説明

作業車輌の遠隔操作システム

【課題】携帯電話機の局番に対応させて設定した作業車輌しか遠隔操作できないものとして、混信による作業車輌の暴走を防いで安全性を向上させると共に、作業車輌の盗難を防ぐ。
【解決手段】携帯電話機40と作業車輌A側の制御装置とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話40の操作に基づいて作業車輌A側の制御装置から走行変速装置又は操向制御装置又はエンジン制御部又は作業装置昇降制御部へ出力するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバイン等の農業用作業車輌やドーザーやバックホー等の土木建設用作業車輌を遠隔操作する作業車輌の遠隔操作システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯式の無線操作器によって各種の作業車輌を遠隔操作するシステムがあるが、これらは操作対象の作業車輌と操縦者側の無線操作器との1対1の関係で成り立つものである。従って、複数台の作業車輌が接近している場合には、これらの遠隔操作時に電波の混信を起して誤動作を起す不具合がある。このため、通信関係を構成する作業車輌側の制御装置と無線操作器との間で送受信する電波に特徴的な信号を有さしめることによって、他の作業車輌との混信を防ぐ技術が利用されている。
【0003】
尚、特許文献1に示すように、作業車輌の作業状態等を携帯電話の画面に表示する技術がある。
【特許文献1】特開2004−283129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術では、この電波上の特徴信号の擬似性が強い場合に、混信を完全に防ぐことは難しく、作業車輌の誤動作を抑えることが困難である。
また、作業車輌が盗難にあった場合、この電波上の特徴信号を真似た無線操作器を使えば、この作業車輌を容易に操作することができてしまう。
【0005】
また、広い作業場においては、作業車輌と無線操作器とが遠く離れるために、無線操作器からの電波として高出力のものが必要となり、電力消費量が大きくなる結果、この携帯式の無線操作器の電池として大型のものが必要となり、重量の増加から携帯性を損ねる欠点がある。
【0006】
また、上記特許文献1に記載された技術は、作業車輌の作業状態等を携帯電話の画面に表示するものに過ぎず、作業車輌を遠隔操作するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上述の如き課題を解決するために、次のような技術的手段を講じる。
即ち、請求項1記載の発明は、携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)から走行変速装置(39)へ変速作動出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システムとしたものである。
【0008】
しかして、携帯電話機40を操作して、該携帯電話機40と作業車輌A側の制御装置28とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続しようとすると、この携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌A側の制御装置28にのみ回線が接続される。この状態で携帯電話機40の特定のキーを操作すると、作業車輌A側の制御装置28から該作業車輌40の走行変速装置39へ変速作動出力が行なわれて作業車輌は変速走行する。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)から操向制御装置(38)へ操向作動出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システムとしたものである。
【0010】
しかして、携帯電話機40を操作して、該携帯電話機40と作業車輌A側の制御装置28とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続しようとすると、この携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌A側の制御装置28にのみ回線が接続される。この状態で携帯電話機40の特定のキーを操作すると、作業車輌A側の制御装置28から該作業車輌Aの操向制御装置38へ操向作動出力が行なわれて作業車輌は操向する。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)からエンジン制御部(37)へ始動出力または停止出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システムとしたものである。
【0012】
しかして、携帯電話機40を操作して、該携帯電話機40と作業車輌A側の制御装置28とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続しようとすると、この携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌A側の制御装置28にのみ回線が接続される。この状態で携帯電話機40の特定のキーを操作すると、作業車輌A側の制御装置28から該作業車輌Aのエンジン制御部37へ始動出力または停止出力が行なわれてエンジンが始動または停止する。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)から作業装置昇降制御部(55)へ昇降作動出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システムとしたものである。
【0014】
しかして、携帯電話機40を操作して、該携帯電話機40と作業車輌A側の制御装置28とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続しようとすると、この携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌A側の制御装置28にのみ回線が接続される。この状態で携帯電話機40の特定のキーを操作すると、作業車輌A側の制御装置28から該作業車輌Aの作業装置昇降制御部55へ昇降作動出力が行なわれて作業装置が昇降作動する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によると、携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌しか走行変速操作できないために、従来のような混信による作業車輌Aの暴走が起こりにくく、作業の安全性を高めることができる。また、同一の作業車輌Aは、設定された局番の同一の携帯電話機40でしか変速操作できないために、この作業車輌Aの盗難を少なくすることができる。また、携帯電話機40の微弱な電波によって変速操作できるため、従来のような大型の無線送信器に比べて携帯性がよく、操作性を向上させることができる。
【0016】
また、請求項2記載の発明によると、携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌Aしか操向操作できないために、従来のような混信による作業車輌Aの暴走が起こりにくく、作業の安全性を高めることができる。また、同一の作業車輌Aは、設定された局番の同一の携帯電話機40でしか操向操作できないために、この作業車輌Aの盗難を少なくすることができる。また、携帯電話機40の微弱な電波によって操向操作できるため、従来のような大型の無線送信器に比べて携帯性がよく、操作性を向上させることができる。
【0017】
また、請求項3記載の発明によると、携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌Aしかエンジンの始動操作または停止操作ができないために、従来のような混信による作業車輌Aの暴走が起こりにくく、作業の安全性を高めることができる。また、同一の作業車輌Aは、設定された局番の同一の携帯電話機40でしかエンジンの始動操作または停止操作ができないために、この作業車輌Aの盗難を少なくすることができる。また、携帯電話機40の微弱な電波によってエンジンの始動操作または停止操作ができるため、従来のような大型の無線送信器に比べて携帯性がよく、操作性を向上させることができる。
【0018】
また、請求項4記載の発明によると、携帯電話機40の局番に対応させて設定した作業車輌Aしか作業装置を昇降操作できないために、従来のような混信による作業装置の異常昇降作動が起こりにくく、作業の安全性を高めることができる。また、同一の作業車輌Aは、設定された局番の同一の携帯電話機40でしか作業装置の昇降操作ができないために、この作業車輌Aの盗難を少なくすることができる。また、携帯電機話40の微弱な電波によって作業装置の昇降操作ができるため、従来のような大型の無線送信器に比べて携帯性がよく、操作性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明における作業車輌の遠隔操作システムの実施の形態を、農業用の作業車輌としての自脱型のコンバインを例示して説明する。
図1に示すように、このコンバインAは、機台フレーム1に対して、下側に走行部2を設け、前部左右一側に操縦部3を搭載し、左右他側に脱穀部4を搭載し、前記操縦部3の後側に穀粒貯留部5を搭載し、前側に刈取部11を昇降自在に設けて構成する。
【0020】
前記走行部2は、機台フレーム1の前部に取付けた走行ミッションケース6から駆動される左右の駆動輪7,7と、左右の転輪フレーム8,8に軸支した多数の転輪9,9群とにわたって、クローラ10,10を巻き掛けて構成する。前記走行ミッションケース6内の伝動機構は、静油圧式無段変速装置の出力によって駆動されるもので、この伝動機構には、センターギヤに対して噛み合う状態と噛み合わない状態とに切替自在の左右のサイドクラッチ機構を設け、該サイドクラッチ機構を介して左右の駆動輪7,7へ駆動力が伝達されるように構成する。
【0021】
また、前記操縦部3は、エンジン12を覆うエンジンカバーの上面に取付けた座席13と、該座席13の前方の操作パネルに配置した操向操作及び刈取昇降操作用の操作レバー14と、前記座席13の側方の操作パネルに配置した変速レバー15等とから構成する。
【0022】
また、前記脱穀部4は、フィードチェン16及び挟扼杆17を有する上側の扱室18と、下側の選別室19とから構成する。
また、前記穀粒貯留部5は、前記脱穀部4で収穫された穀粒を一時貯留するものであり、排出オーガ20を備える。
【0023】
また、前記刈取部11は、植立穀稈を分草する分草体21と、植立穀稈を引起す引起装置22と、引起し穀稈を刈り取る刈刃23と、刈取穀稈を搬送する搬送チェン24と、該搬送チェン24から刈取穀稈を引き継いでフィードチェン16へ受け渡す供給搬送装置25とから構成する。更に、このように構成する刈取部11を、昇降用油圧シリンダ26の伸縮によって昇降するように構成する。
【0024】
そして、前記操縦部3に設けた変速レバー15の前後傾動操作によって、前記静油圧式無段変速装置の出力回転を前後方向に無段変速して左右の駆動輪7,7の回転速度を変更して走行速度を無段階に変速操作することができるように構成する。そして、該変速レバー15を変速用電動モータ27の作動によっても前後傾動させられるように構成する。これを走行変速装置39と称する。
【0025】
また、前記操縦部3に設けた操作レバー14の左右傾動操作によって操向用油圧バルブからの送油方向を切り換えて左右一側のプッシュシリンダを作動させ、該プッシュシリンダの作動によって前記走行ミッションケース6内の左右のサイドクラッチ機構のうちの左右いずれか一方をセンターギヤから離脱させて、この側に機体を旋回させることができるように構成する。これを操向制御装置38と称する。
【0026】
また、前記操縦部3に設けた操作レバー14の前後傾動操作によって昇降用油圧バルブからの送油方向を切り換えて前記昇降用油圧シリンダ26を伸縮作動させ、刈取部11を機台フレーム1に対して昇降させることができるように構成する。この昇降用油圧バルブから作業装置昇降制御部55を構成する。
【0027】
また、前記エンジン12の燃料噴射量等を制御するエンジン制御部37により、エンジン12の燃料噴射を絶ってエンジン12を停止させることができるように構成すると共に、セルモータを回転させると共に燃料噴射を開始してエンジン12を始動することができるように構成する。
【0028】
そして、図2に示すように、前記操縦部3に設ける制御装置28の入力側に、電話回線との通信状態を形成する通信器29と遠隔操作状態を有効状態または無効状態に切り換える遠隔操作入り切りスイッチ30とを接続する。また、前記制御装置29の出力側に、前記変速レバー15を傾動操作する変速用電動モータ27作動用の増速リレー31及び減速リレー32と、前記左右のプッシュシリンダを作動させる操向用油圧バルブの切換作動用の操向用ソレノイド33,34と、前記昇降用油圧シリンダ26を作動させる上昇用ソレノイド35及び下降用ソレノイド36と、前記エンジン制御部37とを接続する。
【0029】
これに対して、図3に示すように、携帯電話機40の制御部41の入力側に、電源入り切り操作用の電源キー42と、操作メニュー選択用の十字操作方向の十字キー43と、通話状態入り操作用の通話キー44と、1から0までの数字を入力するテンキー45と、マイクロフォン48とを接続する。また、該携帯電話機40の制御部41の出力側に、カラー液晶から成る表示部46と、最寄りの中継局との間で通信を行なう通信制御部47と、スピーカ49とを接続する。
【0030】
以上の構成により、携帯電話機40の電源キー42を入り操作し、十字キー43を操作して遠隔操作モードを選択してこれを有効状態に切り換えると、該携帯電話機40の制御部41から通信制御部47へ出力がなされ、該通信制御部47からダイヤルアップ用の電波出力がなされてこの電波が最寄りの中継局50で受信される。(図4にこの通信システムの概念図を示す。)そして、該中継局50から本局51へ送信された時点で、予め記憶してある接続先のコンバインAが特定され、本局51から再び中継局50へ戻された信号が該中継局50から電波として発せられ、コンバインA側の通信器29がこれを受信する。これによって、ダイヤルアップが完了して回線が接続され、コンバインAの遠隔操作が行なえる状態となる。従って、局番の異なる携帯電話機40では同一のコンバインA側と回線接続されることはない。尚、複数の本局51間で通信を行なう必要のある環境では、該本局51間をインターネットIによって接続して、通信することができるように構成する。この場合には、インターネットIからの各種情報を携帯電話機40側にダウンロードして表示部46に表示し、この情報をコンバインAの遠隔操作に利用することができる。例えば、インターネットI上の地図情報サイトから作業場の地図をダウンロードして携帯電話機40の表示部46に表示し、作業者がこの地図を見ながらコンバインAを安全に走行させることができる。
【0031】
この状態で、図5に示す前記携帯電話機40の十字キー43の上側を押すと、この操作状態が該十字キー43から制御部41へ入力され、該制御部41から通信制御部47への出力指令によって該通信制御部47から変速指令信号が発信される。この信号が上記の回線にのり、中継局50を介して本局51へ送信され、該本局51から再び中継局50を介してコンバインA側へ発信される。そして、この変速指令信号をコンバインA側の通信器29が受信すると、制御装置28から変速電動モータ27の増速リレー31又は減速リレー32へ出力がなされ、変速電動モータ27の正逆転によって前記変速レバー15が前後方向に傾動操作され、静油圧式無段変速装置の出力回転が正逆方向に無段階調節される。また、この変速レバー15の傾動方向および傾動位置は、前記携帯電話機40の十字キー43の操作方向および操作時間に応じて操作されるもので、該十字キー43の上側を押すと増速となり、この押し操作を維持する間だけ増速状態が継続される。また、該十字キー43の下側を押すと減速となり、この押し操作を継続する間だけ減速状態が継続される。
【0032】
これにより、コンバインAをトラックの荷台へ積み降ろす際や、巾寄せ、傾斜地の走行等を行う際に、操縦者がコンバインAを離れて遠隔操作するときに、コンバインAの走行速度を任意に調節することができ、安全性を向上させることができる。
【0033】
尚、上記携帯電話機40の制御部41の入力側に、車速増速ボタン52と車速減速ボタン53とからなる車速変速操作専用のボタンを接続して、上記と同様の通信システムにより、図6に示すように、各ボタン52,53を1回押すごとに車速が一定速度だけ変速されるように構成してもよい。これにより、コンバインAの車速調節を的確に行なうことができる。
【0034】
また、図7に示すように、上記携帯電話機40の十字キー43の中央部に中立ボタン54を設けて、該中立ボタン54を制御部41の入力側へ接続して、上記と同様の通信システムにより、該中立ボタン54を押し操作した場合に、コンバインAの走行速度が如何なる速度であっても、減速リレー32へ出力して変速用電動モータ27を減速側へ作動させてコンバインAの走行を停止させるように構成してもよい。これにより、緊急時に確実且つ迅速に走行を停止させることができ、安全性を向上させることができる。
【0035】
また、上記十字キー43の左右両側を択一的に押し操作することにより、上記と同様の通信システムにより、前記増速リレー31又は減速リレー32への出力方向を択一的に選択して前進走行か後進走行かに切り換え、この状態で十字キー43の上側及び下側を押すことによって、この選択された前進走行又は後進走行における走行速度が変速されるように構成してもよい。
【0036】
また、上記携帯電話機40の電源キー42を押し操作すると、上記と同様の通信システムにより、前記エンジン制御部37により、エンジン12の燃料噴射を絶ってエンジン12が停止され、前記通話キー44を押し操作すると、前記エンジン制御部37により、セルモータを回転させると共に燃料噴射を開始してエンジン12を始動することができるように構成してもよい。これにより、遠隔操作によって緊急停止ができると共に、操縦者の不注意によるトラブルを、遠隔地の補助者が監視して、状況に応じてエンジン12を停止させることができ、安全性が向上する。
【0037】
また、上記携帯電話機40の電源キー42を押し操作することによって、上記と同様の通信システムにより、コンバインAの走行速度が如何なる速度であっても、減速リレー32へ出力して変速用電動モータ27を減速側へ作動させてコンバインAの走行を停止させるように構成してもよい。これにより、緊急時に確実且つ迅速に走行を停止させることができ、安全性を向上させることができる。
【0038】
また、前記携帯電話器40の十字キー43の上側又は下側を押し操作することにより、上記と同様の通信システムにより、制御装置28から上昇用ソレノイド35又は下降用ソレノイド36へ出力がなされて油圧シリンダ26が伸縮作動し、これによって刈取部11が昇降作動するように構成してもよい。即ち、前記十字キー43の上側を押している間だけ、制御装置28から上昇用ソレノイド35へ出力がなされて油圧シリンダ26が伸長作動し、これによって刈取部11が上昇する。また、前記十字キー43の下側を押し操作している間だけ、制御装置28から下降用ソレノイド36へ出力がなされて油圧シリンダ26が短縮作動し、これによって刈取部11が下降する。これにより、コンバインAをトラックの荷台に積み降ろしする際や、コンバインAの巾寄せ、傾斜地の走行等、操縦者がコンバインAから離れて遠隔操作する場合に、刈取部11を昇降調節することができ、安全性及び操作性を向上させることができる。
【0039】
また、上記携帯電話機40の十字キー43の左右両側を択一的に押し操作することによって、上記と同様の通信システムにより、制御装置28から左側の操向用ソレノイド33又は右側の操向用ソレノイド34へ出力がなされ、操向用油圧バルブからの送油方向が切り換えられて、左右一側のプッシュシリンダを作動させ、該プッシュシリンダの作動によって前記走行ミッションケース6内の左右のサイドクラッチ機構のうちの左右いずれか一方をセンターギヤから離脱させて、この側に機体を旋回させることができるように構成してもよい。これにより、コンバインAをトラックの荷台に積み降ろしする際や、コンバインAの巾寄せ、傾斜地の走行等、操縦者がコンバインAから離れて遠隔操作する場合に、コンバインAの走行方向を左右に操向することができ、安全性及び操作性を向上させることができる。尚、上記サイドクラッチの左右両外側にサイドブレーキを構成し、操向時に、左右いずれか一方のサイドクラッチを切り且つこのサイドクラッチの切れた側の駆動輪7にブレーキを掛けるように構成してもよい。
【0040】
また、前記左右の駆動輪7,7の回転速度を検出する回転速度センサーを左右独立して設け、該左右の回転速度センサーによる検出結果を、コンバインA側の制御装置28から、上記と同様の通信システムを介して携帯電話機40側の制御部41に送り、該制御部41に接続された表示部46に図7に示すようにグラフィック表示(図示G)するように構成してもよい。これにより、遠隔地から左右の駆動輪7,7の速度差を確認して旋回半径の大きさを把握することができる。また、左右両側の回転速度センサーの検出結果に基づいて、コンバインAの走行速度を表示部46に表示(図示S)するように構成してもよい。また、図8に示すように、携帯電話機40の機能として備わっている電池残量表示部Eを利用してコンバインAの走行速度をグラフィック表示するように構成してもよい。また、図9に示すように、携帯電話機40の機能として備わっている音量表示部Vを利用してコンバインAの走行速度を表示するように構成してもよい。また、図10に示すように、携帯電話機40の表示部46に、コンバインAの前進走行速度と後進走行速度とを、互いに逆向きのバーとしてグラフィック表示するように構成してもよく、これにより、前進側走行速度と後進側走行速度との識別が容易に行なえる。また、図10のグラフィック表示において、前進側走行速度を表示するバーFと後進側走行速度を表示するバーRとを、異なる色で表示するように構成してもよく、これにより、前進側走行速度と後進側走行速度との識別を更に容易に行なうことができる。
【0041】
尚、上記のように、操縦部3に設けた操作レバー14の左右傾動操作によってコンバインAを操向すると共に該操作レバー14の前後傾動操作によって刈取部11を昇降調節する構成であり、また、携帯電話機40の十字キー43の左右両側を択一的に押すことによってコンバインAを操向すると共に該十字キー43の上下両側を択一的に押すことによって刈取部11を昇降調節する構成である。即ち、コンバインAの操縦部3に設けた操作レバー14と携帯電話機40の十字キー43の操作方向とが一致するため、操作を容易に行なうことができ、誤操作が少なくなる。
【0042】
また、コンバインAの副変速機構に、この副変速機構の変速切換位置を検出するセンサを設け、該センサによって低速状態が検出されているときにのみ、上記携帯電話機40による各種の遠隔操作が行なえる状態となるように構成してもよい。即ち、該センサによって副変速機構が低速以外の状態に切り換えられたことが検出されると、携帯電話機40側の制御部41から上記と同様の通信システムを介して作動指令が発せられても、コンバインA側の制御装置28から、増速リレー31、減速リレー32、左側の操向用ソレノイド33、右側の操向用ソレノイド34、エンジン制御部37、上昇用ソレノイド35、下降用ソレノイド36等へ出力されないように牽制するものである。これにより、副変速機構が高速位置に切り換えられてコンバインAが高速走行する場合には携帯電話機40による遠隔操作を行なえないようにでき、高速走行中のコンバインAの転倒や進路逸脱などを回避することができる。また、携帯電話機40の十字キー43によってコンバインAの走行速度を変速操作する場合には、コンバインA側の制御装置28から増速リレー31への出力を抑えて、コンバインAの走行速度が設定速度以上に増速しないように構成してもよい。
【0043】
また、コンバインA側の制御装置28の出力側にエンジン回転制御モータを接続し、携帯電話機40の十字キー43の操作によってコンバインAのエンジン回転数を調節できるように構成してもよいが、この場合には、十字キー43を操作し続けても、エンジン回転数が設定回転数を越えないように、制御装置28からエンジン回転制御モータへの増速出力を規制するように連繋する。これにより、遠隔操作によってエンジン回転数を調節する際に、エンジン回転数が異常に上昇してコンバインAが暴走するような危険を回避することができる。
【0044】
また、上記のように携帯電話機40の表示部46にコンバインAの走行速度を表示する構成において、携帯電話機40側の操作によってコンバインAの走行変速操作や操向操作や刈取部11の昇降操作やエンジン始動操作やエンジン停止操作が行なわれると、制御装置28からの出力によってコンバインA側の警報器が警報を発すると共にコンバインAの高所に設けた警告灯が点灯するように構成してもよい。これにより、このコンバインAが遠隔操作状態にあることを第三者が察知でき、安全性を向上させることができる。尚、前記警告灯は、穀粒貯留部5の排出オーガ20の先端部などに設けると効果的である。
【0045】
また、遠隔操作状態において、上記のようにコンバインA側の警報器から警報を発すると共に、携帯電話機40のスピーカ49からも警報を発するように構成し、更に、コンバインAの走行速度が上昇するほど、この警報音の音量が大きくなるように構成してもよい。これにより、警報音の音量の変化によって、第三者が走行速度の変化を察知することができ、安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】作業車輌として例示するコンバインの側面図である。
【図2】コンバイン側の制御ブロック図である。
【図3】携帯電話機側の制御ブロック図である。
【図4】通信システムの概念図である。
【図5】携帯電話機の説明図である。
【図6】走行速度の変速操作状態を示す説明図である。
【図7】携帯電話機の説明図である。
【図8】携帯電話機の説明図である。
【図9】携帯電話機の説明図である。
【図10】携帯電話機の説明図である。
【符号の説明】
【0047】
28 制御装置
37 エンジン制御部
38 操向制御装置
39 走行変速装置
40 携帯電話機
55 作業装置昇降制御部
A コンバイン(作業車輌)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)から走行変速装置(39)へ変速作動出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システム。
【請求項2】
携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)から操向制御装置(38)へ操向作動出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システム。
【請求項3】
携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)からエンジン制御部(37)へ始動出力または停止出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システム。
【請求項4】
携帯電話機(40)と作業車輌(A)側の制御装置(28)とを電話回線または電話回線とインターネットとを介して接続可能に構成すると共に、該携帯電話(40)の操作に基づいて作業車輌(A)側の制御装置(28)から作業装置昇降制御部(55)へ昇降作動出力を行なわせることができるように構成したことを特徴とする作業車輌の遠隔操作システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−208509(P2007−208509A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23435(P2006−23435)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】