説明

パワーステアリング装置

【課題】減速機構におけるバックラッシの変動を抑制してバックラッシ制御を容易化できると共に、バックラッシ等に起因するラトル音を低減することができるパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】パワーステアリング装置のハウジングHは、垂直方向に隣接配置されたギヤケース14、ギヤボックス15及びスタブケース16を備える。減速機構8を構成するウォームホイール12及びウォーム13は、単体のギヤケース14に支持されている。ラック軸9と係合するピニオン軸6は、その下端部付近が第1のボールベアリング23を介してギヤケース14に回動可能に支持されている。第1のボールベアリングの外輪23Aはギヤケース14に設けられた環状の軸受け受部22に圧入固定され、第1のボールベアリングの内輪23Bにはピニオン軸6が圧入固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルの操舵力を操舵補助力発生手段によって生み出された操舵補助力を付加しつつ被操舵系に伝達するパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9に示すように、従来のパワーステアリング装置100は、下部ハウジング体としてのギヤボックス102及び上部ハウジング体としてのギヤケース103からなるハウジング101を備えている。このハウジング101内には、ハンドルからの操舵力が入力される入力軸104と、その入力軸104と同軸連結されるピニオン軸105と、そのピニオン軸105の回転運動を直線運動に変換して被操舵系に伝達するラック軸106と、例えば電動モータのような操舵補助力発生手段(図示略)からの操舵補助力を前記ピニオン軸105に伝達する減速機構107とが支持されている。減速機構107は、前記ピニオン軸105に一体回転可能に連結されたウォームホイール108と、操舵補助力発生手段の動力を前記ウォームホイール108に伝達するウォーム109とから構成されている。
【0003】
図9の従来装置にあっては、入力軸104及びピニオン軸105の同軸連結体が、下位、中位及び上位の3つのボールベアリング(111〜113)によって前記ハウジング101に回動可能に支持されている。特に、ウォームホイール108を支持するピニオン軸105は、下位及び中位の2つのボールベアリング111,112によって回動可能に支持されている。そして、ピニオン軸105の下端付近に位置する下位ボールベアリング111では、その内輪111aにピニオン軸105が隙間嵌めされると共に、外輪111bもまたギヤボックス102下部の環状の軸受け受部121に対して隙間嵌めされている。なお、下位ボールベアリングの内輪111aはナット114によってピニオン軸105に押し当て固定され、下位ボールベアリングの外輪111bはプラグ115によってギヤボックス102に押し当て固定されている。
【0004】
他方、ピニオン軸105の中程に位置する中位ボールベアリング112では、その内輪112aにピニオン軸105が隙間嵌めされると共に、外輪112bがギヤボックス102上部の環状の軸受け受部122に対して圧入固定されている。また、入力軸104の中程に位置する上位ボールベアリング113では、その内輪113aに入力軸104が隙間嵌めされると共に、外輪113bがギヤケース103上部の環状の軸受け受部123に対して圧入固定されている。なお、ウォームホイール108はピニオン軸105を介してギヤボックス102に回動可能に支持される一方で、ウォーム109は、ギヤケース103によって回動可能に支持されている。
【0005】
しかしながら、図9に示す従来装置では、減速機構107を構成するウォームホイール108とウォーム109とがそれぞれ別のハウジング体(102,103)に支持されている。それに加えて、ピニオン軸105が下位及び中位のボールベアリング111,112のいずれに対しても隙間嵌めされている。このため、前記両ハウジング体(102,103)の接合精度や上記隙間嵌めによる隙間に起因して、ウォーム109とウォームホイール108との間のバックラッシが一義的に定まらず、バックラッシの制御が非常に難しいという問題があった。また、上記隙間嵌めによる隙間の範囲内でピニオン軸105が径方向に変位可能であることは、バックラッシの変動要因となるのみならず、作動抵抗の変動要因ともなっていた。更に、過大なバックラッシや上記隙間嵌めによる隙間の存在は、これらに起因するラトル音を耳障りなほど大きくする原因となっていた。
【0006】
なお、ラック・アンド・ピニオン方式のステアリング装置において、軸受けに対するピニオン軸のがたをなくすことにより打音等の低減を図った先行技術としては、特許文献1があげられる。
【特許文献1】特開2002−67986号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、減速機構におけるバックラッシの変動を抑制してバックラッシ制御を容易化できると共に、減速機構のバックラッシや軸受け構造に起因するラトル音の発生を低減することができるパワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ハンドルの操舵力を操舵補助力発生手段によって生み出された操舵補助力を付加しつつ被操舵系に伝達するパワーステアリング装置である。本発明のパワーステアリング装置は、複数のケース及び/又はボックスにより構成されるハウジングと、前記ハウジングに回動可能に支持されると共に前記ハンドルからの操舵力が入力される入力軸と、前記入力軸と同軸連結された状態で前記ハウジングに回動可能に支持されるピニオン軸と、前記操舵補助力発生手段からの操舵補助力を前記ピニオン軸に伝達する減速機構と、前記ピニオン軸の回転運動を直線運動に変換して前記被操舵系に伝達するラック軸とを備えている。前記減速機構は、前記ピニオン軸に一体回転可能に連結されたウォームホイールと、当該ウォームホイールと協働するウォームとを具備する。前記ハウジングは、前記ウォーム及びウォームホイールを共に支持する単体のギヤケースを有している。前記ピニオン軸は、当該ピニオン軸の一部を第1のボールベアリングの内輪に圧入固定すると共に当該第1のボールベアリングの外輪を前記ギヤケースの環状の軸受け受部に圧入固定した状態で、当該第1のボールベアリングを介して前記ギヤケースに対し回動可能に支持されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、減速機構を構成するウォーム及びウォームホイールが同じ単体のギヤケースに支持されている。また、ピニオン軸の一部が第1のボールベアリングの内輪に圧入固定されると共に当該第1のボールベアリングの外輪が前記ギヤケースの環状の軸受け受部に圧入固定されることで、第1のボールベアリングの内輪及び外輪がピニオン軸及びギヤケースに同心固定されている。その結果少なくとも、ウォームとウォームホイールとの間のバックラッシの主な変動要因からピニオン軸の軸受け構造が除外され、バックラッシの主な変動要因は、ギヤケース自体の加工精度やウォーム及びウォームホイールの部品加工精度にほぼ限定される。従って本発明によれば、従来よりも減速機構におけるバックラッシの変動を抑制してバックラッシ制御を容易化することができる。また、減速機構の作動抵抗の変動を抑制することができる。
【0010】
本発明によれば、減速機構のバックラッシを極力小さくすることができると共に、第1のボールベアリングの内輪及び外輪ともに圧入を採用して隙間嵌めを排除したので、減速機構のバックラッシ又は軸受け構造に起因するラトル音の発生を従来よりも低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1及び図2に示すように、パワーステアリング装置1は、ハンドル2からの操舵力をステアリングコラム3及び中間シャフト4を経由して入力する入力軸5と、該入力軸5に同軸的に連結されたピニオン軸6と、ハンドル2の操舵力を検出する操舵力検出センサー手段7と、ハンドル2の操舵力に相応した操舵補助力を発生する操舵補助力発生手段としての電動モータMと、電動モータMからの操舵補助力をピニオン軸6に伝達する減速機構8と、ピニオン軸6の回転運動を直線運動に変換して被操舵系60に伝達するラック軸9と、ハウジングHとを備えている。
【0013】
図2に示すように、ピニオン軸6は略棒状に形成され、ピニオン軸6の略中央部にはピニオン部11が設定されている。ピニオン部11よりも上のピニオン軸6上部はやや拡径状に形成されると共に当該上部には環状の逃げ凹部10が形成されている。ピニオン軸6の下端部には、ウォームホイール12がピニオン軸6と一体回転可能に設けられている。ピニオン軸6のピニオン部11はラック軸9のラック歯9Aに噛み合っている。ウォームホイール12は、電動モータMに作動連結されたウォーム13に噛合している。ウォームホイール12とウォーム13とによって前記減速機構8が構成される。
【0014】
ハウジングHは、垂直方向に沿って互いに隣接配置されたギヤケース14、ギヤボックス15及びスタブケース16から構成されている。ギヤケース14は最下位に位置し、スタブケース16は最上位に位置し、ギヤボックス15は両ケース14,16に挟まれた中位に位置する。
【0015】
ギヤケース14は、その下面側が開口し蓋体19によって閉塞可能であると共に、その上面側には前記ピニオン軸6が挿通される軸挿通孔21が開口している。ギヤケース14にはウォームホイール12が収容されると共に、ウォームホイール12及びウォーム13が共に同じ単体のギヤケース14によって支持されている。ギヤケース14の上面側には、前記軸挿通孔21を中心にして環状の軸受け受部22が立設されている。該軸受け受部22には第1のボールベアリング23の外輪23Aが圧入固定され、第1のボールベアリング23の内輪23Bにはピニオン軸6が圧入固定されている。第1のボールベアリング23とウォームホイール12との間にはスペーサSが設けられており、締付けナット61によって、前記内輪23Bとナット61との間にスペーサS及びウォームホイール12が締め付け固定されている。なお、ピニオン軸6は、ウォームホイール12の中心孔に圧入されている。
【0016】
ギヤボックス15は、ピニオン軸6が貫通可能なように筒状に形成されており、その上部及び下部には軸挿通孔24,25が設けられている。ギヤボックス15の内部空間はピニオン軸収容室26を提供し、そのピニオン軸収容室26内においてピニオン軸6のピニオン部11とラック軸9のラック歯9Aとが噛み合う。
【0017】
ギヤボックス15の下側の軸挿通孔24の周縁には、環状の軸受け嵌入部27が設けられると共に、ギヤボックス15の上側の軸挿通孔25の周縁には、環状の軸受け受部28が設けられている。ギヤボックス15の軸受け嵌入部27には第1のボールベアリング23の外輪23Aが隙間嵌めされている。また、ギヤボックス15の軸受け受部28には第2のボールベアリング29の外輪29Aが圧入固定され、該第2のボールベアリング29の内輪29Bにはピニオン軸6が隙間嵌めされている。ただし、その内輪29Bとピニオン軸6との間には環状弾性体としてのOリング30が介装されている。
【0018】
図3(A)はギヤボックス15を上側から観た斜視図であり、図3(B)は図3(A)のB−B断面を示す。図3(A)に示すように、ギヤボックス上部の軸受け受部28は円環状に形成されている。上下二つの軸挿通孔24,25をつなぐピニオン軸収容室26は、ピニオン軸6の挿通方向に対し直交する方向での横断面形状が略長円形状をなすように形成されている。それ故、装置の組立て過程においてピニオン軸収容室26内に仮配置されたピニオン軸6は、その長円形状の長径方向に沿って移動又は変位可能である。
【0019】
図2に示すように、ギヤボックス15の側面には開口31が設けられ、該開口31内にはラック軸押圧機構32が配設される。該ラック軸押圧機構32はラック軸9をピニオン軸6側へ押圧してラック歯9Aをピニオン部11に噛合させるものである。
【0020】
図2に示すように、スタブケース16は円筒状に形成され、その上下部には前記入力軸5が挿通される円形の軸挿通孔33,34が設けられている。また、スタブケース16の側面には、センサ取付孔38が設けられている。
【0021】
スタブケース16の下側の軸挿通孔33の周縁には、環状の軸受け嵌入部35が設けられると共に、スタブケース16の上側の軸挿通孔34の近傍には環状の軸受け受部36が設けられている。
【0022】
スタブケース16の軸受け嵌入部35には第2のボールベアリング29の外輪29Aが隙間嵌めされている。他方、スタブケース16の軸受け受部36には第3のボールベアリング37の外輪37Aが圧入固定され、該第3のボールベアリング37の内輪37Bには入力軸5が隙間嵌めされている。ただし、その内輪37Bと入力軸5との間には環状弾性体としてのOリング39が介装されている。なお、スタブケース16の軸挿通孔34には環状のオイルシール40が設けられている。
【0023】
図4に示すように、ラック軸9には、複数のラック歯9Aと、ラック歯9A群の一方の側においてラック歯のない平坦部又は凹部として形成された逃げ部9Bとが設けられている。この逃げ部9Bは、装置組付けの際に一時的にピニオン軸6のピニオン部11との干渉を回避するための部位として機能する。
【0024】
次に、ハンドル2からの操舵力を検出するための前記操舵力検出センサー手段7について説明する。図2に示すように、入力軸5は中空状に形成され、その内部にはトーションバー41が挿入されている。該トーションバー41は、上端側がピン42によって入力軸5に取り付けられ、下端側は入力軸5内から下方へ突出している。
【0025】
前記ピニオン軸6の上端部に形成された有底の凹部内には、入力軸5及びトーションバー41の各下端部が挿入されており、トーションバー41の下端部はセレーション43を介してピニオン軸6に連結されている。なお、トーションバー41の存在により、入力軸5とピニオン軸6とは互いにトルク伝達可能で且つ一定の軸相互振れ可能に連結されている。
【0026】
入力軸5の下端部の外周とピニオン軸6の上端部の外周にはスリーブ44が装着されている。該スリーブ44の内周面には雌型のヘリカルスプライン45が形成される一方、入力軸5の外周には雄型のヘリカルスプライン46が形成されている。スリーブ44のヘリカルスプライン45と入力軸5のヘリカルスプライン46とは互いに噛合している。スリーブ44には軸方向に沿って長孔状の軸方向溝47が形成されている。軸方向溝47には、ピニオン軸6の上端部に水平に保持されたピン48の先端が挿入されている。
【0027】
このように構成された操舵力検出センサー手段7によれば、ハンドル2の操舵力に応じて入力軸5が回転してトーションバー41が捩れることにより、スリーブ44が、ヘリカルスプライン45,46からなるカム機構の螺旋軌道に沿って軸方向(垂直方向)へ移動することになる。
【0028】
更に、スリーブ44の外周部には凹部49が形成され、この凹部49にポテンショメータ50の検出レバー51が挿入されている。検出レバー51が凹部49に挿入されることで、スリーブ44の軸方向への移動量をポテンショメータ50が検出できる。つまり、スリーブ44が前述のように軸方向へ移動した場合には、この移動をポテンショメータ50が検出することにより、ハンドル2の操舵力が検出される。
【0029】
なお、電動モータMは、ポテンショメータ50によって検出されたハンドル2の操舵力に応じた回転駆動力を発生する。この回転駆動力が、ウォーム13及びウォームホイール12を介してピニオン軸6に伝達されると共に、操舵補助力としてピニオン軸6からラック軸9に伝達される。
【0030】
次に、本実施形態のパワーステアリング装置1の組立て手順を説明する。組立ての手順は主として、図5から図8に示した4つの工程からなっている。
【0031】
図5は、第一次組立て体52を構成するまでの第1工程を示す。第1工程では先ず、ピニオン軸6の上端部にトーションバー41、入力軸5及びスリーブ44を組み付けることにより、入力軸5及びピニオン軸6の同軸連結体(5,6)を形成する。次に、ピニオン軸6の下端部を第1のボールベアリング23の内輪23Bに圧入して、第1のボールベアリング23をピニオン軸6に一体化する。
【0032】
続いて、ピニオン軸6に一体化された第1のボールベアリング23の外輪23Aを、最下位ハウジングであるギヤケース14の環状の軸受け受部22に圧入して、前記同軸連結体(5,6)をギヤケース14の上に立設する。その後、ギヤケース14内においてピニオン軸6の下端部にスペーサSを外嵌すると共に、ピニオン軸6の下端部にウォームホイール12を圧入する。そして、スペーサS及びウォームホイール12を締付けナット61で締付け固定する。また、ウォーム13をウォームホイール12に噛み合わせつつ、ギヤケース14に支持する。そして、ギヤケース14の下面側に蓋体19を取り付ける。こうして、前記同軸連結体(5,6)、ギヤケース14及び減速機構8が一体化した第一次組立て体52を構成する。
【0033】
図6及び図7は、第一次組立て体52から第二次組立て体53を構成するまでの第2工程及び第3工程を示す。
【0034】
図6に示す第2工程では、先ず、ギヤボックス15の上部の環状の軸受け受部28に第2のボールベアリング29の外輪29Aを圧入して、第2のボールベアリング29をギヤボックス15に予め一体化しておく。次に、このギヤボックス15を第一次組立て体52の上方から該第一次組立て体52に外嵌する。その際、図6に示すように、ギヤボックス15に一体化されている第2のボールベアリング29をピニオン軸6の逃げ凹部10に一時退避させながら、第一次組立て体52のピニオン軸6が、ギヤボックス15のピニオン軸収容室26(横断面略長円形状)の長径方向の一方の端の側(図6では左側)に片寄るように、浮動状態のギヤボックス15を第一次組立て体52に対し相対位置決めする。
【0035】
図6に示す相対位置決め状態では、ピニオン軸収容室26の長径方向の他方の端(図6では右側)と、片寄って配置されたピニオン軸6のピニオン部11との間に比較的大きな空間が確保される。それ故、ピニオン軸収容室26内のこの比較的大きな空間に対して、ラック軸9を易々と挿入することができる。なお、図3(A)における一点鎖線は、第一次組立て体52のピニオン軸6がピニオン軸収容室26の長径方向の一方の端の側に片寄って配置された位置を示す。ギヤボックス15のピニオン軸収容室26内にラック軸9を挿入することで、第2工程が完了する。
【0036】
図7に示す第3工程では、先ず、ピニオン軸収容室26に挿入されたラック軸9の逃げ部9Bがピニオン軸6のピニオン部11に対面するようにラック軸9の位置を調節する。そして、ラック軸9の逃げ部9Bとピニオン軸6のピニオン部11との対面関係を維持したまま、ギヤボックス15の位置を調整することにより、第一次組立て体52のピニオン軸6をピニオン軸収容室26内の規定位置に相対位置決めする。なお、図3(A)における二点鎖線は、ピニオン軸収容室26におけるピニオン軸6の前記規定位置を示す。
【0037】
このとき、ピニオン軸6の逃げ凹部10から第2のボールベアリング29が離脱する。そして、第2のボールベアリング29の内輪29Bとピニオン軸6の上部との間にOリング30を介在させながら、第2のボールベアリング29がピニオン軸6の上部に装着される。
【0038】
これに同期して、ギヤボックス15の下部の軸受け嵌入部27に対し、ギヤケース14に固定された第1のボールベアリング23が嵌合し、ギヤケース14に対してギヤボックス15が連結される。その結果、同軸連結体(5,6)のピニオン軸6が、第1のボールベアリング23及び第2のボールベアリング29を介してギヤケース14及びギヤボックス15に対し回動可能に支持される。
【0039】
最後に図7に示すように、複数の連結ボルト18(一つのみ図示)でギヤケース14に対しギヤボックス15を締結する。こうして、同軸連結体(5,6)、減速機構8、ギヤケース14及びギヤボックス15が一体化した第二次組立て体53を構成する。
【0040】
次に、図8に示す第4工程では、先ず、ラック軸9のラック歯9Aとピニオン軸6のピニオン部11とを噛み合わせた後、ラック軸9をピニオン軸6へ押圧するラック軸押圧機構32をギヤボックス15に組み付ける。他方で、スタブケース16にオイルシール40を取り付けると共に、スタブケース16の上部の環状の軸受け受部36に第3のボールベアリング37の外輪37Aを圧入固定することで、第3のボールベアリング37をスタブケース16に予め一体化しておく。そして、第二次組立て体53の入力軸5に対しその上側からスタブケース16を被せる。
【0041】
このとき、第3のボールベアリング37の内輪37Bと入力軸5との間にOリング39を介在させながら、第3のボールベアリング37が入力軸5に装着される。また、これに同期して、スタブケース16の下部の軸受け嵌入部35に対し、ギヤボックス15に固定された第2のボールベアリング29が嵌合し、ギヤボックス15に対してスタブケース16が連結される。その結果、同軸連結体(5,6)が、第1、第2及び第3のボールベアリング23,29,37を介してギヤケース14、ギヤボックス15及びスタブケース16からなるハウジングHに対し回動可能に支持される。
【0042】
最後に図8に示すように、複数の連結ボルト17(一つのみ図示)でギヤボックス15に対しスタブケース16を締結することにより、図8に示すようなパワーステアリング装置の基本構造が完成する。その後、ポテンショメータ50及び電動モータM等の電装品やタイロッドエンド(図示略)等を組み付けることによって、図2に示すパワーステアリング装置1が完成する。
【0043】
[実施形態の効果]
本実施形態では、減速機構8を構成するウォームホイール12及びウォーム13が同じ単体のギヤケース14に支持されている。また、ピニオン軸6が第1のボールベアリング23の内輪23Bに圧入固定されると共に第1のボールベアリング23の外輪23Aがギヤケース14の環状の軸受け受部22に圧入固定されることで、第1のボールベアリング23の内外輪がピニオン軸6及びギヤケース14に同心固定されている。その結果、ウォームホイール12とウォーム13との間のバックラッシの主な変動要因からピニオン軸6の軸受け構造が除外され、バックラッシの主な変動要因は、ギヤケース14自体の加工精度やウォームホイール12及びウォーム13の部品加工精度にほぼ限定されることになる。従って、従来よりも、減速機構8におけるバックラッシの変動を抑制してバックラッシ制御を容易化することができる。また、減速機構8の作動抵抗(回転抵抗)の変動を抑制することができる。
【0044】
更に、減速機構8におけるバックラッシを極力小さくすることができると共に、第1のボールベアリングの外輪23A及び内輪23Bともに圧入による固定を採用して隙間嵌めを排除したことで、減速機構8のバックラッシや第1のボールベアリング23の取付け構造に起因するラトル音の発生を従来よりも低減することができる。
【0045】
本実施形態では、ピニオン軸6をギヤボックス15に回動可能に支持する第2のボールベアリング29について、第2のボールベアリングの外輪29Aをギヤボックス15の環状の軸受け受部28に圧入固定すると共に、第2のボールベアリングの内輪29Bとピニオン軸6との間に環状弾性体としてのOリング30を介装してピニオン軸6を弾性支持している。このOリング30の作用によりピニオン軸6は調芯され、振動等の影響を受けにくくなる。このように第2のボールベアリング29及びOリング30によってピニオン軸6を弾性支持したことで、ピニオン軸6の作動抵抗(回転抵抗)の低減と、軸受けの隙間に起因するラトル音の低減とを図ることができる。
【0046】
本実施形態では、入力軸5をスタブケース16に回動可能に支持する第3のボールベアリング37について、第3のボールベアリングの外輪37Aをスタブケース16の環状の軸受け受部36に圧入固定すると共に、第3のボールベアリングの内輪37Bと入力軸5との間に環状弾性体としてのOリング39を介装して入力軸5を弾性支持している。このOリング39の作用により入力軸5は調芯され、振動等の影響を受けにくくなる。このように第3のボールベアリング37及びOリング39によって入力軸5を弾性支持したことで、入力軸5の作動抵抗(回転抵抗)の低減と、軸受けの隙間に起因するラトル音の低減とを図ることができる。
【0047】
本実施形態のパワーステアリング装置1では、ハウジングHをギヤケース14、ギヤボックス15及びスタブケース16から構成すると共に、ギヤケース14とスタブケース16とに挟まれてラック軸9及びピニオン軸6のピニオン部11を収容するギヤボックス15に、ピニオン軸6の挿通方向(図2では垂直方向)に当該ギヤボックス15を貫通すると共に前記挿通方向に対し直交する方向(図2では水平方向)での横断面形状が略長円形状をなすピニオン軸収容室26を設けている。それ故、図2に示す第2工程において、前記横断面略長円形状のピニオン軸収容室26の長径方向の一方の端の側にピニオン軸6を片寄って配置すると共に、その片寄り配置状態においてラック軸9をピニオン軸収容室26に挿入し、その後にピニオン軸6をピニオン軸収容室26内の規定位置に位置決めし、ピニオン軸6とラック軸9とを噛み合わせるという組立て手順を採用することができる。従って本実施形態によれば、ギヤボックス15の寸法を比較的小さく保ったままでも、ピニオン軸6及びラック軸9を円滑且つ効率的に組み付けることができる。
【0048】
本実施形態では、ラック軸9に、ラック歯9A群の一方端にあって組付けの際一時的にピニオン軸6との干渉を回避するための逃げ部9Bを設けている。このため、ピニオン軸6の上記片寄り配置状態において、ピニオン軸6のピニオン部11にラック軸9の逃げ部9Bを対面させることができるのみならず、その対面状態を維持したままギヤボックス15の位置を調節してピニオン軸6及びラック軸9をピニオン軸収容室26内の規定位置に再位置決めする操作を非常に円滑に行うことができる。そして、ピニオン軸6及びラック軸9の再位置決め完了後に、ピニオン軸6とラック軸9とを互いに噛み合わせることができる。
【0049】
本実施形態では、上記のような第1〜第4工程を経てパワーステアリング装置1の組立てを行うので、ハウジングHの中位を占めるギヤボックス15を大型化しなくても、入力軸5、ピニオン軸6、ラック軸9、減速機構8などの各パーツを円滑且つ効率的に組み立てることができる。特に本実施形態のように、ピニオン軸6の上端部付近の径がピニオン部11の径よりも若干大きく、且つピニオン軸6の下端部に連結されるウォームホイール12の径寸法が非常に大きい設計の場合には、本発明の有用性は非常に高まる。
【0050】
[変更例]
第2のボールベアリング29に隣接するOリング30の位置は変更されてもよい。即ち、第2のボールベアリング29の内輪29Bにピニオン軸6を圧入固定すると共に、ギヤボックス15の軸受け受部28に第2のボールベアリング29の外輪29Aを隙間嵌めし、その外輪29Aと軸受け受部28との間にOリング30を介装してもよい。
【0051】
第3のボールベアリング37に隣接するOリング39の位置は変更されてもよい。即ち、第3のボールベアリング37の内輪37Bに入力軸5を圧入固定すると共に、スタブケース16の軸受け受部36に第3のボールベアリング37の外輪37Aを隙間嵌めし、その外輪37Aと軸受け受部36との間にOリング39を介装してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】パワーステアリング装置及びその周辺機構の概略を示す図。
【図2】図1のII―II矢示方向断面に相当するパワーステアリング装置の縦断面図。
【図3】(A)はギヤボックスを上側から観た斜視図、(B)は(A)のB―B矢示方向断面図。
【図4】ラック軸の全体を示す正面図。
【図5】パワーステアリング装置の組立て手順の第1工程を示す断面図。
【図6】パワーステアリング装置の組立て手順の第2工程を示す断面図。
【図7】パワーステアリング装置の組立て手順の第3工程を示す断面図。
【図8】パワーステアリング装置の組立て手順の第4工程を示す断面図。
【図9】従来のパワーステアリング装置の縦断面図。
【符号の説明】
【0053】
1 パワーステアリング装置
2 ハンドル
5 入力軸
6 ピニオン軸
8 減速機構
9 ラック軸
9A ラック歯
9B 逃げ部
11 ピニオン軸のピニオン部
12 ウォームホイール(減速機構の一部)
13 ウォーム(減速機構の一部)
14 ギヤケース(ハウジングの一部)
15 ギヤボックス(ハウジングの一部)
16 スタブケース(ハウジングの一部)
22 軸受け受部
23 第1のボールベアリング
26 ピニオン軸収容室
28 軸受け受部
29 第2のボールベアリング
30 Oリング(環状弾性体)
36 軸受け受部
37 第3のボールベアリング
39 Oリング(環状弾性体)
60 被操舵系
H ハウジング
M 電動モータ(操舵補助力発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの操舵力を操舵補助力発生手段によって生み出された操舵補助力を付加しつつ被操舵系に伝達するパワーステアリング装置であって、
複数のケース及び/又はボックスにより構成されるハウジングと、
前記ハウジングに回動可能に支持されると共に前記ハンドルからの操舵力が入力される入力軸と、
前記入力軸と同軸連結された状態で前記ハウジングに回動可能に支持されるピニオン軸と、
前記操舵補助力発生手段からの操舵補助力を前記ピニオン軸に伝達する減速機構と、
前記ピニオン軸の回転運動を直線運動に変換して前記被操舵系に伝達するラック軸とを備えており、
前記減速機構が、前記ピニオン軸に一体回転可能に連結されたウォームホイールと、当該ウォームホイールと協働するウォームとを具備し、
前記ハウジングが、前記ウォーム及びウォームホイールを共に支持する単体のギヤケースを有しており、
前記ピニオン軸は、当該ピニオン軸の一部を第1のボールベアリングの内輪に圧入固定すると共に当該第1のボールベアリングの外輪を前記ギヤケースの環状の軸受け受部に圧入固定した状態で、当該第1のボールベアリングを介して前記ギヤケースに対し回動可能に支持されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ハウジングが、前記ギヤケースに隣接し且つ前記ラック軸及びそのラック軸と噛み合う前記ピニオン軸のピニオン部を収容するギヤボックスを有しており、
前記ピニオン軸は、第2のボールベアリングを介して前記ギヤボックスに回動可能に支持されており、前記第2のボールベアリングの外輪及び内輪のうちの一方が、前記ギヤボックスの環状の軸受け受部又は当該ピニオン軸の一部に圧入固定されると共に、前記第2のボールベアリングの外輪及び内輪のうちの他方が、弾性体を介して前記ギヤボックスの環状の軸受け受部又は当該ピニオン軸の一部に対し弾性連結されている
ことを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記ハウジングが、前記ギヤボックスに隣接し且つ前記入力軸を収容するスタブケースを有しており、
前記入力軸は、第3のボールベアリングを介して前記スタブケースに回動可能に支持されており、前記第3のボールベアリングの外輪及び内輪のうちの一方が、前記スタブケースの環状の軸受け受部又は当該入力軸の一部に圧入固定されると共に、前記第3のボールベアリングの外輪及び内輪のうちの他方が、弾性体を介して前記スタブケースの環状の軸受け受部又は当該入力軸の一部に対し弾性連結されている
ことを特徴とする請求項2に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−120093(P2009−120093A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297873(P2007−297873)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】