説明

光変調器

【課題】MZ型導波路のY合波部におけるモード不整合光の発生やモード不整合光の放射モード光や出力光への混入を抑制すると共に、放射モード光と出力光を効率良く分離抽出することが可能な光変調器を提供する。
【解決手段】誘電体基板の表面にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器において、該マッハツェンダー型導波路の出射側のY合波部の合波後の導波路がマルチモード導波路2であり、該マルチモード導波路2をシングルモード導波路となる出力主導波路3に変更する箇所に高次モード用導波路である出力副導波路4を接続し、該マルチモード導波路2は、長さが150μm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光変調器に関し、特に、誘電体基板の表面にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、誘電体基板の表面に光導波路を形成した光導波路素子が多用されている。その中でも、光強度変調などの光変調を行うため、マッハツェンダー型導波路を形成した光変調器は、集積化の容易さ、光変調の高効率化などの利点から利用度が高い。
【0003】
マッハツェンダー型導波路(以下、「MZ型導波路」という。)を有する光変調器では、MZ型導波路の少なくとも片方のアーム(分岐導波路)に電界を印加し、該アームを伝搬する光波の位相を制御することが行われている。しかも、LiNbO基板は温度変化や長時間に渡るDCバイアス制御などにより、変調信号の動作点がシフトする、所謂、ドリフト現象が発生し易い。このため、特許文献1乃至3に示すように、光変調器からの出力光やMZ型導波路のY合波部から放射される放射モード光をモニタし、適正な動作点となるよう光変調器に印加するDCバイアスを調整することが行われている。
【0004】
図1(a)に示すように、MZ型導波路の理想的なY合波部は、2つの分岐導波路1が結合するY合波部の股部分において、分岐導波路間のギャップが0となり、結合部2から出力導波路3に形状が変化する場所(領域Bと領域Cとの境目)で、放射モード光(高次モード光)が放射される。そして、この放射モード光をモニタすることにより、光変調器の変調状態を判断することが可能となる。(特許文献2参照)
【0005】
しかしながら、実際の光導波路の形状は、図1(b)に示すように、分岐導波路間のギャップGを0とすることはできない。これは、光導波路を形成する際の最少線幅が有限であることに起因している。このようなギャップの影響により、分岐導波路1が結合した場所(領域Aと領域Bとの境目)において、光波のモード不整合が発生し、導波路を伝搬する光波の一部が漏れる、所謂、モード不整合光が発生する。
【0006】
モード不整合光は、光変調器の光学特性を劣化させる原因となる。特に、伝搬損失の増大、消光比の劣化、さらには、モード不整合光が放射モード光と干渉したり、モード不整合光自体がモニタ手段に検出されるため、放射モード光を正確に検知できないなどの不具合を生じる。
【0007】
他方、光変調器に用いる誘電体基板を20μm以下に薄板化し、光変調器を駆動するための駆動電圧を低減したり、駆動信号と伝搬光との速度整合を図るなどの試みがなされている。しかしながら、特許文献4にも示すように、薄板化した誘電体基板内に、光導波路から漏出した光波が基板内に閉じ込められた状態で伝搬するため、モード不整合光と放射モード光の分離ができず、場合によっては、放射モード光と信号光との分離も困難な状態となる。
【0008】
さらに、薄板化した光変調器では、光導波路の線幅が通常(基板の厚みが数百μm)の5〜7μm程度から2〜4μm程度に減少するため、分岐導波路の結合部(Y合波部)でのギャップGの影響が、通常のものと比較して、大きくなり、モード不整合光の発生がより顕著なものとなる。
【0009】
本出願人は、特許文献4において、放射モード光を信号光から分離するため、MZ型導波路のY合波部を、2×3分岐導波路で形成することが開示した。しかしながら、特許文献4で開示した2×3分岐導波路の形状では、2分岐導波路が結合した際に生じるモード不整合光の一部が光導波路と再結合し、放射モード光や出力光に混入するという問題が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−53086号公報
【特許文献2】特開平5−134220号公報
【特許文献3】特開2001−281507号公報
【特許文献4】特開2006−301612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した問題を解消し、MZ型導波路のY合波部におけるモード不整合光の発生やモード不整合光の放射モード光や出力光への混入を抑制すると共に、放射モード光と出力光を効率良く分離抽出することが可能な光変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、誘電体基板の表面にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器において、該マッハツェンダー型導波路の出射側のY合波部の合波後の導波路がマルチモード導波路であり、該マルチモード導波路をシングルモード導波路となる出力主導波路に変更する箇所に高次モード用導波路である出力副導波路を接続し、該マルチモード導波路は、長さが150μm以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光変調器において、2本の該出力副導波路が、該出力主導波路を挟み、かつ、該出力主導波路を中心に線対称となるように配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光変調器において、該Y合波部で結合する2つの分岐導波路の各々の幅は、該出力主導波路の幅より狭く、該出力副導波路の幅は、該分岐導波路の幅よりも狭いことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光変調器において、該誘電体基板の厚みは、20μm以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光変調器において、該マッハツェンダー型導波路の入射側のY分岐部に至るまでの入力導波路の途中に、該入力導波路から分岐する高次モード用導波路を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明により、誘電体基板の表面にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器において、該マッハツェンダー型導波路の出射側のY合波部の合波後の導波路がマルチモード導波路であり、該マルチモード導波路をシングルモード導波路となる出力主導波路に変更する箇所に高次モード用導波路である出力副導波路を接続しているため、2つの分岐導波路が結合する部分にモードが大きく変化したり、漏洩する領域(シングルモード導波路)が無いためモード不整合光の発生が抑制される。さらに、該マルチモード導波路は、長さが150μm以上であるため、2つの分岐導波路の結合部で発生したモード不整合光が出力主導波路や出力副導波路と再結合することも距離的に抑制され、放射モード光や出力光にモード不整合光が混入することもない。
【0018】
請求項2に係る発明により、2本の出力副導波路が、出力主導波路を挟み、かつ、該出力主導波路を中心に線対称となるように配置されているため、放射モード光を該出力副導波路により安定して導出することが可能となる。
【0019】
請求項3に係る発明により、Y合波部で結合する2つの分岐導波路の各々の幅は、出力主導波路の幅より狭く、出力副導波路の幅は、該分岐導波路の幅よりも狭いため、分岐導波路の結合部でのモード径と、ON状態の光波が出力されるシングルモード導波路となる出力主導波路のモード径とをほぼ一致させることができ、出力光を出力主導波路から効率良く導出することができる。
【0020】
請求項4に係る発明により、誘電体基板の厚みは、20μm以下であるため、モード不整合光の影響が、顕著に現れることから、モード不整合光の抑制が必須となる。このため、本発明の光変調器の構成を適用することで、光変調器を駆動するための駆動電圧を低減し、また、駆動信号と伝搬光との速度整合を図りながら、モード不整合光の抑制も可能となる。
【0021】
請求項5に係る発明により、マッハツェンダー型導波路の入射側のY分岐部に至るまでの入力導波路の途中に、該入力導波路から分岐する高次モード用導波路を設けるため、光入力部で発生し入力導波路を伝搬している高次モード光を、高次モード用導波路で除去することができるため、Y分岐部での光波の分岐比を1対1に近づけることが可能となる。分岐比が1対1でない場合、Y合波部で、変調とは無関係な高次モードが発生する。この不要光は、出力主導波路や出力副導波路に混入し、消光比等の特性が劣化する。入射部に高次モード用導波路を付加することで、不要光の発生率をさらに抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】MZ型導波路のY合波部における不整合光や放射モード光の発生状況を説明する図である。
【図2】本発明の光変調器に利用されるY合波部近傍の導波路形状を説明する図である。
【図3】Y合波部近傍の導波路形状の差異による効果の違いを説明する図である。
【図4】入力導波路に高次モード用導波路を接続した様子を示す図である。
【図5】図3(a)及び(b)の2つの導波路形状における、結合長と出力副導波路の最大光強度との関係を示すグラフである。
【図6】図3(b)の導波路形状における2つの分岐導波路の結合部分のギャップ(gap)を、0μm(理想値)と、0.8μm(実際に実施できる幅)との場合で、結合長と出力副導波路の最大光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の光変調器について、以下に詳細に説明する。
図2は、本発明の光変調器に利用されるY合波部近傍の導波路形状を示す図である。
本発明の特徴は、誘電体基板の表面にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器において、該マッハツェンダー型導波路の出射側のY合波部の合波後の導波路2がマルチモード導波路であり、該マルチモード導波路(2)をシングルモード導波路となる出力主導波路(3)に変更する箇所(領域Bと領域Cとの境目)に高次モード用導波路である出力副導波路(4)を接続していることを特徴とする。符号1は、MZ型導波路のアームであり、Y合波部で結合する2つの分岐導波路を示している。
【0024】
光変調器の出力光の光強度Pc及び放射モード光の光強度P±は、MZ型導波路の各アーム間の位相差をΦ、カプラ部での基本モードと高次モードの位相差をδ、基本モード光が両脇の出力副導波路に漏れる割合をe2とすると、以下の数1に示す式となる。しかしながら、従来の光強度は、上述したようにY合波部でのモード不整合光が高次モード用導波路である出力副導波路に再結合するため、数1に示す式にあてはまらないが、本発明の光変調器の場合は、これらの式に近い値を得ることが出来る。
【0025】
【数1】

【0026】
本発明では、2つの分岐導波路が結合する部分(Y合波部)にモードが大きく変化したり、漏洩する領域(シングルモード導波路)が無いためモード不整合光の発生(導波路外への漏洩)が抑制される。さらに、該マルチモード導波路は、長さが150μm以上であるため、発生したモード不整合光が出力主導波路や出力副導波路と再結合することも抑制され、放射モード光や出力光にモード不整合光が混入することもない。さらに、本発明のマルチモード導波路の形状は、マルチモード導波路の幅がほぼ一定、あるいは、150μm以上かけて緩やかに増加するなど、マルチモード導波路の幅の変化が極めて緩やかとなっている。これに対し、図3(a)のように、シングルモード導波路に変化したりするなどのように、光が漏れやすい導波路は、本発明のマルチモード導波路の形状としては好ましくない。
【0027】
本発明の効果を確認するため、図3の(a)と(b)に示すように、2種類のY合波部近傍の導波路形状について、試算(シミュレーション)を行った。図3(a)は、2分岐導波路と3分岐導波路との間の結合部において、シングルモード導波路を含むように導波路の幅が変化する場合であり、w1=3.5μm,w2=w4=8μm,w3=3μm,w5=4μm及びw6=1μmと仮定した。
【0028】
図3(b)は、本発明の光導波路に係るY合波部近傍の導波路形状を示すものであり、結合部がマルチモード導波路のみを示している。具体的には、w1=3.5μm,w2=w4=8μm,w5=4μm及びw6=1μmと仮定した。
【0029】
図5は、結合長Lの長さの変化に対する、高次モード用導波路である出力副導波路(放射モード光を導出する導波路)における最大光強度(MZ型変調器がOFF状態の時の出力光強度)の変化を示す。図5に示すように、図3(a)と(b)との間には、明確な差が確認される。結果として、結合部をマルチモード導波路にすることによって、安定した光量を得ることができる。なお、伝搬する光波の波長がより短くなると、仮に、結合部の結合長Lが一定でも、光波にとって結合長がより長く感じることとなる。このため、図3(a)の構造では、光波の波長が短くなる程、一般的に、光強度変化が大きくなり、所謂、波長依存性が大きい光強度変化を示す。これに対し、図3(b)の方では、光強度変化も少ないため、波長依存性も抑制できることが容易に理解される。
【0030】
次に、Y合波部近傍の導波路形状を図3(b)の形状とし、2つの分岐導波路を結合させた際のギャップ(gap)を、0μm(理想値)と、0.8μm(実際に実施できる幅)との場合で、出力副導波路から出力される最大光強度を計算比較した。その結果を図6に示す。
【0031】
図6を参照すると、gapが0μmの場合には、結合部の長さLを変えても変化しないが、gapが0.8μmの場合には、結合部が長くなるにしたがい、出力副導波路から出力される最大強度が減少することが分かる。これは、gapを0.8μmにすることによって、MZアーム(分岐導波路)と結合部の導波路部との間で屈折率分布が変化するため、モード不整合光が生じることによる。
【0032】
つまり、結合長Lが150μmより短い範囲では、モード不整合光が出力副導波路と再結合するため、理想状態と同程度の高い光強度を示すが、結合長Lが150μm以上となると、モード不整合光が出力副導波路と再結合する確率が低減し、最大強度が結合部の導波路長が長くなるにしたがい、減少することとなる。光学的な特性劣化を抑制するには、このモード不整合光を出力副導波路と結合させないことが求められ、このような条件は、結合導波路部の長さLが150μm以上必要であることが理解される。
【0033】
また、本発明の光変調器では、図2に示すように、2本の出力副導波路4が、出力主導波路3を挟み、かつ、該出力主導波路を中心に線対称となるように配置するのが好ましい。これにより、高次モード光である放射モード光を信号出力光から再現良く分離し導出することが可能となる。
【0034】
また、本発明の光変調器では、図3(b)に示すY合波部で結合する2つの分岐導波路の各々の幅w1は、出力主導波路の幅w5より狭く、出力副導波路の幅w6は、該分岐導波路の幅w1よりも狭いため、分岐導波路の結合部でのモード径と、ON状態の光波が出力されるシングルモード導波路となる出力主導波路のモード径とをほぼ一致させることができる。これにより、出力光を出力主導波路3から効率良く導出することができる。
【0035】
本発明の光変調器に利用される誘電体基板は、電気光学効果を有する基板が好適であり、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料から構成され、具体的には、これら単結晶材料の、Xカット板、Yカット板、及びZカット板から構成され、特に、光導波路デバイスとして構成されやすく、かつ異方性が大きいという理由から、ニオブ酸リチウム(LN)を用いることが好ましい。さらに、本発明は、誘電体基板の厚みが20μm以下のものに対して好適に適用することが可能である。それは、モード不整合光が薄板内に閉じ込められ易い場合でも、本発明を適用しモード不整合光の発生を抑制できるため、放射モード光や出力光にモード不整合光が混入することが効果的に抑制されるためである。
【0036】
光導波路は、基板上に、例えばチタン(Ti)などを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることで形成することができる。また、別の方法として、光導波路に対応する部分にリッジ構造を形成し、光導波路を構成することも可能である。さらに上述のTi等を利用する方法とリッジ構造とを併用することも可能である。
【0037】
さらに、本発明の光変調器は、図4に示すように、マッハツェンダー型導波路の入射側のY分岐部6に至るまでの入力導波路5の途中に、該入力導波路5から分岐する高次モード用導波路7を設けることが好ましい。この構成により、光入力部で発生し入力導波路を伝搬している高次モード光を、高次モード用導波路で除去することができるため、Y分岐部6での光波の分岐比(a1:a2)を1対1に近づけることが可能となり、Y合波部での不要光の発生率をさらに抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、MZ型導波路のY合波部におけるモード不整合光の発生やモード不整合光の放射モード光や出力光への混入を抑制すると共に、放射モード光と出力光を効率良く分離抽出することが可能な光変調器を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 分岐導波路
2 結合導波路
3 出力導波路
4 出力副導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板の表面にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器において、
該マッハツェンダー型導波路の出射側のY合波部の合波後の導波路がマルチモード導波路であり、
該マルチモード導波路をシングルモード導波路となる出力主導波路に変更する箇所に高次モード用導波路である出力副導波路を接続し、
該マルチモード導波路は、長さが150μm以上であることを特徴とする光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光変調器において、2本の該出力副導波路が、該出力主導波路を挟み、かつ、該出力主導波路を中心に線対称となるように配置されていることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光変調器において、該Y合波部で結合する2つの分岐導波路の各々の幅は、該出力主導波路の幅より狭く、該出力副導波路の幅は、該分岐導波路の幅よりも狭いことを特徴とする光変調器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光変調器において、該誘電体基板の厚みは、20μm以下であることを特徴とする光変調器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光変調器において、該マッハツェンダー型導波路の入射側のY分岐部に至るまでの入力導波路の途中に、該入力導波路から分岐する高次モード用導波路を設けることを特徴とする光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−237376(P2010−237376A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84344(P2009−84344)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】