説明

作業車

【課題】 昇降自在なリンク機構を機体の後部に備えて後方に延出して、リンク機構に作業装置を連結し、リンク機構を昇降駆動するアクチュエータ及び昇降制御手段を備え、前輪及び後輪サスペンションバネを備えた場合、作業装置の姿勢の安定化を図る。
【解決手段】 作業装置5が作業地G1から設定高さに維持されるように、アクチュエータを作動させる昇降制御手段を備える。前輪1を機体に前輪サスペンションバネ40を介して支持し、後輪2を機体に後輪サスペンションバネ32を介して支持する。後輪サスペンションバネ32のバネ定数K2を、前輪サスペンションバネ40のバネ定数K1よりも大きなものに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車における前輪及び後輪の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車の一例である乗用型田植機では、例えば特許文献1に開示されているように、昇降自在なリンク機構(特許文献1の図1の6)を機体の後部に備えて後方に延出し、リンク機構に苗植付装置(作業装置の一例)(特許文献1の図1の7)を連結して、リンク機構を昇降駆動する油圧シリンダ(アクチュエータの一例)(特許文献1の図1の5)を備えているものがある。これにより、機体の姿勢変化に関係なく、苗植付装置が田面から設定高さに維持されるように、油圧シリンダにより苗植付装置が昇降駆動されて、苗植付装置による苗の植付深さが設定深さに維持されるように構成している(昇降制御手段に相当)。
【0003】
特許文献1では、前輪を機体に前輪サスペンションバネ(特許文献1の図3,4,5の37)を介して支持し、後輪を機体に後輪サスペンションバネ(特許文献1の図3,4,6の64)を介して支持するように構成しており、機体の姿勢変化を抑えて走行性能の向上を図っている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−330918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平坦な路上を走行することが大部分である乗用車に対して、作業車は一般に凹凸のある作業地や傾斜した作業地を比較的低速で走行することが多く、機体の姿勢(特に前後方向)が変化することが多い。従って、機体の姿勢変化に基づいて作業装置の作業地からの高さが変化するので、この作業装置の作業地からの高さを修正する為に昇降制御手段が必要になるのであり、機体の姿勢変化が生ずる毎に昇降制御手段が作動し、アクチュエータにより作業装置が昇降駆動されて、作業装置が作業地から設定高さに維持される。
これにより、特許文献1のように、前輪及び後輪サスペンションバネを備えて、機体の姿勢変化を抑えることは、作業装置の姿勢の安定化(昇降制御手段の作動を助ける)と言う面で良いものとなる。
【0006】
本発明は、昇降自在なリンク機構を機体の後部に備えて後方に延出して、リンク機構に作業装置を連結し、リンク機構を昇降駆動するアクチュエータ及び昇降制御手段を備え、前輪及び後輪サスペンションバネを備えた場合、さらに作業装置の姿勢の安定化を図ることができるように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、作業車において次のように構成することにある。
昇降自在なリンク機構を機体の後部に備えて後方に延出し、リンク機構に作業装置を連結して、リンク機構を昇降駆動するアクチュエータを備える。作業装置が作業地から設定高さに維持されるように、アクチュエータを作動させる昇降制御手段を備える。前輪及び後輪を備えて、前輪を機体に前輪サスペンションバネを介して支持し、後輪を機体に後輪サスペンションバネを介して支持する。後輪サスペンションバネのバネ定数を、前輪サスペンションバネのバネ定数よりも大きなものに設定する。
【0008】
(作用)
前輪1を機体に前輪サスペンションバネ40を介して支持し、後輪2を機体に後輪サスペンションバネ32を介して支持した場合、例えば図9に示すように、前輪サスペンションバネ40のバネ定数K1と、後輪サスペンションバネ32のバネ定数K2とを同じものに設定したとする。
図9に示す状態において、凹凸のある作業地G2を前輪1及び後輪2が走行した場合、小刻みな振動が前輪及び後輪サスペンションバネ40,32によって吸収されるのであるが、例えば前輪1の振動の位相及び後輪2の振動の位相が互いに正反対になると、前輪1及び後輪2の間の点PP1を中心として、機体の前部及び後部が互いに逆方向に上下動する状態(点PP1周りに機体がピッチングする状態)になることが考えられる。
【0009】
図9に示すような状態になると、点PP1から作業装置5までの長さLL1をアームとして、点PP1周りに作業装置5が上下動する状態となるので、作業装置5の作業地G1,G2からの高さが大きく変化することになる。
これにより、図9に示す状態において昇降制御手段が作動しても、作業装置5の作業地G1,G2からの高さの変化が大きい為に、アクチュエータによる作業装置5の昇降駆動が遅れてしまうことが考えられる(アクチュエータの作動速度に限界がある為)。
【0010】
これに対して本発明の第1特徴では、前輪1を機体に前輪サスペンションバネ40を介して支持し、後輪2を機体に後輪サスペンションバネ32を介して支持した場合、例えば図8に示すように、後輪サスペンションバネ32のバネ定数K2を、前輪サスペンションバネ40のバネ定数K1よりも大きなものに設定している。
これにより、例えば図8に示すように、凹凸のある作業地G2を前輪1及び後輪2が走行した場合、小刻みな振動が前輪及び後輪サスペンションバネ40,32によって吸収されながら、前輪サスペンションバネ40が振動し易く(振動のストロークが大きくなり易く)、後輪サスペンションバネ32が振動し難い状態(振動のストロークが小さくなり易い状態)になる。
【0011】
従って、本発明の第1特徴によると、図8に示すように、前輪1の振動の位相及び後輪2の振動の位相が互いに正反対になっても、後輪2に近い点PP2を中心として、機体の前部及び後部が互いに逆方向に上下動する状態(点PP2周りに機体がピッチングする状態)となるのであり、点PP2から作業装置5までの長さLL2をアームとして、点PP2周りに作業装置5が上下動する状態となって、作業装置5の作業地G1,G2からの高さの変化が小さなものになる。これにより、図8に示す状態において昇降制御手段が作動した場合、作業装置5の作業地G1,G2からの高さの変化が小さい為に、アクチュエータの作動速度に限界があっても、アクチュエータによる作業装置5の昇降駆動が遅れてしまうような状態が少なくなる。
【0012】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、昇降自在なリンク機構を機体の後部に備えて後方に延出して、リンク機構に作業装置を連結し、リンク機構を昇降駆動するアクチュエータ及び昇降制御手段を備え、前輪及び後輪サスペンションバネを備えた場合、小刻みな振動を前輪及び後輪サスペンションバネによって吸収しながら、作業装置の作業地からの高さの変化を抑えることができ、昇降制御手段及びアクチュエータによる作業装置の昇降駆動が遅れてしまうような状態を少なくすることができて、作業装置の姿勢の安定化を図ることができた。このように作業装置の姿勢の安定化を図ることにより、作業装置の機能を十分に発揮させることができるようになって、作業能率の向上を図ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[1]
図1に示すように、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2を備えた機体の後部に、リンク機構3及びリンク機構3を昇降駆動する油圧シリンダ4(アクチュエータに相当)が備えられており、リンク機構3の後部に苗植付装置5(作業装置に相当)が連結されて、作業車の一例である乗用型田植機が構成されている。比較的平滑な田面G1に下側に凹凸のある耕盤G2(作業地に相当)が位置しており、前輪1及び後輪2は耕盤G2に接地している。
【0014】
図1に示すように、苗植付装置5は、伝動ケース6、伝動ケース6の後部に回転駆動自在に支持された6組の植付ケース7、植付ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、接地フロート9、及び6個の苗のせ面を備えた苗のせ台10等を備えて、6条植え型式の構成されている。これにより、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、植付ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面G1に植え付ける。
【0015】
図1に示すように、肥料を貯留するホッパー12及び繰り出し部13が運転座席11の後側に固定されており、運転座席11の下側にブロア14が備えられている。接地フロート9に作溝器15が備えられており、繰り出し部13と作溝器15とに亘ってホース16が接続されている。これにより、前述のような苗の植え付けに伴って、ホッパー12から肥料が所定量ずつ繰り出し部13によって繰り出され、ブロア14の送風により肥料がホース16を通って作溝器15に供給されるのであり、作溝器15を介して肥料が田面G1に供給される。肥料に代えて種籾をホッパー12に貯留することにより、ホッパー12から作溝器15を介して種籾を田面G1に供給する直播作業も行うことができる(この場合には苗植付装置5を停止させる)。
【0016】
[2]
次に、右及び左の前輪1の支持構造及び伝動構造について説明する。
図1,3,4に示すように、機体の前部にミッションケース17が固定され、ミッションケース17の前部に連結された支持フレーム18に、エンジン19が支持されている。角パイプ状の右及び左の機体フレーム21が、ミッションケース17の後部の上部に連結されて後方に延出されており、ミッションケース17の後部と右及び左の機体フレーム21とに亘って、側面視三角形状の補強部材20が連結されている。
【0017】
図4及び図6に示すように、ミッションケース17の右及び左の横側面から右及び左の前車軸ケース23が延出されて、右及び左の前車軸ケース23の端部に円筒状の支持部23aが斜め前方下方(縦軸芯P1参照)に向いて備えられている。右及び左の前輪1を支持する前輪支持部24が、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周りに回転自在及び縦軸芯P1の方向にスライド自在に支持されている。
【0018】
図2及び図3に示すように、ミッションケース17の下部にピットマンアーム25が縦軸芯P8周りに揺動自在に支持され後向きに延出されて、前輪支持部24とピットマンアーム25とに亘ってタイロッド26が接続されている。図1に示すように、ピットマンアーム25を揺動操作する操縦ハンドル27が備えられており、操縦ハンドル27によりピットマンアーム25を揺動操作することによって、右及び左の前輪1を操向操作する。
【0019】
図1及び図4に示すように、ミッションケース17の左の横側部に静油圧式無段変速装置33が連結されており、エンジン19の動力が静油圧式無段変速装置33に伝動ベルト35を介して伝達されている。静油圧式無段変速装置33の動力が、ミッションケース17の内部に配置されたギヤ型式の副変速装置(図示せず)及び前輪デフ機構(図示せず)を介して、図6に示すように、右及び左の前車軸ケース23の内部に配置された伝動軸63に伝達される。右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに、ベアリング67を介してベベルギヤ68(上側)及び受け部材69(下側)が支持され、伝動軸63に固定されたベベルギヤ66とベベルギヤ68とが咬合している。伝動軸70がスプライン構造によりベベルギヤ68及び受け部材69と一体回転及びスライド自在に取り付けられ、伝動軸70の下端にベベルギヤ71が固定されている。
【0020】
図6に示すように、前輪支持部24に右(左)の前輪1を支持する車軸72、車軸72に固定されたベベルギヤ73が備えられ、前輪支持部24の上端に円筒状のスリーブ74が固定されている。前輪支持部24及びスリーブ74がベアリング75により伝動軸70に回転自在に支持され、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aとスリーブ74との間にシール部材76が備えられて、ベベルギヤ71,73が咬合している。上側のベアリング75に受け部材77が当て付けられて、受け部材69,77の間に前輪サスペンションバネ40が内側及び外側に二重に備えられている。
【0021】
図6に示す状態は、伝動軸70の上端部の止め部材70aがベアリング67(上側)に接当した状態であり、前輪サスペンションバネ40が最も伸長した状態である。前輪サスペンションバネ40が収縮して、スリーブ74の上端部がベアリング67(下側)に接当すると、前輪サスペンションバネ40が最も収縮した状態となる。このように、前輪サスペンンションバネ40の最も伸長した状態及び最も収縮した状態によって、前輪サスペンションバネ40のストロークL1が決められている。
【0022】
これにより、図4及び図6に示すように、静油圧式無段変速装置33の動力が、伝動軸63,70及び車軸72を介して右及び左の前輪1に伝達される。前輪支持部24が右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周りに回転自在及び縦軸芯P1の方向にスライド自在に支持されるのであり、前輪支持部24の縦軸芯P1の方向へのスライドに対して前輪サスペンションバネ40が作用する。
【0023】
[3]
次に、右及び左の後輪2の支持構造について説明する。
図1,3,4に示すように、後車軸ケース28が備えられて、後車軸ケース28に右及び左の後輪2が支持されている。断面コ字状で縦長の右及び左のブラケット22が後車軸ケース28の前部に固定され、右及び左のブラケット22の上部の横軸芯P2周りに、右及び左の上リンク29が上下に揺動自在に支持されて前方に延出されており、右及び左の機体フレーム21の中間部に固定されたブラケット21aの横軸芯P3周りに、右及び左の上リンク29が上下に揺動自在に支持されている。
【0024】
図3,4,5に示すように、右及び左のブラケット22の下部に支持ピン31が横外向きに固定されて、支持ピン31の横軸芯P4周りに右及び左の下リンク30が上下に揺動自在に支持されて前方に延出されており、ミッションケース17の後部の下部の横軸芯P5周りに、右及び左の下リンク30が上下に揺動自在に支持されている。この場合に、右及び左の下リンク30を、補強部材20に上下に揺動自在に支持するように構成してもよい。
【0025】
図3,4,5に示すように、右及び左の機体フレーム21に受け部21bが固定され、支持ピン31に受け部31aが固定されており、右及び左の機体フレーム21の受け部21bと支持ピン31の受け部31aとに亘って、後輪サスペンションバネ32が取り付けられている。左の機体フレーム21の後端の前後軸芯P6周りに、ラテラルロッド34が上下に揺動自在に支持され、後車軸ケース28の右の後部の前後軸芯P7周りに、ラテラルロッド34が上下に揺動自在に支持されている。
【0026】
これにより、図3,4,5に示すように、後車軸ケース28が後輪サスペンションバネ32により上下動及びローリング自在に支持されるのであり、右及び左の上リンク29、右及び左の下リンク30により後車軸ケース28の前後方向の位置が決められ、ラテラルロッド34により後車軸ケース28の左右方向の位置が決められる。
【0027】
図3及び図5に示すように、支持ピン31の受け部材31aにロッド部材47が固定されて上方に延出され、ロッド部材47が右及び左の機体フレーム21の受け部21bを貫通して上方に延出されており、ロッド部材47の上部にナット47aが取り付けられている。これにより、後輪サスペンションバネ32が伸長すると、ロッド部材47も一緒に移動するのであり、ロッド部材47のナット47aが右及び左の機体フレーム21に受け部21bに接当すると、後輪サスペンションバネ32が最も伸長した状態となる。
この場合、ロッド部材47におけるナット47aの位置を上下に変更することにより、ロッド部材47のナット47aが右及び左の機体フレーム21の受け部21bに接当する位置(後輪サスペンションバネ32が最も伸長した状態の位置)を、上下に調節することができる。
【0028】
図3及び図5に示すように、右及び左の機体フレーム21にストッパー(図示せず)が備えられており、後輪サスペンションバネ40が収縮して、後車軸ケース28が右及び左の機体フレーム21のストッパーに接当すると、後輪サスペンションバネ40が最も収縮した状態となる。このように、後輪サスペンンションバネ32の最も伸長した状態及び最も収縮した状態によって、後輪サスペンションバネ32のストロークL2が決められている。
【0029】
[4]
次に、後車軸ケース28の右及び左の後輪2への伝動構造について説明する。
図2,3,4に示すように、ミッションケース17の後部の下部に走行出力軸78が備えられ後向き突出して、前輪デフ機構(図示せず)の直前から分岐した動力が走行出力軸78に伝達されている。走行出力軸78の端部に自在継手82が取り付けられ、伝動軸84が円筒継手83(動力を伝達しながら自在継手82に対する伝動軸84のスライドを許容する)を介して自在継手82に接続されている。後車軸ケース28の前部に入力軸38が前向きに突出しており、伝動軸84と入力軸38とが自在継手82を介して接続されている。
【0030】
図2に示すように、後車軸ケース28に伝動軸39が備えられ、入力軸38に固定されたベベルギヤ38aが、伝動軸39に固定されたベベルギヤ39aに咬合している。伝動軸39の右及び左の端部に、摩擦多板型式の右及び左のサイドクラッチ41が備えられており、右及び左のサイドクラッチ41と右及び左の後輪2を支持する車軸43との間に、伝動軸42が備えられている。これにより、図2及び図4に示すように、静油圧式無段変速装置33の動力が、走行出力軸78、伝動軸84、入力軸38、伝動軸39、右及び左のサイドクラッチ41、伝動軸42を介して右及び左の後輪2に伝達される。
【0031】
図2に示すように、右及び左のサイドクラッチ41はバネ(図示せず)により伝動状態に付勢されており、右及び左のサイドクラッチ41を遮断状態に操作する右及び左の操作アーム51が備えられて、ピットマンアーム25と右及び左の操作アーム51とに亘って連係ロッド53が接続されている。図2に示す状態は、右及び左の前輪1(ピットマンアーム25)が直進位置A0に操向操作された状態で、右及び左のサイドクラッチ41が伝動状態に操作された状態であり、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2に動力が伝達されている。右及び左の前輪1が直進位置A0と右及び左の設定角度A1との間に操向操作されていても、前述の状態となるのであり、機体は直進又は緩やかに右又は左に向きを変える。
【0032】
図2に示すように、右及び左の前輪1(ピットマンアーム25)が右の設定角度A1と右の操向限度A2との間に操向操作されると、ピットマンアーム25による右の連係ロッド53の引き操作によって、右の操作アーム53により右のサイドクラッチ41が遮断状態に操作されて、右の後輪2が自由回転状態となる。この場合に、左のサイドクラッチ41は伝動状態に残されており、左の後輪2に動力が伝達されている。右及び左の前輪1(ピットマンアーム25)が左の設定角度A1と左の操向限度A2との間に操向操作されると、ピットマンアーム25による左の連係ロッド53の引き操作によって、左の操作アーム53により左のサイドクラッチ41が遮断状態に操作されて、左の後輪2が自由回転状態となる。この場合に、右のサイドクラッチ41は伝動状態に残されており、右の後輪2に動力が伝達されている。
【0033】
以上のように、右及び左の前輪1(ピットマンアーム25)が右の設定角度A1と右の操向限度A2との間、又は左の設定角度A1と左の操向限度A2との間に操向操作されると、右及び左の前輪1、旋回外側の後輪2に動力が伝達された状態で、旋回中心側の後輪2への動力が遮断されて、旋回中心側の後輪2が自由回転状態となり、右又は左への旋回が行われる。これにより、旋回中心側の後輪2が旋回に伴って適度に回転しながら前進する状態となり、旋回中心側の後輪2によって田面G1が荒らされる状態が少なくなる。
【0034】
[5]
次に、昇降制御手段について説明する。
図1及び図7に示すように、リンク機構3はトップリンク3a、右及び左のロアリンク3bによって構成されており、右及び左の機体フレーム21の後端部に、リンク機構3のトップリンク3a、右及び左のロアリンク3bが上下に揺動自在に支持されて後方に延出されている。右及び左の機体フレーム21の後端部とリンク機構3のトップリンク3aとの接続部分に、油圧シリンダ4のシリンダが接続され、リンク機構3の右及び左のロアリンク3bの後端部に、油圧シリンダ4のピストンロッドがサスペンションバネ36及び接続部材37を介して接続されている。
【0035】
図7に示すように、油圧シリンダ4に作動油を給排操作する制御弁46が備えられており、制御装置45により制御弁46が操作される。制御弁46により油圧シリンダ4に作動油が供給されると、油圧シリンダ4が収縮作動してリンク機構3(苗植付装置5)が上昇し、制御弁46により油圧シリンダ4から作動油が排出されると、油圧シリンダ4が伸長作動してリンク機構3(苗植付装置5)が下降する。
【0036】
図7に示すように、苗植付装置5の横軸芯P9周りに中央の接地フロート9の後部が上下に揺動自在に支持されて、苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出するポテンショメータ44が備えられており、ポテンショメータ44の検出値が制御装置45に入力されている。機体の進行に伴って中央の接地フロート9が田面G1に接地追従するのであり、ポテンショメータ44の検出値により苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出することによって、田面G1(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さを検出することができる。
【0037】
図7に示すように、苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さ(田面G1(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さ)に基づいて、苗植付装置5が田面G1から設定高さに維持されるように(ポテンショメータ44の検出値(ポテンショメータ44と中央の接地フロート9との上下間隔)が設定値に維持されるように)、制御装置45により制御弁46が操作され、油圧シリンダ4が伸縮作動して、苗植付装置5が自動的に昇降駆動される(昇降制御手段)。このように苗植付装置5が田面G1から設定高さに維持されることにより、苗植付装置5による苗の植付深さが設定深さに維持される。
【0038】
[6]
次に、前輪及び後輪サスペンションバネ40,32の関係について説明する。
図1及び図8に示すように、前輪1の外径よりも、後輪2の外径が大きなものに設定されている。機体の前部の右及び左側部(車軸72(前輪1)の上方)の各々に、3個の予備苗のせ台48が上下方向に配置されている(左右で合計6個の予備苗のせ台48)。側面視で車軸72(前輪1)の前側(図1の紙面左側)にエンジン19が配置され、側面視で車軸72(前輪1)及び車軸43(後輪2)の間に運転座席11が配置されており、車軸43(後輪2)の略真上にホッパー12及び繰り出し部13が配置されている。
【0039】
前述の状態において、図1及び図8に示すように、前輪サスペンションバネ40のストロークL1が、後輪サスペンションバネ32のストロークL2よりも大きなものに設定され、前輪サスペンションバネ40のバネ定数K1よりも、後輪サスペンションバネ32のバネ定数K2が大きなものに設定されている(K1<K2)。
この場合、前輪及び後輪サスペンションバネ40,32のバネ定数K1,K2と、サスペンションバネ36のバネ定数K3との関係は、関係1(K3<K1<K2)、関係2(K1<K3<K2)、関係3(K1<K2<K3)のうちの何れかに設定されている。後輪サスペンションバネ32のストロークL2を、前輪サスペンションバネ40のストロークL1よりも大きなものに設定してもよい。
【0040】
図1及び図8に示すように、苗のせ台10の苗を満載した状態(苗のせ台10の1個の苗のせ面に2枚の苗を載置すると、合計12枚の苗が苗のせ台10に載置される。苗のせ台10の1個の苗のせ面に3枚の苗を載置すると、合計18枚の苗が苗のせ台10に載置される)、全ての予備苗のせ台48に苗を載置した状態(1個の予備苗のせ台48に1枚の苗を載置すると、合計6枚の苗)、且つ、運転座席11に1人の運転者が着座した状態において、機体が略水平となるのであり、前輪及び後輪サスペンションバネ40,32がストロークL1,L2の略中央位置に位置している。
【0041】
図1及び図8に示す状態で、耕盤G2を前輪1及び後輪2が走行した場合、小刻みな振動(高周波振動)が前輪及び後輪サスペンションバネ40,32によって吸収されて、苗植付装置5に伝達されない。
比較的大きな振動(低周波振動)(例えば前輪サスペンションバネ40の固有周波数(固有振動数)の√2倍以下の周波数(振動数))(例えば後輪サスペンションバネ32の固有周波数(固有振動数)の√2倍以下の周波数(振動数))は、前輪及び後輪サスペンションバネ40,32によって吸収されず、比較的大きな振動(低周波振動)により苗植付装置5の田面G1からの高さが変化する。この場合、制御装置45(昇降制御手段)により制御弁46が操作され、油圧シリンダ4が伸縮作動して、苗植付装置5が自動的に昇降駆動される(昇降制御手段)。このように苗植付装置5が田面G1から設定高さに維持されることにより、苗植付装置5による苗の植付深さが設定深さに維持される。
【0042】
前輪サスペンションバネ40のバネ定数K1よりも、後輪サスペンションバネ32のバネ定数K2が大きなものに設定されていることにより(K1<K2)、図1及び図8に示す状態において、前輪サスペンションバネ40が伸縮(振動)し易く(伸縮(振動)のストロークが大きくなり易い状態)、後輪サスペンションバネ32が伸縮(振動)し難い状態(伸縮(振動)のストロークが小さくなり易い状態)になっている。
【0043】
図8に示すように、前輪1の振動の位相及び後輪2の振動の位相が互いに正反対になっても、後輪2に近い点PP2を中心として、機体の前部及び後部が互いに逆方向に上下動する状態(点PP2周りに機体がピッチングする状態)となるのであり、点PP2から苗植付装置5までの長さLL2をアームとして、点PP2周りに苗植付装置5が上下動する状態となり、苗植付装置5の田面G1からの高さの変化が小さなものになる。
【0044】
これにより、図8に示す状態において制御装置45(昇降制御手段)により制御弁46が操作された場合、苗植付装置5の田面G1からの高さの変化が小さい為に、油圧シリンダ4の作動速度に限界があっても、油圧シリンダ4による苗植付装置5の昇降駆動が遅れてしまうような状態が少なくなるのであり、苗植付装置5が田面G1から設定高さに維持されない状態(苗植付装置5による苗の植付深さが設定深さに維持されない状態)が少なくなる。
【0045】
[発明の実施の別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]において、前輪サスペンションバネ40及び後輪サスペンションバネ32をコイルスプリングではなく、リーフスプリング(板バネ)で構成してもよい。苗植付装置5に代えて、薬剤散布装置(作業装置に相当)や直播装置(作業装置に相当)をリンク機構3に連結するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】乗用型田植機の全体左側面図
【図2】右及び左の後輪への伝動構造を示す概略図
【図3】右及び左の後輪の支持構造を示す右側面図
【図4】右及び左の前輪、右及び左の後輪の支持構造を示す平面図
【図5】右及び左の後輪の支持構造を示す縦断正面図
【図6】前輪支持部の付近の縦断正面図
【図7】油圧シリンダ及び中央の接地フロートの関係を示す図
【図8】後輪サスペンションバネのバネ定数を前輪サスペンションバネのバネ定数よりも大きなものに設定した状態において、前輪及び後輪サスペンションバネによる支持状態を示す左側面図
【図9】前輪及び後輪サスペンションバネのバネ定数が同じ状態において、前輪及び後輪サスペンションバネによる支持状態を示す左側面図
【符号の説明】
【0047】
1 前輪
2 後輪
3 リンク機構
4 アクチュエータ
5 作業装置
32 後輪サスペンションバネ
40 前輪サスペンションバネ
K1 前輪サスペンションバネのバネ定数
K2 後輪サスペンションバネのバネ定数
G1 作業地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降自在なリンク機構を機体の後部に備えて後方に延出し、前記リンク機構に作業装置を連結して、前記リンク機構を昇降駆動するアクチュエータを備え、
前記作業装置が作業地から設定高さに維持されるように、前記アクチュエータを作動させる昇降制御手段を備えると共に、
前輪及び後輪を備えて、前輪を機体に前輪サスペンションバネを介して支持し、後輪を機体に後輪サスペンションバネを介して支持して、
前記後輪サスペンションバネのバネ定数を、前記前輪サスペンションバネのバネ定数よりも大きなものに設定してある作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−55811(P2009−55811A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224402(P2007−224402)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】