説明

レーザ干渉変位測定装置およびこの装置を用いた平面モータ

【課題】ターゲットミラーの傾きにより生じるレーザ光のオーバーラップの影響を緩和して干渉計光軸調整範囲を広げることにより汎用的な製品を提供する。
【解決手段】レーザ光を分光し、分光したレーザ光の一方をターゲットミラーで反射させて前記分光した他方のレーザ光と干渉させ、干渉により生じた干渉縞を光検出器により電気信号に変換してターゲットミラーの変位を測定するレーザ干渉変位測定装置において、前記レーザ光としてパワー分布がほぼフラットなトップハットレーザを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ干渉変位測定装置に関し、例えば平面モータ用干渉計や半導体露光装置粗動ステージの位置決め干渉計等に用いて好適なレーザ干渉変位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5はレーザ光を用いたダブルパルス干渉計の光学系を示す要部構成図である。
図5において、光ファイバー等から出射したレーザ光aはコリメータレンズ1、偏光板2を経由して第1ハーフミラー3に入射し、測長光bと参照光cに分岐する。
【0003】
第1ハーフミラー3を透過した参照光cは直角全反射ミラー4に入射するが、この直角全反射ミラー4は干渉縞を生成する為に必要な所定の傾斜を持たせてある。
第1ハーフミラー3で反射した測長光bはさらに第2ハーフミラー5を透過し、λ/4波長板7で位相を回転されて第1パスdとして出射する。
【0004】
第1パスdとして出射したレーザ光はターゲットミラー6で反射され、再度λ/4波長板7を透過し第2ハーフミラー5で反射する。反射したレーザ光はハコーナキューブ8に入射する。コーナキューブ8で折り返されたレーザ光は再度ハーフミラー5で反射して
λ/4波長板7を通って第2パスeとして出射され、ターゲットミラー6で反射する。
【0005】
ターゲットミラー6で反射したレーザ光は、再度λ/4波長板7で位相回転され第1、第2ハーフミラー5→3を透過し、光軸に対して所定の傾斜を持たせた参照光cと干渉して干渉縞を生成する。その干渉縞の明暗コントラストをPDA(フォトダイオード・アレイ)素子9にて電気信号に変換し、ターゲットミラー6の移動による位相の変動をカウントすることにより距離を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−198317号公報
【特許文献2】特開2000−18918号公報
【特許文献3】特開2007−897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、PDA素子9には参照光cと測長光bの二つのレーザ光が干渉した光が入力する。レーザ光のパワー分布は1/e^2のガウシャン分布となっている為、図6(a)のようなプロファイルになる。
【0008】
図6(b)は実線で示す参照光cと点線で示す測長光bがオーバーラップした状態を示す模式図である。図6(b)に示すように、それぞれの分布中心が重なった時に信号強度が最大となるが、分布中心にシフトfがある場合レーザ光のオーバーラップ(合波パワー)した部分の信号強度gは分布中心にシフトがない理想状態(最大値)よりも低下することになる。
【0009】
また、例えば第1パスdの光軸調整に誤差がある状態でターゲットミラー6を移動させた場合、移動前後で測長光bと参照光cのオーバーラップにシフトが生じるのでレーザ光強度は1/e^2のプロファイルに沿って低下することになる。
【0010】
このようにレーザ光オーバーラップを理想状態に近づけて安定したレーザ光強度・信号強度を得る為には、現状では非常にシビアな光軸調整、干渉計光学部品組立が必要となり、製造上の調整工数、歩留まり及び測長機器として装置内に組み込む際の取り扱いに注意を払わなければならないという課題があった。
【0011】
従って本発明は、
レーザ光源としてパワー分布がほぼフラットなトップハットレーザを用いることにより、ターゲットミラーの傾きにより生じるレーザ光のオーバーラップの影響を緩和して干渉計光軸調整範囲を広げることにより汎用的な製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課点を解決するためになされたもので、請求項1に記載のレーザ干渉変位測定装置の発明においては、
レーザ光を分光し、分光したレーザ光の一方をターゲットミラーで反射させ、前記分光した他方のレーザ光と干渉させて生じた干渉縞を光検出器により電気信号に変換して変位を測定するレーザ干渉変位測定装置において、前記レーザ光としてパワー分布がほぼフラットなトップハットレーザを用いたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の平面モータの発明においては、
平面モータのスライダに前記レーザ干渉変位測定装置を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1によれば、光源としてパワー分布がフラットに近いプロファイルのトップハットレーザを使用し、参照光と測長光のオーバーラップのシフトによる干渉強度の低下を低減させたので、ターゲットミラーの傾斜許容値が広くなってもPDAへの干渉信号強度が変化しないので、より安定した干渉計を提供することが出来る。
【0015】
請求項2によれば、スライダ内に本発明のレーザ干渉変位測定装置を組み込むことにより、製造上の調整工数、歩留まり及び測長機器として組み込む際の取り扱いが簡単な平面モータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のレーザ干渉変位測定装置で使用するトップハットレーザの実施形態の一例を示す模式図である。
【図2】本発明のレーザ干渉変位測定装置を平面モータに適用した実施例を示す構成図である。
【図3】本発明のレーザ干渉変位測定装置を平面モータに適用した他の実施例を示す構成図である。
【図4】図3に示す平面モータ内のレーザ干渉変位測定装置の配置例を示す構成図である。
【図5】レーザ干渉変位測定装置の一般的な構成を示す図である。
【図6】レーザ光のガウシアン分布状態と2つのレーザ光がシフトしてオーバラップした状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1(a,b)は本発明に適用するトップハットレーザの模式図を示すもので、図1(a)はトップハットレーザのパワー分布を示している。図1(a)に示すように従来のガウシアン分布とは異なり頂部が平らな面となっている。
【0018】
このようなトップハットレーザの生成方法は公知の技術であり、例えば特開2007−897に記載されている。
図1(b)は図5に示す従来のレーザ干渉変位測定装置に図1(a)に示すトップハットレーザを適用し、レーザをオーバラップさせた状態を示すもので、c’は参照光のパワー分布、b'は測長光のパワー分布を示している。
図1(b)に示すようにそれぞれのレーザ光の中心がfだけシフトしたとしても合波パワーの低下は生じない。
【0019】
図2は本発明の干渉変位測定装置を平面モータに適用した実施例を示す構成図である。
図2において、20は水平に固定配置された矩形状の格子プラテンであり、図では簡略するが磁性体の平坦面にX方向及びY方向に沿って一定ピッチで歯が形成されている。
21a,21bは、格子プラテン上面をX方向及びY方向にスライドして位置決め制御される2個のスライダであり、これらの上部にワーク及び位置決めの対象となるターゲット(図示せず)が搭載される。図では省略するが格子プラテン20に対向する裏面にノズルが設けられていて圧縮空気を噴射させることでスライダ20を格子プラテン10上に浮揚させる。
【0020】
22は本発明のレーザ干渉変位測定装置であり、矩形状の格子プラテン20の4辺に近接し所定の距離を隔てて4個づつ、計16個配置されている。
23は、格子プラテン20の一端部にX軸およびY軸に直交して固定配置された所定高さを有する全反射ミラーである。この全反射ミラーは図5におけるターゲットミラーとして機能する。
【0021】
このような構成において、レーザ光として図1に示すトップハットレーザを適用したレーザ干渉変位測定装置を用いれば全反射ミラー23の直角度や平行度に多少の変位があったとしても合波パワーの低下が生じることがない。
【0022】
図3は本発明のレーザ干渉変位測定装置を平面モータに適用した他の実施例を示す構成図である。
この例では格子プラテン20上にスライダ21cを一つ配置し、矩形状の格子プラテン20の2辺に近接し直角に2つの全反射ミラーが配置されている。そして、X軸に対して所定の距離を隔てて2つのレーザ干渉変位測定装置を配置し、Y軸に対して1つのレーザ干渉変位測定装置を配置している。
このような構成においても全反射ミラー23aの直角度や平行度に多少の変位があったとしても合波パワーの低下が生じることがない。
【0023】
図3は本発明のレーザ干渉変位測定装置を平面モータに適用した他の実施例を示す構成図である。
この例では格子プラテン20上にスライダ21cを一個配置し、矩形状の格子プラテン20の2辺に近接し直角に2つの全反射ミラー23aが配置されている。そして、X軸に対して所定の距離を隔てて2つのレーザ干渉変位測定装置を配置し、Y軸に対して1つのレーザ干渉変位測定装置を配置している。
このような構成においても全反射ミラー23aの直角度や平行度に多少の変位があったとしても合波パワーの低下が生じることがない。
【0024】
図4は図3に示す平面モータにおけるレーザ干渉変位測定装置の配置例とトップハットレーザからの入射方向を示す構成図である。レーザ干渉変位測定装置の構成は図5と同様なのでここでの説明は省略する。
【0025】
図4において、40a〜40cは第1〜第3レーザ干渉変位測定装置であり、第1レーザ干渉変位測定装置40aからはY軸方向に向かってレーザ光が出射され、所定の距離はなれて配置された第2、第3レーザ干渉変位測定装置40b、40cからはX軸方向に向かってレーザ光が出射される。
【0026】
トップハットレーザはハーフミラー30aに入射し、透過するI方向と反射するH方向に分割される。透過したI方向のレーザ光は第1レーザ干渉変位測定装置40aに入射し、反射したH方向のレーザ光はハーフミラー30bに入射して透過するJ方向と反射するK方向に分割される。
【0027】
そして、透過したJ方向のレーザ光は第3レーザ干渉変位測定装置40cに入射し、反射したK方向のレーザ光は第2レーザ干渉変位測定装置40bに入射する。
このような構成によれば、トップハットレーザは一つで3個のレーザ干渉変位測定装置を機能させることができる。
【0028】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0029】
1 コリメータレンズ
2 偏光板
3、5,30 ハーフミラー
4 全反射直角ミラー
7 λ/4波長板
8 コーナキューブ
9 PDA
20 プラテン
21 スライダ
22、40 レーザ干渉変位測定装置
23 全反射ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を分光し、分光したレーザ光の一方をターゲットミラーで反射させて前記分光した他方のレーザ光と干渉させ、干渉により生じた干渉縞を光検出器により電気信号に変換してターゲットミラーの変位を測定するレーザ干渉変位測定装置において、前記レーザ光としてパワー分布がほぼフラットなトップハットレーザを用いたことを特徴とするレーザ干渉変位測定装置。
【請求項2】
スライダに前記レーザ干渉変位測定装置を搭載したことを特徴とする平面モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−58973(P2011−58973A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209533(P2009−209533)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】