説明

ベルトスリーブの走行線制御方法、及びベルトスリーブの走行線制御装置

【課題】 走行時のベルトスリーブのスラスト力の大小にかかわらず、常にその走行線を安定させ得るベルトスリーブの走行線制御装置を提供する。
【解決手段】 ベルトスリーブ2を懸架して所定の張力を与えつつ走行させることが可能な主軸ロール11及び副軸ロール12と、副軸ロール12を傾斜させることが可能な傾斜機構と、走行中の前記ベルトスリーブ2の側面に当接して、当該ベルトスリーブ2のスラスト力を測定するロードセル30を備える。走行線制御装置100のコントローラ(図略)は、ロードセル30で測定されたスラスト力Ftが設定範囲外であるときは、当該スラスト力Ftが設定範囲内となるように前記副軸ロール12の傾斜角度を変更すべく前記傾斜機構を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトスリーブの走行線を安定させる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ベルトスリーブは内部にコードからなる心線を埋設した構成としており、また、ベルトスリーブの走行中の片寄りを阻止してその走行線を安定させるために、前記コードは、S撚りとZ撚りのものを交互に並べたものを採用することが多い。しかしながら、スパイラルに連続的に巻き付ける際の心線の傾きに起因する片寄りは、単にコードのSZ交互配列によっては解消することができない。そのため、従来から、ベルトスリーブの走行中のそのような片寄りを防止して走行線を安定させることが、ベルトスリーブの加工精度の観点から望まれていた。
【0003】
本出願人は従来から上述するような課題を認識しており、この課題を解決するものとして、例えば特許文献1に示すエンドレスベルトの偏倚防止装置を提案している。この特許文献1の装置では、外筒を軸方向移動自在かつ相対回転不能に嵌装した主軸ロールと、副軸ロールを有しており、主軸ロールと副軸ロールにエンドレスベルト(ベルトスリーブ)を所定の張力下で掛張して走行可能になっている。また、主軸ロールの一端には回転可能かつ軸方向移動不能なフランジを備えている。この構成で、ベルトスリーブの走行中に上記の片寄りが発生した場合、外筒が主軸ロールに対して軸方向に移動することでベルトスリーブがスラスト方向へ移動し、上記のフランジにベルトスリーブが接することでベルト走行線を一定に保持できる構成となっている。
【特許文献1】特公平7−22883号公報(第1図、外筒35、フランジ36)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の構成は、ベルトスリーブの加工精度の向上という一定の効果を奏するものではあったが、ベルトスリーブが偏倚する方向は心線の巻き方向に依存するものであり、ベルトがフランジ側へ片寄るようにロールに設置する必要がある(上記特許文献1の第4頁第7カラム第29行〜)。従って、ベルトスリーブの取付け向きが制限されるために作業が煩雑であり、作業者に負担が生じていた。
【0005】
また、ベルトスリーブを正しい向きにロールに設置したとしても、ベルトスリーブの片寄り力は条件によって大小様々であり、一方、外筒と主軸ロールの間の摩擦力をゼロとするのは実際上不可能である。従って、上記の特許文献1の構成では、外筒を前記摩擦力に抗して軸方向へ移動させ得るだけの大きな片寄り力(スラスト力)が生じた場合にはベルトスリーブを適切にフランジへ接触させ得るが、片寄り力が小さい場合には、ベルトスリーブがフランジへ当接せず、ベルト走行線を安定させることができなかった。従って、ベルトスリーブの加工精度の要求が厳しくなっている近年では、上記特許文献1の構成についても改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてされたものであり、その目的は、ベルトスリーブの片寄り力(スラスト力)の大小如何にかかわらず、常に良好な精度でベルト走行線を安定させ得るベルトスリーブの走行線制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
◆本発明の第1の観点によれば、以下のような、ベルトスリーブの走行線制御方法が提供される。少なくとも第1軸及び第2軸とにベルトスリーブを懸架して所定の張力を与えつつ走行させ、その走行中の前記ベルトスリーブの側面に寄り力測定器を当接させて、当該ベルトスリーブのスラスト力を測定する。前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更する。
【0009】
これにより、寄り力測定器によりスラスト力を測定しながら第2軸を傾斜させて2本の軸をねじれの位置におき、その傾斜角度(ねじれの度合い)を変更することによって、ベルトスリーブが寄り力測定器に適切に当接するように制御できる。従って、寄り力測定器とベルトスリーブとの当接によるガイド作用を確実に奏させることで、ベルトスリーブの走行線を良好に安定させることができる。
【0010】
◆前記のベルトスリーブの走行線制御方法においては、前記設定範囲がゼロを含まない範囲とされていることが好ましい。
【0011】
これにより、ベルトスリーブ自体に発生するスラスト力がゼロだったり、そのスラスト力が寄り力測定器から離れる向きだった場合等、必要な場合は、第2軸の傾斜により寄り力測定器に近づく方向に適宜のスラスト力を積極的に発生させて、寄り力測定器のスラスト力の測定値が上記設定範囲内に入るようにできる。従って、ベルトスリーブを寄り力測定器に適当な力で当接させ、ベルトスリーブの走行線を顕著に安定させることができる。
【0012】
◆前記のベルトスリーブの加工方法においては、前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、加工作業を中断するとともに前記第2軸の傾斜角度を変更し、測定されたスラスト力が設定範囲内になると加工作業を再開することが好ましい。
【0013】
これにより、ベルトスリーブの走行線の安定状態が確認されるまで加工作業を中断するから、ベルトスリーブの加工精度が著しく向上される。
【0014】
◆前記のベルトスリーブの加工方法においては、前記第1軸は軸線を移動不能に固定されるとともに、この第1軸に巻回された部分に対して加工作業を行うことが好ましい。
【0015】
これにより、第2軸のように軸線が傾斜することがない第1軸に対して加工作業が行われるから、ベルトスリーブの加工精度を一層良好にできる。
【0016】
◆本発明の第2の観点によれば、前記のベルトスリーブの加工方法を使用した、以下のようなカット方法が提供される。前記ベルトスリーブへの切込み位置を変更しながらカッターをベルトスリーブへ複数回進入させることで当該ベルトスリーブをカットする。前記カッターによるベルトスリーブのカットが1回行われるごとに前記寄り力測定器でスラスト力を測定し、この測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、次の回のカッターのベルトスリーブへの進入を行わずに、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更する。測定されたスラスト力が設定範囲内になると、前記カッターのベルトスリーブへの進入を行う。
【0017】
このように、切込み位置を変更しながらカッターをベルトスリーブへ複数回進入させる場合は、その1回のカットごとに、ベルトスリーブに発生するスラスト力の方向や大きさが変化することがある。この点、上記の方法によれば、1回のカットごとに寄り力測定器でスラスト力を測定し、必要な場合には第2軸の傾斜制御を行ってからカット作業を行うから、各回のカットの精度を著しく向上させることができる。
【0018】
◆前記のベルトスリーブのカット方法においては、前記カッターの前記ベルトスリーブへの各回の切込み位置は、前記寄り力測定器が測定するスラスト力の方向と同じ向きに、1回目から並べて設定されていることが好ましい。
【0019】
これにより、常にベルトスリーブの一側の側面と寄り力測定器との当接を維持しながら、その当接面を基準にカットすることとなるから、カット精度を一層向上させることができる。
【0020】
◆本発明の第3の観点によれば、以下のように構成する、ベルトスリーブの走行線制御装置が提供される。ベルトスリーブを懸架して所定の張力を与えつつ走行させることが可能な少なくとも第1軸及び第2軸と、前記第2軸を傾斜させることが可能な傾斜機構と、走行中の前記ベルトスリーブの側面に当接して、当該ベルトスリーブのスラスト力を測定する寄り力測定器と、前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更すべく前記傾斜機構を制御する制御装置と、を備える。
【0021】
これにより、寄り力測定器によりスラスト力を測定しながら第2軸を傾斜させて2本の軸をねじれの位置におき、その傾斜角度(ねじれの度合い)を変更することによって、ベルトスリーブが寄り力測定器に適切に当接するように制御できる。従って、寄り力測定器とベルトスリーブとの当接によるガイド作用を確実に奏させることで、ベルトスリーブの走行線を良好に安定させることができる。
【0022】
◆前記のベルトスリーブの走行線制御装置においては、前記設定範囲がゼロを含まない範囲とされていることが好ましい。
【0023】
これにより、ベルトスリーブ自体に発生するスラスト力がゼロだったり、そのスラスト力が寄り力測定器から離れる向きだった場合等、必要な場合は、第2軸の傾斜により寄り力測定器に近づく方向に適宜のスラスト力を積極的に発生させて、寄り力測定器のスラスト力の測定値が上記設定範囲内に入るようにできる。従って、ベルトスリーブを寄り力測定器に適当な力で当接させ、ベルトスリーブの走行線を顕著に安定させることができる。
【0024】
◆前記のベルトスリーブの加工装置においては、前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、加工作業を中断するとともに前記制御装置が前記傾斜機構を制御し、測定されたスラスト力が設定範囲内になると加工作業を再開することが好ましい。
【0025】
これにより、ベルトスリーブの走行線の安定状態が確認されるまで加工作業を中断するから、ベルトスリーブの加工精度が著しく向上される。
【0026】
◆前記のベルトスリーブの加工装置においては、以下のように構成することが好ましい。前記第1軸は軸線を移動不能に固定される。ベルトスリーブの加工手段は、この第1軸に巻回された部分に対して加工作業を行うように構成されている。
【0027】
これにより、第2軸のように軸線が傾斜することがない第1軸に対して加工作業が行われるから、ベルトスリーブの加工精度を一層良好にできる。
【0028】
◆本発明の第4の観点によれば、前記のベルトスリーブの加工装置としてのカット装置であって、以下のような構成が提供される。前記ベルトスリーブへ進入して当該ベルトスリーブをカットするカッターと、前記ベルトスリーブへの切込み位置を変更しながら前記カッターを前記ベルトスリーブへ複数回進入させることが可能なカッター移動機構を備える。前記制御装置は、前記カッターによるベルトスリーブのカットが1回行われるごとに前記寄り力測定器でスラスト力を測定し、この測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、次の回のカッターのベルトスリーブへの進入を阻止して、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更すべく前記傾斜機構を制御する。測定されたスラスト力が設定範囲内であるときは、前記カッターのベルトスリーブへの進入を許容する。
【0029】
このように、切込み位置を変更しながらカッターをベルトスリーブへ複数回進入させる場合は、その1回のカットごとに、ベルトスリーブに発生するスラスト力の方向や大きさが変化することがある。この点、上記のカット装置によれば、1回のカットごとに寄り力測定器でスラスト力を測定し、必要な場合には第2軸の傾斜制御を行ってからカット作業を行うから、各回のカットの精度を著しく向上させることができる。
【0030】
◆前記のベルトスリーブのカット装置においては、前記カッター移動機構によるベルトスリーブへの各回の切込み位置は、前記寄り力測定器が測定するスラスト力の方向と同じ向きに、1回目から並べて設定されていることが好ましい。
【0031】
これにより、常にベルトスリーブの一側の側面と寄り力測定器との当接を維持しながら、その当接面を基準にカットすることとなるから、カット精度を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係るベルトスリーブの走行線制御装置を備えたカット装置の全体的な構成を示した模式平面図、図2は図1のp方向からみた側面図である。図3はベルトスリーブの走行線制御の原理を説明する要部斜視図である。図4はコントローラで実行されるプログラムのフローチャート図である。
【0033】
ベルトスリーブのカット装置1は、ベルトスリーブ2をカッター3により所定の幅にカットして分断加工するためのものであって、ベルトスリーブの走行線制御装置100を備えている。この走行線制御装置100は、主軸ロール(第1軸)11と、副軸ロール(第2軸)12と、を横方向に並べて備え、両ロール11・12の間に前記ベルトスリーブ2を懸架できるようになっている。
【0034】
主軸ロール11の一端には円錐状の心穴11aが設けられて、その心穴11aには、円錐状に尖ったテールストック21が挿入されている。このテールストック21にはシリンダ等の適宜のアクチュエータが連結されており、このアクチュエータを駆動することでテールストック21を進退させることができる。この構成で、テールストック21を退避させることで主軸ロール11の一端側の支持を解除し、ベルトスリーブ2の取付け、取外しを可能にしている。一方、テールストック21を主軸ロール11(及び副軸ロール12)に巻き掛けた後は、テールストック21を進出させて前記心穴11aに差し込み、主軸ロール11を心合わせした状態で支持できるようになっている。なお、同様に、副軸ロール12側にも、同様の構成の心穴12a及びテールストック22が設けられている。
【0035】
主軸ロール11の前記テールストック21と反対側の端部には、図示しない原動機(駆動部)の出力軸が連結されて、主軸ロール11を回転駆動可能になっている。一方、副軸ロール12の前記テールストック22と反対側の端部には、ネジ機構23(傾斜機構)が設置されている。このネジ機構23は、前記副軸ロール12を支持する支持台24の一端を上下動させることによって、副軸ロール12の軸線を図3に示すように、支持台24ごと傾斜させることができる(なお、図3では支持台24やネジ機構23の図示を省略している)。
【0036】
ネジ機構23は図1及び図2に示すように、上下方向に配置され回転自在に支持されたネジ棒25と、このネジ棒25に螺合し前記支持台24の一端に連結されるナット26と、前記ネジ棒25を回転させるモータ27と、を備えている。このモータ27は例えばパルスモータに構成しており、ネジ棒25の回転量を制御することで、前記支持台24の傾斜角度を変更できるようになっている。このモータ27は、走行線制御装置100の図示しないコントローラ(制御装置)に電気的に接続され、このコントローラにより制御される。なお、この走行線制御装置100のコントローラは、カット装置1を制御するコントローラも兼用した構成となっている。
【0037】
また、上記走行線制御装置100は、ベルトスリーブ2の走行中に発生する片寄り力(スラスト力)を測定するためのロードセル(片寄り力測定器)30を備えている。このロードセル30は、前記の2本のロール11・12に懸架されたベルトスリーブ2の一側の側面に当接可能なように、ベルトスリーブ2の走行経路の脇の位置に配置されている。このロードセル30は、前述のコントローラに電気的に接続されている。
【0038】
前記カッター3は、その全周に刃部を有する円板状(ディスク状)に構成されており、主軸ロール11の近傍に配置されている。このカッター3は前記主軸ロール11の軸線に垂直な向きとなるように可動台4の上に設置されており、この可動台4は、前記主軸ロール11の軸線に平行な方向(X方向)と、それに垂直な方向(Y方向)とに、アクチュエータ(図略)により移動できるようになっている。この可動台4の移動機構の詳細は説明を省略するが、例えば特許文献1に示すような、X軸可動台とY軸可動台と各軸のパルスモータを組み合わせた公知の構成を採用することができる。カッター3は、図示しないモータ等の回転駆動手段により回転できるようになっている。
【0039】
次に、上記のカット装置1を利用してベルトスリーブ2を所定の幅にカットし、複数本のベルトを製造する際の制御について説明する。カット装置1のコントローラ(走行線制御装置100のコントローラを兼ねる)は、公知のマイクロコンピュータ式に構成されており、図示しないCPU(演算手段)、ROMやRAM等の記憶手段を備えている。この記憶手段には、カッター3を移動させる可動台4の移動機構や前記ネジ機構23等を後述のように制御するプログラムが記憶されている。
【0040】
図4にはプログラムで記述されている制御フローの例が示され、この制御例について説明する。前述のように主軸ロール11及び副軸ロール12にベルトスリーブ2を巻回し、張架させた状態として適宜の操作を行うと、主軸ロール11の回転駆動(ベルトスリーブ2の走行)が開始されるとともに、図4に示すフローがスタートする。
【0041】
このフローでは、先ずS101に示すように、変数nの値を1に初期化する。そしてS102の処理では、図3に示されている複数の切込み位置((1),(2)・・・)のうち、変数nの値に対応する切込み位置へカッター3を移動させるべく、可動台4のX方向の移動制御を行う。
【0042】
なお、図3に示すカッター3の複数の切込み位置((1),(2)・・・)は、事前に設定され、コントローラの前記RAM等に記憶される。この切込み位置は、ロードセル30から最も遠い位置を1回目の切込み位置(1)とし、以降、ロードセル30で検出するスラスト力Ftの方向と同じ方向に(2),(3)・・・と並べて配置されている。なお、互いに隣り合う切込み位置の間の距離が、ベルトの切断幅に対応していることは言うまでもない。
【0043】
次に図4のS103では、現時点でロードセル30が検出しているスラスト力Ftを調べる。そして、この測定されたスラスト力Ftが所定の範囲(例えば、50〜150N)にあるか否かを調べる(S104)。所定の範囲を外れている場合は、S105で、前記ネジ機構23のモータ27を所定の方向へ所定の量だけ駆動し、副軸ロール12の軸線を図3の鎖線に示すように変化させ、再びS103に戻ってロードセル30のスラスト力Ftの測定を行う。以上のS103〜S105の処理が繰り返され、スラスト力Ftの測定値が上記の範囲に入っている場合にのみ、S103〜S105のループを抜け、S106以降の処理(ベルトの切断処理)を行うことになる。
【0044】
この原理は以下のとおりである。即ち、副軸ロール12を傾斜させず両ロール11・12を平行とした状態でベルトスリーブ2を走行させると、前述のスパイラルに連続的に巻き付ける際の心線の傾き等に起因し、ベルトスリーブ2に片寄り力が生じる。この片寄りは、ロードセル30に近づく向きの場合もあるし、その逆の場合もある。また、その片寄り力(スラスト力)の大きさも一定でなく、大小様々である。
【0045】
上記のスラスト力の向きがロードセル30に近づく向きの場合であって、かつ、ロードセル30が検出したスラスト力Ftの大きさが上記の範囲であれば、ベルトスリーブ2は、その側面をロードセル30に確実に接触させた状態(ロードセル30によりガイドされた状態)を維持して走行しており、その走行線は安定していると考えられる。よって、S106以降のベルト切断処理へ移行する。
【0046】
一方、スラスト力Ftはロードセル30に近づく向きで発生しているものの、その大きさが不十分であるときは、ロードセル30のスラスト力Ftの検出値は小さくなる。これは、ベルトスリーブ2のロードセル30によるガイドが不十分であることを意味する。あるいは、ベルトスリーブ2の片寄りの方向が逆だった場合は、ベルトスリーブ2はロードセル30から離れる方向へ移動することになり、ロードセル30によるスラスト力Ftの検出値はゼロになる。
【0047】
これらの場合は、ロードセル30で検出したスラスト力FtがS104の処理で所定の範囲から外れていると判定されるので、S105で、ネジ機構23を駆動して副軸ロール12を平行状態から意図的に傾斜させ、主軸ロール11と副軸ロール12とをねじれの関係とするように制御するのである。こうすることにより、ベルトスリーブ2にロードセル30へ向かう方向のスラスト力を意図的に発生させることができ、ベルトスリーブ2の側面をロードセル30に対し十分な力で確実に接触させることができる。
【0048】
また本実施形態では、ロードセル30で検出したスラスト力Ftが過大である場合も、S104からS105の処理へ移り、副軸ロール12を意図的に傾斜させ、その過大なスラスト力を打ち消す向きのスラスト力を発生して、適切な力でベルトスリーブ2がロードセル30に接触するようにしている。
【0049】
以上のスラスト力の調整処理の結果、ロードセル30で検出されるスラスト力Ftが前記の範囲内の値であった場合には、S104の処理で上記のS103〜S105のループを抜けてS106へ移行し、ベルトスリーブ2の実際の切断処理へ移行する。なお、上述のS103〜S105のループ処理中には、ベルトスリーブ2の切断処理は行われない。これは、ロードセル30のスラスト力Ftが上記の所定の範囲内になるまでベルトスリーブ2の加工を中断することを意味する。
【0050】
ベルト切断処理では、先ずS106で、ネジ機構23のモータ27を停止させ、副軸ロール12の傾斜状態が変更されないようにする。その後、S107で、可動台4をY方向(主軸ロール11へ近接する方向)へ移動させることで、主軸ロール11に巻かれた状態のベルトスリーブ2に対し、回転しているカッター3を垂直に進入させる。この結果、ベルトスリーブ2は前述の切込み位置で分断(カット)され、単一のベルトが形成される。
【0051】
次にS108で、nの値を調べ、nが所定のカット数に達しているかを調べる。達している場合は、すべてのカットが完了したことを意味するので、処理を終了する。カット数に達していない場合は、S109でnをインクリメントし、S102の処理まで戻る。
【0052】
即ち、本実施形態のカット装置1では、カッター3の切込み位置を図3の(1),(2)・・・と移動させながら図4のS102〜S109の処理を反復するのであるが、各位置での切込みごとにロードセル30によるスラスト力FtがS103で測定され、必要に応じてネジ機構23による副軸ロール12の傾斜角度の変更が行われることになる(S104,S105)。
【0053】
以上に示すように本実施形態の走行線制御装置100は、副軸ロール12を傾斜させることが可能なネジ機構23と、走行中の前記ベルトスリーブ2の側面に当接して、当該ベルトスリーブ2のスラスト力を測定するロードセル30と、を備える。そして前記コントローラは、前記ロードセル30で測定されたスラスト力Ftが設定範囲外であるときは、当該スラスト力Ftが設定範囲内となるように前記副軸ロール12の傾斜角度を変更すべく前記ネジ機構23を制御する(S103〜S105)。
【0054】
この構成では、ロードセル30によりスラスト力Ftを測定しながら副軸ロール12を傾斜させ、2本のロール11・12をねじれの関係とすることによって、ベルトスリーブ2がロードセル30に適切に当接するように制御できる。従って、ベルトスリーブの走行線を良好に安定させることができる。
【0055】
また、前記のベルトスリーブの走行線制御装置においては、前記設定範囲がゼロを含まない範囲(50〜150N)とされているので、必要な場合はロードセル30に近づく向きのスラスト力を意図的に発生させ、ロードセル30にベルトスリーブ2の側面が接触するように制御できる。従って、ロードセル30によるベルトスリーブ2側面のガイド作用を積極的に行わせることで、ベルトスリーブ2の走行線を著しく安定させることができる。
【0056】
また、本実施形態のベルトスリーブのカット装置1は、前記ロードセル30で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、カッター3によるカット作業を一時中断してS103〜S105のループ処理に入って前記ネジ機構23を制御する。そして、ロードセル30で測定されたスラスト力Ftが設定範囲内になると、カット作業を再開し、S106以降の処理に移るように構成されている。従って、ベルトスリーブ2の走行線の安定状態が確認されるまでカット作業を中断する構成となることから、ベルトのカット精度が著しく向上される。
【0057】
また、本実施形態のカット装置1は、前記主軸ロール11は軸線を移動不能に固定されるとともに、前記カッター3は、この主軸ロール11に巻回された部分に対して進入し、ベルトのカット作業を行うように構成されている。従って、副軸ロール12のように軸線が傾斜することがない主軸ロール11に対してカット作業が行われるから、カット精度を一層良好にでき、構成も簡素にできる。
【0058】
また、本実施形態のカット装置1は、ベルトスリーブ2へ進入して当該ベルトスリーブ2をカットするカッター3と、前記ベルトスリーブ2への切込み位置を変更しながらカッター3をベルトスリーブ2へ複数回進入させることが可能なカッター移動機構(可動台4の移動機構)を備える。そして前記コントローラは、前記カッター3によるベルトスリーブ2のカットが1回行われるごとに前記ロードセル30でスラスト力Ftを測定し(S103)、この測定されたスラスト力Ftが設定範囲外であるときは、次の回のカッター3のベルトスリーブ2への進入を阻止して、当該スラスト力Ftが設定範囲内となるように前記副軸ロール12の傾斜角度を変更すべくネジ機構23を制御する(S104,S105)。そして、測定されたスラスト力が設定範囲内になったときに、前記カッター3のベルトスリーブ2への進入を許容する(S104,S106〜)。
【0059】
即ち、上記実施形態のように切込み位置を異ならせながら複数回のカットを行う場合、その1回のカットごとに、ベルトスリーブ2に発生するスラスト力の方向や大きさが変化することがある。この点、本実施形態の構成では、1回のカットごとにスラスト力を測定し、必要な場合にはスラスト力の調整制御を行ってからカット作業を行うから、各回のカットの精度を著しく向上させることができる。これは、カットされるベルトの幅のバラツキを著しく低減できることを意味する。
【0060】
また、本実施形態のカット装置1は、図3に示すベルトスリーブ2へのカッター3の各回の切込み位置((1),(2)・・・)は、前記ロードセル30が測定するスラスト力Ftの方向と同じ向きに、1回目から並べて設定されている。これにより、常にベルトスリーブ2の一側の側面とロードセル30との接触を維持しながら、その接触面を基準にカットすることとなるから、カット精度を一層向上させることができる。
【0061】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は更に以下のように変更することができる。
【0062】
(1)主軸ロール11と副軸ロール12の2本のみを備える構成に限らず、例えばテンションロールを更に備える構成であっても良い。
【0063】
(2)前記のカッター3は、モーターにより回転しながらベルトスリーブを切断する回転式のカッターとされているが、回転不能に固定した方式のものでも良い。また、カッターに限らず、例えば多リブベルトのV溝研磨加工用の回転砥石を備えても良い。
【0064】
(3)副軸ロール12を傾斜させる傾斜機構としては、ネジ機構23とモータの組み合わせとすることに限らず、シリンダ等の他の構成を採用することもできる。
【0065】
(4)ロードセル30の配設位置は、ベルトスリーブ2の側面に当接し得る位置であればよく、例えば主軸ロール11や副軸ロール12の近傍であっても良い。また、前記ネジ機構23の駆動に応じてロードセル30の上下位置を変更する構成であっても良い。
【0066】
(5)また上記実施形態では、ベルトスリーブ2の側面がロードセル30に直接当接する構成になっているが、間接的に当接する構成でも構わない。例えば、主軸ロール11や副軸ロール12の軸線と平行な方向に移動する適宜の部材にベルトスリーブ2を当接させるようにし、寄り力により移動するベルトスリーブ2がその部材を介してロードセル30を押圧するようにしても構わない。
【0067】
(6)上記のS104の処理では、ロードセル30によるスラスト力Ftの測定値が所定範囲内に入っているか否かを単に判定しているが、例えば、その所定範囲内に測定値が入った状態が所定時間継続したか否かを判定しても良い。また、1つの測定値を基に判定することに限らず、適当な時間間隔をおいて複数の測定値を検出し、その代表値(例えば、平均)が所定範囲内に入っているか否かを判定しても良い。
【0068】
(7)また、上記のS104の処理では、50〜150Nの範囲というように範囲の上限と下限を定めているが、前記の所定範囲として、50N以上というように下限のみを定めても良い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態に係るベルトスリーブの走行線制御装置を備えたカット装置の全体的な構成を示した模式平面図。
【図2】図1のp方向からみた側面図。
【図3】ベルトスリーブの走行線制御の原理を説明する要部斜視図。
【図4】コントローラで実行されるプログラムのフローチャート図。
【符号の説明】
【0070】
1 ベルトスリーブのカット装置(加工装置)
2 ベルトスリーブ
3 カッター(ベルトスリーブの加工手段)
4 可動台
11 主軸ロール(第1軸)
12 副軸ロール(第2軸)
23 ネジ機構(傾斜機構)
30 ロードセル(寄り力測定器)
Ft ロードセルで測定するスラスト力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1軸及び第2軸とにベルトスリーブを懸架して所定の張力を与えつつ走行させ、
その走行中の前記ベルトスリーブの側面に寄り力測定器を当接させて、当該ベルトスリーブのスラスト力を測定し、
前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更することを特徴とする、ベルトスリーブの走行線制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のベルトスリーブの走行線制御方法であって、前記設定範囲がゼロを含まない範囲とされていることを特徴とする、ベルトスリーブの走行線制御方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のベルトスリーブの走行線制御方法を使用しながらベルトスリーブを加工する加工方法であって、
前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、加工作業を中断するとともに前記第2軸の傾斜角度を変更し、測定されたスラスト力が設定範囲内になると加工作業を再開することを特徴とする、ベルトスリーブの加工方法。
【請求項4】
請求項3に記載のベルトスリーブの加工方法であって、
前記第1軸は軸線を移動不能に固定されるとともに、この第1軸に巻回された部分に対して加工作業を行うことを特徴とする、ベルトスリーブの加工方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のベルトスリーブの加工方法を用いるベルトスリーブのカット方法であって、
前記ベルトスリーブへの切込み位置を変更しながらカッターをベルトスリーブへ複数回進入させることで当該ベルトスリーブをカットするものとし、
前記カッターによるベルトスリーブのカットが1回行われるごとに前記寄り力測定器でスラスト力を測定し、この測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、次の回のカッターのベルトスリーブへの進入を行わずに、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更し、
測定されたスラスト力が設定範囲内になると、前記カッターのベルトスリーブへの進入を行うことを特徴とする、ベルトスリーブのカット方法。
【請求項6】
請求項5に記載のベルトスリーブのカット方法であって、
前記カッターの前記ベルトスリーブへの各回の切込み位置は、前記寄り力測定器が測定するスラスト力の方向と同じ向きに、1回目から並べて設定されていることを特徴とする、ベルトスリーブのカット方法。
【請求項7】
ベルトスリーブを懸架して所定の張力を与えつつ走行させることが可能な少なくとも第1軸及び第2軸と、
前記第2軸を傾斜させることが可能な傾斜機構と、
走行中の前記ベルトスリーブの側面に当接して、当該ベルトスリーブのスラスト力を測定する寄り力測定器と、
前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更すべく前記傾斜機構を制御する制御装置と、
を備える、ベルトスリーブの走行線制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のベルトスリーブの走行線制御装置であって、前記設定範囲がゼロを含まない範囲とされていることを特徴とする、ベルトスリーブの走行線制御装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のベルトスリーブの走行線制御装置を備えるベルトスリーブの加工装置であって、
前記寄り力測定器で測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、加工作業を中断するとともに前記制御装置が前記傾斜機構を制御し、測定されたスラスト力が設定範囲内になると加工作業を再開することを特徴とする、ベルトスリーブの加工装置。
【請求項10】
請求項9に記載のベルトスリーブの加工装置であって、
前記第1軸は軸線を移動不能に固定されるとともに、
ベルトスリーブの加工手段は、この第1軸に巻回された部分に対して加工作業を行うように構成されていることを特徴とする、ベルトスリーブの加工装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載のベルトスリーブの加工装置としてのカット装置であって、
前記ベルトスリーブへ進入して当該ベルトスリーブをカットするカッターと、
前記ベルトスリーブへの切込み位置を変更しながら前記カッターを前記ベルトスリーブへ複数回進入させることが可能なカッター移動機構を備え、
前記制御装置は、前記カッターによるベルトスリーブのカットが1回行われるごとに前記寄り力測定器でスラスト力を測定し、この測定されたスラスト力が設定範囲外であるときは、次の回のカッターのベルトスリーブへの進入を阻止して、当該スラスト力が設定範囲内となるように前記第2軸の傾斜角度を変更すべく前記傾斜機構を制御し、
測定されたスラスト力が設定範囲内であるときは、前記カッターのベルトスリーブへの進入を許容することを特徴とする、ベルトスリーブのカット装置。
【請求項12】
請求項11に記載のベルトスリーブのカット装置であって、
前記カッター移動機構によるベルトスリーブへの各回の切込み位置は、前記寄り力測定器が測定するスラスト力の方向と同じ向きに、1回目から並べて設定されていることを特徴とする、ベルトスリーブのカット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−212759(P2006−212759A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29972(P2005−29972)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】