説明

リボン型マイクロホン用リボン、その製造方法およびリボン型マイクロホン

【課題】部分共振を抑制することができるリボン型マイクロホン用リボンおよびその製造方法、このリボンを用いることにより周波数応答特性に部分共振に基づく不具合が表れないようにしたリボン型マイクロホンを得る。
【解決手段】磁気ギャップを形成する磁石と、磁気ギャップ内に配置され音波によって振動するリボン形振動板と、リボン形振動板が磁気ギャップ内で振動することによって発生する電気信号を出力するための電極と、磁石および電極を保持するフレームと、を備えたリボン型マイクロホンに用いるリボン形振動板60。長手方向に進行する形で稜線66をリボン形振動板60の長手方向に対し直交する方向に向けて形成された波形の大きなパターン62と、波形のパターン62よりも小さくリボン形振動板60の長手方向に沿って形成されたパターン64と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リボンの部分共振による周波数応答の劣化を抑制することができるリボン型マイクロホン用リボン、その製造方法およびリボン型マイクロホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リボン型マイクロホンは、磁界を形成する磁石と、リボン形振動板を主たる構成部材としている。上記磁石は、リボン形振動板を挟んで両側に配置され、両側の磁石間に磁界が形成される。上記リボン形振動板は、適宜の張力が与えられて長さ方向両端部が押さえられるとともに上記磁界内に配置されている。リボン形振動板が音波を受けて磁界内で振動することにより、リボン形振動板に音波に応じた電流が流れ、音波が電気信号に変換される。上記リボン形振動板の素材として、従来、アルミニウム箔が広く用いられている。アルミニウムは、他の金属素材と比較して導電性が良好で比重が軽いため、リボン型マイクロホンのリボン形振動板として適している。
【0003】
図5は、一般的なリボン型マイクロホンの例を示す。図6、図7は、このリボン型マイクロホンに内蔵されているリボン型マイクロホンユニットを示す。図5において、リボン型マイクロホン1は、筒型の基部6と、この基部6の上端部に連結されたマイクロホンケース2によってマイクロホンの筐体が構成されている。この筐体内において、上記基部6に固定された適宜の支持部材にリボン型マイクロホンユニット3が組みつけられ、マイクロホンユニット3はマイクロホンケース2によって覆われている。上記基部6の下端部はマイクロホンの出力信号を外部回路に導くためのマイクロホンケーブルを接続するコネクタ部16となっている。
【0004】
図6、図7にも示すように、リボン型マイクロホンユニット3は、縦方向に長い長方形の枠型に形成されたフレーム7を備えている。フレーム7の内側面には、長辺方向に沿って両側に一対の永久磁石4,4が、双方の永久磁石4,4間に所定の間隔をあけて固定されている。永久磁石4,4は幅方向(図5、図6において左右方向)に着磁されている。一対の永久磁石4,4の着磁の向きは同じ向きで、永久磁石4,4間に平行磁界が形成されている。
【0005】
上記平行磁界内に、振動板と導電体を兼ねるリボン型振動板(以下、単に「リボン」という場合もある)5が配置されている。リボン5は、細長い帯状の部材で、長さ方向両端部が、フレーム7の長さ方向両端部に設けられた電極引き出し部18,18に固定されている。電極引き出し部18,18はフレーム7から絶縁されていて、リボン5の両端部を狭持部材8で挟み込むことによってリボン5に導通し、また、リボン5に適度の張力を与えた状態でリボン5を保持している。リボン5の両端部は、電極引き出し部18,18を除きそれ以外の部分51は一定間隔で交互に折り曲げられることにより三角波状に形成されている。上記折り曲げによって形成される線の方向、すなわち三角波の山の頂部および谷底が描く線の方向は、リボン5の幅方向であり、この線が一定間隔で形成されている。以下、上記リボン5の波型の両端部51を波型端部51という。上記両端部の狭持部材8には端子板9が重ねられている。これらの端子板9は、狭持部材8を介してリボン5の各端部と電気的に導通していて、各端子板9からリボン型マイクロホンユニット3からの信号を出力するようになっている。リボン5の波型端部51で挟まれたリボン5の中間部は、波型端部51の三角波の頂部および谷底が描く線の方向に対して直交する方向すなわちリボン5の長さ方向の線に沿って三角波の頂部および谷底が形成された波型中間部52となっている。
【0006】
リボン5は音波を受けて音波に従って振動する。この振動方向は、永久磁石4,4間の磁束を横切る方向であり、導電体からなるリボン5が磁束を横切ることによって発電し、リボン5の長さ方向両端間、したがって電極引き出し部9,9間に電気信号が発生する。この電気信号はリボン5の振動数および振幅に対応した振動数および振幅の信号となるので、リボン5に当たる音波が、この音波に対応した電気信号に変換されることになる。リボン型マイクロホンは慣性制御方式であることから、リボン5の共振周波数は、集音する音波の低域周波数以下、換言すれば、集音可能な周波数帯域の最低周波数よりも低い周波数にする必要がある。このため、リボン5の張力はきわめて低く設定される。前述のように、リボン5は波形に折り曲げ加工されることによって低い張力を実現している。
【0007】
以上説明したリボン型マイクロホンの例では、リボン5の長さ方向の中間部が、リボン5の長さ方向の線に沿って三角波の頂部および谷底が形成された波形中間部52となっている。従来の多くのリボン型マイクロホンのリボンは、長さ方向全体にわたって、三角波の山の頂部および谷底が描く線の方向がリボンの幅方向になるように形成されている。換言すれば、三角波が長さ方向全体にわたって進行している形に形成されている。このような形のリボンを製造するために、従来は、外周に三角形の山と谷からなる歯が一定間隔で形成されている2個一対の平歯車を用いていた。一対の平歯車は、歯のピッチと半径はもとより、全く同じ仕様のものを用いる。作業員は、一対の平歯車を平滑な基板、例えばガラス基板の上に載せ、リボン5の素材であるアルミ箔を一対の平歯車で挟み込み、一対の平歯車を互いに押し付けあいながら、互いに逆向きに回転させ、上記素材を繰り出していく。こうすることにより、素材に一対の平歯車の歯の形が転写され、上記のような波形のリボンが形成される。
【0008】
上記のようにして製造されるリボンによれば、素材がアルミニウムなどからなる金属箔であることから、機械的共振の共振鋭度が高い。すなわち、共振によるピークが鋭く現れる。このため、共振が周波数応答に現れ、音波を忠実に電気信号に変換ができないという不具合がある。図8は、長さ方向全体にわたって、三角波の山の頂部および谷底が描く線の方向が幅方向になるように形成されているリボンにおける部分共振の発生の様子を示している。図8に二つの点線による長円で囲んで示すように、三角波の1周期および半周期に相当する部分において部分共振が発生する。半周期に相当する部分に着目すると、この部分は平坦面になっているため剛性が低く、共振しやすくなっていることによる。図9は、このようなリボンを用いたマイクロホンの周波数応答特性を示す。横軸は周波数、縦軸は出力信号レベル(単位:dBV)である。このグラフの上側の2本の線は正面と背面で測定したもの、下側の2本の線は左右の側面で測定したものである。リボン型マイクロホンでは正面と背面での特性が重要であるから、正面と背面の特性に着目すると、周期的に鋭いピークが現れている。これが上記の部分共振によるものである。
【0009】
上に述べたような部分共振は、長さ方向全体にわたって、三角波の山の頂部および谷底が描く線の方向が幅方向になるように形成されているリボンに顕著に現れる。しかし、図5乃至図7に示すような、リボンの長さ方向の線に沿って三角波の頂部および谷底が形成された波形中間部52が形成されているリボンにおいても部分共振が認められる。上記三角波の半周期に相当する部分はやはり平坦面であって剛性が低いからである。
【0010】
このような従来技術の問題点の改善策として、本発明者が先に提案した特許文献1記載の発明を採用することが考えられる。特許文献1記載の発明は、表面の形状が、成形しようとするリボンと同一形状に形成されている転写型の上記表面にリボンの素材を載せて仮固定し、外周面に弾性部材を有するローラを、上記弾性部材をリボンの素材に押し付けながら転がすことにより、転写型の表面形状をリボンの素材に転写するようにしたリボン型マイクロホン用リボンの製造方法に関するものである。特許文献1では、転写型の長さ方向中間部の表面をシボないしは梨地処理することにより、リボンの長さ方向中間部にシボないしは梨地が転写されるため、上記長さ方向中間部の剛性がある程度は高くなる。
なお、特許文献1では、上記ローラの弾性部材は、静電植毛によって形成するとよい旨の記載もある。
【0011】
特許文献1記載の発明によれば、リボンの長さ方向中間部の剛性をある程度高めることができる。しかし、シボないしは梨地の類を形成した程度では、リボンの剛性を十分に高めることはできず、部分共振の問題を解決することはできない。
【0012】
【特許文献1】特開2007−49324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上述べたような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、部分共振を抑制することができるリボン型マイクロホン用リボンおよびその製造方法を提供すること、そして、このリボンを用いることにより周波数応答特性に部分共振に基づく不具合が表れないようにしたリボン型マイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかるリボン型マイクロホン用リボンは、磁気ギャップを形成する磁石と、上記磁気ギャップ内に配置され音波によって振動するリボン形振動板と、上記リボン形振動板が上記磁気ギャップ内で振動することによって発生する電気信号を出力するための電極と、上記磁石および上記電極を保持するフレームと、を備えたリボン型マイクロホンに用いる上記リボン形振動板であって、リボン形振動板の長手方向に進行する形で稜線を上記リボン形振動板の長手方向に対し直交する方向に向けて形成された波形の大きなパターンと、上記波形のパターンよりも小さく上記リボン形振動板の長手方向に沿って形成されたパターンと、を有していることを最も主要な特徴とする。
【0015】
本発明にかかるリボンマイクロホン用リボンの製造方法は、上記の特徴を有するリボン型マイクロホン用リボンの製造方法であって、リボン形振動板を成形するための転写型の製造工程と、上記転写型に形成されている波形表面にリボン形振動板の素材を押し付けて転写型の波形を転写する転写工程と、を有し、上記転写型の製造工程は、転写型の長手方向に進行する波形のパターンであって波の稜線が上記転写型の長手方向に対し直交する方向に向いたパターンを形成する切削加工工程と、上記転写型の波形のパターンよりも小さいパターンであって上記転写型の長手方向に沿って配列されたパターンを形成するエッチング工程と、を有することを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
リボン形振動板の長手方向に進行する形で稜線を上記リボン形振動板の長手方向に対し直交する方向に向けて形成された波形の大きなパターンのみであるとすれば、前述のように部分共振が生じる。しかし、上記大きなパターンとともに、上記波形のパターンよりも小さいパターンをリボン形振動板の長手方向に沿って形成することによって、波形の半周期に相当する部分にも上記小さなパターンによる凹凸が形成されるため、剛性が高まり、部分共振の発生が抑制される。よって、上記リボン形振動板をリボン型マイクロホンユニットに組み込み、さらにこれをマイクロホンケースに組み込んでリボン型マイクロホンを構成すれば、周波数応答特性に鋭い共振が現れることを抑制して良好な周波数応答特性を得ることができる。
【0017】
本発明にかかるリボン型マイクロホン用リボンの製造方法によれば、リボン形振動板の形状が、長手方向に進行する波形の大きなパターンと、上記波形のパターンよりも小さく上記リボン形振動板の長手方向のパターンからなる複雑な形であるにもかかわらず、リボン形振動板素材に転写型の表面形状を転写するだけで、リボン型マイクロホン用リボンを容易に製造することができる。また、上記転写型は、波形の大きなパターンを切削加工によって形成し、小パターンをエッチング工程によって形成するため、転写型の製作も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明にかかるリボン型マイクロホン用リボン、その製造方法およびリボン型マイクロホンの実施例について図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本発明にかかるリボンマイクロホン用リボン(以下、「リボン形振動板」という)の実施例を、図1(b)は上記リボン形振動板の製造工程の一工程を実施するための転写型の例を示す。図1(a)において、リボン形振動板60は数μmの厚さの金属箔、例えばアルミニウム箔からなり、このリボン形振動板60には、波形の大きなパターン62と、この波形のパターン62よりも小さくリボン形振動板60の長手方向に沿って形成されたパターン(以下「小パターン」という)64が形成されている。波形の大きなパターン62は断面形状が三角波形で、リボン形振動板60の長手方向に進行する形で、かつ、稜線66をリボン形振動板60の長手方向に対し直交する方向に向けて形成されている。
【0019】
図1(a)に示すように、上記小パターン64はリボン形振動板60の長手方向に多数配列されるとともに、リボン形振動板60の幅方向すなわち長手方向に対し直交する方向にも複数列配置されている。上記小パターン64は、長方形状のパターンで、その長辺方向をリボン形振動板60の長手方向に向けて配置されている。また、長方形状の小パターン64が、その長辺方向の位置をリボン形振動板60の長手方向に交互にずらしてリボン形振動板60の幅方向に複数列配置されている。したがって、小パターン64は千鳥状に形成されている。
【0020】
次に、上記リボン形振動板60の製造工程の実施例について説明する。波形のパターン62と小パターン64が形成されたリボン形振動板60の製造工程は、大きく分けて、リボン形振動板を成形するための転写型の製造工程と、上記転写型に形成されている波形表面にリボン形振動板の素材を押し付けて転写型の波形を転写する転写工程からなる。
【0021】
図1(b)、図2(b)および図3は、リボン形振動板の素材である例えばアルミニウム箔に上記パターン62および小パターン64を形成してリボン形振動板60を製造するための転写型70の例を示している。転写型70は、リボン形振動板60の波形のパターン62を転写するための断面形状三角波形の波形表面72を有するとともに、この波形表面72に、転写型70の長手方向に沿って配列されるとともに転写型70の幅方向に複数列配置された小パターンからなる小パターン転写面を有している。小パターン転写面は、前記小パターン64を転写するための面である。波形表面72は、転写型70の長手方向に進行する形で、かつ、稜線76を転写型70の長手方向に対し直交する方向に向けて形成されている。上記小パターン転写面は、長方形状の無数のパターンからなり、これらのパターンが長辺方向を転写型の長手方向に向けて、また、上記長辺方向の位置を転写型70の長手方向に交互にずらして転写型70の幅方向に複数列配置されている。
【0022】
転写型70の波形表面72は、転写型の素材となる例えば金属ブロックを機械的な切削加工によって形成する。転写型70に波形表面72を形成した後、波形表面72にエッチングを施すことによって、上記小パターン転写面が形成される。エッチングの手法は従来周知の手法を用いればよい。例えば、波形表面72の全面にフォトレジストを塗布し、これに目的のパターンに従って露光し、露光された部分と露光されない部分からなるパターンを形成し、次にエッチング処理することによって上記小パターン転写面を形成する。小パターン転写面は、図3(a)(b)に示すように、エッチングにより表面が除去されて形成された凹部74と凸部75からなる。凹部74は凸部75で囲まれていて、小パターン転写面を形成する凹部74と凸部75は、長方形の長辺方向を転写型70の長手方向に向けて、また、上記長辺方向の位置を転写型70の長手方向に交互にずらして転写型70の幅方向に複数列配置されている。
【0023】
ちなみに、リボン形振動板60の長手方向における小パターン64の1ピッチは、例えば2.48mmとし、波形のパターン62のピッチはこれと同じでもよいし、異なっていてもよい。小パターン64を形成するための転写型70における凹部74の深さは0.05mm程度とするとよい。上記凸部75の角は、鋭利にならないように、円弧状に面取りされたような形に仕上げることが望ましい。凸部75の角が鋭利になっていると、次に説明する転写工程において、リボン素材が鋭利な角に当たって裂けやすくなるからである。
【0024】
次に、上記のように形成されている転写形70を用いた転写工程に付され、リボン素材に転写型70の表面形状が転写される。この転写工程は以下のようにして実施される。転写型70の波形表面72の上に、細長い形に切断された金属箔からなるリボン素材を載せ、リボン素材をその上から柔らかいブラシ状の部材で上記波形表面に押し付ける。上記ブラシ状の部材として、例えば、表面に繊維状の毛が均一に形成されてなる植毛ローラを用いることができる。上記繊維状の毛は短繊維からなり、繊維の長さや太さは、転写型70の波形表面72の凹凸の大きさや深さに応じて決められている。かかる諸元の植毛面14を得るには静電植毛の技術を用いるとよい。上記植毛ローラの毛をリボン形振動板の素材に押し付けながら上記素材の長手方向に植毛ローラを転がす。植毛ローラの毛はこれを軽く上記素材に押し付けるだけで、上記素材に転写形70の波形表面72の形状、すなわち、波形の前述の大きなパターン62および小パターン64が、転写により上記素材に成形される。このような植毛ローラを用いた転写工程は、特許文献1に記載されているものと同様のものを採り入れることができる。
【0025】
図2(a)は、リボン形振動板60の素材に上記波形の大きなパターン62が形成された状態のみを示しており、図1(a)は、パターン62とともに小パターン64が形成された状態を示している。図2(a)において、符号66は、波形の上記パターン62に生じる稜線を示しており、この稜線6はリボンの長手方向に対し直交する方向、すなわちリボンの幅方向に向いている。
【0026】
転写型70の素材は金属であってもよいし、プラスチックであってもよい。転写型70には、転写型70の表面に載せたリボン素材を仮固定するために、転写型70の裏面(底面)から表面に通じる適宜数の排気孔を形成しておくとよい。転写型70の波形表面72にリボン素材を載せ、上記排気孔から排気し、転写型70の波形表面72とリボン素材との間を負圧にすることにより転写型70の表面にリボンの素材を仮固定することができる。このときの排気圧は、リボン素材が位置ずれしない程度の弱い負圧でよい。
【0027】
前記ブラシ状の部材として、前記植毛ローラに代えて、平坦な形の植毛ブラシを用いてもよい。また、平坦な形の植毛ブラシとして、適宜の重量を持つ平板上の錘の下面のほぼ全面に均一に繊維状の毛を植毛してなるブラシを用いてもよい。
【0028】
上記平板状の錘の下面に植毛したブラシを用いて転写する場合、転写型70を図示されない加振器の上に取り付けるとよい。加振機の上に転写型70を取り付け、転写型70の上にリボン素材を載せて必要なら仮固定し、リボン素材の上に上記平板状の植毛ブラシをその毛がリボン素材に接する向きにして載せ、上記加振機を起動する。加振器によって転写型70、リボン素材、植毛ブラシに振動が加わり、植毛ブラシがリボン素材に対し相対移動する。植毛ブラシのそれぞれの柔らかい毛を介して植毛ブラシ全体の重量が分散してリボン素材に加わり、リボン素材が転写型70の波形表面72に押し付けられて、リボン素材に上記波形表面72の波形が転写される。
【0029】
上記のような平板状の錘の下面に植毛したブラシと加振機を用いてリボンに転写する技術は、本出願人の出願にかかる特願2007−273127に記載されている技術を用いるとよい。
【0030】
上記波形表面72は、三角波形の大きなパターンと、前記凹部74と凸部75からなる小パターンからなり、この大きなパターンと小パターンがリボン素材に転写されてリボン形振動板60が完成する。
【0031】
このようにして製造したリボン形振動板60は、これを図6、図7に示すように、フレームに取り付けて磁界内に配置すれば、リボン型マイクロホンのマイクロホンユニットが完成する。リボン形振動板60は、音波を受けることによって、波形のパターン62の部分が撓んで振動する。この振動は前述のとおり磁気ギャップ内で行われるため、振動板60の両端にその振動に応じた電気信号が発生し、電気音響変換されることになる。上記マイクロホンユニットは、これを図5に示すようなマイクロホンケース内に組み込むことによりリボン型マイクロホンとすることができ、マイクロホンケースに組み込んだコネクタから信号を出力することができる。
【0032】
図4は、本発明の実施例にかかるリボン型マイクロホンの周波数応答特性を、図9に示す従来例の特性と同じ条件で示している。特性の測定に当たっては、図9に示す従来のリボン型マイクロホンの周波数応答特性と比較するために、リボン型振動板の構成のみを異ならせ、他の仕様は同じにして測定した。図4に示す周波数応答特性を図9に示す周波数応答特性と比較すると、正面と背面の特性を示す上側二つの特性線図において、周期的なピークのレベルが低く、かつ、ピークの鋭度が小さくなっている。その理由は、リボン形振動板60に、三角波形のパターン62のみでなく、このパターン62に加えて、このパターン62よりも小さい小パターン64を形成したことにより、上記三角波形のパターン62の部分の剛性が高くなり、リボン形振動板60の部分共振が抑制されたことによる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明にかかるリボンマイクロホン用リボンとこのリボンの製造に用いる転写型の実施例を示すもので、(a)は上記リボンの正面図、(b)は上記転写型の断面図である。
【図2】同じく上記実施例にかかるリボンマイクロホン用リボンとこのリボンの製造に用いる転写型を示すもので、(a)は上記リボンの正面図、(b)は上記転写型の底面図である。
【図3】上記転写型を示すもので、(a)は長さ方向の一部を切り取って示す拡大正面図、(b)は側面断面図である。
【図4】本発明にかかるリボン型マイクロホンの実施例における周波数応答特性を示す特性線図である。
【図5】従来知られているリボン型マイクロホンの内部構成例を示す一部断面正面図である。
【図6】従来知られているリボン型マイクロホンユニットの例を示す正面図である。
【図7】上記リボン型マイクロホンユニットの従来例の側面断面図である。
【図8】上記従来のボン型マイクロホンユニットに用いられているリボン形振動板において生じる部分共振を説明するための模式図である。
【図9】従来のリボン型マイクロホンの例における周波数応答特性を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0034】
1 リボン型マイクロホン
2 マイクロホンケース
3 リボン型マイクロホンユニット
4 磁石
5 リボン型振動板
7 フレーム
60 リボン形振動板
62 波形のパターン
64 小パターン
66 稜線
70 転写型
72 波形表面
74 凹部
75 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ギャップを形成する磁石と、上記磁気ギャップ内に配置され音波によって振動するリボン形振動板と、上記リボン形振動板が上記磁気ギャップ内で振動することによって発生する電気信号を出力するための電極と、上記磁石および上記電極を保持するフレームと、を備えたリボン型マイクロホンに用いる上記リボン形振動板であって、
上記リボン形振動板の長手方向に進行する形で稜線を上記リボン形振動板の長手方向に対し直交する方向に向けて形成された波形の大きなパターンと、
上記波形のパターンよりも小さく上記リボン形振動板の長手方向に沿って形成されたパターンと、を有してなるリボン型マイクロホン用リボン。
【請求項2】
リボン形振動板の長手方向に沿って形成された小さなパターンは、上記リボン型振動板の長手方向に対し直交する方向に複数個並べて形成されている請求項1記載のリボン型マイクロホン用リボン。
【請求項3】
リボン形振動板の長手方向に沿って形成された小さなパターンは、上記リボン型振動板の長手方向に対し直交する方向に複数個交互に位置をずらして形成されている請求項1記載のリボン型マイクロホン用リボン。
【請求項4】
長手方向に進行する形で稜線をリボン形振動板の長手方向に対し直交する方向に向けて形成された波形の大きなパターンと、上記波形のパターンよりも小さく上記リボン形振動板の長手方向に沿って形成されたパターンと、を有してなるリボン型マイクロホン用リボンの製造方法であって、
リボン形振動板を成形するための転写型の製造工程と、
上記転写型に形成されている波形表面にリボン形振動板の素材を押し付けて転写型の波形を転写する転写工程と、を有し、
上記転写型の製造工程は、
転写型の長手方向に進行する波形のパターンであって波の稜線が上記転写型の長手方向に対し直交する方向に向いたパターンを形成する切削加工工程と、
上記転写型の波形のパターンよりも小さいパターンであって上記転写型の長手方向に沿って配列されたパターンを形成するエッチング工程と、を有するリボン型マイクロホン用リボンの製造方法。
【請求項5】
転写工程では、表面に繊維状の毛が形成されてなる植毛ローラをリボン形振動板の素材に押し付けながら転がすことにより上記転写型の表面形状を上記リボン形振動板の素材に転写する請求項4記載のリボン型マイクロホン用リボンの製造方法。
【請求項6】
転写工程では、繊維状の毛が形成されてなる平坦な形の植毛ブラシの上記毛をリボン形振動板の素材に押し付けながら移動させることにより上記転写型の表面形状を上記リボン形振動板の素材に転写する請求項4記載のリボン型マイクロホン用リボンの製造方法。
【請求項7】
リボン形振動板を備えたリボン型マイクロホンユニットをマイクロホンケース内に組み込んだリボン型マイクロホンであって、上記リボン形振動板は、請求項1ないし3のいずれかに記載されているリボン形振動板であるリボン型マイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−194669(P2009−194669A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33978(P2008−33978)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】