説明

ベーンポンプ

【課題】 ベーンポンプの焼き付きを防止する。
【解決手段】 駆動軸と一体的に回転するロータ11と、このロータに径方向の出入り自在に設けられた複数のベーン12と、前記ロータとベーンを収装し、前記ベーン先端が形成された内周面に摺接しつつ前記ロータが回転するカムリング13と、前記駆動軸を回転自在に軸支するとともに、前記カムリングを収装するボディ3と、このボディとカムリングとの間に挟持されて、カムリング内から吐出される作動油をボディ内の油室に導くポートとを設けたサイドプレート1と、前記ボディの開口端を塞ぐようにボディ面に結合するとともに、前記駆動軸の一端を回転自在に軸支し、かつ前記ロータ及び前記ベーンと摺接するカバー4とからなり、前記カバーと前記ロータとの摺接面にオイルシ−ル7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のパワーステアリング装置等の油圧源として用いられるベーンポンプの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一端面をカバーで封止されたボディの内周にベーンを有するロータとカムリングを収装したベーンポンプにおいて、ボディの他端面で外部に開口したシール溝と、このシール溝に嵌合するオイルシールからなるベーンポンプ軸のシール構造に関する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−42168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来技術においては、ベーンポンプの軸の一端を軸支するカバーに設置された軸受部にシール構造が形成されておらず、流入した作動油の圧力によりカバーのロータに摺接する面が変形し、軸受部の低圧側に作動油が漏れ、容積効率が低下するという問題がある。
【0004】
また、カバーの変形によりロータとカバーとの間の間隙が増大し、ベーンの作用により高圧となった作動油が、この広がった間隙にも作用することになり、高圧領域が増大する。また、サイドプレート側は、その裏面(ロータ摺動面の反対面)に作用する高圧によりサイドプレートがロータに近接するように変形し、ロータとサイドプレート間での高圧領域は、カバー側の領域より小さくなる。したがって、カバー側とサイドプレート側とでの圧力が異なるため、ロータに作用する圧力による力のバランスが崩れ、結果としてロータの焼き付きが発生しやすくなるという懸念が生じる。
【0005】
そこで本発明は、カバー軸受部への作動油の漏出を防止するとともに、ロータに作用する圧力分布の不均等を是正し、ロータの焼き付きを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベーンポンプであって、駆動軸と一体的に回転するロータと、このロータに径方向の出入り自在に設けられ、ポンプ室を形成する複数のベーンと、前記ロータとベーンを内装し、前記ベーン先端が形成された内周面に摺接しつつ前記ロータが回転するカムリングと、前記駆動軸を回転自在に軸支するとともに、前記カムリングを収装するボディと、このボディとカムリングとの間に挟持されて、前記ポンプ室内から吐出される作動油をボディ内の油室に導くポートとを設けたサイドプレートと、前記ボディの開口端を塞ぐようにボディ端面に結合するとともに、前記駆動軸の一端を回転自在に軸支し、かつ前記ロータ及び前記ベーンと摺接するカバーとからなり、前記カバーと前記ロータとの摺接面にオイルシ−ルを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、カバーとロータとの摺接面にオイルシールを設置するので、作動油がオイルシールの内側に位置する駆動軸側に漏洩することがなく、容積効率の低下を防止できる。
【0008】
また、作動油の圧力がオイルシールの変形に作用し、カバーの変形が抑制でき、ロータに作用する圧力分布の不均等を是正し、ロータの焼き付きを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1に示すように、ベーンポンプは、図示されない動力源により回転駆動される駆動軸6を備え、駆動軸6の途中にはロータ11がスプライン結合し、駆動軸6とロータ11が一体に回転する。
【0011】
ロータ11の外周から出入り自在に設置された複数のベーン12が回転による遠心力と背圧の作用により突出し、ベーン12の先端は、カムリング13に形成された内周面13aに摺接しながら移動する。内周面13aは略楕円状に形成され、この内周面に沿ってベーン先端が移動することで、ベーン12が伸縮し、隣接するベーン12間、内周面13a及びロータ11により形成されるポンプ室の容積が拡縮する。なお、ベーン12は、回転により遠心力と、ベーン12の基端に作用する作動油の圧力により内周面13aに押し付けられる。
【0012】
カムリング13は、サイドプレート1およびカバー4とにより軸方向に挟持され、内周面13a内の作動油は所定のポート15、16から出入りする。
【0013】
ロータ11には複数の切り欠きが放射状に所定間隔で形成され、各切り欠きにベーン12がロータ11のラジアル方向に出入り可能に収装される。ロータ11が回転すると、切り欠きから伸び出したベーン12の先端がカムリング13の内周面13aに摺接し、各ベーン12の間に画成された各ポンプ室が拡縮する。
【0014】
サイドプレート1には、駆動軸6を挟んで対称な位置に一対の高圧ポート15が開口し、ベーン12により形成された吐出側ポンプ室に連通し、またカバー4には、駆動軸6を挟んで対称な位置に、かつ高圧ポート15と略直交する位置に一対の低圧ポート16が形成される。低圧ポート16は図示しないタンクと連通しており、タンクからの作動油が低圧ポート16からポンプ室に供給され、ポンプ室の容積の拡縮により高圧化して、高圧ポート15からボディ3の油室に排出されることで、作動油の給排が行われる。
【0015】
サイドプレート1の背面には高圧ポート15と連通する圧力室17が形成され、これによりサイドプレート1をロータ11に向けて圧着する。
【0016】
駆動軸6が貫通し、カムリング13およびサイドプレート1等が収容されるボディ3が設けられ、その開口した一端面3bは、カバー4により図示しないボルトを介して閉口される。駆動軸6はボディ3内に設置された軸受9a及びカバー4内に設置された軸受9bにより回転自在に軸支される。
【0017】
円盤状のサイドプレート1は、ロータ11およびベーン12に摺接する摺接面18と、ボディ3の内壁面3aに当接する当接面19とを有し、摺接面18と当接面19はそれぞれ平面に機械加工される。同様にカバー4のロータ11およびベーン12に摺接する摺接面4aもまた平面に機械加工される。そして、組み立て時において、カバー4をボディ3の端面3bにボルトを用いて所定の締結トルクにより締め付けることとカムリング13とロータ11との高さの違いにより、カバー4とロータ11間の摺動面の間隙、およびロータ11とサイドプレート1間の摺動面の間隙を所定量に制御することができる(ここで、間隙は例えば数十μmである)。
【0018】
さらに本発明のベーンポンプでは、図2に示すように、ロータ11側面に摺接するカバー4の摺接面4aに、オイルシール7を収装する環状の凹溝4bを駆動軸6周りに形成する。このオイルシール7によってロータ11とカバー4の摺接面4aとの間隙を通じて、低圧ポート16から軸受9bへ流れる作動油の漏洩を防止する。
【0019】
ここで、オイルシール7は、例えば凹溝4bに弾性体(例えば、Oリング)7aを配置し、さらにこのOリング7aとロータ11との間に摩擦抵抗の低い、かつ耐摩耗性に優れた表面処理を施した薄肉環状のリング7bを配置したものである。このリング7bは、樹脂や鉄系材料からなり、その表面に低摩擦係数を有する表面処理、例えば炭素を主成分とするアモルファス構造体であるダイヤモンドライクカーボンをコーティング処理したものである。
【0020】
また図1に示すように、ロータ11に摺接するサイドプレート1の摺接面18に、Oリング20aとリング20bからなる第2のオイルシール20を摺装する環状の凹溝21を形成してもよい。この場合、カバー4側に形成した凹溝と同径に形成し、収装される第2のオイルシール20により、ロータ11とサイドプレート1の摺接面18との間から駆動軸6側に漏洩する作動油の漏出を防止するようにする。
【0021】
なお、第2のオイルシール20を設置する凹溝21をロータ11の摺接面に形成するようにしてもよい。
【0022】
このように本発明においては、ロータ11とカバー4の摺接面及びロータ11とサイドプレート1の摺接面にオイルシール7を備えたので、作動油が軸受6bや駆動軸6側に漏洩することがなく、ベーンポンプの容積効率が低下することが防止できる。
【0023】
また、カバー4の変形に伴って、高圧が作用する領域が増大するが、オイルシールを設定することにより、オイルシール内側に高圧領域が形成されることが防止でき、高圧領域の増大を抑制し、ロータに生じるカバー側とサイドプレート側との高圧力領域の不均一を減少して、圧力のバランスを均等化して、ロータの焼き付きを防止することができる。
【0024】
またオイルシールが、Oリングと低摩擦係数を有する表面処理、例えば、ダイヤモンドライクカーボン処理であるを施した環状のリングからなるため、摺動抵抗を抑制することができる。
【0025】
さらにロータとサイドプレートの摺動面に第2のオイルシールを設けたので、駆動軸側の作動油を漏洩をさらに抑制し、容積効率の向上を図ることができる。
【0026】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のベーンポンプは、容積効率の向上とロータの焼き付きを防止し、自動車に適用するのに最適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態を示すベーンポンプの正面断面図である。
【図2】カバーの正面図である。
【図3】同じく側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 サイドプレート
3 ボディ
4 カバー
4a 摺接面
4b 凹溝
6 駆動軸
7 オイルシール
9a、9b 軸受
11 ロータ
12 ベーン
13 カムリング
13a 内周面
15 高圧ポート
16 低圧ポート
18 摺接面
19 当接面
20 第2のオイルシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と一体的に回転するロータと、
このロータに径方向の出入り自在に設けられ、ポンプ室を形成する複数のベーンと、
前記ロータとベーンを内装し、前記ベーン先端が形成された内周面に摺接しつつ前記ロータが回転するカムリングと、
前記駆動軸を回転自在に軸支するとともに、前記カムリングを収装するボディと、
このボディとカムリングとの間に挟持されて、前記ポンプ室内から吐出される作動油をボディ内の油室に導くポートとを設けたサイドプレートと、
前記ボディの開口端を塞ぐようにボディ面に結合するとともに、前記駆動軸の一端を回転自在に軸支し、かつ前記ロータ及び前記ベーンと摺接するカバーとからなり、
前記カバーと前記ロータとの摺接面にオイルシールを備えることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記オイルシールは、前記駆動軸を取り囲むように設置されることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記オイルシールは、前記ロータ及び前記カバーのいずれかの摺接面に形成された環状の凹溝に設置されることを特徴とする請求項1または2に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記オイルシールは、Oリングと低摩擦係数を有する表面処理を施した環状のリングからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記表面処理は、ダイヤモンドライクカーボン処理であることを特徴とする請求項4に記載のベーンポンプ。
【請求項6】
前記ロータと前記サイドプレートの間に第2のオイルシールを設けることを特徴とする請求項1から5のいずれかひとつに記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−37831(P2006−37831A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218355(P2004−218355)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】