説明

ベルトの駆動装置及びそれを備えたロボット

【課題】ベルト駆動装置やロボットの動作性能の低下を防止するとともに、ロボットのメンテナンス時期を通知することを課題とする。
【解決手段】ベースに対して回転可能な駆動プーリ7と従動プーリ8との間に掛けられて一定の張力が維持されるベルト6と、駆動プーリ7を回転させるサーボモータ11と、サーボモータ11を制御するコントローラ15と、張力を測定可能なロードセル10と、を少なくとも備えたベルト駆動装置において、コントローラ15が、ロードセル10の測定結果からベルト6の固有振動数を算出する自動設定部155を備え、測定結果が問題の無い張力であったとき、サーボモータ11を駆動するモータ駆動部152のノッチフィルタのカットオフ周波数として固有振動数を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトによって駆動される装置において、そのベルトの寿命予測およびベルトの寿命を延ばすための装置に関する。また、特にその装置を半導体製造装置のウェハ搬送装置である半導体ウェハ搬送ロボットに適用したものに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に限ったことではないが、半導体製造における稼働率低下を避けるため、MTTRのような指標に代表されるダウンタイムを極力小さくすることが求められている。半導体製造装置のシステムがロボットの故障などのエラーにより異常停止することを防止するため、システム内のロボットなど各モジュールが異常であるのか自己の状態を監視し、メンテナンス時期を予測、通知することが求められている。
半導体製造装置のウェハ搬送装置には、例えばベルト駆動の半導体ウェハ搬送ロボットが多く用いられている。従来、ベルト駆動は、図2(a)に示すように駆動プーリ7と従動プーリ8の間にベルト6が掛装されており、駆動プーリ7の駆動力が従動プーリ8に伝えられる構造となっている。つまりベルト駆動の場合、ベルトのテンションによって動力を伝達している。図3(a)、図3(b)に示すように、ベルト駆動の半導体ウェハ搬送ロボットの場合、ベルト6のテンションを保持するためにアイドラ9などが設置されており、アイドラ9の位置を調整することによってベルト6のテンションを調整している。これによって、ベルト6の剛性を確保し、ロボット1の動作中の精密な動作性能を確保している。
しかし、長時間動作による経年変化、および異常負荷によるベルトの伸び、劣化の影響でベルトのテンションが弱くなり、ベルトの剛性が確保できなくなることで、アームの水平経路の精度が悪化し、ロボットとしての動作性能が低下する。従来、ベルトのテンションを検出するには、定期的なメンテナンスにて作業者がロボットを分解し、計測するしか方法がなかった。これに対し、ベルトのテンションをロードセルで計測してベルトの特性を予測することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。これを示すのが図2(b)である。特許文献1では、アイドラ9がベルト6から受けるテンションの反力を測定するロードセル10が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−33041
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によればベルトのテンションをロードセルによる計測することでベルトのテンションを知ることはでき、これをもとにある程度の寿命予測は可能となるが、ロボットの動作性能の低下を防止することは考えられていなかった。また、測定装置は大型であり、使用するためには環境が限られてしまう。
そこで本発明は、ロボットアームなどにも使用できるようにするため、アイドラの位置を調整する治具に直接ロードセルを取り付けることによって装置を小型化する。また、検出されたベルトのテンションからベルトの共振周波数を算出し、これを用いて可能な限りロボットの動作性能の低下を防止するとともに、ロボットのメンテナンス時期を自己診断して通知し、ロボットの故障などのエラーによって異常停止することを予め防ぐことを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1記載の発明は、ベースに対して回転可能な駆動プーリと従動プーリとの間に掛けられて一定の張力が維持されるベルトと、前記駆動プーリを回転させるサーボモータと、前記サーボモータを制御するコントローラと、前記張力を測定可能なロードセルと、を少なくとも備えたベルト駆動装置において、前記コントローラが、前記ロードセルの測定結果から前記ベルトの固有振動数を算出する自動設定部を備え、前記測定結果が問題の無い張力であったとき、前記サーボモータを駆動するモータ駆動部のノッチフィルタのカットオフ周波数として前記固有振動数を設定することを特徴とするベルト駆動装置とするものである。
請求項2記載の発明は、前記ロードセルの測定結果が、予め定めたある範囲内であったとき、前記コントローラが、前記ベルトのメンテナンスを促すワーニングを発することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動装置とするものである。
請求項3記載の発明は、前記ロードセルの測定結果が、予め定めた値以下であったとき、前記コントローラがエラーを発することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動装置とするものである。
請求項4記載の発明は、前記ベースにネジによって固定され、前記一定の張力を前記ベルトに与えるアイドラと、前記ロードセルが、リング型であって、前記ネジと前記アイドラとの間に装着されたことを特徴とする請求項1記載のベルト駆動装置とするものである。
請求項5記載の発明は、請求項1記載のベルト駆動装置によって駆動されるアームを備えたことを特徴とするロボットとするものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明によると、検出されたベルトのテンションからベルトの共振周波数を算出し、これを用いて可能な限りベルト駆動装置の動作性能の低下を防止することができる。さらに、このことによって、稼働率低下を避けることができる。
請求項2に記載の発明によると、ベルト駆動装置のメンテナンス時期を自己診断して通知するため、故障などで異常停止することを予め防ぐことができる。
請求項3に記載の発明によると、ベルトの張力が予め定めた値以下であれば装置の稼動を停止するのでベルト駆動装置に損傷を与えることを防げる。
請求項4に記載の発明によると、アイドラの位置を調整し固定するネジに直接ロードセルを取り付けることで小型化することができる。
請求項5に記載の発明によると、ベルトの動作性能の低下を防止して稼働率低下を避けることができるロボットとすることができる。


【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を適用した半導体ウェハ搬送ロボット装置の構成概念図
【図2】従来のベルト駆動の概念図と特許文献1の張力測定装置概念図
【図3】本発明のベルト駆動装置の上面図と側面図
【図4】本発明のベルトテンション測定装置の側面図
【図5】本発明のコントローラ内部処理のブロック図
【図6】ノッチフィルタの周波数特性と制御ブロック図
【図7】本発明の処理フロー
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0009】
本実施例では、半導体ウェハ搬送用のロボットのアームに本発明を適用した事例として説明する。半導体ウェハ搬送用のロボットは、清浄な雰囲気下に設置されることや、省フットプリント化の要求から他の産業用ロボットと比較して狭い環境に設置されることなどの理由から、メンテナンスがしにくいことが多い。また、ロボットのアームやベース部は、以下で説明するとおり、ベルトによって駆動されることが多い。従って本発明を適用するのに適したロボットである。本実施例では、以下で説明するように、ロボットのアームやベース部におけるベルトについて、寿命予測を行なうとともに、ベルトの寿命がより延びるような措置を行なう。
【0010】
図1に示すように、本発明の全体の構成は、ロボット1およびコントローラ15からなる。ロボット1は、ベース部2、例えば第1アーム3a、第2アーム3bといった1つ以上のアーム部3、1つ以上のエンドエフェクタ4から構成されている。アーム部3内、もしくはベース部2内には、図3(a)、図3(b)に示すように、モータ11、駆動プーリ7、従動プーリ8、アイドラ9、ロードセル10、ベルト6、および減速機12が設置されている。アイドラ9とロードセル10とで、以下に説明する測定装置13としての役割も担う。
また、図5で示すように、コントローラ15は上位ホスト16からの命令を処理するコマンド処理部151、コマンドによってモータ11を駆動するモータ駆動部152、測定装置13によってベルトテンションの測定を行なうテンション測定部153、自動的にノッチフィルタ周波数を設定する自動設定部155、ベルト6のメンテナンス時期を判断、通知するメンテナンス通知部154からなる。これらのコントローラ内部の機能は図示しないCPUなどの演算装置内に記述されたソフトウェアによって実行される。
【0011】
ベルト6のテンションを測定する機構を図4に示す。駆動プーリ7と従動プーリ8との間にベルト6のテンションを測定するために測定装置13をベルト6の内側から設置する。測定装置13は、アイドラ9と、アイドラ9の設置位置を調整する治具、ロードセル10で構成される。本実施例では、リング型のロードセル10を治具固定用のネジに直接取り付けることで、図4に示す装置を小型化することができる。アイドラ9の設置位置をベルト6に対して垂直方向へ調整することでベルト6のテンションTを調整できる。アイドラ9の設置位置は、メンテナンス時に作業者が手作業にて調整しても、アイドラ9の位置を変化させるようなアクチュエータを別途設置して調整しても良い。
【0012】
図5から図7を用いて、ベルトのメンテナンス時期を通知したり判断したりすること、及びベルトの寿命を延ばすための方法、について説明する。まず、特許文献1に示されるように、ベルト6からアイドラ9などに対して、内側の反力をロードセル10にて測定することで、ベルト6のテンションを測定できることは既知の通りである。なお、以下の一連の動作や作業について、図7がそれらのフローをまとめて示している。
【0013】
本実施例における、ベルト6のテンションを測定および確認する方法について説明する。上位ホスト16からコントローラ15にシリアル通信や、I/Oなどの信号を介して、ベルト6のテンションを測定する命令であるメンテナンスコマンドが発行される。コマンド処理部151が上位ホスト16からのメンテナンスコマンドを受信、処理する。ベルト6が駆動しているとき、モータなどあらゆる要因が含まれるため、ベルト6だけのテンションを測定することは困難となる。そこで、ロボット1が停止しているとき、つまりコントローラ15内で他のコマンドが発行されていないことをコマンド処理部151で確認する。他のコマンドが発行されていないときに、コマンド処理部151からテンション測定部153にベルト6のテンション測定を行なう命令、データ取得コマンドを発行する。データ取得コマンドを受信したテンション測定部153は測定を開始する。ベルト6のテンション測定結果は、測定装置13からI/Oなどの信号を介して、テンション測定部153に測定結果を返す。
【0014】
次に、ベルト6のメンテナンス時期の判定方法について説明する。メンテナンス時期の判定はメンテナンス通知部154で行なう。事前にロボット1の動作性能を確保できる最低限のベルト6のテンションを検証しておき、この値を許容値として設定しておく。上記測定結果が、
(測定結果)<(許容値)
ならば、ロボット1の動作性能を確保できない。これによって、ベルト6の異常が検出可能となり、コマンド処理部151からシリアル通信やI/Oなどを介して、上位ホスト16にエラーを通知する。

あるいは(測定結果) >(許容値)
ならば、下記に示す自動設定部155によってノッチフィルタのゲイン設定を行なう。
ただし、
(許容値)<(測定結果)<120%*(許容値)
ならば、同時にコマンド処理部151からシリアル通信やI/Oなどを介して、上位ホスト16にメンテナンスを促すワーニングを通知する。
【0015】
次に、自動設定部155によってノッチフィルタのゲイン設定を行なう方法について説明する。上記許容値は、ロボット1の動作性能を確保できるように設定されているが、ベルトのテンションが弱くなると、ベルトの剛性が低くなる。その結果、トルク波形にベルト6の固有振動が入り込み、水平経路などの動作性能に影響を与える。ノッチフィルタとは、特定の周波数帯域だけを減衰するフィルタである。本発明では、モータ11を駆動するモータ駆動部152に対してノッチフィルタのカットオフ周波数にベルト6の固有振動数を設定することで、モータ11のトルク波形に入り込んだ固有振動を減衰させ、ロボット1の動作性能を維持する。具体的には、自動設定部155が、ベルト6のテンション測定結果からベルト6の固有振動数を算出し(下記式1によって算出する)、ノッチフィルタのカットオフ周波数にベルト6の固有振動数を設定する。ただし、フィードバック制御系にて設定された応答周波数の6倍以下にノッチフィルタを設定すると制御系が不安定になることがあるため、算出された固有振動数が前記条件となる場合、コマンド処理部151からシリアル通信やI/Oなどを介して、上位指令システム16にエラーを通知する。
【0016】

・・・式1
f:ベルトの固有振動数[Hz]
T:ベルトのテンション測定値[N]
M:単位質量[g/(m*mm)]
W:幅[mm]
S:スパン長[mm]
【0017】
本実施例では、1つのアームに対して本発明を適用した例についてのみ説明したが、本発明がアームの数によらず有効であることはもちろんのことであり、アームが単数の場合であっても、多数の場合であっても適用可能であることは言うまでもない。多数の場合であれば、どのベルト6がメンテナンス対象であるのかを個別に通知可能となる。さらに、アイドラ9がないベルト駆動の場合、駆動プーリ7および従動プーリ8の位置を調整することで、テンションを確保することになることは周知のとおりであるが、前記条件のときは、プーリの位置を固定するネジにリング型のロードセル10を取り付けることで、適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本実施例のような半導体ウェハ搬送ロボットだけでなく、ベルト駆動によって動力を伝達している自動車のタイミングベルト、各種生産ラインで使用されているベルトコンベヤなどにおいても、測定装置の配置を工夫することによって、適応可能である。また、駆動系がベルトだけでなく、ワイヤやチェーンなど、ひも状部材のテンションによって動力を伝達している駆動システムであれば、同様の効果が得られることはもちろんのことである。
【符号の説明】
【0019】
1 ロボット
2 ベース部
3 アーム部
4 エンドエフェクタ

6 ベルト
7 駆動プーリ
8 従動プーリ
9 アイドラ
10 ロードセル
11 モータ
12 減速機
13 測定装置

15 コントローラ
151 コマンド処理部
152 モータ駆動部
153 テンション測定部
154 メンテナンス通知部
155 自動設定部
16 上位ホスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースに対して回転可能な駆動プーリと従動プーリとの間に掛けられて一定の張力が維持されるベルトと、前記駆動プーリを回転させるサーボモータと、前記サーボモータを制御するコントローラと、前記張力を測定可能なロードセルと、を少なくとも備えたベルト駆動装置において、
前記コントローラが、
前記ロードセルの測定結果から前記ベルトの固有振動数を算出する自動設定部を備え、
前記測定結果が問題の無い張力であったとき、前記サーボモータを駆動するモータ駆動部のノッチフィルタのカットオフ周波数として前記固有振動数を設定することを特徴とするベルト駆動装置。
【請求項2】
前記ロードセルの測定結果が、予め定めたある範囲内であったとき、前記コントローラが、前記ベルトのメンテナンスを促すワーニングを発することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動装置。
【請求項3】
前記ロードセルの測定結果が、予め定めた値以下であったとき、前記コントローラがエラーを発することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動装置。
【請求項4】
前記ベースにネジによって固定され、前記一定の張力を前記ベルトに与えるアイドラと、前記ロードセルが、リング型であって、前記ネジと前記アイドラとの間に装着されたことを特徴とする請求項1記載のベルト駆動装置。





【請求項5】
請求項1記載のベルト駆動装置によって駆動されるアームを備えたことを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−64247(P2011−64247A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214607(P2009−214607)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】