説明

ペニシリウム・クリゾゲヌム(PENICILLIUMCHRYSOGENUM)由来のプロリン特異的プロテアーゼ

配列番号3に示されたアミノ酸配列または配列番号1および/または配列番号2のヌクレオチド配列によってコード化されたアミノ酸配列、またはそれらの変異体またはそれらのいずれかの断片を含んでなるプロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチド。本発明はまた、工業的プロセスにおいてポリペプチドを使用する方法に関する。本発明はまた、本発明によるポリヌクレオチドで形質転換された細胞であって、これらのタンパク質の産生に好適な細胞を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、プロリン特異的プロテアーゼに関する。本発明はまた、プロリン特異的プロテアーゼが使用される方法ならびにプロリン特異的プロテアーゼの使用法に関する。
【0002】
[背景技術]
プロリン特異的プロテアーゼは、タンパク質またはペプチドがその鎖内にプロリル残基を含有する位置または近辺でタンパク質またはペプチドを開裂することのできる酵素である。
【0003】
プロリン特異的プロテアーゼは、多数の用途、例えばタンパク質加水分解物の調製における異臭の可能性を最少化するために、このような加水分解物の抗原性を減少させるために、および飲料における曇りを防止または減少させるために使用することが提案されている。
【0004】
食品または飲料への適用に使用される酵素は、好適な酸性pH最適値、および好ましくは、作製に使用される最終調製物中で不活性であることが望ましい。したがって、食品または飲料への適用に使用される酵素は容易に不活化できることが望ましい。
【0005】
[発明の概要]
本発明は、配列番号3に示されたアミノ酸配列または配列番号1および/または配列番号2のヌクレオチド配列によってコードされたアミノ酸配列、またはそれらの変異体またはそれらのいずれかの断片を含んでなるプロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチドに関する。
【0006】
本発明のプロリン特異的酵素は、pH約4からpH約5の最適pHを有し、容易に不活化できる酵素である。したがって、これは食品または飲料への適用に特に有用である。
【0007】
本発明のポリペプチドは、配列番号3で示される配列に少なくとも約60%の配列同一性を有し得る。本発明のポリペプチドは、少なくとも約150のアミノ酸長であり得る。プロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチドは、先行の請求項のいずれか一項によるポリペプチドの機能的ドメインを含んでなり得る。
【0008】
本発明はまた、以下を含んでなるポリヌクレオチドに関する:
(a)配列番号2に示されるヌクレオチド配列または配列番号1のコード配列;
(b)ポリヌクレオチドと選択的にハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、配列番号1または配列番号2の逆相補体;
(c)配列番号1または配列番号2のヌクレオチド配列に少なくとも約50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;
(d)少なくとも約100のヌクレオチドを有する(a)、(b)または(c)で定義されたヌクレオチド配列の断片;
(e)(a)、(b)、(c)または(d)のいずれかに定義された配列に対する遺伝子コードの結果、縮退している配列;
(f)(a)、(b)、(c)、(d)または(e)に定義されたヌクレオチド配列の逆相補体であるヌクレオチド配列。
【0009】
本発明はさらに、以下を提供する:
− 本発明のポリヌクレオチド配列を組み込んでいるベクター;
− 本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチドまたはベクターを含んでなる細胞;
− プロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチドを調製するための方法であって、前記ポリペプチドの発現および、場合によっては、発現したポリペプチドの回収を可能にする条件下で、本発明の細胞を培養することを含んでなる方法;
− このような方法によって得ることのできるポリペプチド;
− (i)本発明のポリペプチド;および、場合によっては、(ii)(i)のポリペプチドとは異なるプロテアーゼ、を含んでなる組成物;
− タンパク質加水分解物を調製する方法であって、タンパク質基質を、本発明の組成物のポリペプチドと接触させることを含んでなる方法;
− タンパク質加水分解物の調製における本発明のポリペプチドまたは組成物の使用;
− 上記に記載した方法によって得ることのできるタンパク質加水分解物;
− このようなタンパク質加水分解物を含んでなる食品または飼料製品または飲料;
− 食品または飼料製品または飲料を調製する方法であって、食品、飼料製品または飲料の調製の際に本発明のポリペプチドまたは組成物を組み込むことを含んでなる方法;
− このような方法によって得ることのできる食品または飼料製品または飲料;
− 食品または飼料製品または飲料の調製における本発明のポリペプチドまたは組成物の使用;
− このような方法または使用法によって得ることのできる食品または飼料製品または飲料;および
− 精神医学的障害またはセリアック病関連障害の治療または予防に使用するための本発明のポリペプチド。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】プロリン特異的プロテアーゼZFXをクローン化するために用いられる方法を示している。
【図2】プロリン特異的プロテアーゼZFX(配列番号1)をコードする遺伝子を含有するペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)CBS455.95由来の染色体DNA断片の配列を示している。コード配列(配列番号2)を強調し、タンパク質配列(配列番号3)を示している。
【図3】単離したプロリン特異的プロテアーゼZFXの最適温度を示している。
【0011】
[配列一覧表の簡単な説明]
配列番号1は、プロリン特異的プロテアーゼZFXをコードする遺伝子を含有するペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)CBS455.95由来の染色体DNA断片のヌクレオチド配列を示している。
【0012】
配列番号2は、プロリン特異的プロテアーゼZFXのヌクレオチドコード配列を示している。
【0013】
配列番号3は、プロリン特異的プロテアーゼZFXのアミノ酸配列を示している。
【0014】
配列番号4は、Pacl制限部位を含む23のヌクレオチド配列が先行したATG開始コドンで開始する24のヌクレオチドZFXコード配列を含有する直接PCRプライマー(ZFX−dir)を示している。
【0015】
配列番号5は、Ascl制限部位が先行したZFXコード配列の下流領域の逆鎖に相補的なヌクレオチドを含有する逆プライマー(ZFX−rev)を示している。
【0016】
[発明の詳細な説明]
本発明は、真菌のペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)において同定されている新規なプロリン特異的プロテアーゼに関する。国際公開第02/45524号パンフレットにおいて、アスペルギルス・ニガー(A.niger)由来のプロリン特異的プロテアーゼをコードするcDNA断片は、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)から単離されたゲノムDNAにハイブリダイズしなかったことが示されているので、前述のことは驚くべきことである(国際公開第02/45524号パンフレットにおける実施例11および表6を参照)。
【0017】
本明細書に記載された新規な酵素は酸性の最適pHを有し、実際に、または好ましいことには、例えば、加熱手段(標準的な殺菌法など)によって、完全に不活化することができる。したがって、一般に酸性の環境であって最終(食品)製品が実際に残留酵素活性を持たないことがきわめて望ましい食品への適用における使用に、この酵素は好適である。
【0018】
また、本発明は、大量に製造できるプロリン特異的プロテアーゼに対する需要に合致する。好ましいことに、このようなプロリン特異的プロテアーゼは宿主細胞から分泌される。活発な分泌は、厄介な精製過程を経ることなくほぼ純粋な形態で酵素の回収を可能にすることから、経済上実行可能な製造方法にとって最も重要である。アスペルギルス属(Aspergillus)などの食品グレードの真菌宿主によりこのように活発に分泌されたプロリン特異的プロテアーゼの過剰発現は、食品グレードの酵素およびコスト効率の良い製造方法がもたらされることから好ましい。食品グレードの製造宿主、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)により大量にプロリン特異的プロテアーゼを製造するための方法が開示されている。
【0019】
経済的観点から、大量に、また比較的純粋な形態でプロリン特異的プロテアーゼを製造する改善された手段に対する必要性が明らかに存在している。本発明者らは、組換えDNA技法を用い、このようなプロリン特異的プロテアーゼの過剰産生によりこれを行う好ましい方法を本明細書に示している。これを行う特に好ましい方法は、真菌由来のプロリン特異的プロテアーゼの過剰産生によるものであり、これを行う最も好ましい方法は、ペニシリウム属(Penicillium)由来のプロリン特異的プロテアーゼの過剰産生によるものである。後者の産生経路を可能にするために、ペニシリウム属(Penicillium)由来のプロリン特異的プロテアーゼのユニークな配列情報が必須である。より好ましくは、コード遺伝子のヌクレオチド配列全体を入手する必要がある。
【0020】
新規な酵素が大量に、また比較的純粋な形態で入手できると、組織構造的、官能的、および/または免疫学的性質の改善された食品(パン、パスタまたは麺類など)またはタンパク質加水分解物を、食品グレードで経済的な方法で調製することができる。この酵素は、保存剤として使用できる可能性もある。またこの酵素は、飲料の調製、特に、飲料における曇りの予防または減少を目的とした方法に使用できる。
【0021】
本明細書において、プロリン特異的プロテアーゼ活性は、タンパク質および/またはペプチドにおけるプロリン残基を含むペプチド結合を開裂するプロテアーゼ活性として定義される。本発明の目的で、タンパク質は30以上のアミノ酸を含んでなることを一般に考えることができる。本発明の目的で、ペプチドは約30以下のアミノ酸を含んでなることを一般に考えることができる。
【0022】
したがって、本明細書において、プロリン特異的プロテアーゼは、プロリン特異的エンドプロテアーゼ活性および/またはプロリン特異的オリゴペプチダーゼを有し得る(EC3.4.21.26)。プロリン特異的エンドプロテアーゼおよび/またはプロリン特異的オリゴペプチダーゼなどの本発明のプロリン特異的プロテアーゼは、タンパク質またはペプチドがプロリン残基を含有する位置でタンパク質および/またはペプチドを加水分解するものであることが好ましい。
【0023】
本発明において、プロリン特異的プロテアーゼは、プロリン残基のカルボキシル末端でペプチド結合を加水分解するものであることが好ましい。しかしながら、プロリン残基のNH末端でプロリル残基を切断するプロリル特異的プロテアーゼが、例えば、1998年1月15日のNature、391巻、301〜304頁に記載されている。
【0024】
本文において、プロリル特異的エンドプロテアーゼ、プロリン特異的エンドプロテアーゼ、プロリン特異的エンドペプチダーゼ、プロリン特異的オリゴペプチダーゼ、プロリル特異的オリゴペプチダーゼ、プロリルオリゴペプチダーゼ、プロリル特異的活性を有するタンパク質/ペプチドなどの用語または同様な表現は、同義的に用いられる。
【0025】
本発明では、配列番号3またはその変異配列(例えば、配列番号3の配列に機能的に等価な配列)またはそれらのいずれかの断片である配列によるアミノ酸配列を有する、本明細書において「ZFX」と称されるプロリン特異的プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドが提供される。このアミノ酸配列は図2にも示されている。
【0026】
ZFXプロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子の配列は、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)のゲノムを配列決定することによって決定された。本発明は、ZFXプロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子ならびにそのコード配列を含んでなるポリヌクレオチド配列を提供する。したがって、本発明は、配列番号1または2によるヌクレオチド配列を含んでなる単離ポリヌクレオチドならびにそれらの機能的等価体などの変異体に関する。これらのヌクレオチド配列は、図2にも示されている。
【0027】
特に、本発明は、配列番号1のコード配列または配列番号2で示された配列を含んでなるポリヌクレオチドの逆相補体と、例えば、ストリンジェントな条件下、好ましくは、高ストリンジェント条件下で、選択的にハイブリダイズできる単離ポリヌクレオチドに関する。
【0028】
好都合に、本発明によるこのようなポリヌクレオチド(およびそれによってコードされるポリペプチド)は、真菌、特に、ぺジゾミコチナ(Pezizomycotina)亜門由来など、子嚢菌(Ascomycota)門の真菌、例えば、ユーロチウム目(Eurotiales)由来など、ユーロチオミセテス(Eurotiomycetes)綱由来、特に、ペニシリウム属(Penicillium)由来、好ましくは、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)種由来など、トリココーマセアエ(Trichocomaceae)科由来の真菌から得られることができ、および/または得られている。
【0029】
より具体的に、本発明は、配列番号1のコード配列または配列番号2に示された配列によるヌクレオチド配列を含んでなるか、または基本的にそれから構成されるポリヌクレオチドに関する。
【0030】
本発明はまた、配列番号3によるポリヌクレオチドの少なくとも1つの機能的ドメインをコードする配列を含んでなるか、または基本的にそれから構成される単離ポリヌクレオチド、またはその機能的等価体などの変異体、またはそれらのいずれかの断片に関する。
【0031】
本明細書に用いられる用語「遺伝子」および「組換え遺伝子」とは、タンパク質、例えば、本発明によるペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)プロリン特異的プロテアーゼをコードするオープンリーディングフレームを含む染色体DNAから単離できる核酸分子のことである。
【0032】
遺伝子は、コード配列、非コード配列、イントロンおよび/または調節配列を含み得る。さらに、用語「遺伝子」とは、本明細書で定義された単離核酸分子のことであり得る。
【0033】
配列番号1のコード配列または配列番号2で示された配列のヌクレオチド配列を有する核酸分子またはそれらのいずれかの機能的等価体などの本発明の核酸分子は、標準的な分子生物学的技法ならびに本明細書で提供された配列情報を用いて単離することができる。例えば、ハイブリダイゼーションプローブとして、配列番号1または2の核酸配列の全てまたは一部を用い、標準的なハイブリダイゼーション技法およびクローニング技法(例えば、Sambrook,J.、Fritsh、E.F.、およびManiatis,T.、Molecular Cloning:a Laboratory manual、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory出版、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州、1989年)を用いて本発明による核酸分子を単離することができる。
【0034】
さらに、配列番号1または2の全てまたは一部を包含する核酸分子を、配列番号1または2に含まれた配列情報に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により単離することができる。
【0035】
本発明の核酸は、テンプレートとしてcDNA、mRNA、あるいはゲノムDNA、ならびに適切なオリゴヌクレオチドプライマーを用い、標準的なPCR増幅技法によって増幅することができる。このように増幅された核酸は、適切なべクター内にクローン化し、DNA配列分析によって特性化することができる。本明細書には、配列番号1の断片の単離およびクローニングが記載されている。この断片を、配列番号4および5に示されたオリゴヌクレオチドプライマーを用い、PCRによって増幅させた。
【0036】
さらに、本発明によるヌクレオチド配列に相当するか、またはそれにハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを、例えば、自動DNA合成機を用い、標準的な合成技法によって調製することができる。
【0037】
好ましい一実施形態において、本発明の単離核酸分子は、配列番号1のコード配列または配列番号2で示された配列であるヌクレオチド配列を含んでなる。配列番号2の配列は、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)プロリン特異的プロテアーゼのcDNAのコード領域に相当する。このcDNAは、配列番号3によるペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)プロリン特異的プロテアーゼポリペプチドをコードする配列を含んでなる。
【0038】
別の好ましい実施形態において、本発明の単離核酸分子は、配列番号1または2に示されたヌクレオチド配列の逆相補体、またはこのようなヌクレオチド配列の機能的等価体などの変異体である核酸分子を含む。
【0039】
もう一方のヌクレオチド配列に相補的である核酸分子は、他のヌクレオチド配列にハイブリダイズし、それによって安定な二重鎖を形成できるように、他のヌクレオチド配列に十分に相補的である。
【0040】
本発明の一態様は、本発明のポリペプチドをコードする単離核酸分子、またはその機能的等価体、例えば生物学的に活性な断片またはドメインなどの変異体、ならびに本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を同定するためのハイブリダイゼーションプローブとしての使用に十分な核酸分子、および核酸分子の増幅および変異のためのPCRプライマーとしての使用に好適なこのような核酸分子の断片に関する。
【0041】
生物学的に活性な断片またはドメインの一例は、(合成)基質のカルボキシ末端に「検出手段(この検出手段は、プロテアーゼによって開裂可能な化学的結合を介してプロリンのカルボキシ側に結合している)に結合させたプロリン」を含んでなる(合成)基質からの検出可能な基を少なくとも開裂することのできる断片またはドメインである。実験の部に、好適な(合成)基質の例が提供されている。検出手段の一例は、色素生成基または蛍光発生基である。
【0042】
本発明によるポリヌクレオチドは、「単離」することができる。本発明の文脈で、「単離ポリヌクレオチド」または「単離核酸」は、それが由来する生物の天然のゲノム中で、それが直に隣接しているコード配列の双方(5’端の1つと3’端の1つ)に直に隣接していないDNAおよびRNAである。したがって、一実施形態において、単離核酸は、コード配列に直に隣接している5’非コード(例えば、プロモーター)配列の一部または全てを含む。したがって、この用語には、例えば、べクター内に、自律複製しているプラスミドまたはウィルス内に、または原核生物または真核生物のゲノムDNA内に組み込まれている組換えDNA、または他の配列とは独立した別個の分子として存在しているもの(例えば、cDNAまたはPCRまたは制限エンドヌクレアーゼ処理によって作製されたゲノムDNA断片)が含まれる。これには、細胞材料、ウィルス材料、培養培地(組換えDNA技法によって作製された場合)、または化学的前駆体または他の化学物質(化学的に合成された場合)が実質的に存在しない追加のポリペプチドをコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含まれる。さらに、「単離核酸断片」は、断片として天然には生じず、自然状態では見られないと考えられる核酸断片である。
【0043】
本明細書に用いられる用語「ポリヌクレオチド」または「核酸分子」は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)およびRNA分子(例えばnRNA)ならびにヌクレオチド類縁体を用いて作出されたDNAまたはRNAの類縁体を含むことが意図されている。すなわち、本発明によるポリヌクレオチドは、DNA配列またはRNA配列であり得る。核酸分子は、一本鎖でも二本鎖でもよいが、二本鎖DNAであることが好ましい。核酸は、ペプチド核酸、オリゴヌクレオチドの類縁体または誘導体などの合成または修飾ヌクレオチド(例えば、イノシン、メチルホスホネートまたはホスホロチオエートのヌクレオチドおよび分子の3’端および/または5’端におけるアクリジン鎖またはポリリシン鎖の付加体)を用いて合成することができる。このようなヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドを、例えば、塩基対形成能力を変化させた核酸、またはヌクレアーゼに対する抵抗性を増加させた核酸を調製するために使用することができる。本発明の目的のために、本明細書に記載されたポリヌクレオチドは、当然のことながら、当該技術分野で利用できる任意の方法によって修飾できる。
【0044】
本発明の別の実施形態では、ZFX核酸分子に対してアンチセンスである単離核酸分子、例えば、ZFX核酸分子のコード鎖が提供される。本発明の範囲内には、本明細書に記載された核酸分子の相補鎖も含まれる。
【0045】
本明細書に提供されている配列情報は、誤って同定された塩基の包含を必要とするために狭く考えてはならない。糸状菌、特にペニシリウムクリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)から完全遺伝子を単離し、次いで、さらなる配列分析に供し、それによって配列の誤りを確認するために、本明細書に開示された特定の配列を容易に使用することができる。
【0046】
別に指示しない限り、本明細書のDNA分子の配列決定によって決定された全てのヌクレオチド配列は自動DNAシークエンサーを用いて決定し、本明細書で決定されたDNA分子によってコードされたポリペプチドの全てのアミノ酸配列は、上記のとおりに決定したDNA配列の翻訳によって予測した。したがって、この自動化されたアプローチによって決定された任意のDNA配列に関して当該技術分野で知られているように、本明細書で決定された任意のヌクレオチド配列はいくらかのエラーを含有する可能性がある。自動化によって決定されたヌクレオチド配列は、配列決定されたDNA分子の実際のヌクレオチド配列に対して、一般に、少なくとも約90%、より一般的には少なくとも約95%から少なくとも約99.9%同一性である。
【0047】
実際の配列は、当該技術分野でよく知られている手動DNA配列決定法などの他の方法によって、より正確に決定することができる。やはり当該技術分野で知られているように、決定されたヌクレオチド配列における単一の挿入または削除は、実際の配列に比較すると、ヌクレオチド配列の翻訳においてフレームシフトが生じ、決定されたヌクレオチド配列によってコードされた予測アミノ酸配列は、このような挿入または削除の箇所から開始する、配列決定されたDNA分子によって実際にコードされたアミノ酸配列とは全く異なってくる。
【0048】
当業者はこのような誤って同定された塩基を確定することができ、このようなエラーの修正の仕方を知っている。
【0049】
本発明による核酸分子は、配列番号1に示された核酸配列の一部または断片、例えば、プローブまたはプライマーとして使用できる断片、またはZFXタンパク質の一部をコードする断片のみを含むことができる。
【0050】
ZFX遺伝子およびcDNAのクローニングから決定されたヌクレオチド配列によって、他のZFXのファミリーメンバー、ならびに他の種由来のZFX相同体の同定および/またはクローニングに使用するために設計されたプローブおよびプライマーの作出が可能になる。
【0051】
プローブおよび/またはプライマーは、例えば高ストリンジェント条件下で、配列番号1または2に示されたヌクレオチド配列(またはその機能的等価体またはそのいずれかの逆補体)の少なくとも約12から15、好ましくは、約18から20、好ましくは、約22から25、より好ましくは、約30、35、40、45、50、55、60、65または75、またはそれ以上の連続的ヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を一般に含んでなる実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを一般に含んでなる。
【0052】
ZFXヌクレオチド配列に基づいたプローブは、例えば他の生物の同じタンパク質または相同タンパク質をコードする転写体またはゲノムZFX配列を検出するために使用することができる。好ましい実施形態において、プローブは、それに結合した標識基をさらに含んでなり、例えば、標識基は、放射性同位体、蛍光性化合物、酵素、または酵素の補因子であり得る。このようなプローブは、ZFXタンパク質を発現する細胞を同定するための診断用試験キットの一部として使用することもできる。
【0053】
用語「相同性」、「配列同一性」などは、本明細書において同義的に用いられる。本発明の目的で、2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列に共有される配列同一性の程度を決定するために、これらの配列を、最適な比較を目的として整列させる(例えば、第2のアミノ酸配列または核酸配列との最適な整列のために、第1のアミノ酸配列または核酸配列の配列内にギャップを導入することができる)。このような整列は、比較される配列の全長にわたって実施できる。あるいは、整列はより短い長さにわたって、例えば、約20、約50、約100またはそれ以上の核酸/基礎とされるすなわちアミノ酸にわたって実施できる。
【0054】
次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列におけるある位置が、第2の配列における対応する位置で同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められているならば、その位置でこれらの分子は同一性である。配列間で共有される同一性の程度は、一般に2つの配列間の同一性パーセンテージによって表され、これは、これらの配列で共有される同一位置の数の関数である(すなわち、同一性%=同一位置の数/位置の総数(すなわち、重なっている位置)×100)。これら2つの配列は、それらの全長にわたって比較することができる。
【0055】
2つの配列間の相同性を決定するためにいくつかの異なるコンピュータプログラムが利用できることを、当業者は認識されるであろう。例えば、配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。
【0056】
2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の同一性パーセントは、例えば、PAM120重み残基表、12のギャップ長ペナルティーおよび4のギャップペナルティーを用い、ALIGNプログラム(2.0版)(Genestreamサーバー、IGH Montpellier France、http://vega.igh.cnrs.fr/bin/align−guess.cgiの配列データを用いるALIGN Queryで入手可能)へ組み込まれたE.MeyersとW.Miller(CABIOS、4:11〜17頁(1989)のアルゴリズムを用いて決定することができる。
【0057】
本発明の核酸配列およびタンパク質配列は、例えば、他のファミリーメンバーまたは関連配列を同定する目的で公開データベースに対する探索を実施するために、「クエリー配列」としてさらに使用することができる。このような探索は、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403〜410頁のBLASTN、BLASTPおよびBLASTXプログラム(2.0版)を用いて実施することができる。ヌクレオチドデータベースにおけるBLASTヌクレオチド探索は、BLASTNプログラムによって実施し、本発明のZFX核酸分子に対して相同性のヌクレオチド配列を得ることができる。タンパク質データベースにおける翻訳されたヌクレオチド配列によるBLAST探索は、BLASTXプログラムによって実施し、本発明の翻訳されたZFX遺伝子に対して相同性のアミノ酸配列を得ることができる。あるいは、タンパク質データベースとのタンパク質配列の比較には、マトリックスBlosum62、予測閾値=10、ワード長=3、11のギャップ存在コストおよび1のギャップ延長コストで、BLASTPプログラムを使用することができる。BLASTプログラムを用いる場合、それぞれのプログラムの省略時パラメータ(例えば、BLASTX、BLASTPおよびBLASTN)を用いることができる。公開データベースにおける相同性探索についてのすべての関連情報に関しては、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/におけるthe National Center for Biotechnology Informationのホームページを参照されたい。
【0058】
配列同一性を算出するために、または配列を整列させるために、(例えば、デフォルト設定での等価の、または対応する配列の同定など)BLASTPおよびBLASTNのアルゴリズムを使用することができる。
【0059】
BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、the National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を介して公共的に入手できる。このアルゴリズムは、先ず、データベース配列における同じ長さのワードと整列させた際にいくつかの正値の閾値スコアTに合うか、または満たすクエリー配列中の短い長さWのワードを同定することにより、高スコアの配列対(HSP)を同定することを含む。Tは、近傍ワードスコア閾値と称される。これらの初期近傍ワードヒットは、それらを含有するHSPを見出すための初期探索のためのシードとして働く。ワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。各方向でのワードヒットの延長は以下の場合に停止させる:累積アラインメントスコアが、その最高達成値から量Xだけ減少する場合;累積スコアが、1つまたは複数の負のスコアの残基アラインメントの累積によってゼロ以下になる場合;またはどちらかの配列の末端に達した場合。BLASTアルゴリズムのパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。DNA−DNA比較のBLASTNプログラムでは、デフォルトとして、11のワード長(W)、10の予測(E)、および双方の鎖の比較が用いられる。タンパク質−タンパク質比較のBLASTPプログラムでは、デフォルトとして、3のワード長(W)、BLOSUM62スコアリングマトリックス、11のギャップ存在ペナルティーと1のギャップ延長ペナルティー、および10の予測(E)が用いられる。
【0060】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計的分析を実施する。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの目安は、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列間の合致が偶然生じる確率の指標を提供する最小和確率(P(N))である。例えば、第2の配列に対する第1の配列の比較における最小和確率が約1未満、好ましくは、約0.1未満、より好ましくは、約0.01未満、最も好ましくは、約0.001未満ならば、配列は他方の配列に類似していると考えられる。
【0061】
また、ペプチドモチーフを含有するタンパク質をコードする遺伝子の同定に、このペプチドモチーフを用いることができる。1つのペプチドモチーフの替わりに、2つ以上のペプチドモチーフの組み合わせを、これらペプチドモチーフを含有するタンパク質をコードする遺伝子の同定に用いることもできる。したがって、特定のプロリン特異的プロテアーゼをコードする1つまたはいくつかのペプチドモチーフが同定されると、これらのペプチドモチーフのいくつかのうちの1つまたは組み合わせを用いて、プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子を同定することが可能である。プロリン特異的プロテアーゼはこのような遺伝子がどのように同定できるかの一例として用いられるが、記載されたこれらの方法は一般的に適用できる。ペプチドモチーフは、Patscanのようなプログラム(http://www−unix.mcs.anl.gov/compbio/PatScan/HTML/)を用いて、DNAデータバンクからの翻訳DNA配列またはタンパク質配列データバンクからのタンパク質配列における探索のために使用することができる。アミノ酸配列は、ウェブサイトに記載されている特定のフォーマットで入力する必要がある。実施できる別の方法は、http://myhits.isb−sib.ch/cgi−bin/のようなプログラムを用いて、DNAデータバンクからの翻訳DNA配列またはタンパク質配列データバンクからのタンパク質配列における探索に、モチーフの配列を使用することである。このプログラムでは、モチーフはいわゆるPrositeフォーマットにおける探索領域に入力し、タンパク質配列または翻訳DNA配列におけるモチーフの存在に関して、データベースを探索する。有用なプロリン特異的プロテアーゼをコードする真菌遺伝子を同定するためにこの方法を用いることができる。次いで、これらの方法の1つを用い同定されている遺伝子を当業者に知られたプログラムを用いてタンパク質配列に翻訳し、それらのアミノ末端におけるシグナル配列の存在に関して調べることができる。シグナル配列の検出のためには、SignalPのようなプログラム(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を使用することができる。コンセンサス配列と予測されたシグナル配列の双方を含有するタンパク質配列の探し出すことにより、このような酵素の工業的製造にとって大きな利益が与えられる。
【0062】
ペプチドモチーフを用いてプロリン特異的プロテアーゼ遺伝子を同定する別の可能性は、モチーフのアミノ酸配列の逆翻訳に基づいたオリゴヌクレオチドプライマーをプロリン特異的プロテアーゼ遺伝子の同定が望まれている生物由来の好ましいコドンを利用してヌクレオチド配列内に設計し、このオリゴヌクレオチドを、遺伝子ライブラリーへのハイブリダイゼーションに、または逆転写mRNAプールでのPCRプライマーに用いることである。ペプチド配列モチーフを用いて、プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子を、この遺伝子配列が未知である場合に単離することも可能である。この目的で使用できる縮退オリゴヌクレオチドプライマーを設計する方法は文献に記載されている(Sambrookら(1989)Molecular Cloning:a laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press)。また、プローブまたはプライマーとして縮退オリゴヌクレオチドを用いて、生物から遺伝子を単離する方法も記載されている。
【0063】
ペプチドモチーフをコードするオリゴヌクレオチドは、プロリン特異的プロテアーゼ特性をコードする遺伝子の単離に有用である。オリゴヌクレオチドのこのような一群の縮退度は、ヌクレオチドが知られていない位置にイノシン(I)塩基を導入することによって減少する。また、オリゴヌクレオチドプライマーの特異性に及ぼす影響は小さいまま縮退度を減少させるために、シトシン(C)塩基とチミジン(T)塩基の双方が可能な位置はウラシル(U)によって置換でき、アデニン(A)とグアニン(G)の双方が可能な位置にはグアニンのみを導入できる。さらに、コドン優先度が知られている生物におけるプロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子の存在のスクリーニングには、オリゴヌクレオチドの設計にコドン優先度を考慮に入れることによって、オリゴヌクレオチドの縮退度をさらに減少させることができる。当業者はこのやり方を知っているであろう。縮退のないオリゴヌクレオチドプライマーの可能な全ての組み合わせを別個に合成し、個々のスクリーニング実験に用いることができる。
【0064】
第一に、対象の種から、ゲノム、cDNAまたはESTのライブラリーを、汎用ベクターに構築する。ライブラリー構築に好適な方法は、文献に記載されている(Sambrookら(1989)Molecular Cloning:a laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press)。第二に、上記の縮退オリゴヌクレオチドを、ライブラリーから単離したDNAについて、ベクター内でプライムする1つの汎用オリゴヌクレオチドと共に、組換えDNA挿入の境界でPCR反応に用いる。1つだけの縮退オリゴヌクレオチドプライマーが利用できる場合、所望の遺伝子の単離に関して、文献に有用な方法が記載されている(例えば、Minambresら(2000)、Biochem.Biophys.Res.Commun.272、477〜479頁;PCR Technology(1989)H.A.Erlich編、99〜104頁、Stockton出版)。次いで第三に、PCR増幅した断片を標識化して、慣例的な手段によるライブラリーのスクリーニングのためのプローブとして用いる。次いで、完全長遺伝子を、所望の産生宿主生物中のプロリン特異的プロテアーゼの過剰発現に好適な発現べクター内にサブクローン化することができる。
【0065】
プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子の存在に関してスクリーンされる種からのライブラリーが入手できない場合の別のアプローチでは、この遺伝子の一部を、単一の縮退プライマーを用いて、種々の縮退プライマー、または3’−PACEと共にPCRによって増幅することができる。このために、RNAを対象の種から単離し、遺伝子特異的プライマーとして単一の縮退プライマーを用いて3’−RACE反応に使用する。1つの縮退オリゴヌクレオチドと1つの汎用プライマーを用いる3’−PACEによる未知のcDNAの一部の増幅は、以前、記載されている(国際公開第99/38956号パンフレット)。
【0066】
小型ペプチドのみからの情報を用いて完全長遺伝子を単離する伝統的方法は、ライブラリーが複製されているフィルターへの標識縮退オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションである。縮退オリゴヌクレオチドを用いた遺伝子ライブラリーのスクリーニングを記載している方法、およびこれらオリゴヌクレオチドの最適なハイブリダイゼーション条件を算出または決定するための方法は、文献に広範に記載されている(Sambrookら(1989))。上記のオリゴヌクレオチドは、種々の種に由来するプロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子を単離するこの方法に使用できる。
【0067】
この方法の変型では、部分的な遺伝子ライブラリーを先ず構築することができる。このためには、DNAを分画し、その後、プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子を含有するDNAの断片を、上記の標識オリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションにより検出する。これらの断片を単離し、プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子に濃縮された部分的遺伝子ライブラリーの構築に用いる。次いで、このライブラリーを、慣例的な手段によりスクリーンすることができる。この方法では、ゲノムDNAは、ゲル電気泳動による分画化の前に、先ず制限酵素により消化するが、cDNAは直接、分画化することができる。
【0068】
プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子を単離するための別の方法は、コンセンサス配列のペプチドのいずれかに対して増加させた抗体を用いることによるものである。抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。小型ペプチドに特異的な抗体の産生を述べている方法は、文献に広範に記載されている(Harlow,EおよびLane,D(1988)Antibodies;a laboratoy manual、ISBN 0−87969−314、−2)。
【0069】
発現ライブラリーは、大腸菌または酵母などの簡便な宿主における挿入体の発現に好適なべクター内へ、cDNAまたはゲノムDNAをクローニングすることにより、対象の種から構築することができる。発現べクターは、ファージラムダをベースにしていてもよいし、していなくてもよい。発現ライブラリーによって産生された抗原の免疫検出、ならびに抗原を発現する特定のクローンの精製を述べている方法は公開されている。コンセンサスモチーフのペプチドのいずれかに特異的な抗体を用い、この方法を用いて、このモチーフを包含するプロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子を単離することが可能である。
【0070】
本発明で記載された情報を考慮に入れる際、プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子を単離するために、実際に多くの異なる方法を用いることができる。先行技術の方法よりもペプチドモチーフ配列情報を使用することの有利な点は、活性なプロリン特異的プロテアーゼをコードする新規な遺伝子が同定できる速さと相対的な容易さである。配列情報の使用により、可能な全ての間接的適用実験の困難な試験をすることなく、食品産業における適用に、新規なプロリン特異的プロテアーゼの価値の指標が提供される。
【0071】
本明細書に用いられる用語「選択的にハイブリダイズする」および類似の用語は、ヌクレオチド配列が、互いに少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、より好ましくは、少なくとも約85%、さらに好ましくは、少なくとも約90%、好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも約98%、またはより好ましくは、少なくとも約99%、一般的に互いにハイブリダイズした状態に留まるハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を述べることが意図されている。すなわち、このようにハイブリダイズする配列は、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、より好ましくは、少なくとも約85%、さらにより好ましくは、少なくとも約90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも約98%、またはより好ましくは、少なくとも約99%の配列同一性を共有し得る。
【0072】
したがって、配列番号1および/または配列番号2の逆相補体に選択的にハイブリダイズすることのできるヌクレオチド配列が本発明に含まれ、配列番号1および/または配列番号2の少なくとも60、好ましくは、少なくとも100、より好ましくは、少なくとも200の連続ヌクレオチド領域にわたって、または最も好ましくは、その全長にわたって、配列番号1および/または配列番号2のコード配列に、少なくとも50%または60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を一般に有することになる。
【0073】
同様に、活性のプロリン特異的プロテアーゼをコードし、配列番号1および/または配列番号2のDNAコード配列の相補体の断片に選択的にハイブリダイズすることができるヌクレオチドも、本発明に包含される。上記の程度の同一性および最小サイズの任意の組み合わせを用いて、本発明のポリヌクレオチドを規定することができ、よりストリンジェントな組み合わせ(すなわち、より長い領域にわたるより高い同一性)が好ましい。したがって、例えば、60、好ましくは、100のヌクレオチドにわたって少なくとも80%または90%同一性のポリヌクレオチドが本発明の一態様を形成し、200のヌクレオチドにわたって少なくとも90%同一性のポリヌクレオチドも本発明の一態様を形成する。
【0074】
このようなハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な一例は、50℃、好ましくは55℃、好ましくは、60℃、さらに好ましくは、65℃での1×SSC、0.1%SDS中の一回以上の洗浄が続く、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中のハイブリダイゼーションである。
【0075】
高ストリンジェント条件としては、例えば、68℃で5×SSC/5×デンハート液/1.0%SDS中のハイブリダイゼーションおよび室温で0.2×SSC/0.1%SDS中の洗浄が挙げられる。あるいは、洗浄を42℃で行うことができる。
【0076】
ストリンジェント条件および高ストリンジェント条件に当てはまる条件を当業者は認識されるであろう。このような条件に関するさらなる指針は、例えば、Sambrookら(1989)Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、ニューヨーク州;およびAusubelら(編)、1995年、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons、ニューヨーク州)など、当該技術分野で容易に入手できる。
【0077】
勿論、ポリA配列(mRNAの3’末端ポリ(A)帯など)、またはT(またはU)残基の相補的伸長部のみにハイブリダイズするポリヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドには含まれない。このようなポリヌクレオチドは、ポリ(A)伸長部またはその相補体を含有する任意の核酸分子(例えば、実際に任意の二本鎖cDNAクローン)にハイブリダイズするからである。
【0078】
一般的なアプローチにおいて、他の生物、例えば、糸状菌、特に、トリコマセア(Trichomaceae)科の微生物、例えば、アスペルギルス属またはペニシリウム属から構築されたcDNAライブラリーをスクリーンすることができる。
【0079】
例えば、ノーザンブロット分析による相同性ZFXポリヌクレオチドに関して、ペニシリウム株をスクリーンすることができる。本発明によるポリヌクレオチドに相同的な転写体の検出の際は、当業者によく知られた標準的な技法を利用し、適切な株から単離したRNAからcDNAライブラリーを構築することができる。あるいは、本発明によるZFXポリヌクレオチドにハイブリダイズすることのできるプローブを用いて、全ゲノムDNAライブラリーをスクリーンすることができる。
【0080】
本明細書で教示したヌクレオチド配列に基づいて設計された2つの縮退オリゴヌクレオチドプライマープールを用いてPCRを実施することにより、相同的遺伝子配列を単離することができる。
【0081】
反応のテンプレートは、本発明によるポリヌクレオチドを発現することが知られているか、またはそれが推測される株から調製したmRNAの逆転写により得られたcDNAであり得る。増幅された配列が新規なZFX核酸配列、またはその機能的等価体の配列であることを確認するために、PCR産物をサブクローン化し、配列決定することができる。
【0082】
次いで、種々の知られた方法により、PCR断片を用いて完全長cDNAクローンを単離することができる。バクテリオファージまたはコスミドcDNAライブラリーをスクリーンするために、例えば、増幅断片を標識化して用いることができる。あるいは、ゲノムライブラリーをスクリーンするために、標識断片を用いることができる。
【0083】
PCR技法は、他の生物由来の完全長cDNA配列を単離するためにも用いることができる。例えば、標準的な操作に従って、適切な細胞源または組織源からRNAを単離することができる。第一鎖合成のプライミングのために、増幅断片の最5’端に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、RNAに逆転写反応を実施することができる。
【0084】
次いで、得られたRNA/DNAハイブリッドを、標準的な末端トランスフェラーゼ反応を用いて「テール化」(例えばグアニンで)することができ、このハイブリッドを、RNアーゼHで消化することができ、次いで第二鎖の合成をプライムすること(例えばポリCプライマーで)ができる。したがって、増幅断片の上流にあるcDNA配列を容易に単離することができる。有用なクローニング法のレビューに関しては、例えば、上記Sambrookら;および上記Ausubelらを参照されたい。
【0085】
本発明の別の態様は、ZFXタンパク質をコードする本発明のポリヌクレオチドまたはその機能的等価体を含んでなるクローニングべクターおよび発現べクターなどのべクター、ならびに、例えば本発明のポリペプチドの発現が生じる条件下で、好適な宿主細胞中、このようなべクターを増殖、形質転換、またはトランスフェクトさせる方法に関する。本明細書に用いられる用語「べクター」とは、それが結合した別の核酸を輸送することのできる核酸分子のことである。
【0086】
本発明のポリヌクレオチドは、組換え複製可能べクター、例えば、クローニングべクターまたは発現べクター内に組み込むことができる。べクターは、適合性の宿主細胞に核酸を複製させるために用いることができる。したがって、さらなる実施形態において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを複製可能なべクター内へ導入し、このべクターを適合性の宿主細胞に導入し、べクターの複製をもたらす条件下で宿主細胞を増殖させることにより、本発明のポリヌクレオチドを作製する方法を提供する。べクターは宿主細胞から回収することができる。好適な宿主細胞は下記に記載してある。
【0087】
発現カセットまたは本発明のポリヌクレオチドが挿入されるべクターは、組換えDNA操作に簡便に供することのできる任意のべクターでよく、このべクターの選択は、しばしば導入する宿主細胞に依る。
【0088】
本発明によるべクターは、自己複製べクター、すなわち、染色体外の物質として存在し、その複製が染色体の複製とは独立しているべクター、例えばプラスミドであり得る。あるいは、このべクターは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノム内に組み込まれ、組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであり得る。
【0089】
べクターのタイプの1つは、追加のDNAがその中に結合できる環状の二本鎖DNAループと言われる「プラスミド」である。べクターの別のタイプは、追加のDNAセグメントがウィルスゲノム内に結合できるウィルスべクターである。一定のべクターは、それらが導入されている宿主細胞内で自己複製することができる(例えば、複製の細菌源を有する細菌べクターおよびエピソームの哺乳動物べクター)。他のべクター(例えば、非エピソーム哺乳動物べクター)は、宿主細胞内への導入の際に、宿主細胞のゲノム内に組み込まれ、それによって、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、一定のべクターは、それらと操作的に結合している遺伝子の発現を指示することができる。このようなべクターは、本明細書において、「発現べクター」と称される。一般に、組換えDNA技法に利用される発現べクターは、しばしばプラスミドの形態である。プラスミドはべクターの最も一般的に用いられる形態であるため、「プラスミド」と「べクター」という用語は、本明細書において同義的に用いることができる。しかし、本発明は、コスミド、ウィルスべクター(例えば、複製欠失レトロウィルス、アデノウィルスおよびアデノ関連ウィルス)および等価な機能を供するファージべクターなどの他の形態の発現べクターを含むことが意図されている。
【0090】
本発明によるべクターは、インビトロで、例えば、RNAの作製のために使用できるか、または宿主細胞にトランスフェクトするか、または形質転換させるために使用できる。
【0091】
本発明のべクターは、例えば過剰発現のために、本発明のポリヌクレオチドを2種以上、例えば、3種、4種または5種含むことができる。
【0092】
本発明の組換え発現べクターは、宿主細胞内の核酸の発現に好適な形態における本発明の核酸を含んでなる。このことは、本発明の組換え発現べクターが、発現に用いられる宿主細胞に基づいて選択された1つまたは複数の調節配列を含み、それは発現される核酸配列に操作可能に結合していることを意味する。
【0093】
組換え発現べクター内で、「操作可能に結合している」とは、対象のヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で(例えば、インビトロ転写/翻訳系に、またはべクターが宿主細胞内に導入される場合は、宿主細胞内に)調節配列に結合していることを意味する。すなわち用語「操作可能に結合している」は、記載された構成要素が、それらが意図された態様で機能することを許可する関係にある並置のことを指す。コード配列に「操作可能に結合している」プロモーター、エンハンサーなどの調節配列または他の発現調節シグナルは、コード配列の発現が制御配列に適合性である条件下で達成されるように配置されているか、またはこれらの配列は意図された目的と協調して機能するように配置されており、例えば、転写はプロモーターで開始し、ポリペプチドをコードするDNA配列を介して進行する。
【0094】
したがって、本発明は、例えば、ポリヌクレオチド配列が調節配列に操作可能に結合している発現べクターであり得るべクターを提供し、細胞、例えば、糸状菌の細胞内におけるポリヌクレオチド配列の発現を可能にする。
【0095】
用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御要素(例えばポリアデニル化シグナル)を含むことが意図されている。このような調節配列は、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology185、Academic Press、サンディエゴ、カリフォルニア州(1990)に記載されている。
【0096】
調節配列という用語には、多くのタイプの宿主細胞におけるヌクレオチド配列および一定の宿主細胞内のみでのヌクレオチド配列発現を指示するヌクレオチド配列(例えば、組織特異的調節配列)が含まれる。
【0097】
したがって、所与の宿主細胞に関するべクターまたは発現構築体は、第1の発明のポリペプチドをコードする配列のコード鎖に対して、5’端から3’端への連続的順序で互いに操作可能に結合した以下の要素を含んでなる:(1)所与の宿主細胞におけるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の転写を指示することのできるプロモーター配列;(2)任意に、所与の宿主細胞から培養培地へのポリペプチドの分泌を指示することのできるシグナル配列;(3)プロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチドの成熟した、好ましくは、活性の形態をコードする本発明のDNA配列;および好ましくは、さらに(4)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の下流の転写を終止させることのできる転写終止領域(ターミネーター)。
【0098】
本発明によるヌクレオチド配列の下流には、1つまたは複数の転写終止部位(例えばターミネーター)を含有する3’未翻訳領域があり得る。ターミネーターの起源はあまり重要ではない。ターミネーターは、例えば、このポリペプチドをコードするDNA配列に固有であり得る。しかしながら、酵母の宿主細胞には酵母のターミネーターを、糸状菌宿主細胞には糸状菌のターミネーターを使用することが好ましい。ターミネーターは、宿主細胞(その中で前述のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が発現される)に内在性であることがより好ましい。転写領域では、翻訳のためのリボソーム結合部位が存在し得る。構築体によって発現される成熟転写体のコード部分は、翻訳されるポリペプチドの最初に翻訳開始AUGを、最後に適切に配置された終止コドンを含むことになる。
【0099】
本発明のポリヌクレオチドの発現増強は、異種の調節領域、例えばプロモーター、分泌リーダーおよび/またはターミネーター領域の選択によっても達成することができ、それによって、発現の増加、所望の場合は、発現宿主からの関心対象タンパク質の分泌レベルを増加させるために、および/または本発明のポリペプチド発現の誘導制御を提供するために働くことができる。
【0100】
したがって、本発明は、とりわけ発現べクターであり得るべクター、例えばポリヌクレオチド配列が調節配列に操作可能に結合しており、細胞、例えば、糸状菌の細胞内でのポリヌクレオチド配列の発現を可能にするべクターを提供する。
【0101】
発現べクターの設計が、形質転換させる宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの要因に依存し得ることは、当業者によって認識されるであろう。本発明の発現べクターは、本明細書に記載された核酸によってコードされたタンパク質またはペプチド(例えば、ZFXタンパク質、ZFXタンパク質の変異体、断片、その機能的等価体の変異体、融合タンパク質など)をべクターによって産生させるために宿主細胞内へ導入することができる。
【0102】
プロモーター/エンハンサーおよび他の発現調節シグナルは、発現べクターが設計される目的の宿主細胞に適合性であるように選択することができる。例えば、原核生物のプロモーター、特に、大腸菌株における使用に好適なものを使用し得る。本発明のポリペプチドの発現を哺乳動物細胞内で実施する場合、哺乳動物のプロモーターを使用し得る。組織特異的プロモーター、例えば肝細胞特異的プロモーターを使用することもできる。ウィルスプロモーター、例えば、モロニーマウス白血病ウィルス長末端反復(MMLVLTR)、ラウス肉腫ウィルス(RSV)LTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウィルス(CMV)IEプロモーター、単純疱疹ウィルスプロモーターまたはアデノウィルスプロモーターなどのウィルスプロモーターもまた使用できる。
【0103】
好適な酵母プロモーターとしては、サッカロミケス・セレビジア(S.cerevisiae)のGAL4およびADHプロモーターならびにサッカロミケス・ポンベ(S.pombe)のnmt1およびadhプロモーターが挙げられる。哺乳動物プロモーターとしては、カドミウムなどの重金属に応答して誘導できるメタロチオネインプロモーターが挙げられる。SV40大型T抗原プロモーターまたはアデノウィルスプロモーターなどのウィルスプロモーターもまた使用できる。これら全てのプロモーターが当該技術分野で容易に入手できる。
【0104】
β−アクチンプロモーターなどの哺乳動物プロモーターが使用できる。組織特異的プロモーター、特に、内皮細胞または神経細胞に特異的なプロモーター(例えば、DDAHIプロモーターおよびDDAHIIプロモーター)が特に好ましい。ウィルスプロモーター、例えば、モロニーマウス白血病ウィルス長末端反復(MMLV LTR)、ラウス肉腫ウィルス(RSV)LTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウィルス(CMV)IEプロモーター、アデノウィルス、HSVプロモーター(HSV IEプロモーターなど)、またはHPVプロモーター、特にHPV上流調節領域(URR)も使用できる。ウィルスプロモーターは当該技術分野で容易に入手できる。
【0105】
本発明の組換え発現べクターは、原核生物または真核生物の細胞中のタンパク質発現のために設計することができる。例えば、大腸菌などの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウィルス発現べクターを用いて)、酵母細胞、真菌細胞または哺乳動物細胞内にZFXタンパク質を発現させることができる。好適な宿主細胞は、Goeddel、Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185、Academmic Press、サンディエゴ、カリフォルニア州(1990)で、さらに考察されている。あるいは、例えば、T7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用い、組換え発現べクターをインビトロで転写し翻訳することができる。
【0106】
たいていの糸状菌および酵母では、安定な形質転換体を得るために、べクターまたは発現構築体を宿主細胞のゲノム内に組み込むことが好ましい。しかしながら、一定の酵母および真菌では、安定で高レベルの発現のために、発現構築体を組み込むことのできる好適なエピソームべクターもまた利用でき、その例としては、サッカロミケス(Saccharomyces)およびクリベロミケス(Kluyveromyces)それぞれの2μ、CENおよびpKD1プラスミド由来のべクター、またはAMA配列(例えば、アスペルギルス由来のAMA1)を含有するべクターが挙げられる。発現構築体が宿主細胞のゲノム内に組み込まれる場合、構築体は、ゲノム内のランダムな遺伝子座か、または、相同組換えを用いて予め決められた標的遺伝子座に組み込まれ、この場合、標的遺伝子座は、高発現遺伝子を含むことが好ましい。高発現遺伝子は、そのmRNAが、例えば、誘導条件下で、細胞の総mRNAの少なくとも0.01%(重量/重量)を構成できる遺伝子、あるいは、その遺伝子産物が、細胞の総タンパク質の少なくとも0.2%(重量/重量)を構成できる遺伝子、または分泌遺伝子産物の場合は、少なくとも0.05g/lの濃度まで分泌できる遺伝子である。
【0107】
したがって、本発明に有用な発現べクターとしては、染色体べクター、エピソームべクターおよびウィルス由来べクター、例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体要素、バキュロウィルス、パポバウィルス、ワクシニアウィルス、アデノウィルス、鶏痘ウィルス、仮性狂犬病ウィルスおよびレトロウィルスなどのウィルスに由来するべクター、ならびに、コスミドおよびファージミドなどのプラスミドとバクテリオファージの遺伝子要素に由来するものなどのそれらの組み合わせに由来するべクターが挙げられる。
【0108】
ヌクレオチド挿入体は、適切なプロモーターに操作的に結合させる必要がある。本発明のポリペプチドの発現を指示するために、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子に固有なプロモーター以外に、他のプロモーターを用いることができる。所望の発現宿主における本発明のポリペプチドの発現の指示には、プロモーターをその効率性に関して選択できる。本発明に有用であり得るプロモーターの例をほんの少数挙げると、ファージラムダPLプロモーター、大腸菌のlac、trpおよびtacプロモーター、SV40の初期および後期プロモーター、およびレトロウィルスLTRsのプロモーターがある。他の好適なプロモーターも当業者に知られている。特定の一実施形態において、真菌または酵母におけるプロリン特異的プロテアーゼの高発現レベルを指示することのできるプロモーターが好ましい。そのようなプロモーターは当該技術分野で知られている。
【0109】
本発明の宿主細胞における転写を指示することのできる種々のプロモーターを使用することができる。プロモーター配列は、高発現遺伝子由来のプロモーター配列であることが好ましい。プロモーターの由来として好ましく、および/または発現構築体の組み込みのために好ましい予め決められた標的遺伝子座に含まれる好ましい高発現遺伝子の例としては、限定はしないが、トリオース−ホスフェートイソメラーゼ類(TPI)、グリセルアルデヒド−ホスフェートデヒドロゲナーゼ類(GAPDH)、ホスホグリセレートキナーゼ類(PGK)、ピルベートキナーゼ類(PYKまたはPKI)、アルコールデヒドロゲナーゼ類(ADH)などの解糖酵素をコードする遺伝子、ならびにアミラーゼ類、グルコアミラーゼ類、プロテアーゼ類、キシラナーゼ類、セロビオヒドロラーゼ類、β−ガラクトシダーゼ類、アルコール(メタノール)オキシダーゼ類、延伸要素およびリボソームタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。好適な高発現遺伝子の特定例としては、例えば、クルイベロミセス(Kluyveromyces)種由来のLAC4遺伝子、それぞれハンゼヌラ属(Hansenula)およびピチア属 (Pichia)由来のメタノールオキシダーゼ遺伝子(AOXおよびMOX)、アスペルギルス・ニガー(A.niger)およびアスペルギルス・アワモリ(A.awamori)由来のグルコアミラーゼ(glaA)遺伝子、アスペルギルス・オリザエ(A.oryzae)TAKA−アミラーゼ遺伝子、アスペルギルス・ニデュランス(A.nidulans)gpdA遺伝子およびティ・リーセイ(T.reesei)セロビオヒドロラーゼ遺伝子が挙げられる。
【0110】
真菌発現宿主に使用するのに好ましい強力な構造性および/または誘導性のプロモーターの例は、キシラナーゼ(xlnA)、フィターゼ、ATP−シンテターゼ、サブユニット9(oliC)、トリオースホスフェートイソメラーゼ(tpi)、アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhA)、a−アミラーゼ(amy)、アミログルコシダーゼ(glaA遺伝子由来のAG)、アセトアミダーゼ(amdS)およびグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(gpd)プロモーターに関する真菌遺伝子から得ることのできるものである。
【0111】
強力な酵母プロモーターの例は、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクターゼ、3−ホスホグリセレートキナーゼおよびトリオースホスフェートイソメラーゼに関する遺伝子から得ることのできるものである。
【0112】
強力な細菌プロモーターの例は、α−アミラーゼおよびSPo2のプロモーター、ならびに細胞外プロテアーゼ遺伝子由来のプロモーターである。
【0113】
植物細胞に好適なプロモーターとしては、ノパリンシンターゼ(nos)、オクトピンシンターゼ(ocs)、マンノピンシンターゼ(mas)、リブロース小型サブユニット(rubisco ssu)、ヒストン、コメアクチン、ファゼオリン、カリフラワー・モザイク・ウィルス(CMV)35Sならびに19Sおよびシルコウィルスプロモーターが挙げられる。
【0114】
上記のプロモーターは全て、当該技術分野で容易に入手できる。
【0115】
べクターは、真核生物のゲノム配列またはウィルスのゲノム配列に相同性である配列を含んでなり、ポリヌクレオチドにフランクしていてRNAを増加させる配列をさらに含むことができる。これによって、本発明のポリヌクレオチドを宿主細胞のゲノムに導入することが可能になる。特に、真菌の配列にフランクした発現カセットを含んでなるプラスミドべクターを用いて、本発明のポリヌクレオチドを真菌細胞へ送達するのに好適なべクターを調製することができる。これらの真菌べクターを用いる形質転換技法は当業者に知られている。
【0116】
このべクターは、アンチセンスRNAの製造を提供するために、アンチセンス方向の本発明ポリヌクレオチドを含有することができる。このべクターは、アンチセンスRNAの製造を提供するために、アンチセンス方向の本発明ポリヌクレオチドを含有することができる。これを、所望の場合、ポリペプチドの発現レベルを減少させるために使用できる。
【0117】
べクターDNAは、慣例的な形質転換技法またはトランスフェクション技法によって、原核生物または真核生物の細胞内へ導入することができる。本明細書に用いられる用語「形質転換」および「トランスフェクション」は、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウムの共沈殿、DEAE−デキストラン−媒介トランスフェクション、形質導入、感染、リポフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクションまたは電気穿孔など、宿主細胞内へ外来核酸(例えばDNA)を導入するための当該技術分野で認められている種々の技法を称することが意図されている。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするための好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州、1989年)、Davisら、Basic Methods in Molecular Biology(1986)および他の実験室マニュアルに見ることができる。
【0118】
哺乳動物細胞の安定なトランスフェクションでは、使用される発現べクターおよびトランスフェクション技法に依って、外来DNAを細胞のゲノム内へ組み込むことができるのは、少ない細胞のみであることが知られている。これらの組み込み体を同定し選択するために、選択可能な(例えば、抗生物質に対する耐性)マーカーをコードする遺伝子が、対象の遺伝子と共に、一般に宿主細胞内へ導入される。好ましい選択可能なマーカーとしては、限定はしないが、薬剤に対する耐性を与えるもの、または宿主細胞における欠失を補うものが挙げられる。それらは、アセトアミダーゼの遺伝子またはcDNA(偽巣性コウジ菌(A.nidulans)、コウジ菌(A.oryzae)またはアスペルギルス・ニガー(A.niger)由来のamdS、niaD、facA遺伝子またはcDNA)またはG418、ヒグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、メソトレキサート、フレオマイシン、オルベノミル(orbenomyl)耐性(benA)のような抗生物質に耐性を提供する遺伝子などの多方面のマーカー遺伝子が、たいていの糸状菌および酵母の形質転換に使用することができる。あるいは、対応する変異宿主株を必要とする栄養要求性マーカー、例えば、URA3(サッカロミケス・セレビジア(S.cerevisiae)由来または他の酵母由来の類縁遺伝子)、pyrGまたはpyrA(偽巣性コウジ菌(A.nidulansまたはアスペルギルス・ニガー(A.niger)由来)、argB(偽巣性コウジ菌(A.nidulansまたはアスペルギルス・ニガー(A.niger)由来)またはtrpCなどの特定の選択マーカーを使用することができる。好ましい一実施形態において、選択マーカー遺伝子の無いポリペプチドを生成させることのできる形質転換宿主細胞を得るために、発現構築体の導入後に、選択マーカーを形質転換宿主細胞から除去する。
【0119】
他のマーカーとしては、ATPシンターゼ、サブユニット9(oliC)、オロチジン−5’−ホスファテデカルボキシラーゼ(pvrA)、細菌G418耐性遺伝子(これは、真菌ではなくて酵母に使用できる)、アンピシリン耐性遺伝子の大腸菌(E.coli)、ネオマイシン耐性遺伝子のバチルス属(Bacillus)および大腸菌(E.coli)uidA遺伝子、β−グルクロニダーゼ(GUS)のコード化が挙げられる。べクターは、例えば、RNA製造のために、または宿主細胞にトランスフェクトするか、形質転換させるために、インビトロで使用できる。
【0120】
原核生物におけるタンパク質の発現は、融合または非融合タンパク質の発現を指示する構成的または誘導的なプロモーターを含有するべクターによって、大腸菌内で実施されることが多い。融合べクターは、その中のコード化されたタンパク質、例えば、組換えタンパク質のアミノ酸末端に多数のアミノ酸を付加する。このような融合べクターは、一般に以下の3つの目的に役立つ:1)組換えタンパク質の発現増加;2)組換えタンパク質の溶解性増加;および3)アフィニティー精製においてリガンドとして作用することにより組換えタンパク質の精製補助。融合発現べクターには、しばしば、タンパク質分解性の開裂部位が融合部分と組換えタンパク質の接合部に導入され、融合タンパク質の精製に引き続き融合部分からの組換えタンパク質の分泌を可能にする。
【0121】
示したように、発現べクターは選択性のマーカーを含有することが好ましい。このような真核生物細胞の培養では、ジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、大腸菌および他の細菌における培養では、テトラサイクリンまたはアンピシリン耐性を含む。
【0122】
適切な宿主の代表的な例としては、大腸菌(E.coli)、ストレプトミセス属サルモネラ菌(Streptomyces Salmonella typhimurium)および一定のバチルス(Bacillus)種などの細菌細胞;アスペルギルス(Aspergillus)種などの真菌細胞、例えば、アスペルギルス・ニガー(A.niger)、アスペルギルス・オリザエ(A.oryzae)およびアスペルギルス・ニデュランス(A.nidulans)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)などの酵母、例えば、クルイベロミセス・ラクチス(K.lactis)および/またはプチア属(Puchia)、例えば、ピチア・パストリス(P.pastoris);ドロソフィラ(Drosophila)S2およびスポドプテラ(Spodoptera)Sf9などの昆虫細胞;CHO、COSおよびバウエスメラノーマ(Bowes melanoma)などの動物細胞;および植物細胞が挙げられる。上記の宿主の適切な培養培地および条件は当該技術分野で知られている。
【0123】
細菌における使用に好ましいべクターは、例えば、参照として本明細書に包含されている国際公開第A1−2004/074468号パンフレットに開示されている。他の好適なべクターも当業者には容易に明らかであろう。
【0124】
本発明における使用に好適な公知の細菌プロモーターには、参照として本明細書に包含されている国際公開第A1−2004/074468号パンフレットに開示されているプロモーターが含まれる。
【0125】
高等真核生物による本発明のポリペプチドをコードするDNAの転写は、べクター内にエンハンサー配列を挿入することにより増加させることができる。エンハンサーは、所与の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増加させる作用をする、通常、約10bpから300bpのDNAのシス作用性の要素である。エンハンサーの例としては、100bpから270bpの複製源の後期側に位置するSV40エンハンサー、サイトメガウィルスの初期プロモーターエンハンサー、複製源の後期側ポリオーマエンハンサー、およびアデノウィルスエンハンサーが挙げられる。
【0126】
小胞体の管腔内へ、細胞周辺腔内へ、または細胞外環境への翻訳タンパク質の分泌のために、適切な分泌シグナルを発現ポリペプチド内へ組み込むことができる。これらのシグナルは、前述のポリペプチドに内在性であってもよいし、異種のシグナルであってもよい。
【0127】
ZFXポリペプチドは、融合タンパク質などの修飾形態で発現させることができ、分泌シグナルのみならず、追加の異種の機能的領域を含み得る。したがって、精製時、または引き続く操作時および貯蔵時に、宿主細胞における安定性および持久性を改善するために、例えば、追加アミノ酸、特に、荷電アミノ酸の領域を、ポリペプチドのN末端に付加することができる。また、精製を促進するために、ペプチド部分をポリペプチドに付加することができる。
【0128】
本発明は、配列番号3によるアミノ酸配列、および適切な宿主に配列番号1または2のポリヌクレオチドを発現させることによって得ることのできるアミノ酸配列を有する単離ポリペプチドを提供する。また、上記のポリペプチドの機能的等価体を含んでなるペプチドまたはポリペプチドが本発明に含まれる。上記のポリペプチドは、用語「本発明によるポリペプチド」に集合的に含まれる。
【0129】
用語「ペプチド」と「オリゴペプチド」は、同義語と考えられ(一般に認められているように)、ペプチジル結合によって結合した少なくとも2つのアミノ酸の鎖を示すことを文脈が要求する際、各用語は同義的に用いることができる。用語「ポリペプチド」は、本明細書では、7を超えるアミノ酸残基を含有する鎖に対して用いられる。本明細書における全てのオリゴペプチドおよびポリペプチドの式または配列は、左から右へ、また、アミノ末端からカルボキシ末端の方向で書かれている。本明細書に用いられるアミノ酸の一文字コードは、当該技術分野で一般に知られており、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州、1989年)に見ることができる。
【0130】
「単離」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質を意味している。例えば、SmithおよびJohnson、Gene 67:31〜40頁(1988)に開示された単一ステップ精製法などの好適な技法によって実質的に精製された天然または組換えポリペプチドが単離されるように、例えば、宿主細胞内に発現された、組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、本発明の目的のために単離されていると考えられる。
【0131】
本発明によるZFXプロリン特異的プロテアーゼを、当該技術分野で知られた方法により、組換え細胞培養物から回収し精製することができる。精製には、高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を用いることが最も好ましい。
【0132】
本発明のポリペプチドには、自然精製産物、化学的合成手法の産物、細菌、酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物の細胞などの原核生物宿主または真核生物宿主からの組換え技法により産生した産物が含まれる。組換え産生法に用いられる宿主に依って、本発明のポリペプチドはグリコシル化されてもよいし、非グリコシル化でもよい。また、本発明のポリペプチドは、最初修飾メチオニン残基も含むことができ、いくつかの場合、それは宿主媒介過程の結果としてある。
【0133】
本発明はまた、本発明によるポリペプチドの生物学的活性断片も特徴とする。
【0134】
本発明のポリペプチドの生物学的活性断片には、ZFXタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号3のアミノ酸配列)に対して十分に同一性があるか、またはそれから誘導されたアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドが含まれ、これらは、完全長タンパク質よりも少ないアミノ酸を含むが、対応する完全長タンパク質のうちの少なくとも1つの生物学的活性を示す。一般に、生物学的活性断片は、ZFXタンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含んでなる。本発明のタンパク質の生物学的活性断片は、例えば、長さが10、25、50、100またはそれ以上のアミノ酸であるポリペプチドであり得る。さらに、タンパク質の他の領域が欠失している他の生物活性部分を組換え技法によって調製し、本発明のポリペプチドの天然形態の1つまたは複数の生物学的活性に関して評価することができる。
【0135】
本発明はまた、ZFXタンパク質の上記の生物学的活性断片をコードする核酸断片も特徴とする。
【0136】
本発明のタンパク質またはそれらの機能的等価体、例えば、それらの生物学的活性部分を、非ZFXポリペプチド(たとえば非相同アミノ酸配列)に操作的に結合して融合タンパク質を形成することができる。「非ZFXポリペプチド」とは、ZFXタンパク質に実質的に相同性でないタンパク質に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドのことである。このような「非ZFXポリペプチド」は、同一または異なる生物に由来するものであり得る。ZFX融合タンパク質内で、ZFXポリペプチドは、ZFXタンパク質の全てまたはその生物学的活性断片に相当し得る。好ましい一実施形態において、ZFX融合タンパク質は、ZFXタンパク質の少なくとも2つの生物学的活性部分を含んでなる。融合タンパク質内で、用語「操作的に結合された」とは、ZFXポリペプチドと非ZFXポリペプチドが互いにインフレームで融合していることを示すことが意図されている。非ZFXポリペプチドは、ZFXポリペプチドのN末端またはC末端に融合することができる。
【0137】
例えば、一実施形態において、融合タンパク質は、ZFX配列がGST配列のC末端に融合しているGST−ZFX融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、組換えZFXの精製を促進することができる。別の実施形態において、融合タンパク質は、そのN末端に異種シグナル配列を含有するZFXタンパク質である。一定の宿主細胞(例えば、哺乳動物および酵母の宿主細胞)において、ZFXの発現および/または分泌は、異種シグナル配列の使用によって増加させることができる。
【0138】
別の例において、バキュロウィルスのエンベロープタンパク質のgp67分泌配列を、異種シグナル配列として使用することができる(Current Protocol in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley & Sons、1992年)。真核生物の異種シグナル配列の別の例としては、メリチン(melittin)およびヒトの胎盤アルカリホスファターゼの分泌配列が挙げられる(Stratagene;ラジョラ、カリフォルニア州)。さらに別の例では、有用な原核生成物の異種シグナル配列として、phoA分泌シグナル(Sambrookら、上記)およびタンパク質A分泌シグナル(Pharmacia Biotech;ピスカタウェイ、ニュージャージー州)が挙げられる。
【0139】
シグナル配列は、本発明のタンパク質またはポリペプチドの分泌および単離を促進するために用いることができる。シグナル配列は、1つまたは複数の開裂事象の際に成熟タンパク質から一般に開裂される疎水性アミノ酸のコアを一般に特徴とする。このようなシグナルペプチドは、成熟タンパク質が分泌経路を通過する際にそれらからのシグナル配列の開裂を可能にするプロセシング部位を含有する。シグナル配列は、発現べクターが形質転換されている真核生物宿主からのタンパク質分泌などのタンパク質の分泌を指示し、このシグナル配列は引き続き、または同時に開裂される。次いでこのタンパク質を公知の方法により、細胞外の媒体から容易に精製することができる。あるいは、このシグナル配列を、GSTドメインなど、精製を促進する配列を用いて、対象のタンパク質に結合させることができる。したがって、例えば、ポリペプチドをコードする配列を、融合ポリペプチドの精製を促進させるペプチドをコードする配列などのマーカー配列に融合させることができる。本発明のこの態様の一定の好ましい実施形態において、マーカー配列は、とりわけ、pQEべクター(Qiagen社)において提供されたタグなどのヘキサヒスチジンペプチドであり、それらの多くは市販品として入手できる。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821〜824頁(1989)に記載されているように、ヘキサヒスチジンによって、融合タンパク質の簡便な精製が提供される。HAタグは、精製に有用な別のペプチドであり、これは、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質由来のエピトープに相当し、例えば、Wilsonら、Cell37:767頁(1984)により記載されている。
【0140】
配列番号3のアミノ酸配列のような分泌酵素は、しばしばプレ配列またはシグナル配列および/またはプロ配列を含んで合成される。これらの配列は、分泌過程の間に、またはその後に、タンパク質から除去されることが多い。したがって、成熟分泌タンパク質は、これらのプレ配列およびプロ配列をもはや含有しないことが多い。可能なプレ配列またはプロ配列を欠いた配列番号3の処理された型は本発明の一部である。配列番号3のアミノ酸配列における可能な処理部位は、アミノ酸20のカルボキシ末端に位置している。本発明による成熟酵素は、この場合、アミノ酸ナンバー21から開始することになる。酵素の活性を妨害しない限り、さらなる処理による配列番号3のアミノ酸配列由来の他の修飾体も可能である。
【0141】
本発明のZFX融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技法によって産生される。例えば、種々のポリペプチド配列をコードするDNA断片を、慣例的な技法、例えば、結合のためのブラント終止末端またはスタガー終止末端の使用、適切な末端を提供するための制限酵素消化、適切な相補末端の埋め込み、望ましくない結合を避けるためのアルカリホスファターゼ処理、および酵素的結合により、インフレームで共に結合させる。別の実施形態では、自動DNA合成機などの慣例的技法によって、融合遺伝子を合成することができる。あるいは、2つの連続した遺伝子断片の間の相補的オーバーハングを増加させるアンカープライマーを用いて、遺伝子断片のPCR増幅を実施することができ、次いで、これをアニールし再増幅させ、キメラ遺伝子配列を作出することができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Willy & Sons:1992年を参照)。さらに、融合部分(例えば、GSTポリペプチド)をすでにコードしている多くの発現べクターを市販品として入手できる。融合部分がZFXタンパク質にインフレームで結合されるように、このような発現べクターに、ZFXをコードする核酸をクローン化することができる。
【0142】
「変異体」、「機能的変異体」および「機能的等価体」という用語は、本明細書において同義的に用いられる。ZFXポリヌクレオチドの変異体/機能的等価体は、本明細書で定義したZFXペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)プロリン特異的プロテアーゼの特定の機能を示すポリペプチドをコードする単離核酸断片である。本発明によるZFXポリペプチドの機能的等価体は、本明細書で定義したペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)プロリン特異的プロテアーゼの少なくとも1つの機能を示すポリペプチドである。したがって、機能的等価体は生物学的活性断片も包含する。
【0143】
したがって、本発明のポリペプチドは、配列番号3に示されたアミノ酸配列、または実質的に相同的な配列、またはプロリン特異的プロテアーゼ活性を有するいずれかの配列の断片を含んでなる。一般に、配列番号3に示された天然のアミノ酸配列が好ましい。
【0144】
本発明のポリペプチドはまた、配列番号3のポリペプチドに相同的な天然変異体または種を含んでなることもできる。
【0145】
変異体は、例えば、真菌、細菌、酵母または植物の細胞における天然のポリペプチドであり、プロリン特異的プロテアーゼ活性および配列番号3のタンパク質に実質的に類似した配列を有する。用語「変異体」とは、配列番号3のプロリン特異的プロテアーゼと本質的に同じ特徴または基本的な生物学的機能を有するポリペプチドのことである。変異ポリペプチドは、配列番号3のポリペプチドと少なくとも同じレベルのプロリン特異的プロテアーゼ活性を有することが好ましい。変異体には、配列番号3のポリペプチドと同じ株に由来する、または同じ属または種の異なる株に由来する対立遺伝子変異体が含まれる。
【0146】
同様に、本発明のタンパク質の種相同体は、プロリン特異的プロテアーゼであって、天然で別の種に生じる同様の配列の等価なタンパク質である。
【0147】
変異体および種相同体は、本明細書に記載された手法を用い,このような手法を、好適な細胞源、例えば、細菌、酵母、真菌または植物細胞に実施して単離することができる。配列番号3のポリペプチドの変異体または種相同体を発現するクローンを得るために、酵母、細菌、真菌または植物細胞から作製されたDNAライブラリーの探索を目的に本発明のプローブを用いることも可能である。既知の遺伝子の変異体および種相同体を単離するために使用できる方法は、文献に広範に記載されており、当業者に知られている。これらの遺伝子は、慣例的な技法により操作して本発明のポリペプチドを作出することができ、その後、それ自体知られている組換え技法または合成技法により産生させることができる。
【0148】
機能性タンパク質またはポリペプチドの等価体は、配列番号3の1つまたは複数のアミノ酸配列の保存的置換のみ、または非必須アミノ酸の置換、挿入もしくは削除を含むことができる。したがって、非必須アミノ酸は、実質的に生物学的機能を変えることなく配列番号3において変化させることができる残基である。
【0149】
すなわち、配列番号3のポリペプチド配列および変異体ならびに種相同体の配列を修飾して本発明のポリペプチドを提供することもできる。アミノ酸置換は、例えば、1つ、2つまたは3つから10、20または30の置換により作製することができる。同じ数の削除および挿入も行うことができる。これらの変換は、ポリペプチド機能にとって重要な領域の外側で一般に行うことができ、したがって、このような修飾ポリペプチドは、プロリン特異的プロテアーゼ活性を保持することになる。
【0150】
用語「保存的置換」とは、アミノ酸残基が、同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換える置換を示すことが意図されている。これらのファミリーは、当該技術分野で知られており、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニンおよびヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ−分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が含まれる。
【0151】
本発明のポリペプチド類には、配列番号3に示された配列の断片など、上記の完全長ポリペプチド類の断片およびそれらの変異体の断片が含まれる。このような断片は、プロリン特異的プロテアーゼとしての活性を一般的に保持するであろう。断片は、少なくとも50、100または200のアミノ酸長であり得るか、または配列番号3に示された完全長配列に達しないこのアミノ酸数であり得る。
【0152】
本発明のポリペプチド類は、必要ならば、合成手段によって製造できるが、通常それらは、上記のとおり組換えによって作製されるであろう。合成および組換えのポリペプチド類は、例えば、ヒスチジン残基またはT7タグの付加により修飾して、それらの同定または精製を補助できるか、またはシグナル配列の付加により細胞からのそれらの分泌を促進させることができる。
【0153】
このように、変異体配列は、配列番号3のポリペプチドを単離した株以外のぺニシリウム属(Penicillium)の株に由来するものを含むことができる。変異体は、本明細書に記載されたようにプロリン特異的活性の探索およびクローン化ならびに配列決定により他のぺニシリウム属(Penicillium)の株から同定することができる。ペプチドが、配列番号3のプロリン特異的プロテアーゼの基本的な生物学的機能性を維持する限り、変異体は、タンパク質配列内の単一のアミノ酸またはアミノ酸群の削除、修飾または付加を含むことができる。
【0154】
アミノ酸置換は、例えば、1つ、2つまたは3つから10、20または30の置換を行うことができる。修飾されたポリペプチドは、一般にプロリン特異的プロテアーゼとしての活性を保持する。保存的アミノ酸置換を行うことができ;このような置換は当該技術分野でよく知られている。
【0155】
より短いか、またはより長いポリペプチド配列は、本発明の範囲内にある。例えば、長さが少なくとも50のアミノ酸または100、150、200、300、400、500、600、700または800までのアミノ酸のペプチドは、配列番号3のプロリン特異的プロテアーゼの基本的な生物学的機能性を示す限り、本発明の範囲内に入ることが考慮されている。特に、排他的ではないが、本発明のこの態様は、タンパク質が完全タンパク質配列の断片である状況を包含している。
【0156】
本発明に関して、対象のタンパク質は、増殖用培地中に活発に分泌されることが好ましい。分泌されたタンパク質は通常、元来タンパク質前駆体として合成され、引き続きプレ配列(シグナル配列)は、分泌過程時に除去される。この分泌過程は、基本的には原核生物と真核生物とで類似しており:活発に分泌されたタンパク質前駆体は、膜を通り抜け、シグナル配列は、特異的シグナルペプチダーゼにより除去され、成熟タンパク質は、(再度)折りたたまれる。また、シグナル配列に関して、一般的構造を認めることができる。分泌に関するシグナル配列は、タンパク質前駆体のアミノ末端に位置し、一般に長さが15〜35のアミノ酸である。このアミノ末端は、正電荷のアミノ酸を含むことが好ましく、酸性アミノ酸を含まないことが好ましい。この正電荷領域は、膜のリン脂質の負電荷の先端基と相互作用すると考えられる。この領域に引き続いて、疎水性、膜貫通コア領域がある。この領域は、一般に長さが10〜20のアミノ酸であり、主として疎水性アミノ酸から成る。荷電アミノ酸は、通常この領域に存在しない。膜貫通領域に引き続いて、シグナルペプチダーゼに対する認識部位がある。この認識部位は、優先的に小型−X−小型のアミノ酸から成る。小型アミノ酸は、アラニン、グリシン、セリンまたはシステインであり得る。Xは、任意のアミノ酸であり得る。
【0157】
機能的核酸の等価体は一般的に、沈黙変異またはコード化ポリペプチドの生物学的機能を変えることのない変異を含むことができる。したがって、本発明は、特定の生物学的活性に必須ではないアミノ酸残基の変換を含むZFXタンパク質をコードする核酸分子を提供する。このようなZFXタンパク質は、アミノ酸配列が配列番号3とは異なるが、少なくともその1つの活性を保持する。一実施形態において、単離された核酸分子は、配列番号3に示されたアミノ酸配列に対して、少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の相同性を有する実質的に相同性のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含んでなる。
【0158】
例えば、表現型として沈黙アミノ酸置換の作製方法に関する指針は、Bowie,J.U.ら、Science247:1306〜1310頁(1990)およびその中に引用される参照文献に提供されている。それらの著者が述べているように、これらの研究により、驚くべきことに、タンパク質はアミノ酸置換に対して許容性であることが判明した。さらに著者は、タンパク質の一定の位置においてどんな変換が許容され易いかを示している。
【0159】
1つ以上のアミノ酸置換、削除または挿入が、コード化タンパク質に導入されるように、配列番号3によるタンパク質に相同的なZFXタンパク質をコードする単離核酸分子は、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、付加または削除を配列番号1または2によるコード化ヌクレオチド配列へ導入することにより作出することができる。このような変異は、部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発など、標準的な技法により導入することができる。
【0160】
用語「機能的等価体」は、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)のプロリン特異的プロテアーゼタンパク質のオルトローグ(Orthologues)も包含される。ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)ZFXタンパク質のオルトローグは、他の株または種から単離することができ、類似または同一の生物学的活性を有するタンパク質である。このようなオルトローグは、配列番号3に実質的に相同性であるアミノ酸配列を含んでなるものとして容易に同定することができる。
【0161】
本明細書に定義されるように、用語「実質的に相同性」とは、第一および第二のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列が共通のドメインを有するように、第二のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に対して十分なまたは最少の数の同一または等価な(例えば、類似の側鎖を有する)アミノ酸またはヌクレオチドを含有する第一のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列のことである。例えば、約60%、好ましくは65%、より好ましくは70%、さらにより好ましくは75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%またはそれ以上の同一性を有する共通のドメインを含有するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列は、十分に同一性なものとして本明細書に定義される。
【0162】
また、他のZFXファミリーメンバーをコードする核酸、したがって配列番号1または2とは異なるヌクレオチド配列を有する核酸も本発明の範囲内に入る。さらに、配列番号1または2とは異なるヌクレオチド配列を有することができる異種に由来するZFXタンパク質をコードする核酸が、本発明の範囲内に入る。
【0163】
本発明のZFXポリヌクレオチドの変異体(例えば、天然の対立遺伝子変異体)および相同体に対応する核酸分子は、好ましくは高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標準的なハイブリダイゼーション技法に従ったハイブリダイゼーションプローブとして、本明細書に開示されたcDNA類またはそれらの好適な断片を用いて本明細書に開示されたZFX核酸に対するそれらの相同性に基づいて単離することができる。
【0164】
ZFX配列の天然の対立遺伝子変異体に加えて、当業者は、配列番号1または配列番号2のヌクレオチド配列への変異により変換を導入することができ、それによってZFXタンパク質の機能を実質的に変えることなくZFXタンパク質のアミノ酸配列における変換が導かれることを認識するであろう。
【0165】
本発明の別の態様において、改善されたZFXタンパク質が提供される。改善されたZFXタンパク質は、少なくとも1つの生物学的活性が改善されているタンパク質である。このようなタンパク質は、飽和変異誘発などにより、ZFXコード配列の全てまたは一部に沿って無作為に変異を導入することによって得ることができ、得られた変異体は、組換え発現し生物学的活性に関してスクリーンすることができる。例えば、この技術によって、プロリン特異的プロテアーゼの酵素活性を測定する標準的なアッセイが提供され、したがって改善されたタンパク質が容易に選択できる。
【0166】
好ましい実施形態において、ZFXタンパク質は、配列番号3によるアミノ酸配列を有する。別の実施形態において、ZFXポリペプチドは、配列番号3によるアミノ酸配列と実質的に相同性であり、一般的には、配列番号3によるポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を保持し、しかも上記のとおり、天然の変異または変異誘発によってアミノ酸配列が異なっている。
【0167】
さらに好ましい実施形態において、ZFXタンパク質は、好ましくは高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、配列番号1または2による核酸にハイブリダイズできる単離核酸断片によりコードされたアミノ酸配列を有する。
【0168】
したがって、ZFXタンパク質は、配列番号3に示されたアミノ酸配列に対して少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上相同性である(すなわち、配列同一性を共有する)アミノ酸配列を含んでなるタンパク質であることが好ましい。一般的には、このようなタンパク質は、例えば、プロリン特異的プロテアーゼ活性に関して配列番号3によるポリペプチドの少なくとも1つの機能的活性を保持する。
【0169】
本発明によるタンパク質の機能的等価体は、例えば、プロリン特異的プロテアーゼ活性に関して本発明のタンパク質の変異体、例えば、切断変異体の組合わせライブラリーをスクリーニングすることにより同定することもできる。一実施形態において、変異体のまだらライブラリーが、核酸レベルにおける組合わせ変異誘発により作出される。潜在的タンパク質配列の縮退セットが、個々のポリペプチドとして、あるいは、より大型の融合タンパク質のセットとして発現できるように(例えば、ファージ表示に関して)、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を遺伝子配列に酵素的に結合させることにより、変異体のまだらライブラリーを作製することができる。縮退オリゴヌクレオチド配列から本発明のポリペプチドの潜在的変異体のライブラリーを作製するために種々の方法が使用できる。縮退オリゴヌクレオチドを合成する方法は、当該技術分野で知られている(例えば、Narang(1983)Tetrahedron 39:3頁;Itakuraら(1984)Annu.Rev.Biochem.53:323頁;Itakuraら(1984)Science 198:1056頁;Ikeら(1983)Nucleic Acid Res.11:477頁を参照)。
【0170】
また、本発明のポリペプチドのコード化配列の断片ライブラリーを用いて,引き続く変異体選択のスクリーニングをするためのポリペプチドのまだら集団を作出することができる。例えば、1分子当り約1回のみのニッキングが生じる条件下で、作出する対象のコード配列の二本鎖PCR断片をヌクレアーゼにより処理し、二本鎖DNAを変性させ、DNAを再生して種々のニック産物からセンス/アンチセンス対を含むことのできる二本鎖DNAを形成し、S1ヌクレアーゼによる処理によって、再形成された二重鎖から一本鎖部分を除去し、得られた断片ライブラリーを発現ベクターに結合させることによって、コード配列断片のライブラリーを作出することができる。この方法により、種々のサイズの対象タンパク質のN末端および内部断片をコードする発現ライブラリーを誘導することができる。
【0171】
切断の点変異により作製された組合わせライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングするため、また選択された性質を有する遺伝子産物に関するcDNAライブラリーをスクリーニングするための幾つかの技法が当該技術分野で知られている。大型遺伝子ライブラリーをスクリーニングするために、高スループット分析に受け入れられる最も広く用いられる技法としては、典型的には、複製可能な発現ベクター内に遺伝子ライブラリーをクローン化すること、得られたベクターのライブラリーにより適切な細胞を形質転換させること、所望の活性の検出により遺伝子産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離が促進する条件下で、組合わせ遺伝子を発現させることが挙げられる。本発明のタンパク質の変異体を同定するために、ライブラリーにおける機能性変異体の頻度を増強させる技法である再帰的集団変異誘発(REM)は、スクリーニングアッセイと組合わせて使用することができる(ArkinおよびYourvan(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7811〜7815頁;Delgraveら(1993)Protein Engineering 6(3):327〜331頁)。
【0172】
当然のことながら、当業者は、ルーチン的技法を用いて、本発明のポリヌクレオチドにコードされたポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行い、本発明のポリペプチドを発現させる任意の特定の宿主生物のコドン使用に反映させることができる。
【0173】
配列番号1および/または配列番号2のコード配列は、ヌクレオチドの置換、例えば、1つ、2つまたは3つから10、25、50、100またはそれ以上の置換により修飾することができる。配列番号1および/または配列番号2のポリヌクレオチドを、1つまたは複数の挿入および/または削除および/またはいずれかの末端または両末端における伸長により、代わりにまたはさらに修飾することができる。修飾ポリヌクレオチドは、一般にプロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチドをコードする。例えば、後にポリペプチドに関して検討されるように、縮退置換を行うことができ、および/または修飾配列が翻訳される際に保存的アミノ酸置換が生じると考えられる置換を行うことができる。
【0174】
本発明により提供された配列は、「第二世代」酵素の構成のための出発物質として使用することもできる。「第二世代」のプロリン特異的プロテアーゼは、変異誘発(例えば、部位特異的変異誘発または遺伝子混合技法)により変化させたプロリン特異的プロテアーゼであり、これは、野生型プロリン特異的プロテアーゼの性質、または本発明により産生されたものなどの組換えプロリン特異的プロテアーゼとは異なる性質を有する。例えば、それらの温度または最適pH、特異的活性、基質親和力または熱安定性を、特定の工程における使用に、より良好に適合させるために変化させることができる。
【0175】
本発明のプロリン特異的プロテアーゼの活性に必須であり、したがって好ましくは、置換に供されるアミノ酸は、部位特異的変異誘発またはアラニン走査変異誘発など、当該技術分野で知られた手法に従って同定することができる。後者の技法における変異は、分子中の全ての残基に導入され、得られた変異体分子を、生物学的活性(例えば、プロリン特異的プロテアーゼ活性)に関して試験し、分子の活性に重要なアミノ酸残基を同定する。酵素−基質相互作用の部位は、核磁気共鳴、結晶構造解析または光学的親和性標識などの技法により測定された結晶構造の分析によって決定することもできる。
【0176】
遺伝子混合技法は、ポリヌクレオチド配列に変異を導入するための無作為な方法を提供する。発現後、最良の性質を有する単離体を再度単離し、結合し、再度混合すると遺伝子多様性が増加する。この手法を多数回反復することにより、大いに改善されたタンパク質をコードする遺伝子を単離することができる。遺伝子混合技法は、類似の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子ファミリーにより出発することが好ましい。本発明により提供されたポリヌクレオチド配列のファミリーは、遺伝子混合に十分に好適であり、分泌されたプロリン特異的プロテアーゼの性質を改善すると考えられる。
【0177】
あるいは、NTG処理またはUV変異誘発による変異誘発など、古典的な無作為変異誘発技法と選択とを用いて、タンパク質の性質を改善することができる。変異誘発は、単離DNAに対して直接、または対象のDNAで形質変換させた細胞に対して実施することができる。あるいは、当業者に知られている多くの技法により単離DNA内に変異を導入することができる。これらの方法の例には、えらー傾性のPCR、修復欠損の宿主細胞におけるプラスミドDNAの増幅などがある。
【0178】
配列番号1または2に示されたZFX遺伝子配列に加えて、ZFXタンパク質のアミノ酸配列の変換に至る可能性のあるDNA配列の多型性が、所与の集団内に存在し得ることは当業者にとって明らかであろう。このような遺伝子多型性は、種々の集団からの細胞内または天然の対立遺伝子変異により集団内に存在し得る。対立遺伝子の変異体は、機能性等価体を含むこともできる。
【0179】
本発明によるポリヌクレオチドの断片は、機能的ポリペプチドをコードしないポリヌクレオチド類を含むこともできる。このようなポリヌクレオチド類は、PCR反応用のためのプローブまたはプライマーとして機能し得る。
【0180】
機能的ポリヌクレオチドコードするか、非機能的ポリヌクレオチドをコードするかに係わりなく、本発明による核酸は、ハイブリダイゼーションのプローブまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のプライマーとして使用することができる。ZFX活性を有するポリペプチドをコードしない本発明の核酸分子の用途としては、とりわけ、(1)ZFXタンパク質をコードする遺伝子、またはcDNAライブラリー由来、例えば、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)以外の他の生物由来のZFXタンパク質の対立遺伝子変異体を単離すること;(2)Vermaら、Human Chromosomes:a Manual of Basic Techniques,Pergamon Press、ニューヨーク(1988)に記載されるような、ZFX遺伝子の正確な染色体位置を提供するために、分裂中期の染色体スプレッドに対するインサイチュハイブリダイゼーション(例えば、FISH);(3)特定の組織および/または細胞におけるZFX mRNAの発現を検出するためのノーザンブロット解析;および4)所与の生物学的(例えば、組織)サンプル中のZFXプローブにハイブリダイズできる核酸の存在を分析するための診断ツールとして使用することができるプローブおよびプライマーが挙げられる。
【0181】
ZFX遺伝子の機能的等価体を得る方法もまた本発明に包含される。このような方法には、配列番号3によるタンパク質配列の全てもしくは一部またはそれらの変異体をコードする単離核酸を含む標識プローブを得ること:ライブラリーの核酸断片への標識プローブのハイブリダイゼーションを可能にする条件下で、この標識プローブにより核酸断片のライブラリーをスクリーニングし、それによって核酸二重鎖を形成し、任意の標識二重鎖における核酸断片から完全長遺伝子配列を調製してZFX遺伝子に関連する遺伝子を得ること;が伴う。
【0182】
一実施形態において、本発明のZFX核酸は、配列番号1または配列番号2に示された核酸配列またはそれらのいずれかの相補体に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上相同性である。
【0183】
別の実施形態において、本発明は、本発明により包含された核酸を含有する細胞、例えば、形質変換細胞または組換え宿主細胞を特徴とする。「形質転換細胞」または「組換え細胞」は、組換えDNA技法によって本発明による核酸をそれに、またはその祖先に導入した細胞である。原核細胞および真核細胞双方には、例えば、細菌、真菌、酵母などが含まれ、糸状菌、特にアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が特に好ましい。
【0184】
したがって、本発明は、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチドまたはベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。このポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノムに非相同的であり得る。通常、宿主細胞に関する用語「非相同的」とは、このポリヌクレオチドが、天然では宿主細胞のゲノムに生じないか、またはこのポリペプチドが、天然ではその細胞により産生されないことを意味する。
【0185】
挿入された配列の発現を調節するか、または特定の所望の様式で遺伝子産物を修飾または処理加工する宿主細胞を選択することができる。タンパク質産物のこのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセシング(例えば、開裂)は、タンパク質の最適な機能を促進し得る。
【0186】
種々の宿主細胞は、タンパク質および遺伝子産物の翻訳後のプロセシングおよび修飾に対して特徴的で特定の機序を有する。発現された異種タンパク質の所望の正しい修飾およびプロセシングを確実にするために、分子生物学および/または微生物学の当業者の熟知した適切な細胞系または宿主系を選択することができる。最後に、遺伝子産物の一次転写、グリコシル化、およびリン酸化の適切なプロセシングに関する細胞機構を有する真核生物の宿主細胞を使用することができる。このような宿主細胞は当該技術分野でよく知られている。
【0187】
所望ならば、上記の細胞を本発明によるポリペプチドの調製に使用することができる。このような方法は、ポリペプチドをコードするコード配列の発現(ベクターによる)を提供する条件下で、宿主細胞(例えば、上記のとおり発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトした)の培養、および場合によっては、発現ポリペプチドの回収を一般的に含んでなる。
【0188】
本発明のポリヌクレオチドを、組換えの複製可能ベクター、例えば、発現ベクターに導入することができる。このベクターを用いて、適合性の宿主細胞中に核酸を複製することができる。
【0189】
このようにさらなる実施形態において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを複製可能なベクターに導入し、このベクターを適合性宿主細胞に導入し、ベクターの複製をもたらす条件下で宿主細胞を増殖させることにより、本発明のポリヌクレオチドを作製する方法を提供する。このベクターは宿主細胞から回収することができる。
【0190】
好適な宿主細胞としては、大腸菌(E.coli)などの細菌、酵母、哺乳動物の細胞系ならびに他の真核細胞系、例えば、Sf9細胞などの昆虫細胞および(例えば、糸状)菌細胞が挙げられる。
【0191】
ポリペプチドは、分泌タンパク質として産生されることが好ましく、その場合、発現構築体中のポリペプチドの成熟形態をコードするヌクレオチド配列は、シグナル配列をコードするヌクレオチド配列に操作的に結合する。シグナル配列は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に対して固有(相同性)であることが好ましい。あるいは、シグナル配列は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に対して外来種(非相同性)であり、その場合、シグナル配列は、本発明によるヌクレオチド配列を発現する宿主細胞に内在性であることが好ましい。酵母宿主細胞に好適なシグナル配列の例は、酵母a−因子遺伝子に由来するシグナル配列である。同様に、糸状菌宿主細胞に好適なシグナル配列は、例えば、糸状菌アミログルコシダーゼ(AG)遺伝子、例えば、アスペルギルス・ニガー(A.niger)glaA遺伝子に由来するシグナル配列である。これは、((グルコ)アミラーゼとも呼ばれる)プロモーター自体と組合わせて、また、他のプロモーターと組合わせて使用することができる。ハイブリッドシグナル配列を、本発明の文脈により使用することもできる。
【0192】
好ましい非相同性分泌リーダー配列は、真菌アミログルコシダーゼ(AG)遺伝子(例えば、アスペルギルス属(Aspergillus)由来のglaA−18およびglaA−24双方のアミノ酸版)、α−因子遺伝子(酵母、例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)およびクルイベロミセス属(Kluyveromyces))またはα−アミラーゼ遺伝子(バチルス属(Bacillus))に由来するものである。
【0193】
上記のとおり、ベクターは、好適な宿主細胞に形質転換またはトランスフェクトして、本発明のポリペプチドの発現を提供することができる。上記のとおり、この方法は、ポリペプチドをコードするコード配列のベクターによる発現を提供する条件下で、発現ベクターなどのベクターにより形質転換された宿主細胞の培養、および場合によっては、発現されたポリペプチドの回収を含むことができる。
【0194】
本発明は、このような方法により得ることが可能な、または得られたポリペプチドを包含する。
【0195】
好ましい実施形態において、本発明のポリペプチドは、真菌、より好ましくは、アスペルギルス属(Aspergillus)、最も好ましくは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から産生される。
【0196】
このように本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターにより形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞または本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの複製および発現のためのベクターに担持されることが好ましい。前記ベクターに適合する細胞が選択され、例えば、それらは、原核生物(例えば、細菌)、真菌、酵母または植物細胞であり得る。
【0197】
好適な宿主細胞は、細菌などの原核微生物が好ましく、または真核生物、例えば、酵母もしくは糸状菌などの真菌類、または植物細胞がより好ましい。一般に、酵母細胞は操作し易いため、酵母細胞は真菌細胞よりも好ましい。しかしながら、タンパク質の幾つかは、酵母からの分泌が乏しいか、または幾つかの場合、適切に処理加工されない(例えば、酵母における過度のグリコシル化)。これらの場合は、真菌宿主生物を選択する必要がある。
【0198】
宿主細胞は、ポリペプチドを過剰発現する可能性があり、過剰発現を操作する技法はよく知られている。このように宿主は、コード化ポリヌクレオチドの2つ以上のコピーを有し得る(したがってベクターは2つ以上のコピーを有し得る)。
【0199】
バチルス(Bacillus)属由来の細菌は、培養培地中にタンパク質を分泌させる能力があるため、非相同性宿主として極めて好適である。宿主として好適な他の細菌は、ストレプトミセス属(Streptomyces)およびシュードモナス属(Pseudomonas)に由来するものである。ポリペプチドをコードするDNA配列の発現にとって好ましい酵母宿主細胞は、サッカロミセス(Saccharomyces)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、ピチア属(Pichia)、ヤロウィア属(Yarrowia)、およびシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)である。
【0200】
酵母宿主細胞は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)種、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)種(クルイベロミセスマルキシアヌス・バル・ラクチス(Kluyveromycesmarxianus var.lactis)としても知られている)、ハンゼヌラポリモルファ(Hansenulapolymorpha)種、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)種、ヤロウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)種およびシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)種よりなる群からの選択がより好ましい。
【0201】
しかしながら、真菌(例えば、糸状菌)宿主細胞が最も好ましい。好ましい糸状菌宿主細胞は、アスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルンザ属(Trichodernza)、フサリウム属(Fusarium)、ディスポロトリチュム属(Disporotrichum)、ペニシリウム属(Penicillium)、アクレモニウム属(Acremonium)、ニューロスポラ属(Neurospora)、テルモアスクス属(Thermoascus)、ミセリオフトラ属(Myceliophtora)、スポロトリクム属(Sporotrichum)、シーラビア属(Thielavia)およびタラロミセス属(Talaromyces)よりなる群から選択される。
【0202】
糸状菌宿主細胞は、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)種、アスペルギルス・ソジャエ(Aspergillus sojae)種、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)種、またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)種群からのものがより好ましい。これらには、限定はしないが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)種、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillusawamori)種、アスペルギルス・ツビンゲンシス(Aspergillus tubingensis)種、アスペルギルス・アクレアツス(Aspergillus aculeatus)種、アスペルギルス・フォエチデュス(Aspergillus foetidus)種、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)種、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)種、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)種ならびにアスペルギルス・フィクム(Aspergillus ficuum)種が含まれ、さらに、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)種、フサリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)種、ペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum)種、アクレモニウム・アラバメンス(Acremonium alabamense)種、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)種、ミセリオフトラ・テルナオフィルリ(Myceliophtora thernaophilurri)種、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)種、ディスポロトリクム・ジモルフォスポルム(Disporotrichum dimorphosporum)種およびシーラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)種からなる。
【0203】
本発明の範囲内の好ましい発現宿主の例は、アスペルギルス(Aspergillus)種などの真菌(特に欧州特許出願公開第184,438号明細書および欧州特許出願公開第284,603号明細書に記載されたもの)およびトリコデルマ(Trichoderma)種;バチルス(Bacillus)種などの細菌(特に欧州特許出願公開第134,048号明細書および欧州特許出願公開第253,455号明細書に記載されたもの)、特に枯草菌(Bacillus subtilis)種、バチルス・リケニホルミス菌(Bacillus licheniformis)種、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)種、シュードモナス(Pseudomonas)種;およびクルイベロミセス(Kluyveromyces)種などの酵母(特にクルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)など欧州特許第096,430号明細書および欧州特許第301,670号明細書に記載されたもの)およびサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)種である。
【0204】
本発明は、ポリペプチドをコードするDNA配列の組換え発現による本発明のポリペプチドの製造方法を包含する。この目的で、好適な相同性または非相同性宿主細胞におけるポリペプチドの経済的製造を可能にするために、発現シグナルの遺伝子増幅および/または交換にプロモーター、分泌シグナル配列などの本発明のDNA配列を使用することができる。相同性宿主細胞は、DNA配列が誘導される種と同一種の宿主細胞であるか、または同じ種内変異体の宿主細胞である。通常、宿主細胞に関する用語「非相同性」とは、ポリヌクレオチドが、宿主細胞のゲノムにおいて天然に生じないか、またはポリペプチドが、その細胞により天然に産生されないことを意味する。
【0205】
したがって、本発明は、組換えDNA技法を用いてペニシリウムコード化酵素の過剰産生により新たに同定された分泌プロリン特異的プロテアーゼを大量に、かつ比較的純粋形態で産生するための改善された手段を提供する。これを実施する好ましい方法は、食品グレードの宿主微生物におけるこのような分泌プロリン特異的プロテアーゼの過剰産生による方法である。よく知られた食品グレードの微生物としては、コウジカビ(Aspergilli)、トリコデルマ属(Trichoderma)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、桿菌(Bacilli)およびサッカロミセス属(Saccharomyces)ならびにクルイベロミセス属(Kluyveromyces)などの酵母が挙げられる。これを実施するさらにより好ましい方法は、アスペルギルス属(Aspergillus)などの食品グレードの真菌における分泌ペニシリウム由来のプロリン特異的プロテアーゼの過剰産生による方法である。最も好ましいのは、プロリン特異的プロテアーゼコード化遺伝子のコドンの使用法が、使用される食品グレードの発現宿主に関して最適化された食品グレードの真菌における分泌プロリン特異的プロテアーゼの過剰産生である。一般に、後者の最適化経路を可能にするために、分泌プロリン特異的プロテアーゼのユニークな配列情報が望ましい。より好ましくは、プロリン特異的プロテアーゼコード化遺伝子の全ヌクレオチド配列が入手可能である必要がある。分泌プロリン特異的プロテアーゼをコードする遺伝子が、好ましい宿主において形質転換されると、発酵ブロスからの分泌プロリン特異的プロテアーゼタンパク質の発酵および単離のために選択された株を使用することができる。
【0206】
本発明による宿主細胞には、植物細胞が含まれ、それ故、本発明は、本発明の1つ以上の細胞を含有する植物およびそれらの一部などのトランスジェニック生物に拡張される。これらの細胞は、本発明のポリペプチドを非相同的に発現し得るか、または本発明の1つまたは複数のポリヌクレオチドを非相同的に含有し得る。それ故、トランスジェニック(または遺伝子修飾された)植物は、本発明の1つまたは複数のポリペプチドをコードする配列をそのゲノムに(例えば、安定に)挿入されたものであり得る。植物細胞の形質転換は、既知の技法、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のTiまたはRiプラスミドを用いて実施することができる。したがって、このプラスミド(またはベクター)は、植物の感染に必要な配列を含有することができ、Tiプラスミドおよび/またはRiプラスミドの誘導体を使用することができる。
【0207】
あるいは、葉、根または幹など、植物の一部への直接感染を実施することができる。この技法において、感染を受ける植物は、例えば、かみそりによる植物の切断または針による植物の穿刺または研磨による植物の摩擦により傷つけることができる。次にこの傷にアグロバクテリウム属(Agrobacterium)を接種する。次いでこの植物または植物の一部を、好適な培養培地上で増殖させ、成熟植物に成長させることができる。形質転換細胞の遺伝子修飾植物への再生は、既知の技法、例えば、抗体を用いて形質転換された苗条の選択および適切な栄養分、例えば、植物ホルモンを含有する培地で苗条を継代培養することにより達成することができる。
【0208】
このように本発明は、プロリン特異的プロテアーゼまたはその変異体を発現させるために修飾された細胞を含む。このような細胞としては、一時的な、または好ましくは安定な哺乳動物細胞または昆虫細胞などの高等真核細胞系、酵母および(例えば、糸状菌)細胞などの下等真核細胞、または細菌細胞などの原核細胞挙げられる。
【0209】
本発明はまた、親細胞の変異体細胞を産生する方法に関するものであり、この方法は、ポリペプチドをコードする内在性核酸配列またはその制御配列を破壊または除去し、親細胞よりもポリペプチドの産生が少ない変異体細胞を生じさせることを含んでなる。
【0210】
プロリン特異的プロテアーゼ活性を減少させた株の構築は、細胞中におけるプロリン特異的プロテアーゼの発現に必要な核酸配列の修飾または不活化により簡便に達成することができる。修飾または不活化される核酸配列は、例えば、プロリン特異的プロテアーゼ活性を示すために必須であるポリペプチドまたはその一部をコードする核酸配列であり得るか、またはその核酸配列が、核酸配列のコード配列に由来するポリペプチドの発現に必要な調節機能を有し得る。このような調節配列または制御配列の一例としては、プロモーター配列またはその機能的部分、すなわち、ポリペプチドの発現に影響を及ぼす上で十分な部分であり得る。可能な修飾に関する他の制御配列としては、限定はしないが、リーダー配列、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、シグナル配列、および終止配列が挙げられる。
【0211】
核酸配列の修飾または不活化は、細胞を変異誘発に供することにより、またプロリン特異的プロテアーゼの産生能力を減少させたか、または除去した細胞を選択することにより実施できる。特異的でも無作為でもあり得る変異誘発は、例えば、好適な物理的または化学的変異誘発剤の使用、好適なオリゴヌクレオチドの使用、またはDNA配列をPCR変異誘発に供することにより実施することができる。さらに、変異誘発は、これらの変異誘発剤を任意に組合わせて使用することにより実施することができる。
【0212】
当該目的に好適な物理的または化学的変異誘発剤の例としては、紫外線(UV)照射、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、O−メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、エチルメタンスルホネート(EMS)、重亜硫酸ナトリウム、ギ酸、およびヌクレオチド類縁体が挙げられる。
【0213】
このような試薬を用いる場合、変異誘発は、一般的には、好適な条件で選択された変異誘発剤の存在下、変異を受ける細胞をインキュベートし、プロリン特異的プロテアーゼ活性の減少した発現または無発現を示す細胞を選択することにより実施する。
【0214】
本発明のポリペプチド産生の修飾または不活化は、ポリペプチドをコードする核酸またはその転写もしくは翻訳に必要な調節要素における1つまたは複数のヌクレオチドの導入、置換、または除去により達成することができる。例えば、終止コドンの導入、出発コドンの除去、またはオープンリーディングフレームの変更を生じさせるために、ヌクレオチドを挿入または除去することができる。このような修飾または不活化は、当該技術分野で知られた方法に従って部位特異的変異誘発またはPCR変異誘発により達成することができる。
【0215】
原則として、この修飾は、インビボで、すなわち、修飾される核酸配列を発現する細胞に対して直接実施し得るが、下記に例証されるように、この修飾をインビトロで実施することが好ましい。
【0216】
選択した宿主細胞によりプロリン特異的プロテアーゼの不活化または産生を減少させる好都合な方法の一例は、遺伝子置換または遺伝子妨害に基づいている。例えば、遺伝子妨害法においては、対象の内在性遺伝子または遺伝子断片に相当する核酸配列をインビトロで変異させ、次いで宿主細胞に形質転換させて欠損核酸配列を産生させる。相同的組換えにより、この欠損核酸配列は、内在性遺伝子または遺伝子断片を置換する。欠損遺伝子または遺伝子断片はまた、ポリペプチドをコードする遺伝子が修飾または破壊された形質転換体を選択するために使用できるマーカーをコードする。
【0217】
あるいは、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列の修飾または不活化は、ポリペプチドコード化配列に相補的な核酸配列を用い、確立されたアンチセンス技法により達成させることができる。さらに具体的には、ポリペプチドをコードする核酸配列に相補的なヌクレオチド配列を導入することにより、細胞によるポリペプチドの産生を減少または排除することができる。次いで、一般的には、アンチセンスポリヌクレオチドを細胞内で転写させ、プロリン特異的プロテアーゼをコードするmRNAにハイブリダイズすることができるようになる。相補的なアンチセンスヌクレオチド配列をmRNAにハイブリダイズさせる条件下で、細胞内で産生したプロリン特異的プロテアーゼの量が減少するか、または除去される。
【0218】
本発明の方法に従って修飾される細胞は、微生物起源、例えば、その細胞に対して同種または異種の、所望のタンパク質産物の産生に好適である真菌株であることが好ましい。
【0219】
さらに本発明は、ポリペプチドをコードする内在性核酸配列またはその制御配列の破壊または削除を含んでなる親細胞の変異体細胞に関するものであり、親細胞よりもポリペプチドの産生が少ない変異体細胞が生成する。
【0220】
このように作出されたポリペプチド欠損変異体細胞は、同種および/または異種ポリペプチドの発現のための宿主細胞として特に有用である。したがって、さらに本発明は、(a)ポリペプチドの産生に導く条件下で変異体細胞を培養すること、および(b)そのポリペプチドを回収すること、を含んでなる同種または異種ポリペプチドを産生する方法に関する。本文脈において、用語「異種ポリペプチド」とは、宿主細胞に固有ではないポリペプチド、固有の配列を変えるために修飾がなされた固有のタンパク質、または組換えDNA技法により宿主細胞の操作結果として定量的に発現を変えられている固有のタンパク質として本明細書において定義される。
【0221】
なおさらなる態様において、本発明は、本発明のプロリン特異的プロテアーゼのポリペプチドならびに対象のタンパク質産物の双方を産生する細胞の発酵により、事実上プロリン特異的プロテアーゼ活性の無いタンパク質産物を産生する方法を提供する。この方法は、発酵時または発酵が完了した後の発酵ブロスにプロリン特異的プロテアーゼ活性を阻害できる有効量の試剤を添加すること、発酵ブロスから対象産物を回収すること、および場合によっては、回収産物をさらなる精製に供することを含んでなる。あるいは、実質的にプロリン特異的プロテアーゼ活性を減少させるために、培養後に生成した培養ブロスをpH処理または温度処理に供することができ、培養ブロスから産物を回収することができる。pH処理または温度処理の組合わせを、培養ブロスから回収されたタンパク質調製物に対して実施することができる。
【0222】
事実上、プロリン特異的プロテアーゼの無い産物の産生に関する上記の方法は、真核生物のポリペプチド産生、特に酵素などの真菌タンパク質の産生において特に興味深い。プロリン特異的プロテアーゼ欠損細胞はまた、食品産業用にまたは医薬品用に関心対象である異種タンパク質を発現させるために使用できる。
【0223】
本発明によれば、本発明のポリペプチド産生は、通常の栄養分発酵培地中、本発明の1つまたは複数のポリヌクレオチドで形質転換された微生物発現宿主の培養により実施できる。
【0224】
本発明による組換え宿主細胞は、当該技術分野で知られた手法を用いて培養することができる。プロモーターおよび宿主細胞の各組合せに関して、ポリペプチドをコードするDNAの発現に導く培養条件を利用できる。所望の細胞密度またはポリペプチドの力価に到達した後に、培養を中止し、既知の手法を用いてポリペプチドを回収する。
【0225】
発酵培地は、炭素源(例えば、グルコース、マルトース、糖蜜など)、窒素源(例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなど)、有機窒素源(例えば、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトンなど)、および無機栄養源(例えば、リン酸塩、マグネシウム、カリウム、亜鉛、鉄など)を含有する既知の培養培地を含めることができる。場合によっては、インデューサー(例えば、セルロース、ペクチン、マルトース、マルトデキストリンまたはキシロガラクツロナン)を含むことができる。
【0226】
適切な培地の選択は、発現宿主の選択に基づくか、および/または発現構築体の調節要件に基づくことができる。このような培地は、当業者に知られている。所望ならば、混入可能性のある他の微生物よりも形質転換発現宿主に好適な追加成分を培地に含ませることができる。
【0227】
この発酵は、0.5〜30日間に亘り実施することができる。この発酵は、好適には、例えば、約0℃から45℃の範囲の温度で、および/または約2から約10のpHで、連続または流加バッチ法のバッチであり得る。好ましい発酵条件は、約20℃から約37℃の範囲の温度、および/または約3から約9のpHである。適切な条件は、通常、発現宿主の選択および発現されるタンパク質に基づいて選択される。
【0228】
発酵後、必要ならば、遠心分離またはろ過により発酵ブロスから細胞を除去することができる。発酵を中止後、または細胞の除去後、本発明のポリペプチドを回収し、所望ならば、通常の手段により精製し、単離できる。
【0229】
プロリン特異的プロテアーゼ活性を有する本発明のポリペプチドは、単離形態であり得る。本明細書に定義されたように、単離ポリペプチドは、他の非プロリン特異的プロテアーゼのポリペプチド類が事実上存在しない内因的(古典的)に産生されたポリペプチド、または組換えポリペプチドであり得、SDS−PAGEにより測定された際に、一般的には、少なくとも約20%の純度、好ましくは、少なくとも約40%の純度、より好ましくは、少なくとも約60%の純度、さらにより好ましくは、少なくとも約80%の純度、なおさらにより好ましくは、少なくとも約90%の純度、最も好ましくは、約95%の純度、約98%の純度または約99%の純度である。
【0230】
ポリペプチドはろ過により単離し、次いで粗製溶液から純粋なタンパク質を得るために、当該技術分野で知られた濃縮(例えば、限外ろ過)または任意の他の技法を実施できる。得られた調製物をスプレー乾燥または液体調製物として維持することができる。当然のことながら、ポリペプチドは、ポリペプチドの意図された目的を妨げない担体または希釈剤と混合でき、したがって、この形態でのポリペプチドは、依然として単離されたものとして見なされる。一般には、調製物中にポリペプチドを含んでなり、調製物中のタンパク質の20重量%超、例えば、30%重量、40重量%、50重量%、80重量%、90重量%、95重量%または99重量%超が、本発明のポリペプチドである。
【0231】
本発明のポリペプチド類は、それらの天然の細胞環境外にあるような形態で提供することができる。したがって、本発明のポリペプチド類は、上記に検討されたように事実上、単離または精製することができるか、またはポリペプチド類が天然に生じない細胞内、例えば、他の真菌種、動物、植物または細菌の細胞内で単離または精製することができる。
【0232】
本発明のポリペプチドは、プロリン特異的プロテアーゼ活性により酵素をコードする遺伝子を有する微生物から入手できることが好ましい。本発明のポリペプチドは、微生物から分泌されることがより好ましい。さらにより好ましくは、微生物は真菌であり、糸状菌が最適である。したがって好ましいドナー生物は、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)種の生物などのペニシリウム属(Penicillium)の生物である。
【0233】
本発明は、配列番号3のポリペプチド(すなわち、ポリペプチド)に対して少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、好ましくは、少なくとも約85%、より好ましくは、少なくとも約90%、さらにより好ましくは、少なくとも約95%、なおより好ましくは、少なくとも約98%、最も好ましくは、少なくとも約99%のアミノ酸配列の同一性の程度を有し、またプロリン特異的プロテアーゼ活性を有するアミノ酸配列を持つ単離ポリペプチドを提供する。
【0234】
本発明による単離または精製ポリペプチドは、タンパク質様材料1グラム当り少なくとも10単位のプロリン特異的プロテアーゼ活性を有することが好ましい。これらの単位は、方法の節で記載されたように、37℃、pH5で合成ペプチドZ−Gly−Pro−pNAを用いて測定する必要がある。
【0235】
一般的には、本発明のポリペプチドはまた、最適温度および/または熱不安定性に関して配列番号3のポリペプチドと同様のまたは改善された特性を有する。したがって、このポリペプチドは、最適温度が約60℃以下、約50℃以下、約40℃以下、約37℃以下、またはそれ以下を有し得る。
【0236】
約15分から約25分間、約20分間など、約10分から約30分間、約60℃に本発明のポリペプチドを加熱することにより、このポリペプチドを不活化させることが可能と考えられる。このような不活化は、低温殺菌法を用いて実施することができる。この文脈における不活化とは、熱不活化工程後に残存酵素活性が無いか、またはその活性を事実上検出できないことを意味する。
【0237】
したがって、本発明のポリペプチドが使用される、本明細書に記載された使用法のいずれにも、ポリペプチドを不活化するステップを含めることができる。このようなステップは、上記のとおり熱不活化ステップであり得る。このようなステップの結果、ポリペプチドの残存酵素活性は無いか、またはその活性を事実上検出できないと言える。
【0238】
本発明のポリペプチド類を、化学的に修飾でき、例えば、翻訳後に修飾できる。例えば、ポリペプチド類を、グリコシル化できるか(1回または複数回)、またはポリペプチド類は修飾アミノ酸残基を含むことができる。ポリペプチド類をまた、ヒスチジン残基の付加により修飾してそれらの精製を補助することができるか、またはシグナル配列を付加して細胞からの分泌を促進させることができる。このポリペプチドは、アミノ末端メチオニン残基、約20〜25までの小型のリンカーペプチド残基などのアミノ末端またはカルボキシル末端の伸長部、またはポリヒスチジン路、抗原性エピトープまたは結合ドメインなどの精製を促進する小型の伸長部を有することができる。
【0239】
本発明のポリペプチドは、表示標識で標識することができる。この表示標識は、ポリペプチドを検出できる任意の好適な標識であり得る。好適な標識としては、放射性同位元素、例えば、125I、35S、酵素、抗体、ポリヌクレオチドおよびビオチンなどのリンカーが挙げられる。
【0240】
当該ポリペプチド類を修飾して非天然のアミノ酸を含むか、またはポリペプチドの安定性を増加させることができる。タンパク質またはペプチド類を、合成手段により生成する場合、このようなアミノ酸は、生産時に導入することができる。タンパク質またはペプチド類は、合成または組換え生産後に修飾することもできる。
【0241】
本発明のポリペプチド類は、D−アミノ酸を用いて生成することもできる。このような場合、アミノ酸は、CからN方向の逆配列で結合される。これは、このようなタンパク質またはペプチドを生成するための通常の技術である。
【0242】
多くの側鎖の修飾が、当該技術分野で知られており、本発明のタンパク質またはペプチド類の側鎖に行うことができる。このような修飾としては、例えば、アルデヒドとの反応に次いでNaBHにより還元する還元的アルキル化によるアミノ酸の修飾、メチルアセトイミデートによるアミジン化または無水酢酸によるアシル化が挙げられる。
【0243】
本発明のポリペプチドを、プロリン特異的プロテアーゼの酵素活性が求められる任意の方法または適用に使用することができる。
【0244】
したがって本発明は、本発明のポリペプチドを含んでなる組成物を提供する。このような組成物を、本発明の方法または使用に用いることができる。
【0245】
追加プロテアーゼ活性などの補助的酵素活性が、本発明による方法または使用に求められることが考えられる。このように本発明は、(i)本発明によるポリペプチド;および (ii)(i)におけるポリペプチドとは異なるプロテアーゼなど、(i)におけるポリペプチドとは異なる活性を提供するポリペプチド、を含んでなる組成物を提供する。
【0246】
例えば、追加の異なるプロリン特異的プロテアーゼを使用することができる。このような酵素の例は、動物および植物に広く見られ、微生物にも報告されている:例えば、プロリン特異的プロテアーゼは、アスペルギルス(Aspergillus)種(欧州特許第0 522 428号明細書)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)種(欧州特許0 967 285号明細書)およびアエロモナス(Aeromonas)種(J.Biochem.113、790〜796頁)、キサントモナス(Xanthomonas)種およびバクテロイデス(Bacteroides)種において同定されている。
【0247】
あるいは、さらなるプロテアーゼを使用することができる。このようなさらなるプロテアーゼは、最適の酸性pHを有する。このような酵素の例は、国際公開第03/102195号パンフレットおよび本明細書にも記載されている。
【0248】
したがって、本発明は、タンパク質加水分解体の調製方法を提供するものであり、その方法は、タンパク質の基質と本発明によるポリペプチドまたは組成物とを接触させることを含んでなる。このように本発明はまた、タンパク質の加水分解体の調製において本発明のポリペプチドまたは組成物の使用を提供する。本発明はまた、このような方法または使用により得ることができるか、または得られたタンパク質の加水分解体に関する。
【0249】
このような方法を、独特のアミノ酸組成物を有するタンパク質様基質から非苦味加水分解体の作出に使用することができる。このような独特なアミノ酸組成物は、ある一定の食品への適用において重要な利点を提供し得る。例としては、高レベルの存在する疎水性アミノ酸残基を有するカゼインまたは小麦のグルテンもしくはトウモロコシタンパク質の単離体がある。本発明の方法を用いると、非苦味加水分解体が利用可能であり、乳児栄養および臨床栄養、治療食ならびに消費者の食事およびスポーツ栄養に使用することができる。
【0250】
本発明の一実施形態は、実質的なレベルの遊離アミノ酸産生を伴うことなく、苦味が少なくかつ低アレルギー性を有するタンパク質加水分解体の高収率生産のために、単離、精製されたプロリン特異的プロテアーゼ(すなわち、本発明のポリペプチド)を含んでなる酵素混合物を提供する。この酵素混合物は、種々のタンパク質フラクションの加水分解体の調製に好適である。特に、ミルクタンパク質などのタンパク質の基質は、単離、精製されたプロリン特異的プロテアーゼおよびサブチリシンと共にインキュベートすると、カルボキシ末端プロリンを有するペプチド断片に富むタンパク質の加水分解体を産生することができる。用語「富む」とは、酵素的開裂の加水分解体産物において、少なくとも8%のペプチド断片が、カルボキシ末端プロリン残基を有することを意味している。
【0251】
タンパク質の加水分解により得られた加水分解体は、カルボキシ末端プロリンを担持するペプチドのモルフラクション(%)が、加水分解体を産生させるために使用されたタンパク質基質中のプロリンのモルフラクション(%)の少なくとも2倍であるペプチドを含むことができる。
【0252】
加水分解体中のペプチドの平均的長さは、一般に3つから9つのアミノ酸である。
【0253】
本発明のポリペプチドを用いて調製された好ましい加水分解体は:カルボキシ末端プロリンを担持するペプチド類のモルフラクションが、少なくとも8%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは30%から70%であるペプチド類を含んでなるホエイ加水分解体であり、カルボキシ末端プロリンを担持するペプチド類のモルフラクションが、少なくとも25%、好ましくは30%から70%であるペプチド類を含んでなるカゼイン加水分解体であり、カルボキシ末端プロリンを担持するペプチド類のモルフラクションが、少なくとも20%、好ましくは30%から70%であるペプチド類を含んでなる大豆加水分解体である。
【0254】
上記の加水分解体に関連して、ペプチド類またはペプチド断片とは、400から2000ダルトンの分子質量を有するペプチド類を意味する。これらのペプチド類は、当業者に知られている方法(例えば、LC/MCを用いて)を用いて分析することができる。
【0255】
一般に、本発明のタンパク質加水分解体の産生において、タンパク質基質は、実質的に少なくとも50%が加水分解されて有利である。少なくとも10%のタンパク質基質が、400から2000ダルトンの分子質量を有するペプチド類に変換されることが好ましい。より好ましくは、20%から90%、さらにより好ましくは、30%から80%のタンパク質基質が、このようなペプチド類に変換される。
【0256】
本発明の別の実施形態において、タンパク質基質を、単離、精製されたプロリン特異的プロテアーゼ、セリンプロテアーゼまたはメタロプロテアーゼおよびカルボキシペプチダーゼを含んでなる酵素混合物と共にインキュベートして、カルボキシ末端プロリンを有するペプチド断片に富むタンパク質加水分解体を作製することができる。
【0257】
本発明の酵素混合物は、スポーツドリンクおよびジュースベースの飲料の風味と栄養分の増強を目的としたタンパク質加水分解体の製造における使用に特に好適である。結果として得られる加水分解されたペプチド混合物には、このような飲料の一般的酸性条件下で、極めて苦味の少ない性質と優れた溶解性とが組合わさっているからである。一次加水分解体を提供するために、本発明の酵素混合物は、プロリン特異的プロテアーゼに関して少なくとも1種のプロテアーゼ、例えば、セリンプロテアーゼまたはメタロエンドプロテアーゼを含有することを特徴とする。より具体的には、本発明は、ペプチド断片を含んでなるタンパク質加水分解体を製造できる、単離、精製されたプロリン特異的プロテアーゼ(すなわち、本発明のポリペプチド)およびセリンプロテアーゼまたはメタロプロテアーゼの酵素混合物に関するものであり、前記ペプチド断片の少なくとも8%、好ましくは、少なくとも15%、より好ましくは、30%から70%が、カルボキシ末端プロリンを有する。
【0258】
本発明の酵素混合物による加水分解用基質としては、全乳、スキムミルク、酸性カゼイン、レンネットカゼイン、酸性ホエイ産物またはチーズホエイ産物が挙げられる。全く驚くべきことに、アスペルギルス(Aspergillus)由来のプロリン特異的プロテアーゼは、プロリン残基のカルボキシ末端側での開裂のみならず、ヒドロキシプロリン残基のカルボキシ末端側で開裂し、他のゼラチンなどのコラーゲンベースの動物性タンパク質ならびに残留肉を含有する骨または魚骨、酵素にとって興味のある基質を作製する。さらに、小麦グルテン、製粉大麦、および例えば、大豆、米またはトウモロコシから得られたタンパク質フラクションは、好適な基質である。乳児栄養用低アレルギー性加水分解体、腸内および低カロリー食用塩基性加水分解体、ならびに種々の形態の健康食品用タンパク質濃縮物など、種々の特殊食品において、さらなるろ過または精製ステップの有り無しで、本発明により産生したミルクタンパク質加水分解体を使用することができる。したがって、本発明の加水分解体を使用すると、乳児用配合などの低抗原性を有する食品を製造することができる。さらに、本発明による酵素調製物を使用すると、タンパク質加水分解体が大量に存在する場合でも、少なくとも1種のタンパク質加水分解体により風味付けされた食品において苦味を減少させることができる。例えば、食品には、5%と10%(w/v)との間のタンパク質加水分解体を含むことができ、さらに本発明の酵素調製物を用いて苦味を減少させることができる。
【0259】
したがって、本発明は、本明細書に記載されたタンパク質加水分解体を含んでなる食品または飼料製品または飲料を提供する。
【0260】
本発明のポリペプチドは、単独または種々の食品への適用にタンパク質加水分解体を調製するために1種以上の追加酵素を含んでなる組成物中、最適酸性pHを有する単離、精製プロリン特異的プロテアーゼを提供する。
【0261】
このような単離、精製されたプロリン特異的プロテアーゼは、タンパク質様材料1グラム当り少なくとも10単位のプロリン特異的プロテアーゼ活性を有することが好ましい。これらの単位は、37℃、pH5で合成ペプチドZ−Gly−Pro−pNAを用いて測定する必要があり、プロリン特異的プロテアーゼの最適pHの場合、pH6未満であり、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のプロリン特異的エンドプロテアーゼ他の場合、材料および方法の節で明記されたように、pH=7で測定する必要がある。
【0262】
単独または酵素混合物中での単離、精製された酵素は、以前に当該技術分野で知られている酵素混合物の多くの不利益を克服する。最も重要なこととして、本発明のポリペプチドは、低アレルギー性の可能性、高収率および苦味の少ない性質を合わせ持つ加水分解体の製造において重要なものになる。さらに、単離、精製されたプロリン特異的プロテアーゼ、またはこのプロリン特異的プロテアーゼを含んでなる酵素混合物により製造された加水分解体は、酸に安定であり、スプレー乾燥または製造物の滅菌など、加熱ステップ時に異味の発生が最少になるように極めて低レベルの遊離アミノ酸を含有する。本発明による加水分解体は、乾燥粉末1グラム当り900マイクロモル未満の遊離アミノ酸、好ましくは、乾燥粉末1グラム当り300マイクロモル未満の遊離アミノ酸、より好ましくは、乾燥粉末1グラム当り150マイクロモル未満の遊離アミノ酸、さらにより好ましくは、乾燥粉末1グラム当り50マイクロモル未満の遊離アミノ酸を含有する。
【0263】
本発明による酵素混合物は、一次タンパク質加水分解体を提供するために、一緒に作用する単離、精製されたプロリン特異的プロテアーゼと関連してセリンプロテアーゼまたはメタロエンドプロテアーゼなどの別のエンドプロテアーゼを含んでなることを特徴とする。
【0264】
セリンプロテアーゼは、よく知られたクラスのアルカリエンドプロテアーゼを表し、サブチリシン(E.C.3.4.21.62)およびキモトリプシン(E.C.3.4.21.1)などの最も重要な代表例のうちの幾つかは、Tyr、Trp、PheおよびLeuなどの疎水性アミノ酸のカルボキシ末端側でペプチド鎖の開裂を優先させる。本発明の酵素混合物は、キモトリプシンおよび/またはサブチリシンを含有することができる。サブチリシンは、バチルス(Bacillus)種により産生され、特に広い基質特異性および広いアルカリ性最適pHを有する。この酵素は、50℃と60℃との間で活性が最適になる。この酵素は、正規の市販品として安価に入手でき、例えば、種々のミルク加水分解体の製造に有用である。キモトリプシンは、動物の膵臓から得ることができ、サブチリシンよりも僅かに大きいアルカリ性pH値で幾らか狭い基質特異性を有し、50℃未満で活性が最適になる。
【0265】
メタロエンドプロテアーゼのクラスは、細菌、真菌および高等生物に広く分布している。それらは、中性および酸性メタロプロテアーゼに分けることができる。これら2つのサブクラスの中で中性プロテアーゼのみが、所望の優先的開裂、すなわち、PheおよびLeuなどの疎水性アミノ酸残基のカルボキシ末端側のペプチド鎖の開裂を示す。中性メタロプロテアーゼのカテゴリーのよく知られた代表例は、バチロリシン(E.C.3.4.24.28)およびテルモリシン(E.C.3.4.24.27)であり、これらのいずれか、または双方とも、本発明の酵素混合物に存在し得る。双方の酵素は、バチルス(Bacillus)種から得られ、中性または僅かにアルカリ性条件下で最大の活性を示す。これら中性メタロエンドプロテアーゼのうちあまりよく知られていない代表例は、アスペルギルス(Aspergillus)種から得られている。このプロリン特異的プロテアーゼが、その脱苦味効果には使用されないが、プロリンに富むタンパク質配列の加水分解を補助する場合、例えば、重水素化リシン(EC3.4.24.39)として酸性メタロプロテアーゼのクラスとの組合わせは、有利となり得る。
【0266】
このような加水分解体の調製のほかに、プロリン特異的プロテアーゼの苦味減少効果を利用する適用は、それなりにまた考慮される。例えば、タンパク質様食品におけるエンドペプチダーゼの組込みにより、チーズまたはヨーグルトにおける熟成時に進行し得る苦味を抑える発酵ステップを含んでいる。また、酵素修飾チーズの製造または香料産業におけるタンパク質加水分解体の製造など、プロテアーゼによる処理を必要とするタンパク質様食品において、本発明による酵素の組込みにより苦味を抑えるのに役立つであろう。
【0267】
このように、本発明は、食品または飼料品または飲料の調製方法を提供し、その方法は、食品、飼料製品または飲料の調製時に本発明のポリペプチドまたは組成物の組込みを含んでなる。本発明はまた、食品または飼料製品または飲料の調製において本発明のポリペプチドまたは組成物の使用を提供する。本発明はまた、上記方法またはその使用により得ることができる食品または飼料製品または飲料を提供する。
【0268】
例えば、食品または飲料における請求項に記載のポリペプチドおよび組成物の適用は、苦味の抑制が望まれる状態に限定されない。
【0269】
例えば、本発明のポリペプチドは、そのアレルゲン性を減じるため、食品タンパク質と接触させることができる。幾つかの食品タンパク質は、プロリンに富むペプチド配列を有するプロラミン類を含有する小麦グルテンなど、高アレルゲン性サブフラクションを含有する。これらのタンパク質は、それらのアレルゲン性を緩和するため、新規な酵素に供することができる。
【0270】
したがって、本発明は、食品または飼料製品または飲料の調製方法を提供し、その方法は、食品、飼料製品または飲料の調製時に本発明のポリペプチドまたは組成物の組込みを含んでなり、得られた食品または飼料製品は、実質的に腹腔関連エピトープを含まない。
【0271】
さらに、本発明は、精神医学的障害またはセリアック病関連障害の治療または予防に使用するために本発明のポリペプチドを提供する。
【0272】
牛乳中のカゼインまたは穀物中のグルテンなどのプロリンに富む食事性タンパク質は、ヒトの胃腸管においてタンパク質分解に抵抗することが知られている。その結果、プロリンに富むペプチド類が堆積する可能性があり、特定群の個人において望ましくない作用に至る可能性がある。これらの作用の幾つかは、このプロリンに富むペプチド類が、末端組織および中枢神経系における受容体に結合するオピオイドとして作用するという事実に起因する。例えば、自閉症患者および統合失調症患者により示される症候群は、プロリンに富む食事性タンパク質の消費に関連している。他の作用は、プロリンに富むペプチド類に対する不耐性の結果である。例えば、特定のプロリンに富む配列は、セリアック病に見られるグルテンの毒性の原因である。セリアック病は、広く認められる小腸の自己免疫疾患であり、生涯にわたりグルテンの無い食事によってのみ治療することができる。セリアック病はまた、時には精神医学的および神経学的疾患を伴い、プロリンに富むペプチド類が有し得る広範な結果である代謝の乱れを示している。
【0273】
摂取前に食品から毒性のプロリンに富むペプチドを除去するため、または不十分な腸管消化過程を補うために矯正酵素の経口補給用のプロリン特異的プロテアーゼの使用は、参照として本明細書に援用されている国際公開第2005/027953号パンフレットに詳細に記載されている。
【0274】
したがって本発明のポリペプチドを使用して、自閉症、統合失調症、ADHD、二極性気分障害およびうつ病などの精神医学的障害、および自己免疫障害などのセリアック病関連障害、特に1型糖尿病、疱疹状皮膚炎、自己免疫性甲状腺炎、コラーゲン疾患、自己免疫性脱毛症ならびに自己免疫性肝炎およびIBSとの関連をもたらすプロリンに富むペプチド類を、例えば、5.5未満のpHで加水分解することができる。したがって、本発明は、精神医学的障害またはセリアック病関連障害の治療または予防に使用するために本発明によるポリペプチドを提供する。
【0275】
腹腔関連エピトープ、好ましくは、グルテンエピトープ、より好ましくは、小麦エピトープまたは大麦エピトープを低下させる、例えば、実質的にそれらの無い食品、例えば、ビールまたはパンを製造するために本発明のポリペプチドによりコード化された酵素を用いることが有利である。
【0276】
本発明のポリペプチドの生地種への組み込みは、それによって得られたパンなどの製品のステーリングを遅らせることが見られたため、望ましいと考えられる。
【0277】
本発明のプロリン特異的プロテアーゼは、プロリンに富むペプチド類を作出する方法に使用することができる。このようなプロリンに富むペプチド類は、食欲不振作用、線維素溶解性作用および抗血栓性作用ならびに降圧作用、胃粘膜の保護ならびにリウマチ様関節炎の防止に関係するので、プロリンに富むペプチド類を種々の食品または機能性食品への添加が望ましい。
【0278】
タンパク質の利用を高めるためのさらなる適用は、本発明のポリペプチドを動物飼料に添加することである。例えば、本発明のポリペプチドの添加を利用すると、飼料タンパク質に存在する難消化性プロリンに富む配列の消化性を改善でき、ならびに高レベルのポリフェノール類を含有する安価に利用できる植物タンパク質の変換率を改善できる。
【0279】
さらに、本発明は、飲料の調製、例えば、ビール醸造において本発明のポリペプチドの使用を提供する。例えば、大麦タンパク質は、プロリンに富む配列に富んでおり、それらの非麦芽形態における穀物タンパク質は、好適な発酵性麦芽汁の作製に求められる遊離アミノ酸への分解が極めて困難である。したがって、本発明のポリペプチドのモロミ工程への組込みを用いて、はるかにより富んだ麦芽汁が得られるように、麦芽大麦ではなくて粉砕大麦からアミノ酸の放出を刺激させることができる。同様の方法で、例えば、モロコシなど、他の安価で局所入手できる穀物の高比率を含有するモロミからビール発酵を改善することができる。
【0280】
本発明はまた、飲料中の曇りの防止方法または減少方法を提供する。このような方法は、飲料への本発明のポリペプチドの添加、または飲料の調製時に本発明のポリペプチドの組込みを含んでなり、それによって飲料中の曇りを防止するか、または減少させる。本明細書における用語「飲料」とは、その調製の任意の段階でのいずれの飲料をも含む。このように飲料は、消費可能な状態にある飲料のみならず、飲料を調製するのに用いられたいずれの組成物でもある。例えば、ビール調製に用いられる麦芽汁は、本明細書に用いられる用語「飲料」に包含される。また、飲料の調製時に液体ではないか、または完全に液体というわけではない組成物に対する本発明のポリペプチドの添加は、本発明による方法に入るように意図されている。ビール醸造の開始時にモロミに添加された本発明のポリペプチドは、このような組成物の一例である。ビール中の曇りの減少または防止のためにプロリン特異的プロテアーゼの使用は、国際公開第02/46381号パンフレットおよび国際公開第2007/101888号パンフレットに詳細に記載されている。
【0281】
本明細書における単語のペプチドおよびタンパク質は、同じ意味で使用できる。本文脈において、単語の「曇り」、「曇り度」および「混濁度」もまた、同じ意味で使用できる。飲料中の曇り量を定量するために、濁度計を用いることが多い。濁度計において、入射光ビームの方向に相対的な予め記述された角度で散乱される光量を測定する。混濁度の測定は、タンパク質−ポリフェノール相互作用の結果、形成された曇りの測定に対して極めて好適である。本発明のポリペプチドが添加された飲料中で混濁度測定を実施し得る方法は、国際公開第2007/101888号パンフレットに詳細に記載されている。曇りを減少させるかまたは防止する方法にプロリン特異的プロテアーゼを使用する場合、曇り度測定は、25度の散乱角度を用いて実施することが好ましいと考えられる。
【0282】
ポリフェノールは、その構造が少なくとも1つのヒドロキシル基で置換された少なくとも2つの芳香族環を含有する化学構造を有する化合物か、または少なくとも2つのヒドロキシル基で置換された少なくとも1つの芳香族環を含有する化学構造を有する化合物として定義される。ポリフェノール類の例は、例えば、カテキン類、フラボノール類およびアントシアニン類などのタンニン類およびフラボノイド類である。
【0283】
本発明による方法を、ビール、ワインおよびフルーツジュースに適用すると有利になり得る。この方法を、ビールおよびワイン以外のアルコール性飲料に適用しても有利になり得る。
【0284】
本明細書に用いられる用語「ビール」とは、非麦芽化穀物より調製されたモロミから調製されるビールを少なくとも包含し、ならびに麦芽化穀物より調製された全てのモロミ、および麦芽化および非麦芽化穀物の混合物より調製された全てのモロミを包含するように意図している。用語「ビール」はまた、添加剤で調製されたビール、および全ての可能性のあるアルコール含量を有するビールを包含する。
【0285】
フルーツジュースは、例えば、赤色イチゴ、イチゴ、リンゴ、ナシ、トマト、柑橘類果実、野菜などから得られたジュースであり得る。
【0286】
本発明による方法において、飲料に添加される本発明のポリペプチド量は、広い範囲の間で変わり得る。本発明による方法の好ましい一実施形態において、飲料中のタンパク質1g当りプロリン特異的プロテアーゼ活性の少なくとも150ミリ単位を添加して、その活性は、基質としてZ−Gly−Pro−pNAを用いた活性測定により決定する。プロリン特異的プロテアーゼの少なくとも500ミリ単位を、その飲料に添加することがより好ましく、プロリン特異的プロテアーゼの少なくとも1単位を添加することが最も好ましい。
【0287】
添加される本発明のポリペプチドの最大量を特定することはできない。その最大量は、例えば、所望の曇り量の減少または防止、飲料の組成物、飲料のpHおよびプロテアーゼがその最大活性を有するpHに依存する。
【0288】
本発明のポリペプチドを、飲料調製時の種々の段階で添加することができる。ビールの調製工程時に、本発明のポリペプチドを、モロミに添加することが有利と考えられる。本発明のポリペプチドを、曇りが形成する前の発酵されたビールに添加することができる。しかし、本発明のポリペプチドを、曇りが形成された後に発酵されたビールに添加することも可能である。本発明のポリペプチドを、ビールの調製工程においてモロミまたは熟成ステップに添加することが有利と考えられる。
【0289】
ワインの調製時に、好ましくは本発明のポリペプチドを、発酵されたワインに添加する。ワインの製造工程において、このポリペプチドを、アルコール発酵後またはリンゴ酸乳酸(malolactic)発酵後に添加することが有利と考えられる。
【0290】
フルーツジュースの調製工程において、本発明のポリペプチドを、離解時または脱ペクチン化時に添加することが好ましいと考えられる。
【0291】
曇りの形成は、例えば、ビール、ワインおよびフルーツジュースなどの酸性飲料に生じることが多いことから、7未満のpH値でプロリル特異的活性を有する本発明のポリペプチドを使用することが好ましい。7未満のpH値で最大のプロリル特異的活性を有するプロリル特異的プロテアーゼを、本発明による方法に用いることが最も好ましい。
【0292】
酵素活性に関して一般的であるプロリル特異的プロテアーゼの活性は、pHに依存する。本発明による方法の好ましい一実施形態において、添加される飲料のpHに相当するpHで、最大のプロリル特異的活性を有する飲料にプロテアーゼを添加する。好ましい飲料は、タンパク質含有飲料である。別の好ましい実施形態において、飲料は、タンパク質とポリフェノール類とを含有する。好ましい飲料は、7未満のpH値を有する飲料である。
【0293】
プロリン特異的プロテアーゼは、使用される酵素のタンパク質1グラム当り少なくとも約5単位、好ましくは、約10単位/g、より好ましくは、約25単位/g、さらにより好ましくは、約50単位/gを含むことができる。
【0294】
本発明の一実施形態によれば、本発明のポリペプチドの使用により、ビールなどの飲料の安定化処理に要する時間(プロリン特異的プロテアーゼを使用しない工程と比較すると)を減少させることができる。例えば、この安定化処理時間は、約7日未満に短縮することができる。この安定化処理時間は、6日、5日、4日または3日未満が好ましい。この安定化処理時間は、2日または1日未満に短縮することがより好ましい。
【0295】
最も好ましくは、製造スケールの際に、熟成相からのビールを所望の温度、例えば、ビールのろ過および/またはパッケージングに望まれる温度に冷却するために求められる期間と等しく減少させるような範囲に安定化処理相の安定化処理時間を短縮できることである。この期間は、慣例的に冷却期間と呼ばれる。ビールを所望の温度に冷却するために必要とされる時間に安定化処理期間を短縮することは、次に安定化処理相の時間が利用できる冷却能力のみに依存することから大いに有利である。
【0296】
熟成相からのビールは、伝統的に約−2℃から約0℃以下までなどの温度に冷却される。しかし、本発明によるプロリン特異的プロテアーゼの使用により、安定化処理相の短縮のみならず、伝統的に使用される温度よりも高い温度で実施することができる。伝統的に、より高い温度で実施する安定化処理方法があるが、これらの方法は、はるかに時間がかかり、例えば、6週間以上かかる。したがって、本発明の別の実施形態において、上記に規程されたように安定化処理期間を一般的に短縮できる安定化処理期間は、好ましくは、せいぜい約2℃に冷却、より好ましくは、せいぜい約3℃、4℃、5℃または6℃に冷却、またはさらにより好ましくは、せいぜい約7℃または約8℃に冷却、最も好ましくは、パッケージング、すなわちボトルまたは樽への充填のために使用される所望の温度に冷却されたビールに対して実施される。
【0297】
パッケージングのための所望の温度は、工程ごとに異なり得るが、ビール中の所望のレベルの溶存二酸化炭素得るために、8℃以下までなどの温度、好ましくは、約7℃の温度で実施される。ビールが、パッケージングに求められる温度にのみ冷却される工程において、当該技術分野で知られた工程よりもかなり低いエネルギーが求められる。
【0298】
本発明による好ましい実施形態において、安定化処理相は、熟成相の終末における温度からパッケージングに望ましい温度までビールの冷却に求められる期間に減少でき、それによって通常の冷却安定化処理期間を省略することができる。
【0299】
したがって、本発明によれば、ビールを、せいぜい約2℃に、より好ましくは、せいぜい約3℃、4℃、5℃または6℃に、さらにより好ましくは、せいぜい約7℃または8℃に冷却、最も好ましくは、パッケージングに使用される所望の温度に冷却することができる。次にこのビールを、直接、すなわちこの実施形態でパッケージすることができ、このビールは、冷却された温度で常時保持されない。
【0300】
本発明において、必要ならば、さらなる清澄化および/または安定性を達成するために、さらなる処理加工ステップを実施することができる。実際、ビールを、パッケージングに望ましい温度の冷却に求められる期間に相当する短縮された安定化処理相を用いる場合、例えばPVPPおよび/またはシリカゲルによりビールを処理することが望ましいと考える。このことは、延長された保存期限の安定性を確保するのに役立ち得る。
【0301】
各々個々の出版物または特許出願が、具体的かつ個々に参照として組み込まれているかのような同じ範囲で、本明細書に述べられた出版物および特許出願の全ては、参照として本明細書に援用される。
【0302】
以下の実施例により、本発明を例示する:
【0303】
[実施例]
材料および方法
色素生成ペプチド類:全ての合成ペプチド類は、Pepscan Presto(Almere、オランダ国)により提供された。
【0304】
プロリル特異的プロテアーゼ活性を測定するための分光光度法:基質溶液は、40%のジオキサンを含有する0.1Mのクエン酸/0.2Mのリン酸二ナトリウム緩衝液pH5.0中で作製されたN−カルボベンゾキシ−グリシン−プロリン−p−ニトロアニリド(Z−Gly−Pro−pNA; m.w.426.43; Bachem)の2mM溶液である。1mLの緩衝液pH 5.0に、250μlの基質溶液を加え、次いで100μlの酵素溶液(酵素溶液が、より大きな容量またはより小さな容量の場合、緩衝液により補償する必要がある)を加える。反応混合物を37℃でインキュベートし、次いでpNAの放出後に、410nmにおける吸光度増加を測定する。
【0305】
活性の定義:1単位のプロリン特異的プロテアーゼとは、記載された条件下で、1分以内でZ−Gly−Pro−pNAから1μmolのpNAを遊離させる酵素活性である。濃度を算出するために、8,800M−1のモル吸光係数(E)を用いる。
【0306】
SDS−PAGE:SDS−PAGEおよび染色に用いられる全ての材料は、Invitrogen(Carlsbad、カリフォルニア州、米国)から購入した。サンプルは、製造元の取扱い説明書に従ってSDS緩衝液を用いて調製し、製造元の取扱い説明書に従ってMES−SDS緩衝液系を用い12%のBis−Trisゲル上で分離した。染色は、
Simply Blue Safe Stain(Collodial Coomassie G250)を用いて実施した。
【0307】
[実施例1]
プロリン特異的プロテアーゼ遺伝子ZFXのクローニングおよび発現
ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)株CBS455.95を、PDB(ジャガイモデキストロースのブロス、Difco)中、30℃で3日間増殖させ、供給元の取扱い説明書に従って、Q−Biogeneキット(カタログ番号6540−600;Omnilabo International BV、Breda、オランダ国)を用いて菌糸体から染色体DNAを単離した。この染色体DNAは、PCRを用いたプロリン特異的プロテアーゼ遺伝子のコード化配列の増幅に使用する。
【0308】
ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)株CBS455.95の染色体DNAからプロリン特異的プロテアーゼ遺伝子ZFXを特異的に増幅させるために、2種のPCRプライマーを設計した。プライマー配列は、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)CBS455.95のゲノムDNAに見られた配列から部分的に得られ、配列番号1に示す。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のプロリン特異的プロテアーゼ遺伝子配列と<50%の同一性を有することを、本発明者らは見出した。分泌されたペニシリウム属(Penicillium)のプロリン特異的プロテアーゼの効率的な発現および特性化を最初に本明細書に本発明者らは記載する。可能性のあるプレ配列およびプロ配列など、完全プロリン特異的プロテアーゼタンパク質のタンパク質配列を配列番号3に示す。

ZFX−dir 5’−CACTTAATTAACTCATAGGCATCATGCATTTCTCAACTGTGGTTAAG(配列番号4)

ZFX−rev 5’−TTAGGCGCGCCTCGCAAGCTGATACGAAAGGG(配列番号5)

【0309】
最初に、直接的PCRプライマー(ZFX−dir)は、PacI制限部位を含む23のヌクレオチド配列(配列番号4)により先行したATG開始コドンに出発して24のヌクレオチドZJWコード化配列を含有する。第二に、逆プライマー(ZFX−rev)は、AscI制限部位により先行したZFXコード化配列(配列番号5)の下流領域の逆相補鎖のヌクレオチドを含有する。本発明者らは、これらのプライマーを用いて、テンプレートとしてペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)株CBS455.95由来の染色体DNAにより1.9kbサイズの断片を増幅させることができた。このように得られた1.9kbサイズの断片を単離し、PacIおよびAscIで消化して精製した。このZFXコード化配列を含んでなるPacI/AscI断片を、発現ベクターpGBFIN−5由来のPacI/AscI phyA断片と交換した(国際公開第99/32617号パンフレット)。得られたプラスミドは、pGBFINZFXと命名されるZFX発現ベクターであり(図1を参照)、ZFX遺伝子は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のglaAプロモーターと機能的に結合する。発現ベクターから大腸菌(E.coli)由来の配列を全て除去するNotIにより消化により、発現ベクターpGBFINZFXを線形化した。消化されたDNAを、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(24:23:1)の抽出およびエタノールによる沈殿を用いて精製した。これらのベクターを用いて、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)CBS513.88を形質転換した。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の形質転換法は、国際公開第98/46772号パンフレットに広範に記載されている。それには、単独窒素源としてアセトアミドを含有する選択培地の寒天プレート上、形質転換体の選択方法、および標的多コピー組み込み体の選択方法も記載されている。多重コピーの発現カセットを含有するアスペルギルス・ニガー(A.niger)の形質転換体は、サンプル材料のさらなる生成用に選択されることが好ましい。pGBFINZFX発現ベクター30に関して、アスペルギルス・ニガー(A.niger)の形質転換体は、最初に選択培地のプレート上で個々の形質転換体を平板培養し、次いでPDA(ジャガイモデキストロース寒天:PDB+1.5%寒天)プレート上で単一コロニーを平板培養することによって精製した。30℃で1週間の増殖後、個々の形質転換体のスポアを採取した。スポアを冷蔵庫で保存し、液体培地への接種用に用いた。
【0310】
アスペルギルス・ニガー(A.niger)の形質転換体株は、振とうフラスコ培養物中の株の培養によるサンプル材料の作出用に用いた。アスペルギルス・ニガー(A.niger)株の培養および培養ブロスからの菌糸体の分離のための有用な方法は、国際公開第98/46772号パンフレットに記載されている。培養培地は、CSM−MES(培地1リットル当り150gのマルトース、60gのソーイトーン(Difco)、15gの(NHSO、1gのNaHPO・HO、1gのMgSO・7HO、1gのL−アルギニン、80mgのツイーン−80、20gのMES pH6.2)中に存在した。発酵の4〜8日目に二重反復培養から5mlのサンプルを採取し、Hereaus labofuge RF内で5000rpm、10分間遠心分離し、上澄液をさらに分析するまで−20℃で保存した。
【0311】
SDS−PAGEで分析すると、驚くべきことに、pGBFINZFXベクターを含有する形質転換体は、凡そ65kDaの見かけの分子量のタンパク質を効率的に分泌することが明白となった。このことは、ZFXのタンパク質配列から予測される分子量と殆ど同一であることから、ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)のプロリン特異的プロテアーゼZFXがアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から分泌されると、シグナル配列の除去後、殆どグリコシル化が生じないことが推定される。
【0312】
発酵および下流のプロセシングがスケールアップすると、より大量のペニシリウム属(Penicillium)のプロリン特異的プロテアーゼの単離および精製をするために選択株を使用することができる。次にこの酵素は、さらなる分析、および多様な産業への適用の利用に使用することができる。
【0313】
[実施例2]
遺伝子ZFXによりコードされた酵素は、プロリン特異的プロテアーゼである。
選択されたアスペルギルス・ニガー(A.niger)の形質転換体の発酵ブロスを回収し、その後この液体をろ過してから、0.22マイクロメートルのミリポア(Millipore)フィルターを用いて滅菌ろ過した。次にこの透明な液体を、Pelliconの限外ろ過ユニット(Millipore、ベッドフォード、マサチューセッツ州、米国)を用いて濃縮した。遺伝子ZFXによりコードされた酵素活性を精製するために、この濃縮液体を、Q−セファロースFF XK(GE Healthcare Bio−Sciences、Diegem、ベルギー国)を用いたアニオン交換クロマトグラフィーに供した。最後に、濃縮液体を、20mMのクエン酸ナトリウム、pH6.4により平衡にし、同じ緩衝液中で平衡にしたカラムに適用した。適用緩衝液中、0から1mol/lのNaClの直線勾配を用いて20カラム容量でカラムの溶出を行った。溶出したフラクションをSDS−PAGEに供し、染色した(材料および方法の節を参照)。凡そ65kDaの分子量に相当するタンパク質バンドを示すフラクションをプールし、透析し、再度同じクロマトグラフィーおよびプーリング手法に供した。得られた調製物は、SDS−PAGEと染色とにより判定されたように単一のタンパク質バンドのみを含有した。
【0314】
精製タンパク質のタンパク質分解活性を確認するために、式Z−Ala−Ala−X−pNA(Z:ベンジルオキシカルボニル;pNA:パラ−ニトロアニリド;X:任意の全て20のアミノ酸残基)の完全セットの合成色素生成ぺプチドを用いてインキュベーションを実施した。最初に個々の基質をDMSOに溶解し、次いで0.1mol/lの酢酸ナトリウムpH4.0または0.1mol/lのトリス−HCl緩衝液pH7.0中、凡そ3mmol/1の所望の濃度に希釈した。酵素の添加後、この活性アッセイを、Magellanソフトウェア(Tecan、Salzburg、ウィーン)により操作するTecan Genios MTPリーダーを用いてマイクロタイタープレート(MTP)中で実施した。
【0315】
得られた結果によれば、ペプチドZ−Ala−Ala−Pro−pNAのみが、効率的に開裂し、アスペルギルス・ニガー(A.niger)により過剰発現したペニシリウム属(Penicillium)由来のZFX酵素が、実際にプロリン特異的プロテアーゼであることが立証された。Na−クエン酸−MES緩衝液またはMES−NaOH緩衝液およびトリス−HCl緩衝液中に溶解したペプチドZ−Ala−Ala−Pro−pNAを用いてこの酵素のさらなる特性化により、37℃で60分のインキュベーション後、最適なタンパク質分解活性は、約pH4.5に展開することが明らかとなった。
【0316】
[実施例3]
プロリン特異的プロテアーゼZFXは、約37℃に最適温度を有する。
ペニシリウム属(Penicillium)由来のプロリン特異的プロテアーゼの最適温度を試験するために、実施例2に記載されたようにクロマトグラフィーで精製された過剰発現ZFX酵素を、ペプチドZ−Ala−Ala−Pro−pNAと共に再度インキュベートした。440マイクロリットルの0.1mol/lのNa−クエン酸pH5.0、15mmol/lの濃度で50マイクロリットルの色素生成ペプチドおよび10マイクロリットルの精製酵素液を含有する反応混合物を、種々の温度で70分間インキュベートした。次に0.5mlの2%(w/w)トリス溶液を加えることによって反応を中止し、405nmにおける光学密度を測定して、これらの環境下での累積酵素活性を定量した。約37℃でタンパク質分解の最適温度を示していることが、得られた結果から判明した(図3を参照)。
【0317】
[実施例4]
酵素ZFXは、低温殺菌の際に完全に不活化される。
アスペルギルス・ニガー(A.niger)由来のプロリン特異的プロテアーゼの産業的適用の一つには、その使用によりビール中の冷却時の曇り形成を防止することにある。本適用において、ビールの低温殺菌時に酵素活性を喪失させる必要がある。ZFX酵素の相対的に最適低温に鑑みて、酵素ZFXが、典型的なビールの低温殺菌条件で生存し得るかどうかを試験した。
【0318】
本試験のために、ビールよりもむしろ「再構成」ビールを使用した。この理由は、Pro−pNAペプチド結合開裂の成功から生じた変色が、ビールに存在する着色により色むらが生じるという観察からであった。したがって、ZFX酵素を、5%のエタノールを含有する50mmol/lのNa−酢酸pH4.5緩衝液中に産業的に関連する量で溶解した。この溶液を、60℃で20分間の通常のビールの低温殺菌処理に供した後、この液体を37℃に冷却した。次にZ−Ala−Ala−Pro−pNAペプチドを、3mmol/lの最終濃度に加えて、残存するプロリン特異的プロテアーゼ活性を検出した。インキュベーション時間を延長した後でも、OD405における増加が記録されなかったので、ペニシリウム属(Penicillium)由来のZFX酵素は、適用された低温殺菌処理により完全に不活化されたことを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3に示されたアミノ酸配列もしくは配列番号1および/または配列番号2のヌクレオチド配列によってコードされたアミノ酸配列、またはそれらの変異体もしくはそれらのいずれかの断片を含んでなるプロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
配列番号3に示された前記配列と、少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有する請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
長さが少なくとも約150のアミノ酸である請求項1または2に記載のポリペプチド断片。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のポリペプチドの機能的ドメインを含んでなるプロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項5】
(a)配列番号1および/または配列番号2に示されたヌクレオチド配列;
(b)配列番号1および/または配列番号2の逆相補体であるポリヌクレオチドと選択的にハイブリダイズするヌクレオチド配列;
(c)配列番号1および/または配列番号2のヌクレオチド配列と、少なくとも約50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;
(d)少なくとも100のヌクレオチドを有する(a)、(b)または(c)に定義されたヌクレオチド配列の断片;
(e)(a)、(b)、(c)または(d)のいずれか1つに定義された配列に対する遺伝子コードの結果、縮退物である配列;または
(f)(a)、(b)、(c)、(d)または(e)に定義されたヌクレオチド配列の逆相補体であるヌクレオチド配列、
を含んでなるポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号1および/または配列番号2の逆相補体であるポリヌクレオチドと、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
DNA配列である請求項1から7のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポリペプチド、または真菌から得ることができる請求項5または8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
ペニシリウム・クリゾゲヌム(Penicillium chrysogenum)から得ることができる請求項9に記載のポリペプチドまたはポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド配列を組み込むベクター。
【請求項12】
例えば前記ポリヌクレオチド配列が調節配列と操作的に結合している発現ベクターであって細胞内におけるポリヌクレオチド配列の発現を可能にする請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記細胞が、糸状菌細胞である請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
請求項1から4、9または10のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項5から10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項11から13のいずれか一項に記載のベクターを含んでなる細胞。
【請求項15】
プロリン特異的プロテアーゼ活性を有するポリペプチドを調製する方法であって、前記ポリペプチドの発現を可能にする条件下で請求項12から14のいずれか一項に記載の細胞を培養すること、および場合によっては、発現された前記ポリペプチドを回収することを含んでなる方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法により得ることができるポリペプチド。
【請求項17】
(i)請求項1から4、9、10または16のいずれか一項に記載のポリペプチド;および場合によっては、(ii)(i)におけるポリペプチドとは異なるプロテアーゼ、を含んでなる組成物。
【請求項18】
タンパク質の加水分解物を調製する方法であって、タンパク質の基質と、請求項1から4、9、10もしくは16のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項17に記載の組成物とを接触させることを含んでなる方法。
【請求項19】
タンパク質の加水分解物の調製における請求項1から4、9、10もしくは16のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項20】
請求項18に記載の方法により得ることができるタンパク質加水分解物。
【請求項21】
請求項20に記載のタンパク質加水分解物を含んでなる食品または飼料製品または飲料。
【請求項22】
食品または飼料製品または飲料を調製する方法であって、前記食品または飼料製品または飲料の調製の際に請求項1から4、9、10もしくは16のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項17に記載の組成物を組み込むことを含んでなる方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、飲料中の曇りを防止するかまたは減少させる方法。
【請求項24】
得られた食品または飼料製品が、腹腔関連エピトープを実質的に含まない請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
食品もしくは試料製品または飲料の調製における請求項1から4、9、10もしくは16のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項26】
請求項22に記載の方法により得ることができる食品または飼料製品または飲料。
【請求項27】
精神医学的障害またはセリアック病関連障害の治療または予防に使用するための請求項1から4、10もしくは16のいずれか一項に記載のポリペプチド。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−525349(P2011−525349A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511010(P2011−511010)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056524
【国際公開番号】WO2009/144269
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】