説明

光学位相調整素子、及びこれを用いた復調器

【課題】熱光学素子における温度分布を抑制し、光学収差の小さい光学位相調整素子、及びそれを用いた復調器の提供。
【解決手段】本発明に係る光学位相調整素子は、入力される光信号に対する屈折率が温度に依存して変化する熱光学素子と、前記熱光学素子の一端側に接するとともに前記熱光学素子が所望の温度となるよう温度変化する温度変化部と、前記温度変化部に対して前記熱光学素子と反対側に配置されるとともに前記温度変化部の温度とは異なる温度で熱平衡状態となる放熱部と、前記温度変化部と前記放熱部の間にそれぞれ接して配置されるとともに前記放熱部より大きい熱抵抗を有する温度緩衝部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱光学効果により透過光の光路長を変化させる光学位相調整素子、及びこれを用いた光位相変調信号の復調器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光伝送システムの大容量化及び長距離化の要望に応えるものとして、位相変調方式が実用化されている。例えば、差動位相偏移変調(Differential Phase Shift Keying:以下、DPSKと記す)や差動4相位相偏移変調(Differential Quadrature Phase Shift Keying:以下、DQPSKと記す)等の位相変調方式では、伝送された光信号を受信する際、1ビット前の光信号と光学的に干渉させて位相情報を強度情報に変換して復調を行う。
【0003】
光干渉計に係る技術について、特許文献1に開示されている。特許文献1の図1に示す通り、光送信器によって送出された光信号が、光干渉計において、光路長の異なる2つの光路に分岐入力され、分岐された光信号が再び合波され、光路の有効光路差により光信号が干渉されることにより、強度変調信号に変換される。さらに、受光器が光干渉計により変換された強度変調信号を電気信号に変換し、増幅器が受光器により変換された電気信号を増幅し、信号処理部が増幅器により増幅された電気信号からデータ信号を抽出している。光信号を高精度に復調する為には、光干渉計において分岐された一方の光信号に対して付与される遅延時間を正確に設定する必要があり、特許文献1の図2に示す通り、光干渉計の位相調整部が光路長を調整している。
【0004】
光路長を調整する手段としては、電気光学効果、磁気光学効果、光弾性効果、熱光学効果等の物理光学現象を用いる方法や、機械的に光学素子を動かす方法が一般に知られている。
【0005】
従来において、光干渉計は、平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:以下、PLCと記す)で構成されることが多い。しかし、PLCには、光導波路特性が温度や機械的圧力に対して敏感に変動するという特徴があり、光導波路特性を安定に保つ為にコストの増大及びサイズの大型化を招くという問題がある。分波波長特性が温度に依存して変化する石英アレイ導波路素子などの導波路素子と、導波路素子を載置する温調素子とを備える導波路型光モジュールについて、特許文献2に記載されている。特許文献2に記載の温調素子は、導波路素子を載置する面と反対側の表面又は内部に発熱体などを備える板状体からなっている。そして、温調素子と、温調素子を支持する台座(外部)との物理的に接触する面積を小さくしつつ、温調素子と台座との間に断熱材を介在させることなどにより、熱が温調素子(板状体)から台座へ向かう熱の伝搬が軽減され、板面の熱均一性が確保される。
【0006】
これに対して、自由空間(又は媒体)を伝送路とした光学系(以下、自由空間光学系と記す)を用いた遅延干渉計について、例えば、特許文献3に記載されている。特許文献3に記載の遅延干渉計では、分岐された2つの光路に2つのプリズムをそれぞれ配置し、一方のプリズムを移動させることにより、光波路長を変動させている。
【0007】
また、自由空間光学系において熱光学効果を用いた光学位相調整板が、特許文献4に開示されている。特許文献4に記載の光学位相調整板では、熱光学効果により透過光に対する屈折率を変化させることができる光学基板がパッケージの底部に形成された取り付け部に取り付けられ、光学基板の表面のうち取り付け部側とは反対側の表面に薄膜ヒータが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−21891号公報
【特許文献2】特開2003−287632号公報
【特許文献3】国際公開第2010−109640号
【特許文献4】特開2009−300538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
熱光学効果は他の物理光学現象と比較して偏光依存性が小さいため、熱光学効果を用いた光学位相調整素子が望まれる。また、熱光学効果を用いた光学位相調整素子においては、熱のみで位相を調整することができ、機械的に光学素子を移動させる機構などが必要ないので、干渉計の小型化が期待できる。しかし、自由空間光学系において、熱光学効果を利用して、光学位相調整を行う場合、素子の内部に温度分布が生じてしまうと、その温度分布に応じて素子の内部に屈折率分布が生じてしまい、屈折率分布に応じて光学収差が発生してしまう。光学収差が発生すると、干渉計において干渉性が悪化するので、光学位相調整素子の特性が劣化してしまう。
【0010】
例えば、特許文献4に記載の技術を適用した場合、熱源である薄膜ヒータと放熱部であるパッケージの取り付け部との間に、熱光学素子を配置することとなり、熱光学素子において、熱源や放熱部から離れるにつれて、温度分布が生じてしまう。それにより、熱光学素子を透過する光信号の領域に生じる温度分布により、素子の特性が劣化してしまう。また、例えば、特許文献2に記載の技術を自由空間光学系に適用することは困難な上に、熱光学素子と熱源との接触する面積を小さくすると、温度変化に対する応答が遅くなり、実用的な位相調整に適さなくなるという新たな問題が生じてしまう。
【0011】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱光学素子における温度分布を抑制し、光学収差が低減される光学位相調整素子、及びそれを用いた復調器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る光学位相調整素子は、入力される光信号に対する屈折率が温度に依存して変化する熱光学素子と、前記熱光学素子の一端側に接するとともに前記熱光学素子が所望の温度となるよう温度変化する温度変化部と、前記温度変化部に対して前記熱光学素子と反対側に配置されるとともに前記温度変化部の温度とは異なる温度で熱平衡状態となる放熱部と、前記温度変化部と前記放熱部の間にそれぞれ接して配置されるとともに前記放熱部より大きい熱抵抗を有する温度緩衝部と、を備える。
【0013】
(2)上記(1)に記載の光学位相調整素子であって、前記熱光学素子は、周囲気体によって包囲され、前記熱光学素子の熱抵抗Rと、前記熱光学素子が前記周囲気体に包囲される表面の面積Sと、前記周囲気体の熱伝達率hと、の積であるR×S×hが、前記熱光学素子の所望の屈折率分布比δより小さくてもよい。
【0014】
(3)上記(2)に記載の光学位相調整素子であって、前記周囲気体は、窒素を主成分とする気体であってもよい。
【0015】
(4)上記(1)に記載の光学位相調整素子であって、前記熱光学素子は、真空によって包囲され、前記熱光学素子の熱抵抗Rと、前記熱光学素子が前記真空に包囲される表面の面積Sと、前記熱光学素子の絶対温度Tの3乗と、の積であるR×S×Tが、前記熱光学素子の所望の屈折率分布比δと定数4000000と、の積である4000000×δより小さくてもよい。
【0016】
(5)上記(1)に記載の光学位相調整素子であって、前記温度緩衝部の熱容量Cと前記温度緩衝部の熱抵抗Rとの積であるC×Rが、前記熱光学素子の熱容量Cと前記熱光学素子の熱抵抗Rとの積であるC×Rの0.5倍以上2倍以下であってもよい。
【0017】
(6)上記(1)に記載の光学位相調整素子であって、前記熱光学素子は、前記入力される光信号が通過する領域において、互いに平行な1対の面を有し、該1対の面は、前記熱光学素子が前記温度変化部と接する面に対してほぼ垂直であってもよい。
【0018】
(7)上記(1)に記載の光学位相調整素子であって、前記熱光学素子が前記温度変化部と接する面の周縁を、前記温度変化部が囲っていてもよい。
【0019】
(8)上記(1)に記載の光学位相調整素子であって、前記温度変化部は、前記温度緩衝部上に形成される薄膜抵抗体であり、前記熱光学素子は、絶縁性の接着剤を用いて接着されることにより、前記温度変化部と接してもよい。
【0020】
(9)上記(1)に記載の光学位相調整素子であって、前記熱光学素子は、シリコンを主成分として含んでいてもよい。
【0021】
(10)本発明に係る復調器は、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の光学位相調整素子を、1又は複数備えていてもよい。
【0022】
(11)上記(10)に記載の復調器であって、前記1又は複数の光学位相調整素子それぞれは、前記入力された光信号が2つの光信号に分岐され、該2つの光信号のいずれかの位相を調整してもよい。
【0023】
(12)上記(10)に記載の復調器であって、マッハ=ツェンダー干渉計を、さらに備え、前記1又は複数の光学位相調整素子は、該マッハ=ツェンダー干渉計に配置されてもよい。
【0024】
(13)上記(10)に記載の復調器であって、マイケルソン干渉計を、さらに備え、前記1又は複数の光学位相調整素子は、該マイケルソン干渉計に配置されてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、熱光学素子における温度分布を抑制し、光学収差が低減される光学位相調整素子、及びそれを用いた復調器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光学位相調整素子の構造を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る光学位相調整素子に生じる熱流と温度分布を示す模式図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る光学位相調整素子の等価回路を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る復調器の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る復調器の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第5の実施形態に係る復調器の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の比較例に係る光学位相調整素子の構造を示す概略斜視図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の比較例に係る光学位相調整素子に生じる熱流と温度分布を示す模式図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の比較例に係る光学位相調整素子の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
あくまで、当該実施形態の実施例を説明するものであって、図に示す縮尺と実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0028】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学位相調整素子1の構造を示す概略斜視図である。図に示す通り、光学位相調整素子1は、熱光学素子11と、温度変化部12と、温度緩衝部13と、放熱部14と、を備えている。
【0029】
温度変化部12は薄膜抵抗体からなり、温度緩衝部13上に薄膜抵抗パタンを形成することにより、温度変化部12が形成される。薄膜抵抗体に流れる電流量に応じて、温度変化部12は熱を発生する。
【0030】
熱光学素子11はシリコン基板からなり、熱光学素子11は板状の直方体の形状をしている。ここで、熱光学素子11は、板状に広がる互いに平行な前面と背面とを有しており、外部より入力される光信号30が、前面より入射して熱光学素子11を透過し背面より出射する。熱光学素子11は温度によって光信号30に対する屈折率が変化する特性を有しており、すなわち、屈折率が温度に依存して変化する。熱光学素子11はさらに底面を有しており、絶縁性の接着剤を用いて、温度変化部12に熱光学素子11の底面が接している。ここで、熱光学素子11の一端側とは熱光学素子11の底面となっている。また、熱光学素子11の底面の周縁は、温度変化部12に囲われており、温度変化部12を形成する薄膜抵抗体の面積は、熱光学素子11の底面の面積より大きい。熱光学素子11は、底面と反対側に位置する上面と、前面と背面の左右にそれぞれ位置する右側面と左側面と、をさらに有している。熱光学素子11は、窒素を主成分とする周囲気体に包囲されており、熱光学素子11の6面のうち、温度変化部12と接している底面以外の5面は、周囲気体と接している。すなわち、熱光学素子11の表面のうち、温度変化部12と接している領域以外は、周囲気体によって包囲されている。
【0031】
温度緩衝部13の下側には、放熱部14が配置されている。すなわち、放熱部14は、温度変化部12に対して、熱光学素子11と反対側に配置されており、温度緩衝部13は温度変化部12と放熱部14との間に配置され、温度緩衝部13の上側は温度変化部12と、温度緩衝部13の下側は放熱部14と、それぞれ接している。温度緩衝部13の熱抵抗は、放熱部14の熱抵抗より大きい。
【0032】
熱光学素子11が所望の温度となるよう、温度変化部12は温度変化する。ここでは、温度変化部12に流れる電流量が制御され、温度変化部12は電流量に応じて熱を発生する。温度変化部12で生じた熱は、上側へは熱光学素子11に伝導し、下側へは温度緩衝部13に伝導する。熱光学素子11に流入した熱は、周囲気体への熱伝達や熱輻射によって周囲気体へ流出する。温度緩衝部13に流入した熱はさらに放熱部14に放熱される。これらの熱量が安定に落ち着いたところで、温度が平衡状態になる。
【0033】
当該実施形態に係る光学位相調整素子1の特徴は、熱光学素子11における温度分布が抑制されている点にあり、熱光学素子11の上端と下端との間に生じる温度差が低減されている。温度差は、簡単なモデルによると熱流量と熱抵抗の積によって表されるので、熱抵抗を持つ物質であればどのような形状であっても必ず熱流量に比例する温度差が生じる。また、熱光学素子11は、温度に依存して光信号30に対する屈折率が変化するものであるので、所望の屈折率変化を得るためには、温度変化部12が相応の温度変化をして熱を発生するので、熱流量は大きくなってしまう。
【0034】
以下に、公知例とはなっていないが本願発明に先立ち本願発明者らによって検討された本願発明に対する比較例を、図7乃至図9に示す。
【0035】
当該実施形態に係る光学位相調整素子1の効果を明らかにするために、当該実施形態の比較例に係る光学位相調整素子101と比較する。図7は、当該実施形態の比較例に係る光学位相調整素子101の構造を示す概略斜視図である。当該実施形態に係る光学位相調整素子1と同様に、光学位相調整素子101は、熱光学素子111と、温度変化部112と、温度緩衝部113と、放熱部114と、を備えているが、配置が当該実施形態に係る光学位相調整素子1と異なっている。とくに、温度変化部112が熱光学素子111の上面に形成されており、熱光学素子111が温度緩衝部113の上に接して配置されている。それゆえ、温度変化部112で生じた熱の一部は周囲気体へ流出するものの、温度変化部112で生じた熱の多くは、熱光学素子111に伝導し、さらに、温度緩衝部113、放熱部114へと伝導していく。
【0036】
図8は、当該実施形態の比較例に係る光学位相調整素子101に生じる熱流と温度分布を示す模式図である。温度変化部112が所望の熱量の熱を発生しており、光学位相調整素子101が熱平衡状態に達している状態が図には示されている。図8(a)に、光学位相調整素子101に生じる熱流が示されている。前述の通り、上部に位置する温度変化部112で生じた熱は、熱光学素子111に伝導し、さらに、温度緩衝部113、放熱部114へと下向きに伝導しており、矢印の向きは熱流の向きを示し、矢印の太さが熱流量の大きさを示している。図8(b)に、光学位相調整素子101に生じる温度分布が示されており、図の縦軸は高さyを、図の横軸は高さyにおける温度Tが示されている。前述の通り、熱流量に比例して温度差が生じるので、光学位相調整素子101にはその高さに応じて、図8(b)に示す温度勾配が生じている。温度緩衝部113の熱抵抗が最も大きく、温度緩衝部113に生じる温度勾配が最も大きい。熱光学素子111の熱抵抗は、温度緩衝部113の熱抵抗より小さいものの、熱光学素子111にも温度勾配が生じている。ここで、熱光学素子111の上端と下端との間に生じる温度差が、ΔTとして図に示されている。また、放熱部114の熱抵抗は、熱光学素子111の熱抵抗や温度緩衝部113の熱抵抗と比較して十分に小さいので、放熱部114における温度勾配は非常に小さい。
【0037】
図2は、当該実施形態に係る光学位相調整素子1に生じる熱流と温度分布を示す模式図である。温度変化部12が所望の熱量の熱を発生しており、光学位相調整素子1が熱平衡状態に達している状態が図には示されている。図2(a)に、光学位相調整素子1に生じる熱流が示されている。前述の通り、熱光学素子11と温度緩衝部13との間に位置する温度変化部12で生じた熱は、上側へは熱光学素子11に伝導し、下側へは温度緩衝部13、放熱部14に伝導する。図8(a)と同様に、矢印の向きは熱流の向きを示し、矢印の太さが熱流量の大きさを示しているが、熱平衡状態において、温度変化部12から熱光学素子11へ流れる熱流量は、温度変化部12から温度緩衝部13、放熱部14へ流れる熱流量と比較して、十分に小さいので、温度変化部12から熱光学素子11へ流れる熱流は、図には、破線の矢印で示されている。図2(b)に、光学位相調整素子1に生じる温度分布が示されており、図の縦軸は高さyを、図の横軸は高さyにおける温度Tが示されている。前述の通り、熱流量に比例して温度差が生じるので、光学位相調整素子1にはその高さに応じて、図2(b)に示す温度勾配が生じている。しかし、熱平衡状態において、図8(b)と同様に、温度緩衝部13の熱抵抗が最も大きく、温度緩衝部13に生じる温度勾配が最も大きい。しかし、比較例に係る光学位相調整素子101と異なり、熱光学素子11へ流れる熱流量は、温度緩衝部13へ流れる熱流量と比較して十分に小さいので、熱平衡状態において、熱光学素子11に生じる温度勾配は非常に小さい。すなわち、熱光学素子11の上端と下端との間に生じる温度差は非常に小さい。また、放熱部14の熱抵抗は、熱光学素子11の熱抵抗や温度緩衝部13の熱抵抗と比較して十分に小さく、放熱部14における温度勾配は非常に小さく、温度変化部12の温度とは異なる温度で、ここでは、より低い温度で、熱平衡状態となっている。放熱部14における温度勾配は非常に小さいので、放熱部14は温度一定とみなすことが出来る。
【0038】
一般に、熱光学素子の温度差については、熱平衡状態となっている熱光学素子の平均温度Tに対して熱光学素子に温度差ΔTがある場合、熱光学素子にΔT/T=δとなる屈折率分布比δが生じる。ここで、平均温度Tとは、熱光学素子の上端の温度と下端の温度の平均をいい、温度差ΔTとは、熱光学素子の上端の温度と下端の温度の差をいう。さらに、屈折率分布比δとは、熱光学素子の平均屈折率に対する屈折率分布の比である。ここで、平均屈折率とは、熱光学素子の上端における屈折率と下端における屈折率との平均をいい、屈折率分布とは、熱光学素子の上端の屈折率と下端の屈折率の差をいう。
【0039】
なお、ここで温度とは、例えば室温といった基準となる温度(以下、基準温度と記す)に対する温度である。すなわち、温度とは、基準温度からの温度変化である。よって、平均温度Tとは、熱光学素子の上端における基準温度からの温度変化と、下端における基準温度からの温度変化と、の平均をいう。同様に、ここで屈折率とは、例えば室温における屈折率といった基準となる屈折率(以下、基準屈折率と記す)に対する屈折率である。すなわち、屈折率とは、基準屈折率からの屈折率変化である。よって、平均屈折率とは、熱光学素子の上端における基準屈折率からの屈折率変化と、下端における基準屈折率からの屈折率変化と、の平均をいう。よって、平均屈折率とは、基準屈折率に対する屈折率変化の平均で定義される。同様に、屈折率変化比δは、基準屈折率に対する屈折率変化の平均に対する、屈折率分布の、比で定義されるとしてもよい。
【0040】
屈折率分布比δが生じるとき、例えば、位相調整量として1波長分を変化させる場合、波長をλとしてδ×λの光学収差に相当する。光学収差については、この熱光学素子を通過して位相調整された光信号を別の光信号と干渉させる場合に良好な干渉性を得るために、位相ずれが0.01λ未満であることが望ましい。すなわち、屈折率分布比δに対応して、熱光学素子の温度差ΔTが0.01T未満であるのが望ましい。
【0041】
以下、当該実施形態に係る光学位相調整素子1の効果について、温度差に加えて、温度変化効率及び応答速度まで考慮してより詳細に説明する。ここで、光学位相調整素子1を構成する各部の温度に対する物性は熱容量と熱抵抗で表され、熱流を電流に置き換え、温度変化部12を電流源に置き換えると、電気回路と等価とするモデルを適用することが出来る。
【0042】
図9は、当該実施形態の比較例に係る光学位相調整素子101の等価回路を示す図である。ここで、温度変化部112の発熱量をQ、熱光学素子111の熱容量をC、熱光学素子111の熱抵抗をR、温度緩衝部113の熱容量をC、温度緩衝部113の熱抵抗をR、温度変化部112及び熱光学素子111の上端の温度をT、熱光学素子111と温度緩衝部113の接触部の温度をTとする。図9に示す光学位相調整素子101の等価回路において、熱光学素子111の等価回路モデル121は、抵抗Rと容量Cの並列回路で、温度緩衝部113の等価回路モデル123は、抵抗Rと容量Cの並列回路で、表すことが出来る。ここで、電気回路における接地電位(GND)が、基準温度に対応しており、温度T,Tは、基準温度に対する温度変化であり、等価回路となる電気回路においては、接地電位に対する電位(接地電位との電位差)に対応している。
【0043】
電気回路と等価とするモデルについて解くと、温度T,Tは、以下の数式1に表すことが出来る。
【0044】
【数1】

【0045】
このとき、熱光学素子111における温度差ΔTは、以下の数式2に表すことができる。
【0046】
【数2】

【0047】
ここで、熱平衡状態において、熱光学素子111に対する所望の温度をT=(R+R)×Qとすると、温度差ΔT=R×Qとなるので、その比ΔT/Tは、以下の数式3に表すことが出来る。
【0048】
【数3】

【0049】
数式3が示す通り、熱光学素子111におけるΔT/Tは、光学位相調整素子101全体の熱抵抗に対する熱光学素子111の熱抵抗の比で表される。熱光学素子111の温度分布を小さくするためには、温度緩衝部113の熱抵抗Rを、熱光学素子111の熱抵抗Rに対して大きくすればよい。この場合、数式1より、温度T,Tの応答時定数は、C×Rが支配的になる。温度緩衝部113の熱容量Cを小さくすれば、応答速度は速くなるが、原理的に熱容量Cを小さくするには限度があるので、熱光学素子111の応答時定数は、熱抵抗Rを大きくする限りどうしても非常に大きくなり、応答速度は遅くなってしまい、位相調整が非常に遅くなり実用的でなくなる。
【0050】
図3は、当該実施形態に係る光学位相調整素子1の等価回路を示す図である。ここで、温度変化部12の発熱量をQ、熱光学素子11の熱容量をC、熱光学素子11の熱抵抗をR、温度緩衝部13の熱容量をC、温度緩衝部13の熱抵抗をR、熱光学素子11の上端の温度をT、温度変化部12の温度が一定として、熱光学素子11及び温度緩衝部13の温度変化部12との接触部の温度をTとする。図3に示す光学位相調整素子1の等価回路において、図9と同様に、熱光学素子11の等価回路モデル21は、抵抗Rと容量Cの並列回路で、温度緩衝部13の等価回路モデル23は、抵抗Rと容量Cの並列回路で、表すことが出来る。また、前述の通り、光学位相調整素子1は、温度変化部12の配置が、比較例に係る光学位相調整素子101と異なっており、図3に示す通り、温度変化部12に対応する電流源の配置が異なっている。さらに、熱光学素子11から周囲気体への熱伝達及び熱輻射に対応する熱抵抗をRとしている。電気回路と等価とするモデルについて解いて、さらに、熱抵抗Rが熱抵抗R,Rと比較して十分に大きいので、係る近似を施すことにより、温度T,Tは、以下の数式4に表すことが出来る。
【0051】
【数4】

【0052】
このとき、熱光学素子11における温度差ΔT=T−Tは、以下の数式5に表すことができる。
【0053】
【数5】

【0054】
ここで、熱平衡状態において、熱光学素子11に対する所望の温度をT=R×Qとすると、温度差ΔT=(R×R/R)×Qとなるので、その比ΔT/Tは、以下の数式6に表すことが出来る。
【0055】
【数6】

【0056】
前述の通り、RはRより十分に大きいので、熱光学素子11における温度差ΔTが非常に小さいことがわかる。そして、熱光学素子11に対する所望の温度TはR×QでありRに比例するが、温度緩衝部13の熱抵抗Rが大きいことを意味しているので、光学位相調整素子1の温度変化効率は高いことが分かる。
【0057】
また、数式4及び数式5が示す通り、応答時定数については、C×RとC×Rの2つの成分が出現している。全体の応答は時定数の大きい方に律速されるので、光学位相調整素子1の応答速度は、C×RとC×Rのうち大きい方の応答速度となる。
【0058】
ここで、C×RとC×Rが同程度の値をとる場合について考える。この場合、数式4及び数式5の各項の係数の分母が0となってしまい不都合が生じてしまう。それゆえ、C×RとC×Rが同程度の値をとる場合について、再計算を行うと、温度T,Tは、以下の数式7に表すことが出来る。
【0059】
【数7】

【0060】
ただし、係数α、係数β及び係数Kは、以下の数式8で表される。
【0061】
【数8】

【0062】
このとき、熱光学素子11における温度差ΔTは、以下の数式9に表すことができる。
【0063】
【数9】

【0064】
ここで、熱平衡状態において、その比ΔT/Tは、以下の数式10に表すことが出来る。
【0065】
【数10】

【0066】
前述の通り、RはR及びRより十分に大きいので、数式6と同様に、熱光学素子11における温度差ΔTが非常に小さいことがわかる。また、C×RとC×Rが同程度の値をとる場合、応答時定数は1/α〜Kとなり、振動を伴いながらK程度の時定数で熱平衡に至る。よって、C×RとC×Rが同程度の値をとる場合は、C×RとC×Rの値にばらつきがある場合よりも、一般に応答が速くなっているのが分かる。
【0067】
次に、熱光学素子11から周囲気体への熱伝達及び熱輻射に対応する熱抵抗Rについて、説明する。周囲気体への熱輻射は、一般に熱伝達よりも十分に小さいので、ここでは、周囲気体への熱伝達のみについて考えればよい。ここで、周囲気体の熱伝達率をh、熱光学素子11の周囲気体に包囲される表面の面積をSとするとき、熱抵抗Rは、以下の数式11に表すことが出来る。
【0068】
【数11】

【0069】
ここで、熱伝達率hは、周囲気体の流速に依存するが、一般的には常温常圧の空気で10W/(Km)程度である。周囲気体が平均自由工程の大きな気体の場合、熱伝達率hは10倍程度になることもあるが、空気のような窒素を主成分とする気体であれば熱伝達率hは上記程度であり、化学反応性やコストの面でも良い。ここで、主成分とは、50%以上のモル含有量を満たすものであるとする。数式10に、数式11とδ=ΔT/Tを代入して、RがRより十分に大きいとの近似を施すことにより、屈折率分布比δは、以下の数式12に表すことが出来る。
【0070】
【数12】

【0071】
数式12より、光学位相調整素子1の屈折率分布比δが素子として要求される所望の値以下となるように、R×h×Sが当該所望の値より小さくなるように、光学位相調整素子1を作製すればよい。光学位相調整素子1にとって問題となる屈折率分布は、熱光学素子11に入射し出射する光信号30が通過する領域においてである。上記議論は、屈折率分布比δを、熱光学素子11の上端と下端に対する屈折率分布比なので、光信号30が通過する領域(以下、ビーム径と記す)において要求される屈折率分布から換算して、上記屈折率分布比δの所望の値を算出すればよい。
【0072】
光学位相調整素子1の作製において、熱光学素子11を通過する光信号30が大きなビーム径を有しており、大きなビーム径の光信号30を通過させる制約から、熱光学素子11の熱容量及び熱抵抗はともに有る程度大きくならざるを得ず、温度緩衝部13は前述の通り熱抵抗が大きい。また、構造上の制約があり、C×RとC×Rの両方を同時に小さくすることは困難である。したがって、C×RとC×Rとがほぼ等しくなるように各物性値及び形状を決めれば、極端に応答の遅い成分が出なくなり都合が良い結果が得られる。ここで、C×RとC×Rの比が2倍程度以下であれば望ましい。すなわち、C×Rが、C×Rの0.5倍以上2倍以下であるのが望ましい。C×Rが、C×Rの0.5倍以上2倍以下であるのが望ましいとしてもよい。
【0073】
さらに、簡単なモデルを適用すると、熱容量は長さに正比例し断面積に正比例、熱抵抗は長さに正比例し断面積に反比例するので、熱容量と熱抵抗の積は、ほとんど断面積に依存せず、熱流経路の長さのみによって決まる、したがって、当該実施形態に係る光学位相調整素子1においては、応答速度に関して、熱光学素子11と温度緩衝部13の断面積は殆ど影響せず、熱光学素子11と温度緩衝部13の厚さによって、主に応答速度が決定される。よって、熱光学素子11と温度緩衝部13の厚さを調整することにより、上記のC×RとC×Rとがほぼ等しいという条件を簡単に満たすことが可能である。
【0074】
当該実施形態に係る光学位相調整素子1において、熱光学素子11は互いに平行な1対の面(前面と背面)を有しており、光信号30は、該1対の面を通過している。すなわち、光信号30のビーム径は、該1対の面それぞれ含まれている。このように、熱光学素子11に光信号30が通過する領域(ビーム径)は、互いに平行な1対の面となっているのが望ましい。さらに、光信号30は、該1対の面に垂直に入射し出射するのが望ましい。しかしながら、熱光学素子11に光信号30が通過する領域以外は、光学的性能に影響しない限り特に制限されるものではない。
【0075】
また、当該実施形態に係る光学位相調整素子1において、熱光学素子11は該1対の面に垂直な面である底面が、温度変化部12と接している。温度変化部12と接する面に対して、該1対の面がほぼ垂直であれば、熱光学素子内の熱流がより一定となり、熱光学素子内の温度分布を抑制するためにより望ましい。ここで、ほぼ垂直とは、85度以上95度以下をいうが、垂直(90度)であるのがさらに望ましいのは言うまでもない。
【0076】
さらに、当該実施形態に係る光学位相調整素子1において、温度緩衝部13上に薄膜抵抗パタンを形成することによって、薄膜抵抗体からなる温度変化部12が形成される。薄膜抵抗体は、熱容量及び熱抵抗が小さいので望ましいが、これに限定されることはない。他の発熱体であってもよいし、温度変化部12は発熱体のみならず、吸熱体であってもよい。吸熱機能を持つ素子は、例えばペルチェ素子である。
【0077】
また、熱光学素子11に発生する温度分布を抑制する観点から、熱光学素子11が温度変化部12と接する面に対して、温度変化部12を十分に大きくするのが望ましい。とくに、温度変化部12が薄膜抵抗体である場合は、薄膜抵抗体の面積が十分に大きいのが望ましい。とくに、熱光学素子11が温度変化部12と接する面の周縁、すなわち、熱光学素子11の底面の周縁を、温度変化部12が囲っているのが望ましい。熱光学素子11に発生する温度分布はさらに抑制されることとなる。
【0078】
ここでは、熱光学素子11が、絶縁性の接着剤を用いて温度変化部12に接着されることにより、熱光学素子11は温度変化部12に接しているが、組立工程を簡単とすることが出来るので望ましい。さらに、温度変化部12が薄膜抵抗体であり、薄膜抵抗体の面積が十分に大きいとき、接着許容範囲はさらに広がるので組立工程はさらに簡単となる。
【0079】
さらに、ここでは、熱光学素子11はシリコン基板からなるとしている。シリコン基板は、アモルファス(非晶質)シリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンのいずれであってもよいし、熱光学素子11はシリコンを主成分とする材料で形成されていてもよい。一般低な光学ガラスは、1.0×10−6から1.0×10−5程度の熱光学係数を持つが、シリコンは1.0×10−4程度の高い熱光学係数を有しているので、熱光学素子の材料として、シリコンは望ましい。熱光学素子11にシリコンを用いることにより、温度分布を抑制し、また、一般的な光学媒質に比べて、熱伝導度が高いので、本発明の効果はさらに高まる。しかしながら、熱光学素子11の材質は、温度に依存して屈折率が変化し、光信号30に対する透過率が十分に高ければ特に限定されるものではない。
【0080】
尚、図2に係る本願発明の効果を確認するため温度分布シミュレーション計算を行ったところ、熱光学素子11の主面(光信号30の通過する面)に対して約1mm×1mmの領域で温度分布が0.1%未満の領域が得られることが解った。光信号30のビーム径は200〜600μm程度であるため、ビームアライメントの精度の緩和も含め十分広い領域で温度分布の殆ど無い領域が得られた。これに対して前述の特許文献4の図1および図2の構造についても比較のための温度分布シミュレーション計算を行ったところ、ビーム径を基準とした寸法で本願のような広い範囲で均一な温度分布の領域は得られなかった。
【0081】
当該実施形態を構成する材質については、「放熱部14の熱抵抗≪熱光学素子11の熱抵抗≦温度緩衝部13の熱抵抗」の関係を満たすものであれば特に制限するものではない。ここで記号「a≪b」は、aがbに比べて十分に小さいことを意味しているが、aがbに比べて十分に小さいとは、ここでは、aがbの1/5以下であればよい。温度緩衝部13には、例えば、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化アルミニウム等のセラミックスや、石英ガラス(シリカ)、硼珪酸ガラス等のガラス、またはガラスエポキシ等の樹脂を用いるのが良い。放熱部14には、例えば、銅、アルミ、ステンレス鋼、銅タングステン、コバール等の金属または合金を用いるのが良い。さらに、温度緩衝部13と温度変化部12を、例えば、酸化アルミニウムの温度緩衝部13の表面に、温度変化部12としての薄膜抵抗を形成することで、安価で小型に実現することができる。
【0082】
当該実施形態に係る光学位相調整素子1が搭載されるモジュールケース内の雰囲気気体は、窒素以外の気体、例えばアルゴンを主成分とする気体でも良い。温度変化部12と熱光学素子11の接着については、絶縁性接着剤ではなく、温度変化部12の表面上に絶縁体による薄い層を形成し、その上に導電性接着剤を用いて熱光学素子を接着しても良い。
【0083】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る光学位相調整素子1の構成は、第1の実施形態に係る光学位相調整素子1の構成と基本的に同じである。当該実施形態に係る光学位相調整素子1の熱光学素子11が真空中に配置される点が、第1の実施形態と主に異なっている。すなわち、熱光学素子11は、真空に包囲されており、熱光学素子11の6面のうち、温度変化部12と接している底面以外の5面は、真空と接している。すなわち、熱光学素子11の表面のうち、温度変化部12と接している領域以外は、真空によって包囲されている。ここで、真空とは、例えば、真空度10000Pa以下の状態をいい、さらに、真空度1000Pa以下であるのが望ましい。
【0084】
一般に、絶対温度Tの表面積Sの黒体が、熱放射Pによって放出する熱量は、まわりの壁面が十分に遠くかつ十分に大きい場合には、まわりの壁面の絶対温度をTとすると、以下の数式13で表される。
【0085】
【数13】

【0086】
ここで、σはシュテファン=ボルツマン定数であり、σ=5.67×10−8W/(m)である。熱光学素子11の真空に包囲される表面の面積をS、熱光学素子11の絶対温度をTとして、議論を簡単にするために熱光学素子11を黒体だと近似すると、熱光学素子11が熱放射Pによって放出する熱量は、数式13で表すことが出来る。ここで、一般には、TとTとの差はTに比べて十分に小さいので、数式13は、P〜5.67×10−8×4ST(T−T)で近似出来るので、以下の数式14で表す
ことが出来る。
【0087】
【数14】

【0088】
数式14を、第1の実施形態で求めた数式6に代入することにより、屈折率分布比δは、以下の数式15に表すことが出来る。
【0089】
【数15】

【0090】
数式15より、光学位相調整素子1の屈折率分布比δが素子として要求される所望の値以下となるように、所望の値のδに対して、R×S×Tが4000000×δより小さくなるように、光学位相調整素子1を作製すればよい。第1の実施形態と同様に、光信号30ビーム径において要求される屈折率分布から換算して、上記屈折率分布比δの所望の値を算出すればよい。
【0091】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る復調器2は、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る光学位相調整素子1を備える復調器である。当該実施形態に係る復調器は、DPSKやDQPSKの位相変調方式に用いられている。
【0092】
図4は、当該実施形態に係る復調器2の構成を示すブロック図である。図の左側より光信号が入力され、光信号が光分岐部15にて、2つの光信号に分岐される。分岐された2つの光信号は、それぞれ図に示す上下2つの光路を進行する。ここで、上側の光路を進行する光信号を一方の光信号、下側の光路を進行する光信号を他方の光信号とする。上側の光路には、光遅延部16が備えられており、光遅延部16は一方の光信号に1ビット相当分の遅延時間を付与する。2つの光路の終端に、光合成部17が備えられており、光合成部17は、遅延時間が付与された一方の光信号と、他方の光信号とを、合成して干渉させることにより、強度変調信号に変換する。復調器2のうち、光分岐部15から光合成部17までを遅延干渉計と呼んでもよい。遅延干渉計において位相情報から強度情報に変換された光信号は、光電変換素子18において電気信号に変換され、さらに、増幅器19にて電気信号が増幅される。増幅された電気信号が図中右側へ出力され、外部の信号識別器(図示せず)に入力される。ここで、当該実施形態に係る復調器2とは、遅延干渉計から増幅器19までを指すとするが、信号識別器まで含める場合も、また、遅延干渉計のみを指す場合もある。
【0093】
光信号を高精度に復調するために、遅延干渉計において、光遅延部16が一方の光信号に付与する遅延時間を正確に設定する必要があり、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る光学位相調整素子1が光遅延部16に備えられている。光学位相調整素子1が、付与する遅延時間を高精度に調整する。なお、図4に示す復調器2には、上側の光路にのみ、光学位相調整素子1が備えられているが、より高精度の調整をするために、上下2つの光路それぞれに光学位相調整素子1が備えられてもよい。
【0094】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係る復調器2は、第3の実施形態と同様に、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る光学位相調整素子1を備える復調器であるが、ここで、当該復調器に備えられる遅延干渉計は、マッハ=ツェンダー干渉計と呼ばれる干渉計である。
【0095】
図5は、当該実施形態に係る復調器2の構成を示すブロック図である。図5には、当該復調器2のうち、遅延干渉計となる構成が示されている。当該実施形態に係る復調器2の遅延干渉計は、光分岐部15と、光合成部17と、2個の光学位相調整素子1と、2つの鏡32とを備えている。光分岐部15は分光鏡(ハーフミラー)である鏡31からなり、光分岐部15において、図の左側から入力される光信号が、2つの光信号に分岐される。分岐された2つの光信号は、それぞれ図に示す上下2つの光路を進行する。上側の光路には、ともに反射率の高い鏡である2つの鏡32と、その間に配置される光学位相調整素子1とが、配置されている。上側の光路を進行する一方の光信号は、1番目の鏡32で反射し、光学位相調整素子1を透過した後、2番目の鏡32で再び反射し、光合成部17へ進行する。下側の光路には、光学位相調整素子1が配置されており、下側の光路を進行する他方の光信号は、光学位相調整素子1を透過した後、光合成部17へ進行する。光合成部17は分光鏡(ハーフミラー)である鏡31からなり、光合成部17において、2つの光信号が合成される。
【0096】
図5に示す遅延干渉計において、光分岐部15にて光信号が分岐されてから、光合成部17にて合成されるまでの2つの光路の光路差が、正確に1ビット分の遅延時間に対応していなければならない。また、さらに復調する位相情報に合わせて、波長よりも短い精度(すなわち、高精度)で2つの光路の光路差を調整する必要がある。当該実施形態に係る復調器2において、2つの光路それぞれに、第1の実施形態又は第2の実施形態のいずれかの光学位相調整素子1を配置することにより、組立時の位置関係のずれや温度や機械的圧力による変形、また光入力信号の波長の変化にも対応できる光位相変調信号を高精度で復調する復調器が実現される。なお、前述の通り、当該復調器2に備えられる光学位相調整素子1は、2つの光路それぞれに配置される場合に限定されることはなく、いずれか一方の光路にのみ配置されていてもよいし、1つの光路に光学位相調整素子1が複数配置されてもよい。求められる精度に応じて選択すればよい。
【0097】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態に係る復調器2は、第4の実施形態と同様に、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る光学位相調整素子1を備える復調器であるが、ここで、当該復調器2に備えられる遅延干渉計は、マイケルソン干渉計と呼ばれる干渉計である。
【0098】
図6は、当該実施形態に係る復調器2の構成を示すブロック図である。図6には、当該復調器2のうち、遅延干渉計となる構成が示されている。当該実施形態に係る復調器2の遅延干渉計は、光分岐合成部20と、2個の光学位相調整素子1と、ともに反射率の高い鏡である2つの鏡32とを備えている。光分岐合成部20は分光鏡である鏡31からなり、光分岐合成部20において、図の左側から入力される光信号が、2つの光信号に分岐される。分岐された2つの光信号のうち、一方の光信号は上側の光路を、他方の光信号は右側の光路を、それぞれ進行する。上側の光路には、鏡32と、光分岐合成部20と鏡32の間に配置される光学位相調整素子1とが、配置されている。上側の進行する一方の光信号は、光学位相調整素子1を透過した後、鏡32で反射され、再び光学位相調整素子1を透過した後、光分岐合成部20へ進行する。右側の光路には、同様に、鏡32と、光分岐合成部20と鏡32の間に配置される光学位相調整素子1とが、配置されている。光分岐合成部20で再び、2つの光信号が合成される。
【0099】
当該実施形態に係る復調器2において、2つの光路それぞれに、第1の実施形態又は第2の実施形態のいずれかの光学位相調整素子1を配置することにより、第4の実施形態と同様に、組立時の位置関係のずれや温度や機械的圧力による変形、また光入力信号の波長の変化にも対応できる光位相変調信号を高精度で復調する復調器が実現される。なお、前述の通り、当該復調器に備えられる光学位相調整素子1は、2つの光路それぞれに配置される場合に限定されることはないのは、第4の実施形態と同様である。
【0100】
以上、本発明に係る光学位相調整素子、及びこれを用いた復調器について説明した。光学位相調整素子は、復調器に備えられる場合に限らず、熱光学効果を用いる光学位相調整素子に、広く本発明を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0101】
1 光学位相調整素子、11 熱光学素子、12 温度変化部、13
温度緩衝部、14 放熱部、15 光分岐部、16 光遅延部、17
光合成部、18 光電変換素子、19 増幅器、20 光分岐合成部、21,23
等価回路モデル、30 光信号、31,32 鏡、101 光学位相調整素子、111
熱光学素子、112 温度変化部、113 温度緩衝部、114 放熱部、121,123
等価回路モデル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される光信号に対する屈折率が温度に依存して変化する熱光学素子と、
前記熱光学素子の一端側に接するとともに前記熱光学素子が所望の温度となるよう温度変化する温度変化部と、
前記温度変化部に対して前記熱光学素子と反対側に配置されるとともに前記温度変化部の温度とは異なる温度で熱平衡状態となる放熱部と、
前記温度変化部と前記放熱部の間にそれぞれ接して配置されるとともに前記放熱部より大きい熱抵抗を有する温度緩衝部と、
を備える、光学位相調整素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学位相調整素子であって、
前記熱光学素子は、周囲気体によって包囲され、
前記熱光学素子の熱抵抗Rと、前記熱光学素子が前記周囲気体に包囲される表面の面積Sと、前記周囲気体の熱伝達率hと、の積であるR×S×hが、前記熱光学素子の所望の屈折率分布比δより小さい、
ことを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光学位相調整素子であって、
前記周囲気体は、窒素を主成分とする気体であることを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項4】
請求項1に記載の光学位相調整素子であって、
前記熱光学素子は、真空によって包囲され、
前記熱光学素子の熱抵抗Rと、前記熱光学素子が前記真空に包囲される表面の面積Sと、前記熱光学素子の絶対温度Tの3乗と、の積であるR×S×Tが、前記熱光学素子の所望の屈折率分布比δと定数4000000と、の積である4000000×δより小さい、
ことを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項5】
請求項1に記載の光学位相調整素子であって、
前記温度緩衝部の熱容量Cと前記温度緩衝部の熱抵抗Rとの積であるC×Rが、前記熱光学素子の熱容量Cと前記熱光学素子の熱抵抗Rとの積であるC×Rの0.5倍以上2倍以下である、
ことを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項6】
請求項1に記載の光学位相調整素子であって、
前記熱光学素子は、前記入力される光信号が通過する領域において、互いに平行な1対の面を有し、該1対の面は、前記熱光学素子が前記温度変化部と接する面に対してほぼ垂直である、
ことを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項7】
請求項1に記載の光学位相調整素子であって、
前記熱光学素子が前記温度変化部と接する面の周縁を、前記温度変化部が囲っている、
ことを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項8】
請求項1に記載の光学位相調整素子であって、
前記温度変化部は、前記温度緩衝部上に形成される薄膜抵抗体であり、前記熱光学素子は、絶縁性の接着剤を用いて接着されることにより、前記温度変化部と接する、
ことを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項9】
請求項1に記載の光学位相調整素子であって、
前記熱光学素子は、シリコンを主成分として含む、
ことを特徴とする、光学位相調整素子。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の光学位相調整素子を、1又は複数備える復調器。
【請求項11】
請求項10に記載の復調器であって、
前記1又は複数の光学位相調整素子それぞれは、前記入力された光信号が2つの光信号に分岐され、該2つの光信号のいずれかの位相を調整する、
ことを特徴とする、復調器。
【請求項12】
請求項10に記載の復調器であって、
マッハ=ツェンダー干渉計を、さらに備え、
前記1又は複数の光学位相調整素子は、該マッハ=ツェンダー干渉計に配置される、
ことを特徴とする、復調器。
【請求項13】
請求項10に記載の復調器であって、
マイケルソン干渉計を、さらに備え、
前記1又は複数の光学位相調整素子は、該マイケルソン干渉計に配置される、
ことを特徴とする、復調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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