説明

ブレーキライニング

【課題】ブレーキ振動や、異音(鳴き)の発生、ブレーキの効きが不安定になるなどの問題を一気に解決することのできるブレーキライニングを得る。
【解決手段】ドラムブレーキ装置におけるブレーキシューの円弧板状のリム2b,3bの外周面にリベット5により固定される円弧板状のブレーキライニング4において、ドラムに押圧されるライニング外周面11と、リム2b,3bの外周面に固定されるライニング内周面12とのそれぞれに、ドラムの軸方向に延在する複数本の溝14を設けて、これらの溝14の装備に伴う可撓性の向上により、ライニング内周面12をリム2b,3bの外周面に密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキ装置においてブレーキシューのリムに取り付けられるブレーキライニングに関し、特に、ブレーキ振動や、異音の発生を防止すると同時に、ブレーキの効きを安定させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやフォークリフト等の産業車両用又は産業機械用のドラムブレーキ装置として、基材上に、摩擦調整材や結合剤としての熱硬化性樹脂や短繊維を混合して熱成形したレジンモールド、又は焼結合金等で円弧板状に成形したブレーキライニングを、ドラムの内側に拡開可能に装備されるブレーキシューの円弧板状のリムの外周面にリベットにより固定する構造のものがある。
この構成のドラムブレーキ装置では、リベットにより結合されたブレーキライニングとリムとの間に隙間が生じると、制動時に、ドラム内周面に対する当たりが均一でなくなり、その結果、ブレーキ振動や、異音(鳴き)の発生といった問題が生じたり、ブレーキの効きが不安定になったりという問題が生じる。
【0003】
このような各種の問題の原因となるブレーキライニングとリムとの間の隙間は、理論上では、リム外周面の湾曲状態とブレーキライニングの内周面の湾曲状態とが正確に一致するように、それぞれの加工精度を向上させることで、解消することができる。
ところが、実際は、産業車両用又は産業機械用のドラムブレーキ装置で使用するリムやブレーキライニングは寸法が大きいため湾曲面全体の加工精度を向上させることは容易でなく、しかも、それぞれの素材の違い、製造方法の相違、加工精度のばらつき等もあって、相互間に隙間が無くなるようにそれぞれの湾曲面の加工精度を高めることは、現実的には不可能である。
そこで、発生する問題毎に、対策が研究されていた。
【0004】
例えば、ブレーキ振動の発生という問題では、振動解析実験により、ブレーキライニングがリベット止めされたブレーキシュー全体が共振している現象が確認され、この共振を抑止するために、固有振動数を調整することが検討された。
そして、固有振動数を調整する具体的な手段として、ブレーキライニングの内周面に軸方向の溝(スリット)を数本形成する技術が提案された(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特許2603548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の特許文献1の技術において、ブレーキライニングの内周面に形成するスリットは、固有振動の調整を目的としたもので、ブレーキライニングとリムとの間の隙間の解消や低減に対しては、効力がない。
そのため、ブレーキライニングとリムとの間の隙間の発生を原因として生じるブレーキの効きの不安定化等の問題は解決できず、それに対しては、また、別の対策を講じなければならないという問題が生じた。
【0007】
本発明の目的は上記課題を解消することに係り、ブレーキライニングとリムとの間の隙間の発生を防止し、隙間の発生に起因していたブレーキ振動や、異音(鳴き)の発生、ブレーキの効きが不安定になるなどの各種の問題を一気に解決することのできるブレーキライニングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は下記構成により達成される。
(1)ブレーキシューのリムの外周面に固定され、前記ブレーキシューの拡開によりドラムの内周面に押圧される円弧板状のブレーキライニングであって、
前記ブレーキライニングのライニング外周面とライニング内周面とのそれぞれに、前記ドラムの軸方向に延在する複数本の溝を設けて、これらの溝の装備に伴う可撓性の向上により、前記ライニング内周面を前記リムの外周面に密着させたことを特徴とするブレーキライニング。
【0009】
(2)上記(1)において、前記ライニング外周面に形成される溝と、前記ライニング内周面に形成される溝とが、ドラム中心軸を中心として、同一の位相で設けられていることを特徴とするブレーキライニング。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)に記載のブレーキライニングでは、ライニング外周面及びライニング内周面のそれぞれの湾曲面がドラム軸方向の溝によって周方向に複数に分割されたことと、溝を装備したことによる薄肉化とにより、半径方向への可撓性が向上しており、リムの外周面とブレーキライニングの内周面との間で湾曲面の加工精度にばらつきが生じていたとしても、リベットによりブレーキライニングをリムに固定すると、薄肉部の変形によりライニング内周面がリムの外周面に密着し、ブレーキライニングとリムとの間に隙間が生じることが防止され、たとえ隙間が生じたとしても0.1mm以下に抑えられる。
【0011】
上記(2)に記載のブレーキライニングでは、ライニング外周面に装備する溝とライニング内周面に装備する溝とが互いに同一の位相で装備されていると、位相をずらしている場合と比較して、溝の装備による薄肉化が一層顕著になり、薄肉部における可撓性の向上によってライニング内周面とリムの外周面との密着性がさらに改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るブレーキライニングの好適な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るブレーキライニングを装備した一対のブレーキシューの一実施の形態の斜視図、図2(a)は図1に示したブレーキライニングの外周面の斜視図、図2(b)は図1に示したブレーキライニングの内周面の斜視図、図3は図2に示したブレーキライニング上の溝の配置を示す正面図である。
【0013】
図1は、トラックやフォークリフト等の産業車両用又は産業機械用のドラムブレーキ装置において、図示せぬ円筒状のドラムの内側に拡開可能に対向配置される一対のブレーキシュー2,3の配置状態を示している。
各ブレーキシュー2,3は、ウェブ2a,3aと、このウェブ2a,3aの外周に接合された円弧板状のリム2b,3bと、各リム2b,3bの外周面にリベット5により固定される円弧板状のブレーキライニング4とから構成されている。
【0014】
ウェブ2a,3aは、ドラムに対して図示せぬ非回転の支持プレート等の上に回転自在に支持される円筒状の支持部6が一端側に装備されると共に、他端側には、ドラムの内周に向けて拡開する際の操作力をうける操作力受け部7が装備されていて、支持部6を支点とする外側への回動動作により、拡開状態となり、リム2b,3bの外周に固定されているブレーキライニング4がドラムに押圧される。
【0015】
本実施の形態の場合、各リム2b,3bの外周面には、周方向に沿って、それぞれ2つのブレーキライニング4が固定される。
ブレーキライニング4は、基材上に、摩擦調整材や結合剤としての熱硬化性樹脂や短繊維を混合して熱成形したレジンモールド、又は焼結合金等で円弧板状に成形されると共に、図2に示すように、リベット止めするための貫通孔8が複数形成されている。
貫通孔8は、周方向には一定の間隔で4箇所、ドラム軸方向には一定の間隔で3箇所となるように、行列状に設けられている。
【0016】
そして、本実施の形態のブレーキライニング4の場合、図示せぬドラムに押圧されるライニング外周面11と、リム2b,3bの外周面に固定されるライニング内周面12とのそれぞれに、ドラムの軸方向に延在する複数本の溝14を設けて、これらの溝14の装備に伴う可撓性の向上により、ライニング内周面12をリム2b,3bの外周面に密着させる。
【0017】
本実施の形態の場合、ライニング外周面11に形成される溝14と、ライニング内周面12に形成される溝14とは、図3に示すように、ドラム中心軸Oを中心として、同一の位相で、周方向に互いに隣接したリベット止め用の貫通孔8の中間を挿通するように、ライニング外周面11及びライニング内周面12のそれぞれに3本ずつ設けられている。
【0018】
本実施の形態のブレーキライニング4では、ライニング外周面11及びライニング内周面12のそれぞれの湾曲面が複数本のドラム軸方向の溝14によって周方向に複数に分割されたことと、溝14を装備したことによる部分的な薄肉化とにより、半径方向への可撓性が向上しており、リム2b,3bの外周面とライニング内周面12との間で湾曲面の加工精度にばらつきが生じていたとしても、リベット5によりブレーキライニング4をリム2b,3bに固定すると、薄肉部の変形によりライニング内周面12がリム2b,3bの外周面に密着し、ブレーキライニング4とリム2b,3bとの間に隙間が生じることが防止される。
従って、隙間の発生に起因していたブレーキ振動や、異音(鳴き)の発生を防止でき、さらに、ブレーキの効きを安定化することもでき、隙間の発生に起因していた各種の問題を一気に解決することができる。
【0019】
また、本実施の形態のブレーキライニング4では、ライニング外周面11に装備する溝14とライニング内周面12に装備する溝14とが互いに同一の位相で装備されているため、図4に示したように互いに位相をずらしている場合と比較して、溝14の装備による薄肉化が一層顕著になり、薄肉部における可撓性の向上によってライニング内周面12とリム2b,3bの外周面との密着が容易になっている。
【0020】
以上のような本発明の効果を確認するために、同一材料、同一外形寸法で、上記実施の形態のようにライニング外周面とライニング内周面とに複数本の溝14をドラム軸方向に沿って形成した実施例1,2と、ライニング外周面及びライニング内周面の何れにも溝14を形成しない構造の比較例1と、ライニング内周面にのみ複数本の溝14を形成した比較例2について、制動実験をした。
下記の表1は、その制動実験における結果である。
【0021】
なお、図2(a)に示すように、ライニング外周面11の曲率半径をR、ドラム軸方向の長さ寸法(幅寸法)をW、内周長をL、ライニング厚みをtとする時、実施例1,実施例2,比較例1,比較例2の何れも、曲率半径Rは約205mm、ドラム軸方向の長さWは220mm、内周長Lは190ミリ、厚みtは16mmの外形寸法のものをサンプルとした。
また、比較例2及び実施例1の場合は、装備する溝14は、溝幅が3mm、溝深さが2mmである。実施例2の場合は、装備する溝14は、溝幅が5mm、溝深さが3mmである。
【0022】
【表1】

【0023】
実験結果では、ライニング外周面及びライニング内周面の何れにも溝14を持たない比較例1では、ブレーキの効きのばらつきが約10%となり、ライニング内周面にのみ溝14を装備した比較例2では、ブレーキの効きのばらつきが約8%になった。これに対して、ライニング外周面及びライニング内周面の双方に溝14を形成した実施例1,実施例2では、ブレーキの効きのばらつきが約3%以下になり、効きの安定化に対する顕著な効果が確認できた。
【0024】
また、制動時における鳴きの発生率が、比較例1では18%、比較例2では10%なのに対して、実施例1では6.3%、実施例2では7.1%となり、鳴きの発生の低減においても、顕著な効果が確認できた。
【0025】
また、ブレーキ振動は、比較例1及び比較例2においては振動の発生が検出されたが、実施例1及び実施例2では一切検出されなかった。従って、ブレーキ振動の発生防止についても、本発明の効果が確認できた。
【0026】
また、比較例1では、鳴き以外の異音の発生が検出されたが、比較例2及び実施例1及び実施例2では何れも異音の発生は検出されなかった。
さらに、所定の制動動作を1万回繰り返した後、リムの外周面とライニング内周面との間における隙間の有無を調べたところ、比較例1及び比較例2では0.4〜0.6mmの隙間が発生していたのに対し、実施例1及び実施例2では、隙間が0.1mm以下と実質的に無視できる程度であり、リムの外周面にライニング内周面が密着している状態に維持されていることが確認できた。
【0027】
なお、上記実施の形態では、ライニング外周面とライニング内周面では、図3に示したように、位相を揃えて溝14を装備したが、ライニングの厚さ寸法と溝の深さとの関係で、位相を揃えて装備すると肉厚が薄くなりすぎるような場合は、図4に示したように、位相をずらして装備すると良い。
また、溝14の装備数は、ライニング外周面とライニング内周面とで相異させても良い。
また、溝14の溝幅や溝深さは、制動トルクの大きさや、ライニングの組成に相応した物理特性を考慮して適宜に設定すればよく、上記表1に示した寸法に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るブレーキライニングを装備したブレーキシューの一実施の形態の斜視図である。
【図2】(a)は図1に示したブレーキライニングの外周面の斜視図、(b)は図1に示したブレーキライニングの内周面の斜視図である。
【図3】図2に示したブレーキライニング上の溝の配置を示す正面図である。
【図4】本発明に係るブレーキライニングの他の実施の形態における溝の配置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0029】
2,3 ブレーキシュー
2a,3a ウェブ
2b,3b リム
4 ブレーキライニング
8 貫通孔
11 ライニング外周面
12 ライニング内周面
14 溝



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシューのリムの外周面に固定され、前記ブレーキシューの拡開によりドラムの内周面に押圧される円弧板状のブレーキライニングであって、
前記ブレーキライニングのライニング外周面とライニング内周面とのそれぞれに、前記ドラムの軸方向に延在する複数本の溝を設けて、これらの溝の装備に伴う可撓性の向上により、前記ライニング内周面を前記リムの外周面に密着させたことを特徴とするブレーキライニング。
【請求項2】
前記ライニング外周面に形成される溝と、前記ライニング内周面に形成される溝とが、ドラム中心軸を中心として、同一の位相で設けられていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキライニング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−127211(P2007−127211A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321141(P2005−321141)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】