説明

光学素子の製造方法

【課題】隔壁の耐溶剤性を損なうことなく、インクジェット法によるインク注入時のインク同士の混色が防止可能であり、画素内のインクに対する良好な濡れ性を確保することで均一なインク層が形成可能であって、かつ、得られる光学素子に十分な耐熱性を保持させることが可能であり、さらに簡素化され経済的に有利な工程で行うことが可能な光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】支持基板上に、表面に撥インク性を有する樹脂組成物からなる隔壁を形成させ、インクジェットにて該隔壁間にインクを注入して光学素子を製造する方法であって、隔壁形成後、インクジェットにてインクを注入する前と後に、それぞれインクジェット前には加熱温度180℃〜215℃で、インクジェット後には加熱温度220℃〜250℃で加熱処理を施すことにより隔壁を構成する樹脂組成物を硬化物とする光学素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ、有機EL表示素子、有機TFTアレイ等の隔壁で仕切られた複数の画素を有する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラーフィルタや有機EL(Electro−Luminescence)表示素子、有機TFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)アレイ等の製造方法として、製造プロセスの低コスト化を図るためにインクジェット法が利用されるようになってきている。
【0003】
例えば、カラーフィルタの製造においては、樹脂組成物を用いて隔壁パターン(ブラックマトリックスの役割も果たすことがある)を形成した後に、隔壁間の開口部に、インクジェット法を用いて、R(レッド)、G(グリーン)およびB(ブルー)のインクを塗布し、画素を形成する方法が知られている。
【0004】
また、有機EL素子の製造においては、樹脂組成物を用いて隔壁パターンを形成した後に、隔壁間の開口部に、インクジェット法を用いて、正孔輸送材料、発光材料等の溶液を塗布し、正孔輸送層、発光層等を有する画素を形成する方法が、有機TFTアレイの製造においては、同様に樹脂組成物を用いて隔壁パターンを形成した後に、隔壁間の開口部にインクジェット法を用いて有機半導体の溶液を塗布し、有機TFT素子を形成する方法が知られている。
【0005】
上記隔壁については、耐熱性、インク等に溶解されない耐溶剤性等の特性が求められるが、上記インクジェット法で光学素子を製造する際には、カラーフィルタや有機EL素子の隣接する画素間におけるインクの混色の発生を防ぐために、隔壁の上部表面は、インクジェットの塗出液である水や有機溶剤等をはじく性質(撥インク性)を、さらに有する必要がある。
【0006】
また、インクジェット法で光学素子を製造する際には、インク層の膜厚均一性に優れた画素を形成する必要がある。インク層の均一性が劣ると、すなわち、隔壁近傍のインク層の膜厚が薄くなると、隔壁周辺が白く見えるいわゆる白抜け現象が起きたり、画素の周辺が暗く中央部が明るいという不具合が生じる場合があった。そのため、隔壁間の開口部はインクに対して濡れる性質(親インク性)を有する必要がある。
【0007】
このような隔壁に求められる特性を得るために、特許文献1には、フォトリソグラフィ法により樹脂組成物からなる隔壁パターン付き基板を製造する方法が開示されている。より具体的には、ポストベイク(現像処理して形成した隔壁の加熱処理)の温度が200℃である例が示されている(実施例の例2〜例7)。また、特許文献1には、実施例の例2〜7と比較例の例11を対比することで、隔壁を形成した後、かつインクジェット法によるインク注入の前に、超高圧水銀灯等の光で露光する工程(以下、ポスト露光工程という。)を行うと、インク層均一性が向上する効果があることが示されている。
【0008】
一方、特許文献2には、現像処理して隔壁パターン付き基板を形成し、ポスト露光を行わずに、酸素濃度10%の窒素雰囲気下、温度230℃で20分間加熱処理する、隔壁パターン付き基板の製造方法が例示されている(実施例2)。また、現像処理により隔壁パターン付き基板を形成し、ポスト露光を行わずに、減圧真空とした状態で、温度160℃で20分間加熱処理する、隔壁パターン付き基板の製造方法が例示されている(実施例3)。
しかしながら、特許文献1に示されるポスト露光工程の導入は、インク層均一性を向上させる点では有効であるものの、露光工程が増えることが生産性の低下に繋がるため、ポスト露光工程なしでインク層均一性を向上させることが求められていた。
【0009】
また、特許文献2の実施例2に記載の製造方法は、窒素雰囲気で行っており、工程上煩雑であるだけでなく、インク層の十分な均一性が得られていない。特許文献2の実施例3に記載の製造方法は、減圧工程で行っており、工程上煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2007/61115号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/148689号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、隔壁の耐溶剤性を損なうことなく、インクジェット法によるインク注入時のインク同士の混色が防止可能であり、画素内のインクに対する良好な濡れ性を確保することで均一なインク層が形成可能であって、かつ、得られる光学素子に十分な耐熱性を保持させることが可能であり、さらに簡素化され経済的に有利な工程で行うことが可能な光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光学素子の製造方法は、支持基板上を複数の区画に仕切るかたちに形成された樹脂硬化物からなる隔壁と、前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数の画素とを有する光学素子の製造方法であって、
支持基板上に、樹脂組成物からなり上部表面に撥インク性を有する隔壁を形成する工程と、
前記隔壁を180℃〜215℃で加熱して前記樹脂組成物の硬化を促進させる第1の加熱工程と、
前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域にインクジェット法によりインクを注入してインク層を形成する工程と、
前記隔壁と前記インク層を220℃〜250℃で加熱して前記インクを硬化させて画素を形成するとともに前記樹脂組成物の硬化を完了させる第2の加熱工程と、
を順に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学素子の製造方法によれば、隔壁の耐溶剤性を損なうことなく、インクジェット法によるインク注入時のインク同士の混色が防止可能であり、画素内のインクに対する良好な濡れ性を確保することで均一なインク層が形成可能であって、かつ、得られる光学素子に十分な耐熱性を保持させることが可能であり、さらに簡素化され経済的に有利な工程で光学素子の製造を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光学素子の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法の実施の一形態で得られた隔壁とインク層の断面図(a)および平面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の製造方法が対象とする光学素子は、支持基板上を複数の区画に仕切るかたちに形成された樹脂硬化物からなる隔壁と、前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数の画素を有する光学素子である。このような光学素子の製造において、本発明の製造方法は、以下の(1)〜(4)の工程を順に有することを特徴とする。
【0017】
(1)支持基板上に、樹脂組成物からなり上部表面に撥インク性を有する隔壁を形成する工程(以下、「隔壁形成工程」ということもある)
(2)前記隔壁を180℃〜215℃で加熱して前記樹脂組成物の硬化を促進させる第1の加熱工程
(3)前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域にインクジェット法によりインクを注入してインク層を形成する工程(以下、「インクジェット(IJ)工程」ということもある)
(4)前記隔壁と前記インク層を220℃〜250℃で加熱して前記インクを硬化させて画素を形成するとともに前記樹脂組成物の硬化を完了させる第2の加熱工程
【0018】
なお、本明細書において、「樹脂硬化物」とは硬化が完了した状態の樹脂からなる定形物(成形物)をいい、「樹脂組成物」とは、硬化性の樹脂組成物の硬化が全く行われていない状態のまたは硬化が未完了の状態の樹脂からなる定形または無定形のものをいう。また、本明細書において、特に説明のない場合、「%」は、「質量%」を表す。
【0019】
(1)隔壁形成工程
本発明の製造方法において、支持基板上に、樹脂組成物からなり上部表面に撥インク性を有する隔壁(以下、必要に応じて「撥インク性隔壁」という。)を形成する方法としては、支持基板上に上記構成の隔壁、つまり撥インク性隔壁が得られる方法であれば特に制限されないが、具体的には、下記(A)〜(D)の方法が挙げられる。
【0020】
(A)支持基板上に撥インク剤を含む感光性樹脂組成物の層を形成し、フォトリソグラフィ法により撥インク性隔壁を形成する方法。
(B)支持基板上に感光性樹脂組成物の層と撥インク剤を含む層とをこの順に形成し、フォトリソグラフィ法により撥インク性隔壁を形成する方法。
(C)フォトリソグラフィ法または印刷法により支持基板上に、感光性樹脂組成物または熱硬化性樹脂組成物からなる隔壁を形成した後、隔壁の上部表面に撥インク性を付与することで撥インク性隔壁を形成する方法。
(D)支持基板上に有機溶媒に可溶でアルカリ現像液に不溶な非感光性樹脂組成物、例えば、熱硬化性樹脂組成物の層と撥インク剤を含む感光性の層とをこの順に形成し、フォトリソグラフィ法ついで有機溶媒によるエッチング処理により、撥インク性隔壁を得る方法。
【0021】
ここで、撥インク性隔壁形成において用いる樹脂組成物、つまり本発明の製造方法において用いる樹脂組成物としては、光学素子の隔壁形成に通常用いられる樹脂組成物、例えば、上記(A)〜(D)の方法で用いられる、印刷法やフォトリソグラフィ法などにより支持基板上に隔壁として成形され、さらに熱により硬化が促進、完了する樹脂組成物が特に制限なく用いられる。具体的には、感光性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物等が挙げられるが、これら樹脂組成物の詳細については以下の(A)〜(D)の方法の説明のなかで記載する。
【0022】
以下、(A)〜(D)の方法について詳細に説明する。
(A)支持基板上に撥インク剤を含む感光性樹脂組成物の層を形成し、フォトリソグラフィ法により撥インク性隔壁を形成する方法。
【0023】
(支持基板)
本発明の製造方法に用いる支持基板としては、その材質は特に限定されるものではないが、通常、光学素子用の支持基板に用いられる材質、例えば、各種ガラス板;ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル樹脂等の熱可塑性プラスチックシート;エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性プラスチックシート等を挙げることができる。また、あらかじめ上記基材にシリコンナイトライドやポリイミドなどの絶縁膜を形成させた基板を挙げることができる。特に、耐熱性の点からガラス板、ポリイミド等の耐熱性プラスチックが好ましい。
【0024】
(撥インク剤を含む感光性樹脂組成物)
(i)感光性樹脂組成物
上記感光性樹脂組成物は、ネガ型感光性樹脂組成物であっても、ポジ型感光性樹脂組成物であってもよい。ネガ型感光性樹脂組成物の場合、さらに硬化の種類により幾つかのタイプに分類され、例えばラジカル硬化型、酸硬化型等のタイプが挙げられる。ポジ型感光性樹脂組成物の場合、さらに幾つかのタイプに分類され、例えばo−ナフトキノンジアジドを含むタイプ、ブロック化された酸性基を含むタイプなどが挙げられる。
以下、感光性樹脂組成物について、ネガ型感光性樹脂組成物、ポジ型感光性樹脂組成物をタイプ別に好ましい態様を例示しながら説明するが、本発明の製造方法に用いる感光性樹脂組成物が、これらに限定されるものではない。
【0025】
ネガ型感光性樹脂組成物(ラジカル硬化型)としては、光ラジカル重合性のバインダー樹脂および光重合開始剤を少なくとも含み、必要に応じて架橋剤等のその他成分を含むものであり、光学素子の隔壁形成用として従来公知のネガ型感光性樹脂組成物(ラジカル硬化型)を用いることが可能である。
なお、このようなネガ型感光性樹脂組成物(ラジカル硬化型)の具体例としては、特開平8−278629、特開2000−1522、特開2002−40650、特開2002−83688、WO2008−133312に開示されているネガ型感光性樹脂組成物(ラジカル硬化型)が挙げられる。
【0026】
上記光ラジカル重合性のバインダー樹脂としては、フォトリソグラフィにおける露光に際して光照射部分では光重合開始剤の作用によりラジカル重合し硬化が促進され、光照射がされない部分(未露光部分)は、露光に次いで行われる現像に際して、用いる現像液、通常はアルカリ現像液に可溶性であることが好ましい。
【0027】
このような光ラジカル重合性のバインダー樹脂の好ましい一態様として、エチレン性二重結合と酸性基とを有する樹脂が挙げられる。前記エチレン性二重結合としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基、ビニルエーテル基等の付加重合性の不飽和基や、これら付加重合性不飽和基の水素原子の一部またはすべてが、炭化水素基により置換されている基等が挙げられ、酸性基として、具体的には、カルボキシル基、フェノール性水酸基、スルホン酸基およびリン酸基等が挙げられる。バインダー樹脂においては、前記エチレン性二重結合部分で樹脂が光ラジカル重合して隔壁が形成される。また、前記酸性基によりこれを含むネガ型感光性樹脂組成物の塗膜の未露光部はアルカリ現像液にて除去可能となる。
【0028】
また、上記光ラジカル重合性のバインダー樹脂の酸価は、10〜300mgKOH/gが好ましく、30〜150mgKOH/gがより好ましい。当該範囲であると得られる感光性樹脂組成物の現像性が良好である。また、酸価とは、試料1g中の樹脂酸などを中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。上記光ラジカル重合性のバインダー樹脂の数平均分子量は、500以上20,000未満が好ましく、2,000以上15,000未満がより好ましい。この範囲であると得られる感光性樹脂組成物のアルカリ溶解性、現像性が良好である。なお、本明細書において、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値をいう。
【0029】
上記光ラジカル重合性のバインダー樹脂の好ましい態様として、より具体的には、酸性基を有するエチレン性不飽和単量体や反応性基と結合し得る官能基を有するエチレン性不飽和単量体等の共重合体の官能基を変性して得られる、酸性基を有する側鎖とエチレン性二重結合を有する側鎖とを有する重合体、エポキシ樹脂にエチレン性二重結合と酸性基とを導入した樹脂等が挙げられる。
【0030】
ネガ型感光性樹脂組成物(ラジカル硬化型)が含有する光重合開始剤としては、光重合開始剤としての機能を有する化合物であれば特に制限されないが、光によりラジカルを発生する化合物からなることが好ましい。具体的には、α−ジケトン類、アシロイン類、アシロインエーテル類、チオキサントン類、アセトフェノン類、キノン類、ベンゾフェノン類、アミノ安息香酸類、ハロゲン化合物、過酸化物、オキシムエステル類等が挙げられる。
【0031】
ネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)は、アルカリ可溶のバインダー樹脂、メラミン化合物、光酸発生剤を少なくとも含むものであり、光学素子の隔壁形成用として従来公知のネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)を用いることが可能である。なお、このようなネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)の具体例としては、特開2002−83687、特開2002−40659、特開2005−315986に開示されているネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)が挙げられる。
【0032】
上記アルカリ可溶のバインダー樹脂としては、フォトリソグラフィにおける露光に際して光照射部分では光酸発生剤の作用によりメラミン化合物と反応し硬化が促進され、光照射がされない部分(未露光部分)は、露光に次いで行われる現像に際して、用いる現像液、通常はアルカリ現像液に可溶性であることが好ましい。
【0033】
このようなアルカリ可溶のバインダー樹脂の好ましい一態様として、カルボキシル基および/またはフェノール性水酸基を有する樹脂が挙げられる。
【0034】
アルカリ可溶のバインダー樹脂の酸価は、10〜600mgKOH/gが好ましく、50〜300mgKOH/gがより好ましい。当該範囲であると感光性樹脂組成物の現像性が良好となる。アルカリ可溶のバインダー樹脂の数平均分子量は、200〜20000が好ましく、2000〜15000がより好ましい。当該範囲であると感光性樹脂組成物のアルカリ溶解性、現像性が良好となる。
【0035】
ネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)が含有する光酸発生剤は、光により酸を発生する化合物である。光酸発生剤としては、例えば、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、トリアジン系化合物、スルホニル化合物、スルホン酸エステル類等が挙げられる。
【0036】
ポジ型感光性樹脂組成物(o−ナフトキノンジアジド化合物を含むタイプ)は、o−ナフトキノンジアジド化合物、バインダー樹脂を少なくとも含むものであり、光学素子の隔壁形成用として従来公知のポジ型感光性樹脂組成物(o−ナフトキノンジアジド化合物を含むタイプ)を用いることが可能である。このようなポジ型感光性樹脂組成(o−ナフトキノンジアジド化合物を含むタイプ)の具体例としては、特開平11−327131、特開平11−246738に開示されているポジ型感光性樹脂組成物が挙げられる。なお、バインダー樹脂は熱硬化性樹脂であるか、または架橋剤を併用することにより熱硬化し得る樹脂であることが好ましい。
【0037】
ポジ型感光性樹脂組成物(ブロック化された酸性基を含むタイプ)は、ブロック化された酸性基を有するバインダー樹脂、光酸発生剤を少なくとも含むものであり、光学素子の隔壁形成用として従来公知のポジ型感光性樹脂組成物(ブロック化された酸性基を含むタイプ)を用いることが可能である。このようなポジ型感光性樹脂組成物(ブロック化された酸性基を含むタイプ)の具体例としては、特開平9−6002、特開2001−296662、特開2001−350264、特開2002−6499、特開2002−155118に開示されているポジ型感光性樹脂組成物が挙げられる。なお、バインダー樹脂は熱硬化性樹脂であるか、または架橋剤を併用することにより熱硬化し得る樹脂であることが好ましい。
【0038】
(ii)撥インク剤
本発明の製造方法に用いる感光性樹脂組成物は、これを用いて隔壁を形成した際に、隔壁の上部表面に撥インク性を付与する撥インク剤を含有する。ここで、撥インク性とは、インクの組成により、撥水性または撥油性、もしくは撥水性と撥油性の両方の性質をいう。より具体的には、インクに使用される水や有機溶媒等の溶媒を弾く性質をいい、一般的には、それぞれ水や適当な有機溶媒、例えば、1−メトキシ−2−アセトキシプロパンやプロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート(PGMEA)等の通常インクジェット法で用いるインクが含有する有機溶媒の接触角で評価することができる。本発明の製造方法に用いる撥インク剤は、これを含有する感光性樹脂組成物が隔壁を形成した際に、隔壁の上部表面に、求められる撥インク性、すなわち、インクに使用される水や有機溶媒等の溶媒を弾く性質を付与することが可能な化合物である。
以下、撥インク剤について、ネガ型感光性樹脂組成物、ポジ型感光性樹脂組成物のタイプ別に、これらに対応する好ましい態様を例示しながら説明するが、本発明の製造方法に用いる撥インク剤が、これらに限定されるものではない。
【0039】
このような、感光性樹脂組成物に配合することにより隔壁を形成した際に、隔壁の上部表面に撥インク性を付与する撥インク剤として、好ましくは、含フッ素化合物、含ケイ素化合物、フッ素原子とケイ素原子を併有する化合物等が挙げられる。
【0040】
上記撥インク剤として用いられる含フッ素化合物としては、従来公知の撥インク剤用含フッ素化合物、例えば、フルオロオレフィン系樹脂(特開2004−053897(段落0011)参照)、フルオロアルキル基を側鎖に有するポリマー(特開平7−35915、WO2004/042474、WO2006/129800、WO2007/069703、特開平11−281815(段落0042、0062、0073〜0075)、特開2005−315984、特開2005−036160、特開2004−277493、特開平11−327131(段落0036)参照)等が特に制限なく挙げられる。
【0041】
また、上記撥インク剤として用いられる含ケイ素化合物としては、従来公知の撥インク剤用含ケイ素化合物、例えば、ジメチルシロキサン基を有するポリマー(特開2004−149699、特開2005−134439参照)等が特に制限なく挙げられる。
【0042】
上記撥インク剤として用いられるフッ素原子とケイ素原子を併有する化合物としては、従来公知の撥インク剤用含フッ素ケイ素化合物、例えば、含フッ素シランカップリング剤(特開平9−203803(段落0030〜0034)参照)、フルオロアルキル基とジメチルシロキサン基を併有する化合物(特開昭61−275365、特開2003−82042(段落0070、0072)、WO2004/079454、特開2005−315983、特開2005−300759、WO2008/123122参照)等が特に制限なく挙げられる。
【0043】
このような撥インク剤のうちでも、撥インク性付与能力が高いことから、フルオロアルキル基を側鎖に有するポリマーを好ましい態様として挙げることができる。
上記撥インク剤の好ましい態様の一つであるフルオロアルキル基を側鎖に有するポリマーの製造方法としては、特開2000−102727、特開2002−249706等に開示されている方法を参照することが可能である。
【0044】
ネガ型感光性樹脂組成物(ラジカル型)の場合の、撥インク剤の好ましい態様として、フルオロアルキル基とエチレン性二重結合を側鎖に有するポリマーを挙げることができる。その理由は、このフルオロアルキル基とエチレン性二重結合を側鎖に有するポリマーを撥インク剤として用いれば、後述する本発明の製造方法における第1の加熱工程において、前記撥インク剤がネガ型感光性樹脂組成物中の他の配合成分と反応して、隔壁上部表面に固定化されることにある。
【0045】
このようなフルオロアルキル基とエチレン性二重結合を側鎖に有するポリマーの好ましい一態様として、水素原子の少なくとも1つが、好ましくは全てが、フッ素原子に置換された炭素数20以下の直鎖状または分岐状のアルキル基(ただし、アルキル基はエーテル性の酸素を有するものを含む。)を有する重合単位、および、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基、ビニルエーテル基等のエチレン性二重結合を有する重合単位を含む重合体を挙げることができる。
【0046】
撥インク剤として用いられる、上記重合体の数平均分子量は、500以上15000未満が好ましく、1000以上10000未満がより好ましい。この範囲であるとアルカリ溶解性、現像性が良好である。また、この重合体におけるフッ素含有量は、撥インク性と隔壁成形性の観点から、好ましくは5〜25質量%であり、より好ましくは12〜20質量%である。さらに、この重合体が側鎖に有するエチレン性二重結合の数としては、3〜100個/分子であることが好ましく、より好ましくは6〜30個である。この範囲であると現像性が良好となる。
【0047】
さらに、上記重合体は側鎖に、ケイ素数200以下程度のシリコーン鎖(直鎖)を有することが可能である。また、重合体におけるケイ素含有量は、撥インク性と隔壁成形性の観点から、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0048】
ここで、撥インク剤として用いられる上記重合体は、酸性基、例えば、カルボキシル基、フェノール性水酸基およびスルホン酸基の群から選ばれる少なくとも1つの酸性基を有することが好ましい。その理由は、アルカリ可溶性を有することで、支持基板上の隔壁で仕切られた領域(以下、「ドット」ということもある)内に撥インク剤が残りにくく、インクジェット法にてインクを注入した際のインクの濡れ拡がり性が良好となるからである。このような観点から、重合体の酸価は10〜400mgKOH/gであることが好ましく、20〜300mgKOH/gがより好ましい。
【0049】
上に説明したフルオロアルキル基とエチレン性二重結合と任意にシリコーン鎖を側鎖に有し、好ましくはさらに酸性基を有するポリマーの製造方法は、具体的には、WO2004/042474、WO2007/069703、WO2008/149776に開示されている。
【0050】
ネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)の場合の、撥インク剤の好ましい態様としては、フルオロアルキル基とカルボキシル基および/またはフェノール性水酸基を側鎖に有するポリマーが挙げられる。その理由は、上記と同様に本発明の製造方法における第1の加熱工程でこの撥インク剤が他の組成物成分と反応し、隔壁上部表面に固定化されることにある。また、アルカリ可溶性を有していた方が、画素内に撥インク剤が残りにくく、インクジェットにてインクを注入した際のインクの濡れ拡がり性が良好だからである。
【0051】
また、ネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)における、撥インク剤の別の好ましい態様として、水素原子の少なくとも1つが、好ましくは全てが、フッ素原子に置換された炭素数20以下の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基(ただし、アルキル基はエーテル性の酸素を有するものを含む。)と好ましくはさらにカルボキシル基および/またはフェノール性水酸基を側鎖に有するポリマーからなる撥インク剤が挙げられる。さらに、上記重合体は側鎖に、ケイ素数200以下程度のシリコーン鎖(直鎖)を有することが可能である。酸硬化型における撥インク剤の重合体におけるフッ素含量とケイ素含量の好ましい範囲は、ラジカル硬化型における撥インク剤の重合体において述べた好ましい範囲と同じである。
【0052】
これら撥インク剤の製造方法は、具体的には、フルオロアルキル基とカルボキシル基および/またはフェノール性水酸基を側鎖に有するポリマーについては特開2005−315984に、上記フルオロアルキル基を有するポリマーとシリコーン鎖を有するポリマーを組み合わせた撥インク剤については特開2005−300759にそれぞれ開示されている。
【0053】
ポジ型感光性樹脂組成物(o−ナフトキノンジアジド化合物を含む組成物)の場合の、撥インク剤の好ましい態様としては、フルオロアルキル基と酸性基を側鎖に有するポリマーが挙げられる。その理由は、アルカリ可溶性を有していた方が、ドット内に撥インク剤が残りにくく、インクジェット法にてインクを注入した際のインクの濡れ拡がり性が良好であるからである。上記酸性基としては、例えば、カルボキシル基、フェノール性水酸基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0054】
ポジ型感光性樹脂組成物(ブロック化された酸性基を含むタイプ)の場合の、撥インク剤の好ましい態様としては、フルオロアルキル基とブロック化された酸性基を側鎖に有するポリマーである。その理由は、露光され酸性基が生成されると、ドット内に撥インク剤が残りにくく、インクジェット法にてインクを注入した際のインクの濡れ拡がり性が良好だからである。ブロック化された酸性基としては、従来公知のもの、例えば、特開2004−277493(段落0024〜0028)に開示された基が挙げられ、フルオロアルキル基とブロック化された酸性基を側鎖に有するポリマーの製造方法についても、特開2004−277493に開示されている。
【0055】
撥インク剤を含む感光性樹脂組成物固形分中における、撥インク剤の含有割合は、上記何れのタイプのネガ型感光性樹脂組成物、ポジ型感光性樹脂組成物であっても、組成物固形分全量に対して、0.01%〜30%の範囲にあることが好ましい。その理由は、得られる隔壁の撥インク性が良好で、インクジェット法により注入するインクのドット内の濡れ拡がり性が良好で、注入されたインク層の均一性が良好だからである。
【0056】
(iii)感光性樹脂組成物が含有する任意成分
本発明の光学素子の製造方法においては、隔壁が遮光性を有する遮光層である場合、すなわちブラックマトリックスとして使用される場合に本発明の効果がより顕著となる。したがって、隔壁が遮光層であるような光学素子の製造に、本発明の製造方法は好ましく適用される。
【0057】
感光性樹脂組成物から形成される隔壁が、このようにブラックマトリックスとして使用される場合には、感光性樹脂組成物には黒色着色剤が含まれることが好ましい。このような黒色着色剤として、具体的には、カーボンブラック、アニリンブラック、アントラキノン系黒色顔料、ペリレン系黒色顔料、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6、7、12、20、31等が挙げられる。また、黒色着色剤として、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等の有機顔料や無機顔料の混合物を用いることもできる。さらに、上記黒色着色剤としては、価格、遮光性の大きさからカーボンブラックが好ましく、カーボンブラックは樹脂などで表面処理されていてもよい。また、色調を調整するため、青色顔料や紫色顔料を併用することができる。
【0058】
黒色着色剤の配合量としては、用いる光学素子の種類や用途にもよるが、例えば、カラーフィルタのブラックマトリックスとして隔壁が使用される場合には、隔壁を構成する感光性樹脂組成物全量に対して10〜50質量%の黒色着色剤を、必要に応じて適当な分散媒、分散剤とともに分散液として調製して配合することが好ましい。黒色着色剤の配合量が当該範囲であると得られる感光性樹脂組成物は感度が良好であり、また、形成される隔壁は遮光性に優れる。
【0059】
本発明の製造方法に用いる感光性樹脂組成物には、この他に、上記感光性樹脂組成物のタイプごとに適宜、必要に応じて、塗膜硬化物の架橋密度を増大するラジカル架橋剤や熱架橋剤、基材密着性を得るためのシランカップリング剤、硬化促進剤、増粘剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、紫外線吸収剤等を配合することができる。
【0060】
また、感光性樹脂組成物には、支持基板への塗布を円滑に行うために必要に応じて、組成物成分や支持基板に対して反応性のない各種溶剤を希釈剤として添加することができる。希釈剤の具体例としては、アルコール類、ケトン類、セルソルブ類、カルビトール類、エステル類、エーテル類、鎖式炭化水素、環式飽和炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
次に、このような撥インク剤を含む感光性樹脂組成物を用いて支持基板上に隔壁を形成する方法について、必要に応じて、ネガ型感光性樹脂組成物の隔壁形成方法を模式的に示す図1(a)〜(c)を参照しながら説明する。
【0062】
(基板上への感光性樹脂組成物からなる層の形成)
支持基板上に撥インク剤を含む感光性樹脂組成物の層を形成するには、支持基板に撥インク剤を含む感光性樹脂組成物または該組成物を含む塗布液を塗布する方法が挙げられる。塗布の方法としては、スピンコート法、スプレー法、スリットコート法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法などが挙げられる。
また、撥インク剤を含む感光性樹脂組成物の層の膜厚は、最終的に得られる隔壁の高さが所望の値となるような厚さ、例えば、前記所望の値の10倍程度に設定される。
【0063】
(乾燥)
次に、必要に応じて、支持基板上に形成された撥インク剤を含む感光性樹脂組成物の層を乾燥することが好ましい。この層を乾燥することによって、感光性樹脂組成物に必要に応じて添加された希釈剤(溶剤)が揮発し、粘着性の少ない塗膜が得られる。感光性樹脂組成物に希釈剤として溶剤が添加されていない場合には、乾燥は必要でない。
ただし、感光性樹脂組成物に希釈剤として添加した溶剤の乾燥を行う場合には、真空乾燥や加熱乾燥を行うことが好ましい。また塗膜外観のムラを発生させず、効率よく乾燥させるために、真空乾燥と加熱乾燥を併用することがより好ましい。各成分の種類、配合割合などによっても異なるが、好ましくは真空乾燥は500〜10Pa、10〜300秒間程度、加熱乾燥は50〜120℃、10〜2000秒間程度を採用しうる。
【0064】
図1(a)は、支持基板上1に、撥インク剤を含むネガ型感光性樹脂組成物の層2を塗布し、必要に応じて、乾燥した後の状態を示す断面図である。
【0065】
(露光)
次に、感光性樹脂組成物の層の一部に露光を行う。露光は所定パターンのマスクを介して行うことが好ましい。照射する光としては、可視光;紫外線;遠紫外線;KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、Krエキシマレーザー、KrArエキシマレーザー、Arエキシマレーザー等のエキシマレーザー;X線;電子線等が挙げられる。波長100〜600nmの電磁波が好ましく、300〜500nmの範囲に分布を有する光線がより好ましく、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)が特に好ましい。
【0066】
図1(b)は、支持基板1上の乾燥後のネガ型感光性樹脂組成物の層2に所定パターンのマスク4を介して光5を照射し、前記マスク4に切られた所定パターン部分のみを光5が透過し支持基板1上のネガ型感光性樹脂組成物の層に到達しその部分のみが感光硬化する露光工程を示す断面図である。
なお、ポジ型においては、光が感光性樹脂組成物の層に到達した部分がアルカリ可溶となる。
【0067】
照射装置として、公知の超高圧水銀灯やディープUVランプ等を用いることができる。露光量は、好ましくは5〜1000mJ/cmの範囲であり、より好ましくは10〜200mJ/cmである。露光量が低すぎると、ネガ型の場合、隔壁の硬化が不十分で、その後の現像で溶解や剥離が起こるおそれがある。ポジ型の場合、隔壁のアルカリ溶解性が不十分で、現像残渣が発生するおそれがある。露光量が高すぎるとネガ型の場合でもポジ型の場合でも、高い解像度が得られなくなる傾向にある。
【0068】
露光後、現像の前に、特にネガ型感光性樹脂組成物(酸硬化型)、ポジ型感光性樹脂組成物の場合は、反応を促進するための加熱処理を行うことが好ましい。加熱温度は50〜140℃、10〜2000秒間程度が採用される。これは一般にPEB(Post Exposure Bake)と呼ばれる処理である。このPEBは、ネガ型(酸硬化型)、ポジ型において、露光により発生した酸を拡散させるための処理として行われる加熱処理である。
【0069】
(現像)
露光工程の後、現像液により現像し、ネガ型においては未露光部分を除去し、ポジ型においては露光部分を除去する。現像液としては、例えば無機アルカリ類、アミン類、アルコールアミン類、第4級アンモニウム塩等のアルカリ類を含むアルカリ水溶液を用いることができる。
【0070】
現像時間(現像液に接触させる時間)は、5〜180秒間が好ましい。また現像方法は液盛り法、ディッピング法、シャワー法などのいずれでもよい。現像後、高圧水洗や流水洗浄を行い、圧縮空気や圧縮窒素で風乾させることによって、基材上の水分を除去できる。
【0071】
このように露光工程の後、現像液を用いて現像を行うことにより、図1(b)に示される支持基板1上の未露光部分2が除去され、図1(c)に断面図が示されるような、支持基板1と前記支持基板上にネガ型感光性樹脂組成物により形成された隔壁6の構成が得られる。また、隔壁6と支持基板1で囲まれた部分は、インク注入等によりインク層すなわち画素が形成されるドット7を示す部分である。図1(c)に示される隔壁6の上部表面層8は、撥インク剤が偏在する層である。これは、隔壁形成工程の当初において感光性樹脂組成物に均一に溶解していた撥インク剤が、撥インク剤が有する特性により上記塗布から露光までの間に、必要に応じて施される乾燥等の工程を経て、感光性樹脂組成物層の上部へ移行し、露光により層上部表面に固定されたものである。
【0072】
このようにして上記(A)の方法により本発明の(1)隔壁形成工程が実行されるが、本発明の製造方法においては、この(1)隔壁形成工程によって得られる、樹脂組成物からなり上部表面に撥インク性を有する隔壁が形成された支持基板を、次いで、後述する本発明の(2)第1の加熱工程に供するものである。
【0073】
次に、本発明の製造方法において(1)隔壁形成工程として用いることが可能な、(B)支持基板上に感光性樹脂組成物の層と撥インク剤を含む層とをこの順に形成し、フォトリソグラフィ法により撥インク性隔壁を形成する方法について説明する。
この(B)の撥インク性隔壁形成方法に用いる感光性樹脂組成物としては、上記(A)の方法で説明した感光性樹脂組成物において撥インク剤の配合を必須としない以外は全く同様な感光性樹脂組成物をそのまま用いることができる。また、撥インク剤としては、上記(A)の方法で使用したのと同様の撥インク剤を用いることができる。
【0074】
支持基板上に感光性樹脂組成物の層と撥インク剤を含む層を形成する方法としては、以下の(B−1)と(B−2)の方法が挙げられる。
(B−1)支持基板上に感光性樹脂組成物または該組成物を含む塗布液を塗布、必要に応じて乾燥して、感光性樹脂組成物の層を形成し、該層の上に撥インク剤または撥インク剤を含む塗布液を塗布、必要に応じて乾燥して撥インク剤を含む層を形成し、露光、現像を経て撥インク性隔壁を形成する方法。
【0075】
撥インク剤を含む層は感光性を有していてもいなくてもよい。撥インク剤を含む層が感光性を有している場合は、感光性樹脂組成物の層と撥インク剤を含む層は、共にポジ型であるか、または共にネガ型である。乾燥、露光、現像工程は(A)で記載した方法を採用することができる。
なお、このB−1の方法をより具体的に示す例として、特開平9−203803に開示されている方法が挙げられる。
【0076】
(B−2)支持基板とは別の仮支持体上に撥インク剤を含む層と感光性樹脂組成物の層とからなる転写層を形成し、支持基板に転写層を転写する方法。
支持基板とは別の仮支持体上に撥インク剤または撥インク剤を含む塗布液を塗布し、必要に応じて乾燥して、撥インク剤を含む層を形成する方法であり、撥インク剤を含む層は感光性を有していてもいなくてもよい。また、仮支持体には予め、撥インク剤を含む層が平滑かつ均一に形成されるような前処理が施されていてもよいし、熱可塑性樹脂組成物層や酸素遮断層などが積層されていてもよい。ただし、これらは後の現像工程などで除去される得るものである。
【0077】
上記形成された撥インク剤を含む層上に、感光性樹脂組成物または該組成物を含む塗布液を塗布、必要に応じて乾燥して、感光性樹脂組成物の層を形成する。また、必要に応じて保護フィルムで表面を保護してもよい。保護フィルムを貼った場合は、保護フィルムを剥がして、支持基板にラミネートした後、仮支持体を剥がして、支持基板上に感光性樹脂組成物の層および撥インク剤を含む層を形成させ、露光、現像工程を経て撥インク性隔壁を形成する。なお、撥インク剤を含む層が感光性を有している場合は、感光性樹脂組成物の層と撥インク剤を含む層は、共にポジ型であるか、または共にネガ型である。乾燥、露光、現像工程は(A)で記載した方法が採用される。
なお、このB−2の方法をより具体的に示す例として、WO2008/078707、特開2002−139612に開示されている方法が挙げられる。
【0078】
本発明の製造方法において(1)隔壁形成工程として用いることが可能な、(C)フォトリソグラフィ法または印刷法により支持基板上に感光性樹脂組成物または熱硬化性樹脂組成物からなる隔壁を形成した後、隔壁の上部表面に撥インク性を付与することで撥インク性隔壁を形成する方法について、以下に説明する。
【0079】
フォトリソグラフィ法で感光性樹脂組成物の層からなる隔壁を形成させる場合は、上記(A)の方法で示したネガ型感光性樹脂組成物を用いてもポジ型感光性樹脂組成物を用いてもよい。ただし、(C)の方法においては、撥インク剤を含む層を、この感光性樹脂組成物の層とは別に形成させるため、(C)の方法で用いる感光性樹脂組成物においては、上記(A)で示した撥インク剤は必須成分ではない。
一方、印刷法により隔壁を形成させる場合は、例えば、熱硬化性樹脂組成物を用いて隔壁パターンを印刷することで樹脂組成物からなる隔壁が形成可能である。
【0080】
(C−1)樹脂組成物からなる黒色の隔壁(ブラックマトリックス)が形成された透明基板に、撥インク剤を含むポジ型の感光性樹脂組成物を塗装して、必要に応じて乾燥して、透明基材の裏面より露光し、現像を経て撥インク性隔壁を形成する。なお、この方法による撥インク性隔壁の形成においても、乾燥、露光、現像工程は(A)で記載した方法が採用可能である。また、この方法に用いる撥インク剤についても、上記(A)の方法で使用したのと同様の撥インク剤を用いることができる。
なお、このC−1の方法をより具体的に示す例として、特開2008−165092(段落0102、実施例12)に開示されている方法が挙げられる。
【0081】
(C−2)支持基板とは別の仮支持体上に撥インク剤または撥インク剤を含む塗布液を塗布し、必要に応じて乾燥して、撥インク剤を含む層を形成する。なお、撥インク剤または撥インク剤を含む塗布液は感光性を有していてもいなくてもよい。樹脂組成物からなる隔壁を形成させた支持基板と、前記撥インク剤を含む層が形成された仮支持体をラミネートした後、仮支持体を剥がして、支持基板上に撥インク性隔壁を形成する。また、この方法に用いる撥インク剤についても、上記(A)の方法で使用したのと同様の撥インク剤を用いることができる。
なお、このC−2の方法をより具体的に示す例として、特開2008−139378に開示されている方法が挙げられる。
【0082】
(C−3)樹脂組成物からなる隔壁が形成された支持基板に、フッ素化合物を導入ガスとして用いてプラズマ照射を行う。導入ガスとして用いられるフッ素化合物としては、CF、C、C、SF、NFなどが挙げられる。また、減圧の下でプラズマ照射してもよく、大気圧の下でプラズマ照射してもよい。
なお、このC−3の方法をより具体的に示す例として、特開2002−062422、特開2003−344640、特開2003−124210、WO2006/035621に開示されている方法が挙げられる。
その他にも、グラビアコーターやインクジェットにて、隔壁表面にのみ撥インク性を付与することもできる(特開2008−76651(実施例1、実施例11)参照)。
【0083】
さらに、本発明の製造方法において(1)隔壁形成工程として用いることが可能な、(D)支持基板上に有機溶媒に可溶でアルカリ現像液に不溶な非感光性樹脂組成物、例えば、熱硬化性樹脂組成物の層と撥インク剤を含む感光性の層とをこの順に形成し、フォトリソグラフィ法ついで有機溶媒によるエッチング処理により、撥インク性隔壁を得る方法について以下に説明する。
支持基板上に有機溶媒に可溶で、アルカリ現像液に不溶な非感光性樹脂組成物または該組成物を含む塗布液を塗布、必要に応じて乾燥して、非感光性樹脂組成物の層を形成し、該層の上に撥インク剤を含む感光性組成物または該組成物を含む塗布液を塗布、必要に応じて乾燥して、撥インク剤を含む層を形成する。
【0084】
有機溶媒に可溶でアルカリ現像液に不溶な非感光性樹脂組成物としては、酸性基を有しない樹脂組成物で、重量平均分子量が10万以下であれば使用できる。さらに熱硬化性の樹脂組成物であることが好ましい。例えば、エポキシ樹脂、アクリル共重合体などが挙げられる。
撥インク剤を含む層は、ポジ型でもネガ型でもよい。露光、現像を経て撥インク剤を含む層のみをパターニングする。ここで形成された撥インク剤を含む層は有機溶剤に不溶である。必要に応じて乾燥して、有機溶剤で非感光性樹脂組成物の層をエッチングして撥インク性隔壁を形成する。乾燥、露光、現像工程は(A)で記載した方法を採用することができる。また、この方法に用いる撥インク剤についても、上記(A)の方法で使用したのと同様の撥インク剤を用いることができる。
なお、この(D)の方法をより具体的に示す例として、特開2008−165092(段落0079、実施例1)に開示されている方法が挙げられる。
【0085】
本発明の光学素子の製造方法においては、上記説明した(1)隔壁形成工程に次いで、以下に説明する(2)第1の加熱工程が行われる。なお、(1)で形成される隔壁を構成する樹脂組成物は、例えば、隔壁形成時に露光等により光硬化処理がされていたとしても、十分に硬化がされていない状態、より具体的には、隔壁の表面だけ硬化していて隔壁の内部は硬化が不十分である状態であって、以下の(2)第1の加熱工程により硬化が促進されさらに(4)第2の加熱工程により硬化が完了するものである。
【0086】
また、上記(1)隔壁形成工程において本発明の製造方法に適用可能な各種樹脂組成物とそれに適する隔壁形成工程について説明したが、これらのうちでも、本発明の製造方法が好ましく適用されるのは、樹脂組成物が感光性樹脂組成物であって、隔壁形成工程が、支持基板上への感光性樹脂組成物の塗膜形成、露光および現像の操作を順に行うことからなるものである。本発明の製造方法がさらに好ましく適用されるのは、感光性樹脂組成物がネガ型感光性樹脂組成物である場合である。また、樹脂組成物からなり上部表面に撥インク性を有する隔壁を形成させるためには、隔壁形成時に撥インク剤を用いて隔壁上部表面に撥インク性を付与する手段をとるが、このような撥インク剤としては、上述の通り含フッ素撥インク剤を用いることが好ましい。
【0087】
なお、本発明の製造方法においては、隔壁形成後の樹脂組成物の硬化は、この第1の加熱工程および第2の加熱工程の組合せによって十分に達成されるものであり、隔壁形成後、樹脂硬化を促進するために行われる、上記露光と同様な光を照射する250nm〜450nmの電磁波にて露光する従来公知のポスト露光のようなコスト高な工程を必要とせず、経済的に有利な製造方法である。
【0088】
すなわち本発明の光学素子の製造方法においては、上記(1)隔壁形成工程後、得られた隔壁に対して250nm〜450nmの電磁波を照射することなく、以下に詳細を説明する(2)第1の加熱工程、(3)インク層形成工程および(4)第2の加熱工程を順に行う方法が好ましい製造方法である。
また、本発明の製造方法において、上記隔壁の加熱を一度に行わず、加熱による樹脂組成物の硬化を(3)インクジェット工程の前後の2段階に分けて行うことの効果については、以下の各工程に関する記載において説明する。
【0089】
(2)第1の加熱工程
本発明の光学素子の製造方法における(2)第1の加熱工程は、上記(1)隔壁形成工程により支持基板上に形成された前記隔壁を、180℃〜215℃で加熱して前記樹脂組成物の硬化を促進させる工程である。
【0090】
上記180℃〜215℃で加熱する方法としては、支持基板とともに隔壁をホットプレート、オーブンなどの加熱装置により、5〜90分間加熱処理をする方法が挙げられる。また、加熱の際は減圧することなく、酸素濃度は通常の20〜21%で加熱することが好ましい。また、第1の加熱工程における加熱温度は、好ましくは、185〜210℃である。
【0091】
上記加熱温度が180℃未満であると、隔壁を構成する樹脂組成物の硬化が十分に促進されないために、隔壁に十分な耐溶剤性が得られない。耐溶剤性が不十分であると、以下の(3)インクジェット(IJ)工程でインクを塗布した際に、そのインクに含まれる溶媒により隔壁の膨潤が起こったり、インクに隔壁の成分が溶出したりして、問題である。また、撥インク剤が偏在する隔壁表面上層部においても、樹脂組成物の硬化が不十分であることから起こる、例えば、インクによる隔壁の膨潤等により、撥インク性が十分に顕れず、インクが隔壁に乗り上げるいわゆるオーバーフローが発生し、インク同士の混色が発生する。一方、加熱温度が215℃超であると、インク層均一性が低下し、均一なインク層が得られない。
【0092】
ここで、本発明の光学素子の製造方法においては、本工程後、つまり(2)第1の加熱工程後の隔壁の厚さをH1とし、さらに後述の(4)第2の加熱工程の後の隔壁の厚さをH2とした場合に、H1およびH2の関係が、以下の関係になることが好ましく、第1の加熱工程における加熱条件は、第2の加熱工程の加熱条件と組み合わせて、本発明の範囲内で、以下の関係を満たすように設定されることが好ましい。
【0093】
H1/H2、すなわち第2の加熱工程後の隔壁の厚さに対する第1の加熱工程後の隔壁の厚さの比が、
1.02 ≦ H1/H2 ≦ 1.30 であることが好ましく、
1.05 ≦ H1/H2 ≦ 1.20 となることがより好ましい。
【0094】
本発明の光学素子の製造方法において、(2)第1の加熱工程において180℃〜215℃で加熱した場合、隔壁を構成する樹脂組成物は耐溶剤性を保持しながらも硬化収縮途中である。ここで、次に行われる(3)インクジェット(IJ)工程においては、インクの混色を防ぐ上で、隔壁の厚さを高く保つことが有利である。最終的に得られる光学素子としての隔壁の膜厚は、その後に続く(4)第2の加熱工程において達成されていれば十分であることから、この(2)第1の加熱工程においては、加熱後の隔壁の膜厚がある程度高く保たれる上記範囲を好ましい範囲とした。
【0095】
また、(2)第1の加熱工程後の隔壁の厚さを高く保つことは、次に行われる(3)IJ工程においてドット内に形成されるインク層に均一性を持たせることにも有利に働く。つまり、隔壁で撥インク性の高い部分は隔壁の上層部分であり、上層部分でのインクの濡れ性は低く、撥インク性が求められる隔壁上のみならず、隔壁の側面においても上層部ではインクが弾かれてしまう。隔壁の膜厚が高く保たれることにより、撥インク性の高い隔壁上層部分もまた高い位置に保たれる、すなわち隔壁側面はある程度の位置まで親インク性を有することができるので、(3)IJ工程で注入されるインクは、隔壁際であってもドット中央との差があまりないように比較的上部にまで濡れ拡がることができると考えられる。
【0096】
さらに、第1の加熱工程において180℃〜215℃で加熱した場合、隔壁は熱垂れしにくい。前記温度範囲の場合、隔壁上部に形成された撥インク層が第1の加熱工程の熱によって隔壁の側面に熱垂れしにくく、隔壁側面は親インク性が保持されやすい。したがって、上記同様に(3)IJ工程でのインク層均一性が高くなると考えられる。言い換えれば、215℃を超える温度で第1の加熱工程を行った場合、インク層均一性が低下する理由は、熱垂れにより隔壁側面が撥インク性を有することによるものと考えられる。なお、インク層の均一性については注入時ではなく、最終的に得られる光学素子におけるインク層すなわち画素の均一性として好ましい値を後に示す。
【0097】
なお、一般に、撥インク性としては、撥水性および撥油性が挙げられるが、それぞれ水および、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート(PGMEA)等の油性成分の接触角で評価することができる。以下に説明する(3)IJ工程を円滑に行うために、本発明の製造方法による(2)第1の加熱工程後の隔壁の上面は、水の接触角が90°以上であることが好ましく、95°以上がより好ましい。また、隔壁の上面は、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテートの接触角が20°以上であることが好ましく、25°以上がより好ましい。
なお、実際の光学素子の隔壁の幅は、通常100μm以下であり、隔壁の上面の接触角を測定することは困難である。この場合は、実際の光学素子の隔壁の形成方法と同様の方法によって、幅が5mm以上である膜を形成して、その上面の接触角を測定するとよい。
【0098】
(3)インクジェット(IJ)工程
本発明の製造方法においては、上記(2)第1の加熱工程終了後、前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域(ドット)にインクジェット法によりインクを注入してインク層を形成する(3)インクジェット(IJ)工程が行われる。なお、図1(d)は、本発明の製造方法におけるIJ工程の一例を模式的に示す断面図である。上に説明した、図1(a)〜(c)に示される模式図を例とした本発明の製造方法における(1)隔壁形成工程の後、上記(2)第1の加熱工程(図示せず)を経て、行われる図1(d)に示される(3)IJ工程の一例では、支持基板1上の隔壁6に囲まれた領域、ドット7にインクジェット装置(図示せず)のインク供給ノズル9からインク10が供給され、インク層11が形成される。
【0099】
ここで、上記(2)第1の加熱工程後の隔壁は、耐溶剤性を十分に有し、上部表面に十分な撥インク性が確保され、高い膜厚と側面における上層以外の領域の親インク性の確保されたものであり、上記インクジェット法によるインク注入において、オーバーフローによるインクの混色等の問題を発生させることなく、均一なインク層の形成を可能としている。
【0100】
この工程は、インクジェット法に一般的に用いられるインクジェット装置を用いて通常の方法と同様に行うことができる。このようなインク層の形成に用いられるインクジェット装置としては、特に限定されるものではないが、帯電したインクを連続的に噴射し磁場によって制御する方法、圧電素子を用いて間欠的にインクを噴射する方法、インクを加熱しその発泡を利用して間欠的に噴射する方法等の各種の方法を用いたインクジェット装置を用いることができる。
【0101】
なお、本明細書において「インク」とは、乾燥硬化した後に、例えば光学的、電気的に機能を有する液体を総称するものであり、従来から用いられている着色材料に限定されるものではない。また、前記インクを注入して形成されるインク層が乾燥硬化して形成される「画素」についても同様に、隔壁で仕切られたそれぞれに光学的、電気的機能を有する区分を表すものとして用いられる。
【0102】
本発明の製造方法において、このIJ工程で用いるインクとしては、光学素子をインクジェット法により製造する際に通常用いられるインクを、特に制限なく用いることが可能である。なお、インクは、製造される光学素子毎に、インクに求められる機能に基づき適宜設計され調製される。このようなインクの具体的な構成については、後に述べる本発明の製造方法が好ましく適用される各光学素子の記載において説明する。
【0103】
ここで、インクジェット法によりドットに注入されるインク量についていえば、例えば、カラーフィルタ製造の場合、後述する(4)第2の加熱工程終了後のインク体積(L)が、ドットの体積(V)に対して以下の範囲にあることが好ましい。
1/10×V < L < 3/2×V
【0104】
なお、インクには溶媒が含まれていたり、乾燥加熱等により硬化収縮したりするので、このIJ工程においてインクジェット法で注入するインク量は、インク体積(L)より多い量となる。この工程において、ドットに注入するインクの量は、インク組成、組成成分により異なるが、最終的に得られるインク体積(L)、用いるインクの溶媒含有率、硬化収縮率等から適宜算出される。
【0105】
また、このインクジェット(IJ)工程においては、ドットにインクを注入した後、必要に応じてインクに含まれる溶媒を乾燥させるために加熱する。該加熱は第2の加熱工程とは異なり、溶媒を乾燥させることを目的としており、加熱乾燥は50〜120℃、10〜2000秒間程度の幅広い範囲で行うことができる。また真空乾燥を併用してもよい。その場合、圧力500〜10Pa、10〜300秒間程度の真空乾燥条件が採用されうる。
【0106】
(4)第2の加熱工程
本発明の製造方法においては、上記(3)インクジェット(IJ)工程終了後、前記隔壁と前記インク層を220℃〜250℃で加熱して前記インクを硬化させて画素を形成するとともに前記樹脂組成物の硬化を完了させる第2の加熱工程を行う。
【0107】
第2の加熱工程は、上記(3)のIJ工程で注入したインクの硬化を促進するとともに、隔壁を構成する樹脂組成物の硬化を完了させて、隔壁やインク層の耐熱性を高め、出ガスを抑制し、信頼性の高い光学素子を得るための最終的な加熱工程である。
【0108】
加熱温度は220〜250℃で行うが、好ましい温度範囲は、225〜245℃である。加熱の方法としては、ホットプレート、オーブンなどの加熱装置を用いて、5〜90分間加熱処理をすることが好ましい。また、真空乾燥を併用してもよい。その際の条件としては、圧力10〜150000Pa、1〜60分間程が挙げられる。
【0109】
第2の加熱工程における加熱温度が220℃未満の場合、隔壁およびインク層の硬化が不十分で、さらなる加熱で膜減りがおきる。このように硬化が不十分な場合、得られる光学素子の耐熱性に問題があり信頼性は損なわれることになる。また、第2の加熱工程における加熱温度が250℃を超えると、隔壁およびインク層の分解がおきる。分解が顕著になると、色濃度が変わり所望の色調が達成できなくなる。
【0110】
ここで、本発明の光学素子の製造方法においては、上記説明したとおり、(2)第1の加熱工程後の隔壁の厚さをH1とし、本工程後、すなわち(4)第2の加熱工程後の隔壁の厚さをH2とした場合に、H1/H2は、1.02 ≦ H1/H2 ≦ 1.30 であることが好ましく、1.05 ≦ H1/H2 ≦ 1.20となることがより好ましい。本発明の製造方法においては、上記第1の加熱工程および第2の加熱工程のそれぞれ加熱条件と、この膜厚の関係を維持することで、隔壁を構成する樹脂組成物の硬化の度合いを好ましい状態とすることが可能となる。
【0111】
本発明の光学素子の製造方法においては、上記(1)〜(4)の工程を順に行うことにより、支持基板上を複数の区画に仕切るかたちに形成された樹脂硬化物からなる隔壁と、前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数の画素を有する光学素子が得られる。
【0112】
本発明の製造方法により得られる光学素子において、樹脂硬化物からなる隔壁は、光学素子の種類によるが、幅(平均値)が100μm以下であることが好ましく、50μm以下がより好ましい。また、隣接する隔壁間の距離、即ち、開口部(ドット)の幅(平均値)が1000μm以下であることが好ましく、500μm以下がより好ましい。さらに、隔壁の厚さすなわち上記でいうH2(平均値)は、0.05〜50μmであることが好ましく、0.2〜10μmがより好ましく、0.5〜5μmが最も好ましい。
【0113】
開口部ひとつの面積は、好ましくは、5,000μm以上300,000μm以下であり、より好ましくは、10,000μm以上20,0000μm以下であり、特に好ましくは、15,000μm以上100,000μm以下である。開口部の面積が小さすぎるとインクジェットで所望のドットにインクを着弾させるのが難しくなる。一方、開口部の面積が大きすぎると着弾したインクがドットに均一に濡れ拡がることが難しくなる。
【0114】
開口部ひとつの体積は、好ましくは、500μm以上3,000,000μm以下であり、より好ましくは、1,500μm以上1,500,000μm以下であり、特に好ましくは3,000μm以上500,000μm以下である。開口部(ドット)の体積が小さすぎるとインクジェットで所望のドットにインクを充填させるのが難しくなる。一方、ドットの体積が大きすぎると充填したインクがドットに均一に充填されることが難しくなる。
【0115】
なお、光学素子における隔壁と画素のサイズは、光学素子の種類により異なる。例えば、42インチテレビの画素面積は、およそ75,000μm、32インチテレビの画素面積は、およそ30,000μmである。カラーフィルタの膜厚は、概ね、1〜3μmであり、有機ELの膜厚が、概ね、0.1〜1μmである。こららを考えると、開口部の体積の範囲は、上記500〜3,000,000μm程度となる。
【0116】
また、本発明の製造方法により得られる光学素子において、(3)IJ工程により隔壁で仕切られた領域(ドット)内に塗布され、さらに(4)第2の加熱工程で加熱処理されたインク層すなわち画素の均一性は、以下のような評価方法で以下の値をとることが好ましい。すなわち、図2に示すようにIJ工程、第2の加熱工程を経てドット内に形成されたインク層の隔壁際の部分4箇所(図2(b)に示すy1〜y4の位置)の平均膜厚(M)と中央(図2(b)に示すxの位置)の膜厚(N)を測定し、中央の膜厚(N)に対する隔壁際の部分4箇所の平均膜厚(M)の百分率、つまり、M/N×100が、70〜150であることが好ましく、75〜120であることがより好ましい。
【0117】
このようにして製造される光学素子においては、隔壁は十分な耐溶剤性、耐熱性を有し、インクジェット法によるインク注入時のインク同士の混色の発生もなく、ドット内のインクに対する良好な濡れ性を確保することで均一なインク層が形成されている。さらに、本発明の光学素子の製造方法においては、隔壁形成後に樹脂組成物の硬化を促進させるために行われる、ポスト露光等のコスト高な工程を含まずとも、2段階の加熱工程により樹脂組成物の硬化を完了させており、簡素化され経済的に有利な工程での光学素子の製造を可能としている。
【0118】
上記本発明の光学素子の製造方法が好ましく適用される光学素子として具体的には、カラーフィルタ、有機EL表示素子、有機TFTアレイ等が挙げられる。以下、前記3種の光学素子における本発明の製造方法の適用について説明する。
【0119】
〔カラーフィルタの製造〕
カラーフィルタにおいては、上記隔壁は、好ましくはブラックマトリックス(BM)と呼ばれる遮光層である。また、カラーフィルタの隔壁がBMである場合、高遮光性が求められ、その遮光性を示す値、OD(Optical Density)値は、通常1.5〜6の範囲となるように設計される。なお、OD値の調整は、上記(1)の隔膜形成工程に記載した黒色着色剤の種類、配合量等を適宜選択することで行われる。ブラックマトリックス(BM)がネガ型感光性樹脂組成物を原料として作製される場合、特に(1)隔壁形成工程の露光ではネガ型感光性樹脂組成物の硬化が不十分であり、本発明の製造方法による(2)第1の加熱工程および(4)第2の加熱工程がネガ型感光性樹脂組成物の硬化に対して有効に作用する。
カラーフィルタにおいて、形成される画素の形状は、ストライプ型、モザイク型、トライアングル型、4画素配置型等の公知のいずれの配列とすることも可能である。
【0120】
画素の形成に用いられるインクは、主に着色成分とバインダー樹脂成分と溶剤とを含む。着色成分としては、耐熱性、耐光性などに優れた顔料および染料を用いることが好ましい。バインダー樹脂成分としては、透明で耐熱性に優れた樹脂が好ましく、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。水性のインクは、溶剤として水および必要に応じて水溶性有機溶媒を含み、バインダー樹脂成分として水溶性樹脂または水分散性樹脂を含み、必要に応じて各種助剤を含む。また、油性のインクは、溶剤として有機溶剤を含み、バインダー樹脂成分として有機溶剤に可溶な樹脂を含み、必要に応じて各種助剤を含む。
【0121】
画素形成後、必要に応じて、保護膜層を形成する。保護膜層は表面平坦性を上げる目的と隔壁や画素部のインクからの溶出物が液晶層に到達するのを遮断する目的で形成することが好ましい。保護膜層を形成する場合は、事前に隔壁の撥インク性を除去することが好ましい。撥インク性を除去しない場合、オーバーコート用塗布液をはじき、均一な膜厚が得られないため好ましくない。隔壁の撥インク性を除去する方法としては、プラズマアッシング処理や光アッシング処理等が挙げられる。
【0122】
さらに必要に応じて、カラーフィルタを用いて製造される液晶パネルの高品位化のためにフォトスペーサーを隔壁で構成されるブラックマトリックス上に形成することが好ましい。
【0123】
〔有機EL表示素子の製造〕
隔壁を形成する前に、ガラス等の透明基材に酸化インジウム錫(ITO)等の透明電極をスパッタ法等によって製膜し、必要に応じて所望のパターンに透明電極をエッチングする。次に、本発明の製造方法により、隔壁を形成し、180〜215℃の温度条件で第1の加熱を行った後、インクジェット法を用いてドットに正孔輸送材料、発光材料の溶液を順次塗布、乾燥後、さらに、220〜250℃の温度条件で第2の加熱処理を施して、正孔輸送層、発光層を形成する。その後アルミニウム等の電極を蒸着法等によって形成することによって、有機EL表示素子の画素が得られる。
【0124】
〔有機TFTアレイの製造〕
有機TFTアレイは、通常、以下の(1)〜(3)の工程により製造される。
(1)ガラス等の透明基材に隔壁を形成する。インクジェット法を用いてドットにゲート電極材料の溶液を塗布しゲート電極を形成する。
(2)ゲート電極を形成させた後、その上にゲート絶縁膜を形成させる。ゲート絶縁膜上に隔壁を形成し、インクジェット法を用いてドットにソース・ドレイン電極材料の溶液を塗布しソース・ドレイン電極を形成する。
(3)ソース・ドレイン電極を形成させた後、一対のソース・ドレイン電極を含む領域を囲むように隔壁を形成し、インクジェット法を用いてドットに有機半導体の溶液を塗布し有機半導体層をソース・ドレイン電極間に形成させる。
【0125】
なお、上記(1)〜(3)の各工程において、それぞれ隔膜形成とインクジェット法によるインクの注入が行われるが、これらの一工程のみにおいて、インクジェット法によるインクの注入の前後に、180〜215℃の温度条件での第1の加熱処理、220〜250℃の温度条件での第2の加熱処理を、それぞれ行う本発明の製造方法を利用してもよいし、2つ以上の工程において上記本発明の製造方法を利用してもよい。
【実施例】
【0126】
以下に、実施例に基づいて、本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、以下の各実施例および比較例において、「部」は、質量部を意味する。
【0127】
また、下記各実施例および比較例において用いた化合物の略号を以下に示す。
<化合物の略号>
(i)撥インク剤の調製に用いた化合物
X−8201:ジメチルシリコーン鎖含有メタクリレートX−24−8201(商品名、信越化学工業社製)
C6FMA:CH=C(CH)COOCHCH(CF
MAA:メタクリル酸
IBMA:メタクリル酸イソブチル
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
V−70:V−70(商品名、和光純薬社製、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル))
AOI:カレンズAOI(商品名、昭和電工社製、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート)
BEI:カレンズBEI(商品名、昭和電工社製、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート)
DBTDL:ジブチル錫ジラウレート
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
MEK:2−ブタノン
【0128】
(ii)感光性樹脂組成物塗布液の調製に用いた成分
OXE02:OXE02(商品名、チバスペシャルティケミカルズ社製、エタノン 1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾイル−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム))
EX1010:EX−1010(商品名、ナガセケムテックス社製、エポキシ樹脂にエチレン性二重結合と酸性基とを導入した樹脂の溶液;固形分70%、重量平均分子量3020)
ZCR1569:ZCR−1569(商品名、日本化薬社製、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂にエチレン性二重結合と酸性基とを導入した樹脂の溶液;固形分70%、重量平均分子量4710)
DPHA:KAYARAD DPHA(商品名、日本化薬社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物)
A9300:NKエステル A−9300(商品名、新中村化学工業社製、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート)
PGMEA:プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート
CB:カーボンブラック分散液(平均2次粒径120nm、分散媒PGMEA、カーボンブラック20%、アミン価が18mgKOH/gのポリウレタン系高分子分散剤5%)
シリカ:シリカ分散液(平均粒径20nm、分散媒PGMEA、固形分30%、シリカは負帯電)
【0129】
まず、下記各実施例および比較例で用いた撥インク剤の合成について以下に説明する。
[撥インク剤:化合物(A−1)の合成]
撹拌機を備えた内容積1Lのオートクレーブに、MEK(420.0g)、X−8201(27.0g)、C6FMA(66.6g)、MAA(14.4g)、2−HEMA(72.0g)および重合開始剤V−70(1.4g)を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、30℃で24時間重合させ、粗共重合体を合成した。得られた粗共重合体の溶液にヘプタンを加えて再沈精製した後、真空乾燥し、共重合体1(148.7g)を得た。共重合体1は、数平均分子量が25980、重量平均分子量が64000であった。なお、数平均分子量および重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した。なお、以下、各化合物(重合体)の数平均分子量および重量平均分子量は、全て同様の方法で測定したものである。
【0130】
温度計、撹拌機、加熱装置を備えた内容量300mLのガラス製フラスコに、共重合体1(40.0g)、BEI(30.5g)、DBTDL(0.12g)、BHT(1.5g)およびMEK(109.4g)を仕込み、撹拌しながら、40℃で48時間反応させ、粗重合体を合成した。得られた粗重合体の溶液にヘプタンを加えて再沈精製した後、真空乾燥し、化合物(A−1)(60.1g)を得た。化合物(A−1)は、数平均分子量が36150、重量平均分子量が114000であった。
【0131】
[撥インク剤:化合物(A−2)の合成]
撹拌機を備えた内容積1Lのオートクレーブに、MEK(420.0g)、C6FMA(81.0g)、MAA(18.0g)、2−HEMA(72.0g)、IBMA(9.0g)および重合開始剤V−70(2.9g)を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、30℃で24時間重合させ、粗共重合体を合成した。得られた粗共重合体の溶液にヘプタンを加えて再沈精製した後、真空乾燥し、共重合体2は、数平均分子量が18560、重量平均分子量が47080であった。
【0132】
温度計、撹拌機、加熱装置を備えた内容量300mLのガラス製フラスコに、共重合体2(50.0g)、AOI(21.7g)、DBTDL(0.087g)、BHT(1.1g)およびMEK(128.1g)を仕込み、撹拌しながら、40℃で48時間反応させ、粗重合体を合成した。得られた粗重合体の溶液にヘプタンを加えて再沈精製した後、真空乾燥し、化合物(A−2)(63.8g)を得た。化合物(A−2)は、数平均分子量が27690、重量平均分子量が61110であった。
【0133】
[実施例1]
(ネガ型感光性樹脂組成物塗布液の調製)
上記で得られた撥インク剤としての化合物(A−1)(0.10部)、光重合開始剤としてのOXE02(2.1部)、感光性樹脂の溶液としてのEX1010(13.1部)、黒色着色剤の分散液としてのCB(59.1部)、架橋剤としてのDPHA(3.9部)および溶媒としてのPGMEA(21.7部)を混合して、ネガ型感光性樹脂組成物の塗布液を得た。ネガ型感光性樹脂組成物塗布液の全固形分言い換えればネガ型感光性樹脂組成物中の撥インク剤すなわち化合物(A−1)の含有量は、0.33%であった。
【0134】
次に、このネガ型感光性樹脂組成物の塗布液を用いて、以下の方法で、支持基板上を複数の区画に仕切るかたちに形成された樹脂硬化物からなる隔壁と、前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数の画素を有する試験用の光学素子を作製した。
【0135】
(1)隔壁形成工程
スピンナーを用いて、支持基板となるガラス基板AN100(旭硝子製、100mm×100mm、0.7mm厚)上に、上記で調製したネガ型感光性樹脂組成物の塗布液を塗布した後、ホットプレート上で、100℃で2分間乾燥させ、膜厚が2.4μmのネガ型感光性樹脂組成物の塗膜を形成した。
【0136】
上記で得られたガラス基板上のネガ型感光性樹脂組成物の塗膜に、超高圧水銀灯を用いて、露光量がi線(365nm)基準で30mW/cmの光を、マスクを通して、1.7秒間、照射し、50mJ/cmを露光した。なお、マスクは、遮光部が100μm×200μm、光透過部が20μmの格子状パターンであり、ガラス基板上に形成される隔壁で仕切られた領域すなわち開口部(ドット)の容積が40pLとなる設計であった。
【0137】
上記露光後の塗膜付きガラス基板を、無機アルカリタイプ現像液セミクリーンDL−A4(商品名、横浜油脂工業社製)の10倍希釈水溶液に浸漬して現像し、未露光部を水により洗い流した後、常温で乾燥させて、上部表面に撥インク性を有する膜厚(H0)2.4μmの隔壁が形成されたガラス基板を得た。
【0138】
(2)第1の加熱工程
上記で得られた上部表面に撥インク性を有する感光性樹脂組成物からなる隔壁付きガラス基板を、ホットプレート上に設置し、210℃で20分間加熱した。この第1の加熱後の隔壁の膜厚(H1)は、2.1μmであった。
【0139】
(3)インクジェット(IJ)工程
次に、以下の方法でカラーフィルタ試験用インク(顔料は未配合であるが、粘度、固形分、表面張力を実際のカラーフィルタ用インクと同様に調整した試験用のインク)を調製し、これをインクジェット法により上記第1の加熱工程後のガラス基板上の開口部に注入しインク層を形成させた。
【0140】
すなわち、液状エポキシME−562(日本ペルノックス社製)(6.25g)、硬化剤HV−562(日本ペルノックス社製)(6.25g)、アジピン酸ジエチル(12.5g)およびマロン酸ジエチル(25.0g)を、スターラーを用いて、1時間攪拌混合し、インクを調製した。インクジェット法を用いて、上記ガラス基板の各開口部に、上記で得られたインクの約20pLずつを塗布した。インク塗布後、ホットプレート上で、100℃で2分間の乾燥を行い、ガラス基板上の隔壁で仕切られた各領域にインク層を形成させた。
【0141】
(4)第2の加熱工程
上記基板上の隔壁で仕切られた各領域にインク層が形成されたガラス基板を、ホットプレート上で、240℃で20分間加熱した。この第2の加熱処理後、隔壁の膜厚(H2)を測定したところ、2.0μmであった。
【0142】
このようにして、ガラス基板上を複数の区画に仕切る樹脂硬化物からなる隔壁と、基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数のインク層からなる画素を有する試験用の光学素子を得た。
【0143】
[実施例2、3]
ネガ型感光性樹脂組成物塗布液が含有する各成分の配合を表1に示すように変更し、上記(2)第1の加熱工程および/または(4)第2の加熱工程における加熱温度を本発明の範囲内で表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、ガラス基板上を複数の区画に仕切る樹脂硬化物からなる隔壁と、基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数のインク層からなる画素を有する試験用の光学素子を得た。
【0144】
[比較例1〜3]
ネガ型感光性樹脂組成物塗布液が含有する各成分の配合を表1に示すように変更し、上記(2)第1の加熱工程または(4)第2の加熱工程における加熱温度を、表1に示すように、本発明の範囲外となる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、ガラス基板上を複数の区画に仕切る樹脂硬化物からなる隔壁と、基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数のインク層からなる画素を有する試験用の光学素子を得た。
【0145】
<評価方法および評価結果>
上記各実施例および各比較例で得られた試験用光学素子を用いて、白抜け、オーバーフロー、耐溶剤性、第1の加熱工程後の隔壁膜厚(H1)、第2の加熱工程後の隔壁膜厚(H2)、H1/H2、230℃再加熱後隔壁膜厚、再加熱後膜減り率、インク層隔壁際膜厚、インク層中央膜厚、インク層均一性を以下に示す方法で評価した。評価結果を表1の下欄に示す。
【0146】
[白抜け]
各試験用光学素子の白抜けの有無を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて観察した。試験用光学素子全体に亘って白抜けがないものを○、白抜けがあるものを×として、判定した。
【0147】
[オーバーフロー]
各試験用光学素子におけるインクのオーバーフローの状態を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて観察した。試験用光学素子全体に亘って隔壁上にインクが乗り上げている箇所がないものを○、隔壁上にインクが乗り上げている箇所があるものを×として、判定した。
【0148】
[耐溶剤性]
各試験用光学素子における隔壁のインクによる浸食状況を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて観察した。隔壁がインクにより侵食されず、隔壁上が荒れていないものを○、隔壁がインクにより若干侵食されていて、隔壁上が若干荒れているものを△、隔壁がインクにより侵食され、隔壁上が荒れているものを×として、判定した。
【0149】
[第1の加熱工程後の隔壁膜厚(H1)]
第1の加熱工程後の隔壁膜厚(H1)を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて測定した。なお、膜厚の測定は隔壁の5箇所で行った平均の値である。
【0150】
[第2の加熱工程後の隔壁膜厚(H2)]
第2の加熱工程後の隔壁膜厚(H2)を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて測定した。なお、膜厚の測定は隔壁の5箇所で行った平均の値である。
【0151】
[H1/H2]
上記で測定したH1およびH2の値から算出した値である。
【0152】
[230℃再加熱後隔壁膜厚(H3)]
第2の加熱工程後、得られた試験用光学素子をさらにホットプレート上で、230℃で20分間加熱処理した。加熱処理後の隔壁膜厚(H3)を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて測定した。なお、膜厚の測定は隔壁の
5箇所で行った平均の値である。
【0153】
[再加熱後膜減り率(耐熱性)]
上記で得られたH2およびH3の値から以下の計算式で算出した値である。
(H3−H2)/H2×100
【0154】
[インク層隔壁際膜厚(Mave)]
各試験用光学素子の3箇所の画素すなわちインク層で、隔壁際の部分の膜厚を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて測定した。測定箇所は、各画素について図2(a)および(b)に示すとおり各辺の中央部隔壁際の4点、すなわち図2(b)に示すy1〜y4の箇所であり、これらの平均値をもってその画素におけるインク層隔壁際膜厚(M)とし、さらに測定した3箇所の画素の平均値をインク層隔壁際膜厚(Mave)とした。
【0155】
[インク層中央膜厚(Nave)]
各試験用光学素子の3箇所の画素すなわちインク層で、中央の膜厚を、超深度形状測定顕微鏡VK−8500(キーエンス社製)を用いて測定した。測定箇所は、各画素について図2(a)および(b)に示すとおりであり、該測定値をその画素におけるインク層中央、図2(b)に示すxの位置の膜厚(N)とした。さらに測定した
3箇所の画素の平均値をインク層隔壁際膜厚(Nave)とした。
【0156】
[インク層均一性]
上記で得られたMaveおよびNaveの値から以下の計算式で算出した値である。
Mave/Nave×100
【0157】
【表1】

表1中、「注)」は、「インク層がオーバーフローして、測定不能であった。」ことを示す。
【0158】
実施例1〜3は、第1の加熱工程の温度が180℃〜215℃であり、かつ第2の加熱工程の温度が220℃〜250℃であるため、オーバーフローがなく、耐溶剤性が良好で、第2の加熱工程後さらに230℃で再加熱したときの膜減りがなく、インク層均一性が高い。
【0159】
一方、比較例1は、第1の加熱工程の温度が150℃と低いため、オーバーフローが観られ、耐溶剤性も不十分だった。
比較例2は、第2の加熱工程の温度が低いために、第2の加熱工程後さらに230℃で再加熱したとき膜減りし、インク層均一性もやや低かった。
比較例3は、第1の加熱工程の温度が230℃と高いため、インク層均一性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の製造方法は、カラーフィルタ、有機EL表示素子、有機TFTアレイ等の光学素子の製造に好適に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0161】
1…支持基板、2…ネガ型感光性樹脂組成物の層、4…マスク、5…光、6…隔壁、7…ドット、8…隔壁上部表面層、9…インク供給ノズル、10…インク、11…インク層
x…インク層厚測定箇所(中央)、y1〜y4…インク層厚測定箇所(隔壁際)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上を複数の区画に仕切るかたちに形成された樹脂硬化物からなる隔壁と、前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域に形成された複数の画素とを有する光学素子の製造方法であって、
支持基板上に、樹脂組成物からなり上部表面に撥インク性を有する隔壁を形成する工程と、
前記隔壁を180℃〜215℃で加熱して前記樹脂組成物の硬化を促進させる第1の加熱工程と、
前記支持基板上の前記隔壁で仕切られた領域にインクジェット法によりインクを注入してインク層を形成する工程と、
前記隔壁と前記インク層を220℃〜250℃で加熱して前記インクを硬化させて画素を形成するとともに前記樹脂組成物の硬化を完了させる第2の加熱工程と、
を順に有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の加熱工程後の隔壁の厚さをH1とし、前記第2の加熱工程後の隔壁の厚さをH2とした場合に、H1/H2で表される前記第2の加熱工程後の隔壁の厚さに対する前記第1の加熱工程後の隔壁の厚さの比が、1.02 ≦ H1/H2 ≦ 1.30 であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記隔壁形成工程後、前記隔壁に250nm〜450nmの電磁波を照射することなく、前記第1の加熱工程、前記インク層形成工程および前記第2の加熱工程を順に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物が感光性樹脂組成物であって、前記隔壁形成工程が、支持基板上への感光性樹脂組成物の層形成、露光および現像の操作を順に行うことからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記感光性樹脂組成物がネガ型感光性樹脂組成物である請求項4に記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記隔壁形成工程において、隔壁上部表面に撥インク性を付与する手段が含フッ素撥インク剤の使用を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記隔壁が遮光性を有する遮光層である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記光学素子がカラーフィルタ、有機EL表示素子または有機TFTアレイである請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−185938(P2010−185938A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28471(P2009−28471)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】