説明

上下送りミシン

【課題】布の段部の片倒れを防止する。
【解決手段】布送り方向に沿って、ガイド板20と、上側ローラ7及び下側ローラ3と、上側検出手段25及び下側検出手段24と、送り足2及び送り歯1とが並び、各検出手段の検出結果に基づいて各被縫製物C1,C2の側端部が所定位置となるように各ローラの駆動手段を制御する制御手段13とを備える上下送りミシン100において、制御手段が、各被縫製物の段部Dが各ローラ位置を通過する際に、上側昇降手段による上側ローラの接離移動を繰り返し行わせる動作制御を行っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下送りミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
上下送りミシンは、針板の下方から出没しながら布送りの前後方向に往復移動を行う送り歯と、送り歯と同期して針板上方から上下動しつつ前後方向に移動する送り足とにより、二枚の布を重ね合わせ、これらの布を上方と下方から挟み込んで送ることで、二枚の布の縫い合わせを行っている。
さらに、上下送りミシンは、縫い代(縫い目から上下の布の送り方向に沿った側端部までの長さ)を一定に保つため、針板上面に平行であって布送り方向に直交する方向にそれぞれの布を移動させる上マニピュレータと、下マニピュレータと、を備えている。
上マニピュレータ及び下マニピュレータは、それぞれ先端に布を布送り方向に直交する方向に移動させるローラを備えており、縫製中は布の側端をセンサで検出しながらサーボモータによりローラを回転させて縫い代を一定に保っている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−192576号公報
【特許文献2】特開昭59−14881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図15に示すように、縫い合わせを行う上布CUが布送り方向Fに対して直交する縫い目により縫い合わせが行われ、当該縫い目によって折り返されて段部Dを形成している上布CUに縫製を行う場合、以下のような問題が生じていた。
前述した従来の上下送りミシンは、図16に示すように、針板201の布送り方向上流側に上布CU及び下布CDの側端部位置を検出する上側及び下側センサ202,203が設けられ、さらに上流側には、上布CUの上面に接する上側ローラ204と下布CDの下面に接する下側ローラ205とが設けられている。さらに、上下のローラ204,205の間には上下の布CU,CDを分離させる分離板206が設けられ、上側ローラ204の上流側には上布CUを分離板206側に案内するガイド板207が設けられている。
これらの配置において、段部Dを有する上布が搬送されると、布端が両開き状態で形成されていた段部Dがガイド板207により捲り上げられて、布送り方向上流側を向いた状態で倒され(片倒れ)、そのまま縫いつけられてしまうという問題が生じていた。
また、仮にガイド板207を無事通過したとして、段部Dは、その下流側の上側ローラ204或いは上側センサ202に捲り上げられて送り方向上流側に向けられてしまい、やはり片倒れのまま縫いつけられてしまうという問題を有していた。
また、下布CDに同様の段部が形成されている場合にも、下側ローラ205或いは下側センサ203により段部が片倒れで縫いつけられてしまうという問題が発生していた。
さらに、下布に対して下方から接する送り歯と上布に対して上方から接する送り足とを備え、上布と下布を同期して個々に送りを行うミシンの場合には、布送り方向上流側に移動する際の送り足により段部Dが捲り上げられて片倒れを生じる場合にもあった。
【0005】
本発明は、被縫製物に両開き段部が形成されている場合に、両開き状態を維持したまま縫製を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、針板上に重ねて載置される二枚の被縫製物のうち、上側の被縫製物に上方から接して送り動作を行う送り足と、下側の被縫製物に下方から接して送り動作を行う送り歯と、前記送り足の送り方向上流側で前記上側の被縫製物に上方から接して前記送り方向に直交する方向に移動させる上側ローラと、前記上側ローラを回転させる上側駆動手段と、前記送り歯の送り方向上流側で前記下側の被縫製物に下方から接して前記送り方向に直交する方向に移動させる下側ローラと、前記下側ローラを回転させる下側駆動手段と、上下に並んだ前記上側ローラ及び下側ローラの間に配置され、前記上側ローラ及び前記下側ローラとでそれぞれの被縫製物を挟み込む分離板と、前記上側ローラと前記送り足との間に配置され、前記上側の被縫製物の側端部が前記送り方向に直交する方向について所定位置にあるか否かを検出する上側検出手段と、前記下側ローラと前記送り歯との間に配置され、前記下側の被縫製物の側端部が前記送り方向に直交する方向について所定位置にあるか否かを検出する下側検出手段と、前記上側ローラを前記分離板に対して接離移動させる上側昇降手段と、前記下側ローラを前記分離板に対して接離移動させる下側昇降手段と、前記上側ローラの送り方向上流側に設けられ、前記分離板の上面に対向すると共に送り方向に向かうにつれて高さが低くなるように形成されたガイド面を有するガイド板と、前記各検出手段の検出結果に基づいて前記各被縫製物の側端部が所定位置となるように前記各ローラの駆動手段を制御する制御手段と、を備える上下送りミシンにおいて、前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記上側ローラを通過する際に、前記上側昇降手段により前記上側ローラの接離移動を繰り返し行わせる動作制御を行うことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記ガイド板のガイド面から下方若しくは送り方向下流側又はこれらの合成方向に向かってエアーを吹き付ける第一の上側送風手段を備え、前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記ガイド板を通過する際に、前記第一の上側送風手段による吹き付けを実行する動作制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記送り足と前記上側検出手段との間に設けられ、前記上側の被縫製物に対して上方からエアーを吹き付ける第二の上側送風手段を備え、前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記上側検出手段を通過する際に、前記第二の上側送風手段による吹き付けを実行する動作制御を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記送り足を上方に退避させる退避手段を備え、前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記送り足を通過する際に、前記退避手段による退避動作を実行する動作制御を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記制御手段は、前記下側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記下側ローラを通過する際に、前記下側昇降手段により前記下側ローラの接離移動を繰り返し行わせる動作制御とを行うことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記下側ローラの送り方向上流側において上方若しくは送り方向又はこれらの合成方向に向かってエアーを吹き付ける下側送風手段を備え、前記制御手段は、前記下側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記下側ローラを通過する際に、前記下側送風手段による吹き付けを実行する動作制御を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記制御手段は、針数をカウントし、前記被縫製物の縫い合わせの段部の通過をカウントされた針数に基づいて判定し、動作制御を実行することを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、上側の被縫製物又は下側の被縫製物に形成された段部を検出する段部検出手段を備え、前記制御手段は、前記被縫製物の縫い合わせの段部の通過を前記段部検出手段による段部検出に基づいて判定し、動作制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明は、上側昇降手段により上側ローラの接離移動による昇降動作を繰り返し行うことができるため、上側の被縫製物が縫い合わせの段部を有する場合であっても、上側ローラの上昇時に段部を通過させることができ、段部の片倒れの発生を効果的に解消することが可能となる。さらに、下降する上側ローラが段部を圧縮するので、段部を扁平化し、上側ローラの下流側にある上側検出手段の通過時にも段部の引っかかり及び片倒れを抑止することが可能となる。
【0015】
請求項2記載の発明は、第一の上側送風手段によりガイド板のガイド面から下方若しくは送り方向下流側又はこれらの合成方向に向かってエアーを吹き付けるので、ガイド面に対向する分離板上面に沿って送り方向下流側に空気流を形成することができ、ガイド板を通過する上側の被縫製物の段部は、後方からの空気流により捲れ上がりが回避され、片倒れを防止することが可能となる。
また、特に、送り方向下流側又はその合成方向に向かってエアーを吹き付けることにより、ガイド面と分離板の隙間において、送風手段の上流側でも気圧低下により送り方向下流側への空気流を発生させることができ、段部が下流側に引き寄せられるので、ガイド板による捲れ上がりによる片倒れをより効果的に防止することが可能となる。
【0016】
請求項3記載の発明は、上側ローラにより上方から圧縮された段部が上側検出手段を通過した時点で第二の上側送風手段により上方からの吹き付けが行われるので、段部の扁平状態を維持し、下流側の送り足による段部の捲り上げ及び片倒れを防止することが可能となる。
【0017】
請求項4記載の発明は、送り足による布の段部の捲れ上がりによる片倒れを効果的に防止することが可能となる。
【0018】
請求項5記載の発明は、下側昇降手段により下側ローラの接離移動による昇降動作を繰り返し行うことができるため、下側の被縫製物が縫い合わせの段部を有する場合であっても、下側ローラの下降時に段部を通過させることができ、段部の片倒れの発生を効果的に解消することが可能となる。さらに、上昇する下側ローラが段部を圧縮するので、段部を扁平化し、下側ローラの下流側にある下側検出手段の通過時にも段部の引っかかり及び片倒れを抑止することが可能となる。
【0019】
請求項6記載の発明は、下側ローラの送り方向上流側において上方若しくは送り方向又はこれらの合成方向に向かってエアー吹き付けを行うので、ローラの手前で下側の被縫製物の段部は後方からの空気流により捲れ上がりが回避され、下側ローラによる片倒れを防止することが可能となる。
【0020】
請求項7記載の発明は、カウントされた針数に応じて動作制御を実行するので、布の段部が送り方向においてどこに位置するかに応じて適切なタイミングで動作制御を行うことが可能となる。
【0021】
請求項8記載の発明は、上側の被縫製物又は下側の被縫製物に形成された段部を検出する段部検出手段を備えるので、布の段部が送り方向においてどこに位置するかを正確に検出し、段部位置に対する適切なタイミングで動作制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】上下送りミシンの斜視図である。
【図2】針落ち近傍を示す模式図である。
【図3】各ローラの駆動に関する機構を示した斜視図である。
【図4】下側ローラの駆動に関する機構を示した下方からの斜視図である。
【図5】下側ローラの駆動に関する機構を示した上方からの斜視図である。
【図6】上側ローラの駆動に関する機構を示した上方からの斜視図である。
【図7】上側ローラの駆動に関する機構を示した上方からの斜視図である。
【図8】布センサの斜視図である。
【図9】布センサの検知について説明する模式図である。
【図10】針板の布送り方向上流側の構成を示した平面図である。
【図11】制御装置まわりの構成を示すブロック図である。
【図12】縫い制御のフローチャートである。
【図13】段部片倒れ防止制御における区間設定を示す説明図である。
【図14】段部片倒れ防止制御のフローチャートである。
【図15】段部を有する上布の斜視図である。
【図16】従来の上下送りミシンの針板回りの構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(上下送りミシンの構成)
本発明に係る上下送りミシン100の実施形態について説明する。
この上下送りミシン100は、針板上に重ねて載置された二枚の布(被縫製物)をそれぞれ同じ方向に送りながら縫い合わせるものである。また、この上下送りミシン100は、上下の布に個別に接するローラ3,7を備えており、これを使用して上下の送り量を変えることによりいせ込み縫いを行うことが可能となっている。
図1,2に示すように、上下送りミシン100は、布押さえ19と、送り歯1と、送り足2と、下側ローラ3と、下側パルスモータ4と、下側連結機構5と、下側ソレノイド6と、上側ローラ7と、上側パルスモータ8と、上側連結機構9と、上側ソレノイド10と、分離板11と、ガイド板20と、下側及び上側布センサ24,25と、制御装置13と、を備えている。
【0024】
(送り歯)
図2に示すように、送り歯1は、針板14上に重ねて載置された二枚の布のうち、下側の布C1(以下、下布という。)に下方から接して送り動作を行う。送り歯1は、布送り方向に沿った往復動作を付与する送り歯前後送り機構(図示略)と上下方向に沿った往復動作を付与する送り歯上下送り機構(図示略)と、によって駆動する。これにより、送り歯1は、針板14の下方で側面視楕円軌道を描くように運動し、送り歯1が上方に移動した際に針板14から突出して下布に下方から接する。以下、この送り歯1による布送り方向をFとする。
【0025】
(布押さえ及び送り足)
図2に示すように、送り足2は、針板14上に重ねて載置された二枚の布のうち、上側の布C2(以下、上布という。)に上方から接して送り動作を行い、布押さえ19は上布C2に上方から接して布押さえを行う。送り足2は、布送り方向に沿った往復動作を付与する送り足前後送り機構(図示略)と上下方向に沿った往復動作を付与する送り足上下送り機構(図示略)と、によって駆動し、布押さえ19は前述した送り足上下送り機構により上下動のみを行う。これにより、送り足2は、針板14の上方で側面視楕円軌道を描くように運動し、送り足2が下方に移動した際に上布に上方から接する。また、布押さえ19は定位置で送り足2と交互に上下動を行う。つまり、布押さえ19が上布C2の上方に離間している間に送り足2が下降しつつ送り方向下流側へ移動して上布C2の送り動作を行い、布押さえ19が上布C2に接している間に送り足2が上昇しつつ送り方向上流側への復帰移動を行う。
また、送り足2を支持する送り足上下送り機構には、当該送り足2を強制的に上方に退避移動(上布C2から離間させる移動)させる退避手段として退避用電磁ソレノイド39が併設されており、送り動作にかかわらず、送り足2を送り動作中にかかわらず、強制的に上方に退避移動させることを可能としている。なお、この退避用電磁ソレノイド39(図11参照)は後述する制御装置13により動作が制御される。
【0026】
(下側ローラ)
下側ローラ3は、針板14の凹状穴内において上下動可能に配設されており、上昇時に針板14上面より幾分突出するように設けられ、下布C1に下方から接して送り歯1による布送り方向Fに対して交差(直交)する方向であって針板14の上面に平行な方向に布を移動させる。下側ローラ3は、下側連結機構5(詳細は後述する)に回転自在に支持されている。下側ローラ3は、その外周面が鋸歯状に形成され、布と接した際に下側ローラ3が布を確実に捉えて移動させることができるように形成されている。
図3〜図5に示すように、下側ローラ3は、ベルト15により下側パルスモータ4の出力軸に連結され回転が付与されるようになっている。
【0027】
(下側パルスモータ)
図3〜図5に示すように、下側パルスモータ4は、土台16に固定されている。土台16には直線状に延びるスイングアーム17が設けられている。スイングアーム17の一端は下側パルスモータ4とともに土台16に固定され、他端は自由端となっている。スイングアーム17の他端には、下側ローラ3が回転自在に支持されている。スイングアーム17は、棒状に形成され、スイングアーム17を覆うようにベルト15が下側ローラ3と下側パルスモータ4の出力軸とに架け渡されている。これにより、下側パルスモータ4の出力軸が回転すると、その回転はベルト15を介して下側ローラ3に伝達され、下側ローラ3を回転させる。すなわち、下側パルスモータ4は、「下側駆動手段」として機能する。
【0028】
(下側連結機構)
図3〜図5に示すように、下側連結機構5は、上述した土台16及びスイングアーム17と、回転軸21と、駆動レバー22と、伝達リンク23と、を備えている。
下側パルスモータ4が固定される土台16は、五角形状に形成され、その一角に回転軸21が設けられている。
回転軸21は、ミシンフレームに回転可能に支持されており、軸の向きは下側パルスモータ4の出力軸と平行である。そして、その一端部が土台16に固定されており、回転軸21の軸回りの回転と共に土台16も回転する。回転軸21の他端部には駆動レバー22が設けられている。
駆動レバー22は、回転軸21を中心とする半径方向に延びる棒状の板材であり、その一端部において回転軸21が抱き締め固定されている。駆動レバー22の他端部には、伝達リンク23の一端部がネジ等により連結、固定されている。
伝達リンク23は、駆動レバー22の延長方向に延びる板材であり、伝達リンク23の他端部には、下側ソレノイド6のプランジャ62が下方から当接可能となっている。
すなわち、下側ソレノイド6は、プランジャ62が上下方向に移動可能に配置されており、プランジャ62が伸びると伝達リンク23を押し上げ、縮むと伝達リンク23は支えるものがなくなって下方に移動する。なお、伝達リンク23に対して下方への移動を付勢するバネ等の付勢部材を設けても良い。つまり、伝達リンク23は、下側ソレノイド6により上方に移動し、バネにより下方に移動する構成としても良い。ここで、下側ソレノイド6のハウジング60には、支持台61が設けられており、プランジャ62が駆動していないときには、伝達リンク23を下方から支えている。
【0029】
(下側ソレノイド)
図3〜図5に示すように、下側ソレノイド6は、ミシンの上下方向(針の上下方向)に沿ってプランジャ62が移動するように配置されている。下側ソレノイド6は、通電された電流量に応じてプランジャ62の移動量が変化する。これにより、下側ソレノイド6は、通電された電流量に応じて下側ローラ3を介して布に対する押圧力が調整自在となっている。
【0030】
下側ソレノイド6は、そのコイルに通電することでプランジャ62を引き込む方向に駆動する方向に取り付けられている。そして、通電電流の増大に従ってプランジャ62を引き込む推力を増大させる。
下側ソレノイド6は、加える電流の2乗に比例した推力が発生する。すなわち、電流変化に対する推力の変化量は、発生推力が強くなるにしたがって大きくなる。このため、小さな推力では細かい変化量が得られて微少の押圧力変化が可能となり、大きな推力では、大きな変化量が得られて比較的大きな幅で押圧力を変化できるので、下側ローラ3による押圧力調整が容易となる。
すなわち、下側ソレノイド6は、「下側昇降手段」として機能する。
【0031】
(上側ローラ)
図3,6,7に示すように、上側ローラ7は、針板14の上方において上下動可能に設けられ、下降時に上布に上方から接して送り歯1による布送り方向Fに対して交差(直交)する方向であって針板14の上面に平行な方向に布を移動させる。上側ローラ7は、上側連結機構9(詳細は後述する)に回転自在に支持されている。上側ローラ7は、その外周面が鋸歯状に形成され、布と接した際に上側ローラ7が布を確実に捉えて移動させることができるように形成されている。
上側ローラ7は、ベルト18により上側パルスモータ8の出力軸に連結され回転が付与されるようになっている。
【0032】
(上側パルスモータ)
上側パルスモータ8は、土台31に固定されている。上側パルスモータ8には直線状に延びるスイングアーム32が設けられている。スイングアーム32の一端は上側パルスモータ8に固定され、他端は自由端となっている。スイングアーム32の他端には、上側ローラ7が回転自在に支持されている。スイングアーム32は、板状に形成され、スイングアーム32を覆うようにベルト18が上側ローラ7と上側パルスモータ8の出力軸とに架け渡されている。これにより、上側パルスモータ8の出力軸が回転すると、その回転はベルト18を介して上側ローラ7に伝達され、上側ローラ7を回転させる。すなわち、上側パルスモータ8は、「上側駆動手段」として機能する。
【0033】
(上側連結機構)
上側連結機構9は、上述した土台31及びスイングアーム32と、回転軸33と、駆動レバー34と、伝達リンク35と、回転リンク36と、を備えている。
上側パルスモータ8が固定される土台31は、五角形状に形成され、その一角に回転軸33が設けられている。
回転軸33は、ミシンフレームに回転可能に支持されており、軸の向きは上側パルスモータ8の出力軸と平行である。そして、その一端部が土台31に固定されており、回転軸33の軸回りの回転と共に土台31も回転する。回転軸33の他端部には駆動レバー34が設けられている。
駆動レバー34は、回転軸33を中心とする半径方向に延びる板材であり、その一端部において回転軸33が抱き締め固定されている。駆動レバー34の他端部には、伝達リンク35の一端部が回転自在に連結されている。
伝達リンク35は、駆動レバー34におおむね直交する方向に延びる棒状の板材であり、その長手方向に沿って複数の連結孔35aが形成されている。伝達リンク35の他端部には、回転リンク36の一端部が回転自在に連結されている。
回転リンク36は、その中央部近傍で上側ソレノイド10のハウジング70に取り付けられた板材71に回転自在に支持されている。回転リンク36の他端部は、上側ソレノイド10の出力軸となるプランジャ72に回転自在に連結されている。また、この回転リンク36は、駆動レバー34とおおむね平行に配設されている。
【0034】
(上側ソレノイド)
上側ソレノイド10は、伝達リンク35の移動方向(長手方向)に沿ってプランジャ72が移動するように配置されている。
上側ソレノイド10は、ハウジング70、プランジャ72等を備えている。なお、上側ソレノイド10の内部構成は、下側ソレノイド6と同じであるため、説明を省略する。
すなわち、上側ソレノイド10は、「上側昇降手段」として機能する。
【0035】
(分離板)
図6に示すように、分離板11は、その一端側が支持板44の底面に不図示のネジにより固定される。支持板44の上面には、図示省略したガイド板20がネジ固定される。支持板44は、不図示のラックとピニオンギアを介して、図1に示す調節ダイヤル45に連結されている。調節ダイヤル45を回動させると、分離板11とガイド板20が布送り方向に対して直交する方向Gに対して、位置調整される。
支持板44の底面に固定された分離板11は、上側ローラ7と下側ローラ3との間で、針板14より上方に配置される。分離板11は、針板14に取り付けた際に、その先端が針板14から浮き上がるように屈曲形成されている。さらに、分離板11は、各ローラ3,7よりも幾分布送り方向上流側まで延出されている。すなわち、分離板11により、針板14上の空間を上下に仕切ることができ、分離板11の上側に上布C2が下側に下布C1がそれぞれ送られる。
これにより、分離板11は、二枚の布C1,C2の間に配置され、下側ローラ3と分離板11の下面とで下布C1を挟み込み、上側ローラ7と分離板11の上面とで上布C2を挟み込む。
【0036】
ガイド板20は、分離板11の上側に配置されるように、支持板44の上面にネジにより取り付けられている。ガイド板20はその下面が、分離板11の上面と対向すると共に上布C2が通過するための隙間が形成されている。このガイド板20の布送り方向下流側の端部は、上側ローラ7の手前まで延出されており、ガイド板20の下面は、上布C2を上側ローラ7と分離板11との隙間に案内するガイド面として機能する。また、ガイド板20の布送り方向上流側の端部は、分離板11の端部よりも上流側まで延出されており、また、ガイド面は上流側に向かうに連れて徐々に上方に向かうように湾曲形成されている。かかるガイド板20のガイド面の曲率半径は、上布C2に段部が形成されている場合にその片倒れを防止する観点からは、なるべく大きく設定することが望ましい。しかしながら、曲率半径が過度に大きく設定されると、ガイド板20は分離板11に限りなく平行に近い状態となり、ガイド板20と分離板11との間に上布C2を挿入しやすくするためのガイド機能が損なわれるので、当該ガイド機能と段部の片倒れ防止効果との調和を考慮した曲率半径とすることが望ましい。
【0037】
(布センサ)
図8,9に示すように、下側及び上側布センサ24,25は、縫製時に縫い代(布の一方の側端部(布端という)から縫い目までの長さ)を一定に保つために布端が所定の位置にあるか否かを検知するものである。図2に示すように、各布センサ24,25は、下側ローラ3と上側ローラ7に対してそれぞれ布送り方向下流側に近接して設けられている。図8,9に示すように、これらの布センサ24,25は、共通のセンサ台41に保持されており、水平に配置され、両面が反射面となる反射板46を挟んでそれぞれが対向配置されている。各布センサ24,25は、それぞれ、手前側の布有無センサ42と、奥側の布端センサ43とを備えている。
センサ台41は、その先端部が布送り方向Fから見て略コ字状に形成され、その内側には前述の反射板46が水平に保持されている。そして、コ字状部の内側下面と内側上面とには、それぞれ、各ローラ3,7による布移動方向(以下、上下ローラ3,7による布移動方向を調整方向Gというものとし、布送り方向を向いた状態で右手方向(図8では左方)を正方向、左手方向(図8では右方)を逆方向とする)に沿って一様にV字状に下方と上方とに窪んだ凹部41a、41bが形成されている。そして、反射板46は、針板14上で重ねられて搬送される下布C1と上布C2との間に挿入されるように、針板14の上面より幾分高い位置に配置されている。
これにより、下布C1はセンサ台41のコ字状部の内側であって反射板46と下側の凹部41aとの間を通過し、上布C2はセンサ台41のコ字状部の内側であって反射板46と上側の凹部41bとの間を通過することになる。
【0038】
各凹部41a、41bは、調整方向Gから見た際にV字状に形成されている。
各凹部41a、41bの二つの傾斜面には、手前側(調整方向Gの逆方向寄り)に発光センサ42aと受光センサ42bからなる布有無センサ42が設けられている。上壁面の布有無センサ42は、上布C2があるか否かを検知するセンサであり、下壁面の布有無センサ42は、下布C1があるか否かを検知するセンサである。
各凹部41a、41bの二つの傾斜面には、奥側(調整方向Gの逆方向寄り)に発光センサ43aと受光センサ43bからなる布端センサ43が設けられている。上壁面(41b側)の布端センサ43は、上布C2の布端が所定位置にあるか否かを検出するセンサであり、下壁面(41a側)の布端センサ43は、下布C1の布端が所定位置にあるか否かを検出するセンサである。
反射板46は、各発光センサ42a,43aから発光された光を反射するものであり、光路上に布端が存在しなければ反射板46により反射された光は高強度で各受光センサ42b,43bにて受光される。
【0039】
上記構造により、上布C2は反射板46と上壁面の布有無センサ42及び布端センサ43との間に進入することができ、下布C1は反射板46と下壁面の布有無センサ42及び布端センサ43との間に進入することができる。布が進入していれば、各発光センサ42a,43aからの光を布が遮って反射板46により反射されなくなるので、各受光センサ42b,43bは光を検知することができない。この原理を利用して布の有無、布端を検知している。
すなわち、下側布センサ24は「下側検出手段」として機能し、上側布センサ25は「上側検出手段」として機能する。
【0040】
(送風手段)
上下送りミシン100は、上布C2又は下布C1に二枚の生地の縫い合わせによる段部Dが形成されている場合であって布端を両開き状態で縫い合わせ縫い目に対して直交方向に縫いを行う場合に、段部Dの片倒れの発生を防止するために、上布C2に送風を行う第一〜三の上側送風手段と、下布C1に送風を行う下側送風手段とを備えている。
【0041】
上記第一の上側送風手段は、図1及び2に示すように、ガイド板20に設けられた第一の上ノズル27と、図示しない空気圧源と、第一の上ノズル27に空気圧源からの圧縮空気の供給と停止を行う第一の上側電磁弁28(図11参照)とから主に構成される。
上記第一の上ノズル27は、ガイド板20のガイド面(下面)において斜め下方に向かって開口されており、搬送される上布C2の上面に対して、垂直下方向と布送り方向下流側方向との合成方向である斜め下方に向かってエアーの吹きつけを行うことを可能としている。従って、すぐ下流側に位置する上側ローラ7による段部Dの捲り上げによる片倒れを効果的に防止することができる。
空気圧源は例えば全ての送風手段について共通して使用されるエアコンプレッサ又はモータファン等から構成される。
第一の上側電磁弁28は後述する制御装置13により動作が制御され、縫製時に所定のタイミングでエアーの吹きつけを行うようになっている。
なお、第一の上ノズル27によるエアーの吹き付け方向は、上記斜め方向に限らず、垂直下方向又は布送り方向下流側方向のいずれかであっても良い。垂直下方に吹きつけを行っても、エアーは分離板11の上面に沿って進行するため、ノズル位置より布送り方向下流側では布送り方向下流側への空気流を得ることができ、段部Dの片倒れの防止効果を得ることができる。
【0042】
第二の上側送風手段は、図1及び2に示すように、上側布センサ25と送り足2との間に設けられた第二の上ノズル29と、図示しない空気圧源と、第二の上ノズル29に空気圧源からの圧縮空気の供給と停止を行う第二の上側電磁弁30(図11参照)とから主に構成される。
上記第二の上ノズル29は、上記配置において垂直下方に向かって開口されており、搬送される上布C2の上面に対して、垂直下方に向かってエアーの吹きつけを行うことを可能としている。かかる第二の上ノズル29は、上側ローラ7の布送り方向下流側に位置する配置なので、当該上側ローラ7で圧縮されて上側布センサ25を通過した上布C2の段部Dを上方から吹きつけを行うことで布端両端部の両開き状態の維持を図ることができ、その下流側の送り足2により段部Dが捲り上げられることを防止し、これによる片倒れを防止することができる。
空気圧源は第一の上側送風手段と共用である。
第二の上側電磁弁30は後述する制御装置13により動作が制御され、縫製時に所定のタイミングでエアーの吹きつけを行うようになっている。
なお、第二の上ノズル29によるエアーの吹き付け方向は、上記垂直下方に限らず、布送り方向下流側方向又は垂直下方向と布送り方向下流側方向とを合成した斜め方向であっても良い。
【0043】
第三の上側送風手段は、図1及び2に示すように、上側ローラ7と上側布センサ25との間に設けられた第三の上ノズル37と、図示しない空気圧源と、第三の上ノズル37に空気圧源からの圧縮空気の供給と停止を行う第三の上側電磁弁38(図11参照)とから主に構成される。
上記第三の上ノズル37は、上記配置において垂直下方に向かって開口されており、搬送される上布C2の上面に対して、垂直下方に向かってエアーの吹きつけを行うことを可能としている。かかる第三の上ノズル37は、上側ローラ7の布送り方向下流側に隣接する配置なので、当該上側ローラ7で圧縮された上布C2の段部Dを上方から吹きつけを行うことで布端両端部の両開き状態の維持を図ることができ、その下流側の上側布センサ25による片倒れを防止することができる。
空気圧源は第一及び第二の上側送風手段と共用である。
第三の上側電磁弁38は後述する制御装置13により動作が制御され、縫製時に所定のタイミングでエアーの吹きつけを行うようになっている。
なお、第三の上ノズル37によるエアーの吹き付け方向は、上記垂直下方に限らず、布送り方向下流側方向又は垂直下方向と布送り方向下流側方向とを合成した斜め方向であっても良い。
【0044】
図10は針板14の布送り方向上流側の構成を示した平面図である。
下側送風手段は、図2及び図10に示すように、下側ローラ3の布送り方向上流側に隣接して設けられた第一及び第二の下ノズル47,48と、図示しない空気圧源と、第一及び第二の下ノズル47,48に空気圧源からの圧縮空気の供給と停止を行う下側電磁弁49(図11参照)とから主に構成される。
上記第一の下ノズル47は、上記配置において垂直上方に向かって開口されており、搬送される下布C1の下面に対して、垂直上方に向かってエアーの吹きつけを行うことを可能としている。第一の下ノズル47により、すぐ下流側に位置する下側ローラ3又は下側ローラ3が格納された凹部による段部Dの捲り上げによる片倒れを効果的に防止することができる。
また、第二の下ノズル48は、上記配置において布送り方向下流側に向かって開口されており、搬送される下布C1の下面に対して、布押さえ送り方向下流側に向かってエアーの吹きつけを行うことを可能としている。
従って、第二の下ノズル48により、すぐ下流側に位置する下側ローラ3又は下側ローラ3が格納された凹部による段部Dの捲り上げによる片倒れを効果的に防止することができると共に、ほぼ水平に吹きつけを行うので、エアーがより遠方まで届き、下側ローラ3のさらに下流に位置する下側布センサ24による段部Dの捲り上げによる片倒れをも効果的に防止することができる。
空気圧源は各上側送風手段と共用である。
下側電磁弁49は後述する制御装置13により動作が制御され、縫製時に所定のタイミングでエアーの吹きつけを行うようになっている。
なお、第一と第二の下ノズル47,48の二つのノズルを使用せず、いずれか一方のみを使用しても良いし、垂直上方向と布送り方向下流側方向とを合成した斜め方向に吹きつけを行う一つの下ノズルを用いても良い。
【0045】
(制御装置)
図11に示すように、制御装置13は、各種の演算処理を行うCPU51と、上述した各構成の駆動制御に関するプログラムが格納されたROM52と、CPU51の処理に関する各種データをワークエリアに格納するRAM53とを備えている。
また、制御装置13には、各パルスモータ4,8と、各ソレノイド6,10と、各布有無センサ42,42と、各布端センサ43,43と、各送風手段における各電磁弁28,30,38,49と送り足2の退避用電磁ソレノイド39とが、それぞれ図示しない駆動回路或いはインターフェイスを介して接続されている。
そして、制御装置13は、下側及び上側布センサ24,25における各布有無センサ42,42が布を検知している場合に、布端センサ43,43布端を検知し、その検知結果に基づいて、各ローラ3,7の回転方向及び回転量を決定し、各パルスモータ4,8を駆動させる。また、制御装置13は、いせ込み縫いを行う際に、いせ込み量に応じてローラ3,7による布の押圧力を調整するため、各ソレノイド6,10を駆動させる。
【0046】
具体的には、制御装置13は、いせ込み縫い制御の一環として、布端センサ43により下布C1(上布C2)の側端部が検出されたときには、下側ローラ3(上側ローラ7)により下布C1(上布C2)を調整方向Gにおける逆方向に移動させるよう下側パルスモータ4(上側パルスモータ8)を制御し、布端センサ43により下布C1(上布C2)の側端部が検出されなくなったときには、下側ローラ3(上側ローラ7)により下布C1(上布C2)を調整方向Gにおける正方向に移動させるよう下側パルスモータ4(上側パルスモータ8)を制御する。
【0047】
また、制御装置13は、段部片倒れ防止制御として、布送り方向Fに交差する方向に沿った段部Dを上布C2及び下布C1が有する場合に、段部Dの片倒れを防止するために、縫い開始からの針数のカウントを行い、当該針数に応じて、各送風手段の電磁弁28,30,38,49、退避用電磁ソレノイド39,下側ソレノイド6,上側ソレノイド10の動作制御を行う。
【0048】
具体的には、制御装置13のCPU51は、縫い始めからの針数のカウント値が各送風手段のノズル27,29,37,47,48への段部Dの接近を示す数値となってから通過を示す数値となるまで、対応する各電磁弁28,30,38,49を開放してエアーの吹きつけを実行する制御を行う。
【0049】
また、制御装置13のCPU51は、縫い始めからの針数のカウント値が各ローラ3,7への段部Dの接近を示す数値となってから通過を示す数値となるまで、対応する各ソレノイド6,10を所定の繰り返し周期でON−OFF制御を行い、各ローラ3,7が上下動を繰り返すよう動作制御を行う。なお、段部Dの通過以前と通過以降は、予め定められた押圧力で各ローラ3,7が下布C1及び上布C2を押圧するよう各ソレノイド6,10を駆動制御する。
これにより、各ローラ3,7が下布C1又は上布C2から離間したときに段部Dを通過させることができ、各ローラ3,7により段部Dが捲り上げられることによる片倒れを効果的に防止することが可能となる。
また、かかる各ローラ3,7に対する上下動を実行する際にも、前述したように下布C1及び上布C2の側端部位置調整制御は並行して実行されることとなるが、各ローラ3,7は上下動を繰り返しているので、下布C1、上布C2側に接触したときに各布の調整方向Gへの移動調整を行うことができ、当該側端部位置調整制御の効果は損なわれないようになっている。
【0050】
また、制御装置13のCPU51は、縫い始めからの針数のカウント値が送り足2への段部Dの接近を示す数値となってから通過を示す数値となるまで、送り足2の退避用電磁ソレノイド39を上昇方向に作動させるように動作制御を行う。
これにより、送り足2が上昇したときに上布C2の段部Dを通過させることができ、当該送り足2により段部Dが捲り上げられることによる片倒れを効果的に防止することが可能となる。
【0051】
(上下送りミシンの動作:縫い制御)
上記各制御を行うことにより、制御装置13は、「制御手段」として機能する。
次に、上下送りミシンの動作について説明する。まず最初に、いせ込み縫いを行う際の各布C1,C2の側端部の位置調整制御について説明する。以下、上布C2に関する縫い制御は下布C1に対する縫い制御と同様に行われるので、以下の説明では主として下布C1について説明を行うこととし、上布C2に対する同一の制御内容についてカッコ書きで付帯的に説明することとする。
図12に示すように、縫いを行う際には、制御装置13は、布有無センサ42が下布C1(上布C2)の前端位置を検知したか否かを判断する(ステップS1)。
ステップS1において、制御装置13は、布有無センサ42が下布C1(上布C2)を検知したと判断すると(ステップS1:YES)、制御装置13は、下側ソレノイド6(上側ソレノイド10)を駆動させて、下側ローラ3(上側ローラ7)を上昇(下降)させる(ステップS2)。また、制御装置13は、下側パルスモータ4(上側パルスモータ8)を調整方向Gにおける正方向に駆動させる(ステップS3)。これにより、下側ローラ3(上側ローラ7)は回転しながら下布C1(上布C2)に当接する。下側ローラ3(上側ローラ7)が下布C1(上布C2)に当接すると、下側ローラ3(上側ローラ7)の回転によって下布C1(上布C2)はセンサ台41の凹部41a(凹部41b)に引き込まれる。
次いで、制御装置13は、布端センサ43が下布C1(上布C2)を検知したか否かを判断する(ステップS4)。
ステップS4において、制御装置13は、布端センサ43が下布C1(上布C2)を検知したと判断すると(ステップS4:YES)、制御装置13は、下側パルスモータ4(上側パルスモータ8)の駆動を調整方向Gにおける逆方向に切り替える(ステップS5)。また、布端センサ43が下布C1(上布C2)を検知しない場合には(ステップS4:NO)、制御装置13は、下側パルスモータ4(上側パルスモータ8)の駆動を調整方向Gにおける正方向とする(ステップS6)。
【0052】
次いで、制御装置13は、布有無センサ42が下布C1(上布C2)の検知を継続しているか否かを判断する(ステップS7)。継続している場合には(ステップS7:YES)、ステップS4に戻り、再び布端検出を行う。
また、布有無センサ42が下布C1(上布C2)を検知しなくなった場合には(ステップS7:NO)、下布C1(上布C2)の終端がセンサ位置を通過したものとして、下側パルスモータ4(上側パルスモータ8)の駆動を停止し(ステップS8)、下側ソレノイド6(上側ソレノイド10)に対して下側ローラ3が下降(上側ローラ7が上昇)するよう制御し(ステップS9)、動作制御を終了する。
【0053】
また、制御装置13は、上記縫い開始から終了までの間、いせ込み縫い制御を実行する。いせ込み縫いは、予めメモリ等に記憶されている縫製データに従って縫製を行う。例えば、上布C2の方が下布C1よりも布の縁が長い場合には、上布C2の縁において、下側ソレノイド6を制御して下側ローラ3による下布C1の押圧力を高めていせ込み縫いを行う。また、逆に下布C1が長い場合には、上側ソレノイド10を制御して上側ローラ7による上布C2の押圧力を高めていせ込み縫いを行う。
このように、各ローラ3,7の加圧力を制御することでいせ込み量を変えることができる。
【0054】
(上下送りミシンの動作:段部片倒れ防止制御)
次に、制御装置13が前述した各送風手段による吹き付け動作、各ローラ3,7の上下動動作、送り足12の上方退避動作を行う段部片倒れ防止制御について図13及び図14に基づいて説明する。
段部片倒れ防止制御の前提として、制御装置13は、予め、縫い開始からの針数で定められた複数の制御区間を設定する。図13は制御区間の説明図である。
第一区間H1は布C1,C2の段部Dがガイド板20の下側に到達し通過するまでの針数により定まる区間である。
第二区間H2は布C1,C2の各ローラ3,7の手前に到達し各ローラ間を通過するまでの針数により定まる区間である。
第三区間H3は布C1,C2の段部Dが各センサ24,25の手前に到達し各センサ間を通過するまでの針数により定まる区間である。
第四区間H4は布C1,C2の段部Dが送り足2の手前に到達し送り足2の下方を通過するまでの針数により定まる区間である。
これら各区間H1〜H4の開始針数と終了針数とは、縫いの事前に行われるサンプル用の布C1,C2を用いたティーチングにより設定される。即ち、各布C1,C2の前端部を布押さえ19にセットし、縫いを開始すると共に針数のカウントを開始して、布の段部Dが、ガイド板20,各ローラ3,7、各センサ24,25、送り足12の各位置に到達した時に操作パネル40によりその時の針数を記憶するよう指令を入力する。また同様に、各位置を通過した時に操作パネル40によりその時の針数を記憶するよう指令を入力する。これにより、各区間H1〜H4の開始針数と終了針数とが制御装置13に記録される。
【0055】
次に、段部片倒れ防止制御を図14のフローチャートにより詳細に説明する。
制御装置13は、縫い開始と共にその針数のカウントを開始する(ステップS21)。
そして、カウント針数が第一区間H1の開始針数に到達したか判定し(ステップS22)、到達しなければ判定を繰り返す。また、第一区間H1の開始針数に到達すると、制御装置13は、第一の上側電磁弁28及び下側電磁弁49を制御して第一の上ノズル27と第一及び第二の下ノズル47,48からのエアーの吹きつけを開始させる(ステップS23)。
【0056】
次に、制御装置13は、カウント針数が第二区間H2の開始針数に到達したか判定し(ステップS24)、到達しなければ判定を繰り返す。また、第二区間H2の開始針数に到達すると、制御装置13は、上下のソレノイド10,6を制御して下側ローラ3と上側ローラ7の上下動を開始させる(ステップS25)。この上下動(接離動作とも称する。)のタイミングは、操作パネル40の設定により針棒の上下動に同期して、1針当り1回、下側ローラ3と上側ローラ7の上下動をさせても良いし、1針当り2回上下動したり、2針当り1回上下動したり任意に設定できる。また、下側ローラ3と上側ローラ7の両方を上下動させても良いが、縫製物により下側ローラ3と上側ローラ7の一方を上下動させるように、操作パネルより設定できる。その設定により制御手段が接離動作を針棒の上下動に同期して、間欠的に行う。
【0057】
次に、制御装置13は、カウント針数が第三区間H3の開始針数に到達したか判定し(ステップS26)、到達しなければ判定を繰り返す。また、第三区間H3の開始針数に到達すると、制御装置13は、第一の上側電磁弁28及び下側電磁弁49を制御して第一の上ノズル27と第一及び第二の下ノズル47,48からのエアーの吹きつけを停止させる。さらに、上下のソレノイド10,6を制御して下側ローラ3と上側ローラ7とを布押圧位置で停止させる(ステップS27)。
さらに、制御装置13は、第三の上側電磁弁38を制御して第三の上ノズル37からのエアーの吹きつけを開始させる(ステップS28)。
【0058】
次に、制御装置13は、カウント針数が第四区間H4の開始針数に到達したか判定し(ステップS29)、到達しなければ判定を繰り返す。また、第四区間H4の開始針数に到達すると、制御装置13は、第三の上側電磁弁38を制御して第三の上ノズル37からのエアーの吹きつけを停止させると共に、第二の上側電磁弁30を制御して第二の上ノズル29からのエアーの吹きつけを開始させる(ステップS30)。
さらに、制御装置13は、退避用電磁ソレノイド39を制御して送り足2を上方に退避させる(ステップS31)。
【0059】
次に、制御装置13は、カウント針数が第四区間H4の終了針数に到達したか判定し(ステップS32)、到達しなければ判定を繰り返す。また、第四区間H4の終了針数に到達すると、制御装置13は、第二の上側電磁弁30を制御して第二の上ノズル29からのエアーの吹きつけを停止させると共に、退避用電磁ソレノイド39を制御して送り足2を下方の送り可能となる高さに戻す制御を行う(ステップS33)。
【0060】
なお、上述の例では、第一区間H1の終了針数と第二区間H2の開始針数が一致しており、第二区間H2の終了針数と第三区間H3の開始針数が一致しており、第三区間H3の終了針数と第四区間H4の開始針数が一致しているので、第二〜第四区間の開始針数到達の判定が同時に第一〜第三区間の終了針数の判定であるものとして説明したが、これらが一致しないように設定された場合には、個々に判定を行っても良い。
【0061】
また、下布C1と上布C2の段部Dが布送り方向Fについて同じ位置にあることを前提に区間設定がされているが、各布C1,C2とで段部Dの位置が異なる場合には、下側と上側とで別々に区間設定を行っても良い。
【0062】
さらに、段部片倒れ防止制御において、各ローラ3,7を上下動させると、いせ込み縫いの際には、上下の送り量を変えるための押圧力がローラ上昇時には得られなくなるが、下降時の上下の押圧力を異ならせることでいせ込み縫いを行うことができる。
なお、段部片倒れ防止制御については、いせ込み縫いに限らず通常の本縫いやその他の縫いに実施しても良い。
【0063】
(作用効果)
上下送りミシン100は、下側ソレノイド6及び上側ソレノイド10により下側ローラ3と上側ローラ7の昇降動作を繰り返し行うことができるため、各布C1,C2が縫い合わせの段部Dを有する場合であっても、ローラ3,7の布からの離間時に段部Dを通過させることができ、段部の片倒れの発生を効果的に解消することが可能となる。
さらに、各ローラ3,7が段部Dを圧縮するので、段部を扁平化し、各ローラ3,7の下流側にある各センサ24,25の通過時にも段部Dの引っかかり及び片倒れを抑止することが可能となる。
【0064】
また、上下送りミシン100は、第一〜第三の上側送風手段及び下側送風手段によりエアーを吹き付けるので、各布C1,C2の段部Dは後方からの空気流により捲れ上がりが回避され、片倒れを防止することが可能となる。
特に、第一の上側送風手段のノズル27は、布送り方向下流側への方向成分を含んだ斜め方向への吹きつけを行うので、ガイド板20のガイド面と分離板11との間においてノズル吹き出し口よりも上流側についても布送り方向下流側への空気流を形成することができ、ガイド板20による段部Dの捲れ上がり及び片倒れを効果的に防止することが可能となる。
【0065】
さらに、上下送りミシン100は、段部Dの接近及び通過時に送り足2を上方に退避させるので、送り足2による上布C2の段部Dの捲れ上がりによる片倒れを効果的に防止することが可能となる。
また、制御装置13は、カウントされた針数に応じて各種の動作制御を実行するので、各布C1,C2の段部Dが送り方向においてどこに位置するかに応じて適切なタイミングで動作制御を行うことが可能となる。
【0066】
(その他)
なお、上記制御装置13では、段部片倒れ防止制御を針数のティーチングにより実施しているが、各区間の開始針数と終了針数を操作パネル40から直接数値入力で設定しても良いことはいうまでもない。
また、針数を用いないで、縫製開始からの送り量(長さ)で各区間を設定しても良い。
【0067】
さらに、針数のカウントや送り量の計測によらないで、各区間H1〜H4の開始位置及び終了位置に下布と上布のそれぞれについて段部Dを検出するための段部検出手段を配置し、各位置での検出に基づいて段部片倒れ防止制御を実行するように制御しても良い。この場合、段部検出手段は、布に圧接して厚さ変化を検出するもの、距離検出により布の厚さ変化を読み取るもの、撮像により段部の視覚的な画像変化を読み取るもの等が使用される。
【0068】
また、各ローラ3,7や各布センサ24,25を調整方向Gに沿って移動可能に支持すると共に縫い位置の延長線上から退避させるエアシリンダなどのアクチュエータを設け、段部Dの通過時に各ローラ3,7、各布センサ24,25を個々に、退避させる動作制御を行っても良い。
特に、各ローラ3,7については、いせ込み縫いを行わない場合には段部D通過時に退避させても、短時間であれば影響は少なく、これらによる段部の片倒れを効果的に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 送り歯
2 送り足
3 下側ローラ
4 下側パルスモータ(下側駆動手段)
5 下側連結機構
6 下側ソレノイド(下側昇降手段)
7 上側ローラ
8 上側パルスモータ(上側駆動手段)
9 上側連結機構
10 上側ソレノイド(上側昇降手段)
11 分離板
12 布センサ(検知手段)
13 制御装置(制御手段)
14 針板
20 ガイド板
24 上側布センサ(上側検出手段)
25 下側布センサ(下側検出手段)
27 第一の上ノズル(第一の上側送風手段)
28 第一の上側電磁弁(第一の上側送風手段)
29 第二の上ノズル(第二の上側送風手段)
30 第二の上側電磁弁(第二の上側送風手段)
39 退避用電磁ソレノイド(退避手段)
47 第一の下ノズル(下側送風手段)
48 第二の下ノズル(下側送風手段)
49 下側電磁弁(下側送風手段)
100 上下送りミシン
C1 下布
C2 上布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針板上に重ねて載置される二枚の被縫製物のうち、上側の被縫製物に上方から接して送り動作を行う送り足と、
下側の被縫製物に下方から接して送り動作を行う送り歯と、
前記送り足の送り方向上流側で前記上側の被縫製物に上方から接して前記送り方向に直交する方向に移動させる上側ローラと、
前記上側ローラを回転させる上側駆動手段と、
前記送り歯の送り方向上流側で前記下側の被縫製物に下方から接して前記送り方向に直交する方向に移動させる下側ローラと、
前記下側ローラを回転させる下側駆動手段と、
上下に並んだ前記上側ローラ及び下側ローラの間に配置され、前記上側ローラ及び前記下側ローラとでそれぞれの被縫製物を挟み込む分離板と、
前記上側ローラと前記送り足との間に配置され、前記上側の被縫製物の側端部が前記送り方向に直交する方向について所定位置にあるか否かを検出する上側検出手段と、
前記下側ローラと前記送り歯との間に配置され、前記下側の被縫製物の側端部が前記送り方向に直交する方向について所定位置にあるか否かを検出する下側検出手段と、
前記上側ローラを前記分離板に対して接離移動させる上側昇降手段と、
前記下側ローラを前記分離板に対して接離移動させる下側昇降手段と、
前記上側ローラの送り方向上流側に設けられ、前記分離板の上面に対向すると共に送り方向に向かうにつれて高さが低くなるように形成されたガイド面を有するガイド板と、
前記各検出手段の検出結果に基づいて前記各被縫製物の側端部が所定位置となるように前記各ローラの駆動手段を制御する制御手段と、を備える上下送りミシンにおいて、
前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記上側ローラを通過する際に、前記上側昇降手段により前記上側ローラの接離移動を繰り返し行わせる動作制御を行うことを特徴とする上下送りミシン。
【請求項2】
前記ガイド板のガイド面から下方若しくは送り方向下流側又はこれらの合成方向に向かってエアーを吹き付ける第一の上側送風手段を備え、
前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記ガイド板を通過する際に、前記第一の上側送風手段による吹き付けを実行する動作制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の上下送りミシン。
【請求項3】
前記送り足と前記上側検出手段との間に設けられ、前記上側の被縫製物に対して上方からエアーを吹き付ける第二の上側送風手段を備え、
前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記上側検出手段を通過する際に、前記第二の上側送風手段による吹き付けを実行する動作制御を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の上下送りミシン。
【請求項4】
前記送り足を上方に退避させる退避手段を備え、
前記制御手段は、前記上側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記送り足を通過する際に、前記退避手段による退避動作を実行する動作制御を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の上下送りミシン。
【請求項5】
前記制御手段は、前記下側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記下側ローラを通過する際に、前記下側昇降手段により前記下側ローラの接離移動を繰り返し行わせる動作制御とを行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の上下送りミシン。
【請求項6】
前記下側ローラの送り方向上流側において上方若しくは送り方向又はこれらの合成方向に向かってエアーを吹き付ける下側送風手段を備え、
前記制御手段は、前記下側の被縫製物の縫い合わせの段部が前記下側ローラを通過する際に、前記下側送風手段による吹き付けを実行する動作制御を行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の上下送りミシン。
【請求項7】
前記制御手段は、針数をカウントし、前記被縫製物の縫い合わせの段部の通過をカウントされた針数に基づいて判定し、動作制御を実行することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の上下送りミシン。
【請求項8】
上側の被縫製物又は下側の被縫製物に形成された段部を検出する段部検出手段を備え、
前記制御手段は、前記被縫製物の縫い合わせの段部の通過を前記段部検出手段による段部検出に基づいて判定し、動作制御を実行することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の上下送りミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−110351(P2011−110351A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271920(P2009−271920)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】