによって、回転するディスクに制動力を付与するものである。
【0005】
この場合、取付部材の各腕部には、一対の摩擦パッドをディスクの軸方向に摺動可能にガイドするためのパッドガイドが設けられている。また、取付部材の各腕部には、前記一対の摩擦パッドを各腕部間で弾性的に支持するパッドスプリングが取付けられ、該パッドスプリングは、摩擦パッドが各腕部のパッドガイド等に対してガタ付いたりするのを抑え、摩擦パッドの摺動変位を滑らかにする機能を有している。
【0006】
また、前記摩擦パッドは、前記ディスクの周方向に延び、その両端側に前記取付部材のパッドガイドに摺動可能に嵌合する凸形状の耳部(嵌合部)がそれぞれ設けられた裏金と、該裏金の表面側に設けられた摩擦材からなるライニングとにより構成されている。
【0007】
そして、前記戻しばねは、その基端側が前記摩擦パッドの裏金のうち前記耳部に対応した位置に固定して取付けられ、先端側は前記パッドスプリングを介して前記取付部材に弾性的に当接することにより、前記摩擦パッドをディスクの軸方向外側となる戻し位置に向けて常時付勢する構成としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した従来技術では、戻しばねの基端側を摩擦パッドの裏金のうち、凸形状をなす耳部の根元側に固定して取付け、戻しばねの先端側は、取付部材のパッドガイドをディスクの周方向で跨ぐように配置し、パッドスプリングを介して取付部材の腕部側に当接(弾接)させる構成としている。
【0009】
しかし、従来技術で採用した戻しばねの場合、車両のブレーキ操作を解除して摩擦パッドをディスクから離間する戻し方向に付勢しようとするときに、摩擦パッドがディスク面に対して斜めに傾くように挙動することがある。この結果、摩擦パッドに偏摩耗が発生したり、摩擦パッドの引摺りやブレーキ鳴きが発生したりする原因になるという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、戻しばねの取付位置を変更することにより、摩擦パッドをディスク面に対して平行に戻すことができ、摩擦パッドの偏摩耗を低減できると共に、パッドの引摺りやブレーキ鳴き等を防止することができるようにしたディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために本発明は、ディスクの回転方向に離間して該ディスクの外周側を軸方向に跨ぐ一対の腕部を有し該各腕部にパッドガイドが設けられた取付部材と、該取付部材の各腕部に摺動可能に設けられたキャリパと、前記取付部材の各腕部に前記パッドガイドを介して摺動可能に取付けられ該キャリパによりディスクの両面に押圧される一対の摩擦パッドと、該摩擦パッドと前記取付部材との間に設けられ該摩擦パッドをディスクから離間する戻し方向に付勢する戻しばねとを備え、前記摩擦パッドは、前記ディスクの周方向に延び、その両端側に前記取付部材のパッドガイドに摺動可能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられた裏金と、該裏金の表面側に設けられたライニングとからなるディスクブレーキに適用される。
【0012】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記戻しばねは、前記裏金の嵌合部よりもディスクの径方向内側となる位置に設ける構成としたことにある。
【0013】
また、請求項2の発明によると、前記取付部材の各腕部側には、前記取付部材のパッドガイドに嵌合して取付けられ前記摩擦パッドの前記嵌合部をディスクの軸方向に案内する案内板部と、該案内板部に一体形成され前記摩擦パッドをディスクの径方向に弾性的に付勢するパッド付勢部とを有してなるパッドスプリングを設け、前記戻しばねは、前記摩擦パッドが該パッドスプリングの案内板部から受ける摺動抵抗(R1 )と前記パッド付勢部から受ける摺動抵抗(R2 )との合力(R)に対してバランスする位置に配設する構成としている。
【0014】
また、請求項3の発明によると、前記戻しばねは、ディスクの径方向に関して前記パッドスプリングの案内板部とパッド付勢部との中間となる位置に配設する構成としている。
【0015】
また、請求項4の発明によると、前記戻しばねは、その基端側を前記摩擦パッドの裏金に固定して設け、先端側を前記取付部材側に弾性的に当接させる構成としている。
【0016】
また、請求項5の発明によると、前記摩擦パッドの裏金は、前記取付部材のパッドガイドに凹凸嵌合し前記嵌合部を構成する凸形状の耳部と、該耳部よりもディスクの径方向内側または外側に位置して前記パッド付勢部が当接する当接面部とを有し、前記パッドスプリングは、前記案内板部が前記裏金の耳部に当接し、前記パッド付勢部が前記当接面部を付勢する構成とし、前記戻しばねは、前記裏金の耳部と前記当接面部との間に位置して設ける構成としている。
【0017】
さらに、請求項6の発明によると、前記パッドスプリングには、前記案内板部からディスクの径方向内側に延設され前記取付部材と戻しばねとの間に介在して該戻しばねの先端側が当接される当接板部を一体に形成し、前記戻しばねは、先端側が該当接板部に弾性変形状態で当接することにより前記摩擦パッドをディスクから離間する戻し方向に付勢する構成としている。
【発明の効果】
【0018】
上述の如く、請求項1の発明によれば、戻しばねは、取付部材のパッドガイドに摺動可能に嵌合する摩擦パッド(裏金)の嵌合部よりもディスクの径方向内側となる位置に設ける構成としているので、例えば車両のブレーキ操作を解除したとき等に、戻しばねの付勢力を摩擦パッドに対して適正な位置に付与することができ、摩擦パッドをディスク面に対して平行な姿勢を保ちつつ、安定して戻すことができる。
【0019】
従って、ブレーキ操作の解除時に戻しばねの付勢力によって摩擦パッドを待機位置へと円滑に戻すことができ、摩擦パッドの戻り動作を安定させることができる。これにより、摩擦パッドの偏摩耗等を低減することができ、パッドの引摺りやブレーキ鳴き等を防止することができる。
【0020】
また、請求項2の発明は、摩擦パッドの裏金がパッドスプリングの案内板部とパッド付勢部とから受ける摺動抵抗(R1 ,R2 )の合力(R)とバランスする位置に、戻しばねを配設する構成としているので、戻しばねの付勢力を摩擦パッドに対して適正な位置に付与することができる。即ち、摩擦パッドの裏金は、その嵌合部がパッドスプリングの案内板部に摺動接触していると共に、パッドスプリングのパッド付勢部に接触(当接)することによりディスクの径方向外側に向けて付勢されているので、このパッド付勢部から摩擦パッドが受ける摺動抵抗(R2 )と前記案内板部から受ける摺動抵抗(R1 )との合力(R)に対し、これと付勢力がバランスする位置に戻しばねを配設することにより、摩擦パッドをディスク面に対して平行な姿勢を保ちつつ、安定して戻すことができる。
【0021】
また、請求項3の発明は、戻しばねを、ディスクの径方向に関してパッドスプリングの案内板部とパッド付勢部との中間となる位置に配設する構成としているので、裏金の嵌合部が摺動接触するパッドスプリングの案内板部と前記裏金の内径側部位に当接するパッドスプリングのパッド付勢部との径方向中間となる適正な位置で、戻しばねの付勢力を摩擦パッドに対し安定して付与することができ、摩擦パッドをディスク面に対して平行な姿勢を保ちつつ戻すことができる。
【0022】
また、請求項4の発明は、戻しばねの基端側を摩擦パッドの裏金に固定して設け、先端側を取付部材側に弾性的に当接させる構成としているので、戻しばねを摩擦パッドの裏金に予め組付けておくことができ、例えば取付部材(または、パッドスプリング)に戻しばねを固定する場合に比較して、組立時の作業性を向上することができると共に、戻しばねの付勢力を摩擦パッドに対し安定して付与することができる。
【0023】
また、請求項5の発明は、戻しばねを裏金の耳部と当接面部との間となる位置に設ける構成としているので、前記裏金の耳部がパッドスプリングの案内板部から受ける摺動抵抗(R1 )と、前記裏金の当接面部がパッド付勢部から受ける摺動抵抗(R2 )との合力(R)に対し、これと付勢力がバランスする位置に戻しばねを配設することができ、摩擦パッドをディスク面に対して平行な姿勢を保ちつつ、安定して戻すことができる。
【0024】
さらに、請求項6の発明によると、パッドスプリングには案内板部からディスクの径方向内側に延設して当接板部を一体に形成しているので、戻しばねの先端側をパッドスプリングの当接板部に滑らかに当接させることができ、戻しばねの摩耗、損傷を長期にわたって防ぎ、その耐久性、寿命を向上することができる。しかも、この場合の当接板部は、パッドスプリングの案内板部からディスクの径方向内側に延設しているので、戻しばねから当接板部が受けるばね力の影響がパッドスプリングに及んでも、摩擦パッドの摺動抵抗に悪影響を与えるのを防ぐことができ、パッドスプリングとして本来の機能を発揮し摩擦パッドをディスクの軸方向に円滑に案内することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるディスクブレーキを示す平面図である。
【図2】取付部材、キャリパ、摩擦パッドおよびパッドスプリング等を図1中の矢示II-II方向からみた部分断面図である。
【図3】図1のディスクブレーキをインナ側からみた背面図である。
【図4】図2中の腕部、パッドスプリングおよび戻しばね等を拡大して示す要部拡大図である。
【図5】回入側のパッドスプリングに用いる打抜きブランクの展開図である。
【図6】図5の打抜きブランクを折曲げて形成した回入側のパッドスプリングを示す側面図である。
【図7】戻しばねが設けられた摩擦パッドを単体として示す正面図である。
【図8】図7に示す摩擦パッドおよび戻しばねの平面図である。
【図9】摩擦パッドに作用する摺動抵抗と戻しばねの付勢力との関係を示す摩擦パッドの側面図である。
【図10】比較例による戻しばねの付勢力と摺動抵抗との関係を示す摩擦パッドの側面図である。
【図11】図10の比較例による摩擦パッドに転倒モーメントが発生した状態を示す側面図である。
【図12】第2の実施の形態によるディスクブレーキの取付部材、キャリパ、摩擦パッドおよびパッドスプリング等を示す図2と同様位置での部分断面図である。
【図13】図12のディスクブレーキをインナ側からみた背面図である。
【図14】第2の実施の形態による回入側のパッドスプリングに用いる打抜きブランクの展開図である。
【図15】図14の打抜きブランクを折曲げて形成した回入側のパッドスプリングを示す側面図である。
【図16】回入側のパッドスプリングを図15中の矢示 XVI−XVI 方向からみた正面図である。
【図17】回入側のパッドスプリングを図15中の矢示XVII−XVII方向からみた背面図である。
【図18】回入側のパッドスプリングを図16中の矢示 XVIII−XVIII 方向からみた平面図である。
【図19】回入側のパッドスプリングを図16中の矢示 XIX−XIX 方向からみた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態によるディスクブレーキを、添付図面の図1ないし図19に従って詳細に説明する。
【0027】
ここで、図1ないし図9は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は回転するディスクを示し、このディスク1は、例えば車両が前進方向に走行するときに車輪(図示せず)と共に図1中の矢示A方向に回転するものである。
【0028】
2は車両の非回転部分に取付けられるキャリアとしての取付部材で、該取付部材2は、図1、図2に示す如く、ディスク1の回転方向(周方向)に離間してディスク1の外周を跨ぐようにディスク1の軸方向に延びた一対の腕部2A,2Aと、該各腕部2Aの基端側を一体化するように連結して設けられ、ディスク1のインナ側となる位置で前記車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部2B等とから構成されている。
【0029】
また、取付部材2には、ディスク1のアウタ側となる位置で腕部2A,2Aの先端側を互いに連結する補強ビーム2Cが図2に示す如く弓形状をなして一体に形成されている。これにより、取付部材2の各腕部2A,2Aは、ディスク1のインナ側で支承部2Bにより一体的に連結され、アウタ側では補強ビーム2Cにより一体的に連結されるものである。
【0030】
そして、腕部2Aの長さ方向(ディスク1の軸方向)中間部には、図2、図4中に示すようにディスク1の外周(回転軌跡)に沿って円弧状に延びるディスクパス部3が形成され、該ディスクパス部3の両側(ディスク1の軸方向両側)には、インナ側,アウタ側のパッドガイド4がそれぞれ形成されている。また、各腕部2Aには、例えば図2中に示すようにピン穴2Dがそれぞれ設けられ、これらのピン穴2D内には、後述の摺動ピン7が摺動可能に挿嵌されるものである。
【0031】
4,4,…は取付部材2の各腕部2Aにそれぞれ設けられたパッドガイドで、これらのパッドガイド4は、図2〜図4に示す如く断面コ字形状をなす凹溝として形成され、後述の摩擦パッド10が摺動変位する方向(ディスク1の軸方向)に延びている。そして、これらのパッドガイド4は、ディスクパス部3の軸方向両側に位置し、該ディスクパス部3を挟んで各腕部2Aの基端側(インナ側)と先端側(アウタ側)とにそれぞれ配設されている。
【0032】
ここで、パッドガイド4は、図4に示す如くディスク1の径方向外側寄りに位置する外径壁面(以下、上側壁面4Aという)と、ディスク1の径方向内側寄りに位置した内径壁面(以下、下側壁面4Bという)と、これらの壁面4A,4B間を奥所側で連結する奥側壁面4Cとにより構成されている。そして、パッドガイド4は、これらの壁面4A,4B,4Cにより全体としてコ字形状をなし、上側壁面4Aと下側壁面4Bとは、図4中の上,下に離間して互いに平行に配設されている。
【0033】
即ち、パッドガイド4は、後述する摩擦パッド10の耳部11Aを上側壁面4Aと下側壁面4Bとの間で上,下方向(ディスク1の径方向)から挟むように形成され、これらの壁面4A,4B間で摩擦パッド10を後述のパッドスプリング15,16と一緒にディスク1の軸方向へとガイドするものである。
【0034】
5,5,…は各パッドガイド4の径方向内側に位置して取付部材2の各腕部2Aに設けられたトルク受部で、これらのトルク受部5は、図2〜図4に示す如くパッドガイド4の下側壁面4Bに対しほぼ垂直となってディスク1の径方向内側へと延びる平坦な受承面部として形成されている。そして、これらのトルク受部5も各パッドガイド4と同様に、ディスクパス部3の軸方向両側(ディスク1の両側)に位置し、各腕部2Aの基端側(インナ側)と先端側(アウタ側)とにそれぞれ配設されるものである。
【0035】
ここで、各トルク受部5のうち、矢示A方向に回転するディスク1の回転方向出口側(以下、回出側という)に位置するトルク受部5は、ブレーキ操作時に後述の摩擦パッド10がディスク1から受ける制動トルクを裏金11の平坦面部11D、パッドスプリング16の延設板部16Bを介して受承する。また、矢示A方向に回転するディスク1の回転方向入口側(以下、回入側という)に位置するトルク受部5は、このときに摩擦パッド10の平坦面部11Dから後述するパッドスプリング15の延設板部15Bを介して僅かに離間した状態に置かれるものである。
【0036】
6は取付部材2に摺動可能に設けられたキャリパで、該キャリパ6は、図1に示す如くディスク1の一側(インナ側)に設けられたインナ脚部6Aと、取付部材2の各腕部2A間でディスク1の外周側を跨ぐようにインナ脚部6Aからディスク1の他側(アウタ側)へと延設されたブリッジ部6Bと、該ブリッジ部6Bの先端側(アウタ側)からディスク1の径方向内向きに延び、先端側が二又状をなしたアウタ脚部6Cとにより構成されている。
【0037】
そして、キャリパ6のインナ脚部6Aには、ピストンが摺動可能に挿嵌されるシリンダ(いずれも図示せず)が形成されている。また、インナ脚部6Aには、図1、図3中の左,右方向に突出する一対の取付部6D,6Dが設けられ、該各取付部6Dは、キャリパ6全体を後述の摺動ピン7を介して取付部材2の各腕部2Aに摺動可能に支持させるものである。
【0038】
7,7はキャリパ6を取付部材2に摺動可能に支持させる支持部材としての摺動ピンで、これらの摺動ピン7は、図1に示す如くキャリパ6の各取付部6Dにそれぞれボルト8を用いて締結され、その先端側は取付部材2の各腕部2A(ピン穴2D)内に向けて延びている。そして、各摺動ピン7の先端側は、図2中に例示するように取付部材2の各ピン穴2D内に摺動可能に挿嵌され、キャリパ6は、これらの摺動ピン7を介して取付部材2の各腕部2Aに摺動可能に支持されるものである。
【0039】
9,9は各摺動ピン7を外側から保護する保護ブーツを示し、該各保護ブーツ9は、弾性樹脂材料等を用いた蛇腹状のチューブとして形成され、その両端側が各腕部2Aと摺動ピン7とに取付けられている。そして、保護ブーツ9は、摺動ピン7の基端側周囲を覆い、該摺動ピン7と腕部2Aのピン穴2Dとの間に雨水等が浸入するのを防ぐものである。
【0040】
10,10はディスク1の両面に対向して配置されたインナ側,アウタ側の摩擦パッドで、これらの摩擦パッド10は、図2、図3に示す如く、ディスク1の周方向(回転方向)に延びる平板状の裏金11と、該裏金11の表面側に固着して設けられディスク1の表面に摩擦接触する摩擦材としてのライニング12(図8参照)等とにより構成されている。そして、摩擦パッド10の裏金11には、その長さ方向(ディスク1の周方向)両端側に嵌合部としての耳部11A,11Aが凸形状をなして設けられている。
【0041】
ここで、裏金11の各耳部11Aは、後述するパッドスプリング15,16の各案内板部15A,16Aを介して取付部材2の各パッドガイド4内にそれぞれ摺動可能に挿嵌されている。そして、インナ側,アウタ側の摩擦パッド10は、ブレーキ操作時にキャリパ6によってディスク1の両面に押圧され、このときに裏金11の各耳部11Aがパッドガイド4に沿ってディスク1の軸方向に摺動変位するものである。
【0042】
また、摩擦パッド10の裏金11は、図7に示す如く全体として扇形状をなす平板材により形成され、それぞれ円弧状をなして延びる外周側の外径部11Bと内周側の内径部11Cとを有している。また、裏金11の長さ方向両側(ディスク1の回入側,回出側)には、各耳部11Aの突出方向に対しほぼ垂直となってディスク1の径方向内側へと延びる平坦面部11D,11Dが形成され、これらの平坦面部11Dと内径部11Cとの間には、当接面部としての左,右の傾斜面部11E,11Eが形成されている。
【0043】
そして、摩擦パッド10(裏金11)の傾斜面部11E,11Eには、後述するパッドスプリング15,16のパッド付勢部15C,16Cが弾性的に当接し、これにより摩擦パッド10は、図2、図3中の矢示B,B方向(傾斜面部11Eに垂直な方向で、ディスク1の径方向外側と周方向の内側とに向けた斜め方向)に常時付勢されるものである。また、摩擦パッド10(裏金11)の平坦面部11D,11Dのうちディスク1の回入側に位置する平坦面部11Dの近傍には、後述の戻しばね18を摩擦パッド10の裏金11に固定するためのカシメ部11Fが設けられている。
【0044】
一方、摩擦パッド10(裏金11)の各平坦面部11Dのうちディスク1の回出側に位置する平坦面部11Dは、例えば車両のブレーキ操作時に摩擦パッド10がディスク1から受ける制動トルク(図1中の矢示A方向の回転トルク)により、取付部材2の回出側の腕部2A(トルク受部5)にパッドスプリング16の延設板部16Bを介して当接し続け、両者の当接面間で取付部材2によりブレーキ操作時の制動トルクは受承されるものである。
【0045】
なお、図2に示すアウタ側の摩擦パッド10には、裏金11の背面側に鳴き防止用のシム板13が着脱可能に設けられている。また、図3に示すインナ側の摩擦パッド10には、裏金11の背面側に鳴き防止用のシム板14が着脱可能に設けられている。
【0046】
15はディスク1の回入側に配置される回入側のパッドスプリングで、該パッドスプリング15は、取付部材2の各腕部2Aのうち回入側に位置する腕部2Aに取付けられ、後述する回出側のパッドスプリング16との間でインナ側,アウタ側の摩擦パッド10を弾性的に支持すると共に、これらの摩擦パッド10の摺動変位を滑らかにするものである。
【0047】
そして、回入側のパッドスプリング15は、ばね性を有したステンレス鋼板等からなる打抜き材15′(図5参照)を、図1〜図4に示すようにプレス成形等の手段で曲げ加工することにより、後述の当接板部17と一体物として形成されている。即ち、回入側のパッドスプリング15は、例えばプレス等の型抜き手段で図5に示す如く成形した打抜き材15′(以下、打抜きブランク15′という)を用いて形成される。この打抜きブランク15′は、インナ側とアウタ側の案内板部15A′,15A′、延設板部15B′,15B′およびパッド付勢部15C′,15C′等をそれぞれ有して構成されている。
【0048】
この場合、図5に示す打抜きブランク15′は、各案内板部15A′、延設板部15B′およびパッド付勢部15C′等が点線に沿って折曲げられる。これにより回入側のパッドスプリング15は、図6に示すように曲げ加工され、それぞれの案内板部15A、延設板部15Bおよびパッド付勢部15C等が後述の如く形成される。
【0049】
また、後述の当接板部17は、打抜きブランク15′の延設板部15B′に一体形成した当接板部17′を点線に沿って折曲げることにより、図6に示す如く形成されるものである。なお、この場合の打抜きブランク15′は、図5に示すように左,右の当接板部17′,17′間の寸法が幅寸法Wとして形成される。
【0050】
ここで、パッドスプリング15は、取付部材2の各パッドガイド4内に嵌合するように略コ字状に折曲げて形成され、ディスク1のインナ側とアウタ側とで互いに離間した一対の案内板部15Aと、該各案内板部15Aの下端側(ディスク1の径方向内側)から摩擦パッド10(裏金11)の各平坦面部11Dとトルク受部5との間を下向きに延びたインナ側とアウタ側の延設板部15Bと、該延設板部15Bの下端(ディスク1の径方向内側部位)からディスク1の周方向内側に向けて略L字状又はS字状に屈曲して形成されたインナ側とアウタ側のパッド付勢部15Cとを含んで構成されている。
【0051】
そして、パッドスプリング15の各案内板部15Aは、図2〜図4に示すように取付部材2の各パッドガイド4(壁面4A〜4C内)に嵌合して取付けられ、摩擦パッド10の裏金11を凸形状の耳部11Aを介してディスク1の軸方向に案内する機能を有している。また、パッドスプリング15の各パッド付勢部15Cは、裏金11の各傾斜面部11Eに左,右両側から弾性的に当接することにより、摩擦パッド10の裏金11を矢示B方向(例えば、ディスク1の径方向外側と周方向の内側との斜め方向)に向けて弾性的に付勢するものである。
【0052】
なお、パッド付勢部15Cは、摩擦パッド10の裏金11を矢示B方向に付勢しているが、ディスク1の径方向に沿ってディスク1の径方向外側方向または径方向内側方向に付勢しても良い。また、パッド付勢部15Cと裏金11の各傾斜面部(当接面部)11Eとを裏金11の耳部11Aよりもディスク1の径方向内側に配置しているが、裏金11の耳部11Aよりもディスク1の径方向内側に配置してもよいし、耳部11Aのディスク1の径方向対向面に当接面部を設けてこの当接面を付勢するパッド付勢部をパッドスプリングに設けるようにしてもよい。
【0053】
16はディスク1の回出側に配置される回出側のパッドスプリングで、該パッドスプリング16は、取付部材2の各腕部2Aのうち回出側に位置する腕部2Aに取付けられ、前述した回入側のパッドスプリング15との間でインナ側,アウタ側の摩擦パッド10を弾性的に支持すると共に、これらの摩擦パッド10の摺動変位を滑らかにするものである。
【0054】
そして、回出側のパッドスプリング16は、前述した回入側のパッドスプリング15とほぼ同様に構成され、図2、図3に示すようにインナ側とアウタ側の案内板部16A、延設板部16Bおよびパッド付勢部16C等を含んで構成されている。しかし、後述の当接板部17は、回入側のパッドスプリング15にのみ設けられ、回出側のパッドスプリング16には設けられていない点で両者は異なるものである。
【0055】
17,17は回入側のパッドスプリング15に一体に設けられた当接板部で、該各当接板部17は、図1ないし図4、図6に示すように基端側がパッドスプリング15のインナ側とアウタ側の延設板部15Bに一体形成され、先端側は図1に例示するように取付部材2の腕部2Aから僅かに離間してディスク1の周方向外側へと延びる自由端となっている。
【0056】
そして、当接板部17の自由端側は、図2〜図4に示すように後述の戻しばね18よりも幅広な平板状に形成され、戻しばね18が弾性変形状態で当接するときの受け座面を提供するものである。また、当接板部17の先端側には、図1中に例示するようにディスク1の軸方向外側に向けてL字状に屈曲した屈曲片部17Aが設けられ、該屈曲片部17Aには、後述する戻しばね18の先端部18Bが接,離可能に当接されるものである。
【0057】
18,18はインナ側とアウタ側の摩擦パッド10をディスク1から離間する方向に付勢する戻しばねで、該各戻しばね18は、摩擦パッド10(裏金11)の各平坦面部11Dのうち、ディスク1の回入側に位置する平坦面部11Dとトルク受部5との間を左,右方向(ディスク1の周方向)で跨ぐ位置に配置されている。そして、戻しばね18の基端側は、裏金11の耳部11Aと傾斜面部11Eとの間となる位置(即ち、平坦面部11Dの近傍に位置するカシメ部11F)に固着して取付けられている。
【0058】
また、戻しばね18の長さ方向中間部は、図1、図7に示すように裏金11の背面から離れる方向(ディスク1の軸方向外側)に向けて立上げられると共に略V字状またはU字状に折返すように屈曲した折曲げ部18Aとなり、戻しばね18の先端側は、小さく反り返るように湾曲された円弧状の先端部18Bとなっている。
【0059】
そして、戻しばね18は、円弧状の先端部18Bが当接板部17の表面に弾性変形状態で当接または摺接することにより、摩擦パッド10(裏金11)をディスク1から離れる戻し方向に常に付勢し、例えば車両のブレーキ操作を解除したときに摩擦パッド10を初期位置(待機位置)に向け安定して戻すものである。
【0060】
ここで、戻しばね18は、ディスク1の径方向に関してパッドスプリング15の案内板部15Aとパッド付勢部15Cとの中間となる位置(即ち、パッドスプリング15の延設板部15Bを横切る位置)に配置されている。これにより、戻しばね18の付勢力Fは、図9中に例示するように後述する摺動抵抗の合力Rとバランスした位置で、摩擦パッド10に対して戻し方向に作用するものである。
【0061】
第1の実施の形態によるディスクブレーキは上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0062】
まず、車両のブレーキ操作時には、キャリパ6のインナ脚部6A(シリンダ)にブレーキ液圧を供給することによりピストンをディスク1に向けて摺動変位させ、これによってインナ側の摩擦パッド10をディスク1の一側面に押圧する。そして、このときにはキャリパ6がディスク1からの押圧反力を受けるため、キャリパ6全体が取付部材2の腕部2Aに対してインナ側に摺動変位し、アウタ脚部6Cがアウタ側の摩擦パッド10をディスク1の他側面に押圧する。
【0063】
これにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド10は、図1〜図4中の矢示A方向に回転しているディスク1を、両者の間で軸方向両側から強く挟持することができ、ディスク1に制動力を与えることができる。そして、ブレーキ操作を解除したときには、前記ピストンへの液圧供給が停止されることにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド10がディスク1から離間し、再び非制動状態に復帰する。
【0064】
また、このようなブレーキ操作時、解除時(非制動時)に、摩擦パッド10の裏金11は、左,右の傾斜面部11E,11Eがパッドスプリング15,16のパッド付勢部15C,16Cにより図2、図3中の矢示B,B方向に付勢され、裏金11の各耳部11Aは、取付部材2の各腕部2Aのうちパッドガイド4の上側壁面4Aにパッドスプリング15,16の案内板部15A,16Aを介して摺接するように押圧される。
【0065】
このため、摩擦パッド10が車両走行時の振動等でディスク1の径方向および周方向にガタ付いたりするのを、パッドスプリング15,16に設けたパッド付勢部15C,16Cの弾性力(付勢力)により規制することができる。そして、ブレーキ操作時には、摩擦パッド10がディスク1から受ける制動トルク(矢示A方向の回転トルク)を受け、このときには回出側の平坦面部11Dが取付部材2のトルク受部5にパッドスプリング16の延設板部16Bを介して当接し続けるので、ブレーキ操作時の制動トルクを回出側の腕部2A(トルク受部5)により受承することができる。
【0066】
また、ブレーキ操作時には、摩擦パッド10の各耳部11Aをパッドガイド4の上側壁面4Aにパッドスプリング15,16の案内板部15A,16Aを介して摺接させた状態に保持することができると共に、インナ側,アウタ側の摩擦パッド10を案内板部15A,16Aに沿ってディスク1の軸方向へと円滑に案内することができる。
【0067】
ところで、摩擦パッド10(裏金11)の各耳部11Aは、ディスク1の回入側,回出側に位置するパッドガイド4,4内にパッドスプリング15,16の案内板部15A,16Aを介して摺動可能に挿嵌され、裏金11の各傾斜面部11E側は、パッド付勢部15C,16Cにより図2、図3中の矢示B,B方向に付勢されている。これにより、摩擦パッド10の各耳部11Aは、案内板部15A,16Aの上面側(パッドガイド4の上側壁面4A)に弾性的に押付けられている。
【0068】
このため、ブレーキ操作の解除により摩擦パッド10を初期位置に戻すときには、図9中に例示するように裏金11の耳部11A側に摺動抵抗R1 が作用し、裏金11の傾斜面部11E側には摺動抵抗R2 が作用する。そして、このような摺動抵抗R1 ,R2 の合力Rは、裏金11の耳部11Aと傾斜面部11Eとの中間となる位置(例えば、裏金11の平坦面部11Dに相当する位置)に働くものである。
【0069】
そこで、第1の実施の形態によれば、取付部材2のパッドガイド4内にパッドスプリング15の案内板部15Aを介して嵌合した摩擦パッド10(裏金11)の耳部11Aよりもディスク1の径方向内側となる位置、即ちディスク1の径方向に関してパッドスプリング15の案内板部15Aとパッド付勢部15Cとの中間となる位置で、戻しばね18により摩擦パッド10を戻し方向に付勢する構成としている。
【0070】
これにより、摩擦パッド10の裏金11がパッドスプリング15の案内板部15Aとパッド付勢部15Cとから受ける摺動抵抗R1 ,R2 の合力Rとバランスする適正な位置に、戻しばね18の付勢力F(図9参照)を発生させることができ、戻しばね18の付勢力Fにより摩擦パッド10を安定した姿勢で初期位置へと戻すことができる。
【0071】
これに対し、例えば特許文献1による従来技術では、例えば図10に示す比較例のように、摩擦パッド10(裏金11)の耳部11Aに相当する位置で戻しばねの付勢力F′を発生させる構成としている。このため、前記摺動抵抗R1 ,R2 の合力Rと戻しばねの付勢力F′とは、互い異なる位置で逆向きにアンバランスに作用することになり、摩擦パッド10には前記合力Rと付勢力F′とによって転倒モーメントM(図11参照)が発生してしまう。
【0072】
このように、図10、図11に示す比較例の場合には、車両のブレーキ操作を解除して摩擦パッド10をディスクから離間する方向に付勢しようとするときに、図11に例示した転倒モーメントMの影響等で摩擦パッド10がディスク面に対して斜めに傾くように挙動し、摩擦パッド10を安定した姿勢で初期位置へと戻すことが難しくなるものである。
【0073】
一方、第1の実施の形態では、図4、図9に示すように、パッドスプリング15の案内板部15Aから摩擦パッド10(裏金11の耳部11A)が受ける摺動抵抗R1 とパッド付勢部15Cから裏金11の傾斜面部11Eが受ける摺動抵抗R2 との合力Rに対し、これとバランスする適正な位置に戻しばね18の付勢力Fを生じさせることにより、摩擦パッド10をディスク面に対して平行な姿勢を保ちつつ、安定して戻すことができる。
【0074】
特に、第1の実施の形態にあっては、戻しばね18を、ディスク1の径方向に関してパッドスプリング15の案内板部15Aとパッド付勢部15Cとの中間となる位置に配設する構成としているので、裏金11の耳部11Aが摺動接触するパッドスプリング15の案内板部15Aと裏金11の傾斜面部11Eに当接するパッド付勢部15Cとの径方向中間となる適正な位置で、戻しばね18の付勢力Fを摩擦パッド10に対し安定して付与することができる。
【0075】
従って、ブレーキ操作の解除時に戻しばね18の付勢力Fにより摩擦パッド10をディスク面に対して平行な姿勢を保ちつつ、待機位置へと戻すことができ、摩擦パッド10の戻り動作を安定させることができる。これにより、摩擦パッド10の偏摩耗等を低減することができ、パッドの引摺りやブレーキ鳴き等を防止することができる。
【0076】
また、第1の実施の形態では、戻しばね18の基端側を摩擦パッド10の裏金11にカシメ部11Fを介して固定し、その先端部18Bを取付部材2にパッドスプリング15の当接板部17を介して弾性的に当接させる構成としているので、戻しばね18を摩擦パッド10の裏金11に予め組付けておくことができ、例えば取付部材2(または、パッドスプリング15の当接板部17)に戻しばねを固定する場合に比較して、組立時の作業性を向上することができると共に、戻しばね18の付勢力を摩擦パッド10に対し安定して付与することができる。
【0077】
また、戻しばね18は、その長さ方向中間部が図1、図8に示す如く裏金11の背面から離れる方向に向けて立上げられると共に略V字状またはU字状に折返すように屈曲した折曲げ部18Aとなり、先端側は小さく反り返るように湾曲された円弧状の先端部18Bとなっている。そして、戻しばね18は、円弧状の先端部18Bが当接板部17の表面に弾性変形状態で当接することにより、摩擦パッド10(裏金11)をディスク1から離れる戻し方向に常に付勢する構成としている。
【0078】
このため、戻しばね18の円弧状をなす先端部18Bを当接板部17の表面に滑らかに当接させることができ、例えば車両のブレーキ操作時に戻しばね18の先端部18Bが当接板部17の表面に沿って屈曲片部17Aに突き当たる位置まで摺動しても、この屈曲片部17Aにより戻しばね18の先端部18Bを抜止めするように位置決めでき、戻しばね18による戻り方向の付勢力を摩擦パッド10に安定して付与することができる。
【0079】
しかも、戻しばね18の円弧状をなす先端部18Bは、平板状の当接板部17の表面に沿って摺動接触するため、戻しばね18の先端部18Bが当接板部17との摺動変位により摩耗、損傷されるのを長期にわたって防ぐことができ、戻しばね18の耐久性、寿命を延ばし、信頼性を向上することができる。
【0080】
次に、図12ないし図19は本発明の第2の実施の形態を示し、第2の実施の形態の特徴は、戻しばねの先端側が当接する当接板部をパッドスプリングの案内板部からディスクの径方向内側に延設する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0081】
図中、21は本実施の形態で採用した回入側のパッドスプリングで、該パッドスプリング21は、第1の実施の形態で述べたパッドスプリング15とほぼ同様に形成され、図16〜図18に示すようにインナ側とアウタ側とに互いに離間した一対の案内板部21A,21A、一対の延設板部21B,21Bおよび一対のパッド付勢部21C,21C等とにより構成されている。
【0082】
しかし、この場合のパッドスプリング21は、後述の当接板部22が案内板部21Aからディスク1(図12、図13参照)の径方向内側に延びるように一体形成されている点で、第1の実施の形態による回入側のパッドスプリング15とは異なるものである。
【0083】
この場合、回入側のパッドスプリング21は、例えばプレス等の型抜き手段で図14に示す如く成形した打抜き材21′(以下、打抜きブランク21′という)を用いて形成される。この打抜きブランク21′は、インナ側とアウタ側の案内板部21A′,21A′、延設板部21B′,21B′およびパッド付勢部21C′,21C′等をそれぞれ有して構成されている。
【0084】
そして、図14に示す打抜きブランク21′の各案内板部21A′、延設板部21B′およびパッド付勢部21C′等を点線に沿って折曲げることにより、回入側のパッドスプリング21は図15に示すように曲げ加工され、それぞれの案内板部21A、延設板部21Bおよびパッド付勢部21C等が第1の実施の形態と同様に形成される。また、後述の当接板部22は、打抜きブランク21′の案内板部21A′に一体形成した当接板部22′を点線に沿って折曲げることにより、図15〜図19に示す如く形成されるものである。
【0085】
22,22は回入側のパッドスプリング21に一体に設けられた当接板部で、該各当接板部22は、第1の実施の形態で述べた当接板部17とほぼ同様に構成される。しかし、この場合の当接板部22は、図14に例示した打抜きブランク21′の当接板部22′によって形成され、第1の実施の形態とは異なる構成を有するものである。
【0086】
即ち、この当接板部22′は、図14に示す如く打抜きブランク21′の案内板部21A′に一体形成される共に、案内板部21A′の側方へと延設板部21B′とは反対側に向けて略L字状に延びて形成されている。そして、本実施の形態で採用した当接板部22は、図14に示す打抜きブランク21′の当接板部22′を案内板部21A′に対し点線に沿って折曲げることにより、図15〜図19に示す如く形成されるものである。
【0087】
これにより、当接板部22は、その基端側がパッドスプリング21のインナ側とアウタ側の案内板部21Aにそれぞれ一体形成され、先端側は図12、図13に例示するように取付部材2の腕部2Aから僅かに離間してディスク1の径方向内側に延びると共に、略L字状をなして周方向外側に自由端となって延びるものである。
【0088】
そして、当接板部22の自由端側は、図12、図13に示すように戻しばね18よりも幅広な平板状に形成され、戻しばね18が弾性変形状態で当接するときの受け座面を提供するものである。また、当接板部22の先端側には、ディスク1の軸方向外側に向けてL字状に屈曲した屈曲片部22Aが設けられ、該屈曲片部22Aには、戻しばね18の先端部18Bが接,離可能に当接されるものである。
【0089】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、回入側のパッドスプリング21に一体形成した当接板部22により、弾性変形状態で当接する戻しばね18の受け座面を提供することができ、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、当接板部22をパッドスプリング21の案内板部21Aからディスク1の径方向内側に延設する構成としているので、下記のような作用効果を奏するものである。
【0090】
即ち、第1の実施の形態で採用した当接板部17の場合は、図5に示す打抜きブランク15′の延設板部15B′に一体形成した当接板部17′を点線に沿って折曲げることにより図6に示す如く形成されるため、ブレーキ操作を行う前,後等に戻しばね18からの付勢力(戻し反力)が当接板部17に作用すると、該当接板部17が弾性的に撓み変形することがあり、この影響でパッドスプリング15の延設板部15Bが太鼓状に湾曲するように弾性変形する可能性がある。
【0091】
このとき、延設板部15Bは、図4に示す如く取付部材2のトルク受部5と摩擦パッド10(裏金11)の平坦面部11Dとの間に介挿された状態で、太鼓状に撓み変形するため、これによって、パッドスプリング15(延設板部15B)に対する摩擦パッド10の摺動抵抗が増大し、戻しばね18による摩擦パッド10の戻し力が低減される原因となってしまう。
【0092】
これに対し、第2の実施の形態で採用した当接板部22は、パッドスプリング21の案内板部21Aからディスク1の径方向内側に延設しているため、戻しばね18から当接板部22が受けるばね力(戻し反力)の影響がパッドスプリング21に及んでも、これによって、パッドスプリング21の延設板部21Bが撓み変形することはなく、摩擦パッド10の摺動抵抗が増大する等の悪影響をなくすことができる。
【0093】
この場合、仮に戻しばね18から当接板部22が受けるばね力(戻し反力)の影響がパッドスプリング21の案内板部21Aに及んだとしても、この案内板部21Aは、取付部材2の各パッドガイド4(図4に示す壁面4A〜4C参照)内で摩擦パッド10(裏金11)の耳部11Aとの間に挟まれた状態で撓み変形することはなく、この耳部11Aをディスク1の軸方向に案内する機能を発揮することができる。
【0094】
従って、本実施の形態によれば、戻しばね18から当接板部22が受けるばね力(戻し反力)の影響で摩擦パッド10の摺動抵抗が増大するのを抑えることができ、パッドスプリング21としての本来の機能を確保し、摩擦パッド10をディスク1の軸方向に円滑に案内することができる。
【0095】
また、この場合のパッドスプリング21は、図14に例示した打抜きブランク21′を用いて形成され、打抜きブランク21′の当接板部22′は、案内板部21A′の側方へと延設板部21B′とは反対側に向けて略L字状に延びて形成される。このため、左,右の当接板部22′間の幅寸法W1 を、図5に例示した打抜きブランク15′の幅寸法W(左,右の当接板部17′間の寸法)よりも確実に小さくすることができる。
【0096】
これにより、第2の実施の形態で採用したパッドスプリング21は、図14に例示した打抜きブランク21′の型取りを一層効率的に無駄なく行なうことができ、パッドスプリング21の素材となる板材の材料費を削減し、コストの低減化を図ることができる。
【0097】
なお、前記第1の実施の形態では、戻しばね18の先端部18Bをパッドスプリング15の当接板部17に対して弾性的に当接させる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばパッドスプリングとは別部材で形成した当接板部を取付部材に固定して設け、この当接板部に対して戻しばねの先端部を当接させる構成としてもよい。また、当接板部17等を用いることなく、戻しばねの先端部を取付部材の端面(または、取付部材に形成した戻しばね用の当接面)等に直接的に当接させる構成としてもよい。
【0098】
また、前記第1,第2の実施の形態では、戻しばね18の基端側を摩擦パッド10の裏金11に固定する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば特開平11-108089号公報に記載されたディスクブレーキのように、所謂引張りばねからなる戻しばねの長さ方向一側を取付部材に固定して設け、戻しばねの長さ方向他側により摩擦パッドをディスクから離間する方向に引張る構成としてもよい。
【0099】
そして、この場合にも、裏金11の耳部11Aよりもディスク1の径方向内側となる位置(例えば、ディスク1の径方向に関してパッドスプリング15の案内板部15Aとパッド付勢部15Cとの中間となる位置)で、摩擦パッドに対して戻しばねの付勢力(引張り力)を付与することができるように構成すればよいものである。
【0100】
また、前記各実施の形態では、裏金11の各平坦面部11Dのうちディスク1の回入側に位置する平坦面部11Dの近傍位置に、戻しばね18の基端側を固定して設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばディスク1の回出側にも同様に戻しばねを設ける構成としてもよい。
【0101】
一方、前記各実施の形態では、取付部材2の腕部2Aに凹形状なすパッドガイド4を形成し、裏金11の嵌合部となる耳部11Aを凸形状に形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば摩擦パッドの裏金に凹形状をなす嵌合部を設け、取付部材の腕部には凸形状をなすパッドガイドを設ける構成としてもよいものである。
【0102】
また、前記第1の実施の形態では、ディスク1のインナ側とアウタ側とに各案内板部15A、延設板部15Bおよびパッド付勢部15Cを有した所謂一体型のパッドスプリング15を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばパッドスプリング15をディスク1のインナ側とアウタ側とで切り離したような形状をもつ2個のパッドスプリングを、ディスク1のインナ側、アウタ側にそれぞれ配設する構成としてもよい。そして、この点はディスク1の回出側に位置するパッドスプリング16についても同様であり、前記第2の実施の形態にあっても同様な変更が可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 ディスク
2 取付部材
2A 腕部
3 ディスクパス部
4 パッドガイド
5 トルク受部
6 キャリパ
7 摺動ピン
10 摩擦パッド
11 裏金
11A 耳部(嵌合部)
11B 外径部
11C 内径部
11D 平坦面部
11E 傾斜面部(当接面部)
11F カシメ部
12 ライニング
15,16,21 パッドスプリング
15A,16A,21A 案内板部
15B,16B,21B 延設板部
15C,16C,21C パッド付勢部
17,22 当接板部
18 戻しばね
F 付勢力
R 合力
R1 ,R2 摺動抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの回転方向に離間して該ディスクの外周側を軸方向に跨ぐ一対の腕部を有し該各腕部にパッドガイドが設けられた取付部材と、該取付部材の各腕部に摺動可能に設けられたキャリパと、前記取付部材の各腕部に前記パッドガイドを介して摺動可能に取付けられ該キャリパによりディスクの両面に押圧される一対の摩擦パッドと、該摩擦パッドと前記取付部材との間に設けられ該摩擦パッドをディスクから離間する戻し方向に付勢する戻しばねとを備え、
前記摩擦パッドは、前記ディスクの周方向に延び、その両端側に前記取付部材のパッドガイドに摺動可能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられた裏金と、該裏金の表面側に設けられたライニングとからなるディスクブレーキにおいて、
前記戻しばねは、前記裏金の嵌合部よりもディスクの径方向内側となる位置に設ける構成としたことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記取付部材の各腕部側には、前記取付部材のパッドガイドに嵌合して取付けられ前記摩擦パッドの前記嵌合部をディスクの軸方向に案内する案内板部と、該案内板部に一体形成され前記摩擦パッドをディスクの径方向に弾性的に付勢するパッド付勢部とを有してなるパッドスプリングを設け、
前記戻しばねは、前記摩擦パッドが該パッドスプリングの案内板部から受ける摺動抵抗(R1 )と前記パッド付勢部から受ける摺動抵抗(R2 )との合力(R)に対してバランスする位置に配設してなる請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記戻しばねは、ディクスの径方向に関して前記パッドスプリングの案内板部とパッド付勢部との中間となる位置に配設してなる請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記戻しばねは、その基端側を前記摩擦パッドの裏金に固定して設け、先端側を前記取付部材側に弾性的に当接させる構成としてなる請求項2または3に記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記摩擦パッドの裏金は、前記取付部材のパッドガイドに凹凸嵌合し前記嵌合部を構成する凸形状の耳部と、該耳部よりもディスクの径方向内側または外側に位置して前記パッド付勢部が当接する当接面部とを有し、
前記パッドスプリングは、前記案内板部が前記裏金の耳部に当接し、前記パッド付勢部が前記当接面部を付勢する構成とし、
前記戻しばねは、前記裏金の耳部と前記当接面部との間に位置して設ける構成としてなる請求項2,3または4に記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記パッドスプリングには、前記案内板部からディスクの径方向内側に延設され前記取付部材と戻しばねとの間に介在して該戻しばねの先端側が当接される当接板部を一体に形成し、
前記戻しばねは、先端側が該当接板部に弾性変形状態で当接することにより前記摩擦パッドをディスクから離間する戻し方向に付勢する構成としてなる請求項2,3,4または5に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−63013(P2012−63013A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252744(P2011−252744)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【分割の表示】特願2008−135705(P2008−135705)の分割
【原出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】