説明

光電気変換モジュールの製造方法

【課題】高信頼性で歩留まり向上可能な光電変換モジュールの製造方法の提供。
【解決手段】
光電変換素子1bと、線膨張係数が25ppm/K以下で光ファイバ保持穴3が貫通形成された樹脂製基体2と、素子搭載面8に露出した電気配線部5を有する光フェルール1aを備え、光電変換素子1bは電極部14と電気配線部5との間に配置した接合子6を介して接合され、接合子6及び電気配線部5の熱伝導率は樹脂製基体2の熱伝導率の1×10倍以上である光電気変換モジュール1の製造方法であって、電極部14及び電気配線部5上の少なくとも一方に接合子6を配設する工程と、光電変換素子1bを電極部14が電気配線部5と対向して樹脂製基体2に載置する工程と、接合部Cに温風又は電磁波を照射して該領域を選択的に加熱、接合する工程と、光ファイバ保持穴3に光ファイバ4を挿入し、先端を素子搭載面8に位置決めして固定する工程とを少なくとも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電気変換モジュールの製造方法に関し、特に光電変換素子を光フェルールに導電性バンプを介して接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を回路基板に搭載する方法の一つとして、フリップチップ実装が知られている。フリップチップ実装は生産効率が高く、回路の配線長さを短くすることができるという利点があり、光電気変換モジュール(特許文献1を参照。)の製造にも適用される。この光電気変換モジュール1は、図3に示すように、樹脂製基体2で形成された光フェルール1aに光ファイバ(又は光導波路)4を挿入する貫通穴(光ファイバ保持穴)3を持ち、光ファイバ4を挿入することで位置決めされるように光電変換素子1bが装備されている。図中、5は光フェルール1a上にパターン形成した電気配線部、6は接合子、7は受光部または発光部、9はアンダーフィル材を示す。
【0003】
この光電気変換モジュール1の製造は、例えば図4に示すように、まず、電気配線部5及び光素子搭載面8を有する光フェルール1aに光電変換素子1bを搭載する。図4(a)は、接合子6の設けられた光電変換素子1bを吸着するボンディングツール10と、ボンディングツール10に吸着された光電変換素子1bを臨んで配置される、外面に電気配線部5を備えた光フェルール1aとを示す。次に、図4(b)に示すようにボンディングツール10を光フェルール1aに向って下降させ、光電変換素子1bに設けられた接合子6を光フェルール1aの電気配線部5に押圧する。さらに、ボンディングツール10を介して光電変換素子1bに熱および超音波振動を印加し、光電変換素子1bの接合子6と光フェルール1aの電気配線部5とを接合することで、光電気変換モジュール1の組み立てが完了する。続いて、この光電気変換モジュール1に光ファイバ4が実装される。まず図4(c)に示すように、光電気変換モジュール1を組み立て冶具11に固定した状態で光ファイバ保持穴3に光ファイバ4を挿入する。その後、図4(d)に示すように、光ファイバ4と光ファイバ保持穴3の間の空間及び光電変換素子1bと素子搭載面8の間の空間にアンダーフィル材9を注入,固化して光ファイバ4を固定する。
【0004】
また、特許文献2には電子部品を回路基板にフリップチップ実装によって搭載する際に、超音波振動の付与とともに実施する電子部品の加熱による温度上昇を部分的なものに止める技術が開示されている。このような方法によれば、電子部品全体及び基板全体の温度が上昇するのを防止できるので、急激な温度変化により電子部品及び基板が熱的ダメージを受けて品質が低化するのを防止できる。また、電子部品と基板の熱膨張係数の違いにより昇温時と降温時の両方で電子部品と基板の接合部分に応力が生じ、機械的ダメージを受けてクラック等が発生するのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−59867号公報
【特許文献2】特開平10−190209号公報
【特許文献3】特開2007−279527号公報
【特許文献4】特開2001−281503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂製基体を使用する光電気変換モジュールを製造する場合、フリップチップ実装時に加える熱により樹脂製基体が軟化するおそれがある。このような状態で光フェルールに押圧力や超音波振動を印加してフリップチップ実装を実施することに起因して、以下説明するような特有の問題が生じる。
【0007】
第一に、光電変換素子と光フェルールの接合強度が劣化する。この原因を、図5に示した従来のフリップチップ実装時の接合動作を参照しながら説明する。図5(a)に示すように、まず光フェルール1aは加熱手段を有する実装冶具12に固定する。次に該実装冶具12に設けられた加熱手段により光フェルール1aの樹脂製基体2を加熱し、光フェルール1a全体を加熱することによって素子搭載面8に設けられた電気配線部5を加熱する(図中A)。その後接合子6の設けられた光電変換素子1bを吸着したボンディングツール10を光フェルール1aに向って下降させ、接合子6を電気配線部5に載置する。その後、ボンディングツール10により接合子6に押圧力及び超音波振動を印加する(図中B)ことによって、超音波圧着を完了する。
【0008】
接合子6はボンディングツール10の超音波振動に追従して振動するので、接合子6と電気配線部5及び基板13との互いの当接面における摩擦力よりも、電気配線部5と光フェルール1aの樹脂製基体2との当接面における摩擦力の方が小さいと、樹脂製基体2が電気配線部5の超音波振動に追従することができず、樹脂製基体2と電気配線部5との当接面において滑り易くなる。このような滑り現象が発生すると、ボンディングツール10によって印加された超音波振動が、接合子6と電気配線部5との当接面に充分に伝達されない。また、樹脂製基体2は形状が揺らぎやすく、超音波振動が吸収され易いため、同様に超音波振動が接合子6と電気配線部5との当接面に充分に伝達されにくい。その結果、接合子6と電気配線部5との接合が不充分になるという問題がある。充分な接合強度を得るべく、超音波振動の印加時間を長くすると、過度の超音波振動エネルギーによって、図5(b)に示すように光電変換素子1bや樹脂製基体2がダメージを受けたり、樹脂製基体2と電気配線部5との当接面に生じる摩擦により、電気配線部5が樹脂製基体2から剥離したりするおそれがある。また、加熱時間が長くなることにより、光電変換素子1bや樹脂製基体2の温度が過度に上昇するおそれがあり、これも光電変換素子1bが損傷する原因となる。
【0009】
第二に、上記のように樹脂製基体2が変形することにより、光電変換素子1bの受光部又は発光部7と光ファイバ4の光軸ずれ生じやすくなる。その結果、光電変換素子1bの受光部又は発光部7と光ファイバ4の光結合におけるモーダルノイズが増大する。光ファイバにマルチモード光ファイバを用いた光伝送システムにおいては、光伝送路中に複数の伝搬モードが存在するため、伝送特性が制限される。即ち、異なる伝搬モード同士がお互いに干渉し、モーダルノイズと呼ばれるノイズが発生する。モーダルノイズとは、モード間干渉によって生じたスペックルパターンが時間的に変動することによって生じるノイズである。このスペックルパターンは、光ファイバの状態(曲げ、置き方、温度、振動等)や、レーザーの状態(温度、駆動電流)によって揺らぎ易く、受光素子への受光時やファイバロス、結合ロスに依存して強度ノイズが発生する原因となる。
【0010】
このように、マルチモード光ファイバを用いて光伝送を行うと、モード間干渉によって伝送特性が劣化する。特に、光伝送路中のモード数が少ない場合や、光伝送路中に高次モード光が励起されやすい場合、また、光源のスペクトル幅が狭い場合などは、モード間の可干渉性が高くなるため伝送特性が劣化しやすい。
【0011】
この問題を解決するためには、光電変換素子1bの受光部又は発光部7と光ファイバ4の光軸をできるだけ一致させる必要がある。即ち、光軸が一致していない場合には、光電変換素子1bの受光部又は発光部7と光ファイバ4間における光結合時に高次モード光が励起されやすく、特に光電変換素子1bが発光素子である場合には光ファイバ4への入射角が大きくなることにより伝送帯域が制限されるため、モーダルノイズの増大による伝送損失の悪化が懸念される。
【0012】
一方、光軸を一致させて光結合を行うと、光軸に対して直交している接続端面同士を接続する場合には、光信号が接続面を透過する際に、接続面において光信号の一部が反射してしまう。即ち、光ファイバに入射させて送信する光の一部が接続面で反射して光軸方向へ戻るため、この反射光と送信光とが混信して不都合が生じることがわかっている。そこで、接続面を傾斜させて接続することにより、反射光の反射方向をずらして、送信光への悪影響を防止することが行われている。(例えば特許文献3を参照。)
【0013】
このように、光電変換素子1bの受光部又は発光部7と光ファイバ4間で光結合される光電気変換モジュール1では、伝送特性の劣化を防止するために、光電変換素子1bの受光部又は発光部7と光ファイバ4の先端面4aの傾斜角を厳密に管理する必要がある。従来から光ファイバ4と光電変換素子1bの受光部又は発光部7の傾斜角を規定することにより伝送特性を向上する検討がなされている(例えば特許文献1、特許文献4を参照。)。しかし、いずれも傾斜角を厳密に管理する具体的手法に関しては記載されていない。特に光電変換素子をフリップチップ実装により光フェルールに搭載する場合のように、実装時に加わる熱及び超音波振動によって光フェルールを形成する樹脂製基体が軟化し得る状況に関しては考慮されていない。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は信頼性が高く、歩留まりを向上することが可能な、光電変換モジュールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決可能な本発明に係る光電気変換モジュールの製造方法は、受光部または発光部と、該受光部または発光部と電気的に接続された電極部とが基板上に搭載された光電変換素子と、線膨張係数が25ppm/K以下で、光ファイバが固定された光ファイバ保持穴が貫通形成されている樹脂製基体と、光ファイバの先端が位置決め固定された樹脂製基体の素子搭載面に露出して形成された電気配線部とを有する光フェルールを備え、光電変換素子と樹脂製基体は、受光部の受光面または発光部の発光面に対応する位置に光ファイバの先端が位置するよう対向して配置され、電極部と電気配線部の間に配置した接合子を介して接合されており、接合子及び電気配線部の熱伝導率は、樹脂製基体の熱伝導率の1×10倍以上である光電気変換モジュールの製造方法であって、電極部上及び電気配線部上の少なくとも一方に接合子を設ける工程と、光電変換素子を、電極部が電気配線部と対向した状態で、樹脂製基体に載置する工程と、接合子によって接合される接合部に温風又は電磁波を照射して該領域を選択的に加熱し、電極部と電気配線部とを接合する工程と、光ファイバ保持穴に光ファイバを挿入し、先端を素子搭載面に位置決めした状態で固定する工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0016】
上記手段によれば、超音波接合時に接合部を選択的に加熱することで、光電気変換モジュールの加熱を部分的に行うとともに、接合子及び電気配線部の熱伝導率が光フェルールを形成する樹脂製基体の熱伝導率の1×10倍以上であることで、照射した熱が接合部以外の領域へ拡散することを防止することができる。その結果、加熱時間及び超音波振動印加時間を短縮できるため、光電変換素子の損傷を防止することができる。また、光フェルールの昇温を部分的なものとすることができるから、樹脂製基体の軟化を防止することができる。加えて、樹脂製基体の線膨張係数が25ppm/K以下であるから、温度上昇した接合部から伝導した熱に対する樹脂製基体の体積変動を小さくできる。その結果、光電変換素子が光フェルールの素子搭載面に搭載される傾斜角を精密に規定することができ、光電変換素子の受光面または発光面と光結合される光ファイバ先端面同士の傾斜角を容易に管理することができる。即ち、接合子による接合強度を高めるとともに、マルチモードファイバ伝送時におけるモーダルノイズの発生を抑制できるから、光電気変換モジュールの製造において信頼性及び歩留まりをすることができる。
【0017】
上記手段において、光ファイバの先端は、先端面が光電変換素子の受光面または発光面と非平行となるように固定されていることが好ましい。このようにすれば、光ファイバ先端面において発生する反射戻り光を抑制することができ、伝送ノイズを低減することができる。
【0018】
上記手段においては、光電変換素子の受光面または発光面と光ファイバは、光軸が一致していることが好ましい。このようにすれば、光電変換素子とマルチモード光ファイバ間における光結合時に高次モード光が励起されにくくなり、モーダルノイズの発生を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光電気変換モジュールの製造方法によれば、実装時における超音波振動又は加熱による光電変換素子の損傷を防止することができる。また、光フェルールの温度上昇を抑制できるから、樹脂製基体の軟化を防止することができる。即ち、光電気変換モジュールの製造において、信頼性及び歩留まりを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る光電気変換モジュールの製造方法の実施形態を説明する概念図であって、(a)〜(d)はそれぞれ断面図である。
【図2】本発明に係る光電気変換モジュールの製造方法に適用可能な光ファイバと光電変換素子の対向部の例を示す図であり、(a)は光ファイバの先端が傾斜を有する場合を示す断面図、(b)は光ファイバと光電変換素子の接合部の拡大図である。
【図3】光電気変換モジュールを示す断面図である。
【図4】公知の光電気変換モジュールの製造方法を説明する概念図であって、(a)〜(d)は、それぞれ断面図である。
【図5】従来の光電気変換モジュールの製造方法における問題点を説明する概念図であって、(a)、(b)はそれぞれ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る光電気変換モジュールの製造方法の実施形態の例を、図面を参照して説明する。図面において同一の部材に対しては同じ符号を用い、その説明を省略する。
【0022】
本発明によって製造される光電気変換モジュールは、例えば図3に示すような光電気変換モジュール1である。光電変換素子1bは接合子6を介して、光フェルール1aの素子搭載面8に露出した電気配線部5に接合されている。光電変換素子1bには、受光部又は発光部7(以下、受発光部と称する)と電気的に接続された電極部(図示せず)が配設されており、該電極部上に接合子6が設けられている。つまり、光電変換素子1bには受発光部7に沿って複数の接合子6が配設されている。受発光部7は受光面又は発光面(以下、受発光面と称する)7aが光フェルール1aの素子搭載面8に開口した光ファイバ保持穴3の中心位置に対応して配置されており、光ファイバ保持穴3に光ファイバ4を挿入することで、その先端面4aが受発光面7aに対して位置決めされる。さらに、光ファイバ4と光ファイバ保持穴3の間の空間及び素子搭載面8と光電変換素子1bの間の空間にアンダーフィル材9を充填することで、光ファイバ4及び光電変換素子1bが光フェルール1aに固定される。
【0023】
光フェルール1aと光電変換素子1bの接合には、バンプを用いたチップ実装技術やはんだ付け、導電性接着剤を介した接合等を適用できる。接合子6として、金属製バンプやはんだバンプ、を用いることができるが、熱伝導率の高い金属製のバンプを用いるのが好適である。光電変換素子1bに設けられた電極部及び光フェルール1aに設けられた電気配線部5上の少なくとも一方にバンプ6を形成しておけば、フリップチップ実装方式により迅速に精度良く光電変換素子1bを光フェルール1aの素子搭載面8に搭載できるため、生産性の観点からも好ましい。
【0024】
フリップチップ実装方式により接合子であるバンプ6を介して光電変換素子1bと光フェルール1aの接合を行う方法としては、例えば以下のような手法を適用できる。第一に、光電変換素子1bの電極部上に形成したバンプ6を、熱、超音波および押圧荷重により対向する電気配線部5に接合する超音波圧着法。第二に、バンプ6上に導電性ペーストを転写した後、対向する電気配線部5に接触させ、導電性ペーストを固化するスタットバンプボンディング(SBB)法。第三に、異方性導電フィルムを用いて接続するACF法。第四に、バンプ6に対向する側の電気配線部5にはんだによるカウンターバンプを形成し、はんだをリフローして接合するはんだ接合法である。中でも超音波圧着法は、バンプを潰して電気配線部5とバンプ6間で金属間接合する手法であるため、接合時間が非常に短く生産性の観点で優れているが、第二〜第四の手法であっても適用可能である。また、接合時に接合部Cに対して超音波及び熱を加えて実装する方法を採用しているのであれば、いずれの実装方式であっても本発明に係る製造方法を適用可能である。
【0025】
なお、はんだとしては、Sn−Ag系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Zn系、Au−Zn系などの材料が使用可能であるが、これらの材料に限らず光電変換素子1bを光フェルール1aに設けられた電気配線部5と接合できる材料であるならいずれの材料も使用可能である。ただし、はんだは、環境汚染物質であるPbを含有しない材料であることが望ましい。また、導電性ペーストとしては、Au、AgまたはCuなどの金属粒子とエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂とを混合した材料を使用することができる。その中でもAgとエポキシ樹脂の組み合わせは、導電性が高いと共に耐熱性が高いため特に好ましい。
【0026】
光フェルール1aを構成する樹脂製基体2は、導電性がなく、かつ成型過程における体積変化を受けにくく、良好な寸法精度が得られる樹脂材料で形成される。素子搭載面8には光ファイバ4を位置決め保持する複数の光ファイバ保持穴3が受発光面7aに応じて配置されている。素子搭載面8には接合子6を介して光電変換素子1bと接続される複数の電気配線部5が並設され、電気配線部5は素子搭載面8に隣接する交差面に延出して連続形成されている。光電気変換モジュール1は、図示しないが電気配線部5が接触するように上面を回路基板等に実装することにより、電気配線部5を介して光電変換素子1bに対して容易な電気供給や信号取り出しを可能としている。
【0027】
接合子6及び電気配線部5の熱伝導率は、樹脂製基体2を形成する樹脂材料の熱伝導率の1×10倍以上であることが好適である。このように設定すれば、接合時に接合部Cに選択的に印加した熱が接合部C以外の領域へ拡散することを防止できる。その結果、加熱時間及び超音波振動印加時間を短縮できるため、光電変換素子1bの温度上昇を抑制でき、光電変換素子1bの損傷を防止することができる。また、同様に光フェルール1aの温度上昇を部分的なものに止めることができるから、光フェルール1aの樹脂製基体2の軟化を防止することができる。
【0028】
以上のような条件に適合する樹脂製基体2を形成する樹脂材料及び接合子6及び電気配線部5の材料の一例を表1に示す。この他にもフリップチップ実装方式により光電変換素子1bを光フェルール1aに搭載可能であり、接合子6及び電気配線部5の熱伝導率が樹脂製基体2を形成する樹脂材料の熱伝導率の1×10倍以上である樹脂材料、接合子6及び電気配線部5の材料の組み合わせを任意に選択可能である。なお、表1中、PPSはポリフェニレンサルファイド樹脂、PEIはポリエーテルイミド樹脂、EPはエポキシ樹脂、PTFEはポリテトラフルオロエチレン樹脂を示しており、表中の数値を代表的な値を示すものである。これらの特性は添加剤の添加等により、実施の形態に合わせて適宜調整して使用しても良い。熱伝導率の測定はレーザーフラッシュ法により好適に測定することができる。
【0029】
【表1】

【0030】
樹脂製基体2の線膨張係数は、好ましくは25ppm/K以下であり、より好ましくは20ppm/K以下である。なお、線膨張係数の下限は、通常10ppm/K程度である。温度上昇に対する樹脂製基体2の体積変動を小さくできるため、光電変換素子1bの実装時に樹脂製基体2に加わる熱や、光フェルール1aの高温環境下における使用時に加わる熱に対しても、光電変換素子1bの受発光面7aと光ファイバ4の先端面4aの接続面同士の傾斜角を容易に管理することができる。なお、線膨張係数の測定方法は、JIS K 7197に規定されている。
【0031】
線膨張係数が小さい樹脂製基体2を得るには、樹脂材料に無機充填剤を混合すると好適である。無機充填剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも線膨張係数の低減の観点からは溶融シリカが好ましい。無機充填剤の形状は成型における充填性及び金型摩耗性の点からは球形が好ましいが、機械的強度等の観点から、球状石英と破砕状石英とを含んだ溶融石英を使用するのが好適である。球状石英だけでなく、破砕状石英を含ませることにより、アンカー効果が発揮されることになるため、電気配線部5が樹脂製基体2から剥がれにくくなり、光フェルール1aと電気配線部5との密着性が良くなる。このとき、破砕状石英の含有量(重量)は、溶融石英全体に対して1/10〜1/2であることが好ましい。このような割合とすることにより、アンカー効果を十分に発揮できると共に、溶融樹脂の流れ性が良くなるため、樹脂成形が行いやすくなる。
【0032】
無機充填剤は、樹脂材料100重量部に対して、150〜1500重量部の割合で含有しているのが好ましい。無機充填剤の配合割合は、200〜1000重量部であるのがより好ましく、250〜800重量部であるのが特に好ましい。これにより、成形品である樹脂製基体2の線膨張係数を極めて小さくすることができる。
【0033】
電気配線部5は、樹脂製基体2上にCuやAlをメッキすることにより形成することができ、電気配線部5の表面はメッキ処理されていても良い。メッキ金属は、例えばNi,Au,AgSn,AuSn,SnAgCu,SnZnBi,SnAgIn,SnBiAg,SnPb等からなる単層若しくは組み合わせによる多層からなっている。接合子6と密着性の高い金属を選択することで接合強度を高めることができる。例えば電気配線部5がCuのめっきにより形成されており、接合子6としてAuボールバンプを使用する場合には、電極表面がNi−Auの2層によりメッキ処理されていると特に好適である。
【0034】
光電変換素子1bとしては、例えば、発光素子であるVCSEL、受光素子であるPD(Photodiode)等が用いられる。光電変換素子1bには受発光部7に接続された電極部が形成されており、電極部上に接合子6が設けられている。接合子6は、光電変換素子1bを光フェルール1aに実装した後に挿入される光ファイバ4が近接する領域を避けるように形成すると、製造工程において光ファイバ4と接触して損傷することを防止できるため好ましい。
【0035】
光ファイバ4としては、種々の光ファイバを使用可能であり、以下説明する本発明の実施形態では石英系マルチモードファイバ(コア直径50μm、ガラス部直径125μm)を用いる場合について例示する。また、光ファイバ保持穴3に収容して光信号を導波することが可能な光導波体であれば、この他に汎用シングルモードファイバ(コア直径10μm、ガラス部直径125μm)をはじめ、多成分ガラス系の光ファイバや、プラスチック光ファイバ等、あらゆる光ファイバ、光導波体を用いることができる。また、複数本の光ファイバが束ねられた(例えば12本)光テープ心線を用いれば、複数本の光ファイバを一括して複数の光ファイバ保持穴3内にそれぞれ収容できる。
【0036】
(光電気変換モジュールの製造方法の実施形態1)
本発明に係る光電気変換モジュールの製造方法により、光電変換素子を光フェルールに搭載する方法について、図1を参照して詳細に説明する。図1はフリップチップ実装方式により光電変換素子1bを光フェルール1aの素子搭載面8に実装するプロセスを示している。
【0037】
図1(a)は、接合子6の設けられた光電変換素子1bを吸着するボンディングツール10と、ボンディングツール10に吸着される光電変換素子1bを臨んで配置される、外面に電気配線部5を備えた光フェルール1aとを示す。光電変換素子1bには受発光部7に接続された電極部14が形成されており、電極部14上に接合子6が設けられている。電極部14及び接合子6は、光電変換素子1bを光フェルール1aに実装した後に挿入される光ファイバ4が近接する領域を避けるように形成されている。なお、図示しないが接合子6は光フェルール1a側の電気配線部5上に設けても構わない。
【0038】
本実施形態において、接合子6としてAuバンプを用いる場合を例示する。この場合には、電極部14上に形成したAuバンプ6を、熱、超音波振動および押圧荷重により対向する電気配線部5に圧着するAu−Au接合法またはAu−Al接合法を適用できるため生産性が良い。Auバンプ6を電極部14上に設けるには、Auボールバンプを配列板に一括配列保持し、電極部14上に転写しても良いし、スタッドバンプ法や、めっき法により形成しても良い。
【0039】
スタッドバンプ法によれば、まず、Auワイヤーの先端を球状にした後、球状部分を電極部14上に押圧し、超音波と熱で球状部分をつぶしながら電極部14上に溶着する。その後、Auワイヤーを引っ張り、幹部を切断することで、電極部14上にAuバンプ6を形成できる。この場合、電極部14表面はAuまたはAlで形成されていることが好ましい。
【0040】
めっき法によれば、電極部14の一部の領域を開口したレジスト膜を形成し、開口部にAu系の金属のめっきを行った後、レジストを除去すればよい。電極部14表面がAu系材料で形成されている場合は上記工程によりバンプを形成可能であるが、Al系材料で形成されている場合は、電極端子部上にバリアメタル層の形成が必要になる。めっき法によれば、バンプ形成面積を任意に最適化することができる利点がある他、バンプ高さや、バンプの形成位置を正確に制御することが可能である。従って、素子サイズを小さくでき、低コスト化が可能となる。
【0041】
以上、Auバンプを用いる場合を例示したが、この他にも導電性ペーストによるAgバンプを用いる等、簡易な方法で形成可能なバンプを用いることができる。
【0042】
次に、図1(b)に示すように、ボンディングツール10を光フェルール1aに向って下降させ、光電変換素子1b(または光フェルール1a)に設けられたAuバンプ6を光フェルール1aの素子搭載面8に設けられた電気配線部5上に載置する。
【0043】
次に、図1(c)に示すように、接合部Cに向けて温風又は電磁波Aを照射して接合部Cを加熱するとともに、ボンディングツール10によって超音波及び押圧加重Bを接合部Cに印加する。結果、図1(d)に示すように、Auバンプ6が熱および超音波、押圧加重によってつぶれ、光電変換素子1bに形成した電極部14及び光フェルール1aに形成した電気配線部5と金属間結合を形成することで、光電変換素子1bを光フェルール1aに電気的・機械的に接合して搭載することができる。
【0044】
接合部Cの加熱は、接合部C近傍にヒーターを設置したり、温風Aを接合部Cに向けて照射したりすることによって当該部分を選択的に加熱しても良いが、誘導加熱によってAuバンプ6及び電極部14、電気配線部5を選択的に加熱するとより好適である。例えば接合部Cに向けてマイクロ波Aを照射したり、接合部C近傍にコイルを設置して該コイルに電流を流すことによって発生した電磁波Aを接合部Cに向けて照射したりすればよい。誘導加熱は発熱体に電磁波による磁束が鎖交して、電磁誘導によって誘導電流を発熱体中に生じさせ、発生するジュール熱で温度上昇する。この場合、誘導電流は周波数によって電流分布が異なるため(金属に比べ、樹脂やセラミックは大きな周波数が必要となる)、コイルに流す電流の周波数は発熱体であるAuバンプ6及び電気配線部5を含む接合部Cのみを最も効率的に誘導加熱可能な周波数に設定すればよい。なお、かかる観点から接合部C近傍を均一に加熱するために誘導加熱を実施する場合には、Au−Au接合法をとることが好ましい。即ち、Auバンプ6及び電気配線部5の温度をともに均一かつ効率的に上昇することで、熱が樹脂製基体2へ拡散することを防止し、超音波圧着による接合力を高めることができる。
【0045】
最後に、図示しないが光ファイバ保持穴に光ファイバを挿入し、先端を素子搭載面に位置決めする。この状態で光ファイバと光ファイバ保持穴の間の空間及び光電変換素子と光フェルールの間の空間にアンダーフィル材を注入,固化して光ファイバを光ファイバ保持穴に固定する。
【0046】
以上のように光電変換素子1bを光フェルール1aに搭載すれば、接合部Cを選択的に加熱し、超音波圧着により短時間でフリップチップ実装することが可能となるから、実装時に樹脂製基体2が無用に加熱されて軟化することを防止することができる。結果、Auバンプ6と電気配線部5の接合力を高めることができるとともに、光電変換素子1bが傾いて光フェルール1aに搭載されることによる、マルチモードファイバ伝送時におけるモーダルノイズの増大を防止することができる。特に量産時においては、モーダルノイズ抑制のためには光電変換素子1bの素子搭載面8に対する傾斜角ばらつきは3°以内に抑制することが求められている。このように、光電気変換モジュール1の製造のような実装部品の傾斜角を精密に規定する必要がある場合には、本実施形態にかかる実装方法が特に有効である。
【0047】
(光電気変換モジュールの製造方法の実施形態2)
本発明において、光ファイバ保持穴3に挿入される光ファイバ4は、先端面4aが光電変換素子1bの受発光部7の受発光面と非平行であることが好ましい。このように構成することで、光ファイバ4を光ファイバ保持穴3に挿入して固定する際に、先端面4aが光電変換素子1bの受発光面7aに接触して破損することを防止することができる。同時に、戻り光による雑音の発生を防止することができる。
【0048】
光電変換素子1bと光ファイバ4の先端面4aを非平行とするには、例えば光フェルール1aの素子搭載面8を傾斜させて光電変換素子1bを実装することで、光電変換素子1bを先端面4aに対して傾斜させても良いが、図2(a)に示すように、先端面4aが光軸と垂直な方向に対して傾斜が形成されるようにしても良い。また、これらを組み合わせても良い。先端面4aに傾斜を形成するには、例えば光ファイバ4の切断時に、切断部分を含む領域に捻りトルクを作用させた状態で光ファイバ4に微少傷を加えて切断すれば良い(例えば特開平6−317711を参照。)。また、COレーザーやYAGレーザー等の高エネルギー密度のレーザー光を用いたレーザーカットにより先端面4aに傾斜が形成されるよう光ファイバ4を切断しても良い。
【0049】
光電変換素子1bと先端面4aの傾斜角は、光ファイバ4を挿入した際に先端面4aが光電変換素子1bの受発光面7aに接することが無く、かつ十分な光結合効率が得られる範囲で設定すれば良い。本実施形態においては、例えば以下のように傾斜角を設定する。図2(b)は光ファイバ4と光電変換素子1bの対向部の拡大図である。光電変換素子1bは発光素子であるVCSELであり、その中央部には発光部7が光ファイバ4のコア領域41bと結合するよう設けられている。発光部7は光電変換素子1bの中央に円形に形成されており、直径30μm、発光部7の底面から約4μm突出して設けられている。直径125μmの一般的な石英系光ファイバを用いる場合には、発光部7と光ファイバ4の中心を位置合わせして発光部7と先端面4aとが接触しないようにするには、約5°の傾斜角θが必要になる(4μm/47.5μm≒tan5°)。また、傾斜角θの設定精度が量産時における歩留まりに影響することを考慮すると、光フェルール1aの素子搭載面8を傾斜させる場合には8°以上に、先端面4aに傾斜を形成する場合には10°以上に設定することが特に好ましい。
【0050】
なお、マルチモード光ファイバ伝送におけるモーダルノイズ抑制の観点からは、先端面4aが光軸と垂直な方向に対して傾斜が形成されることが好ましい。このように構成すれば、光電変換素子1bと光ファイバ4の光軸を一致させることができるので、光結合時に高次モード光が励起されるのを防止できる。また、実装時に光軸方向と垂直な方向に搭載ズレが生じた場合にも、素子搭載面8を傾斜させて光電変換素子1bを実装した場合(即ち光電変換素子1bと光ファイバ4の光軸が一致していない場合)に比較して、高次モード光が励起されにくくなる。即ち、光ファイバ4の実装時における精度のトレランスが広くなり、歩留まりを向上することができる。
【0051】
また、光ファイバ4は先端面4aの角部が面取りされていることが好ましい。このような場合には、光ファイバ4の挿入時に角部が光ファイバ保持穴3の内壁に接触して削りかすが発生することを防止できる。また、光ファイバ保持穴3内にゴミが存在していた場合にも、当該ゴミは光ファイバ4の挿入に伴って面取り部と光ファイバ保持穴3の間のスペースに収容されやすくなる。即ち、いずれの場合にも、光ファイバ4の挿入に伴って異物が先端面4aと受発光面7aの間に混入することを防止することが可能となり、歩留まりを向上することができる。
【0052】
かかる面取り部は、光ファイバ4の角部が先端面4aより後退していれば良く、切断後の光ファイバ4の先端角部を研磨することにより形成しても良いし、前述のレーザーカットにより形成しても良い。また、レーザーカット時におけるレーザーの強度を調整することで、光ファイバ4の先端に丸みを帯させることによって形成しても良い。また、先端面4aに傾斜を形成すると同時にかかる面取り部を形成しても同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1:光電気変換モジュール、1a:光フェルール、1b:光電変換素子
2:樹脂製基体、3:光ファイバ保持穴、4:光ファイバ、4a:先端面、
41a:クラッド部、41b:コア部、5:電気配線部、6:接合子、
7:受光部または発光部、7a:受光面または発光面、8:素子搭載面、
9:アンダーフィル材、10:ボンディングツール、11:組み立て冶具、
12:実装冶具、13:基板、14:電極部、θ:傾斜角
A:温風または電磁波、B:超音波振動及び押圧力、C:接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光部または発光部と、該受光部または発光部と電気的に接続された電極部とが基板上に搭載された光電変換素子と、
線膨張係数が25ppm/K以下で、光ファイバが固定された光ファイバ保持穴が貫通形成されている樹脂製基体と、前記光ファイバの先端が位置決め固定された前記樹脂製基体の素子搭載面に露出して形成された電気配線部とを有する光フェルールを備え、
前記光電変換素子と前記樹脂製基体は、前記受光部の受光面または前記発光部の発光面に対応する位置に前記光ファイバの先端が位置するよう対向して配置され、前記電極部と前記電気配線部の間に配置した接合子を介して接合されており、
前記接合子及び前記電気配線部の熱伝導率は、前記樹脂製基体の熱伝導率の1×10倍以上である光電気変換モジュールの製造方法であって、
前記電極部上及び前記電気配線部上の少なくとも一方に接合子を設ける工程と、
前記光電変換素子を、前記電極部が前記電気配線部と対向した状態で、前記樹脂製基体に載置する工程と、
前記接合子によって接合される接合部に温風又は電磁波を照射して該領域を選択的に加熱し、前記電極部と前記電気配線部とを接合する工程と、
前記光ファイバ保持穴に前記光ファイバを挿入し、先端を前記素子搭載面に位置決めした状態で固定する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする光電気変換モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記光ファイバの先端は、先端面が前記光電変換素子の前記受光面または前記発光面と非平行となるように固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の光電気変換モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記光電変換素子の前記受光面または前記発光面と前記光ファイバは、光軸が一致していることを特徴とする、請求項2に記載の光電気変換モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47778(P2012−47778A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186885(P2010−186885)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】