説明

ロボットハンド装置

【課題】柔軟な対象物を痛めたり、傷つけたりすることなく、把持することが可能なロボットハンド装置の提供。
【解決手段】ハンド先端部に、対象物Mを把持する一対の把持体1と、各保持体1の把持面1aを覆うように固定された柔軟膜により構成される袋体2と、袋体2に充填されたゲル状流体3とを有するロボットハンド装置であり、対象物Mが把持される際に、把持体1と対象物Mとの接触面に対して略一定の面圧が作用し、局所的な接触圧が発生しないため、柔軟な対象物Mを痛めたり、傷つけたりすることなく、把持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な対象物を把持することが可能なロボットハンド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットにおいて対象物の形状に拘わらず、安定的に把持することが可能なロボットハンド装置の開発がなされている。例えば、特許文献1には、把持対象物を把持するフィンガに、粉体を入れた袋状の粉体ホルダが設けられ、粉体ホルダに流量検出手段、粉体給排手段および封入量制御手段によって適量の粉体を給排することで、把持対象物の安定把持を図るロボットハンドが開示されている。
【0003】
また、非特許文献1には、多数のリンクにより指を形成することにより、対象物の形状に沿った変形を可能とするなじみハンドが記載されている。また、非特許文献2には、指先を半球型とし、さらに柔軟被覆を施すことで、接触圧を軽減するロボットハンドが記載されている。また、非特許文献3には、粉体を充填した袋を対象物に押し付け、対象物の形状に合わせて変形したところで、袋内を真空にすることにより、対象物を把持可能としたグリッパーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−370188号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大道武生、沖野晃久,多本指ハンドの作業への応用,日本ロボット学会誌,日本ロボット学会,1989年10月,第7巻,第5号,pp.101−108
【非特許文献2】村上剛司、長谷川勉,器用な多関節多指ロボットハンドのための柔軟被覆と爪を有する指先,日本ロボット学会誌,日本ロボット学会,2004年7月,第22巻,第5号,pp.74−82
【非特許文献3】エリック・ブラウン(Eric Brown)、ニコラス・ローデンベルグ(Nicholas Rodenberg)、ジョン・アメンド(John Amend)、アナン・モゼイカ(Annan Mozeika)、エリック・ステルツ(Erik Steltz)、ミッチェル・アール・ザーキン(Mitchell R. Zakin)、ホッド・リプソン(Hod Lipson)、ハインリヒ・エム・イェーガー(Heinrich M. Jaeger),ユニバーサル・ロボティック・グリッパー・ベースド・オン・ザ・ジャミング・オブ・グラニュラー・マテリアル(Universal robotic gripper based on the jamming of granular material),プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ(Proceedings of the National Academy of Sciences,ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ(National Academy of Sciences),2010年11月2日,第107巻,第44号,pp.18809−18814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載のロボットハンドでは、柔軟被覆によって接触圧のピークを軽減するものの、対象物を点で把持するため、柔軟な対象物の場合、対象物を痛めたり、傷つけたりする可能性がある。また、非特許文献1に記載のハンドでは、各リンクを細かく制御することで指形状を対象物の形状に沿った形状としても、対象物との接触点付近で接触圧がピークとなるため、柔らかく把持することができない。
【0007】
特許文献1に記載のロボットハンドでは、粉体ホルダに粉体を給排することで把持対象物の形状にフィンガの形状を合わせるが、把持対象物の形状に合わせた状態ではフィンガが硬くなってしまうため、柔軟な対象物を柔らかく把持することができない。また、非特許文献3に記載のグリッパーでも、対象物に対して押し付ける際に袋の表面が硬いため、局所的接触圧が発生し、柔軟な対象物を痛める可能性がある。
【0008】
そこで、本発明においては、柔軟な対象物を痛めたり、傷つけたりすることなく、把持することが可能なロボットハンド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のロボットハンド装置は、対象物を把持する把持体と、把持体の把持面を覆う柔軟膜と、柔軟膜と把持体との間の空間に充填された流体またはゲル状流体とを有するものである。ここで、流体とは液体および気体をいう。また、ゲル状流体とは、ゲルのうち液体を多く含むゼリー状の流動物質をいう。
【0010】
本発明のロボットハンド装置では、柔軟膜と把持体との間の空間に流体またはゲル状流体が充填されていることにより、柔軟膜と把持体との間の空間内は静水圧に近い。そのため、柔軟膜および流体またはゲル状流体が変形して対象物が把持された際に、対象物との接触面に対して略一定の面圧が作用することになり、局所的な接触圧が発生しない。
【0011】
また、本発明のロボットハンド装置は、把持体が対象物に近付くに連れて柔軟膜と把持体との間の空間内に流体またはゲル状流体を供給するとともに、把持体が対象物から離れるに連れて柔軟膜と把持体との間の空間から流体またはゲル状流体を排出する流体給排機構を有することが望ましい。
【0012】
これにより、把持体が対象物から離れている場合には柔軟膜と把持体との間の空間内の流体またはゲル状流体を排出して少なくしておくことにより、重力による流体またはゲル状流体の偏りを防止し、把持体が対象物に近付くに連れて柔軟膜と把持体との間の空間内に流体またはゲル状流体を供給することで、対象物の全体を均一に把持することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
(1)対象物を把持する把持体と、把持体の把持面を覆う柔軟膜と、柔軟膜と把持体との間の空間に充填された流体またはゲル状流体とを有することにより、対象物が把持される際に、対象物との接触面に対して略一定の面圧が作用することになり、局所的な接触圧が発生しないため、柔軟な対象物を痛めたり、傷つけたりすることなく、把持することが可能となる。
【0014】
(2)把持体が対象物に近付くに連れて柔軟膜と把持体との間の空間内に流体またはゲル状流体を供給するとともに、把持体が対象物から離れるに連れて柔軟膜と把持体との間の空間から流体またはゲル状流体を排出する流体給排機構を有することにより、重力の影響を排除して対象物の全体を均一に把持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態におけるロボットハンド装置のハンド先端部の断面図である。
【図2】ハンド先端部の別の例を示す断面図である。
【図3】図1のロボットハンド装置による対象物の把持の様子を示す説明図である。
【図4】本発明のロボットハンド装置の別の実施形態を示す概略斜視図である。
【図5】図4のロボットハンド装置の動作説明図である。
【図6】開閉機構および流体給排機構の別の例を示す説明図である。
【図7】3つの把持体により対象物を把持する構成とする場合の配置例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態におけるロボットハンド装置のハンド先端部の断面図である。図1において、本発明の実施の形態におけるロボットハンド装置は、ハンド先端部に、対象物Mを把持する一対の把持体1と、各保持体1の把持面1aを覆うように固定された袋体2と、袋体2に充填されたゲル状流体3と、袋体2内の圧力を測定する圧力センサ4とを有する。
【0017】
把持体1は、金属や樹脂等の硬い物質により形成されたものである。袋体2は、ポリ塩化ビニル等の柔軟膜により袋状に形成されたものである。ゲル状流体3は、例えば液体としての水にグリセリンを加えてゼリー状にした流動物質であり、袋体2内に密封されている。なお、ゲル状流体3に代えて水などの液体や窒素ガスなどの気体を用いることも可能である。
【0018】
また、図2に示すように、袋体2に代えて把持体1の把持面1a側に空間5が形成されるように、把持体1の把持面1aを柔軟膜6により覆う構成とすることも可能である。この場合、柔軟膜6と把持体1との間の空間5にゲル状流体3等を充填する。
【0019】
図3は図1のロボットハンド装置による対象物の把持の様子を示す説明図である。図3(a)に示すように対象物Mとしての苺等の不定形柔軟物を挟み込むように一対の把持体1を移動すると、同図(b)に示すように把持体1の把持面1aに固定された袋体2の表面が対象物Mに接触する。このとき、袋体2の内部はゲル状流体3によって静水圧に近く、対象物Mとの接触面に対して略一定の面圧が作用する。
【0020】
続いて、一対の把持体1の間の距離を狭めていくと、同図(c)、(d)に示すように対象物Mの表面形状に沿って袋体2内でゲル状流体3が流動し、袋体2の表面と対象物Mとの接触面積が増えていく。このとき、前述と同様に、袋体2の内部はゲル状流体3によって静水圧に近く、対象物Mとの接触面に対して略一定の面圧が作用する。
【0021】
そして、このロボットハンド装置では、圧力センサ4により袋体2内の圧力すなわちゲル状流体3の圧力を測定することにより、対象物Mの把持力を推定することができ、圧力センサ4により測定される圧力が所定値となるところで把持体1を停止することで、略一定の面圧で設定された把持力により対象物Mを把持することができる。
【0022】
このように、本実施形態におけるロボットハンド装置によれば、袋体2内にゲル状流体3が充填されていることにより、対象物Mが把持される際に、把持体1と対象物Mとの接触面に対して略一定の面圧が作用することになり、局所的な接触圧が発生しないため、柔軟な対象物Mを痛めたり、傷つけたりすることなく、把持することが可能である。
【0023】
次に、本発明のロボットハンド装置の別の実施形態について説明する。図4は本発明のロボットハンド装置の別の実施形態を示す概略斜視図、図5は図4のロボットハンド装置の動作説明図である。
【0024】
図4に示すロボットハンド装置では、ハンド先端部に、対象物を把持する一対の把持体11と、各把持体11の把持面を覆うように固定された袋体12と、袋体12に充填されたゲル状流体13(図5参照。)と、袋体2内の圧力を測定する圧力センサ(図示せず。)と、一対の把持体11を開閉動作する開閉機構14と、開閉機構14に連動して袋体12内に対してゲル状流体13を給排する流体給排機構15とを有する。
【0025】
開閉機構14は、駆動源としてのモータ14aと、モータ14aの回転軸に固定されたギア14bと、ギア14bと噛み合って回転するギア14cと、ギア14cと噛み合って回転するギア14dと、ギア14cにより回動動作させる平行リンク14eと、ギア14dにより回動動作させる平行リンク14fとを有する。一対の把持体11は、それぞれ平行リンク14e,14fの1つに固定されており、モータ14aの正転および逆転により開閉するようになっている。
【0026】
流体給排機構15は、把持体11の背面側に設けられたシリンダ15aと、シリンダ15a内で進退するピストン15bと、平行リンク14e,14fの回動動作に連動してピストン15bを進退動作させるリンク機構15cと、把持体11を貫通してシリンダ15a内と袋体12内とを連通する給排路15d(図5参照。)とを有する。この流体給排機構15によって、ゲル状流体13は、袋体12内とシリンダ15a内とを移動する。
【0027】
この構成のロボットハンド装置では、図5(a)から(d)に順に示すように、開閉機構14が動作して把持体11が対象物に近付くに連れ、この開閉機構14に連動する流体給排機構15により袋体12内にゲル状流体13が供給される。逆に、把持体11が対象物から離れる場合には、図5(d)から(a)に示されるように、袋体12内からゲル状流体13が排出される。
【0028】
したがって、このロボットハンド装置では、把持体11が対象物から離れている場合には袋体12内のゲル状流体13を排出して少なくしておくことにより、袋体12内でゲル状流体13が重力により下方に偏るのを防止することができる。そして、把持体11が対象物に近付くに連れて袋体12内にゲル状流体13を供給することで、対象物の全体を均一に把持することが可能となる。
【0029】
また、図6は開閉機構および流体給排機構の別の例を示している。図6に示す例では、開閉機構14に代えてラック16aおよびピニオン16bにより把持体11を平行移動する開閉機構16を有している。また、流体給排機構15のリンク機構15cに代えて、把持体11の平行移動に連動してピストン15bを進退動作させるリンク機構17aを備えた流体給排機構17を有している。
【0030】
このような構成においても、開閉機構16が動作して把持体11が対象物に近付くに連れ、この把持体11の平行移動に連動する流体給排機構17により袋体12内にゲル状流体13が供給される。逆に、把持体11が対象物から離れる場合には、袋体12内からゲル状流体13が排出される。
【0031】
なお、上記説明においては一対の把持体1,10により対象物を把持する構成であるが、把持体は3つ以上とすることも可能である。図7は図6に示す開閉機構16および流体給排機構17を3つ配置して3つの把持体により対象物を把持する構成とする場合の配置例を示す平面図である。
【0032】
図7に示す例では、開閉機構16を平面視で放射状に配置し、それぞれのピニオン16bの軸に連結した傘歯車16cを、傘歯車16dおよびこの傘歯車16dの軸に連結された傘歯車16eを介してモータ(図示せず。)の回転軸に連結した傘歯車18により回転させる。
【0033】
これにより、1つのモータを正転または逆転させることで3つの把持体11を開閉し、これに連動して把持体11が対象物に近付くに連れて流体給排機構17により袋体12内にゲル状流体13が供給されるとともに、把持体11が対象物から離れるに連れて袋体12内からゲル状流体13が排出されるようにすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のロボットハンド装置は、苺等の柔軟な対象物を痛めたり、傷つけたりすることなく、把持するための装置として有用である。
【符号の説明】
【0035】
1,11 把持体
2,12 袋体
3,13 ゲル状流体
4 圧力センサ
6 柔軟膜
14,16 開閉機構
15,17 流体給排機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を把持する把持体と、
前記把持体の把持面を覆う柔軟膜と、
前記柔軟膜と前記把持体との間の空間に充填された流体またはゲル状流体と
を有するロボットハンド装置。
【請求項2】
前記把持体が前記対象物に近付くに連れて前記柔軟膜と前記把持体との間の空間内に前記流体またはゲル状流体を供給するとともに、前記把持体が前記対象物から離れるに連れて前記柔軟膜と前記把持体との間の空間から前記流体またはゲル状流体を排出する流体給排機構を有する請求項1記載のロボットハンド装置。
【請求項3】
前記柔軟膜は袋状であり、前記把持体の把持面に固定されたものである請求項1または2に記載のロボットハンド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−148380(P2012−148380A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10011(P2011−10011)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(508286005)
【出願人】(309023483)サンビット株式会社 (3)
【Fターム(参考)】