説明

ドラムブレーキ装置

【課題】ブレーキシューのリムを歩留まり良く板取りすることができ、材料費の削減により製造コストの低減を得る。
【解決手段】ブレーキシュー31のリム35に、バッキングプレート32上の第1レッジ部47に摺接する第1スライド部41が突設されるドラムブレーキ装置において、前記第1スライド部41が、リム35の幅内に設定した切り起こし部位46を前記第1レッジ部47に平行な突片状に切り起こすことで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシューのリムに、バッキングプレート上のレッジ部に摺接するスライド部が設けられたドラムブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7〜図10は、ドラムブレーキ装置に使用されているブレーキシューの従来例を示したものである。
図7〜図10に示したブレーキシュー1は、表面がドラムブレーキ装置のバッキングプレート2(図8参照)に平行な三日月形状のウェブ4と、ウェブ4の外周面にバッキングプレート2と直交して固着される円弧板状のリム5と、このリム5の外周面に固着したライニング6とから構成されている。
【0003】
通常、ブレーキシュー1は、ドラムブレーキの内周面に向かって進退移動可能に、バッキングプレート2上に配置される。
ブレーキシュー1がドラムブレーキの内周面に向かって進退移動する際にバッキングプレート2から浮き上がることを防止するため、ブレーキシュー1のリム5の長手方向の略中間位置には、バッキングプレート2上に成形されたレッジ部(平坦部)7の裏面に摺接するスライド部11が設けられている。更に、リム5の長手方向の両端部付近にも、バッキングプレート2上に成形された第2レッジ部(不図示)に摺接する第2スライド部13が設けられている。
【0004】
スライド部11や第2スライド部13は、下記特許文献1に示された折曲片と同様の成形法により形成される。
即ち、板材からリム5の母材を打ち抜きする際に、図10に示すように、リム5の幅に相応する帯状部15の両外側に突片17,18を設けた展開形状19で板取りを行い、打ち抜き後に両側に突出している突片17,18を帯状部15に垂直に折り曲げ成形することで、突片17はスライド部11に、突片18は第2スライド部13になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−225080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、スライド部11や第2スライド部13を突片17,18の折り曲げにより形成する従来のリム5では、図10にも示したように、リム5の母材を打ち抜きする際の展開形状19の幅寸法L2が、リム5の幅寸法となる帯状部15の幅寸法L1よりもかなり大きくなり、隣接する展開形状19間の残存隙間20が大きくなる。そのため、リム5を歩留まり良く板取りすることができず、一定数のリム5を製造する際に必要となる板材量が増え、材料費の増大によって製造コストの増大を招くという問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は上記課題を解消することに係り、ブレーキシューのリムを歩留まり良く板取りすることができ、材料費の削減により製造コストの低減を図ることができるドラムブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前述した目的は、下記の構成により達成される。
(1) ブレーキシューのリムに、バッキングプレート上の第1レッジ部に摺接する第1スライド部が設けられたドラムブレーキ装置であって、
前記第1スライド部が、前記リムの幅内に設定した切り起こし部位を前記第1レッジ部に平行な突片状に切り起こして形成されることを特徴とする。
【0009】
(2) (1)のドラムブレーキ装置であって、
前記第1スライド部が前記リムの長手方向の略中央に設けられるとともに、前記リムの長手方向の端部付近に、前記バッキングプレート上の第2レッジ部に摺接する第2スライド部が設けられ、
前記第2スライド部が、前記リムの側縁を前記バッキングプレートの中心側に突出する凸形状に打ち出し成形して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、リムに突設するスライド部は、リムの母材を打ち抜きする際の展開形状を、外側に凹凸がなく、リムの幅寸法と同一幅の単純な構造としているため、リムの板取り時に、隣接する展開形状間の残存隙間を小さくすることができ、一定数のリムを製造する際に必要となる板材量を削減して、材料費の削減によって製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るドラムブレーキ装置のブレーキシューの正面図である。
【図2】図1のC−C断面図である。
【図3】図1のD−D断面図である。
【図4】図1に示したリムの板取り図である。
【図5】本発明に係るドラムブレーキ装置の変更例を示す断面図(a)、リムの一部を示した板取り図(b)である。
【図6】本発明に係るドラムブレーキ装置の他の変更例を示す断面図である。
【図7】従来のドラムブレーキ装置におけるブレーキシューの正面図である。
【図8】図7のA−A断面図である。
【図9】図7のB−B断面図である。
【図10】図7に示したリムの板取り図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
この一実施形態のブレーキシュー31は、表面がドラムブレーキ装置のバッキングプレート32(図2参照)に平行な三日月形状のウェブ34と、ウェブ34の外周面にバッキングプレート32と直交して固着される円弧板状のリム35と、このリム35の外周面に固着したライニング36とから構成されている。
【0013】
通常、ブレーキシュー31は、ドラムブレーキの内周面に向かって進退移動可能に、バッキングプレート32上に配置される。
ブレーキシュー31がドラムブレーキの内周面に向かって進退移動する際にバッキングプレート32から浮き上がることを防止するため、リム35の長手方向の略中間位置には第1スライド部41が設けられ、更に、リム35の長手方向の両端付近には、第2スライド部43が設けられている。
【0014】
第1スライド部41は、図2に示すように、バッキングプレート32上に切り起こし成形された第1レッジ部(平坦部)47の裏面に摺接する突片状に形成されている。
第1スライド部41は、リム35を板取りする際に、図4に示すように、幅寸法がリム35の幅寸法L3に設定された帯状構造45の幅内に設定した切り起こし部位46をレッジ部47に平行な突片状に切り起こすことで形成される。
【0015】
第2スライド部43は、前述の第1レッジ部47とは隆起高さを変えてバッキングプレート32上に成形された不図示の第2レッジ部の表面を摺接する部位である。本実施形態の場合、第2スライド部43は、第2レッジ部に当接するリム35の側縁(図4では、指示線h1で示した位置)をバッキングプレート32の中心側に突出する凸形状(図1では、く字状)に打ち出し成形することで形成される。
なお、図4の各帯状構造45上に示した加工部51は、リム35とウェブ34との溶接部位を示している。
【0016】
以上に説明した本実施形態のドラムブレーキ装置では、リム35の長手方向の略中間位置に突設する第1スライド部41は、リム35の幅内に設定した切り起こし部位46をバッキングプレート32上の第1レッジ部47に平行な突片状に切り起こして形成するため、リム35の母材を打ち抜きする際の展開形状では、第1スライド部41となる突片状の部位が外側に突出することがない。
【0017】
また、リム35の長手方向の両端部付近に突設する第2スライド部43も、リム35の側縁をバッキングプレート32の中心側に突出する凸形状に打ち出し成形することで形成するため、リム35の母材を打ち抜きする際の展開形状では、第2スライド部43となる部位が外側に突出することもない。
【0018】
即ち、上記実施形態のリム35では、第1スライド部41及び第2スライド部43のいずれも、母材を打ち抜きする際の展開形状では、幅寸法がリム35の幅に相当した帯状構造45の外側に突出しない。そのため、図4に示したように、リム35の母材を打ち抜きする際の展開形状を、外側に凹凸がなく、リム35の幅寸法と同一幅の単純な帯状構造45にすることができる。
【0019】
よって、リム35の板取り時に、隣接する展開形状(帯状構造45)間の残存隙間を小さくして、板材上に歩留まり良く板取りすることができ、一定数のリム35を製造する際に必要となる板材量を削減して、材料費の削減によって製造コストの低減を図ることができる。
【0020】
また、通常、リム35の長手方向の端部付近に装備する第2スライド部43は、リム35の長手方向の略中間位置に装備する第1スライド部41と比較して、対応するレッジ部との接触圧が小さくなるため、レッジ部との接触面積をそれほど大きくする必要がなく、リム35の側縁の打ち出し成形でも比較的簡単に必要な接触面積を確保することができる。更に、打ち出し成形を使ったことで、リム35の剛性を向上させることができる。
【0021】
換言すると、リム35の長手方向の略中間位置、及び長手方向両端部付近の3カ所にそれぞれスライド部が装備される場合に、上記実施形態のように、リム35の長手方向の略中間位置に装備される第1スライド部41は切り起こしにより形成し、リム35の長手方向の両端部付近に装備する第2スライド部43はリム35の側縁部の打ち出しにより形成することで、リム35の板取り時の歩留まりを向上させて、材料費の削減による製造コストの低減を実現すると同時に、リム35の剛性向上を実現することができる。
【0022】
なお、上記実施形態の場合、リムの長手方向両端部付近に装備する第2スライド部は、打ち出しにより形成したが、第2スライド部も第1スライド部と同様に、切り起こしにより形成するようにしても良い。このようにしても、リム35の板取り時に、隣接する展開形状(図4の帯状構造45)間の残存隙間を小さくして、板材上に歩留まり良く板取りすることができる。
【0023】
次に、本発明に係るドラムブレーキ装置の変更例について図5及び図6を参照して説明する。
図5及び図6の変更例では、先の実施形態で示したリム35の第1スライド部41と、バッキングプレート32上に切り起こし成形される第1レッジ部47の形状が異なっている点を除いて先の実施形態と同一に形成されている。よって、他の部分、部位については、同一符号を用いて説明は省略する。
【0024】
図5に示す変更例では、第1スライド部61は、図5(b)に示すように、帯板構造45の幅内に突片状に切り起こして形成される切り起こし部位46に設定され、切り起こし部位46の略中央部には開口46aが穿設されている。
第1レッジ部(平坦部)63は、図5(a)に示すように、バッキングプレート32上に切り起こされ、先端部がバッキングプレート32と平行となるように折曲した形態とされる。
第1スライド部61は、第1レッジ部(平坦部)63を、切り起こし部位46の開口46aに挿通させることにより、開口46a周縁が第1レッジ部63の裏面を摺接するように配置されて、ブレーキシュー31(図1参照)の浮き上がりを防止できる。
【0025】
図6の変更例では、第1スライド部71が、先の図1、2に示した実施形態と同様に形成される一方、バッキングプレート32上に切り起こされる第1のレッジ部(平坦部)73は、先端がドラムブレーキの内周面に向かって折曲した形態に形成され、このレッジ部73の裏面に第1スライド部71を摺接させて、ブレーキシュー31(図1参照)の浮き上がりを防止している。
【0026】
なお、第1スライド部および第1レッジ部の形状は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更可能であり、上記実施形態および各変更例の構造に限定するものではない。
【符号の説明】
【0027】
31 ブレーキシュー
34 ウェブ
35 リム
36 ライニング
41,61,71 第1スライド部
43 第2スライド部
45 帯状構造
46 切り起こし部位
47,63,73 第1レッジ部
L3 幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシューのリムに、バッキングプレート上の第1レッジ部に摺接する第1スライド部が設けられたドラムブレーキ装置であって、
前記第1スライド部が、前記リムの幅内に設定した切り起こし部位を前記第1レッジ部に平行な突片状に切り起こして形成されることを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項2】
前記第1スライド部が前記リムの長手方向の略中央に設けられるとともに、前記リムの長手方向の端部付近に、前記バッキングプレート上の第2レッジ部に摺接する第2スライド部が設けられ、
前記第2スライド部が、前記リムの側縁を前記バッキングプレートの中心側に突出する凸形状に打ち出し成形して形成されることを特徴とする請求項1記載のドラムブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−27139(P2011−27139A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171209(P2009−171209)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】