説明

二光子吸収有機材料とその用途

【課題】可視から近赤外波長領域の光電場と表面プラズモンの相互作用を利用した、表面プラズモンの共鳴周波数、金属−材料間の距離制御が容易で、かつプラズモン増強効果を効果的に利用することができ、三次元的な特性の均一性と環境安定性に優れた混合物、及び該混合物を利用したプラズモニクスデバイスの提供。
【解決手段】(1)表面が高分子材料で被覆され、更にその表面が無機酸化物で被覆された金属微粒子と、二光子吸収有機材料とを含有する混合物。
(2)前記高分子材料が水溶性である(1)に記載の混合物。
(3)前記高分子材料が電解質である(1)又は(2)に記載の混合物。
(4)前記金属微粒子が金である(1)〜(3)のいずれかに記載の混合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属微粒子に発生する表面プラズモン増強場を利用した二光子吸収有機材料の増感技術に関する。また、本発明は三次元光記録媒体、光造形装置、光制限装置、二光子励起蛍光検出装置などの用途に応用される。
【背景技術】
【0002】
先ず、多光子吸収有機材料について説明する。
従来、多光子遷移を利用した技術について各種提案がなされているが、この多光子遷移とは、原子や分子などが2個以上の光子を同時に吸収又は放出する遷移であって、代表的な遷移に、多数の光子を同時に吸収する多光子吸収、多数の光子を同時に放出する多光子放出、1個の光子を吸収すると同時に他の1個を放出するラマン効果等がある。一般に、その振動数の1個の光子を吸収又は放出するエネルギー準位が存在しなくても起こる高次の摂動による遷移であって、レーザー光のような高い光子密度で観測され、一光子遷移とは選択則が異なっている。
特に、2個の光子が関与する二光子吸収現象は、三次の非線形光学効果と関係付けられており、従来においても種々の研究が行われている。
【0003】
一方、有機材料は、通常、その遷移エネルギー(励起エネルギー)に等しい1個の光子を吸収することにより、一光子吸収の選択律によって許容された遷移状態(励起状態)を生じることが知られている。
しかし、レーザー光のような光子密度の高い光を照射すると、その励起エネルギーの半分のエネルギーに等しい2個の光子を同時に吸収して、遷移が起こることがある。
このような2個の光子を同時に吸収する現象は、
(1)入射光強度の二乗に比例して吸収が起きるため、光子密度の高い焦点付近にのみ遷移が起こる、
(2)1個の光子を吸収するエネルギーの半分のエネルギーをもつ光子で励起できるため、一光子吸収による光の減衰なしに入射光が物質の深奥部まで到達する、
といった、三次元的な高分解能、及び物質深奥部への高い透過性を有しているため、近年、高出力レーザーの技術進歩とともに、上記のような特性を活かした様々な応用技術が研究されている。
【0004】
例えば、上述したような三次元的な高分解能を利用し、平面上に記録層が形成され、当該平面に対して垂直方向に入射する光によって記録再生を行う光記録媒体において、これらを積層した三次元光記録媒体についての研究が行われている(例えば、特許文献1〜6参照)。これらは、光子密度の高い焦点付近にのみ二光子吸収によるスペクトル変化、屈折率変化又は偏光変化を起させ、データを記録することができるため、超解像記録が可能であるとされている。
また、光造形用途への応用についても技術提案がなされている(例えば、特許文献7〜11参照)。更には、このような二光子吸収現象を利用するセンサーや光制限などの用途、共焦点顕微鏡としての用途等も極めて重要視されている(例えば、特許文献12〜15参照)。
【0005】
次に、表面プラズモン増強技術について説明する。
プラズモンとは金属中で集団的に振動する自由電子のことである。金属表面においては、光を照射すると光の吸収が起こり、光が表面プラズモンに変換されるとともに局所的に著しく増強された電場が発生することが知られている。これは光エネルギーが表面プラズモンに変換されることで、金属表面というごく限られた空間に光エネルギーが蓄えられ、金属表面と光が相互作用する領域が局所的に集束されるためと考えられている。
金属微粒子(ここで「金属微粒子」とは、金属原子が互いに凝集し、ナノメートルサイズの大きさまで成長した粒子を意味する)においては、プラズモンが表面に局在化するため、特に局在(表面)プラズモンと呼ばれる。このプラズモンは、可視から近赤外波長領域の光電場とのカップリング効率に非常に優れているといった特徴がある。
このような光と表面プラズモンの相互作用は、例えば、金属表面上のラマンシグナルが10〜10倍も増強される表面増強ラマン散乱(SERS)や、蛍光材料の発光強度が10倍近く増強される現象等として知られており、また一方で、蛍光材料を金属に近接すると発光が消光(quenching)する現象としても知られている。
【0006】
そして近年、光化学技術分野においてはこのような現象を利用した応用技術が俄然注目されてきている。
例えば、一光子遷移過程でプラズモン増強技術を応用した例となる技術提案がなされている(例えば、特許文献16参照)。これは金属表面に発生する表面プラズモンを利用し、微量物質の光学特性評価を行うものである。この技術については、一般に表面プラズモンによる増強場は金属表面から約100nm以下の領域に限定されているため、測定試料は高屈折率媒体上に成膜された金属薄膜上に極薄い膜として固定され、従って、二次元的に拡がった増強場を利用した応用技術の一例となっている。
一方、このような増強場を三次元的に利用した例となる特許文献17においては、多孔性の三次元マトリクス内に金属粒子が配置され、蛍光材料の蛍光強度を増強する技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特表2001−524245号公報
【特許文献2】特表2000−512061号公報
【特許文献3】特表2001−522119号公報
【特許文献4】特表2001−508221号公報
【特許文献5】特開平6−28672号公報
【特許文献6】特開平6−118306号公報
【特許文献7】特開2005−134873号公報
【特許文献8】特開平8−320422号公報
【特許文献9】特開2004−277416号公報
【特許文献10】特開平11−167036号公報
【特許文献11】特開2005−257741号公報
【特許文献12】特開2005−123513号公報
【特許文献13】特開2001−210857号公報
【特許文献14】特開2005−132763号公報
【特許文献15】特開2005−165212号公報
【特許文献16】特開2004−156911号公報
【特許文献17】特表2005−524084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表面プラズモンと光の相互作用を三次元的に利用するプラズモニクスデバイスの作成においては、以下の(1)〜(7)の課題を解決する必要がある。
(1)励起の対象となる材料が、三次元的に利用可能であること。
励起の対象となる材料は、例えば材料による照射光の散乱や反応個所以外での吸収等によって照射光の減衰を伴わない、三次元的に利用可能な(入射光が物質の深奥部まで到達可能な)光応答性材料でなければならない。
また同様に、プラズモンを発生する金属も、光散乱の影響を受けにくい三次元的に利用可能な構造でなければならない。
(2)可視から近赤外波長領域の光電場とプラズモンが効率良くカップリングすること。
照射光の集光ビーム径は、対物レンズの開口数をNA、波長λとするとλ/NAに比例するため、一般にλが小さいほど集光ビーム径が絞られ、高密度化を実現できる。しかしながら多くの光応答性材料は紫外領域において吸収特性を持つため、紫外領域よりも波長が少し長い、可視領域から近赤外領域にかけて、プラズモンとの相互作用を利用できることが望ましい。従ってプラズモンを発生する金属は、可視から近赤外領域にプラズモンの共鳴周波数を持つことが望ましい。
【0009】
(3)プラズモンの共鳴周波数(吸収波長)を制御し易いこと。
プラズモンの共鳴周波数がある程度可変でないと、使用可能な照射光の光源に制限があるため、デバイスの設計自由度を低下させる要因となる。このような観点から、プラズモンの共鳴周波数が制御しやすいことが重要である。
(4)金属−材料間のエネルギー移動が抑制されていること。
先に、蛍光材料を金属に近接すると発光の消光が起こることについて述べたが、一般にプラズモンを利用してある材料を光励起しようとすると、その励起エネルギーが金属の方に流れてしまい、プラズモンによる増強効果が得られないことがある。そのため、金属と材料の間に、このようなエネルギーの移動を抑制する何らかの工夫が必要となる。
(5)金属−材料間の距離制御が容易であること。
一方、プラズモンによる増強場の影響は金属表面から距離の3乗に逆比例して減少することも知られており、従って、プラズモンによる効果的な増強効果を得るためには、金属−材料間の適切な距離制御技術の確立も必須となる。
(6)照射光や周囲環境に対し安定性に優れること。
また、デバイス全体として考える場合、照射光による材料や金属の熱変形など、及び、周囲環境の影響などに対し高い安定性を有することも重要である。
(7)特性が三次元的に均一であること。
更には、特性のばらつきはデバイスの信頼性に大きく影響することから、均一性の確保も特に重要な課題となる。
【0010】
このような要求に対し、例えば前記特許文献16においては、表面プラズモンを利用して増強効果を得るために試料を金属薄膜上に固定する必要があり、従って増強効果が膜の形状と光学系の配置に依存するため、三次元的なプラズモニクスデバイスへの応用が困難となっている。
また、例えば前記特許文献17においては、金属微粒子は多孔性の三次元マトリクス内に配置されているが、増強効果を各場所において均一に得ることは困難であるという課題が残されている。
また先に、本発明者等は、特に課題(4)の解決を目的として、二光子吸収材料と金属微粒子からなる混合物に関する技術を開発し出願(特開2008−122439参照)している。しかしながら、今回、本発明者等は、本発明のように高分子材料を介して無機酸化物で被覆された金属微粒子を用いると、従来よりも無機酸化物膜の安定性を飛躍的に改善することができ、更にプラズモンによる増強効果もより効果的に引き出せることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の目的は、可視から近赤外波長領域の光電場と表面プラズモンの相互作用を利用し、表面プラズモンの共鳴周波数、金属−材料間の距離制御が容易で、かつプラズモン増強効果を効果的に利用することができ、三次元的な特性の均一性と環境安定性に優れた混合物、及び該混合物を利用したプラズモニクスデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の1)〜16)の発明(以下、本発明1〜16という)によって解決される。
1) 表面が高分子材料で被覆され、更にその表面が無機酸化物で被覆された金属微粒子と、二光子吸収有機材料とを含有することを特徴とする混合物。
2) 前記高分子材料が水溶性であることを特徴とする1)に記載の混合物。
3) 前記高分子材料が電解質であることを特徴とする1)又は2)に記載の混合物。
4) 前記金属微粒子が金であることを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の混合物。
5) 前記金属微粒子の形状がナノメートルサイズのロッド形状であることを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載の混合物。
6) 前記無機酸化物によって被覆された金属微粒子の数が1つであることを特徴とする1)〜5)のいずれかに記載の混合物。
7) 前記無機酸化物1粒子中に含まれる金属微粒子が同一方向に配向していることを特徴とする1)〜5)のいずれかに記載の混合物。
8) 1)〜7)のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする光記録材料。
9) 1)〜7)のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする光造形材料。
10) 1)〜7)のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする光制限材料。
11) 1)〜7)のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする二光子励起蛍光材料。
12) 平面上に記録層が形成され、該平面に対し、平面上及び垂直方向に記録再生が可能な三次元光記録媒体において、1)〜7)のいずれかに記載の混合物が、光記録が行なわれる記録層の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする三次元光記録媒体。
13) 光硬化性樹脂に集光したレーザー光を照射して光造形を行う光造形装置において、1)〜7)のいずれかに記載の混合物が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形装置。
14) 制御光により信号光の光透過光強度を制限する素子を備えた光制限装置において、1)〜7)のいずれかに記載の混合物が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
15) 制御光により信号光の光の進路を制限する素子を備えた光制限装置において、1)〜7)のいずれかに記載の混合物が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
16) 試料中の被分析物に1)〜7)のいずれかに記載の混合物を選択的に担持させ、該被分析物に光照射して、前記混合物中に含まれる二光子吸収材料の二光子蛍光光を発現させ、これを検出することによって被分析物を検出する機能を有することを特徴とする二光子励起蛍光検出装置。
【0012】
以下、上記本発明について詳細に説明する。
<本発明1について>
二光子吸収材料においては、これまで多くの無機材料が見出されているが、無機材料では所望の二光子吸収特性や素子製造のために必要な諸物性を最適化するための、いわゆる「分子設計」が困難なため、実用化に不利である。
一方、加工性や量産性に優れ、無機材料に比べ分子設計が比較的容易な有機材料では、巨視的な電荷状態で二光子吸収特性を発現する誘電体材料や半導体材料と違って微視的な分子状態でも二光子吸収特性を示し、またその集合体としての性質が巨視的な二光子吸収特性をもつことから、分子レベルで大きな二光子吸収特性があれば分子集合体である結晶でより大きな二光子吸収特性を期待することが可能であり、本発明を構成する二光子吸収材料として好ましい。
【0013】
本発明の混合物を構成する二光子吸収材料には、π共役系有機分子が好適である。一般に分子の非線形性の主な原因としては、分子内の電荷移動が支配的であるとされており、このことは有効共役長の長い共役系分子が、大きな非線形効果、即ち二光子遷移を起しやすいことを意味している。
分子構造においてπ共役系分子がこれに該当し、具体的にはベンゼン誘導体、スチリル誘導体、スチルベン誘導体、ポルフィリンに代表される環状構造化合物、共役ケトン誘導体、またポリアセチレンやポリジアセチレン等の共役高分子、アゾ金属キレートに代表される金属キレート化合物、またローダミン、クマリンに代表される蛍光色素等を例示することができる。
【0014】
また、前述したように、本発明者等は二光子吸収材料と金属微粒子からなる混合物に関する技術について出願したが、本発明では、金属微粒子を、高分子材料を介して無機酸化物で被覆することにより、該無機酸化物膜の安定性が飛躍的に改善され、更にプラズモンによる増強効果も、より効果的に利用可能となる。
この理由に関する詳細は不明であるが、おそらく、高分子材料を介さずに金属微粒子を無機酸化物で被覆すると、金属微粒子上の無機酸化物膜の被覆率が本発明に比べて相対的に低くなるか、或いは被覆した無機酸化物が剥がれ易い状態となるため、金属微粒子−二光子吸収材料間のエネルギー移動が充分抑制されず、従って、プラズモンによる増強効果が最大限引き出せなかったものと考えられる。
用いる高分子材料としては、被覆する金属微粒子の形態や作製方法によって、水溶性/非水溶性のものが適宜選択されるが、少なくとも二光子吸収材料の二光子吸収特性を損わないことが重要である。
【0015】
一方、プラズモン共鳴を起す金属としては金、銀、白金、銅、アルミニウム、パラジウム、その他の貴金属類が挙げられ、これらの金属微粒子を前記高分子材料で被覆した後、更に金属−材料間の励起エネルギー移動抑制、及び、耐光性・耐熱性向上を目的として、絶縁性の無機酸化物で被覆する。
前述したように、プラズモンによる増強場は金属微粒子表面からの距離に従って減少することが知られている。しかしながら、効率的なプラズモン増強効果を得ようとして金属−材料間の距離を近づけすぎると、上記のような無機酸化物膜を設けてもなお、量子効果により再びエネルギー移動が生じてしまうため、ナノメートルオーダーの距離制御を可能とする無機酸化物材料を用いる必要がある。
【0016】
そのような材料としては、アルコキシシラン、クロロシラン等に代表されるシランカップリング剤、或いはチタネート系カップリング剤(チタンカップリング剤)、ジルコネート系カップリング剤(ジルコニウムカップリング剤)、アルミネート系カップリング剤(アルミニウムカップリング剤)を例示することができる。
これらの材料は、通常長鎖アルキル等で構成される疎水基の分子量を変化させたり、単に反応溶液中の濃度を変化させたりするだけで、金属表面における被覆率を変化させることができるといった利点を有している。
上記カップリング剤は一般にXR(R4−nで表され、ここでXはSi、Ti、Zr、Alで例示される金属原子、Rは置換されていてもよい炭化水素基、Rは加水分解性基、nは1〜3の整数を表す。Rとしてはアルキル基及びアルケニル基が望ましく、Rとしては、Xに直接結合した酸素原子や窒素原子を有する遊離基、ハロゲン原子、アミノ基を例示することができる。
【0017】
シランカップリング剤の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランに代表されるアルコキシシラン、トリメチルクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、ビニルトリクロルシラン等に代表されるクロロシラン等が挙げられる。
このうち安定した無機酸化物膜を実現し易いという観点から、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランのいずれかを用いることがより好ましい。
【0018】
またチタンカップリング剤としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、アセチルアセトネートチタネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、アセチルトリプロピルチタネート、チタンオクタンジオレート、ラクテートチタネート、イソステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、エチルアセトアセチックエステルチタネート等が挙げられる。中でも密着性の安定化を図るという観点から、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートのいずれかを用いることが好ましい。
【0019】
またジルコニウムカップリング剤としては、テトラプロピルジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、テトラブチルジルコネート、テトラ(トリエタノールアミン)ジルコネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、n−プロピルジルコネート、n−ブチルジルコネート等が挙げられる。中でも密着性の安定化を図るという観点から、n−プロピルジルコネート、n−ブチルジルコネートのいずれかを用いることが好ましい。
【0020】
またアルミニウムカップリング剤の例としては、アルミニウムイソプロピレート、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム−sec−ブチレート、アルミニウムエチレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレート等が挙げられる。中でもアルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートのいずれかを用いることが好ましい。
【0021】
<本発明2、3について>
現在、金属微粒子の作製方法においては気相法、液相法及び固相法を含めた多様な報告がなされているが、中でも水系溶媒中で還元試薬を用いる作製方法については、再現性に優れプロセスが容易(取り扱い易い)であることから、広く標準的な合成方法として認知されている。
このような簡便な方法で得た水系溶媒中の金属微粒子を高分子材料で被覆する場合、水溶性高分子材料であれば、溶媒置換などの余分な工程を経ずに、直接被覆することができるので好ましい。
ここで、水溶性高分子材料としては、以下の高分子電解質(又はポリマー電解質:絶縁性ポリマーに電解質を練り込んだ高分子材料)及び高分子非電解質が例示される。
【0022】
i)高分子電解質
水溶性のポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)、ポリビニルリン酸などの酸性基を有する水溶性高分子材料が挙げられる。
また、水溶性のポリカチオンの例としては、平均分子量が1000以上、好ましくは、10,000〜100,000の第1級〜第4級アミノ基及びそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むポリカチオン化合物、具体的にはポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン等のポリアルキレンポリアミン、変性ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエーテルアミン等を例示することができる。
ii)高分子非電界質
非電解質の水溶性高分子材料としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子材料、ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン系高分子材料、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等の共重合系高分子材料等が挙げられる。
【0023】
前記高分子材料で被覆する方法としては、スピンコート法、電解重合法、真空蒸着法、CVD法などがあるが、これらの方法はいずれも分子配向制御が困難で、非常に単純な膜しか形成することができない。
一方、LB法は、単分子層の薄膜を形成できる他、相異なる導電性高分子溶液を用いることにより、分子レベルで制御された多層へテロ構造の薄膜を形成することも可能であるが、プロセス上の様々な制約や、使用可能な材料の制限、更には膜の吸着原理が分子間力(ファンデルワールス力)によるため膜強度が弱いといった問題を有している。
これに対し、材料を分子レベルで制御でき、単層及び多層へテロ構造の両製膜が可能な交互吸着法は、取扱い可能な物質の種類が豊富であり、大型な装置を用いる必要がないことから実用性に優れており、本発明の作製方法として好ましい。
【0024】
具体的には、金属微粒子を、前記ポリカチオンとポリアニオンの高分子電解質溶液に交互に浸すだけで、表面上に電解質ポリマーを自発的に吸着させ、また自己組織化させることもでき、容易に被覆することができる。
また、膜の吸着原理が静電気力(クーロン力)によるため、膜強度の問題も改善され、「ナノメートルオーダーの距離制御」にも有利な製法である。
しかしながら、高分子電解質は一般に、環境安定性に乏しいという欠点も有している。従って最終的には、最外層は高分子非電解質でコーティングされていることが好ましく、この場合、吸着原理は静電的なものではなく、両高分子鎖の絡み合いによる物理的な吸着となる。
また、このような多層の高分子被覆構造を形成する場合、高分子非電解質の中では特にポリビニルピロリドンが、多くの合成高分子化合物と異なり水によく溶解し、一方で種々の有機溶剤への溶解性、樹脂との相溶性、成膜性及び接着性など、実用面において優れた特性を有することから好ましい。
【0025】
<本発明4について>
可視領域においては、局在プラズモンによる強い共鳴が得られる金属として特に金や銀が知られているが、使用波長の制御性(後述するが、金はナノロッドに形成可能であることが理由)、耐環境安定性に優れることから特に金が好ましい。
【0026】
<本発明5について>
形状異方性を持つ微粒子は、粒子のアスペクト比を調整することにより吸収波長(共鳴波長)を制御できることが知られている。
形状異方性をもつ微粒子の中でも、特に粒子サイズがナノメートルオーダー(具体的には1〜100nm、より好ましくは1〜50nm)のロッド(棒)状の微粒子(以下、ナノロッドと称す)は、i)アスペクト比の揃った直径20nm以下の微粒子が再現性良く得られる、ii)散乱損失の少ない効率的な感度増強が可能である、iii)単一ナノ粒子での局在表面プラズモン励起が可能である、iv)アスペクト比(長軸/短軸の値)の制御で可視領域から近赤外領域までの任意の特定波長の吸収を選択できる、といった様々な利点を有することから好ましい。
このようなナノメートルサイズの微粒子を用いることにより、使用波長の制御性に優れるばかりでなく、局在プラズモンに変換された光エネルギーをナノ粒子表面というごく微小な領域に蓄えることができるため、光の回折限界より小さな領域での光制御も実現できるようになる。
【0027】
<本発明6について>
表面プラズモンによる増強効果は、周囲に存在する金属微粒子自体の影響を受けることが知られている。例えば金属微粒子を互いに近接させると、その粒子間に単なる足し合せではない非常に大きなプラズモン増強場が発生することも報告されている。このように二つの粒子を結び付けた二量体や小規模の凝集体などの形態も本発明1〜5の微粒子の形態として含まれるが、特性の三次元的な均一性を改善するという観点からは、無機酸化物によって被覆された金属微粒子の数が1つであること、換言すれば、金属微粒子が単独で無機酸化物によって被覆されていることが好ましい〔図10(a)参照〕。このような金属微粒子は単独でも光と効率よくカップリングして自由電子によるプラズモン振動を発生させ、増強場を形成することができる。なお、図10(b)に示すような形態は、無機酸化物によって被覆された金属微粒子の数が2つ以上であるから本発明6には含まれない。
【0028】
<本発明7について>
金属微粒子における表面プラズモンの共鳴周波数は、粒子サイズや形状、周囲媒質の誘電率によって変化するが、増強効果の場合と同様に、周囲に存在する金属微粒子自体の影響を受けても変化することが知られている。従って、二光子吸収有機材料や金属微粒子の形状を保ったままプラズモンの共鳴周波数を制御できるという観点から、金属微粒子を規則的に配列させた形態であることが望ましく、中でも金属微粒子を同一方向に配向させると、共鳴波長をシフトさせることができることから好ましい〔図11(a)参照〕。なお、同一方向に配向していない例を図11(b)に示す。
【0029】
<本発明8〜16について>
本発明8〜11は、上記本発明1〜7のいずれかの混合物を、光記録材料、光造形材料、光制限材料、二光子励起蛍光材料に用いたものである。
また、本発明12〜16は、上記本発明1〜7のいずれかの混合物を、三次元光記録媒体、光造形装置、光制限装置、二光子励起蛍光検出装置に利用したものである。これにより、可視から近赤外波長領域で作動する、表面プラズモンの共鳴周波数及び金属−材料間の距離制御が容易で、かつプラズモン増強効果を効果的に利用することができ、三次元的な特性の均一性と環境安定性に優れた新規デバイスを提供することができる。
以下、これらについて更に詳しく説明する。
【0030】
<三次元光記録媒体への応用>
インターネットやイントラネット等のネットワークの拡大、1920×1080(垂直×水平)ドットの画像情報量をもつハイビジョンTVの普及に加え、HDTV(HighDefinition Television)の放映を間近に控えた今日、データのアーカイブ用途として、民生では50GB以上、好ましくは100GB以上の記録媒体が要求されている。また、コンピューターや放送映像等のバックアップ用途としては、1TB程度あるいはそれ以上の大容量の情報を高速でかつ安価に記録可能な記録媒体が求められている。
そのような状況の中、究極の高密度、大容量記録媒体として注目される三次元光記録媒体は、入射光に対し垂直及び水平方向に記録/再生が可能な記録媒体であって、膜厚方向に何十、何百層もの記録層を重ねたり、或いは厚膜を形成したりすることで、光入射方向に対し何重にも記録再生が可能なため、CD、DVDのような従来の二次元記録媒体に比べ何十、何百倍もの超高密度、超高容量記録の可能性を秘めた記録媒体であると云われている。
【0031】
二光子吸収材料を用いる三次元光記録媒体としては、記録再生に蛍光性物質を用いて蛍光で読み取る方法(前記特許文献1〜2)、フォトクロミック化合物を用いて吸収又は蛍光で読み取る方法(前記特許文献3〜4)等が提案されている。しかしながら、これらの特許文献で用いているフォトクロミック化合物は可逆材料であるため、非破壊読み出し、記録の長期保存性、再生のS/N比等に問題があり、光記録媒体として実用性のある方式であるとは言えない。
また、前記特許文献5〜6には、屈折率変調により三次元的に記録する記録装置、及び再生装置、読み出し方法等が開示されているが、二光子吸収三次元光記録材料を用いた方法についての記載はない。
これに対し、非共鳴二光子吸収を利用し、レーザー焦点(記録)部と非焦点(非記録)部を書き換えできない方式で変調できれば、極めて高い空間分解能で、三次元空間の任意の場所に記録を行うことができ、究極の高密度記録媒体とされる三次元光記録媒体を実現することができる。また不可逆材料を用いることで非破壊読み出しが可能となり、良好な保存特性を維持できるため、より実用的である。
【0032】
本発明の混合物を用いた光記録材料は、スピンコーター、ロールコーター又はバーコーターなどを用いることで、基板上に直接塗布することも、あるいはフィルムとしてキャストし、次いで通常の方法により基板にラミネートすることもできる。ここで「基板」とは、任意の天然又は合成支持体、好適には柔軟性又は剛性フィルム、シート又は板の形態で存在できるものを意味する。溶液調製や塗工時に使用した溶媒は乾燥時に蒸発除去することもでき、蒸発除去には加熱や減圧を用いても良い。
好ましい基板材料としては、ポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、火炎又は静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等が挙げられる。また、基板には、予めトラッキング用の案内溝やアドレス情報が付与されていても良い。
【0033】
更に本発明に係る光記録材料の上に、酸素遮断や層間クロストーク防止のための保護層(中間層)を形成してもよい。保護層(中間層)は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート又はセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルム又は板を静電的な密着、押し出し機を使った積層等により貼合わせるか、前記ポリマーの溶液を塗布してもよい。また、ガラス板を貼合わせてもよい。但し、このような保護層(中間層)は設けなくても、三次元記録は可能である。
また、保護層と記録材料の間及び/又は基板と記録材料の間に、気密性を高めるための粘着剤又は液状物質を存在させることもできる。更に記録材料間の保護層(中間層)に予めトラッキング用の案内溝やアドレス情報を付与しても良い。
【0034】
図1に、本発明1〜7のいずれかの混合物を光記録材料として利用する三次元光記録媒体(a)と、その記録装置(b)の一例を示した。但し本発明は、これらの実施形態により何ら限定されず、三次元記録(平面及び膜厚方向に記録)が可能な構造であれば、他のどのような構造であっても構わない。
図1(a)は平らな基板11a上に、本発明の混合物からなる記録層13aと、クロストーク防止用の中間層14aを交互に50層積層させた三次元光記録媒体の例である。
記録層13aの厚さは0.01〜0.5μm、中間層14aの厚さは0.1〜5μmが好ましく、この構造であれば、今日普及しているCDやDVDと同じサイズで、テラバイト級の大容量の光記録媒体を実現することができる。
情報の三次元的な記録は、光源11bから発生した光15aを、本発明の混合物を含む記録層13a中の所望の箇所に焦点を結ばせることで行なわれる。光源には単一ビームが使用され、この場合、フェムト秒オーダーの超短パルス光を利用することができる。ビット単位、深さ方向単位の記録方法以外に、面光源を利用する並行記録方法も高転送レートを実現することから好ましい。
【0035】
また、ここでは図示されていないが、図1(a)の三次元記録媒体において、中間層の存在しないバルク状の記録媒体を作製し、ホログラム記録のようにページデータを一括記録することで、高転送レートを実現することも可能である。
再生は、記録時よりも強度の弱いレーザー光を記録部と未記録部に照射し、それらの発光強度変化、或いは反射率変化を検出器13bで検出することにより行う。再生光には、データ記録に使用するビームとは異なる波長、或いは低出力の同波長の光を用いることもできる。記録と同様に再生においても、ビット単位/ページ単位の再生がいずれにおいても可能であり、面光源や二次元検出器等を利用する並行記録/再生は、転送レートの高速化に有効である。
なお、本発明に従って同様に作製される光記録媒体の形態としては、カード状、プレート状、テープ状、ドラム状等も考えられる。
【0036】
<光造形方法・装置としての応用>
光造形用光硬化性樹脂とは、光を照射することにより重合反応を起し、液体から固体へと変化する特性を持った樹脂のことである。主成分はオリゴマーと反応性希釈剤からなる樹脂成分と光重合開始剤(必要に応じ光増感材料を含む)である。オリゴマーは重合度が2〜20程度の重合体であり、末端に多数の反応基を持つ。更に、粘度、硬化性等を調整するため、反応性希釈剤が加えられている。
光を照射すると、重合開始剤又は光増感材料が光を吸収し、重合開始剤から直接又は光増感材料を介して反応種が発生し、オリゴマー、反応性希釈剤の反応基に反応して重合が開始される。その後、これらの間で連鎖的重合反応を起し三次元架橋が形成され、短時間のうちに三次元網目構造を持つ固体樹脂へと変化する。
光硬化性樹脂は光硬化インキ、光接着剤、積層式立体造形などの分野で使用されており、様々な特性を持つ樹脂が開発されている。特に、積層式立体造形においては反応性が良好であること、硬化時の体積収縮が小さいこと、硬化後の機械特性が優れることが重要になっている。
本発明の混合物は、このような要求を満たす重合開始剤又は吸収光増感材料として用いることができる。本発明の混合物中に含まれる二光子吸収材料は従来に比べ光感度が高いため高速造形が可能となり、微細で三次元的な造形を実現することができる。
本発明においては、光増感材料として利用する本発明の混合物を紫外線硬化樹脂等に分散させて感光物固体を形成し、この感光物固体の所望の個所に光照射を行うことにより、照射光の焦点付近のみに硬化反応を起させ、超精密三次元造形物を形成することも可能である。
【0037】
図2は、本発明1〜7のいずれかの混合物を用いて光造形を行う場合の光造形装置の一例である。
光源21からのパルスレーザー光を可動形式のミラー22及び集光レンズ23を介して本発明の混合物中に含まれる二光子吸収材料24に集光すると、集光点近傍のみに光子密度の高い領域が形成される。このとき、ビームの各断面を通過するフォトンの総数は一定のため、焦点面内でビームを二次元的に走査した場合、各断面における光強度の総和は一定である。しかしながら、二光子吸収の発生確率は光強度の二乗に比例するため、光強度の大きい集光点近傍にのみ二光子吸収の発生の高い領域が形成される。集光点は可動形式のミラー22や可動ステージ25(ガルバノミラー及びZステージ)を制御することにより、光硬化性樹脂液内において自由に変化させることができるため、任意の位置にナノメートルオーダーの精度で樹脂を局所的に硬化することができ、所望の三次元加工物を容易に形成することができる。
また、このように作製される造形物の一例として、図3に光導波路を示した。
【0038】
近年、大容量アーカイブ用途の記録媒体が求められる一方で、ユビキタスネットワークの実現に向けた光ファイバ通信の開発による情報伝送の高速化及び大容量化も求められている。その一つに、WDM(波長多重通信)と呼ばれる波長の異なる光の不干渉性を利用した大容量伝送技術が知られているが、このWDMにおいては、特定の波長の光信号を合波或いは分波する素子が不可欠であり、そのための素子として光導波路が用いられている。光導波路においては、素子内部に、ある特定の屈折率分布などを形成させることにより、電気回路中を電子が流れるように光信号をその分布に沿って導くことができる。このような波長による屈折率変化を利用する光導波路構造は、図2に示す光造形装置を用い、請求項1〜7のいずれかに記載された本発明の混合物を含む薄膜、又は本発明の混合物を光硬化性樹脂等に分散させた固体物を光造形することにより形成することができる。
本発明における光造形を理解するのに有益な公知文献として、前記特許文献7が挙げられる。これによるとパルスレーザー光を感光性高分子材料膜の表面にマスクを介さず干渉露光させている。レーザー光は、感光性高分子材料膜の感光性機能を発揮させる波長成分をもった光からなり、感光性高分子材料の種類、又は感光性高分子材料の感光性機能を有する基又は部位に応じて選択されている。
また光導波路に関する公知文献としては、前記特許文献8〜11に光屈折率材料に光を照射して形成される光導波路などが開示されている。
【0039】
このような従来のものに比べて、本発明の混合物を利用した光造形物は、次の(i)〜(v)のような特徴を有する。
(i)回折限界を超える加工分解能
二光子吸収の光強度に対する非線形性によって、焦点以外の領域では光硬化性樹脂が硬化しない。このため照射光の回折限界を超えた加工分解能を実現できる。
(ii)超高速造形
本発明の混合物を用いて加工される造形物においては、従来に比べ、二光子吸収感度が高いため、ビームのスキャン速度を速くすることができる。
(iii)三次元加工性
光硬化性樹脂は、二光子吸収を誘起する近赤外光に対して透明である。したがって焦点光を樹脂の内部へ深く集光した場合でも内部硬化が可能である。二光子吸収現象を利用しない従来の加工技術においては、ビームを深く集光した場合、光吸収によって集光点の光強度が小さくなり、内部硬化が困難になる問題点があるが、本発明ではこうした問題点を確実に解決することができる。
(iv)高い歩留り
従来法では樹脂の粘性や表面張力によって造形物が破損、変形するという問題があったが、本発明では、樹脂の内部で造形を行うためこうした問題が解消される。
(v)大量生産への適用
超高速造形を利用することによって、短時間に、連続的に多数個の部品又は可動機構の製造が可能である。
【0040】
<光制限方法・装置としての応用>
光通信や光情報処理では、情報等の信号を光で搬送するためには変調、スイッチング等の光制御が必要になる。この種の光制御には、従来、電気信号を用いた電気−光制御方法が採用されている。しかし、電気−光制御方法は、電気回路のようなCR時定数により帯域が制限されること、素子自体の応答速度や電気信号と光信号との間の速度の不釣合いにより処理速度(>10ps)が制限されることなどの制約があり、光の利点である広帯域性や高速性を十分に生かすためには、光信号によって光信号を制御する光−光制御技術が非常に重要になってくる。この要求に応えるものとして本発明の混合物を加工して作製した光学素子は、光を照射することにより引き起こされる透過率や屈折率、吸収係数などの光学的変化を利用し、電子回路技術を用いずに光の強度や周波数を直接光で変調することにより、光通信、光交換、光コンピューター、光インターコネクション等における高速光スイッチなどに応用することが可能である。
【0041】
二光子吸収による光学特性変化を利用する本発明の光制限素子は、通常の半導体材料により形成される光制限素子や、一光子励起によるものに比べて、応答速度がはるかに優れた素子(<1ps)を提供することができ、また高感度ゆえに、S/N比の高い信号特性に優れた光制限素子を提供することができる。
従来の一光子吸収や、過飽和吸収を利用した光制限素子の例としては、例えばスペクトルホールバーニング、励起子吸収、サブバンド間遷移、量子閉じ込めシャタルク効果などが挙げられるが、これらの素子では、超高速応答を得ることが困難である、素子作製(組成、構造)が複雑である、対応波長域が狭い、偏波依存性の大きい系が多いといった問題がある。
一方、二光子吸収の非線形性を利用した光制限素子においては、超高速応答性に優れる、素子作製(組成、構造)が容易である、対応波長域が広く波長選択制が広い、偏波依存性がないといった利点がある。
【0042】
図4は、本発明1〜7のいずれかの混合物を、特定波長の制御光により二光子励起させて、一光子励起し得る波長の信号光をスイッチングする素子を示したものである。
制御光41及び信号光42から入射したレーザー光は、集光装置43(レンズ、凹面鏡など)により集光され、制御光41の強度が極めて強い場合のみ、保護層で挟持された本発明の混合物からなる光学フィルター44内で吸収され、一光子励起波長の透過率が変化する。制御光42の強度がない場合又は弱い場合はそのまま通過し、コリメート装置45(レンズ、凹面鏡など)により迷光を除去するカラーフィルター46等を通して、出射側にある光検出器47において検出される。即ち、このように二光子吸収の非線形性に伴う透過率の変化を利用することにより、信号光を制御光の強弱で処理する高速応答の光スイッチングが可能となる。
図5は、本発明1〜7のいずれかの混合物を、信号光と制御光により二光子励起させて全光スイッチングする光制御素子の動作例である。(a)は光制限素子と制御光、信号光、出力光の関係を示し、(b)は信号光、制御光、出力光とスイッチングの関係を示す。
制御光及び信号光は、集光装置により本発明の混合物を主構成要素とする光制限素子に集光され〔図5(a)〕、制御光がoffの場合は信号光がそのまま出力され、制御光がonの場合は信号光と共に二光子吸収され出力は無くなる〔図5(b)〕。制御光のon/offにより、信号光の光スイッチングが可能となる。
【0043】
図6は、本発明1〜7のいずれかの混合物を、二光子励起し得る波長の制御光で二光子励起させることにより、出力光の光路をスイッチングする光制御素子の一例を示すものであり、(a)(b)は制御光の入射方向が異なる例である。
制御光及び信号光から入射したレーザー光は、集光装置により本発明の混合物を主構成要素とする光導波路の分岐路部位に集光され、制御光の強度が極めて強い場合のみ光導波路の分岐路部位により吸収され、その部位の屈折率が変化する。二光子吸収による光導波路の分岐路部位の屈折率変化、信号光の光導波路の屈折率、及び出力光の光導波路の屈折率を調整することにより出力光の光路を切り替えることができる。二光子吸収の非線形性に伴う屈折率の変化を利用することにより、例えば光導波路において、光路のスイッチングを行うことが可能となる。
本発明における光制限素子を理解するのに役立つ公知文献としては、前記特許文献12〜14が挙げられるが、本発明の混合物を利用した光機能素子は、通常の半導体材料により形成される素子や材料の一光子励起を利用する素子と比べて、応答速度がはるかに優れ、かつ高感度で、S/N比が高いといった優れた信号特性も備えている。
【0044】
<二光子励起蛍光検出方法・装置としての応用>
二光子励起蛍光検出法とは、二光子蛍光材料を結合させて標識した被分析物を含む試料に、近赤外のパルスレーザーを集光しながら走査し、被分析物が二光子励起されたときに発生する蛍光を検出することにより、三次元的に像を得る検出方法のことである。図7にそのような光検出デバイスの一例として、二光子励起蛍光顕微鏡を示した。
図7に示す装置は、近赤外域波長のサブピコ秒単色コヒーレントパルスを発生する光源71から、レーザー光を発生させ、ダイクロイックミラー72を経て、集光装置73により集光し、本発明の混合物中に含まれる二光子吸収材料を結合させた被分析物を含む試料74中で焦点を結ばせることより、二光子蛍光を発生させる。試料上でレーザー光を操作し、各場所の蛍光強度を光検出器76で検出し、蛍光強度と得られた位置情報とをコンピューター上でプロットすることにより、三次元蛍光像を得ることができる。この場合、該顕微鏡には所望の集光位置をレーザービームで走査するための走査機構が備えられており、例えばステージ75に置かれた試料を移動させても良く、また、可動ミラー(ガルバノミラーなど)を用いてレーザービームを走査しても良い。
このような構成の二光子励起蛍光顕微鏡は光軸方向に高分解能の像を得ることができるが、共焦点ピンホール板を用いることで、面内、光軸方向共に更に分解能を上げることができる。
【0045】
このように用いられる二光子蛍光材料は、被分析物を染色したり、被分析物に分散させて使用することができ、工業用途のみならず、生体細胞等の三次元画像マイクロイメージングにも用いることができる。また生体適合性のポリマーと混合することにより光線力学的治療法(PDT)における光感受性材料として用いることも可能である。
上記のような二光子励起蛍光顕微鏡の理解に役立つ公知文献としては前記特許文献15が挙げられる。例えば走査型蛍光顕微鏡は、所望の大きさに拡大されたコリメート光を発するレーザー照射光学系と、複数の集光素子が形成された基板とを備え、該集光素子の集光位置が対物レンズ系の像位置に一致するように配され、かつ、前記の集光素子が形成された基板と対物レンズ系との間に、長波長を透過し短波長を反射するビームスプリッタが配され、標本面で二光子吸収による蛍光を発生させることを特徴とするものである。このような構成により、二光子吸収そのものの非線形効果を利用して、光軸方向の高分解能を得ることができる。加えて、共焦点ピンホール板を用いれば、さらなる高分解能(面内、光軸方向共)が得られる。
本発明の混合物によれば、従来の二光子励起蛍光材料に比較し高感度であるため、試料に照射する光強度を上げる必要がなく、試料の劣化、破壊を抑制することができる。特に生体へ適用する場合においては、生体へのダメージを低減することも可能となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、可視から近赤外波長領域の光電場と表面プラズモンの相互作用を利用した、表面プラズモンの共鳴周波数、金属−材料間の距離制御が容易で、かつプラズモン増強効果を効果的に利用することができ、三次元的な特性の均一性と環境安定性に優れた混合物、及び該混合物を利用したプラズモニクスデバイスを提供できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、後述する図9A〜図9Hのロッド状金微粒子の大きさは、長軸の長さが約30〜50nm、短軸の長さが約10nmである。また、表面を被覆している珪素酸化物の膜厚は全て8〜15nm程度の範囲にある。但し、珪素酸化物の膜厚は約5〜30nmの範囲で制御可能である。更に、図にはないが、微粒子が球形の場合は直径20nm程度とすることが好ましい。
【0048】
(実施例1)
<金ナノロッドの合成>
CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)の0.18mol水溶液500mLに、撹拌しながらシクロヘキサノン3.0mL、ジイソブチルケトン1.5mL、塩化金酸の0.024mol水溶液39.0mL、硝酸銀の0.01mol水溶液15.0mLを順次加え、更に撹拌しながらアスコルビン酸の0.1mol水溶液を塩化金酸の色が消失するまで滴下した。
次いで、上記溶液を低圧水銀灯下で紫外線照射しながら更にアスコルビン酸の0.1mol水溶液7.0mLを滴下し、CTABで保護された水系溶媒分散型のロッド状金微粒子溶液を得た。その後、遠心分離(7000G、60min)を複数回繰り返し、過剰のCTABを取り除いた。
次いで、このロッド状金微粒子溶液を、ポリカチオンとしてポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(分子量70,000、以下PSSという)を2.0g/L含むNaClの6.0mmol水溶液中に滴下した後、過剰なPSSを遠心分離(7000G、60min)により除去し、ロッド状PSS被覆金微粒子を得た。
次いで、このロッド状PSS被覆金微粒子を、ポリアニオンとしてポリ(アリルアミン塩酸塩)(分子量15,000、以下PAHという)を2.0g/L含むNaClの6.0mmol水溶液中に滴下した後、過剰なPAHを遠心分離(7000G、60min)により除去し、ロッド状PAH被覆金微粒子を得た。
次いで、このロッド状PAH被覆金微粒子を、ポリマー膜の安定化のため、ポリ(ビニルピロリドン)(分子量35,000、以下PVPという)の4.0g/L水溶液中に滴下した後、過剰なPVPを遠心分離(7000G、60min)により除去し、最終的にPSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を得た。
次いで、この沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。
次いで、この分散液2.5mLを、2−プロパノールを溶媒とするTEOS(テトラエトキシシラン)の0.97vol%溶液2.0mLと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mLからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。
攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応TEOSを除去し、ロッド状珪素酸化物被覆金微粒子の沈殿物を得た。〔このロッド状珪素酸化物被覆金微粒子のTEM(透過型電子顕微鏡)画像を図9Aに示した。〕
次いで、この沈殿物をプラズモン共鳴波長における吸光度が0.8となるようエタノール中に再分散させた。
次いで、この溶液3.0mLをクロロホルムを溶媒とするOTMS(オクタデシルトリメトキシシラン)の2.4mol%溶液300μLと、アンモニアの33.0wt%水溶液30μLからなる混合溶液に滴下し、一昼夜撹拌を続けることにより、非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子を得た。
最後に、この非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子3mgをトルエン10mLに再分散し、下記〔化1〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【化1】

【0049】
(実施例2)
実施例1と同じ非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子3mgを、トルエン10mLに再分散し、下記〔化2〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。(ここで用いた非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子のTEM画像を図9Bに示した。)
【化2】

【0050】
(実施例3)
実施例1と同じ、遠心分離により過剰のCTABを取り除いた水系溶媒分散型のロッド状金微粒子溶液を、ポリアニオンとしてポリビニルリン酸(以下PVPAという、分子量90,000)を2.0g/L含むNaClの6.0mmol水溶液中に滴下した後、過剰なPVPAを遠心分離(7000G、60min)により除去して、PVPA一種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を得た。
その後、実施例1と同じ手順に従って、非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子を得た。
最後に、この非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子3mgをトルエン10mLに再分散し、前記〔化1〕に示す二光子吸収有機材料7.0mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。(ここで用いた非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子のTEM画像を図9Cに示した。)
【0051】
(実施例4)
過剰なPSS、PAH、PVPを除去する遠心分離の条件を6000G、30minに変えた点以外は、実施例1と同じ手順に従って、PSS、PAH、PVPの三種類の水溶性ポリマーで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を得た。
次いで、この沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。
次いで、2−プロパノールを溶媒とする0.97vol%のTEOS溶液2.0mLに、2−プロパノール5.0mLを加えて激しく攪拌しながら、その中に上記沈殿物の分散液2.5mLを滴下し、更に触媒としてアンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液0.3mLを加え、1.5時間撹拌した。
攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6000G、30min)によって未反応TEOSを除去し、その後は実施例1と同じ手順に従って、非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子を得た。(この非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子のTEM画像を図9Dに示した。)
【0052】
(実施例5)
過剰なPVPAを除去する際の遠心分離の条件を6000G、30minに変えた点以外は、実施例3と同じ手順に従って、PVPAで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を得た。
次いで、この沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。
次いで、2−プロパノールを溶媒とする0.97vol%のTEOS溶液2.0mLに、2−プロパノール5.0mLを加えて激しく攪拌しながら、その中に上記沈殿物の分散液2.5mLを滴下し、更に触媒としてアンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液0.3mLを加え、1.5時間撹拌した。
攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6000G、30min)によって未反応TEOSを除去し、その後は実施例1と同じ手順に従って、非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子を得た。(この非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子のTEM画像を図9Eに示した。)
【0053】
(実施例6)
実施例4と同じ手順に従って得た2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)により未反応TEOSを除去した後、2−プロパノールへの分散と遠心分離を、遠心分離条件を最適化しながら繰り返すことにより精製し、同一方向に配向した、珪素酸化物で被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を分離した。(このロッド状珪素酸化物被覆金微粒子のTEM画像を図9Fに示した。)
次いで、得られた沈殿物をプラズモン共鳴波長における吸光度が0.8となるようエタノール中に再分散させた。
次いで、この溶液3.0mLを、クロロホルムを溶媒とする2.4mol%OTMS溶液300μLと、アンモニアの33.0wt%水溶液30μLからなる混合溶液に滴下し、一昼夜撹拌を続けることにより、非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子を得た。
最後に、この非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子3mgをトルエン10mLに再分散し、前記〔化1〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【0054】
(実施例7)
実施例1と同じPSS、PAH、PVPで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。
次いで、この分散液2.5mLを、2−プロパノールを溶媒とする1.0vol%テトライソプロピルチタネート溶液2.0mLと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mLからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。
攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応テトライソプロピルチタネートを除去し、ロッド状チタン酸化物被覆金微粒子の沈殿物を得た。
最後に、この非水溶媒分散型のロッド状チタン酸化物被覆金微粒子3mgを、トルエン10mLに再分散し、前記〔化1〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【0055】
(実施例8)
実施例1と同じPSS、PAH、PVPで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。
次いで、この分散液2.5mLを、2−プロパノールを溶媒とする1.0vol%n−プロピルジルコネート溶液2.0mLと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mLからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。
攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応n−プロピルジルコネートを除去し、ロッド状ジルコニウム酸化物被覆金微粒子の沈殿物を得た。
最後に、この非水溶媒分散型のロッド状ジルコニウム酸化物被覆金微粒子3mgをトルエン10mLに再分散し、前記〔化1〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【0056】
(実施例9)
実施例1と同じPSS、PAH、PVPで被覆されたロッド状金微粒子の沈殿物を体積比1:5の割合で2−プロパノールに分散させた。
次いで、この分散液2.5mLを、2−プロパノールを溶媒とする1.0vol%エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート溶液2.0mLと、アンモニアの33.0wt%水溶液を3.84vol%含む2−プロパノール溶液3.0mLからなる混合溶液中に滴下し、3時間撹拌した。
攪拌後、2−プロパノール分散液から、遠心分離(6500G、60min)によって未反応エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを除去し、ロッド状アルミニウム酸化物被覆金微粒子の沈殿物を得た。
最後に、この非水溶媒分散型のロッド状アルミニウム酸化物被覆金微粒子3mgをトルエン10mLに再分散し、前記〔化1〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【0057】
(実施例10)
実施例1と同じ非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子3mgを、トルエン10mLに再分散し、下記〔化3〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【化3】

【0058】
(実施例11)
実施例1と同じ非水溶媒分散型のロッド状珪素酸化物被覆金微粒子3mgを、トルエン10mLに再分散し、下記〔化4〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【化4】

(上記式中、[ ]は繰り返し単位であり、nは自然数を表す。)
この重合体の、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量は48200、重量平均分子量は134600であった。
【0059】
(比較例1)
実施例1においてCTABで保護された水系溶媒分散型のロッド状金微粒子溶液を得る際に、低圧水銀灯下で紫外線照射しながら更にアスコルビン酸の0.1mol水溶液を滴下した後、遠心分離(7000G、60min)を複数回繰り返して過剰のCTABを除去し、次いで、3−アミノプロピルエチルジエトキシシランの1.0mol%トルエン溶液と混合して攪拌し、ロッド状金微粒子をトルエン層に分散させた。このとき、トルエン層に分散したロッド状金微粒子を採取し、TEM観察した。結果を図9Hに示す。
この溶液を1mL中に3mgのロッド状金微粒子が含まれるよう調整し、該溶液1mLと、前記〔化1〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【0060】
(比較例2)
実施例1においてCTABで保護された水系溶媒分散型のロッド状金微粒子溶液を得る際に、低圧水銀灯下で紫外線照射しながら更にアスコルビン酸の0.1mol水溶液を滴下した後、遠心分離(7000G、60min)を複数回繰り返して過剰のCTABを除去し、次いで、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランの1.0mol%トルエン溶液と混合して攪拌し、ロッド状金微粒子をトルエン層に分散させた。
この溶液を1mL中に3mgのロッド状金微粒子が含まれるよう調整し、該溶液1mLと、前記〔化2〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【0061】
(比較例3)
実施例1においてCTABで保護された水系溶媒分散型のロッド状金微粒子溶液を得る際に、低圧水銀灯下で紫外線照射しながら更にアスコルビン酸の0.1mol水溶液を滴下した後、遠心分離(7000G、60min)を複数回繰り返して過剰のCTABを除去し、次いで、3−アミノプロピルエチルジエトキシシランの1.0mol%トルエン溶液と混合して攪拌し、ロッド状金微粒子をトルエン層に分散させた。
この溶液を1mL中に3mgのロッド状金微粒子が含まれるよう調整し、該溶液1mLと、前記〔化3〕に示す二光子吸収有機材料7mgと混合した後、この溶液をスピンコートによりガラス基板上に塗布して、厚さ200nmの薄膜サンプルを作製した。
【0062】
上記実施例及び比較例で作製した薄膜サンプルについて次のようにして評価を行った。
(評価方法)
プラズモンによる光感度の増強効果の評価は、本発明の混合物中に含まれる二光子吸収材料の「蛍光光量」を代替特性として測定することで行った。
本来であれば、本発明の混合物に含まれる二光子吸収材料の「二光子吸収効率」を代替特性として評価する方がより直接的であるが、二光子吸収効率の測定は技術的に非常に困難であり、測定精度が低いという問題がある。そこで、上記実施例及び比較例の薄膜サンプルの作製において、二光子吸収有機材料として蛍光特性を有する材料を用いることとし、二光子吸収の結果として生じる蛍光光量を、増強効果の代替特性として評価することにした。
図8に蛍光光量の測定系の概略図を示す。
二光子吸収のための励起光光源は、スペクトラフィジックス社製のMaiTai(赤外線フェムト秒レーザー、繰り返し周波数80MHz、パルス幅100fs)を用いた。
出力調整のため、λ/2板とグランレーザープリズムよりなるアッテネーターを設け、平均出力200mWに調整した。出力調整後、λ/4板を通して励起光を円偏光に変換し、焦点距離100mmの平凸レンズにより、設置したサンプル内部に集光させた。励起光の焦点位置で発生する蛍光は、焦点距離40mmのカップリングレンズで集光して概略平行光とした後、ダイクロイックミラーにより励起光と分離し、更に赤外線カットガラスフィルターを通し、焦点距離100mmの平凸レンズで概略集光後にフォトダイオードで検出した。
【0063】
(評価結果)
評価結果を表1に示す。
特性の欄の評価は、測定した実施例の二光子蛍光光量と比較例の二光子蛍光光量の比を求め、その値が1.5以上となったものをE(Excellent)、1.0以上1.5未満となったものをG(Good)とした。
なお、実施例1〜9は比較例1との比で、実施例10は比較例2との比で、実施例11は比較例3との比でそれぞれ判定した。
均一性の欄の評価は、測定個所を変えて測定したとき、二光子蛍光光量が30%以上変動する場合をF(Fail)、10%以上30%未満の範囲で変動する場合をG(Good)、10%未満の変動の場合をE(E:Excellent)とした。
保存特性(環境安定性)の欄の評価は、2−プロパノール中の無機酸化物被覆金属微粒子の分散特性を代替特性として評価し、この微粒子の2−プロパノール分散溶液を室温で1週間放置した時、微粒子が凝集してしまったものをF(Fail)、溶液中の一部にわずかに凝集物が観察されたものをG(Good)、変化は見られず均一な分散状態を保ったものをE(Excellent)とした。
表1から、本発明の混合物では、従来よりもプラズモン増強効果を効果的に引き出すことが可能となり、特性の均一性と金属微粒子の保存特性も改善できることがわかる。
【0064】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明1〜7のいずれかの混合物を光記録材料として利用する三次元光記録媒体とその記録装置の一例を示す図。(a)三次元光記録媒体、(b)記録装置。
【図2】本発明1〜7のいずれかの混合物を用いて光造形を行う場合の光造形装置の一例を示す図。
【図3】光造形装置により作製される造形物の一例としての光導波路を示す図。
【図4】本発明1〜7のいずれかの混合物を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、一光子励起し得る波長の信号光を光スイッチングする光制御素子の一例を示す図。
【図5】本発明1〜7のいずれかの混合物を、信号光と制御光により二光子励起させる全光スイッチングする光制御素子の動作例を示す図。(a)光制限素子と制御光、信号光、出力光の関係を示す図、(b)信号光、制御光、出力光とスイッチングの関係を示す図。
【図6】本発明1〜7のいずれかの混合物を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、出力光の光路を光スイッチングする光制御素子の一例を示す図。(a)(b)は制御光の入射方向が異なる例。
【図7】二光子励起蛍光顕微鏡の一例を示す図。
【図8】実施例の評価で用いた測定システムの概略図。
【図9】無機酸化物被覆金微粒子のTEM画像。
【図10】本発明6の金属微粒子の形態を説明する図。(a)本発明6に該当する形態、(b)本発明6に該当しない形態。
【図11】請求項7の金属微粒子の形態を説明する図。(a)本発明7に該当する形態、(b)本発明7に該当しない形態。
【符号の説明】
【0066】
11a 基板(支持体)
11b 光源
12a 基板(支持体)
12b 光源
13a 記録層
13b 検出器
14a 中間層(保護層)
14b ピンホール
15a 光
21 光源
22 可動形式のミラー
23 集光レンズ
24 二光子吸収材料
25 可動ステージ
41 制御光
42 信号光
43 集光装置
44 光学フィルター
45 コリメート装置
46 カラーフィルター
47 検出器、
71 光源
72 ダイクロイックミラー
73 集光装置
74 試料
75 ステージ
76 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が高分子材料で被覆され、更にその表面が無機酸化物で被覆された金属微粒子と、二光子吸収有機材料とを含有することを特徴とする混合物。
【請求項2】
前記高分子材料が水溶性であることを特徴とする請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
前記高分子材料が電解質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
前記金属微粒子が金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の混合物。
【請求項5】
前記金属微粒子の形状がナノメートルサイズのロッド形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の混合物。
【請求項6】
前記無機酸化物によって被覆された金属微粒子の数が1つであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の混合物。
【請求項7】
前記無機酸化物1粒子中に含まれる金属微粒子が同一方向に配向していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の混合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする光記録材料。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする光造形材料。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする光制限材料。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の混合物を含むことを特徴とする二光子励起蛍光材料。
【請求項12】
平面上に記録層が形成され、該平面に対し、平面上及び垂直方向に記録再生が可能な三次元光記録媒体において、請求項1〜7のいずれかに記載の混合物が、光記録が行なわれる記録層の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする三次元光記録媒体。
【請求項13】
光硬化性樹脂に集光したレーザー光を照射して光造形を行う光造形装置において、請求項1〜7のいずれかに記載の混合物が、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光造形装置。
【請求項14】
制御光により信号光の光透過光強度を制限する素子を備えた光制限装置において、請求項1〜7のいずれかに記載の混合物が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
【請求項15】
制御光により信号光の光の進路を制限する素子を備えた光制限装置において、請求項1〜7のいずれかに記載の混合物が、前記素子の少なくとも一部として含まれていることを特徴とする光制限装置。
【請求項16】
試料中の被分析物に請求項1〜7のいずれかに記載の混合物を選択的に担持させ、該被分析物に光照射して、前記混合物中に含まれる二光子吸収材料の二光子蛍光光を発現させ、これを検出することによって被分析物を検出する機能を有することを特徴とする二光子励起蛍光検出装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−72312(P2010−72312A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239327(P2008−239327)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】