説明

マンネンタケの栽培方法、及び得られるマンネンタケの有効利用方法

【課題】桃の木を原木(廃木)を菌床とするマンネンタケの人工栽培方法及び得られるマンネンタケの利用方法の提供。
【解決手段】菌床として桃の切断原木を用い、下記(1)〜(4)の栽培工程にてマンネンタケ子実体を得これを浴剤として浴槽に漬けるマンネンタケの人工栽培方法及び利用方法。(1)切断原木を、十分な水と共に100℃以上で加熱処理する工程、(2)加熱処理済み切断原木を耐熱性の袋に封入して、耐熱性芽胞菌を死滅させるのに十分な条件で加熱殺菌処理する工程、(3)殺菌済原木に、マンネンタケの種菌を接種する工程、(4)種菌を接種した原木を、暗黒下、20〜25℃で120〜150日間培養する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、桃の木を原木(菌床)として使用するマンネンタケ(Ganoderma lucidum)の人工栽培方法、及び得られるマンネンタケの有効利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンネンタケ(Ganoderma lucidum)はマンネンタケ科の一年生のキノコで、形態は系統により様々に変化する。肉質はコルク質様で表面はニスがかけられた様な光沢がある。
霊芝は一般的にマンネンタケ科の万年茸(マンネンタケ)を指し、他に門出茸、仙革、吉祥茸、赤芝、紫芝、黒芝、青芝、白芝、黄芝などの呼称で呼ばれている。成長し乾燥させたものを霊芝として用いるが、子実体は木質で硬質系キノコとも呼ばれている。
中国の後漠の時代(25−220)にまとめられた『神農本草経』では上品に分類され、無毒で長期間の飲用により、命を養う延命の霊薬として記載されて以来、中国ではさまざまな目的で薬用に用いられてきた。
子実体を適当な大きさに切り、熱水で煎じて抽出液を服用する。日本でも民間で同様に用いられてきた経緯があり、子実体は薬理作用を有するとされる様々な多糖類(β−グルカンなど)、テルペノイド、ガノデリン酸類を含むことが知られている。
【0003】
マンネンタケの人工栽培方法に関しては、原木(菌床)として広葉樹(クヌギ、ナラガシ)を使用するもの(特許文献1)、リンゴの剪定枝を使用するもの(特許文献2)、梅木を使用するもの(特許文献3)等が知られている。
しかしながら、菌床として桃の原木を使用したマンネンタケの人工栽培方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−154463
【特許文献2】特開2009−19007
【特許文献3】特開2009−201438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
桃は、山梨県、福島県、長野県、和歌山県、岡山県等で大量に栽培されているが、桃の木は良質な桃(果実)が効率よく結実する期間が比較的短い。
そのため、多量の廃木が発生するものの、従来この廃木は燃やす以外に処理する方法がなく、桃生産農家は困っていた。
【0006】
そこで、発明者は、桃の廃木を原木として利用するマンネンタケの人工栽培方法を鋭意研究したところ、桃原木に温度を加え高圧下で水と共に加熱することによって、原木内への十分な水分充填を図ると共に、いわゆる赤水(タンニン、フェノール類)や農薬などの成分を溶出させた後、さらに原木を高温高圧下で殺菌した桃原木にマンネンタケの種菌を接種して培養すれば、マンネンタケの菌糸の生育が高められ、キノコ収量の向上を図ることができることを知り本発明を完成した。
また、本願発明により栽培したマンネンタケは、これを浴剤として使用するときは、リラックス効果、及び美肌効果が得られることを知り、本願発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本願発明は以下のように構成されている。
<請求項1> 菌床として桃の切断原木を用い、下記の(1)〜(4)に記載する工程を順次経ることを特徴とするマンネンタケ(Ganoderma lucidum)の人工栽培方法。
(1)切断原木を、十分な水と共に100℃以上で加熱処理する工程
(2)前記(1)の加熱処理済み切断原木を耐熱性の袋に封入して、耐熱性芽胞菌を死滅させるのに十分な条件で加熱殺菌処理する工程
(3)前記(2)の殺菌済原木に、マンネンタケの種菌を接種する工程
(4)前記(3)のマンネンタケの種菌を接種した原木を、暗黒下、20〜25℃で120〜150日間培養する工程
<請求項2> 請求項1(1)の水に、栄養素としてグルコース、イーストエキス、リン酸一カリウム、及びリン酸二ナトリウムを添加する請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
<請求項3> 栄養素として、グルコース3%、イーストエキス0.3%、リン酸一カリウム0.05%、リン酸二ナトリウム0.05%を添加する請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
<請求項4> 請求項1(1)の加熱処理を、110℃、30分相当の高温処理で行う請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
<請求項5> 請求項1の(2)の加熱殺菌処理を、121℃、90分相当の高温加熱殺菌処理で行う請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
<請求項6> 請求項1〜請求項5の栽培方法により得られるマンネンタケを浴槽に漬けることを特徴とするマンネンタケの利用方法。
<請求項7> 180Lの風呂水に対し、請求項1〜請求項5の栽培方法により得られるマンネンタケの乾燥物100g相当量を使用する請求項6記載のマンネンタケの利用方法。
【0008】
本願発明において、切断原木を、十分な水と共に100℃以上で加熱処理する工程(請求項1(1))を採用する理由は下記のとおりである。
(イ)マンネンタケの菌糸の生育(培養)期間は、長期間にわたるため、原木(菌床)内には、十分な水分の存在が不可欠である。
(ロ)また原木に多量に付着している耐熱性芽胞菌(主としてBacillus属)を死滅させるには、十分な水分の存在下で高圧加熱殺菌処理をする必要がある(十分な水分が存在せず、原木に乾燥部分が存在すると、殺菌効果が上がらない)。
(ハ)さらに、桃の原木には、いわゆる赤水(タンニン、フェノール類)や農薬などの菌糸生育阻害成分が存在するので、これらの成分を溶出・除去する必要がある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、桃果実生産現場の廃材として利用価値がなかった桃の木(廃木)から、付加価値の大きいマンネンタケを効率よく生産することができるという効果を有すると共に、このマンネンタケをリラックス効果、及び美肌効果を有する浴剤として利用できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】表1の「栄養素:高温高圧処理」区で発生したものを路地栽培した桃原木から発生した霊芝(1個体)を示す図である。
【図2】表1の「栄養素:高温高圧処理」区で発生したものを路地栽培した桃原木から発生した霊芝(3個体)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
下記に記載する実施例1により、マンネンタケの栽培を行い、実施例2によりマンネンタケのよく剤としての効果を調査した。
【実施例1】
【0012】
桃の木を用いたマンネンタケの栽培試験を行った。桃の木に対する含水率の効果、阻害成分の除去効果、また栄養素添加における有効性を評価した。
(A)マンネンタケ(Ganoderma lucidum)菌株は、株式会社ハイファ研究所保有菌株を用いた。
(B)桃の木は、直径が10〜25cm、高さが10〜20cmの切断原木を用いた。
殺菌前の桃原木の前処理方法としては以下の条件で行った。
(a)切断した桃原木をそのまま使用して殺菌(未処理区)
(b)水に1時間浸漬した後に殺菌(水:1時間)
(c)水に浸漬したまま、110℃で30分間処理した後に殺菌(水:高温高圧処理)
(d)栄養素を含む溶液(グルコース3%、イーストエキス0.3%、リン酸一カリウム0.05%、リン酸二ナトリウム0.05%)に浸漬し110℃で30分間処理した後に殺菌(栄養素:高温高圧処理)
(C)高温高圧処理後の原木の殺菌は、原木をPP袋(ポリプロピレン製)に入れ、121℃で90分行った。
(D)殺菌処理後に放冷してから無菌的にマンネンタケの種菌を接種した。
(E)培養は20〜25℃で120〜150日間暗黒下で行った。
(F)経時的に雑菌発生の有無を確認し、また菌糸生育の状況も確認した。
(G)培養終了後、路地への伏せ込み、または棚への展開を行った(ここでは発生温度範囲:15〜30℃、湿度範囲:80〜100%での環境下で発生試験)。
【0013】
実施例1で行ったマンネンタケの菌糸生育と雑菌汚染の状況を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1によれば、桃原木伐採後の未処理区(水無添加)では十分な水分が無いために、殺菌不良における雑菌発生、また雑菌発生が無い試験区でも水分不足による菌糸生育の不良が観察された。
水に1時間浸漬した試験区では水面に浮いた桃原木による雑菌発生が観察されたが、十分に浸漬された桃原木は雑菌発生が無く、菌糸が成長した。菌糸が十分蔓延したものについては多少まばらであるが霊芝の発生が観察された。
水浸漬で高温高圧処理した試験区では桃原木へ十分に水が浸み込むことにより、雑菌発生が無く、菌糸生育も良好で全ての試験区で霊芝の発生が観察された。
水の代わりに栄養素(グルコース、イーストエキス、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム)を用い、高温高圧処理した試験区では、栄養がリッチということもあり、菌糸生育は全ての試験区中で最も良く、霊芝の発生も最も良かった。
【実施例2】
【0016】
本発明に係る桃の原木から発生したマンネンタケを浴剤として使用し、リラックス作用と肌状態の効果を検証した。
(A)家庭用風呂(180L)に、マンネンタケ乾燥物(桃原木から発生したマンネンタケを刻みにし乾燥したもの、水分10%以下)を下記の試験区毎に添加し調査した。
*無添加
*10g
*100g
*1kg
(B)前記マンネンタケの乾燥物はガーゼの袋に入れたものを浴槽(39±1℃)に1時間以上入れた上で、全身浴をした12名(パネル)から感想を聞き調査した。
結果を表2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
表2によれば、無添加区では1名のみがリラックス効果および肌イメージ(美肌)の有効性を感じた結果であった。
10g添加区では、リラックス効果の有効率は33.3%であった。霊芝特有の香りは殆どなかったがまろやかな香りを感じる人がいた。また、肌イメージはしっとり感があり良い結果であった。
100g試験区では、リラックス効果を感じる人数が最も多く、肌イメージでも有効率91.6%と最も良い結果であった。リラックス効果は若干、霊芝特有の香りによる嫌気さを感じる人がいた。
1kg試験区では、リラックス効果を感じる人数は100g試験区より、4名減った。これは霊芝特有の香りが問題であると考えられた。肌イメージについては10g、100gに比べ人数は減少したが、有効率は50%と半数の人が有効であるとしていた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、桃果実生産現場の廃材として利用価値がなかった桃の木(廃木)から、付加価値の大きいマンネンタケを効率よく生産することができると共に、このマンネンタケは、リラックス効果、及び美肌効果を有する浴剤として利用できるので、十分な産業上の利用可能性が存在する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌床として桃の切断原木を用い、下記の(1)〜(4)に記載する工程を順次経ることを特徴とするマンネンタケ(Ganoderma lucidum)の人工栽培方法。
(1)切断原木を、十分な水と共に100℃以上で加熱処理する工程
(2)前記(1)の加熱処理済み切断原木を耐熱性の袋に封入して、耐熱性芽胞菌を死滅させるのに十分な条件で加熱殺菌処理する工程
(3)前記(2)の殺菌済原木に、マンネンタケの種菌を接種する工程
(4)前記(3)のマンネンタケの種菌を接種した原木を、暗黒下、20〜25℃で120〜150日間培養する工程
【請求項2】
請求項1(1)の水に、栄養素としてグルコース、イーストエキス、リン酸一カリウム、及びリン酸二ナトリウムを添加する請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
【請求項3】
栄養素として、グルコース3%、イーストエキス0.3%、リン酸一カリウム0.05%、リン酸二ナトリウム0.05%を添加する請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
【請求項4】
請求項1(1)の加熱処理を、110℃、30分相当の高温処理で行う請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
【請求項5】
請求項1の(2)の加熱殺菌処理を、121℃、90分相当の高温加熱殺菌処理で行う請求項1記載のマンネンタケの栽培方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の栽培方法により得られるマンネンタケを浴槽に漬けることを特徴とするマンネンタケの利用方法。
【請求項7】
180Lの風呂水に対し、請求項1〜請求項5の栽培方法により得られるマンネンタケの乾燥物100g相当量を使用する請求項6記載のマンネンタケの利用方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−24023(P2012−24023A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165780(P2010−165780)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(508023813)株式会社ハイファ研究所 (2)
【出願人】(510201920)株式会社 日本友和 (1)
【Fターム(参考)】