説明

光偏向器及びこれを用いた光学装置

【課題】従来の光偏向器においては、ミラーの角度検出センサとしての圧電センサがミラーの側辺に固定されていたために、ミラーに分散する応力が比較的大きくてミラーの変形を招き、他方、圧電センサに分散する応力は比較的小さく、従って、圧電センサの変位量は小さく、圧電センサの圧電起電力は小さかった。
【解決手段】ミラー2は円形反射面を有し、支持体1の空洞部1a内に位置する。1対のトーションバー3、4はミラー2を揺動可能に支持する。トーションバー3に作用する圧電アクチュエータ5、6を設け、トーションバー4に作用する圧電アクチュエータ7、8を設ける。半環状の圧電センサ9、10はミラー2の外周側にスリットを介してトーションバー3、4のミラー2側付け根に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電駆動方式の光偏向器及びこれを用いた光学装置に関する。たとえば、光学装置として、レーザプリンタ、バーコードリーダ、プロジェクタ等がある。
【背景技術】
【0002】
最近、圧電駆動方式の光偏向器として、半導体製造プロセス技術、マイクロエレクトロメカニクスシステム(MEMS)技術を用いて空洞部を有する半導体基板の支持体に、ミラー、ミラーを揺動可能に支持する1対の弾性梁つまりトーションバー、トーションバーに作用する2対の圧電アクチュエータ等を形成したものが知られている(参照:特許文献1、2、3)。この場合、ミラーは支持体の空洞部の中央に位置する矩形反射面を有する。各トーションバーは支持体に連結された基端及びミラーに連結された先端を有する。各圧電アクチュエータはカンチレバーとして作用し、その基端は支持体に固定され、先端はトーションバーに連結されている。従って、圧電アクチュエータに駆動電圧を印加することにより圧電アクチュエータに湾曲変形を生じさせてトーションバーを捩り変形させ、これにより、ミラーが回転する。この結果、ミラーの矩形反射面に入射する光の反射光を1次元的に走査できる。尚、特許文献1、2は2次元光偏向器を開示している。
【0003】
上述の圧電駆動方式の光偏向器においては、ミラーの矩形反射面の角度を検出して振れ角、スキャン速度をフィードバック制御するために、圧電方式の角度検出センサ(以下、圧電センサ)がトーションバーのミラー側付け根に設けられている(参照:特許文献3)。この場合、圧電センサはカンチレバーとして作用し、しかもミラーの側辺に固定され、その基端はトーションバーに連結されているので、ミラーの角度を位相ずれなく検出する。従って、リアルタイムでミラーの揺動をフィードバック制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−148459号公報
【特許文献2】特開2008−20701号公報
【特許文献3】特開2009−169325号公報
【特許文献4】特開2001−234331号公報
【特許文献5】特開2002−177765号公報
【特許文献6】特開2003−81694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来の圧電駆動方式の光偏向器においては、ミラーと圧電センサとは結合されているので、ミラー及び圧電センサは1つの慣性モーメントとして作用する。従って、ミラー及び圧電センサを大気中で動作させた場合、大気の粘性抵抗等により、圧電アクチュエータからの応力がミラー及び圧電センサにその質量に応じて分散する。
【0006】
圧電センサに分散した圧電アクチュエータからの応力は圧電センサにとっては比較的小さい。従って、圧電センサの変位量は圧電アクチュエータの変位量に比較して微小となる。この結果、信号対雑音(S/N)比の良い捩り変位を圧電起電力として検出することは困難であるという課題がある。
【0007】
尚、ここでの慣性モーメントは1対のトーションバーを結ぶ軸の回りの慣性モーメントで定義する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明に係る光偏向器は、空洞部が形成された支持体と、支持体の空洞部内に位置する反射面を有するミラーと、基端が支持体に連結され先端がミラーに連結された弾性梁と、基端が支持体に連結され先端が弾性梁に連結されたアクチュエータと、弾性梁間に連結されかつミラーの外周側にスリットを介して位置しミラーの角度を検出するための圧電センサとを具備し、アクチュエータはミラー及び圧電センサを弾性梁を介して同一方向に回転振動させるものである。これにより、ミラーと圧電センサとはスリットによって分離されているので、ミラーの慣性モーメントと圧電センサの慣性モーメントとは別個のものとなる。しかも、圧電センサがミラーの外周側にスリットを介して位置する分、圧電センサの慣性モーメントが比較的に大きくなる。
【0009】
また、本発明に係る光学装置は、上述の光偏向器と、光偏向器に光を照射するための光源と、光源を駆動するための光源駆動回路と、圧電センサのミラーの角度信号を検出するミラー角度検出回路と、検出されたミラーの角度信号を補正するための補正データを記憶する記憶回路と、検出されたミラーの角度信号を補正データにより補正する制御回路と、補正されたミラーの角度信号によりアクチュエータを駆動するアクチュエータ駆動回路とを具備するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アクチュエータからの応力は慣性モーメントの小さいミラーより慣性モーメントの大きい圧電センサへ多く分散する。
【0011】
圧電センサに分散したアクチュエータの応力は比較的大きい。従って、圧電センサは積極的に変形でき、この結果、圧電センサの変位量を大きくでき、従って、S/N比の高い捩り変位を圧電起電力として検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る圧電駆動方式の光偏向器の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1の圧電アクチュエータの変形を説明するための図1のII-II線断面図である。
【図3】図1のミラー及び圧電センサの変形を説明するための図1のIII-III線断面図である。
【図4】図1の圧電アクチュエータの入力電圧、ミラーの角度及び圧電センサの出力電圧を示すタイミング図である。
【図5】図1の圧電駆動方式の光偏向器の製造方法を説明するための図1のV-V線断面図である。
【図6】図1の圧電駆動方式の光偏向器の製造方法を説明するための図1のV-V線断面図である。
【図7】図1の圧電駆動方式の光偏向器の製造方法を説明するための図1のV-V線断面図である。
【図8】図1の圧電駆動方式の光偏向器を用いた光学装置の例を示す図である。
【図9】図8の制御回路の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る圧電駆動方式の光偏向器の実施の形態を示す斜視図、図2は図1の圧電アクチュエータの変形を説明するための図1のII-II線断面図、図3は図1のミラー及び圧電センサの変形を説明するための図1のIII-III線断面図である。
【0014】
図1に示すように、圧電駆動方式の光偏向器は、たとえば3mm×3mmのサイズを有し、空胴部1aが形成された支持体1と、空胴部1aの中央に位置する半径1mmの円形反射面を有するミラー2と、ミラー2を揺動可能に支持する1対の幅約30μm、長さ約300μmの弾性梁つまりトーションバー3、4と、トーションバー3にカンチレバーとして作用する1対の圧電アクチュエータ5、6と、トーションバー4にカンチレバーとして作用する1対の圧電アクチュエータ7、8と、トーションバー3、4が作用する1対の幅約100μmの圧電センサ9、10とを備えている。圧電センサ9、10は半環状をなしており、トーションバー3、4のミラー2側付け根に連結され、ミラー2の外周側にスリットを介して設けられている。圧電センサ9、10は湾曲する必要があるので、厚さは100μm以下にする。また、スリットSLの幅SW(図3に図示)は約10μm〜100μmたとえば20μmである。スリットSLの幅SWが100μmを超えると、圧電センサ9、10とミラー2との位相ずれが大きくなり、検出精度が低下するからである。すなわち、スリットSLの幅SWはミラー2の揺動(回転振動)の振動周波数が圧電センサ9、10の揺動(回転振動)の振動周波数に一致するように設けられており、また、圧電センサ9、10の最大振幅がミラー2の最大振幅より大きくなるように設けられている。
【0015】
ミラー2は振動板2a及び反射板として作用する下部電極2b(図3に図示)よりなる。
【0016】
トーションバー3は振動板3a及び下部電極3b(図2に図示)よりなり、また、トーションバー4は振動板4a及び下部電極4b(図示せず)よりなる。
【0017】
圧電アクチュエータ5は圧電ユニモルフ振動板であって、振動板5a、下部電極5b、圧電体層5c及び上部電極5d(図2をも参照)よりなり、また、圧電アクチュエータ6も圧電ユニモルフ振動板であって、振動板6a、下部電極6b、圧電体層6c及び上部電極6d(図2をも参照)よりなる。この場合、上述のごとく、圧電アクチュエータ5、6は対をなし、トーションバー3に作用する。
【0018】
圧電アクチュエータ7は圧電ユニモルフ振動板であって、振動板7a、下部電極7b、圧電体層7c及び上部電極7d(7b、7dのみ図示)よりなり、また、圧電アクチュエータ8も圧電ユニモルフ振動板であって、振動板8a、下部電極8b、圧電体層8c及び上部電極8d(8b、8dのみ図示)よりなる。この場合、上述のごとく、圧電アクチュエータ7、8は対をなし、トーションバー4に作用する。
【0019】
圧電センサ9は圧電ユニモルフ振動板であって、振動板9a、下部電極9b、圧電体層9c及び上部電極9d(図3をも参照)よりなり、また、圧電センサ10も圧電ユニモルフ振動板であって、振動板10a、下部電極10b、圧電体層10c及び上部電極10d(図3をも参照)よりなる。この場合、上述のごとく、トーションバー3、4が圧電センサ9、10に作用する。
【0020】
尚、図1、図2、図3においては、下部電極2b、3b、4b、5b、6b、7b、8b、9b、10bは共通に接続されており、たとえば接地される。
【0021】
また、図1、図2、図3には図示しないが、支持体1と振動板2a、3a、4a、5a、6a、7a、8a、9a、10aとの間には製造工程においてエッチングストッパとして作用する絶縁層たとえば酸化シリコン層1012(図5、図6、図7に図示)が設けられている。
【0022】
さらに、図1、図2、図3には図示しないが、振動板2a、3a、4a、5a、6a、7a、8a、9a、10aと下部電極2b、3b、4b、5b、6b、7b、8b、9b、10bの間は絶縁層たとえば酸化シリコン層1022(図5、図6、図7に図示)によって電気的に絶縁されている。
【0023】
図1、図2、図3においては、ミラー2は圧電センサ9、10から分離されかつ円形となった分、慣性モーメントは比較的小さくなる。他方、圧電センサ9、10はミラー2から分離されているがミラー2の外周側に分離して位置した分、慣性モーメントは比較的大きくなる。この結果、圧電アクチュエータ5、6、7、8によるトーションバー3、4の応力はミラー2よりも圧電センサ9、10に多く分散する。従って、ミラー2の中心部の変形が抑制されると共に、圧電センサ9、10が積極的に変形する。
【0024】
次に、図1、図2、図3の圧電駆動方式の光偏向器の動作を図4のタイミング図を参照して説明する。尚、下部電極2b、3b、4b、5b、6b、7b、8b、9b、10bは接地されているものとする。また、下部電極及び上部電極の周辺部はボンディングワイヤのためのパッドの作用をするものとする。
【0025】
圧電アクチュエータ5、7の上部電極5d、7dの入力電圧として図4の(A)に示す正弦波交流電圧を印加し、圧電アクチュエータ6、8の上部電極6d、8dの入力電圧として図4の(B)に示す正弦波交流電圧を印加する。この場合、図4の(A)に示す正弦波交流電圧と図4の(B)に示す正弦波交流電圧とは180°ずれの逆位相の関係を有する。この結果、図2に示すごとく、圧電アクチュエータ5(7)の圧電体層5c(7c)及び圧電アクチュエータ6(8)の圧電体層6c(8c)が互いに反対側に湾曲し、従って、圧電アクチュエータ5(7)の振動板5a(7a)及び圧電アクチュエータ6(8)の振動板6a(8a)がS字状になって回転振動する。このとき、振動板5a(7a)及び振動板6a(8a)の基端は支持体1に連結されているので、振動板5a(7a)及び振動板6a(8a)の先端は支持体1の厚み方向に上下振動する。この場合、圧電アクチュエータ5(7)の上部電極5d(7d)の入力電圧と圧電アクチュエータ6(8)の上部電極6d(8d)の入力電圧には180°の位相差があるので、振動板5a(7a)の先端が上もしくは下振動するとき、振動板6a(8a)の先端は下もしくは上振動する。従って、トーションバー3(4)が揺動つまり回転振動する。
【0026】
トーションバー3(4)が揺動つまり回転振動すると、図3に示すごとく、ミラー2及び圧電センサ9、10にはトーションバー3(4)を中心とする回転トルクが発生し、ミラー2及び圧電センサ9、10はトーションバー3(4)を中心軸として傾く。この場合、上述のごとく、慣性モーメントの相違から、図3の矢印に示すごとく、圧電センサ9、10はミラー2より大きく揺動つまり回転振動する。つまり、圧電センサ9、10の最大振動幅がミラー2の最大振幅より大きくなっている。しかし、ミラー2の揺動の振動数と圧電センサ9、10の揺動の振動数とは同一に維持されるように、スリットSLのスリット幅SWが設定されている。このとき、振動板5a(7a)及び振動板6a(8a)は交流電圧に追随して上下振動するので、ミラー2及び圧電センサ9、10にはシーソー的な回転トルクが発生し、従って、図4の(C)、(D)に示すごとく、ミラー2の角度は正弦波的に揺動すると共に、圧電センサ9、10の出力も正弦波的に変化する。この場合、ミラー2の角度変化及び圧電センサ9、10の出力はトーションバー3(4)等の介在により図4の(A)に示す圧電アクチュエータ5(7)の上部電極5d(7d)の入力電圧及び図4の(B)に示す圧電アクチュエータ6(8)の上部電極6d(8d)の入力電圧に比べて時間Δtだけ遅れる。
【0027】
尚、圧電センサ9、10の振動板9a、10aはミラー2と同期してトーションバー3(4)を中心軸として揺動つまり回転振動する。このとき、圧電センサ9、10は圧電アクチュエータ5、6、7、8の逆の原理で動作する。従って、圧電センサ9、10の振動板9a、10aは同一方向に湾曲するので、圧電センサ9、10圧電体層9c、10cは同一極性の圧電起電力を発生し、この結果、図4の(D)に示すごとく、圧電センサ9、10の出力電圧はミラー2の角度変化と同一位相で同一の正弦波変化する。
【0028】
このように、本発明においても、従来と同様に、圧電センサ9、10は圧電アクチュエータ5、6、7、8から離れているので、圧電アクチュエータ5、6、7、8の入力電圧とのクロストークはない。また、圧電センサ9、10はミラー2の近傍に設けられているので、圧電センサ9、10はミラー2の揺動振動を位相ずれなく検出でき、従って、ミラー2の振れ角、スキャン速度をリアルタイムで制御できる。
【0029】
尚、圧電アクチュエータ5(7)の上部電極5d(7d)の入力電圧と圧電アクチュエータ6(8)の上部電極6d(8d)の入力電圧との位相差は180°より少しずれてもよい。
【0030】
次に、図1の圧電駆動方式の光偏向器の製造方法を図5、図6、図7を参照して説明する。尚、図5、図6、図7は図1のV-V線断面図である。
【0031】
始めに、図5の(A)を参照すると、シリコンオン絶縁体(SOI)基板を準備する。SOI基板は、厚さ約100〜600μmたとえば525μmの単結晶シリコン支持層(ハンドリング層とも言う)1011、厚さ約0.5〜2μmたとえば2μmの中間酸化シリコン層(BOX層とも言う)1012及び厚さ約5〜100μmたとえば50μmの単結晶シリコン活性層1013よりなる。
【0032】
次に、図5の(B)を参照すると、SOI基板を熱酸化して表面及び裏面に厚さ約0.1〜1.0μmたとえば0.5μmの酸化シリコン層1021、1022を形成する。
【0033】
次に、図5の(C)を参照すると、酸化シリコン層1022上にスパッタリング法、電子ビーム(EB)蒸着法等により厚さ約30〜100μmたとえば50nmのTi及び厚さ約100〜300μmたとえば150nmのPtを順次成膜し、これにより、下部電極層1031を形成する。次いで、下部電極層1031上に反応性アーク放電イオンプレーティング法により厚さ約1〜10μmたとえば3μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)よりなる圧電体層1032を成膜する。反応性アーク放電イオンプレーティング法については特許文献4、5、6を参照されたし。次いで、圧電体層1032上にスパッタリング法、EB蒸着法等により厚さ10〜200nmたとえば約150nmのPtよりなる上部電極層1033を成膜する。
【0034】
次に、図5の(A)を参照すると、フォトリソグラフィ及びドライエッチング法を用いて上部電極層1033及び圧電体層1032のパターニングを行う。次いで、フォトリソグラフィ及びドライエッチング法を用いて下部電極層1031のパターニングを行う。このとき、フォトレジスト層でミラー2の領域の下部電極層1031を覆い、反射層として残存せしめる。尚、ミラー2の光反射率を高めたい場合には、この後に、厚さ約100〜500nmのAl、Auをスパッタリング法、EB蒸着法等によって形成し、フォトリソグラフィ及びドライエッチング法を用いて下部電極層1031に高反射率の反射層を形成する。
【0035】
このようにして、パターニングされた下部電極層1031は下部電極2b、3b、4b、5b、6b、7b、8b、9b、10bを形成し、パターニングされた圧電体層1032は圧電体層3c、4c、5c、6c、7c、8c、9c、10cを形成し、パターニングされた上部電極層1033は上部電極3d、4d、5d、6d、7d、8d、9d、10dを形成することになる。
【0036】
次に、図6の(B)を参照すると、酸化シリコン層1021を除去し、支持体1に対応する領域に高周波結合プラズマ反応性イオンエッチング(ICP-RIE)法用のハードマスク層104を形成する。つまり、フォトリソグラフィ法により表面に厚膜レジスト層を形成し、この厚膜レジスト層をエッチングマスクとしてバッファードフッ酸(BHF)を用いたウェットエッチング法により酸化シリコン層1021を除去する。次いで、単結晶シリコン支持層1011上にAlをスパッタリング法、EB蒸着法等により形成し、フォトリソグラフィ及びエッチング法によりパターニングしてハードマスク層104を形成する。
【0037】
次に、図6の(C)を参照すると、フォトリソグラフィ法により、パターニングされた下部電極2b、3b、4b、5b、6b、7b、8b、9b、10b、圧電体層3c、4c、5c、6c、7c、8c、9c、10c、上部電極3d、4d、5d、6d、7d、8d、9d、10dを覆うレジストパターンを形成した後に、ICP-RIE装置において酸化シリコン層1022及び単結晶シリコン活性層1013をエッチング除去する。
【0038】
このようにして、パターニングされた単結晶シリコン活性層1013は振動板2a、3a、4a、5a、6a、7a、8a、9a、10aを形成することになる。
【0039】
また、同時に、図6の(C)に示すように、ICP-RIE装置において、ハードマスク層104をエッチングマスクとして単結晶シリコン支持層1011を除去して支持体1の空洞部1aを形成する。尚、ハードマスク層104は支持体1に付着したままでも何ら問題はない。
【0040】
さらに、ICP-RIE法は、単結晶シリコンを異方性エッチングするのに適したエッチング法であり、従って、単結晶シリコン支持層1011及び単結晶シリコン活性層1013を垂直にエッチングできる。
【0041】
最後に、図7を参照すると、バッファードフッ酸(BHF)を用いて中間酸化シリコン層1012をエッチング除去する。これにより、ミラー2の回転、トーションバー3、4の捩り変形、圧電アクチュエータ5、6、7、8の湾曲、圧電センサ9、10の湾曲が可能となる。そして、ダイシング工程によってウエハから各デバイスを個別(チップ)化し、トランジスタアウトライン(TO)型パッケージにダイボンド及びワイヤボンドにより実装される。
【0042】
図8は図1の光偏向器を含む光学装置たとえばレーザプリンタを示す図である。
【0043】
図8においては、図1に示す光偏向器801はレーザ光源802のレーザ光を反射して投射対象物803の走査方向Sに投射する。光偏向器801及びレーザ光源802は制御ユニット804によって制御される。
【0044】
制御ユニット804は、光偏向器801の圧電アクチュエータ5(7)、6(8)を駆動するための圧電アクチュエータ駆動回路8041、光偏向器801の圧電センサ9、10の出力つまりミラー角度を検出するミラー角度検出回路8042、レーザ光源802を駆動するレーザ光源駆動回路8043、記憶回路8044及びこれらを制御する制御回路(たとえばマイクロコンピュータ)8045よりなる。
【0045】
制御回路8045は外部よりデータDを入力し、データDに応じたレーザ変調信号を投射対象物803の走査に同期してレーザ光源802のレーザ光源駆動回路8043に送出する。また、光偏向器801からの圧電センサ出力は実際のミラーの角度に完全に一致していないので、予め測定した角度補正用データをテーブルとして記憶回路8044に予め記憶させておく必要がある。尚、この角度補正用データは光偏向器801のミラーと圧電センサとの間のスリット幅SW等に応じて変化する。
【0046】
図9は図8の制御回路8045の動作を説明するためのフローチャートである。図8の光学装置において、光偏向器801のミラーの共振周波数が25KHzのときに、圧電アクチュエータの正弦波入力信号のピーク間電圧Vp-p及び周波数を20V及び25kHzとすると、ミラー振れ角(最大偏向角)は±5°であった。このとき、圧電センサの検出ミラー振れ角は目標値±5°に対して±0.05°(1%相当)の変動を有していた。従って、図8の光学装置においては、ミラー振れ角をθ(正の値のみを定義する)とし、その目標値θaimは5°、許容値は0.05°と仮定すれば、ミラー振れ角の許容範囲は4.95°〜5.05°とすることができる。
【0047】
始めに、ステップ901にて、ミラー角度検出回路8042よりミラー角度θを検出する。この場合、圧電センサ9、10の同一極性出力を加算してミラー角度とする。
【0048】
次に、ステップ902にて、ステップ901で検出されたミラー角度θが前回値θ0より大きいか否かを判別する。つまり、θはミラー振れ角(最大偏向角)か否かを判別する。尚、ミラー振れ角は0°を中心に正負の同一値を有するものと仮定し、正の値のみを考慮する。検出されたミラー角度θがミラー振れ角でないときにはステップ903に進み、前回値θ0をθで置換して901に戻る。ミラー角度θがミラー振れ角であると判別されたときにはステップ904に進む。
【0049】
ステップ904にて、ステップ902にてミラー振れ角とされたミラー角度を記憶回路8044の角度補正用データを参照して補正することによりミラー振れ角θ’を演算する。
【0050】
ステップ905では、ミラー振れ角θ’が目標値5°の許容範囲は4.95°〜5.05°か否かを判別する。この結果、θ’<4.95°であればステップ906に進み、圧電アクチュエータの正弦波入力信号のパラメータを更新して圧電アクチュエータ駆動回路8041に設定し、ミラー振れ角θ’を大きくするようにフィードバックする。他方、θ’>5.05°であればステップ907に進み、圧電アクチュエータの正弦波入力信号のパラメータを更新して圧電アクチュエータ駆動回路8041に設定し、ミラー振れ角θ’を小さくするようにフィードバックする。その後、ステップ908に進む。θ’が4.95°≦θ’<5.05°であればステップ908に直接進む。
【0051】
ステップ906、907においては、圧電アクチュエータの2つの正弦波入力信号のパラメータ振幅A、位相差φ及び周波数fの少なくとも1つを更新する。たとえば、ステップ906では、
A←A+ΔA(一定値)
φ←φ+Δφ(一定値)
f←f−Δf(一定値)
とし、他方、ステップ907では、
A←A−ΔA(一定値)
φ←φ−Δφ(一定値)
f←f+Δf(一定値)
とする。これにより、ミラー振れ角θ’を目標値5°の許容範囲は4.95°〜5.05°に近づけるようにする。
【0052】
ステップ908では、θ0を初期化(=0)してステップ901に戻る。
【0053】
他方、制御回路8045は図9の制御ルーチンと並列に実行する図示しないルーチンにより圧電アクチュエータ駆動回路8041の正弦波入力信号の位相に同期させてデータDに応じてレーザ信号変調してレーザ変調信号が発生する。この結果、レーザ光源駆動回路8043はレーザ変調信号を用いてレーザ光源802を駆動することになる。
【0054】
図9の制御ルーチンの第1の動作例を説明する。動作中に、外部環境の温度がずれてミラーの共振周波数が25kHzからずれ、この結果、圧電センサの検出ミラー振れ角の変動は±2°であった場合を考察する。この場合にも、図9の制御ルーチンにより圧電アクチュエータの正弦波入力信号の振幅、位相差あるいは周波数をフィードバック制御することにより瞬時に上述の変動は±1°と収束した。このように、本発明の圧電センサによりミラー振れ角を精度よく検出することにより光学装置を安定的に動作させることができる。
【0055】
図9の制御ルーチンの第2の動作例を説明する。図8の光偏向器を複数製造したところ、その1/2のミラーの共振周波数は25kHzであったが、残りのミラーの共振周波数はわずかにずれて24.997〜25.003kHzであった。このとき、共振周波数24.997 kHz、25.003kHzのミラーを有する光偏向器の圧電アクチュエータの正弦波入力信号のピーク間電圧Vp-p及び周波数を20V及び5kHzとすると、周波数の減少によりミラー振れ角は±4°であった場合を考察する。この場合にも、図9の制御ルーチンにより圧電アクチュエータの正弦波入力信号の振幅、位相差あるいは周波数をフィードバック制御することにより振れ角が±5°となった。このように、ミラー振れ角の維持を動作速度より優先する場合にも、本発明の圧電センサによりミラー振れ角を精度よく検出することにより光学装置を安定的に動作させることができる。
【0056】
図9の制御ルーチンの第3の動作例を説明する。光偏向器801のミラーの共振周波数が25kHzのときに、圧電アクチュエータの正弦波入力信号のピーク間電圧Vp-p及び周波数を20V及び25kHzとし、この結果、ミラー振れ角が目標値±5°を達しているときに、25kHz、500Gの外部振動を与えた場合を考察する。この場合においても、図9の制御ルーチンにより圧電アクチュエータの正弦波入力信号の振幅、位相差あるいは周波数をフィードバック制御することにより瞬時に上述の外部振動によるミラーの異常振幅増大を制限できた。尚、上述の25kHz、500Gの外部振動は本発明に係るフィードバック制御がなければ、光偏向器のトーションバーとミラーとの接続部は破損した。このように、加速度センサを用いることなく、本発明の圧電センサによりミラー振れ角を精度よく検出することにより光学装置を安定的に動作させることができ、従って、製造コストも低減できる。
【符号の説明】
【0057】
1:支持体
1a:空胴部
2:ミラー
3、4:弾性梁(トーションバー)
5、6、7、8:圧電アクチュエータ
9、10:圧電センサ
2a、3a、4a、5a、6a、7a、8a、9a、10a:振動板
2b、3b、4b、5b、6b、7b、8b、9b、10b:下部電極
3c、4c、5c、6c、7c、8c、9c、10c:圧電体層
3d、4d、5d、6d、7d、8d、9d、10d:上部電極
SW:スリット幅
1011:単結晶シリコン層
1012:中間酸化シリコン層
1013:単結晶シリコン活性層
1021、1022:酸化シリコン層
1031:下部電極層
1032:圧電体層
1033:上部電極層
104:ハードマスク層
SL:スリット





【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部が形成された支持体と、
該支持体の空洞部内に位置する反射面を有するミラーと、
基端が前記支持体に連結され先端が前記ミラーに連結された弾性梁と、
基端が前記支持体に連結され先端が前記弾性梁に連結されたアクチュエータと、
前記弾性梁に連結されかつ前記ミラーの外周側にスリットを介して位置し前記ミラーの角度を検出するための圧電センサと
を具備し、
前記アクチュエータは前記ミラー及び前記圧電センサを前記弾性梁を介して同一方向に回転振動させる光偏向器。
【請求項2】
前記スリットは前記ミラーの回転振動の振動周波数が前記圧電センサの回転振動の周波数に一致するように設けられている請求項1に記載の光偏向器。
【請求項3】
前記スリットは前記圧電センサの最大振動幅が前記ミラーの最大振動幅より大きくなるように設けられている請求項1に記載の光偏向器。
【請求項4】
前記アクチュエータは圧電アクチュエータである請求項1に記載の光偏向器。
【請求項5】
前記ミラーの反射面は円形であり、前記圧電センサは半環状である請求項1に記載の光偏向器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の光偏向器と、
該光偏向器に光を照射するための光源と、
該光源を駆動するための光源駆動回路と、
前記圧電センサのミラーの角度信号を検出するミラー角度検出回路と、
該検出されたミラーの角度信号を補正するための補正データを記憶する記憶回路と、
前記検出されたミラーの角度信号を前記補正データにより補正する制御回路と、
該補正されたミラーの角度信号により前記アクチュエータを駆動するアクチュエータ駆動回路と
を具備する光学装置。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−150055(P2011−150055A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9844(P2010−9844)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】