説明

作業車両の車軸駆動装置

【課題】従来の作業車両の小型車両と大型車両間でトランスミッションを共通化するに際し、小型車両用のトランスミッションでは、大型車両に適用する場合に耐久性が不足し、逆に、大型車両用のトランスミッションでは、小型車両に適用する場合に設置スペースが拡大し、大きな設計変更が避けられない、等の問題があった。
【解決手段】車軸120L・120Rのみを収納する第一アクスルケース118・119と、車軸66L・66Rまでの最終減速装置104・105を車軸66L・66Rと一緒に収納する第二アクスルケース100・101を、作業車両1・1Aの仕様に応じて付け替え可能な、共通のケース取付部96a・97aをトランスミッション2に備えると共に、前記車軸66L・66R・120L・120Rの軸心中心の前後方向位置を調節可能な車軸位置調節構造を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等の作業車両のエンジンからの動力を変速して車軸に伝達するトランスミッションを、仕様の異なる作業車両に対しても共通化できるようにするための、トランスミッションの共通化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンバイン等の作業車両において、該作業車両が大型仕様の場合(以下、「大型車両」とする)は車重が重く、良好な発進加速性や作業性を得るには高トルクが必要となることから、トランスミッションからの出力軸である走行駆動軸と車軸との間に、ギア減速機構等からなる最終減速装置を介設し、該最終減速装置により、減速すると同時にトルクを増大させ、車軸を高トルクで駆動する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。一方、作業車両が小型仕様の場合(以下、「小型車両」とする)には、車重が軽いために低トルクでも十分に良好な発進加速性や作業性が得られることから、前記最終減速装置を介さずに車軸を低トルクで直接駆動する技術が公知となっている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−247050号公報
【特許文献2】特開2001−1775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来技術において、小型車両と大型車両間でトランスミッションの共通化を図るに際し、小型車両用の車軸駆動装置を大型車両に搭載する場合、十分に広い設置スペースは確保できるが、そのままでは高トルクが得られず、良好な発進加速性や走破性が得られない。そこで、該小型車両用の車軸駆動装置に単純に最終減速装置を取り付けてトルクアップを図る対応が考えられる。しかし、該最終減速装置を取り付けるには、減速してもなお十分な車速が得られるように、該最終減速装置の伝動上流側にある伝達部材や支持部材等は高耐久性構造にして高速駆動できるようにする必要があり、低耐久性構造の小型車両用の車軸駆動装置では、前記伝達部材や支持部材等の損耗や破損といった不具合が起こりやすく、メンテナンスコストの増加や作業効率の低下を招く、という問題があった。
逆に、大型車両用の車軸駆動装置を小型車両にそのまま搭載する場合、十分に高いトルクは得られるが、そのままでは設置スペースを拡大する必要があるため、前後車軸間長を長くする等の大きな設計変更が避けられず、製造コストの増加や小型車両の大型化を招く、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、車軸を収納するアクスルケースをトランスミッションのミッションケースの左右側面に装着して成る作業車両の車軸駆動装置において、前記車軸のみを収納する第一アクスルケースと、前記車軸までの最終減速装置を車軸と一緒に収納する第二アクスルケースを、作業車両の仕様に応じて付け替え可能な、共通のケース取付部を前記トランスミッションに備えると共に、前記車軸の軸心中心の前後方向位置を調節可能な車軸位置調節構造を設けたものである。
請求項2においては、前記車軸位置調節構造では、前記最終減速装置の内側部分を収納する減速室を、前記ケース取付部で前後一方に向かって張り出した膨出部内に形成し、仕様の異なる作業車両間では、前記トランスミッションを左右反転して取り付けることにより前記膨出部を前後他方に反転移動すると共に、前記ケース取付部内に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置を調節するものである。
請求項3においては、前記最終減速装置の内側部分を収納する減速室を、前記ケース取付部に着脱自在に設けた中間部材で前後外方に向かって張り出した膨出部内に形成し、仕様の異なる作業車両間では、前記中間部材を着脱することにより前記膨出部の有無を変更すると共に、前記ケース取付部内に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置を調節するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1においては、車軸を収納するアクスルケースをトランスミッションのミッションケースの左右側面に装着して成る作業車両の車軸駆動装置において、前記車軸のみを収納する第一アクスルケースと、前記車軸までの最終減速装置を車軸と一緒に収納する第二アクスルケースを、作業車両の仕様に応じて付け替え可能な、共通のケース取付部を前記トランスミッションに備えると共に、前記車軸の軸心中心の前後方向位置を調節可能な車軸位置調節構造を設けたので、前記トランスミッションに大型車両用で高耐久性構造のものを使用した上で、共通のトランスミッションの前記ケース取付部に前記第一アクスルケースを装着すると共に、前記車軸位置調節構造によって前後車軸間長を短くすることにより、小型車両用の車軸駆動装置を構成し、一方、同じケース取付部に前記第二アクスルケースを装着すると共に、前記車軸位置調節構造によって前後車軸間長を逆に長くすることにより、大型車両用の車軸駆動装置を構成することができる。従って、前記車軸駆動装置を小型車両に適用しても、設置スペースを拡大する必要がなく大きな設計変更が不要となり、大型車両に適用しても、伝達部材や支持部材の損耗や破損等の不具合を起こさずに高トルクが得られる。これにより、製造コストの増加や小型車両の大型化、及びメンテナンスコストの増加や作業効率の低下を招くことなく、トランスミッションの共通化が可能となり、作業車両が大型・小型等の異なる仕様であってもトランスミッションを変更する必要がなく、在庫管理が容易となり、トランスミッションに使用する部品の共通化によるコスト低減も図ることができる。
請求項2においては、前記車軸位置調節構造では、前記最終減速装置の内側部分を収納する減速室を、前記ケース取付部で前後一方に向かって張り出した膨出部内に形成し、仕様の異なる作業車両間では、前記トランスミッションを左右反転して取り付けることにより前記膨出部を前後他方に反転移動すると共に、前記ケース取付部内に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置を調節するので、前記トランスミッションを左右反転するだけの簡単操作により大型・小型等の異なる仕様に応じて膨出部を適正配置できると共に、該膨出部やケース取付部基部等に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置の変更が容易となり、例えば、膨出部を前後外方に配置し該膨出部に車軸を設けることにより、前後車軸間長を長くして大型車両用の車軸駆動装置とし、更に、該トランスミッションを左右反転させて膨出部を前後内方に配置し、ケース取付部の基部に車軸を設けることにより、前後車軸間長を短くして小型車両用の車軸駆動装置とすることができる。加えて、前記最終減速装置が一対の大小のギアから成る噛合ギア機構の場合、該噛合ギア機構を介して車軸を駆動する大型車両用の車軸駆動装置と、噛合ギア機構を介さずに車軸を直接駆動する小型車両用の車軸駆動装置とでは、そのままでは車軸の回転方向が逆となるが、前述の如くトランスミッションを左右反転することにより、車軸の回転方向を同じにすることができ、別途に反転機構を設ける必要がなく、装置コストの低減を図ることができる。
請求項3においては、前記車軸位置調節構造では、前記最終減速装置の内側部分を収納する減速室を、前記ケース取付部に着脱自在に設けた中間部材で前後外方に向かって張り出した膨出部内に形成し、仕様の異なる作業車両間では、前記中間部材を着脱することにより前記膨出部の有無を変更すると共に、前記ケース取付部内に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置を調節するので、前記中間部材を着脱するだけの簡単操作により膨出部の有無を大型・小型等の異なる仕様に応じて変更できると共に、該膨出部やケース取付部等に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置の変更が容易となり、例えば、ケース取付部に中間部材を介して第二アクスルケースを装着し、中間部材の膨出部に車軸を設けることにより、前後車軸間長を長くして大型車両用の車軸駆動装置とし、更に、同じケース取付部に第一アクスルケースを直接装着し、トランスミッションからの出力軸である走行駆動軸を車軸とすることにより、前後車軸間長を短くして小型車両用の車軸駆動装置とすることができる。加えて、中間部材を変更するだけで、様々な形状・仕様の第二アクスルケースをトランスミッションに装着することができ、共通化したトランスミッションの汎用性を更に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係わる車軸駆動装置を搭載したコンバインの全体構成を示す全体側面図、図2は同じく全体平面図、図3はトランスミッションの動力伝達構成を示すスケルトン図、図4はトランスミッションの左右反転により仕様変更に対応可能な車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図であって、図4(a)は大型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図4(b)は小型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図5は図4のA−A矢視一部断面図、図6は図4のB−B矢視一部断面図、図7はトランスミッションの膨出ラインの傾倒位置を変更した場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図であって、図7(a)は膨出ラインが略水平な場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図7(b)は膨出ラインが前斜め下方の場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図7(c)は膨出ラインが略垂直な場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図8はトランスミッションへの中間部材の着脱により仕様変更に対応可能な車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図であって、図8(a)は大型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図8(b)は小型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図9は図8のC−C矢視一部断面図、図10は図8のD−D矢視一部断面図である。
【0007】
まず、共通化したトランスミッション2を有する車軸駆動装置28を搭載した作業車両の例として、大型仕様のコンバイン1の全体構成について、図1、図2により説明する。なお、後述する小型仕様のコンバイン1Aの全体構成も、車軸駆動装置28A以外は、略同じ構成から成るものである。
該コンバイン1においては、トラックフレーム3の左右にクローラ式走行装置4L・4Rが支持されると共に、トラックフレーム3には機台5が架設されている。そして、機体前後には、刈取部6と脱穀部7が設けられ、このうちの刈取部6は、刈刃8及び穀稈搬送機構9等を備えると共に、刈取フレーム14を介して油圧シリンダ13により昇降できるようにし、前記脱穀部7には、フィードチェーン10が左側に張架され、該フィードチェーン10の右側方には扱胴11と処理胴12が内蔵されている。前記脱穀部7の後方には、排藁チェーン15の終端を臨ませる排藁処理部16が配置され、脱穀後の排藁を後方に排出するようにしている。
【0008】
該排藁処理部16の側方には、前記脱穀部7からの穀粒を揚穀筒17を介して搬入する穀物タンク18が設けられ、該穀物タンク18の上方には左右上下に回動可能な排出オーガ19が配設されており、刈取部6から刈り取られて脱穀部7にて処理された穀粒が、穀物タンク18内に貯留された後、前記排出オーガ19を介して機外に搬出されるようにしている。
【0009】
また、前記刈取部6と穀物タンク18との間には運転部20が設けられ、該運転部20においては、前方のハンドルポスト21に丸型の操向ハンドル22が支架され、該操向ハンドル22の後方に運転席23が配置され、該運転席23の側部には、駐車ブレーキレバー24、主変速レバー25、副変速レバー26等が並設されている。
【0010】
そして、運転部20の下方で前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rの間には、エンジン27と、該エンジン27からの動力を変速して前記左右のクローラ式走行装置4L・4Rを駆動する、本発明に係わる車軸駆動装置28とが配設され、該車軸駆動装置28に、共通化されたトランスミッション2が設けられている。
【0011】
次に、該トランスミッション2の構造と動力伝達構成について、図3、図5により説明する。
該トランスミッション2は、左右のケース半部96・97から成るミッションケース29を備え、このうちのケース半部96の上部側面に走行用の第一無段変速装置31のハウジング31aが装着され、ケース半部97の上部側面に旋回用の第二無段変速装置32のハウジング32aが装着されている。
【0012】
いずれの無段変速装置31・32も、油圧式無段変速装置(ハイドロスタティックトランスミッション)であって、前記ハウジング31a内には、図示せぬ油圧回路によって互いに流体接続された可変容積型の油圧ポンプ35と固定容積型の油圧モータ36とが並設され、前記ハウジング32a内にも、同様に、図示せぬ油圧回路によって互いに流体接続された可変容積型の油圧ポンプ37と固定容積型の油圧モータ38とが並設されている。そして、前記油圧ポンプ35・37には、共通のポンプ軸としての入力軸39が設けられている。
【0013】
該入力軸39は、ミッションケース29のケース半部96から左方に突出され、その突出端にはプーリ42が嵌着され、該プーリ42と、前記エンジン27の出力軸33の先端に嵌着されたプーリ34との間には、ベルト43が巻回されており、ベルト伝動によって、エンジン27からの動力が入力軸39に入力されるようにしている。更に、前記油圧ポンプ35の可動斜板35aと前記油圧ポンプ37の可動斜板37aは、それぞれ、図示せぬリンク機構を介して、前記主変速レバー25と操向ハンドル22に接続されている。
【0014】
これにより、前記主変速レバー25を傾動操作することで、前記油圧ポンプ35の可動斜板35aの傾角を変更して、油圧ポンプ35から油圧モータ36への圧油の吐出量と吐出方向を変化させ、前記入力軸39に入力されたエンジン27からの動力を、第一無段変速装置31で無段階に変速し、油圧モータ36のモータ軸である出力軸40から主変速動力として出力することができる。同様に、操向ハンドル22を回動操作することにより、前記油圧ポンプ37の可動斜板37aの傾角を変更して、油圧ポンプ37から油圧モータ38への圧油の吐出量と吐出方向を変化させ、前記入力軸39に入力されたエンジン27からの動力を、無段階に変速して油圧モータ38のモータ軸である出力軸41から、旋回動力として出力することができる。
【0015】
なお、前記油圧モータ36には油圧多板式等の走行ブレーキ44が設けられており、前記第一無段変速装置31を走行状態から中立状態に戻す際に走行状態が継続することがないように、油圧モータ36を制動できるようにしている。同様に、前記油圧モータ38にも油圧多板式等の旋回ブレーキ45が設けられており、前記第二無段変速装置32を旋回状態から中立状態に戻す際に旋回状態が継続することがないように、油圧モータ38を制動できるようにしている。
【0016】
また、前記ミッションケース29内では、前記入力軸39、出力軸40・41と平行して、中間軸47、伝達軸48、副変速軸49、中間軸88、主駆動軸86、刈取出力軸50、左右の駆動スプロケット54L・54Rをそれぞれ固定する車軸66L・66R、該車軸66L・66Rをそれぞれ駆動する走行駆動軸51L・51R、減速軸52、及びロック軸53が、それぞれ左右延伸状に軸支されている。
【0017】
このうちの中間軸47上には、中間ギア55が相対回転可能に環設されると共に、前記出力軸40の一端は、ミッションケース29の側壁を貫通して突入され、該突入端には入力ギア46が固設され、該入力ギア46は前記中間ギア55と噛合されている。そして、該中間ギア55は、前記伝達軸48上の右端に固設された副変速入力ギア56に噛合されており、主変速動力が、ギア列46・55・56を介して副変速装置57の伝達軸48に入力される。
【0018】
該伝達軸48上には、左から順に副変速のための大径ギア62、中径ギア63、小径ギア64が設けられ、このうちの中径ギア63、小径ギア64は伝達軸48に対し固設される一方、大径ギア62は、伝達軸48に対して相対回転可能に環設されている。更に、伝達軸48上で前記大径ギア62と中径ギア63との間には、第一クラッチスライダ70が、軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に設けられると共に、前記大径ギア62に対して係脱自在に構成されている。
【0019】
前記副変速軸49上にも、左から順に高速ギア67、中速ギア68、低速ギア69が設けられ、このうちの高速ギア67は副変速軸49に対し固設される一方、中速ギア68、低速ギア69は、副変速軸49に対し相対回転可能に環設されると共に、これら高速ギア67、中速ギア68、低速ギア69は、それぞれ前記大径ギア62、中径ギア63、小径ギア64に噛合されている。従って、大径ギア62と高速ギア67から成る高速ギア列、中径ギア63と中速ギア68から成る中速ギア列、小径ギア64と低速ギア69から成る低速ギア列といった3段の副変速駆動列が形成される。
【0020】
更に、副変速軸49上で前記中速ギア68と低速ギア69との間には、第二クラッチスライダ71が、軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に設けられ、前記中速ギア68または低速ギア69のいずれか一方に係合させた係合状態、あるいはいずれとも係合させない中立状態を選択できるようにしている。そして、該第二クラッチスライダ71と前記第一クラッチスライダ70とは、同時に摺動操作可能に構成されると共に、図示せぬリンク機構を介して前記副変速レバー26に接続されている。
【0021】
これにより、前記副変速レバー26を傾動操作することで、大径ギア62であれば伝達軸48に相対回転不能に係合させ、中速ギア68や低速ギア69であれば副変速軸49に相対回転不能に係合させることができ、前記主変速動力は、前記3段の副変速駆動列のうちのいずれかのギア列を介して副変速された後、副変速動力として副変速軸49の高速ギア67から出力される。なお、この副変速軸49の左端部には、摩擦多板式等の駐車ブレーキ装置72が設けられており、前記駐車ブレーキレバー24を傾動操作することにより、該副変速軸49をロックして、坂道でもコンバイン1を確実に停止できるようにしている。
【0022】
また、前記主駆動軸86の左右方向略中央には、大径の駆動センタギア87が固設され、該駆動センタギア87は、前記中間軸88に相対回転可能に環設された中間ギア89に噛合され、該中間ギア89は前記高速ギア67に常時噛合されており、副変速動力が、高速ギア67から中間ギア89を介して差動装置58に入力される。
【0023】
該差動装置58は、左右の遊星ギア機構59・60を有し、該遊星ギア機構59・60は、前記走行駆動軸51L・51Rの間で同一軸心上に配置された前記主駆動軸86に刻設されるサンギア90・90と、該サンギア90・90の外周で噛合する複数のプラネタリギア91・91・・・と、リングギア84・85に一体構成され前記プラネタリギア91・91・・・に噛合するインターナルギア92・93と、走行駆動軸51L・51Rに固設され前記プラネタリギア91・91・・・を枢支するキャリア94・95とから構成されている。
【0024】
前記プラネタリギア91・91・・・は、走行駆動軸51L・51Rから放射状に均等配置されて左右のキャリア94・95にそれぞれ回転自在に軸支され、該キャリア94・95はサンギア90を挟んで左右に配置されると共に、前記インターナルギア92・93は、主駆動軸86と同一軸心上に配置された上で、それぞれ、キャリア94のボス部94a、キャリア95のボス部95aを介して、走行駆動軸51L・51Rの内端部に回転自在に軸支されている。なお、該走行駆動軸51L・51Rの内端部は、前記ボス部94a・95aに着脱可能にスプライン嵌合されている。
【0025】
そして、前記サンギア90・90は、左右の遊星ギア機構59・60に共通のサンギアとして、共通の主駆動軸86に一体的に刻設されており、これにより、両サンギア90・90の中間部に係止した前記駆動センタギア87を介して、前記第一無段変速装置31からの副変速動力がサンギア90・90に入力される。
【0026】
また、前記第二無段変速装置32の出力軸41の一端は、ミッションケース29に側壁を貫通して突入され、該突入端には小径ギア76が固設され、該小径ギア76は、前記減速軸52上に固設された大径ギア77に噛合される。更に、減速軸52上で大径ギア77の右方には小径ギア78が固設され、該小径ギア78は前記ロック軸53上の大径ギア79に噛合されている。従って、小径ギア76と大径ギア77から成る第一減速ギア列、小径ギア78と大径ギア79から成る第二減速ギア列から成る複数の減速駆動列が形成されており、出力軸41からの旋回動力を減速してロック軸53に入力するようにしている。
【0027】
該ロック軸53上には、前記大径ギア79を挟んで左右に旋回入力ギア80・81が固設され、このうちの旋回入力ギア80は、中間軸82に相対回転可能に環設された中間ギア83に噛合され、該中間ギア83は、左側の遊星ギア機構59のリングギア84に噛合される一方、旋回入力ギア81は、右側の遊星ギア機構60のリングギア85に直接噛合されている。更に、左側の遊星ギア機構59における旋回入力ギア80・中間ギア83・リングギア84の減速比と、右側の遊星ギア機構60における旋回入力ギア81・リングギア85の減速比とは、同一に設定されている。
【0028】
これにより、第二無段変速装置32の出力軸41と左右の遊星ギア機構59・60のリングギア84・85間に配設されたギア伝動装置61においては、前記出力軸41の回転を左右のリングギア84・85に対して互いに回転方向を逆にして伝達するものとなっている。なお、第二無段変速装置32の油圧ポンプ37が中立状態にされて前記出力軸41から旋回動力が出力されない場合に、左右のリングギア84・85が互いに同方向に等速で回転しようとすると、その回転力はロック軸53に対して互いに逆方向に等速で伝達されるため、ロック軸53は何れの方向にも回転せず、従って、逆にロック軸53により、左右のリングギア84・85が回転不能にロックされることになる。
【0029】
以上のような構成において、コンバイン1では、その走行条件に応じて、まず、副変速レバー26を傾動操作して、副変速装置57における第一クラッチスライダ70または第二クラッチスライダ71をいずれかのギアに係合させることにより、路上走行時には高速ギア列62・67による高速度段、乾田作業時には中速ギア列63・68による中速度段、湿田作業時には低速ギア列64・69による低速度段を選択して設定し、その上で、前記主変速レバー25を傾倒操作して、第一無段変速装置31における可動斜板35aを傾動操作し、機体の進行方向の制御を含め、車速を無段に変更制御させ、これにより、コンバイン1を走行させるようにしている。
【0030】
そして、直進走行時には、操向ハンドル22による第二無段変速装置32の可動斜板37aの傾動操作は行われず、第二無段変速装置32は中立状態に維持され、前述の如く、左右のリングギア84・85はロック軸53により回転不能にロックされ、更に、該リングギア84・85に一体構成されたプラネタリギア91・91・・・も回転不能にロックされている。一方、第一無段変速装置31からの主変速動力は、副変速された後に駆動センタギア87からサンギア90に伝達され、該サンギア90が回転駆動される。
【0031】
従って、該サンギア90に噛合するプラネタリギア91・91・・・も回転駆動されるが、該プラネタリギア91・91・・・に半径方向外側で噛合するインターナルギア92・93は前述の如く回転不能にロックされており、プラネタリギア91・91・・・は、自転しつつサンギア90の回転方向と同一方向に公転する。このため、該プラネタリギア91・91・・・を枢支する左右のキャリア94・95も、サンギア90の回転方向と同一方向に、しかも左右のキャリア94・95間で同一速度で回転駆動され、これにより、キャリア94・95に固設された左右の走行駆動軸51L・51Rが、同一方向・同一速度で回転して機体は直進走行する。
【0032】
一方、直進走行中に操向ハンドル22を回動操作して、第二無段変速装置32の可動斜板37aを傾動操作し、前述の如く、左右のリングギア84・85に対して互いに逆方向の回転を与えると、該リングギア84・85のそれぞれのインターナルギア92・93に噛合するプラネタリギア91・91・・・の公転速度、すなわちキャリア94・95の回転速度が、一方のキャリアでは増速され、他方のキャリアでは減速されることとなる。
【0033】
従って、主駆動軸86により同一方向・同一速度で回転している左右の走行駆動軸51L・51Rに対し回転数差が与えられることとなり、これにより、左右の駆動スプロケット54L・54Rに回転数差が発生して機体が旋回できるようにしている。
【0034】
なお、前記伝達軸48上で小径ギア64と副変速入力ギア56との間には、伝達ギア65が固設され、該伝達ギア65は、PTO軸である前記刈取出力軸50の右端に固設された連結ギア73に噛合されている。そして、刈取出力軸50の左端はミッションケース29の側壁を貫通して突出され、該突出端には刈取出力プーリ74が固設され、該刈取出力プーリ74は前記刈取部6とベルト75等によって連動連結されており、刈取部6への主変速動力の伝達を可能としている。
【0035】
次に、以上のような動力伝達構成から成る共通のトランスミッション2を使用した場合の、大型仕様のコンバイン1の車軸駆動装置28と、小型仕様のコンバイン1Aの車軸駆動装置28Aの構造と搭載構成について、図3乃至図7により説明する。
【0036】
図3、図4(a)、図5に示すように、大型仕様のコンバイン1の車軸駆動装置28においては、ミッションケース29の左側のケース半部96の下方外側面に設けたケース取付部96aには、前方に突出した内膨出部96bが形成される一方、左側のアクスルケース100の基部の内側面に設けた装着部100aにも、前方に突出した外膨出部100bが形成されており、該外膨出部100bは、ボルト等の締結部材102によって、前記内膨出部96bに対して着脱可能に覆設されている。同様にして、ミッションケース29の右側のケース半部97の下方外側面に設けたケース取付部97aにも、前方に突出した内膨出部97bが形成される一方、右側のアクスルケース101の基部の内側面に設けた装着部101aにも、前方に突出した外膨出部101bが形成されており、該外膨出部101bも、前記締結部材102によって、前記内膨出部97bに対して着脱可能に覆設されている。
【0037】
そして、このうちの内膨出部96bと外膨出部100bとにより囲まれた部分には、内膨出部96b側の内減速室98aと外膨出部100b側の外減速室98bから成る収納空間98が設けられ、該収納空間98に左側の最終減速装置104が組み込まれている。該最終減速装置104においては、前記走行駆動軸51Lの外端が前記収納空間98に突入され、該突入部は、前記内膨出部96b側のベアリング106と外膨出部100b側のベアリング107によって回転可能に支持されると共に、同じ突入部には、小径ギア110が固設されている。一方、前記アクスルケース100内の車軸66Lの内端も前記収納空間98に突入され、該突入部は、前記内膨出部96b側のベアリング108と外膨出部100b側のベアリング109によって回転可能に支持されると共に、同じ突入部には、大径ギア111が固設され、該大径ギア111は前記小径ギア110と噛合されており、これにより、前記小径ギア110と大径ギア111から成る左側の最終減速ギア列が形成されている。
【0038】
同様にして、前記内膨出部97bと外膨出部101bとにより囲まれた部分には、内膨出部97b側の内減速室99aと外膨出部101b側の外減速室99bから成る収納空間99が設けられ、該収納空間99に右側の最終減速装置105が組み込まれている。該最終減速装置105においても、前記走行駆動軸51Rの外端が前記収納空間99に突入され、該突入部は、前記内膨出部97b側のベアリング112と外膨出部101b側のベアリング113によって回転可能に支持されると共に、同じ突入部には、小径ギア116が固設されている。一方、前記アクスルケース101内の車軸66Rの内端も前記収納空間99に突入され、該突入部は、前記内膨出部97b側のベアリング114と外膨出部101b側のベアリング115によって回転可能に支持されると共に、同じ突入部には、大径ギア117が固設され、該大径ギア117は前記小径ギア116と噛合されており、これにより、前記小径ギア116と大径ギア117から成る右側の最終減速ギア列が形成されている。
【0039】
従って、大型仕様のコンバイン1の車軸駆動装置28においては、トランスミッション2からの動力は、上述のような最終減速装置104・105によって減速されると同時にトルクも増大され、それぞれ、左右の車軸66L・66Rを高トルクで走行駆動できるようにしている。
【0040】
また、図4(b)、図6に示すように、小型仕様のコンバイン1Aの車軸駆動装置28Aとは、前記大型仕様のコンバイン1の車軸駆動装置28に使用したものと共通のトランスミッション2を左右反転させた後、該トランスミッション2のケース取付部96a・97aに、前記アクスルケース100・101とは異なる構造のアクスルケース118・119を装着して組み立てたものである。
【0041】
このうちの左側のアクスルケース118においては、基部の内側面に装着部118aが設けられ、該装着部118aには、前記ケース取付部97aの内膨出部97bに連結固定可能な形状に外膨出部118bが形成されているが、該外膨出部118b内への最終減速装置104の組み込みが不要なため、前記外減速室98bほど大きな空間は形成されていない。更に、前記キャリア95のボス部95aには、前記走行駆動軸51Lの内端部の代わりに、車軸120Lの内端部がスプライン嵌合され、該車軸120Lは、そのままアクスルケース118内を左右外方に延出され、その延出部に、前記駆動スプロケット54Lが固定されている。
【0042】
同様に、右側のアクスルケース119についても、基部の内側面に装着部119aが設けられ、該装着部119aには、前記ケース取付部96aの内膨出部96bに連結固定可能な形状に外膨出部119bが形成されているが、該外膨出部119b内への最終減速装置105の組み込みが不要なために、前記外減速室99bほど大きな空間は形成されていない。更に、前記キャリア94のボス部94aには、走行駆動軸51Rの内端部の代わりに、車軸120Rの内端部がスプライン嵌合され、該車軸120Rは、そのままアクスルケース119内を左右外方に延出され、その延出部に、前記駆動スプロケット54Rが固定されている。
【0043】
従って、小型仕様のコンバイン1Aの車軸駆動装置28Aにおいては、トランスミッション2からの動力は、最終減速されることなく、そのままのトルクで左右の車軸120L・120Rを走行駆動できるようにしている。
【0044】
以上のような構造を有する車軸駆動装置28・28Aにおける車軸位置調整構造について、大型仕様のコンバイン1に搭載している車軸駆動装置28を利用して車軸駆動装置28Aを組み立て、該車軸駆動装置28Aを小型仕様のコンバイン1Aに搭載する場合を例に説明する。
【0045】
図4に示すように、大型仕様のコンバイン1の車軸駆動装置28において、ミッションケース29の上下略中央の前後端部には、固定ステー125・126が前後外方にそれぞれ突出形成され、該固定ステー125・126をボルト等の取付部材123・124によって機台5前部に固定することにより、車軸駆動装置28はコンバイン1に搭載されている。そこで、該取付部材123・124を抜脱して車軸駆動装置28を機台5から取り外し、その後、前記ミッションケース29の左右のケース取付部96a・97aと、左右のアクスルケース100・101の装着部100a・101aとを締結固定していた前記複数の締結部材102を抜脱し、左右のアクスルケース100・101をミッションケース29から取り外す。
【0046】
この際、左右の車軸66L・66Rと最終減速装置104・105も、左右のアクスルケース100・101と一緒にミッションケース29から取り外すが、該ミッションケース29側のベアリング106・108・112・114のうち、ベアリング106・112は取り付けたままにして残し、該ベアリング106・112によって外周支持された、キャリア94・95のボス部94a・95aから、スプライン嵌合されている前記走行駆動軸51L・51Rのみを左右外方に摺動させて脱着する。
【0047】
このようにしてアクスルケース100・101を取り外した後、前述の如く、トランスミッション2を左右反転させる。該トランスミッション2のケース取付部97a・96aには、それぞれ、左右のアクスルケース118・119の装着部118a・119aを複数の締結部材121によって締結固定することにより、左右のアクスルケース118・119をミッションケース29に装着し、図6に示す小型仕様のコンバイン1Aの車軸駆動装置28Aを組み立てる。この際、左右の車軸120L・120Rの内端部は、それぞれ、前記キャリア95・94のボス部95a・94aに内挿されてスプライン嵌合される。
【0048】
このようにして組み立てた車軸駆動装置28Aは、図4に示すように、ミッションケース29の固定ステー126・125を取付部材124・123によって機台5A前部に固定することにより、小型仕様のコンバイン1Aに搭載される。
【0049】
この際、駆動スプロケット54L・54Rの回動中心位置は、前方に突出した前記内膨出部96b・97bの前部に配置した車軸66L・66Rの軸心中心の前後方向位置127から、車軸120L・120Rの軸心中心の前後方向位置128まで後退することとなり、共通のトランスミッション2を使用したにもかかわらず、該トランスミッション2を左右反転させて組み立てた車軸駆動装置28Aは、大型仕様のコンバイン1よりも長さ129だけ前後車軸間長が短い小型仕様のコンバイン1Aに搭載することができる。
【0050】
なお、図4に示すように、例えば、車軸駆動装置28において、走行駆動軸51L・51Rの矢印130に示す回転方向を正転方向、該正転方向の反対方向を逆転方向とすると、最終減速装置104・105を伝達する間に、トランスミッション2からの動力の回転方向は、矢印130方向(正転方向)→矢印131方向(逆転方向)のように変化し、車軸66L・66Rは逆転方向に回転する。一方、車軸駆動装置28Aにおいては、トランスミッション2を左右反転させるため、トランスミッション2からの動力の回転方向は、矢印132方向に示すように、矢印130と反対方向、つまり逆転方向となり、最終減速装置104・105を介さないでそのまま駆動される車軸120L・120Rも逆転方向に回転することとなる。これにより、車軸駆動装置28と車軸駆動装置28A間では、車軸66L・66Rと車軸120L・120Rの回転方向を同方向とすることができる。
【0051】
すなわち、車軸66L・66R・120L・120Rを収納するアクスルケース100・101・118・119をトランスミッション2のミッションケース29の左右側面に装着して成る作業車両であるコンバイン1・1Aの車軸駆動装置28・28Aにおいて、前記車軸120L・120Rのみを収納する第一アクスルケースであるアクスルケース118・119と、前記車軸66L・66Rまでの最終減速装置104・105を車軸66L・66Rと一緒に収納する第二アクスルケースであるアクスルケース100・101を、コンバインの仕様に応じて付け替え可能な、共通のケース取付部96a・97aを前記トランスミッション2に備えると共に、前記車軸66L・66R・120L・120Rの軸心中心の前後方向位置を調節可能な車軸位置調節構造を設けたので、前記トランスミッション2に大型車両用で高耐久性構造のものを使用した上で、共通のトランスミッション2の前記ケース取付部96a・97aに前記アクスルケース118・119を装着すると共に、前記車軸位置調節構造によって前後車軸間長を短くすることにより、小型車両であるコンバイン1A用の車軸駆動装置28Aを構成し、一方、同じケース取付部96a・97aに前記アクスルケース100・101を装着すると共に、前記車軸位置調節構造によって前後車軸間長を逆に長くすることにより、大型車両であるコンバイン1用の車軸駆動装置28を構成することができる。従って、車軸駆動装置28Aをコンバイン1Aに適用しても、設置スペースを拡大する必要がなく大きな設計変更が不要となり、車軸駆動装置28をコンバイン1に適用しても、伝達部材や支持部材の損耗や破損等の不具合を起こさずに高トルクが得られる。これにより、製造コストの増加や小型車両の大型化、及びメンテナンスコストの増加や作業効率の低下を招くことなく、トランスミッション2の共通化が可能となり、コンバインが大型・小型等の異なる仕様であってもトランスミッション2を変更する必要がなく、在庫管理が容易となり、トランスミッション2に使用する部品の共通化によるコスト低減も図ることができる。
【0052】
更に、前記車軸位置調節構造では、前記最終減速装置104・105の内側部分を収納する減速室である内減速室98a・99aを、前記ケース取付部96a・97aで前後一方に向かって張り出した膨出部である内膨出部96b・97b内に形成し、仕様の異なる作業車両であるコンバイン間では、前記トランスミッション2を左右反転して取り付けることにより前記内膨出部96b・97bを前後他方に反転移動すると共に、前記ケース取付部96a・97a内に軸支する車軸66L・66R・120L・120Rの軸心中心の前後方向位置を調節するので、前記トランスミッション2を左右反転するだけの簡単操作により大型・小型等の異なる仕様に応じて内膨出部96b・97bを適正配置できると共に、該内膨出部96b・97bやケース取付部96a・97aの基部等に軸支する車軸66L・66R・120L・120Rの軸心中心の前後方向位置の変更が容易となり、例えば、本実施例のように、内膨出部96b・97bを前後外方に配置し該内膨出部96b・97bに車軸66L・66Rを設けることにより、前後車軸間長を長くして大型車両であるコンバイン1用の車軸駆動装置28とし、更に、該トランスミッション2を左右反転させて内膨出部96b・97bを前後内方に配置し、ケース取付部96a・97aの基部に車軸120L・120Rを設けることにより、前後車軸間長を短くして小型車両であるコンバイン1A用の車軸駆動装置28Aとすることができる。加えて、前記最終減速装置104・105が一対の大小のギアである小径ギア110と大径ギア111、小径ギア116と大径ギア117から成る噛合ギア機構の場合、該噛合ギア機構を介して車軸66L・66Rを駆動するコンバイン1用の車軸駆動装置28と、噛合ギア機構を介さずに車軸120L・120Rを直接駆動するコンバイン1A用の車軸駆動装置28Aとでは、そのままでは車軸の回転方向が逆となるが、前述の如くトランスミッション2を左右反転することにより、車軸66L・66Rと車軸120L・120Rの回転方向を同じにすることができ、別途に反転機構を設ける必要がなく、装置コストの低減を図ることができる。
【0053】
また、図7に示すように、前記トランスミッション2における内膨出部96b・97bの傾倒角度を変えることにより、前後車軸間長を変更することができる。ここで、前記トランスミッション2においては、内膨出部96b・97bは前方に突出され、前記走行駆動軸51L・51Rの軸心中心と車軸66L・66Rの軸心中心とを通って内膨出部96b・97bの膨出方向を示すライン(以下、「膨出ライン」とする)122は、略水平な傾倒位置133に設定されている。
【0054】
そして、トランスミッション2Bでは、膨出ライン122が傾倒位置134となるように、前記内膨出部96b・97bは、それぞれ前記走行駆動軸51L・51Rの軸心中心周りを前斜め下方に傾倒して膨出形成されているため、駆動スプロケット54L・54Rの回動中心位置は、前記前後方向位置127から前後方向位置138まで長さ136だけ後退することとなり、車軸駆動装置28Bは、コンバイン1よりも前後車軸間長が短いコンバイン1Bに搭載することができる。
【0055】
更に、トランスミッション2Cでは、膨出ライン122が傾倒位置135となるように、前記内膨出部96b・97bは、それぞれ前記走行駆動軸51L・51Rの軸心周りを略垂直になるまで傾倒して膨出形成されているため、駆動スプロケット54L・54Rの回動中心位置は、前記前後方向位置138から前後方向位置139まで長さ137だけ更に後退することとなり、車軸駆動装置28Cは、コンバイン1Bよりも前後車軸間長が短いコンバイン1Cに搭載することができる。
【0056】
一方、このようにして膨出ライン122の傾倒位置を変更しても、内膨出部96b・97bに覆設する前記外膨出部100b・101bの形状の変更は不要であるため、トランスミッション2に装着するアクスルケース100・101を、前記トランスミッション2B・2Cにもそのまま適用することができる。なお、膨出ライン122の傾倒位置の変更は、内膨出部96b・97bをミッションケース29とは別体として構成し、内膨出部96b・97bを傾倒させた後にボルトなどの締結部材でミッションケース29本体に再固定するようにしてもよく、変更方法は特に限定されるものではない。
【0057】
すなわち、前記ケース取付部96a・97aにおける膨出部である内膨出部96b・97bの傾倒角度を変更可能な構成とするので、内膨出部96b・97bの前後外方部位に設けた車軸66L・66Rの軸心中心の前後方向位置を変更するだけで、駆動スプロケット54L・54Rの回動中心位置を細かく前後移動することができ、作業車両であるコンバイン1の前後車軸間長を、大きな設計変更を伴うことなく、しかも各種仕様に適した長さに、容易に調節することができる。
【0058】
次に、別形態のトランスミッション2Aを使用した場合の、大型仕様のコンバイン1Dの車軸駆動装置28Dと、小型仕様のコンバイン1Eの車軸駆動装置28Eの構造と搭載構成について、図8乃至図10により説明する。図9に示すように、該トランスミッション2Aでは、動力伝達構成は前記トランスミッション2と同じであるが、ケース取付部141a・142aの構造が前記ケース取付部96a・97aとは異なる。
【0059】
図8(a)、図9に示すように、例えば、大型仕様のコンバイン1Dの車軸駆動装置28Dにおいて、ミッションケース140は、左右のケース半部141・142から成り、該ケース半部141・142には、前記トランスミッション2と同様、それぞれにケース取付部141a・142aが設けられているが、該ケース取付部141a・142aのいずれにも、前記内膨出部96b・97bのような膨出部は設けられずに、狭い開口141b・142bのみが形成されている。
【0060】
そして、該開口141b・142bを覆うようにして、中間部材143・144が、それぞれ、前記ケース取付部141a・142aの外側面に取り付けられると共に、該中間部材143・144の内側には、前方に突出した内膨出部143a・144aが形成されている。更に、該中間部材143・144の外側面に対して、前記アクスルケース100・101の装着部100a・101aに形成された外膨出部100b・101bが取り付けられており、前記締結部材102を外膨出部100b・101bを貫通して中間部材143・144まで螺挿し、更に、締結部材154を外膨出部100b・101bと中間部材143・144を貫通してケース取付部141a・142aまで螺挿することにより、アクスルケース100・101が、中間部材143・144を介してミッションケース140に、着脱可能に装着されるようにしている。
【0061】
このうちの内膨出部143aと外膨出部100bとにより囲まれた部分には、内膨出部143a側の内減速室145aと外膨出部100b側の外減速室145bから成る収納空間145が設けられ、該収納空間145に左側の前記最終減速装置104が組み込まれている。同様にして、前記内膨出部144aと外膨出部101bとにより囲まれた部分には、内膨出部144a側の内減速室146aと外膨出部101b側の外減速室146bから成る収納空間146が設けられ、該収納空間146に右側の前記最終減速装置105が組み込まれている。
【0062】
従って、大型仕様のコンバイン1Dでも、前記トランスミッション2の場合と同様に、トランスミッション2Aからの動力は、最終減速装置104・105によって減速されると同時にトルクも増大し、それぞれ、左右の車軸66L・66Rを高トルクで走行駆動できるようにしている。
【0063】
また、図8(b)、図10に示すように、小型仕様のコンバイン1Eの車軸駆動装置28Eにおいても、前記大型仕様のコンバイン1Dの車軸駆動装置28Dと同一構造のトランスミッション2Aが用いられるが、該トランスミッション2Aの左右のケース取付部141a・142aに装着される左右のアクスルケース147・148について、その構造、動力伝達構成、及びトランスミッション2Aとの連結構成が、前記車軸駆動装置28Dの場合とは異なる。
【0064】
すなわち、左右のアクスルケース147・148のいずれにも、前記外膨出部100b・101bのような膨出部は設けられず、筒状本体147b・148bの基部の内側面に鍔状の装着部147a・148aが設けられ、該装着部147a・148aが、前記中間部材143・144を介さずにミッションケース140のケース取付部141a・142aに直接取り付けられており、締結部材150等を前記装着部147a・148aを貫通してケース取付部141a・142aまで螺挿することにより、アクスルケース147・148が、直接ミッションケース140に、着脱可能に装着されるようにしている。
【0065】
更に、トランスミッション2A内のキャリア94・95のボス部94a・95aには、走行駆動軸51L・51Rの内端部の代わりに車軸149L・149Rの内端部がスプライン嵌合され、該車軸149L・149Rは、そのままアクスルケース147・148内を左右外方に延出され、その延出部に、前記駆動スプロケット54R・54Lが固定されている。
【0066】
従って、小型仕様のコンバイン1Eの車軸駆動装置28Eにおいては、トランスミッション2Aからの動力は、最終減速されることなく、そのままのトルクで、左右の車軸149L・149Rを走行駆動できるようにしている。
【0067】
以上のような構造を有する車軸駆動装置28D・28Eにおける車軸位置調整構造について、大型仕様のコンバイン1Dに搭載している車軸駆動装置28Dを利用して車軸駆動装置28Eを組み立て、該車軸駆動装置28Eを小型仕様のコンバイン1Eに搭載する場合を例に説明する。
【0068】
図8に示すように、大型仕様のコンバイン1Dの車軸駆動装置28Dにおいて、前記ミッションケース29の場合と同様に、ミッションケース140の上下略中央の前後端部には、固定ステー125・126が前後に形成され、該固定ステー125・126を取付部材123・124によって機台5D前部に固定することにより、車軸駆動装置28Dがコンバイン1Dに搭載されている。そこで、該取付部材123・124を抜脱して車軸駆動装置28Dを機台5Dから取り外し、その後、前記ミッションケース140の左右のケース取付部141a・142aと、中間部材143・144、及びアクスルケース100・101の装着部100a・101aを締結固定していた前記複数の締結部材102・154を抜脱し、左右のアクスルケース100・101と中間部材143・144を、左右の車軸66L・66Rや最終減速装置104・105と一緒に、ミッションケース140から取り外す。
【0069】
そして、ミッションケース140に設けた左右のケース取付部141a・142aに、それぞれ、左右のアクスルケース147・148の装着部147a・148aを前記複数の締結部材150によって締結固定することにより、左右のアクスルケース147・148をミッションケース29に装着し、図10に示す小型仕様のコンバイン1Eの車軸駆動装置28Eを組み立てる。
【0070】
その後、該車軸駆動装置28Eは、図8に示すように、左右反転させずにそのまま、ミッションケース140の固定ステー125・126を取付部材123・124によって機台5E前部に固定することにより、小型仕様のコンバイン1Eに搭載される。
【0071】
この際、駆動スプロケット54L・54Rの回動中心位置は、中間部材143・144の内膨出部143a・144a前部の車軸66L・66Rの軸心中心の前後方向位置151から、車軸149L・149Rの軸心中心の前後方向位置152まで後退することとなり、共通のトランスミッション2Aを使用したにもかかわらず、該トランスミッション2Aから中間部材143・144を脱着させた車軸駆動装置28Eは、大型仕様のコンバイン1Dよりも長さ153だけ前後車軸間長が短い小型仕様のコンバイン1Eに搭載することができるのである。
【0072】
すなわち、前記車軸位置調節構造では、前記最終減速装置104・105の内側部分を収納する減速室である内減速室145a・146aを、前記ケース取付部141a・142aに着脱自在に設けた中間部材143・144で前後外方に向かって張り出した膨出部である内膨出部143a・144a内に形成し、仕様の異なる作業車両であるコンバイン間では、前記中間部材143・144を着脱することにより前記内膨出部143a・144aの有無を変更すると共に、前記ケース取付部141a・142a内に軸支する車軸66L・66R・149L・149Rの軸心中心の前後方向位置を調節するので、前記中間部材143・144を着脱するだけの簡単操作により内膨出部143a・144aの有無を大型・小型等の異なる仕様に応じて変更できると共に、該内膨出部143a・144aやケース取付部141a・142a等に軸支する車軸66L・66R・149L・149Rの軸心中心の前後方向位置の変更が容易となり、例えば、ケース取付部141a・142aに中間部材143・144を介して第二アクスルケースであるアクスルケース100・101を装着し、中間部材143・144の内膨出部143a・144aに車軸66L・66Rを設けることにより、前後車軸間長を長くして大型車両であるコンバイン1D用の車軸駆動装置28Dとし、更に、同じケース取付部141a・142aに第一アクスルケースであるアクスルケース147・148を直接装着し、トランスミッション2Aからの出力軸である走行駆動軸を車軸149L・149Rとすることにより、前後車軸間長を短くして小型車両であるコンバイン1E用の車軸駆動装置28Eとすることができる。加えて、中間部材143・144を変更するだけで、様々な形状・仕様のアクスルケースをトランスミッション2Aに装着することができ、共通化したトランスミッション2Aの汎用性を更に高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、車軸を収納するアクスルケースをトランスミッションのミッションケースの左右側面に装着して成る、全ての作業車両の車軸駆動装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係わる車軸駆動装置を搭載したコンバインの全体構成を示す全体側面図である。
【図2】同じく全体平面図である。
【図3】トランスミッションの動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図4】トランスミッションの左右反転により仕様変更に対応可能な車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図であって、図4(a)は大型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図4(b)は小型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図である。
【図5】図4のA−A矢視一部断面図である。
【図6】図4のB−B矢視一部断面図である。
【図7】トランスミッションの膨出ラインの傾倒位置を変更した場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図であって、図7(a)は膨出ラインが略水平な場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図7(b)は膨出ラインが前斜め下方の場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図7(c)は膨出ラインが略垂直な場合の車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図である。
【図8】トランスミッションへの中間部材の着脱により仕様変更に対応可能な車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図であって、図8(a)は大型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図、図8(b)は小型仕様のコンバインへの車軸駆動装置の搭載状況を示すコンバイン前部の側面図である。
【図9】図8のC−C矢視一部断面図である。
【図10】図8のD−D矢視一部断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1・1A・1B・1C・1D・1E 作業車両
2・2A トランスミッション
28・28A・28B・28C・28D・28E 車軸駆動装置
29・140 ミッションケース
66L・66R・120L・120R・149L・149R 車軸
96a・97a・141a・142a ケース取付部
96b・97b・143a・144a 膨出部
98a・99a・145a・146a 減速室
100・101 第二アクスルケース
104・105 最終減速装置
118・119・147・148 第一アクスルケース
143・144 中間部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸を収納するアクスルケースをトランスミッションのミッションケースの左右側面に装着して成る作業車両の車軸駆動装置において、前記車軸のみを収納する第一アクスルケースと、前記車軸までの最終減速装置を車軸と一緒に収納する第二アクスルケースを、作業車両の仕様に応じて付け替え可能な、共通のケース取付部を前記トランスミッションに備えると共に、前記車軸の軸心中心の前後方向位置を調節可能な車軸位置調節構造を設けたことを特徴とする作業車両の車軸駆動装置。
【請求項2】
前記車軸位置調節構造では、前記最終減速装置の内側部分を収納する減速室を、前記ケース取付部で前後一方に向かって張り出した膨出部内に形成し、仕様の異なる作業車両間では、前記トランスミッションを左右反転して取り付けることにより前記膨出部を前後他方に反転移動すると共に、前記ケース取付部内に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置を調節することを特徴とする請求項1記載の作業車両の車軸駆動装置。
【請求項3】
前記車軸位置調節構造では、前記最終減速装置の内側部分を収納する減速室を、前記ケース取付部に着脱自在に設けた中間部材で前後外方に向かって張り出した膨出部内に形成し、仕様の異なる作業車両間では、前記中間部材を着脱することにより前記膨出部の有無を変更すると共に、前記ケース取付部内に軸支する車軸の軸心中心の前後方向位置を調節することを特徴とする請求項1記載の作業車両の車軸駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−149162(P2009−149162A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327520(P2007−327520)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】