説明

ミツグミン29遺伝子

【課題】 βアミロイドにより発現が誘導される遺伝子および該遺伝子によりコードされる蛋白質を見出し、該蛋白質の機能および/または該遺伝子の発現を阻害する化合物の同定方法、該蛋白質の機能および/または該遺伝子の発現の異常に基づく疾患に用い得る医薬組成物、該疾患の診断用試薬キットを提供する。
【解決手段】 特定の配列からなる塩基配列で表されるポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質、該ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを含む形質転換体、前記蛋白質に対する抗体、これらを使用することを特徴とする、該蛋白質の機能および/または該遺伝子の発現を阻害する化合物の同定方法、上記疾患の診断方法、並びにこれらを含んでなる医薬組成物および試薬キットからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病に関与する蛋白質βアミロイドにより発現が誘導される、ヒト由来およびラット由来の新規遺伝子および該遺伝子によりコードされる蛋白質に関する。より詳しくは、該遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、該組換えベクターにより形質転換されてなる形質転換体、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質、および該蛋白質を認識する抗体に関する。また、前記蛋白質の製造方法に関する。さらに、前記蛋白質の機能および/または前記ポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法に関する。また、前記蛋白質の機能阻害剤および/または前記ポリヌクレオチドの発現阻害剤を有効成分として含んでなるアルツハイマー病の防止剤、改善剤および/または治療剤、前記蛋白質の機能阻害剤および/または前記ポリヌクレオチドの発現阻害剤を用いることを特徴とする、アルツハイマー病の防止方法、改善方法および/または治療方法に関する。さらに、前記ポリヌクレオチドの発現量を測定することを特徴とする慢性関節リウマチの診断方法に関する。また、前記蛋白質、前記ポリヌクレオチド、前記組換えベクター、前記形質転換体および前記抗体のうち、少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
βアミロイド(以下、Aβと略称することもある)は、アルツハイマー病患者の脳で観察される老人斑の構成因子であり、アルツハイマー病の初期発症段階において最も重要な意味を持つ因子と考えられている。Aβは、Aβ前駆体が、ある種のプロテアーゼによりプロセシングを受けることにより生成し、不溶性のβシート構造の凝集体を形成する。Aβは神経細胞に対し、直接的および間接的に作用することにより、アルツハイマー病の進行を促すと考えられている。
【0003】
Aβの間接的作用として、アストログリア細胞の活性化が知られている。アストログリア細胞は、Aβにより活性化されると、いくつかの機能因子を生産する(非特許文献1〜3)。本発明者らはAβにより発現が誘導される遺伝子として、プロスタグランジンE2合成酵素(特許文献1)、ADAMTS−4(A Disintegrin and Metalloproteinase with Thrombospondin Motifs−4)(特許文献2)、およびLib(特許文献3)をコードする各遺伝子を既に見出している。ADAMTS−4遺伝子は、リウマチに関わるECM(細胞外マトリックス)分解酵素遺伝子であることが知られている。
【0004】
アストログリア細胞とAβの協働作用は、アルツハイマー病の増悪に関わっていると考えられている。また、アルツハイマー病患者脳の病変部において、活性化アストログリア細胞が老人斑周辺に局在し、その細胞突起が老人斑に伸長していることも知られている。
【0005】
しかしながら、Aβがアストグリア細胞の活性化を介してアルツハイマー病を増悪化する機構およびAβによりアストログリア細胞において発現が誘導あるいは抑制される因子についての解析は未だ十分でない。
【0006】
以下に本明細書において引用した文献を列記する。
【特許文献1】特開2001−258575号公報。
【特許文献2】特開2001−352991号公報。
【特許文献3】特開2003−164290号公報。
【特許文献4】国際公開第02/02610号パンフレット。
【特許文献5】国際公開第02/57450号パンフレット。
【非特許文献1】マーク(Mark,R.E.)ら、「ヒューマン パソロジー(Human Pathology)」、1995年、第26巻、p.816−823。
【非特許文献2】マクギア(McGeer,P.L.)ら、「ブレイン リサーチ ブレイン リサーチ レビューズ(Brain Research Brain Research Reviews)」、1995年、第21巻、p.195−218。
【非特許文献3】エドルストン(Eddleston,M.)ら、「ニューロサイエンス(Neuroscience)」、1993年、第54巻、p.15−36。
【非特許文献4】パン(Pan,Z.)ら、「ネイチャー セル バイオロジー(Nature Cell Biology)」、2002年、第4巻、p.379−383。
【非特許文献5】サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー。
【非特許文献6】村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社。
【非特許文献7】伊藤仁一ら、「実験医学別冊神経生化学マニュアル」、1989年、 羊土社。
【非特許文献8】コムツィンスキー(Chomczynski)ら、「アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」、1987年、第162巻、p.156−159。
【非特許文献9】ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671。
【非特許文献10】エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス。
【非特許文献11】サイキ(Saiki,R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354。
【非特許文献12】「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−。
【非特許文献13】フローマン(Frohman,M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002。
【非特許文献14】サンガー(Sanger,F.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1977年、第74巻、p.5463−5467。
【非特許文献15】マキサム(Maxam,A.M.)ら、「メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1980年、第65巻、p.499−560。
【非特許文献16】ディアチェンコ(Diatchenko,L.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1996年、第93巻、p.6025−6030。
【非特許文献17】シムタ(Shimuta,M.)ら、「フェブス レターズ(FEBS Letters)」、1998年、第431巻、p.263−267。
【非特許文献18】パン(Pan,Z.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2004年、第279巻、第19号、p.19387−19390。
【非特許文献19】ブルツィスカ(Brzyska,M.)ら、「アクタ ニューロバイオロジア エクスペリメンタリス(ワース)(ACTA NEUROBIOLOGIAE EXPERIMENTALIS(Wars))」、2003年、第63巻、第3号、p.171−183。
【非特許文献20】フジタ(Fujita,Y.)ら、「ニューロン(Neuron)」、1998年、第20巻、第5号、p.905−915。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、アストログリア細胞においてAβにより発現が誘導される新規遺伝子を見出すことであり、見出された遺伝子をアルツハイマー病等の神経変性疾患の診断・制御を目的とする手段として使用することである。また本発明の課題には、該遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、該組換えベクターにより形質転換されてなる形質転換体を提供することも含まれる。さらに本発明の課題には、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質、該蛋白質を認識する抗体を提供することも含まれる。また、本発明の課題には、該蛋白質の製造方法を提供することも含まれる。さらに、本発明の課題には、該蛋白質の機能および/または該ポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法を提供することも含まれる。さらに本発明の課題には、該蛋白質の機能の異常および/または該ポリヌクレオチドの発現の異常に基づく疾患、例えばアルツハイマー病等の神経変性疾患の防止方法および/または治療方法、該疾患の防止剤および/または治療剤、並びに該疾患の診断方法、試薬キットを提供することも含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題解決のために鋭意努力し、Aβ処理および未処理のラット胎仔脳由来アストログリア細胞の発現遺伝子を用いたcDNAサブトラクション処理を実施し、Aβ処理により発現が誘導される遺伝子を同定し、その塩基配列および該遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を決定した。
【0009】
また、上記ラット由来遺伝子のヒト オーソログを見出し、その塩基配列を決定した。さらに、ヒト由来の本遺伝子によりコードされる蛋白質がカルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害することを明らかにした。
【0010】
ヒト由来の本遺伝子の発現は、骨格筋および心臓で強い発現が認められた。一方、本遺伝子の正常脳での発現は認められなかったが、凝集Aβが含まれている老人斑隣接のアストログリア細胞においてその発現が認められたことから、本遺伝子はAβにより発現が誘導されることにより、Aβが関連する疾患、例えばアルツハイマー病等の疾患の発症や増悪に関与すると考えることができる。
【0011】
また、関節炎モデルラットの膝関節において、正常ラットと比較して、ラット由来の本遺伝子のmRNAを有する細胞の増加が認められた。すなわち、関節炎モデルラットでは、本遺伝子の転写レベルが上昇している。本遺伝子の転写レベルが上昇していることから、関節炎モデルラットでは、本遺伝子の発現が亢進していると考えることができる。関節炎モデルラットは、ヒト慢性関節リウマチのモデルとして汎用されている。また、本遺伝子は、リウマチに関わるECM分解酵素遺伝子であるADAMTS−4遺伝子(特許文献2)と同様に、Aβにより発現誘導される遺伝子である。これらから、ヒト由来の本遺伝子の発現が慢性関節リウマチにおいて亢進していると本発明者は考えている。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいて達成された。
【0013】
すなわち、本発明は、
1.配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド、
2.配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
3.配列表の配列番号1に記載の塩基配列において、1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
4.配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
5.配列表の配列番号1に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
6.配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド、
7.配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
8.配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質をコードするポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
9.配列表の配列番号1に記載の塩基配列の第851番目から第890番目までの3´非翻訳領域の塩基配列の相補的塩基配列、または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、
10.配列表の配列番号1に記載の塩基配列の第851番目から第890番目までの3´非翻訳領域の塩基配列、または該3´非翻訳領域の塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、
11.前記9.のポリヌクレオチドを含むアンチセンスプローブ、
12.前記10.のポリヌクレオチドを含むセンスプローブ、
13.前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、
14.プラスミド FERM BP−08655号、
15.前記13.の組換えベクターまたは前記14.のプラスミドにより形質転換されてなる形質転換体、
16.配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質、
17.配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質であって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質、
18.前記3.または5.のポリヌクレオチドがコードする蛋白質、
19.前記3.または5.のポリヌクレオチドがコードする蛋白質であって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質、
20.前記13.の組換えベクターまたは前記14.のプラスミドにより形質転換されてなる形質転換体を培養する工程を含む、前記16.から19.のいずれかの蛋白質の製造方法、
21.前記16.から19.のいずれかの蛋白質を認識する抗体、
22.前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能および/または前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、前記16.から19.のいずれかの蛋白質、前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチド、前記13.の組換えベクター、前記14.のプラスミド、前記15.の形質転換体および前記21.の抗体のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法、
23.前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能が、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能である前記22.の同定方法、
24.前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能および/または前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、ある化合物と前記16.から19.のいずれかの蛋白質および/または前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドとの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と該蛋白質および/または該ポリヌクレオチドを接触させ、次いで、該蛋白質の機能および/または該ポリヌクレオチドの発現により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、該シグナルおよび/マーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該蛋白質の機能および/または該ポリヌクレオチドの発現を阻害するか否かを判定することを特徴とする同定方法、
25.前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能が、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能である前記24.の同定方法、
26.前記22.から25.のいずれかの同定方法により同定された化合物および前記21.の抗体のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドの発現および/または前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患の防止方法および/または治療方法、
27.前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドの発現および/または前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患が、アルツハイマー病である前記26.の防止方法および/または治療方法、
28.前記22.から25.のいずれかの同定方法により同定された化合物および前記21.の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する、前記16.から19.のいずれかの蛋白質によるカルシウム依存的エキソサイトーシス阻害の阻害剤、
29.前記22.から25.のいずれかの同定方法により同定された化合物および前記21.の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する、前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドの発現および/または前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患の防止剤および/または治療剤、
30.前記1.から8.のいずれかのポリヌクレオチドの発現および/または前記16.から19.のいずれかの蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患が、アルツハイマー病である前記29.の防止剤および/または治療剤、
31.被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を測定することを特徴とする方法、
32.被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を、前記11.のアンチセンスプローブを用いて測定する工程を含む方法、
33.被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の量を測定することを特徴とする方法、
34.被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の量を、前記21.の抗体を用いて測定する工程を含む方法、
35.前記16.から19.のいずれかの蛋白質、前記1.から10.のいずれかのポリヌクレオチド、前記11.のアンチセンスプローブ、前記12.のセンスプローブ、前記13.の組換えベクター、前記14.のプラスミド、前記15.の形質転換体および前記21.の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する試薬キット、
36.前記16.から19.のいずれかの蛋白質、前記1.から10.のいずれかのポリヌクレオチド、前記11.のアンチセンスプローブ、前記12.のセンスプローブ、前記13.の組換えベクター、前記14.のプラスミド、前記15.の形質転換体および前記21.の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有するアルツハイマー病の診断キット、
37.前記16.から19.のいずれかの蛋白質、前記1.から10.のいずれかのポリヌクレオチド、前記11.のアンチセンスプローブ、前記12.のセンスプローブ、前記13.の組換えベクター、前記14.のプラスミド、前記15.の形質転換体および前記21.の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する慢性関節リウマチの診断キット、
からなる
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、Aβにより発現が誘導されるヒト由来およびラット由来の新規遺伝子並びに該遺伝子によりコードされる蛋白質を提供できる。本遺伝子は、正常な骨格筋および心臓で強い発現が認められた。一方、本遺伝子の正常脳での発現は認められなかったが、凝集Aβが含まれている老人斑隣接のアストログリア細胞においてその発現が認められた。また、本蛋白質はカルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する。これらから、Aβによる本遺伝子の発現誘導により、本蛋白質の蓄積が生じ、その結果、脳細胞内のカルシウムホメオスタシスの異常が起こり、脳細胞死が誘導されると考える。本蛋白質および本遺伝子を利用して、Aβにより惹き起こされる脳細胞死やアルツハイマー病等の神経変性疾患の解明とその制御が可能になる。
【0015】
また、関節炎モデルラットの膝関節において、正常ラットと比較して、ラット由来の本遺伝子のmRNAを有する細胞の増加が認められた。すなわち、関節炎モデルラットでは、本遺伝子の転写レベルが上昇している。本遺伝子の転写レベルが上昇していることから、関節炎モデルラットでは、本遺伝子の発現が亢進していると考えることができる。関節炎モデルラットは、ヒト慢性関節リウマチのモデルとして汎用されている。また、本遺伝子は、リウマチに関わるECM分解酵素遺伝子であるADAMTS−4遺伝子(特許文献2)と同様に、Aβにより発現誘導される遺伝子である。これらから、ヒト由来の本遺伝子の発現が慢性関節リウマチにおいて亢進していると本発明者は考えている。本遺伝子の発現および/または本遺伝子によりコードされる蛋白質を検出することにより、慢性関節リウマチの診断が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。
本明細書においては、単離された若しくは合成の完全長蛋白質;単離された若しくは合成の完全長ポリペプチド;または単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「蛋白質」という用語を使用し、ここで蛋白質、ポリペプチド若しくはオリゴペプチドは最小サイズが2アミノ酸である。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
【0017】
(ポリヌクレオチド)
本発明の一態様は新規ポリヌクレオチドに関する。本ポリヌクレオチドは、Aβにより発現が誘導される遺伝子の塩基配列を有する。また、本ポリヌクレオチドは、カルシウム依存的エキソサイトーシス(以下、Ca2依存的エキソサイトーシスと称することがある)を阻害する機能を有する蛋白質をコードすることを特徴とする。以下、Aβにより発現が誘導される遺伝子をAβ誘導遺伝子と称することがある。
【0018】
本発明に係るポリヌクレオチドの具体的態様は、例えば配列表の配列番号1若しくは3に記載の塩基配列またはその相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドであり得る。好ましくは、配列表の配列番号1若しくは3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、またはその相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドであり得る。
【0019】
配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、全長3,295bpのラット由来遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドであり、264アミノ酸(配列番号4)をコードする792bpからなるオープンリーディングフレーム(ORF:第75〜第866番目のヌクレオチド、ただし終止コドンは含まない)を含む。本ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質(配列番号4)は、4箇所の膜貫通領域(それぞれ、第40〜56番目、第117〜137番目、第151〜171番目および第210〜234番目の各アミノ酸配列からなる)を有しており、マウスのミツグミン29遺伝子によりコードされる蛋白質と97%の配列相同性を示した。このことから、本ポリヌクレオチドは、ミツグミン29遺伝子のラットオーソログの塩基配列を有するポリヌクレオチドであることが明らかになった。以下、ミツグミン29遺伝子をMg29遺伝子と略称することがある。また、配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドをラットMg29遺伝子、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質をラットMg29と称することがある。ラットMg29遺伝子はラットクロモソーム2q34領域に位置することが、マッピングデータにより判明した。
【0020】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、890bpのヒト由来遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドであり、272アミノ酸(配列番号2)をコードする816bpからなるORF(第32〜第847番目のヌクレオチド、ただし終止コドンは含まない)を含む。本ポリヌクレオチドは配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと同様に、4箇所の膜貫通領域(それぞれ、第40〜56番目、第117〜137番目、第151〜171番目および第210〜234番目の各アミノ酸配列からなる)をコードすることが予測できた。また、本ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、マウスMg29と約90%、同定したラットMg29(配列番号4)とは約91%の配列相同性を示した。このことから、本ポリヌクレオチドは、Mg29遺伝子のヒトオーソログの塩基配列を有するポリヌクレオチドであることが明らかになった。以下、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドをヒトMg29遺伝子、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質をヒトMg29と称することがある。ヒトMg29遺伝子はヒトクロモソーム1q13.3領域に存在することが、マッピングデータにより判明した。
【0021】
同定したヒトMg29遺伝子およびラットMg29遺伝子は実験により取得された遺伝子として公知のデータベース上未登録であり、いずれも新規塩基配列を有する。本発明において、これら遺伝子がmRNAとして転写されることを初めて示した。ヒトMg29遺伝子およびラットMg29遺伝子のORF領域の塩基配列はDDBJ/EMBL/GenBankに、それぞれアクセッション番号AB158472およびAB158471で登録(非公開)した。
【0022】
本発明に係るポリヌクレオチドの具体的態様として、ヒトMg29遺伝子のORF領域である塩基配列(配列表の配列番号5に記載の塩基配列)またはその相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドを例示できる。好ましくは、配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、またはその相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドであり得る。
【0023】
ヒトMg29遺伝子のORF領域については、米国INCYTE社およびCuraGen社がそれぞれその塩基配列およびその塩基配列でコードされる蛋白質のアミノ酸配列を予測し、国際特許申請している(特許文献4および特許文献5)。しかしながら、これらの塩基配列およびアミノ酸配列はそれぞれ予測された塩基配列およびアミノ酸配列であって、実際にそれらの配列で表されるポリヌクレオチドおよび蛋白質を取得したという報告、実験に基づくそれらの機能に関する報告はない。
【0024】
また、ヒトMg29およびそれをコードするポリヌクレオチドの配列は、公知のゲノム配列からコンピュータにより予測され、GenBankに登録されている(アクセッション番号XM_371278)。さらに、予測されたアミノ酸配列のドメイン構造から、予測されたアミノ酸配列で表される蛋白質は、細胞内の蛋白質輸送に関わる機構の一部を担う蛋白質である可能性があると予測されている。しかし、予測されたアミノ酸配列で表される蛋白質が、ヒトMg29の機能であるカルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有することは予測されていない。また、アルツハイマー病との関連も予測されていない。予測されたポリヌクレオチドは、ヒトMg29遺伝子のORF領域を含む配列で表されるポリヌクレオチドであるが、ヒトMg29遺伝子の配列の3´非翻訳(UTR)領域(第851番目から第890番目で表される領域)を含んでいない。本領域は3´UTR領域であることから、本領域またはそれらの相補的配列で表されるポリヌクレオチドは、本遺伝子のORF領域、5´UTR領域またはそれらの相補的配列で表されるポリヌクレオチドと比較して、ヒトMg29遺伝子に対しより特異的にハイブリダイズするプローブとして利用することができると発明者は考えている。例えば、ヒトMg29遺伝子が属する遺伝子ファミリーの他の遺伝子とヒトMg29遺伝子とを識別して検出するためのプローブとして3´UTR領域を利用することができる。また、コンピュータにより予測された配列で表されるポリヌクレオチドおよび蛋白質を取得したという報告や、実験に基づくそれらの機能に関する報告はない。
【0025】
さらに、ラットMg29およびそれをコードするポリヌクレオチドの配列は、公知のゲノム配列からコンピュータにより予測され、GenBankに登録されている(アクセッション番号XM_342316)。しかし、予測されたポリヌクレオチドは、ラットMg29遺伝子のORF領域で表されるポリヌクレオチドであるが、ラットMg29遺伝子の配列のUTR領域(5´UTR領域である第1番目から第74番目で表される領域、3´UTR領域である第870番目から第3295番目で表される領域)を含んでいない。本3´UTR領域またはその相補的配列で表されるポリヌクレオチドは、ラットMg29遺伝子のORF領域、5´UTR領域またはそれらの相補的配列で表されるポリヌクレオチドと比較して、ラットMg29遺伝子に対しより特異的にハイブリダイズするプローブとして利用することができると発明者は考えている。例えば、ラットMg29遺伝子が属する遺伝子ファミリーの他の遺伝子とラットMg29遺伝子とを識別して検出するためのプローブとして3´UTR領域を利用することができる。また、コンピュータにより予測された配列で表されるポリヌクレオチドおよび蛋白質を取得したという報告や、実験に基づくそれらの機能に関する報告はない。
【0026】
Mg29遺伝子は、マウス由来の遺伝子が既にクローニングされており、その機能解析が進められている。マウス由来のMg29遺伝子によりコードされる蛋白質は、骨格筋細胞において、横行小管を両側から筋小胞体が支える三つ組み構造に存在する蛋白質として見出されている。Mg29遺伝子のノックアウトマウスでは筋肉の未成熟、筋肉の疲れ易さが亢進する症状が認められている。この症状は、Mg29遺伝子を欠失させたことで、筋細胞におけるストア作動性カルシウムチャネルに機能障害が生じ、細胞内カルシウムホメオスタシスが破綻したことに由来すると考えられる(非特許文献4)。
【0027】
さらに、Mg29がリアノジン受容体(ryanodine receptor、RyR)を活性化すると報告されている(非特許文献18)。また、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)においてMg29とリアノジン受容体を共発現させた結果、CHO細胞内のカルシウムストアの枯渇によりアポトーシスが誘導されることが報告されている(非特許文献18)。しかし、神経細胞におけるMg29の機能解析または脳におけるMg29の発現解析の結果は報告されていない。また、Mg29とアルツハイマー病との関連も報告されていない。
【0028】
同定したヒトMg29遺伝子の組織発現は心臓および骨格筋で高く、ラットMg29遺伝子の組織発現は骨格筋で高かった(実施例4)。しかし、ヒトMg29遺伝子およびラットMg29遺伝子はいずれも、正常脳組織での発現は認められなかった。ラットMg29遺伝子は、Aβ処理したラットアストログリア細胞から同定された遺伝子である。正常脳組織での発現が認められなかったことから、ラットMg29遺伝子は脳での定常時発現は抑制されており、Aβ刺激により発現が誘導されると考えることができる。ヒトMg29遺伝子は、ラットMg29遺伝子と比較してコードするアミノ酸配列の相同性が高く、また、組織発現のパターンも類似している。したがって、ヒトMg29遺伝子も、脳での定常時発現は抑制されており、Aβ刺激により発現が誘導されると考えることができる。
【0029】
同定したヒトMg29遺伝子は、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞株にヒトグロースホルモン(hGH)遺伝子と共遺伝子導入したときに、カルシウム依存的エキソサイトーシスによるhGHの細胞外放出を有意に阻害した(実施例5)。このことから、本遺伝子がシナプティックベジクルドッキングに影響を与えた可能性が考えられる。その他、本遺伝子の過剰発現が膜電位作働性のカルシウム動態自体に影響を与えた可能性も考えられる。アルツハイマー病では、神経細胞内のカルシウム濃度上昇が神経伝達を阻害し神経細胞死に関わるという仮説を含め、カルシウム動態の破綻と病態の進行との関連が示唆されている(非特許文献19および20)。Aβ誘導遺伝子として同定・取得された本遺伝子は、アルツハイマー病において、Aβの脳内での蓄積、本遺伝子の脳内での発現亢進、本遺伝子の発現亢進による脳細胞内のカルシウム取り込み量の増大、このようなカルシウム動態の異常による神経伝達阻害および脳細胞死、脳細胞死による痴呆という一連の作用メカニズムにより、この疾患に深く関わっていると考える。本遺伝子によりコードされる蛋白質は、シナプティックエキソサイトーシスに関与する分子であるシナプトフィシン(synaptophysin)との相同性が約50%あるが、脳内での機能解析報告はない。
【0030】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明により開示されたその具体例、例えば配列番号1または3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(非特許文献5および6等を参照)により容易に取得できる。
【0031】
例えば、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が確認されている適当な起源から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該cDNAライブラリーから所望のクローンを選択することにより本ポリヌクレオチドを取得できる。cDNAの起源として、本ポリヌクレオチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞、例えばヒトやラットの脳由来の細胞等を挙げることができる。本ポリヌクレオチドがAβ誘導遺伝子の塩基配列を有することから、脳由来の細胞を使用するときは、Aβ処理をした後に使用することが好ましい。また、ヒトの各組織由来の市販されているpolyA(+)RNA、例えば骨格筋由来polyA(+)RNAからcDNAライブラリーを構築して用いることができる。cDNAの起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。cDNAライブラリーから所望のクローンを選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を利用できる。例えば、本ポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプローブやプライマー等を用いて所望のクローンを選択することができる。具体的には、本ポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイゼーションするプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法やこれらを組合わせた方法を例示できる。ここで用いるプローブとして、本ポリヌクレオチドの配列情報に基づいて化学合成したポリヌクレオチド等を一般的に使用でき、既に取得された本ポリヌクレオチドやその部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドが好ましく使用できる。また、本ポリヌクレオチドの配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをかかるプローブとして使用することができる。
【0032】
本発明に係るポリヌクレオチドの取得は、具体的には、例えば本ポリヌクレオチドの発現が明らかになったヒト骨格筋由来の市販されているpolyA(+)RNAから構築したcDNAライブラリーを用いて実施できる。あるいは、Aβ処理したアストログリア細胞から構築したcDNAライブラリーを用いて本ポリヌクレオチドを取得できる。アストログリア細胞は、各種動物の脳、好ましくは胎仔脳から調製できる。用いる動物として、比較的胎仔脳を採取し易いラット、マウス、モルモット、ウサギ等のげっ歯類を好ましく例示でき、特にラットは好適に用いられる。胎仔脳からのアストログリア細胞の調製は自体公知の方法が適用でき、その方法は非特許文献7等に開示されている。アストログリア細胞に作用させるAβは市販されており、Anaspec社等から入手できる。また、Aβは遺伝子工学的手法により作成することができる。Aβは細胞の処理に使用する前に遠心処理等により凝集させて使用してもよい。Aβの添加濃度および処理時間は生理活性を示す範囲で適宜選択される。濃度としては25〜50μM、処理時間としては10〜20時間が好ましい。細胞からcDNAライブラリーを構築する方法は、一般的に用いられている遺伝子工学的手法を利用できる。例えば細胞から採取した全RNAからmRNAを調製してさらにcDNAに変換する方法が利用できる。細胞からの全RNAの採取には、例えば、酸性グアニジニウム−フェノール−クロロホルム法(AGPC法;非特許文献8)が適用できる。全RNAからのmRNAの採取は、オリゴdTカラム等を用いたpolyA(+)RNAの精製等により実施できる。mRNAからcDNAへの変換は逆転写酵素等を用いた方法が適用できる。
【0033】
cDNAライブラリーからの所望のクローンの選択は、例えば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、さらに該蛋白質の機能を指標にして実施できる。本ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の機能として、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を例示できる。蛋白質発現系として、自体公知の発現系がいずれも利用できるが、無細胞蛋白質発現系の利用が簡便である。
【0034】
ここで「カルシウム依存的エキソサイトーシス」とは、細胞内で通常は一定に保持されているカルシウムイオン濃度の上昇により惹き起こされる、細胞内分泌顆粒と細胞膜との融合による細胞からの分泌顆粒内物質(神経伝達物質やホルモン等)の細胞外への放出をいう。細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇は、細胞外からのカルシウムイオンの流入、あるいは細胞内カルシウムストアからのカルシウムイオンの放出により生じる。このようなカルシウムイオン濃度の変化は、細胞への刺激により活性化された細胞内情報伝達機構等を介して惹き起こされる。「カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能」とは、細胞内カルシウム濃度の変化により惹起された、細胞からの分泌顆粒内物質の細胞外への放出を阻害する機能を意味する。このような機能は、例えば、該機能を有すると考えられる蛋白質をコードするポリヌクレオチドを、分泌顆粒を有する細胞で発現させ、該細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる処理を行った後に、該細胞のエキソサイトーシスを測定することにより、該ポリヌクレオチド非発現細胞との比較において、判定できる。分泌顆粒を有する細胞は、公知の細胞をいずれも使用でき、例えば神経細胞、より具体的にはラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞株を例示できる。細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる処理として、高濃度のカリウムにより細胞を処理する方法、カルシウムイオン選択的なイオノフォア、例えばイオノマイシンやA23187で細胞を処理する方法を例示できる。これら例示した方法に限らず、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる公知の手法をいずれも使用できる。
【0035】
本発明に係るポリヌクレオチドの取得にはその他、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する、非特許文献9〜11)によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE(rapid amplification of cDNA ends)法(非特許文献12)、特に5´−RACE法(非特許文献13)等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、ポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、化学合成法により常法に従って取得できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法により実施できる。例えばゲル電気泳動法等により単離精製を実施できる。
【0036】
かくして得られるポリヌクレオチドの塩基配列の決定は、常法、例えばジデオキシ法(非特許文献14)やマキサム−ギルバート法(非特許文献15)等により、また簡便には市販のシーケンスキット等を用いて実施できる。
【0037】
本発明に係るポリヌクレオチドにはまた、配列番号2または4に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質をコードするポリヌクレオチドが包含される。このようなポリヌクレオチドとして、配列番号1または3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドのORFの塩基配列を含むポリヌクレオチドを挙げることができる。好ましくは、配列番号2または4に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質をコードするポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを例示できる。
【0038】
本発明に係るポリヌクレオチドには、また、上記ポリヌクレオチドの塩基配列において1個以上、例えば好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが包含される。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するポリヌクレオチドがカルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドである限り特に制限されない。かかる変異を有するポリヌクレオチドは、天然に存在するポリヌクレオチドであってよく、誘発変異を有するポリヌクレオチドであってよい。また、天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たポリヌクレオチドであってもよい。変異を導入する方法は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCR等を、単独でまたは適宜組合わせて用いることができる。例えば成書に記載の方法(非特許文献5および6)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(非特許文献9)を利用することができる。
【0039】
さらに、本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを包含する。
【0040】
本発明に係るポリヌクレオチドとしてまた、上記ポリヌクレオチドまたはその相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドを例示できる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば成書に記載の方法(非特許文献5)等に従うことができる。具体的には、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC、0.5% SDSおよび50% ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5% SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件をいう。ハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドは、ハイブリダイゼーションする他方のポリヌクレオチドの塩基配列の相補的塩基配列を有するポリヌクレオチドでなくてもよい。好ましくは、コードする蛋白質がカルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質であることが望ましい。
【0041】
本発明に係るポリヌクレオチドには、上記ポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、該部分塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドが包含される。このようなポリヌクレオチドは、その最小単位として好ましくは該領域において連続する5個以上のヌクレオチド、より好ましくは10個以上のヌクレオチド、より好ましくは20個以上のヌクレオチドからなる。このようなポリヌクレオチドは、DNAであってもよく、RNAであってもよい。これらポリヌクレオチドは、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列情報に従って、所望の配列を設計し、自体公知の化学合成法により製造できる。簡便には、DNA/RNA自動合成装置を用いて取得できる。
【0042】
本発明に係るポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、該部分塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドは、Mg29遺伝子を検出するためのプローブや、Mg29遺伝子を増幅するためのプライマーとして使用することができる。本発明に係るポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および該部分塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、好ましくは、Mg29遺伝子に特異的なポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0043】
「特異的なポリヌクレオチド」とは、標的遺伝子に対して強くハイブリダイズするが、該遺伝子とは別種の遺伝子には弱くハイブリダイズするか、またはハイブリダイズしないポリヌクレオチドを意味する。「Mg29遺伝子に特異的なポリヌクレオチド」とは、Mg29遺伝子に対して強くハイブリダイズするが、該遺伝子とは別種の遺伝子には弱くハイブリダイズするか、またはハイブリダイズしないポリヌクレオチドを意味する。
【0044】
本発明に係るポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドは、Mg29遺伝子のアンチセンスプローブとして使用できる。Mg29遺伝子のアンチセンスプローブは、例えば、Mg29遺伝子の発現検出用プローブとして使用できる。本発明に係るポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドは、例えばMg29遺伝子のセンスプローブとして使用できる。Mg29遺伝子のセンスプローブは、例えば、Mg29遺伝子の発現検出の際のネガティブコントロールとして有用である。
【0045】
「アンチセンス」とは、標的とする遺伝子配列(センス配列)に対して相補的であることを意味する。「アンチセンスプローブ」とは、センス配列に対して相補的な配列を有し、センス配列とハイブリダイゼーションするプローブを意味する。「センス」とは、蛋白質をコードすることを意味する。「センスプローブ」とは、蛋白質をコードする遺伝子配列またはその部分遺伝子配列を有し、蛋白質をコードする遺伝子配列の鋳型となる遺伝子配列(アンチセンス配列)とハイブリダイゼーションするプローブを意味する。
【0046】
本発明に係るヒト由来のポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および該部分塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとして、配列番号1に記載の塩基配列の第851〜890番目に相当する塩基配列またはその部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および第851〜890番目に相当する塩基配列の相補的塩基配列または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドを好ましく例示できる。配列番号1に記載の塩基配列の第851〜890番目の塩基配列で表される領域は、3´非翻訳(UTR)領域であることから、本領域またはそれらの相補的配列で表されるポリヌクレオチドは、本遺伝子のORF領域、5´UTR領域またはそれらの相補的配列で表されるポリヌクレオチドと比較して、ヒトMg29遺伝子に対してより特異的にハイブリダイズするプローブとして利用することができると発明者は考えている。例えば、ヒトMg29遺伝子が属する遺伝子ファミリーの他の遺伝子とヒトMg29遺伝子とを識別して検出するためのプローブとして3´UTR領域を利用することができる。配列番号1に記載の塩基配列の第851〜890番目に相当する塩基配列の相補的塩基配列または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、ヒトMg29遺伝子の発現検出用アンチセンスプローブとして使用できる。配列番号1に記載の塩基配列の第851〜890番目に相当する塩基配列またはその部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、ヒトMg29遺伝子のセンスプローブとして使用でき、該遺伝子の発現検出の際のネガティブコントロールとして有用である。
【0047】
本発明に係るラット由来のポリヌクレオチドの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および該部分塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとして、配列番号3に記載の塩基配列の第1517〜2010番目に相当する塩基配列で表されるポリヌクレオチド、および第1517〜2010番目に相当する塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドを好ましく例示できる。配列番号3に記載の塩基配列の第1517〜2010番目の塩基配列で表される領域は、3´非翻訳(UTR)領域であることから、本領域またはそれらの相補的配列で表されるポリヌクレオチドは、本遺伝子のORF領域、5´UTR領域またはそれらの相補的配列で表されるポリヌクレオチドと比較して、ラットMg29遺伝子に対しより特異的にハイブリダイズするプローブとして利用することができると発明者は考えている。例えば、ラットMg29遺伝子が属する遺伝子ファミリーの他の遺伝子とラットMg29遺伝子とを識別して検出するためのプローブとして3´UTR領域を利用することができる。配列番号1に記載の塩基配列の第1517〜2010番目に相当する塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、ラットMg29遺伝子の発現検出用アンチセンスプローブとして使用できる。配列番号3に記載の塩基配列の第1517〜2010番目に相当する塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、ラットMg29遺伝子のセンスプローブとして使用でき、該遺伝子の発現検出の際のネガティブコントロールとして有用である。配列番号3に記載の塩基配列の第1517〜2010番目に相当する塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとして、より具体的には、配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAが例示できる。配列番号3に記載の塩基配列の第1517〜2010番目に相当する塩基配列で表されるポリヌクレオチドとして、より具体的には、配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAが例示できる。
【0048】
本発明に係るポリヌクレオチドは、その発現あるいはそれによりコードされる蛋白質の機能、例えばカルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に所望の遺伝子が付加されたポリヌクレオチドであってよい。本ポリヌクレオチドに付加することのできる遺伝子として、具体的には、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ(β−GAL)、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、あるいはジゴキシゲニン(DIG)等の遺伝子を例示できる。これら遺伝子から選択した1種類または複数種類の遺伝子を組合わせて付加することができる。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により実施でき、遺伝子やmRNAの検出を容易にするために有用である。
【0049】
(ベクター)
本発明の一態様は、本発明に係るポリヌクレオチドを組込んだ組換えベクターに関する。本組換えベクターは、本ポリヌクレオチドを適当なベクターDNAに挿入することにより取得できる。
【0050】
本発明に係るポリヌクレオチドを組込んだ組換えベクターの具体的態様として、プラスミド FERM BP−08655号を挙げることができる。本プラスミドは独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年3月5日付けで寄託した。
【0051】
本発明に係るポリヌクレオチドを組込んだ組換えベクターは、上記プラスミドに限定されず、本ポリヌクレオチドが組込まれている組換えベクターである範囲において、いずれの組換えベクターであってもよい。ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するDNAを抽出して得られたベクターDNAの他、増殖に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているベクターDNAでもよい。代表的なベクターDNAとして、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを例示できる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドを例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージを例示できる。ウイルス由来のベクターDNAとして例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを例示できる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAを例示できる。あるいは、これらを組合わせて作成したベクターDNA、具体的には、プラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合わせて作成したベクターDNA(コスミドやファージミド等)を例示できる。
【0052】
ベクターDNAは、発現ベクターやクローニングベクター等、目的に応じていずれを用いることもできる。本発明に係るポリヌクレオチドを組込んだ発現ベクターは、本ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の製造に有用である。
【0053】
ベクターDNAには、本発明に係るポリヌクレオチドの機能が発揮されるように該ポリヌクレオチドを組込むことが必要であり、少なくとも本ポリヌクレオチドとプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列を組合わせて自体公知の方法によりベクターDNAに組込むことができる。かかる遺伝子配列として、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー(ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等)を例示できる。これらから選択した1種類または複数種類の遺伝子配列をベクターDNAに組込むことができる。
【0054】
ベクターDNAに本発明に係るポリヌクレオチドを組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、本ポリヌクレオチドを含む遺伝子を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼにより再結合する方法が用いられる。あるいは、本ポリヌクレオチドに適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが得られる。
【0055】
(形質転換体)
本発明の一態様は、本発明に係るポリヌクレオチドを組込んだベクターDNAにより、宿主を形質転換して得られる形質転換体に関する。本ポリヌクレオチドを組込んだ発現ベクターを導入した形質転換体は、本ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の製造に有用である。本形質転換体には、本ポリヌクレオチド以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAの1種類または複数種類をさらに導入することができる。本ポリヌクレオチド以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAとして、神経伝達物質やホルモン等をコードする遺伝子を組込んだベクターDNAを例示できる。本ポリヌクレオチドを組込んだ発現ベクターと神経伝達物質やホルモン等をコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターとにより形質転換して得られる形質転換体は、本ポリヌクレオチドによるカルシウム依存的エキソサイトーシスの阻害を阻害する化合物の同定方法に有用である。このような形質転換体として好ましくは、本ポリヌクレオチドを組込んだ発現ベクターとhGHをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターとにより形質転換して得られる形質転換体を例示できる。
【0056】
宿主として、原核生物および真核生物のいずれも用いることができる。原核生物として、大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を例示できる。真核生物として、酵母、昆虫細胞および哺乳動物細胞等の動物細胞を例示できる。酵母は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)を例示できる。昆虫細胞として、Sf9細胞やSf21細胞を例示できる。哺乳動物細胞として、サル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞等)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞、ヒトFL細胞やヒト293EBNA細胞を例示できる。好ましくは哺乳動物細胞を用いる。
【0057】
ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用され、例えば成書に記載されている標準的な方法(非特許文献5)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法を挙げることができ、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)および感染等の方法を例示できる。
【0058】
原核生物を宿主とする場合、組換えベクターが該原核生物中で自律複製できると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明に係るポリヌクレオチド、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。細菌を宿主とする場合、プロモーターは大腸菌等の細菌中で発現できるプロモーターであればいずれも利用できる。具体的には、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の、大腸菌やファージに由来するプロモーターを例示できる。tacプロモーター等の人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、いずれも利用できる。好ましくは例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等の方法を利用できる。
哺乳動物細胞を宿主とする場合、組換えベクターが該細胞中で自律複製できると同時に、プロモーター、RNAスプライス部位、本発明に係るポリヌクレオチド、ポリアデニル化部位、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、所望により複製起点が含まれていてもよい。プロモーターとして、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等を例示できる。また、サイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等が使用できる。哺乳動物細胞への組換えベクターの導入方法として、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等の方法を利用できる。
酵母を宿主とする場合、プロモーターとして酵母中で発現できるプロモーターであれば特に限定されず、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーターを例示できる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等の方法を利用できる。
昆虫細胞を宿主とする場合、組換えベクターの導入方法として、好ましくは例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等の方法を利用できる。
【0059】
(蛋白質)
本発明の一態様は、本発明に係るポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質に関する。
【0060】
本発明に係る蛋白質の具体的態様として、配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を挙げることができる。配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる。配列番号4に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質は、配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる。
【0061】
本発明に係る蛋白質はまた、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質であり得る。配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質(配列番号2)は、かかる蛋白質として好ましく例示できる。配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドとhGH遺伝子とを共遺伝子導入した細胞において、カルシウム依存的エキソサイトーシスが阻害された(実施例5参照)。配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質(配列番号4)は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質(配列番号2)と約91%の配列相同性を示した。このことから、配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質(配列番号4)も、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有すると考える。
【0062】
したがって、本発明に係る蛋白質の一態様として、配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質であって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質を好ましく例示できる。
【0063】
本発明に係る蛋白質には、配列表の配列番号1または3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの塩基配列において1個以上、例えば、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入等の変異あるいは誘発変異を有し、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質が包含される。かかる蛋白質として、配列番号2または4に記載のアミノ酸配列において1個以上、例えば、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列からなり、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質を挙げることができる。アミノ酸の変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有する蛋白質が、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質である限り特に制限されない。かかる変異を有する蛋白質は、天然において例えば突然変異や翻訳後の修飾等により生じたものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する方法は自体公知であり、例えば、公知の遺伝子工学的技術を利用して実施できる。変異の導入において、当該蛋白質の基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0064】
また、本発明に係る蛋白質には、配列表の配列番号1または3に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドがコードする蛋白質が包含される。好ましくは、該ポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドがコードする蛋白質が包含される。
【0065】
本発明に係る蛋白質は、化学合成産物、無細胞系合成産物、遺伝子工学的手法により細胞内で発現させたもの、または該細胞や生体試料から調製したものであってよく、これらからさらに精製されたものであってもよい。
【0066】
本発明に係る蛋白質はさらに、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変することができる。また、N末端側やC末端側に別の蛋白質等を、直接的に、またはリンカーペプチド等を介して間接的に、遺伝子工学的手法等を用いて付加することにより標識化することができる。好ましくは、本蛋白質の基本的な性質、例えばカルシウム依存的エキソサイトーシス阻害等の性質が阻害されないような標識化が望ましい。標識化に用いる物質(標識物質)として、GST、β−Gal、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)等の蛍光物質類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチンを例示できるが、これらに限定されない。また、放射性同位元素により標識化することができる。標識物質は、1種類または複数種類を組合わせて本蛋白質に付加することができる。これら標識物質自体またはその機能の測定により、本蛋白質の検出や精製、また、本蛋白質と他の蛋白質との結合の検出や本蛋白質の機能の測定を容易に実施できる。
【0067】
(蛋白質の製造方法)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質の製造方法に関する。本蛋白質は、例えば本蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法(非特許文献5、6、9および10等を参照)により取得できる。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞から常法に従ってcDNAライブラリーをまず調製する。次いで、本蛋白質をコードする遺伝子に選択的にハイブリダイゼーションするプライマーを用いて、該cDNAライブラリーから本ポリヌクレオチドを増幅する。得られたポリヌクレオチドの発現誘導を公知の遺伝子工学的手法を利用して実施することにより、本蛋白質を取得できる。
【0068】
具体的には例えば、本発明に係る形質転換体を培養し、次いで得られた培養物から本蛋白質を回収することにより、本蛋白質を製造できる。本形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で実施できる。培養は、形質転換体により発現される本蛋白質自体または本蛋白質の機能、例えば、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を指標にして実施できる。あるいは、形質転換体中または形質転換体外に産生された本蛋白質自体またはその蛋白質量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。
【0069】
本発明に係る蛋白質が形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して本蛋白質を抽出する。また、本蛋白質が形質転換体外に分泌される場合は、培養液をそのまま使用するか、遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液を用いる。
【0070】
本発明に係る蛋白質は、所望により、形質転換体を培養した培養液または形質転換体から、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により分離および/または精製することができる。分離および/または精製は、本蛋白質の機能、例えば、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を指標にして実施できる。分離操作方法として、硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、透析法を例示できる。これら分離操作方法は単独でまたは適宜組合わせて用いることができる。好ましくは、本蛋白質のアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作製し、該抗体を用いて特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを用いることが推奨される。
【0071】
本発明に係る蛋白質はまた、一般的な化学合成法により製造することができる。蛋白質の化学合成方法として、固相合成方法、液相合成方法等の方法が知られているがいずれも利用できる。かかる蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含する。本蛋白質の合成は、そのいずれによっても実施できる。上記蛋白質合成法において利用される縮合法も常法に従うことができる。縮合法として、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法を例示できる。化学合成により得られる本蛋白質はさらに、上記のような慣用の各種分離操作方法により適宜精製を実施できる。
【0072】
(抗体)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質を認識する抗体に関する。本発明に係る蛋白質を認識する抗体は、本発明に係る蛋白質に特異的な抗体であることが好ましい。
【0073】
「特異的な抗体」とは、標的蛋白質を強く認識して結合するが、該蛋白質とは別種の蛋白質に対する認識および結合が弱いか、認識および結合しない抗体を意味する。
【0074】
本抗体は、本蛋白質またはその断片を抗原として用いて作製できる。抗原は、少なくとも8個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも12個、さらに好ましくは15個以上のアミノ酸で構成される。本蛋白質に特異的な抗体を作成するためには、本蛋白質に固有なアミノ酸配列で表される領域を抗原として用いることが好ましい。この領域のアミノ酸配列は、必ずしも該蛋白質またはその断片のアミノ酸配列と同一である必要はなく、その立体構造上の外部への露出部位が好ましい。露出部位のアミノ酸配列が一次構造上で不連続であっても、該露出部位について連続的なアミノ酸配列であればよい。本抗体は免疫学的に本蛋白質またはその断片を特異的に結合または認識する抗体であればいずれであってもよく、特に限定されない。この結合または認識の有無は、公知の抗原抗体結合反応により決定できる。
【0075】
抗体の産生には、自体公知の抗体作製法を利用できる。例えば、抗原をアジュバントの存在下または非存在下で、単独でまたは担体に結合して動物に投与し、体液性応答および/または細胞性応答等の免疫誘導を行うことにより抗体が得られる。担体は、それ自体が宿主に対して有害作用を示さずかつ抗原性を増強せしめる限りにおいて、公知の担体をいずれも使用できる。具体的には、セルロース、重合アミノ酸、アルブミンおよびキーホールリンペットヘモシアニンを例示できる。アジュバントとして、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組合わせを例示できる。免疫に用いる動物は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等が好適である。
【0076】
ポリクローナル抗体は、免疫手段を施された動物の血清から自体公知の抗体回収法により取得できる。好ましい抗体回収手段として免疫アフィニティクロマトグラフィー法を例示できる。
【0077】
モノクローナル抗体は、免疫手段が施された動物から抗体産生細胞(例えば、脾臓またはリンパ節由来のリンパ球)を回収し、自体公知の永久増殖性細胞(例えば、P3−X63−Ag8株等のミエローマ株)への形質転換手段を導入することにより生産できる。例えば、抗体産生細胞と永久増殖性細胞とを自体公知の方法で融合させてハイブリドーマを作成してこれをクローン化する。クローン化した種々のハイブリドーマから、本発明に係る蛋白質を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマを選別し、該ハイブリドーマの培養液から抗体を回収する。
【0078】
本発明に係る蛋白質を認識し結合し得るポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、本発明に係る蛋白質の検出用抗体として使用できる。また、本抗体は、本蛋白質の精製用抗体、試薬または標識マーカー等として利用できる。特に本蛋白質の機能を阻害する抗体は、本蛋白質の機能調節に使用でき、本蛋白質の機能異常や量的異常に起因する各種疾患の解明、防止、改善および/または治療のために有用である。
【0079】
(化合物の同定方法)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質の機能を阻害する化合物、あるいは本発明に係るポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法に関する。本同定方法は、本発明に係る蛋白質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体または抗体のうち少なくともいずれか1種類を用いて、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して実施できる。本同定方法は、インビトロまたはインビボで実施されるいずれの方法も包含する。本同定方法により、本蛋白質の立体構造に基づくドラッグデザインによる拮抗剤の選別、蛋白質合成系を利用した遺伝子レベルでの発現の阻害剤の選別、または抗体を利用した抗体認識物質の選別等を実施できる。
【0080】
本発明に係る蛋白質の機能を阻害する化合物の同定方法は、本蛋白質の機能を測定することのできる実験系において、本蛋白質と調べようとする化合物(被験化合物)の相互作用を可能にする条件下で、本蛋白質と被験化合物とを共存させることにより本蛋白質と被験化合物を接触させてその機能を測定し、次いで、被験化合物の存在下における本蛋白質の機能と、被験化合物の非存在下における本蛋白質の機能とを比較し、本蛋白質の機能の存在、不存在または変化、例えば低減、増加、消失、出現を検出することにより実施できる。被験化合物の非存在下における本蛋白質の機能と比較して、被験化合物の存在下における本蛋白質の機能が低減または消失する場合、該被験化合物は本蛋白質の機能を阻害すると判定できる。機能の測定は、該機能の直接的な検出により、または例えば機能の指標となるシグナルおよび/またはマーカーを実験系に導入して該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより実施できる。ここでシグナルとは、そのもの自体がその物理的または化学的性質により直接検出され得るものを指す。ここでマーカーとは、それ自体は物理的または化学的性質により検出され得ないが、化学的反応を経ることにより前記シグナルを生成させるものであって、そのものの物理的、化学的または生物学的性質を指標として間接的に検出され得るものを指す。シグナルおよび/またはマーカーとして、レポーター遺伝子、放射性同位体、ビオチン、GST等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、または蛍光蛋白質等を用いることができるが、一般的に化合物の同定方法に用いられている標識物質であれば、いずれも利用できる。
【0081】
本発明に係る蛋白質の機能として、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を例示できる。本蛋白質が有するカルシウム依存的エキソサイトーシス阻害機能を指標にした同定方法は、例えば、本蛋白質をコードするポリヌクレオチドを、分泌顆粒を有する細胞で発現させ、被験化合物の存在下または非存在下において、該細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる処理を行い、該細胞のエキソサイトーシスを測定することにより実施できる。本蛋白質をコードするポリヌクレオチドの細胞での発現は、本発明に係る組換えベクターを用いて、慣用の遺伝子工学的手法により、細胞を形質転換することにより実施できる。分泌顆粒を有する細胞は、公知の細胞をいずれも使用でき、例えば神経細胞、より具体的にはPC12細胞株を例示できる。細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる処理として、高濃度のカリウムにより細胞を処理する方法、カルシウムイオン選択的なイオノフォア、例えばイオノマイシンやA23187で細胞を処理する方法を例示できる。その他、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる公知の手法をいずれも使用できる。エキソサイトーシスの測定は、細胞外に放出された分泌顆粒内の物質(分泌物質と呼称する)を、該物質に適した方法を適宜用いて定量することにより実施できる。分泌顆粒内の物質として、各種ホルモンや神経伝達物質を例示できる。あるいは、エキソサイトーシスのシグナルとして所望の蛋白質を用い、該蛋白質をコードする遺伝子を、予め本ポリヌクレオチドと共に共導入した分泌顆粒を有する細胞を用いて、本同定方法を行なうこともできる。かかる細胞を用いて上記同様の処理を行い、該細胞から放出されるシグナルとして用いた蛋白質を公知の方法で測定することにより、エキソサイトーシスの測定を実施できる(実施例5参照)。シグナルとして用い得る蛋白質として、hGHを例示できるが、分泌顆粒中に蓄えられる蛋白質であればこれに限らず、いずれを用いることもできる。hGHの定量は、例えば免疫酵素固相法(ELISA)により実施できる。本同定方法において、被験化合物の非存在下における分泌物質量と比較し、被験化合物の存在下における分泌物質量が低減する場合、該化合物は、本蛋白質が有するカルシウム依存的エキソサイトーシス阻害機能を阻害すると判定できる。
【0082】
本発明に係るポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法は、本ポリヌクレオチドの発現を測定することのできる実験系において、本蛋白質と被験化合物の相互作用を可能にする条件下で本ポリヌクレオチドと被験化合物とを共存させることにより本蛋白質と被験物質を接触させてその発現を測定し、次いで、被験化合物の存在下における本ポリヌクレオチドの発現と、被験化合物の非存在下における本ポリヌクレオチドの発現とを比較し、本ポリヌクレオチドの発現の存在、不存在または変化、例えば低減、増加、消失、出現を検出することにより実施できる。被験化合物の非存在下における本ポリヌクレオチドの発現と比較して、被験化合物の存在下における本ポリヌクレオチドの発現が減少または消失する場合、該被験化合物は本ポリヌクレオチドの発現を阻害すると判定できる。具体的には例えば、本同定方法は、本発明に係る形質転換体を用いて本ポリヌクレオチドを発現させる実験系において、該形質転換体と被験化合物とを接触させた後に、本ポリヌクレオチドの発現を測定することにより実施できる。発現の測定は、簡便には発現される蛋白質の量、あるいは該蛋白質の機能、例えば、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を指標にして実施できる。また、例えば発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルおよび/またはマーカーを検出することにより、発現の測定が実施できる。シグナルおよび/またはマーカーとして、レポーター遺伝子、放射性同位体、ビオチン、GST等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、または蛍光物質等を用いることができる。これらシグナルおよび/またはマーカーは予め本ポリヌクレオチドに付加して、本同定方法に用いることが好ましい。シグナルおよび/またはマーカーの検出方法は当業者には周知である。
【0083】
本発明に係るポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法はまた、例えば本ポリヌクレオチドを含む遺伝子のプロモーター領域の下流に、該ポリヌクレオチドの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、例えば真核細胞等と被験化合物とを接触させ、レポーター遺伝子の発現の有無および変化を測定することにより実施できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、具体的にはルシフェラーゼ、β−Galまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素活性を有する遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記に例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
【0084】
(化合物)
本発明に係る同定方法により得られた化合物は、本発明に係る蛋白質の機能、例えば、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を阻害する効果を有する。また、該化合物は、本発明に係るポリヌクレオチドの発現を阻害する効果を有する。このような阻害効果を有する化合物(蛋白質や低分子化合物等)および該化合物を含有する組成物を阻害剤と称する。本発明の範囲には、上記化合物および上記抗体のうち少なくともいずれか1つを含む、本蛋白質によるカルシウム依存的エキソサイトーシス阻害の阻害剤も包含される。上記化合物および上記抗体は、その有用性と毒性のバランスを考慮して選別することにより医薬として調製でき、本蛋白質の機能の異常および/または本ポリヌクレオチドの発現の異常に起因する各種病的症状の防止効果、改善効果および/または治療効果を期待できる。
【0085】
(医薬組成物)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質、ポリペプチド、組換えベクター、形質転換体、抗体、または化合物を有効成分として含み、本蛋白質の機能および/または本ポリペプチドの発現を阻害することに基づく医薬または医薬組成物に関する。
【0086】
本発明に係る医薬は、本発明に係る蛋白質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、抗体、または化合物のうち少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量含む医薬であり得る。通常は、1種類または2種類以上の医薬用許容される担体(医薬用担体)を用いて医薬組成物を製造することが好ましい。
【0087】
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0088】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。
【0089】
より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、本医薬組成物の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合わせて使用される。
【0090】
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤等を適宜使用することもできる。
【0091】
安定化剤は、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。これらは単独でまたは界面活性剤等と組合わせて使用できる。特にこの組合わせによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等およびそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。
【0092】
界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。
【0093】
緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。
【0094】
等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。
【0095】
キレート剤は、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
【0096】
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
【0097】
本発明に係る医薬および医薬組成物は、本発明に係る蛋白質の機能の異常および/または本ポリヌクレオチドの発現の異常に基づく疾患の防止剤、改善剤および/または治療剤として使用できる。また、本医薬および本医薬組成物を用いて、当該疾患の防止方法、改善方法および/または治療方法を実施できる。
【0098】
本発明に係る蛋白質の機能および/または本発明に係るポリヌクレオチドの発現の過剰に関連する異常な症状に対しては、例えば本蛋白質の機能および/または本ポリヌクレオチドの発現を阻害する有効量の阻害剤を医薬上許容される医薬用担体とともに対象に投与することにより異常な症状を防止、改善または治療することができる。あるいは、内在性の本ポリヌクレオチドの発現を、発現ブロック法を用いて阻害してもよい。例えば本ポリヌクレオチドの部分配列で表されるポリヌクレオチドをアンチセンスポリヌクレオチドとして遺伝子治療に用いて、本ポリヌクレオチドの発現を阻害できる。アンチセンスオリゴヌクレオチオドとして用いるオリゴヌクレオチオドは、本ポリヌクレオチドの翻訳領域のみでなく、非翻訳領域に対応するものであっても有用である。本ポリヌクレオチドの発現を特異的に阻害するためには、該ポリヌクレオチドに固有な領域の塩基配列を用いることが好ましい。
【0099】
本発明に係る蛋白質の機能の異常および/または本ポリヌクレオチドの発現の異常に基づく疾患として、Aβの蓄積に起因する疾患、具体的には神経変性疾患、より具体的にはアルツハイマー病を例示できる。本蛋白質をコードするポリヌクレオチドのヒト組織における発現は、骨格筋および心臓では認められたが、正常な脳では認められなかった。また、本ポリヌクレオチドは、Aβ誘導遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドである。このように、本ポリヌクレオチドは、脳での定常時発現は抑制されており、Aβ刺激により発現が誘導されると考える。これらから、本ポリヌクレオチドの発現の異常や本蛋白質の機能の異常は、Aβにより惹起され得ると考える。また、本ポリヌクレオチドは、細胞で発現させると、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害した。このことから、本ポリヌクレオチドの発現の異常や本蛋白質の機能の異常は、脳細胞内のカルシウム取り込み量の増大に続いてこのようなカルシウム動態の異常による神経伝達阻害および脳細胞死を惹き起こすと考える。アルツハイマー病では、Aβの脳内蓄積が認められており、さらに神経細胞内のカルシウム濃度上昇が神経伝達を阻害し神経細胞死に関わるという仮説を含め、カルシウム動態の破綻と病態の進行との関連が示唆されている。したがって、本医薬および本医薬組成物は、アルツハイマー病の防止剤、改善剤および/または治療剤として、また該疾患の防止方法、改善方法および/または治療方法に、好適に使用できる。
【0100】
本発明に係る医薬および医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等に応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0101】
本発明に係る医薬または医薬組成物を投与するときには、該医薬または医薬組成物を単独で使用してよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
【0102】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択できる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与のほか、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。あるいは経口による投与も実施できる。さらに、経粘膜投与または経皮投与も実施できる。
【0103】
投与形態は、各種の形態が治療目的に応じて選択できる。具体的には、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態を例示できる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
【0104】
(診断方法)
本発明に係る蛋白質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、または抗体は、それ自体を単独であるいは組合わせて、試薬や試薬キットとして使用できる。また、これらは、本発明に係る蛋白質の機能の異常および/または本ポリヌクレオチドの発現の異常に基づく疾患の診断手段として使用できる。ここでいう手段とは、目的達成のために使用する方法および/または媒体を意味する。診断手段には、例えば、診断するための方法、診断に用いる試薬または試薬キット等が含まれる。
【0105】
本発明によれば、本発明に係るポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、または抗体を利用することにより、個体由来の試料や各種組織における該ポリヌクレオチドの発現やその変異の有無を特異的に検出することができる。本発明に係る蛋白質およびその機能の異常の検出により、該蛋白質の量的異常および/または機能の異常に基づく疾患の易罹患性、発症、および/または予後の診断を実施できる。
【0106】
ポリヌクレオチドの検出による疾患の診断は、例えば調べようとする試料(被験試料)について、本発明に係るポリヌクレオチドの発現を検出すること、その発現量を決定すること、および/またはその変異を同定することにより実施できる。正常な対照試料との比較において、本ポリヌクレオチドの発現の変化、その発現量の変化を検出することができる。あるいは、本ポリヌクレオチドを公知の手法により増幅した増幅生成物について、例えばサイズ変化を測定することにより、正常遺伝子型との比較において欠失や挿入といった変異を検出できる。また、被験試料から増幅したポリヌクレオチドを、例えば標識化した本ポリヌクレオチドとハイブリダイゼーションさせることにより点突然変異を同定できる。かかる変化および変異の検出により、本ポリヌクレオチドまたは本ポリヌクレオチドを含む遺伝子の発現の異常および/または本ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の機能の異常に基づく疾患の易罹患性、発症、および/または予後の診断が実施できる。
【0107】
本発明においては、被験試料中の本発明に係るポリヌクレオチドの定性的または定量的な測定方法、または該ポリヌクレオチドの特定領域における変異の定性的または定量的な測定方法も提供できる。
【0108】
被験試料は、本発明に係るポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む遺伝子またはその変異遺伝子の核酸を含む限りにおいて特に制限されず、具体的には、細胞、血液、尿、唾液、髄液、組織生検または剖検材料等の生体生物由来の試料を例示できる。その中でも、脳脊髄液、脳生検試料、関節液、関節生検試料等が好適であり、脳脊髄液や関節液が試料としてより好ましい。あるいは所望により試料から核酸を抽出して核酸試料を調製して用いることもできる。核酸は、ゲノムDNAを検出に直接使用してもよく、あるいは分析前にPCRまたはその他の増幅法を用いることにより酵素的に増幅してもよい。RNAまたはcDNAを同様に用いてもよい。核酸試料は、また、標的配列の検出を容易にする種々の方法、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティング等により調製してもよい。
【0109】
ポリヌクレオチドの定性的または定量的な測定方法には、自体公知の遺伝子検出法をいずれも使用できる。遺伝子検出法として具体的には、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノザンブロット法、NASBA法、または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を例示できる。また、in situ RT−PCRやin situ ハイブリダイゼーション等を利用した細胞レベルでの遺伝子検出法を例示できる。
【0110】
遺伝子検出法においては、本発明に係るポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む遺伝子またはその変異遺伝子の検出、これら遺伝子の発現量の測定、およびこれら遺伝子の増幅の実施に、本ポリヌクレオチドの部分配列で表されるポリヌクレオチドであってプローブとしての性質を有するポリヌクレオチドまたはプライマーとしての性質を有するポリヌクレオチドが有用である。
【0111】
プローブとしての性質を有するポリヌクレオチドとは、本ポリヌクレオチドのみに特異的にハイブリダイゼーションできる、該ポリヌクレオチド特有の配列で表されるものを意味する。プライマーとしての性質を有するポリヌクレオチドとは、本ポリヌクレオチドのみを特異的に増幅できる、該ポリヌクレオチド特有の配列で表されるものを意味する。また、増幅し得る変異遺伝子の検出は、遺伝子内の変異を有する箇所を含む所定の長さの配列を持つプライマーあるいはプローブを作成し、これを用いて実施することができる。プローブまたはプライマーは、塩基配列長が一般的に5〜50ヌクレオチド程度であるものが好ましく、10〜35ヌクレオチド程度であるものがより好ましく、15〜30ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。プローブは、通常は標識化したプローブを用いるが、非標識のものであってもよい。あるいは、本ポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む遺伝子の検出は、直接的または間接的に標識化したリガンドとの特異的結合により実施することができる。プローブおよびリガンドを標識化する方法は、種々の方法が知られており、具体的には、ニックトランスレーション、ランダムプライミングまたはキナーゼ処理を利用する方法を例示できる。適当な標識物質として、ジゴキシゲニン、放射性同位体、ビオチン、蛍光物質、化学発光物質、酵素、抗体を例示できる。
【0112】
プローブとしての性質を有するポリヌクレオチドは、検出目的の遺伝子の3´非翻訳(UTR)領域の相補的塩基配列または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドであることが好ましい。3´非翻訳(UTR)領域の相補的配列または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、該遺伝子のORF領域、5´UTR領域の相補的配列または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドと比較して、該遺伝子に対してより特異的にハイブリダイズするアンチセンスプローブとして利用することができ、該遺伝子の検出に有用である。また、検出目的の遺伝子の3´非翻訳(UTR)領域の塩基配列または該塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドはセンスプローブとして利用することができ、該遺伝子の検出の際にネガティブコントロールとして有用である。
【0113】
遺伝子検出法は、PCRが感度の点から好ましい。PCRは、本発明に係るポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む遺伝子またはその変異遺伝子を特異的に増幅できるプライマーを用いる方法である限り、従来公知の方法のいずれも使用できる。例えば、RT−PCRを用いることができ、その他、当該分野で用いられる種々のPCRの変法を適応できる。
【0114】
PCRにより、遺伝子の検出の他に、本発明に係るポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む遺伝子またはその変異遺伝子のDNAの定量を実施できる。かかる分析方法として、MSSA法等の競合的定量法、または一本鎖DNAの高次構造の変化に伴う移動度の変化を利用した突然変異検出法として知られるPCR−SSCP法を例示できる。
【0115】
本発明によればまた、本発明に係る蛋白質、抗体および化合物を利用することにより、個体若しくは各種組織における該蛋白質およびその機能の異常の有無を特異的に検出することができる。本発明に係る蛋白質およびその機能の異常の検出により、該蛋白質の量的異常および/または機能の異常に基づく疾患の易罹患性、発症、および/または予後の診断を実施できる。
【0116】
蛋白質の検出による疾患の診断は、例えば被験試料について、該蛋白質を検出すること、該蛋白質量を決定すること、および/またはその変異を検出することにより実施できる。すなわち、本発明に係る蛋白質および/またはその変異体を定量的あるいは定性的に測定する。正常な対照試料との比較において、本蛋白質量の変化を検出することができる。正常蛋白質との比較において、例えばアミノ酸配列を決定することによりその変異を検出することができる。かかる変化および変異の検出により、診断を実施することができる。
【0117】
本発明においては、被験試料中の本発明に係る蛋白質の定性的または定量的な測定方法、および本蛋白質の変異の検出方法を提供できる。
【0118】
被験試料は、本蛋白質および/またはその変異体を含むものである限り特に制限されず、具体的には、細胞、血液、尿、唾液、髄液、組織生検または剖検材料等の生体生物由来の試料を例示できる。その中でも、脳脊髄液、脳生検試料、関節液、関節生検試料等が好適であり、脳脊髄液や関節液が試料としてより好ましい。
【0119】
蛋白質の定量的あるいは定性的な測定には、自体公知の蛋白質検出法あるいは定量法をいずれも使用できる。蛋白質検出法として具体的には、ウエスタンブロット法、イムノブロット法、ドットブロット法を例示できる。蛋白質の変異の検出は、例えば、本蛋白質のアミノ酸配列分析により、あるいは、抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル抗体)を用いて、蛋白質の配列の相違、または蛋白質の有無を検出することにより実施できる。
【0120】
本発明においては、被験試料中の本蛋白質の定性的または定量的な測定方法、または該蛋白質の特定領域の変異の定性的または定量的な測定方法も提供できる。
【0121】
具体的には、被験試料について、本蛋白質に対する特異抗体を用いて免疫沈降を行い、ウェスタンブロット法またはイムノブロット法により本蛋白質の解析を実施できる。また、本蛋白質に対する抗体により、免疫組織化学的技術を用いてパラフィンまたは凍結組織切片中の本蛋白質を検出することができる。ウェスタンブロット法、イムノブロット法および免疫組織化学的技術は、いずれも周知技術である。
【0122】
本蛋白質またはその変異体を検出する方法の好ましい具体例として、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を用いるサンドイッチ法を含む、ELISA、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、および免疫酵素法(IEMA)等を挙げることができる。その他、ラジオイムノアッセイや競争結合アッセイを利用する方法を挙げることができる。
【0123】
本発明に係るヒト由来のポリヌクレオチドを含む遺伝子の発現は、正常脳では認められなかったが、凝集Aβが含まれている老人斑隣接のアストログリア細胞において検出された(実施例4参照)。このことから、本遺伝子はAβにより発現が誘導されることにより、Aβが関連する疾患、例えばアルツハイマー病等の疾患の発症や増悪に関与すると考えることができる。したがって、本発明に係るポリヌクレオチドの検出または該ポリヌクレオチドの発現量を測定し、本ポリヌクレオチドの発現の増加を検出することにより、アルツハイマー病等の神経疾患の診断を実施できる。
【0124】
具体的には、本発明により、被験試料がアルツハイマー病由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を測定することを特徴とする方法を実施できる。このような方法は、より具体的には、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を、該ポリヌクレオチドに対するアンチセンスプローブを用いて測定することにより実施できる。ポリヌクレオチドの発現量の測定において、該ポリヌクレオチドに対するセンスプローブをネガティブコントロールとして用いることができる。被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量が、正常個体由来の試料と比較して増加する場合、該被験試料はアルツハイマー病由来の試料であると判定できる。
【0125】
また、本発明に係るラット由来のポリヌクレオチドを含む遺伝子の発現が、関節炎モデルラットの膝関節で亢進していた(実施例6参照)。すなわち、関節炎モデルラットの膝関節において、本遺伝子のmRNAを有する細胞の数が、正常ラットの膝関節と比較して、増加していたことから、関節炎モデルラットでは本遺伝子の転写レベルが上昇していることが判明した。本遺伝子のmRNAを有する細胞は、その核の形状から、巨核球や大食細胞、または細網細胞、形質細胞、骨芽細胞であると推定することができた。
【0126】
関節炎モデルラットにおける本遺伝子のmRNAの検出は、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAおよび配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAを用いたin situハイブリダイゼーション法により実施した。配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAは、配列表の配列番号3に記載したラットMg29遺伝子の塩基配列中第1517番目から第2010番目までの塩基配列の相補的塩基配列からなるRNA(494bp)である。本RNAはラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブとして用いた。また、配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAは、ラットMg29遺伝子検出用センスプローブとして用いた。
【0127】
関節炎モデルラットにおいて、本遺伝子の発現が亢進していることから、その発現の亢進に伴って、本遺伝子によりコードされる蛋白質の量も増加していると考えることができる。
【0128】
関節炎モデルラットにおいて本遺伝子の発現が亢進していること、関節炎モデルラットはヒト慢性関節リウマチのモデルとして汎用されていること、本遺伝子はリウマチに関わるECM分解酵素遺伝子であるADAMTS−4遺伝子(特許文献2)と同様にAβにより発現誘導される遺伝子であることから、ヒト由来の本遺伝子の発現が慢性関節リウマチにおいて亢進していると本発明者は考えている。また、ヒト由来の本遺伝子の発現亢進に伴って、慢性関節リウマチにおいて、本遺伝子によりコードされる蛋白質の量が増加していると本発明者は考えている。したがって、本遺伝子の発現量および/または本遺伝子によりコードされる蛋白質量を測定することにより、慢性関節リウマチの診断を実施できると考えている。
【0129】
具体的には、本発明により、被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を測定することを特徴とする方法を実施できる。このような方法は、より具体的には、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を、該ポリヌクレオチドに対するアンチセンスプローブを用いて測定することにより実施できる。ポリヌクレオチドの発現量の測定において、該ポリヌクレオチドに対するセンスプローブをネガティブコントロールとして用いることができる。被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量が、正常個体由来の試料と比較して増加する場合、該被験試料は慢性関節リウマチ由来の試料であると判定できる。
【0130】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスプローブとして、該塩基配列の第851〜890番目に相当する塩基配列の相補的塩基配列または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドを好ましく例示できる。配列表の配列番号1に記載の塩基配列の第851〜890番目に相当する塩基配列は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの3´非翻訳(UTR)領域である。そのため、本領域の相補的配列で表されるポリヌクレオチドは、本遺伝子のORF領域、5´UTR領域の相補的配列で表されるポリヌクレオチドと比較して、本遺伝子に対してより特異的にハイブリダイズするアンチセンスプローブとして利用することができる。また、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドに対するセンスプローブとして、該塩基配列の第851〜890番目に相当する塩基配列またはその部分塩基配列で表されるポリヌクレオチドを好ましく例示できる。
【0131】
また、本発明により、被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の量を測定することを特徴とする方法を実施できる。このような方法は、より具体的には、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の発現量を、該蛋白質を認識する抗体を用いて測定することにより実施できる。
【0132】
本発明に係る試薬は、本発明に係る蛋白質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、および抗体のうちの少なくとも1種類の他に、緩衝液、塩、安定化剤、および/または防腐剤等の物質を含むことができる。なお、製剤化にあたっては、各物質の性質に応じた自体公知の製剤化手段を導入すればよい。該試薬は、例えば、本発明に係る化合物の同定方法、診断方法、あるいは本蛋白質または本ポリヌクレオチドの測定方法に使用できる。本試薬はその他、本発明に係る蛋白質またはポリヌクレオチドが関与する細胞情報伝達経路の解明、および該蛋白質またはポリヌクレオチドの異常に基づく疾患等に関する基礎的研究等に有用である。
【0133】
本発明に係る試薬キットは、本発明に係る蛋白質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、および抗体のうちの少なくとも1種類の他に、本蛋白質や本ポリヌクレオチドを検出するための標識物質、標識物質の検出剤、反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤および反応停止液等、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。標識物質として、上述の蛋白質や放射性同位元素を例示できる。標識物質は、予め本発明に係るポリヌクレオチドあるいは蛋白質に付加されていてもよい。本試薬キットは、本発明に係る化合物の同定方法や本ポリヌクレオチドまたは本蛋白質の測定方法に使用できる。また、本試薬キットは、本ポリヌクレオチドおよび/または本蛋白質の異常に起因する疾患の判定用キット、例えば慢性関節リウマチやアルツハイマー病の判定キットに使用できる。さらに、本試薬キットは、本ポリヌクレオチドおよび/または本蛋白質の異常に起因する疾患の診断剤並びに診断用キット、例えば慢性関節リウマチやアルツハイマー病の診断剤並びに診断用キットとして使用できる。
【0134】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【実施例1】
【0135】
(グリア細胞の培養)
アストログリア細胞はラット大脳皮質から得た。ウィスター(Wister)系ラット胎仔(チャールスリバー、17日齢)の大脳を採取し、トリプシン処理により細胞を分散させた。得られた細胞を20%のウシ胎仔血清(FCS)、抗生物質液を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で1週間培養後、10%FCSを含むDMEM中でさらに二次培養した。90%以上の細胞がグリア線維酸性蛋白質陽性であることが、蛍光抗体法により確認された。
【0136】
(Aβの調製およびアストログリア細胞のAβ処理)
Aβ(Anaspec社製、Aβ1−40)は滅菌水に溶解して−70℃で保存し、用時融解して用いた。1mMのAβをアールの緩衝液(Earle’s buffer)に溶解し、COインキュベーターで1週間保持後、10,000×gで10分間遠心処理することにより、Aβを凝集させた。遠心処理により得られたペレットをB27サプリメント(Gibco BRL社製)を含むDMEM中に再懸濁し、適宜の濃度に調整して凝集Aβとして用いた。二次培養後のアストログリア細胞をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄後、B27サプリメントを含む無血清培地にて2日間培養した。その後、25μMの凝集Aβを添加してさらに15時間培養し、Aβ処理アストログリア細胞を得た。Aβ処理と並行して、同一条件下で他の培養容器にアストログリア細胞を播種し、Aβの希釈に用いた緩衝液を等量添加することによりAβ未処理アストログリア細胞を調製した。
【0137】
(cDNAサブトラクションおよびライブラリースクリーニング)
ここで、サブトラクション処理を(テスター)−(ドライバー)式で表わす。例えば、(Aβ処理遺伝子)−(未処理遺伝子)とは、テスターとしてAβ処理遺伝子、ドライバーとしてAβ未処理遺伝子を用いたサブトラクション処理を意味する。
【0138】
Aβ処理および未処理のアストログリア細胞(6cmプラスティックディッシュ各20枚)よりAGPC法にて9回にわたり全RNAをそれぞれ抽出した。全RNAからのpolyA(+)RNAの調製は、オリゴdT−ラテックス(ロシュ社製)を用いて実施した。
【0139】
Aβ処理および未処理のアストログリア細胞由来のpolyA(+)RNA各2μgを出発原料として、(Aβ処理遺伝子)−(未処理遺伝子)および(未処理遺伝子)−(Aβ処理遺伝子)のcDNAサブトラクション処理を、Diatchenkoらの方法(非特許文献16)に準じて、PCR−select cDNA subtraction kit(CLONTECH社製)を用いて行った。サブトラクション処理のポジティブコントロールとして、RsaI消化後のテスターにφΧ174/HaeIII消化DNAフラグメントをテスター中の重量比で約2.5×10−5になるように加えた。
【0140】
実施したサブトラクション処理の効率を検証するため、陽性対照であるφΧ174/HaeIII消化DNAフラグメントをプローブとして、サブトラクション後のPCR産物およびサブトラクション前のPCR産物についてサザンブロット・ハイブリダイゼーションを実施した。
【0141】
(Aβ処理遺伝子)−(未処理遺伝子)のPCR産物をベクター(pBluescript SK+(Stratagene社製))にライゲーションして、プラスミドライブラリーを作製し、DH5αコンピテントセル(Gibco BRL社製)のトランスフォーメーションを行った。
【0142】
前記プラスミドライブラリーの960クローンが保持するベクター挿入部分をPCRにより増幅し、それらの遺伝子を60〜100ngずつメンブレン(Hybond−N+;Amersham社製)にドットブロットしたものを2セット作製した。このドットブロットメンブレンに対して、(Aβ処理遺伝子)−(未処理遺伝子)および(未処理遺伝子)−(Aβ処理遺伝子)のcDNAサブトラクション後のPCR産物のプローブで、0.5M NaHPO(pH6.8)、10μg/mlサケ精子DNAを含む7%SDS(Sodium dodecyl sulfate)液中68℃にて16時間のハイブリダイゼーションをそれぞれ実施した。メンブレンを、0.1%SDSを含む0.1×SSCに浸して68℃にて30分の洗浄を行った。(未処理遺伝子)−(Aβ処理遺伝子)のサブトラクション後のPCR産物と比較して(Aβ処理遺伝子)−(未処理遺伝子)のサブトラクション後のPCR産物において特異的に濃縮が認められるクローンを前記プラスミドライブラリーから選択した。
【0143】
(ノーザンブロットハイブリダイゼーションによる解析)
選択したクローン群のそれぞれのベクター挿入部分を32Pで標識後プローブとし、Aβ処理および未処理アストログリア細胞由来polyA(+)RNAを用いたノーザンブロットハイブリダイゼーションを実施した。上記方法により、Aβ処理および未処理のアストログリア細胞から、それぞれのpolyA(+)RNA試料を調製した。常発現性遺伝子であるグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)cDNAを内部標準プローブとして用いた。検出はBAS2000(富士フィルム社製)を用いて行った。Aβにより発現が誘導されるクローンは、BigDye標識M13フォワードおよびリバースプライマーを用いてシークエンス反応を行い蛍光キャピラリーシークエンサーABI RPISM 3100(ABI社製)で解析した。
【0144】
(結果)
Aβ処理により、Aβ未処理時では低レベルで維持されていた約3.9kbのバンドおよび約3.0kbのバンドの発現が誘導された。発現量は、Aβ未処理時のそれぞれ約17倍および約4.8倍に増加した(図1の左図)。一方、G3PDH遺伝子は、Aβ処理時および未処理時において発現量に差が認められなかった(図1の右図)。
【0145】
得られたcDNA断片の配列(1,710bp:配列番号3の第334〜2,043番目の配列に相当する)について、National Center for Biotechnology Information(NCBI)の公開データベースに対して相同性検索を実施したところ、cDNA断片の第1〜536番目の領域が、マウスMg29遺伝子オープンリーディングフレーム(ORF)の3´端と96%の配列相同性を示したため、本cDNA断片はMg29遺伝子ラットオーソログに由来するものと考えた。また、537番目のヌクレオチド以降は種差の大きい3´−非翻訳領域(3´−UTR)と判断した。Mg29遺伝子のラットおよびヒトオーソログは今までに報告されていない。
【実施例2】
【0146】
(ラット全長遺伝子の取得)
自体公知の方法により構築されたAβ処理ラットアストログリア細胞由来cDNAライブラリーを用いて、実施例1で同定した、Aβ処理によりその発現が増加したcDNA断片をプローブとしてスクリーニングを行った。その結果、およそ3.3KbのcDNAを得た。このcDNAは、ノーザンブロットで認められる前記2つのバンドで示されるRNAとほぼ同ヌクレオチド数となることと、5´−RACE法で5´側の配列が得られなかったことから、mRNA全長を含んだものであると考えた。蛍光色素(Cy5、ファルマシア社製)標識M13ユニバーサルプライマーおよびリバースプライマーを用いてシークエンス反応を行い、蛍光キャピラリーシークエンサーABI RPISM 3100(ABI社製)でORF領域の配列を決定した。
【0147】
同定したラットMg29 cDNAは、全長3,295bpの新規遺伝子(配列番号3)であり、264アミノ酸(配列番号4)をコードする792bpからなるORF(第75〜第866番目のヌクレオチド)を含むことが明らかになった。予測プログラムMEMSATにて本アミノ酸配列(配列番号4)を解析したところ、4箇所の膜貫通領域(それぞれ第40〜56番目、第117〜137番目、第151〜171番目および第210〜234番目の各アミノ酸配列からなる)を有しており、マウスMg29とはアミノ酸レベルで97%の配列相同性を示した。ラットMg29遺伝子はラットクロモソーム2q34領域に位置することが、マッピングデータにより判明した。同定したラットMg29 cDNAのORF領域の塩基配列はDDBJ/EMBL/GenBankにアクセッション番号AB158471で登録(非公開)した。また、実施例1において、図1のノーザンブロッティングで2つの転写産物が認められたのは、マウスMg29で指摘(非特許文献17)されているように、複数のポリアデニレーションサイトによるものかオルタナティブスプライシングによるものと考える。実験により取得された本ラット遺伝子の塩基配列および該遺伝子がコードするアミノ酸配列は今までに報告されておらず、この遺伝子がmRNAとして転写されていることを本実施例において初めて明らかにした。
【実施例3】
【0148】
(Mg29ヒトオーソログ遺伝子の取得)
実施例2で取得したラット由来遺伝子のヒトオーソログを見出すために、ヒトゲノムデータベースの検索を行った。ラット由来遺伝子に対応すると考えられる遺伝子はNCBIヒトゲノムデータベース上に見出すことができた。このデータベース上の当該遺伝子情報に基づいて、ヒト骨格筋由来polyA(+)RNA(1μg、CLONTECH社製)よりSuperScript II(GIBCO社製)を用いて、プライマーをオリゴdT(12−18)とするRT−PCRによるクローニングを実施した。逆転写産物は、5´−CCTCCCGGCCAGAGA−3´(5´側フランキング領域、配列番号6)、5´−GAAGCCGGAGGTGGTTGAAG−3´(3´側フランキング領域、配列番号7)をプライマーとして設定し、KOD plus(TOYOBO社製)をDNAポリメレースとして用いたPCRによる増幅を行った。PCR産物はpCR−Blunt II−TOPO(INVTROGEN社製)に組込み、シークエンスを行った。PCRエラーによる配列決定ミスを避けるため、独立した3つのクローンの配列を決定し、それらが全て一致することを確認した。
【0149】
同定したヒトMg29遺伝子は、272アミノ酸(配列番号2)をコードする816bpからなるORFを含み、ラット同様に4箇所の膜貫通領域(それぞれ第40〜56番目、第117〜137番目、第151〜171番目および第210〜234番目の各アミノ酸配列からなる)をコードすることが予測できた。ヒトMg29は、マウスMg29と約90%、同定したラットMg29(配列番号4)とは約91%の配列相同性を示した。ヒトMg29遺伝子はヒトクロモソーム1q13.3領域に存在することが、マッピングデータにより判明した。
【0150】
同定したヒトMg29遺伝子は実験により取得された遺伝子として公知のデータベース上未登録であり、新規塩基配列を有する。本実施例において、この遺伝子がmRNAとして転写されていることを初めて示した。本塩基配列のORF領域はDDBJ/EMBL/GenBankにアクセッション番号AB158472で登録(非公開)した。なお、本遺伝子は、米国INCYTE社およびCuraGen社がそれぞれその塩基配列をインシリコで予測し、国際特許申請している(それぞれ特許文献4および特許文献5)。さらに、ヒトMg29およびラットMg29並びにそれらの遺伝子の配列は、公知のゲノムからコンピュータにより予測され、GenBankにそれぞれ登録および公開されている(ヒトMg29およびラットMg29について、それぞれアクセッション番号XM_371278およびXM_342316で登録)。しかしながら、これら公開されたアミノ酸配列および塩基配列は予測されたアミノ酸配列および塩基配列であり、実際に本遺伝子を取得したという報告も、実験データに基づくそれらの機能に関する報告も開示されていない。
【実施例4】
【0151】
(ラットおよびヒト由来各Mg29遺伝子の組織発現分布)
ラットおよびヒト由来各Mg29遺伝子の組織発現分布を、組織ブロットにより下記のように解析した。ラットおよびヒト各組織から抽出した、polyA(+)RNA 2μgをブロットしたメンブレン(CLONTECH社製)に、ラットおよびヒト由来の各遺伝子断片をプローブとして32P標識し、ハイブリダイゼーションさせた。プローブは、ラットについては配列番号3に記載の塩基配列の第334〜2,043番目の1,710bpのヌクレオチドからなる遺伝子断片を、ヒトについては配列番号1に記載の塩基配列の第418〜613番目の196bpのヌクレオチドからなる遺伝子断片を用いた。
【0152】
ラットでは、本遺伝子の発現は骨格筋で認められた(図2の左図)。検出されたmRNAのサイズは図1と同様であった。脳での発現が認められないことから、本遺伝子は脳での定常時発現は抑制されており、Aβ刺激や炎症時に誘導される遺伝子であることが示唆された。
【0153】
ヒトでは、約5.7kbおよび約4.2kbの転写産物の、心臓、骨格筋での強い発現と、次いで腎臓、膵臓での僅かな発現が認められ、脳での発現は認められなかった(図2の右図)。また、凝集Aβが含まれている老人斑隣接のアストログリア細胞においてヒトMg29遺伝子の発現が認められた。
【実施例5】
【0154】
(ヒトMg29のCa2+依存的エキソサイトーシスに及ぼす影響)
ラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞株(ATCCより購入)に、ヒトグロースホルモン(hGH)遺伝子と共にヒトMg29遺伝子を、フュージーン6(Fugene6、Roche社製)を用いて導入し、10%FBS含有DMEM溶液中で72時間培養した。高カリウムイオン(60mM)溶液を処理することで膜電位作働的に細胞内Ca2+濃度を一過的に上昇させ、Ca2+依存的にエキソサイトーシス放出される(30分間)hGHをhGH ELISA(Roche社製)にて測定した。ネガティブコントロールには空ベクター(mock)、ポジティブコントロールとして、ヒトシンタキシン1a(Syntaxin 1a)遺伝子をヒトMg29遺伝子の代わりに用いた。hGHエキソサイトーシス量は、30分間に培地中に放出されたhGH量(Exoと表記することがある)をそれぞれの細胞内の全hGH量(Exo+Retと表記することがある)に対する割合で示した(Exo/(Exo+Ret))。
【0155】
ヒトMg29遺伝子を導入した細胞では、高カリウムイオン溶液の処理により、mockと比較して、35.5%のCa2+依存的hGHエキソサイトーシスの低下が認められた(図3:high)。ヒトシンタキシン1a遺伝子を導入した細胞では、66.5%のエキソサイトーシスの低下が認められた。低カリウムイオン(4.7mM)溶液処理では、hGHエキソサイトーシスのこのような低下は認められなかった(図3:low)。また、図には示さないが、hGH遺伝子を導入しない細胞では、hGH分泌は認められなかった。れらの結果から、ヒトMg29遺伝子の発現により、Ca2+依存的hGHエキソサイトーシスが阻害されることが明らかになった。
【0156】
次に、PC12細胞株にhGH遺伝子と共に様々な濃度のヒトMg29遺伝子を導入し、Ca2+依存的エキソサイトーシスへのヒトMg29の影響を濃度依存的に評価した。
細胞には、0.1μg、0.5μg、1.0μgまたは1.5μgのヒトMg29遺伝子発現ベクターをトランスフェクションした。細胞に導入する発現ベクターの量は、空ベクター(mock)を用いて、総量が1.5μgとなるように調整した。ポジティブコントロールとして、ヒトシンタキシン1a遺伝子をヒトMg29遺伝子の代わりに用いた。細胞への遺伝子の導入およびhGHエキソサイトーシス量の測定は、上記と同様の方法で実施した。30分間に培地中に放出されたhGH量(Exo)をそれぞれの細胞内の全hGH量(Exo+Ret)で除した値を計算により得た後、各細胞について得られた該値を比較した。結果は、空ベクターをトランスフェクションした細胞について得られた該値に対する、ヒトMg29遺伝子またはヒトシンタキシン1aを導入した細胞について得られた該値の割合で示した。
【0157】
ヒトMg29遺伝子を導入した細胞では、トランスフェクションしたヒトMg29遺伝子発現ベクターの濃度依存的に、Ca2+依存的hGHエキソサイトーシスの低下が認められた(図4)。この結果から、ヒトMg29遺伝子の発現により、Ca2+依存的hGHエキソサイトーシスが濃度依存的に阻害されることが明らかになった。
【0158】
以上の結果から、ヒトMg29遺伝子の発現亢進がCa2+依存的エキソサイトーシスに影響を与えることが明らかになった。
【実施例6】
【0159】
(関節炎モデルラットにおけるMg29遺伝子の発現)
Mg29遺伝子と同様にAβにより発現誘導されるADAMTS−4遺伝子(特許文献2)は、リウマチに関わるECM分解酵素遺伝子である。このことから、Mg29遺伝子もリウマチで発現レベルが上昇する遺伝子であると発明者は考え、関節炎モデルラットを用いてMg29遺伝子の発現解析を行った。
【0160】
関節炎モデルラット(Lewis系ラット、雌性、8週齢)は、日本エスエルシー株式会社より購入した。該関節炎モデルラットは、Lewis系ラットの背部皮内に、関節炎誘導物質試料を投与して免疫することにより作製された。関節炎誘導物質試料は、ウシ関節由来II型コラーゲン0.3%液(コラーゲン技術研修会製)1mlに、0.1%酢酸を0.5mlを加えて2mg/mlに希釈し(抗原希釈液)、次いで抗原希釈液1.5mlにフロイントインコンプリートアジュバント(Freund’s Incomplete Adjuvant、Difco社製)1.5mlを加えて混合して調製したエマルジョンが用いられた。関節炎誘導物質試料投与後17日目に、ラットを屠殺し、組織切片を作製した。コントロールとして、正常ラット(同系、同性、同週齢)の組織切片を作製した。
【0161】
関節炎モデルラットおよび正常ラットより作製した組織切片におけるMg29遺伝子の発現解析は、ラットMg29遺伝子検出用プローブを用いたin situハイブリダイゼーションにより実施した。
【0162】
ラットMg29遺伝子検出用プローブとして、配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAおよび配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAを用いた。配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるRNAは、配列表の配列番号3に記載したラットMg29遺伝子の塩基配列中第1517番目から第2010番目までの塩基配列の相補的塩基配列からなるRNA(494bp)である。本RNAはラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブとして用いた。また、配列番号9に記載の塩基配列で表されるRNAは、ラットMg29遺伝子検出用センスプローブとして用いた。
【0163】
ラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブおよびセンスプローブは、いずれもジゴキシゲニン(DIG)標識して用いた。これらプローブの合成は、ラット全長Mg29遺伝子組換えプラスミドをテンプレートとし、DIG RNA ラベリング ミックス(Roche社製)を用いて、インビトロ トランスレーション法により行った。ラット全長Mg29遺伝子組換えプラスミドは、実施例2で取得したラット全長Mg29遺伝子を用いて、常法により作製した。
【0164】
in situハイブリダイゼーションは、具体的には、次に示すように実施した。まず、関節炎モデルラットおよび正常ラットより作製した組織切片を常法に従ってパラフィン包埋した。パラフィン包埋組織切片は、キシレンによる脱パラフィン処理を行い、次いで段階希釈したエタノールによる処理とPBSによる洗浄とを繰り返すことによる再水和処理を行った後、4% パラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて15分間固定処理を行い、PBSに2分間浸すことにより洗浄した。次いで、7.5μg/mlのプロテイナーゼKを含むPBSにて37℃で1時間処理し、PBSでに2分間浸すことにより洗浄した。その後、4% パラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて再固定処理を行い、PBSに2分間浸すことにより洗浄し、0.2M HClに10分間浸した。さらに、PBSに1分間浸すことにより洗浄し、0.1M トリエタノールアミン−HCl(pH8.0;以下、0.1M TEAと略称する)中に浸して1分間インキュベーションすることにより、組織切片をアセチル化し、さらに0.25%無水酢酸を添加した0.1M TEAに10分間浸した。PBSに2分間浸すことにより洗浄した後、段階希釈したエタノールにより脱水処理を行った。その後、DIG標識したラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブおよびセンスプローブをそれぞれ用いて、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション緩衝液(50% ホルムアミド、5×SSC、1% SDS、50μg/ml tRNA、および50μg/ml ヘパリン)中に、DIG標識した各プローブを加え、55℃で16時間インキュベーションすることにより行った。その後、組織切片の洗浄を、5×SSCに55℃にて15分間浸し、次いで50% ホルムアミドを含む2×SSCに55℃にて15分間浸すことにより行った。その後、RNase処理を、50μg/mlのRNase A、1M NaClおよび1mM EDTAを含む10mM Tris−HCl(pH8.0)中に組織切片を浸すことにより行った。次いで、組織切片の洗浄を、2×SSCに50℃にて15分間浸すことにより2回、0.2×SSCに50℃にて15分間浸すことにより2回、TBST(0.1 Tween20を含むTBS)に5分間浸すことにより1回行った。組織切片は、ブロッキング試薬(Roche Molecular Biochemicals社製)0.5%を含むTBSTで1時間ブロッキングした後、アルカリホスファターゼ標識抗DIG抗体(Roche Molecular Biochemicals社製)を用いて1時間インキュベーションした。抗体は、TBSTで1:2000倍希釈して用いた。組織切片は、2mM レバミゾール(levamisole)を含むTBSTで2回洗浄し、トリス緩衝液(100mM NaCl、50mM MgCl2、0.1% Tween20、100mM Tris−HCl(pH9.5)、および2mM レバミゾール)に浸してインキュベーションした。その後、アルカリホスファターゼの発色基質としてBM パープル サブストレイト(Roche Molecular Biochemicals社製)を用い、発色反応を1晩行った後に、PBSで洗浄して発色反応を停止させた。反応停止後の組織切片は、脱水処理し、HSR(国際試薬社製)を用いて封入して標本とした。ネガティブコントロールとして、関節炎モデルラットおよび正常ラットの膝関節切片について、ラットMg29遺伝子検出用プローブを用いずに、上記in situハイブリダイゼーション処理と同様の処理を施した標本を作製した。標本の発色は、いずれも顕微鏡下で観察した。また、標本中で発色が認められた細胞の種類を、細胞の核の形状から推定した。
【0165】
標本中のラットMg29 mRNAが存在する箇所には、DIG標識ラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブがハイブリダイゼーションする。そのため、アルカリホスファターゼ標識抗DIG抗体とBM パープル サブストレイトを用いた検出において、該箇所は、アルカリホスファターゼによるBM パープル サブストレイトの発色により、青色に染色される。したがって、標本中で青色に染色された箇所には、ラットMg29 mRNAが存在すると判定できる。
【0166】
図5−Aに示すように、関節炎モデルラットの膝関節切片では、ラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブを用いてin situハイブリダイゼーションを行ったときに、強い青色の発色が認められる細胞が観察された。一方、正常ラットの膝関節切片においても、同等と思われる青色の発色が認められる細胞が観察されたが、その細胞の数は、関節炎モデルラットの膝関節切片と比較して少なかった(図5−B)。また、ラットMg29遺伝子検出用センスプローブを用いてin situハイブリダイゼーションを行ったときは、いずれの膝関節切片においても、一部の細胞では青色の発色が観察されたものの、その発色強度は非常に弱く、かつ発色が認められた細胞の数は著しく少なかった。
【0167】
関節炎モデルラットおよび正常ラットの膝関節切片において、ラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブを用いてin situハイブリダイゼーションを行ったときに、強い青色の発色が認められた細胞は、その核の形状から、巨核球や大食細胞、または細網細胞、形質細胞、骨芽細胞と思われる細胞等であると推定することができた(それぞれ図6の左パネルおよび右パネル)。
【0168】
このように、関節炎モデルラットの膝関節では、正常ラットと比較して、Mg29 mRNAを有する細胞が増加していることが判明した。
【0169】
上記結果から、関節炎モデルラットでは、Mg29遺伝子の転写レベルが上昇していることが明らかになった。Mg29遺伝子の転写レベルが上昇していることから、関節炎モデルラットでは、Mg29遺伝子の発現が亢進していると考えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明に係る遺伝子は、正常脳組織における発現は認められなかったが、Aβにより発現が誘導された。また、本遺伝子によりコードされる蛋白質はカルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有することが明らかになった。本遺伝子および本蛋白質の利用により、Aβにより引き起される細胞死やアルツハイマー病等の神経変性疾患の解明とその制御が可能になる。
【0171】
また、本発明に係るラット由来の遺伝子の発現が、関節炎モデルラットにおいて亢進していることが判明したことから、本発明に係る遺伝子は、関節炎、例えば関節リウマチに関連していると考えることができる。したがって、本発明に係る遺伝子を検出することにより、関節炎、例えば関節リウマチの診断が可能になる。
【0172】
このように、本発明は、基礎科学分野から医薬開発分野まで広く寄与する有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明に係るラット由来遺伝子の発現がβアミロイド処理により誘導されることを確認したノーザンブロッティングの結果を示す図である。図中、レーンNはβアミロイド未処理のラットアストログリア細胞由来polyA(+)RNA試料、レーンAは25μMのβアミロイド15時間処理後のラットアストログリア細胞由来polyA(+)RNA試料をそれぞれ示す。左図は本発明に係るラット由来遺伝子断片、右図はG3PDH遺伝子をプローブとして用いた結果を示す。各図の左側に示した数字は、分子量を表わす。(実施例1)
【図2】本発明に係るヒト由来およびラット由来の各遺伝子の組織分布を組織ブロットにより解析した結果を示す図である。左図は本ラット由来遺伝子(rMg29)断片、右図は本ヒト由来遺伝子断片(hMg29)をプローブとして用いた結果をそれぞれ示す。各図の左側に示した数字は、分子量を表わす。(実施例4)
【図3】本発明に係るヒト由来遺伝子とヒトグロースホルモン(hGH)遺伝子とを共遺伝子導入した細胞(図中、hMg29と表示したカラム)において、高カリウムイオン刺激により生じるCa2+依存的エキソサイトーシスが、本発明に係るヒト由来遺伝子を導入しなかった細胞(図中、mockと表示したカラム)と比較して、阻害されたことを示す図である。図中、「mock」は本発明に係るヒト由来遺伝子の代わりに空ベクターを共遺伝子導入した細胞、「hstx1a」はポジティブコントロールとして本発明に係るヒト由来遺伝子の代わりにヒトシンタキシン1a遺伝子を共遺伝子導入した細胞のCa2+依存的エキソサイトーシスの結果を示す。また、「high」は高カリウムイオン(60mM)溶液による処理、「low」は低カリウムイオン(4.7mM)溶液による処理を示す。エキソサイトーシス量は、30分間に培地中に放出されるhGH量(Exo)をそれぞれの細胞内の全hGH量(Exo+Ret)に対する割合で示した(Exo/(Exo+Ret))。(実施例5)
【図4】本発明に係るヒト由来遺伝子とヒトグロースホルモン(hGH)遺伝子とを共遺伝子導入した細胞(図中、hMg29)において、高カリウムイオン刺激により生じるCa2+依存的エキソサイトーシスが、本発明に係るヒト由来遺伝子の濃度依存的に阻害されたことを示す図である。図中、「mock」は本発明に係るヒト由来遺伝子の代わりに空ベクターを共遺伝子導入した細胞、「hstx1a」はポジティブコントロールとして本発明に係るヒト由来遺伝子の代わりにヒトシンタキシン1a遺伝子を共遺伝子導入した細胞のCa2+依存的エキソサイトーシスの結果を示す。結果は、空ベクターをトランスフェクションした細胞におけるhGHエキソサイトーシス量を1としたときの割合(Ratio)で示した。(実施例5)
【図5−A】関節炎モデルラットの膝組織切片におけるMg29遺伝子の発現解析を、ラットMg29遺伝子検出用プローブを用いたin situハイブリダイゼーションにより実施した結果を示す図である。図中、Anti−SはラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブを用いた結果を、SenseはラットMg29遺伝子検出用センスプローブを用いた結果を示す。ネガティブコントロール(Negative Control)は、ラットMg29遺伝子検出用プローブを用いずに同様の処理を行った結果を示す図である。中央の上パネル、中パネル、および下パネルは、それぞれ左側の上パネル、中パネル、および下パネルを×100倍に拡大したものである。右側の上パネル、中パネル、および下パネルは、それぞれ左側の上パネル、中パネル、および下パネル内の四角で囲った領域について×400倍に拡大したものである。(実施例6)
【図5−B】正常ラットの膝組織切片におけるMg29遺伝子の発現解析を、ラットMg29遺伝子検出用プローブを用いたin situハイブリダイゼーションにより実施した結果を示す図である。図中、Anti−SはラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブを用いた結果を、SenseはラットMg29遺伝子検出用センスプローブを用いた結果を示す。ネガティブコントロール(Negative Control)は、ラットMg29遺伝子検出用プローブを用いずに同様の処理を行った結果を示す図である。中央の上パネル、中パネル、および下パネルは、それぞれ左側の上パネル、中パネル、および下パネルを×100倍に拡大したものである。右側の上パネル、中パネル、および下パネルは、それぞれ左側の上パネル、中パネル、および下パネル内の四角で囲った領域について×400倍に拡大したものである。(実施例6)
【図6】関節炎モデルラット(左パネル)および正常ラットの膝関節切片(右パネル)において、ラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブ(Anri−S)を用いてin situハイブリダイゼーションを行ったときに、強い青色の発色が認められた細胞の種類を、その核の形状から推定した結果を示す図である。該細胞は、巨核球や大食細胞、または細網細胞、形質細胞、骨芽細胞と思われる細胞等であると推定された。(実施例6)
【配列表フリーテキスト】
【0174】
配列番号1:ヒトMg29(配列番号2)をコードする遺伝子。
配列番号3:ラットMg29(配列番号4)をコードする遺伝子。
配列番号5:ヒトMg29遺伝子(配列番号1)のORF領域(配列番号1の塩基配列の第32番目から第850番目の領域)。
配列番号6:プライマー用に設計されたポリヌクレオチド。
配列番号7:プライマー用に設計されたポリヌクレオチド。
配列番号8:ラットMg29遺伝子検出用アンチセンスプローブとして用いるために設計されたRNAであって、ラットMg29遺伝子(配列番号3)の第1517番目から第2010番目までの部分塩基配列の相補的塩基配列に基づいて設計されたRNA。
配列番号9:ラットMg29遺伝子検出用センスプローブとして用いるために設計されたRNAであって、ラットMg29遺伝子(配列番号3)の第1517番目から第2010番目までの部分塩基配列に基づいて設計されたRNA。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列において、1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質をコードするポリヌクレオチドであって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列の第851番目から第890番目までの3´非翻訳領域の塩基配列の相補的塩基配列、または該相補的塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド。
【請求項10】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列の第851番目から第890番目までの3´非翻訳領域の塩基配列、または該3´非翻訳領域の塩基配列の部分塩基配列で表されるポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを含むアンチセンスプローブ。
【請求項12】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含むセンスプローブ。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項14】
プラスミド FERM BP−08655号。
【請求項15】
請求項13に記載の組換えベクターまたは請求項14に記載のプラスミドにより形質転換されてなる形質転換体。
【請求項16】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質。
【請求項17】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質であって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質。
【請求項18】
請求項3または5に記載のポリヌクレオチドがコードする蛋白質。
【請求項19】
請求項3または5に記載のポリヌクレオチドがコードする蛋白質であって、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能を有する蛋白質。
【請求項20】
請求項13に記載の組換えベクターまたは請求項14に記載のプラスミドにより形質転換されてなる形質転換体を培養する工程を含む、請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質の製造方法。
【請求項21】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質を認識する抗体。
【請求項22】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能および/または請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質、請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項13に記載の組換えベクター、請求項14に記載のプラスミド、請求項15に記載の形質転換体および請求項21に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法。
【請求項23】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能が、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能である請求項22に記載の同定方法。
【請求項24】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能および/または請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物の同定方法であって、ある化合物と請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質および/または請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドとの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と該蛋白質および/または該ポリヌクレオチドを接触させ、次いで、該蛋白質の機能および/または該ポリヌクレオチドの発現により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、該シグナルおよび/マーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が該蛋白質の機能および/または該ポリヌクレオチドの発現を阻害するか否かを判定することを特徴とする同定方法。
【請求項25】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能が、カルシウム依存的エキソサイトーシスを阻害する機能である請求項24に記載の同定方法。
【請求項26】
請求項22から25のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項21に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現および/または請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項27】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現および/または請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患が、アルツハイマー病である請求項26に記載の防止方法および/または治療方法。
【請求項28】
請求項22から25のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項21に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する、請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質によるカルシウム依存的エキソサイトーシス阻害の阻害剤。
【請求項29】
請求項22から25のいずれか1項に記載の同定方法により同定された化合物および請求項21に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する、請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現および/または請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項30】
請求項1から8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの発現および/または請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質が有する機能の異常を起因とする疾患が、アルツハイマー病である請求項29に記載の防止剤および/または治療剤。
【請求項31】
被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を測定することを特徴とする方法。
【請求項32】
被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドの発現量を、請求項11に記載のアンチセンスプローブを用いて測定する工程を含む方法。
【請求項33】
被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の量を測定することを特徴とする方法。
【請求項34】
被験試料が慢性関節リウマチ由来の試料であるか否かを判定する方法であって、被験試料における、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の量を、請求項21に記載の抗体を用いて測定する工程を含む方法。
【請求項35】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質、請求項1から10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項11に記載のアンチセンスプローブ、請求項10に記載のセンスプローブ、請求項13に記載の組換えベクター、請求項14に記載のプラスミド、請求項15に記載の形質転換体および請求項21に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する試薬キット。
【請求項36】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質、請求項1から10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項11に記載のアンチセンスプローブ、請求項10に記載のセンスプローブ、請求項13に記載の組換えベクター、請求項14に記載のプラスミド、請求項15に記載の形質転換体および請求項21に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有するアルツハイマー病の診断キット。
【請求項37】
請求項16から19のいずれか1項に記載の蛋白質、請求項1から10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項11に記載のアンチセンスプローブ、請求項10に記載のセンスプローブ、請求項13に記載の組換えベクター、請求項14に記載のプラスミド、請求項15に記載の形質転換体および請求項21に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有する慢性関節リウマチの診断キット。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5−A】
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【図5−B】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−122048(P2006−122048A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285388(P2005−285388)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】