説明

ディーゼルエンジン

【課題】 良好な予混合燃焼を実現できるうえ、拡散燃焼に切り換えた場合であっても良好な燃焼を確保できるディーゼルエンジンを提供する。
【解決手段】 ピストン4の頂部に凹設されたリエントラント型のキャビティ11と、キャビティ11に向かって燃料を噴射する燃料噴射手段9と、排気ガスの一部を燃焼室内に還流する排気ガス還流手段19と、燃料噴射手段9による燃料の噴射時期及び排気ガス還流手段19によるEGR率又はEGR量を制御する制御装置26とを備え、制御装置26は所定の運転領域において、燃料噴射手段9による燃料の噴射時期を、ピストン4の圧縮上死点よりも前に燃料の噴射が完了し、且つ噴射された燃料の全てがキャビティ11内に入るような噴射時期に制御すると共に、排気ガス還流手段19によるEGR率又はEGR量を、燃料噴射手段9により噴射された燃料が、燃料の噴射完了後、ピストン4の圧縮上死点近傍で着火するようなEGR率又はEGR量に制御して予混合燃焼を実現させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の運転領域において予混合燃焼を実現させるディーゼルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダ内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンでは、シリンダ内が高温・高圧となるピストンの圧縮上死点近傍で燃料を噴射するのが一般的であった。この場合、燃料の噴射中に着火が始まって火炎が形成され、その火炎に後続の燃料が供給されることで燃焼が継続される。このように、燃料の噴射中に着火が始まる燃焼形態は一般的に拡散燃焼と称されているが、この拡散燃焼ではNOxやスモーク等が発生するという問題が指摘されている。
【0003】
そこで近年では、燃料の噴射時期をピストンの圧縮上死点よりも早期にして、燃料の噴射完了後に予混合気が着火する、所謂、予混合燃焼と称される燃料形態を実現させることが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
予混合燃焼では、燃料の噴射完了後、ある程度の期間を経て予混合気が着火するので、着火までに予混合気が充分に希薄・均一化される。従って、局所的な燃焼温度が下がりNOx排出量が低減するうえ、空気不足状態での燃焼も回避されるのでスモークの発生も抑制される。
【0005】
【特許文献1】特開2003−83119号公報
【特許文献2】特開2002−227650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、予混合燃焼ではピストンの位置が比較的低いときに燃料が噴射されるので、拡散燃焼を実現させることを前提に設計された通常のディーゼルエンジンで予混合燃焼を実現させようとすると、噴射された燃料がシリンダの側壁に付着したり、ピストンの頂部に衝突して跳ね返った燃料がシリンダヘッドの下面に付着したりして未燃HCの発生につながるおそれがある。
【0007】
そこで、図7に示すように、予混合燃焼を実現させるディーゼルエンジンにおいて、ピストンPの頂部に形成するキャビティCAを開口部(最上端)に向かって拡大したオープン型にすると共に、インジェクタIの燃料噴射角度αを通常よりも狭くすることが提案されている(特許文献1、2参照)。こうすれば、噴射された燃料FがキャビティCA内に入り、シリンダCLの側壁やシリンダヘッドCHの下面に付着することがないので、未燃HCの発生を抑制できる。
【0008】
しかしながら、このようにオープン型キャビティCAと狭い噴射角度αのインジェクタIを用いたディーゼルエンジンには、以下に示すような問題があった。
【0009】
1)キャビティCAがオープン型であるため、キャビティCA内に形成されたスワールをキャビティCA内に保持することが困難である。この結果、予混合気のミキシングによる希薄・均一化が不充分となり、出力の低下及び排気ガスの悪化を招くおそれがある。
【0010】
2)予混合燃焼を燃料噴射量の多い高負荷領域で実現させるとノッキングが発生するおそれがあるので、高負荷領域では拡散燃焼に切り換える必要があるのだが、インジェクタIの噴射角度αが狭いため、拡散燃焼を実現させるべくピストンPの圧縮上死点近傍で燃料を噴射すると、噴射された燃料がキャビティCAの底面(中央側)に衝突し、スモークが発生する。つまり、オープン型キャビティCAと狭い噴射角度αのインジェクタIを用いたディーゼルエンジンは予混合燃焼を重視して設計されたものであり、拡散燃焼の実現に課題があった。
【0011】
そこで本発明の目的は、良好な予混合燃焼を実現できるうえ、拡散燃焼に切り換えた場合であっても良好な燃焼を確保できるディーゼルエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1に係る発明は、ピストンの頂部に凹設されたリエントラント型のキャビティと、上記キャビティに向かって燃料を噴射する燃料噴射手段と、排気ガスの一部を燃焼室内に還流する排気ガス還流手段と、上記燃料噴射手段による燃料の噴射時期及び上記排気ガス還流手段によるEGR率又はEGR量を制御する制御装置とを備え、上記制御装置は、エンジンの運転状態が所定の運転領域であるときには、上記燃料噴射手段による燃料の噴射時期を、ピストンの圧縮上死点よりも前に燃料の噴射が完了し、且つ噴射された燃料の全てが上記キャビティ内に入るような噴射時期に制御すると共に、上記排気ガス還流手段によるEGR率又はEGR量を、上記燃料噴射手段により噴射された燃料が、燃料の噴射完了後、ピストンの圧縮上死点近傍で着火するようなEGR率又はEGR量に制御して予混合燃焼を実現させるものである。
【0013】
請求項2に係る発明は、上記制御装置が、上記予混合燃焼を実現させるときには、上記排気ガス還流手段によるEGR率を50%以上に制御するものである。
【0014】
請求項3に係る発明は、上記燃料噴射手段の噴射角度が140°〜165°の範囲内に設定されるものである。
【0015】
請求項4に係る発明は、上記制御装置が、上記予混合燃焼を実現させるときには、上記燃料噴射手段による燃料の噴射開始時期を5°〜35°BTDCの範囲内に制御するものである。
【0016】
請求項5に係る発明は、上記制御装置が、エンジンの運転状態が上記所定の運転領域外であるときには、上記燃料噴射手段による燃焼の噴射時期をピストンの圧縮上死点近傍に制御して拡散燃焼を実現させるものである。
【0017】
請求項6に係る発明は、上記燃料噴射手段の噴射角度が、ピストンの圧縮上死点近傍で噴射された燃料が、上記キャビティの最低位置より径方向外側のキャビティ内壁に到達するような角度に設定されるものである。
【0018】
請求項7に係る発明は、上記請求項1〜6いずれかに記載のディーゼルエンジンであって、排気通路に設けられた触媒と、その触媒よりも上流側で上記排気通路を流れる排気ガスに添加剤を添加するための添加剤添加手段と、その添加剤添加手段に供給する添加剤を蓄えるための添加剤収容手段とを備えた排気ガス後処理装置と、上記添加剤収容手段に蓄えられた添加剤の量を検出するための添加剤残量検出手段とを更に備え、上記制御装置は、上記添加剤残量検出手段の検出値が第一所定値以下であるときには、エンジンの運転状態が上記所定の運転領域外であっても上記予混合燃焼を実現させるものである。
【0019】
請求項8の発明は、上記制御装置が、上記添加剤残量検出手段の検出値が上記第一所定値以下であるときには、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて決定する要求トルクを、上記予混合燃焼を実現させる領域における最大要求トルク以下に制限するものである。
【0020】
請求項9の発明は、上記制御装置が、上記添加剤残量検出手段の検出値が上記第一所定値以下であるときには、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて決定する燃料噴射量を、上記予混合燃焼を実現させる領域における最大燃料噴射量以下に制限するものである。
【0021】
請求項10の発明は、上記制御装置により作動可能な警告手段を更に備え、上記制御装置が、上記添加剤残量検出手段の検出値が、上記第一所定値以上の値に設定される第二所定値以下となったときに上記警告手段を作動させるものである。
【0022】
請求項11の発明は、上記排気ガス後処理装置の触媒が選択接触還元触媒であり、上記添加剤がアンモニア水溶液、尿素水溶液又は液体アンモニアであるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、良好な予混合燃焼を実現できるうえ、拡散燃焼に切り換えた場合であっても良好な燃焼を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1は本実施形態のディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略図である。なお、図1では一気筒のみ示されているが、当然多気筒であっても良い。
【0026】
図中1がエンジン本体であり、これはシリンダ2、シリンダヘッド3、ピストン4、吸気ポート5、排気ポート6、吸気弁7、排気弁8、インジェクタ9(燃料噴射手段)等から構成される。シリンダ2、シリンダヘッド3及びピストン4で囲まれた空間に燃焼室10が形成される。ピストン4の頂部にはキャビティ11が凹設され、燃焼室10内に臨んで設けられたインジェクタ9からキャビティ11に向かって燃料が直接噴射される。
【0027】
本実施形態のエンジンのキャビティ11及びインジェクタ9は、拡散燃焼を実現させることを前提に設計された通常のディーゼルエンジンと同様のものである。
【0028】
具体的に説明すると、本実施形態のキャビティ11は、図3(a)に示すように、ピストン4の軸方向と垂直な面積が最も大きい部分が、ピストン4の上端部(本実施形態ではピストン4の軸方向と垂直な面積が最も小さい部分)よりも下側に位置する(つまり開口部が絞られた形状である)と共に、その底部中央に上方に隆起した凸部11aが形成されたリエントラント型のものである。インジェクタ9はシリンダ2と略同軸に配置され、複数の噴孔から噴射角度β(図3(c)参照)で燃料を噴射する。インジェクタ9の噴射角度βは、通常の(拡散燃焼を実現させる)エンジンの噴射角度と同等であり、本実施形態では140°〜165°の範囲内で設定される。
【0029】
図1に戻り、インジェクタ9はコモンレール24に接続され、そのコモンレール24に貯留された高圧燃料がインジェクタ9に常時供給される。コモンレール24への燃料圧送は高圧サプライポンプ25により行われる。吸気ポート5は吸気管12に、排気ポート6は排気管13にそれぞれ接続される。
【0030】
本実施形態のエンジンは更に、排気管13内の排気ガスの一部を燃焼室10内に還流するEGR装置19(排気ガス還流手段)を備えている。
【0031】
EGR装置19は、吸気管12と排気管13とを結ぶEGR通路20と、EGR通路20の通路面積を変えて吸気のEGR率及びEGR量を調節するためのEGR弁21と、EGR弁21の上流側でEGRガス(排気ガス)を冷却するEGRクーラ22とを備える。EGR弁21の弁開度を大きくすることで、吸気のEGR率及びEGR量を増加させることができ、逆にEGR弁21の弁開度を小さくすることで、吸気のEGR率及びEGR量を低下させることができる。
【0032】
吸気管12には、EGR管20との接続部よりも上流側で吸入空気を適宜絞るための吸気絞り弁23が設けられる。この吸気絞り弁23の開閉によっても、吸気全体に占める吸入空気(新気)の量ないし割合を調節してEGR率を調節することができる。即ち、吸気絞り弁23の弁開度を大きくすることで、吸入空気量(割合)を増加し、吸気のEGR率及びEGR量を低下させることができ、逆に吸気絞り弁23の弁開度を小さくすることで、吸入空気量を低減し、吸気のEGR率及びEGR量を増加させることができる。
【0033】
このエンジンを電子制御するための電子制御ユニット(以下ECUという)26が設けられる。ECU26(制御装置)は各種センサ類からエンジンの運転状態を読み取り、そのエンジン運転状態に基づいてインジェクタ9、EGR弁21、吸気絞り弁23等を制御する。前記センサ類としては、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ14、エンジンのクランク軸(図示せず)の位相即ちクランク角を検出するためのクランク角センサ16、コモンレール24内の燃料圧力を検出するためのコモンレール圧センサ17等が含まれ、これら各センサの出力信号に基づいてECU26が実際のアクセル開度、クランク角、コモンレール圧等を決定する。またECU26は、アクセル開度の値に基づいてエンジンの負荷(要求トルク)を決定すると共に、時間に対するクランク角の増加割合を演算してエンジンの回転速度NEを決定する。
【0034】
インジェクタ9がECU26によりON/OFFされることでインジェクタ9による燃料噴射が実行/停止される。ECU26は、前記センサ類から検出されたエンジン運転状態を表すパラメータ、特にエンジン回転速度NEとアクセル開度とに基づいて要求トルクを決定し、その要求トルクに基づいて燃料噴射量Q及び噴射時期の目標値を決定し、実際のクランク角が目標噴射時期に到達したら、その時から目標噴射量相当の時間だけ、インジェクタ9を通電(ON)する。これにより実際のエンジン運転状態に即した燃料噴射制御が可能となる。なお、目標噴射量と目標噴射時期とは実機試験等により予め決定されており、その値がECU26内のメモリにマップ形式で記憶される。
【0035】
また、コモンレール圧即ち噴射圧力のフィードバック制御も実行される。即ち、ECU26は、前記センサ類から検出されたエンジン運転状態を表すパラメータ、特にエンジン回転速度NEと要求トルク(エンジン負荷)とに基づいてコモンレール圧の目標値を決定し、この目標値に実際のコモンレール圧が近づくよう、図示しない調量弁の開度を制御して高圧サプライポンプ25からコモンレール24への燃料供給量を制御する。
【0036】
さて、本実施形態のエンジンは、所定の運転領域において「背景技術」の欄で説明したような予混合燃焼を実現させる。具体的に説明すると、図2に示すように、エンジン回転速度NEと燃料噴射量Qとにより定められるエンジンの運転状態に基づいて予混合燃焼と拡散燃焼とを切り換えるための切換ラインAが予めECU26に入力されており、ECU26は、前記センサ類の検出値に基づいて決定したエンジンの運転状態(エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Q)に基づいて、予混合燃焼と拡散燃焼とのいずれか一方の燃料形態を実現させるようにインジェクタ9、EGR弁21、吸気絞り弁23等を制御する。上述したように、燃料噴射量Qは要求トルクに基づいて決定されるので、エンジンの運転状態はエンジン回転速度NEと要求トルクとに基づいて定められると言うこともできる。図2から分かるように、本実施形態のエンジンでは、燃料噴射量Qが比較的少ない(要求トルクが比較的小さい)低負荷領域で予混合燃焼を、燃料噴射量Qが比較的多い(要求トルクが比較的大きい)中・高負荷領域で拡散燃焼を実現させる。
【0037】
このように本実施形態のエンジンは、リエントラント型のキャビティ11と、通常の噴射角度βを有するインジェクタ9とを用いて予混合燃焼を実現させるものである。以下、本実施形態のエンジンによる予混合燃焼の実現方法を説明する。
【0038】
予混合燃焼を実現させる運転領域では、ECU26は、インジェクタ9による燃料の噴射開始時期を、ピストン4の圧縮上死点よりも前に燃料の噴射が完了し、且つ噴射された燃料の全てがキャビティ11内に入るような噴射開始時期に制御する。そのような噴射開始時期は、例えば上死点前5〜35°の範囲である。即ち、予混合燃焼を実現すべく燃料の噴射時期を圧縮上死点よりも進角化するのだが、その進角範囲を、噴射された燃料が全てキャビティ11内に入る範囲に制限するのである。
【0039】
ここで、図3を用いて、燃料が全てキャビティ11内に入るような噴射開始時期について具体的に説明する。
【0040】
図3(a)は燃料の噴射開始時期(インジェクタ9に対する通電開始時)の状態を示しており、この時点ではピストン4は圧縮上死点よりも下方に位置し、燃料はインジェクタ9から噴射されていない。その後、図3(b)に示すように、時間の経過に伴ってピストン4が上昇し、燃料Fがインジェクタ9から径方向外側に飛散し始める。ただし、この時点では燃料Fはピストン4のキャビティ11に到達していない。そして、図3(c)に示すように、燃料の噴射開始後、所定期間が経過したときに、燃料Fがキャビティ11の側壁上部に衝突する。このとき、燃料Fの衝突位置が適正であれば、図示するように噴射された全ての燃料Fがキャビティ11の内側に流れ込む。このように、全ての燃料Fがキャビティ11の内側に供給されるような噴射時期が、本実施形態において設定される噴射時期である。逆に、キャビティ11に衝突した燃料の一部が上方に跳ね返ってシリンダヘッド3の下面に付着してしまうような噴射時期は、本実施形態では設定されない。なお、燃料の噴射が全て完了した時点では、ピストン4は圧縮上死点よりも下方に位置する。
【0041】
燃料Fの適切な衝突位置は、キャビティ11の形状とインジェクタ9の噴射角度β等によって定まるので、この適切な衝突位置とピストンストローク等に基づいて適切な噴射開始時期をエンジンの運転状態毎に求めておき、予めマップとしてECU26に記憶しておく。
【0042】
図4は、燃料の噴射開始時期及び噴射量を決定するためのマップを具体的に示したものである。横軸はエンジン回転速度(rpm)、縦軸は燃料噴射量(mm3 /st)で、切換ラインAよりも低負荷側(下側)が予混合燃焼を実現させる領域である。また実用上は、燃料噴射量がゼロとなることはフュエルカット時等を除いてあり得ないので、アイドル相当の燃料噴射量(本実施形態では5mm3 /st)以上の領域が使用される。図から理解されるように、予混合燃焼を実現させる領域では、燃料噴射時期が上死点前5〜35°の範囲内に設定され、エンジン回転速度及び燃料噴射量(エンジン負荷に相当)が増大するにつれ、早期化する傾向にある。また、エンジン回転速度が一定の場合、噴射時期は負荷が高まる程早期化する。これは噴射量の増大に伴い予混合期間を増大する必要があるからである。一方、燃料噴射量が一定の場合、噴射時期は回転速度が高まる程早期化する。これは回転速度の増大に伴いピストン速度も増加し、予混合期間を確保するためにはより早期に噴射を開始する必要があるからである。
【0043】
ところで、一般的な噴射角度β(140°〜165°の範囲内)のインジェクタ9を用いた本実施形態のエンジンでは、燃料の噴射開始時期の進角可能な範囲は、当然、噴射角度を狭くしたエンジン(図7参照)よりも小さくなる。従って、本実施形態のエンジンでは、燃料室10内の圧力及び温度が比較的(噴射角度を狭めたエンジンと比較して)高い状態で燃料を噴射することになる。このため、予混合気がピストンの圧縮上死点よりも前に着火してしまい、予混合気を充分に希薄・均一化させることができなくなるおそれがある。
【0044】
そこで、本実施形態のエンジンは、予混合燃焼を実現させるときに、EGR装置19により比較的多量のEGRを実行してこの問題を回避する。
【0045】
即ち、予混合燃焼を実現させる運転領域では、ECU26は、EGR装置19による予混合気のEGR率又はEGR量を、インジェクタ9により噴射された燃料が、燃料の噴射完了後、ピストン4の圧縮上死点近傍で着火するようなEGR率又はEGR量に制御する。つまり、EGRにより予混合気の空気濃度を低下させることで、予混合期間を充分に確保すると共に着火時期の適正化を図っている。本実施形態では、エンジン運転状態毎にEGR弁21及び吸気絞り弁23の適切な弁開度を定めたマップが予めECU26に入力されており、ECU26はこのマップに従ってEGR弁21及び吸気絞り弁23を制御し、予混合気のEGR率又はEGR量を制御する。本実施形態では、予混合燃焼を実現させる運転領域では、予混合気のEGR率が50%以上となるように、EGR弁21及び吸気絞り弁23の弁開度マップが設定される。
【0046】
このように、EGR装置19により比較的多量のEGRを実行して予混合気の酸素濃度を低下させることで、予混合期間を充分に確保して予混合気の希薄・均一化を促進させることができる。従って、燃料の噴射開始時期を極端に早期化できない本実施形態のエンジンにおいて予混合燃焼を良好に実現させることが可能となる。また、EGR率又はEGR量を調節して予混合気の着火時期を適切な時期(ピストンの圧縮上死点近傍)に制御しているので、燃費及び出力も向上する。更に、多量のEGRを実行して予混合気の酸素濃度を低下させることで、排気ガス中のNOxを低減させることもできる。
【0047】
図5は、本実施形態のエンジンと、図7に示すようなオープン型のキャビティCA及び狭い噴射角度αのインジェクタIを用いたエンジン(以下、オープン型エンジンという)とにおける、平均有効圧力Pmi、THC排出量、スモーク排出量の測定結果の一例を示している。
【0048】
図の横軸は燃料の噴射開始時期(ATDC)であり、図中四角ポイントを結ぶラインが本実施形態のエンジン、三角ポイントを結ぶラインがオープン型エンジンの測定結果を示している。なお、菱形ポイントを結ぶラインは、拡散燃焼を行う通常のディーゼルエンジンの測定結果を参考として示したものである。
【0049】
図から分かるように、本実施形態のエンジンは、平均有効圧力Pmi(エンジン出力に相当)が全ての噴射開始時期においてオープン型エンジンを上回っている。
【0050】
また、THC及びスモークの排出量についても、全ての噴射開始時期においてオープン型エンジンと同等かそれ以下となっている。特筆すべき点は、本実施形態のエンジンは幅広い噴射開始時期に亘ってスモーク排出量が少ないことである。これは噴射開始時期の設定の自由度が高いことを意味している。つまり、オープン型エンジンではスモーク排出量の少ない噴射開始時期の範囲が狭い(この例では約−26°〜約−18ATDC)ため噴射開始時期の設定可能範囲が狭いが、本実施形態のエンジンではスモーク排出量の少ない噴射開始時期の範囲が広い(この例では約−30°〜約−14°ATDC)ので、噴射開始時期をこの広い範囲内で自由に設定することができる。
【0051】
このように、本実施形態のエンジンがオープン型エンジンと比較して、出力、排気ガス共に優れている理由は、リエントラント型のキャビティ11の効果であると推察される。つまり、リエントラント型のキャビティ11では、燃焼のほとんど全てをキャビティ11内で行うことができるため、これが出力の向上につながったと考えられる。また、リエントラント型のキャビティ11は、キャビティ11内で形成されたスワールをキャビティ11内に積極的に保持することができるので、予混合気のミキシングにより充分な希薄・均一化が図れる。これが排気ガスの改善につながったと考えられる。更に、リエントラント型のキャビティ11の他の利点である高スキッシュの形成も、排気ガスの改善に貢献していると考えられる。
【0052】
図6は、本実施形態のエンジンにおいて燃料の噴射開始時期を三種類設定し、各噴射開始時期においてEGR率を約40〜60%の間で変化させたときの、THC排出量、NOx排出量、スモーク排出量、正味平均有効圧力BMEP(エンジン出力に相当)の測定結果の一例を示している。
【0053】
図の横軸は予混合気の空燃比(A/F)を示しており、予混合気のEGR率が高いほど空燃比は低く、EGR率が低いほど空燃比は高くなる。図中丸ポイントを結ぶラインが噴射開始時期20°BTDC、三角ポイントを結ぶラインが噴射開始時期30°BTDC、菱形ポイントを結ぶラインが噴射開始時期40°BTDCである。なお、四角ポイントを結ぶラインは、拡散燃焼を行う通常のディーゼルエンジンの測定結果を参考として示したものである。
【0054】
図から分かるように、THC排出量は、噴射開始時期20°BTDCと30°BTDCとでほぼ同等であるのに対して、噴射開始時期を40°BTDCとした場合だけ大幅に増加している。また、正味平均有効圧力BMEPについても、噴射開始時期を20°及び30°BTDCとした場合はほぼ同等であるのに対し、噴射開始時期を40°BTDCとした場合だけ大幅に低下している。
【0055】
このように、噴射開始時期を40°BTDCとした場合、噴射開始時期を20°及び30°BTDCとした場合と比較して、THC排出量、出力共に悪化しているが、その理由は、噴射された燃料の一部がキャビティ11から外側に飛散していることが原因であると考えられる。
【0056】
つまり、噴射開始時期を20°及び30°BTDCとした場合は、噴射された燃料が全てキャビティ11内に入るため、THC排出量、出力共に良好であり、両者に大きな差は見られないが、噴射開始時期を40°BTDCとした場合、噴射開始時期が早すぎて燃料の一部がキャビティ11外に飛散し、これがシリンダヘッド3の下面等に付着してTHCの排出につながったと考えられる。また、キャビティ11外へ飛散した燃料はキャビティ11内で燃焼することができないため、これが出力の低下につながったと考えられる。
【0057】
次に、図6において、EGR率と排気ガス及び出力との関係に着目すると、全ての噴射開始時期において、EGR率が高い程、NOx排出量が低下することが分かる。これは、多量のEGRにより予混合気の酸素濃度が低下したことが理由である。図から分かるように、燃料の噴射開始時期を20°及び30°BTDCとした場合において、EGR率を約50%以上にすれば、NOx排出量をほぼゼロレベルまで低減できる。なお、THC排出量、スモーク排出量及び正味平均有効圧力BMEPについてはEGR率との明確な相関関係は見受けられなかった。
【0058】
図6の測定結果から、燃料の全てがキャビティ11内に入るように噴射開始時期を設定し、且つ多量のEGR(EGR率50%以上)を実行する本実施形態のエンジンによれば、優れた排気ガス特性及び出力が得られることが分かる。
【0059】
さて、上述したように本実施形態のエンジンは、中・高負荷領域では拡散燃焼を実現させるのであるが、本実施形態のエンジンは、拡散燃焼に適したリエントラント型のキャビティ11と、噴射角度βが比較的広い(140°〜165°程度)通常のインジェクタ9を用いているので、拡散燃焼を実現させる際にも良好な燃焼を確保できる。つまり、拡散燃焼を実現させるべく、圧縮上死点近傍で燃料を噴射すると、噴射された燃料は、通常のディーゼルエンジンと同様に、キャビティ11の側壁に当たるので、スモーク等が大幅に発生することはない。また、リエントラント型のキャビティ11により、キャビティ11内で形成されたスワールをキャビティ11内に保持できるので優れた排気ガス特性を得ることができる。
【0060】
従って、本実施形態のエンジンによれば、低負荷領域で良好な予混合燃焼を実現できるうえ、中・高負荷領域で拡散燃焼に切り換えた場合も良好な燃焼を確保することができる。
【0061】
ここで、良好な拡散燃焼を確実に実現させるためには、インジェクタ9の燃料噴射角度βを次のように設定することが好ましい。即ち、拡散燃焼を実現すべくピストン4の圧縮上死点近傍で噴射された燃料が、キャビティ11の最低位置B(図3(a)参照)よりも径方向外側のキャビティ内壁に到達するような角度である。従って、この条件を満たす範囲内でインジェクタ9の噴射角度βをぎりぎりまで狭くすれば、良好な拡散燃焼を確保できるうえ、予混合燃焼を実現させる際に、燃料噴射開始時期を比較的大きく進角化することが可能となる。
【0062】
なお、本実施形態のディーゼルエンジンにおいて予混合気の混合を更に促進させるためには、高スワールタイプのシリンダヘッド3又は吸気ポート5を用いることが好ましい。例えば、吸気ポート5にスワール生成装置を設けても良い。
【0063】
また、上記実施形態ではEGR装置として、排気管13内の排気ガスの一部を吸気管12内に還流する外部EGR装置を示したが、本発明はこの点において限定されず、排気弁8又は吸気弁7を開閉制御することで排気ガスを燃焼室10内に還流させる内部EGR装置を用いても良い。
【0064】
ところで、本実施形態のエンジンは、エンジンの運転状態が中・高負荷領域であるときには拡散燃焼を実現させるため、中・高負荷領域で走行(運転)しているときには若干のNOxが排気ガス中に排出されてしまうことになる。
【0065】
そこで、図1に示されるように、本実施形態のエンジンには、排気ガス中に含まれるNOxを還元・浄化するための排気ガス後処理装置40が設けられている。
【0066】
排気ガス後処理装置40は、排気管13(排気通路)に設けられた触媒41と、その触媒41よりも上流側で排気管13内を流れる排気ガスに添加剤を添加するための添加剤添加手段42(添加剤用インジェクタ)と、その添加剤用インジェクタ42に供給する添加剤を蓄えるための添加剤収容手段43(添加剤タンク)とを備えており、添加剤タンク43には、タンク43内に蓄えられた添加剤の量を検出するための添加剤残量検出手段44が設けられる。
【0067】
本実施形態の排気ガス後処理装置40の触媒41は選択接触還元触媒(SCR触媒)であり、添加剤としてアンモニア水溶液、尿素水溶液あるいは液体アンモニア等が使用される。SCR触媒41としては、ペレット状やハニカム状に形成されたアルミナ(酸化アルミニウム:Al23)、チタニア(酸化チタン:TiO2 )等を担体とし、白金(Pt)、酸化バナジウム(V25)、酸化鉄(Fe23)、酸化銅(CuO)、酸化マンガン(Mn23)、酸化クロム(Cr23)、酸化モリブデン(MoO3)等を活性体として使用するものが適用可能である。
【0068】
添加剤残量検出手段44としては様々な手段が適用可能であるが、ここではフロート式のレベルゲージが用いられる。
【0069】
エンジンの運転状態が中・高負荷領域であり、拡散燃焼を実現させているときに、排気ガス後処理装置40の添加剤用インジェクタ42により排気ガス中にアンモニア(NH3)を噴射(添加)すると、SCR触媒41でアンモニア(NH3)と排気ガス中のNOxとが反応して無害な窒素(N2)及び水(H2O)に還元される。なお、上述したように、予混合燃焼ではNOx排出量がほぼゼロレベルとなるので、エンジンの運転状態が予混合燃焼を実現させる領域(低負荷領域)であるときには、排気ガス後処理装置40を作動させる必要はない。
【0070】
ところで、添加剤を利用する排気ガス後処理装置40では、添加剤タンク43内の添加剤が無くなると、当然、排気ガスの浄化効果が得られなくなる。そこで、本実施形態のディーゼルエンジンでは、添加剤タンク43内の添加剤が少ないか、完全に無くなったときに、ドライバにそれを知らせて添加剤の補充を促すことができるように工夫がなされている。
【0071】
具体的に説明すると、本実施形態のディーゼルエンジンでは、添加剤残量検出手段44により検出される添加剤タンク43内の添加剤の量が所定値以下となった場合、運転席等に設けられた警告手段45(図1参照)を作動してドライバにそれを知らせる。なお、本実施形態では警告手段45としてランプを用いているが、ブザー等の他の手段を用いても良いし、複数の手段を併用しても良い。
【0072】
更に、本実施形態のディーゼルエンジンでは、添加剤残量検出手段44により検出される添加剤タンク43内の添加剤の量が所定値以下となった場合、エンジンの運転状態が上述した予混合燃焼を実現させる領域外であっても、予混合燃焼を実現させる。具体的に説明すると、添加剤タンク43内の添加剤の量が所定値以下となったときには、エンジン回転速度とアクセル開度等に基づいて決定する要求トルク及び燃料噴射量の上限値を、予混合燃焼を実現させる領域における最大要求トルク及び最大燃料噴射量以下に制限し、それにより、アクセル開度に関わらず予混合燃焼を実現させるようにする。
【0073】
このように、添加剤の残量が少なくなった、あるいは無くなったときに予混合燃焼を実現させることで、NOxの排出量がほぼゼロレベルとなるため、添加剤不足により排気ガス後処理装置40の浄化効果が得られなくなっても、NOxが大気中に排出されることはない。また、要求トルク及び燃料噴射量が制限されるので、ドライバが意図したような運転・走行が不可能となり、ドライバに添加剤の早期補充を促すことができる。その上、エンジンの運転を完全に止めてしまう訳ではないので、添加剤を補充可能な位置まで自走することが可能である。
【0074】
以上説明した制御はECU26により実行されるものであるので、図8のフローチャートを用いて、ECU26が実行する制御内容の具体例を説明する。この制御フローは、ECU26により所定期間毎に実行されるものである。
【0075】
まず、ステップS1において、添加剤残量検出手段44により検出される添加剤タンク43内の添加剤の残量(レベル)Lを読み込む。
【0076】
次に、ステップS2において、ステップS1で読み取った添加剤の残量Lが、予めECU26に入力された所定値(特許請求の範囲の第二所定値に相当するので、以下第二所定値と言う)よりも大きいか否かを判定する。
【0077】
添加剤の残量Lが第二所定値よりも大きいと判定された場合(YES判定)、ステップS1に戻り、添加剤の残量Lの読み込みを再度行う。
【0078】
ステップS2において、添加剤の残量Lが第二所定値以下であると判定された場合(NO判定)、ステップS3に進み、警告手段を作動する(本実施形態ではランプ45を点灯する)。これにより、ドライバに添加剤が少なくなった、あるいは無くなったことを知らせることができる。
【0079】
次に、ステップS4に進み、ステップS1で読み取った添加剤の残量Lが、予めECU26に入力された所定値(特許請求の範囲の第一所定値に相当するので、以下第一所定値と言う)よりも大きいか否かを判定する。この第一所定値はステップS2の第二所定値と同じかそれよりも小さい値に設定される。
【0080】
添加剤の残量Lが第一所定値よりも大きいと判定された場合(YES判定)、ステップS1に戻り、添加剤の残量Lの読み込みを再度行う。
【0081】
一方、ステップS4において、添加剤の残量Lが第一所定値以下であると判定された場合(NO判定)、ステップS5に進み、エンジンの全負荷特性を変更する。なお、第一所定値が第二所定値と同じ値に設定された場合、ステップS4では必ずNOと判定されることになる。
【0082】
ここで、図9を用いて、ステップS5で実行する全負荷特性の変更について説明する。
【0083】
図9は、エンジン回転速度とアクセル開度とに応じて要求トルク(エンジン出力)を定めたマップを示しており、図9(a)が通常時の状態を、図9(b)がステップS5により全負荷特性を変更した後の状態を示している。
【0084】
まず、図9(a)を用いて通常時のマップを説明すると、エンジン回転速度とアクセル開度とによりエンジンの運転状態がマップ上の1点として定まる。そして、その運転状態に基づいてマップから要求トルクが決定される。上述したように、その要求トルクに基づいて燃料噴射量が決定されると共に、予混合燃焼と拡散燃焼のどちらの燃焼を実現させるかが決定される。図から分かるように、アクセル開度が大きくなる程、要求トルクは大きく設定される。また、予混合燃焼を実現させる領域は要求トルクが比較的低い領域に設定され、その領域よりも上側の領域が拡散燃焼を実現させる領域となる。
【0085】
図中9(a)中、最も上側に位置するラインは、アクセル開度が最大(100%)のときの要求トルクを示しており、これが全負荷特性である。図に車速変化の一例を点線で示すが、アクセル開度が100%となったときに車速が最高速に達することになる。
【0086】
次に、図9(b)を用いて、全負荷特性を変更した後の状態を説明する。
【0087】
図8のステップS4において、添加剤残量Lが第一所定値以下であると判定された場合、ECU26はエンジンの全負荷特性を図9(a)から図9(b)のように変更する。
【0088】
即ち、図から分かるように、全負荷特性(アクセル開度100%における要求トルクの特性)を予混合燃焼領域の最大値と一致させる。これによって、アクセル開度とエンジン回転速度とに基づいて決定される要求トルクが、予混合燃焼領域内の値に制限される。具体的に説明すると、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて定まる1点(運転状態)が予混合燃焼領域内である場合は、通常通り要求トルクが決定されるが、上記1点(運転状態)が予混合燃焼領域外である場合、決定される要求トルクは、そのときのエンジン回転速度における予混合燃焼領域の最大要求トルクとなる。従って、ドライバがアクセル開度を0〜100%のいずれの開度に操作したとしても、エンジン回転速度とアクセル開度とにより決定される要求トルクは必ず予混合燃焼領域内の値となる。また、要求トルクを予混合燃焼領域における最大要求トルク以下に制限することによって、要求トルクに基づいて決定される燃料噴射量も予混合燃焼領域における最大燃料噴射量以下に制限される。
【0089】
このように本実施形態のディーゼルエンジンでは、添加剤タンク43内の添加剤の残量が第一所定値以下となったときには、アクセル開度に関わらず予混合燃焼が実現され、要求トルク及び燃料噴射量の上限値が通常時よりも低く(少なく)制限される。これにより、NOx排出量がほぼゼロレベルとなるので、添加剤不足により排気ガス後処理装置40による排気ガス浄化効果が得られなくなっても、NOxが大気中に排出されることはない。また、エンジン出力が制限されるため、ドライバの意図したような走行が不能となり、添加剤の早期補充を促すことができる。つまり、図9(b)に示すように、車両の最高速が通常時と比べて極めて低く制限されるので、ドライバが添加剤を補充せざるを得なくなる。
【0090】
なお、上記実施形態では活性剤を利用する排気ガス後処理装置40としてSCR触媒を示したが、本発明はこの点において限定されず、排気ガスに対して独立して供給される活性剤を利用する排気ガス後処理装置であれば他のタイプのものであっても良い。例えば、排気ガスに添加する活性剤として炭化水素(HC)を利用する酸化・NOx触媒や、同じく活性剤として炭化水素を利用する触媒付のDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)等を用いることもできる。
【0091】
また、上記実施形態では、添加剤の残量が第一所定値以下となったときに、全負荷特性、つまり、要求トルクの上限値のみを変更するとしたが、本発明はこの点において限定されず、図9(a)に示すマップの要求トルク特性全体を所定比率で縮小・圧縮して、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて決定する要求トルクが予混合燃焼を実現させる領域における最大要求トルク以下となるようにしても良い。
【0092】
また、上記実施形態ではエンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて要求トルクを決定し、その要求トルクに基づいて燃料噴射量を決定するトルクベース制御を実行する例を示したが、本発明はこの点において限定されず、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて燃料噴射量を直接決定する噴射量ベース制御を実行するタイプにも適用できる。この場合も、添加剤の残量が第一所定値以下となったときに、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて決定する燃料噴射量の上限値を、予混合燃焼を実現させる領域における最大燃料噴射量以下に制限すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンの概略図である。
【図2】予混合燃焼と拡散燃焼との切換ラインを定めたマップである。
【図3】インジェクタから噴射される燃料とピストンとの関係を示す図である。
【図4】燃料の噴射開始時期及び噴射量を決定するためのマップである。
【図5】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンと、オープン型エンジンとにおける、平均有効圧力Pmi、THC排出量、スモーク排出量の測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンにおいて燃料の噴射開始時期を三種類設定し、各噴射開始時期においてEGR率を約40〜約60%の間で変化させたときの、THC排出量、NOx排出量、スモーク排出量、正味平均有効圧力BMEPの測定結果を示すグラフである。
【図7】オープン型エンジンの概略を示す図である。
【図8】ECU(制御装置)が実行する制御フロー図である。
【図9】エンジン回転速度とアクセル開度に応じて要求トルクを定めたマップの概略図である。
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン本体
4 ピストン
9 インジェクタ(燃料噴射手段)
11 キャビティ
11a 凸部
19 EGR装置(排気ガス還流手段)
21 EGR弁
26 ECU(制御装置)
40 排気ガス後処理装置
41 触媒(SCR触媒)
42 添加剤添加手段(添加剤用インジェクタ)
43 添加剤収容手段(添加剤タンク)
44 添加剤残量検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの頂部に凹設されたリエントラント型のキャビティと、
上記キャビティに向かって燃料を噴射する燃料噴射手段と、
排気ガスの一部を燃焼室内に還流する排気ガス還流手段と、
上記燃料噴射手段による燃料の噴射時期及び上記排気ガス還流手段によるEGR率又はEGR量を制御する制御装置とを備え、
上記制御装置は、エンジンの運転状態が所定の運転領域であるときには、
上記燃料噴射手段による燃料の噴射時期を、ピストンの圧縮上死点よりも前に燃料の噴射が完了し、且つ噴射された燃料の全てが上記キャビティ内に入るような噴射時期に制御すると共に、上記排気ガス還流手段によるEGR率又はEGR量を、上記燃料噴射手段により噴射された燃料が、燃料の噴射完了後、ピストンの圧縮上死点近傍で着火するようなEGR率又はEGR量に制御して予混合燃焼を実現させることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
上記制御装置は、上記予混合燃焼を実現させるときには、上記排気ガス還流手段によるEGR率を50%以上に制御する請求項1記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
上記燃料噴射手段の噴射角度が140°〜165°の範囲内に設定される請求項1又は2記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
上記制御装置は、上記予混合燃焼を実現させるときには、上記燃料噴射手段による燃料の噴射開始時期を5°〜35°BTDCの範囲内に制御する請求項1〜3いずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
上記制御装置は、エンジンの運転状態が上記所定の運転領域外であるときには、上記燃料噴射手段による燃焼の噴射時期をピストンの圧縮上死点近傍に制御して拡散燃焼を実現させる請求項1〜4いずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項6】
上記燃料噴射手段の噴射角度は、ピストンの圧縮上死点近傍で噴射された燃料が、上記キャビティの最低位置より径方向外側のキャビティ内壁に到達するような角度に設定される請求項5記載のディーゼルエンジン。
【請求項7】
上記請求項1〜6いずれかに記載のディーゼルエンジンであって、
排気通路に設けられた触媒と、その触媒よりも上流側で上記排気通路を流れる排気ガスに添加剤を添加するための添加剤添加手段と、その添加剤添加手段に供給する添加剤を蓄えるための添加剤収容手段とを備えた排気ガス後処理装置と、
上記添加剤収容手段に蓄えられた添加剤の量を検出するための添加剤残量検出手段とを更に備え、
上記制御装置は、上記添加剤残量検出手段の検出値が第一所定値以下であるときには、エンジンの運転状態が上記所定の運転領域外であっても上記予混合燃焼を実現させることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項8】
上記制御装置は、上記添加剤残量検出手段の検出値が上記第一所定値以下であるときには、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて決定する要求トルクを、上記予混合燃焼を実現させる領域における最大要求トルク以下に制限する請求項7記載のディーゼルエンジン。
【請求項9】
上記制御装置は、上記添加剤残量検出手段の検出値が上記第一所定値以下であるときには、エンジン回転速度とアクセル開度とに基づいて決定する燃料噴射量を、上記予混合燃焼を実現させる領域における最大燃料噴射量以下に制限する請求項7記載のディーゼルエンジン。
【請求項10】
上記制御装置により作動可能な警告手段を更に備え、
上記制御装置は、上記添加剤残量検出手段の検出値が、上記第一所定値以上の値に設定される第二所定値以下となったときに上記警告手段を作動させる請求項7〜9いずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項11】
上記排気ガス後処理装置の触媒は選択接触還元触媒であり、上記添加剤はアンモニア水溶液、尿素水溶液又は液体アンモニアである請求項7〜10いずれかに記載のディーゼルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−125376(P2006−125376A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334582(P2004−334582)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】